(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120569
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】マルチモードスラスタ
(51)【国際特許分類】
F03H 1/00 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
F03H1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027442
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】516052010
【氏名又は名称】株式会社ネッツ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】張 科寅
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】松永 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】大川 恭志
(72)【発明者】
【氏名】中村 秀一
(72)【発明者】
【氏名】豊永 慎治
(72)【発明者】
【氏名】東野 和幸
(57)【要約】
【課題】1つのスラスタにおいて、化学推進のような大推力と電気推進のような高比推力とを発揮できるマルチモードスラスタを提供する。
【解決手段】マルチモードスラスタ1は、磁気回路となる環状のスラスタ筐体2と、中央部13に配置された噴射装置4と、スラスタ筐体2に配置された内電磁コイル6と、を備える。内電磁コイル6は、噴射装置4を外側から覆う。噴射装置4は、内部を推進剤ガスが通過するカソード電極22と、カソード電極22を加熱する電熱ヒーター23と、カソード電極22を通過した推進剤ガスをノズル28から第1方向Jに向けて噴射する環状のキーパー電極24と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気回路となる環状の筐体と、
前記筐体の中央に配置され、前記筐体の軸方向の第1側に向けて推進剤を噴射可能な噴射装置と、
前記筐体に配置され、前記噴射装置を、前記筐体の径方向の外側から覆う第1コイルと、を備え、
前記噴射装置は、内部を前記推進剤が通過するカソード電極と、前記カソード電極を加熱するヒーターと、前記カソード電極を通過した前記推進剤を中央から前記第1側に向けて噴射する環状の電極と、を含む、
マルチモードスラスタ。
【請求項2】
前記筐体には、前記筐体と同軸の環状であり、前記筐体において前記第1側を向く第1面に開口するチャネルと、前記チャネルに配置されたアノード陽極と、が設けられ、
前記アノード陽極には、推進剤を前記第1側に向けて噴射する噴射口が設けられ、
前記マルチモードスラスタは、前記筐体に配置され、前記アノード陽極を、前記筐体の径方向の外側から覆う第2コイルを更に備えている、請求項1に記載のマルチモードスラスタ。
【請求項3】
前記アノード陽極には、前記噴射口を前記第1側から覆う保護部が設けられている、請求項2に記載のマルチモードスラスタ。
【請求項4】
前記アノード陽極には、前記推進剤を前記アノード陽極に供給するガス供給ポートと、前記噴射口と前記ガス供給ポートとを連通するガス分配機構と、が設けられ、
前記アノード陽極には、前記噴射口が複数設けられ、かつ、前記ガス供給ポートが1つ設けられ、
前記ガス分配機構は、1つの前記ガス供給ポートから複数の前記噴射口を各別に連通する複数のガス流路を含み、
前記複数のガス流路は、互いに同等の長さである、請求項2に記載のマルチモードスラスタ。
【請求項5】
前記噴射装置の一部が前記筐体と一体である、請求項1から4のいずれか1項に記載のマルチモードスラスタ。
【請求項6】
前記電極は、前記筐体において前記第1側を向く第1面に固定されて前記筐体と一体である、請求項5に記載のマルチモードスラスタ。
【請求項7】
前記噴射装置は、前記ヒーターからの放熱を抑制する熱シールドと、前記熱シールドを支持する第1台座と、を含み、
前記第1台座は、前記筐体において中央の空間に面する内周面に固定されて前記筐体と一体である、請求項5に記載のマルチモードスラスタ。
【請求項8】
前記噴射装置は、前記カソード電極及び前記ヒーターを支持する第2台座と、を含み、
前記第2台座は、前記筐体において前記軸方向の第2側を向く第2面に固定されて前記筐体と一体である、請求項5に記載のマルチモードスラスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチモードスラスタに関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙機用推進システムとして、高い比推力(推進剤消費量あたりの推力、つまり燃費)を発揮できる、ホールスラスタに代表される電気推進システムの利用が増加している。電気推進は、化学推進が推進剤の内部エネルギーを化学反応により取り出して推力発生を行うのに対し、太陽電池が発生する電気エネルギーを源としている。電気推進は、推進剤とエネルギー源が独立していることにより、推進剤消費量あたりのエネルギー密度を非常に高くできることが、化学推進にくらべて数倍から1桁以上の高い比推力の実現を可能にしている。
【0003】
一方で、電気推進は、エネルギーの総量が太陽電池の発生電気量に律速されるため、大きな推力の発生は困難である。例として、ホールスラスタ(例えば、特許文献1、2参照)は比推力が最大1,500[秒]、推力電力比が最大60[mN/kW]といった性能であり、小型衛星で一般的に利用可能な電力が最大1kWでは推力0.06[N]と微小である。
これに対して、化学推進としての一液式のヒドラジンスラスタは、比推力が最大200[秒]と低いが、小型でも最大1[N]の大きな推力を発生可能であり、電力も消費しない。
【0004】
そのため、電気推進と化学推進とは、大きな推力あるいは高い比推力が必要か否か、利用可能電力の多寡で使い分けの関係にあり、大きな推力と高い比推力の双方が必須のミッションにおいては、宇宙機に両方の推進システムを搭載する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-065703号公報
【特許文献2】特開2018-127917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電気推進と化学推進とは全く異なる推進システムである。よって、電気推進システムと化学推進システムとを2重搭載するためには、推進剤タンク、バルブ配管系統、電気制御系統がそれぞれ必要となる。このため、宇宙機の大幅な複雑化や、大型化、高コスト化を招き、そのことが宇宙機の機動性を大きく制約する重要な課題になっている。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、1つのスラスタ(推進機)において、化学推進のような大推力と電気推進のような高比推力とを発揮できるマルチモードスラスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<1>本発明の一態様に係るマルチモードスラスタは、磁気回路となる環状の筐体と、前記筐体の中央に配置され、前記筐体の軸方向の第1側に向けて推進剤を噴射可能な噴射装置と、前記筐体に配置され、前記噴射装置を、前記筐体の径方向の外側から覆う第1コイルと、を備え、前記噴射装置は、内部を前記推進剤が通過するカソード電極と、前記カソード電極を加熱するヒーターと、前記カソード電極を通過した前記推進剤を中央から前記第1側に向けて噴射する環状の電極と、を含む。
