(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120605
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】処理方法
(51)【国際特許分類】
C23F 11/18 20060101AFI20240829BHJP
C23F 11/14 20060101ALI20240829BHJP
C23F 11/173 20060101ALI20240829BHJP
B22C 9/06 20060101ALI20240829BHJP
B22D 17/22 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C23F11/18
C23F11/14
C23F11/173
B22C9/06 B
B22D17/22 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027506
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】390016540
【氏名又は名称】内外化学製品株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005256
【氏名又は名称】株式会社アーレスティ
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】丸亀 和雄
(72)【発明者】
【氏名】末武 佑介
(72)【発明者】
【氏名】青山 俊三
【テーマコード(参考)】
4E093
4K062
【Fターム(参考)】
4E093NA01
4E093NB05
4K062AA03
4K062BA10
4K062BB18
4K062BC09
4K062CA04
4K062CA05
4K062CA08
4K062FA05
4K062FA11
4K062FA16
4K062FA18
4K062GA10
(57)【要約】
【課題】熱間工具鋼製の金型に対し冷却液を供給する処理方法であって、冷却孔の内部の温度が80℃以上となる部位においても、金型を構成する熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生を効果的に防止しつつ、ダイカストによる鋳物の製造を効率よく行い、金型の長寿命化を図ることができる処理方法を提供すること。
【解決手段】本発明の処理方法は、冷却液を流通する冷却孔を有する熱間工具鋼製の金型に対し、前記冷却液を供給する処理方法であって、前記冷却孔の内部の少なくとも一部が80℃以上の温度となり、前記冷却液が、モリブデン酸およびモリブデン酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種であるモリブデン酸類と、水溶性重合体と、水とを含むものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却液を流通する冷却孔を有する熱間工具鋼製の金型に対し、前記冷却液を供給する処理方法であって、
前記冷却孔の内部の少なくとも一部が80℃以上の温度となり、
前記冷却液は、モリブデン酸およびモリブデン酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種であるモリブデン酸類と、水溶性重合体と、水とを含むものである処理方法。
【請求項2】
前記水溶性重合体が、構成モノマーとして、マレイン酸、マレイン酸の塩、アクリル酸およびアクリル酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含むものである請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記冷却液中における前記モリブデン酸類の含有量が、MoO4
2-量で、10.0mg/L以上600.0mg/L以下である請求項1に記載の処理方法。
【請求項4】
前記冷却液中における前記水溶性重合体の含有量が、9.0mg/L以上500.0mg/L以下である請求項1に記載の処理方法。
【請求項5】
前記冷却液は、水に、前記モリブデン酸類および前記水溶性重合体を含む処理剤を添加したものである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項6】
前記処理剤中における前記モリブデン酸類の含有量が、MoO4
2-量で、1.0質量%以上30.0質量%以下である請求項5に記載の処理方法。
【請求項7】
前記処理剤中における前記水溶性重合体の含有量が、0.9質量%以上25.0質量%以下である請求項5に記載の処理方法。
【請求項8】
前記処理剤が、前記モリブデン酸類および前記水溶性重合体に加えて、さらに、アゾール系化合物を含むものである請求項5に記載の処理方法。
【請求項9】
前記アゾール系化合物が、ベンゾトリアゾールおよびトリルトリアゾールよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項8に記載の処理方法。
【請求項10】
前記処理剤中における前記アゾール系化合物の含有量が、0.05質量%以上2.5質量%以下である請求項8に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカストは、金型に溶融した金属を圧入することにより、高い寸法精度の鋳物を短時間に大量生産する鋳造方式である。
【0003】
