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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120557
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】フォイル軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 27/02 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
F16C27/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027417
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】山郷 正志
【テーマコード(参考)】
3J012
【Fターム(参考)】
3J012AB20
3J012BB02
3J012CB02
3J012CB05
3J012DB05
3J012EB08
3J012EB10
(57)【要約】
【課題】内径側から軸受隙間に押し込まれる流体の量を十分確保することができ、回転速度の低い領域においても、負荷容量を増大させることが可能なフォイル軸受(スラストフォイル軸受)を提供する。
【解決手段】回転部材と軸方向に対向する軸受面を有し、軸受面が複数のリーフを円周方向に並べることで形成されたフォイル軸受である。軸受面と軸受面と相対面する対向面との間の軸受隙間が形成され、停止状態では、前記軸受隙間が、内径側が外径側よりも小さく、運転中は、内径側が外径側よりも大きくなる。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材と軸方向に対向する軸受面を有し、前記軸受面が複数のリーフを円周方向に並べることで形成されたフォイル軸受であって、
軸受面と前記軸受面と相対面する対向面との間の軸受隙間が形成され、停止状態では、前記軸受隙間が、内径側が外径側よりも小さく、運転中は、内径側が外径側よりも大きくなることを特徴とするフォイル軸受。
【請求項2】
前記複数のリーフを受けるフォイルホルダを備え、前記フォイルホルダのリーフ対応面に、外径側から内径側に向かって深くなる傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のフォイル軸受。
【請求項3】
前記傾斜面の高低差が10μm以下であることを特徴とする請求項2に記載のフォイル軸受。
【請求項4】
前記複数のリーフを受けるフォイルホルダを備え、前記複数のリーフは、回転方向下流部が回転方向下流側へ突出され凸形状部とされるとともに、回転方向上流部が回転方向下流側へ凹ませた凹形状部とされ、前記凸形状の頂部がアール形状とされ、前記凸形状部の内径側の傾斜部と頂部のアール部との繋ぎ目よりも内径側において、前記フォイルホルダにおけるリーフ対応面を凹ませたことを特徴とする請求項1に記載のフォイル軸受。
【請求項5】
前記フォイルホルダにおけるリーフ対応面における繋ぎ目対応面よりも外径側をフラット面としたことを特徴とする請求項4に記載のフォイル軸受。
【請求項6】
凹ませてなる凹部の深さを50μm以下としたことを特徴とする請求項4に記載のフォイル軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォイル軸受に関し、特に、複数のリーフを周方向に並べることで軸受面が形成されるスラストフォイル軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンやターボチャージャ等のターボ機械の主軸を支持する軸受には、高温・高速回転といった過酷な環境に耐え得ることが要求される。このような過酷条件下での使用に適合する軸受として、フォイル軸受が着目されている。フォイル軸受は、曲げに対して剛性の低い可撓性を有する薄膜(リーフ)で軸受面を構成したものであり、軸の回転時に軸とリーフの軸受面との間に形成された軸受隙間に流体膜(例えば空気膜)を形成して軸を非接触支持するものである。このフォイル軸受によれば、軸受面をリーフで形成することで軸受面のたわみが許容され、軸受面が軸の変位や熱膨張等に追従して変形するため、過酷条件下でも軸を安定的に支持できる、という利点を有する。
