IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ KDDI株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ルーター及び試験方法 図1
  • 特開-ルーター及び試験方法 図2
  • 特開-ルーター及び試験方法 図3
  • 特開-ルーター及び試験方法 図4
  • 特開-ルーター及び試験方法 図5
  • 特開-ルーター及び試験方法 図6
  • 特開-ルーター及び試験方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120593
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】ルーター及び試験方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 43/0817 20220101AFI20240829BHJP
【FI】
H04L43/0817
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027483
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 拓也
(57)【要約】
【課題】実在するIPネットワークを用いて、実際のユーザートラフィックの経路切替は実施することなく、事前に経路切替の作業確認を行うことを図る。
【解決手段】経路制御プロトコルにより外部のルーターとの間で経路情報を交換するルーターにおいて、パケット転送に使用される経路情報を格納する経路情報格納部と、試験用に経路情報を格納する試験用経路情報格納部と、外部の第1のルーターから試験用経路情報更新メッセージを受信した場合に、前記試験用経路情報更新メッセージを前記経路情報格納部には反映させないで前記試験用経路情報格納部に反映させる経路受信部と、前記試験用経路情報格納部において前記試験用経路情報更新メッセージにより更新された経路情報に関する試験用経路情報更新メッセージを外部の第2のルーターへ送信する経路送信部と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経路制御プロトコルにより外部のルーターとの間で経路情報を交換するルーターにおいて、
パケット転送に使用される経路情報を格納する経路情報格納部と、
試験用に経路情報を格納する試験用経路情報格納部と、
外部の第1のルーターから試験用経路情報更新メッセージを受信した場合に、前記試験用経路情報更新メッセージを前記経路情報格納部には反映させないで前記試験用経路情報格納部に反映させる経路受信部と、
前記試験用経路情報格納部において前記試験用経路情報更新メッセージにより更新された経路情報に関する試験用経路情報更新メッセージを外部の第2のルーターへ送信する経路送信部と、
を備えるルーター。
【請求項2】
前記試験用経路情報格納部に格納された経路情報の変化を示す経路変動情報を外部の装置へ送信する経路変動送信部、
をさらに備える請求項1に記載のルーター。
【請求項3】
前記経路制御プロトコルは、BGP(Border Gateway Protocol)であり、
前記試験用経路情報更新メッセージは、「BGP updateメッセージ」に対して試験を示す「Path attribute」が付加された、
請求項1に記載のルーター。
【請求項4】
前記「Path attribute」は、試験識別情報と、前記試験用経路情報更新メッセージの送信元のルーター識別情報とを含む、
請求項3に記載のルーター。
【請求項5】
前記経路制御プロトコルは、BGP(Border Gateway Protocol)であり、
前記試験用経路情報更新メッセージは、「BGP updateメッセージ」に対して試験を示す「BGP community」が付加された、
請求項1に記載のルーター。
【請求項6】
前記経路制御プロトコルは、BGP(Border Gateway Protocol)であり、
試験用の「Adj-RIB-in」、「Adj-RIB-out」及び「Loc-RIB」を備える、
請求項1に記載のルーター。
【請求項7】
前記経路制御プロトコルに関する試験用の設定を受付ける管理部、
をさらに備える請求項1から6のいずれか1項に記載のルーター。
【請求項8】
経路制御プロトコルにより外部のルーターとの間で経路情報を交換する自ルーターが、パケット転送に使用される経路情報を格納する経路情報格納部と、試験用に経路情報を格納する試験用経路情報格納部とを備え、
前記自ルーターが、外部の第1のルーターから試験用経路情報更新メッセージを受信した場合に、前記試験用経路情報更新メッセージを前記経路情報格納部には反映させないで前記試験用経路情報格納部に反映させる経路受信ステップと、
前記自ルーターが、前記試験用経路情報格納部において前記試験用経路情報更新メッセージにより更新された経路情報に関する試験用経路情報更新メッセージを外部の第2のルーターへ送信する経路送信ステップと、
