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  • 特開-蛍光X線分析装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120519
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20240829BHJP
   G01N 23/2209 20180101ALN20240829BHJP
【FI】
G01N23/223
G01N23/2209
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027359
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】原 真也
(72)【発明者】
【氏名】山田 康治郎
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ なつ実
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001EA01
2G001EA03
2G001FA02
2G001FA08
2G001KA01
(57)【要約】
【課題】吸収励起補正および重なり補正を行う検量線法等を用いる定量手段により試料中の成分の含有率を求める蛍光X線分析装置において、許容できる時間で、補正成分の影響を適切に取り入れて理論定量値標準偏差を求めて表示できる装置を提供する。
【解決手段】定量手段が、各成分についての測定強度に基づく、分析成分の第1の定量値と、各成分についての検量線式において、測定強度を分析成分の含有率の変化が大きくなる方向に変動させて求めた、分析成分の第2の定量値との差を、分析成分の理論定量値標準偏差として表示器に表示する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に1次X線を照射し、発生する蛍光X線の測定強度に基づいて、吸収励起補正および重なり補正を行う検量線法を用いる定量手段により、前記試料中の成分の含有率を求める蛍光X線分析装置であって、
前記定量手段が、
分析成分および補正成分についての測定強度に基づいて、分析成分および補正成分についての検量線式から分析成分の含有率を求めて第1の定量値とし、
分析成分についての検量線式において、当該分析成分についての測定強度を、分析成分の含有率が増加または減少する方向に所定量変動させ、
補正成分についての検量線式において、当該補正成分についての測定強度を、分析成分についての測定強度を変動させた方向と同じ方向に所定量変動させ、
分析成分および補正成分についての測定強度ならびに分析成分および補正成分についての変動させた測定強度に基づいて、分析成分および補正成分についての検量線式から分析成分の含有率を求めて第2の定量値とし、
前記第1の定量値と前記第2の定量値の差を理論定量値標準偏差として表示器に表示する蛍光X線分析装置。
【請求項2】
試料に1次X線を照射し、発生する蛍光X線の測定強度に基づいて、重なり補正を含むファンダメンタルパラメーター法を用いる定量手段により、前記試料中の成分の含有率を求める蛍光X線分析装置であって、
前記定量手段が、
各成分についての測定強度に基づいて、各成分についての理論強度式から各成分の含有率を求めて第1の定量値とし、
各成分についての理論強度式において、分析成分以外の成分の含有率を1つずつ所定量増加させて、分析成分についての理論強度が所定の閾値以上に増大した場合には、その分析成分以外の成分についての測定強度を所定量減少させて変動させ、分析成分についての理論強度が所定の閾値以下に減少した場合には、その分析成分以外の成分についての測定強度を所定量増加させて変動させ、
各成分についての測定強度および各成分についての変動させた測定強度に基づいて、各成分についての理論強度式から各成分の含有率を求めて第2の定量値とし、
各成分について、前記第1の定量値と前記第2の定量値の差を理論定量値標準偏差として表示器に表示する蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に1次X線を照射し、発生する蛍光X線の測定強度に基づいて、吸収励起補正および重なり補正を行う検量線法または重なり補正を含むファンダメンタルパラメーター法を用いる定量手段により、試料中の成分の含有率を求める蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、定量分析を行う蛍光X線分析装置は、検量線法によるものと、ファンダメンタルパラメーター法(FP法とも表記される)によるものに大別される。検量線法による定量分析では、未知試料の分析のために、成分の含有率(濃度比とも表記される)が既知である一組の標準試料を用いて、成分の含有率と成分に対応する測定元素の蛍光X線(測定線)の測定強度との相関として、検量線が求められる。なお、成分とは元素または化合物である。また、成分が元素である場合には、その元素そのものが成分に対応する測定元素であり、成分が化合物である場合には、その化合物を代表する元素が成分に対応する測定元素となる(例えば特許文献1の段落0002参照)。
