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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120595
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】超音波検査装置及び超音波検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/12 20060101AFI20240829BHJP
   G01N 29/46 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
G01N29/12
G01N29/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027487
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 睦三
(72)【発明者】
【氏名】高麗 友輔
(72)【発明者】
【氏名】大野 茂
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047BA01
2G047BC04
2G047BC07
2G047CA01
2G047EA10
2G047GF08
2G047GF11
2G047GF18
2G047GG12
2G047GG17
2G047GG23
2G047GG32
(57)【要約】
【課題】欠陥部の検出性能、例えば検出可能な欠陥サイズが小さく、微小な欠陥でも検出可能にする超音波検査装置を提供する。
【解決手段】超音波検査装置Zの走査計測装置1は、送信プローブ110と、被検査体に関して送信プローブ110の反対側に設置された受信プローブ121とを備え、送信プローブ110は、波数が2以上の波束で構成される繰り返し波束の電圧波形を印加されて超音波ビームを放出し、送信プローブ110の共振周波数からずらした励起周波数で送信プローブ110を駆動し、制御装置2は信号処理部250を備え、信号処理部250は、受信プローブ121の受信信号のうちの少なくとも最大強度周波数成分を低減するフィルタ部240を備え、フィルタ部240は、最大強度周波数成分を含む基本波帯のうちの最大強度周波数成分以外の裾野成分を検出する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体を介して被検査体に超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査装置であって、
前記被検査体への前記超音波ビームの走査及び計測を行う走査計測装置と、前記走査計測装置の駆動を制御する制御装置とを備え、
前記走査計測装置は、
前記超音波ビームを放出する送信プローブと、前記被検査体に関して前記送信プローブの反対側に設置された、前記超音波ビームを受信する受信プローブとを備え、
前記送信プローブは、波数が2以上の波束で構成される繰り返し波束の電圧波形を印加されて超音波ビームを放出し、
前記送信プローブの共振周波数からずらした励起周波数で前記送信プローブを駆動し、
前記制御装置は信号処理部を備え、
前記信号処理部は、前記受信プローブの受信信号のうちの少なくとも最大強度周波数成分を低減するフィルタ部を備え、
前記フィルタ部は、前記最大強度周波数成分を含む基本波帯のうちの前記最大強度周波数成分以外の裾野成分を検出する超音波検査装置。
【請求項2】
前記受信プローブの焦点距離は、前記送信プローブの焦点距離よりも長いことを特徴とする請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項3】
前記受信プローブは、非収束型の受信プローブであることを特徴とする請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項4】
前記基本波帯の周波数スペクトルの半値全幅は、前記最大強度周波数成分に対応した周波数である最大成分周波数の50%以下であることを特徴とする請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項5】
前記フィルタ部は、
前記受信プローブの受信信号を周波数成分に変換する周波数成分変換部と、
前記最大強度周波数成分を含む周波数帯の除去により前記裾野成分を選択する周波数選択部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項6】
前記励起周波数は、前記基本波帯の周波数範囲に設定されることを特徴とする請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項7】
前記波束の波数は30以下であることを特徴とする請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項8】
前記励起周波数と前記共振周波数との差の絶対値は、前記最大強度周波数成分に対応した周波数である最大成分周波数の25%以下であることを特徴とする請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項9】
前記励起周波数と前記共振周波数との差の絶対値は、前記最大強度周波数成分に対応した周波数である最大成分周波数の15%以下であることを特徴とする請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項10】
前記フィルタ部が検出する周波数は、前記最大強度周波数成分に対応した周波数である最大成分周波数をfmとすると、(fm±0.25fm)の範囲の周波数を含むことを特徴とする請求項1に記載の超音波検査装置。
【請求項11】
気体を介して被検査体に超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査装置であって、
前記被検査体への前記超音波ビームの走査及び計測を行う走査計測装置と、前記走査計測装置の駆動を制御する制御装置とを備え、
前記走査計測装置は、
前記超音波ビームを放出する送信プローブと、前記超音波ビームを受信する受信プローブとを備え、
前記送信プローブの共振周波数からずらした励起周波数で前記送信プローブを駆動し、
前記制御装置は信号処理部を備え、
前記信号処理部は、
前記受信プローブの受信信号を周波数成分に変換する周波数変換部と、
変換された前記周波数成分のうち、周波数パラメータにより指定された周波数成分の部分を用いて、欠陥位置を示す画像を生成する画像化部と、
前記被検査体における欠陥部の検出精度に影響を与える情報と、前記周波数パラメータとを対応付けたデータベースと、
表示装置への表示を行う表示部と、
を備え、
前記表示部は、前記表示装置に、前記被検査体における欠陥部の検出精度に影響を与える情報を受け付ける入力部を表示する
超音波検査装置。
【請求項12】
前記データベースは、前記励起周波数の情報を含むことを特徴とする請求項11に記載の超音波検査装置。
【請求項13】
気体を介して被検査体に超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査方法であって、
送信プローブの共振周波数からずらした励起周波数で、前記送信プローブを励起して超音波ビームを放出する放出ステップと、
前記超音波ビームを受信する受信ステップと、
前記受信ステップで受信した前記超音波ビームの信号の最大強度周波数成分を低減するフィルタ処理ステップと、
前記超音波ビームの信号における基本波帯の裾野成分を検出する信号強度算出ステップとを含む
ことを特徴とする超音波検査方法。
【請求項14】
気体を介して被検査体に超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査装置であって、
前記被検査体への前記超音波ビームの走査及び計測を行う走査計測装置と、前記走査計測装置の駆動を制御する制御装置とを備え、
前記走査計測装置は、
前記超音波ビームを放出する送信プローブと、前記被検査体に関して前記送信プローブの反対側に設置された、前記超音波ビームを受信する受信プローブとを備え、
前記送信プローブは、波数が2以上の波束で構成される繰り返し波束の電圧波形を印加されて超音波ビームを放出し、
前記制御装置は信号処理部を備え、
前記信号処理部は、前記受信プローブの受信信号のうちの少なくとも最大強度周波数成分を低減するフィルタ部を備え、
前記フィルタ部は、前記最大強度周波数成分を含む基本波帯のうちの前記最大強度周波数成分以外の裾野成分を検出する超音波検査装置。
【請求項15】
前記受信プローブの焦点距離は、前記送信プローブの焦点距離よりも長いことを特徴とする請求項14に記載の超音波検査装置。
【請求項16】
前記受信プローブは、非収束型のプローブであることを特徴とする請求項14に記載の超音波検査装置。
【請求項17】
前記波束の波数は3以上であることを特徴とする請求項14に記載の超音波検査装置。
【請求項18】
前記基本波帯の周波数スペクトルの半値全幅は、前記最大強度周波数成分に対応した周波数である最大成分周波数の50%以下であることを特徴とする請求項14に記載の超音波検査装置。
【請求項19】
前記送信プローブは、狭帯域のプローブであることを特徴とする請求項14に記載の超音波検査装置。
【請求項20】
前記フィルタ部は、帯域遮断フィルタを含むことを特徴とする請求項14に記載の超音波検査装置。
【請求項21】
前記フィルタ部は、低域通過フィルタを含むことを特徴とする請求項14に記載の超音波検査装置。
【請求項22】
前記フィルタ部は、
前記受信プローブの受信信号を周波数成分に変換する周波数成分変換部と、
前記最大強度周波数成分を含む周波数帯の除去により前記裾野成分を選択する周波数選択部と、
を備えることを特徴とする請求項14に記載の超音波検査装置。
【請求項23】
前記フィルタ部は、
欠陥部の位置が既知の試料での健全部及び欠陥部に前記超音波ビームを照射することで得られた、周波数と信号強度との関係において、前記基本波帯のうちの異なる複数の前記裾野成分を検出する検出部と、
検出した複数の前記裾野成分同士の比較により、どの前記裾野成分を使用するかを決定する決定部とを備えることを特徴とする請求項14に記載の超音波検査装置。
【請求項24】
前記送信プローブの音軸と前記受信プローブの音軸との間の距離がゼロより大きいことを特徴とする請求項14に記載の超音波検査装置。
【請求項25】
前記送信プローブの音軸と前記受信プローブの音軸との間の距離がゼロであることを特徴とする請求項14に記載の超音波検査装置。
【請求項26】
気体を介して被検査体に超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査方法であって、
送信プローブから波数が2以上の波束で構成される繰り返し波束の超音波ビームを放出する放出ステップと、
前記超音波ビームを受信する受信ステップと、
前記受信ステップで受信した前記超音波ビームの信号の最大強度周波数成分を低減するフィルタ処理ステップと、
前記超音波ビームの信号の基本波帯の裾野成分を検出する信号強度算出ステップとを含む
ことを特徴とする超音波検査方法。
【請求項27】
前記フィルタ部が検出する周波数は、前記最大強度周波数成分に対応した周波数である最大成分周波数をfmとすると、(fm±0.25fm)の範囲の周波数を含むことを特徴とする請求項14に記載の超音波検査装置。
【請求項28】
前記フィルタ部が検出する周波数は、前記最大強度周波数成分に対応した周波数である最大成分周波数をfmとすると、(fm±0.15fm)の範囲の周波数を含むことを特徴とする請求項14に記載の超音波検査装置。
【請求項29】
前記送信プローブの送信音軸が、前記被検査体を載置する試料台の載置面に対して垂直になるように、前記送信プローブが設置されたことを特徴とする請求項14に記載の超音波検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波検査装置及び超音波検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波ビームを用いた被検査体の欠陥部の検査方法が知られている。例えば、被検査体の内部に空気等の音響インピーダンスが小さな欠陥部(空洞等)がある場合、被検査体の内部で音響インピーダンスのギャップが生じるため、超音波ビームの透過量が小さくなる。従って、超音波ビームの透過量を計測することで、被検査体内部の欠陥部を検出できる。
【0003】
超音波検査装置について特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1に記載の超音波検査装置では、連続する所定個数の負の矩形波からなる矩形波バースト信号を被検体に空気を介して対向配設された送信超音波探触子に印加する。被検体に空気を介して対向配設され受信超音波探触子で被検体を伝搬した超音波を透過波信号に変換する。この透過波信号の信号レベルに基づき被検体の欠陥の有無を判定する。また、送信超音波探触子及び受信超音波探触子は、振動子及び当該振動子の超音波の送受信側に取付られた前面板の音響インピーダンスを、被検体に当接して使用する接触型超音波探触子に比較して低く設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-128965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の超音波検査装置では、被検査体中の微小な欠陥を検出することが困難であるという課題がある。特に、検出しようとする欠陥のサイズが、超音波ビームよりも小さい場合に、欠陥の検出が困難になる。
本開示が解決しようとする課題は、欠陥部の検出性能、例えば検出可能な欠陥サイズが小さく、微小な欠陥でも検出可能にする超音波検査装置及び超音波検査方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の超音波検査装置は、気体を介して被検査体に超音波ビームを入射することにより前記被検査体の検査を行う超音波検査装置であって、前記被検査体への前記超音波ビームの走査及び計測を行う走査計測装置と、前記走査計測装置の駆動を制御する制御装置とを備え、前記走査計測装置は、前記超音波ビームを放出する送信プローブと、前記被検査体に関して前記送信プローブの反対側に設置された、前記超音波ビームを受信する受信プローブとを備え、前記送信プローブは、波数が2以上の波束で構成される繰り返し波束の電圧波形を印加されて超音波ビームを放出し、前記送信プローブの共振周波数からずらした励起周波数で前記送信プローブを駆動し、前記制御装置は信号処理部を備え、前記信号処理部は、前記受信プローブの受信信号のうちの少なくとも最大強度周波数成分を低減するフィルタ部を備え、前記フィルタ部は、前記最大強度周波数成分を含む基本波帯のうちの前記最大強度周波数成分以外の裾野成分を検出する。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、欠陥部の検出性能、例えば検出可能な欠陥サイズが小さく、微小な欠陥でも検出可能にする超音波検査装置及び超音波検査方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の超音波検査装置の構成を示す図である。
図2】送信プローブの構造を示す断面模式図である。
図3A】従来の超音波検査方法での超音波ビームの伝搬経路を示す図であり、健全部への入射時を示す図である。
図3B】従来の超音波検査方法での超音波ビームの伝搬経路を示す図であり、欠陥部への入射時を示す図である。
図4】被検査体内での欠陥部と超音波ビームとの相互作用を示す図であり、直達する超音波ビームを受信する様子を示す図である。
図5】欠陥部と相互作用した超音波ビームである散乱波を模式的に示した図である。
図6】制御装置の機能ブロック図である。
図7】受信信号の周波数成分の分布を模式的に示した図である。
図8A】欠陥部をまたがるように送信プローブ及び受信プローブを走査したときの信号強度情報の位置による変化を示したものである。
図8B】フィルタ部を備えた制御装置により、信号強度情報を測定した結果である。
図9】送信プローブに印加するバースト波の電圧波形である。
図10図9に示す条件での受信信号の周波数成分分布を示したものである。
図11】受信信号の周波数成分分布(周波数スペクトル)の実測データを、健全部(実線)と欠陥部(破線)とで比較した図である。
図12A】波数を変えた時の送信超音波の周波数スペクトルを示す。
図12B】波数が3個(破線)、5個(実線)、10個(一点鎖線)の場合の周波数スペクトルである。
図13】基本波帯の周波数スペクトルを模式的に示した図である。
図14】基本波帯の半値全幅比(FWHM比)と波数との関係を示す図である。
図15A】帯域遮断フィルタでのゲイン(利得)の周波数特性を示す。
図15B】帯域遮断フィルタで処理した後の信号の周波数特性を模式的に示した図である。
図16A】低域通過フィルタでのゲイン(利得)の周波数特性を示す。
図16B】低域通過フィルタで処理した後の信号の周波数特性を模式的に示した図である。
図17A】高域通過フィルタでのゲイン(利得)の周波数特性を示す。
図17B】高域通過フィルタで処理した後の信号の周波数特性を模式的に示した図である。
図18】デジタル方式のフィルタ部を示すブロック図である。
図19】別の実施形態に係るフィルタ部を示すブロック図である。
図20A】送信プローブの焦点距離と受信プローブの焦点距離を等しくした場合の超音波ビームの伝播経路を模式的に示した図である。
図20B】送信プローブの焦点距離よりも、受信プローブの焦点距離を長くした場合の超音波ビームの伝播経路を模式的に示した図である。
図21】送信プローブにおけるビーム入射面積及び受信プローブにおけるビーム入射面積の関係を説明する図である。
図22】第2実施形態での超音波検査装置の構成を示す図である。
図23A】送信音軸、受信音軸及び偏心距離を説明する図であり、送信音軸及び受信音軸が鉛直方向に延びる場合である。
図23B】送信音軸、受信音軸及び偏心距離を説明する図であり、送信音軸及び受信音軸が傾斜して延びる場合である。
図24】第3実施形態での超音波検査装置の構成を示す図である。
図25】第3実施形態による効果が生じる理由を説明する図である。
図26】第4実施形態での超音波検査装置における制御装置2の機能ブロック図である。
図27】第5実施形態での超音波検査装置における制御装置2の機能ブロック図である。
図28】第6実施形態での超音波検査装置における制御装置2の機能ブロック図である。
図29】制御装置のハードウェア構成を示す図である。
図30】上記各実施形態の超音波検査方法を示すフローチャートである。
図31】第7実施形態の超音波検査装置の構成を示す図である。
図32】制御装置の機能ブロック図である。
図33A】欠陥部をまたがるように送信プローブ及び受信プローブを走査したときの信号強度情報の位置による変化を示したものである。
図33B】送信プローブの励起周波数fexを0.78MHzに設定するとともに、フィルタ部を備えた制御装置により、信号強度情報を測定した結果である。
図34】第7実施形態に示す条件での受信信号の周波数成分分布を示したものである。
図35】受信信号の周波数成分分布(周波数スペクトル)の実測データを、健全部(実線)と欠陥部(破線)とで比較した図である。
図36A】波束の波数と、その超音波の基本波帯の周波数スペクトルである。
図36B図36Aに示したスペクトルの基本波帯の半値全幅が波束の波数N0に対してどのように変化するかを示した図である。
図37】励起周波数fexを変えて、受信信号の周波数スペクトルを測定した結果である。
図38】1つの波束の時間領域において、瞬時周波数の変化を示す図である。
図39】第8実施形態での超音波検査装置Zにおける制御装置の機能ブロック図である。
図40】第9実施形態での超音波検査装置Zにおける制御装置の機能ブロック図である。
図41】第11実施形態での超音波検査装置の構成を示す図である。
図42】第13実施形態の制御装置2の機能ブロック図である。
図43A】データベースの一例である。
図43B図43Aに示すデータベースを立体的に示す図である。
図44】本開示の例での超音波検査装置の操作画面の構成例を模式的に示す図である。
図45】第14実施形態で被検査体Eの欠陥画像を得るステップを示す図である。
図46】標準検査体を模擬欠陥を横切るように走査しながら、超音波ビームを送信して受信信号を計測し、受信信号を適切な信号処理により信号量を算出してプロットした結果である。
図47】第15実施形態で被検査体の欠陥画像を得るステップを示す図である。
図48】ステップで表示される周波数スペクトルである。
図49】第16実施形態の超音波検査装置の機能ブロック図である。
