(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120592
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】農業資材用熱可塑性樹脂組成物及び農業資材
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20240829BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240829BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20240829BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240829BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240829BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K3/013
C08K3/20
C08K3/26
C08K7/02
C08K5/29
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027480
(22)【出願日】2023-02-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 誠
(72)【発明者】
【氏名】草間 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大橋 竜太
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB012
4J002BG073
4J002BH013
4J002CD193
4J002CF031
4J002CF041
4J002CF051
4J002CF181
4J002DE076
4J002DE086
4J002DE236
4J002DJ017
4J002ER007
4J002EU227
4J002FA042
4J002FD016
4J002FD332
4J002FD333
4J002FD337
4J002GA00
4J002GA01
(57)【要約】
【課題】高い生分解性と成形性の両立が可能であり、さらには難易度の高い深絞りの成形体であっても製造可能である農業資材用熱可塑性樹脂組成物及び当該農業資材用熱可塑性樹脂組成物からなる農業資材を提供することを目的とする。
【解決手段】水中でのpHが8.5~12.5である塩基性フィラー(A)、脂肪族ポリエステル系樹脂(B1)および脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B2)、カルボジイミド化合物、セルロース繊維、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物化合物、及びシリカ系フィラーからなる群から選択される少なくとも1つを含む増粘剤(C)を含有し、熱可塑性樹脂組成物100質量%を基準として、塩基性フィラー(A)の含有率が3~30質量%、かつ増粘剤(C)の含有率が0.01~3質量%である、農業資材用熱可塑性樹脂組成物により解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性フィラー(A)と、生分解性樹脂(B)と、増粘剤(C)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
塩基性フィラー(A)は、水中でのpHが8.5~12.5であり、
生分解性樹脂(B)は、脂肪族ポリエステル系樹脂(B1)および脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B2)を含み、
増粘剤(C)は、カルボジイミド化合物、セルロース繊維、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物化合物、及びシリカ系フィラーからなる群から選択される少なくとも1つを含み、
熱可塑性樹脂組成物100質量%を基準として、塩基性フィラー(A)の含有率が3~30質量%、かつ増粘剤(C)の含有率が0.01~3質量%である、
農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
塩基性フィラー(A)は、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、および水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
塩基性フィラー(A)は、平均粒子径が1~10μmである、請求項1記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
増粘剤(C)は、カルボジイミド化合物およびセルロース繊維の少なくともいずれかを含む、請求項1記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B2)100質量部に対し、脂肪族ポリエステル系樹脂(B1)の含有量が、100~300質量部である、請求項1記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
せん断速度243s-1における溶融粘度が、生分解性樹脂(B)の融点以上、融点+40℃以下の温度において、1000Pa・s以上5000Pa・s未満である、請求項1記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
ブロー成形または真空成形に用いられる、請求項1記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
育苗ポット用である、請求項1記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8いずれか1項記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物を用いて形成された、農業資材。
【請求項10】
育苗ポットである、請求項9記載の農業資材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業資材用熱可塑性樹脂組成物及び農業資材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは成形加工が容易なことから電気・電子機器部品、自動車部品、医療用部品、食品容器などの幅広い分野で使用されており、用途に応じて強度等の物理特性又は機能性をプラスチック成形品に付与している。農業資材分野では、耐水性及び強度の確保を必要とする用途などで使用されている。
【0003】
農業資材としては、例えば、地温の上昇又は保温、害虫防除を目的とする用途で使用するマルチフィルム、及び種苗を育てるための専用の容器の一種である育苗ポットが挙げられる。
【0004】
昨今の廃棄物問題、及び農業資材の回収作業を軽減する解決策として、生分解性材料を使用した農業資材があり、これらは回収する必要がなく、使用後は地中(土壌中)で分解可能である。
