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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120558
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】一方向クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/06 20060101AFI20240829BHJP
   F16H 55/36 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
F16D41/06 B
F16H55/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027419
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100182453
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 英明
(72)【発明者】
【氏名】中村 龍
(72)【発明者】
【氏名】日比 康雅
(72)【発明者】
【氏名】山田 政義
【テーマコード(参考)】
3J031
【Fターム(参考)】
3J031AC01
3J031BA10
3J031BA19
3J031CA03
(57)【要約】
【課題】クラッチ内輪と係合子の摩耗を抑制する。
【解決手段】クラッチ部4と、クラッチ部4の軸方向両側に配置される一対の軸受部5と、クラッチ部4と一対の軸受部5に充填されるグリースを備える一方向クラッチにおいて、シール15によって封止される一対の軸受部5の内部空間とクラッチ部4の内部空間とを含む空間体積のうち、一方向クラッチ回転時に、転動体13と、軸受保持器14と、係合子8と、保持器9と、付勢部材10とが通過しない空間の体積を、静止空間体積とすると、静止空間体積に対するグリースの占有率が90%以上である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチ部と、前記クラッチ部の軸方向両側に配置される一対の軸受部と、前記クラッチ部と前記一対の軸受部に充填されるグリースを備え、
前記軸受部は、軸受外輪と、軸受内輪と、前記軸受外輪と前記軸受内輪との間に配置される複数の転動体と、前記複数の転動体を保持する軸受保持器と、前記軸受外輪と前記軸受内輪との間の軸方向外端部を封止するシールを有し、
前記クラッチ部は、クラッチ外輪と、クラッチ内輪と、前記クラッチ外輪と前記クラッチ内輪との間に配置される複数の係合子と、前記複数の係合子を保持する保持器と、前記複数の係合子を前記クラッチ外輪と前記クラッチ内輪に対して係合するように付勢する複数の付勢部材を有し、
前記保持器と一方の前記軸受部の前記軸受保持器とが一体に形成される一方向クラッチにおいて、
前記シールによって封止される一対の前記軸受部の内部空間と前記クラッチ部の内部空間とを含む空間体積のうち、一方向クラッチ回転時に、前記転動体と、前記軸受保持器と、前記係合子と、前記保持器と、前記付勢部材とが通過しない空間の体積を、静止空間体積とすると、前記静止空間体積に対する前記グリースの占有率が90%以上であることを特徴とする一方向クラッチ。
【請求項2】
前記シールによって封止される一対の前記軸受部の内部空間と前記クラッチ部の内部空間とを含む空間体積から、前記転動体の体積と、前記軸受保持器の体積と、前記係合子の体積と、前記保持器の体積と、前記付勢部材の体積を除いた空間の体積を、全空間体積とすると、
前記全空間体積に対する前記係合子の体積と前記保持器の体積とを合わせた体積の割合が50%以上70%以下である請求項1に記載の一方向クラッチ。
【請求項3】
前記クラッチ外輪と前記保持器との間の径方向隙間の大きさ、及び、前記軸受外輪と前記保持器との間の径方向隙間の大きさが、いずれも0.5mm以上0.9mm以下である請求項1又は2に記載の一方向クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
駆動部材の一方向の回転を被駆動部材に伝達する一方向クラッチとして、例えば、自動車用の補機ベルトによって駆動されるプーリに内蔵され、オルタネータの回転軸に装着される一方向クラッチが知られている。
【0003】
このようなオルタネータの回転軸に装着される一方向クラッチは、エンジンのアイドル回転変動による補機ベルトの張力変動の低減のほか、エンジンが急減速してオルタネータの慣性トルクがエンジンに伝達されようとする際に、トルク伝達を遮断することによって補機ベルトの寿命向上を図る役割を果たす。