図50】制御装置のハードウェア構成を示す図である。
図51】上記各実施形態の超音波検査方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限られず、例えば異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更することがある。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の超音波検査装置Zの構成を示す図である。図1では、走査計測装置1は、断面模式図で示している。図1には、紙面左右方向としてのx軸、紙面直交方向としてのy軸、紙面上下方向としてのz軸を含む直交3軸の座標系が示される。
【0011】
超音波検査装置Zは、流体Fを介して被検査体Eに超音波ビームU(後記する)を入射することにより被検査体Eの検査を行うものである。本実施形態では、流体Fは空気等の気体Gである。被検査体Eは流体F中に存在する。第1実施形態では、流体Fとして空気(気体Gの一例)が使用される。従って、走査計測装置1の筐体101の内部は空気で満たされた空洞となっている。図1に示すように、超音波検査装置Zは、走査計測装置1と、制御装置2と、表示装置3とを備える。表示装置3は制御装置2に接続される。
【0012】
走査計測装置1は、被検査体Eへの超音波ビームUの走査及び計測を行うものであり、筐体101に固定された試料台102を備え、試料台102には被検査体Eが載置される。被検査体Eは、動かないように固定具で試料台102に固定されるとなお好ましい。被検査体Eが充分に重く不用意に動かない場合などは、固定具が無くてもよい。被検査体Eは、任意の材料で構成されている。被検査体Eは例えば固体材料であり、より具体には例えば金属、ガラス、樹脂材料、あるいはCFRP(炭素繊維強化プラスチック、Carbon-Fiber Reinforced Plastics)等の複合材料等である。また、図1の例において、被検査体Eは内部に欠陥部Dを有している。欠陥部Dは、空洞等である。欠陥部Dの例は、空洞、本来あるべき材料と異なる異物材等である。被検査体Eにおいて、欠陥部D以外の部分を健全部Nと称する。
【0013】
欠陥部Dと健全部Nとは、構成する材料が異なるため、両者の間では音響インピーダンスが異なり、超音波ビームUの伝搬特性が変化する。超音波検査装置Zは、この変化を観測して、欠陥部Dを検出する。
【0014】
走査計測装置1は、超音波ビームUを放出する送信プローブ110と、受信プローブ121とを有する。送信プローブ110は、送信プローブ走査部103を介して筐体101に設置され、超音波ビームUを放出する。受信プローブ121は、被検査体Eに関して送信プローブ110の反対側に設置された、超音波ビームUを受信するものである。受信プローブ121は、送信プローブ110と同軸に配置された(後記する偏心距離Lがゼロ)の受信プローブ140(同軸配置受信プローブ)である。従って、第1実施形態では、送信プローブ110の送信音軸AX1(音軸)と受信プローブ140の受信音軸AX2(音軸)との間の偏心距離L(距離。後記する。)がゼロである。これにより、送信プローブ110及び受信プローブ140を容易に設置できる。
【0015】
ここで、「送信プローブ110の反対側」とは、被検査体Eにより区切られる2つの空間のうち、送信プローブ110が位置する空間と反対側(z軸方向において反対側)の空間という意味であり、x、y座標が同一の反対側(つまり、xy平面に関して面対称の位置)という意味ではない。
【0016】
本開示での、被検査体Eに関して送信プローブ110の反対側に受信プローブ140を配置する構成は、透過型配置に対応する。超音波検査装置Zでは、この他、被検査体Eに関して送信プローブと同じ側に受信プローブを配置する、反射型配置も知られている。
【0017】
透過型配置は、透過法とも呼ばれる。透過型配置では、被検査体Eを透過してきた超音波ビームUが受信される。被検査体E内の欠陥部Dの存在による超音波ビームUの透過量の変化により、欠陥部Dが検出される。これに対して、反射型配置は、反射法とも呼ばれ、欠陥部Dで反射された超音波ビームUを検出することで、欠陥部Dが検出される。
【0018】
本開示の例では、送信プローブ110の送信音軸AX1が、試料台102の載置面1021に対して垂直になるように、送信プローブ110が設置される。即ち、送信音軸AX1が試料台102の被検査体Eの載置面1021の法線方向になるように送信プローブ110が設置される。このようにすると、板状の被検査体Eにおいては、被検査体Eの表面に垂直に送信音軸AX1が配置されるので、走査位置と欠陥部Dの位置との対応関係がわかり易くなるという効果がある。
【0019】
但し、送信音軸AX1が試料台102の被検査体Eの載置面1021に対して垂直になるように送信プローブ110を設置することに本開示が限定されるわけではない。送信音軸AX1が試料台102の被検査体Eの載置面1021に対して垂直でない場合でも、本開示の効果はある。後者の場合、欠陥部Dの位置を正確に知るには、垂直方向からの送信音軸AX1の傾きに応じて、送信音軸AX1の経路を計算すればよい。
【0020】
ここで、送信プローブ110と受信プローブ121との位置関係について述べる。送信プローブ110の送信音軸AX1と受信プローブ121の受信音軸AX2との距離を偏心距離L(後記)と定義する。第1実施形態では、上記のように、偏心距離Lがゼロに設定される。即ち、送信音軸AX1と受信音軸AX2とが同軸上になるような受信プローブ121が配置される。これを同軸配置と呼ぶ。なお、本開示では、偏心距離Lは0に限定されるものではない。
【0021】
本開示では、受信プローブ121の配置位置として、送信音軸AX1と受信音軸AX2とを同軸に配置したものを同軸配置と呼び、2つの音軸(送信音軸AX1及び受信音軸AX2)をずらしたもの(即ち、偏心させた配置)を偏心配置と呼ぶ。本開示は、受信プローブ121を同軸配置にした場合と、偏心配置にした場合とのいずれの場合でも効果を奏する。従って、本開示は、受信プローブ121の配置として、同軸配置及び偏心配置のいずれも含む。偏心配置の具体的な図示は後記する。
【0022】
本開示において、特に、受信配置位置を指定する場合には、同軸配置された受信プローブ121を受信プローブ140(同軸配置受信プローブ)と記し、偏心配置された受信プローブ121を、受信プローブ120(偏心配置受信プローブ)と記すことにする。
【0023】
受信プローブ121と記した場合は、同軸配置か偏心配置かは特段に指定しない。
【0024】
音軸とは、超音波ビームUの中心軸と定義される。ここで、送信音軸AX1は、送信プローブ110が放出する超音波ビームUの伝搬経路の音軸と定義される。言い換えると、送信音軸AX1は、送信プローブ110が放出する超音波ビームUの伝搬経路の中心軸である。送信音軸AX1は、後記するように、被検査体Eの界面による屈折を含めることとする。つまり、送信プローブ110から放出された超音波ビームUが、被検査体Eの界面で屈折する場合は、その超音波ビームUの伝搬経路の中心(音軸)が送信音軸AX1となる。
【0025】
また、受信音軸AX2は、受信プローブ121が超音波ビームUを放出すると想定した場合の仮想的な超音波ビームの伝搬経路の音軸と定義される。言い換えると、受信音軸AX2は、受信プローブ121が超音波ビームUを放出すると想定した場合の仮想的な超音波ビームの中心軸である。
【0026】
具体例として、探触子面114(後記)が平面状である非収束型の受信プローブ121の場合を述べる。この場合、受信音軸AX2の方向は探触子面114の法線方向であり、探触子面114の中心点を通る軸が受信音軸AX2になる。探触子面114が長方形の場合は、その中心点は長方形の対角線の交点と定義する。
【0027】
走査計測装置1には、制御装置2が接続されている。制御装置2は、走査計測装置1の駆動を制御するものであり、送信プローブ走査部103及び受信プローブ走査部104に指示することで、送信プローブ110及び受信プローブ121の移動(走査)を制御する。送信プローブ走査部103及び受信プローブ走査部104がx軸及びy軸方向に同期して移動することにより、送信プローブ110及び受信プローブ121は被検査体Eをx軸及びy軸方向に走査する。更に、制御装置2は、送信プローブ110から超音波ビームUを放出し、受信プローブ121から取得した信号に基づいて波形解析を行う。なお、送信プローブ110の走査方向であるx軸及びy軸方向の2つの軸が作る平面を走査面と呼ぶことにする。
【0028】
なお、第1実施形態では、被検査体Eが試料台102を介して筐体101に固定された状態、つまり、被検査体Eは筐体101に対し固定された状態で、送信プローブ110と受信プローブ121とを走査する例が示される。これとは逆に、送信プローブ110と受信プローブ121とが筐体101に対して固定され、試料台102の位置をx軸及びy軸方向に走査する構成としてもよい。この構成では、試料台102に載置された被検査体Eも移動するので、送信プローブ110との相対位置がx軸およびy軸方向に走査される。
【0029】
送信プローブ110と被検査体Eとの間、及び受信プローブ121と被検査体Eとの間には、図示の例では気体Gが介在する。このため、送信プローブ110及び受信プローブ121を被検査体Eに非接触で検査できるため、xy面内方向の相対位置をスムーズかつ高速に変えることが可能である。即ち、送信プローブ110及び受信プローブ121と被検査体Eとの間に気体Gを介在させることにより、スムーズな走査が可能になる。
【0030】
送信プローブ110から局所的な超音波ビームUを発することで、局所的な超音波ビームUが被検査体Eに局所的に照射する。局所的な超音波ビームUを照射する位置は走査して変える。前述の通り、被検査体Eの欠陥部Dと健全部Nとで受信プローブ121に到達する超音波ビームUが変化するので、この構成により欠陥部Dを検出することができる。
【0031】
局所的な超音波ビームUを生成するために、本実施形態では収束型の送信プローブ110を用いることができる。収束型の送信プローブ110の具体的な構成は後述する。局所的な超音波ビームUを生成する構成としては、超音波ビームUを発生する圧電素子(後記する振動子111。以下同じ)の面積を小さくすることでビーム径を小さくする構成を用いてもよい。収束型の送信プローブ110では、圧電素子の面積を大きくしながら、ビーム径を小さくできるので、ビーム強度が強くて、かつビーム径が小さい局所的な超音波ビームUを発生できるのでより好ましい。
【0032】
送信プローブ110は、収束型の送信プローブ110である。一方で、受信プローブ121は、収束性が送信プローブ110よりも緩いプローブである。本実施形態では、受信プローブ121には探触子面が平面である非収束型のプローブが使用される。このような、非収束型の受信プローブ121を用いることで、幅広い範囲について欠陥部Dの情報を収集することができる。
【0033】
図2は、送信プローブ110の構造を示す断面模式図である。図2では、簡略化のために、放出される超音波ビームUの外郭のみを図示しているが、実際には、探触子面114の全域にわたり、探触子面114の法線ベクトル方向に多数の超音波ビームUが放出される。
【0034】
送信プローブ110は、超音波ビームUを収束するように構成される。これにより、被検査体E中の微小な欠陥部Dを高精度に検出できる。微小な欠陥部Dを検出できる理由は後記する。送信プローブ110は、送信プローブ筐体115を備え、送信プローブ筐体115の内部に、バッキング112と、振動子111と、整合層113とを備える。振動子111には電極(不図示)が取り付けられており、電極はリード線118により、コネクタ116に接続されている。さらに、コネクタ116はリード線117により電源装置(不図示)及び制御装置2に接続される。
【0035】
本開示において、送信プローブ110又は受信プローブ121の探触子面114とは、整合層113を備える場合は整合層113の表面と定義し、整合層113を備えない場合は振動子111の表面と定義する。即ち、探触子面114は、送信プローブ110の場合は、超音波ビームUを放出する面であり、受信プローブ121の場合は、超音波ビームUを受信する面である。
【0036】
ここで、比較例として、従来の超音波検査の手法を説明する。
【0037】
図3Aは、従来の超音波検査方法での超音波ビームUの伝搬経路を示す図であり、健全部Nへの入射時を示す図である。図3Bは、従来の超音波検査方法での超音波ビームUの伝搬経路を示す図であり、欠陥部Dへの入射時を示す図である。従来の超音波検査方法では、例えば特許文献1に記載されているように、送信音軸AX1と受信音軸AX2とが一致するように、送信プローブ110及び受信プローブ121としての受信プローブ140が配置される。
【0038】
図3Aに示すように、被検査体Eの健全部Nに超音波ビームUが入射された場合、超音波ビームUが被検査体Eを通過して受信プローブ140に到達する。従って、受信信号が大きくなる。一方、図3Bに示すように、欠陥部Dに超音波ビームUが入射された場合、欠陥部Dにより超音波ビームUの透過が阻止されるために受信信号が減少する。このように受信信号の減少により欠陥部Dを検出する。これは、特許文献1に示されている通りである。
【0039】
ここで、図3A及び図3Bに示すように、欠陥部Dにおいて超音波ビームUの透過が阻止されることによって受信信号が減少し、欠陥部Dを検出する方法を、ここでは「阻止法」と呼ぶことにする。
【0040】
従来技術の問題点は、欠陥サイズがビームサイズよりも小さくなると検出が困難になることである。この点を、図4を参照して説明する。
【0041】
図4は、被検査体E内での欠陥部Dと超音波ビームUとの相互作用を示す図であり、直達する超音波ビームU(以下、「直達波U3」という)を受信する様子を示す図である。直達波U3については後記する。ここでは、欠陥部Dの大きさが超音波ビームUの幅(以下、ビーム幅BWと称する)よりも小さい場合を考察する。ここでのビーム幅BWとは、欠陥部Dに到達した時の超音波ビームUの幅である。
【0042】
また、図4は、欠陥部D近傍の微小領域での超音波ビームUの形状を模式的に示しているので超音波ビームUを平行に描いてあるが、実際には収束させた超音波ビームUである。さらに、図4での受信プローブ121の位置は、わかりやすく説明するために概念的な位置を記入したものであり、受信プローブ121の位置と形状は正確にスケールされていない。即ち、欠陥部Dと超音波ビームUとの形状の拡大スケールで考えると、図4に示す位置よりも、図面上下方向で離れた位置に受信プローブ121は位置する。
【0043】
図4では、送信音軸AX1と受信音軸AX2とを一致させた阻止法の場合が示される。欠陥部Dがビーム幅BWよりも小さい場合、一部の超音波ビームUは阻止されるので受信信号は減少するが、ゼロにはならない。例えば、欠陥部Dの断面積がビーム幅BWで規定されるビーム断面積の5%の場合、受信信号は概ね5%の減少に止まるので、欠陥部Dの検出が困難である。つまり、図4に示すような場合、欠陥部Dが存在する箇所では、受信信号が5%減少するにとどまる。このように、欠陥部Dがビーム幅BWよりも小さい場合、欠陥部Dと相互作用することなく、素通りするビームが多くなるので、欠陥の検出が困難になる。
【0044】
図5は、欠陥部Dと相互作用した超音波ビームUである散乱波U1を模式的に示した図である。本開示では、欠陥部Dと相互作用した超音波ビームUを散乱波U1と呼ぶ。従って、本開示での「散乱波U1」とは、欠陥部Dと相互作用した超音波を指す。散乱波U1には、図5のように方向を変える波もある。また、散乱波U1には、欠陥部Dとの相互作用により波の位相又は周波数の少なくとも一方が変化するが、進行方向は変わらない波もある。欠陥部Dと相互作用することなく、通過する超音波を直達波U3と呼ぶ。直達波U3と区別して、散乱波U1のみを検出できれば、小さな欠陥部Dを検出し易くできる。本開示では、周波数の違いに着目することで、散乱波U1が効率的に検出される。
【0045】
本実施形態では、送信プローブ110と被検査体Eとの間の流体Fとして空気等の気体Gが使用される。この場合、以下に述べる理由から、従来法である阻止法では微小な欠陥部Dの検出がとりわけ困難になる。このため、散乱波U1を検出する本開示の効果が大きい。
【0046】
液体中と比較して、気体G中では超音波の減衰量が大きい。超音波の気体G中での減衰量は周波数の2乗に比例することが知られている。このため、気体G中で超音波を伝搬させるには1MHz程度が上限となる。液体中の場合は、5MHz~数10MHzの超音波でも伝搬するので、気体G中で使用可能な周波数は、液体中のそれより小さいことになる。
【0047】
一般に、超音波ビームUの周波数が低くなると、超音波ビームUの収束が困難になる。そのため、気体G中を伝搬させる1MHzの超音波ビームUは、液体中の超音波ビームUと比べて収束可能なビーム径が大きくなる。一方、上記図4に示したように、従来法である阻止モードでは、ビームサイズよりも小さな欠陥部Dを検出することが困難である。しかし、本開示によれば、上記図5に示したように、散乱波U1の成分の割合を増やして検出するため、ビームサイズよりも小さな欠陥部Dを検出することが可能である。
【0048】
図6は、制御装置2の機能ブロック図である。制御装置2は、走査計測装置1の駆動を制御するものである。制御装置2は、送信系統210と、受信系統220と、データ処理部201と、スキャンコントローラ204と、駆動部202と、位置計測部203と、信号処理部250とを備える。受信系統220とデータ処理部201とを合わせて、信号処理部250と呼ぶ。信号処理部250は、受信プローブ121からの信号を増幅処理、フィルタ処理等により、有意な情報を抽出する信号処理を行う。
【0049】
送信系統210は、送信プローブ110への印加電圧を生成する系統である。送信系統210は、波形発生器211及び信号アンプ212を備える。波形発生器211でバースト波信号が発生する。そして、発生したバースト波信号は信号アンプ212で増幅される。信号アンプ212から出力された電圧は送信プローブ110に印加される。
【0050】
このようにして、制御装置2に含まれる送信系統210はバースト波の電圧波形を出力し、出力されたバースト波の電圧波形が送信プローブ110に印加される。本開示では、バースト波は繰り返し波束とも呼ぶ。バースト波の波形については後述する。
【0051】
信号処理部250は、受信系統220を備える。受信系統220は、受信プローブ121から出力される受信信号を検出する系統である。受信プローブ121から出力された信号は、信号アンプ222に入力されて増幅される。増幅された信号は、フィルタ部240(遮断フィルタ)に入力される。フィルタ部240は、入力信号の特定の周波数範囲の成分を低減する(遮断する)。フィルタ部240については後述する。フィルタ部240からの出力信号は、データ処理部201に入力される。
【0052】
データ処理部201では、フィルタ部240から入力された信号から、信号強度データを生成する。信号強度データの生成方法として、本実施例ではピーク間信号量(Peak-to-Peak signal)を用いた。これは信号のうち最大値と最小値との差である。信号強度データの生成方法には、この他、フーリエ変換をして特定周波数範囲の周波数成分の強度を用いてもよい。
【0053】
データ処理部201は、スキャンコントローラ204から走査位置の情報も受け取る。このようにして、現在の2次元走査位置(x、y)における信号強度データの値が得られる。信号強度データの値を走査位置に対してプロットすると、欠陥部Dの位置又は形状の少なくとも一方に対応した画像(欠陥画像)が得られる。この欠陥画像は表示装置3に出力される。
【0054】
(フィルタ部240)
本開示においてフィルタ部240は、所定の周波数範囲の信号成分の強度を低減させる信号処理を行う制御部と定義される。また、フィルタ処理は、所定の周波数範囲の信号成分の強度を低減させる信号処理と定義される。受信信号をフーリエ変換等で周波数成分毎の成分強度に分解した際、成分強度が最大になる周波数を最大成分周波数と呼ぶ。最大強度周波数成分は最大成分周波数における周波数成分である。即ち、最大成分周波数は、最大強度周波数成分に対応した周波数である。本開示のフィルタ部240は、最大強度周波数成分を含む基本波帯、即ち、最大成分周波数を含む周波数範囲の信号成分の強度を低減する。なお、周波数成分毎の成分強度の分布を周波数スペクトルと呼ぶ。
【0055】
図7は、受信信号の周波数成分の分布(周波数スペクトル)を模式的に示した図である。図7を用いて、フィルタ部240をさらに具体的に説明する。同図において、横軸が周波数、縦軸は成分強度(強度)を示す。縦軸は、対数スケールで示してあり、幅広い強度範囲を模式的に示している。
【0056】