【0005】
特許文献1には、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート及びポリブチレンサクシネートアジペートから選ばれる生分解性樹脂と酸化カルシウム、水酸化カルシウム及び炭酸カルシウムといった塩基性フィラーを特定の質量比で含むことによって、生分解性を促進したマルチフィルムが記載されている。
【0006】
特許文献2には、ポリ乳酸のような難加水分解性生分解性樹脂、易加水分解性ポリマーからなるエステル分解促進剤、及び該エステル分解促進剤の加水分解を促進する無機粒子からなるエステル分解促進助剤を特定の質量比で含むことによって、生分解性を更に促進した技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-237764号公報
【特許文献2】特開2012-077246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
塩基性フィラーは、土壌に埋めたときの成形体の生分解性を促進する。しかし、成型時の加水分解を促進するため、樹脂組成物の成形性に影響を及ぼし、農業用のマルチフィルムのようなインフレ成形用途などにおいて、偏肉等の成形不良が問題となる。とくに、育苗ポットやプラグトレーといった延伸倍率の高い深絞りの成型体では、うまく成形できないという問題がおこってしまう。
【0009】
また、ネギやニラといった葉物の野菜は種まきから定植までの期間が短く、土壌に埋めて1-2ヶ月で分解することが望まれており、従来よりも更に短期間での分解が求められている。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑み成されたものであり、高い生分解性と成形性の両立が可能であり、さらには難易度の高い深絞りの成形体であっても製造可能である農業資材用熱可塑性樹脂組成物及び当該農業資材用熱可塑性樹脂組成物からなる農業資材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討を進めた結果、下記に示す構成を有する農業資材用熱可塑性樹脂組成物を見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明の一実施形態は、次の通りである。
<1>塩基性フィラー(A)と、生分解性樹脂(B)と、増粘剤(C)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
塩基性フィラー(A)は、水中でのpHが8.5~12.5であり、
生分解性樹脂(B)は、脂肪族ポリエステル系樹脂(B1)および脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B2)を含み、
増粘剤(C)は、カルボジイミド化合物、セルロース繊維、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物化合物、及びシリカ系フィラーからなる群から選択される少なくとも1つを含み、
熱可塑性樹脂組成物100質量%を基準として、塩基性フィラー(A)の含有率が3~30質量%、かつ増粘剤(C)の含有率が0.01~3質量%である、
農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
<2>塩基性フィラー(A)は、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、および水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1つを含む、<1>記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
<3>塩基性フィラー(A)は、平均粒子径が1~10μmである、<1>または<2>記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
<4>増粘剤(C)は、カルボジイミド化合物およびセルロース繊維の少なくともいずれかを含む、<1>~<3>いずれか記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
<5>脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B2)100質量部に対し、脂肪族ポリエステル系樹脂(B1)の含有量が、100~300質量部である、<1>~<4>いずれか記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
<6>せん断速度243s-1における溶融粘度が、生分解性樹脂(B)の融点以上、融点+40℃以下の温度において、1000Pa・s以上5000Pa・s未満である、<1>~<5>いずれか記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
<7>ブロー成形または真空成形に用いられる、<1>~<6>いずれか記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
<8>育苗ポット用である、<1>~<7>いずれか記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。
<9>上記<1>~<8>いずれか記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物を用いて形成される、農業資材。
<10>育苗ポットである、<9>記載の農業資材。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、生分解性を有し、成形性が良好な農業資材用熱可塑性樹脂組成物及び当該農業資材用熱可塑性樹脂組成物からなる農業資材を提供できる。
さらには難易度の高い深絞りの成形体であっても製造可能であって、高い生分解性を示す農業資材用熱可塑性樹脂組成物及び当該農業資材用熱可塑性樹脂組成物からなる農業資材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれることは言うまでもない。また、本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値の範囲として含むものとする。また、本明細書において「フィルム」や「シート」は、厚みによって区別されないものとする。換言すると、本明細書の「シート」は、厚みの薄いフィルム状のものも含まれ、本明細書の「フィルム」は、厚みのあるシート状のものも含まれるものとする。
本開示において、「農業資材用熱可塑性樹脂組成物」を「樹脂組成物」とも記すことがある。
本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を混合して用いてもよい。
なお、本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法により求められる値である。
【0015】
<農業資材用熱可塑性樹脂組成物>