【0009】
マルチモードスラスタによれば、磁気回路となる環状の筐体の中央(すなわち、対称軸上)に噴射装置を配置した。噴射装置にはカソード電極と環状の電極とが含まれている。電極は、環状に形成されることにより中央にノズルが形成されている。噴射装置によれば、カソード電極の内部に推進剤を通過させ、カソード電極の内部を通過した推進剤を電極のノズルから第1側に向けて噴射する。
ここで、推進剤は加圧された状態でカソード電極の内部に導入される。導入された推進剤は、ノズルから第1側に向けてガスジェット流として噴射される。これにより、推進剤の圧力を第2側に向けた運動量(すなわち、推力)に変換する。以下、この推進モードを「コールドガスジェットモード」という。
コールドガスジェットモードは、比推力が低いものの、推進剤の加圧次第では化学推進と同等の大推力を発揮することが可能である。また、コールドガスジェットモードは、電力消費を不要にできるというメリットがある。
【0010】
また、マルチモードスラスタによれば、噴射装置にはヒーターが含まれている。噴射装置によれば、ヒーターによりカソード電極を加熱することにより、カソード電極を介して推進剤を加熱できる。よって、加圧された推進剤をカソード電極の内部において高温まで加熱して、エネルギー密度を大幅に高めることができる。以下、この推進モードを「レジストジェットモード」という。
レジストジェットモードは、カソード電極の内部において加熱した推進剤を電極のノズルから第1側に向けて噴射する。これにより、レジストジェットモードは、コールドガスジェットモードの大推力を維持した状態で化学推進と同等の比推力を、例えば2倍程度高めることができる。
【0011】
さらに、マルチモードスラスタによれば、加圧された推進剤をカソード電極の内部に導入する。導入した推進剤をヒーターにより昇温する。ここで、カソード電極は電子放出材で形成されている。よって、推進剤をヒーターで昇温することにより、カソード電極(すなわち、電子放出材)から熱電子を放出する。すなわち、カソード電極を中空陰極(ホローカソード)として使用する。電子放出材から放出された電子は、電極に電圧を印加した状態において、例えば電極のノズル(あるいは、オリフィス)を経て、電極への放電を開始する。
【0012】
ここで、マルチモードスラスタには、筐体に第1コイルが配置されている。この第1コイルに通電することにより、マルチモードスラスタの対称軸上(中心軸上)に発散磁場を形成する。磁場は、放電による電流に対して直交している。よって、互いに直交する電流と磁場による軸方向のローレンツ力が発生し、電離した推進剤を電磁加速する。
これにより、推進剤がノズルから第1側に向けて噴射される状態において、ノズルによる空気力学的加速と、ローレンツ力による電磁加速との合計による推力を発生させることができる。以下、この推進モードを「MPDアークモード」という。
【0013】
MPDアークモードは、空気力学的加速に寄与するヒーター電力と、電磁加速に寄与するMPD放電電力と、を割り振る電力の比重を変更することにより、発生する推力特性の広範囲な調整が可能である。例えば、MPDアークモードは、ヒーターに多くの電力を割り振ることにより、レジストジェットモードと同様(すなわち、化学推進と同等)の大推力を得ることが可能になる。一方、MPDアークモードは、電極に多くの電力を割り振ることにより、電気推進と同等の低推力、高比推力を得ることが可能になる。
【0014】
すなわち、マルチモードスラスタは、コールドガスジェットモード及びレジストジェットモードにおいて化学推進と同等の大推力を発揮することが可能である。また、マルチモードスラスタは、MPDアークモードにおいて、ヒーターに多くの電力を割り振ることにより化学推進と同等の大推力を得ることが可能になる。一方、MPDアークモードにおいて、電極に多くの電力を割り振ることにより電気推進と同等の高比推力を得ることが可能になる。
これにより、マルチモードスラスタによれば、1つのスラスタにおいて、推進モードを使い分けることにより、化学推進のような大推力と電気推進のような高比推力とを発揮できる。
【0015】
<2>上記<1>に係るマルチモードスラスタでは、前記筐体には、前記筐体と同軸の環状であり、前記筐体において前記第1側を向く第1面に開口するチャネルと、前記チャネルに配置されたアノード陽極と、が設けられ、前記アノード陽極には、推進剤を前記第1側に向けて噴射する噴射口が設けられ、前記マルチモードスラスタは、前記筐体に配置され、前記アノード陽極を、前記筐体の径方向の外側から覆う第2コイルを更に備えていてもよい。
【0016】
マルチモードスラスタは、筐体にチャネルとアノード陽極とを設け、アノード陽極に噴射口を設けた。さらに、マルチモードスラスタに第2コイルを備えた。よって、マルチモードスラスタをもう一つの推進モードで作動することが可能である。以下、もう一つの推進モードを「ホールスラスタモード」として説明する。
マルチモードスラスタをホールスラスタモードとして作動する際には、MPDアークモードと同様に、対称軸上の噴射装置を中空陰極(ホローカソード)として使用する。また、電極をホールスラスタ放電のイグナイタ(点火装置)として使用する。
【0017】
この状態において、加圧された推進剤をカソード電極の内部に導入する。推進剤をヒーターにより昇温することにより、カソード電極(すなわち、電子放出材)から熱電子を放出する。また、電極(キーパー電極)に電圧を印加することによりプラズマ着火する。さらに、アノード陽極に電圧を印加することにより、電子放出材との間においてホールスラスタ放電を開始する。
また、第2コイルに通電することによりチャネルの磁場に印加する。よって、電子がトラップされて周方向のホール電流が形成される。これにより、アノード陽極に供給された推進剤が非常に高い電離率でプラズマ化する。さらに、プラズマは、チャネル出口付近の強磁場領域に形成される強い静電場により、静電加速される。これにより、超高速イオンビームをチャネルから噴出させることができ、電気推進による推力を発生させることができる。
【0018】
なお、電子放出材は、通常のプラズマ入熱により十分に自律加熱される。よって、プラズマ着火後は、ヒーターへの入熱が不要であり、ヒーターをオフにすることができる。また、ホールスラスタモードにおいては、MPD放電は着火時のイグナイタとして使用されることから、ホールスラスタ放電の開始後はMPD電源もオフにすることができる。
【0019】
これにより、マルチモードスラスタをコールドガスジェットモード、レジストジェットモード、MPDアークモード、ホールスラスタモードの4つから選択した推進モードにより推力を発生させることができる。したがって、マルチモードスラスタによれば、1つのスラスタにおいて、4つの推進モードを使い分けることにより、化学推進のような大推力と電気推進のような高比推力とを発揮できる。
【0020】
ここで、例えば、スラスタ(推進機)の推力軸が推進モードによって異なる場合には、スラスタを搭載した宇宙機の重心を常に貫くために、異なる推進モードを選択する都度、ジンバル等による調整が必要になる。そこで、マルチモードスラスタによる全ての推進モードにおいて発生する推力を同一の推力軸(すなわち、マルチモードスラスタの対称軸)とすることで、マルチモードスラスタは宇宙機への搭載性に優れる。
【0021】
さらに、マルチモードスラスタによれば、筐体(スラスタ本体)のサイズ、並びに必要な各種電源及び推進剤供給系を、一般的なホールスラスタシステムにおいて必要とするもので基本的に網羅できる。よって、マルチモードスラスタのために必要とするシステム的なオーバヘッドを小さく抑えることができる。これにより、マルチモードスラスタによれば、化学推進と電気推進との各システムを2重搭載する場合と比べて構成を圧倒的に簡略化が可能で、かつ小型軽量化が可能である。
