(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120594
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】カチオン電着塗料組成物、カチオン電着塗料組成物の製造方法及び電着塗装方法
(51)【国際特許分類】
C09D 165/00 20060101AFI20240829BHJP
C09D 5/44 20060101ALI20240829BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240829BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240829BHJP
【FI】
C09D165/00
C09D5/44 A
C09D7/65
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027485
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】300075348
【氏名又は名称】日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】泉宮 耕二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英行
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DA041
4J038DB061
4J038DJ052
4J038GA02
4J038GA11
4J038JB01
4J038JB02
4J038KA03
4J038MA14
4J038NA14
4J038NA25
4J038PA04
(57)【要約】
【課題】本開示は、有害な有機溶媒を使用せずとも塗料組成物の安定性に優れ、且つ耐熱性及び耐衝撃性に優れる電着塗膜を実現し得るカチオン電着塗料組成物の提供を目的とする。
【解決手段】本開示のカチオン電着塗料組成物は、
塗膜形成樹脂(A)及び硬化剤(B)を含み、
前記塗膜形成樹脂(A)は、アラルキル変性フェノール樹脂(a1)、エピビス型エポキシ樹脂(a2)及びアミン化合物(a3)の反応物である樹脂(A1)を含み、
前記硬化剤(B)は、ブロックイソシアネート化合物(B1)又はα,β-不飽和カルボニル化合物(B2)を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成樹脂(A)及び硬化剤(B)を含み、
前記塗膜形成樹脂(A)は、アラルキル変性フェノール樹脂(a1)、エピビス型エポキシ樹脂(a2)及びアミン化合物(a3)の反応物である樹脂(A1)を含み、
前記硬化剤(B)は、ブロックイソシアネート化合物(B1)又はα,β-不飽和カルボニル化合物(B2)を含む、カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記樹脂(A1)のアミン価は、15mgKOH/g以上70mgKOH/g以下である、請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
前記樹脂(A1)の数平均分子量は、800以上3,000以下である、請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
前記樹脂(A1)の1級水酸基価及びフェノール性水酸基価の合計は、100mgKOH/g以上250mgKOH/g以下である、請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(a1)の数平均分子量は、500以上2,000以下であり、前記アラルキル変性フェノール樹脂(a1)の1級水酸基価は、200mgKOH/g以上400mgKOH/g以下である、請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項6】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(a1)は、ビフェニルアラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂を含む、請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項7】
前記エピビス型エポキシ樹脂(a2)のエポキシ当量は、180g/eq以上490g/eq以下である、請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項8】
前記エピビス型エポキシ樹脂(a2)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む、請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項9】
前記α,β-不飽和カルボニル化合物(B2)は、アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)、エピハロヒドリン化合物(b2-2)及びα,β-不飽和カルボニル基を有する単量体(b2-3)の反応物(B2-1);又はビスマレイミド樹脂(B2-2)を含む、請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のカチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬して電圧を印加し、析出塗膜を形成すること、及び、
前記析出塗膜を乾燥及び硬化させて電着塗膜を得ること、を含む、電着塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カチオン電着塗料組成物、カチオン電着塗料組成物の製造方法及び電着塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、電着塗料組成物中に被塗物(基材)を浸漬させて電圧を印加することにより、被塗物の表面に塗膜を析出させる塗装方法である。この方法は、複雑な形状を有する被塗物であっても高い塗着効率で細部にまで均一な塗装を施すことができ、自動的且つ連続的に塗装することができるため、各種被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。また、電着塗装は、被塗物に高い防食性を与えることができる等、被塗物の保護効果にも優れている。更にカチオン型の電着塗料であれば、アニオン型のように被塗物である金属が溶出することがないので、より高度な保護効果を発揮できる。また、電着塗料組成物は、水性塗料組成物であるため、溶剤型塗料組成物と比較して、環境に対する負荷が軽減されているという利点もある。
【0003】
近年、電子機器分野等では、小型化、薄膜化、高機能化に伴い、絶縁性、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性等に優れた、高機能な材料が求められている。特に、製品の安全性や信頼性を保証するためには、より一層高いレベルの絶縁性と耐熱性が求められている。
【0004】
このような高い絶縁性と耐熱性の要求を達成するための材料としては、ポリアミドイミド樹脂又はポリイミド樹脂が挙げられる。例えば、特許文献1には、ポリイミド樹脂を用いる電着用組成物が記載されている。これらの樹脂は、汎用の高分子化合物(樹脂組成物)に比べて、強直で強固な分子構造を有するため、優れた電気絶縁性、耐熱性、機械的特性、耐溶剤性、耐薬品性等を示すが、これらの樹脂は、極性の高い特殊な分子構造を有するが故に、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)等の特定の有機溶媒にしか分散できず、成膜が困難であり、塗料への適用は困難を伴うものであった。また、前記NMP等は、安全面及び環境面で問題がある。
【0005】
また、特許文献2には、カチオン電着塗料用樹脂組成物において、フェノール型ノボラック樹脂のグリシジルエーテル化物、第1級水酸基を有するアミン化合物及びフェノール性水酸基を有するフェノール化合物を反応させて得られたカチオン性樹脂を用いることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、カチオン電着塗料組成物において、エポキシ基を有する化合物と、3価以上のフェノール化合物及び/又は3官能以上のポリイソシアネート化合物を含む化合物と、アミン化合物と、を少なくとも反応させて得られるアミノ基含有エポキシ樹脂を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-327905号公報
【特許文献2】特開平5-295321号公報
【特許文献3】特開2021-155696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されるポリアミドイミド樹脂又はポリイミド樹脂は、極性の高い特殊な分子構造を有するため、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)等の特定の有機溶媒にしか分散できず、成膜が困難であった。また、NMPは、安全面及び環境面で問題がある。
【0009】
特許文献2に記載されるように、フェノール樹脂を用いた場合、得られる電着塗膜は、脆く、基材との密着性や耐衝撃性が十分に満足できるものではなかった。
【0010】
また、特許文献3に記載されるアミノ基含有エポキシ樹脂を用いた場合、得られる電着塗膜は、耐衝撃性の点で十分に満足できるものではなかった。
【0011】