【0004】
特許文献1(特許第4339475号公報)においては、一方向クラッチが空転する際のクラッチ内輪と係合子との摺動摩耗を抑制するため、係合子を保持する保持器を軸受保持器と一体に構成し、空転時のクラッチ内輪に対する係合子の摺動速度を低下させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4339475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一方向クラッチにおいては、クラッチ内輪と係合子との間で生じる摩耗を抑制するため、内部にグリースが充填されている。しかしながら、一方向クラッチが高速回転すると、そのときの遠心力の影響により内部のグリースがクラッチ外輪側へ移動するため、クラッチ内輪と係合子との間にグリースが十分に介在しなくなることがある。その場合、クラッチ内輪と係合子との摺動面間において摩耗が進行する虞がある。
【0007】
特に、近年の自動車用オルタネータにおいては、発電能力向上のために高速回転化への対応が求められており、高速回転によってグリースがますますクラッチ外輪側へ移動して片寄ることが予想される。その場合、グリースの片寄りによるクラッチ内輪と係合子の摩耗の進行が顕著となることが懸念される。
【0008】
そこで、本発明は、グリースの片寄りによるクラッチ内輪と係合子の摩耗を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、クラッチ部と、クラッチ部の軸方向両側に配置される一対の軸受部と、クラッチ部と一対の軸受部に充填されるグリースを備え、軸受部は、軸受外輪と、軸受内輪と、軸受外輪と軸受内輪との間に配置される複数の転動体と、複数の転動体を保持する軸受保持器と、軸受外輪と軸受内輪との間の軸方向外端部を封止するシールを有し、クラッチ部は、クラッチ外輪と、クラッチ内輪と、クラッチ外輪とクラッチ内輪との間に配置される複数の係合子と、複数の係合子を保持する保持器と、前記複数の係合子をクラッチ外輪とクラッチ内輪に対して係合するように付勢する複数の付勢部材を有し、保持器と一方の軸受部の軸受保持器とが一体に形成される一方向クラッチにおいて、シールによって封止される一対の軸受部の内部空間とクラッチ部の内部空間とを含む空間体積のうち、一方向クラッチ回転時に、転動体と、軸受保持器と、係合子と、保持器と、付勢部材とが通過しない空間の体積を、静止空間体積とすると、静止空間体積に対するグリースの占有率が90%以上であることを特徴とする。
【0010】
このように、本発明に係る一方向クラッチにおいては、静止空間体積に対するグリースの占有率を90%以上とすることにより、高速回転時におけるグリースの片寄りを防止できる。これにより、一方向クラッチが高速回転しても、クラッチ内輪と係合子との間にグリースを十分に介在させることができるため、係合子がクラッチ内輪に対して摺動することによる両部材の摩耗を抑制できるようになる。
【0011】
また、シールによって封止される一対の軸受部の内部空間とクラッチ部の内部空間とを含む空間体積から、転動体の体積と、軸受保持器の体積と、係合子の体積と、保持器の体積と、付勢部材の体積を除いた空間体積を、全空間体積とすると、全空間体積に対する係合子の体積と保持器の体積とを合わせた体積の割合は50%以上70%以下であることが好ましい。このように、係合子の体積と保持器の体積の合計体積の割合を設定することにより、一方向クラッチ内のグリースの充填量を十分に確保できると共に、回転時における係合子と保持器によるグリース撹拌機能を良好に確保できるようになる。
【0012】
また、クラッチ外輪と保持器との間の径方向隙間の大きさ、及び、軸受外輪と保持器との間の径方向隙間の大きさは、いずれも0.5mm以上0.9mm以下であることが好ましい。このように、各径方向隙間の大きさを設定することにより、クラッチ外輪及び軸受外輪に対する保持器の干渉を効果的に回避しつつ、係合子とクラッチ内輪との摩耗進行を抑制できるようになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、クラッチ内輪と係合子の摩耗を抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る一方向クラッチが組み込まれる自動車エンジンのベルト式補機駆動装置の全体構成を示す図である。
図2】本実施形態に係るクラッチ内蔵プーリの横断面図である。