成分強度が最大になる最大成分周波数をfmとする。最大成分周波数fmは、送信プローブ110から送信したバースト波の基本周波数f0にほぼ等しい。信号の周波数成分は、最大成分周波数fmの前後に広がりを持ち、これを基本波帯W1と呼ぶ。
【0057】
最大成分周波数fmのN倍の周波数(N×fm)の成分は、高調波である。最大成分周波数fmの1/N倍の周波数(fm/N)の成分は、分調波である。ここで、Nは、N≧2の整数である。高調波、分調波もそれぞれ広がりをもつ。本開示では、高調波、分調波が周波数的な広がりを持つことを特に強調する場合に、それぞれ高調波帯、分調波帯と呼ぶ。従って、単に「高調波」と記した場合も、周波数的な広がりを持つ。高調波帯、分調波帯は、非線形現象で発生するものであり、被検査体Eに入力した超音波ビームUの音圧が極めて強い場合に発生する。
【0058】
第1実施形態のように、送信プローブ110と被検査体Eとの間に気体Gを介した場合には、被検査体Eの内部に音圧が強い超音波ビームUを入れることは、一般的には困難なため、高調波帯又は分調波帯の少なくとも一方は観測されないことが多い。第1実施形態での条件でも、高調波帯及び分調波帯は検出限界以下であった。
【0059】
図7に示すように、基本波帯W1は周波数的に広がりを持つ。基本波帯W1のうち、最大成分周波数fmの成分以外の周波数成分を「裾野成分W3」と呼ぶことにする。裾野成分W3には、基本波のサイドローブも含まれる。
【0060】
第1実施形態では、フィルタ部240は、最大成分周波数fmを含む遮断周波数範囲の成分強度を低減する。即ち、フィルタ部240は、受信プローブ121の受信信号のうちの少なくとも最大強度周波数成分(最大成分周波数fmに対応する成分)を低減する。そして、フィルタ部240は、最大強度周波数成分を含む基本波帯W1のうちの最大強度周波数成分以外の裾野成分W3を検出する。フィルタ部240により、遮断周波数範囲の成分強度が低減するので、フィルタ部240を通過した後の信号では、基本波帯W1のうち裾野成分W3が占める割合が増加する。このようにすることで、後記のように、欠陥部Dの検出性能を向上できる。
【0061】
図8Aは、欠陥部Dに跨るように送信プローブ110及び受信プローブ121を走査したときの信号強度情報の位置による変化を示したものである。図8Aでは、上記図6の構成からフィルタ部240を除いた構成で測定した結果である。健全部Nでの信号強度はv0である。一方で、欠陥部Dに対応する位置(x=0)で、信号強度がΔvだけ低下しており、欠陥部Dを検出できている。しかし、信号強度の変化率(Δv/v0)は小さい。ここで信号強度の変化率とは、欠陥部Dでの信号変化量Δvを健全部Nでの信号強度v0で割った値と定義する。
【0062】
図8Bは、フィルタ部240を備えた制御装置2(図6)により、信号強度情報を測定した結果である。欠陥部Dの場所での信号強度の変化率(Δv/v0)が大きくなり、欠陥部Dの検出性が改善したことがわかる。
【0063】
図8A及び図8Bの実験結果を取得した実験条件を説明する。
【0064】
図9は、送信プローブ110に印加するバースト波の電圧波形である。横軸は時間、縦軸は電圧である。図9の例では、基本周波数f0が0.82MHzの正弦波が10波印加される。この10波を波束と呼ぶ。なお、基本周波数f0の逆数を基本周期T0と呼ぶ。基本周期T0は、同図に示した通り、1波束を構成する波の周期である。波束は繰り返し周期Tr=5msで印加される。従って、送信プローブ110は、波数が2以上の波束で構成される繰り返し波束の電圧波形を印加されて超音波ビームUを放出する。
【0065】
なお、本実施形態では各々の波束は基本周波数f0の正弦波を用いたが,正弦波以外でも良い。例えば、波束は、波数N0の矩形波で構成された波束であってもよい。
【0066】
波束の波数N0とは、1つの波束に含まれる基本周波数f0の波の個数(サイクル数)である。本開示では、波束の波数N0は2以上であり、波束の波数N0は3以上であることが好ましい。従って、送信プローブ110は、波数N0が2以上の波束で構成される繰り返し波束の電圧波形を印加されて超音波ビームUを放出する。本実施形態の実験条件では、前述の通り波数N0は10波である。波束を繰り返す、繰り返し波束の波形をバースト波と呼ぶ。
【0067】
図10は、図9に示す条件での受信信号の周波数成分分布を示したものである。同図は、横軸が周波数で、縦軸がそれぞれの周波数での成分強度の実測データをプロットしている。このグラフは、フィルタ部240で処理していない信号の周波数成分分布である。成分強度が最大になる0.82MHzが最大成分周波数fmである。基本波帯W1は、0.74MHzから0.88MHzに拡がっており、このうち最大成分周波数fmを除いた成分が裾野成分W3である。本実施形態では、最大成分周波数fmは、送信プローブ110が送信する超音波の基本周波数f0と等しくなっている。このように、多くの場合、最大成分周波数fmは送信する超音波の基本周波数f0に概ね等しくなる。
【0068】
フィルタ部240(図6)は、上記のように、最大成分周波数fmを除く。具体的には、図示の例では、フィルタ部240(図6)は0.78MHz以下の裾野成分W3を透過させ、0.82MHzを含む、0.78MHzを超える波を遮断する。このようなフィルタ部240を用いると、上記図8Bのように、欠陥部Dでの信号強度の変化率が増大し、欠陥の検出性が大幅に改善することがわかる。
【0069】
図11は、受信信号の周波数成分分布(周波数スペクトル)の実測データを、健全部N(実線)と欠陥部D(破線)とで比較した図である。フィルタ部240により欠陥部Dの検出性が改善するメカニズムは以下の通りである。最大成分周波数fm=0.82MHzでは、健全部Nと欠陥部Dとで成分強度(信号の大きさ)の違いは小さい。一方、最大成分周波数fm以外である裾野成分W3、特に低域帯については、健全部Nと欠陥部Dとの差が大きくなっている。
【0070】
このように、受信信号の周波数成分を調べ、最大成分周波数fmよりも、裾野成分W3の方が健全部Nと欠陥部Dとの差が大きい、ことを発明者らは見出した。この知見に基づき、健全部Nと欠陥部Dとの差が小さい最大成分周波数fmの周波数成分を低減するようなフィルタ部240を用いることにより、欠陥部Dの検出性を改善できることを見出した。
【0071】
このように、本開示は受信信号の周波数成分分布において、最大成分周波数fmでの信号成分よりも、基本波帯W1の裾野成分W3の方が欠陥部Dでの信号変化率が大きいという、発明者らが見出した新しい知見に基づくものである。最大成分周波数fmの成分は、受信信号の中で大きな割合を占めるが、欠陥部Dでの信号変化率が小さいので、この成分を低減することで、その結果、裾野成分W3が占める割合が増大する。このようにすることで、フィルタ部240で処理後の信号は、欠陥部Dでの信号変化率が増大するために、欠陥部Dの検出性を改善できる。そして、図8A及び図8Bに示した実測データを比較しても、フィルタ部240による欠陥部Dの検出性が改善する効果は明らかである。
【0072】
(バースト波の効果)
本開示において、送信プローブ110に、バースト波、即ち繰り返し波束の電圧波形を印加する効果を述べる。
【0073】
前記した通り、本開示では最大成分周波数fmからΔfだけずれた周波数成分(裾野成分)が欠陥部Dでの信号変化率が大きいという新しい知見に基づいている。そのため、基本波帯W1の帯域を適正な幅に狭めることにより、ずれた成分(fm±Δf)の周波数領域が特定の領域に入るので、ずれた成分(裾野成分W3)に含まれる欠陥情報を検出し易くなる。
【0074】
これに対し、単一パルス又は1周期の電圧波形を印加すると、後述するように、送信波の周波数帯域自体が広帯域に拡がるため、ずれた成分(fm±Δf)も広い周波数範囲に拡がってしまう。このため、本開示のように、Δfだけずれた周波数成分を抽出して検出することが困難である。
【0075】
単一パルス又は1周期の電圧波形を印加して、被検査体Eの内部の欠陥部Dを検査する方法はパルスエコー法として知られている。超音波の送信時刻から受信までの時間を計ることで、欠陥部Dまでの距離を知ることが出来る。
【0076】
次に、送信プローブ110に印加する波束の波数N0と送信される超音波の周波数帯域との関係を述べる。
【0077】
図12Aは、波数N0を変えた時の送信超音波の周波数スペクトルを示す。ここでは、波数N0で構成する波束の時間波形をフーリエ変換することで、周波数スペクトルを算出した。波束N0を構成する波の基本周波数f0は0.82MHzとしている。図12Aは波数N0が1~3個の場合のスペクトルを示した。なお、波数1個の場合は、波束にならないので繰り返し波束にならず、バースト波ではない。
【0078】
破線で示す波数N0=1の場合、0~1.6MHzの周波数範囲に基本波帯W1の周波数成分が拡がっていることがわかる。これは0~2fmに対応する。従って、前述の通り、本開示のような最大成分周波数fmからずれた信号成分を優先的に抽出することは困難である。なお、波数N0=1の周波数スペクトルは、パルスエコー法の典型的なスペクトル形状である。
【0079】
図12Aからわかるように、実線で示す波数N0が2個の場合、基本波帯W1の幅(帯域)はN0=1の場合の1/2に狭まる。更に、一点鎖線で示す波数N0が3個の場合、基本波帯W1の幅(帯域)はN0=1の場合の1/3に狭まる。このため、本開示のように最大成分周波数fmからずれた信号成分を抽出することが可能になる。
【0080】
図12Bは、波数N0が3個(破線)、5個(実線)、10個(一点鎖線)の場合の周波数スペクトルである。波数N0を増やすと、基本波帯の幅(帯域)がさらに狭くなることがわかる。
【0081】
図13は、基本波帯W1の周波数スペクトルを模式的に示した図である。ここで、基本波帯W1の帯域幅を以下のように定義する。基本波帯W1の最大成分周波数fmでのスペクトル強度を1として、その1/2の強度での周波数幅を半値全幅FWHM(Full-Width of Half Maximum)とする。そして、半値全幅を最大成分周波数fmで規格化した値を半値全幅比(FWHM比)と定義する。即ち、半値全幅比は、次式で表される。
半値全幅比=半値全幅/fm
【0082】
図14は、基本波帯W1の半値全幅比(FWHM比)と波数N0との関係を示す図である。縦軸に示す半値全幅比は、図12A及び図12Bの周波数スペクトルから算出した。波数N0=1の場合、半値全幅比は120%にまで拡がる。波数N0=2の場合は、半値全幅比は60%にまで狭まる。前述した通り、N0=1の場合は、送信波の周波数スペクトルが0~2fmの範囲に拡がる。一方、波数N0を2以上にすると、本開示の効果が大きい。
【0083】
なお、欠陥部Dの情報を含む信号成分は、fm±0.25fmの周波数範囲に現れるので、送信波のスペクトルの基本波帯W1の幅はこれより狭いとさらに好ましい。即ち、基本波帯W1の周波数スペクトルの半値全幅は最大成分周波数fmの50%以下であることが好ましい。これにより、欠陥部Dの検出精度を向上できる。
【0084】
基本波帯W1の半値全幅比(FWHM比)を50%以下にするには、図14からわかるように、波束の波数N0を3以上にすることで達成できる。従って、上記のように、波束の波数N0を3以上にすると、さらに好ましい。
【0085】
基本波帯W1の裾野成分W3を検出することで欠陥検出性が向上するのであるから、フィルタ部240が検出する周波数は、最大成分周波数fmに対して、(fm±0.25fm)の範囲を含む周波数を含むことが好ましい。ここで、「0.25fm」は最大成分周波数fmの0.25倍(即ち25%)を意味する。例として、fm=1MHzの場合は、(1±0.25)MHzの範囲、即ち(0.75~1.25)MHzの範囲を指す。これは半値全幅比を50%以下にすることに対応する。
【0086】
図14からわかるように、波数N0を5にすると、基本波帯W1の半値全幅比は30%以下になる。これに対応して、フィルタ部240が検出する周波数は、最大成分周波数fmに対して、(fm±0.15fm)の範囲を含むとさらに好ましい。
【0087】
(狭帯域のプローブ)
よく知られているように、送信プローブ110には広帯域型のプローブと狭帯域型のプローブとが存在する。一般的には、広帯域型のプローブは基本波帯W1の半値全幅比が70%程度以上であり、狭帯域型のプローブは半値全幅比が50%程度以下である。
【0088】
パルスエコー法では、送信波の周波数帯域を拡げるために、広帯域型のプローブを用いることが多い。
【0089】
一方、狭帯域型のプローブは、狭い周波数範囲に超音波のエネルギが集中するため、特定周波数の周波数成分を検出するのに有利である。
【0090】
前述の通り、本開示では基本波帯W1の半値全幅比を50%以下にすることが好ましい。この点からも、本開示においては、送信プローブ110は、狭帯域のプローブであることが更に好ましい。
【0091】
(フィルタ部240の構成の具体例)
本開示の効果を奏するためのフィルタ部240の周波数特性の代表的な例を以下に示す。フィルタ部240は、帯域遮断フィルタ、低域通過フィルタ、又は、高域通過フィルタの少なくとも1つを含むことが好ましい。これらの少なくとも1つを含むことで、最大成分周波数fmを含む周波数範囲の成分を低減できる。中でも、低域通過フィルタ、又は、高域通過フィルタの少なくとも1つを含むことで、高域又は低域の一方のみが遮断されるため、遮断のためのプログラムを簡便にできる。また、フィルタ部240を電子回路で実装する場合は、遮断のための回路構成を簡便にできる。
【0092】
図15Aは、帯域遮断フィルタでのゲイン(利得)の周波数特性を示す。帯域遮断フィルタは、最大成分周波数fm(最大強度周波数成分)を含む基本波帯W1(図15B)のうち、最大成分周波数fmを含む周波数範囲W2(図15B)の成分を低減する。低減率xは、透過領域でのゲインG0と遮断領域でのゲインG1との比G1/G0である。第1実施形態では、低減率xを-20dB(1/10)~-40dB(1/100)にした。
【0093】
図15Bは、帯域遮断フィルタで処理した後の信号の周波数特性を模式的に示した図である。実線及び点線で示される波形が基本波帯W1である。点線は処理前の信号成分であり、点線の部分に示す周波数範囲W2の成分が帯域遮断フィルタで低減される。この結果、実線で示した、基本波帯W1の裾野成分W3を検出できる。
【0094】
図16Aは、低域通過フィルタでのゲイン(利得)の周波数特性を示す。低域通過フィルタの遮断周波数(カットオフ周波数)を最大成分周波数fmよりも小さな周波数に設定することで、最大成分周波数fmでの信号成分を低減できる。ここで、フィルタの遮断周波数(カットオフ周波数)とは、信号を通過させる通過域と減衰させる減衰域との境界の周波数である。第1実施形態では、遮断周波数を0.78MHzとした。即ち、最大成分周波数fm(0.82MHz)よりも40kHz小さな周波数に設定した。遮断部での低減率は-40dB程度にした。
【0095】
図16Bは、低域通過フィルタで処理した後の信号の周波数特性を模式的に示した図である。点線及び実線の意味は、図15Bと同じである。低域通過フィルタを用いると、裾野成分W3のうち、実線で示すように、最大成分周波数fmよりも小さな周波数成分を検出できる。
【0096】
図17Aは、高域通過フィルタでのゲイン(利得)の周波数特性を示す。高域通過フィルタの遮断周波数(カットオフ周波数)を最大成分周波数fmよりも大きな周波数に設定することで、最大成分周波数fmでの信号成分を低減できる。
【0097】
図17Bは、高域通過フィルタで処理した後の信号の周波数特性を模式的に示した図である。点線及び実線の意味は、図15Bと同じである。高域通過フィルタを用いると、裾野成分W3のうち、実線で示すように、最大成分周波数fmよりも大きな周波数成分を検出できる。
【0098】
(フィルタ部240の実装方法)
フィルタ部240の実装方法の代表的な構成例を以下に述べる。フィルタ部240の実装方法は、アナログ方式及びデジタル方式に大別される。
【0099】
アナログ方式は、アナログ回路により所望の周波数範囲の信号成分を低減するものである。フィルタ部240の周波数特性としては、帯域遮断フィルタ(図15A及び図15B)、低域通過フィルタ(図16A及び図16B)、高域通過フィルタ(図17A及び図17B)が代表的な例である。このような周波数特性を持つアナログ回路の実現方式は種々の既知のものが知られている。
【0100】
図18は、デジタル方式のフィルタ部240を示すブロック図である。フィルタ部240は、周波数成分変換部241と、周波数選択部242と、周波数成分逆変換部243とを備える。周波数成分変換部241は、信号アンプ222から入力される受信プローブ121の受信信号を周波数成分に変換するものである。周波数選択部242は、最大成分周波数fm(最大強度周波数成分)を含む周波数帯の除去により上記裾野成分W3を選択するものである。周波数成分逆変換部243は、必要な周波数成分のみを、時間領域信号に戻すものである。これらのうち、特に、周波数成分変換部241及び周波数選択部242を備えることで、デジタル方式のフィルタ部240を構成できる。
【0101】
このようなデジタル方式のフィルタ部240によっても、最大成分周波数fmを含む周波数範囲の成分を低減できる。周波数成分変換部241で行う処理は、時間領域の信号波形を周波数成分に変換する処理であり、典型的にはフーリエ変換を用いる。周波数成分逆変換部243で行う処理は、周波数成分(周波数スペクトル)から時間領域の信号波形に変換する処理であり、典型的にはフーリエ逆変換を用いる。
【0102】
図19は、別の実施形態に係るフィルタ部240を示すブロック図である。フィルタ部240は、信号処理部250の中に設けられている。フィルタ部240は、周波数成分変換部241及び周波数選択部242を備える。周波数選択部242の出力は、データ処理部201内の信号強度算出部231に入力される。信号強度算出部231は、周波数成分の情報に基づいて信号強度を算出する。
【0103】
上記図11の周波数スペクトルに示したように、基本波帯W1の裾野成分W3が欠陥部Dに敏感に変化する理由は以下のように考えられる。
【0104】
欠陥部Dと相互作用しない直達波U3は、波の伝播方向、位相、周波数等が変化しない。従って、最大成分周波数fmの信号成分は、直達波U3が占める割合が多い。そのため、欠陥部Dと健全部Nとの変化が小さい。
【0105】
上記図5に示したように、欠陥部Dと相互作用する散乱波U1は、伝播方向を変える成分もあり、また、伝播方向は変わらないが位相又は周波数の少なくとも一方が変化する成分もある。また、伝播方向を変える成分の中にも、周波数が変化する成分がある。従って、最大周波数fmからずれた成分である基本波帯W1の裾野成分W3には、欠陥部Dと相互作用した超音波ビームUである散乱波U1の成分が占める割合が増える。このため、欠陥部Dと健全部Nとの変化が大きくなる。このようにして、最大成分周波数fmの成分を低減して、かつ基本波帯W1の裾野成分W3を検出することで、欠陥部Dの検出性能を向上できる。
【0106】
(受信プローブの焦点距離)
受信プローブ121の焦点距離R2は、送信プローブ110の焦点距離R1よりも長いことがさらに好ましい。このようにすると、後述の通り、散乱波U1の成分をより多く検出できるようになるためである。前述の通り、散乱波U1は、欠陥部Dと相互作用した超音波ビームUであるから、散乱波U1の成分の割合が増えるほど、欠陥部Dを検出し易くできる。
【0107】
受信プローブ121の焦点距離を長くすると散乱波の成分を多く検出できる理由を図20A及び図20Bを用いて述べる。
【0108】
図20Aは、送信プローブ110の焦点距離R1と受信プローブ121の焦点距離R2を等しくした場合の超音波ビームUの伝播経路を模式的に示した図である。受信プローブ121は、受信プローブ121から仮想的に放出される仮想ビームのコーン(形状)C2の範囲内の超音波ビームUを検出可能である。図20Aに示す例では、送信プローブ110から送信された超音波ビームUの収束点と、受信プローブ121から仮想的に放出される仮想ビームの収束点が同じである。従って、欠陥部Dにおいて伝播方向が変化しない超音波ビームUを効率的に受信できる。一方、欠陥部Dで伝播方向が変化した超音波ビームUは、検出が困難になる。
【0109】
図20Bは、送信プローブ110の焦点距離R1よりも、受信プローブ121の焦点距離R2を長くした場合の超音波ビームUの伝播経路を模式的に示した図である。受信プローブ121から仮想的に放出される仮想ビームのコーン(形状)C3の範囲内の超音波ビームUを受信プローブ121は検出可能である。そのため、欠陥部Dで伝播方向が少し変化した散乱波U1であっても、コーンC3の範囲に入っていれば検出できる。このように、受信プローブ121の焦点距離R2を送信プローブ110の焦点距離R1よりも長くすることにより、検出可能な散乱波U1を増加できる。前述の通り、散乱波U1は欠陥部Dと相互作用した波であるから、これにより欠陥部Dの検出性能をさらに向上できる。