【0003】
このフォイル軸受は、ラジアル方向の荷重を支持するラジアルフォイル軸受とスラスト方向の荷重を支持するスラストフォイル軸受とに大別される。このうち、スラストフォイル軸受の構成を図14および図15に示す。なお、図14は軸受面を軸方向から見た平面図であり、図15は一枚のリーフを拡大して示す平面図である。
【0004】
図14および図15に示すように、スラストフォイル軸受は、回転方向Aの複数箇所にリーフ100を配置し、各リーフの前端101を含む領域で、軸受面S1を有するトップフォイル部102を形成すると共に、後端103を含む領域で、隣接するリーフのトップフォイル部102の背後に配置されるバックフォイル部104を形成したものである。
【0005】
この種のスラストフォイル軸受として、従来技術として、特許文献1及び特許文献2に記載されたものがある。
【0006】
特許文献1のスラストフォイル軸受は、各フォイルが、軸受面を有する本体部と、前記本体部から外径側に延びる延在部とを有するものであり、各フォイルの本体部の回転方向先行側の端部が、隣接するフォイルの本体部の上に重ねて配置され、前記複数のフォイルの延在部を、フォイルホルダの同一平面上に固定したものである。
【0007】
特許文献1のスラストフォイル軸受は、「複数のフォイルの延在部をフォイルホルダの同一平面上あるいは同一円筒面上に固定することで、全てのフォイルが同様に湾曲する。これにより、全てのフォイルが、回転方向先行側へ向けて漸次縮小した軸受隙間を形成すると共に、軸受隙間の調整機能を有するため、支持力を高めることができる。」というものである。
【0008】
特許文献2のスラストフォイル軸受は、各フォイルが、軸受面を有するトップフォイル部と、前記トップフォイル部の上流側に設けられ、隣接するフォイルのトップフォイル部の前記軸受面と反対側に重ねて配されたバックフォイル部とを有するものであり、隣接するフォイル同士の重合部の内径端が占める角度が、重合部の外径端が占める角度よりも小さく設定されている。このため、特許文献2では、「浮上隙間を小さくして負荷容量を増大させることができる。」というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015-113928号公報
【特許文献2】特開2020-159450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のスラストフォイル軸受では、運転時において、回転速度の高い領域では、軸受隙間に押し込まれる流体が多くなって、それに応じて圧力(支持力)を高めることができる。しかしながら、回転速度が低い領域では、流体の流入が少ないため、圧力が高まりにくく、特に、内径側は軸の周速が遅く外径側に比べて流体の流入量が少なくなる。
【0011】
特許文献2に記載のスラストフォイル軸受では、各フォイルの内径側の剛性を低下させて、浮上隙間が小さくなり、負荷容量は増大させることができる。しかしながら、フォイルの内径側の剛性は、フォイル形状だけの要因ではなく、フォイルホルダの端面(フォイル受け面の形状、軸受面に相対面する対向面)の形状等も要因となると考えられ、負荷容量の増大の信頼性が高くない。
【0012】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、内径側から軸受隙間に押し込まれる流体の量を十分確保することができ、回転速度の低い領域においても、負荷容量を増大させることが可能なフォイル軸受(スラストフォイル軸受)を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のフォイル軸受は、回転部材と軸方向に対向する軸受面を有し、前記軸受面が複数のリーフを円周方向に並べることで形成されたフォイル軸受であって、軸受面と前記軸受面と相対面する対向面との間の軸受隙間が形成され、停止状態では、前記軸受隙間が、内径側が外径側よりも小さく、運転中は、内径側が外径側よりも大きくなるものである。
