(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120556
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】植物の栽培方法、植物栽培キット、植物苗の作製方法、および、植物体の発根促進剤
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20240829BHJP
A01G 24/13 20180101ALI20240829BHJP
A01G 24/48 20180101ALI20240829BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240829BHJP
C05G 5/20 20200101ALI20240829BHJP
C05F 17/00 20200101ALI20240829BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
A01G31/00 601A
A01G24/13
A01G24/48
A01G7/00 604Z
C05G5/20
C05F17/00
C12N1/20 E
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027416
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 光
(72)【発明者】
【氏名】杉本 広樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 円佳
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
4B065
4H061
【Fターム(参考)】
2B022BA03
2B022BA22
2B022BB01
2B314MA15
2B314MA30
2B314PC09
2B314PC18
2B314PC29
4B065AA01X
4B065AC20
4B065CA53
4H061AA01
4H061AA04
4H061BB01
4H061CC58
4H061DD11
4H061EE66
4H061FF01
4H061HH07
4H061JJ06
4H061KK02
(57)【要約】
【課題】ハイドロカルチャーにおいて、栽培途中で要する作業を抑えつつ、長期間にわたって良好に植物を栽培可能にする。
【解決手段】ハイドロカルチャーによる植物の栽培方法は、有機態窒素を含む有機態窒素源と、硝化菌を含む微生物源と、を含む硝化菌含有養液を培養して硝化培養液を作製し、ハイドロカルチャーによる植物の栽培を開始する際に、植物に与える栽培液として硝化培養液を含有する液を用いたプレカルチャーを行い、プレカルチャーの後に、栽培液を、硝化培養液を含有しない液に変更する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロカルチャーによる植物の栽培方法であって、
有機態窒素を含む有機態窒素源と、硝化菌を含む微生物源と、を含む硝化菌含有養液を培養して硝化培養液を作製し、
ハイドロカルチャーによる植物の栽培を開始する際に、植物に与える栽培液として前記硝化培養液を含有する液を用いたプレカルチャーを行い、
前記プレカルチャーの後に、前記栽培液を、前記硝化培養液を含有しない液に変更する
植物の栽培方法。
【請求項2】
請求項1に記載のハイドロカルチャーによる植物の栽培方法であって、
ハイドロカルチャーに用いる人工培土として、イオン交換樹脂栄養剤を含む人工培土を用いる
植物の栽培方法。
【請求項3】
請求項1に記載のハイドロカルチャーによる植物の栽培方法であって、
有機態窒素を含む有機態窒素源と、バーク堆肥および腐葉土の少なくとも一方と、を含む土壌含有養液を培養して土壌培養液を作製し、
切断面を有する植物体における前記切断面を含む部位を前記土壌培養液に接触させて、前記切断面を含む部位から発根した植物苗を得て、
得られた植物苗を用いて前記プレカルチャーを行う
植物の栽培方法。
【請求項4】
ハイドロカルチャーのための植物栽培キットであって、
ハイドロカルチャーに用いる人工培土と、
ハイドロカルチャーによる栽培を行うための植物苗と、
有機態窒素を含む有機態窒素源と、硝化菌を含む微生物源と、を含む硝化菌含有養液を培養して得られる硝化培養液と、
を含む植物栽培キット。
【請求項5】
植物苗の作製方法であって、
有機態窒素を含む有機態窒素源と、バーク堆肥および腐葉土の少なくとも一方と、を含む土壌含有養液を培養して土壌培養液を作製し、
切断面を有する植物体における前記切断面を含む部位を前記土壌培養液に接触させて、前記切断面を含む部位から発根した植物苗を得る
植物苗の作製方法。
【請求項6】
植物体の発根促進剤であって、
有機態窒素を含む有機態窒素源と、バーク堆肥および腐葉土の少なくとも一方と、を含む土壌含有養液を培養して得られる土壌培養液を含有する
植物体の発根促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植物の栽培方法、植物栽培キット、植物苗の作製方法、および、植物体の発根促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物の栽培方法として、種々の方法が知られている。一般に、土壌を用いて植物を栽培する際には、土壌に存在する硝化菌等の細菌の働きにより、土壌中の有機物や土壌に加えられた有機肥料を用いてアンモニア化成と共に硝酸化成が進行して、無機養分が生成される。また、土壌を用いない栽培方法として、硝化菌を含む微生物を備える栽培用養液や微生物担体を用いる方法が知られている(例えば、特許文献1、2、および、非特許文献1、2参照)。このように、微生物を備える栽培用養液や微生物担体を用いる方法においても、土壌を用いる場合と同様に、微生物の働きで有機肥料等から無機養分を継続的に生成させて、野菜を含む種々の植物を良好に生育させることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6156821号公報
【特許文献2】特許第5392800号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】篠原信、"デザイナー・ソイル技術の誕生"、化学と生物、59 (3), 144-150, 2021
