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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120542
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027397
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179453
【弁理士】
【氏名又は名称】會田 悠介
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】中山 陽介
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB04
5H505BB09
5H505CC04
5H505DD03
5H505EE41
5H505EE51
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505JJ24
5H505JJ28
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
(57)【要約】
【課題】1パルス制御時の電流応答性を向上させるとともに、PWM制御から1パルス制御への切り替えの際のトルク変動を抑制できるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】モータ制御装置1は、電流指令値を基本波成分を含む基本波電流指令値と高調波成分を含む高調波電流指令値とに変換する電流指令変換部2と、基本波電流指令値とフィードバック電流とを比較し、フィードバック電流を基本波電流指令値に追従させるための基本波電圧指令値を算出する基本波フィードバック制御部3と、高調波電流指令値とフィードバック電流とを比較し、フィードバック電流を高調波電流指令値に追従させるための高調波電圧指令値を算出する高調波フィードバック制御部4と、基本波電圧指令値及び高調波電圧指令値を合算し、駆動用電圧指令値を生成する電圧指令生成部5と、駆動用電圧指令値に基づきモータ7を駆動するインバータ6と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標トルクに基づき算出された電流指令値に基づき電圧指令値を生成し、該電圧指令値に基づきモータを駆動制御するモータ制御装置であって、
前記電流指令値を、前記電流指令値の基本波成分を含む基本波電流指令値と、前記基本波成分に対する高調波成分を含む高調波電流指令値と、に変換する電流指令変換部と、
前記基本波電流指令値と、前記モータに流れる電流に対応するフィードバック電流における基本波成分と、を比較し、前記フィードバック電流の前記基本波成分を前記基本波電流指令値に追従させるための基本波電圧指令値を算出する基本波フィードバック制御部と、
前記高調波電流指令値と、前記フィードバック電流における高調波成分と、を比較し、前記フィードバック電流の前記高調波成分を前記高調波電流指令値に追従させるための高調波電圧指令値を算出する高調波フィードバック制御部と、
前記基本波電圧指令値及び前記高調波電圧指令値を合算し、駆動用電圧指令値を生成する電圧指令生成部と、
前記駆動用電圧指令値に基づき前記モータを駆動するインバータと、
を備えることを特徴とする、モータ制御装置。
【請求項2】
前記電流指令変換部は、前記電流指令値に対するフーリエ級数展開により、前記基本波成分及び前記高調波成分を取得することを特徴とする、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記電流指令変換部は、前記基本波電流指令値と前記高調波電流指令値を合成した合成電流指令値の基本波成分が、前記電流指令値の基本波成分と等しくなる関係を維持するように、前記基本波電流指令値と前記高調波電流指令値を決定することを特徴とする、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記電流指令変換部は、前記高調波成分に含まれる各周波数成分に対し、前記モータの騒音、振動及び損失を考慮して値を増減させる調整を加え、該調整後の前記高調波成分を前記高調波電流指令値として取得することを特徴とする、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記電圧指令生成部により生成される前記駆動用電圧指令値は、正弦波PWM制御用の正弦波電圧指令値、過変調PWM制御用の非正弦波電圧指令値、又は1パルス制御用の矩形波電圧指令値のいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
目標トルクに基づき算出された電流指令値に基づき電圧指令値を生成し、該電圧指令値に基づきモータを駆動制御するモータ制御方法であって、
