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特開2024-120561車両の制御装置および車両の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120561
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】車両の制御装置および車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20240829BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20240829BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20240829BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20240829BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20240829BHJP
   F16H 61/682 20060101ALI20240829BHJP
   F16H 63/46 20060101ALI20240829BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20240829BHJP
   F16D 48/06 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
F16H61/02
B60K6/485 ZHV
B60W10/08 900
B60W10/02 900
B60W20/15
F16H61/682
F16H63/46
F16H63/50
F16D28/00 A
F16D48/06 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027430
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】寺井 昭平
【テーマコード(参考)】
3D202
3J057
3J552
【Fターム(参考)】
3D202AA09
3D202BB14
3D202BB37
3D202BB66
3D202CC72
3D202DD24
3D202DD26
3D202DD39
3D202DD40
3J057BB01
3J057BB03
3J057GA66
3J057GB11
3J057HH06
3J057JJ01
3J552MA04
3J552MA13
3J552NA01
3J552NB01
3J552NB06
3J552NB07
3J552NB09
3J552PA02
3J552RA06
3J552RB15
3J552RB17
3J552RB18
3J552SA26
3J552SB10
3J552TB01
3J552TB07
3J552UA03
3J552UA08
3J552VA74W
3J552VB01W
3J552VD01W
3J552VD11W
(57)【要約】
【課題】遊びに起因する衝突力を低減する。
【解決手段】車両の制御装置は、駆動源と、駆動輪と、駆動源と駆動輪との間で動力が伝達される動力伝達経路に配置された第1伝達部材と、動力伝達経路における第1伝達部材と駆動輪との間に配置され、第1伝達部材に対し遊びの範囲内で動力伝達方向に相対移動可能に接続された第2伝達部材と、動力伝達経路における駆動源と第1伝達部材との間に配置されたクラッチと、クラッチアクチュエータと、を備える車両の制御装置であって、制御装置は、第2伝達部材に対する第1伝達部材の相対位置の変化が生じるか否かを判定し、相対位置の変化が生じると判定した場合に、相対位置の変化に起因する第1伝達部材と第2伝達部材との間の衝突力が低減するように動力伝達率を変更するようクラッチアクチュエータを制御するように構成されている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力を発生させる駆動源と、
駆動輪と、
前記駆動源と前記駆動輪との間で動力が伝達される動力伝達経路に配置された第1伝達部材と、
前記動力伝達経路における前記第1伝達部材と前記駆動輪との間に配置され、前記第1伝達部材に対し遊びの範囲内で動力伝達方向に相対移動可能に接続され、前記第1伝達部材に前記動力伝達方向に接触することで前記第1伝達部材から動力が伝達される第2伝達部材と、
前記動力伝達経路における前記駆動源と前記第1伝達部材との間に配置され、前記駆動源から前記第1伝達部材への動力伝達率を変更可能なクラッチと、
前記クラッチを動作させるクラッチアクチュエータと、を備える車両の制御装置であって、
前記制御装置は、処理回路を備え、
前記処理回路は、
前記第2伝達部材に対する前記第1伝達部材の相対位置の変化が生じるか否かを判定し、
前記相対位置の変化が生じると判定した場合に、前記相対位置の変化に起因する前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の衝突力が低減するように前記動力伝達率を変更するよう前記クラッチアクチュエータを制御するように構成されている、車両の制御装置。
【請求項2】
前記処理回路は、前記相対位置の変化が生じると判定した場合に、前記相対位置の変化に起因する前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の衝突力が低減するように前記動力伝達率を変更するよう前記クラッチアクチュエータを制御するクラッチ制御モードと、前記相対位置の変化に起因する前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の衝突力が低減するように出力を変更するよう前記駆動源を制御する駆動源制御モードと、の間で選択的に実行するように構成されている、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記処理回路は、前記相対位置の変化が生じると判定し、且つ、前記動力伝達率が100%未満であると判定した場合に、前記クラッチ制御モードを選択するように構成されている、請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記駆動源は、内燃機関であり、
前記処理回路は、前記相対位置の変化が生じると判定し、且つ、前記内燃機関の状態が所定の不安定状態にあると判定した場合に、前記クラッチ制御モードを選択するように構成されている、請求項2または3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記処理回路は、
前記駆動輪から前記駆動源へトルクが伝達される負トルク伝達状態から、前記駆動源から前記駆動輪へトルクが伝達される正トルク伝達状態に切り替わる第1切替が生じるか否かを判定することによって、前記相対位置が負位置から正位置へ変化するか否かを判定し、
前記第1切替が生じると判定した場合に、前記相対位置が負位置から正位置へ達するまでの間の少なくとも一部の期間に、前記動力伝達率が設定伝達率以下に維持されるよう前記クラッチアクチュエータを制御するように構成されている、請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記処理回路は、
前記駆動源から前記駆動輪へトルクが伝達される正トルク伝達状態から、前記駆動輪から前記駆動源へトルクが伝達される負トルク伝達状態に切り替わる第2切替が生じるか否かを判定することによって、前記相対位置が正位置から負位置へ変化するか否かを判定し、
前記第2切替が生じると判定した場合に、前記相対位置が前記正位置から負位置へ達するまでの間の少なくとも一部の期間に、前記動力伝達率が設定伝達率以下に維持されるよう前記クラッチアクチュエータを制御するように構成されている、請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記車両は、前記第1伝達部材に対し前記クラッチを介さずに伝達される動力を発生させるサブ動力源を更に備え、
前記処理回路は、前記相対位置の変化が生じると判定した場合に、前記第2伝達部材に対する前記第1伝達部材の相対速度が低減するように動力を発生させるよう前記サブ駆動源を制御するように構成されている、請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記サブ動力源は、電動モータであり、
前記処理回路は、前記電動モータを、回生制動力を発生させる状態と、前記駆動輪を回転させる駆動力を発生させる状態との間で切り替えるように構成されている、請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【請求項9】
動力を発生させる駆動源と、
駆動輪と、
前記駆動源と前記駆動輪との間で動力が伝達される動力伝達経路に配置された第1伝達部材と、
前記動力伝達経路に配置され、前記第1伝達部材に対し遊びの範囲内で相対移動可能に接続される第2伝達部材と、
前記動力伝達経路における前記駆動源と前記第1伝達部材との間に配置され、前記駆動源から前記第1伝達部材への動力伝達率を変更可能なクラッチと、を備える車両の制御方法であって、
前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の動力伝達方向の切り替わりが生じるか否かを判定し、
前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の動力伝達方向の切り替わりが生じると判定した場合に、前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の相対速度が低減するように、前記クラッチの動力伝達率を調整する、車両の制御方法。
【請求項10】
駆動源を含む動力入力装置と、
駆動輪と、
前記動力入力装置と前記駆動輪との間で動力が伝達される動力伝達経路に配置され、前記動力入力装置から正トルクが付与される第1伝達部材と、
前記動力伝達経路における前記第1伝達部材と前記駆動輪との間に配置され、前記第1伝達部材に対し遊びの範囲内で動力伝達方向に相対移動可能に接続される第2伝達部材と、
前記第1伝達部材に対して前記正トルクとは反対方向のトルクである負トルクを付与可能に構成されたサブ動力源と、を備える車両の制御装置であって、
前記制御装置は、処理回路を備え、
前記処理回路は、
前記第2伝達部材に対する前記第1伝達部材の相対位置の変化が生じるか否かを判定し、