【0003】
検量線法による定量分析においては、バックグラウンドに関するバックグラウンド補正のほかに、共存元素による吸収励起に関する吸収励起補正(マトリックス補正とも表記される)、妨害線の重なりに関する重なり補正が行われることがある(例えば吸収励起補正について、特許文献1の段落0003参照)。
【0004】
一方、FP法による定量分析では、仮定した各成分の含有率に基づいて、試料中の各成分から発生する蛍光X線の理論強度を計算し、その理論強度と検出手段で測定した測定強度を理論強度スケールに換算した換算測定強度とが一致するように、前記仮定した各成分の含有率を逐次近似的に修正計算して、試料における成分の含有率を算出する。ここで、未知試料の分析のために、成分の含有率が既知である一組の標準試料を用いて、既知の含有率に基づいて計算した理論強度と測定強度との相関として、装置感度曲線が求められる(例えば、特許文献2の段落0003および図4、特許文献1の段落0009参照)。
【0005】
FP法による定量分析においては、原理的にすべての成分について吸収励起補正が行われ、また、必要に応じて、成分によっては、例えば次式(a)で表される装置感度曲線において重なり補正も行われる(吸収励起補正については、例えば、特許文献2の段落0069-0074参照)。
【0006】
Ti=aI +bI +cI+d+Σ ij …(a)
:理論強度
I:測定強度
a,b,c,d:装置感度定数
i:分析成分
j:重なり補正成分
ij:j成分のi成分に対する重なり補正係数
【0007】
さて、検量線法による定量分析においては、検量線作成の際に、補正を行なうべきか否かの判断基準として、その検量線で求められる分析成分の含有率である定量値について、標準偏差を計算して表示することが求められている。また、分析後に、定量値の信頼度として、その定量値の標準偏差を計算して表示することが求められる。
【0008】
FP法による定量分析においても、重なり補正を行なうべきか否かの判断基準として、その重なり補正を含むFP法で求められる定量値について、標準偏差を計算して表示することが求められ、分析後に、定量値の信頼度として、その定量値の標準偏差を計算して表示することが求められる。
【0009】
このように、吸収励起補正、重なり補正を行う定量分析において、標準偏差を計算するには、補正成分の分析についての誤差が分析成分の分析についての誤差に影響すること、つまり補正成分による分析成分への誤差伝搬を考慮すべきであるが、補正成分の影響を取り入れて理論定量値標準偏差(定量値の理論標準偏差)を計算する方法がないため、実際に同一の試料について繰り返し分析を行って、得られた複数の定量値に基づいて標準偏差を計算しているのが現状である。
【0010】
定量値の信頼度としての分析精度に関する従来技術として、例えば、特許文献3に記載の蛍光X線分析装置では、指定された分析精度が得られる測定時間が算出され、表示されるが、この算出においても、補正成分の影響は取り入れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2021-51053号公報
【特許文献2】国際公開第2018/168939号
【特許文献3】特開2000-65765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
現状では、吸収励起補正、重なり補正を行う定量分析において、補正成分の影響を取り入れて定量値の標準偏差を求めるには、実際に同一の試料について繰り返し分析を行わねばならず、時間がかかる。また、実際の分析前に、検量線法においては、検量線作成にあたって補正を行なうべきか否かの判断の指標がなく、FP法においては、重なり補正を行なうべきか否かの判断の指標がない。
【0013】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、吸収励起補正および重なり補正を行う検量線法または重なり補正を含むファンダメンタルパラメーター法を用いる定量手段により、試料中の成分の含有率を求める蛍光X線分析装置において、実際に繰り返し分析を行うことなく、許容できる時間で、補正成分の影響を適切に取り入れて理論定量値標準偏差を求めて表示できる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明の第1構成は、まず、試料に1次X線を照射し、発生する蛍光X線の測定強度に基づいて、吸収励起補正および重なり補正を行う検量線法を用いる定量手段により、前記試料中の成分の含有率を求める蛍光X線分析装置である。そして、前記定量手段が、分析成分および補正成分についての測定強度に基づいて、分析成分および補正成分についての検量線式から分析成分の含有率を求めて第1の定量値とする。