前記電流指令値を、前記電流指令値の基本波成分を含む基本波電流指令値と、前記基本波成分に対する高調波成分を含む高調波電流指令値と、に変換する電流指令変換工程と、
前記基本波電流指令値、及び前記モータに流れる電流に対応するフィードバック電流値に基づき、前記フィードバック電流の基本波成分を前記基本波電流指令値に追従させるための基本波電圧指令値を算出する基本波フィードバック工程と、
前記高調波電流指令値、及び前記フィードバック電流に基づき、前記フィードバック電流の高調波成分を前記高調波電流指令値に追従させるための高調波電圧指令値を算出する高調波フィードバック工程と、
前記基本波電圧指令値及び前記高調波電圧指令値を合算し、駆動用電圧指令値を生成する電圧指令生成工程と、
前記駆動用電圧指令値に基づき前記モータを駆動する駆動工程と、
を含むことを特徴とする、モータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置及びモータ制御方法に関し、特に電流制御が可能な1パルス制御によってモータを制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低炭素社会又は脱炭素社会の実現に向けた取り組みが活発化し、車両においてもCO排出量の削減やエネルギー効率の改善のために、電動化技術に関する研究開発が行われている。
【0003】
三相交流モータを動力源に用いる電動車両やハイブリッド車両においては、一般に、バッテリ等の電源からの直流電圧を交流電圧に変換するインバータを用いてモータを駆動制御する。このようなインバータを含むモータ制御装置において、正弦波PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御、過変調PWM制御、及び1パルス制御といった複数の制御方式を要求されるトルクに応じて切り替えて用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
正弦波PWM制御及び過変調PWM制御は、モータからのフィードバック電流を用いたベクトル制御によりモータの駆動を制御するものである。PWM制御では、指令電圧と搬送波の大小関係に基づきパルス波のデューティ比を変化させることで変調を行う。
【0005】
図1は、要求トルクに応じて指令電圧を徐々に上昇させた場合の正弦波PWM制御及び過変調PWM制御の切り替えタイミングを例示したものである。正弦波PWM制御は、指令電圧が電源電圧以下(~時刻t1)の低速領域で用いられる制御方式であり、制御応答性が高く、振動や騒音も小さい。一方、指令電圧が電源電圧を超える(時刻t1~)中速領域では、過変調PWM制御が用いられる。過変調PWM制御では、電源電圧の上限値に達した指令電圧の波形がリミット処理等により台形波等の非正弦波の波形を取ることにより、インバータの出力電圧の基本波成分の振幅を正弦波PWM制御の場合よりも増加させることができる。これにより、より高い駆動電圧が得られる一方で、高調波成分が増加するため、制御の安定性は低下する。
【0006】
過変調PWM制御よりもさらに大きな駆動電圧が必要とされる場合、指令電圧に非線形ゲインを重畳することにより振幅を最大化することで得られる疑似的な矩形波電圧に基づく1パルス制御が用いられる。1パルス制御とは、パルス幅が1/2周期の単一のパルスを有する矩形波によりモータを制御する制御方式である。一般に、1パルス制御では、電圧振幅は最大値に固定され、モータの電気角に同期して駆動電圧のオン/オフを制御する電圧位相制御が実行される。図2は、電圧目標値と制御方式、及び制御方式ごとの出力電圧(基本波)の関係を例示した図である。正弦波PWM制御に加えて過変調PWM制御及び1パルス制御を用いることにより、最大で電源電圧Vbattによって定まる相電圧振幅上限Vlim(=Vbatt/2)の1.27倍の駆動電圧を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-253000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来、1パルス制御は、ベクトル制御(電流フィードバック制御)により実行される正弦波PWM制御及び過変調PWM制御とは異なり、モータの電気角に基づく電圧位相制御により実行されるものであった。そのため、過変調PWM制御と1パルス制御の切り替え時に、制御ロジックの切り替えに起因して瞬間的なトルク変動が発生するという問題があった。また、1パルス制御における電流応答の劣化も課題であった。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、1パルス制御時の電流応答性を向上させるとともに、PWM制御から1パルス制御への切り替えの際のトルク変動を抑制することができるモータ制御装置を提供することを目的とする。