前記相対位置の変化が生じると判定した場合に、前記相対位置の変化の開始時点から終了時点までの間の少なくとも一部の期間に、前記相対位置の変化に起因する前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の衝突力が低減するように前記動力入力装置および前記サブ動力源を制御するように構成されている、車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遊びを有する動力伝達装置を備えた車両の制御装置および車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ドッグ式の変速機を備えた自動二輪車が開示されている。特許文献1の自動二輪車において、変速機は、ドッグギヤの係合片が出力側歯車の係合溝に遊びをもって係合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2014/102869号号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のドッグ式のギヤ変速機では、車両が加速したり減速したりするたびに、遊びを有する2つの動力伝達部材のうちで、一方が他方に対して相対移動して、一方が他方に衝突し得る。この種の衝突力は運転者の走行フィーリングに影響を生じやすい。したがって衝突力を低減することが望まれる。
【0005】
そこで、本開示は、遊びに起因する衝突力を低減することができる車両の制御装置および車両の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る車両の制御装置は、動力を発生させる駆動源と、駆動輪と、前記駆動源と前記駆動輪との間で動力が伝達される動力伝達経路に配置された第1伝達部材と、前記動力伝達経路における前記第1伝達部材と前記駆動輪との間に配置され、前記第1伝達部材に対し遊びの範囲内で動力伝達方向に相対移動可能に接続され、前記第1伝達部材に前記動力伝達方向に接触することで前記第1伝達部材から動力が伝達される第2伝達部材と、前記動力伝達経路における前記駆動源と前記第1伝達部材との間に配置され、前記駆動源から前記第1伝達部材への動力伝達率を変更可能なクラッチと、前記クラッチを動作させるクラッチアクチュエータと、を備える車両の制御装置であって、前記制御装置は、処理回路を備え、前記処理回路は、前記第2伝達部材に対する前記第1伝達部材の相対位置の変化が生じるか否かを判定し、前記相対位置の変化が生じると判定した場合に、前記相対位置の変化に起因する前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の衝突力が低減するように前記動力伝達率を変更するよう前記クラッチアクチュエータを制御するように構成されている。
【0007】
本開示の一態様に係る車両の制御方法は、動力を発生させる駆動源と、駆動輪と、前記駆動源と前記駆動輪との間で動力が伝達される動力伝達経路に配置された第1伝達部材と、前記動力伝達経路に配置され、前記第1伝達部材に対し遊びの範囲内で相対移動可能に接続される第2伝達部材と、前記動力伝達経路における前記駆動源と前記第1伝達部材との間に配置され、前記駆動源から前記第1伝達部材への動力伝達率を変更可能なクラッチと、を備える車両の制御方法であって、前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の動力伝達方向の切り替わりが生じるか否かを判定し、前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の動力伝達方向の切り替わりが生じると判定した場合に、前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の相対速度が低減するように、前記クラッチの伝達率を調整する。
【0008】
本開示の別の態様に係る車両の制御装置は、駆動源を含む動力入力装置と、駆動輪と、前記動力入力装置と前記駆動輪との間で動力が伝達される動力伝達経路に配置され、前記動力入力装置から正トルクが付与される第1伝達部材と、前記動力伝達経路における前記第1伝達部材と前記駆動輪との間に配置され、前記第1伝達部材に対し遊びの範囲内で動力伝達方向に相対移動可能に接続される第2伝達部材と、前記第1伝達部材に対して前記正トルクとは反対方向のトルクである負トルクを付与可能に構成されたサブ動力源と、を備える車両の制御装置であって、前記制御装置は、処理回路を備え、前記処理回路は、前記第2伝達部材に対する前記第1伝達部材の相対位置の変化が生じるか否かを判定し、前記相対位置の変化が生じると判定した場合に、前記相対位置の変化の開始時点から終了時点までの間の少なくとも一部の期間に、前記相対位置の変化に起因する前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の衝突力が低減するように前記動力入力装置および前記サブ動力源を制御するように構成されている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、遊びに起因する衝突力を低減することができる車両の制御装置および車両の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態に係る制御装置を備えた自動二輪車の左側面図である。
図2図2は、図1の自動二輪車の動力システムの模式図である。
図3図3は、ドグと変速ギヤとが係合した状態を入力軸の軸方向に直交する方向に見た拡大模式図である。
図4図4は、ドグと変速ギヤとが係合した状態を入力軸の軸方向に見た拡大模式図である。
図5図5は、制御装置およびその入出力を示すブロック図である。
図6図6は、第1実施形態におけるショック低減処理の流れを示すフローチャートである。
図7図7は、車両が減速状態から加速状態へ移行する際の車速変化およびクラッチの動力伝達率の変化の一例を示すグラフである。
図8図8は、クラッチ制御を実行することによるショック低減効果を説明するためのグラフである。
図9図9は、第2実施形態におけるショック低減処理の流れを示すフローチャートである。
図10図10は、クラッチ制御およびブレーキ制御の双方を実行することによるショック低減効果を説明するためのグラフである。
図11図11は、加速状態から減速状態へ移行する際の車速変化およびクラッチの動力伝達率の変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0012】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る制御装置40を備えた自動二輪車1の左側面図である。自動二輪車1は、ライダーが跨って乗る鞍乗車両の一例であり、ハイブリッド車両である。以下の説明における方向は、自動二輪車1の運転手から見た方向を基準とし、前後方向は車長方向と対応し、左右方向は車幅方向と対応する。また、以下の説明において、自動二輪車1を単に車両1とも称し得る。
【0013】
自動二輪車1は、前輪2と、後輪3と、車体フレーム4と、前輪2を車体フレーム4の前部に接続する前サスペンション5と、後輪3を車体フレーム4の後部に接続する後サスペンション6とを備える。前輪2は従動輪であり、後輪3は駆動輪である。前サスペンション5は、上下方向に間隔をあけて配置されるブラケット7に連結されている。ブラケット7に接続される操舵軸が車体フレーム4の一部であるヘッドパイプ4aに角変位可能に支持されている。当該操舵軸には、運転者が手で握るハンドル8が設けられる。ハンドル8の後側には、燃料タンク9が設けられ、燃料タンク9の後側に運転者が着座するシート10が設けられる。
【0014】
車体フレーム4には、後輪3を支持して前後方向に延びるスイングアーム15が角変位可能に支持されている。また、車体フレーム4には、前輪2と後輪3と間においてパワーユニット11が搭載されている。パワーユニット11は、動力を発生させる2つの走行駆動源(原動機とも称し得る)である第1駆動源および第2駆動源を備える。第1駆動源は、内燃機関であるエンジン12である。第2駆動源は、正逆反転可能な電動モータである駆動モータ13である。エンジン12は、「駆動源」の一例であり、駆動モータ13は、「サブ動力源」の一例である。
【0015】
エンジン12は、気筒12aと、気筒内のピストンに連結されたクランク軸12bとを含む。エンジン12のクランク軸12bは、クランクケース14に収容されている。また、エンジン12の後側には、ギヤ変速機20が配置されている。ギヤ変速機20は、クランクケース14に収容されている。ハンドル8の左のグリップには、ギヤ変速機20のシフト位置である変速段を変更するためのシフトスイッチ17が配置されている。シート10の下方には、制御装置40が配置されている。制御装置40は、エンジン12、駆動モータ13、後述のクラッチアクチュエータ19およびシフトアクチュエータ30を制御する。
【0016】
図2は、図1の自動二輪車1の動力システムの模式図である。ギヤ変速機20は、入力軸21と、出力軸22と、複数組の変速ギヤ対23とを有する。入力軸21には、第1駆動源および第2駆動源の少なくとも一方の駆動力が伝達可能である。
【0017】
具体的には、ギヤ変速機20は、第1駆動源であるエンジン12と駆動輪である後輪3との間で動力が伝達されるエンジン用動力伝達経路に配置されている。エンジン用動力伝達経路におけるエンジン12とギヤ変速機20の入力軸21との間には、メインクラッチ18が介設されている。以下の説明において、メインクラッチ18は、単にクラッチ18とも称し得る。エンジン12のクランク軸12bの回転動力は、メインクラッチ18を介して入力軸21に入力される。
【0018】
また、ギヤ変速機20は、第2駆動源である駆動モータ13と駆動輪である後輪3との間で動力が伝達されるモータ用動力伝達経路に配置されている。モータ用動力伝達経路には、メインクラッチ18はない。すなわち、第2駆動源である駆動モータ13は、入力軸21に対しメインクラッチ18を介さずに動力を伝達するように入力軸21に対し接続されている。駆動モータ13の回転軸の回転動力は、入力軸21に入力される。すなわち、本実施形態では、第1駆動源であるエンジン12および第2駆動源である駆動モータ13の双方から入力軸21に同時に動力伝達可能となっている。
【0019】
メインクラッチ18は、クラッチアクチュエータ19によって駆動されて、前記エンジン用動力伝達経路を切断したり接続したりする。本実施例では、メインクラッチ18は、摩擦クラッチで実現される。例えばメインクラッチ18は、単板クラッチまたは多板クラッチである。
【0020】
メインクラッチ18の切断状態は、エンジン12とギヤ変速機20の入力軸21との間で動力が伝達されない状態である。メインクラッチ18の結合状態は、エンジン12と入力軸21との間で動力が完全に伝達される状態である。メインクラッチ18が切断状態から結合状態に遷移する場合、メインクラッチ18は、半クラッチ状態を経由する。メインクラッチ18の半クラッチ状態は、エンジン12と入力軸21との間で動力が部分的に伝達される状態である。
【0021】