本開示は、前記事情に鑑みてなされたものであり、有害な有機溶媒を使用せずとも塗料組成物の安定性に優れ、且つ耐熱性及び耐衝撃性に優れる電着塗膜を実現し得るカチオン電着塗料組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、以下の態様を含む。
[1]
塗膜形成樹脂(A)及び硬化剤(B)を含み、
前記塗膜形成樹脂(A)は、アラルキル変性フェノール樹脂(a1)、エピビス型エポキシ樹脂(a2)及びアミン化合物(a3)の反応物である樹脂(A1)を含み、
前記硬化剤(B)は、ブロックイソシアネート化合物(B1)又はα,β-不飽和カルボニル化合物(B2)を含む、カチオン電着塗料組成物。
[2]
前記樹脂(A1)のアミン価は、15mgKOH/g以上70mgKOH/g以下である、[1]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[3]
前記樹脂(A1)の数平均分子量は、800以上3,000以下である、[1]又は[2]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[4]
前記樹脂(A1)の1級水酸基価及びフェノール性水酸基価の合計は、100mgKOH/g以上250mgKOH/g以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のカチオン電着塗料組成物。
[5]
前記アラルキル変性フェノール樹脂(a1)の数平均分子量は、500以上2,000以下であり、前記アラルキル変性フェノール樹脂(a1)の1級水酸基価は、200mgKOH/g以上400mgKOH/g以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のカチオン電着塗料組成物。
[6]
前記アラルキル変性フェノール樹脂(a1)は、ビフェニルアラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂を含む、[1]~[5]のいずれか1つに記載のカチオン電着塗料組成物。
[7]
前記エピビス型エポキシ樹脂(a2)のエポキシ当量は、180g/eq以上490g/eq以下である、[1]~[6]のいずれか1つに記載のカチオン電着塗料組成物。
[8]
前記エピビス型エポキシ樹脂(a2)は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載のカチオン電着塗料組成物。
[9]
前記α,β-不飽和カルボニル化合物(B2)は、アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)、エピハロヒドリン化合物(b2-2)及びα,β-不飽和カルボニル基を有する単量体(b2-3)の反応物(B2-1);又はビスマレイミド樹脂(B2-2)を含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載のカチオン電着塗料組成物。
[10]
[1]~[9]のいずれか1つに記載のカチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬して電圧を印加し、析出塗膜を形成すること、及び、
前記析出塗膜を乾燥及び硬化させて電着塗膜を得ること、を含む、電着塗装方法。
【発明の効果】
【0013】
本開示は、有害な有機溶媒を使用せずとも塗料組成物の安定性に優れ、且つ耐熱性及び耐衝撃性に優れる電着塗膜を実現し得るカチオン電着塗料組成物を提供し得る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示のカチオン電着塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)及び硬化剤(B)を含み、
前記塗膜形成樹脂(A)は、アラルキル変性フェノール樹脂(a1)、エピビス型エポキシ樹脂(a2)及びアミン化合物(a3)の反応物である樹脂(A1)を含み、
前記硬化剤(B)は、ブロックイソシアネート化合物(B1)又はα,β-不飽和カルボニル化合物(B2)を含む。
【0015】
本開示のカチオン電着塗料組成物は、前記構成を有するため、有害な有機溶媒を使用せずとも塗料組成物の安定性に優れ、且つ耐熱性及び耐衝撃性に優れる電着塗膜を実現し得る。本開示は、特定の理論に限定して解釈されるべきではないが、本開示のカチオン電着塗料組成物が前記効果を奏し得る理由は、以下のように考えられる。
【0016】
すなわち、本開示のカチオン電着塗料組成物では、フェノール樹脂の中でもアラルキル変性フェノール樹脂を用い、該アラルキル変性フェノール樹脂の1級水酸基の一部をエピビス型エポキシ樹脂で変性し、更にアミン化合物と反応させて得られる樹脂(A1)を塗膜形成樹脂(A)として用いている。加えて、硬化剤(B)として、前記塗膜形成樹脂(A)との間で、結合エネルギーの高い結合を形成し得るものを用いている。そのため、得られる電着塗膜は高い耐熱性を有するにも関わらず、架橋密度が適度に引き下げられることとなる。その結果、有害な有機溶媒を使用することなく、耐熱性に優れ、且つ基材との密着性及び耐衝撃性に優れる電着塗膜を実現し得ると考えられる。
【0017】
(A)塗膜形成樹脂
塗膜形成樹脂(A)は、硬化剤(B)とともに、電着塗膜を形成し得る樹脂を意味する。前記塗膜形成樹脂(A)は、アラルキル変性フェノール樹脂(a1)、エピビス型エポキシ樹脂(a2)及びアミン化合物(a3)の反応物である樹脂(A1)を含む。
【0018】
(a1)アラルキル変性フェノール樹脂
アラルキル変性フェノール樹脂(a1)は、アラルキル基に由来する構造を有するフェノール樹脂であり、代表的には、ノボラック型フェノール樹脂の繰り返し構造単位中に、アラルキル基に由来する構造が導入された構造を繰り返し構造単位として有する。
【0019】
前記アラルキル変性フェノール樹脂は、好ましくは、以下の式(I):
【0020】
【0021】
[式(I)中、
Ar1は、置換基を有していてもよいC6-20芳香族環を表し;
Ar2は、置換基を有していてもよいC6-20芳香族環を表し;
nは、1~20の整数を表す。]
で表される。
【0022】
式(I)において、Ar1又はAr2で表されるC6-20芳香族環は、単環であっても多環であってもよく、多環の場合、縮環していても縮環していなくともよい。Ar1又はAr2で表されるC6-20芳香族環としては、好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン管、ビフェニル環、2,2-ジフェニルプロパン、1,1-ジフェニルメタン等が挙げられ、より好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環が挙げられる。Ar1又はAr2で表されるC6-20芳香族環の置換基としては、好ましくはC1-6炭化水素基が挙げられる。Ar1は、好ましくはC6-12芳香族環であり得、Ar2は、好ましくはC6-12芳香族環であり得る。
【0023】
式(I)において、n1は、好ましくは1~15、より好ましくは1~5であり得る。
【0024】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(a1)としては、式(I)におけるAr2がビフェニル環である、ビフェニルアラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。
前記アラルキル変性フェノール樹脂(a1)に含まれるビフェニルアラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂の含有率は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、更に好ましくは90質量%以上100質量%以下であり得る。
【0025】
アラルキル変性フェノール樹脂(a1)は、フェノール性水酸基含有化合物と芳香族架橋剤とを反応させることにより製造し得る。
【0026】
前記フェノール性水酸基含有化合物としては、フェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、ピロガロール、フロログルシノール、1-ナフトール、2-ナフトール、1,5-ナフタレンジオール、1,6-ナフタレンジオール、1,7-ナフタレンジオール、2,6-ナフタレンジオール、2,7-ナフタレンジオール、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等が挙げられる。フェノール性水酸基含有化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
芳香族架橋剤としては、ベンゼン骨格を有する架橋剤及びビフェニル骨格を有する架橋剤が挙げられる。ベンゼン骨格を有する架橋剤は、o-体、m-体、p-体のいずれでもよく、好ましくは、m-体、p-体である。ベンゼン骨格を有する架橋剤としては、p-キシリレングリコール、α,α’-ジメトキシ-p-キシレン、α,α’-ジエトキシ-p-キシレン、α,α’-ジイソプロピル-p-キシレン、α,α’-ジブトキシ-p-キシレン、m-キシリレングリコール、α,α’-ジメトキシ-m-キシレン、α,α’-ジエトキシ-m-キシレン、α,α’-ジイソプロポキシ-m-キシレン、α,α’-ジブトキシ-m-キシレン等が挙げられる。