【非特許文献2】Makoto Shinohara et al., "Microbial mineralization of organic nitrogen into nitrate to allow the use of organic fertilizer in hydroponics", Soil Science and Plant Nutrition, 57(2), 2011,[online] [令和5年1月13日検索],インターネット<https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00380768.2011.554223>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した土壌や土壌に類する媒体(以下、「土壌等」とも呼ぶ)を用いる方法とは異なる栽培方法として、例えばハイドロボールと呼ばれる多孔質体に植物を植える栽培方法である、いわゆるハイドロカルチャーと呼ばれる方法も知られている。このような栽培方法は、水耕栽培と同様に、有機肥料等を用いることなく水や液体肥料を与えることで植物を生育させる方法であり、土壌を用いないために虫や臭気の発生を抑えて衛生的に栽培が可能であって、特に室内での植物栽培に好適な方法である。ただし、このように土壌を用いない方法では、有機肥料等を用いた硝酸化成を利用できないことにより生育条件が制限され、栄養不足となり易く、植物を長期間良好な状態で生育させるためには、無機肥料の追肥の量やタイミングのコントロールなど、煩雑な作業が必要になる場合がある。そのため、土壌等を用いないハイドロカルチャーにおいて、追肥などの栽培途中での煩雑な作業の必要性を抑えつつ、長期間にわたって良好に植物を栽培できる技術が望まれていた。また、このようなハイドロカルチャーを、より簡便に提供できる技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、ハイドロカルチャーによる植物の栽培方法が提供される。このハイドロカルチャーによる植物の栽培方法は、有機態窒素を含む有機態窒素源と、硝化菌を含む微生物源と、を含む硝化菌含有養液を培養して硝化培養液を作製し、ハイドロカルチャーによる植物の栽培を開始する際に、植物に与える栽培液として前記硝化培養液を含有する液を用いたプレカルチャーを行い、前記プレカルチャーの後に、前記栽培液を、前記硝化培養液を含有しない液に変更する。
この形態の植物の栽培方法によれば、ハイドロカルチャーの開始時に硝化培養液を用いたプレカルチャーを行うことにより、その後に行うハイドロカルチャーにおいて、追肥などの栽培途中での作業の必要性を抑えつつ、より長い期間、良好に植物を栽培することが可能になる。
(2)上記形態のハイドロカルチャーによる植物の栽培方法において、ハイドロカルチャーに用いる人工培土として、イオン交換樹脂栄養剤を含む人工培土を用いることとしてもよい。このような構成とすれば、無機肥料の過剰投与を抑えつつ、植物の生育を良好にする高い効果を得ることが可能になる。
(3)上記形態のハイドロカルチャーによる植物の栽培方法において、有機態窒素を含む有機態窒素源と、バーク堆肥および腐葉土の少なくとも一方と、を含む土壌含有養液を培養して土壌培養液を作製し、切断面を有する植物体における前記切断面を含む部位を前記土壌培養液に接触させて、前記切断面を含む部位から発根した植物苗を得て、得られた植物苗を用いて前記プレカルチャーを行うこととしてもよい。このような構成とすれば、植物体を土壌培養液に接触させることにより植物体の発根を促進することができるため、既述したプレカルチャーに供するための発根した植物苗を、より速く低コストで作製することが可能になる。
(4)本開示の他の一形態によれば、ハイドロカルチャーのための植物栽培キットが提供される。このハイドロカルチャーのための植物栽培キットは、ハイドロカルチャーに用いる人工培土と、ハイドロカルチャーによる栽培を行うための植物苗と、有機態窒素を含む有機態窒素源と、硝化菌を含む微生物源と、を含む硝化菌含有養液を培養して得られる硝化培養液と、を含む。
この形態の植物栽培キットによれば、既述したプレカルチャーを伴うハイドロカルチャーによる植物の栽培方法を容易に実行することができ、ハイドロカルチャーを行う際に、追肥などの栽培途中での作業の必要性を抑えつつ、より長い期間、良好に植物を栽培することが可能になる。
(5)本開示のさらに他の一形態によれば、植物苗の作製方法が提供される。この植物苗の作製方法は、有機態窒素を含む有機態窒素源と、バーク堆肥および腐葉土の少なくとも一方と、を含む土壌含有養液を培養して土壌培養液を作製し、切断面を有する植物体における前記切断面を含む部位を前記土壌培養液に接触させて、前記切断面を含む部位から発根した植物苗を得る。
この形態の植物苗の作製方法によれば、植物体を土壌培養液に接触させることにより植物体の発根を促進することができるため、発根した植物苗をより速く低コストで作製することが可能になる。
(6)本開示のさらに他の一形態によれば、植物体の発根促進剤が提供される。この植物体の発根促進剤は、有機態窒素を含む有機態窒素源と、バーク堆肥および腐葉土の少なくとも一方と、を含む土壌含有養液を培養して得られる土壌培養液を含有する。
この形態の植物体の発根促進剤によれば、切断面を有する植物体における切断面を含む部位を発根促進剤に接触させることで、植物体の発根を促進することができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、ハイドロカルチャー用植物苗の作製方法や、ハイドロカルチャーに供する植物苗の処理方法や、植物体の発根方法などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】ハイドロカルチャーによる植物の栽培方法を示す説明図。
【
図3A】D18の培養液CM1~CM4の各イオン濃度を示す説明図。
【
図3B】D18の培養液CM1~CM4のpHを示す説明図。
【
図4A】D27の培養液CM1~CM4の各イオン濃度を示す説明図。
【
図4B】D27の培養液CM1~CM4のpHを示す説明図。
【
図5】培養液CM1~CM4におけるイオン濃度の変化の様子を示す説明図。
【
図6】アロマティカス苗を経時的に写真撮影した結果を示す説明図。
【
図7A】約6ヶ月経過後の地上部の生重量を測定した結果を示す説明図。
【
図7B】約6ヶ月経過後の枝数を測定した結果を示す説明図。
【
図7C】約6ヶ月経過後の各枝の長さの合計を算出した結果を示す説明図。
【
図7D】約6ヶ月経過後の緑色の大葉の数を測定した結果を示す説明図。