【0015】
さらに、前記定量手段が、分析成分についての検量線式において、当該分析成分についての測定強度を、分析成分の含有率が増加または減少する方向に所定量変動させるとともに、補正成分についての検量線式において、当該補正成分についての測定強度を、分析成分についての測定強度を変動させた方向と同じ方向に所定量変動させる。
【0016】
さらにまた、前記定量手段が、分析成分および補正成分についての測定強度ならびに分析成分および補正成分についての変動させた測定強度に基づいて、分析成分および補正成分についての検量線式から分析成分の含有率を求めて第2の定量値とし、前記第1の定量値と前記第2の定量値の差を理論定量値標準偏差として表示器に表示する。
【0017】
第1構成の蛍光X線分析装置によれば、定量手段が、各成分についての測定強度に基づく、分析成分の第1の定量値と、各成分についての検量線式において、測定強度を分析成分の含有率の変化が大きくなる方向に変動させて求めた、分析成分の第2の定量値との差を、分析成分の理論定量値標準偏差として表示器に表示する。ここで、測定強度を変動させるにあたり、補正成分についての検量線式中のさらなる補正成分の含有率の変化については考慮しない。したがって、実際に繰り返し分析を行うことなく、許容できる時間で、補正成分の影響を適切に取り入れて、分析成分の理論定量値標準偏差を求めて表示できる。
【0018】
本発明の第2構成は、まず、試料に1次X線を照射し、発生する蛍光X線の測定強度に基づいて、重なり補正を含むファンダメンタルパラメーター法を用いる定量手段により、前記試料中の成分の含有率を求める蛍光X線分析装置である。そして、前記定量手段が、各成分についての測定強度に基づいて、各成分についての理論強度式から各成分の含有率を求めて第1の定量値とする。
【0019】
さらに、前記定量手段が、各成分についての理論強度式において、分析成分以外の成分の含有率を1つずつ所定量増加させて、分析成分についての理論強度が所定の閾値以上に増大した場合には、その分析成分以外の成分についての測定強度を所定量減少させて変動させ、分析成分についての理論強度が所定の閾値以下に減少した場合には、その分析成分以外の成分についての測定強度を所定量増加させて変動させる。
【0020】
さらにまた、前記定量手段が、各成分についての測定強度および各成分についての変動させた測定強度に基づいて、各成分についての理論強度式から各成分の含有率を求めて第2の定量値とし、各成分について、前記第1の定量値と前記第2の定量値の差を理論定量値標準偏差として表示器に表示する。
【0021】
第2構成の蛍光X線分析装置によれば、定量手段が、各成分についての測定強度に基づく第1の定量値と、各成分についての理論強度式における分析成分についての理論強度への影響が大きい測定強度を当該分析成分の含有率が大きくなる方向に変動させて求めた第2の定量値との差を理論定量値標準偏差として表示器に表示するので、実際に繰り返し分析を行うことなく、許容できる時間で、補正成分の影響を適切に取り入れて理論定量値標準偏差を求めて表示できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態の蛍光X線分析装置について説明する。図1に示すように、本実施形態の蛍光X線分析装置は、試料1,14(未知試料1と標準試料14の双方を含む)に1次X線3を照射して発生する2次X線5の強度を測定する走査型の蛍光X線分析装置であって、試料1,14が載置される試料台2と、試料1,14に1次X線3を照射するX線管などのX線源4と、試料1,14から発生する蛍光X線などの2次X線5を分光する分光素子6と、その分光素子6で分光された2次X線7が入射され、その強度を検出する検出器8とを備えている。検出器8の出力は、図示しない増幅器、波高分析器、計数手段などを経て、装置全体を制御するコンピューターなどの制御手段11に入力される。
【0024】
本実施形態の蛍光X線分析装置は、波長分散型でかつ走査型の蛍光X線分析装置であり、検出器8に入射する2次X線7の波長が変化するように、分光素子6と検出器8を連動させる連動手段10、すなわちいわゆるゴニオメーターを備えている。2次X線5がある入射角θで分光素子6へ入射すると、その2次X線5の延長線9と分光素子6で分光(回折)された2次X線7は入射角θの2倍の分光角2θをなすが、連動手段10は、分光角2θを変化させて分光される2次X線7の波長を変化させつつ、その分光された2次X線7が検出器8に入射するように、分光素子6を、その表面の中心を通る紙面に垂直な軸Oを中心に回転させ、その回転角の2倍だけ、検出器8を、軸Oを中心に円12に沿って回転させる。分光角2θの値(2θ角度)は、連動手段10から制御手段11に入力される。なお、本発明においては、蛍光X線分析装置は、波長分散型でかつ多元素同時分析型の蛍光X線分析装置でもよいし、エネルギー分散型の蛍光X線分析装置でもよい。