【0022】
加えて、マルチモードスラスタによれば、異なる推進モードを複合させて同時に作動することも可能である。例えば、ホールスラスタモードの作動中に、対称軸上において中空陰極として作動している噴射装置の推進剤を加圧することにより、ガスジェットモードとホールスラスタモードとを同時に作動させることが可能である。これにより、チャネルから噴出される超高速イオンビームと、噴射装置のガスジェット流が混合され、高比推力と大推力とをある程度両立させる可能性がある。
さらに、マルチモードスラスタによれば、ガスジェットモードとホールスラスタモードとの同時作動中に、MPDアークモードにおいて電極への放電を重ねて作動させることも可能である。これにより、幅広い推力特性を一層好適に発揮できる可能性がある。
【0023】
<3>上記<2>に係るマルチモードスラスタでは、前記アノード陽極には、前記噴射口を前記第1側から覆う保護部が設けられていてもよい。
【0024】
ここで、例えばマルチモードスラスタをホールスラスタモードで作動する際に、アノード陽極の表面が主要な放電パスである。一方、アノード陽極の表面は、主にイオンビームによりスパッタされたチャネル等の絶縁物によるコンタミをアノード陽極の表面の下流側から受ける。よって、アノード陽極は、噴射口の清浄面がコンタミにより減少する。このため、放電パスにおいて推力に寄与しない電気抵抗が生じ、推進性能の低下や着火不良を招く。
そこで、アノード陽極の噴射口を保護部により第1側(すなわち、噴射口の下流側)から覆うようにした。これにより、保護部を噴射口の下流側からのコンタミに対するシールドとすることができる。この際、例えば、プラズマの代表長1mmに対して、保護部から噴射口まで十分な空間を確保し、プラズマの通り道を用意することが好ましい。
【0025】
<4>上記<2>に係るマルチモードスラスタでは、前記アノード陽極には、前記推進剤を前記アノード陽極に供給するガス供給ポートと、前記噴射口と前記ガス供給ポートとを連通するガス分配機構と、が設けられ、前記アノード陽極には、前記噴射口が複数設けられ、かつ、前記ガス供給ポートが1つ設けられ、前記ガス分配機構は、1つの前記ガス供給ポートから複数の前記噴射口を各別に連通する複数のガス流路を含み、前記複数のガス流路は、互いに同等の長さであってもよい。
【0026】
ここで、例えばマルチモードスラスタをホールスラスタモードで作動する際に、優れた推進性能と安定的な着火とを得るためには、アノード陽極の形状が重要である。そこで、ガス分配機構に複数のガス流路を含ませて、1つのガス供給ポートから複数の噴射口を連通するようにした。さらに、複数のガス流路を互いに同等の長さとした。
よって、ガス供給ポートから導入された推進剤を複数の噴射口に均等に分配(供給)できる。これにより、推進剤ガスを環状のチャネルに均等に供給できる。したがって、マルチモードスラスタをホールスラスタモードで使用する場合に、優れた推進性能と安定的な着火とを得ることができる。さらに、例えば、マルチモードスラスタの対称軸と推力軸とを一致させ易くすることも可能になり、この場合、更に優れた推進性能を得ることができる。
【0027】
<5>上記<1>から<4>のいずれか1項に係るマルチモードスラスタでは、前記噴射装置の一部が前記筐体と一体であってもよい。
【0028】
噴射装置の一部を筐体と一体とすることにより、噴射装置を筐体に差し込む構成ではなく、筐体に内蔵させることができる。よって、噴射装置を必要最小限の空間と、必要最小限の絶縁材の部品点数とで構成することが可能になる。これにより、マルチモードスラスタは、噴射装置を筐体の中央に配置するセンターカソード形態の機能性能面の利点を維持するとともに、コストや信頼性の観点において優れ、小型化に適している。
【0029】
<6>上記<5>に係るマルチモードスラスタでは、前記電極は、前記筐体において前記第1側を向く第1面に固定されて前記筐体と一体であってもよい。
【0030】
電極を筐体に対して一体に固定することにより、例えば、従来において電極を支持するために必要とされた片持ちのキーパー筒を不要にできる。よって、噴射装置を筐体の中央に配置するために必要とする空間を小さく抑えることができる。
加えて、電極を筐体と一体とすることにより、振動衝撃により電極が破損するリスクを抑制できる。これにより、カーボン等の脆性な耐スパッタ電極材を電極に使用することが可能になる。
【0031】
<7>上記<5>に係るマルチモードスラスタでは、前記噴射装置は、前記ヒーターからの放熱を抑制する熱シールドと、前記熱シールドを支持する第1台座と、を含み、前記第1台座は、前記筐体において中央の空間に面する内周面に固定されて前記筐体と一体であってもよい。
【0032】
噴射装置の熱シールドを第1台座で支持し、第1台座を筐体と一体に固定した。よって、熱シールドを筐体に第1台座を介して支持できる。これにより、噴射装置を筐体の中央に配置するために必要とする空間を小さく抑えることができる。さらに、振動衝撃で劣化しやすい熱シールドが破損するリスクを抑制できる。
加えて、熱シールドを筐体に第1台座を介して支持することにより、熱シールドの電気的絶縁や構造部材の部品点数の削減にも寄与できる。
【0033】
<8>上記<1>から<6>に係るマルチモードスラスタでは、前記噴射装置は、前記カソード電極及び前記ヒーターを支持する第2台座と、を含み、前記第2台座は、前記筐体において前記軸方向の第2側を向く第2面に固定されて前記筐体と一体であってもよい。
【0034】
噴射装置のカソード電極及びヒーターを第2台座で支持し、第2台座を筐体と一体に固定した。よって、カソード電極及びヒーターを筐体に第2台座を介して支持できる。これにより、噴射装置を筐体の中央に配置するために必要とする空間を小さく抑えることができる。さらに、カソード電極及びヒーターが振動衝撃で破損するリスクを抑制できる。
加えて、カソード電極及びヒーターを筐体に第2台座を介して支持することにより、構造部材の部品点数の削減にも寄与できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、1つのスラスタにおいて、化学推進のような大推力と電気推進のような高比推力とを発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の一実施形態に係るマルチモードスラスタを示す断面図である。
【
図2】
図1に示すマルチモードスラスタをコールドガスジェットモードで作動する例を説明する断面図である。
【
図3】
図1に示すマルチモードスラスタをレジストジェットモードで作動する例を説明する断面図である。
【
図4】
図1に示すマルチモードスラスタをMPDアークモードで作動する例を説明する断面図である。
【
図5】
図1に示すマルチモードスラスタをホールスラスタモードで作動する例を説明する断面図である。
【
図6】
図5に示すホールスラスタモードでマルチモードスラスタを作動する際に噴射装置を対称軸上に配置する利点について説明する概略図である。
【
図7】変形例1のマルチモードスラスタを示す断面図である。
【
図8】変形例2のマルチモードスラスタを示す断面図である。
【
図9】変形例3のアノード陽極に備えたガス分配機構の第1環状プレートを示す平面図である。
【
図10】変形例3のアノード陽極に備えたガス分配機構の第2環状プレートを示す平面図である。
【
図11】変形例4のマルチモードスラスタを示す断面図である。
【
図12】変形例5のマルチモードスラスタを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、
図1から