【
図7E】約6ヶ月経過後の黄化した大葉の割合を求めた結果を示す説明図。
【
図8】培養開始から22日目のD18アロマティカス苗の様子を示す説明図。
【
図9A】22日目における主根長の合計を測定した結果を示す説明図。
【
図9B】22日目における主根長の平均を算出した結果を示す説明図。
【
図9C】22日目における主根数を測定した結果を示す説明図。
【
図10】培養開始から23日目のD27アロマティカス苗の様子を示す説明図。
【
図11A】23日目における主根長の合計を測定した結果を示す説明図。
【
図11B】23日目における主根長の平均を算出した結果を示す説明図。
【
図11C】23日目における主根数を測定した結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態のハイドロカルチャーによる植物の栽培方法を示す説明図である。本実施形態の植物の栽培方法では、ハイドロカルチャーを開始する際に、後述する硝化培養液を栽培液として用い、その後、栽培液を、上記の硝化培養液を含有しない液に変更する。ここで、ハイドロカルチャーとは、植物の栽培方法の1種であって、土壌の代わりに人工培土を用い、この人工培土に発根した植物の苗を植えて、有機肥料を用いることなく、水、あるいは無機液体肥料を含有する水を与える周知の栽培方法である。人工培土としては、粘土を高温で焼いて発泡させた無機質発泡体(ハイドロボール)、ゼオライト、発泡樹脂などの、通気性および保水性を有する多孔質体を用いることができ、以下では、このような人工培土を用いた栽培方法を総称してハイドロカルチャーと呼ぶ。
【0009】
本実施形態のハイドロカルチャーによる植物の栽培方法を実施する際には、まず、ハイドロカルチャーにより栽培する植物苗を用意する(工程T100)。ハイドロカルチャーにより栽培する植物としては、種々の植物を用いることができる。ハイドロカルチャーは、室内栽培に適した方法であるため、例えば、アロマティック植物や観葉植物を好適に用いることができる。ハイドロカルチャーは、土壌を用いないために虫や臭気の発生を抑えて衛生的に栽培が可能な方法であり、本実施形態の栽培方法は特に、比較的低い頻度で水等の栽培液を与えること以外には栽培のための特別な操作の必要性が抑えられている。そのため、例えばデスクまわりなどの居住空間に配置して日常的に香りを楽しむためのアロマティック植物を好適に用いることができる。アロマティック植物としては、特に制限はなく、例えば、アロマティカス、ローズマリー、ラベンダー、レモンバーム、ミント、タイム、クラリセージ、マジョラム等のシソ科植物や、ゼラニウム等のフウロソウ科植物や、ティートリー、ユーカリ、マートル等のフトモモ科植物など、種々のアロマティック植物を用いることができる。特に、植物本来の性質として虫が付きにくく衛生的に栽培することが容易な植物として、アロマティカス、ローズマリー、ローズゼラニウム、オレンジゼラニウムが好ましい。
【0010】
上記工程T100では、発根した植物苗を用意すればよい。発根した植物苗は、植物体を増殖させるための一般的な方法である挿し木の技術により、切り取った茎や葉先のような、切断面を有する植物体における切断面を含む部位を、バーミキュライトや水に挿して発根させることにより用意することができる。あるいは、上記植物体における切断面を含む部位を、土壌含有養液を培養して得た硝化培養液と接触させて、発根させることとしてもよい。硝化培養液と接触させて発根させる方法については、後に詳しく説明する。また、土壌に植えられていた植物苗から土壌を除去することにより、発根した植物苗を用意してもよい。
【0011】
また、上記した工程T100の植物苗の用意とは別に、硝化菌含有養液を培養して、ハイドロカルチャーの開始時に用いる硝化培養液を作製する(工程T110)。硝化菌含有養液とは、有機態窒素を含む有機態窒素源と、硝化菌を含む微生物源と、を含む液である。有機態窒素を含む有機態窒素源とは、硝化菌による硝化作用の対象となり得る種々の有機物(有機態窒素)、すなわち、種々のタンパク質、タンパク分解物、ペプチド、アミノ酸等を含んでいればよい。具体的には、例えば、種々の植物や動物等の生物由来の有機質肥料や有機性廃棄物を用いることができる。有機態窒素源は特に制限されないが、有機態窒素源を用いて作製する硝化培養液は、その後の工程でハイドロカルチャーに用いるため、有機態窒素源を用いることに起因して、ハイドロカルチャーにおいて植物に与える栽培液中に望ましくない有機物等が混入することを抑えることが望ましい。そのため、有機態窒素源は、工程T110における硝酸化成で消費され難い有機物の含有量が抑えられた液状のものであることが望ましい。具体的には、例えば、コーンスティープリカー(CSL)を好適に用いることができる。硝化菌含有養液における有機態窒素源の添加量は、用いる微生物源の種類や、硝酸菌含有養液の培養時間などの培養条件等を考慮して、得られる硝化培養液中に残留する有機態窒素の量が許容量となる範囲で、適宜設定することができる。
【0012】
工程T110で用いる微生物源は、有機態窒素源を対象として硝化作用を発揮できる硝化菌を有していれば、種々のものを使用できる。例えば、腐葉土やピートモスや培養土などの土壌や、バーク堆肥などの堆肥を用いることができる。微生物源として土壌や堆肥を用いる場合には、硝化菌含有養液における微生物源の添加量は、硝化作用が十分に得られる観点から、例えば3g/L以上とすることが好ましく、5g/L以上とすることがより好ましい。また、微生物源に起因してハイドロカルチャーの栽培液に不純物が混入することを抑える観点から、50g/L以下とすることが好ましく、20g/L以下とすることがより好ましい。上記のような有機態窒素源と微生物源とを水に懸濁することにより、硝化菌含有養液を作製することができる。
【0013】
工程T110における硝化菌含有養液の培養は、有機態窒素源中の有機態窒素を対象とした硝酸化成が十分に進行する条件として設定すればよく、例えば、硝化菌含有養液を培養して得られる硝化培養液中の亜硝酸イオン(NO2
-)および硝酸イオン(NO3
-)のうちの少なくとも一方の濃度が、アンモニウムイオン(NH4
+)の濃度よりも高くなる条件とすればよい。また、上記培養の期間は、硝化培養液中の亜硝酸イオン(NO2
-)および硝酸イオン(NO3
-)のうちの少なくとも一方の濃度が、アンモニウムイオン(NH4