クラッチアクチュエータ19は、メインクラッチ18の係合度、すなわち、エンジン12から入力軸21への動力伝達率を変化させるアクチュエータである。メインクラッチ18の動力伝達率は、メインクラッチ18に発生する摩擦力の上昇とともに上昇する値である。メインクラッチ18の切断状態は、メインクラッチ18の動力伝達率が0%である状態である。メインクラッチ18の結合状態は、メインクラッチ18の動力伝達率が100%である状態である。メインクラッチ18の半クラッチ状態は、メインクラッチ18の動力伝達率が0%より大きく100%未満である状態である。
【0022】
さらに別の表現で説明すれば、メインクラッチ18が、互いに当接したり離間したりすることが可能な一対の当接部材を含み、一対の当接部材との間の摩擦力で回転動力を、一方の当接部材から他方の当接部材に伝達する構成である。一対の当接部材の一方は、第1駆動源であるエンジン12側の回転体であり、他方は、入力軸21側の回転体である。一対の当接部材は、それぞれ、クラッチプレートおよびフリクションプレートと称される場合がある。メインクラッチ18の結合状態は、一対の当接部材部材との間で滑りを発生させることなく、回転動力を伝達する状態である。また、メインクラッチ18の半クラッチ状態は、一対の当接部材の間で滑りを発生させながら、回転動力を伝達する状態である。
【0023】
クラッチアクチュエータ19は、クラッチ18の一対の当接部材を互いに挟持する締結力を発生させる。締結力は、一対の当接部材が互いに押し付け合う力に対応する。メインクラッチ18は、締結力に応じたトルク(動力伝達トルクとも称し得る)の伝達を可能にする。この締結力が、0より大きく、予め定められた設定値未満となる状態である状態を半クラッチ状態と称してもよい。締結力に応じた動力伝達トルクを超える動力が、駆動源から一方の当接部材に伝達されると場合、当該一方の当接部材から他方の当接部材に締結力に応じた動力伝達トルクが伝達されるとともに、伝達されなかった残りのトルクによって一対の当接部材間で滑りが生じる。また、締結力に応じた動力伝達トルク未満の動力が、一方の当接部材に伝達される場合、クラッチ18が半クラッチ状態であったとして、一対の当接部材間で滑りが生じることなく、一方の当接部材から他方の当接部材にその動力を伝達する。
【0024】
本実施形態では、クラッチアクチュエータ19は、油圧アクチュエータである。すなわち、クラッチアクチュエータ19は、油圧室と、油圧室の油圧(以下、クラッチ圧とも称する)によって駆動するピストンと、油圧室の油圧を調整する電磁開閉弁であるソレノイドバルブを含む。ソレノイドバルブは、与えられる電流値を変更、たとえばデューティ比が変更されることで、油圧室の開度が調整される。このようにして油圧室の油圧変化に伴ってメインクラッチ18の結合圧、言い換えると、一対の当接部材を挟持する締結力が変化する。本実施例では、クラッチ圧の上昇とともに、動力伝達率および締結力が増加する。また、クラッチ18の一対の当接部材は、スプリングにより互いに離間する方向に付勢されている。当該スプリングの付勢力よりも、クラッチアクチュエータ19による一対の当接部材を挟持する締結力が小さくなると、クラッチ18の当接部材間の当接が解除され、クラッチ18の切断状態となる。またスプリングの付勢力と締結力が釣り合った状態から、締結力が大きくなるほど、クラッチ18を介して動力が伝達される動力伝達力が大きくなる。言い換えると、締結力の増加に伴って摩擦力を増やすことができ、一対の当接部材に滑りが生じるまでに伝達される動力を増やすことができる。
【0025】
このように、エンジン用動力伝達経路を通じてエンジン12から入力軸21に対し伝達される伝達トルクは、エンジン12の出力とクラッチ18の動力伝達率に依存する。またエンジン用動力伝達経路を通じて入力軸21からエンジン12に対し伝達される伝達トルクもまた、入力軸21の出力とクラッチ18の動力伝達率に依存する。エンジン12、クラッチ18およびクラッチアクチュエータ19は、エンジン用動力伝達経路を通じて入力軸21に動力を入力する動力入力装置を構成する。
【0026】
出力軸22は、入力軸21に平行に配置されている。以下、入力軸21および出力軸22に平行な方向を、「軸方向」と称する。複数組の変速ギヤ対23は、軸方向に並んでいる。複数組の変速ギヤ対23は、互いに変速比が異なる。変速比は、出力軸22の回転数に対する入力軸21の回転数の比である。変速比は、入力軸21側のギヤの歯数に対する出力軸22側のギヤの歯数の比でもあり、ギヤ比とも称し得る。各変速ギヤ対23は、入力軸21に同軸に設けられた1つの変速ギヤ23と、出力軸22に同軸に設けられた1つの変速ギヤ23とを含む。
【0027】
各変速ギヤ対23が含む2つの変速ギヤ23のうち、一方の変速ギヤ23は、そのギヤと同軸である入力軸21または出力軸22と一体的に回転するギヤ(以下、「共回転ギヤ」と称する)23aである。例えば、共回転ギヤ23aは、入力軸21または出力軸22にスプライン嵌合により組付けられている。各変速ギヤ対23が含む2つの変速ギヤ23のうち、他方の変速ギヤ23は、そのギヤと同軸である入力軸21または出力軸22に対して相対回転可能であるギヤ(以下、「空転ギヤ」と称する)23bである。
【0028】
各変速ギヤ対23における共回転ギヤ23aと空転ギヤ23bとは常時噛み合っている。本実施形態では、入力軸21に、共回転ギヤ23aと空転ギヤ23bとが軸方向に交互に並んでいる。同様に、出力軸22には、空転ギヤ23bと共回転ギヤ23aとが軸方向に交互に並んでいる。なお、図2において、煩雑になるのを避けるために、一部の共回転ギヤと空転ギヤにのみ符号を付し、それ以外は省略する。
【0029】
ギヤ変速機20は、ドッグ式の変速機である。ギヤ変速機20は、複数の変速段にそれぞれ対応する複数のドグ24と、シフト機構26とを備える。
【0030】
ドグ24は、シフト機構26により、入力軸21および出力軸22に対して軸方向に移動可能となっている。複数のドグ24のいずれかが、シフト機構26により軸方向に移動して、複数組の変速ギヤ対23のいずれかと選択的に係合する。これにより、ドグ24と係合した1つの変速ギヤ対23は、入力軸21から出力軸22に駆動力を伝達可能な状態となる。すなわち、入力軸21に伝達された駆動力は、ドグ24と係合した変速ギヤ対23を介して出力軸22に伝達される。出力軸22の回転動力は、出力伝達部材16を介して、駆動輪である後輪3に伝達される。出力伝達部材16は、例えば、チェーン、ベルト、ドライブシャフト等である。
【0031】
シフト機構26は、シフトフォーク27a,27b,27cと、支軸28と、シフトドラム29とを備える。シフトフォーク27a,27b,27cは、入力軸21および出力軸22に平行に設けられた支軸28に、スライド自在に支持されている。後述するように、本実施形態では、一部の共回転ギヤ23aがドグ24と一体となっている。シフトフォーク27aの一端部が、入力軸21に外装された、ドグ24と一体的に移動する共回転ギヤ23aに対して接続されている。また、シフトフォーク27b,27cの一端部が、出力軸22に外装された、ドグ24と一体的に移動する共回転ギヤ23aに対して接続されている。
【0032】
また、シフトフォーク27a,27b,27cの他端部が、シフトドラム29の案内溝Gに嵌合している。シフトドラム29が回転すると、その案内溝Gにより案内されたシフトフォーク27a,27b,27cが対応するドグ24を軸方向に移動させる。ドグ24が、空転ギヤ23bが有する後述の収容空間Sに入り込むことで、ドグ24が空転ギヤ23bと遊びをもって係合する。また、ドグ24が、空転ギヤ23bが有する後述の収容空間Sから抜け出ることで、ドグ24が空転ギヤ23bから離脱する。
【0033】
図3は、入力軸21に同軸に設けられたいくつかの変速ギヤ23を、軸方向に直交する方向に見た拡大図である。図3は、ある変速段における変速ギヤ23とドグ24との係合状態、つまりドグ24が変速ギヤ23の収容空間Sに入り込んだ状態を示す。
【0034】
図3に示すように、本実施形態では、いくつかの共回転ギヤ23aが、ドグ24と一体型となっており、ドグ24とともに入力軸21または出力軸22に対して軸方向に移動可能となっている。具体的には、ドグ24は、共回転ギヤ23aの軸方向端面から軸方向に突出するように設けられている。ドグ24は、共回転ギヤ23aの端面において、共回転ギヤ23aの周方向に所定の間隔をあけて並んだ複数の突起により構成されている。
【0035】
ドグ24および共回転ギヤ23aに軸方向に対向する空転ギヤ23bが、ドグ24が入り込むことが可能な収容空間Sを有する。収容空間Sは、移動するドグ24が入り込めるよう、軸方向におけるドグ24が配置された側に開口している。本実施形態では、収容空間Sは、空転ギヤ23bの軸方向端面に形成された穴である(図4も参照)。なお、収容空間Sは、空転ギヤ23bの軸方向端面において、空転ギヤ23bの周方向に所定の間隔をあけて並んだ複数の突起により構成されていてもよい。すなわち、収容空間Sは、空転ギヤ23bの端面において空転ギヤ23bの周方向に隣接する突起の間に形成される空間であってもよい。収容空間Sは、空転ギヤ23bの径方向に開口していてもよいし、開口していなくてもよい。
【0036】
図4は、ドグ24が変速ギヤ23の収容空間Sに入り込んだ状態を軸方向に見た拡大図である。収容空間Sを有する変速ギヤ23は、当該変速ギヤ23の周方向に収容空間Sを画定する第1面25aおよび第2面25bを有している。第1面25aおよび第2面25bは、動力伝達方向に向き合っており、収容空間Sに入り込んだドグは、第1面25aと第2面25bとの間で変速ギヤ23に対し、相対移動可能である。
【0037】
動力伝達方向は、正方向と、正方向と反対の負方向とを含む。正方向は、自動二輪車1を前方に加速させる際に、入力軸21と一体回転するドグ24が、出力軸22と一体回転する空転ギヤ23bに対して相対移動する方向である。負方向は、自動二輪車1を減速させる際に、入力軸21と一体回転するドグ24が、出力軸22と一体回転する空転ギヤ23bに対して相対移動する方向である。
【0038】
第1面25aは、収容空間Sに入り込んだドグ24が、少なくとも出力軸22に正方向にトルクを伝達する際に当接する面である。すなわち、第1面25aは、収容空間Sに入り込んだドグ24が、少なくとも出力軸22の回転を加速させる際に当接する面である。言い換えれば、第1面25aは、収容空間Sに入り込んだドグ24が、車両(本例では自動二輪車1)が前方に加速中に当接している面とも言える。ドグ24が第1面25aに当接した状態を、駆動源から駆動輪へトルクが伝達される正トルク伝達状態と称する。また、第1面25aに当接するときの変速ギヤ23に対するドグ24の位置を、正位置と称する。
【0039】