【0014】
本発明のフォイル軸受によれは、運転中は、内径側が外径側よりも大きくなるものであるので、流体の軸受隙間への流入を増やすことができる。
【0015】
前記複数のリーフを受けるフォイルホルダを備え、前記フォイルホルダのリーフ対応面に、外径側から内径側に向かって深くなる傾斜面が形成されているのが好ましい。このように構成することにより、フォイルホルダにおける、リーフの内径側に対向するリーフ対応面を、軸受隙間が大きくなる方向に拡大することになり、リーフの内径側が、フォイルホルダ側に撓むことができる。これにより、軸受隙間は安定して大きくなり、負荷容量の増大の信頼性が向上する。
【0016】
前記傾斜面の高低差が10μm以下であるのが好ましい。このように設定することより、軸受隙間が大きくなりすぎず、負荷容量の増大を有効に図ることができる。
【0017】

また、複数のリーフを受けるフォイルホルダを備え、前記複数のリーフは、回転方向下流部が回転方向下流側へ突出され凸形状部とされるとともに、回転方向上流部が回転方向下流側へ凹ませた凹形状部とされ、前記凸形状の頂部がアール形状とされ、前記凸形状部の内径側の傾斜部と頂部のアール部との繋ぎ目よりも内径側において、前記フォイルホルダにおけるリーフ対応面を凹ませたものであってもよい。
【0018】
フォイルホルダにおけるリーフ対応面を、前記リーフ対応面よりも外径側の面より凹ませたことにより、リーフの内径側が、フォイルホルダ側に撓むことができる。これにより、軸受隙間は安定して大きくなり、負荷容量の増大の信頼性が向上する。
【0019】
フォイルホルダにおけるリーフ対応面における繋ぎ目対応面よりも外径側をフラット面とするのが好ましい。最も圧力が高くなるのが、各リーフの先端アール部付近であるのでリーフ対応面における繋ぎ目対応面よりも外径側をフラット面とすることにより、安定してリーフを受けることができる。
【0020】
凹ませてなる凹部の深さを50μm以下とするのが好ましい。このように設定することにより、軸受隙間が大きくなりすぎず、負荷容量の増大を有効に図ることができる。すなわち、50μmを越えれば、逆に負荷容量が低下することになる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、内径側から軸受隙間に押し込まれる流体の量を十分に確保でき、回転速度の低い領域においても、負荷容量を増大させることができる。また、低い回転速度で軸(例えば、ターボ機械の主軸)を浮上させることができ、起動・停止時のこの軸受の損傷防止し、長寿命化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ガスタービンの模式図である。
図2】ガスタービンの主軸の支持構造を示す断面図である。
図3】ガスタービンの主軸の支持構造に組み込まれるスラストフォイル軸受の断面図である。
図4】スラストフォイル軸受の正面図である。
図5】フォイル軸受のリーフの拡大正面図である。
図6図4のX-X線拡大断面図である。
図7】フォイルホルダの要部簡略断面図である。
図8】スラストフォイル軸受の要部正面図である。
図9】リーフ形状を示し、(a)は停止状態の模式図であり、(b)は運転中の模式図である。
図10】スラストフォイル軸受の他の実施形態の正面図である。
図11図10に示すスラストフォイル軸受に用いられるフォイルホルダの要部簡略断面図である。
図12】平面度と負荷容量との関係を示すグラフ図である。
図13】フォイルホルダの比較例を示す要部簡略断面図である。
図14】従来のスラストフォイル軸受の要部正面図である。
図15】従来のスラストフォイル軸受のリーフ拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に、ターボ機械の一種であるガスタービンの構成を概念的に示す。このガスタービンは、翼列を形成したタービン1および圧縮機2と、発電機3と、燃焼器4と、再生器5とを主に備える。タービン1、圧縮機2、および発電機3には、水平方向に延びる共通の主軸6が設けられ、この主軸6と、タービン1および圧縮機2とで一体回転可能のロータが構成される。
【0024】