+)の濃度の2倍以上となることが好ましく、3倍以上となることがより好ましい。具体的な培養日数としては、例えば、12日以上とすることが好ましく、15日以上とすることがより好ましい。また、30日以下とすることが好ましく、25日以下とすることがより好ましい。培養温度は、例えば18℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。また、35℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。培養条件は、好気的な条件であればよく、エアポンプを用いたエアレーションや振とうなどによる曝気を行うことが望ましい。
【0014】
工程T110で硝化培養液を作製した後には、この硝化培養液と、工程T100で用意した植物苗と、を用いてハイドロカルチャーを開始する(工程T120)。すなわち、ハイドロカルチャーを開始する際のプレカルチャーとして、植物に与える栽培液として上記した硝化培養液を含有する液を用いたハイドロカルチャーを行う。栽培液としては、硝化培養液のみを用いてもよく、あるいは、硝化培養液にさらに他の添加成分を加えて液を用いてもよい。添加成分としては、無機液体肥料(化学肥料)、あるいは、ビタミンやミネラル等を配合した活力剤を用いることができる。また、ハイドロボールなどの人工培土に対して、根腐れ防止剤(例えば、ミリオンAなどの珪酸塩白土やゼオライト)やイオン交換樹脂栄養剤を添加することとしてもよい。これにより、植物の生長や色持ちを向上させる等により植物を良好に栽培できる効果を高めることができる。特に、イオン交換樹脂栄養剤を用いることが好ましい。イオン交換樹脂栄養剤は、ゲル状のイオン交換樹脂に栄養剤(無機肥料)を付加したものである。イオン交換樹脂栄養剤は、肥料としての機能に加えて、栽培液中の老廃物とイオン交換して老廃物を分解し、また、イオン交換により栽培液のpHの変動を抑えることにより、植物の育成阻害を抑えると共に根腐れ防止剤としても機能し得る。このようなイオン交換樹脂栄養剤が含有する無機肥料は、過剰に用いるとかえって効果が阻害される可能性があるが、硝化培養液を用いたプレカルチャーとイオン交換樹脂栄養剤とを併用することにより、無機肥料の過剰投与を抑えつつ、植物の生育を良好にする高い効果を得ることが可能になる。
【0015】
工程T120における硝化培養液を用いたプレカルチャーは、プレカルチャーの効果を十分に得るために、例えば2週間以上とすることが好ましく、3週間以上とすることがより好ましい。また、本来のハイドロカルチャーに移行するまでの時間を抑える観点から8週間以下とすることが好ましく、5週間以下とすることがより好ましい。
【0016】
工程T120で硝化培養液を用いたプレカルチャーを行った後には、ハイドロカルチャーの栽培液を、硝化培養液を含有しない液に変更してハイドロカルチャーを行う(工程T130)。すなわち、一般的なハイドロカルチャーに移行する。工程T120では、水や、既述した添加成分を加えた水を栽培液として植物苗に与えればよい。また、ハイドロボールなどの人工培土に対して、既述した根腐れ防止剤やイオン交換樹脂栄養剤を添加することとしてもよい。
【0017】
以上のように構成された本実施形態の植物の栽培方法によれば、ハイドロカルチャーの開始時に、植物に与える栽培液として硝化培養液を含有する液を用い、その後、栽培液を、硝化培養液を含有しない液に変更する。そのため、ハイドロカルチャーの開始時に硝化培養液を用いたプレカルチャーを行うだけで、その後に、土壌等を用いることなく有機肥料等を与えない一般的なハイドロカルチャーを行うときに、追肥などの栽培途中での作業の必要性を抑えることができる。そして、植物の生長および色持ちを向上させる等により、長期間にわたって良好に植物を栽培することが可能になる。
【0018】
ハイドロカルチャーを行う際に化学肥料を与える技術は一般的に知られているが、化学肥料を用いる場合には、例えば液体肥料の場合には繰り返し施肥する(追肥する)必要があり、また、樹脂等の担体に含まれる肥料を用いる場合には、肥料を人工培土に混合して肥料を与え続ける必要がある。本実施形態のように栽培液として硝化培養液を含有する液を用いる場合には、上記のような化学肥料の使用を不要にし、あるいは使用量を低減することができる。すなわち、化学肥料投与の作業を軽減すると共に、化学肥料の投与が過剰になるリスクを抑えつつ、より長く、植物の生育を良好にすることができる。
【0019】
また、本実施形態の植物の栽培方法を利用することで、栽培途中での作業の必要性が抑えられており、長期間にわたって良好に植物を栽培可能なハイドロカルチャー製品(ハイドロカルチャー用人工培土を収納する容器に植物苗を植えた製品)を製造することができる。このようなハイドロカルチャー製品は、例えば、工程T120のプレカルチャーの後に、硝化培養液を含有しない液に栽培液を変更した状態で製造して、販売することができる。このようにすれば、上記製品を購入した消費者は、栽培にかかる手間を抑えて長くハイドロカルチャーを楽しむことが可能になる。また、ハイドロカルチャー製品は、工程T120のプレカルチャーを行う状態、すなわち、栽培液として硝化培養液を用いた状態で製造して、販売することとしてもよい。この場合には、上記製品を購入した消費者は、購入後に、ハイドロカルチャーの栽培液を、硝化培養液を含有しない通常の栽培液に変更することにより、その後の栽培にかかる手間を抑えて長くハイドロカルチャーを楽しむことが可能になる。
【0020】
B.第2実施形態:
第2実施形態として、以下では、ハイドロカルチャーのための植物栽培キットについて説明する。第2実施形態の植物栽培キットは、ハイドロカルチャーに用いる人工培土と、ハイドロカルチャーによる栽培を行うための植物苗と、既述した硝化培養液と、を備える。植物苗は、例えば水耕栽培の状態でキット中に含めることとしてもよいが、ハイドロカルチャーの状態、すなわち、ハイドロカルチャー用人工培土を収納する容器に植物苗を植えた状態でキット中に含めることが望ましい。これにより、キットの使用者は、植物苗の植え替えなどを行うことなく直ちにハイドロカルチャーを行うことが可能になる。また、上記植物栽培キットは、さらにイオン交換樹脂栄養剤を備えていてもよく、植物苗をハイドロカルチャーの状態で提供する場合には、ハイドロカルチャー用人工培土に予めイオン交換樹脂栄養剤を混合することとしてもよい。
【0021】
上記のようにキットが植物苗をハイドロカルチャーの状態で備える場合には、ハイドロカルチャーの栽培液は、水、または、無機液体肥料や活力剤を含む一般的な栽培液とすることができる。この場合には、キットに含まれる硝化培養液を栽培液として用いるプレカルチャーを、キットの使用開始時に一定期間行うことを指示する使用説明書をキットに添付すればよい。このような構成とすれば、キットを用いることにより、第1実施形態で説明した栽培方法の効果を得ることができる。
