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特開2024-12054水中グラウト材検出システム、水中グラウト材検出方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012054
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】水中グラウト材検出システム、水中グラウト材検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   E02D 15/06 20060101AFI20240118BHJP
   G01N 23/06 20180101ALI20240118BHJP
【FI】
E02D15/06
G01N23/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019456
(22)【出願日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2022112579
(32)【優先日】2022-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 明善
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 哲也
(72)【発明者】
【氏名】前田 一成
(72)【発明者】
【氏名】西村 行雄
(72)【発明者】
【氏名】小島 大祐
(72)【発明者】
【氏名】山本 淳史
【テーマコード(参考)】
2D045
2G001
【Fターム(参考)】
2D045AA04
2D045BA04
2D045CA11
2G001AA02
2G001BA11
2G001CA02
2G001DA02
2G001JA06
2G001KA01
2G001LA03
2G001MA02
2G001PA18
2G001QA04
(57)【要約】
【課題】海洋構造物の間隙に注入されたグラウト材の密度を簡便な方法で精度よく検出する。
【解決手段】杭1bは、水底Gから水面上に向かって設置された第1の海洋構造物に相当し、レグ1aは、杭1bに嵌着する第2の海洋構造物に相当する。間隙gは、杭1bの外周面とレグ1aの内周面との間に形成されている。間隙gに対しては、この間隙gの下端部から上端部まで延びる中空空間を有し、上方が開口したガイドパイプ2(中空部材)が、所定の間隔を空けて2本挿入されている。これらガイドパイプ2の中空空間には、間隙gに注入されたグラウト材の密度を、放射線を用いて検出する検出装置3が挿入される。検出装置3に接続された吊索材4は、ウインチ5によって繰り出し/巻き取りが行われる。作業員はウインチ5を操作して、検出装置3の位置を任意の位置に移動させ、その位置におけるグラウト材の密度を検出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の海洋構造物と第2の海洋構造物との間に形成された間隙において、下端部から上端部まで延びる中空空間を有し、上方が開口した中空部材と、
前記中空部材の中空空間に挿入され、前記間隙に注入されたグラウト材の密度を、放射線を用いて検出する検出装置と、
前記中空部材の中空空間において前記検出装置を上下方向に移動させるための移動用機械と
を備えることを特徴とする水中グラウト材検出システム。
【請求項2】
前記移動用機械は、
前記検出装置に接続された吊索材と、
水面上にて前記吊索材の繰り出し/巻き取りを行うウインチと
を含むことを特徴とする請求項1に記載の水中グラウト材検出システム。
【請求項3】
前記移動用機械は、
前記検出装置に接続された吊索材と、
前記吊索材の繰り出し/巻き取りを行うウインチを有し、遠隔操作によって水中で制御される潜水装置と
を含むことを特徴とする請求項1に記載の水中グラウト材検出システム。
【請求項4】
前記間隙は、
前記第2の海洋構造物が前記第1の海洋構造物の外径より大きい内径を有する場合は、前記第1の海洋構造物の外周面と前記第2の海洋構造物の内周面との間に形成され、
前記第2の海洋構造物が前記第1の海洋構造物の内径より小さい外径を有する場合は、前記第1の海洋構造物の内周面と前記第2の海洋構造物の外周面との間に形成されている
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の水中グラウト材検出システム。
【請求項5】
前記グラウト材の注入口が前記間隙の下端部に対応する位置に設けられている
ことを特徴とする請求項4に記載の水中グラウト材検出システム。
【請求項6】
前記中空部材及び当該中空部材の中空空間に挿入された前記検出装置のセットが、前記間隙の周方向に所定の間隔をあけて複数の位置に設けられている