を含む試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルーター及び試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットやモバイル通信などの通信ネットワークは様々な用途で利用される、日常生活に欠かせない社会インフラになっている。このため、通信ネットワークにおいて大規模な通信障害が発生すると、社会に大きなインパクトが発生する。通信ネットワークにおける大規模な通信障害の発生原因としては様々な要素があるが、その中で大きなものの一つが通信ネットワークの運用保守時における作業ミスである。この作業ミスを未然に防ぐために、様々な技術的な取り組みが実施されている。例えば特許文献1や非特許文献1に記載された技術では、商用のIP(Internet Protocol)ネットワークに関するシミュレーション環境を用意し、そのシミュレーション環境下で経路切替のネットワークパラメータ設定の作業をシミュレーションすることによって、意図通りの経路切替が発生しているかを確認している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-139387号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】IETF,「IRTF: Digital Twin Network: Concepts and Reference Architecture」,インターネット<URL:https://datatracker.ietf.org/doc/draft-irtf-nmrg-network-digital-twin-arch/01/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来の技術では、実在する商用のIPネットワークをシミュレーション環境下で完全に再現することが難しいので、シミュレーションによる事前の作業確認が信頼できない可能性があった。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、実在するIPネットワークを用いて、実際のユーザートラフィックの経路切替は実施することなく、事前に経路切替の作業確認を行うことを図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、経路制御プロトコルにより外部のルーターとの間で経路情報を交換するルーターにおいて、パケット転送に使用される経路情報を格納する経路情報格納部と、試験用に経路情報を格納する試験用経路情報格納部と、外部の第1のルーターから試験用経路情報更新メッセージを受信した場合に、前記試験用経路情報更新メッセージを前記経路情報格納部には反映させないで前記試験用経路情報格納部に反映させる経路受信部と、前記試験用経路情報格納部において前記試験用経路情報更新メッセージにより更新された経路情報に関する試験用経路情報更新メッセージを外部の第2のルーターへ送信する経路送信部と、を備えるルーターである。
本発明の一態様は、上記のルーターにおいて、前記試験用経路情報格納部に格納された経路情報の変化を示す経路変動情報を外部の装置へ送信する経路変動送信部、をさらに備えるルーターである。
本発明の一態様は、上記のルーターにおいて、前記経路制御プロトコルは、BGP(Border Gateway Protocol)であり、前記試験用経路情報更新メッセージは、「BGP updateメッセージ」に対して試験を示す「Path attribute」が付加された、ルーターである。
本発明の一態様は、上記のルーターにおいて、前記「Path attribute」は、試験識別情報と、前記試験用経路情報更新メッセージの送信元のルーター識別情報とを含む、ルーターである。
本発明の一態様は、上記のルーターにおいて、前記経路制御プロトコルは、BGP(Border Gateway Protocol)であり、前記試験用経路情報更新メッセージは、「BGP updateメッセージ」に対して試験を示す「BGP community」が付加された、ルーターである。
本発明の一態様は、上記のルーターにおいて、前記経路制御プロトコルは、BGP(Border Gateway Protocol)であり、試験用の「Adj-RIB-in」、「Adj-RIB-out」及び「Loc-RIB」を備える、ルーターである。
本発明の一態様は、上記のルーターにおいて、前記経路制御プロトコルに関する試験用の設定を受付ける管理部、をさらに備えるルーターである。
【0008】