本実施形態に係る農業資材用熱可塑性樹脂組成物は塩基性フィラー(A)と、生分解性樹脂(B)と、増粘剤(C)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、塩基性フィラー(A)は、水中でのpHが8.5~12.5であり、生分解性樹脂(B)は、脂肪族ポリエステル系樹脂(B1)および脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B2)を含み、増粘剤(C)は、カルボジイミド化合物、セルロース繊維、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物化合物、及びシリカ系フィラーからなる群から選択される少なくとも1つを含み、
熱可塑性樹脂組成物100質量%を基準として、塩基性フィラー(A)の含有率が3~30質量%、かつ増粘剤(C)の含有率が0.01~3質量%である。
このような樹脂組成物により、高い生分解性と成形性の両立が可能となる。
さらには難易度の高い深絞りの成形体であっても製造可能であって、高い生分解性を示すことができる。
【0016】
樹脂組成物の分解工程は、大きく2つの段階を備える。
第一段階は、加水分解または酸化分解により樹脂組成物の成形品である農業資材(育苗ポットやマルチフィルムなど)を構成する樹脂を低分子量化する。
次いで第二段階は、低分子量化した樹脂からなる農業資材の個片を土壌中の微生物が分解する。
農業資材を保管する間または農業資材を使用している間も樹脂の低分子量化が進行するため、第一段階での加水分解制御が重要となる。加水分解の因子として樹脂の結晶性が挙げられる。結晶領域に比べ非晶領域の方が、加水分解が進行しやすいため、結晶性を高めることで加水分解を抑制することが可能になる。
一般的に熱可塑性樹脂組成物に添加剤などを加えるとその粒子が結晶核となり、結晶の生成が促進されるため(造核効果)、結晶性が向上し、加水分解抑制効果が得られる。
【0017】
本実施形態の農業資材用熱可塑性樹脂組成物は、特定の、塩基性フィラー(A)と増粘剤(C)をそれぞれ特定量含むことで、樹脂組成物からなる農業資材の生分解速度を調整することができる。例えば、少なくとも種苗の育成期間である4か月程度は農業資材の分解が抑制されてその形状を維持することができ、種苗の育成期間を過ぎた1年程度後には農業資材が土壌中の微生物により分解されており、土壌中へのすき込みが可能となっていることが望ましい。
【0018】
以下に本実施形態について詳細に説明する。
【0019】
(塩基性フィラー(A))
本発明の塩基性フィラー(A)は、水中でのpHが8.5~12.5の塩基性フィラーであり、生分解性樹脂(B)の加水分解を促進する機能を有する。
塩基性フィラー(A)は、水中でのpHが8.5~12.5の塩基性フィラーであれば、特に限定されず、一般的に入手することができる塩基性フィラーを使用することができる。例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む塩基性化合物、アルカリ金属やアルカリ土類金属のイオンを放出するゼオライト、またはイオン放出性フィラー、ハイドロタルサイトなどが挙げられる。
これらの塩基性フィラー(A)を用いることで、樹脂組成物の分解工程の第一段階である加水分解を促進し、低分子量化させることによって、第二段階の土壌中の微生物の分解工程へと速やかに移行させることができる。
生分解性と成形性のバランスの観点からpHは9.0~11.0が好ましい。
【0020】
本発明の塩基性フィラーのpHは、pHメーターで測定した、23℃でのpH値である。pHメーターとしては、東亜DKK社製 PH計 HM-30P等を用いることができる。
なお、塩基性フィラーが水に溶解する場合には、水溶液を用いて測定し、また水に溶けていない場合には、分散液の上澄み液を用いてpHを測定することができる。
具体的には、例えば、塩基性フィラーを0.5g秤量しプラスチック製容器に入れ、50mlの脱イオン水を入れて、振動機で30分間振動させた後、遠心分離機で固液分離させて、上澄みの水を23℃の恒温槽で温度安定化した後、pHをpHメーター(東亜DKK社製 PH計 HM-30P)で測定した値を、塩基性フィラーのpHとすることができる。
【0021】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む塩基性化合物としては、炭酸ナトリウム、
炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリ
ウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、リ
ン酸ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等を挙げることができる。
【0022】
アルカリ金属やアルカリ土類金属のイオンを放出するゼオライトとしては、交換性イオンとしてアルカリ金属やアルカリ土類金属イオンを含む天然或いは合成の各種ゼオライトを使用することができる。
【0023】
イオン放出性のフィラーとしては、アルカリ金属やアルカリ土類金属を含むアルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、ソータ石灰ガラス等の酸化物ガラスや、フッ化ジルコニウムガラス等のフッ化物ガラスを挙げることができる。
【0024】
なかでも、成形性と生分解性を両立させる観点で、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む塩基性化合物が好ましく、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、がより好ましく、さらには、生分解性した後も塩基性フィラーは土壌に残るため、土中の塩基性が高くなりすぎると植物の生育性に影響がでることから、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムといった炭酸塩がとくに好ましい。これらは一種単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
また、成形性の観点から、塩基性フィラー(A)の平均粒子径は1~20μmであることが好ましく、1~10μmがより好ましい。塩基性フィラー(A)の平均粒子径が上記範囲にあることで生分解樹脂(B)中での塩基性フィラー(A)の分散性と成形品表面の平滑性を両立することができる。
【0026】
特に、樹脂を直接金型内に入れて空気を送るブロー成形では、樹脂組成物中の塩基性フィラー(A)の平均粒子径が成形性に寄与するため、塩基性フィラー(A)の平均粒子径が上述の範囲であることが好ましい。
【0027】
塩基性フィラー(A)の平均粒子径は、レーザー回折法により求めることができる。
例えば、レーザー回折法を用い、分散処理された塩基性フィラー(A)の分散液に対してレーザー光を照射し、そのレーザー光が溶液中を通過する際に散乱する光の強度の角度変化を測定することによって粒度分布を得て、平均粒子径を算出することができる。
粒度分布計としては、例えば、日機装社製粒度分布計マイクロトラックHRA等を用いることができる。
【0028】
(生分解性樹脂(B))