ビフェニル骨格を有する架橋剤としては、4,4’-ジヒドロキシメチルビフェニル、2,4’-ジヒドロキシメチルビフェニル、2,2’-ジヒドロキシメチルビフェニル、4,4’-ジメトキシメチルビフェニル、2,4’-ジメトキシメチルビフェニル、2,2’-ジメトキシメチルビフェニル、4,4’-ジイソプロポキシメチルビフェニル、2,4’-ジイソプロポキシメチルビフェニル、2,2’-ジイソプロポキシメチルビフェニル、4,4’-ジブトキシメチルビフェニル、2,4’-ジブトキシメチルビフェニル、2,2’-ジブトキシメチルビフェニル等が挙げられる。メチロール基等の官能基のビフェニルに対する置換位置は、4,4’-位、2,4’-位、2,2’-位のいずれでもよく、4,4’-位が好ましい。以下では、メチロール基等の官能基のビフェニルに対する置換位置がn,n’-位にある化合物を、n,n’-体ともいう。
【0028】
芳香族架橋剤は、ビフェニル骨格を有する架橋剤を含むことが好ましく、4,4’-体であるビフェニル骨格を有する架橋剤を含むことがより好ましい。これにより、得られる電着塗膜の基材への密着性及び耐衝撃性がより良好になり得る。芳香族架橋剤において、4,4’-体であるビフェニル骨格を有する架橋剤の含有率は、芳香族架橋剤の合計100質量部中、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは80質量%以上100質量%以下であり得る。
芳香族架橋剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記式(I)において、n1の値は、前記フェノール性水酸基含有化合物と前記芳香族架橋剤のモル比により調整し得る。
【0030】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(a1)の数平均分子量は、好ましくは500以上1,400以下、より好ましくは550以上1,200以下、更に好ましくは600以上1,000以下である。アラルキル変性フェノール樹脂(a1)の数平均分子量が前記範囲にあることで、得られる電着塗膜の基材との密着性及び耐衝撃性がより良好になり得る。
本開示において、数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィにより測定されるポリスチレン換算値を意味する。
【0031】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(a1)のフェノール性水酸基価は、好ましくは200mgKOH/g以上400mgKOH/g以下、より好ましくは220mgKOH/g以上370mgKOH/g以下、更に好ましくは250mgKOH/g以上350mgKOH/g以下である。前記アラルキル変性フェノール樹脂(a1)の1級水酸基価が前記範囲にあることで、得られる電着塗膜の基材への密着性及び耐衝撃性がより良好になり得る。
なお、本開示において、水酸基価は、固形分換算での値を示し、水酸基のみについて算出した水酸基価を意味する。アラルキル変性フェノール樹脂(a1)の水酸基価は、JIS K 0070に準拠した方法により測定された値である。
【0032】
アラルキル変性フェノール樹脂(a1)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
(a2)エピビス型エポキシ樹脂
前記エピビス型エポキシ樹脂(a2)は、代表的には、ビスフェノール化合物と、ビスフェノール化合物のジグリシジルとの縮合物であり得る。前記ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ビスフェノールE、ビスフェノールC、ビスフェノールアセトフェノン等が挙げられ、ビスフェノールAが好ましい。
【0034】
前記エピビス型エポキシ樹脂(a2)は、好ましくは、下記式(II):
【0035】
【0036】
[式(II)中、
R1は、それぞれ独立に、C1-4アルキレン基、C6-10芳香族炭化水素基及び水素原子から選ばれる1種又は2種以上を表し;
n2は、1以上の整数を表し、好ましくは1~22、より好ましくは1~5である。]
で表される。
【0037】
前記エピビス型エポキシ樹脂(a2)において、ビスフェノール骨格が占める割合は、好ましくは90質量%以上100質量%以下である。このように剛直性の高いエポキシ樹脂を用いることで、得られる電着塗膜の耐熱性がより良好になり得る。
【0038】
前記エピビス型エポキシ樹脂(a2)のエポキシ当量は、好ましくは180g/eq以上490g/eq以下、より好ましくは180g/eq以上300g/eq以下、より好ましくは180g/eq以上200g/eq以下であり得る。エピビス型エポキシ樹脂(a2)のエポキシ当量が前記範囲にあることで、得られる電着塗膜の耐熱性及び耐衝撃性がより良好になり得る。
【0039】
前記エピビス型エポキシ樹脂(a2)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含むことが好ましい。ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含むことで、得られる電着塗膜の耐熱性がより良好になり得る。前記エピビス型エポキシ樹脂(a2)におけるビスフェノールA型エポキシ樹脂の含有率は、エピビス型エポキシ樹脂(a2)の合計100質量部中、好ましくは50質量部以上100質量部以下、より好ましくは70質量部以上100質量部以下、更に好ましくは80質量部以上100質量部以下である。エピビス型エポキシ樹脂(a2)におけるビスフェノールA型エポキシ樹脂の含有率が前記範囲にあることで、得られる電着塗膜の耐熱性及び耐衝撃性がより良好になり得る。
【0040】
エピビス型エポキシ樹脂(a2)としては、市販品を用いてもよい、上述のとおり、ビスフェノールAとビスフェノールAのジグリシジルエーテルと縮合させて合成したものを用いてもよい。市販品の代表的なものとしては、jER807、815、825、827、828、834、1001、1004、1007及び1009(以上、三菱ケミカル社製)、D.E.R.330、D.E.R.310J、D.E.R.301、D.E.R.361(以上、オリン社製)、YD-8125、YDF-170、YDF-170、YDF-175S、YDF-2001、YDF-2004、YDF-8170(以上、日鉄ケミカル&マテリアル社製)等が挙げられる。
エピビス型エポキシ樹脂(a2)としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(a1)に含まれるフェノール性水酸基に対する、前記エピビス型エポキシ樹脂(a2)に含まれるエポキシ基の当量比(エポキシ基/フェノール性水酸基)は、好ましくは0.05以上0.7以下、より好ましくは0.1以上0.6以下、更に好ましくは0.2以上0.5以下、いっそう好ましくは0.3以上0.5以下であり得る。前記当量比がかかる範囲にあることで、得られる電着塗膜の基材への密着性、耐衝撃性及び耐熱性がより良好になり得る。
【0042】
(a3)アミン化合物
アミン化合物(a3)は、1分子中に少なくとも1つのアミノ基を有する化合物を意味する。
【0043】
前記アミン化合物(a3)としては、例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
アミン化合物(a3)は、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン等の水酸基を有するアミン化合物を含むことが好ましい。これらの材料を用いることにより、得られる塗料組成物の貯蔵安定性が向上するという利点がある。
【0045】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(a1)に含まれるフェノール性水酸基に対する、前記アミン化合物(a3)に含まれるアミノ基の当量比(アミノ基/フェノール性水酸基)は、好ましくは0.03以上0.35以下、より好ましくは0.05以上0.3以下、更に好ましくは0.1以上0.25以下、いっそう好ましくは0.15以上0.25以下であり得る。前記当量比がかかる範囲にあることで、得られた樹脂の乳化安定性、並びに得られる電着塗膜の基材への密着性、耐衝撃性及び耐熱性がより良好になり得る。
【0046】
前記エピビス型エポキシ樹脂(a2)に含まれるエポキシ基に対する、前記アミン化合物(a3)に含まれるアミノ基の当量比(アミノ基/エポキシ基)は、好ましくは0.3以上1.5以下、より好ましくは0.4以上1.2以下、更に好ましくは0.5以上1.1以下であり得る。前記当量比がかかる範囲にあることで、得られる電着塗膜の耐衝撃性がより良好になり得る。
【0047】
前記樹脂(A1)は、アラルキル変性フェノール樹脂(a1)の一部の水酸基と、エピビス型エポキシ樹脂(a2)に含まれるエポキシ基とが反応した前駆体化合物と、前記アミン化合物(a3)とが更に反応した化合物であり得、好ましくは、以下の式(III):
【0048】
【化3】
[式(III)中、
Ar
1は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいC
6-20芳香族環を表し;
Ar
2は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいC
6-20芳香族環を表し;
Lは、以下の式:
【0049】
【化4】
[式中、
R
1は、それぞれ独立に、C
1-4アルキレン基、C
6-10芳香族炭化水素基及び水素原子から選ばれる1種又は2種以上を表し;
n2は、1以上の整数を表し、好ましくは1~22、より好ましくは1~5である。]
で表される単位を表し;
R
2は、それぞれ独立して、C
1-4アルキル基及びC
1-4アルカノール基から選ばれる1種を表し;
m3は、1以上の整数を表し;
n3は、1以上の整数を表し;
式(III)において、m3又はn3を付して括弧で括られる単位の存在順序は任意である。]
で表され得る。
【0050】