本発明の一態様は、経路制御プロトコルにより外部のルーターとの間で経路情報を交換する自ルーターが、パケット転送に使用される経路情報を格納する経路情報格納部と、試験用に経路情報を格納する試験用経路情報格納部とを備え、前記自ルーターが、外部の第1のルーターから試験用経路情報更新メッセージを受信した場合に、前記試験用経路情報更新メッセージを前記経路情報格納部には反映させないで前記試験用経路情報格納部に反映させる経路受信ステップと、前記自ルーターが、前記試験用経路情報格納部において前記試験用経路情報更新メッセージにより更新された経路情報に関する試験用経路情報更新メッセージを外部の第2のルーターへ送信する経路送信ステップと、を含む試験方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、実在するIPネットワークを用いて、実際のユーザートラフィックの経路切替は実施することなく、事前に経路切替の作業確認を行うことができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係るネットワーク試験システムの全体構成例を示す図である。
図2】一実施形態に係る試験方法の全体手順の一例を示すシーケンス図である。
図3】一実施形態に係るルーターの機能構成の一例を示すブロック図である。
図4】一実施形態に係る試験方法の手順の一例を示すシーケンス図である。
図5】一実施形態に係る試験方法の手順の一例を示すシーケンス図である。
図6】一実施形態に係る試験方法の手順の一例を示すシーケンス図である。
図7】一実施形態に係る試験用の「BGP updateメッセージ」専用の「Path attribute」の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、IPネットワークにおける経路制御プロトコル(ルーティングプロトコル)の一例としてBGP(Border Gateway Protocol)を挙げて説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係るネットワーク試験システムの全体構成例を示す図である。図1において、IPネットワークNWは、試験対象のIPネットワークであって、実在し運用されているIPネットワークである。IPネットワークNWは、実在する例えば商用のIPネットワークである。IPネットワークNWは、複数のルーター10を含んで構成される。ルーター10間は通信回線で接続されている。ルーター10は、BGPにより外部のルーター10との間でBGP経路情報(以下、単に経路情報と称する)を交換する。
【0013】
運用者端末20は、IPネットワークNWの運用者が使用する端末である。運用者端末20は、IPネットワークNWの少なくとも1台のルーター10に通信により接続し、当該ルーター10との間でデータを送受する。経路変動収集装置30は、IPネットワークNWの各ルーター10に通信により接続し、各ルーター10との間でデータを送受する。
【0014】
図2は、本実施形態に係る試験方法の全体手順の一例を示すシーケンス図である。図2を参照して本実施形態に係る試験方法の全体手順を説明する。
【0015】
(ステップS1) 運用者は、運用者端末20により、運用者端末20が接続するルーター10(#1)に対して試験用BGP設定を実施する。試験用BGP設定は、通常BGP設定とは区別することができるようにする。通常BGP設定は、実際に経路切替を行うためのBGP設定である。試験用BGP設定は、実際には経路切替を行わない、事前に経路切替の作業確認を行うためのBGP設定である。以下、「通常」とは、実際に経路切替を行う場合を言う。「試験用」とは、実際には経路切替を行わず、事前に経路切替の作業確認を行う場合を言う。
【0016】
試験用BGP設定では、実際には経路切替を行わないが、事前に経路切替の作業確認を行うために、試験用BGP設定の設定内容は、通常BGP設定の設定内容と同様である。ルーター10において通常BGP設定と試験用BGP設定とを区別する方法は、任意の方法であってよく、特に限定しない。当該方法の一例を挙げれば、ルーター10へ設定投入し設定反映する際のコマンドとして通常と試験用とで別個のコマンドを用意してもよい。例えば、通常の設定投入コマンドが「commit」であり、試験用の設定投入コマンドが「commit experiment」である。
【0017】
(ステップS2) ルーター10(#1)は、試験用BGP設定を自己に反映する。ルーター10は、通常BGP設定と試験用BGP設定とを区別して保存する。このため、ルーター10は、通常BGP設定用のコンフィグファイルと試験用BGP設定用のコンフィグファイルとを別個に準備し、それぞれ別々に管理する。
【0018】
(ステップS3) ルーター10(#1)は、試験用BGP設定によって変更される経路情報を他のルーター10(#2)へ広報する(試験用BGP経路広報)。ルーター10(#1)が試験用BGP経路広報を実施する相手のルーター10は、ルーター10(#1)とBGP接続しているルーター10であり、図2の例ではルーター10(#2)である。試験用BGP経路広報を実施するルーター10は、通常BGP経路広報と試験用BGP経路広報とを区別するために、試験用の「BGP updateメッセージ」に対して、通常の「BGP updateメッセージ」とは異なる特別な「Path attribute」又は「BGP community」を付加する。