ことを特徴とする請求項4に記載の水中グラウト材検出システム。
【請求項7】
前記検出装置によって検出されたグラウト材の密度が決められた範囲に収まらない場合には、所定の情報を出力する出力部 を備えることを特徴とする請求項4に記載の水中グラウト材検出システム。
【請求項8】
前記検出装置によって検出されたグラウト材の密度が決められた範囲に収まらない場合には、所定の情報を出力する出力部
を備えることを特徴とする請求項4に記載の水中グラウト材検出システム。
【請求項9】
前記検出装置は放射線源と放射線検出器とを備え、
前記放射線源と前記放射線検出器との距離が30cm以上40cm以下であり、
前記放射線源と前記放射線検出器との鉛直方向の変位が2cm以内であり、
水中の前記グラウト材に対する前記放射線検出器の挿入長が15cm以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の水中グラウト材検出システム。
【請求項10】
第1の海洋構造物と第2の海洋構造物との間に形成された間隙にグラウト材を注入する過程において、
前記間隙において下端部から上端部まで延びる中空空間を有し、上方が開口した中空部材を設置する工程と、
前記間隙に注入されたグラウト材の密度を放射線を用いて検出する検出装置を移動させるための移動用機械を設置する工程と、
前記検出装置を前記中空空間に挿入する工程と、
挿入されている前記検出装置を前記移動用機械で上下方向に移動させながら、前記検出装置によって、前記間隙に注入されたグラウト材の密度を検出する
ことを特徴とする水中グラウト材検出方法。
【請求項11】
コンピュータに、請求項1~9のいずれか1項に記載のグラウト材検出システムを稼働させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋構造物間の間隙に水中で注入されるグラウト材を検出するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタル等の各種グラウト材を構造物間の間隙に水中で注入する場合、その注入量及び密度の管理が重要となる。例えば特許文献1には、圧送ポンプとケーブルシースのグラウト注入口との間に、グラウト注入圧測定用の圧力センサ、注入グラウトの単位時間当たりの流量を測定する流量計及びその時間経過に伴う積算量を測定する積算流量計を設け、これら圧力センサ、流量計及び積算流量計から時々刻々出力される測定データの時間的推移をディスプレイに表示することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-133395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
海洋構造物の間隙に対するグラウト材の質量の管理について、従来は、例えば潜水士による目視確認・試料採取や、ROV(Remotely operated vehicle)による映像確認・試料採取等の手法が一般的であった。
【0005】
しかしながら、洋上風力発電基礎のように外洋で且つ大水深のような施工環境下におけるグラウト材の質量の管理においては、潜水作業時における危険度の増大や、高性能ROV及び技量の高いオペレータの必要性などが課題となっていた。
【0006】
そこで、本発明は、海洋構造物の間隙に水中で注入されたグラウト材の密度を簡便な方法で精度よく検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る水中グラウト材検出システムは、第1の海洋構造物と第2の海洋構造物との間に形成された間隙において、下端部から上端部まで延びる中空空間を有し、上方が開口した中空部材と、前記中空部材の中空空間に挿入され、前記間隙に注入されたグラウト材の密度を、放射線を用いて検出する検出装置と、前記中空部材の中空空間において前記検出装置を上下方向に移動させるための移動用機械とを備えることを特徴とする。
【0008】
前記移動用機械は、前記検出装置に接続された吊索材と、水面上にて前記吊索材の繰り出し/巻き取りを行うウインチとを含むようにしてもよい。
【0009】
前記移動用機械は、前記検出装置に接続された吊索材と、前記吊索材の繰り出し/巻き取りを行うウインチを有し、遠隔操作によって水中で制御される潜水装置とを含むようにしてもよい。
【0010】
前記間隙は、前記第2の海洋構造物が前記第1の海洋構造物の外径より大きい内径を有する場合は、前記第1の海洋構造物の外周面と前記第2の海洋構造物の内周面との間に形成され、前記第2の海洋構造物が前記第1の海洋構造物の内径より小さい外径を有する場合は、前記第1の海洋構造物の内周面と前記第2の海洋構造物の外周面との間に形成されていてもよい。
【0011】
前記グラウト材の注入口が前記間隙の下端部に対応する位置に設けられていてもよい。