そして、延いてはエネルギーの効率の改善に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、本発明の請求項1に係るモータ制御装置は、目標トルクに基づき算出された電流指令値に基づき電圧指令値を生成し、該電圧指令値に基づきモータ7を駆動制御するモータ制御装置1であって、電流指令値を電流指令値の基本波成分を含む基本波電流指令値と基本波成分に対する高調波成分を含む高調波電流指令値とに変換する電流指令変換部2と、基本波電流指令値とモータ7に流れる電流に対応するフィードバック電流における基本波成分とを比較し、フィードバック電流の基本波成分を基本波電流指令値に追従させるための基本波電圧指令値を算出する基本波フィードバック制御部3と、高調波電流指令値とフィードバック電流における高調波成分とを比較し、フィードバック電流の高調波成分を高調波電流指令値に追従させるための高調波電圧指令値を算出する高調波フィードバック制御部4と、基本波電圧指令値及び高調波電圧指令値を合算し、駆動用電圧指令値を生成する電圧指令生成部5と、駆動用電圧指令値に基づきモータ7を駆動するインバータ6と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明者らは、任意の周波数を有する矩形波電圧は、フーリエ級数展開により、基本波成分である正弦波電圧と、高調波成分である高調波電圧とに変換できることに着目した。すなわち、従来の1パルス制御のように、指令電圧に非線形ゲインを重畳して振幅を最大化することによって矩形波電圧を得るのではなく、図3に示すように、基本波となる正弦波電圧を設定し、その正弦波電圧に高調波電圧を重畳することにより、任意の矩形波電圧を生成することができるとの着想を得た。
【0012】
こうした知見に基づき、このモータ制御装置では、電流指令変換部により、目標トルクに基づき算出された電流指令値を、この電流指令値の基本波成分を含む基本波電流指令値と、基本波成分に対する高調波成分を含む高調波電流指令値と、に変換する。
【0013】
基本波フィードバック制御部は、基本波電流指令値とモータからのフィードバック電流における基本波成分とを比較し、フィードバック電流の基本波成分を基本波電流指令値に追従させるための基本波電圧指令値を算出する。すなわち、基本波電流指令値から導出される電圧指令値に、基本波電流指令値とフィードバック電流の基本波成分の間の誤差に応じて値を増減させる調整を行ったものを基本波電圧指令値とする。また、同様に、高調波フィードバック制御部は、高調波電流指令値とモータからのフィードバック電流における高調波成分とを比較し、フィードバック電流の高調波成分を高調波電流指令値に追従させるための高調波電圧指令値を算出する。すなわち、高調波電流指令値に対応する電圧指令値に、高調波電流指令値とフィードバック電流の高調波成分の間の誤差に応じて値を増減させる調整を行ったものを高調波電圧指令値とする。
【0014】
そして、電圧指令生成部は、算出された基本波電圧指令値と高調波電圧指令値を合算し、モータ駆動用の駆動用電圧指令値を生成する。インバータは、駆動用電圧指令値に基づきモータに電圧を印加することによりモータを駆動する。
【0015】
このように、本発明のモータ制御装置においては、電流指令値を基本波電流指令値と高調波電流指令値に変換し、各電流指令値に対しモータからのフィードバック電流による調整を行うことで、基本波電圧指令値と高調波電圧指令値を別個に算出した後、各電圧指令値を合算することで駆動用電圧指令値を生成する。このようにして生成される駆動用電圧指令値は、正弦波とその高調波の合成により表現することが可能な任意の矩形波又は他の非正弦波の波形を有することが可能である。また、正弦波に重畳する高調波の成分をゼロ又は限りなく小さくすることで、任意の正弦波の波形を有する駆動用電圧指令値を生成することも可能である。
【0016】
したがって、このモータ制御装置によれば、電流指令値に基づき任意の矩形波電圧指令値を生成することができるので、電流制御により1パルス制御を実現することができ、1パルス制御の電流応答性を向上させることができる。また、単一の手法により、正弦波PWM制御用の正弦波電圧指令値、過変調PWM制御用の非正弦波電圧指令値、及び1パルス制御用の矩形波電圧指令値を生成することができるので、PWM制御から1パルス制御への切り替えの際にトルク変動が生じることを抑制することができる。
【0017】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載のモータ制御装置において、電流指令変換部2は、電流指令値に対するフーリエ級数展開により、基本波成分及び高調波成分を取得することを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、電流指令変換部は、入力された電流指令値に対してフーリエ級数展開を実行することにより、電流指令値の基本波成分及び高調波成分をそれぞれ取得するので、取得された基本波成分及び高調波成分に基づき、基本波電流指令値及び高調波電流指令値への変換を行うことができる。