生分解性樹脂(B)は、土壌中又は水中に存在する様々な微生物の働きによって分解されるものである。本発明の樹脂組成物は、生分解性樹脂(B)として、脂肪族ポリエステル系樹脂(B1)及び脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B2)を含む。これにより、生分解性及び成形性に優れた樹脂組成物とすることができる。
生分解性樹脂(B)は、一般的に入手することができる生分解性樹脂をさらに使用することができる。その他生分解性樹脂としては例えば、ポリカプロラクトンなどが挙げられる。これらの生分解性樹脂は一種単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
脂肪族ポリエステル系樹脂(B1)の含有量は、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B2)の含有量以上であることが好ましい。ベース樹脂である脂肪族ポリエステル系樹脂(B1)と展延性を有し成形性に富んだ脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B2)を混合することにより、樹脂組成物の成形性、及びその成形品である農業資材の強度を確保することができる。
そのため、脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B2)100質量部に対する脂肪族ポリエステル系樹脂(B1)の含有量は、100質量部以上であることが好ましく、150質量部以上であることがより好ましい。また、300質量部以下であることが好ましく、200質量部以下であることがより好ましく、150質量部以下であることがさらに好ましい。
【0030】
[脂肪族ポリエステル系樹脂(B1)]
脂肪族ポリエステル系樹脂(B1)としては、例えば、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸との重縮合反応で得られる脂肪族ポリエステル及び乳酸の重縮合で得られるポリ乳酸が挙げられる。脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、これらの混合物を用いてもよい。なかでも1,4-ブタンジオールを用いることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタン酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン二酸が挙げられ、これらの誘導体である酸無水物を用いてもよい。なかでも、コハク酸または無水コハク酸、あるいはこれらとアジピン酸との混合物であることが好ましい。
具体的には、1,4ブタンジオールとコハク酸から得られるポリブチレンサクシネート(PBS)(例えば、PPT MCCバイオケム社製「BioPBS」(商品名))、PBSにアジピン酸を共重合したポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)等が挙げられる。
【0031】
[脂肪族ポリエステル系樹脂(B2)]
脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B2)としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸単位と、芳香族ジカルボン酸単位と、鎖状脂肪族及び/または脂環式ジオール単位とを含む共重合体が挙げられる。ジオール単位を与えるジオール成分は、炭素数が通常2~10のものであり、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。なかでも、炭素数2~4のジオールが好ましく、エチレングリコール、1,4-ブタンジオールがより好ましく、1,4-ブタンジオールが更に好ましい。ジカルボン酸単位を与えるジカルボン酸成分は、炭素数が通常2~10のものであり、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。なかでも、コハク酸またはアジピン酸が好ましい。芳香族ジカルボン酸単位を与える芳香族ジカルボン酸成分として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。なかでも、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
具体的には、1,4-ブタンジオールとアジピン酸とテレフタル酸との共重合体であるポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)(例えば、ビー・エー・エス・エフ社製「エコフレックス」(商品名))等が挙げられる。
【0032】
また、生分解性樹脂(B)は、脂肪族ポリエステル系樹脂(B1)及び脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B2)と、その他生分解性樹脂とを併用する形態であってもよい。その他生分解性樹脂としては、例えば、ヒドロキシアルカン酸と多価カルボン酸とから得られる脂肪族ポリエステル共重合体のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(なかでも、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)(例えば、株式会社カネカ製「アオニレックス」(商品名))、ポリ乳酸(PLA)(例えば、海正生物材料社製「REVODE」(商品名)、ネイチャーワークス社製「Ingeo」(商品名))が挙げられる。
【0033】
生分解性樹脂(B)の含有率は、樹脂組成物を基準(100質量%)として、35~95質量%であってもよく、35~94.99質量%であることがより好ましく、35~94.5質量%であることがさらに好ましく、39~90質量%であることがいっそう好ましい。生分解性樹脂(B)の含有率が上記範囲内であることで樹脂組成物の加工性と成形性を両立することができるために好ましい。また、脂肪族ポリエステル系樹脂及び脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂の合計の含有率は、100質量%であってもよく、生分解性樹脂(B)を基準(100質量%)として、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0034】
(増粘剤(C))
増粘剤(C)は、樹脂組成物の粘度を調整して成形性を向上させる粘度調整剤であり、成形加工性の指標である樹脂組成物の溶融張力を上昇させる機能を有する。
また、増粘剤(C)は、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物化合物、セルロース繊維、及びシリカ系フィラーからなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0035】