第2面25bは、収容空間Sに入り込んだドグ24が、少なくとも出力軸22の回転を減速させる際に当接する面である。言い換えれば、第2面25bは、収容空間Sに入り込んだドグ24が、車両(本例では自動二輪車1)の減速中に当接している面である。ドグ24が第2面25bに当接した状態を、駆動輪から駆動源へトルクが伝達される負トルク伝達状態と称する。第2面25bに当接するときの変速ギヤ23に対するドグ24の位置を、負位置と称する。また、収容空間Sに入り込んだドグ24が第1面25aにも第2面25bにも当接しないときの変速ギヤ23に対するドグ24の位置を、中立位置と称する。なお、車両の等速移動中など、車両の加速時や減速時以外の状況でも、ドグ24は、第1面25aまたは第2面25bに当接することもあり得る。
【0040】
例えば自動二輪車1の状態が減速状態から加速状態へ移行する場合には、駆動源から入力軸21に伝達される伝達トルクの増加により、ドグ24の回転速度が増加し、ドグ24は、ギヤ23bに対して正方向に移動して、ギヤ23bの第1面25aに接触し、正トルク伝達状態となる。また、例えば、自動二輪車1の状態が加速状態から減速状態へ移行する場合には、入力軸21に伝達される伝達トルクの低下により、ドグ24の回転速度が低下し、ドグ24は、ギヤ23bに対して負方向に移動して、ギヤ23bの第2面25bに接触し、負トルク伝達状態となる。
【0041】
このように、ドグ24と変速ギヤ23bとが遊びをもって互いに係合しているため、自動二輪車1の状況の変化に応じて、ドグ24が変速ギヤ23b(つまり第1面25aまたは第2面25b)と動力伝達方向に衝突する。本実施形態では、後述するショック低減処理によって、変速ギヤ23bに対するドグ24の衝突力を低減している。ドグ24は、「第1伝達部材」の一例であり、ドグ24が入り込む収容空間Sを有する変速ギヤ23は、「第2伝達部材」の一例である。
【0042】
図5は、制御装置40およびその入出力を示すブロック図である。制御装置40は、エンジン12、駆動モータ13、クラッチアクチュエータ19、シフトアクチュエータ30を制御する。図5に示すように、制御装置40には、アクセル操作量センサ32、シフトスイッチ17、ギヤポジションセンサ31、エンジン回転数センサ33、モータ回転数センサ34、出力軸回転数センサ35、電流センサ36などからの検出信号が入力される。制御装置40は、スロットル装置12c、点火装置12d、燃料供給装置12e、駆動モータ13、クラッチアクチュエータ19およびシフトアクチュエータ30に対し、制御信号を出力する。
【0043】
アクセル操作量センサ32は、運転者のアクセル操作量(加速要求量)を検出する。
【0044】
シフトスイッチ17は、運転者の手動操作に応じ、ギヤ変速機20の変速段を変えるためのシフト指令を制御装置40に送る。例えばシフト指令は、シフトアップ指令またはシフトダウン指令である。
【0045】
ギヤポジションセンサ31は、シフトドラム29の回転角を検出する。シフトドラム29の回転角により、ギヤ変速機20の複数の変速ギヤ対23のうちのいずれが選択された状態にあるか、つまりどの変速段にあるかを検出可能である。
【0046】
エンジン回転数センサ33は、エンジン12の出力軸の回転数(以下、「エンジン回転数」ともいう)を検出する。モータ回転数センサ34は、駆動モータ13の出力軸の回転数(以下、「モータ回転数」ともいう)を検出する。
【0047】
出力軸回転数センサ35は、出力軸22の回転数を検出する。出力軸回転数センサ35は、出力軸22に設けられて、出力軸22の回転数を直接的に検出するものであってもよい。あるいは、出力軸回転数センサ35は、別のパラメータを検出することにより、出力軸22の回転数を間接的に検出するものであってもよい。例えば出力軸回転数センサ35は、駆動輪である後輪3の回転数を検出する車輪回転数センサでもよい(図2参照)。
【0048】
電流センサ36は、クラッチアクチュエータ19のクラッチ圧を制御するためのソレノイドバルブのソレノイドに流れる電流値を検出する。
【0049】
スロットル装置12cは、エンジン12の吸気量を調節する。例えば、スロットル装置12cは、スロットル弁をモータにより開閉動作させる電子制御スロットル装置である。点火装置12dは、エンジン12の燃焼室内の混合気に点火する。点火装置12dは、例えば点火プラグである。燃料供給装置12eは、エンジン12に燃料を供給する。
【0050】
シフトアクチュエータ30は、ドグ24を軸方向に移動させる動力を発生させる。具体的には、シフトアクチュエータ30は、制御装置40により制御されて、シフト機構26のシフトドラム29を回転駆動させる。すなわち、シフトアクチュエータ30は、制御装置40により制御されて、複数組の変速ギヤ対23に係合可能な複数のドグ24を軸方向に移動させ、複数組の変速ギヤ対23の中でドグ24に係合した1の変速ギヤ対23を動力伝達状態にする。制御装置40は、シフトスイッチ17に対する運転者の操作に応じて、シフトアクチュエータ30を制御する。シフトアクチュエータ30は、例えば電動モータである。
【0051】
制御装置40は、ハードウェア面において、1以上のプロセッサ41を含む。プロセッサ41は、演算装置、揮発性メモリ、不揮発性メモリを含む。プロセッサ41は、処理回路の一例である。プロセッサ41は、演算装置が不揮発性メモリに保存されたプログラムに従って、揮発性メモリを用いて演算処理し、制御装置40に入力された検出信号に応じた制御信号を出力する。制御装置40は、ソフトウェア面において、モード切替部41a、エンジン制御部41b、モータ制御部41c、クラッチ制御部41d、シフト制御部41e、状態判定部41fを含む。なお、図5では、1以上のプロセッサ41を1つのブロックで示し、その中に機能ブロック41a,41b,41c,41d,41e,41fをまとめて示す。また、制御装置40は、メモリ42を含む。メモリ42は、揮発性メモリおよび不揮発性メモリを含む。
【0052】
モード切替部41aは、EGVモード、EVモード、およびHEVモードを含む複数の走行モードから1つのモードを選択する。
【0053】
EGVモードは、駆動モータ13を駆動させずにエンジン12を駆動し、エンジン12のみの回転動力で駆動輪である後輪3を駆動するモードである。EGVモードでは、エンジン12の回転動力がギヤ変速機20を介して駆動輪である後輪3に伝達されるように、クラッチアクチュエータ19によってメインクラッチ18が接続状態とされる。
【0054】
EVモードは、エンジン12を停止し、駆動モータ13が発生する動力で駆動輪である後輪3を駆動するモードである。EVモードでは、駆動モータ13の駆動時にエンジン12が抵抗にならないように、クラッチアクチュエータ19によってメインクラッチ18が切断状態とされる。
【0055】
HEVモードは、駆動モータ13およびエンジン12が発生する動力で駆動輪である後輪3を駆動するモードである。HEVモードでは、エンジン12の回転動力がギヤ変速機20を介して後輪3に伝達されるように、基本的に、メインクラッチ18が結合状態となっている。ただし、後述するクラッチ制御を実行する場合などのように、HEVモード中であっても、クラッチ18の動力伝達率は状況に応じて変更され得る。
【0056】
なお、EGVモードはなくてもよく、HEVモードは、エンジン12のみの回転動力で駆動輪である後輪3を駆動する状態を含んでもよい。すなわち、HEVモードは、少なくともエンジン12が発生させる動力で駆動輪3を駆動する1つの走行モードであってもよい。また、HEVモードは、エンジン12の出力トルクで、駆動モータ13で発電させながら車両1を走行させる発電走行状態も含む。
【0057】
エンジン制御部41bは、スロットル装置12c、点火装置(点火プラグ)12d、燃料供給装置12eを制御して、エンジン12の出力を調節する。例えば、エンジン制御部41bは、エンジン12の出力トルクが、運転者のアクセル操作量に応じた値になるようトルク制御を行う。
【0058】
モータ制御部41cは、駆動モータ13を制御して、駆動モータ13の出力を調節する。例えば、モータ制御部41cは、駆動モータ13の出力トルクが、運転者のアクセル操作量に応じた値になるようトルク制御を行う。また、モータ制御部41cは、駆動モータ13を、回生制動力を発生させる状態と、駆動輪を回転させる駆動力を発生させる状態との間で切り替える。エンジン制御部41bおよびモータ制御部41cは、モード切替部41aにより選択された走行モードに応じた制御を行う。
【0059】
クラッチ制御部41dは、クラッチ18の動力伝達率を変化させるためのクラッチ圧力指令値(ソレノイドバルブに与える電流値の指令値)をクラッチアクチュエータ19に出力する。
【0060】
本実施形態では、クラッチアクチュエータ19は、油圧アクチュエータである。すなわち、クラッチアクチュエータ19は、クラッチアクチュエータ19のクラッチ圧を変化させることによって駆動して、エンジン12から入力軸21への動力伝達率を変化させる。クラッチ圧と、クラッチ18の動力伝達率には所定の相関がある。すなわち、クラッチ圧は、クラッチ18の動力伝達率を示すパラメータである。クラッチ圧力が予め設定された開放相当圧力のとき、クラッチ18の動力伝達率が0%であり、クラッチ18は切断状態である。そして、クラッチ圧が当該開放相当圧力から上昇するにしたがって動力伝達率も上昇する。クラッチ圧が予め設定された締結相当圧力であるとき、または、当該締結相当圧力以上であるとき、クラッチ18の動力伝達率が100%であり、クラッチ18は結合状態である。
【0061】
また、クラッチ圧は、当該クラッチ圧を制御するソレノイドに流れる電流値と相関がある。このため、本実施形態では、クラッチ制御部41dは、電流センサ36により検出されたソレノイドに流れる電流値から、当該電流値に対応するクラッチ圧を推定し、推定したクラッチ圧から、当該クラッチ圧に対応する動力伝達率を推定する。電流センサ36により検出された電流値も、クラッチ18の動力伝達率を示すパラメータである。クラッチ制御部41dは、電流センサ36から取得した電流値に基づき、クラッチ圧力指令値を決定する。
【0062】
ただし、電流センサ36の代わりに、クラッチ圧を検出する油圧センサを車体に搭載されていてもよく、この場合、クラッチ制御部41dは、油圧センサから取得した値に基づき、クラッチ圧力指令値を決定してもよい。
【0063】
クラッチ制御部41dは、後述のショック低減処理におけるクラッチ制御を実行する。
【0064】
シフト制御部41eは、取得したシフト指令に応じて、シフトアクチュエータ30を制御する。
【0065】
状態判定部41fは、自動二輪車1の状態や自動二輪車1の各種要素の状態を判定する。例えば、状態判定部41fは、変速ギヤ23bに対して、当該変速ギヤ23bの収容空間Sに入り込んだドグ24の相対位置の変化が生じるか否かを判定する。例えば、状態判定部41fは、クラッチ18の係合度合いを判定する。例えば、状態判定部41fは、エンジン12の状態が後述する所定の不安定状態か否かを判定する。
【0066】
(ショック低減処理)
図6は、HEVモード時に変速ギヤ23bの収容空間S内でのドグ24の動力伝達方向の移動に起因するショックを低減するショック低減処理の流れを示すフローチャートである。ショック低減処理は、例えばシフトアクチュエータ30が駆動していない非シフト時に実行される処理である。ショック低減処理では、エンジン12を制御することによりショックを低減するエンジン制御モードと、クラッチアクチュエータ19を制御することによりショックを低減するクラッチ制御モードとが選択的に実行される。