【0019】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1に記載のモータ制御装置において、電流指令変換部2は、基本波電流指令値と高調波電流指令値を合成した合成電流指令値の基本波成分が、電流指令値の基本波成分と等しくなる関係を維持するように、基本波電流指令値と高調波電流指令値を決定することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、基本波電流指令値と高調波電流指令値を合成した合成電流指令値の基本波成分が、元の電流指令値の基本波成分と等しくなるように基本波電流指令値及び高調波電流指令値が決定されるので、基本波電流指令値及び高調波電流指令値の各々にフィードバック電流による調整をかけて算出した基本波電圧指令値及び高調波電圧指令値を合算して生成した駆動用電圧指令値は、元の電流指令値への追従性が高いものとなる。
【0021】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項1に記載のモータ制御装置において、電流指令変換部2は、高調波成分に含まれる各周波数成分に対し、モータの騒音、振動及び損失を考慮して値を増減させる調整を加え、該調整後の高調波成分を高調波電流指令値として取得することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、電流指令変換部による電流指令値の基本波電流指令値及び高調波電流指令値への変換において、電流指令値の高調波成分に含まれる各周波数成分、すなわち各次数の高調波成分に対し、モータにおける騒音、振動、及び損失を考慮した調整を加え、調整後の高調波成分を高調波電流指令値として取得する。例えば、電流指令値が示すモータ動作点が過変調PWM制御の領域にあるときに、モータ回転数や他のモータパラメータを参照し、モータの動作点が、特定の周波数成分に対して騒音や振動を生じやすい等の特性を有している場合には、高調波成分から当該周波数成分の割合を減少させるといった調整を行うことが可能となる。
【0023】
本発明の請求項5に係る発明は、請求項1に記載のモータ制御装置において、電圧指令生成部5により生成される駆動用電圧指令値は、正弦波PWM制御用の正弦波電圧指令値、過変調PWM制御用の非正弦波電圧指令値、又は1パルス制御用の矩形波電圧指令値のいずれかであることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、電圧指令生成部により、正弦波PWM制御用の正弦波電圧指令値、過変調PWM制御用の非正弦波電圧指令値、又は1パルス制御用の矩形波電圧指令値のいずれかを駆動用電圧指令値として生成するので、正弦波PWM制御、過変調PWM制御、及び1パルス制御のための電圧指令値を電流指令値に基づき生成することができる。したがって、1パルス制御の電流応答性を向上させることができるとともに、PWM制御から1パルス制御への切り替えの際にトルク変動が生じることを抑制することができる。
【0025】
本発明の請求項6に係るモータ制御方法は、目標トルクに基づき算出された電流指令値に基づき電圧指令値を生成し、該電圧指令値に基づきモータ7を駆動制御するモータ制御方法であって、電流指令値を、電流指令値の基本波成分を含む基本波電流指令値と基本波成分に対する高調波成分を含む高調波電流指令値とに変換する電流指令変換工程と、基本波電流指令値及びモータ7に流れる電流に対応するフィードバック電流値に基づき、フィードバック電流の基本波成分を基本波電流指令値に追従させるための基本波電圧指令値を算出する基本波フィードバック工程と、高調波電流指令値及びフィードバック電流に基づき、フィードバック電流の高調波成分を高調波電流指令値に追従させるための高調波電圧指令値を算出する高調波フィードバック工程と、基本波電圧指令値及び高調波電圧指令値を合算し、駆動用電圧指令値を生成する電圧指令生成工程と、駆動用電圧指令値に基づきモータ7を駆動する駆動工程と、を含むことを特徴とする。
【0026】
このモータ制御方法では、電流指令値を基本波電流指令値と高調波電流指令値に変換した後、各電流指令値に対しモータからのフィードバック電流による調整を行うことで、基本波電圧指令値と高調波電圧指令値を別個に算出し、各電圧指令値を合算することで駆動用電圧指令値を生成する。このようにして生成される駆動用電圧指令値は、正弦波とその高調波の合成により表現することが可能な任意の矩形波又は他の非正弦波の波形を有することが可能である。また、正弦波に重畳する高調波の成分をゼロ又は限りなく小さくすることで、任意の正弦波の波形を有する駆動用電圧指令値を生成することも可能である。したがって、このモータ制御方法によれば、電流指令値に基づき任意の矩形波電圧指令値を生成することができるので、電流制御により1パルス制御を実現することができ、1パルス制御の電流応答性を向上させることができる。また、単一の手法により、正弦波PWM制御用の正弦波電圧指令値、過変調PWM制御用の非正弦波電圧指令値、及び1パルス制御用の矩形波電圧指令値を生成することができるので、PWM制御から1パルス制御への切り替えの際にトルク変動が生じることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】正弦波PWM制御から過変調PWM制御への切り替えタイミングを例示する図である。