【0110】
図5においては、比較的大きな角度で散乱した散乱波U1を示したので、受信プローブ120の位置をずらして描いている。一方、微小な角度で散乱した散乱波U1は、受信プローブ121の焦点距離を長くすることで検出可能になる。これにより欠陥部Dの検出性能が向上する。
【0111】
収束性の大小関係は、被検査体Eの表面におけるビーム入射面積T1、T2の大小関係でも定義される。ビーム入射面積T1、T2について説明する。
【0112】
図21は、送信プローブ110におけるビーム入射面積T1及び受信プローブ121におけるビーム入射面積T2の関係を説明する図である。送信プローブ110の被検査体Eでのビーム入射面積T1は、送信プローブ110から放出された超音波ビームUの被検査体E表面での交差面積である。また、受信プローブ121のビーム入射面積T2は、受信プローブ121から超音波ビームUが放出された場合を想定した仮想的な超音波ビームU2と被検査体E表面での交差面積である。
【0113】
なお、図21において、超音波ビームUの経路は、被検査体Eがない場合における経路を示したものである。被検査体Eがある場合は、被検査体E表面で超音波ビームUが屈折するため、超音波ビームUは破線で示した経路とは異なる経路を伝搬する。ここで、図21に示すように、受信プローブ121の被検査体Eでのビーム入射面積T2は、送信プローブ110の被検査体Eでのビーム入射面積T1よりも大きい。このようにすることで、受信プローブ121の収束性を、送信プローブ110の収束性よりも緩くできる。
【0114】
さらに、受信プローブ121の焦点距離R2は、送信プローブ110の焦点距離R1よりも長い。このようにしても、受信プローブ121の収束性を、送信プローブ110の収束性よりも緩くできる。このとき、被検査体Eから送信プローブ110及び受信プローブ121までの距離は例えば何れも同じであるが、同じでなくてもよい。
【0115】
このように、本実施形態では、受信プローブ121の収束性を送信プローブ110の収束性よりも緩くしている。即ち、受信プローブ121の焦点距離R2は、送信プローブ110の焦点距離R1よりも長く設定されている。この結果、受信プローブ121のビーム入射面積T2が広くなるため、広い範囲の散乱波U1を検出できる。これにより、散乱波U1の伝搬経路が多少変化しても、受信プローブ121で散乱波U1を検出可能になる。その結果、広い範囲の欠陥部Dを検出できる。
【0116】
また、受信プローブ121の焦点P1は、送信プローブ110の焦点P2よりも、送信プローブ110の側(図示の例では上方)に存在する。このように焦点P1,P2をずらすことで、受信プローブ121で散乱波U1を受信し易くでき、散乱波U1を検出し易くできる。
【0117】
なお、送信プローブ110の焦点距離R1よりも受信プローブ121の焦点距離R2を長くする構成として、受信プローブ121として、非収束型のプローブ(不図示)が用いられてもよい。即ち、別の実施形態では、受信プローブ121は、非収束型のプローブである。非収束型のプローブでは焦点距離R2が無限大なので、送信プローブ110の焦点距離R1よりも長くなる。即ち、非収束型の受信プローブ121でも、受信プローブ121の収束性は送信プローブ110の収束性よりも緩くなる。
【0118】
(第2実施形態)
図22は、第2実施形態での超音波検査装置Zの構成を示す図である。第2実施形態では、送信プローブ110の送信音軸AX1と受信プローブ121の受信音軸AX2とがずらして配置される。即ち、第2実施形態での受信プローブ121は、送信プローブ110の送信音軸AX1とは異なる位置に配置された受信音軸AX2を有する受信プローブ120(偏心配置受信プローブ)である。従って、送信プローブ110の送信音軸AX1(音軸)と受信プローブ120の受信音軸AX(音軸)との間の偏心距離L(距離)がゼロより大きい。
【0119】
このような配置にすることで、散乱波U1のうち空間的な方向が変わった波を検出できる。フィルタ部240(図6)による周波数的な散乱波U1の抽出原理と、偏心配置による空間的な散乱波U1の抽出原理とを組み合わせることで、欠陥部Dの検出性をさらに向上できる。
【0120】
第2実施形態では、送信プローブ110に対して、図22のx軸方向に偏心距離Lだけ受信プローブ120がずらされて配置されているが、図22のy軸方向にずらされた状態で受信プローブ120が配置されてもよい。又は、x軸方向にL1、y軸方向にL2(即ち、送信プローブ110のxy平面での位置を原点とすると、(L1、L2)の位置)に受信プローブ120が配置されてもよい。
【0121】
図23Aは、送信音軸AX1、受信音軸AX2及び偏心距離Lを説明する図であり、送信音軸AX1及び受信音軸AX2が鉛直方向に延びる場合である。図23Bは、送信音軸AX1、受信音軸AX2及び偏心距離Lを説明する図であり、送信音軸AX1及び受信音軸AX2が傾斜して延びる場合である。図23A及び図23Bには、参考として、破線で受信プローブ140(同軸配置受信プローブ)も図示される。
【0122】
音軸とは、超音波ビームUの中心軸と定義される。ここで、送信音軸AX1は、送信プローブ110が放出する超音波ビームUの伝搬経路の音軸と定義される。言い換えると、送信音軸AX1は、送信プローブ110が放出する超音波ビームUの伝搬経路の中心軸である。送信音軸AX1は、図23Bに示すように、被検査体Eの界面による屈折を含めることとする。つまり、図23Bに示すように、送信プローブ110から放出された超音波ビームUが、被検査体Eの界面で屈折する場合は、その超音波ビームUの伝搬経路の中心(音軸)が送信音軸AX1となる。
【0123】
また、受信音軸AX2は、受信プローブ121が超音波ビームUを放出すると想定した場合の仮想超音波ビームの伝搬経路の音軸と定義される。言い換えると、受信音軸AX2は、受信プローブ121が超音波ビームUを放出すると想定した場合の仮想超音波ビームの中心軸である。
【0124】
具体例として、探触子面が平面状である非収束型のプローブ(不図示)の場合を述べる。この場合、受信音軸AX2の方向は探触子面の法線方向であり、探触子面の中心点を通る軸が受信音軸AX2になる。探触子面が長方形の場合は、その中心点は長方形の対角線の交点と定義する。
【0125】
受信音軸AX2の方向が探触子面の法線方向である理由は、その受信プローブ121から放射する仮想的な超音波ビームUが探触子面の法線方向に出射するからである。超音波ビームUを受信する場合も、探触子面の法線方向で入射する超音波ビームUを感度よく受信できる。
【0126】
偏心距離Lとは、送信音軸AX1と、受信音軸AX2とのずれの距離で定義される。従って、図23Bに示すように、送信プローブ110から放出された超音波ビームUが屈折する場合、偏心距離Lは、屈折している送信音軸AX1と、受信音軸AX2とのずれの距離で定義される。第2実施形態の超音波検査装置Zは、このように定義される偏心距離Lが、ゼロより大きな距離となるよう、偏心距離調整部105(図22)によって送信プローブ110及び受信プローブ120が調整される。
【0127】
図23Aでは、送信プローブ110を被検査体Eの表面における法線方向に配置した場合が示される。図23A及び図23Bにおいて、送信音軸AX1を実線の矢印で示している。また、受信音軸AX2を一点鎖線の矢印で示している。なお、図23A及び図23Bにおいて、破線で示す受信プローブ121の位置が偏心距離Lがゼロの位置であり、送信音軸AX1と受信音軸AX2とが一致する受信プローブ121は同軸配置受信プローブとしての受信プローブ140である。また、実線で示す受信プローブ121はゼロより大きな偏心距離Lの位置に配置されている受信プローブ120(偏心配置受信プローブ)である。送信音軸AX1が水平面(図22のxy平面)に対して垂直になるように送信プローブ110が設置される場合、超音波ビームUの伝搬経路は屈折しない。つまり、送信音軸AX1は屈折しない。これは、送信プローブ110の送信音軸AX1が試料台102の載置面1021に対して垂直になるように、送信プローブ110を設置した場合に対応する。
【0128】
本実施形態では、送信音軸AX1が試料台102の被検査体Eの載置面1021の法線方向になるように送信プローブ110が設置される。前述の通り、このようにすると、板状の被検査体Eにおいては、被検査体Eの表面に垂直に送信音軸AX1が配置されるので、走査位置と欠陥部Dの位置との対応関係がわかり易くなるという効果がある。
【0129】
図23Bでは、送信プローブ110を被検査体Eの表面における法線方向から角度αだけ傾けて配置した場合が示される。図23Bでも図23Aと同様、送信音軸AX1を実線の矢印で示し、受信音軸AX2を一点鎖線の矢印で示している。図23Bに示す例の場合、前記したように、被検査体Eと流体Fとの界面で、超音波ビームUの伝搬経路が屈折角βで屈折する。そのため、送信音軸AX1は、図23Bの実線矢印で示すように折れ曲がる(屈折する)。この場合、破線で示した受信プローブ140の位置は、送信音軸AX1上に位置するため偏心距離Lがゼロの位置である。そして、前記したように、超音波ビームUが屈折する場合であっても、受信プローブ120は、送信音軸AX1と受信音軸AX2との距離がLになるように、配置される。なお、図22に示す例では、送信プローブ110を被検査体Eの表面における法線方向に設置しているので、偏心距離Lは、図23Aに示すようなものとなる。
【0130】
偏心距離Lは、被検査体Eの健全部Nでの受信信号よりも、欠陥部Dでの信号強度の方が大きくなるような位置に設定するとさらに好ましい。
【0131】
(第3実施形態)
図24は、第3実施形態での超音波検査装置Zの構成を示す図である。第3実施形態では、走査計測装置1は、受信プローブ120の傾きを調整する設置角度調整部106を備える。これにより、受信信号の強度を増大でき、信号のSN比(Signal to Noise比、信号雑音比)を大きくできる。設置角度調整部106は、例えば、いずれも図示しないが、アクチュエータ、モータ等により構成される。
【0132】
ここで、送信音軸AX1と受信音軸AX2とが為す角度θを受信プローブ設置角度と定義する。図24の場合、送信プローブ110は鉛直方向に設置されているので送信音軸AX1は鉛直方向であるため、受信プローブ設置角度である角度θは、送信音軸AX1(即ち鉛直方向)と受信プローブ120の探触子面の法線との為す角度である。そして、設置角度調整部106により、角度θを送信音軸AX1が存在する側に傾け、角度θをゼロより大きな値に設定する。即ち、受信プローブ120が傾斜配置される。具体的には、受信プローブ120は、0°<θ<90°を満たすように傾斜配置され、角度θは例えば10°であるがこれに限られない。
【0133】
また、受信プローブ120を傾斜配置する場合の偏心距離Lは以下のように定義される。受信音軸AX2と、受信プローブ120の探触子面との交点P12を定義する。また、送信音軸AX1と、送信プローブ110の探触子面との交点P11を定義する。交点P11の位置をxy平面に投影した座標位置(x4、y4)(図示せず)と、交点P12の位置をxy平面に投影した座標位置(x5、y5)(図示せず)との距離を偏心距離Lと定義する。
【0134】
このように受信プローブ120を傾斜配置して、本発明者が実際に欠陥部Dの検出を行ったところ、受信信号の信号強度がθ=0の場合と比較して3倍に増加した。
【0135】
図25は、第3実施形態による効果が生じる理由を説明する図である。散乱波U1は送信音軸AX1から外れた方向に伝搬する。従って、図25に示すように、散乱波U1は被検査体Eの外側に到達した際、被検査体E表面の法線ベクトルとは非ゼロの角度α2をもって被検査体Eと外部との界面に入射する。そして、被検査体Eの表面から出る散乱波U1の角度は被検査体E表面の法線方向に対して非ゼロの出射角である角度β2を有する。散乱波U1は、受信プローブ120の探触子面の法線ベクトルを散乱波U1の進行方向と一致させたときに、最も効率よく受信できる。つまり、受信プローブ120を傾斜配置することで受信信号強度を増大できる。
【0136】
なお、被検査体Eから出射する超音波ビームUの角度β2と、送信音軸AX1と受信音軸AX2との為す角度θとが一致すると、最も受信効果が高くなる。しかしながら、角度β2と角度θとが完全に一致しない場合であっても、受信信号増大の効果が得られるので、図25に示しているように、角度β2と角度θとが完全に一致しなくてもよい。
【0137】
(第4実施形態)
図26は、第4実施形態での超音波検査装置Zにおける制御装置2の機能ブロック図である。第4実施形態では、フィルタ部240で使用されるフィルタが、被検査体Eの検査前に、欠陥部Dの位置が既知の試料(不図示)に対して超音波ビームUを照射することにより決定される。そして、被検査体Eの検査は、検査前に決定されたフィルタを使用して行われる。
【0138】
フィルタ部240は、検出部244及び決定部245を備える。検出部244は、周波数と信号強度(成分強度)との関係において、基本波帯W1のうちの異なる複数の裾野成分W3を検出するものである。ここでいう関係は、例えば図11に示した関係であり、欠陥部Dの位置が既知の試料(不図示)での健全部N及び欠陥部Dに超音波ビームUを照射することで得られたものである。決定部245は、検出した複数の裾野成分W3同士の比較により、どの裾野成分W3を使用するかを決定するものである。フィルタ部240をこのように構成することで、欠陥部Dに起因する信号変化を識別し易い裾野成分W3を使用でき、欠陥部Dの検出精度を向上できる。
【0139】
検出部244は、例えば、異なる裾野成分W3を検出可能なフィルタを備える。ここでいうフィルタは、例えば、上記の帯域遮断フィルタ(図15A)、低域通過フィルタ(図16A)、高域通過フィルタ(図17A)のうちの少なくとも2つである。例えば、検出部244がこれら3つのフィルタを備える場合、検出部244は、例えば図11に示す関係において、3つのフィルタを用いて、図15Bに示す裾野成分W3、図16Bに示す裾野成分W3、及び、図17Bに示す裾野成分W3を検出する。そして、決定部245は、検出した3つの裾野成分W3同士の比較により、例えば健全部Nと欠陥部Dとの差分が最も大きくなる裾野成分W3の選択等により、どの裾野成分W3を使用するかを決定する。フィルタ部240は、決定した裾野成分W3を使用して、被検査体Eの検査を行うことで、欠陥部Dの検出精度を向上できる。
【0140】
(第5実施形態)
図27は、第5実施形態での超音波検査装置Zにおける制御装置2の機能ブロック図である。第5実施形態では、被検査体Eの検査前、欠陥部Dの位置が既知の試料(不図示)に対して超音波ビームUを照射することにより得られたデータを使用者に提示し、使用者が、どの裾野成分W3を使用するか、即ち、どのフィルタを使用するのかを決定する。
【0141】
制御装置2は、表示部223及び受付部224を備える。表示部223及び受付部224は、図示の例ではデータ処理部201に備えられる。表示部223は、周波数と信号強度(成分強度)との関係を表示装置3に表示させるものである。ここでいう関係は、例えば図11に示す関係であり、欠陥部Dの位置が既知の試料(不図示)での健全部N及び欠陥部Dに超音波ビームUを照射することで得られたものである。受付部224は、周波数と信号強度との関係に基づいて使用者によって入力され、検出すべき裾野成分W3を表す情報を受け付けるものである。入力は、例えばキーボード、マウス、タッチパネル等である入力装置4を通じて行われる。そして、フィルタ部240は、受付部224が受け付けた情報に基づいて、当該情報に対応する裾野成分W3を検出する。
【0142】
制御装置2をこのように構成することで、使用者の主観に基づいて検出すべき裾野成分W3を判断できる。これにより、使用者の経験に基づき判断ができるため、検査実体に即した検査を実行できる。
【0143】
(第6実施形態)
図28は、第6実施形態での超音波検査装置Zにおける制御装置2の機能ブロック図である。第6実施形態では、受信信号を周波数変換部230で周波数成分に変換して記憶し、検査の測定後に、適切な周波数成分を用いて画像化する構成である。これによりフィルタ部240が構成される。
【0144】
制御装置2は、走査計測装置1の駆動を制御するものである。制御装置2は、送信系統210と、受信系統220と、データ処理部201と、スキャンコントローラ204と、駆動部202と、位置計測部203と、信号処理部250とを備える。駆動部202は、例えば、送信プローブ110及び受信プローブ121を駆動させることで、被検査体Eに対する送信プローブ110及び受信プローブ121の相対的な位置を変更するものである。位置計測部203は、走査位置を計測するものである。スキャンコントローラ204は、駆動部202を通じて、送信プローブ110及び受信プローブ121を駆動させる。送信プローブ110及び受信プローブ121による走査位置は、位置計測部203を通じて、スキャンコントローラ204に入力される。
【0145】
受信系統220とデータ処理部201とを合わせて、信号処理部250と呼ぶ。信号処理部250は、受信プローブ121からの信号を増幅処理、周波数選択処理等により、有意な情報を抽出する信号処理を行う。
【0146】
送信系統210は、送信プローブ110への印加電圧を生成する系統である。送信系統210の構成は、第1実施形態と同様である。
【0147】
送信プローブ110へ印加する電圧波形は、上記図9に示す通り、繰り返し波束の波形である。印加する電圧波形は、第1実施形態と同様である。
【0148】
信号処理部250は、データ処理部201と、受信系統220とを備える。受信系統220は、受信プローブ121から出力される受信信号を検出する系統である。受信プローブ121から出力された信号は、信号アンプ222に入力されて増幅される。増幅された信号は、周波数変換部230に入力される。周波数変換部230は、信号処理部250に備えられ、受信プローブ121の受信信号を周波数成分に変換(信号処理)するものであり、本開示の例では、時間領域波形である受信信号を周波数成分に変換する。周波数成分は、夫々の周波数の成分の大きさ(スペクトル)である。周波数成分としては、例えば複素数で表現され実部と虚部との組合せで表す方法、振幅(絶対値)と位相とにより表す方法等が挙げられる。
【0149】
周波数変換部230での変換は、例えばフーリエ変換により実行できる。また、変換は、予め指定した周波数範囲(周波数パラメータ)の周波数成分のみの抽出とともに実行されてもよい。周波数変換部230で周波数成分に変換された信号は、データ処理部201に入力される。なお、周波数変換部230は、データ処理部201の内部に設けられてもよい。即ち、データ処理部の中で周波数成分に変換されてもよい。
【0150】
(周波数成分データの蓄積)
データ処理部201は、記憶部261と、周波数選択部242と、画像化部262と、表示部263とを備える。従って、信号処理部250は、周波数変換部230と、画像化部262と、周波数選択部242と、表示部263とを備える。
【0151】
本開示の例では、周波数変換部230は、時間領域波形を周波数成分データに変換して位置情報と合わせて記憶部261に保存する。そして、画像化部262は、詳細は後記するが、変換された周波数成分のうち、周波数パラメータにより指定された周波数成分の部分を用いて、欠陥位置を示す画像273(後記)を生成する。即ち、画像化部262は、入力された周波数パラメータに基づき、信号特徴量を画像化する。即ち、被検査体Eを1回測定する場合に、周波数成分データへの変換は1回で済み、周波数成分データから信号特徴量の抽出は複数回行われる。
【0152】
この構成は、以下の2つの点で好ましい。
第1は、計算所要時間である。周波数変換部230での周波数成分データへの変換処理には時間がかかる。典型的には、上記のようにフーリエ変換が用いられが、高速なアルゴリズムとして知られる高速フーリエ変換(FFT)を用いても、この変換の処理時間は長い。一方、信号特徴量の算出は、後記する式(1)を用いて行われるが、この計算所要時間は短い。典型例として100行×100列の測定点に対しても、0.2秒以下で処理が終わる。
【0153】
このため、本開示の例によれば、詳細は後記するが、周波数パラメータを「更新」すると、瞬時に更新された画像273(後記)を得ることが可能である。このように、周波数成分データを記憶部261に保存することにより、欠陥検出性を向上させるのに好適な周波数集合を選択するのを短時間で行える。
【0154】
第2に、データ量の低減である。受信プローブ140の信号波形は、1測定位置に対して、時間領域波形では10万点程度あるのに対し、周波数成分データでは、20~100種類の周波数に対する複素数があればよい。即ち、被検査体Eに対するデータ量を1/1000程度に削減できる。このように記憶部261に保存するデータ量を大幅に削減できるという利点もある。