【0067】
具体的には、状態判定部41fは、動力伝達方向における変速ギヤ23bに対するドグ24の相対位置の変化が生じるか否かを判定する(ステップS1)。変速ギヤ23に対するドグ24の相対位置の変化が生じないと判定した場合(ステップS1:Yes)、終了する。ショック低減処理が非シフト時に繰り返し実行されるため、非シフト時には相対位置の変化が生じるか否かが監視される。
【0068】
動力伝達方向における変速ギヤ23bに対するドグ24の相対位置の変化が生じるか否かの判定は、変速ギヤ23bに対してドグ24の相対位置の変化が生じる前に実行され得る。つまり、動力伝達方向における変速ギヤ23bに対するドグ24の相対位置の変化が生じるか否かの判定には、動力伝達方向における変速ギヤ23bに対するドグ24の相対位置の変化がこれから生じることの予測が含まれる。ただし、変速ギヤ23bに対してドグ24の相対位置の変化が生じるか否かの判定が、変速ギヤ23bに対してドグ24の相対位置の変化が生じた直後になされてもよい。この場合、変速ギヤ23bに対してドグ24の相対位置の変化が生じたことを、各種センサの値から検知または推定してもよい。判定は、遅くとも変速ギヤ23bに対してドグ24の相対位置の変化が終了する時点、つまりドグ24が変速ギヤ23bとの衝突より前になされればよい。
【0069】
状態判定部41fは、変速ギヤ23bに対してドグ24の相対位置の変化が生じることを示す判定条件が満たされた否かを判定する。本実施形態では、判定条件は、車両の状態の切り替わりを判定するための条件を含む。具体的には、例えば判定条件は、以下の(a1)、(a2)、または(a3)の切り替わりの有無を判定するための条件を含む。
(a1)走行停止状態から発進加速状態への切り替わり
(a2)減速状態から加速状態への切り替わり
(a3)加速状態から減速状態への切り替わり
【0070】
なお、(a1)の切り替わりは、変速ギヤ23に対するドグ24の位置が負位置または中立位置から正位置へと移動することに対応する。(a2)の切り替わりは、変速ギヤ23に対するドグ24の位置が負位置から正位置へと移動することに対応する。(a2)の切り替わりは、駆動輪3からエンジン12側に動力が伝達される状態から、エンジン12から駆動輪3に動力が伝達される状態への切り替わりとも言える。(a3)の切り替わりは、変速ギヤ23に対するドグ24の位置が正位置から負位置へと移動することに対応する。(a2)の切り替わりは、エンジン12から駆動輪3に動力が伝達される状態から、駆動輪3からエンジン12側に動力が伝達される状態への切り替わりとも言える。
【0071】
状態判定部41fは、各種センサの検出値に基づいて、(a1)、(a2)、または(a3)の切り替わりが生じるか否かを判定する。例えば、状態判定部41fは、車速に基づいて、(a1)、(a2)、または(a3)の切り替わりが生じるか否かを判定してもよい。
【0072】
また、状態判定部41fは、車速以外のパラメータに基づいて、(a1)、(a2)、または(a3)の切り替わりが生じるか否かを判定してもよい。例えば、状態判定部41fは、収容空間Sに対するドグ24の位置を推定して、その推定結果とアクセル操作量とに基づいて、(a1)、(a2)、または(a3)の切り替わりが生じるか否かを判定してもよい。例えば、状態判定部41fは、ブレーキ操作後にアクセル操作があったことを検知することで、(a2)の切り替わりが生じると判定してもよい。例えば、状態判定部41fは、停止時のアクセル操作があったことを検知することで、(a1)の切り替わりが生じると判定してもよい。例えば、状態判定部41fは、アクセル操作やブレーキ操作なしで、減速比を上げるシフトダウン操作があったことを検知することで、(a3)の切り替わりが生じると判定してもよい。
【0073】
なお、判定条件は、上記(a1)、(a2)、(a3)の切り替わりの有無を判定するための条件に限られない。変速ギヤ23bに対してドグ24の相対位置の変化が生じる状況は、(a1)、(a2)、または(a3)に限られないためである。例えば、車両の状態が、駆動源の出力トルクが走行に寄与していない状態である慣性走行状態から、加速状態または減速状態に切り替わる場合にも、動力伝達方向における変速ギヤ23bに対するドグ24の相対位置の変化は生じ得る。このため、判定条件は、慣性走行状態から加速状態または減速状態への切り替わりの有無を判定するための条件を含んでもよい。
【0074】
また、例えば、車両が一定速度での走行を維持している場合にも、車両が走行する道の傾斜角度や、車両が受ける風の向きの変化などによって、車両を一定速度で走行させるのに必要となる伝達トルクは変化し得る。つまり、車両が一定速度での走行を維持する場合にも、動力伝達方向における変速ギヤ23bに対するドグ24の相対位置の変化は生じ得る。例えば判定条件は、車速が一定であり、且つ、車両の前後方向の傾斜の変化が所定値以上であるという条件を含んでもよい。
【0075】
また、例えば、変速段を変更する場合にも、動力伝達方向における変速ギヤ23bに対するドグ24の相対位置の変化は生じ得る。例えば判定条件は、シフトスイッチ17に対する運転者の操作があったという条件を含んでもよい。
【0076】
このように、上記(a1)、(a2)、(a3)の切り替わり以外にも、変速ギヤ23bに対してドグ24の相対位置の変化が生じ得る。変速ギヤ23bに対してドグ24の相対位置の変化が生じることを示す判別条件を適宜設定すればよい。
【0077】
例えば、状態判定部41fは、収容空間Sに対するドグ24の位置を推定してもよく、その推定結果を用いて、変速ギヤ23bに対してドグ24の相対位置の変化が生じるか否かを判定してもよい。例えば状態判定部41fは、駆動源に対するトルク指令値と、駆動源のイナーシャとに基づき、変速ギヤ23bに対するドグ24の角度位置を推定してもよい。
【0078】
変速ギヤ23に対するドグ24の相対位置の変化が生じると判定した場合(ステップS1:Yes)、状態判定部41fは、クラッチ18が完全締結しているか否か、言い換えれば、クラッチ18の動力伝達率が100%であるか否かを判定する(ステップS2)。
【0079】
クラッチ18の動力伝達率が100%であるか否かは、例えば、電流センサ36により検出されたソレノイドに流れる電流値が、締結相当圧力以上の圧力に対応しているか否かにより判定し得る。あるいは、入力軸21の回転数を検知する回転数センサの検出値と、エンジン回転数を入力軸21の回転数に換算した値とが一致するか否かにより判定してもよい。
【0080】
クラッチ18が完全締結していると判定した場合(ステップS1:Yes)、状態判定部41fは、エンジン12の状態が所定の不安定状態かどうかを判定する(ステップS3)。なお、ステップS2,S3は順番が逆でもよい。エンジン12の所定の不安定状態について、詳細は後述する。
【0081】
エンジン12の状態が所定の不安定状態でないと判定した場合(ステップS3:Yes)、ショック低減のためのエンジン制御モードを選択し、エンジン制御モードに基づく制御を実行する(ステップS4)。
【0082】
エンジン制御モードでは、エンジン制御部41bが、ドグ24と変速ギヤ23との相対位置の変化に起因するドグ24と変速ギヤ23との間の衝突力が低減するように出力を変化させるようエンジン12を制御する。例えばエンジン制御モードでは、エンジン制御部41bは、ドグ24と変速ギヤ23との間の接触速度または伝達トルクが低減するように出力を変化させるようエンジン12を制御する。言い換えれば、エンジン制御モードは、変速ギヤ23bに対してドグ24が衝突する前に、スロットル装置12c、点火装置12d、燃料供給装置12eの少なくとも1つを制御してエンジン12の出力を調整することによって、変速ギヤ23bとドグ24との間の衝突力を低減するというものである。
【0083】
ただし、エンジン制御では、変速ギヤ23bに対するドグ24の相対速度差を安定的に調整するのが難しい、あるいは、適さない状況がある。ステップS2,S3では、このような状況か否かを判定している。例えばステップS2では、変速ギヤ23bに対するドグ24の相対速度差を安定的に調整するのが難しい、あるいは、適さない状況として、クラッチ18が半クラッチ状態にある状況を特定している。なお、クラッチ18が半クラッチ状態にある状況としては、エンジン12で車両を発進させる際に発進時のショックを低減するために半クラッチ状態とする状況や、車両走行中のスリップを抑制するためにクラッチを半クラッチ状態にする状況、などがある。
【0084】
例えばステップS3の所定の不安定状態とは、エンジン12によって変速ギヤ23bに対するドグ24の相対速度差を安定的に調整できないまたは調整しづらい状態である。例えば、エンジンの回転数領域には、エンジン振動が大きくなる領域、応答性が遅い領域、トルク出力の変化をさせにくい領域、エンジンストールが起こりやすい領域などがある。また、エンジン制御では、0付近のトルクを出力しづらい。このため、エンジン回転数が上記の領域にある状況やエンジン12の出力トルクとして低トルクを要求する状況は、エンジン制御に不利な状況と言える。従って、ステップS4では、エンジン制御に不利な状況にないかどうかを判定している。
【0085】
エンジン12の所定の不安定状態は、例えば、以下の(b1)、(b2)、(b3)、(b4)の少なくとも1つを含み得る。
(b1)エンジン回転数が、エンジンストールが起こりやすい所定の低回転数領域にある状態
(b2)変速ギヤ23bに対するドグ24の相対速度差を調整するために入力軸21に伝達されるトルクとして要求されるトルクが、所定値以下である状態
(b3)スロットル開度が絞られた状態
(b4)エンジン12(例えばエンジン12の気筒)が十分に温まっていない状態
【0086】
例えば、状態判定部41fは、エンジン回転数が、所定の回転数より以下であると判定することにより、上記(b1)の状態であることを判定し得る。また、例えば、状態判定部41fは、入力軸21に伝達されるトルクとして要求されるトルクを算出し、算出した要求トルクが所定のトルクより以下であると判定することにより、上記(b2)の状態であることを判定し得る。また、例えば、状態判定部41fは、スロットル開度が所定開度以下であると判定することにより、上記(b3)の状態であることを判定し得る。また、例えば、状態判定部41fは、エンジン12に配置された、エンジン12の温度を検出する温度センサの検出温度が所定温度以下であると判定することにより、上記(b4)の状態であることを判定し得る。
【0087】
クラッチ18が完全締結していないと判定した場合(ステップS2:No)、または、エンジン12の状態が所定の不安定状態であると判定した場合(ステップS3:No)、ショック低減のためのクラッチ制御モードを選択し、クラッチ制御モードに基づく制御を実行する(ステップS5)。