吸気口7から吸入された空気は、圧縮機2で圧縮され、再生器5で加熱された上で燃焼器4に送り込まれる。この圧縮空気に燃料を混合して燃焼させ、高温、高圧のガスでタービン1を回転させる。タービン1の回転力が主軸6を介して発電機3に伝達され、発電機3が回転することにより発電し、この電力がインバータ8を介して出力される。タービン1を回転させた後のガスは比較的高温であるため、このガスを再生器5に送り込んで燃焼前の圧縮空気との間で熱交換を行うことで、燃焼後のガスの熱を再利用する。再生器5で熱交換を終えたガスは、排熱回収装置9を通ってから排ガスとして排出される。
【0025】
図2に、上記ガスタービンにおけるロータの支持構造の一例を示す。この支持構造では、軸方向の2箇所にラジアル軸受10が配置され、主軸6に設けられたスラストカラー6aの軸方向両側にスラスト軸受20、20が配置される。このラジアル軸受10およびスラスト軸受20により、主軸6がラジアル方向及び両スラスト方向に回転自在に支持される。
【0026】
この支持構造において、タービン1と圧縮機2の間の領域は、高温、高圧のガスで回転されるタービン1に隣接しているために高温雰囲気となる。この高温雰囲気では、オイルやグリース等からなる潤滑剤が変質・蒸発してしまうため、これらの潤滑剤を使用する通常の軸受(転がり軸受等)を適用することは難しい。そのため、この種の支持構造で使用される軸受10、20としては、空気動圧軸受、特に本発明に係るフォイル軸受(スラストフォイル軸受20)が適合する。
【0027】
次に、前記ガスタービン用のスラスト軸受に適合するフォイル軸受(スラストフォイル軸受)の構成を説明する。
【0028】
スラストフォイル軸受20は、図3に示すように、円盤状のフォイルホルダ21と、フォイルホルダ21の端面(リーフ対応面)21aに取り付けられた複数のリーフ(フォイル)22とを有する。本実施形態では、スラストカラー6aの軸方向両側にスラストフォイル軸受20,20が設けられる。これらのスラストフォイル軸受20,20は、スラストカラー6aを中心として軸方向で対称な構造を有している。尚、以下では、主軸6の回転時における、リーフ22に対する流体の流れ方向下流側を「下流側」と言い、その反対側を「上流側」と言う。
【0029】
フォイルホルダ21は、金属や樹脂等で形成される。フォイルホルダ21は、主軸6が挿入される中心孔(内孔)31を有する中空円盤状を成している。フォイルホルダ21の一方の端面21aには複数のリーフ22が取り付けられる。フォイルホルダ21の他方の端面21cは、スラストフォイル軸受20が組み込まれる設備(本実施形態ではガスタービン)のハウジングに固定される。
【0030】
リーフ22は、ばね性に富み、かつ加工性のよい金属で形成され、例えば鋼や銅合金で形成される。リーフ22は、厚さ20μm~200μm程度の金属薄板(フォイル)で形成される。本実施形態のように流体膜として空気を用いる空気動圧軸受では、雰囲気にオイルが存在しないため、ステンレス鋼もしくは青銅でリーフ22を形成するのが好ましい。
【0031】
リーフ22は、図4に示すように、位相をずらしながら周方向に並べて配される。各リーフ22は、図5に示すように、軸受面Sを有するトップフォイル部22aと、トップフォイル部22aの上流側に連続して設けられたバックフォイル部22bとからなる本体部22cを備える。
【0032】
複数のリーフ22は、回転方向下流部(先端部)が回転方向下流側へ突出された凸形状部221とされるとともに、回転方向上流部(後端部)が回転方向下流側へ凹ませた凹形状部222とされ、前記凸形状の頂部221aがアール形状とされ、凹形状部222の底部222aがアール形状とされている。すなわち、前端部の凸形状部221及び後端部の凹形状部222がいわゆるヘリングボーン形状をなしており、このようにヘリングボーン形状に形成することにより、主軸6の回転中に流体(例えば空気)をスラスト軸受隙間の半径方向中央領域に引き込む作用を得ることができ、スラストフォイル軸受の負荷容量を高めることが可能となる。
【0033】