樹脂(A1)の数平均分子量は、好ましくは700以上3,100以下、より好ましくは800以上3,000以下、更に好ましくは1,000以上2,000以下である。数平均分子量が前記範囲にあることで、得られる硬化電着塗膜の耐熱性がより良好となり得、また、樹脂(A1)の粘度調整が容易となって円滑な合成が可能となり、更に、得られた樹脂(A1)の乳化分散の取扱いが容易になる。
【0051】
なお、本開示において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算した値である。
【0052】
前記樹脂(A1)のアミン価は、好ましくは5mgKOH/g以上70mgKOH/g以下、より好ましくは15mgKOH/g以上70mgKOH/g以下、更に好ましくは15mgKOH/g以上60mgKOH/g以下である。前記樹脂(A1)のアミン価が前記範囲にあることで、得られる電着塗料の安定性が良好になり得、且つ得られる電着塗膜の基材への密着性、耐衝撃性及び耐熱性がより良好になり得る。
本開示において、アミン価は、固形分換算での値を意味し、JIS K 7237に準拠して測定できる。
【0053】
前記樹脂(A1)の1級水酸基価及びフェノール性水酸基価の合計は、好ましくは100mgKOH/g以上250mgKOH/g以下、より好ましくは130mgKOH/g以上250mgKOH/g以下である。前記樹脂(A1)の1級水酸基価が前記範囲にあることで、得られる電着塗膜の耐熱性がより良好であり、基材への密着性及び耐衝撃性がより良好になり得る。
前記1級水酸基価、フェノール性水酸基価は、それぞれ1級水酸基、フェノール性水酸基に由来する水酸基価を意味し、樹脂(A1)の製造に用いたアラルキル変性フェノール樹脂(a1)、エピビス型エポキシ樹脂(a2)及びアミン化合物(a3)の種類及び量に基づいて算出した理論値である。
【0054】
前記樹脂(A1)は、そのアミノ基が中和酸により中和されていることが好ましい。これにより前記樹脂(A1)を水に良好に分散又は溶解させ得る。なお、硬化剤(B)は、前記樹脂(A1)と共に分散させることが好ましい。
【0055】
前記中和酸としては、無機酸、有機酸等の酸化合物が挙げられる。前記無機酸としては、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。前記有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸等のカルボン酸化合物;スルファミン酸等のスルホン酸化合物が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、カチオン電着塗料組成物の安定性の観点から、有機酸が好ましく、カルボン酸化合物がより好ましく、カチオン電着塗料組成物の乳化安定性の観点から、乳酸が特に好ましい。
【0056】
中和酸による中和率(樹脂(A1)が有するアミノ基の当量に対する酸の当量)は、好ましくは10~200%、より好ましくは30~150%である。中和率が前記範囲にあることで、樹脂(A1)及び硬化剤(B)の水への分散又は溶解性が良好である。
【0057】
前記樹脂(A1)の平均粒子径は、好ましくは20nm以上1μm以下、より好ましくは30nm以上500nm以下、更に好ましくは40nm以上300nm以下である。前記樹脂(A1)の平均粒子径が前記範囲にあることで、カチオン電着塗料組成物の分散安定性が良好になり得る。
本開示において、平均粒子径は、動的光散乱法によって決定される平均粒子径であり、具体的には、電気泳動光散乱光度計ELSZシリーズ(大塚電子社製)等を使用して測定することができる。
【0058】
アラルキル変性フェノール樹脂(a1)、エピビス型エポキシ樹脂(a2)及びアミン化合物(a3)の反応方法としては、任意の適切な方法が採用される。例えば、アラルキル変性フェノール樹脂(a1)とエピビス型エポキシ樹脂(a2)とを、適当な有機溶媒の存在下で、公知の方法により反応させて前駆体化合物を得た後、前記前駆体化合物に、前駆体化合物が有するエポキシ基のほぼ当量のアミン化合物(a3)を添加し、その後、必要に応じて、加熱する方法が挙げられる。
【0059】
前記前駆体化合物とアミン化合物(a3)とを反応させる際に用いられる前記有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アルコール類;セロソルブ類;グリコールエーテル類等が挙げられる。
【0060】
前記前駆体化合物とアミン化合物(a3)とを反応させる際の加熱温度は、好ましくは80~180℃、より好ましくは110~150℃である。
【0061】
前記前駆体化合物とアミン化合物(a3)とを反応させる際、触媒を共存させてもよい。該触媒としては、第四級アンモニウム塩、第三級アミン、イミダゾール類等のアミン触媒等が挙げられる。
【0062】
前記前駆体化合物とアミン化合物(a3)との反応は、任意の適切な方法により実施され得、例えば、前駆体化合物とアミン化合物(a3)とを加熱することにより実施され得る。加熱温度は、好ましくは80~180℃、より好ましくは110~150℃であり、加熱時間は、例えば1~5時間である。これにより、前駆体化合物のエポキシ基にアミン化合物のアミノ基が開環付加し、樹脂(A1)が得られる。
【0063】
前記塗膜形成樹脂(A)に含まれる樹脂(A1)の固形分の含有率は、塗膜形成樹脂(A)の固形分100質量%中、好ましくは80質量%以上100質量%以下、より好ましくは90質量%以上100質量%以下、更に好ましくは95質量%以上100質量%以下である。
【0064】
本開示において、ある成分の固形分とは、該成分を150℃で1時間加熱した場合における加熱残分を意味する。
【0065】
本開示の塗膜形成樹脂(A)は、樹脂(A1)以外に、その他の樹脂(A2)を含んでいてもよい。
【0066】
本開示のカチオン電着塗料組成物において、塗膜形成樹脂(A)の固形分の含有率は、カチオン電着塗料組成物の固形分100質量部中、好ましくは50質量%以上90質量%以下、より好ましくは60質量%以上80質量%以下である。
【0067】
(B)硬化剤
硬化剤(B)は、前記塗膜形成樹脂(A)とともに、電着塗膜を形成し得る。前記硬化剤(B)は、ブロックイソシアネート化合物(B1)又はα,β-不飽和カルボニル化合物(B2)を含む。前記硬化剤(B)として、ブロックイソシアネート化合物(B1)及びα,β-不飽和カルボニル化合物(B2)とを併用してもよく、併用しなくともよく、併用しないことが好ましい。
【0068】
(B1)ブロックイソシアネート化合物
ブロックイソシアネート化合物(B1)は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基が、封止剤でブロックされた化合物を意味する。
【0069】
前記ポリイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネート化合物を含むことが好ましい。これらを含むことによって、得られる塗膜の耐熱性が向上するという利点がある。前記芳香族ジイソシアネート化合物としては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。前記芳香族ポリイソシアネート化合物としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
前記封止剤としては、特に限定されず、n-ブタノール、n-ヘキシルアルコール、2-エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの一価のアルキル(又は芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテルなどのセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノールなどのポリエーテル型両末端ジオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどのジオール類と、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸などのジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール類;パラ-t-ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;及びε-カプロラクタム、γ-ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。前記封止剤としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
ブロックイソシアネート化合物(B1)におけるブロック化率は、好ましくは100%である。これにより、カチオン電着塗料組成物の貯蔵安定性が良好になり得る。
【0072】
ブロックイソシアネート化合物(B1)は、芳香族ジイソシアネートを封止剤でブロックした化合物(以下、「芳香族ブロックイソシアネート化合物」ともいう)を含むことが好ましい。
【0073】
ブロックイソシアネート化合物(B1)と前記樹脂(A1)とは、ブロックイソシアネート基をブロックする封止剤が外れて生成するイソシアネート基と、前記樹脂(A1)に含まれる水酸基とが反応することにより硬化し得る。
【0074】
硬化剤(B)として、ブロックイソシアネート化合物(B1)を用いる場合、前記硬化剤(B)は、ブロックイソシアネート化合物(B1)以外に、その他の硬化剤を含んでいてもよい。該その他の硬化剤としては、メラミン樹脂又はフェノール樹脂などの有機硬化剤;シランカップリング剤;及び金属硬化剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0075】