【0088】
なお、ステップS2では、クラッチ18が半クラッチ状態か否かを判定されてもよい。
状態判定部41fは、クラッチ18の動力伝達率が0%より大きく且つ100%未満かを判定してもよい。半クラッチ状態と判定した場合、ステップS5に移行してもよい。
【0089】
クラッチ制御モードでは、クラッチ制御部41dが、ドグ24と変速ギヤ23との相対位置の変化に起因するドグ24と変速ギヤ23との間の衝突力が低減するように、クラッチ18の動力伝達率を変更するようクラッチアクチュエータ19を制御する。例えば、クラッチ制御部41dが、ドグ24と変速ギヤ23との間の接触速度または伝達トルクが低減するように、クラッチ18の動力伝達率を変更するようクラッチアクチュエータ19を制御する。例えば、クラッチ制御部41dが、入力軸21とともに回転する駆動部品の見かけ上のイナーシャが低減するように、クラッチ18の動力伝達率を変更するようクラッチアクチュエータ19を制御する。クラッチ制御モードについて、図7および8を参照して説明する。
【0090】
(クラッチ制御)
図7は、車両1が減速状態から加速状態へ移行する際にクラッチ制御モードでの制御が実行された場合の車速変化およびクラッチ18の動力伝達率の変化の一例を示すグラフである。車両1が減速状態から加速状態へ移行する場合、言い換えれば、トルクの伝達状態が負トルク伝達状態から正トルク伝達状態に切り替わる場合、変速ギヤ23に対するドグ24の相対位置は、第2面25bに当接する負位置から第1面25aに当接する正位置へ移る。
【0091】
図7に示すように、クラッチ制御モードでは、クラッチ制御部41dが、相対位置が負位置から正位置へ達するまでの間の一部の期間である所定期間(図7の時点t1から時点t2までの期間)、クラッチ18の動力伝達率が設定伝達率Ps1以下に維持されるようにクラッチアクチュエータ19を制御する。本例では、クラッチ制御部41dが、所定期間、クラッチ18の動力伝達率が設定伝達率Ps1に維持されるようクラッチアクチュエータ19を制御する。所定期間経過後、クラッチ制御部41dが、クラッチ18の動力伝達率を設定伝達率Ps1から100%に増加させるようクラッチアクチュエータ19を制御する。
【0092】
なお、図7では、車両が減速する間、動力伝達率が0%となっているように示したが、車両が減速する間、動力伝達率が100%となっていてもよい。
【0093】
図8は、クラッチ制御モードでショックを低減する効果を説明するためのグラフである。図8には、車両1が減速状態から加速状態へ移行する際にクラッチ制御モードでの制御が実行された場合における各種値の変化が示されている。
【0094】
図8の上のグラフには、クラッチ18から入力軸21へ伝達される伝達トルクが実線で示され、クラッチ18から入力軸21へ伝達されるトルクとして要求される要求トルクが二点鎖線で示される。要求トルクは、アクセル操作量に応じた値である。
【0095】
図8の下のグラフには、遊びをもって互いに係合するドグ24と変速ギヤ23bの各々の回転速度が示されている。ドグ24と変速ギヤ23bのうち、入力軸21と一体回転する要素(例えばドグ24)の回転速度を、入力側回転数として実線で示し、出力軸22と一体回転する要素(例えばギヤ23b)の回転速度を、出力側回転数として破線で示す。なお、クラッチ制御モードによるショック低減を行わなかった場合、つまり、クラッチ18の動力伝達率を100%とした場合の入力側回転数を比較例として二点鎖線で示す。
【0096】
図8の上のグラフに示すように、アクセル操作量の増加に伴って、要求トルクが増加し、その結果、エンジン12の出力も増加する。その結果、時点t3に至るまでは、伝達トルクは要求トルクとともに上昇する。
【0097】
時点t3に到達すると、伝達トルクは、微小なトルクに維持される。このトルクは、設定伝達率Ps1に応じたトルクである。すなわち、クラッチ18で滑りが生じるため、エンジン12の出力トルクの一部しかクラッチ18を介して入力軸21に伝達されない。このため、図8の下のグラフに示すように、エンジン12の出力トルクの全部が入力軸21に伝達される比較例と比べて、入力側回転数と出力側回転数との乖離は抑えられる。その結果、クラッチ制御を実行した場合にドグ24と変速ギヤ23bとが接触する際の回転数差Δω1は、クラッチ制御を実行しなかった比較例の回転数差Δω0と比べて小さくなる。従って、変速ギヤ23bの収容空間S内でのドグ24の移動に起因するショックを低減できる。
【0098】
なお、図8において、動力伝達率を設定伝達率Ps1に維持する期間が終了し、その後動力伝達率を100%へと上昇させたことで、時点t4でトルクが上昇している。また、ドグ24と変速ギヤ23bとが接触するタイミングは、入力側回転数と出力側回転数との差分や第1面25aから第2面25bまでの距離(つまり遊びの範囲)に依存する。ドグ24と変速ギヤ23bとが接触するタイミングは、トルクが上昇する時点t4より前になっても後になってもよいが、当該接触タイミングは、トルクが上昇する時点t4より前であることが望ましい。また、図8において、ドグ24と変速ギヤ23bとが衝突することによって、入力側回転数は変化し得るが、説明を簡単にするために、図8では、ドグ24と変速ギヤ23bとの衝突による入力側回転数の変化は省略する。
【0099】
なお、車両1が減速状態から加速状態へ移行する際だけでなく、停止状態から発進加速状態へ移行する場合にも、同様のクラッチ制御を実行する。すなわち、ステップS5のクラッチ制御モードが選択された場合には、クラッチ制御部41dが、相対位置が正位置へ達するまでの間の少なくとも一部の期間、クラッチ18の動力伝達率が設定伝達率Ps1に維持されるようクラッチアクチュエータ19を制御し、その後、クラッチ18の動力伝達率を設定伝達率Ps1から100%に増加させるようクラッチアクチュエータ19を制御する。減速状態から加速状態へ移行するときと、停止状態から発進加速状態へ移行するときとで、設定伝達率Ps1が異なってもよい。
【0100】
(作用効果)
以上に説明したように、本実施形態によれば、変速ギヤ23に対するドグ24の相対位置が変化する際に、クラッチ18の動力伝達率を変化させる。これによって、駆動源からドグ24に伝達される動力を調整して、変速ギヤ23に対するドグ24の相対速度差を小さくすることができる。変速ギヤ23に対するドグ24の相対位置が変化する際に、変速ギヤ23とドグ24との間の接触速度または伝達トルクが低減するように、クラッチ18の動力伝達率を変化させる。すなわち、駆動源から入力軸21に伝達される動力をクラッチ18の動力伝達率を変えることで調節する。このように制御することで、駆動源の出力変化に依らずに、互いに係合する変速ギヤ23とドグ24とが遊びの範囲内で相対移動することに起因する衝突力を低減することができる。
【0101】
また、駆動源の出力変化とは別の手段であるクラッチ18で衝突力を低減することで、ショック低減可能なシチュエーションを増やすことができる。例えば、駆動源の出力変化では、ショック低減を図りにくい状況でもショック低減を実現できる。
【0102】
また、本実施形態では、クラッチ制御モードとエンジン制御モードとの2つの制御モードがあることで、状況に適した制御モードを選択することができる。例えば、エンジン制御では、変速ギヤ23bに対するドグ24の相対速度差を調整するのに適さない状況にある場合には、クラッチ制御モードを選択できる。たとえばエンジン制御によるショック低減ではエンジン12がストールする領域でも、クラッチ18を用いたショック低減制御を実現でき、広範囲の状況で、運転者が感じるショックを防ぐことができる。
【0103】
例えば、クラッチ18が半クラッチ状態である場合、エンジン12の出力変化によって変速ギヤ23とドグ24との間の相対速度を調整することは難しいが、このような状況にある場合には、クラッチ制御モードを選択できる。
【0104】
例えば、エンジン12は、0付近の微小なトルクの出力調整が難しい。また、内燃機関は、回転数域によっては出力トルクを変化させづらかったり、エンジンストールを起こしやすかったりするが、このような状況にある場合には、クラッチ制御モードを選択できる。
【0105】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る制御装置40のショック低減処理について、図9および10を参照して説明する。なお、第2実施形態において、第1実施形態と重複する説明は省略する。第2実施形態において、自動二輪車1の構造は第1実施形態と同じであるため、説明を省略する。本実施形態では、制御装置40は、変速ギヤ23に対するドグ24の相対位置の変化が生じると判定した場合に、ドグ24と変速ギヤ23との間の衝突力が低減するようにクラッチアクチュエータ19だけでなく駆動モータ13も制御する。
【0106】
図9は、第2実施形態におけるショック低減処理の流れを示すフローチャートである。図9のショック低減処理において、ステップS1,S2,S3,S4,S5は第1実施形態で説明されたものと同じであるため、説明を省略する。本実施形態では、ステップS5のクラッチ制御の開始後に、駆動モータ13を用いたブレーキ制御を実行する(ステップS6)。ブレーキ制御は、駆動モータ13によって変速ギヤ23に対するドグ24の相対速度を低減する制御である。
【0107】
図10は、クラッチ制御およびブレーキ制御の双方を実行することによるショック低減効果を説明するためのグラフである。図10の上のグラフには、図8と同様、入力軸21への伝達される伝達トルクが実線で示され、要求トルクが二点鎖線で示される。ただし、図8と異なり、図10の上のグラフの伝達トルクは、ブレーキ制御を行った場合の伝達トルクであり、クラッチ18から入力軸21への伝達されるトルクと駆動モータ13から入力軸21へ伝達されるトルクの合計トルクである。
【0108】
図10の下のグラフには、遊びをもって互いに係合するドグ24と変速ギヤ23bの各々の回転速度が示されている。ブレーキ制御を行った場合の入力側回転数を実線で示し、ブレーキ制御を行わなかった場合の入力側回転数を一点鎖線で示す。また、図8と同様、出力側回転数は破線で示し、クラッチ制御もブレーキ制御も行っていない比較例は二点鎖線で示す。
【0109】
図10の上のグラフに示すように、アクセル操作量の増加に伴って、要求トルクが増加し、その結果、エンジン12の出力も増加する。その結果、時点t3に至るまでは、伝達トルクは要求トルクとともに上昇する。
【0110】
時点t3に到達すると、クラッチ制御によって、エンジン12からクラッチ18を介して入力軸21に伝達されるトルクは、微小なトルクに維持される。その後、クラッチ制御の開始時点から設定時間経過した時点t5に、ブレーキ制御が開始される。設定時間は、ショック低減効果をもたらすよう適宜設定される。例えばギヤ23とドグ24とが衝突するより前にブレーキ制御が開始されるよう設定される。
【0111】