【0019】
(ステップS4) ルーター10(#2)は、試験用BGP経路広報に基づいて、自己のBGPに関するルーティングテーブル(Loc-RIB)が試験用BGP経路広報によって変化する内容を特定する。ここで、ルーター10(#2)は、自己のBGPに関するルーティングテーブル(Loc-RIB)の変更内容を特定するが、実際には自己のBGPに関するルーティングテーブル(Loc-RIB)を変更しない。したがって、試験用BGP経路広報によっては、ルーター10において各種ルーティングテーブル(Loc-RIB、RIB)及びパケット転送テーブル(FIB)は変更されない。これにより、試験用BGP設定によっては実際にはIPネットワークNW上のルーター10のパケット転送仕様が変化しないので、たとえ運用者が試験用BGP設定を誤投入しても、IPネットワークNWにおける実際のパケット転送には影響せず、試験用BGP設定の誤投入によるIPネットワークNWのネットワーク障害の発生を回避することができる。
【0020】
ルーター10(#2)は、試験用BGP経路広報によって変更される経路情報を他のルーター10(#3)へ広報する(試験用BGP経路広報)。ルーター10(#2)が試験用BGP経路広報を実施する相手のルーター10は、ルーター10(#2)とBGP接続しているルーター10であり、図2の例ではルーター10(#3)である。このようにして順次、次のルーター10へ試験用BGP経路広報が実施される。
【0021】
(ステップS5) ルーター10(#1)は、試験用BGP設定の投入完了を運用者端末20へ通知する。
【0022】
(ステップS6) 各ルーター10は、ステップS1の試験用BGP設定により変化する自己のBGPに関するルーティングテーブル(Loc-RIB)の変更内容を示す経路変動情報を経路変動収集装置30へ通知する。経路変動情報の通知に用いる通知方法や通信プロトコルは、任意であってよく、特に限定しない。例えば、各ルーター10の経路変動情報をファイル化してFTP等のファイル転送プロトコルにより経路変動収集装置30へ送信してもよい。例えば、BGPにおいて経路変動を通知する専用のプロトコルである「BGP Monitoring Protocol」を用いてもよい。「BGP Monitoring Protocol」は、IETF(Internet Engineering Task Force)が発行している文書群「RFC(Request for Comments)」のうちRFC7854で定義されている。
【0023】
(ステップS7) 運用者は、運用者端末20により、経路変動収集装置30に対して、今回の試験用BGP設定に関するIPネットワークNW内の各ルーター10の経路変動情報の確認を依頼する。
【0024】
(ステップS8) 経路変動収集装置30は、運用者から依頼された試験用BGP設定に関するIPネットワークNW内の各ルーター10の経路変動情報を取得する。
【0025】
(ステップS9) 経路変動収集装置30は、取得した経路変動情報を運用者端末20へ送信する。運用者は、運用者端末20により、受信した経路変動情報を表示等により確認する。
【0026】
図2に例示される一連の手順によって、運用者は、IPネットワークNWに実施したい経路切替の作業に必要なBGP設定を試験的にルーター10に実施することにより、IPネットワークNW内の各ルーター10の経路変動情報を収集し確認することができる。これにより、実在するIPネットワークNWを用いて事前に経路切替の作業確認を行うことができるようになる。
【0027】
図3は、本実施形態に係るルーターの機能構成の一例を示すブロック図である。図3において、ルーター10は、BGPプロセス部11と、他ルーティングプロトコルのプロセス部12と、RIB(Routing Information Base、ルーティング情報ベース)13と、FIB(Forwarding Information Base、転送情報ベース)14と、ルーター管理部15と、経路変動情報送信部16とを備える。
【0028】
ルーター10の各部は、専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、又は、CPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)及びメモリ等により構成され、各部の機能を実現するためのコンピュータプログラムをCPUが実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
【0029】
BGPプロセス部11は、BGPに関する情報処理を実行する。他ルーティングプロトコルのプロセス部12は、BGP以外のルーティングプロトコルに関する情報処理を実行する。BGP以外のルーティングプロトコルとして例えばOSPFv2等が挙げられる。
【0030】
RIB13は、自己のルーター10におけるルーティングテーブルを示し、各種IP経路に対する送信先Interfaceや送信先Nexthop等を管理する。RIB13は、BGPを含む各種ルーティングプロトコルにより構築される。