図6を参照し、本発明の一実施形態に係るマルチモードスラスタ1を説明する。
[実施形態]
図1に示すマルチモードスラスタ1は、例えば、不図示の宇宙機(人工衛星)に搭載される。以下、
図1を参照してマルチモードスラスタ1の構成について説明する。
【0038】
(マルチモードスラスタ)
図1に示すように、マルチモードスラスタ1は、プラズマを噴射して宇宙機の推力を担う推力発生装置として機能する。宇宙機は、この推力によって、宇宙空間を移動したり、姿勢を制御したりする。なお、マルチモードスラスタ1が推力を発生させるときに、マルチモードスラスタ1から推進剤ガス(推進剤)やプラズマ(イオン)が噴射する方向を、第1方向(軸方向の第1側)Jと呼ぶ。マルチモードスラスタ1は、推進剤ガスやプラズマの噴射時に生じる反作用によって推力を生じさせる。推力が生じる方向を第2方向(軸方向の第2側)Tと呼ぶ。
マルチモードスラスタ1は、スラスタ筐体(筐体)2と、噴射装置4と、内電磁コイル(第1コイル)6と、外電磁コイル(第2コイル)8と、を備える。
【0039】
(筐体)
スラスタ筐体2は、磁気回路となる部材であり、環状に形成されている。具体的には、スラスタ筐体2は、底部11と、外周部12と、中央部13と、を備えている。底部11は、スラスタ筐体2のうち、宇宙機の本体に最も近い部分である。外周部12及び中央部13は、底部11から第1方向Jに延びる。外周部12は、スラスタ筐体2の外周を構成する。外周部12は、筒状である。中央部13は、外周部12に対して、外周部12の径方向の内側に位置する。中央部13は、外周部12における前記径方向の中央(以下、対称軸Asということがある)に位置する。中央部13は、筒状である。スラスタ筐体2は、対称軸Asを中心として環状に形成されている。
【0040】
スラスタ筐体2には、放電チャネル(チャネル)15と、アノード陽極(ホールスラスタ電極)16と、が設けられている。放電チャネル15は、スラスタ筐体2と同軸の環状に形成され、さらに第1方向Jに開口するように形成されている。放電チャネル15は、スラスタ筐体2の底部11、外周部12、中央部13によって形成される空間に設けられている。放電チャネル15の内部においてスラスタ筐体2の底部11側にアノード陽極16が配置されている。
アノード陽極16は、放電チャネル15に沿って環状に形成されている。アノード陽極16は、推進剤ガスが導入されるガス導入ポート(ガス供給ポート)17が設けられている。アノード陽極16は、推進剤ガスを第1方向Jに向けて噴射する噴射口18が複数設けられている。噴出孔18は、例えば、周方向に間隔をあけて複数設けられている。
【0041】
(噴射装置)
スラスタ筐体2の対称軸As上となる中央において、中央部13の内部に噴射装置4が配置されている。すなわち、噴射装置4は、中央部13に内蔵されている。噴射装置4は、スラスタ筐体2の軸方向の第1方向Jに向けて推進剤ガスを噴射可能な装置である。噴射装置4は、円筒容器21と、カソード電極22と、電熱ヒーター(ヒーター)23と、キーパー電極(電極)24と、を含む。
【0042】
円筒容器21は、中央部13の内部に配置されている。円筒容器21は、例えば高融点金属やカーボン等の導電性の材料で形成されている。円筒容器21は、中央部13の内部においてスラスタ筐体2の対称軸As上に配置されている。円筒容器21は、推進剤ガスが導入されるガス導入ポート27が底部に設けられている。図示の例では、円筒容器21のガス導入ポート27には、アノード陽極16のガス導入ポート17に導入される推進剤ガスと同一の推進剤ガスが導入される。すなわち、図示の例では、ガス導入ポート27及びガス導入ポート17には、例えば同一のタンクに貯留された1種類の推進剤ガスが導入される。
【0043】
推進剤ガスとしては、例えば、原子量が比較的小さいKrガスやArガス、原子量が比較的大きいXeガスなどが採用できる。また、推進剤ガスとしては、原子量が比較的小さいガスと、原子量が比較的大きいガスと、の混合ガス(例えば、ArガスとXeガスの50:50の混合ガスなど)を採用してもよい。推進剤ガスの原子量が比較的小さい場合、ガスジェットモードに好適な推進剤ガスであると言える。推進剤ガスの原子量が比較的大きい場合、ホールスラスタモードに好適な推進剤ガスであると言える。さらに、ガス導入ポート27及びガス導入ポート17に、異なる種類の推進剤ガスを供給してもよい。例えば、ガス導入ポート27には原子量が小さい推進剤ガス(例えば、KrガスやArガス等)を導入し、ガス導入ポート17には原子量が大きい推進剤ガス(例えば、Xeガス等)を導入してもよい。
【0044】
円筒容器21の内部にカソード電極22が設けられている。カソード電極22は、円筒容器21に導通可能に設けられている。カソード電極22は、スラスタ筐体2の対称軸As上に配置されている。カソード電極22は、内部を推進剤ガスが通過するように筒状に電子放出材で形成されている。カソード電極22は、スラスタ筐体2及びキーパー電極24に対して耐プラズマスパッタ材26により電気及び熱の絶縁が確保されている。
カソード電極22は、外周が電熱ヒーター23で覆われている。
【0045】
電熱ヒーター23は、カソード電極22の外周を覆うように円筒状に形成されている。電熱ヒーター23は、電子放出材で形成されたカソード電極22を加熱する。電熱ヒーター23は、中央部13の内部に設けられている。電熱ヒーター23は、スラスタ筐体2の対称軸As上に配置されている。すなわち、円筒容器21、カソード電極22、及び電熱ヒーター23は、中央部13に内蔵されている。
【0046】
キーパー電極24は、耐プラズマスパッタ材26を介してスラスタ筐体2の中央部13に設けられている。キーパー電極24は、スラスタ筐体2の対称軸As上に配置されている。キーパー電極24、耐プラズマスパッタ材26、及び円筒容器21にはノズル28(あるいは、オリフィス)が形成されている。キーパー電極24は、中央にノズル28が形成されることにより環状に形成されている。ノズル28は、スラスタ筐体2の対称軸As上に配置されている。ノズル28は、カソード電極22の内部に連通されている。キーパー電極24は、カソード電極22を通過した推進剤ガスを中央のノズル28から第1方向Jに向けて噴射する。
【0047】
アノード陽極16、カソード電極22、及びキーパー電極24は、互いに電気的に絶縁されている。アノード陽極16とカソード電極22との間には、ホール電源31が電気的に接続されている。カソード電極22とキーパー電極24との間には、MPD電源32が電気的に接続されている。その結果、アノード陽極16とカソード電極22と間で放電可能であり、カソード電極22とキーパー電極24との間で放電可能である。
【0048】
また、電熱ヒーター23とカソード電極22との間には、ヒーター電源33が電気的に接続されている。本実施形態では、電熱ヒーター23とカソード電極22とは電気的に接続されている。電熱ヒーター23の電気抵抗は、カソード電極22の電気抵抗よりも高い。カソード電極22は、電熱ヒーター23の電極(例えば、負電極)として機能している。ヒーター電源33は、電熱ヒーター23に電圧を印加することで、電熱ヒーター23をジュール熱によって昇温させる。その結果、電熱ヒーター23は、カソード電極22を加熱可能である。なお、ヒーター電源33が、電熱ヒーター23のみに電気的に接続されていて、カソード電極22には電気的に接続されていなくてもよい。ただし、本実施形態のように、ヒーター電極33が電熱ヒーター23にカソード電極22を介して電気的に接続されていることで、前述したように、カソード電極22に電熱ヒーター23の電極を兼用させることができる。その結果、例えば、電熱ヒーター23の1つの電極を、カソード電極22に兼用させることが可能になり、省スペースを実現することができる。