【0012】
前記中空部材及び当該中空部材の中空空間に挿入された前記検出装置のセットが、前記間隙の周方向に所定の間隔をあけて複数の位置に設けられていてもよい。
【0013】
前記検出装置によって検出されたグラウト材の密度が決められた範囲に収まらない場合には、所定の情報を出力する出力部を備えるようにしてもよい。
【0014】
前記検出装置は放射線源と放射線検出器とを備え、前記放射線源と前記放射線検出器との距離が30cm以上40cm以下であり、前記放射線源と前記放射線検出器との鉛直方向の変位が2cm以内であり、水中の前記グラウト材に対する前記放射線検出器の挿入長が15cm以上であってもよい。
【0015】
また、本発明に係る水中グラウト材検出方法は、第1の海洋構造物と第2の海洋構造物との間に形成された間隙にグラウト材を注入する過程において、前記間隙に下端部から上端部まで延びる中空空間を有し、上方が開口した中空部材を設置する工程と、前記間隙に注入されたグラウト材の密度を放射線を用いて検出する検出装置を移動させるための移動用機械を設置する工程と、前記検出装置を前記中空空間に挿入する工程と、挿入されている前記検出装置を前記移動用機械で上下方向に移動させながら、前記検出装置によって、前記間隙に注入されたグラウト材の密度を検出することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、コンピュータに、上記水中グラウト材検出システムを稼働させるためのプログラムであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、海洋構造物の間隙に注入されたグラウト材の密度を簡便な方法で精度よく検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る海洋構造物及び水中グラウト材検出システムの構造を示す図である。
図2】杭及びレグの接続部分の鉛直断面図である。
図3】杭及びレグの接続部分の水平断面図である。
図4】検出装置の構造を示す図である。
図5】グラウト材の注入及び検出工程を説明するフローチャートである。
図6】グラウト材(MF9500)の圧縮強度と密度との関係を例示する表である。
図7】ガイドパイプの間隔とガンマ線源の挿入長を説明する図である。
図8】ガンマ線源とガンマ線検出器との鉛直方向の変位を説明する図である。
図9】ガイドパイプ間の距離ごとの計数率比及び密度の実験結果を示したグラフである。
図10】正規分布を説明するグラフである。
図11】ガイドパイプ間の距離ごとの懐変揺動誤差及び密度の計算結果を示すグラフである。
図12】ガイドパイプ間の距離ごとの計数率比及び密度の実験結果を示したグラフである。
図13】水とグラウト材でガイドパイプ間の距離ごとに、ガンマ線源とガンマ線検出器との鉛直方向の変位を変えて密度を測定した結果を示す表である。
図14】水中のグラウト材に対するガンマ線検出器の挿入長を変えてガンマ線を検出した実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施形態]
本発明を実施するための形態の一例について説明する。図1において、ジャケット1は、鋼管で組み立てられた立体トラスの海洋構造体である。ジャケット1の下端部の複数の箇所には、筒状部材であるレグ(第2の海洋構造物)1aが設けられている。これらの各レグ1aは、水底Gに打設され、杭頭部の所定の長さが水面S方向に向かって突出するように設置された複数の杭(第1の海洋構造物)1bに嵌着される。レグ1aの内径は杭1bの外径より大きく、レグ1aの内周面と杭1bの外周面との間には間隙が形成される。間隙の下端は例えばゴム等からなるシール部材(図示せず)によって封止されている。図示せぬグラウト製造装置で混練されたグラウト材は輸送配管7を経由し、間隙の下端部に対応する位置に設けられた注入口8へと圧送される。これにより、レグ1aの内周面と杭1bの外周面との間に形成された間隙にグラウト材が下方より上方に向けて充填される。間隙に充填されたグラウト材が本来の機能を発揮するためには、その間隙内において所定の密度である必要がある。
【0020】
図2は、レグ1aと杭1bの接続部分を示す鉛直断面図であり、図3は、その接続部分を図2に示すA-A‘線における水平断面図である。前述したように、杭1bは、水底Gから水面S上に向かって所定の長さが突出するように設置された第1の海洋構造物に相当し、レグ1aは、杭1bに嵌着する第2の海洋構造物に相当する。間隙gは、杭1bの外周面とレグ1aの内周面との間に形成される。
【0021】