【0022】
また、上記のようにキットが植物苗をハイドロカルチャーの状態で備える場合には、ハイドロカルチャーの栽培液は、硝化培養液としてもよい。すなわち、プレカルチャーを行う状態で植物苗をキットに含めることとしてもよい。この場合には、ハイドロカルチャーの栽培液を、水、または、無機液体肥料や活力剤を含む一般的な栽培液に置き換えることを指示する使用説明書をキットに添付すればよい。あるいは、上記のような栽培液の置き換えに先立って、キットに添付した硝化培養液を栽培液として用いるプレカルチャーをさらに一定期間行うことを指示する使用説明書を、キットに添付することとしてもよい。このような構成であっても、キットを用いることにより、第1実施形態で説明した栽培方法の効果を得ることができる。
【0023】
C.第3実施形態:
図2は、第3実施形態の植物苗の作製方法を示す説明図である。第3実施形態の植物苗の作製方法は、発根した植物苗を得るための方法である。第3実施形態の植物苗の作製方法は、ハイドロカルチャー用の植物苗の作製方法とすることができ、例えば、第1実施形態の植物の栽培方法において、工程T100の植物苗を用意する工程として好適に実施することができる。あるいは、第3実施形態の植物苗の作製方法は、挿し木により植物を増殖させるために用いる挿し木用の苗の作製方法としてもよい。
【0024】
第3実施形態の植物苗の作製方法を実施する際には、まず、発根させるための切断面を有する植物体を用意する(工程T200)。発根した植物苗を得るための植物としては、挿し木の技術を適用可能な種々の植物を用いることができる。挿し木を行う際の発根は、一般に、挿し穂の切断面から植物ホルモンの1種であるオーキシンが分泌され、オーキシンの働きにより、切断面にカルスが形成されると共に根の分化が促進されるという共通の機構により行われることが知られている。第3実施形態の植物苗の作製方法により発根促進する植物としては、上記のような発根を行わせることができる植物であれば、特に制限されず、好適に用いることができる。既述したアロマティカス、ローズマリー、ローズゼラニウム、オレンジゼラニウムなどの、ハイドロカルチャーに適したアロマティック植物は、いずれも上記発根の用途に用いることができる。
【0025】
また、上記した工程T200の植物体の用意とは別に、土壌含有養液を培養して、発根促進のために用いる土壌培養液を作製する(工程T210)。土壌含有養液とは、有機態窒素を含む有機態窒素源と、バーク堆肥および腐葉土の少なくとも一方と、を含む液である。有機態窒素を含む有機態窒素源としては、第1実施形態の工程T110で用いた硝化菌含有養液に含まれる有機態窒素源と同様のものを用いることができる。
【0026】
上記したように、土壌含有養液は、微生物源であるバーク堆肥および腐葉土の少なくとも一方を含んでいる。土壌含有養液におけるバーク堆肥および腐葉土を合わせた添加量は、後述する発根作用が十分に得られる観点から、例えば3g/L以上とすることが好ましく、5g/L以上とすることがより好ましい。また、上記添加量は、50g/L以下とすることが好ましく、20g/L以下とすることがより好ましい。工程T210における培養の期間は、例えば、12日以上とすることが好ましく、15日以上とすることがより好ましい。また、30日以下とすることが好ましく、25日以下とすることがより好ましい。培養温度は、例えば18℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましい。また、35℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。培養条件は、好気的な条件であることが好ましく、エアポンプを用いたエアレーションや振とうなどによる曝気を行うこととしてもよい。
【0027】
工程T210で硝化培養液を作製した後には、工程T200で用意した植物体における切断面を含む部位を、工程T210で得た土壌培養液と接触させる(工程T220)。植物体を土壌培養液に接触させる方法としては、植物体の発根を阻害しなければ特に制限されないが、例えば、植物体の上記部位を土壌培養液に浸漬する方法を採用できる。上記のように植物体と土壌培養液とを接触させることで、上記切断面を含む部位から発根した植物苗が得られる(工程T230)。
【0028】
このような構成とすれば、植物体を発根させる際に、植物体を土壌培養液に接触させることにより、植物体の発根を促進することができる。そのため、例えばハイドロカルチャーにより栽培する態様の植物苗を販売する場合や、挿し木により植物を増殖させる場合に、発根した植物苗をより速く低コストで作製することが可能になる。
【0029】
上記のように植物体の発根を促進するために用いる土壌培養液は、植物体の発根を促進する物質(以下、発根促進物質とも呼ぶ)を含むと考えられる。すなわち、工程T210で土壌含有養液を培養する過程において、発根促進物質が生成され、このような発根促進物質を含有する土壌培養液を用いることで、植物体の発根を促進可能になると考えられる。後述するように、加熱による滅菌処理を行った土壌培養液を用いても発根促進作用が見られることから、発根促進物質は、加熱により失活しない物質であり、例えば生きた微生物等ではないと考えられる。また、有機態窒素源と、微生物源である土壌等と、を含む土壌含有養液を培養することにより、土壌含有養液中で硝酸化成が進行して硝酸態窒素および亜硝酸態窒素が生成される反応は、バーク堆肥および腐葉土以外の微生物源を用いる場合にも進行する。しかしながら、後述するように、他種の微生物源を用いて得られた培養液では、本実施形態の土壌培養液のような発根促進作用が認められていない。そのため、発根促進物質は、硝酸化成によって生じる硝酸態窒素や亜硝酸態窒素とは異なる物質であると考えられる。上記のように発根促進作用が認められることから、第3実施形態の土壌培養液を含む液は、植物体の切断面を含む部位と接触させて植物体の発根を促すための発根促進剤として用いることができる。
【0030】
D.不可能・非実際的事情:
第2実施形態に係る植物栽培キットでは、この植物栽培キットに含まれる硝化培養液が、「有機態窒素源と微生物源とを含む硝化菌含有養液を培養して得られる」のように製造方法によって特定されている。ここで、上記した硝化菌含有養液、および、これを培養して得られる硝化培養液は、非常に多くの種類の有機物や無機物や微生物等が含まれていると考えられる。また、未知の成分も多く含まれる可能性がある。ここで、硝化培養液で植物をプレカルチャーすることによって得られる効果は、後述するように化学肥料を含有するイオン交換樹脂栄養剤を用いる場合と同程度以上であると認められ、硝化菌含有養液の培養によって進行する硝酸化成によって生じる硝酸態窒素や亜硝酸態窒素が上記効果に影響していることが類推される。しかしながら、効果を確認した後述する実施例の各硝化培養液に含まれる硝酸態窒素や亜硝酸態窒素やアンモニア態窒素の割合は大きく異なっており、窒素化合物の組成と得られる効果との間には特定の傾向が認められ難い。また、後述するように、硝化培養液と化学肥料(イオン交換樹脂栄養剤)とをプレカルチャー時に併用することにより、プレカルチャー後のハイドロカルチャーの生育はさらに良好になるが、生育が良好になる程度は、種々の評価項目について、単に硝化培養液単独の場合に対して一定の効果が上乗せされた結果であるとは言い難い。そのため、硝酸化成によって生じる窒素化合物に加えて、硝化培養液に含まれる種々の成分が複雑に組み合わされることによって、植物の生育向上に関する種々の効果が得られると考えられる。複雑な組成を有する硝化培養液に含まれる成分を分析して特定し、種々の組み合わせでプレカルチャーによる効果を確認するには、著しく過大な時間や労力を要すると考えられる。したがって、出願時において、硝化培養液を構造または特性により直接特定することは不可能、またはおよそ実際的でないという事情があるといえる。
【0031】
第3実施形態に係る植物体の発根促進剤では、この発根促進剤に含まれる土壌培養液が、「有機態窒素源と、バーク堆肥および腐葉土の少なくとも一方と、を含む土壌含有養液を培養して得られる」のように製造方法によって特定されている。ここで、上記した土壌含有養液、および、これを培養して得られる土壌培養液は、非常に多くの種類の有機物や無機物や微生物等が含まれていると考えられる。また、未知の成分も多く含まれる可能性がある。ここで、土壌培養液に含まれる発根促進物質は、既述したように、加熱により失活しない物質であることや、硝酸化成によって生じる硝酸態窒素や亜硝酸態窒素とは異なる物質であることは推定されるが、単一の成分であるのか、複数の成分が特定の割合で存在するものであるのか等を含めて不明である。そのため、複雑な組成を有する土壌培養液に含まれる成分を分析して特定し、各々の成分を単独で、あるいは複数の成分を組み合わせて、発根促進作用の有無を確認するには、著しく過大な時間や労力を要すると考えられる。したがって、出願時において、土壌培養液を構造または特性により直接特定することは不可能、またはおよそ実際的でないという事情があるといえる。
【実施例0032】
<硝化培養液および土壌培養液の作製>
有機態窒素を含む有機態窒素源と、硝化菌を含む微生物源の候補とを組み合わせて培養し、硝酸化成の進行を調べた。ここでは、有機態窒素源としてコーンスティープリカー(株式会社サカタノタネ製、商品名「ネイチャーエイド」、以下では「CSL」と記載)を用いた。微生物源の候補としては、土壌や堆肥や植物体の発酵物等を含む以下の4種の資材SO1~SO4を用いた。「SO1」は、木炭入り完熟堆肥(共和開発株式会社製)であり、「SO2」は、広葉樹の朽ち木を主原料として高温発酵処理したものであって、昆虫飼育用マットとして市販される資材(商品面「極上発酵マット」、株式会社ミタニ製)であり、「SO3」は、バーク堆肥入り腐葉土(株式会社瀬戸ヶ原花苑製)であり、「SO4」は、黒ピートと白ピートをブレンドした培養土(商品名「スーパーミックスA」、株式会社サカタノタネ製)である。
【0033】
具体的な培養の手順は、以下の通りである。まず、8Lのプラスチックバケツに5LのRO水(逆浸透膜でろ過した水)を入れ、さらに、5gのCSL(終濃度1g/L)と、ネットに入れた資材SO1~SO4のいずれか25g(終濃度5g/L)と、を加えて、養液NS1~NS4を作製した。その後、養液NS1~NS4の各々に、エアポンプ(ニッソー エアーポンプ サイレントβ-120、株式会社マルカン製)につないだエアストーン(いぶきエアストーン、 30φシリーズ、30φ×78、キング砥石株式会社製)を入れてエアレーションを行いつつ、25℃、16h Light(6:00-22:00)/8h Dark(22:00-6:00)の光条件下で培養を行った。培養開始後、1日目と2日目に5gのCSLを追加で投入した。なお、上記した培養の過程において、蒸発等により液量が減っていくため、2~3日おきに、減少した液量分のRO水を加えた。養液NS1~NS4を培養することで、培養液CM1~CM4を得た。
【0034】
養液NS1~NS4を用いた培養の開始後、11日目、18日目、27日目、31日目、35日目経過時の培養液CM1~CM4について、成分測定として各種イオン濃度等を測定した。アンモニウムイオン(NH4
+)濃度はリフレクトクァントアンモニウムテスト(関東化学株式会社、製品番号:16892-1M; 16977-1M; 16899-1M、リフレクトクァントは登録商標)、亜硝酸イオン(NO2
-)濃度はリフレクトクァント亜硝酸テスト(関東化学株式会社、製品番号:16973-1M; 16732-1M)、硝酸イオン(NO3
-)濃度はリフレクトクァント硝酸テスト(関東化学株式会社、製品番号:16971-1M; 16995-1M)、リン酸イオン(PO4
3-)濃度はリフレクトクァントリン酸テスト(関東化学株式会社、製品番号:16978-1M)、pHはリフレクトクァントpHテスト(関東化学株式会社、製品番号:16996-1M)を使用して、簡易反射式光度計(関東化学株式会社、RQフレックス20)を用いて測定した。
【0035】
図3Aは、培養を開始してから18日目(以下では、「D18」とも呼ぶ)の培養液CM1~CM4について、上記した各イオンの濃度を測定した結果を示す説明図である。
図3Bは、D18の培養液CM1~CM4について、pHを測定した結果を示す説明図である。
図4Aは、培養を開始してから27日目(以下では、「D27」とも呼ぶ)の培養液CM1~CM4について、上記した各イオンの濃度を測定した結果を示す説明図である。
図4Bは、D27の培養液CM1~CM4について、pHを測定した結果を示す説明図である。
図5は、培養液CM1~CM4の各々における、アンモニウムイオン(NH
4
+)濃度、亜硝酸イオン(NO
2
-)濃度、および硝酸イオン(NO
3
-)濃度の変化の様子を示す説明図である。横軸に、培養を開始してからの経過日数を示し、縦軸に、各イオンの濃度を示す。