増粘剤(C)が多官能化合物である場合には、生分解性樹脂(B)と架橋構造を形成することで、樹脂組成物の溶融張力を上昇させることができる。多官能化合物としては、多官能カルボジイミド化合物、多官能オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物化合物等が挙げられる。多官能カルボジイミド化合物は、カルボジイミド基を2個以上有するモノマ又はポリマであってよいが、カルボジイミド基を2個以上有するポリマが好ましい。
【0036】
増粘剤(C)が反応性化合物である場合には、生分解性樹脂(B)に反応性基を導入して、この反応性基を起点として架橋構造を形成し、樹脂組成物の溶融張力を上昇させることができる。反応性化合物としては、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物化合物等が挙げられる。カルボジイミド化合物として環状カルボジイミドを用いることが好ましい。環状カルボジイミド化合物は、脂肪族環又は芳香族環の環上にカルボジイミド基を有する化合物である。
【0037】
増粘剤(C)としてシリカ系フィラーを用いる場合には、樹脂組成物の固形分を増加させて増粘させることで、樹脂組成物の溶融張力を上昇させることができる。フィラーとしては、有機フィラー及び無機フィラーのいずれかであってもよく、セルロース繊維、シリカ系フィラー等が挙げられる。
【0038】
好ましい一実施形態においては、グリーンプラスチックのポジティブリストに記載されている化合物を用いることができ、例えば、セルロース繊維であるセルロースマイクロファイバー(CMF)及びカルボジイミド化合物(CDI)等を用いることができる。セルロースマイクロファイバーとは、パルプを熱水等で処理し、加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー等の粉砕法により解繊したセルロースにおける解繊工程を少なくすることで得られる比較的大サイズのセルロース繊維を指す。セルロースマイクロファイバー及びカルボジイミド化合物を含むことにより樹脂組成物の粘度を高め、かつ、強度を確保できる。
【0039】
すなわち、樹脂組成物にセルロースマイクロファイバーが含有されるとセルロースマイクロファイバーのフィラー効果によって樹脂組成物の強度が上昇する。また、シリカ系フィラーは、セルロースマイクロファイバーと同様にフィラー効果を備えることから、セルロースマイクロファイバーと同じく樹脂組成物の強度を上昇させる。増粘剤(C)としてセルロースマイクロファイバー及びシリカ系フィラーの少なくとも1つが含まれている樹脂組成物の成形には、例えば、ブロー成形等を用いることができる。
【0040】
樹脂組成物にカルボジイミド化合物が含有されると樹脂とカルボジイミド化合物が反応して樹脂の分子量は大きくなるので、その樹脂が加水分解されて分子量が小さくなるまでに時間を要し、生分解速度が遅くなる。このため、樹脂組成物の強度が求められる農業資材の場合には、増粘剤(C)としてカルボジイミド化合物が含まれていると好ましい。また、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、及び酸無水物化合物においてもカルボジイミド化合物と同様にそれぞれ樹脂との反応性を備えるため、これらの化合物においてもそれぞれ樹脂組成物の強度を向上させることができる。カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、及び酸無水物化合物の少なくとも1つを含む樹脂組成物は、例えば真空成形を用いて成形することができる。
【0041】
カルボジイミド化合物としては、例えば、日清紡ケミカル社製「カルボジライトHMV-15CA(商品名)」などのポリカルボジイミド化合物;ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミドなどのモノカルボジイミド;帝人株式会社製「カルボジスタTCC-NP」(商品名)などの環状カルボジイミド化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
オキサゾリン化合物としては、例えば、株式会社日本触媒製「エポクロス RA-45」(商品名)、「エポクロス RPS-1005」(商品名)等が挙げられる。これらの化合物は、単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。
エポキシ化合物としては、例えば、エポキシ-アクリル化合物(BASF社製「ジョンクリルADR-4468」(商品名)、BASF社製「ジョンクリルADR-4400」(商品名)、東亜合成株式会社製「アルフォンUG-4040」(商品名)、東亜合成株式会社製「アルフォンUG-4070」(商品名))等が挙げられる。これらの化合物は、単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。
酸無水物化合物としては、例えば、スチレン無水マレイン酸化合物(PALMER HOLLAND社製「XIBOND120」(商品名)、「XIBOND140」(商品名)、「XIBOND160」(商品名)、「XIBOND180」(商品名)、「XIBOND200」(商品名)、「XIBOND220」(商品名)、「XIBOND250」(商品名)、「XIBOND280」(商品名)、巴工業株式会社製「XIRAN1000」(商品名)、「XIRAN2000」(商品名)、「XIRAN2500」(商品名)、「XIRAN3000」(商品名)、「XIRAN4000」(商品名)、「XIRAN6000」(商品名)、「XIRAN9000」(商品名)、「XIRAN3500」(商品名)、「XIRAN3600」(商品名))等が挙げられる。これらの化合物は、単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。
シリカ系フィラーとしては、例えば、シリカフィラー(日本アエロジル株式会社製「アエロジル130」(商品名)、「アエロジル150」(商品名)、「アエロジル200」(商品名)、「アエロジル300」(商品名)、「アエロジルRX200」(商品名)、「アエロジルRY200」(商品名),東ソー・シリカ株式会社製「ニップシールSS-50」(商品名)、「ニップシールSS-50B」(商品名)、「ニップシールSS-50F」(商品名)、「ニップシールK-500」(商品名)、「ニップシールG-300」(商品名)等が挙げられる。これらは、単独で使用しても、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
増粘剤(C)の含有量は、樹脂組成物の粘度を適切なものとするために、樹脂組成物100質量部中に0.01~3質量部であることが好ましく、0.01~2質量部であることがより好ましく、0.01~1質量部、または0.1~0.8質量部であってもよい。
【0044】
(澱粉(D))
また、本発明の樹脂組成物は、澱粉を含んでもよい。澱粉を用いることで、第二工程である土壌中の微生物の分解工程も促進されることで、更なる促進効果が得られるために好ましい。