【0031】
FIB14は、自己のルーター10のパケット処理を実行するハードウェア(例えばラインカードなど)において管理されているルーティングテーブルを示し、RIB13と同様に、各種IP経路に対する送信先Interfaceや送信先Nexthop等を管理する。FIB14は、RIB13によって構築されたルーティングテーブルをハードウェア処理に必要な部位(例えばTCAMなど)へ反映する。
【0032】
ルーター管理部15は、自己のルーター10の設定を管理する。運用者は、ルーター管理部15に対して所望の設定を実施することにより、ルーター10の設定を変更することができる。経路変動情報送信部16は、経路変動情報を経路変動収集装置30へ送信する。
【0033】
BGPプロセス部11は、経路受信部101と、通常のAdj-RIB-in102a、Loc-RIB103a及びAdj-RIB-out104aと、試験用のAdj-RIB-in102b、Loc-RIB103b及びAdj-RIB-out104bと、経路送信部105とを備える。
【0034】
経路受信部101は、他のルーター(外部ルーター)10-1から「BGP updateメッセージ」を受信する。
【0035】
Adj-RIB-in102aは、自己のルーター10が外部ルーター10-1から受信した通常の「BGP updateメッセージ」の経路情報を格納するデータベースである。Adj-RIB-in102aは、RFC4271で定義されている。
【0036】
試験用Adj-RIB-in102bは、自己のルーター10が外部ルーター10-1から受信した試験用の「BGP updateメッセージ」の経路情報を格納するデータベースである。
【0037】
Loc-RIB103aは、自己のルーター10が外部ルーター10-1から受信した通常の「BGP updateメッセージ」の経路情報に基づいて構築した最適経路情報を格納するデータベースである。Loc-RIB103aは、RFC4271で定義されている。
【0038】
試験用Loc-RIB103bは、自己のルーター10が外部ルーター10-1から受信した試験用の「BGP updateメッセージ」により変更されるLoc-RIB103aの変更内容を管理するデータベースである。
【0039】
Adj-RIB-out104aは、自己のルーター10が他のルーター(外部ルーター)10-2へ送信する通常の「BGP updateメッセージ」の経路情報を格納するデータベースである。Adj-RIB-out104aは、RFC4271で定義されている。
【0040】
試験用Adj-RIB-out104bは、自己のルーター10が外部ルーター10-2へ送信する試験用の「BGP updateメッセージ」の経路情報を格納するデータベースである。
【0041】
経路送信部105は、外部ルーター10-2へ「BGP updateメッセージ」を送信する。
【0042】
次に図4図6を参照して本実施形態に係る試験方法について詳細に説明する。図4図6は、本実施形態に係る試験方法の手順の一例を示すシーケンス図である。
【0043】
[BGP接続手順]
図4を参照して本実施形態に係るBGP接続手順を説明する。
【0044】
まず、従来のTCP(Transmission Control Protocol)の手順であるステップS21-S23により、ルーター10(#1)とルーター10(#2)間でTCPセッションの接続を行う。次いでBGP接続(ステップS24,S25)が実行される。
【0045】
(ステップS24) ルーター10(#1)は、「BGP Openメッセージ」をルーター10(#2)へ送信する。ルーター10(#1)は、「BGP Openメッセージ」内のOptional ParametersであるCapability内フィールドに、試験用の「BGP updateメッセージ」が使用可能であることを示すコード(Capability Code)を格納する。Capabilityは、RFC5492で定義されている。また、Capability Codeは、IANA(Internet Assigned Numbers Authority)によって管理されている0から255までの整数値である。本実施形態では、将来IANAによって割り当てられる試験用の「BGP updateメッセージ」に対応する整数値(Capability Code)を、当該Capability内フィールドに格納するものとする。
【0046】
(ステップS25) ルーター10(#2)は、「BGP Openメッセージ」をルーター10(#1)へ送信する。ステップS24と同様に、ルーター10(#2)は、「BGP Openメッセージ」内のOptional ParametersであるCapability内フィールドに、試験用の「BGP updateメッセージ」が使用可能であることを示すコード(Capability Code)を格納する。
【0047】