前記樹脂(A1)に含まれる1級水酸基及びフェノール性水酸基の合計と、前記ブロックイソシアネート化合物(B1)に含まれるイソシアネート基との当量比(OH/NCO)は、好ましくは0.8以上1.6以下、より好ましくは0.9以上1.5以下であり得る。
【0076】
(B2)α,β-不飽和カルボニル化合物(B2)
前記α,β-不飽和カルボニル化合物(B2)は、1分子中に、α,β-不飽和カルボニル基を2個以上有する化合物を意味する。前記α,β-不飽和カルボニル化合物(B2)は、アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)、エピハロヒドリン化合物(b2-2)及びα,β-不飽和カルボニル基を有する単量体(b2-3)の反応物(B2-1);又はビスマレイミド樹脂(B2-2)を含むことが好ましい。
以下、アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)、エピハロヒドリン化合物(b2-2)及びα,β-不飽和カルボニル基を有する単量体(b2-3)の反応物(B2-1)を、単に、「化合物(B2-1)」ともいう。
【0077】
(B2-1)α,β-不飽和カルボニル基を含有する化合物
前記化合物(B2-1)は、前記アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)に含まれる水酸基の一部がエピハロヒドリンと反応してグリシジル化された化合物と、α,β-不飽和カルボニル基を有する単量体とが更に反応した化合物である。
【0078】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)は、前記アラルキル変性フェノール樹脂(a1)と同意義である。前記アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)は、具体的には、アラルキル基に由来する構造を有するフェノール樹脂であり、代表的には、ノボラック型フェノール樹脂の繰り返し構造単位中に、アラルキル基に由来する構造が導入された構造を有する。
【0079】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)としては、前記式(I)で表される化合物が好ましく、より好ましくは、式(I)におけるAr2がビフェニルに由来する基である、ビフェニルアラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂がより好ましい。
前記アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)に含まれるビフェニルアラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂の含有率は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、更に好ましくは90質量%以上100質量%以下であり得る。
【0080】
前記エピハロヒドリン化合物(b2-2)は、1,2-アルキレンオキシドにおいて、オキシラン環に結合するアルキル基の末端の炭素原子に結合する水素原子がハロゲン原子に置き換わった化合物を意味する。前記アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)の水酸基と、エピハロヒドリン化合物(b2-2)のハロゲン原子とが、脱ハロゲン化水素反応し得ることにより、これらの化合物の反応物が得られる。
【0081】
前記エピハロヒドリン化合物(b2-2)としては、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリン、β-メチルエピクロロヒドリン等が挙げられる。中でも、前記エピハロヒドリン化合物(b2-2)としては、エピクロロヒドリンが好ましい。エピハロヒドリン化合物(b2-2)としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0082】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)に含まれる1級水酸基に対するエピハロヒドリン化合物(b2-2)の当量比(1級水酸基/エピハロヒドリン化合物(b2-2)は、好ましくは0.8以上20以下、より好ましくは0.9以上15以下、更に好ましくは1.0以上10以下であり得る。前記当量比がかかる範囲にあることで、アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)とエピハロヒドリン化合物(b2-2)の反応が制御され得、製造効率が良好であるとともに、得られる電着塗膜の基材への密着性及び耐衝撃性がより良好になり得る。
【0083】
前記α,β-不飽和カルボニル基を有する単量体(b2-3)は、1分子中に、カルボキシ基とエチレン性不飽和結合とをそれぞれ1個以上有する化合物である。
【0084】
前記α,β-不飽和カルボニル基を有する単量体(b2-3)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸;前記不飽和ジカルボン酸の無水物;前記不飽和モノカルボン酸又は前記不飽和ジカルボン酸のエステル;前記不飽和モノカルボン酸又は前記不飽和ジカルボン酸のカプロラクトン変性物等が挙げられる。なかでも、α,β-不飽和カルボニル基を有する単量体(b2-3)としては、(メタ)アクリル酸が好ましい。α,β-不飽和カルボニル基を有する単量体(b2-3)としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本開示において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸又はメタクリル酸を示す。
【0085】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)とエピハロヒドリン化合物(b2-2)とを反応させる際、アルカリ金属水酸化物を共存させることが好ましい。これにより、脱ハロゲン化水素反応が促進され得る。前記アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが挙げられる。前記アルカリ金属水酸化物の量は、反応制御及び副反応抑制の観点から、例えば、前記アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)に含まれるフェノール性水酸基の合計1モルに対して、好ましくは0.5モル以上2.0モル以下、より好ましくは0.7モル以上1.8モル以下、更に好ましくは0.9モル以上1.6モル以下であり得る。
【0086】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)とエピハロヒドリン化合物(b2-2)との反応は、常圧下又は減圧下で実施することが好ましい。反応温度は、反応制御及び副反応抑制の観点から、好ましくは20~150℃、より好ましくは30~120℃、更に好ましくは35~100℃であり得る。
必要に応じて反応生成物を洗浄又は精製してもよい。
【0087】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)とエピハロヒドリン化合物(b2-2)との反応生成物の数平均分子量は、好ましくは400以上2,500以下、より好ましくは400以上2,000以下であり得る。前記反応生成物の数平均分子量がかかる範囲にあることで、得られる電着塗膜の基材への密着性及び耐衝撃性がより良好になり得る。
【0088】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)とエピハロヒドリン化合物(b2-2)との反応生成物のエポキシ当量は、好ましくは200g/eq以上300g/eq以下、より好ましくは250g/eq以上300g/eq以下であり得る。該反応生成物のエポキシ当量が前記範囲にあることで、得られる電着塗膜の基材への密着性及び耐衝撃性がより良好になり得る。
【0089】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)と前記エピハロヒドリン化合物(b2-2)との反応生成物として、市販品を用いてもよい。該市販品としては、NC2000、NC3000-FH、NC3000-H、NC3000、NC3000L、NC3100等(日本化薬社製)等が挙げられる。
【0090】
前記アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)と前記エピハロヒドリン化合物(b2-2)との反応生成物と、α,β-不飽和カルボニル基を有する単量体(b2-3)とを反応させることで、化合物(B2-1)を製造し得る。前記反応は、有機溶剤の存在下で実施してよい。かかる有機溶剤としては例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アルコール類;セロソルブ類;グリコールエーテル類等が挙げられる。
反応温度は、80~150℃であってよく、90~120℃であってよい。反応時間は、30分~20時間、好ましくは1~10時間であってよい。
【0091】
前記化合物(B2-1)の数平均分子量は、好ましくは500以上3,000以下、より好ましくは500以上2,500以下であり得る。前記化合物(B2-1)の数平均分子量がかかる範囲にあることで、得られる電着塗膜の基材への密着性及び耐衝撃性がより良好になり得る。
【0092】
前記化合物(B2-1)のα,β-不飽和カルボニル基の当量は、好ましくは300g/eq以上400g/eq以下、より好ましくは330g/eq以上370g/eq以下であり得る。前記化合物(B2-1)のα,β-不飽和カルボニル基の当量がかかる範囲にあることで、得られる電着塗膜の基材への密着性及び耐衝撃性がより良好になり得る。