澱粉(D)は、土壌中又は水中に存在する様々な微生物の働き(生分解性)を促進するものである。澱粉(D)は、特に限定されず、一般的に入手することができる澱粉を使用することができる。例えば、コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉などが挙げられる。なかでも、粒径が20μm程度に揃っているコーンスターチを用いると、樹脂組成物からなる農業資材の厚さを均一化でき(表面の凹凸を低減でき)、厚さの薄い部分の発生を抑制でき、結果として農業資材の破損を抑制できるため好ましい。これらは一種単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
澱粉(D)を含む場合、澱粉(D)の含有率は、生分解速度を調整できる成分であり、その含有量は、樹脂組成物100質量%中、5~60質量%であることが好ましく、10~50質量%、10~40質量%、又は10~30質量%であってもよい。澱粉(D)の含有量が5質量%以上であると生分解が促進され、60質量%以下であると生分解性樹脂(B)の含有量を確保して、成形性を担保することができる。
【0046】
また、成形性の観点から、澱粉(D)の平均粒子径は5~50μmであることが好ましく、10~50μmであってもよい。澱粉(D)の平均粒子径が上記範囲にあることで生分解樹脂(B)中での澱粉(D)の分散性と成形品表面の平滑性を両立することができる。
【0047】
澱粉(D)の平均粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡による澱粉(A)の粒子の観察を行い、無作為に100個の粒子を観察し、それぞれの粒子の外形の最も離れた2点間の距離を画面上のミクロンマーカの長さをもとに測定し、平均して求めることができる。
【0048】
塩基性フィラー(A)に対する澱粉(D)の質量比は、塩基性フィラー(A)/澱粉(D)=80/20~20/80であることが好ましく、50/50~25/75であることが好ましい。
これにより、更なる促進効果により、生分解性がより優れた農業資材とすることができるために好ましい。
【0049】
(その他成分)
樹脂組成物は、必要に応じて添加剤等のその他成分を任意に含むことができる。添加剤としては、例えば、分散剤、滑剤(高級脂肪酸金属塩、ワックス類等)、ハイドロタルサイト、界面活性剤、帯電防止剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料などが挙げられる。他の任意成分の選択およびその使用量は、本発明の一実施形態の課題を解決できる範囲内であれば特に限定されない。複数の添加剤を組み合わせて使用してもよい。また、樹脂組成物は、本発明の一実施形態の効果を阻害しない範囲内で生分解性樹脂以外の樹脂を一部含んでもよい。
【0050】
樹脂組成物は、顔料により着色することにより、遮熱効果に優れた成形品又は識別容易な成形品を製造することができる。顔料は、特に限定されず、一般的に入手することができるものを使用することができるが、自然環境の観点から、カドミウム、鉛、クロム、ヒ素、水銀、銅、セレン、ニッケル、モリブデン、フッ素を含む顔料を実質的に含まないことが好ましい。
【0051】
例えば、樹脂組成物が顔料を含む場合、顔料を分散するための分散剤を併用することが好ましく、分散剤としては、脂肪酸金属塩が挙げられる。脂肪酸金属塩の脂肪酸成分としては、炭素数が6~30の鎖状カルボン酸が好ましく、直鎖状、分岐状でもよく、また飽和結合のみでも不飽和結合を有していてもよい。
脂肪酸の例としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、モンタン酸等が挙げられる。
金属としては、第1族、第2族、第12族、及び第13族の元素が好ましく、第1族又は第2族の元素がより好ましい。具体例としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどが挙げられる。
【0052】
脂肪酸金属塩としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸マグネシウム、モンタン酸ナトリウム等が挙げられる。これらは1種でもよく2種類以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸マグネシウムが好ましい。
【0053】
(加工性)
上述の農業資材用熱可塑性樹脂組成物において、押出時の加工性は、1時間連続して生産した際にストランド切れの発生が5回以下であり、1~5回であってもよく、ストランド切れが発生しないことが好ましい。
【0054】
(溶融粘度)
上述の農業資材用熱可塑性樹脂組成物において、JIS K7199:1999におけるせん断速度243s-1における溶融粘度は、生分解性樹脂(B)の融点以上、融点+40℃以下の温度において、得られる成形品の強度及び樹脂組成物の流動性と成形性の観点から、1000Pa・s以上5000Pa・s未満であることが好ましく、1500Pa・s以上4500Pa・s未満であることがより好ましい。
【0055】
(用途)
本実施形態に係る農業資材用熱可塑性樹脂組成物は、様々な農業資材に利用することができる。特に、この樹脂組成物は育苗ポット用として好適に使用できる。育苗ポットとは、畑に種を直接まいて育てるのではなく、容器中である程度成長するまで種苗を育てるために使用されるポットである。本実施形態の樹脂組成物を用いた成形品は、土壌中で適切に生分解するので、種苗が成長したのちに育苗ポットから種苗を取り出して移植する必要はなく、育苗ポットのまま土壌中に移植可能である。
【0056】
≪製造方法≫
本実施形態の樹脂組成物は、生分解性樹脂(B)が溶融する温度で塩基性フィラー(A)及び増粘剤(C)を混練することで製造できる。具体的には、例えば、生分解性樹脂(B)と、塩基性フィラー(A)と、増粘剤(C)と、更に必要に応じて各種添加剤を加え、ニーダー、ロールミル、スーパーミキサー、ハイスピードミキサー、ボールミル、サンドミル、アトライター、又はバンバリーミキサーのような回分式混練機、単軸押出機、二軸押出機、ローター型二軸混練機等で混合及び溶融混練し、ペレット状、粉体状、顆粒状あるいはビーズ状の樹脂組成物とすることができる。混練力が強く、その後の成形加工が容易なことから、単軸押出機又は二軸押出機にてペレット状とすることが好ましい。
【0057】
樹脂組成物は、マスターバッチまたはコンパウンドのいずれの形態で使用してもよい。
マスターバッチの場合、マスターバッチを製造した後に、農業資材の主剤樹脂として、例えばマスターバッチの製造に使用したのと同じ生分解性樹脂(B)を希釈樹脂として用い、マスターバッチを配合して農業資材を製造することができる。マスターバッチの含有量としては主剤樹脂である生分解性樹脂(B)100質量部に対して、マスターバッチを1~50質量部含有することが好ましく、1~20質量部含有することがより好ましい。
このとき希釈樹脂として用いる生分解性樹脂(B)は、マスターバッチの製造に使用したものと同じであってもよいし、異なるものであってもよいが、同じ生分解性樹脂であるほうが、熱可塑性樹脂組成物と樹脂の相溶性が優れるために好ましい。
コンパウンドの場合、コンパウンドを製造した後に、コンパウンドをそのまま使用して、上述の方法で農業資材を製造することができる。
【0058】
<農業資材>
本実施形態の農業資材は、上述の農業資材用熱可塑性樹脂組成物を成形することにより得ることができる。農業資材としては、例えば、育苗ポット、マルチフィルム、容器、農業用ネットが挙げられる。