ブレーキ制御の開始タイミングは、クラッチ制御の開始時点から設定時間経過した時点に限定されない。状態判定部41fが変速ギヤ23bに対するドグ24の位置を推定し、その推定結果を用いて決定してもよい。例えば、設定時間は、固定値でなく、入力側回転数と出力側回転数との差分など、何らかのパラメータに応じた変動値でもよい。
【0112】
時点t5から時点t6にかけて、ブレーキ制御により、入力軸21には負方向のトルク、つまり入力軸21の回転数を低減させる方向のトルクが駆動モータ13から伝達される。その結果、図10の下のグラフに示すように、ブレーキ制御なしの場合と比べて、入力側回転数と出力側回転数との乖離は抑えられる。その結果、クラッチ制御とブレーキ制御の双方を実行した場合にドグ24と変速ギヤ23bとが接触する際の回転数差Δω2は、クラッチ制御とブレーキ制御のうちクラッチ制御のみを実行したときの回転数差Δω1と比べて小さくなる。これは、変速ギヤ23bの収容空間S内でのドグ24の移動に起因するショックの低減につながる。
【0113】
従って、本実施形態によれば、クラッチ制御でのクラッチ18の動力伝達率の変更に加え、さらにブレーキ制御での駆動モータ13の動力の変更も行うことにより、伝達部材同士の衝突力の低減効果をより高めることができる。
【0114】
<その他の実施形態>
本開示は前述した実施形態に限定されるものではなく、その構成を変更、追加、又は削除することができる。
【0115】
例えば、上記実施形態では、ドグ24が共回転ギヤ23aと一体型であったが、ドグ24が共回転ギヤ23aとは別体であってもよい。例えば、共回転ギヤ23aを、入力軸21または出力軸22に対しスライド自在にする代わりに、ドグ24を有するドッグリングを、入力軸21または出力軸22に対しスライド自在に設けてもよい。また、ドグが、入力軸21および出力軸22の双方の周りに配置されなくてもよく、全ての変速段のドグが、入力軸21および出力軸22のいずれか一方の軸のみに支持された回転体(ギヤやドッグリングなど)に配置されてもよい。
【0116】
また、上記実施形態では、シフトアクチュエータによりドグを移動させる構成が説明されたが、シフトアクチュエータにより移動する係合部はこれに限定されない。例えば、変速ギヤにドグが固定されており、当該ドグが係合する係合孔(または収容空間)を有する部材をシフトアクチュエータにより移動させてもよい。すなわち、変速ギヤ対を動力伝達状態にするために、当該変速ギヤ対に係合する係合部は、ドグでもよいし、ドグが係合する要素(例えば係合孔)でもよい。また、当該係合部の形状、つまりドグの形状やドグが係合する係合孔の形状も特に制限されない。
【0117】
上記実施形態では、ドグ24は、「第1伝達部材」の一例であり、ドグ24が入り込む収容空間Sを有する変速ギヤ23は、「第2伝達部材」の一例であることが説明されたが、第1伝達部材と第2伝達部材とはこれに限定されない。例えば、第1伝達部材が変速ギヤで、第2伝達部材がその変速ギヤと係合するドグであってもよい。第1伝達部材、第2伝達部材は、変速ギヤやドグ以外の動力伝達部品、たとえば遊びが設定されて配置される一対の歯車対でもよい。
【0118】
遊びは、収容空間内におけるドグの遊びでなくてもよい。例えば第1伝達部材と第2伝達部材との間に1以上の動力伝達要素が介在していてもよく、第1伝達部材と第2伝達部材との間の遊びは、第1伝達部材から第2伝達部材までの動力伝達経路における累積的な遊びでもよい。
【0119】
上記実施形態では、ステップS4のエンジン制御とステップS5のクラッチ制御とが選択的に実行されたが、これらエンジン制御とクラッチ制御の併用する制御を実行してもよい。すなわち、駆動源の出力変化とクラッチ18の動力伝達率の変化と実行することによってショック低減を実現してもよい。
【0120】
また、上記実施形態では、第1駆動源が内燃機関であり、第2駆動源が電動モータである例が説明されたが、入力軸に駆動力を伝達する駆動源の種類はこれに限定されない。例えば、駆動源は、内燃機関、外燃機関、電動モータ、流体機械などであり得る。エンジンの種類も特に限定されず、例えばエンジンは、レシプロエンジンでもよいし、ロータリーエンジンでもよい。例えばエンジンは、ガソリンエンジンでもよいし、ディーゼルエンジンでもよい。例えばエンジンは、2ストロークエンジンでもよいし、4ストロークエンジンでもよい。第1駆動源と第2駆動源とが、双方とも同じ種類の原動機でもよい。
【0121】
また、上記実施形態では、車両が、第1駆動源と第2駆動源とを備えるハイブリッド車両であったが、車両はハイブリッド車両でなくてもよい。例えば車両は、クラッチの上流側に配置された駆動源として、エンジンおよび電動モータの一方のみを備えるものであってもよい。つまり、車両が、走行駆動源として内燃エンジンのみを備えるエンジン車両でもよいし、走行駆動源として電動モータのみを備える電動車両でもよい。走行駆動源として電動モータのみを備える電動車両の場合、駆動源である電動モータから駆動輪までの動力伝達経路における電動モータと第1伝達部材(例えば変速機の入力軸)との間に、クラッチが配置される。言い換えれば、電動モータは、動力伝達経路におけるクラッチの上流側に配置されていればよい。
【0122】
なお、動力伝達経路におけるクラッチの上流側に電動モータが配置された車両の制御での場合、上述したショック低減のためのクラッチ制御は特に有効である。というのも、電動モータのみ備える電動車両の制御や、ハイブリッド車両における非エンジン走行の制御では、内燃機関の振動が生じないため、エンジン走行の制御の場合と比べて、運転者が動力切換えに伴うショックを感じやすいためである。しかし、動力伝達経路におけるクラッチの上流側に電動モータが配置された車両でも、上述した上述したショック低減のためのクラッチ制御を実行することで、互いに係合する第1伝達部材と第2伝達部材とが遊びの範囲内で相対移動することに起因する運転者が感じるショックを好適に低減することができる。
【0123】
また、上述したショック低減のためのクラッチ制御は、例えばトルクの伝達状態が上述した負トルク伝達状態と正トルク伝達状態の一方から他方に切り替わる場合のような、動力伝達状態が切り替わる場合に、所定角度空転する遊び構造を備える動力伝達構造に好適に用いられる。
【0124】
車両は、自動二輪車に限定されない。例えば、車両は、例えば、自動三輪車や自動四輪車であってもよい。上記実施形態では、自動二輪車1の動力システムのための制御装置40が説明されたが、制御装置は、自動三輪車や自動四輪車など、別の種類の車両の動力システムにも適用可能である。
【0125】
上記実施形態では、クラッチ圧とクラッチ18の動力伝達率との間の相関として、クラッチ圧が開放相当圧力から上昇するにしたがって動力伝達率が上昇することが説明されたが、クラッチ圧が開放相当圧力から減少するにしたがって動力伝達率が上昇してもよい。すなわち、クラッチアクチュエータは、クラッチ圧の上昇によって、スプリングによる当接部材を接触させるスプリングの付勢力に抗して、一対の当接部材を離間する方向にクラッチを動作させてもよい。
【0126】
上記実施形態では、クラッチアクチュエータとして、油圧アクチュエータが説明されたが、クラッチアクチュエータはこれに限定されない。例えば、クラッチアクチュエータは、電動モータであってもよい。この場合、指令に対する応答性が優れているソレノイド式のアクチュエータを用いることが好ましい。また、クラッチの動力伝達率に対応するパラメータを検出するセンサは、油圧センサまたは電流センサ36を用いる代わりに、駆動側部材と被駆動側部材の一方に対する他方の変位を検出する変位センサであってもよい。
【0127】
また、上記実施形態では、車両は、運転者によるクラッチ操作とクラッチアクチュエータによるクラッチ操作が併用可能な構造であってもよい。言い換えれば、車両は、クラッチアクチュエータだけでなく、運転者の操作に機械的に連動してクラッチを動作させる機構を備えてもよい。
【0128】
また、上記実施形態では、車両が減速状態から加速状態へ移行する際にクラッチ制御について説明されたが、車両が加速状態から減速状態へ移行する際のクラッチ制御も、同様の制御である。
【0129】
図11は、加速状態から減速状態へ移行する際の車速変化およびクラッチの動力伝達率の変化の一例を示すグラフである。加速状態にある時点t7までは、動力伝達率は100%となっている。クラッチ制御モードでは、クラッチ制御部41dが、相対位置が正位置から負位置へ達するまでの間の一部の期間である所定期間(図11の時点t7から時点t8までの期間)、クラッチ18の動力伝達率が設定伝達率Ps2以下に維持されるようクラッチアクチュエータ19を制御する。本例では、クラッチ制御部41dが、所定期間、クラッチ18の動力伝達率が設定伝達率Ps2に維持されるようクラッチアクチュエータ19を制御する。所定期間経過後、クラッチ制御部41dが、クラッチ18の動力伝達率を設定伝達率Ps2から0%に低減させるようクラッチアクチュエータ19を制御する。
【0130】
このように、加速状態から減速状態へ移行する際に、クラッチ18の動力伝達率が100%から設定伝達率Ps2以下に低減される。つまり、クラッチ18では滑りが生じるようになり、入力軸21とともに回転する駆動部品の見かけ上のイナーシャが低減する。このため、ギヤ23に対してドグ24が衝突する際の衝突力が低減する。
【0131】
なお、加速状態から減速状態へ移行する際のクラッチ制御における設定伝達率Ps2は、車両が減速状態から加速状態へ移行する際のクラッチ制御における設定伝達率Ps1とは異なってもよい。例えば、設定伝達率Ps2は、設定伝達率Ps1より大きくてもよいし、小さくてもよい。
【0132】
前記第2伝達部材に対する前記第1伝達部材の相対位置の変化が生じるか否かの判定は、前記車両の状態が停止状態から加速状態へ移行する状態にあるか否かの判定、前記車両の状態が減速状態から加速状態へ移行する状態にあるか否かの判定、または、前記車両の状態が加速状態から減速状態へ移行する状態にあるか否かの判定を含んでもよい。
【0133】
本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、または、それらの任意の組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアまたはプロセッサの構成に使用される。
【0134】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0135】
[項目1]
動力を発生させる駆動源と、
駆動輪と、
前記駆動源と前記駆動輪との間で動力が伝達される動力伝達経路に配置された第1伝達部材と、
前記動力伝達経路における前記第1伝達部材と前記駆動輪との間に配置され、前記第1伝達部材に対し遊びの範囲内で動力伝達方向に相対移動可能に接続され、前記第1伝達部材に前記動力伝達方向に接触することで前記第1伝達部材から動力が伝達される第2伝達部材と、
前記動力伝達経路における前記駆動源と前記第1伝達部材との間に配置され、前記駆動源から前記第1伝達部材への動力伝達率を変更可能なクラッチと、