図4に例示される一連の手順によって、ルーター10(#1)とルーター10(#2)の間でBGP接続が完了すると共に、当該ルーター間で試験用の「BGP updateメッセージ」に対応していることを明示的に交換することができる。これにより、対向するルーター10へ試験用の「BGP updateメッセージ」を送信可能になる。
【0048】
[通常の経路送信]
図5を参照して本実施形態に係る通常の経路送信手順を説明する。
【0049】
(ステップS31) ルーター10(#1)は、通常の「BGP updateメッセージ」をルーター10(#2)へ送信する(経路送信)。通常の「BGP updateメッセージ」は、通常の経路情報を含む。
【0050】
(ステップS32) ルーター10(#2)の経路受信部101は、ルーター10(#1)から受信した通常の「BGP updateメッセージ」内の経路情報をAdj-RIB-in102aに格納する(経路登録)。
【0051】
(ステップS33) ルーター10(#2)のAdj-RIB-in102aは、格納された経路情報をLoc-RIB103aへ反映する(経路登録)。但し、Loc-RIB103aへの経路情報の反映は、ルーター10(#2)に設定されているルーター10(#1)に対する経路受信時のルーティングポリシーを当該経路情報に適用した上で、現状のLoc-RIB103aを更新する必要がある場合のみに実施する。例えば、既に優先度の高い経路情報(例えば、MULTI_EXIT_DISC属性の値が低い経路情報など)を他のルーター10から受信している場合は、Loc-RIB103aを更新する必要がない。以降の手順は、Loc-RIB103aを更新する必要がある場合である。
【0052】
(ステップS34) ルーター10(#2)のLoc-RIB103aは、自己の更新内容をRIB13へ反映する(経路登録)。このRIB13へのLoc-RIB103aの更新内容の反映についても、現状のRIB13を更新する必要がある場合のみに実施する。例えば、既に高優先の他のルーティングプロトコルによる経路情報がRIB13に存在する場合は、RIB13を更新する必要がない。以降の手順は、RIB13を更新する必要がある場合である。
【0053】
(ステップS35) ルーター10(#2)のRIB13は、自己の更新内容をFIB14へ反映する(経路登録)。
【0054】
(ステップS36) ルーター10(#2)のLoc-RIB103aは、自己の更新された経路情報に基づいて、ルーター10(#3)向けのAdj-RIB-out104aの経路情報を更新する(経路登録)。
【0055】
(ステップS37) ルーター10(#2)のAdj-RIB-out104aは、更新された経路情報を経路送信部105へ登録する(経路登録)。この経路送信部105への経路情報の登録では、ルーター10(#2)に設定されているルーター10(#3)に対する経路送信時のルーティングポリシーを当該経路情報に適用した上で経路送信部105への登録を行う。
【0056】
(ステップS38) ルーター10(#2)の経路送信部105は、登録された経路情報を含む通常の「BGP updateメッセージ」をルーター10(#3)へ送信する(経路送信)。
【0057】
図5に例示される通常の経路送信手順(ステップS31-S38)では、ルーター10(#2)が、ルーター10(#1)から通常の「BGP updateメッセージ」を受信し、自己のルーティングテーブル(RIB及びFIB)を更新し、BGP経路更新情報をルーター10(#3)へ広報する。この通常の経路送信手順(ステップS31-S38)は、RFC4271に記載されている内容である。
【0058】
[試験用の経路送信]
図6を参照して本実施形態に係る試験用の経路送信手順を説明する。
【0059】
(ステップS41) ルーター10(#1)は、試験用の「BGP updateメッセージ」をルーター10(#2)へ送信する(経路送信)。試験用の「BGP updateメッセージ」は、試験用の経路情報を含む。試験用の「BGP updateメッセージ」は、通常の「BGP updateメッセージ」とは異なるものである。試験用の「BGP updateメッセージ」を通常の「BGP updateメッセージ」と異ならせる方法として以下に例1,例2を挙げる。
【0060】
(例1) 試験用の「BGP updateメッセージ」には、通常の「BGP updateメッセージ」とは異なる特別な「Path attribute」を付加する。ここでは、試験用の「BGP updateメッセージ」専用の「Path attribute」を設ける。図7に、試験用の「BGP updateメッセージ」専用の「Path attribute」の例を示す。
【0061】
図7において、「Flag」は、RFC4271で定義されている「Path attribute」の処理方針に関するフラグであり、本実施形態においてもRFC4271の規定に従う。
「Type code」は、RFC4271で定義されている「Path attribute」を示す0から255までの整数値を格納するフィールドである。試験用の「BGP updateメッセージ」において「Type code」には、試験用の「BGP updateメッセージ」専用の「Path attribute」を示すコード(Code)を格納する。