間隙gに対して、この間隙gの下端部から上端部まで延びる中空空間を有し、上方が開口したガイドパイプ2(中空部材)が、所定の間隔を空けて2本/セット挿入される。このように2本で1セットのガイドパイプ2,2が、間隙gの周方向において180度対向した2か所に設けられている。これらガイドパイプ2,2の中空空間には、間隙gに注入されたグラウト材の密度を、放射線を用いて検出する検出装置3が挿入される。ガイドパイプ2,2の上端部は、レグ1aの上端部より水面S方向に長くなっている。なお、本発明においては水で満たされている状態であっても、水以外の物体で満たされていなければ、間隙又は空間というものとする。
【0022】
図4は、2本で1セットのガイドパイプ2,2に挿入される検出装置3の構造を示す図である。検出装置3は例えば2孔式RI密度計であり、放射線源としてのガンマ線源3a及び放射線検出器としてのガンマ線検出器3bからなる。一方のガイドパイプ2の中空空間にはガンマ線源3aが挿入され、他方のガイドパイプ2の中空空間にはガンマ線検出器3bが挿入される。検出装置3はガンマ線源3aから放出されたガンマ線をガンマ線検出器3bで検出することで、このガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bの間に存在するグラウト材の密度を計測し、検出する。なお、2本のガイドパイプ間は固定具6によって固定されている
【0023】
ガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bは、例えば鋼製ワイヤ、チェーン、ゴムベルト等の吊索材4に接続される。この吊索材4は、図1に示すように、水面上の所定の位置(例えばジャケット1の上部)に設けられた移動用機械であるウインチ5によって繰り出し/巻き取りが行われ検出装置3(ガンマ線源3a及びガンマ線検出器3b)を上下方向Aに移動させるための移動用機械として機能する。作業員はこのウインチ5を操作して、検出装置3の位置を間隙g内の任意の鉛直方向位置に移動させ、その位置におけるグラウト材の密度を検出する。なお、検出装置3の鉛直方向位置は、ウインチ5の繰り出し、巻取量によって確認することができる。この検出結果は、検出装置3に接続された図示せぬ表示装置や記録装置に出力される。具体的には、検出装置3が検出した検出値は吊索材4と共に配線された通信線(図示せず)によって陸上部に設けられた通信設備(図示せず)に送信され、当該通信設備においてアナログデータからデジタルデータに変換されて、クラウド上に保存、または事務所などの所定の場所に設けられた表示装置や記録装置に送信される。作業員は、上記表示装置に表示された検出値を参照することにより、間隙gの全域にわたって適切な密度でグラウト材が充填されているか否かを判断することができる。なお、このようにして出力された結果は、グラウト材注入施工における管理データとしての役割を果たし、グラウト材の注入作業を確実に実施した証拠として発注者を始めとする関係機関に提出することも可能となる。
【0024】
次に、図5は、グラウト材の注入及び検出工程を説明するフローチャートである。グラウト材の検出は、間隙gにグラウト材を注入する過程において行われる。
【0025】
図5において、間隙gに対し2本/セットのガイドパイプ2が所定セット数設置される(ステップS1)。ガイドパイプ2,2の設置が完了すると、検出装置3のガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bを移動させるための移動用機械であるウインチ5が設置され、ウインチ5と検出装置3のガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bとを吊索材4で連結する(ステップS2)。そして、吊索材4に連結された検出装置3のガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bがそれぞれガイドパイプ2に挿入される(ステップS3)。そして、間隙gにグラウト材を注入する作業が開始されると、注入されたグラウト材の間隙g内の充填量から鉛直方向位置を勘案し、検出装置3の位置をガイドパイプ2を通して間隙g内の任意の位置に移動し、その位置におけるグラウト材の密度を検出する(ステップS4)。検出が終了したときには、必要に応じて検出装置3のガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bを上下方向に移動し、再度の検出を行う。なお、検出装置3のガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bのガイドパイプ2内での上下方向Aへの移動は、検出装置3のガンマ線源3a及びガンマ線検出器3b間のグラウト材を検出するので、鉛直方向で略同一の位置となるように移動させる。ガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bを結ぶ線分が水平方向に対して斜めとなると測定距離が変わり、誤検出する可能性があるため、極力、これらガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bの鉛直方向における位置が略同一となるようにウインチ5を操作することが望ましい。また、検出装置3が検出した検出値は吊索材4と共に配線された通信線(図示せず)によって陸上部に設けられた通信設備(図示せず)に送信され、当該通信設備においてアナログデータからデジタルデータに変換されて、クラウド上に保存、または事務所などの所定の場所に送信される。