【0025】
本実施形態の蛍光X線分析装置は、制御手段11に搭載されるプログラムとして定量手段13を備えており、蛍光X線5の測定強度に基づいて、吸収励起補正および重なり補正を行う検量線法を用いる定量手段13により、試料1,14中の成分の含有率を求める。理論定量値標準偏差を求めるにあたり、定量手段13は、まず、従来の定量手段と同様に、分析成分iおよび補正成分j,kについての測定強度I,I,Iに基づいて、分析成分iおよび補正成分j,kについての検量線式、例えば以下の検量線式(1)-(3)から分析成分iの含有率Wを求める。そして、その分析成分iの含有率Wを第1の定量値Qi1とする。
【0026】
=(A +B +C+D)(1+C ji)+C ki …(1)
=(A +B +C+D)(1+C kj) …(2)
=(A +B +C+D) …(3)
:分析成分iの含有率
,W:補正成分j,kの含有率
:分析成分iについての測定強度
,I:補正成分j,kについての測定強度
A,B,C,D:検量線定数
ji:j成分のi成分に対する吸収励起補正係数
ki:k成分のi成分に対する重なり補正係数
【0027】
さらに、定量手段13は、分析成分iについての検量線式(1)において、当該分析成分iについての測定強度Iを、分析成分iの含有率Wが増加または減少する方向に、例えば分析成分iの含有率Wが増加する方向に、検量線式(1)の右辺を測定強度Iで偏微分した値が正の場合は、測定強度Iが大きくなるように、所定量変動させる。
【0028】
それととともに、補正成分j,kについての検量線式(2),(3)において、当該補正成分j,kについての測定強度I,Iを、分析成分iについての測定強度Iを変動させた方向と同じ方向に、つまりこの場合では分析成分iの含有率Wが増加する方向に、所定量変動させる。吸収または励起の補正成分jについては、補正係数C jiが吸収補正の場合は、補正成分jの含有率Wが増加すると分析成分iの含有率Wが大きくなる。そこで、検量線式(2)の右辺を測定強度Iで偏微分した値が正の場合は、測定強度Iを所定量増加させる。重なり補正成分については、補正成分kの含有率Wが減少すると分析成分iの含有率Wが大きくなる。そこで、検量線式(3)の右辺を測定強度Iで偏微分した値が正の場合は、測定強度Iを所定量減少させる。ここで、変動させる所定量とは、各測定強度I,I,Iの理論標準偏差σI,σI,σIであり、測定時間tmeasを用いて、σI=(I/1000tmeas1/2で求められる。
【0029】
さらにまた、定量手段13は、1組の、分析成分iおよび補正成分j,kについての測定強度I,I,Iならびに分析成分iおよび補正成分j,kについての変動させた測定強度I+σI,I+σI,I-σIに基づいて、分析成分iおよび補正成分j,kについての検量線式(1)-(3)から分析成分iの含有率Wを求める。つまり、IをI+σIとし、IをI+σIとし、IをI-σIとして、分析成分iの含有率Wを求める。そして、その分析成分iの含有率Wを第2の定量値Qi2とし、第1の定量値Qi1と第2の定量値Qi2の差|Qi2-Qi1|を理論定量値標準偏差σQとして、制御手段11に接続された液晶ディスプレイ等の表示器15に表示する。
【0030】
本実施形態の蛍光X線分析装置によれば、定量手段13が、各成分i,j,kについての測定強度I,I,Iに基づく、分析成分iの第1の定量値Qi1と、各成分i,j,kについての検量線式(1)-(3)において、測定強度I,I,Iを分析成分iの含有率Wの変化が大きくなる方向に変動させ、それぞれI+σI,I+σI,I-σIとして求めた、分析成分iの第2の定量値Qi2との差|Qi2-Qi1|を、分析成分iの理論定量値標準偏差σQとして表示器15に表示する。ここで、測定強度I,I,Iを変動させるにあたり、補正成分jについての検量線式(2)中のさらなる補正成分kの含有率Wの変化については考慮しない。上述の例で、成分kの含有率Wの変化を考慮して、測定強度Iを変動させたのは、成分kが、分析成分iについての検量線式(1)において、分析成分iに対する重なり補正成分になっているからであり、補正成分jについての検量線式(2)において、補正成分jに対するさらなる補正成分になっているからではない。このように、変動させる測定強度の数を適切に制限しているので、実際に繰り返し分析を行うことなく、許容できる時間で、補正成分j,kの影響を適切に取り入れて、分析成分iの理論定量値標準偏差を求めて表示できる。
【0031】