【0049】
アノード陽極16は、スラスタヘッド10の底部11側に配置されている。カソード電極22及びキーパー電極24は、耐プラズマスパッタ材26により互いに電気及び熱の絶縁が確保された状態で、スラスタ筐体2の中央部13に配置されている。アノード陽極16及びカソード電極22は、放電チャネル15内の電場を発生させる。
なお、カソード電極22は、電場を発生させる役割に加え、放電チャネル15から噴射するプラズマに電子を供給する役割も備えている。プラズマは、カソード電極22から電子が供給されることで電気的に中和される。
【0050】
(第1コイル、第2コイル)
スラスタ筐体2において中央部13の外側かつアノード陽極16の内側に内電磁コイル6が配置されている。内電磁コイル6は、噴射装置4の外周をスラスタ筐体2の径方向の外側から覆うように筒状に形成されている。
スラスタ筐体2においてアノード陽極16の外側かつ外周部12の内側に外電磁コイル8が配置されている。外電磁コイル8は、アノード電極をスラスタ筐体2の径方向の外側から覆うように筒状に形成されている。内電磁コイル6及び外電磁コイル8には、コイル電源34が電気的に接続されている。なお、コイル電源34と、内電磁コイル6及び外電磁コイル8と、の接続関係の詳細については、後述する。
【0051】
マルチモードスラスタ1は、宇宙機に推力を生じさせる際、例えば、「コールドガスジェットモード」、「レジストジェットモード」、「MPDアークモード」、及び「ホールスラスタモード」の4つの推進モードによる作動が可能である。これらの推進モードは、例えば、不図示の制御装置(例えば、コンピュータ)によって実施される。制御装置は、例えば、上記各電極31~34を制御する。以下、4つの推進モードについて
図2から
図6を参照して説明する。
【0052】
<コールドガスジェットモード>
図2に示すように、マルチモードスラスタ1をコールドガスジェットモードで作動する際には、噴射装置4の円筒容器21に加圧された推進剤ガスを矢印Aの如く導入する。推進剤ガスは、加圧された状態でカソード電極22の内部に導入される。導入された推進剤ガスは、キーパー電極24のノズル28から第1方向Jに向けてガスジェット流41として噴射される。これにより、推進剤ガスの圧力を、対称軸Asを推力軸として第2方向Tに向けた運動量(すなわち、推力)に変換する。
コールドガスジェットモードは、推力にガスジェット流41を利用するため化学推進と同様に比推力が低いものの、推進剤ガスの加圧次第では化学推進と同等の大推力を発揮することが可能である。また、コールドガスジェットモードは、電力消費を不要にできるというメリットがある。
【0053】
<レジストジェットモード>
図3に示すように、マルチモードスラスタ1をレジストジェットモードで作動する際には、ヒーター電源33をオンにしてカソード電極22を電熱ヒーター23により加熱する。噴射装置4の円筒容器21には加圧された推進剤ガスが導入されている。カソード電極22を加熱することにより、カソード電極を介して推進剤ガスを加熱する。よって、加圧された推進剤ガスをカソード電極22の内部において高温まで加熱して、エネルギー密度を大幅に高めることができる。
カソード電極22の内部において加熱した推進剤ガスをキーパー電極24のノズル28から対称軸Asを推力軸として第1方向Jに向けて噴射する。これにより、レジストジェットモードは、コールドガスジェットモードの大推力を維持した状態で化学推進と同等の比推力を、例えば2倍程度高めることができる。
【0054】
<MPDアークモード>
図4に示すように、マルチモードスラスタ1をMPDアークモードで作動する際には、噴射装置4のカソード電極22の内部に加圧された推進剤ガスを矢印Aの如く導入する。カソード電極22を電熱ヒーター23により加熱して加圧された推進剤ガスをカソード電極22の内部において昇温する。ここで、カソード電極は電子放出材で形成されている。よって、推進剤ガスを電熱ヒーター23で昇温することにより、カソード電極22(すなわち、電子放出材)から熱電子を放出する。
すなわち、カソード電極22を中空陰極(ホローカソード)として使用する。カソード電極22(すなわち、電子放出材)から放出された電子は、MPD電源32をオンにしてキーパー電極24に電圧を印加した状態において、キーパー電極24のノズル28を経て、キーパー電極24への放電を放電経路43の如く開始する。
【0055】
ここで、マルチモードスラスタ1には、スラスタ筐体2に内電磁コイル6が配置されている。この内電磁コイル6を、コイル電源34をオンにして通電する。よって、マルチモードスラスタ1の対称軸As上(中心軸上)に発散磁場44を形成する。磁場44は、放電による電流に対して直交している。よって、互いに直交する電流と磁場44による軸方向のローレンツ力が発生し、電離した推進剤ガス(ガスジェット流41)を電磁加速する。
これにより、ガスジェット流41がノズル28から第1方向Jに向けて噴射される状態において、ノズル28による空気力学的加速と、ローレンツ力による電磁加速との合計による推力を、対称軸Asを推力軸として発生させることができる。
【0056】
MPDアークモードによれば、空気力学的加速に寄与する電熱ヒーター23への電力と、電磁加速に寄与するキーパー電極24への電力とを割り振る比重を変更することにより、発生する推力特性の広範囲な調整が可能である。例えば、MPDアークモードは、電熱ヒーター23に多くの電力を割り振ることにより、レジストジェットモードと同様(すなわち、化学推進と同等)の大推力を得ることが可能になる。一方、MPDアークモードは、キーパー電極24に多くの電力を割り振ることにより、電気推進と同等の低推力、高比推力を得ることが可能になる。
【0057】
<ホールスラスタモード>
図5に示すように、マルチモードスラスタ1をホールスラスタモードで作動する際には、MPDアークモードと同様に、対称軸As上の噴射装置4を中空陰極(ホローカソード)として使用する。また、キーパー電極24をホールスラスタ放電のイグナイタ(点火装置)として使用する。
【0058】
具体的には、加圧された推進剤ガスをカソード電極22の内部に矢印Aの如く導入する。推進剤ガスを、ヒーター電源33をオンにして電熱ヒーター23で昇温することにより、カソード電極22(すなわち、電子放出材)から熱電子を放出する。また、MPD電源32をオンにしてキーパー電極24に電圧を印加することにより、推進剤ガスをプラズマ着火する。さらに、ホール電源31をオンにしてアノード陽極に電圧を印加することにより、カソード電極22(電子放出材)との間においてホールスラスタ放電を放電経路46の如く開始する。
【0059】
また、コイル電源34をオンにして外電磁コイル8に通電することにより放電チャネル15の磁場47に印加する。磁場47は、外周部12から中央部13(スラスタ筐体2の半径方向)に向かうように発生する。よって、電子がトラップされて周方向のホール電流が発生する。これにより、アノード陽極16に矢印Bの如く供給された推進剤ガスが非常に高い電離率でプラズマ化する。アノード陽極16及びカソード電極22には推進剤ガスが導入される。
【0060】
生成されたプラズマは、放電チャネル15の出口15a付近の強磁場領域に発生する強い静電場により、静電加速される。静電場は、底部11から第1方向J(スラスタ筐体2の軸方向)に向けて発生する。静電加速された超高速イオンビーム48が放電チャネル15から噴出する。これにより、電気推進による推力を、対称軸Asを推力軸として発生させることができる。
【0061】