【0026】
以上の本実施形態によれば、海洋構造物の間隙に注入されたグラウト材の密度を簡便な方法で精度よく検出することが可能となる。
【0027】
[実施例]
海洋構造体としての洋上風力発電基礎を構築するためのグラウト材に対しては、高い品質が求められる。そこで、検出装置3として上記実施形態に例示した2孔式RI密度計を用いた場合に、グラウト材の密度を0.01t/m3単位という高精度で計測するための条件について考察する。ここで、グラウト材の密度の計測レベルを0.01t/m3とした理由は、グラウト材MF9500の品質確認試験結果(図6)を見ると、密度0.01t/m3の差では、圧縮強度がほとんど変化しないからである。なお、グラウト材MF9500は、洋上風力発電基礎の構築において最も広く用いられるグラウト材として知られている。
【0028】
グラウト材の密度を0.01t/m3単位で計測するための具体的条件として、次の3つの条件を設定する。
【0029】
(1)ガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bが挿入される2本のガイドパイプ2の間隔
図7に示すように、2本のガイドパイプ2の間隔Mは、ガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bの各測定中心p間の距離に相当する。図7におけるYはガンマ線を例示している。
【0030】
(2)ガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bの鉛直方向の変位の許容値
図8における距離dが、ガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bの鉛直方向の変位に相当する。
【0031】
(3)水中のグラウト材に対するガンマ線検出器3bの挿入長の最低値
図7における距離D、つまりグラウト材の上端mからガンマ線検出器3bの測定中心pまでの距離Dが、水中のグラウト材に対するガンマ線検出器3bの挿入長に相当する。
【0032】
上記(1)について検証する。2孔式RI密度計を用いたガンマ線の検出においては、壊変揺動誤差と数え落としの影響を考慮してガイドパイプ2の間隔を設定する必要がある。壊変揺動誤差とは、ガンマ線源3aから放出されるガンマ線数が一定ではなく揺れ動くことで発生する誤差のことである。また、ガイドパイプ2の間隔(つまりガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bの測定中心p間の距離)が近く、検出されるガンマ線強度が高すぎると、数え落としという現象が発生し、現実に放出されるガンマ線数と比べ、検出されるガンマ線数が少なくなることが知られている。
【0033】
そこで、ガイドパイプ2の間隔(ガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bの各測定中心p間)を変えて次のような実験を行った。
(1-1)ガイドパイプ2の間隔を30cm~50cmとした場合
図7において、左のガイドパイプ2に挿入したガンマ線源3aをそのガイドパイプ2ごと右にスライドさせて、右のガイドパイプ2に挿入したガンマ線検出器3bに近付ける。このとき、ガンマ線の計数率比とグラウト材の密度との関係を調べた。
【0034】
図9に示す実験結果によれば、グラウト材の密度が増加するほど、又は、ガイドパイプ2の間隔が大きくなるほど、計数率比Rが減少することが分かる。ガイドパイプ間隔50cmでは、ガンマ線の計数率比とグラウト材の密度との関係を示す二次曲線の傾きが小さく、目標の精度で評価することが難しいことが想定される。
【0035】
次に、壊変揺動誤差の影響について考察する。ガンマ線源3aから放出されるガンマ線量は一定ではなく或る程度の幅をもって揺れ動くが、その変動具合は正規分布に従うことが知られている。測定時間が長く、単位時間あたりのガンマ線検出数が多い(つまりガイドパイプ2の間隔が小さい)ほど、壊変揺動誤差σは小さくなる。図10に例示した正規分布において-3σ~+3σ内に99.7%のデータが該当する。そこで、今回は3σ<0.01 t/m3を目標として計算する。
【0036】