また、リーフ22の本体部22c(トップフォイル部22aとバックフォイル部22bとで構成される)の外径端には円弧部22dが設けられ、本体部22cの内径端には円弧部22eが設けられる。円弧部22d,22eは、何れも主軸6の回転中心Oを中心としている。
【0034】
図6は、図4に示すX-X線拡大断面図を示し、このように、リーフ22をフォイルホルダ21に取り付けた状態では、各リーフ22のトップフォイル部22aに設けられた軸受面Sがスラストカラー6aと軸方向に直接対向し、各リーフ22のトップフォイル部22aの背後(軸受面Sと反対側)に、下流側に隣接するリーフ22のバックフォイル部22bが配される。すなわち、各リーフ22のバックフォイル部22bが、上流側に隣接するリーフ22のトップフォイル部22aとフォイルホルダ21との間に配される。なお、図6の矢印A1は回転方向を示している。
【0035】
主軸6が周方向一方(図4の矢印A方向)に回転すると、スラストフォイル軸受20の各リーフ22の軸受面Sとスラストカラー6aの端面との間に軸受隙間Cが形成される。このとき、各リーフ22が隣接するリーフ22に乗り上げて湾曲することで、軸受隙間Cは、下流側へ行くにつれて狭くなった楔形を成す(図6では、各リーフ22を簡略化して平板状としている)。この楔形の軸受隙間Cの大隙間部C1の空気が小隙間部C2に押し込まれることにより、軸受隙間Cの空気膜の圧力が高められ、この圧力により主軸6がスラスト方向に非接触支持される。このとき、リーフ22が、荷重や主軸6の回転速度、周囲温度等の運転条件に応じて弾性変形することで、軸受隙間Cが運転条件に応じた適切幅に自動調整される。そのため、高温・高速回転といった過酷な条件下でも、軸受隙間Cを最適幅に管理することができ、主軸6を安定して支持することが可能となる。
【0036】
この場合、フォイルホルダ21は、図7に示すように、内孔(中心孔)31が形成された円盤体からなり、リーフ対応面21aには、外径側から内径側に向かって深くなるテーパ面(傾斜面)32が形成されている。この場合の傾斜面32は、傾斜面の高低差(平面度)を10μm以下としている。スラストフォルダ(リーフ22)とフォイルホルダ21とは、円周上に溶接固定される。
【0037】
ところで、この軸受が、停止中においては、図9(a)に示すように、各リーフ22は外径側に比べて内径側が立っている状態となっているが、フォイルホルダ21のリーフ対応面に平面度が10μm以下の傾斜面が設けられているので、運転中(回転中)は、リーフ22の内径側が、図9(b)に示すように、軸受隙間が大きくなる方向に逃げること、つまり、傾斜面32側に寝ることになる。このため、運転中は、外径側に比べて内径側の軸受隙間が大きくなって、流体の量(負荷容量)を増やすことができる。
【0038】
図9(a)(b)は、図8における、イ―イ線断面形状、ロ―ロ線断面形状、ハ―ハ線断面形状、二―二線断面形状の模式図を示している。この場合、図9(a)(b)では、イ―イ線断面形状を2点鎖線で示し、ロ―ロ線断面形状を1点鎖線で示す、ハ―ハ線断面形状を破線で示し、二―二線断面形状を実線で示している。
【0039】
このため、本発明のフォイル軸受では、運転中は、内径側が外径側よりも大きくなるものであるので、流体の軸受隙間への流入を増やすことができる。すなわち、内径側から軸受隙間に押し込まれる流体の量を十分に確保でき、回転速度の低い領域においても、負荷容量を増大させることができる。また、低い回転速度で軸(例えば、ターボ機械の主軸)を浮上させることができ、起動・停止時のこの軸受の損傷防止し、長寿命化に寄与することができる。
【0040】
フォイルホルダ21のリーフ対応面21aに、外径側から内径側に向かって深くなる傾斜面が形成されているのが好ましい。このように構成することにより、フォイルホルダ21における、リーフ22の内径側に対向するリーフ対応面21aを、軸受隙間Cが大きくなる方向に拡大することになり、リーフ22の内径側が、フォイルホルダ21側に撓むことができる。これにより、軸受隙間Cは安定して大きくなり、負荷容量の増大の信頼性が向上する。
【0041】
傾斜面32の高低差が10μm以下であるのが好ましい。このように設定することにより、軸受隙間Cが大きくなりすぎず、負荷容量の増大を有効に図ることができる。
【0042】