なお、カソード電極22(電子放出材)は、通常のプラズマ入熱により十分に自律加熱される。よって、プラズマ着火後は、電熱ヒーター23への入熱が不要であり、ヒーター電源33をオフにする。また、ホールスラスタモードにおいては、MPD放電は着火時のイグナイタとして使用されることから、ホールスラスタ放電の開始後はMPD電源32もオフにする。
【0062】
ここで、
図5、
図6に示すように、マルチモードスラスタ1は、噴射装置4(すなわち、カソード電極22)が対称軸As上に配置されている。よって、カソードプラズマは、磁力線52に沿って矢印Cの如く直進することによりイオンビーム48と合流できる。プラズマは、磁力線に沿って動く際には略無抵抗である。これにより、イオンビーム中和のために消費されるエネルギーを小さく抑えることができる。具体的には、例えば、アノード陽極16とカソード電極22との間において300Vで放電した場合、中和プロセスで消費されるエネルギーを20Vに小さく抑えることができる。
【0063】
これに対して、カソード電極がスラスタ(推進機)の外側に配置された場合、イオンビーム中和のためにカソードプラズマが磁力線を横切る必要がある。プラズマは、磁力線を横切る際には大きな抵抗となる。このため、エネルギー損失が大きくなる。例えば、アノード電極とカソード電極との間において300Vで放電した場合、20Vより大きな30V程度が中和プロセスで消費され、推力に寄与しない。
【0064】
さらに、カソード電極22を対称軸As上に配置することにより、イオンビーム48自体の対称性もよくなる。これにより、推力のベクトルロスを低減することもできる。
このように、カソード電極22を対称軸As上に配置するセンター配置とすることにより以下の利点が得られる。すなわち、カソード電極22を対称軸As上に配置することにより、中和プロセスで消費されるエネルギーを小さく抑えることができ、推力のベクトルロスを低減できる。エネルギー損失を小さく抑えることにより、低損耗を実現でき、これにより長寿命を実現できる。したがって、噴射装置4(カソード電極22)を対称軸As上にセンター配置することにより、エネルギー効率及び寿命の観点から好ましいスラスタ(推進機)を実現できる。
【0065】
以上説明したように、実施形態に係るマルチモードスラスタ1によれば、コールドガスジェットモード、レジストジェットモード、MPDアークモード、ホールスラスタモードの4つから任意の推進モードを選択できる。マルチモードスラスタ1は、選択した推進モードにより、対称軸Asを推力軸とした推力を発生させることができる。
具体的には、マルチモードスラスタ1は、コールドガスジェットモード及びレジストジェットモードにおいて化学推進と同等の大推力を発揮することが可能である。また、マルチモードスラスタ1は、MPDアークモードにおいて、電熱ヒーター23に多くの電力を割り振ることにより化学推進と同等の大推力を得ることが可能になる。一方、MPDアークモードにおいて、キーパー電極24に多くの電力を割り振ることにより電気推進と同等の高比推力を得ることが可能になる。さらに、マルチモードスラスタ1は、ホールスラスタモードにおいて、超高速イオンビーム48を放電チャネル15から噴出させることにより電気推進による推力を発生させることができる。
したがって、マルチモードスラスタによれば、1つのスラスタにおいて、4つの推進モードを使い分けることにより、化学推進のような大推力と電気推進のような高比推力とを発揮できる。
【0066】
ここで、例えば、スラスタ(推進機)の推力軸が推進モードによって異なる場合には、スラスタを搭載した宇宙機の重心を常に貫くために、異なる推進モードを選択する都度、ジンバル等による調整が必要になる。そこで、マルチモードスラスタ1による全ての推進モードにおいて発生する推力を同一の推力軸(すなわち、マルチモードスラスタの対称軸As)とした。これにより、マルチモードスラスタ1は宇宙機への搭載性に優れている。
【0067】
さらに、マルチモードスラスタ1によれば、スラスタ筐体(スラスタ本体)2のサイズ、並びに必要な各種電源及び推進剤供給系を、一般的なホールスラスタシステムにおいて必要とするもので基本的に網羅できる。よって、マルチモードスラスタ1のために必要とするシステム的なオーバヘッドを小さく抑えることができる。これにより、マルチモードスラスタ1によれば、化学推進と電気推進との各システムを2重搭載する場合と比べて構成を圧倒的に簡略化が可能で、かつ小型軽量化が可能である。
【0068】
加えて、マルチモードスラスタ1によれば、異なる4つの推進作動モードを複合させて同時に作動することも可能である。例えば、ホールスラスタモードの作動中に、対称軸As上において中空陰極として作動している噴射装置4の推進剤ガスを加圧することにより、ガスジェットモードとホールスラスタモードとを同時に作動させることが可能である。これにより、放電チャネル15から噴出される超高速イオンビーム48と、噴射装置4のガスジェット流41が混合され、高比推力と大推力とをある程度両立させる可能性がある。
さらに、マルチモードスラスタ1によれば、ガスジェットモードとホールスラスタモードとの同時作動中に、MPDアークモードにおいてキーパー電極24への放電を重ねて作動させることも可能である。これにより、幅広い推力特性を一層好適に発揮できる可能性がある。
【0069】
つぎに、マルチモードスラスタ1を実現するための具体的な構成として変形例1から変形例3を
図7から
図10を参照して説明する。なお、変形例1から変形例3においてマルチモードスラスタ1と同一、類似部材については同じ符号を付して詳しい説明を両略する。
【0070】
(変形例1)
図7に示すように、変形例1のマルチモードスラスタ100は、アノード陽極102及び噴射装置104を実施形態のアノード陽極16及び噴射装置4に代えたものでその他の構成は実施形態のマルチモードスラスタ1と同様である。
【0071】
アノード陽極102は、陽極本体106と、第1保護部(保護部)107と、第2保護部(保護部)108と、を備えている。陽極本体106は、アノード陽極16と概ね同様に形成されている。第1保護部107は、外側壁112と、内側壁113と、外側保護部114と、内側保護部115と、を有する。外側壁112は、陽極本体106において第1方向Jを向く表面106aの外周縁から第1方向Jに向けて環状に突出されている。内側壁113は、陽極本体106において表面106aの内周縁から第1方向Jに向けて環状に突出されている。外側保護部114は、外側壁112において第1方向Jの端部からスラスタ筐体2の径方向内側(すなわち、噴射口18側)に向けて環状に張り出されている。内側保護部115は、内側壁113において第1方向Jの端部からスラスタ筐体2の径方向外側(すなわち、噴射口18側)に向けて環状に張り出されている。よって、第1保護部107は、アノード陽極102の噴射口18,18を第1方向Jの側から覆うことができる。
【0072】
第2保護部108は、突起117と、中央保護部118と、を有する。突起117は、陽極本体106の表面106aにおいてスラスタ筐体2の径方向の中央から第1方向Jに向けて環状に突出されている。突起117は、スラスタ筐体2の径方向において噴射口18,18の間に形成されている。中央保護部118は、突起117において第1方向Jの端部からスラスタ筐体2の径方向内外側(すなわち、噴射口18,18側)に向けて環状に張り出されている。よって、第2保護部108は、アノード陽極102の噴射口18,18を第1方向Jの側から覆うことができる。
【0073】
アノード陽極102に第1保護部107及び第2保護部108を設けた理由は次の通りである。