図2】電圧目標値と制御方式、及び制御方式ごとの出力電圧(基本波)の関係を例示する図である。
図3】矩形波電圧と、正弦波電圧及び高調波電圧の関係を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係るモータ制御装置の構成例を示すブロック図である。
図5】高調波電流指令値決定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明のモータ制御装置の好ましい実施形態を詳細に説明する。以下に説明する構成は本発明の一例であり、本発明はこれに限定されない。
【0029】
図4は、本実施形態に係るモータ制御装置1の構成例を示す。このモータ制御装置1は、上位のコントローラから入力される電流指令に基づき、モータ駆動用の電圧指令を生成し、インバータ6を介して三相交流モータ7の駆動を制御するものである。
【0030】
電流指令変換部2は、上位コントローラから電流指令値を入力として受け取る。この電流指令値は、上位コントローラが、例えばユーザからの加減速要求に応じて算出した目標トルクに基づき、周知の手法により算出したものであり、モータ7が目標トルクを生成するために必要とされる電流の値を示すものである。また、電流指令変換部2は、レゾルバ等の回転角センサ(不図示)が検出したモータ回転数、バッテリ等の電源(不図示)からの電源電圧などの検出値を入力として受け取る。また、モータ7のd軸、q軸方向インダクタンス等のモータパラメータや、モータ7の動作点と損失特性及びNV(ノイズバイブレーション)特性の関係を予め記憶したマップやテーブルを参照することが可能に構成されている。なお、モータ回転数は、センサを用いずにモータパラメータや電流実測値等から推定する構成としてもよい。
【0031】
電流指令変換部2は、上位コントローラから入力された電流指令値を、正弦波の基本波成分を含む基本波電流指令値と、基本波成分に対する高調波成分を含む高調波電流指令値に変換する。この変換は、電流指令値に対するフーリエ級数展開により、電流指令値を基本波成分と高調波成分に分離することで行われる。なお、電流指令値が示すモータの動作点が線形領域、すなわち正弦波PWM制御が行われる領域にある場合は、高調波電流指令値はゼロ又は限りなく小さな値に設定される。
【0032】
本実施形態においては、種々の波形を有する電流指令値と、それに対応する基本波成分と高調波成分を予め計算して記憶させたデータテーブルやマップを参照することで、上記変換を実行する。なお、計算処理の負荷が問題とならない実装環境であれば、入力された電流指令値に対してリアルタイムで計算を行うことで上記変換を実行する構成であってもよい。
【0033】
電流指令変換部2による上記変換は、変換後の基本波電流指令値と、高調波電流指令値を基本波電流指令値に重畳した際の基本波増大分の和が、元の電流指令値の基本波成分と等しくなる関係を維持するように行われる。換言すれば、基本波電流指令値と高調波電流指令値を合成した合成電流指令値の基本波成分が、元の電流指令値の基本波成分と等しくなるように基本波電流指令値及び高調波電流指令値が決定される。上記変換の後、基本波電流指令値は、基本波フィードバック制御部3に入力され、高調波電流指令値は、高調波フィードバック制御部4に入力される。
【0034】
基本波フィードバック制御部3には、上述の基本波電流指令値と、モータ7に接続されたホール素子(不図示)等により検出したフィードバック電流値が入力される。基本波フィードバック制御部3は、基本波電流指令値とフィードバック電流値に基づき、座標変換、誤差計算、PI制御等からなる、一般にベクトル制御や電流フィードバック制御と呼ばれる公知の手法により、基本波電圧指令値を導出する。
【0035】
なお、モータ7からのフィードバック電流は、基本波成分と高調波成分を共に含んだものであるため、基本波電流指令値との比較によるフィードバック制御を行うためには、フィードバック電流から基本波成分のみを抽出するための構成が必要となる。この基本波成分抽出のための構成としては、任意の公知の構成を採用することが可能である。例えば、モータ7の基本波(回転数の周波数)のみを抽出するバンドパス特性を有するフィルタを設置し、フィードバック電流にこのフィルタを通過させることで基本波成分のみを取り出し、基本波電流指令値との比較を行うようにしてもよい。また、基本波フィードバック制御部3のコントローラにおける応答ゲインを低く設定することにより、低周波のみに対して感度を持たせる構成とすることも可能である。