「Length」は、「Path attribute」の長さを示す情報であり、本実施形態においてもRFC4271の規定に従う。
【0062】
「Experiment Test IDフィールド」及び「Originator Router IDフィールド」は、RFC4271には定義されてなく、本実施形態で追加するフィールドである。
「Experiment Test IDフィールド」には、試験用の「BGP updateメッセージ」を一意に識別する試験IDを格納する。試験IDは、試験用BGP設定が実施されたルーター10(図2のルーター10(#1))が生成する。
「Originator Router IDフィールド」には、試験用BGP設定が実施されたルーター10(図2のルーター10(#1))のルーターIDを格納する。ルーターIDは、RFC4271に定義されている「BGP Identifier」である。
「Experiment Test IDフィールド」及び「Originator Router IDフィールド」に格納される試験ID及びルーターIDについては、ルーター10間で試験用の「BGP updateメッセージ」がやり取りされている間は試験ID及びルーターIDを変更せずに、各ルーター10は試験用の「BGP updateメッセージ」を送信する。
【0063】
この例1では、試験用の「BGP updateメッセージ」に付加する「Path attribute」に対して試験用BGP設定が実施されたルーター10(図2のルーター10(#1))の情報を格納し、ルーター10間で試験用の「BGP updateメッセージ」をやり取るすることによって、あるルーター10の試験用Loc-RIB103bで管理される試験用の「BGP updateメッセージ」によるBGP経路変動がどのルーター10(ルーターID)のどの試験(試験ID)によって発生したかを一意に特定することができる。
【0064】
(例2) 試験用の「BGP updateメッセージ」には、通常の「BGP updateメッセージ」とは異なる特別な「BGP community」を付加する。「BGP community」は、IANAによって管理されている。ここでは、試験用の「BGP updateメッセージ」であることを示す特別な「BGP community」を設ける。
【0065】
この例2では、上述した例1のように試験用BGP設定に関する詳細情報をルーター10間でやり取りすることはできないが、既存の「Path attribute」を用いて試験用の「BGP updateメッセージ」であることを示すことができる。これにより、例2によれば、既存のルーター10に対する変更が少ないという利点がある。
【0066】
上述した例1「試験用の特別な「Path attribute」」と例2「試験用の特別な「BGP community」」のいずれを用いるかは、運用者の利用目的等によって決定すればよい。
【0067】
(ステップS42) ルーター10(#2)の経路受信部101は、ルーター10(#1)から受信した試験用の「BGP updateメッセージ」内の試験用の経路情報を試験用Adj-RIB-in102bに格納する(経路登録)。試験用の「BGP updateメッセージ」であるかは、上述した例1「試験用の特別な「Path attribute」」又は例2「試験用の特別な「BGP community」」が付加されているかによって判定される。
【0068】
(ステップS43) ルーター10(#2)の試験用Adj-RIB-in102bは、経路受信部101から受信した試験用の経路情報によってLoc-RIB103aにおいて最適経路情報の変更(経路変動)が発生するかを確認するために、Loc-RIB103aに対して経路情報の確認を実施する(経路確認)。
具体的には、試験用Adj-RIB-in102bは、経路受信部101から受信した試験用の経路情報に含まれるIPアドレスプレフィックス(例えば、192.0.2.0/24)に関する経路をLoc-RIB103aに問い合わせし、Loc-RIB103aから回答された当該経路に関する現在のルーティングテーブル情報を確認する。この確認の結果、当該試験用の経路情報が高優先(例えば、MULTI_EXIT_DISC属性の値が低い経路情報など)である場合は、試験用Adj-RIB-in102bは、当該試験用の経路情報によってLoc-RIB103aに経路変動が発生すると判断する。また、当該経路がLoc-RIB103aに存在しない場合は、当該試験用の経路情報によってLoc-RIB103aにおいて新規の経路がルーティングテーブルに追加されるので、試験用Adj-RIB-in102bは、当該試験用の経路情報によってLoc-RIB103aに経路変動が発生すると判断する。以降の手順は、Loc-RIB103aに経路変動が発生すると判断された場合である。
【0069】