【0155】
データ処理部201は、スキャンコントローラ204から走査位置の情報も受け取る。このようにして、現在の2次元走査位置(x、y)における受信信号の周波数成分に関するデータ(以下、周波数成分データという)が得られる。データ処理部201は、走査位置(x、y)と、その位置での周波数成分データとを対応づけて記憶部261に保存する。なお、周波数成分データから決定される信号特徴量を、走査位置毎に決定することで、欠陥部Dに関する画像273が作成される。
【0156】
周波数成分データは、複数の周波数に対応する周波数成分である。典型的な例では、周波数成分データは、受信信号のフーリエ変換で得られる周波数スペクトルである。上記のように、周波数成分は振幅(絶対値)に加えて位相情報も含むことがより好ましい。これは、周波数成分を複素数として扱うことと同義である。後記のように、位相情報も含めることで、より高性能な信号特徴量を算出できる。
【0157】
図28において、データ処理部201は、画像化部262を備える。画像化部262は、信号処理部250に備えられ、変換された周波数成分のうち、周波数パラメータにより指定された周波数成分の部分を用いて、欠陥部Dの位置(欠陥位置)を示す画像273(後記)を生成する。画像化部262は、具体的には、周波数変換部230により変換された周波数成分に対応する周波数スペクトルのうち、適切な周波数パラメータに対応する部分の周波数スペクトルにおいて、被検査体Eの欠陥部Dに起因する信号の変化(変化量)に基づき、画像273を作成する。このようにすることで、画像273を生成できる。
【0158】
ここでいう信号の変化(受信信号の変化)は、本開示の例では、信号特徴量である。従って、画像化部262は、まず、変換された周波数成分に対応する周波数スペクトルのうち、入力された周波数パラメータの部分から、信号特徴量を算出する。信号特徴量は、上記のように信号の変化を表す例えば値であり、欠陥情報(例えば欠陥部Dの位置)を適切に含むように周波数成分データから算出した値である。信号特徴量の具体的な算出方法の例は後記する。このようにして得られた信号特徴量を走査位置(x、y)に対してプロットすることで、被検査体Eの内部に存在する欠陥部Dの2次元画像(欠陥画像)が生成する。
【0159】
以上の手順を走査位置(x,y)を変えながら行うことで、所望の範囲が走査される。走査完了すると、走査位置(x,y)に対応した周波数成分データ及び信号特徴量がデータ処理部201内の記憶部261に保存される。本開示では、走査位置で信号を取得する毎に信号特徴量が算出される。ただし、測定中、周波数成分データが記憶部261に保存され、測定後に信号特徴量が纏めて算出されることで欠陥画像を生成してもよい。
【0160】
(信号特徴量の算出)
本開示の例で用いた、周波数成分データから信号特徴量の算出方法を述べる。
ここでは数式を見やすくするため、周波数fを角周波数ωで表す。角周波数ωは周波数fに2πを乗じたものである。複素数で表した周波数成分がH(ω)で表される。次式(1)に従ってh(t)が算出される。
【0161】
【数1】
【0162】
【数2】
【0163】
ここで、式(1)においてjは虚数単位であり、式(2)においてRe[ ]は複素数の実部を取り出す処理である。式(1)において、Σ記号の添え字ωは、積算する角周波数成分の周波数集合を示す。式(1)において、積算する角周波数成分は、後記のように、適切に設定された周波数集合{ω}について行う。
【0164】
式(1)において、積算に含める周波数の集合{ω}を周波数パラメータと呼ぶ。周波数パラメータは、周波数集合{ω}の形で指定してもよいし、周波数範囲の形で指定しても良い。また、周波数パラメータは、あらかじめ設定しておいてもよい。また、周波数パラメータは、使用者により入力されてもよい。
【0165】
式(2)で得られるh(t)は、周波数パラメータにより設定された周波数集合から合成した時間領域の信号波形である。このh(t)の最大値と最小値との差(Peak-to-Peak値)を本開示の例では信号特徴量とした。本開示の例においては、最大値と最小値との差(Peak-to-Peak値)をPP値と略記する。
【0166】
式(1)において、H(ω)及びexp(jωt)はいずれも複素数であり、複素数として計算している。即ち、周波数成分H(ω)の位相情報も考慮して信号特徴量を算出している。これにより、欠陥部Dの位置情報が正確に反映した信号特徴量が得られるので、より好ましい。
【0167】
周波数パラメータ、即ち、式(1)において積算に含める周波数の集合{ω}の選択が重要になる。積算に含める周波数の集合{ω}からは、最大成分周波数fmが除かれる。このようにすることで、受信プローブ120の受信信号のうちの少なくとも最大強度周波数成分を低減するフィルタ部240を構成できる。また、積算に含める周波数には、基本波帯W1の裾野成分W3の周波数を含める。これにより、被検査体E内の欠陥部Dの検出性を向上できる。また、最大成分周波数fmの近傍の周波数成分も除くとさらに効果がある。
【0168】
角周波数ωが周波数fは、ω=2πfの関係で換算できるので、適宜換算して解釈することとする。例えば、「周波数の集合{ω}から最大成分周波数fmを除く」と記載した場合は、「ωm=2πfmを除く」ということを意味する。
【0169】
最大成分周波数fmとは、受信信号の基本波帯W1のスペクトルが最大になる周波数であるが、本開示においては概ね最大になる周波数とする。
【0170】
また、式(1)において、積算に含める周波数の集合{ω}に、最大成分周波数fmよりも低い周波数のみを含むようにしてもよい。これにより、低域通過フィルタの特性を有するフィルタ部240を構成できる。同様にして、最大成分周波数fmよりも低い周波数のみを含むようにしてもよい。
【0171】
周波数パラメータを適正に設定することは、周波数選択部242(図28)においてなされる。このようにして、周波数変換部230と周波数選択部242とにより、フィルタ部240が構成される。
【0172】
周波数パラメータは、検査に先立ち予め適正なパラメータを設定しておいてもよいし、測定後に変更してもよい。また、ユーザが設定してもよい。
【0173】
なお、信号特徴量は、欠陥部Dの位置情報を適切に含むように周波数成分データから算出した値であればよく、上記の算出方法に限定されるものではない。上記の例では、時間領域の信号波形h(t)のPP値を信号特徴量としたが、h(t)の絶対値を算出し、h(t)の面積を算出して信号特徴量としてもよい。ここで面積の算出手順は、h(t)を適切な時間間隔でサンプリングして、サンプリング点でのh(t)の総和を算出すればよい。また、h(t)の絶対値の代わりに、h(t)の2乗値を用いてもよい。更に、式(1)及び式(2)を用いる代わりに、周波数成分H(ω)の絶対値を、入力された周波数集合{ω}について合計した値を信号特徴量として用いてもよい。
【0174】
図29は、制御装置2のハードウェア構成を示す図である。前記した各構成、機能、ブロック図を構成する各部等は、それらの一部又はすべてを、例えば集積回路で設計すること等によりハードウェアで実現してもよい。また、図29に示すように、前記した各構成、機能等は、CPU252等のプロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。制御装置2は、例えば、メモリ251、CPU252、記憶装置253(SSD,HDD等)、通信装置254及びI/F255を備える。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、HDDに格納すること以外に、メモリ、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カード、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に格納することができる。
【0175】
図30は、上記各実施形態の超音波検査方法を示すフローチャートである。第1実施形態の超音波検査方法は上記の超音波検査装置Zにより実行でき、一例として適宜、図1及び図6を参照して説明する。第1実施形態の超音波検査方法は、気体G(図1)を介して被検査体E(図1)に超音波ビームUを入射することにより被検査体Eの検査を行うものである。
【0176】
本開示の超音波検査方法は、ステップS101~S105,S111,S112を含む。まず、制御装置2の指令により、送信プローブ110が、送信プローブ110から超音波ビームUを放出するステップS101(放出ステップ)を行う。ステップS101では、送信プローブ110から波数が2以上の波束で構成される繰り返し波束の超音波ビームUが放出される。続いて、受信プローブ121が、超音波ビームUを受信するステップS102(受信ステップ)を行う。
【0177】
その後、フィルタ部240は、受信プローブ121が受信した超音波ビームUの信号(例えば波形信号)を基に、特定の周波数範囲、具体的には、最大成分周波数fmを含む周波数範囲の成分(最大強度周波数成分)を低減するステップS103(フィルタ処理ステップ)を行う。即ち、ステップS103では、ステップS102で受信した超音波ビームUの信号の最大強度周波数成分が低減される。そして、データ処理部201は、フィルタ処理を行った信号から、基本波帯W1の裾野成分W3を検出して信号強度データを生成するステップS104(信号強度算出ステップ)を行う。即ち、ステップS104では、超音波ビームUの信号の基本波帯W1の裾野成分W3が検出される。信号強度データの生成方法として、本実施例ではピーク間信号量(Peak-to-Peak signal)が使用される。これは信号のうち最大値と最小値との差である。
【0178】
この次に、ステップS105(形状表示ステップ)が行われる。送信プローブ110及び受信プローブ121の走査位置情報は、位置計測部203からスキャンコントローラ204に送信される。データ処理部201は、スキャンコントローラ204から取得した送信プローブ110の走査位置情報に対して、それぞれの走査位置での信号強度データをプロットする。このようにして、信号強度データが画像化される。これがステップS105である。
【0179】
なお、図8Bは走査位置情報が1次元(1方向)の場合であり、走査位置情報がx、yの2次元の場合については、信号強度データをプロットすることで、欠陥部Dが2次元画像として示され、それが表示装置3に表示される。
【0180】
データ処理部201は、走査が完了したか否かを判定する(ステップS111)。走査が完了している場合(Yes)、制御装置2は処理を終了する。走査が完了していない場合(No)、データ処理部201は駆動部202に指令を出力することによって、次の走査位置まで送信プローブ110及び受信プローブ121を移動させ(ステップS112)、ステップS101へ処理を戻す。
【0181】
(第7実施形態)
図31は、第7実施形態の超音波検査装置Zの構成を示す図である。図31では、走査計測装置1は、断面模式図で示している。図31には、紙面左右方向としてのx軸、紙面直交方向としてのy軸、紙面上下方向としてのz軸を含む直交3軸の座標系が示される。
【0182】
超音波検査装置Zは、流体Fを介して被検査体Eに超音波ビームU(後記する)を入射することにより被検査体Eの検査を行うものである。流体Fは、空気等の気体Gであり、被検査体Eは流体F中に存在する。第7実施形態では、流体Fとして空気(気体Gの一例)が使用される。従って、走査計測装置1の筐体101の内部は空気で満たされた空洞となっている。図31に示すように、超音波検査装置Zは、走査計測装置1と、制御装置2と、表示装置3とを備える。表示装置3は制御装置2に接続される。
【0183】
走査計測装置1は、被検査体Eへの超音波ビームUの走査及び計測を行うものであり、筐体101に固定された試料台102を備え、試料台102には被検査体Eが載置される。被検査体Eは、動かないように固定具(不図示)で試料台102に固定されるとなお好ましい。被検査体Eが充分に重く不用意に動かない場合等は、固定具が無くてもよい。被検査体Eは、任意の材料で構成されている。被検査体Eは例えば固体材料であり、より具体的には例えば金属、ガラス、樹脂材料、あるいはCFRP(炭素繊維強化プラスチック、Carbon-Fiber Reinforced Plastics)等の複合材料等である。また、図31の例において、被検査体Eは内部に欠陥部Dを有している。欠陥部D(欠陥)は、空洞等である。欠陥部Dの例は、空洞、本来あるべき材料と異なる異物材等である。被検査体Eにおいて、欠陥部D以外の部分を健全部Nと称する。
【0184】
欠陥部Dと健全部Nとは、構成する材料が異なるため、両者の間では音響インピーダンスが異なり、超音波ビームUの伝搬特性が変化する。超音波検査装置Zは、この変化を観測して、欠陥部Dを検出する。
【0185】
走査計測装置1は、超音波ビームUを放出する送信プローブ110と、超音波ビームUを受信する受信プローブ121とを有する。送信プローブ110は、送信プローブ走査部103を介して筐体101に設置され、超音波ビームUを放出する。受信プローブ121は、被検査体Eに関して送信プローブ110の反対側に設置されて超音波ビームUを受信し、送信プローブ110と同軸に配置された(後記する偏心距離Lがゼロ)、受信プローブ140(同軸配置受信プローブ)である。従って、本開示では、送信プローブ110の送信音軸AX1(音軸)と受信プローブ140の受信音軸AX2(音軸)との間の偏心距離L(距離。後記する)がゼロである。これにより、送信プローブ110及び受信プローブ140を容易に設置できる。
【0186】
ここで、「送信プローブ110の反対側」とは、被検査体Eにより区切られる2つの空間のうち、送信プローブ110が位置する空間と反対側(z軸方向において反対側)の空間という意味であり、x、y座標が同一の反対側(つまり、xy平面に関して面対称の位置)に限定される意味ではない。
【0187】
本開示の例では、送信プローブ110の送信音軸AX1が、試料台102の載置面1021に対して垂直になるように、送信プローブ110が設置される。即ち、送信音軸AX1が試料台102の被検査体Eの載置面1021の法線方向になるように送信プローブ110が設置される。このようにすると、板状の被検査体Eにおいては、被検査体Eの表面に垂直に送信音軸AX1が配置されるので、走査位置と欠陥部Dの位置との対応関係がわかり易くなるという効果がある。
【0188】
走査計測装置1には、制御装置2が接続されている。制御装置2は、走査計測装置1の駆動を制御するものであり、送信プローブ走査部103及び受信プローブ走査部104に指示することで、送信プローブ110及び受信プローブ121の移動(走査)を制御する。送信プローブ走査部103及び受信プローブ走査部104が同期して、x軸及びy軸方向に移動することにより、送信プローブ110及び受信プローブ121は被検査体Eをx軸及びy軸方向に走査する。更に、制御装置2は、送信プローブ110から超音波ビームUを放出し、受信プローブ121から取得した信号に基づいて波形解析を行う。なお、送信プローブ110の走査方向であるx軸及びy軸方向の2つの軸が作る平面を走査面と呼ぶことにする。
【0189】
送信プローブ110と被検査体Eとの間、及び受信プローブ121と被検査体Eとの間には、図示の例では気体Gが介在する。このため、送信プローブ110及び受信プローブ121を被検査体Eに非接触で検査できるため、xy面内方向の相対位置をスムーズかつ高速に変えることが可能である。即ち、送信プローブ110及び受信プローブ121と被検査体Eとの間に流体F(気体G)を介在させることにより、スムーズな走査が可能になる。
【0190】
送信プローブ110から局所的な超音波ビームUを発すると、発された超音波ビームUは、被検査体Eに局所的に照射する。局所的な超音波ビームUを照射する位置は走査して変える。前述の通り、被検査体Eの欠陥部Dと健全部Nとで受信プローブ121に到達する超音波ビームUが変化するので、この構成により欠陥部Dを検出することができる。
【0191】
局所的な超音波ビームUを生成するために、本実施形態では収束型の送信プローブ110を用いた。
【0192】
送信プローブ110は、収束型の送信プローブ110である。一方で、受信プローブ121は、収束性が送信プローブ110よりも緩いプローブを用いる。本開示では、受信プローブ121には探触子面が平面である非収束型のプローブが使用される。従って、受信プローブ121は非収束型の受信プローブである。このような、非収束型の受信プローブ121を用いることで、幅広い範囲について欠陥部Dの情報を収集することができる。
【0193】
第1実施形態において図5に即して述べた通り、本開示では、受信信号で検出する周波数の違いに着目することで、散乱波U1が効率的に検出される。この詳細は、図5に即して述べた通りである。
【0194】
図32は、制御装置2の機能ブロック図である。制御装置2は、走査計測装置1の駆動を制御するものである。制御装置2は、送信系統210と、受信系統220と、データ処理部201と、スキャンコントローラ204と、駆動部202と、位置計測部203と、信号処理部250とを備える。駆動部202は、例えば、送信プローブ110及び受信プローブ121を駆動させることで、被検査体Eに対する送信プローブ110及び受信プローブ121の相対的な位置を変更するものである。位置計測部203は、走査位置を計測するものである。スキャンコントローラ204は、駆動部202を通じて、送信プローブ110及び受信プローブ121を駆動させる。送信プローブ110及び受信プローブ121による走査位置は、位置計測部203を通じて、スキャンコントローラ204に入力される。
【0195】
受信系統220とデータ処理部201とを合わせて、信号処理部250と呼ぶ。信号処理部250は、受信プローブ121からの信号を増幅処理、フィルタ処理等により、有意な情報を抽出する信号処理を行う。
【0196】
(送信プローブの固有周波数fresと励起周波数fex)
送信系統210は、送信プローブ110への印加電圧を生成する系統である。送信系統210は、波形発生器211、信号アンプ212及び送信周波数設定部213を備える。波形発生器211でバースト波信号が発生する。そして、発生したバースト波信号は信号アンプ212で増幅される。信号アンプ212から出力された電圧は送信プローブ110に印加される。
【0197】
バースト波信号の波形は後述するが、概略を述べると、当該波形は、基本周波数f0で波数Nの波束を繰り返えす、繰り返し波束の波形である。送信系統210は、送信周波数設定部213を備える。送信周波数設定部213により、基本周波数f0を変更することができる。本開示は、基本周波数f0の選定方法を特徴の1つとするので、変更後の基本周波数f0を、送信プローブ110を励起する周波数という意味から励起周波数fex(excitation frequency)と呼ぶ。
【0198】
後述するように、励起周波数fexを適正な値に設定することにより、本実施形態の超音波検査装置Zの性能を高めることができる。
【0199】
一般に、送信プローブ110は、プローブ毎に定まる特定の周波数で動作させると、発生する超音波の振幅強度(音圧)が最大になる。この最大になる周波数をその送信プローブ110の固有周波数fres(resonance frequency)と呼ぶことにする。固有周波数で音圧が最大になる理由は、固有周波数fresにおいて、内蔵する圧電素子の振動が共振するためである。このため、通常は励起周波数を固有周波数に等しく設定して、送信プローブ100が利用される。
【0200】
本実施形態では、励起周波数fexが、送信プローブ110の固有周波数fresからずらした周波数に設定される。従って、走査計測装置1は、送信プローブ110の固有周波数fres(共振周波数と同義)からずらした励起周波数fexで送信プローブ110を駆動する。
【0201】
信号処理部250は、データ処理部201と、受信系統220とを備える。受信系統220は、受信プローブ121から出力される受信信号を検出する系統である。受信系統220は、信号アンプ222と、フィルタ部240とを備える。従って、信号処理部250はフィルタ部240を備える。受信プローブ121から出力された信号は、信号アンプ222に入力されて増幅される。増幅された信号は、フィルタ部240(遮断フィルタ)に入力される。フィルタ部240は、入力信号の特定の周波数範囲の成分を低減する(遮断する)。フィルタ部240については後述する。フィルタ部240からの出力信号は、データ処理部201に入力される。
【0202】
データ処理201の構成は、第1実施形態で用いた構成と同様である。また、フィルタ部240の構成も、第1実施形態で用いた構成と同様である。