すなわち、例えばマルチモードスラスタ100をホールスラスタモードで使用する場合に、アノード陽極102において陽極本体106の表面106a(特に、ガス密度が高くなる噴射口18,18付近)が主要な放電パスである。一方、陽極本体106の表面106aは、主にイオンビームによりスパッタされた放電チャネル15等の絶縁物によるコンタミを表面106aの下流側から受ける。よって、アノード陽極102は、噴射口18,18の清浄面がコンタミにより減少する。このため、放電パスにおいて推力に寄与しない電気抵抗が生じ、推進性能の低下や着火不良を招く。
【0074】
そこで、アノード陽極102の噴射口18,18付近を第1保護部107及び第2保護部108により第1方向Jの側(すなわち、噴射口18,18の下流側)から覆うようにした。これにより、第1保護部107及び第2保護部108を噴射口18,18の下流側からのコンタミに対するシールドとすることができる。この際、汚染抑止の観点からは、第1保護部107及び第2保護部108は広い(大きい)方が好ましい。しかしながら、第1保護部107及び第2保護部108が広くなると、プラズマの通り道(放電パス)が狭められる。そこで、例えばプラズマの代表長1mmに対して、第1保護部107及び第2保護部108から噴射口18,18まで十分な空間を確保し、プラズマの通り道を用意することが好ましい。
【0075】
噴射装置104は、スラスタ筐体2に対して一部が一体に形成されている。具体的には、噴射装置104は、実施形態の噴射装置4に加えて、熱シールド121と、第1台座122と、第2台座123と、を備えている。
熱シールド121は、電熱ヒーター23の外周を覆うように円筒状に形成されている。熱シールド121は、電熱ヒーター23からの放熱を抑制する。熱シールド121は、中央部13の内部に設けられている。熱シールド121は、スラスタ筐体2の対称軸As上に配置されている。すなわち、円筒容器21、カソード電極22、電熱ヒーター23、及び熱シールド121は、スラスタ筐体2の中央部13に内蔵されている。
【0076】
第1台座122は、スラスタ筐体2において中央の空間(すなわち、中央部13の空間)に面する内周面13aからスラスタ筐体2の径方向内側に向けて張り出されている。第1台座122は、中央部13(すなわち、スラスタ筐体2)に一体に固定されている。第1台座122は、熱シールド121を乗せた状態において支持する。
【0077】
このように、熱シールド121をスラスタ筐体2に第1台座122を介して支持できる。よって、熱シールド121を支持する部材を中央部13の空間に個別に備える必要がない。これにより、噴射装置104をスラスタ筐体2の中央に配置するために必要とする空間を小さく抑えることができる。さらに、振動衝撃で劣化しやすい熱シールド121が破損するリスクを抑制できる。
加えて、熱シールド121をスラスタ筐体2に第1台座122を介して支持することにより、熱シールド121の電気的絶縁や構造部材の部品点数の削減にも寄与できる。
【0078】
第2台座123は、円筒容器21の基部を形成している。第2台座123は、スラスタ筐体2の底部11において対称軸Asの第2方向Tを向く表面(第2面)11aに配置されている。第2台座123は、スラスタ筐体2に一体に固定されている。第2台座123は、カソード電極22及び電熱ヒーター23を支持する。
【0079】
このように、カソード電極22及び電熱ヒーター23をスラスタ筐体2に第2台座123を介して支持できる。よって、カソード電極22及び電熱ヒーター23を支持する部材を個別に備える必要がない。これにより、噴射装置104をスラスタ筐体2の中央に配置するために必要とする空間を小さく抑えることができる。さらに、カソード電極22及び電熱ヒーター23が振動衝撃で破損するリスクを抑制できる。
加えて、カソード電極22及び電熱ヒーター23をスラスタ筐体2に第2台座123を介して支持することにより、カソード電極22及び電熱ヒーター23の電気的絶縁や構造部材の部品点数の削減にも寄与できる。
【0080】
また、噴射装置104は、キーパー電極24がスラスタ筐体2の中央部13において第1方向Jの側を向く表面(第1面)13bに配置されている。キーパー電極24は、中央部13の表面13b(すなわち、スラスタ筐体2)に耐プラズマスパッタ材26を介して一体に固定されている。
【0081】
このように、キーパー電極24をスラスタ筐体2に対して一体に固定することにより、例えば、従来においてキーパー電極24を支持するために必要とされた片持ちのキーパー筒を不要にできる。よって、噴射装置104をスラスタ筐体2の中央部13に配置するために必要とする空間を小さく抑えることができる。
加えて、キーパー電極24をスラスタ筐体2と一体とすることにより、振動衝撃によりキーパー電極24が破損するリスクを抑制できる。これにより、カーボン等の脆性な耐スパッタ電極材をキーパー電極24に使用することが可能になる。
【0082】
ここで、キーパー電極24は、MPD電源32(
図1参照)に導線125を介して電気的に接続されている。導線125は、第2台座123、中央部13、及び耐プラズマスパッタ材26に形成された小径の引出孔126に配索された状態でキーパー電極24に電気的に接続されている。導線125の表面には、絶縁被覆が設けられている。これにより、キーパー電極24が、第2台座123や中央部13に対して、導線125を介して短絡することが抑制されている。
【0083】
以上説明したように、噴射装置104は、第1台座122、第2台座123、及びキーパー電極24をスラスタ筐体2に対して一体に固定されている。噴射装置104をスラスタ筐体2の中央部13に内蔵させる際には、例えば円筒容器21及びカソード電極22を中央部13内の空間に封入して、円筒容器21の第2台座123をスラスタ筐体2に一体に固定する。つぎに、電熱ヒーター23を円筒容器21の第2台座123に載せる。ついで、熱シールド121を第1台座122に載せる。つづいて、キーパー電極24を中央部13に一体に固定する。
【0084】
このように、噴射装置104をスラスタ筐体2の中央部13に組み込むことにより、噴射装置104を中央部13に差し込む構成ではなく、中央部13に内蔵させることができる。よって、噴射装置104を必要最小限の空間と、必要最小限の絶縁材の部品点数とで構成することが可能になる。
これにより、マルチモードスラスタ100は、噴射装置104をスラスタ筐体2の中央部13に配置するセンターカソード形態の機能性能面の利点を維持するとともに、コストや信頼性の観点において優れ、小型化に適している。
【0085】
マルチモードスラスタ100は、例えば電力が800Wでスラスタ筐体のΦが66mmの小型推進機において、ホールスラスタモードで作動した際に以下の性能が得られた。
すなわち、マルチモードスラスタ100は、比推力が1,600[秒]、推力電力比が65[mN/kW]を得ることができ、同クラスの実績品(比推力1,470[秒]、推力電力比61[mN/kW]に比べて明確に優位な性能を得た。
また、マルチモードスラスタ100は、ランダム振動14grms(overall)(二乗平方根加速度(実効加速度、加速度RMS)のオーバーオール値が14であるランダム振動)、衝撃800Gの機械環境試験を満足した。さらに、マルチモードスラスタ100は、寿命試験2000時間、2000サイクルを満足した。
加えて、マルチモードスラスタ100の作動は非常に安定しており、着火不良は一度も発生しなかった。マルチモードスラスタ100の分解点検の結果、推定20000時間、20000サイクル以上の寿命を有することが判明した。
【0086】
(変形例2)
図8に示すように、変形例2のマルチモードスラスタ130は、第2台座123とスラスタ筐体2の底部11との間に絶縁材132が介在されている。すなわち、マルチモードスラスタ130は、第2台座123とスラスタ筐体2が電気的に絶縁されている。また、マルチモードスラスタ130は、キーパー電極24を中央部13の表面13bに導電可能に一体に固定されている。