【0036】
このようにしてフィードバック電流値から基本波成分を抽出した後、この基本波成分と基本波電流指令値との間の誤差に基づき、フィードバック電流の基本波成分が基本波電流指令値に追従するように調整した基本波電圧指令値を導出する。
【0037】
高調波フィードバック制御部4には、上述の高調波電流指令値と、モータ7からのフィードバック電流値が入力される。高調波フィードバック制御部4は、高調波電流指令値とフィードバック電流値に基づき、座標変換、誤差計算、PI制御等からなる、一般にベクトル制御や電流フィードバック制御と呼ばれる公知の手法により、高調波電圧指令値を導出する。
【0038】
高調波フィードバック制御部4において、高調波電流指令値との比較によるフィードバック制御を行うためには、フィードバック電流から高調波成分のみを抽出するための構成が必要となり、そのために任意の公知の構成を採用することが可能である。例えば、モータ7の基本波のみを除去するバンドストップ特性を有するフィルタを設置し、フィードバック電流にこのフィルタを通過させることで高調波成分のみを取り出し、高調波電流指令値との比較を行うようにしてもよい。また、フィードバック電流値から前回の基本波電流指令値を減算することにより、高調波成分のみを取り出す構成とすることも可能である。
【0039】
このようにしてフィードバック電流値から高調波成分を抽出した後、この高調波成分と高調波電流指令値との間の誤差に基づき、フィードバック電流の高調波成分が高調波電流指令値に追従するように調整した高調波電圧指令値を導出する。
【0040】
電圧指令生成部5には、基本波フィードバック制御部3において導出された基本波電圧指令値と、高調波フィードバック制御部4において導出された高調波電圧指令値と、が入力される。電圧指令生成部5は、入力された基本波電圧指令値と高調波電圧指令値を合算(重畳)することにより、モータ7の駆動用の駆動用電圧指令値を生成し、インバータ6に出力する。
【0041】
ここで、駆動用電圧指令値の波形が矩形波以外の非正弦波又は正弦波である場合は、駆動用電圧指令値を、インバータ6に入力可能なパルス信号に変換する必要がある。このパルス信号への変換処理は、電圧指令生成部5が備える一般的なPWM用の変調器(不図示)を介して実行される。すなわち、この変調器が所定のサンプリング周波数で正弦波又は非正弦波の駆動用電圧指令値をサンプリングし、サンプリングされた値と搬送波の高低の比較により矩形波のスイッチング信号を生成し、このスイッチング信号をインバータに出力する。一方、駆動用電圧指令値の波形が矩形波である場合は、そのままの状態でインバータ6への入力が可能なため、こうした変換処理は行われない。
【0042】
インバータ6は、電圧指令生成部5から入力された駆動用電圧指令値を印加電圧に変換してモータ7を駆動する。
【0043】
以上のようにして、本実施形態のモータ制御装置1では、上位コントローラから入力された電流指令値を、基本波電流指令値と高調波電流指令値に分離し、このそれぞれの電流指令値に対してフィードバック電流を用いた調整を実行した後、両者を合算(重畳)することにより駆動用電圧指令値を生成する。したがって、駆動用電圧指令値の波形が正弦波、非正弦波、又は矩形波のいずれとなる場合であっても、その生成ロジックを変えることなく駆動用電圧指令を生成することができるので、正弦波PWM制御、過変調PWM制御、及び1パルス制御の間の制御切り替えのタイミングにおける瞬間的なトルク変動の発生を抑制することができる。また、従来はモータの電気角に基づく電圧位相制御が行われていた1パルス制御を電流制御により実現することができるので、1パルス制御の電流応答性を向上させることができる。
【0044】
なお、モータ制御装置1が備える電流指令変換部2、基本波フィードバック制御部3、高調波フィードバック制御部4、電圧指令部5といった各制御部の機能は、例えばCPU(Central Processing Unit)がプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうちの一部又は全部は、回路を含むハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予めフラッシュメモリ等の記憶装置に格納されていてもよいし、着脱可能な記憶媒体に格納され、適時インストールされてもよく、あるいはクラウド上に保存されたものをインターネット等を介して供給されてもよい。
【0045】
さらに、本実施形態のモータ制御装置1においては、電流指令変換部2に入力された電流指令値が示すモータ7の動作点が、非線形領域内、かつ1パルス制御が行われる領域外である場合、すなわち過変調PWM制御が行われる領域にある場合に、NV特性や損失特性といったモータ特性を考慮して、高調波電流指令値に含まれる各周波数成分の値を調整することが可能である。
【0046】