前記クラッチを動作させるクラッチアクチュエータと、を備える車両の制御装置であって、
前記制御装置は、処理回路を備え、
前記処理回路は、
前記第2伝達部材に対する前記第1伝達部材の相対位置の変化が生じるか否かを判定し、
前記相対位置の変化が生じると判定した場合に、前記相対位置の変化に起因する前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の衝突力が低減するように前記動力伝達率が変化するよう前記クラッチアクチュエータを制御するように構成されている、車両の制御装置。
【0136】
例えば前記処理回路は、前記相対位置の変化が生じると判定した場合に、前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の接触速度または伝達トルクが低減するように前記クラッチの前記動力伝達率を変更するよう前記クラッチアクチュエータを制御するように構成されている。
【0137】
前記構成によれば、第2伝達部材に対する第1伝達部材の相対位置が変化する際に、相対位置の変化に起因する第1伝達部材と第2伝達部材との間の衝突力が低減するように、クラッチの動力伝達率を変化させる。すなわち、駆動源から第1伝達部材に伝達される動力をクラッチの動力伝達率を変えることで調節する。このようにクラッチを制御することで、駆動源の出力変化に依らずに、伝達部材同士の衝突力を低減することができる。また、駆動源の出力変化とは別の手段であるクラッチで衝突力を低減することで、ショック低減可能なシチュエーションを増やすことができる。
【0138】
[項目2]
前記処理回路は、前記相対位置の変化が生じると判定した場合に、前記相対位置の変化に起因する前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の衝突力が低減するように前記動力伝達率を変更するよう前記クラッチアクチュエータを制御するクラッチ制御モードと、前記相対位置の変化に起因する前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の衝突力が低減するように出力を変更するよう前記駆動源を制御する駆動源制御モードと、の間で選択的に実行するように構成されている、項目1に記載の車両の制御装置。
【0139】
前記構成によれば、第2伝達部材に対する第1伝達部材の相対速度差を低減するための2つの制御モードがあることで、状況に適した制御モードを選択することができる。
【0140】
[項目3]
前記処理回路は、前記相対位置の変化が生じると判定し、且つ、前記動力伝達率が100%未満であると判定した場合に、前記クラッチ制御モードを選択するように構成されている、項目2に記載の車両の制御装置。
【0141】
前記構成によれば、クラッチが結合状態にない場合、例えば半クラッチ状態である場合には、駆動源の出力制御では第2伝達部材に対する第1伝達部材の相対速度差の調整が難しい。このような状況でも、クラッチ制御により第2伝達部材に対する第1伝達部材の相対速度差を低減できる。
【0142】
[項目4]
前記駆動源は、内燃機関であり、
前記処理回路は、前記相対位置の変化が生じると判定し、且つ、前記内燃機関の状態が所定の不安定状態にあると判定した場合に、前記クラッチ制御モードを選択するように構成されている、項目2または3に記載の車両の制御装置。
【0143】
例えば、内燃機関は、0付近の微小なトルクの出力調整が難しい。また、内燃機関は、回転数域によっては出力トルクを変化させづらかったり、エンジンストールを起こしやすかったりする。前記構成によれば、内燃機関が第2伝達部材に対する第1伝達部材の相対速度差を調整するのに向かない所定の不安定状態にある場合には、クラッチ制御により第2伝達部材に対する第1伝達部材の相対速度差を低減できる。
【0144】
[項目5]
前記処理回路は、
前記駆動輪から前記駆動源へトルクが伝達される負トルク伝達状態から、前記駆動源から前記駆動輪へトルクが伝達される正トルク伝達状態に切り替わる第1切替が生じるか否かを判定することによって、前記相対位置が負位置から正位置へ変化するか否かを判定し、
前記第1切替が生じると判定した場合に、前記相対位置が負位置から正位置へ達するまでの間の少なくとも一部の期間に、前記動力伝達率が設定伝達率以下に維持されるよう前記クラッチアクチュエータを制御するように構成されている、項目1乃至4のいずれかに記載の車両の制御装置。
【0145】
相対位置が負位置から正位置へ変化する過程において、第1伝達部材は、第2伝達部材に対して相対速度差がない状態から、相対速度が高くなった状態を経由して、再度相対速度差がない状態に移行する。前記構成によれば、相対位置が負位置から正位置へ達するまでの間の少なくとも一部の期間に動力伝達率が設定伝達率以下に維持されるため、第1伝達部材と第2伝達部材との相対速度差を抑えて、伝達部材同士の衝突速度を低減できる。これによって、動力が伝達される方向の切り替わりに起因するショックを低減することができる。
【0146】
[項目6]
前記処理回路は、
前記駆動源から前記駆動輪へトルクが伝達される正トルク伝達状態から、前記駆動輪から前記駆動源へトルクが伝達される負トルク伝達状態に切り替わる第2切替が生じるか否かを判定することによって、前記相対位置が正位置から負位置へ変化するか否かを判定し、
前記第2切替が生じると判定した場合に、前記相対位置が前記正位置から負位置へ達するまでの間の少なくとも一部の期間に、前記動力伝達率が設定伝達率以下に維持されるよう前記クラッチアクチュエータを制御するように構成されている、項目1乃至5のいずれかに記載の車両の制御装置。
【0147】
相対位置が正位置から負位置へ変化する過程において、第1伝達部材は、第2伝達部材に対して相対速度差がない状態から、相対速度が高くなった状態を経由して、再度相対速度差がない状態に移行する。前記構成によれば、相対位置が正位置から負位置へ達するまでの間の少なくとも一部の期間に動力伝達率が設定伝達率以下に維持されるため、第1伝達部材と第2伝達部材との相対速度差を抑えて、伝達部材同士の衝突速度を低減できる。これによって、動力が伝達される方向の切り替わりに起因するショックを低減することができる。
【0148】
[項目7]
前記車両は、前記第1伝達部材に対し前記クラッチを介さずに伝達される動力を発生させるサブ動力源を更に備え、
前記処理回路は、前記相対位置の変化が生じると判定した場合に、前記第2伝達部材に対する前記第1伝達部材の相対速度が低減するように動力を発生させるよう前記サブ駆動源を制御するように構成されている、項目1乃至5のいずれかに記載の車両の制御装置。
【0149】
前記構成によれば、クラッチの動力伝達率の変更に加え、さらにサブ動力源の動力を変化させるため、伝達部材同士の衝突力の低減効果をより高めることができる。
【0150】
[項目8]
前記サブ動力源は、電動モータであり、
前記処理回路は、前記電動モータを、回生制動力を発生させる状態と、前記駆動輪を回転させる駆動力を発生させる状態との間で切り替えるように構成されている、項目1乃至7のいずれかに記載の車両の制御装置。
【0151】
前記構成によれば、状況に応じて回転数差を低減しやすい。
【0152】
[項目9]
動力を発生させる駆動源と、
駆動輪と、
前記駆動源と前記駆動輪との間で動力が伝達される動力伝達経路に配置された第1伝達部材と、
前記動力伝達経路に配置され、前記第1伝達部材に対し遊びの範囲内で相対移動可能に接続される第2伝達部材と、
前記動力伝達経路における前記駆動源と前記第1伝達部材との間に配置され、前記駆動源から前記第1伝達部材への動力伝達率を変更可能なクラッチと、を備える車両の制御方法であって、
前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の動力伝達方向の切り替わりが生じるか否かを判定し、
前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の動力伝達方向の切り替わりが生じると判定した場合に、前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の相対速度が低減するように、前記クラッチの動力伝達率を調整する、車両の制御方法。
【0153】
前記方法によれば、前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の動力伝達方向の切り替わりが生じる際に、第1伝達部材と第2伝達部材との間の相対速度が低減するように、クラッチの動力伝達率を調整する。従って、クラッチの動力伝達率を調整することで、駆動源の出力変化に依らずに、伝達部材同士の衝突力を低減することができる。また、駆動源の出力変化とは別の手段であるクラッチで衝突力を低減することで、ショック低減可能なシチュエーションを増やすことができる。
【0154】
[項目10]
駆動源を含む動力入力装置と、
駆動輪と、
前記動力入力装置と前記駆動輪との間で動力が伝達される動力伝達経路に配置され、前記動力入力装置から正トルクが付与される第1伝達部材と、
前記動力伝達経路における前記第1伝達部材と前記駆動輪との間に配置され、前記第1伝達部材に対し遊びの範囲内で動力伝達方向に相対移動可能に接続される第2伝達部材と、
前記第1伝達部材に対して前記正トルクとは反対方向のトルクである負トルクを付与可能に構成されたサブ動力源と、を備える車両の制御装置であって、
前記制御装置は、処理回路を備え、
前記処理回路は、
前記第2伝達部材に対する前記第1伝達部材の相対位置の変化が生じるか否かを判定し、
前記相対位置の変化が生じると判定した場合に、前記相対位置の変化の開始時点から終了時点までの間の少なくとも一部の期間に、前記相対位置の変化に起因する前記第1伝達部材と前記第2伝達部材との間の衝突力が低減するように前記動力入力装置および前記サブ動力源を制御するように構成されている、車両の制御装置。
【0155】
前記構成によれば、第1伝達部材に対して正トルクと負トルクの双方を付与可能であり、第1伝達部材と第2伝達部材との間の衝突力を低減するための第1伝達部材に対し付与するトルクの調節を行いやすい。
【符号の説明】
【0156】
1 :車両
2 :エンジン
3 :駆動輪
3 :後輪
4 :車体フレーム
4a :ヘッドパイプ
12 :エンジン
13 :駆動モータ
17 :シフトスイッチ
18 :メインクラッチ
19 :クラッチアクチュエータ
20 :ギヤ変速機
21 :入力軸
22 :出力軸
23 :変速ギヤ対
24 :ドグ
30 :シフトアクチュエータ
31 :ギヤポジションセンサ
32 :アクセル操作量センサ
33 :エンジン回転数センサ
34 :モータ回転数センサ
35 :出力軸回転数センサ
40 :制御装置
41 :プロセッサ
42 :メモリ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11