【0203】
データ処理部201では、フィルタ部240から入力された信号から、信号強度データを生成する。信号強度データの生成方法として、本実施形態ではピーク間信号量(Peak-to-Peak signal)を用いた。ピーク間信号量は信号のうち最大値と最小値との差である。信号強度データの生成方法には、この他、フーリエ変換をして特定周波数範囲の周波数成分の強度を用いてもよい。
【0204】
データ処理部201は、スキャンコントローラ204から走査位置の情報も受け取る。このようにして、現在の2次元走査位置(x,y)における信号強度データの値が得られる。信号強度データの値(ピーク間信号量)を走査位置に対してプロットすると、欠陥部Dの位置又は形状の少なくとも一方に対応した画像(欠陥画像)が得られる。この欠陥画像は表示装置3に出力される。
【0205】
(フィルタ部240)
本実施形態で用いるフィルタ部240の構成は、第1実施形態でのフィルタ部240と同様であり、前述した通りである。フィルタ部240の定義も前述の通りである。
【0206】
本開示においてフィルタ部240は、所定の周波数範囲の信号成分の強度を低減させる信号処理を行う制御部と定義される。また、フィルタ処理は、所定の周波数範囲の信号成分の強度を低減させる信号処理と定義される。受信信号をフーリエ変換等で周波数成分毎の成分強度に分解した際、成分強度が最大になる周波数を最大成分周波数と呼ぶ。最大強度周波数成分は最大成分周波数における周波数成分である。本開示のフィルタ部240は、最大強度周波数成分を含む基本波帯、即ち、最大成分周波数を含む周波数範囲の信号成分の強度を低減する。なお、周波数成分毎の成分強度の分布を周波数スペクトルと呼ぶ。
【0207】
第7実施形態では、フィルタ部240は、最大成分周波数fmを含む遮断周波数範囲の成分強度を低減する。即ち、フィルタ部240は、受信プローブ121の受信信号のうちの少なくとも最大強度周波数成分(最大成分周波数fmに対応する成分)を低減する。そして、フィルタ部240は、最大強度周波数成分を含む基本波帯W1のうちの最大強度周波数成分以外の裾野成分W3を検出する。フィルタ部240により、遮断周波数範囲の成分強度が低減するので、フィルタ部240を通過した後の信号では、基本波帯W1のうち裾野成分W3が占める割合が増加する。このようにすることで、後記のように、欠陥部Dの検出性能を向上できる。
【0208】
図33Aは、欠陥部Dにまたがるように送信プローブ110及び受信プローブ121を走査したときの信号強度情報の位置による変化を示したものである。図33Aでは、上記図32の構成からフィルタ部240を除いた構成で測定した結果である。送信プローブ110の励起周波数fexは、送信プローブ110の固有周波数fres=0.82MHzと等しく設定している。健全部Nでの信号強度はv0である。一方で、欠陥部Dに対応する位置(x=0)で、信号強度がΔvだけ低下しており、欠陥部Dを検出できている。しかし、信号強度の変化率(Δv/v0)は小さい。ここで信号強度の変化率は、欠陥部Dでの信号変化量Δvを健全部Nでの信号強度v0で割った値と定義される。
【0209】
図33Bは、送信プローブ110の励起周波数fexを0.78MHzに設定するとともに、フィルタ部240を備えた制御装置2(図32)により、信号強度情報を測定した結果である。欠陥部Dの場所での信号強度の変化率(Δv/v0)が大きくなり、欠陥部Dの検出性が改善したことがわかる。
【0210】
図33A及び図33Bの実験結果を取得した実験条件を説明する。
【0211】
上記の図9は、上記のように、送信プローブ110に印加するバースト波の電圧波形である。横軸は時間、縦軸は電圧である。本実施形態では、図9の波形で、基本周波数f0が0.78MHzの正弦波が10波印加される。この10波を波束と呼ぶ。なお、基本周波数f0の逆数を基本周期T0と呼ぶ。基本周期T0は、同図に示した通り、1波束を構成する波の周期である。波束は繰り返し周期Tr=5msで印加される。従って、送信プローブ110は、波数が2以上の波束で構成される繰り返し波束の電圧波形を印加されて超音波ビームUを放出する。
【0212】
なお、本実施形態では各々の波束は基本周波数f0の正弦波を用いたが,正弦波以外でも良い。例えば、波束は、波数N0の矩形波で構成された波束であってもよい。
【0213】
図34は、上記図9に示す波形で、基本周波数f0が0.78MHzの正弦波を波数10波を印加した時の、受信信号の周波数成分分布を示したものである。同図は、横軸が周波数で、縦軸がそれぞれの周波数での成分強度の実測データをプロットしている。これは、フィルタ部240で処理していない信号の周波数成分分布である。成分強度が最大になる0.82MHzが最大成分周波数fm(図7)である。基本波帯W1(図7)は、0.72MHzから0.86MHzに拡がっており、このうち最大成分周波数fmを除いた成分が裾野成分W3(図7)である。本実施形態では、最大成分周波数fmは、送信プローブ110が送信する超音波の基本周波数f0(図9)と等しくなっている。このように、多くの場合、最大成分周波数fmは送信する超音波の基本周波数f0に概ね等しくなる。
【0214】
フィルタ部240(図32)は、上記のように、最大成分周波数fmを除く。具体的には、図示の例では、フィルタ部240(図32)は0.78MHz以下の裾野成分W3を透過させ、0.82MHzを含む、0.78MHzを超える波を遮断した。このようなフィルタ部240を用いると、上記図8Bのように、欠陥部Dでの信号強度の変化率が増大し、欠陥の検出性が大幅に改善することがわかる。
【0215】
図35は、受信信号の周波数成分分布(周波数スペクトル)の実測データを、健全部N(実線)と欠陥部D(破線)とで比較した図である。フィルタ部240により欠陥部Dの検出性が改善するメカニズムは以下の通りである。最大成分周波数fm=0.82MHzでは、健全部Nと欠陥部Dとで成分強度(信号の大きさ)の違いは小さい。一方、最大成分周波数fm以外である裾野成分W3、特に低域帯については、健全部Nと欠陥部Dとの差が大きくなっている。
【0216】
このように、本開示は受信信号の周波数成分分布において、最大成分周波数fmでの信号成分よりも、基本波帯W1の裾野成分W3の方が欠陥部Dでの信号変化率が大きいという、発明者らが見出した新しい知見に基づくものである。最大成分周波数fmの成分は、受信信号の中で大きな割合を占めるが、欠陥部Dでの信号変化率が小さいので、この成分を低減することで、その結果、裾野成分W3が占める割合が増大する。このようにすることで、フィルタ部240で処理後の信号は、欠陥部Dでの信号変化率が増大するために、欠陥部Dの検出性を改善できる。そして、図33A及び図33Bに示した実測データを比較しても、フィルタ部240による欠陥部Dの検出性が改善する効果は明らかである。
【0217】
本開示の効果を奏するためのフィルタ部240の周波数特性の代表的な例を以下に示す。フィルタ部240は、帯域遮断フィルタ、低域通過フィルタ、又は、高域通過フィルタの少なくとも1つを含むことが好ましい。これらの少なくとも1つを含むことで、最大成分周波数fmを含む周波数範囲の成分を低減できる。フィルタ部240の代表的な構成は、第1実施形態で述べたものと同様である。
【0218】
(フィルタ部240の実装方法)
第1実施形態で述べたように、フィルタ部240の実装方法は、アナログ方式及びデジタル方式に大別される。本実施形態においては、アナログ方式、デジタル方式のいずれを用いても効果が奏される。アナログ方式、デジタル方式の具体的な構成については、第1実施形態において述べた。
【0219】
基本波帯W1の裾野成分W3が欠陥部Dに敏感に変化する理由は以下のように考えられる。
【0220】
欠陥部Dと相互作用しない直達波U3は、波の伝播方向、位相、周波数等が変化しない。従って、最大成分周波数fmの信号成分は、直達波U3が占める割合が多い。そのため、欠陥部Dと健全部Nとの変化が小さい。
【0221】
上記図5に示したように、欠陥部Dと相互作用する散乱波U1は、伝播方向を変える成分もあり、また、伝播方向は変わらないが位相又は周波数の少なくとも一方が変化する成分もある。また、伝播方向を変える成分の中にも、周波数が変化する成分がある。従って、最大周波数fmからずれた成分である基本波帯W1の裾野成分W3には、欠陥部Dと相互作用した超音波ビームUである散乱波U1の成分が占める割合が増える。このため、欠陥部Dと健全部Nとの変化が大きくなる。このようにして、最大成分周波数fmの成分を低減して、かつ基本波帯W1の裾野成分W3を検出することで、欠陥部Dの検出性能を向上できる。
【0222】
(基本周波数の裾野成分)
前述の通り、本開示では基本波帯W1の裾野成分W3を検出することで欠陥部Dの検出性能を向上するものである。そのため、基本波帯W1の裾野成分W3を増やすことがさらに検出性能の向上に寄与する。そこで、発明者らは、基本波帯W1の裾野成分W3を増やすための、送信する超音波波形の関係を鋭意検討した。
【0223】
基本波帯W1の裾野成分W3の量を増やす効果があるものは、繰り返し波束を構成する個々の波束の波数、及び、励起周波数の選択の2つである。
【0224】
(波束の波数)
始めに、繰り返し波束を構成する波束の波数と裾野成分との関係を示す。波束の波数とは、上記図9に示す通り、1つの波束に含まれる基本周波数f0の波の個数である。
【0225】
図36Aは、波束の波数N0と、その超音波の基本波帯W1の周波数スペクトルである。ここでは基本周波数f0=0.82MHzの超音波を例とした。波数N0=10(破線)、N0=20(実線)の種類の波束について、それぞれの周波数スペクトルを示した。一点鎖線で示したスペクトルは連続波の場合である。連続波の場合は、基本周波数f0の成分のみを有し、裾野成分W3は殆ど存在しない。これに対して、N0=20、10でのスペクトルからわかるように、波数N0が少なくするほど、基本波帯W1の幅が拡がり裾野成分W3が増加する。
【0226】
図36Bは、図36Aに示したスペクトルの基本波帯の半値全幅(FWHM)が波束の波数N0に対してどのように変化するかを示した図である。
【0227】
本開示によれば、基本波帯W1の裾野成分W3では、欠陥部Dによる変化が大きいのであるから、本開示に用いる超音波は、連続波ではなく、繰り返し波束で構成される超音波が好ましいことがわかる。さらに、図36Bに示す通り、各々の波束の波数N0は少ないほど基本波帯W1の裾野成分W3が増えるので、波数N0は少ないほど好ましい。図36Bに示すように、N0≦30では半値全幅は30kHz(0.03MHz)以上に拡がるので、波束の波数N0は30以下であることが好ましい。
【0228】
なお、基本波帯の半値全幅(FWHM)は広すぎても好ましくなく、最大成分周波数fmの50%以下が好ましい。基本波帯W1の半値全幅を、最大成分周波数fmの50%以下にするために、波束の波数N0は2つ以上が好ましく、また、N0が3以上だとさらに好ましい。これらの理由は、第1実施例において述べた通りである。
【0229】
従って、波束の波数N0は、2つ以上、かつ30以下が好ましい。
【0230】
なお、欠陥部Dの情報を含む信号成分は、fm±0.25fmの周波数範囲に現れるので、送信波のスペクトルの基本波帯W1の幅はこれより狭いとさらに好ましい。即ち、基本波帯W1の周波数スペクトルの半値全幅は最大成分周波数fmの50%以下であることが好ましい。これにより、欠陥部Dの検出精度を向上できる。
【0231】
基本波帯W1の半値全幅を最大成分周波数fmの50%以下にするには、上記図14からわかるように、波束の波数N0を3以上にすることで達成できる。従って、上記のように、波束の波数N0を3以上にすると、さらに好ましい。
【0232】
基本波帯W1の裾野成分W3を検出することで欠陥検出性が向上するのであるから、フィルタ部240が検出する周波数は、最大成分周波数fmに対して、(fm±0.25fm)の範囲を含む周波数成分を検出することが好ましい。ここで、「0.25fm」は最大成分周波数fmの0.25倍(即ち25%)を意味する。例として、fm=1MHzの場合は、(1±0.25)MHzの範囲、即ち(0.75~1.25)MHzの範囲を指す。これは半値全幅比を50%以下にすることに対応する。
【0233】
上記図14からわかるように、波数N0を5以上にすると、基本波帯W1の半値全幅比は30%以下になる。これに対応して、フィルタ部240は、最大成分周波数fmに対して、(fm±0.15fm)の範囲を含む周波数成分を検出すると更に好ましい。
【0234】
(励起周波数)
次に、励起周波数fexと裾野成分W3との関係を示す。励起周波数fexは波束の基本周波数f0に対応する周波数であり、送信プローブ110に印加される周波数である。励起周波数fexは、基本波帯W1の周波数範囲に設定される。
【0235】
一般に送信プローブ110は固有周波数fres(resonance frequency)を持つ。送信プローブ110の固有周波数fresは、送信プローブ110を構成する圧電素子が最も振動し易い周波数である。固有周波数fresの電圧を印加すると、放出される超音波の強度(音響エネルギ)が最大になるので、通常は、励起周波数fexは送信プローブ110の固有周波数fresに等しくなるようにされる。なお、本開示において、固有周波数fresは、共振周波数fresと同義である。
【0236】
図37は、励起周波数fexを変えて、受信信号の周波数スペクトルを測定した結果である。この送信プローブ110の固有周波数fresは0.82MHzである。図37の破線は、固有周波数fresと等しく励起周波数fexを設定した時の周波数スペクトルである。前述の通り、これが通常の使用方法である。この測定では繰り返し波束を用いており、各波束の波数N0は10個である。このため、基本波帯W1はある程度の拡がりを持ち、裾野成分W3を有する。点線で示す周波数スペクトルは、固有周波数fresを中心として概ね対称なスペクトル形状である。
【0237】
これに対して、図37の実線は、励起周波数fexを固有周波数fresよりも40kHz小さい0.78MHzに設定した時の周波数スペクトルである。ここで、励起周波数fexの設定値(0.78MHz)は、基本波帯W1の周波数範囲内であり、かつ固有周波数fresからずらした値にしている。破線のスペクトルと比べて実線のスペクトルでは、基本波帯W1の裾野成分W3の量(成分強度)が増えていることがわかる。
【0238】
このように、励起周波数fexを、基本波帯W1の周波数範囲内であり、かつ固有周波数fresからずらした値に設定することにより、基本波帯W1の裾野成分W3の量が増加し、欠陥部Dの検出性能が向上する。従って、励起周波数fexは、基本波帯W1の周波数範囲に設定されることが好ましい。
【0239】
前述の通り、基本波帯W1の半値全幅は最大成分周波数fmの50%以下にすることが好ましい。従って、励起周波数fexは(fres±0.25fm)の範囲に設定することが好ましい。ここで、fresは送信プローブ110の固有周波数である。即ち、励起周波数fexと固有周波数fres(共振周波数)との差の絶対値|fex-fres|は最大成分周波数fmの25%以下にすることが好ましい。なお、本開示において、固有周波数fresは、共振周波数fresと同義である。
【0240】
また、送信プローブ110は固有振動数fresで駆動すると、最も強い超音ビームU波が放出されることが知られている。励起周波数fexの固有周波数fresからのずれが大きいほど超音波ビームUの放出効率が低下する。このため、励起周波数fexと固有周波数fres(共振周波数)との差の絶対値|fex-fres|は最大成分周波数fmの15%以下にすると更に好ましい。
【0241】
(瞬時周波数)
励起周波数fexを送信プローブ110の固有周波数fresからずらすことにより基本波帯W1の裾野成分W3を増えることを述べた。このように裾野成分W3が増加するメカニズムを述べる。
【0242】
図38は、1つの波束の時間領域において、瞬時周波数の変化を示す図である。ここでは、固有周波数fres=0.82MHzの圧電素子を励起周波数fexで駆動した時の振幅波形を振動体モデルで計算した。瞬時周波数は、振幅波形のゼロクロス点から求めた。ゼロクロス点とは、信号がゼロ点を横切る時間を表し、ゼロクロス点の間隔からが周期が分かるので、瞬時周波数が算出できる。図38の計算では、波束の波数N0を10個とした。破線は、励起周波数fexを固有周波数fresに等しい0.82MHzに設定した場合の結果であり、実線は励起周波数fexを0.74MHzに設定した場合の結果である。
【0243】
図38の破線を見ると、励起周波数fexを固有周波数fresに等しくすると、瞬時周波数は固有周波数fresである0.82MHzで一定になる。これが従来の設定条件に対応する。これに対して、実線を見ると、励起周波数fexを0.74MHzにした場合は、瞬時周波数が時間とともに変化する。即ち、横軸に示す時刻t=0で励起周波数fexを印加すると、固有周波数fresに近い周波数で振動を開始し、その後だんだんと励起周波数fexに近づいていく。そして、N0=10個を過ぎて励起電圧の印加が終了すると、縦軸に示す瞬時周波数は固有周波数fres=0.82MHzに戻る。
【0244】
このように、励起周波数fexから固有周波数fresの間の広い範囲の超音波が発生するため、受信信号には基本波帯W1の裾野成分W3の量が増えるわけである。
【0245】
(送信プローブ110の固有周波数の範囲)
本開示に用いる送信プローブ110の固有周波数fresの好ましい範囲を述べる。
【0246】
本開示では局所的な超音波ビームUを被検査体Eに照射して、その位置にある欠陥部Dが検知される。従って、局所的な超音波ビームUのビーム径は小さいほど好ましい。そのため、送信プローブ110には収束型プローブを用いることが好ましい。
【0247】
超音波は波動であるから、音響レンズ等を用いて収束させても波長の程度以下に収束させることは難しいことが知られている。これは、波動の回折の効果が現れるためである。
【0248】
周波数f0の超音波は、音速cの媒質中での波長λは、λ=c/f0で表される。被検査体Eとしてアクリルを例にとると、音速cは2730(m/s)であるから、周波数f0=50KHzでは超音波の波長λ=54mmになる。即ち、周波数f0=50kHzの超音波は収束型プローブを用いても50mm程度までしか収束できず、充分に収束させることが困難である。
【0249】
周波数f0=200kHzの場合は、波長λ=14mmとなるので、収束した超音波ビームUを実現できる。このため、送信プローブ110の固有周波数fresは200kHz以上にすることが好ましい。本実施形態では、送信プローブ110の固有周波数は0.82MHz(820kHz)にしている。
【0250】
なお、本開示では散乱波U1を検出するため、上記図5に示した通り、ビーム径よりも小さな欠陥部Dを検出することができる。
【0251】
なお、本実施形態では各々の波束は基本周波数f0の正弦波を用いたが、正弦波以外でも良い。例えば、波数N0の矩形波で構成された波束であってもよい。
【0252】
また、励起周波数fexが1つの波束の中で複数の励起周波数を持つ波であってもよい。このような波としては、周波数が時間とともに変化するチャープ波が知られている。複数の励起周波数を持つ波を用いる場合も、各励起周波数が基本波帯W1の周波数範囲に設定されることが好ましい。
【0253】
(第8実施形態)
図39は、第8実施形態での超音波検査装置Zにおける制御装置2の機能ブロック図である。第8実施形態では、フィルタ部240で使用されるフィルタが、被検査体Eの検査前に、欠陥部Dの位置が既知の試料(不図示)に対して超音波ビームUを照射することにより決定される。そして、被検査体Eの検査は、検査前に決定されたフィルタを使用して行われる。
【0254】
送信系統210は、送信プローブ110への印加電圧を生成する系統である。送信系統210は、波形発生器211、信号アンプ212及び送信周波数設定部213を備える。波形発生器211でバースト波信号が発生する。そして、発生したバースト波信号は信号アンプ212で増幅される。信号アンプ212から出力された電圧は送信プローブ110に印加される。
【0255】
本実施形態では、第7実施形態と同様に、バースト波により送信プローブ110を駆動する。送信系統210は、送信周波数設定部213を備える。送信周波数設定部213により、バースト波の基本周波数f0を変更することができ、基本周波数f0を適切な励起周波数fexに設定できる。
【0256】
第7実施形態と同様に、本実施形態では、励起周波数fexが、送信プローブ110の固有周波数fresからずらした周波数に設定される。従って、走査計測装置1は、送信プローブ110の固有周波数fres(共振周波数と同義)からずらした励起周波数fexで送信プローブ110を駆動する。励起周波数fexを適正な値に設定することにより、本実施形態の超音波検査装置Zの性能を高めることができる。