図6は、モータ7の動作点に応じた高調波電流指令値決定処理の一例を示すフローチャートである。本処理は、例えばモータ7の制御周期毎に実行される。まず、ステップ501では、電流指令変換部2に入力された電流指令値に対応するモータ7の動作点が線形領域、すなわち正弦波PWM制御が実行される領域にあるか否かを判定する。この判定は、例えば、予め作成した電流指令値とそれに対応するモータ回転数のマップやテーブルを電流指令変換部2が参照することにより行う。
【0047】
ステップ501の判定結果がYESの場合、すなわちモータ7の動作点が線形領域にあるときは、基本波電流指令値に高調波を重畳して波形を変形させる必要がないため、ステップ504に進み、高調波電流指令値をゼロ又は限りなく小さな値に設定する。一方、ステップ501の判定結果がNOの場合、すなわちモータ7の動作点が非線形領域にあるときは、ステップ502に進む。
【0048】
ステップ502では、電流指令変換部2に入力された電流指令値に対応するモータ7の動作点が1パルス領域、すなわち1パルス制御が実行される領域にあるか否かを判定する。この判定は、ステップ501で用いたものと同じマップ又はテーブルを用いて行う。
【0049】
ステップ502の判定結果がYESの場合、すなわちモータ7の動作点が1パルス領域にあるときは、ステップ507に進み、高調波電流指令値を1パルス用高調波、すなわち基本波電流指令値に重畳することで矩形波電圧指令値を生成可能な高調波に設定する。一方、ステップ502の判定結果がNOの場合、すなわちモータ7の動作点が過変調PWM制御が実行される過変調領域にあるときは、ステップ503に進む。
【0050】
ステップ503では、電流指令変換部2に入力された電流指令値に対応するモータの動作点が、高周波に対するNV特性が大きい領域、すなわち、高周波によって生じる振動や騒音が大きい領域にあるか、又は高周波に対する損失が小さい領域にあるか、を判定する。モータ7におけるNV特性や損失は、モータ7の巻線の構造や、モータ7の筐体の共振点などの影響を受ける他、モータの動作点によっても異なる。本実施形態では、モータの動作点とNV特性や損失の対応関係を表したマップやテーブルを予め作成しておき、それを電流指令変換部2が参照することによりこの判定を行う。
【0051】
ステップ503の判定の結果、モータの動作点が高周波に対するNV特性が大きい領域にあると判定した場合は、ステップ505に進み、高調波電流指令値を、低周波(より低次の高調波)を優先的に含むように設定する。一方、ステップ503の判定の結果、高周波に対する損失が小さい領域にあると判定した場合は、ステップ506に進み、高調波電流指令値を、高周波(より高次の高調波)を優先的に含むように設定する。
【0052】
このように、本実施形態のモータ制御装置1では、電流指令変換部2に入力された電流指令値に対応するモータ7の動作点が過変調領域にある場合に、モータの特性に応じて、高調波電流指令値に含まれる特定周波数の値を調整することにより、騒音や振動の抑制や、損失の低減などの効果が得られるように構成することができる。
【0053】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、電流指令値を基本波電流指令値と高調波電流指令値に変換し、後に重畳する手法により正弦波電圧指令値から矩形波電圧指令値までを生成可能な構成としたが、例えば矩形波信号については従来の制御手法により生成するように構成することも可能である。この場合でも、過変調領域でNV特性や損失等を考慮して電圧指令を生成することができる。
【0054】
また、実施形態では、高調波電流指令値の設定においてNV特性や損失等を考慮して各周波数成分を調整することを説明したが、別の構成として、モータ動作点が一定の条件において、基本波電流指令値と、高調波電流指令値を基本波電流指令値に重畳した際の基本波増大分の和が、元の電流指令値の基本波成分と等しくなる関係を維持しながら、高調波電流指令値の周波数特性をランダムに変化させることで、高周波成分を重畳することによる騒音やトルクリプルをホワイトノイズ化させることも可能である。
【0055】
また、基本波電流指令値に重畳する高調波電流指令値は任意に設定することが可能であるため、奇数次の高調波だけでなく、偶数次の高調波を重畳することも可能である。これにより、時間高調波と呼ばれる電圧基本波と同期しない成分まで考慮して電圧指令値を生成することも可能であり、モータ制御装置を含むシステムの共振現象を防止したり、偶数次高調波が発生し得る三相交流モータ以外のモータ(例えば偶数相モータやオープン巻線モータ)においても本発明を適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…モータ制御装置
2…電流指令変換部
3…基本波フィードバック制御部
4…高調波フィードバック制御部
5…電圧指令生成部
6…インバータ
7…モータ

図1
図2
図3
図4
図5