本実施形態の蛍光X線分析装置の定量手段13は、重なり補正を含むファンダメンタルパラメーター法を用いて、試料1,14中の成分の含有率を求めることもできる。この場合、理論定量値標準偏差を求めるにあたり、定量手段13は、まず、従来の定量手段と同様に、1組の各成分iについての測定強度Iに基づいて、1組の各成分iについての公知の理論強度式から1組の各成分iの含有率Wを求める。そして、求めた各成分iの含有率Wを第1の定量値Qi1とする。
【0032】
さて、ファンダメンタルパラメーター法の場合は、吸収・励起に関して試料内すべての成分の補正が考慮される。また、背景技術の説明で述べたように装置感度曲線において重なり補正も考慮されるので、各補正成分jが分析線(分析成分iに対応する蛍光X線)に対して吸収か、励起かを明確にして、補正成分jの分析線強度(測定強度I)を増加させるか減少させるかを決定する必要がある。そこで、各成分iの第1の定量値Qi1からなる試料組成に対して、分析成分i以外の試料内成分jの含有率Wを一つずつ所定量変化させた場合の、分析成分iの分析線理論強度ITijを計算する。そして、この分析線理論強度ITijが、各成分iの第1の定量値Qi1からなる試料組成での分析線理論強度ITi0よりも大きい場合には、補正成分jは分析線を励起していると判断し、小さい場合には、補正成分jが分析線を吸収していると判断する。
【0033】
さらに、励起している場合には、当該補正成分jの分析線強度Iを所定量減少させ、吸収している場合には、当該補正成分jの分析線強度Iを所定量増加させる。ここで、試料内の分析成分i以外のすべての成分jの分析線に対して強度Iを変動させて、後述する第2の定量値Qi2を求めるための定量計算を実施してもよいが、補正成分jの含有率Wの変化に対する分析線強度ITijの変化量に閾値を設定し、閾値以下の変化量の補正成分jに関しては、補正成分jの分析線を変化させず定量計算を行うことによって、計算時間を短縮することができる。
【0034】
例えば、試料内にi成分、j成分、k成分があるとすると、まず、測定強度I,I,Iからファンダメンタルパラメーター法を用いて、試料内組成として各成分i,j,kの含有率W,W,Wを求める。この組成でのi成分の分析線理論強度をITi0とする。そして、j成分の含有率Wを所定量変化させて理論強度を計算し、そのときのi成分の分析線理論強度をITijとする。ITijがITi0よりも大きい場合は、j成分はi成分の分析線に対して励起になっているので、補正成分jの分析線強度Iを所定量減少させる。k成分に対しても同様の処理を行い、補正成分kの分析線強度Iを所定量増加させるか、減少させるかを決定する。
【0035】
以上をまとめると、本実施形態の蛍光X線分析装置における定量手段13は、各成分iについての理論強度式において、分析成分以外の成分jの含有率Wを1つずつ所定量増加させて、分析成分iについての理論強度ITiが所定の閾値以上に増大した場合には、その分析成分以外の成分jについての測定強度Iを所定量減少させて変動させ、分析成分iについての理論強度ITiが所定の閾値以下に減少した場合には、その分析成分以外の成分jについての測定強度Iを所定量増加させて変動させる。
【0036】
ここで、測定強度I,I,Iについて変動させる所定量とは、各測定強度I,I,Iの理論標準偏差σI,σI,σIであり、測定時間tmeasを用いて、σI=(I/1000tmeas1/2で求められる。また、分析成分以外の成分jの含有率Wについて増加させる所定量とは、例えばW×0.01であり、理論強度ITiについての所定の閾値以上とは、例えばITi×1.01以上であり、理論強度ITiについての所定の閾値以下とは、例えばITi×0.99以下である。
【0037】
さらにまた、定量手段15は、1組の、各成分iについての測定強度Iおよび各成分iについての変動させた測定強度I+σIまたはI-σIに基づいて、1組の各成分iについての理論強度式から1組の各成分iの含有率Wを求める。そして、求めた各成分iの含有率Wを第2の定量値Qi2とし、各成分iについて、第1の定量値Qi1と第2の定量値Qi2の差|Qi2-Qi1|を理論定量値標準偏差σQとして表示器15に表示する。
【0038】
定量手段13が重なり補正を含むファンダメンタルパラメーター法を用いる場合の本実施形態の蛍光X線分析装置によれば、定量手段13が、各成分iについての測定強度Iに基づく第1の定量値Qi1と、各成分iについての理論強度式における分析成分iについての理論強度ITiへの影響が大きい測定強度I,Iを当該分析成分iの含有率Wが大きくなる方向に変動させて求めた第2の定量値Qi2との差を理論定量値標準偏差σQとして表示器15に表示するので、実際に繰り返し分析を行うことなく、許容できる時間で、補正成分j,kの影響を適切に取り入れて理論定量値標準偏差σQを求めて表示できる。
【符号の説明】
【0039】
1,14 試料
3 1次X線
5 蛍光X線
13 定量手段
15 表示器
図1