図3図2のA-A線断面図である。
図4】本実施形態に係るクラッチ内蔵プーリの要部を拡大して示す断面図である。
図5】一方向クラッチの全空間体積を示す図である。
図6】クラッチ外輪と保持器との間の径方向隙間、及び、軸受外輪と保持器との間の径方向隙間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る一方向クラッチの実施形態を図面に基づいて詳述する。以下の実施形態においては、自動車エンジンのベルト式補機駆動装置に搭載される一方向クラッチを例示する。なお、本発明に係る一方向クラッチは、自動車用の補機駆動装置以外の装置にも適用可能である。
【0016】
まず、図1を参照しつつ、本実施形態に係る一方向クラッチが組み込まれる自動車エンジンのベルト式補機駆動装置の全体構成について説明する。
【0017】
図1に示されるベルト式補機駆動装置100は、駆動プーリ101と、オルタネータ102を含む複数の補機の各補機軸に取り付けられる複数の従動プーリ1,104~108と、これらのプーリ101,1,104~108の間に巻き掛けられる伝動ベルトとしての1本のVリブドベルト103を備える、いわゆるサーペンタイン式の補機駆動装置である。
【0018】
駆動プーリ101は、自動車に搭載される4気筒の4サイクルエンジン200の一端側に設けられ、エンジン200の爆発行程に起因する角速度の微小変動を伴って回転するクランク軸200aに取り付けられる。Vリブドベルト103は、駆動プーリ101のほか、駆動プーリ101からVリブドベルト103の走行方向である図1中の矢印方向に向かって、オートテンショナのテンションプーリ104、クラッチ内蔵プーリ1、パワーステアリング装置の油圧ポンプ用プーリ105、アイドラプーリ106、エアコンディショナの圧縮機用プーリ107、エンジン冷却ファン用プーリ108の順に巻き掛けられる。
【0019】
本実施形態に係る一方向クラッチが内蔵されるクラッチ内蔵プーリ1は、ロータが比較的大きい慣性トルクを有するオルタネータ102の回転軸102aに取り付けられている。
【0020】
次に、図2図4に基づき、本実施形態に係るクラッチ内蔵プーリ1の構成について説明する。図2は、本実施形態に係るクラッチ内蔵プーリ1の横断面図、図3は、図2のA-A線断面図である。また、図4は、本実施形態に係るクラッチ内蔵プーリ1の要部を拡大して示す断面図である。
【0021】
図2及び図3に示されるように、クラッチ内蔵プーリ1は、一方向クラッチ3と、その外周に設けられるプーリ2とから成り、プーリ2の外周面には、上記Vリブドベルト103が巻き掛けられる複列のV溝が設けられている。
【0022】
図3に示されるように、一方向クラッチ3は、クラッチ部4と、クラッチ部4の軸方向両側に配置される一対の軸受部5を備えている。ここでいう「軸方向」とは、図3中の一点鎖線Xにて示される一方向クラッチ3の回転軸方向を意味する。以下の説明における「軸方向」も同じ意味である。また、以下の説明において、一方向クラッチ3の回転軸に対して交差する方向(直交する方向も含む。)を「径方向」と呼び、その回転軸を中心とする円の円周方向を「周方向」と呼ぶことにする。
【0023】
クラッチ部4は、プーリ2の内周面に圧入されるクラッチ外輪6と、そのクラッチ外輪6の内径側に同軸上に配置されるクラッチ内輪7と、これら内外両輪6,7間に配置される係合子としてのスプラグ8と、スプラグ8を保持する保持器9と、スプラグ8を付勢する付勢部材としてのコイルばね10(図2参照)を有している。
【0024】
図2に示されるように、スプラグ8及びコイルばね10は、クラッチ外輪6とクラッチ内輪7との間に複数配置されている。各スプラグ8は、保持器9によって周方向等間隔に保持されている。保持器9は、合成樹脂の成形品から成り、各スプラグ8が個別に収容される複数のポケット9aと、各コイルばね10が個別に収容される複数の収容凹部9bを有している(図4参照)。
【0025】
図4において、コイルばね10はスプラグ8を右方向へ付勢する。これにより、スプラグ8は、その外径側カム面8aがクラッチ外輪6の内周面6aに対して係合し、内径側カム面8bがクラッチ内輪7の外周面7bに対して係合する。
【0026】
また、クラッチ内輪7の外周面7bの軸方向両端側には、一対の軸受部5が嵌合する軸受嵌合面7cが形成されている(図3参照)。
【0027】