図11はその計算結果を示すグラフである。図11からは、ガイドパイプ2の間隔が50cmでは測定時間を5分以上に設定した場合でも、3σ>0.01t/m3となる。よって、ガイドパイプ2の間隔は40cm以下が望ましい。その場合の測定時間は3分以上あれば充分である。
【0037】
(1-2)ガイドパイプ2の間隔を20cmとした場合
ガンマ線を測定する際、そのガンマ線の強度は計数法(単位時間あたりのガンマ線検出数)によって評価される。ガンマ線源3aから放出されたガンマ線の光子がガンマ線検出器3bに当たったときに、ガンマ線検出器3bの信号線には電気パルスが発生し、一定の時間の間に検出されるその電気パルスをカウントすることで、高感度にガンマ線の強度を見積もることができる。このような計数法による強度測定は、仮にガンマ線が強く、頻繁に電気パルスが発生するような場合には、数え落としという現象が現れ、実際に検出できる電気パルスが減少することで、ガンマ線の強度が少なめに見積もられてしまうことがある。
【0038】
この数え落としの影響を確認するため、上述したガイドパイプ2の間隔30cm~50cmの実験データをもとに、数え落としの発生を考慮した予測式を作成した。図12は、この予測式とガイドパイプ2の間隔20cmの実験結果を比較したグラフを示している。図12から分かるように、ガイドパイプ2の間隔20cmの予測式と実験結果の間には大きな差がみられた。よって、数え落としの発生度合いを予測することは難しいため、ガイドパイプ2の間隔は30cm以上とすることが望ましい。
【0039】
以上のように、ガイドパイプ2の間隔が50cmでは、測定時間を5分以上確保しても、壊変揺動誤差による測定精度への影響が0.01t/m3以上発生する。このため、ガイドパイプ2の間隔は40cm以下とすることが望ましい。なお、測定時間を長くすることで測定精度は向上するが、施工性が悪化する。一方、ガイドパイプ2の間隔が20cmでは、数え落としによる測定誤差が0.01t/m3以上発生する。そこで、ガイドパイプ2の間隔は30cm以上40cm以下とすることが望ましい。
【0040】
次に、上記(2)について検証する。水中のグラウト材に対して2孔式RI密度計を挿入した場合、図7に示したように、ガンマ線源3aとガンマ線検出器3bとの鉛直方向の位置が例えば数cm程度ずれることが予測される。そこで、ガンマ線検出器3bの位置を基準として鉛直方向に変位を与えた状態でガンマ線源3aを設置して密度測定を行うことで、鉛直方向の変位の許容値を調べた。
【0041】
具体的には図8に例示した2本のガイドパイプ2のうち、右側のガイドパイプ2に挿入されているガンマ線源3aをそのガイドパイプ2の下端の位置からモータによって上方に引き上げつつ、ガンマ線の測定を行った。測定対象とした試料は、水(密度1.0t/m3)と、グラウト材(密度2.5 t/m3)である。ガンマ線源3aに与えた鉛直上向きの変位は、ガンマ線検出器3bの位置を基準として鉛直方向に0cm、2cm、4cmである。
【0042】
図13がその実験結果を示す表である。この表からは、ガイドパイプ2の間隔が小さいほど、又は、測定対象の試料の密度が大きくなるほど、ガンマ線源3aの鉛直方向の変位による測定への影響が大きくなることが分かる。そして、ガンマ線検出器3bに対してガンマ線源3aの鉛直方向の変位が4cmの場合は測定誤差が0.03t/m3以上となる一方、鉛直方向の変位が2cm以内かつガイドパイプ間隔が40cm以上であれば測定誤差は0.01t/m3未満となっている。このことから、2孔式RI密度計によるグラウト材の密度測定において、ガンマ線源3aとガンマ線検出器3bとの鉛直方向の変位を2cm以内とすることが望ましい。
【0043】
次に、上記(3)について検証する。水中のグラウト材に対して2孔式RI密度計を挿入した場合、グラウト材と水の境界面による影響を受けることが想定される。そこで、水中におけるグラウト材の注入箇所の下端から鉛直方向上方にガンマ線検出器3bを引上げながらガンマ線を測定することで、水中グラウト材の密度を測定する際に必要となるガンマ線検出器3bの挿入長の最低値を調べた。
【0044】
具体的には、水槽に設置した型枠底部からしたガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bを同時に鉛直方向上方に引上げながら、ガンマ線の測定を行った。図14がその実験結果を示すグラフである。このグラフからは、底面から測定中心pの距離が850mm付近を境にガンマ線の検出数が増加傾向に移る、つまり、境界面の影響を受けることが分かる。ここで、実験に用いた水槽内の水位及び2孔式RI密度計の寸法等を考慮すると、密度2.4~2.5t/m3のグラウト材を測定する場合には、2孔式RI密度計を最低でも150mm(15cm)以上挿入する必要があると考えられる。
【0045】