【0036】
図5に示すように、いずれの培養液においても、培養開始から11日目頃に、アンモニウムイオン濃度が最大になった。そして、その後に、培養液CM1、CM3、およびCM4については、亜硝酸イオン濃度および硝酸イオン濃度が上昇しており、硝酸化成が行われたと考えられる。以上より、資材SO1、SO3、およびSO4のように、土壌や堆肥類を含む一般的に市販されている種々の園芸資材を、硝化菌を含む微生物源として使用可能であることが確認された。なお、資材SO2は、広葉樹の朽ち木を主原料として高温発酵処理したものであって、昆虫飼育用マットとして市販される資材であり、植物材料を発酵処理しているものの、硝化菌を含む微生物源として用いることはできなかった。以下では、培養液CM1、CM3、CM4を、硝化培養液CM1、CM3、CM4とも呼ぶ。また、培養液CM3は、土壌含有培養液CM3とも呼ぶ。
【0037】
これら硝化培養液CM1、CM3、およびCM4を比較すると、硝化培養液CM1およびCM4は、硝化培養液CM3に比べて亜硝酸イオン濃度および硝酸イオン濃度が高くなったため、硝酸化成がより活発に進行したと考えられる。また、硝化培養液CM1およびCM4は、硝化培養液CM3に比べて、亜硝酸イオン濃度および硝酸イオン濃度の上昇の傾きが大きく、亜硝酸イオン濃度および硝酸イオン濃度がより早くピークを示すため、培養開始後のより早いタイミングで硝酸化成が活発化したと考えられる(
図3A、
図4A、および
図5参照)。
【0038】
<硝化培養液を用いたプレカルチャーの影響>
上記した硝化培養液のうちの、硝酸化成が活発化するタイミングが異なる硝化培養液CM3およびCM4を用いて、
図1の栽培方法に従って植物のプレカルチャーを行い、プレカルチャーの後のハイドロカルチャーにおける影響を調べた。プレカルチャーに用いる硝化培養液としては、培養開始から27日目(D27)の硝化培養液CM3およびCM4を用いた。
【0039】
植物苗としては、アロマティカス苗を用いた。工程T100では、アロマティカスを葉先から約5cmでカットし、カットした切り口に、発根促進用の植物成長調整剤であるルートン(住友化学園芸株式会社)をつけてバーミキュライトに挿し、適度に潅水しながら室温で培養し、発根苗を作製した。その後、直径約9cmのハイドロカルチャー鉢(底面潅水ポット)の底面に、根腐れ防止剤として珪酸塩白土を敷き詰めて水道水で洗浄し、1:1:1に混合した3種類のハイドロボール(ハイドロコーン中粒および小粒(有限会社三浦園芸)、セラミスグラニュー(横浜植木株式会社))を添加した。このようなハイドロカルチャー鉢の各々に、同程度の大きさの発根したアロマティカス苗を植え付けた。イオン交換樹脂栄養剤(IC)を加える条件とする場合には、上記9cm鉢の場合、約2.5ccのイオン交換樹脂栄養剤をハイドロボールに混合して使用した。工程T110では、既述したように、D27の硝化培養液CM3およびCM4を用意した。
【0040】
上記のようにハイドロカルチャー鉢に植えたアロマティカス苗を用いて、硝化培養液CM3、CM4を栽培液として用いたハイドロカルチャー(工程T120のプレカルチャー)を1ヶ月間行い、その後、硝化培養液を含有しない栽培液(水道水)に変更して、工程T130のハイドロカルチャーを行った。工程T120およびT130は室温(約25℃)にて行った。工程T120のプレカルチャーでは、ハイドロカルチャー鉢の底面から硝化培養液がなくなったときに、硝化培養液を追加した。工程T130では、栽培液を水道水に置き換えた後、ハイドロカルチャー鉢の底面から水がなくなったときに水道水を潅水した。なお、硝化培養液CM3、CM4を用いない対象区では、工程T120のプレカルチャーを行うことなく、栽培液として水道水を用いて、ハイドロカルチャー鉢の底面から水がなくなったときに水道水を潅水した。
【0041】
図6は、工程T130のハイドロカルチャーを開始した後のアロマティカス苗を経時的に写真撮影した結果を示す説明図である。
図7Aは、工程T130のハイドロカルチャーを開始して約6ヶ月経過したときの植物体の地上部を切断し、生重量を測定した結果を示す説明図である。
図7Bは、同様に6ヶ月経過したときの植物体の枝数(主枝と分枝の合計数)を測定した結果を示す説明図である。
図7Cは、同様に6ヶ月経過したときに各枝の長さを測定してその合計を算出した結果を示す説明図である。
図7Dは、同様に6ヶ月経過したときの緑色の大葉(葉の長軸方向の長さが17mm以上、かつ、横軸方向の長さが12mm以上のものを指す。以下同じ)の数を測定した結果を示す説明図である。
図7Eは、同様に6ヶ月経過したときの黄化した大葉の数を測定して、大葉全体に対する割合を求めた結果を示す説明図である。
【0042】
ここでは、各々の栽培条件について、サンプル数2(n=2)にて栽培を行った。各図において、硝化培養液CM3を用いたプレカルチャーを行った場合には「CM3」と記載しており、硝化培養液CM4を用いたプレカルチャーを行った場合には「CM4」と記載しており、硝化培養液を用いたプレカルチャーを行わない場合には「CM(-)」と記載している。また、ハイドロボールにイオン交換樹脂栄養剤を加えた場合には「IC(+)」と記載しており、イオン交換樹脂栄養剤を加えない場合には「IC(-)」と記載している。
図7A~
図7Eにおいて、エラーバーは標準誤差(SE)を示す。
【0043】
図6および
図7A~
図7Eに示すように、硝化培養液を用いたプレカルチャーを行うことで、その後のハイドロカルチャーにおいて、約6ヶ月という長期にわたって、植物体の生育が旺盛になって葉色が保たれる効果が得られること、および、そのような効果は、イオン交換樹脂栄養剤を用いる場合と同等以上であることが確認された。さらに、硝化培養液を用いたプレカルチャーを行う場合には、人工培土であるハイドロボールにイオン交換樹脂栄養剤を混合して、イオン交換樹脂栄養剤を併用することで、植物体の生長を良好にして葉色を保つ効果を、大きく高めることができることが確認された。
【0044】
<土壌培養液を用いた発根促進>
既述した硝化培養液のうちで、植物が窒素源として直接利用できる硝酸イオンの生成量が特に多い硝化培養液CM1およびCM3を用い、
図2の植物苗の作製方法に従って、植物苗の発根への影響を調べた。用いる硝化培養液としては、硝酸イオン濃度が最も高くなった培養開始から18日目(D18)の硝化培養液CM1およびCM3と、培養開始から27日目(D27)の硝化培養液CM1およびCM3と、さらに、D27の硝化培養液CM1およびCM3の各々について121℃20minのオートクレーブ処理を行ったもの(以下では、CM1(滅菌)およびCM3(滅菌)と記載する)と、を用いた。以下では、D18のCM1とD27のCM1とCM1(滅菌)とを合わせて「CM1等」とも呼び、D18のCM3とD27のCM3とCM3(滅菌)とを合わせて「CM3等」とも呼ぶ。