【0093】
硬化剤(B)として前記化合物(B2-1)を用いる場合、塗膜形成樹脂(A)に含まれる1級水酸基及びフェノール性水酸基の合計に対する、化合物(B2-1)に含まれるα,β-不飽和カルボニル基の当量比(α,β-不飽和カルボニル基/水酸基)は、好ましくは0.1以上1.0以下、より好ましくは0.2以上0.6以下であり得る。前記当量比がかかる範囲にあることで、得られる電着塗膜の耐熱性がより良好であり、基材への密着性及び耐衝撃性がより良好になり得る。
【0094】
(B2-2)ビスマレイミド化合物
前記ビスマレイミド化合物(B2-2)は、分子内に2個又はそれ以上のマレイミド基を有する化合物である。
【0095】
前記ビスマレイミド化合物(B2-2)は、好ましくは、以下の式(IV):
【0096】
【0097】
[式(IV)中、
式中、R3~R6は、それぞれ独立に、水素原子、C1-20アルキル基、アミノ基(-NH2)、ニトロ基(-NO2)又はニトロソ基(-NO)を表し;
L2は、2価の有機基を表す。]
で表される。
【0098】
式(IV)において、R3~R6で表されるC1-20アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のC1-5アルキル基が好ましい。
【0099】
式(IV)において、L2で表される2価の有機基としては、C1-20脂肪族飽和炭化水素基、C6-20芳香族炭化水素基、又は、芳香環を有するC7-20炭化水素基が挙げられ、これらは置換基を有していてもよく、有しなくてもよい。前記C1-20脂肪族炭化水素基としては、C4-12アルキレン基が好ましい。前記C6-20芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、トリレン基、キシリレン基、ナフチレン基が挙げられ、フェニレン基が好ましい。前記芳香環を有するC7-20炭化水素基としては、1~4個の芳香環を有しかつ主鎖にヘテロ原子を含んでもよい炭化水素基が挙げられる。該主鎖に含まれてもよいヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子等が挙げられ、より詳細には、各芳香環が-O-、-S-、-SS-、-SO2-等により結合された態様が挙げられる。
【0100】
前記置換基としては、C1-5アルキル基、-NO2、-NH2、-F、-Cl、-Br等が挙げられる。
【0101】
前記ビスマレイミド化合物(B2-2)としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン等が挙げられる。
【0102】
前記ビスマレイミド化合物(B2-2)としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、4、4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(BMI-1000、BMI-1000H、BMI-1100、BMI-1100H、大和化成工業社製);m-フェニレンビスマレイミド(BMI-3000、BMI-3000H、大和化成工業社製);ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド(BMI-4000、大和化成工業社製);4、4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(BMI、ケイ・アイ化成社製);(ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン(BMI-70、ケイ・アイ化成社製);N,N’-m-フェニレンビスマレイミド(サンフェル BM、三新化学工業社製);3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(BMI-5100、大和化成工業社製);2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニルプロパン](BMI-70、アイ・ケイ化成社製));4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド(BMI-7000、BMI-7000H、大和化成工業社製)及び1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン(BMI-TMH、大和化成工業社製)、HR3070、HR3072、HR7000、HR-YSP(プリンテック社製)、BMI-1100H(大和化成工業社製)等が挙げられる。
【0103】
ビスマレイミド化合物(B2-2)としては、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0104】
前記硬化剤(B)としてビスマレイミド化合物(B2-2)を用いる場合、塗膜形成樹脂(A)に対する(B2-2)の質量比[(B2-2)/(A)]は、好ましくは0.2以上1.0以下、より好ましくは0.2以上0.9以下であり得る。前記質量比がかかる範囲にあることで、得られる電着塗膜の耐熱性がより良好であり、基材への密着性及び耐衝撃性がより良好になり得る。
【0105】
(その他)
前記カチオン電着塗料組成物は、水性媒体を含む。前記水性媒体は、水、水に溶解し得る有機溶剤、又は水と水に溶解し得る有機溶剤との混合物であることが好ましい。前記有機溶剤の具体例として、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。VOCの使用をできるだけ少なくする観点から、有機溶剤の量はできるだけ少ないことが好ましい。
【0106】
前記カチオン電着塗料組成物は、必要に応じて顔料を含んでもよい。顔料の具体例としては、酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アゾレッド、キナクリドンレッド、ベンズイミダゾロンイエロ等の着色顔料;炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリン、クレー、タルク等の体質顔料;リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム等の防食顔料等が挙げられる。
【0107】
これらの顔料は、顔料分散樹脂を用いて、予め高濃度で水性媒体中に分散させてペースト状(顔料分散ペースト)とし、これをカチオン電着塗料組成物中に加えるのが好ましい。前記顔料分散樹脂としては特に限定されず、例えば、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体等を使用することができる。これらの成分を混合した後、混合物を顔料が所定の均一な粒径となるまで分散させて顔料分散ペーストを得る。分散には通
常分散装置を用いる。例えば、ボールミルやサンドグラインドミル等を用いる。顔料分散ペーストに含まれる顔料の粒径は、15μm以下であることが好ましい。
【0108】
カチオン顔料を用いる場合、カチオン電着塗料組成物中の顔料濃度は、カチオン電着塗料組成物の全固形分中、好ましくは2質量%以上50質量%以下である。これにより、良好な電着塗膜が得られるとともに、塗料の安定性が確保される。
【0109】
前記カチオン電着塗料組成物は、必要に応じて添加剤を含んでもよい。添加剤の具体例として、分散剤、可塑剤、粘性調整剤、表面調整剤、消泡剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、触媒等が挙げられる。
【0110】
前記硬化剤(B)として、ブロックイソシアネート化合物(B1)を用いる場合、触媒として、有機錫化合物、亜鉛化合物、ビスマス化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、イットリウム化合物などの無機化合物;フォスファゼン化合物、アミン化合物、4級塩化合物などの有機化合物を用いてよい。また、前記硬化剤(B)として、α,β-不飽和カルボニル化合物(B2)を用いる場合、触媒として、アミジン化合物やグアニジン化合物等の塩基性触媒を用いてよい。
【0111】
カチオン電着塗料組成物の調製
前記カチオン電着塗料組成物は、塗膜形成樹脂(A)、硬化剤(B)及び必要に応じて用いられるその他成分(着色顔料、添加剤等)を、それぞれ水性媒体中に所定量添加し分散させることにより製造し得る。
【0112】
一態様において、具体的には、塗膜形成樹脂(A)、硬化剤(B)及び必要に応じて有機溶剤を混合し、次いで、必要に応じて中和酸を混合する。得られた混合物を水性媒体に滴下すること、又は、得られた混合物に水性媒体を加えて分散又は溶解させることにより、水分散体を得る。必要に応じて、前記有機溶剤を留去することにより、カチオン電着塗料組成物を調製し得る。
【0113】
別の態様において、塗膜形成樹脂(A)及び必要に応じて用いる有機溶剤を混合し、次いで、必要に応じて中和酸を混合する。得られた混合物を水性媒体に滴下すること、又は、得られた混合物に水性媒体を加えて分散又は溶解させることにより、水分散体を得る。必要に応じて、前記有機溶剤を留去する。得られた水分散体と硬化剤(B)とを混合し、更にイオン交換水を混合することにより、カチオン電着塗料組成物を調製し得る。
【0114】
なお、カチオン電着塗料組成物の製造において、必要に応じて用いられるその他の成分は、任意の適切なタイミングで加えることができる。
【0115】
前記カチオン電着塗料組成物を電着塗装方法及び前記カチオン電着塗料組成物から形成される電着塗膜と、基材とを有する積層体も、本開示の技術的範囲に包含される。