本実施形態の農業資材であることで、育苗ポットやプラグトレーといった延伸倍率の高い深絞りの成形体であっても、生分解性および成形性の両立が可能となる。
ここでいう深絞りの成形体とは、成形体の幅より深さ方向の方が長い成型体である。
【0059】
(育苗ポット)
育苗ポットは、上述した目的で用いられる容器である。育苗ポットの成形加工方法は、特に限定されないが、例えば、加熱及び可塑化させた樹脂組成物を押し出し、それを冷却固化させずに直接金型内に入れて空気を送るブロー成形、及び、加熱及び可塑化させた樹脂組成物のシート又はフィルムを金型上に配置し金型の内側から真空吸引して成形する真空成形等が適している。
【0060】
上述の樹脂組成物からなる育苗ポットは、土壌中に埋められたのちは生分解するため、自然環境を損ねることがなく、育苗ポットから種苗を取り出して種苗を播植する手間を軽減することができる。当該育苗ポットは、土壌に埋める前の、種苗の育成期間である約2-4か月の間は分解せずに良好に育成が行われる。また、この育苗ポットは育苗用途に適した強度を有するので、取り扱いが容易であり、育苗期間中に適切な形状を保つことができる。
【0061】
(マルチフィルム)
マルチフィルム(マルチングフィルム)は、作物の株元を覆うフィルムである。上述の樹脂組成物からフィルムを成形加工する方法は、特に限定されないが、押出機を用いてTダイにて押出したフィルムをキャストロールで冷却固化する押出成形、又はインフレーション成形機により成形する方法等が適している。
【0062】
≪ブロー成形、真空成形≫
上述の樹脂組成物は、増粘剤(C)により溶融張力を上昇させているため、ドローダウン(予備成形された樹脂が自重に耐えられず重力方向に垂れ下がる現象)を抑制することができる。
【0063】
ブロー成形の場合、成形品が薄くなり軽くなることを抑制することができる。本実施形態の樹脂組成物は、ブロー成形することができ、例えば、ダイレクトブロー成形機にて2個1組の育苗ポットを3組連続して作製した際の、1組目の育苗ポット1個あたりの重量と3組目の育苗ポット1個あたりの重量の差を1組目の育苗ポット1個あたりの重量に対して30%未満にすることができる。また、育苗ポット1個あたりの重量が0.7g以上0.8g未満であればよく、0.8g以上0.9g未満であると好ましく、0.9g以上であることがより好ましい。上述の樹脂組成物を用いることにより、ブロー成形性を得ることができる。
【0064】
例えば、成形品が育苗ポットである場合、育苗ポットが自立する程度の強度を有していればよく、育苗ポットにたわみが発生しないことが好ましい。上述の樹脂組成物を用いることにより、強度を確保した育苗ポットを得ることができる。
【0065】
真空成形の場合、シートのたわみによるシワ等の垂れに由来する外観不良部の発生を抑制することができる。例えば、成形品に垂れに由来する外観不良部があっても樹脂組成物を用いて真空成形ができればよく、外観不良部が僅かであれば好ましく、外観不良部がないことがより好ましい。上述の樹脂組成物を用いることにより、真空成形品を得ることができる。
【0066】
例えば、成形品が育苗ポットである場合、育苗ポットの脆さは、育苗ポットに1kgの土を入れ、5mの高さから落としたとき、育苗ポットの破壊が10個中3個以下であればよく、10個中1~3個以下であってもよく、1個も破壊しないことが好ましい。上述の樹脂組成物を用いることにより、強度を確保した育苗ポットを得ることができる。
【0067】
(生分解速度)
上述の樹脂組成物を用いて成形した成形品を地中に6か月間埋めたとき、成形品は分解が進み所々穴が開いていればよく、成形品が分解しバラバラになっていることが好ましい。上述の樹脂組成物を用いることにより、生分解速度を適切に調整した成形品を得ることができる。
【0068】
本実施形態によれば、農業資材用熱可塑性樹脂組成物は、生分解性を促進する塩基性フィラー(A)と溶融張力を上昇させる増粘剤(C)を特定量含むため、生分解性と成形性に優れた農業資材を得ることができる。
【0069】
また、本発明の実施形態はここでは記載していない様々な実施形態などを含む。例えば、以下に関する形態を含む。
【0070】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。
【実施例0071】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例において、「部」及び「%」は、特に断りがない場合は、それぞれ、「質量部」及び「質量%」を表す。
また、表中の配合量は、質量部で示している。尚、表中の空欄は配合していないことを表す。
なお、塩基性フィラーのpH、および平均粒子径の測定方法は以下の通りである。
【0072】
<pH測定>
塩基性フィラーを0.5g秤量しプラスチック製容器に入れ、50mlの脱イオン水を入れて、振動機で30分間振動させた後、遠心分離機で固液分離させて、上澄みの水を23℃の恒温槽で温度安定化した後、PHをPHメーター(東亜DKK社製 PH計 HM-30P)で測定した。
【0073】
なお、塩基性フィラー(A)と澱粉(D)の平均粒子径の測定方法は以下の通りである。
<塩基性フィラー(A)の平均粒子径測定方法>
イソプロピルアルコールで塩基性フィラーを分散処理することにより試料を調製した。得られた分散液に対して日機装社製粒度分布計マイクロトラックHRAを用い、レーザー光を照射し、そのレーザー光が分散液中を通過する際に散乱する光の強度の分布パターンを測定することによって粒度分布を得た。さらに、上記粒度分布の値から、体積基準での中位径(50%径)を求め、平均粒子径とした。
【0074】
<澱粉(D)の平均粒子径測定方法>
日立製作所社製の走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて視野倍率100倍にて澱粉の粒子の観察を行い、無作為に100個の粒子を観察し、それぞれの粒子の外形の最も離れた2点間の距離を画面上のミクロンマーカの長さをもとに測定し、平均して求めた。
【0075】
次に、農業資材用熱可塑性樹脂組成物に使用した材料を以下に列挙する。
(塩基性フィラー(A))
A-1:KS-1300(炭酸カルシウム、(株)カルファイン製、pH9.0、平均粒子径:1.8μm)
A-2:KS-500(炭酸カルシウム、(株)カルファイン製、pH9.0、平均粒子径:4.4μm)
A-3:KS-300(炭酸カルシウム、(株)カルファイン製、pH9.0、平均粒子径:8.9μm)
A-4:炭酸マグネシウム(金星)(神島化学工業(株)製、pH10.0、平均粒子径:10μm)
A-5:Fライム-1300K(酸化カルシウム、(株)カルファイン製、pH12.4、平均粒子径:5.0μm)
A-6:M-300(水酸化カルシウム、(有)井上満吉商店製、pH12.4、平均粒子径:4.9μm)
A-7:水酸化マグネシウム(神島化学工業(株)製、pH10.5、平均粒子径:6μm)
A-8:水酸化マグネシウム(神島化学工業(株)製、pH10.5、平均粒子径15μm)
A-9:IXE-700F(ハイドロタルサイト、東亜合成(株)製、pH8.5、平均粒子径:1.5μm)
(その他塩基性フィラー)