図3に示されるように、各軸受部5は、軸受外輪11と、その軸受外輪11の内径側に同軸上に配置される軸受内輪12と、これら内外両輪11,12間に配置される転動体としてのボール13と、ボール13を保持する軸受保持器14と、内外両輪11,12の間の軸方向外端部を封止するシール15を有する、いわゆる片シール付き玉軸受から成る。これらの軸受部5によってクラッチ外輪6とクラッチ内輪7とが相対的に軸周り回転可能に構成されている。
【0028】
また、本実施形態においては、図3における左側のボール13を保持する軸受保持器がクラッチ部4の保持器9と一体に形成されている。すなわち、保持器9は、スプラグ8を保持する部分と、左側のボール13を保持する部分とを一体に有している。以下、本明細書において、スプラグ8を保持する部分と、左側のボール13を保持する部分とを合わせて「保持器9」という。これに対して、反対側(右側)の軸受保持器14は、クラッチ部4の保持器9とは別体に形成されている。
【0029】
本実施形態に係るクラッチ内蔵プーリは、次のように動作する。
【0030】
上記エンジン200の駆動力がVリブドベルト103を介して本実施形態に係るクラッチ内蔵プーリ1に伝達されると、プーリ2と一体にクラッチ外輪6が回転する。このとき、クラッチ外輪6がクラッチ内輪7に対して図4における時計回りに相対回転することにより、各スプラグ8の各カム面8a,8bがクラッチ外輪6及びクラッチ内輪7に対して係合する。これにより、各スプラグ8を介してクラッチ外輪6からクラッチ内輪7へ回転トルクが伝達され、クラッチ内輪7に連結される上記オルタネータ102の回転軸102aが回転する。
【0031】
一方、クラッチ外輪6がクラッチ内輪7に対して図4における反時計回りに相対回転したり、時計回りに回転するクラッチ外輪6に対して同方向に回転するクラッチ内輪7の回転速度が速くなったりした場合は、クラッチ外輪6及びクラッチ内輪7に対する各スプラグ8の係合が解除される。これにより、クラッチ外輪6からクラッチ内輪7への回転トルクの伝達が遮断される。従って、一方向クラッチ3が空転状態となり、エンジン200からオルタネータ102の回転軸102aへの回転伝達が遮断されることになる。
【0032】
ところで、クラッチ部4と各軸受部5においては、空転時におけるスプラグ8とクラッチ内輪7との摺動抵抗を低減するため、あるいは、軸受部5内の円滑なボール13の転動運動を確保するために、内部にグリースが充填されている。しかしながら、上述のように、一方向クラッチが高速回転すると、そのときの遠心力の影響により内部のグリースが外径側へ移動するため、クラッチ内輪7とスプラグ8との間にグリースが十分に介在しなくなる状態が発生する。その場合、クラッチ内輪7とスプラグ8との摺動面において摩耗が進行する虞がある。
【0033】
そこで、本実施形態に係る一方向クラッチ3においては、グリースの片寄りによるクラッチ内輪7とスプラグ8との摩耗を抑制するため、一方向クラッチ3の静止空間体積に対するグリースの占有率を次のように設定している。
【0034】
まず、一方向クラッチ3に形成される静止空間体積について説明すると、本発明における一方向クラッチ3の静止空間体積とは、図5に示される各軸受部5のシール15によって封止される各軸受部5の内部空間とクラッチ部4の内部空間とを含む空間体積のうち、一方向クラッチ回転時に、各ボール13と、軸受保持器14と、各スプラグ8と、保持器9と、各コイルばね10(図2参照)とが通過しない空間の体積を意味する。
【0035】
そして、本実施形態に係る一方向クラッチ3においては、上記のような静止空間体積に対して、充填されるグリースの占有率を90%以上となるようにしている。
【0036】
このように、静止空間体積に対するグリースの占有率を90%以上とすることにより、グリースがクラッチ部4と各軸受部5のそれぞれの内部空間の全体に渡って充填されるため、一方向クラッチ3が高速回転しても、高速回転によるグリースの片寄りを防止できる。これにより、クラッチ内輪7とスプラグ8との間にグリースが十分に介在する状態を維持できるため、スプラグ8がクラッチ内輪7に対して摺動することによる両部材の摩耗を抑制できるようになる。従って、本発明によれば、耐久性に優れ、長寿命な一方向クラッチを提供できるようになる。
【0037】
また、図5において斜線にて示される部分、すなわち、各軸受部5のシール15によって封止される各軸受部5の内部空間とクラッチ部4の内部空間とを含む空間体積から、各ボール13の体積と、軸受保持器14の体積と、各スプラグ8の体積と、保持器9の体積と、各コイルばね10(図2参照)の体積を除いた空間の体積を、全空間体積とすると、耐久性の向上及び長寿命化を図るには、全空間体積内に充填されるグリースの量(総量)が多い方が好ましい。しかしながら、全空間体積に対する各構成部品の体積の割合が大きいと、反対にグリースを充填できる空間が少なくなってしまう。