【0257】
フィルタ部240は、検出部244及び決定部245を備える。検出部244は、周波数と信号強度(成分強度)との関係において、基本波帯W1のうちの異なる複数の裾野成分W3を検出するものである。ここでいう関係は、例えば上記図35に示した関係であり、欠陥部Dの位置が既知の試料(不図示)での健全部N及び欠陥部Dに超音波ビームUを照射することで得られたものである。決定部245は、検出した複数の裾野成分W3同士の比較により、どの裾野成分W3を使用するかを決定するものである。フィルタ部240をこのように構成することで、欠陥部Dに起因する信号変化を識別し易い裾野成分W3を使用でき、欠陥部Dの検出精度を向上できる。
【0258】
検出部244は、例えば、異なる裾野成分W3を検出可能なフィルタを備える。ここでいうフィルタは、例えば、上記の帯域遮断フィルタ(図15A)、低域通過フィルタ(図16A)、高域通過フィルタ(図17A)のうちの少なくとも2つである。例えば、検出部244がこれら3つのフィルタを備える場合、検出部244は、例えば上記図35に示す関係において、3つのフィルタを用いて、図15Bに示す裾野成分W3、図16Bに示す裾野成分W3、及び、図17Bに示す裾野成分W3を検出する。そして、決定部245は、検出した3つの裾野成分W3同士の比較により、例えば健全部Nと欠陥部Dとの差分が最も大きくなる裾野成分W3の選択等により、どの裾野成分W3を使用するかを決定する。フィルタ部240は、決定した裾野成分W3を使用して、被検査体Eの検査を行うことで、欠陥部Dの検出精度を向上できる。
【0259】
(第9実施形態)
図40は、第9実施形態での超音波検査装置Zにおける制御装置2の機能ブロック図である。第9実施形態では、被検査体Eの検査前、欠陥部Dの位置が既知の試料(不図示)に対して超音波ビームUを照射することにより得られたデータを使用者に提示し、使用者が、どの裾野成分W3を使用するか、即ち、どのフィルタを使用するのかが決定される。
【0260】
送信系統210は、送信プローブ110への印加電圧を生成する系統である。送信系統210は、波形発生器211、信号アンプ212及び送信周波数設定部213を備える。波形発生器211でバースト波信号が発生する。そして、発生したバースト波信号は信号アンプ212で増幅される。信号アンプ212から出力された電圧は送信プローブ110に印加される。
【0261】
本実施形態では、上記第7実施形態と同様に、バースト波により送信プローブ110を駆動する。送信系統210は、送信周波数設定部213を備える。送信周波数設定部213により、バースト波の基本周波数f0を変更することができ、基本周波数f0を適切な励起周波数fexに設定できる。
【0262】
上記第7実施形態と同様に、本実施形態では、励起周波数fexが、送信プローブ110の固有周波数fresからずらした周波数に設定される。従って、走査計測装置1は、送信プローブ110の固有周波数fres(共振周波数と同義)からずらした励起周波数fexで送信プローブ110を駆動する。励起周波数fexを適正な値に設定することにより、本実施形態の超音波検査装置Zの性能を高めることができる。
【0263】
制御装置2は、表示部223及び受付部224を備える。表示部223及び受付部224は、図示の例ではデータ処理部201に備えられる。表示部223は、周波数と信号強度(成分強度)との関係を表示装置3に表示させるものである。ここでいう関係は、例えば上記図35に示す関係であり、欠陥部Dの位置が既知の試料(不図示)での健全部N及び欠陥部Dに超音波ビームUを照射することで得られたものである。受付部224は、周波数と信号強度との関係に基づいて使用者によって入力され、検出すべき裾野成分W3を表す情報を受け付けるものである。入力は、例えばキーボード、マウス、タッチパネル等である入力装置4を通じて行われる。そして、フィルタ部240は、受付部224が受け付けた情報に基づいて、当該情報に対応する裾野成分W3を検出する。
【0264】
制御装置2をこのように構成することで、使用者の主観に基づいて検出すべき裾野成分W3を判断できる。これにより、使用者の経験に基づき判断ができるため、検査実体に即した検査を実行できる。
【0265】
(第10実施形態。受信プローブ121の焦点距離)
第10実施形態では、受信プローブ121の焦点距離R2は、送信プローブ110の焦点距離R1よりも長いと、さらに好ましい。このようにすると、前記の通り、散乱波U1の成分をより多く検出できるようになるためである。前記の通り、散乱波U1は、欠陥部Dと相互作用した超音波ビームUであるから、散乱波U1の成分の割合が増えるほど、欠陥部Dを検出し易くできる。
【0266】
受信プローブ121の焦点距離を長くすると散乱波の成分を多く検出できる理由は、第1実施形態において述べた通りである。即ち、受信プローブ121の焦点距離R2を送信プローブ110の焦点距離R1よりも長くすることにより、検出可能な散乱波U1を増加できる。前記の通り、散乱波U1は欠陥部Dと相互作用した波であるから、これにより欠陥部Dの検出性能をさらに向上できる。
【0267】
本開示の例では、受信プローブ121の収束性を送信プローブ110の収束性よりも緩くしている。即ち、受信プローブ121の焦点距離R2は、送信プローブ110の焦点距離R1よりも長く設定されている。この結果、受信プローブ121のビーム入射面積T2が広くなるため、広い範囲の散乱波U1を検出できる。これにより、散乱波U1の伝搬経路が多少変化しても、受信プローブ121で散乱波U1を検出可能になる。その結果、広い範囲の欠陥部Dを検出できる。
【0268】
なお、送信プローブ110の焦点距離R1よりも受信プローブ121の焦点距離R2を長くする構成として、受信プローブ121として、非収束型のプローブ(不図示)が用いられてもよい。非収束型のプローブでは焦点距離R2が無限大なので、送信プローブ110の焦点距離R1よりも長くなる。即ち、非収束型の受信プローブ121でも、受信プローブ121の収束性は送信プローブ110の収束性よりも緩くなる。
【0269】
(第11実施形態)
図41は、第11実施形態での超音波検査装置Zの構成を示す図である。第11実施形態では、送信プローブ110の送信音軸AX1と受信プローブ121の受信音軸AX2とがずらして配置される。即ち、第11実施形態での受信プローブ121は、送信プローブ110の送信音軸AX1とは異なる位置に配置された受信音軸AX2を有する受信プローブ120(偏心配置受信プローブ)である。従って、送信プローブ110の送信音軸AX1(音軸)と受信プローブ120の受信音軸AX(音軸)との間の偏心距離L(距離)がゼロより大きい。
【0270】
このような配置にすることで、散乱波U1のうち空間的な方向が変わった波を検出できる。受信信号の周波数スペクトル(図7)に基づく周波数的な散乱波U1の抽出原理と、偏心配置による空間的な散乱波U1の抽出原理とを組み合わせることで、欠陥部Dの検出性をさらに向上できる。
【0271】
第11実施形態では、送信プローブ110に対して、図41のx軸方向に偏心距離Lだけ受信プローブ120がずらされて配置されているが、図41のy軸方向にずらされた状態で受信プローブ120が配置されてもよい。又は、x軸方向にL1、y軸方向にL2(即ち、送信プローブ110のxy平面での位置を原点とすると、(L1、L2)の位置)に受信プローブ120が配置されてもよい。
【0272】
送信音軸AX1、受信音軸AX2及び偏心距離Lの定義及び説明は、前述の通りである。
【0273】
本実施形態では、送信音軸AX1が試料台102の被検査体Eの載置面1021の法線方向になるように送信プローブ110が設置される。前述の通り、このようにすると、板状の被検査体Eにおいては、被検査体Eの表面に垂直に送信音軸AX1が配置されるので、走査位置と欠陥部Dの位置との対応関係がわかり易くなるという効果がある。
【0274】
偏心距離Lは、被検査体Eの健全部Nでの受信信号よりも、欠陥部Dでの信号強度の方が大きくなるような位置に設定するとさらに好ましい。
【0275】
(第12実施形態)
第12実施形態では、走査計測装置1は、受信プローブ120の傾きを調整する設置角度調整部106を備える。これにより、受信信号の強度を増大でき、信号のSN比(Signal to Noise比、信号雑音比)を大きくできる。本実施形態での超音波検査装置Zの構成は、図24に示した通りである。
【0276】
ここで、送信音軸AX1と受信音軸AX2とが為す角度θを受信プローブ設置角度と定義する。上記図24の場合、送信プローブ110は鉛直方向に設置されているので送信音軸AX1は鉛直方向であるため、受信プローブ設置角度である角度θは、送信音軸AX1(即ち鉛直方向)と受信プローブ120の探触子面の法線との為す角度である。そして、設置角度調整部106により、角度θを送信音軸AX1が存在する側に傾け、角度θをゼロより大きな値に設定する。即ち、受信プローブ120が傾斜配置される。具体的には、受信プローブ120は、0°<θ<90°を満たすように傾斜配置され、角度θは例えば10°であるがこれに限られない。
【0277】
このように受信プローブ120を傾斜配置して、本発明者が実際に欠陥部Dの検出を行ったところ、受信信号の信号強度がθ=0の場合と比較して3倍に増加した。
【0278】
(第13実施形態)
図42は、第13実施形態の制御装置2の機能ブロック図である。制御装置2は、走査計測装置1の駆動を制御するものである。制御装置2は、送信系統210と、受信系統220と、データ処理部201と、スキャンコントローラ204と、駆動部202と、位置計測部203と、信号処理部250とを備える。駆動部202は、例えば、送信プローブ110及び受信プローブ121を駆動させることで、被検査体Eに対する送信プローブ110及び受信プローブ121の相対的な位置を変更するものである。位置計測部203は、走査位置を計測するものである。スキャンコントローラ204は、駆動部202を通じて、送信プローブ110及び受信プローブ121を駆動させる。送信プローブ110及び受信プローブ121による走査位置は、位置計測部203を通じて、スキャンコントローラ204に入力される。
【0279】
受信系統220とデータ処理部201とを合わせて、信号処理部250と呼ぶ。信号処理部250は、受信プローブ121からの信号を増幅処理、周波数選択処理等により、有意な情報を抽出する信号処理を行う。
【0280】
送信系統210は、送信プローブ110への印加電圧を生成する系統である。送信系統210は、波形発生器211及び信号アンプ212を備える。波形発生器211でバースト波信号が発生する。そして、発生したバースト波信号は信号アンプ212で増幅される。信号アンプ212から出力された電圧は送信プローブ110に印加される。
【0281】
送信プローブ110へ印加する電圧波形は、上記図9に示す通り、繰り返し波束の波形である。各々の波束は、基本周波数f0の正弦波を有限個の波数N0で構成される。基本周波数f0は、励起周波数fexに対応する。本実施形態では、励起周波数fexを、送信プローブの固有周波数fresからずらした周波数に設定している。具体的には、送信プローブの固有周波数fres=0.82MHzに対して、励起周波数fex=0.78MHzに設定した。なお、波束の波数N0は10に設定した。
【0282】
信号処理部250は、データ処理部201と、受信系統220とを備える。受信系統220は、受信プローブ121から出力される受信信号を検出する系統である。受信プローブ121から出力された信号は、信号アンプ222に入力されて増幅される。増幅された信号は、周波数変換部230に入力される。周波数変換部230は、信号処理部250に備えられ、受信プローブ121の受信信号を周波数成分に変換(信号処理)するものであり、本開示の例では、時間領域波形である受信信号を周波数成分に変換する。周波数成分は、夫々の周波数の成分の大きさ(スペクトル)である。
【0283】
周波数変換部230の構成は第6実施形態での構成と同様である。
【0284】
(周波数成分データの蓄積)
データ処理部201は、記憶部261と、画像化部262と、表示部263とを備える。記憶部261は、データベース261aを備える。従って、信号処理部250は、周波数変換部230と、画像化部262と、データベース261aと、表示部263とを備える。
【0285】
本開示の例では、周波数変換部230は、時間領域波形を周波数成分データに変換して位置情報と合わせて記憶部261に保存する。そして、画像化部262は、詳細は後記するが、変換された周波数成分のうち、周波数パラメータにより指定された周波数成分の部分を用いて、欠陥位置を示す画像273(後記)を生成する。即ち、画像化部262は、入力された周波数パラメータに基づき、信号特徴量を画像化する。即ち、被検査体Eを1回測定する場合に、周波数成分データへの変換は1回で済み、周波数成分データから信号特徴量の抽出は複数回行われる。
【0286】
この構成の好ましい点は、第6実施形態で述べた通り、計算所要時間が短くなることと、データ量の低減の2つある。
【0287】
データ処理部201は、スキャンコントローラ204から走査位置の情報も受け取る。このようにして、現在の2次元走査位置(x、y)における受信信号の周波数成分に関するデータ(以下、周波数成分データという)が得られる。データ処理部201は、走査位置(x、y)と、その位置での周波数成分データとを対応づけて記憶部261に保存する。なお、周波数成分データから決定される信号特徴量を、走査位置毎に決定することで、欠陥部Dに関する画像273が作成される。
【0288】
周波数成分データは、複数の周波数に対応する周波数成分である。典型的な例では、周波数成分データは、受信信号のフーリエ変換で得られる周波数スペクトルである。上記のように、周波数成分は振幅(絶対値)に加えて位相情報も含むことがより好ましい。これは、周波数成分を複素数として扱うことと同義である。後記のように、位相情報も含めることで、より高性能な信号特徴量を算出できる。
【0289】
図42に示すように、制御装置2は、本開示の例ではデータ処理部201を構成する記憶部261に、データベース261aを備える。データベース261aは、被検査体Eにおける欠陥部Dの検出精度に影響を与える情報(以下、「被検査体Eに関する情報」という)と、周波数パラメータとを対応付けたものである。ここでいう情報は、例えば、被検査体Eの検査条件を含む。検査条件によっては、適正な周波数パラメータが異なり得る。ここでいう適正な周波数パラメータは、健全部Nの周波数スペクトルと欠陥部Dの周波数スペクトルとの差分を、欠陥部Dを検出可能な程度に大きくするための周波数パラメータである。周波数パラメータは、欠陥部Dの検出に好適な周波数集合{ωn}を示すものである。そこで、使用者が検査条件を入力部272(後記)に入力することで、画像273(後記)の作成に使用される周波数スペクトルの部分を指定できる。
【0290】
なお、本実施形態においては、周波数パラメータに使用した励起周波数fexを追加してデータベース261aに保存するとさらに好ましい。励起周波数fexを送信プローブ110の固有周波数fresからどれだけずらすかにより、欠陥部Dの検出性能が変わる。このため、励起周波数fex(ずらした量)もデータベース261aに登録することで、次回以降の測定時に適正な励起周波数fexを選択することが可能になる。
【0291】
なお、使用した励起周波数fexを周波数パラメータとして登録する際には、固有周波数fresからのシフト量が重要なので、差分量Δfex=fex-fresの形式で登録すると好ましい。さらに、差分量Δfexと固有周波数fresとの比(Δfex/fres)を登録すると好ましい。
【0292】
検査条件は、例えば、被検査体Eの材料、被検査体Eの厚さ、被検査体Eの構造(例えば単層構造又は多層構造の別)、受信プローブ121及び送信プローブ110に対する被検査体Eの位置(例えばz方向の位置)、流体Fの種類、の少なくとも1つを含む。これらは適正な周波数パラメータに影響を与え得る情報のため、これらの少なくとも1つを使用者が入力することで、適正な周波数パラメータを決定できる。
【0293】
図43Aは、データベース261aの一例である。周波数パラメータは、本開示の例では、送信周波数f0(図9)に対する比率f/f0の集合である。図43Aに示す例では、被検査体Eに関する情報に対する好適な周波数パラメータが、ある範囲として表現される。ここでいう情報は、説明のための一例として、例えば被検査体Eの厚さ及び材料である。上記図31に示す超音波検査装置Zで測定を行い、好適な周波数パラメータが繰り返し登録、即ち更新されると、データベース261aに情報が蓄積されていく。
【0294】
図43Bは、図43Aに示すデータベース261aを立体的に示す図である。被検査体Eに関する情報は、複数の軸を持つ多次元情報である。即ち、被検査体Eに関する情報を各成分It[k](kは1以上の整数)に分けて表記すると、k=1、2、...が多次元情報の各軸に対応する。図43Bに示す例では、説明のための一例として、It[1]が被検査体Eの厚さ、It[2]が被検査体Eの材料である。
【0295】
図43Aでは、多次元情報である被検査体Eに関する情報を1つの軸として抽象化して示している。具体的に記すと、図43Bに示すように、被検査体Eに関する情報は複数の軸で構成される。従って、データベース261aは、本開示の例では、このように多次元情報である検査体情報を軸とするデータベースである。
【0296】
データベース261aは、表形式で表してもよい。即ち、多次元の被検査体Eに関する情報ごとに1つのレコード(行)として、好適な周波数パラメータを記した表を作成してもよい。また、データベース261aをコンピュータ等で処理する場合には、表形式のデータベースで表現してもよいし、多次元の被検査体Eに関する情報ごとに1つのレコードにしたデータベース形式で表現してもよい。
【0297】
図42に戻って、データ処理部201は、画像化部262を備える。画像化部262は、信号処理部250に備えられ、変換された周波数成分のうち、周波数パラメータにより指定された周波数成分の部分を用いて、欠陥部Dの位置(欠陥位置)を示す画像273(後記)を生成する。画像化部262は、具体的には、周波数変換部230により変換された周波数成分に対応する周波数スペクトルのうち、入力された周波数パラメータに対応する部分の周波数スペクトルにおいて、被検査体Eの欠陥部Dに起因する信号の変化(変化量)に基づき、画像273を作成する。このようにすることで、画像273を生成できる。
【0298】
ここでいう信号の変化(受信信号の変化)は、本開示の例では、信号特徴量である。従って、画像化部262は、まず、変換された周波数成分に対応する周波数スペクトルのうち、使用者によって入力された周波数パラメータの部分から、信号特徴量を算出する。信号特徴量は、上記のように信号の変化を表す例えば値であり、欠陥情報(例えば欠陥部Dの位置)を適切に含むように周波数成分データから算出した値である。信号特徴量の具体的な算出方法の例は後記する。このようにして得られた信号特徴量を走査位置(x、y)に対してプロットすることで、被検査体Eの内部に存在する欠陥部Dの2次元画像(欠陥画像)が生成する。
【0299】
データ処理部201(信号処理部250)は、表示装置3への表示を行う表示部263を備える。表示部263は、画像273を表示装置3に出力して表示する。表示装置3は、例えばモニタ、ディスプレイ等である。詳細は後記するが、表示部263は、表示装置3に、周波数変換部230により変換された周波数成分に対応する周波数スペクトル271(後記)を表示する。これとともに、表示部263は、表示装置3に、周波数パラメータの入力を受け付ける入力部272(後記)を表示する。入力は、例えば、超音波検査装置Zの使用者によって行われるが、別の装置(不図示)からの入力でもよい。本開示では、一例として、使用者が周波数パラメータを入力する場合を説明する。
【0300】
以上の手順を走査位置(x,y)を変えながら行うことで、所望の範囲が走査される。走査完了すると、走査位置(x,y)に対応した周波数成分データ及び信号特徴量がデータ処理部201内の記憶部261に保存される。本開示では、走査位置で信号を取得する毎に信号特徴量が算出される。ただし、測定中、周波数成分データが記憶部261に保存され、測定後に信号特徴量が纏めて算出されることで欠陥画像を生成してもよい。
【0301】
(信号特徴量の算出)
本開示の例で用いた、周波数成分データから信号特徴量の算出方法については、上記第6実施形態で述べた通りである。
【0302】