以上の(1)~(3)について説明した各条件、つまり、ガンマ線源3aとガンマ線検出器3bとの距離が30cm以上40cm以下、ガンマ線源3aとガンマ線検出器3bとの鉛直方向の変位が2cm以内、水中のグラウト材に対するガンマ線検出器3bの挿入長が15cm以上、という条件を全て満たすことにより、グラウト材の密度測定を0.01t/m3の精度で測定することが可能となる。
【0046】
[変形例]
上記実施形態を次のように変形してもよい。例えば上記実施形態では、第1の海洋構造物を水底から水面上に向かって設置された杭とし、第2の海洋構造物をその杭に嵌着するレグとしていたが、これらの例に限定されない。第1の海洋構造物と第2の海洋構造物は、洋上風力発電のモノパイルとトランジションピースのようにこれらの間に形成された間隙がグラウト材の注入対象となるようなものであればどのようなものであってもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、レグ(第2の海洋構造物)が杭(第1の海洋構造物)の外径より大きい内径を有しており、間隙は杭の外周面とレグの内周面との間に形成されていたが、これに限らない。第2の海洋構造物が第1の海洋構造物の内径より小さい外径を有しており、間隙は、第1の海洋構造物の内周面と第2の海洋構造物の外周面との間に形成されていてもよい。
【0048】
上記実施形態においては、作業者がウインチ5を操作することで検出装置3を上下方向に移動させていたが、移動用機械として、ROVのような潜水装置を用いて実現してもよい。具体的には、作業者の遠隔操作によって水中で制御される潜水装置が、検出装置3又は、個別にガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bに接続された吊索材の繰り出し/巻き取りを行うウインチを有しており、作業者の遠隔操作に応じてガンマ線源3a及びガンマ線検出器3bの位置がガイドパイプ2内を間隙g内の任意の位置に移動させられ、その位置におけるグラウト材の密度が検出される。この検出結果である検出値は、検出装置3からの通信線を経由して潜水装置に送信され、潜水装置から送信されて表示装置や記録装置に出力される。また、検出値の送信方法は検出装置3からの通信線により吊索材と潜水装置操作用ケーブルを経由して陸上部へ送信するようにしても良い。
【0049】
上記実施形態では、間隙g内に検出装置3が2つ設けられている場合を例示したが、間隙g内に検出装置3が1又は3以上設けられていてもよい。具体的には、図3のように2本/セットのガイドパイプ2,2及びこれらガイドパイプ2,2に挿入される検出装置3のセットが、間隙gの周方向に所定の間隔をあけて複数の位置に設けられていてもよい。これにより、間隙gの周方向にわたってグラウト材の密度を検出することが可能となる。なお、所定の間隔としては、仮にレグ1aの内径が2~3mであれば、実施形態で開示したように180度対向した2か所に設ければよく、設置数は計測対象の間隙の周方向の長さに応じて設定する。
【0050】
検出装置3による検出値が、注入するグラウト材の設計比重と比較して軽い場合、適正と考えられる範囲外の値となった場合には、作業者等に対してアラーム・警告等の情報を出力するようにしてもよい。なお、検出値が設計比重より重い場合にはそのままとしてよい。作業者は当該アラーム・警報が出力され次第、グラウトの注入を停止し、当該グラウトの品質を確認し、不適切なグラウトを充填することを防ぐことができる。この場合、グラウト材検出システムは、検出装置によって検出されたグラウト材の密度が軽く、決められた範囲に収まらない場合には、所定の情報を出力する出力部を備える。
【0051】
なお、グラウト材の注入口が間隙の下端部に対応する位置に設けられているときには、検出値で検出された適正外のグラウト材が間隙gの上端開口部から排出されるまで下端部の注入口から適正な密度のグラウト材を注入し、検出装置3により当該適正外のグラウト材が排出されるまでを確認することができる。
【0052】
なお、本発明は、コンピュータに、グラウト材検出システムを稼働させるためのプログラムであってもよい。
【符号の説明】
【0053】
1:ジャケット、1a:レグ、1b:杭、2:ガイドパイプ、3:検出装置、3a:ガンマ線源、3b:ガンマ線検出器、4:吊索材、5:ウインチ、6:固定具、7:輸送配管、8:注入口、g:間隙、S:水面、G:水底、m:グラウト材上端、p:測定中心、D:挿入長、M:間隔、Y:ガンマ線、d:変位。
図1
図2
図3
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図5
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図10
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図13
図14