図10は他の実施形態を示し、この場合、前記実施形態と同様、前記複数のリーフは、回転方向下流部が回転方向下流側へ突出された凸形状部221とされるとともに、回転方向上流部が回転方向下流側へ凹ませた凹形状部222とされ、凸形状部の頂部221aがアール形状とされたものであるが、この場合、凸形状部221の内径側の傾斜部221bと頂部221aのアール部Rとの繋ぎ目Jよりも内径側において、フォイルホルダ21におけるリーフ対応面21aを凹ませたものであってもよい。
【0043】
すなわち、フォイルホルダ21における繋ぎ目Jよりも内径側において、図11に示すように、フォイルホルダ21におけるリーフ対応面21aを凹ませてなる凹部40を形成する。このため、凹部40の径寸法D2を繋ぎ目Jの径寸法D1に対応させている。また、この凹部40の深さ寸法dとしては、50μm程度に設定される。
【0044】
フォイルホルダ21におけるリーフ対応面21aを、リーフ対応面21aよりも外径側の面より凹ませたことにより、リーフ22の内径側が、フォイルホルダ21側に撓むことができる。これにより、軸受隙間Cは安定して大きくなり、負荷容量の増大の信頼性が向上する。
【0045】
フォイルホルダ21におけるリーフ対応面21aにおける繋ぎ目対応部よりも外径側(つまり、面21b)をフラット面とするのが好ましい。最も圧力が高くなるのが、各リーフ22の先端アール部R付近であるのでリーフ対応面21aにおける繋ぎ目対応部よりも外径側をフラット面とすることにより、安定してリーフ22を受けることができる。
【0046】
また、凹ませてなる凹部40の深さを50μm以下とするのが好ましい。このように設定することより、軸受隙間Cが大きくなりすぎず、負荷容量の増大を有効に図ることができる。すなわち、50μmを越えれば、逆に負荷容量が低下することになる。
【0047】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、以上に説明したスラストフォイル軸受の適用対象は、上述したガスタービンに限られず、例えば過給機のロータを支持する軸受としても使用することができる。また、以上に説明したスラストフォイル軸受は、ガスタービンや過給機等のターボ機械に限らず、潤滑油などの液体による潤滑が困難である、エネルギー効率の観点から潤滑油循環系の補機を別途設けることが困難である、あるいは液体のせん断による抵抗が問題になる等の制限下で使用される自動車等の車両用軸受、さらには産業機器用の軸受として広く使用することが可能である。
【0048】
また、以上に説明したスラストフォイル軸受は、圧力発生流体として空気を使用した空気動圧軸受であるが、これに限らず、圧力発生流体としてその他のガスを使用することもでき、あるいは水や油などの液体を使用することもできる。さらに、軸部材を回転させる場合を説明したが、これとは逆にリーフ側を回転させる場合にも以上に説明したスラスト
フォイル軸受を採用することができる。
【実施例0049】
図4に示す構成であって、スラスト内径φ1が39mmで、スラスト外径φ2が77mmであるスラストフォイル軸受であって、フォイルホルダ21の傾斜面32の平面度を変更させた5種類の実施品1~実施品5を作成し、その負荷容量を比較した。また、フォイルホルダ21として、図4に示すような実施品と相違して、内径側から外径側に向かって、下傾する傾斜面32を形成した5種類の比較品1~比較品5を作成し、その負荷容量を比較した。比較品1~比較品5は、その傾斜面41としては、内径側から外径側に向かって下傾しているものとし、その傾斜面41の平面度を相違させている。なお、各実施品は、図7に示すように、外径側から内径側に向かって下傾しているので、リーフ対応面21aは、凹状となっているので、その形状を中凹と呼び、各比較品は、図13に示すように、内径側から外径側に向かって下傾しているので、その形状を中凸と呼ぶことができる。ここで、平面度とは、1つの面の平らな度合い(均一性)を示す数値であり、 測定対象の表面を2つの平行な平面で挟んだときに、どれだけの隙間を許容するかを示すための値である。この場合、傾斜面の最高位置と最低位置との差である。
【0050】