【0038】
この点に関して、本実施形態に係る一方向クラッチ3においては、一方(図3における左側)の軸受部5の軸受保持器がクラッチ部4の保持器9と一体に形成されているため、これらを一体に形成しない構成に比べて、保持器9の体積占有率が大きくなる傾向にある。すなわち、一方の軸受保持器をクラッチ部4の保持器9と一体に構成すると、これらを連結する連結部分(図5における丸枠で囲まれる部分B)が必要になるため、その連結部分の体積分だけ、全空間体積に対する保持器9の体積の割合が大きくなる。従って、本実施形態に係る一方向クラッチ3においては、グリースを充填できる空間体積が小さくなる傾向にある。
【0039】
そこで、本実施形態に係る一方向クラッチ3においては、グリースを充填できる空間体積を確保するため、上記全空間体積に対するスプラグ8の体積と保持器9の体積とを合わせた体積の割合が70%以下となるように設定している。
【0040】
このように、本実施形態に係る一方向クラッチ3においては、全空間体積に対するスプラグ8の体積と保持器9の体積とを合わせた体積の割合が70%以下となるようにしていることにより、グリースを充填できる空間体積を大きく確保でき、耐久性の向上及び長寿命化を図れるようになる。
【0041】
一方で、スプラグ8と保持器9のそれぞれの体積が小さくなり過ぎると、回転時におけるスプラグ8及び保持器9によるグリース撹拌機能が低下する虞がある。
【0042】
そのため、本実施形態に係る一方向クラッチ3においては、全空間体積に対するスプラグ8の体積と保持器9の体積とを合わせた体積の割合を50%以上となるようにしている。このように、スプラグ8と保持器9のそれぞれの体積が小さくなり過ぎないようにして、回転時におけるグリース撹拌機能を良好に確保できるようにしている。
【0043】
要するに、グリースの充填量を十分に確保しつつ、かつ、回転時のグリース撹拌機能を良好に確保するには、全空間体積に対するスプラグ8の体積と保持器9の体積とを合わせた体積の割合が50%以上70%以下であることが好ましい。
【0044】
また、高速回転時に発生する遠心力によって、クラッチ部4の保持器9が径方向外側へ変形したり偏心したりすると、保持器9がクラッチ外輪6に対して干渉する虞がある。さらに、クラッチ部4の保持器9が一方の軸受保持器と一体に形成されている構成においては、軸受外輪11に対して保持器9が干渉する虞もある。
【0045】
そのため、本実施形態に係る一方向クラッチ3においては、図6に示されるクラッチ外輪6と保持器9との間の径方向隙間の大きさG1、及び、軸受外輪11と保持器9との間の径方向隙間の大きさG2を、いずれも0.5mm以上となるようにしている。これにより、保持器9がクラッチ外輪6及び軸受外輪11に対して干渉しにくくなる。
【0046】
一方で、上記各径方向隙間の大きさG1,G2を大きくし過ぎると、クラッチ外輪6と保持器9との間、及び、軸受外輪11と保持器9との間に、グリースが溜まりやすくなるため、スプラグ8とクラッチ内輪7との間においてグリースが少なくなる虞がある。
【0047】
そこで、本実施形態に係る一方向クラッチ3においては、クラッチ外輪6と保持器9との間の径方向隙間の大きさG1、及び、軸受外輪11と保持器9との間の径方向隙間の大きさG2を、いずれも0.9mm以下となるようにしている。これにより、クラッチ外輪6と保持器9との間、及び、軸受外輪11と保持器9との間に、グリースが溜まるのを抑制でき、スプラグ8とクラッチ内輪7との間のグリース量を確保できるようになる。
【0048】
以上のことから、各外輪6,11に対する保持器9の干渉を効果的に回避しつつ、スプラグ8とクラッチ内輪7との間のグリース量を確保して摩耗進行を抑制するには、各外輪6,11に対する保持器9の径方向隙間の大きさG1,G2が、いずれも0.5mm以上0.9mm以下であることが好ましい。
【0049】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は、上記各実施形態の構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0050】
3 一方向クラッチ
4 クラッチ部
5 軸受部
6 クラッチ外輪
7 クラッチ内輪
8 スプラグ(係合子)
9 保持器
10 コイルばね(付勢部材)
11 軸受外輪
12 軸受内輪
13 ボール(転動体)
14 軸受保持器
15 シール
図1
図2
図3
図4
図5
図6