【0116】
被塗物
前記カチオン電着塗料組成物を塗装する被塗物としての基材は、導電性のあるものであれば特に限定されない。例えば、金属(鉄、鋼、銅、アルミニウム、マグネシウム、スズ、亜鉛等及びこれら金属を含む合金等)、鉄板、鋼板、アルミニウム板及びこれらに表面処理(例えば、リン酸系、クロム酸系又はジルコニウム系の化成処理)を施したもの、並びにこれらの成型物等が用いられる。
【0117】
電着塗装方法
前記カチオン電着塗料組成物の電着塗装方法は、特に限定されず、従来公知のカチオン電着塗装方法によって行うことができる。電着塗装方法は、具体的には、前記カチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬して電圧を印加し、析出塗膜を形成すること、及び、前記析出塗膜を乾燥及び硬化させて電着塗膜を得ること、を含む。
前記カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬して電圧を印加すると、被塗物が陰極として作用し得、被塗物の表面に塗膜が析出し得る。析出した塗膜を乾燥及び硬化させることにより、電着塗膜を製造することができる。前記析出した塗膜は、乾燥及び硬化の前に、必要に応じて水洗してもよい。
【0118】
カチオン電着塗料組成物の浴温は、10℃~40℃であることが好ましく、10℃~30℃であることがより好ましい。印加電圧は、50V~450Vであることが好ましく、100V~400Vであることがより好ましい。通電時間は、1秒~300秒であることが好ましく、30秒~180秒であることがより好ましい。
【0119】
表面上に析出塗膜を有する被塗物を加熱することにより、析出した塗膜を乾燥及び硬化し得る。前記加熱の際の温度は、例えば20~300℃、好ましくは150~300℃、より好ましくは200~300℃、更に好ましくは250~300℃であり得る。加熱時間は、温度に応じて適宜選択し得る。
【0120】
加熱時間は、好ましくは5~180分、より好ましくは10~180分、より好ましくは10~120分間であり得る。得られる電着塗膜の膜厚は、5~50μmであることが好ましい。
【0121】
電着塗膜の上に、必要に応じて、塗膜を更に形成してもよい。電着塗膜の上に形成し得る塗膜として、例えば、自動車塗装分野において形成される、中塗り塗膜、上塗りベース塗膜、クリヤー塗膜等が挙げられる。これらの塗膜は1種のみを形成してもよく、2種又はそれ以上の塗膜を形成してもよい。
【0122】
本開示のカチオン電着塗料組成物は、有害な有機溶媒を使用せず、耐熱性に優れ、且つ基材との密着性及び耐衝撃性に優れる電着塗膜を実現し得る。そのため、小型化、薄膜化、高機能化に伴い、絶縁性、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性等に優れた、高機能な材料が求められている電子機器等に好適に用いることができる。
【実施例0123】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0124】
(製造例1)塗膜形成樹脂(A1-1)の製造
かくはん装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、アラルキル変性フェノール変性ノボラック樹脂(a1-1)として、HE200C-10 756.5質量部、エピビス型エポキシ樹脂(a2-1)としてD.E.R.331J 277.5質量部を入れ、メチルイソブチルケトン(以下「MIBK」という)271.8質量部に溶解させた。ここに、ジメチルベンジルアミン0.6質量部を加えて、エポキシ当量が1,194g/eqになるまで105℃でエーテル化反応を続け、エポキシ樹脂で変性されたフェノール樹脂を得た。
反応終了後、アミン化合物(a3-1)としてメチルエタノールアミン 55.4質量部を加え、120℃で1時間反応させ、塗膜形成樹脂(A1-1)(水酸基価:190mgKOH/g、アミン価:38mgKOH/g、数平均分子量:1,220、平均粒子径:85nm、固形分濃度:80質量%)を得た。
【0125】
使用する材料及び配合量を表1に示す通りに変更したこと以外は、製造例1と同様にして、塗膜形成樹脂(A1-2)~(A1-10)を得た。各塗膜形成樹脂の特数値を表1に示す。
【0126】
【0127】
(製造例2) 硬化剤(B1-1)の製造
かくはん装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)1,250質量部及びMIBK 313.1質量部を仕込み、これを80℃まで加熱した後、反応触媒としてジブチルスズジラウレート2.5質量部を加えた。ここに、ブロック剤1としてブチルセロソルブ1,180質量部を80℃で2時間かけて滴下した。更に100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK 295.0質量部を加えて、硬化剤(B1-1)(固形分濃度:80質量%)を得た。
【0128】
(製造例3) 硬化剤(B1-2)の製造
かくはん装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、コスモネートT100 870質量部及びMIBK 217.5質量部を仕込み、これを80℃まで加熱した後、反応触媒としてジブチルスズジラウレート2.5質量部を加えた。ここに、ブロック剤1としてブチルセロソルブ1,180質量部を80℃で2時間かけて滴下した。更に100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK 292.5質量部を加えて、硬化剤(B1-2)(固形分濃度:80質量%)を得た。
【0129】
(製造例4) 硬化剤(B1-3)の製造
かくはん装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、コロネートHX 1,990質量部及びMIBK 498.1質量部を仕込み、これを80℃まで加熱した後、反応触媒としてジブチルスズジラウレート2.5質量部を加えた。ここに、ブロック剤2としてMEKオキシム 870質量部を80℃で2時間かけて滴下した。更に100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK 217.5質量部を加えて、硬化剤(B1-3)(固形分濃度:80質量%)を得た。
【0130】
(製造例5) 硬化剤(B2-11)の製造
かくはん装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、NC3000 275質量部及びMIBK 140質量部を仕込み、これを50℃まで加熱し溶解させた後、α,β-不飽和カルボニル基を有する単量体(b2-31)としてアクリル酸 75.6質量部及びジブチルヒドロキシトルエン3.5質量部を加えた。これらを、110℃まで加熱し、ジメチルベンジルアミン 1.7質量部を加え、更に6時間加熱し、エポキシ当量が8,000g/eq以上になるまで反応させ、硬化剤(B2-11)(固形分濃度:70質量%)を得た。
【0131】
(製造例6) 硬化剤(B2-12)の製造
かくはん装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、D.E.R.310J 188質量部及びMIBK 107.8質量部を仕込み、これを50℃まで加熱し溶解させた後、α,β-不飽和カルボニル基を有する単量体(b2-31)としてアクリル酸 75.6質量部及びジブチルヒドロキシトルエン3.5質量部を加えた。これらを、110℃まで加熱し、ジメチルベンジルアミン 1.7質量部を加え、更に6時間加熱し、エポキシ当量が8,000g/eq以上になるまで反応させ、硬化剤(B2-12)(固形分濃度:70質量%)を得た。
【0132】
(実施例1) 電着塗料組成物1の調製
塗膜形成樹脂(A1-1)1,361.6質量部及び硬化剤(B1-1)801.3質量部をディスパーでかくはんしながら、50質量%乳酸水溶液132.8質量部(中和率:100モル%)を徐々に添加した。更に、かくはんをしながらイオン交換水6,355.8質量部を添加し、水分散体(固形分濃度:20質量%)を得た。これを、減圧下50℃で、MIBK及び水の混合物を470質量部留去し、留去した分だけイオン交換水を添加して、電着塗料組成物1(固形分濃度:20質量%)を得た。
なお、(A1-1)に含まれる1級水酸基価及びフェノール性水酸基価の合計と、(B1-1)に含まれるイソシアネート基との当量比(イソシアネート基/水酸基)は、1.4である。
【0133】
(実施例2~12、比較例1~4)
使用する塗膜形成樹脂及び硬化剤の種類及び量を表2に記載のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、電着塗料組成物2~16を得た。
但し、比較例3は、(A1-1)と(Y-1)の固形分質量比[((A1-1)/(Y-1)]を1.7とした。
また、塗料組成物の配合は、揮発分等を含む有り姿の質量部である。
【0134】
(実施例13)電着塗料組成物17の調製
塗膜形成樹脂(A1-1)1,361.6質量部及び硬化剤(B2-11)731.7質量部をディスパーでかくはんしながら、50質量%乳酸水溶液132.8質量部(中和率:100モル%)を徐々に添加した。更に、かくはんをしながらイオン交換水6,147.1質量部を添加し、水分散体(固形分濃度:20質量%)を得た。これを、減圧下50℃で、MIBK及び水の混合物を450質量部留去し、留去した分だけイオン交換水を添加して、電着塗料組成物17(固形分濃度:20質量%)を得た。