各実施品1から実施品5、及び比較品1~比較品5の平面度及び負荷容量を次の表1に示す。すなわち、実施品1は、中凹形状であり、平面度が-9.2μmであり、負荷容量は330Nであった。実施品2は、中凹形状であり、平面度が-5.9μmであり、負荷容量は248Nであった。実施品3は、中凹形状であり、平面度が-4.9μmであり、負荷容量は214Nであった。実施品4は、中凹形状であり、平面度が-2.7μmであり、負荷容量は192Nであった。実施品5は、中凹形状であり、平面度が-2.6μmであり、負荷容量は173Nであった。比較品1は、中凸形状であり、平面度が3.3μmであり、負荷容量は129Nであった。比較品2は、中凸形状であり、平面度が4.1μmであり、負荷容量は137Nであった。比較品3は、中凸形状であり、平面度が4.9μmであり、負荷容量は117Nであった。比較品4は、中凸形状であり、平面度が6.8μmであり、負荷容量は152Nであった。比較品5は、中凸形状であり、平面度が10.0μmであり、負荷容量は126Nであった。ここで、平面度が-は、内径側の軸受隙間が大きくなる側とし、+は内径側の軸受隙間が小さくなる側としている。負荷容量の測定は、回転速度を25000rpmとして測定した。すなわち、この場合の測定方法は、電動スピンドルモータにより25000rpmで回転させた試験軸に対して、エアシリンダにより試験軸受を試験軸に近づける側に負荷をかける。試験軸の回転トルクは、電動スピンドルモータの電流値と相関があるため、電流値が上昇した時の負荷を負荷容量とした。
【表1】
【0051】
また、表1に示す負荷容量の測定結果を図12のようにグラフに示す。この場合、横軸を平面度とし、縦軸を負荷容量とした。この平面度と負荷容量との関係式は、次の数1で表すことができる。なお、この数1の関係式は、公知・公用の手段である最小二乗法で算出することができる。
【数1】
【0052】
2は決定係数であり、決定係数はデータに対する、推定された回帰式の当てはまりの良さ(度合い)を表す。
【0053】
この測定結果から、フォイルホルダ端面(リーフ対応面21a)の形状と負荷容量に軽い相関関係が見られ、中凹形状とすることにより負荷容量が増加していることが分かる。
【実施例0054】
図10に示す構成であって、フォイルホルダ21の凹部40の深さ(段差量)dを変更させた3種類の実施品6~実施品8を作成し、負荷容量を測定した。各実施品6から8の段差量及び負荷容量は、次に表2のようになった。
【表2】
【0055】
実施品6は、段差量dを18μmとした場合であり、負荷容量が350Nとなり、実施品7は、段差量dを33μmとした場合であり、負荷容量が362Nとなり、実施品8は、段差量を51μmとした場合であり、負荷容量が352Nとなった。
【0056】
実施品1から実施品5に比べて実施品6~実施品8は負荷容量が高くなったが、段差量dを大きくとれば、負荷容量が低下することがわかった。すなわち、実施例1及び実施例2から、次のことがわかった。
【0057】
フォイルホルダ端面(リーフ対応面21a)の形状が負荷容量に影響することがわかり、その形状としては、図5に示すように、フォイルホルダ21のリーフ対応面21aに、外径側から内径側に向かって深くなる傾斜面を設けるのが好ましく、この場合、傾斜面32の平面度として10μm以下とするのが好ましい。また、図11に示すように、凸形状部221の内径側の傾斜部221bと頂部221aのアール部Rとの繋ぎ目Jよりも内径側において、フォイルホルダ21におけるリーフ対応面21aを凹ませる場合、形成された凹部40よりも外径側をフラットな形状とすることが好ましい。これは、先端アール部側が最も圧力が高くなるからである。また、図11に示すように凹部40を形成する場合、その逃がし量(凹部の深さ)を最大50μmとするのが好ましい。
【符号の説明】
【0058】
C 軸受隙間
J 繋ぎ目
R アール部
S 軸受面
d 段差量(深さ寸法)
21 フォイルホルダ
21a 端面(リーフ対応面)
22 リーフ
32 傾斜面
40 凹部
41 傾斜面
221 凸形状部
221a 頂部
221b 傾斜部
222 凹形状部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15