A’-1:水酸化ナトリウム(pH14.0、平均粒子径:20μm)
【0076】
(生分解性樹脂(B))
[脂肪族ポリエステル系樹脂(B1)]
B1-1:BioPBS FZ91(PTT MCCバイオケム社製 脂肪族ポリエステル樹脂:PBS樹脂)
B1-2:Ingeо Biopolymer 6252D(ネイチャーワークス社製 脂肪族ポリエステル樹脂:PLA樹脂)
[脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(B2)]
B2-1:エコフレックスC1200(ビー・エー・エス・エフ社製 脂肪族芳香族ポリエステル樹脂:PBAT樹脂)
【0077】
(増粘剤(C))
C-1:KCフロックW-50(セルロースマイクロファイバー、平均繊維長:50μm)
C-2:カルボジライトHMV-15CA(日清紡ケミカル社製、ポリカルボジイミド化合物)
C-3:カルボジスタTCC-NP(帝人株式会社製、環状カルボジイミド化合物)
C-4:ジョンクリルADR-4468(BASF社製、エポキシ-アクリル化合物)
C-5:XIBOND220(PALMER HOLLAND社製、スチレン無水マレイン酸化合物)
C-6:エポクロス RA-45(株式会社日本触媒製、オキサゾリン化合物)
C-7:アエロジル200(日本アエロジル株式会社製、シリカフィラー)
C-8:ニップシールSS-50(東ソー・シリカ株式会社製、シリカフィラー)
(その増粘剤)
C’-1:スメクトン-SWF(クニミネ工業株式会社製、合成ヘクトライト)
【0078】
(澱粉(D))
D-1;ケミスター420(グリコ栄養食品社製、平均粒子径:15μm)
【0079】
<農業資材用熱可塑性樹脂組成物の製造>
[実施例1]
(農業資材用熱可塑性樹脂組成物(コンパウンド)の製造)
塩基性フィラー(A)として(A-1)5質量部、生分解性樹脂(B)として(B1-1)64.5質量部、(B2-1)30部、増粘剤(C)として(C-1)0.5質量部を混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製)にて190℃で押出し、造粒し、農業資材用熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0080】
(育苗ポットの製造)
得られた農業資材用熱可塑性樹脂組成物を用いて、ブロー成形及び真空成形により成形し、育苗ポットを得た。
【0081】
[実施例2~35、比較例1~5]
表1に示す材料と配合量(質量部)にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の方法で農業資材用熱可塑性樹脂組成物及び育苗ポットをそれぞれ得た。
なお、比較例3、4、7~9の農業資材用熱可塑性樹脂組成物は、成形性が悪く、育苗ポットを製造することができなかったため、成形品の強度評価、脆さ評価、生分解性速度評価は行えなかった。
【0082】
実施例および比較例で得られた農業資材用熱可塑性樹脂組成物及び育苗ポットを以下の基準で評価した。評価結果を表1に示す。
【0083】
<加工性評価>
農業資材用熱可塑性樹脂組成物の押出時の加工性を評価した。評価基準は下記の通りとし、〇及び△を実用可能とした。
[評価基準]
〇:1時間連続して生産した際にストランド切れが発生しない。
△:1時間連続して生産した際にストランド切れが1~5回発生する。
×:1時間連続して生産した際にストランド切れが6回以上発生する。
【0084】
<溶融粘度評価>
JIS K7199:1999に従って、実施例および比較例で用いた熱可塑性樹脂(B)の融点以上、融点+40℃以下の温度である150℃でせん断速度243s-1における農業資材用熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度を測定した。評価基準は下記の通りとし、〇及び△を実用可能とした。
[評価基準]
○:溶融粘度が1500Pa・s以上
△:溶融粘度が1000以上1500Pa・s未満
×:溶融粘度が1000Pa・s未満
【0085】
<ブロー成形性評価>
ダイレクトブロー成形機(日本プラコン株式会社製)にて150℃で2個1組の育苗ポット(直径9cm、高さ7cm)を3組連続して作製し、1組目の育苗ポット1個あたりの重量と3組目の育苗ポット1個あたりの重量の差(重量差)及びを育苗ポット1個あたりの重量を作製時の成形性として評価した。なお、本評価において、「ブロー成形ができる」とは、重量差が1組目の育苗ポット1個あたりの重量に対して30%未満であることをいう。評価基準は下記の通りとし、〇及び△を実用可能とした。
[評価基準]
〇:ブロー成形ができ、育苗ポット1個あたりの重量が0.9g以上
△:ブロー成形ができ、育苗ポット1個あたりの重量が0.7以上0.9g未満
×:ブロー成形できない
【0086】
<真空成形性評価>
T-ダイ成形機にて180℃で縦30cm×横30cm×厚み0.45mmのシートを成形した。成形したシートを110℃まで加熱し真空成形機にて育苗ポット(直径6cm、高さ7cm)を成形し、作製時の成形性を評価した。評価基準は下記の通りとし、〇及び△を実用可能とした。
[評価基準]
○:真空成形ができ、育苗ポットに垂れに由来する外観不良部がない。
△:真空成形ができ、育苗ポットに垂れに由来する外観不良部が確認できる。
×:真空成形できない。
【0087】
<成形品強度評価>
ブロー成形性評価時に作製した育苗ポットの強度評価を行った。評価基準は下記の通りとし、〇及び△を実用可能とした。
[評価基準]
○:育苗ポットにたわみが発生せず自立している。
△:育苗ポットにたわみが発生するが自立している。
×:育苗ポットが自重に耐えられず自立できない。
-:育苗ポットが作製できず、評価ができなかった。
【0088】
<成形品脆さ評価>
真空成形性評価時に作製した10個の育苗ポットそれぞれに1kgの土を入れ、5mの高さから落とすことで育苗ポットの脆さを評価した。評価基準は下記の通りとし、〇及び△を実用可能とした。
[評価基準]
○:10個中1個も育苗ポットが破壊しない。
△:10個中1~3個破壊が起こる。
×:10個中4個以上破壊が起こる。
-:育苗ポットが作製できず、評価ができなかった。
【0089】
<生分解速度評価>
ブロー成形性評価時に作製した育苗ポットを地中に埋め、2週間後、1か月後、3か月後に掘り起こすことで生分解性を評価した。評価基準は下記の通りとし、〇及び△を実用可能とした。
[評価基準]
○:育苗ポットが分解しバラバラになっている。
△:育苗ポットの分解が進み所々穴が開いている。
×:育苗ポットが原型を留めている。
-:育苗ポットが作製できず、評価ができなかった。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
上記の結果より、実施例の樹脂組成物及び育苗ポットは、環境対応型であり、生分解の著しい促進が可能なだけでなく、成形性にも優れることが確認できた。
塩基性フィラー(A)は、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、および水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1記載の農業資材用熱可塑性樹脂組成物。