【0045】
植物苗としては、アロマティカス苗を用いた。工程T200では、アロマティカスを葉先から約5cmでカットした。工程T210では、既述したように、硝化培養液CM1等およびCM3等を用意した。工程T220では、アロマティカス苗のカットした切断面を含む部分を、50mLのプラスチックチューブ(ファルコンチューブ)に入れた硝化培養液CM1等やCM3等に浸し、室温で培養した。なお、硝化培養液CM1等やCM3等を用いない対象区では、上記のようにカットした植物苗を、50mLのプラスチックチューブ(ファルコンチューブ)に入れた約45mLの水に浸して室温で培養した。
【0046】
図8は、D18のCM1、D18のCM3、および水の各々を用いて植物苗の作製を行ったときの、発根のための培養開始から22日目のアロマティカス苗を撮像した様子を示す説明図である。
図9Aは、上記培養開始から22日目における各D18植物苗の主根長の合計を測定した結果を示す説明図である。
図9Bは、上記培養開始から22日目における各D18植物苗の主根長の平均を算出した結果を示す説明図である。
図9Cは、上記培養開始から22日目における各D18植物苗の主根数を測定した結果を示す説明図である。ここで、「主根」とは、茎から直接発根している根を指す。
【0047】
図10は、D27のCM1、D27のCM3、および水の各々を用いて植物苗の作製を行ったときの、発根のための培養開始から23日目のアロマティカス苗を撮像した様子を示す説明図である。
図11Aは、上記培養開始から23日後における各D27植物苗の主根長の合計を測定した結果を示す説明図である。
図11Bは、上記培養開始から23日後における各D27植物苗の主根長の平均を算出した結果を示す説明図である。
図11Cは、上記培養開始から23日後における各D27植物苗の主根数を測定した結果を示す説明図である。
【0048】
【0049】
また、
図9Aでは、上記した3種の条件で発根させて上記主根長の合計を測定した結果について、Mann-WhitneyのU検定およびBonferroniの補正を行う多重比較により、有意差の有無を調べた結果を併せて示している。ここでは、p値が0.0167未満となって有意差ありと認められた場合には、a,bのうちの異なるアルファベットを付して区別しており、有意差なしと認められた場合には同じアルファベットを付している。
図9B、
図9C、
図11Aおよび
図11Bでは、上記した3種の条件で発根させることによる各測定結果についてTukery-Kramer検定を利用した多重比較を行って、有意差の有無を調べた結果を併せて示している。
図9B、
図9C、および
図11Aでは、p値が0.05未満となって有意差ありと認められた場合には、a,bのうちの異なるアルファベットを付して区別しており、
図11Bでは、p値が0.001未満となって有意差ありと認められた場合には、a,bのうちの異なるアルファベットを付して区別している。そして、いずれの図においても、有意差なしと認められた場合には同じアルファベットを付している。
【0050】
上記した各図に示すように、硝化培養液CM3(土壌培養液CM3)は、主根長の合計や主根長の平均の観点から、発根促進作用を有することが認められた。ここで、硝化培養液CM3と同様に硝酸イオン濃度および亜硝酸イオン濃度が高い硝化培養液CM1には、硝化培養液CM3のような発根促進作用が認められなかったことから、硝化培養液CM1における発根促進作用を示す有効物質は、硝酸化成によって生じる窒素源とは異なるものである、あるいは、硝酸化成によって生じる窒素源のみによって構成されるものではない、と考えられる。また
図10および
図11A~
図11Cに示すように、硝化培養液CM3をオートクレーブ処理した「CM3(滅菌)」も、硝化培養液CM3と同様の発根促進作用を示すことから、発根促進作用を示す有効物質は、加熱により失活し難い物質であり、例えば生きた微生物等ではないと考えられる。
【0051】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0052】
本開示は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
ハイドロカルチャーによる植物の栽培方法であって、
有機態窒素を含む有機態窒素源と、硝化菌を含む微生物源と、を含む硝化菌含有養液を培養して硝化培養液を作製し、
ハイドロカルチャーによる植物の栽培を開始する際に、植物に与える栽培液として前記硝化培養液を含有する液を用いたプレカルチャーを行い、
前記プレカルチャーの後に、前記栽培液を、前記硝化培養液を含有しない液に変更する
植物の栽培方法。
[適用例2]
適用例1に記載のハイドロカルチャーによる植物の栽培方法であって、
ハイドロカルチャーに用いる人工培土として、イオン交換樹脂栄養剤を含む人工培土を用いる
植物の栽培方法。
[適用例3]
適用例1または2に記載のハイドロカルチャーによる植物の栽培方法であって、
有機態窒素を含む有機態窒素源と、バーク堆肥および腐葉土の少なくとも一方と、を含む土壌含有養液を培養して土壌培養液を作製し、
切断面を有する植物体における前記切断面を含む部位を前記土壌培養液に接触させて、前記切断面を含む部位から発根した植物苗を得て、
得られた植物苗を用いて前記プレカルチャーを行う
植物の栽培方法。
[適用例4]
ハイドロカルチャーのための植物栽培キットであって、
ハイドロカルチャーに用いる人工培土と、
ハイドロカルチャーによる栽培を行うための植物苗と、
有機態窒素を含む有機態窒素源と、硝化菌を含む微生物源と、を含む硝化菌含有養液を培養して得られる硝化培養液と、
を含む植物栽培キット。
[適用例5]
植物苗の作製方法であって、
有機態窒素を含む有機態窒素源と、バーク堆肥および腐葉土の少なくとも一方と、を含む土壌含有養液を培養して土壌培養液を作製し、
切断面を有する植物体における前記切断面を含む部位を前記土壌培養液に接触させて、前記切断面を含む部位から発根した植物苗を得る
植物苗の作製方法。
[適用例6]
植物体の発根促進剤であって、
有機態窒素を含む有機態窒素源と、バーク堆肥および腐葉土の少なくとも一方と、を含む土壌含有養液を培養して得られる土壌培養液を含有する
植物体の発根促進剤。