【0087】
マルチモードスラスタ130は、カソード電極22がスラスタ筐体2から絶縁されている。また、マルチモードスラスタ130は、キーパー電極24を中央部13の表面13bに導電可能とすることにより、スラスタ筐体2の全体をキーパー電極24と同一電位にできる。マルチモードスラスタ130によれば、変形例1の引出孔126を不要にでき、例えば、スラスタ筐体2を介してキーパー電極24に電圧を印加可能となる。
【0088】
(変形例3)
ここで、例えば、
図1に示すマルチモードスラスタ1をホールスラスタモードで使用する場合に、優れた推進性能と安定的な着火とを得るためには、アノード陽極16の形状が重要である。そこで、優れた推進性能と安定的な着火とを得るアノード陽極を
図9、
図10を参照して説明する。
【0089】
図9、
図10に示すように、変形例3のアノード陽極140は、ガス導入ポート17(
図1参照)と、ガス分配機構142と、を備える。ガス導入ポート17は、ガス分配機構142の導入口(第1導入口145)に連通されている。すなわち、ガス導入ポート17は、ガス分配機構142の導入口(第1導入口145)に推進剤ガスを導入(供給)する。ガス分配機構142は、1つのガス導入ポート17と複数の噴射口18(
図1参照)とを連通する。
具体的には、ガス分配機構142は、複数の環状プレートが積層されている。例えば変形例3においては、ガス分配機構142は、第1環状プレート143と、第2環状プレート144との2つの環状プレートが積層されている。なお、環状プレートの積層数は任意に選択可能である。
【0090】
第1環状プレート143の第1面には、第1導入口145と、第1導入溝146と、第1供給口148と、が設けられている。第1環状プレート143では、ガス導入ポート17に第1導入口145が連通される。第1導入口145は、複数の第1導入溝146を経て複数の第1供給口148に連通されている。第1導入溝146は、1つ以上の分岐個所149を含む。複数の第1導入溝146は、不図示のプレートで開口部が塞がれることにより、複数の第1ガス流路(ガス流路)147が形成される。
【0091】
第2環状プレート144の第1面には、第2導入口152と、第2導入溝153と、第2供給口155と、が設けられている。第2環状プレート144では、複数の第1供給口148に複数の第2導入口152がそれぞれ連通されている。第2導入口152は、複数の第2導入溝153を経て複数の第2供給口155に連通されている。第2導入溝153は、1つ以上の分岐個所156を含む。複数の第2導入溝153は、例えば、第1環状プレート143の第2面で開口部が塞がれることにより、複数の第2ガス流路(ガス流路)154が形成される。複数の第2供給口155は、複数の噴射口18(
図1参照)に連通される。
【0092】
ガス分配機構142は、第1環状プレート143と第2環状プレート144とが積層される。これにより、ガス分配機構142は、1つのガス導入ポート17と複数の噴射口18とを各別に連通する複数の第1ガス流路147及び複数の第2ガス流路154を含む。そして、1つのガス導入ポート17(第1導入口145)と、一の噴射口18(一の第2供給口155)と、を連通する第1ガス流路147および第2ガス流路154の合計長さと、1つのガス導入ポート17(第1導入口145)と、前記一の噴出口18とは異なる他の噴射口18(他の第2供給口155)と、を連通する第1ガス流路147および第2ガス流路154の合計長さと、は互いに同等である。すなわち、1つのガス供給ポート17から複数の噴射口18を各別に連通する複数のガス流路の長さは、互いに同等である。
【0093】
よって、
図1に示すマルチモードスラスタ1をホールスラスタモードで使用する場合に、ガス導入ポート17から導入された推進剤ガスを複数の噴射口18にアノード陽極140の周方向において均等に分配(供給)できる。例えば、複数の噴射口18への分配の不均一差を1%未満に抑えることができる。これにより、推進剤ガスを環状の放電チャネル15に均等に供給できる。したがって、マルチモードスラスタ1をホールスラスタモードで使用する場合に、優れた推進性能と安定的な着火とを得ることができる。さらに、例えば、マルチモードスラスタ1の対称軸と推力軸とを一致させ易くすることも可能になり、この場合、更に優れた推進性能を得ることができる。
【0094】
なお図示の例では、1つのガス供給ポート17から複数の噴射口18を各別に連通する複数のガス流路が折れ曲がる回数も、互いに同等である。例えば、
図9に示すように、複数の第1ガス流路147は、第1導入口145から第1供給口148に至るまで、いずれも3回ずつ(概ね90度程度)折れ曲がっている。
図10に示すように、複数の第2ガス流路154は、第2導入口152から第2供給口155に至るまで、いずれも2回ずつ(概ね90度程度)折れ曲がっている。よって、図示の例では、1つのガス供給ポート17から複数の噴射口18を各別に連通する複数のガス流路は、いずれも5回ずつ(概ね90度程度)折れ曲がっている。複数のガス流路において折れ曲がる回数が互いに同等であることにより、例えば、前述した複数の噴射口18への分配の不均一さを一層抑えることができる。
このように、図示の例では、1つのガス供給ポート17から複数の噴射口18を各別に連通する複数のガス流路において、(1)長さ、(2)折れ曲がる回数、のいずれもが、互いに同等である。ただし、(1)長さが同等で(2)折れ曲がる回数が同等でなくてもよく、(1)長さが同等でなく(2)折れ曲がる回数が同等であってもよい。
【0095】
(変形例4、5)
ここで、例えば、
図1に示すマルチモードスラスタ1のコイル電源34には、内電磁コイル6及び外電磁コイル8が並列に接続されているが、各コイルへの電圧の印加の有無を切り替える図示しないスイッチが設けられていてもよい。さらに、
図11に示すマルチモードスラスタ160のように、内電磁コイル6及び外電磁コイル8が直接、電気的に接続されていて、内電磁コイル6及び外電磁コイル8がコイル電源34に直列に接続されていてもよい。さらに、
図12に示すマルチモードスラスタ170のように、コイル電源34として、第1コイル電源34a及び第2コイル電源34bが設けられていて、これらの各コイル電源34a、34bが、内電磁コイル6及び外電磁コイル8それぞれに独立して接続されていてもよい。
【0096】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0097】
例えば、外電磁コイル8、放電チャネル15、アノード陽極16がなくてもよい。
【0098】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、本実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0099】
1,100,130 マルチモードスラスタ
2 スラスタ筐体(筐体)
4,104 噴射装置
6 内電磁コイル(第1コイル)
8 外電磁コイル(第2コイル)
11 底部
11a 底部11の表面(第2面)
13 中央部
13a 内周面
13b 中央部の表面(第1面)
15 放電チャネル(チャネル)
16,102,140 アノード陽極
17 ガス導入ポート(ガス供給ポート)
18 噴射口
22 カソード電極
23 電熱ヒーター(ヒーター)
24 キーパー電極(電極)
28 ノズル
107 第1保護部(保護部)
108 第2保護部(保護部)
121 熱シールド
122 第1台座
123 第2台座
142 ガス分配機構
147 第1ガス流路(ガス流路)
154 第2ガス流路(ガス流路)
J 第1方向(軸方向の第1側)
T 第2方向(軸方向の第2側)