上記第6実施形態で記載した、上記式(1)において、積算に含める周波数の集合{ω}の選択が重要になる。選択は、例えば、使用者によって実行される。上記周波数スペクトルからわかるように、基本波帯W1(図7)のうち、健全部Nと欠陥部Dとの差が大きい部分の周波数範囲を選択すると、欠陥部Dの画像をより明瞭に得ることが出来る。従って、使用者は、健全部Nと欠陥部Dとの差が大きい部分の周波数範囲(周波数パラメータ)を入力することが好ましい。ここでいう「大きい」は、例えば、使用者が2つの周波数スペクトルの違いを明瞭の認識できる程度の違い、又は、予め決定された所定の閾値以上等を採用できる。
【0303】
なお、信号特徴量は、欠陥部Dの位置情報を適切に含むように周波数成分データから算出した値であればよく、上記の算出方法に限定されるものではない。上記の例では、時間領域の信号波形h(t)のPP値を信号特徴量としたが、h(t)の絶対値を算出し、h(t)の面積を算出して信号特徴量としてもよい。ここで面積の算出手順は、h(t)を適切な時間間隔でサンプリングして、サンプリング点でのh(t)の総和を算出すればよい。また、h(t)の絶対値の代わりに、h(t)の2乗値を用いてもよい。更に、式(1)及び式(2)を用いる代わりに、周波数成分H(ω)の絶対値を、入力された周波数集合{ω}について合計した値を信号特徴量として用いてもよい。
【0304】
(周波数の選択)
図44は、本開示の例での超音波検査装置Zの操作画面270の構成例を模式的に示す図である。操作画面270は、表示部263(図42)によって、表示装置3(図42)に表示される。表示部263は、表示装置3に、上記のように、周波数変換部230(図42)により変換された周波数成分に対応する周波数スペクトル271と、使用者による周波数パラメータの入力を受け付ける入力部272と、を表示する。本開示の例では、表示部263は、超音波検査装置Zの操作画面270を表示装置3に表示するとともに、周波数スペクトル271及び入力部272を操作画面270に表示する。これにより、周波数スペクトル271を含む操作画面270を確認しながら、使用者が入力部272を操作できる。
【0305】
図44に示す構成例では、左側に被検査体Eの欠陥部Dの位置を示す画像273が表示される。右側の上部に周波数スペクトル271が表示される。ここでは、検査位置による複数箇所の周波数スペクトル271を表示できると比較ができるため好ましい。特に、周波数スペクトル271は、破線で示す第1周波数スペクトルと、実線で示す第2周波数スペクトルとを含む。破線及び実線の各グラフは、上記図35における破線及び実線の各グラフである。これにより、周波数スペクトル同士を使用者が比較でき、適切な周波数成分を使用者が入力できる。ただし、表示される周波数スペクトル271は、第1周波数スペクトル又は第2周波数スペクトルのうちの何れか一方のみでよい。使用者がある程度の経験を有することで、何れか一方のみの周波数パラメータに基づいて、好適な周波数パラメータを決定でき得る。
【0306】
入力部272は、使用者によって周波数パラメータが入力されるものである。本開示の例では、入力部272は、長さ及び位置を調整可能なスライドバーにより構成される周波数選択部である。使用者がスライドバーを例えばマウス、キーボード等を使用し、周波数スペクトルの周波数位置に対応した位置にスライドバーの長さ及び位置を調整することで、信号特徴量を抽出するための周波数範囲(周波数集合)を入力できる。ここで入力された周波数範囲が周波数パラメータである。入力後、更新ボタン274が押下されることで、周波数スペクトル271が更新される。
【0307】
周波数スペクトル271は、表示されることが好ましいものの、表示されなくてもよい。表示されない場合、例えば、画像化部262は、データベース261a(図42)の中から、入力部275を通じ、受け付けた被検査体Eに関する情報に対応する周波数パラメータを初期の周波数パラメータとして決定する。入力部275は、被検査体Eにおける欠陥部Dの検出精度に影響を与える情報(上記の「被検査体Eに関する情報」)を受け付けるものである。上記表示部263は表示装置3に入力部275を表示する。該当する周波数パラメータが無い場合には、その情報に最も近い情報に対応する周波数パラメータが決定される。決定された周波数パラメータは、表示装置3に表示される。画像化部262は、決定した周波数パラメータに基づき、画像273(図44)を作成する。データベース261aの情報を利用することで、欠陥部Dの検出精度を向上できる。
【0308】
(第14実施形態)
第14実施形態は、複数の励起周波数fexから最適な励起周波数fexを選択する構成である。第14実施形態は、上記図31の超音波検査装置Z、及び、上記図32の制御装置2を用いた。
【0309】
図45は、第14実施形態で被検査体Eの欠陥画像を得るステップを示す図である。
【0310】
第14実施形態のステップS100(画像取得ステップ)は、適切な励起周波数を選択するステップS1と、選択した励起周波数を用いて被検査体Eの欠陥画像を取得するステップS2と、の2段階に大別される。ステップS1は、ステップS11,S12,S13を含む。ステップS11では、励起周波数fex[n]が設置される。ステップS12では、信号強度が測定される。ステップS13では、最適な励起周波数が選択される。ステップS2は、ステップS21,S22,S23を含む。ステップS21では、送信プローブ110から送信される超音波ビームUの周波数が選択された励起周波数に設定される。ステップS22では、被検査体Eを走査することで測定が実行される。ステップS23では、画像273が表示される。
【0311】
第14実施形態では、まず標準試験体(不図示)を用いて欠陥部Dの信号量が計測される。標準試験体は、形状、場所等が既知の模擬欠陥(欠陥部Dを模擬した欠陥)を形成した検査体である。標準試験体を構成する材料は、検査する被検査体Eと同じ材料、又は特性が近い材料で構成することが好ましい。
【0312】
第14実施形態で用いる標準検査体では、模擬欠陥の形状は、長さ10mm、幅1mmとすることができる。幅、長さ、模擬欠陥の深さ位置等は、複数の形状、位置の模擬欠陥を形成するとさらに好ましい。
【0313】
図46は、標準検査体を模擬欠陥を横切るように走査しながら、超音波ビームUを送信して受信信号を計測し、受信信号を適切な信号処理により信号量を算出してプロットした結果である。図中の曲線aは励起周波数fex1で測定した結果であり、曲線bは励起周波数fex1とは異なる励起周波数fex2で測定した結果である。Δv及びv0は、上記図33A及び図33Bと同じである。曲線bは曲線aよりΔvが大きい。このように複数の励起周波数で位置が既知の模擬欠陥を計測した。励起周波数fexは、5~10種類程度に変更して、図46のように信号量を計測しても良い。
【0314】
図46の結果から最適な励起周波数fexを選択できる。選択基準として、第14実施形態では、信号強度の変化率Δv/v0が最大になる励起周波数fexを選択できる。選択基準はこれに限定されるわけでなく、信号強度の変化率Δv/v0と信号強度v0との2つの値から最適値を選択しても良い。
【0315】
第14実施形態では、最適な励起周波数fexの選択は、制御装置2が前述の選択基準に基づいて自動的に選択できる。この他、図46の測定結果を操作画面270上に表示して、ユーザが最適な励起周波数fexを選択する構成でもよい。
【0316】
次に、このように選択した最適な励起周波数fexに設定して、被検査体Eを計測を行い、欠陥部Dの計測を行うことができる。第14実施形態によれば、励起周波数fexとして最適な周波数を用いるため、欠陥部の検出精度をさらに向上できるという効果がある。
【0317】
(第15実施形態)
第15実施形態は、複数の励起周波数fexから最適な励起周波数fexを選択する構成である。
【0318】
図47は、第15実施形態で被検査体Eの欠陥画像を得るステップを示す図である。
【0319】
第15実施形態では、上記第14実施形態のステップS1において、ステップS12とステップS13との間に、更にステップS14が実行される。第15実施形態のステップS100(画像取得ステップ)は、適切な励起周波数を選択するステップS1と、選択した励起周波数を用いて被検査体Eの欠陥画像を取得するステップS2との2段階に大別される。
【0320】
第15実施形態では、被検査体Eを測定対象として複数の励起周波数fexで周波数スペクトルが測定して操作画面270に表示される(ステップS14)。周波数スペクトルを測定する位置は、被検査体Eの健全部でも欠陥部Dのいずれでも良い。
【0321】
送信プローブ110の励起周波数をfex[1]に設定して被検査体Eに超音波ビームを照射することで受信信号が測定する。次に、別の励起周波数fex[2]に設定して、同様に受信信号が測定される。このようにして、励起周波数fex[n](n=1、2、....)と変えて受信信号が測定される。
【0322】
図48は、ステップS14で表示される周波数スペクトルである。ステップS14では、測定された受信信号から周波数スペクトルを算出し、図48に示すように、励起周波数fex[n]に対応する周波数スペクトルが操作画面270上に表示される。このようにすると、図48に示すように、異なる励起周波数に対応して、それぞれのスペクトルが表示される。なお、図48は前述の通り、励起周波数fexを変えて、受信信号の周波数スペクトルを測定した結果である。図48の破線は、固有周波数fres(0.82MHz)と等しく励起周波数fexを設定した時の周波数スペクトルである。実線は、励起周波数fexを固有周波数fresよりも40kHz小さい0.78MHzに設定した時の周波数スペクトルである。
【0323】
ユーザは、これら複数のスペクトルを見て、適切な励起周波数fexを選択する。励起周波数の選択基準は、第15実施形態では、スペクトルのうち裾野成分W3の割合が大きくなるように励起周波数を選択できる。最適な励起周波数の選択基準は、これ以外であっても良い。例えば、裾野成分W3の割合と、信号強度の大きさとの2つの要素から最適な励起周波数を選択してもよい。
【0324】
図47に戻って、このようにして最適な励起周波数fexを選択した後、欠陥画像を取得するステップS2が実行される。ステップS2では、選択された励起周波数fexを設定して、被検査体Eを走査して受信信号が取得される。取得した受信信号を用いて、欠陥画像が操作画面270上に表示される。
【0325】
第15実施形態によれば、励起周波数fexとして最適な周波数を用いるため、欠陥部Dの検出精度をさらに向上できるという効果がある。第15実施形態では、標準試験体を用いることなく、最適な励起周波数fexを選択できるという効果もある。
【0326】
また、第15実施形態において、操作画面270上に表示されたスペクトルを基にして、信号特徴量を算出する周波数範囲を選定することができる。
【0327】
複数の周波数スペクトルからユーザが最適な励起周波数を選択する代わりに、制御装置2が最適な励起周波数を選択してもよい。励起周波数を選択するアルゴリズムは、測定した励起周波数fex[n]ごとに、スペクトルの中央周波数の成分強度を基準として裾野成分の強度比率を算出し、その比率が最大になる励起周波数fexを選択すればよい。
【0328】
(第16実施形態)
図49は、第16実施形態の超音波検査装置Zの機能ブロック図である。本実施形態では、入力部275(図44)を備えなくてもよい。
【0329】
信号処理部250は更新部291(周波数パラメータ更新部)を備える。更新部291は、周波数パラメータを自動的に更新する。更新部291でのより具体的な処理の一例を示す。画像化部262は、欠陥部D及び健全部Nの2点の受信信号について、周波数パラメータを変更しながら上記信号特徴量を算出する。そして、更新部291は、欠陥部D及び健全部Nの信号特徴量の差が最大になるような周波数パラメータを探索し、決定する。このようにして更新部291で更新された周波数パラメータを用いて、画像化部262は、画像273を作成する。また、このように更新された周波数パラメータがデータベース261aに登録され、データベース261aが更新される。
【0330】
なお、周波数パラメータに使用した励起周波数fexを追加してデータベース261aに保存するとさらに好ましい。従って、データベース261aは、励起周波数fexの情報を含むことが好ましい。励起周波数fexを送信プローブの固有周波数fresからどれだけずらすかにより、欠陥の検出性が変わるので、これもデータベース261aに登録することで、次回以降の測定時に適正な励起周波数fexを選択することが可能になる。
【0331】
なお、使用した励起周波数fexを周波数パラメータとして登録する際には、固有周波数fresからのシフト量が重要なので、差分量Δfex=fex-fresの形式で登録すると好ましい。さらに、差分量Δfexと固有周波数fresとの比(Δfex/fres)を登録すると好ましい。
【0332】
なお、決定された周波数パラメータは、表示装置3に表示されてもよい。また、周波数パラメータを更新部291で自動的に更新するかわりに、使用者が、画像273を見ながら、入力部272を通じて、周波数パラメータを指定してもよい。このようにしても、欠陥部Dの検出精度をさらに向上できる。
【0333】
図50は、制御装置2のハードウェア構成を示す図である。前記した各構成、機能、ブロック図を構成する各部等は、それらの一部又はすべてを、例えば集積回路で設計すること等によりハードウェアで実現してもよい。また、図50に示すように、前記した各構成、機能等は、CPU252等のプロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。制御装置2は、例えば、メモリ251、CPU252、記憶装置253(SSD,HDD等)、通信装置254及びI/F255を備える。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、HDDに格納すること以外に、メモリ、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カード、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に格納することができる。
【0334】
図51は、上記各実施形態の超音波検査方法を示すフローチャートである。本開示の超音波検査方法は上記の超音波検査装置Zの制御装置2により実行でき、一例として適宜、図31及び図32を参照して説明する。本開示の超音波検査方法は、気体G(図31)を介して被検査体E(図31)に超音波ビームUを入射することにより被検査体Eの検査を行うものである。
【0335】
本開示の超音波検査方法は、ステップS101~S105,S111,S112を含む。まず、制御装置2の指令により、送信プローブ110が、送信プローブ110から超音波ビームUを放出するステップS101(放出ステップ)を行う。
【0336】
ステップS101においては、送信プローブ110の励起周波数fexが送信プローブ110の固有周波数fresからずらした周波数に設定される。従って、ステップS101では、送信プローブ110の固有周波数fres(共振周波数と同義)からずらした励起周波数fexで、送信プローブ110を励起して超音波ビームUが放出される。
【0337】
続いて、ステップS102(受信ステップ)では、受信プローブ121が、超音波ビームUを受信する。
【0338】
その後、フィルタ部240は、受信プローブ121が受信した超音波ビームUの信号(例えば波形信号)を基に、特定の周波数範囲、具体的には、最大成分周波数fmを含む周波数範囲の成分(最大強度周波数成分)を低減するステップS103(フィルタ処理ステップ)を行う。即ち、ステップS103では、ステップS102で受信した超音波ビームUの信号の最大強度周波数成分が低減される。
【0339】
そして、データ処理部201は、フィルタ処理を行った信号から、基本波帯W1の裾野成分W3を検出して信号強度データを生成するステップS104(信号強度算出ステップ)を行う。従って、ステップS104では、超音波ビームUの信号における基本波帯W1の裾野成分W3が検出される。信号強度データの生成方法として、本実施形態ではピーク間信号量(Peak-to-Peak signal)が使用される。これは信号のうち最大値と最小値との差である。
【0340】
この次に、ステップS105(形状表示ステップ)が行われる。送信プローブ110及び受信プローブ121の走査位置情報は、位置計測部203からスキャンコントローラ204に送信される。データ処理部201は、スキャンコントローラ204から取得した送信プローブ110の走査位置情報に対して、それぞれの走査位置での信号強度データをプロットする。このようにして、信号強度データが画像化される。これがステップS105である。
【0341】
なお、上記図33Bは走査位置情報が1次元(1方向)の場合であり、走査位置情報がx、yの2次元の場合については、信号強度データをプロットすることで、欠陥部Dが2次元画像として示され、それが表示装置3に表示される。
【0342】
データ処理部201は、走査が完了したか否かを判定する(ステップS111)。走査が完了している場合(Yes)、制御装置2は処理を終了する。走査が完了していない場合(No)、データ処理部201は駆動部202に指令を出力することによって、次の走査位置まで送信プローブ110及び受信プローブ121を移動させ(ステップS112)、ステップS101へ処理を戻す。
【0343】
以上の超音波検査装置Z及び超音波検査方法によれば、欠陥部Dの検出性能、例えば微小欠陥を検出する性能を向上できる。
【0344】
以上の各実施形態では、欠陥部Dは空洞である例を記載しているが、欠陥部Dとして被検査体Eの材質とは異なる材質が混入している異物であってもよい。この場合も、異なる材料が接する界面で音響インピーダンスの差(Gap)があるため、散乱波U1が発生するので、上記各実施形態の構成が有効である。上記各実施形態に係る超音波検査装置Zは、超音波欠陥映像装置を前提としているが、非接触インライン内部欠陥検査装置に適用されてもよい。
【0345】
本開示は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0346】
また、各実施形態において、制御線及び情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線及び情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0347】
1 走査計測装置
100 送信プローブ
101 筐体
102 試料台
1021 載置面
103 送信プローブ走査部
104 受信プローブ走査部
105 偏心距離調整部
106 設置角度調整部
110 送信プローブ
111 振動子
112 バッキング
113 整合層
114 探触子面
115 送信プローブ筐体
116 コネクタ
117 リード線
118 リード線
120 受信プローブ
121 受信プローブ
140 受信プローブ
2 制御装置
201 データ処理部
202 駆動部
203 位置計測部
204 スキャンコントローラ
210 送信系統
211 波形発生器
212 信号アンプ
213 送信周波数設定部
220 受信系統
222 信号アンプ
223 表示部
224 受付部
230 周波数変換部
231 信号強度算出部
240 フィルタ部
241 周波数成分変換部
242 周波数選択部
243 周波数成分逆変換部
244 検出部
245 決定部
250 信号処理部
251 メモリ
252 CPU
253 記憶装置
254 通信装置
255 I/F
261 記憶部
261a データベース
262 画像化部
263 表示部
270 操作画面
271 周波数スペクトル
272 入力部
273 画像
274 更新ボタン
275 入力部
291 更新部
3 表示装置
4 入力装置
AX 受信音軸
AX1 送信音軸
AX2 受信音軸
BW ビーム幅
C2 コーン
C3 コーン
D 欠陥部
E 被検査体
F 流体
G 気体
L 偏心距離
N 健全部
P1 焦点
P11 交点
P12 交点
P2 焦点
R1 焦点距離
R2 焦点距離
T1 ビーム入射面積
T2 ビーム入射面積
U 超音波ビーム
U1 散乱波
U2 超音波ビーム
U3 直達波
W 液体
W1 基本波帯
W2 周波数範囲
W3 裾野成分
Z 超音波検査装置
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図18
図19
図20A
図20B
図21
図22
図23A
図23B
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33A
図33B
図34
図35
図36A
図36B
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43A
図43B
図44
図45
図46
図47
図48
図49
図50
図51