(ステップS44) ルーター10(#2)の試験用Adj-RIB-in102bは、経路受信部101から受信した試験用の経路情報を試験用Loc-RIB103bへ反映する(経路登録)。但し、試験用Loc-RIB103bへの試験用の経路情報の反映は、ルーター10(#2)に設定されているルーター10(#1)に対する経路受信時のルーティングポリシーを当該試験用の経路情報に適用した上で、現状のLoc-RIB103aを更新する必要がある場合のみに実施する。例えば、既に優先度の高い経路情報(例えば、MULTI_EXIT_DISC属性の値が低い経路情報など)を他のルーター10から受信している場合は、試験用Loc-RIB103bを更新する必要がない。以降の手順は、試験用Loc-RIB103bを更新する必要がある場合である。
【0070】
(ステップS45) ルーター10(#2)の試験用Loc-RIB103bは、自己の更新された試験用の経路情報に基づいて、ルーター10(#3)向けの試験用Adj-RIB-out104bの試験用の経路情報を更新する(経路登録)。
【0071】
(ステップS46) ルーター10(#2)の試験用Adj-RIB-out104bは、更新された試験用の経路情報を経路送信部105へ登録する(経路登録)。この経路送信部105への試験用の経路情報の登録では、ルーター10(#2)に設定されているルーター10(#3)に対する経路送信時のルーティングポリシーを当該試験用の経路情報に適用した上で経路送信部105への登録を行う。
【0072】
(ステップS47) ルーター10(#2)の経路送信部105は、登録された試験用の経路情報を含む試験用の「BGP updateメッセージ」をルーター10(#3)へ送信する(経路送信)。当該試験用の「BGP updateメッセージ」には、上述した例1「試験用の特別な「Path attribute」」又は例2「試験用の特別な「BGP community」」が付加される。これにより、試験用の「BGP updateメッセージ」であることが示される。
【0073】
(ステップS48) ルーター10(#2)の試験用Loc-RIB103bは、試験用の経路情報によって変更されるLoc-RIB103aの変更内容を示す経路変動情報を経路変動情報送信部16へ送信する。本ステップS48は、上述したステップS45に並行して実施してもよい。
【0074】
(ステップS49) ルーター10(#2)の経路変動情報送信部16は、経路変動情報を経路変動収集装置30へ送信する。例えば、経路変動情報送信部16は、試験用Loc-RIB103bから経路変動情報を受信する度に受信した経路変動情報を経路変動収集装置30へ送信してもよい。これにより、経路変動情報の迅速な収集が可能になる。例えば、経路変動情報送信部16は、試験用Loc-RIB103bから一定期間に受信した経路変動情報をまとめて経路変動収集装置30へ送信してもよい。これにより、ルーター10における経路変動情報の送信負荷が軽減される。
【0075】
上述した実施形態によれば、実在するIPネットワークを用いて、実際のユーザートラフィックの経路切替は実施することなく、事前に経路切替の作業確認を行うことができるという効果が得られる。これにより、シミュレーションでは実現が難しかった、実在する商用のIPネットワークにおける事前の作業確認の信頼性の向上を図ることができる。
【0076】
なお、これにより、例えば商用ネットワークにおける総合的なサービス品質の向上を実現することができることから、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献することが可能となる。
【0077】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0078】
また、上述した各装置の機能を実現するためのコンピュータプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行するようにしてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、DVD(Digital Versatile Disc)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0079】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0080】
10…ルーター、20…運用者端末、30…経路変動収集装置、11…BGPプロセス部、12…他ルーティングプロトコルのプロセス部、13…RIB、14…FIB、15…ルーター管理部、16…経路変動情報送信部、101…経路受信部、102a…Adj-RIB-in、103a…Loc-RIB、104a…Adj-RIB-out、102b…試験用Adj-RIB-in、103b…試験用Loc-RIB、104b…試験用Adj-RIB-out、105…経路送信部、NW…IPネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7