なお、(A1-1)に含まれる1級水酸基価及びフェノール性水酸基価の合計と、(B2-1)に含まれるα,β-不飽和カルボニル基との当量比(不飽和カルボニル基/水酸基)は、0.4である。
【0135】
(実施例14~23、比較例5、6)
使用する塗膜形成樹脂及び硬化剤の種類及び量を表3に記載のように変更したこと以外は、実施例13と同様にして、電着塗料組成物18~29を得た。
【0136】
(実施例24)電着塗料組成物30の調製
塗膜形成樹脂(A1-1)1,361.6質量部及び硬化剤(B2-21)544.6質量部をディスパーでかくはんしながら、50質量%乳酸水溶液132.8質量部(中和率:100モル%)を徐々に添加した。更に、かくはんをしながらイオン交換水6,130.1質量部を添加し、水分散体(固形分濃度:20質量%)を得た。これを、減圧下50℃で、MIBK及び水の混合物を300質量部留去し、留去した分だけイオン交換水を添加して、電着塗料組成物30(固形分濃度:20質量%)を得た。
なお、(A1-1)に対する(B2-21)の含有量[(B2-2)/(A1-1):質量比]は、0.5である。
【0137】
(実施例25~34、比較例7、8)
使用する塗膜形成樹脂及び硬化剤の種類及び量を表4に記載のように変更したこと以外は、実施例24と同様にして、電着塗料組成物31~42を得た。
【0138】
実施例、比較例に用いた下記表中に示される各成分の詳細は以下のとおりである。
塗膜形成樹脂(A)を構成する材料:
アラルキル変性フェノール樹脂(a1):
(a1-1):HE200C-10(ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、エアウオーター社製)、水酸基価:270mgKOH/g、数平均分子量:720、固形分濃度:100質量%
(a1-2):HE200-17(ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、エアウオーター社製)、水酸基価:270mgKOH/g、数平均分子量:760、固形分濃度:100質量%
(a1-3):HE200-07(ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、エアウオーター社製)、水酸基価:270mgKOH/g、数平均分子量:620、固形分濃度:100質量%
(a1-4):HE100-15(ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、エアウオーター社製)、水酸基価:320mgKOH/g、数平均分子量:910、固形分濃度:100質量%
(x-1):KA-1160(クレゾール型フェノール樹脂、DIC社製)、水酸基価:480mgKOH/g、数平均分子量:870、固形分濃度:100質量%
(x-2):TD-2131(ノボラック型フェノール樹脂、DIC社製)、水酸基価:540mgKOH/g、数平均分子量:760、固形分濃度:100質量%
エピビス型エポキシ樹脂(a2):
(a2-1):D.E.R.310J(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、オリン社製)、エポキシ当量:188g/eq、固形分濃度:100質量%
(a2-2):jER1001(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製)、エポキシ当量:490g/eq、固形分濃度:100質量%
アミン化合物(a3):
(a3-1):メチルエタノールアミン(東京化成工業社製)
(a3-2):ジエタノールアミン(東京化成工業社製)
有機溶剤:メチルイソブチルケトン(MIBK:昭永ケミカル社製)
反応触媒:ジメチルベンジルアミン(東京化成工業社製)
硬化剤(B)を構成する材料;
ブロックイソシアネート化合物(B1)を構成する材料:
ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)(芳香族系ポリイソシアネート、東ソー社製)、NCO含有量:33.6質量%、固形分濃度:100質量%
コスモネートT100(トルエン-2,4-ジイソシアネート、三井化学ファイン社製)、NCO含有量:48.3質量%、固形分濃度:100質量%
コロネートHX(ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のヌレート体、東ソー株式会社)、NCO含有量:21.1質量%、固形分濃度:100質量%
ブロック化剤1:ブチルセロソルブ(昭永ケミカル社製)
ブロック化剤2:MEKオキシム(メチルエチルケトンオキシム、UBE社製)
反応触媒:ジブチルスズジラウレート(錫系触媒、共同薬品社製)
α,β-不飽和カルボニル化合物(B2-1)を構成する材料:
NC3000(ビフェニルアラルキル変性ノボラック型エポキシ樹脂、日本化薬社製、エポキシ当量:275g/eq、分子量:780)アラルキル変性フェノール樹脂(b2-1)及びエピハロヒドリン化合物(b2-2)を反応させた市販品
α,β-不飽和カルボニル基を有する単量体(b2-3):
アクリル酸(大阪有機化学工業社製)、有効成分濃度:100質量%
重合禁止剤:ジブチルヒドロキシトルエン(東京化成工業社製)
反応触媒:ジメチルベンジルアミン(東京化成工業社製)
ビスマレイミド化合物(B2-2)を構成する材料:
(B2-21)BMI-1000(4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、大和化成工業社製)、固形分濃度:100質量%
(B2-22)BMI-4000(ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、大和化成工業社製)、固形分濃度:100質量%
その他の硬化剤:
(Y-1)サイメル325(メチル化メラミン樹脂、オルネクス社製)、固形分濃度:80質量%)
【0139】
電着塗膜(試験片)の調製
被塗物である冷延鋼板(JIS G 3141、SPCC-SD)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)中に50℃で2分間浸漬して、脱脂処理した。次にサーフファインGL1(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)で表面調整し、次いで、サーフダインSD-5000(日本ペイント・サーフケミカルズ社製、リン酸亜鉛化成処理液)中に40℃で2分間浸漬して、リン酸亜鉛化成処理した。その後、脱イオン水による水洗を行った。
前記実施例及び比較例で得られた電着塗料組成物を含む液温30℃の電着浴に、被塗物を全て埋没させた後、直ちに電圧の印加を開始し、30秒間昇圧し150Vに達してから180秒間保持する条件で電圧を印加して、被塗物上に析出塗膜を形成した。得られた析出塗膜を、250℃で25分間加熱し乾燥、硬化させて、膜厚30μmの電着塗膜を有する電着塗装板を得た。
その電着塗装板について、後述する評価試験を実施し、その結果を表2~4に示す。
【0140】
評価項目
1)耐熱性
前記実施例及び比較例で得られた電着塗装板を、パーフェクトジェットオーブン(espec社製)を用いて、230℃で100時間、耐熱試験を実施した。試験後の塗膜の膜厚を測定し、以下の式に従って、塗膜の残存率を算出し、塗膜の耐熱性を評価した。評価基準は以下のとおりである。評点△以上を合格とした。なお、塗膜の膜厚測定は、過電流膜厚計LH-370(kett社製)を用いた。
塗膜の残存率(%)=試験後の塗膜の膜厚/試験前の塗膜の膜厚×100
◎:塗膜の残存率が90%以上である。
○:塗膜の残存率が85%以上90%未満である。
△:塗膜の残存率が80%以上85%未満である。
×:塗膜の残存率が80%未満である。
【0141】
2)耐衝撃性(耐重り落下性)
実施例及び比較例で得られた電着塗装板について、JIS K 5600-5-3(耐おもり落下性試験)に準じて、耐おもり落下性を評価した。
すなわち、デュポン式衝撃試験器(撃ち型1/2inch;上島製作所社製)を使用し、500gの重りを一定の高さから落下させ、割れの発生した高さを測定し、耐衝撃性(耐重り落下性)を評価した。評価基準は以下のとおりである。評点△以上を合格とした。
◎:重りを50cmの高さから落下させても、割れ、ひび、ハガレ等が発生しない。
○:重りを40cmの高さから落下させても、割れ、ひび、ハガレ等が発生しないが、50cmの高さから落下させると、割れ、ひび、ハガレが発生する。
△:重りを30cmの高さから落下させても、割れ、ひび、ハガレ等が発生しないが、40cmの高さから落下させると、割れ、ひび、ハガレが発生する。
×:重りを30cmの高さから落下させると、割れ、ひび、ハガレ等が発生する。
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
実施例1~34は、本開示の実施例であり、有害な有機溶媒を使用せず、得られた塗膜は、耐熱性に優れ、且つ耐衝撃性に優れるものであった。耐衝撃性に優れることから、基材との密着性にも優れるといえる。
比較例1、2、5、6、7及び8は、塗膜形成樹脂(A)の構成要素として、アラルキル変性フェノール樹脂(a1)を用いない例であり、耐熱性及び衝撃性が十分に満足できるものではなかった。
比較例3は、硬化剤(B)としてアミノ樹脂を使用した例であり、耐熱性及び衝撃性が十分に満足できるものではなかった。
比較例4は、硬化剤(B)を含有しない例であり、耐熱性及び衝撃性が十分に満足できるものではなかった。
本開示のカチオン電着塗料組成物は、有害な有機溶媒を使用せず、耐熱性に優れ、且つ基材との密着性及び耐衝撃性に優れる塗膜を実現し得る。そのため、小型化、薄膜化、高機能化に伴い、絶縁性、耐熱性、耐薬品性及び寸法安定性等に優れた、高機能な材料が求められている電子機器等に好適に用いることができる。