近年、生産性向上によるコストダウンのために、ダイカストでは、ハイサイクル化が進められている。具体的には、冷却液を流通させるために金型に設けられる冷却孔をキャビティ面(溶融金属が接触する面)に近い領域に設けて、冷却液による冷却をより効果的に行う。このような場合、冷却液を流通する冷却孔の温度が、高くなりやすい。より具体的には、例えば、通水を間欠にする冷却方法や金型が高温で冷却水が冷却孔表面を十分に冷却できない場合、冷却孔の内部温度が80℃以上になることがある。このように冷却孔が高温になると、冷却孔の表面で冷却液の沸騰や蒸気膜の形成が起こりやすくなり、冷却孔では、腐食が発生しやすく、特に、鋳造の繰り返しによる熱応力の振幅による疲労現象により腐食を起点とした割れ、いわゆる、腐食疲労が起こりやすい。また、腐食がより発生しやすくなるとともに、冷却孔の表面には、スケールが生じやすくなる。特に、これらの現象が発生することにより、スケール下部にて腐食が発生しやすくなり、割れがキャビティ面に達して水漏れを生じやすくなる等、従来に比べて、金型の寿命が短くなる等の問題がある。
【0004】
また、焼入れ性、耐摩耗性、耐衝撃性、耐熱性等の観点からすると、ダイカストに用いられる金型の構成材料としては、熱間工具鋼が好ましい。
【0005】
熱間工具鋼は、上記のような優れた特性を有する一方で、軟鋼よりも腐食性が高い材料である。
【0006】
冷却孔内部の腐食を防止する方法として、冷却孔の表面にマグネタイト層を形成する方法(例えば、特許文献1参照)や、冷却液に防錆剤を添加してpH9以上のアルカリ性に調整する方法(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
【0007】
しかしながら、金型の冷却孔の温度が80℃以上のような高温になる部位においては、上記のような従来の技術を適用した場合、冷却孔の表面で冷却液の沸騰や蒸気膜の形成により、スケールの発生が顕著なものとなり、また、スケールの発生が引き金となり、金型の腐食も発生しやすくなる。さらに、引用文献2に記載の方法では、大気中の炭酸ガスを取り込むことによるpHの低下が生じやすいため、冷却水のpHのモニタリングを常時行う必要があり、逐次の調整が必要であるため、処理が煩雑であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-204754号公報
【特許文献2】特開2007-216252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、熱間工具鋼製の金型に対し冷却液を供給する処理方法であって、冷却孔の内部の温度が80℃以上となる部位においても、金型を構成する熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生を効果的に防止しつつ、ダイカストによる鋳物の製造を効率よく行い、金型の長寿命化を図ることができる処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記(1)~(10)に記載の本発明により達成される。
(1) 冷却液を流通する冷却孔を有する熱間工具鋼製の金型に対し、前記冷却液を供給する処理方法であって、
前記冷却孔の内部の少なくとも一部が80℃以上の温度となり、
前記冷却液は、モリブデン酸およびモリブデン酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種であるモリブデン酸類と、水溶性重合体と、水とを含むものである処理方法。
【0011】
(2) 前記水溶性重合体が、構成モノマーとして、マレイン酸、マレイン酸の塩、アクリル酸およびアクリル酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含むものである上記(1)に記載の処理方法。
【0012】
(3) 前記冷却液中における前記モリブデン酸類の含有量が、MoO4
2-量で、10.0mg/L以上600.0mg/L以下である上記(1)または(2)に記載の処理方法。
【0013】
(4) 前記冷却液中における前記水溶性重合体の含有量が、9.0mg/L以上500.0mg/L以下である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の処理方法。
【0014】
(5) 前記冷却液は、水に、前記モリブデン酸類および前記水溶性重合体を含む処理剤を添加したものである上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の処理方法。
【0015】
(6) 前記処理剤中における前記モリブデン酸類の含有量が、MoO4
2-量で、1.0質量%以上30.0質量%以下である上記(5)に記載の処理方法。
【0016】
(7) 前記処理剤中における前記水溶性重合体の含有量が、0.9質量%以上25.0質量%以下である上記(5)または(6)に記載の処理方法。
【0017】
(8) 前記処理剤が、前記モリブデン酸類および前記水溶性重合体に加えて、さらに、アゾール系化合物を含むものである上記(5)ないし(7)のいずれかに記載の処理方法。
【0018】
(9) 前記アゾール系化合物が、ベンゾトリアゾールおよびトリルトリアゾールよりなる群から選択される少なくとも1種である上記(8)に記載の処理方法。
【0019】
(10) 前記処理剤中における前記アゾール系化合物の含有量が、0.05質量%以上2.5質量%以下である上記(8)または(9)に記載の処理方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、熱間工具鋼製の金型に対し冷却液を供給する処理方法であって、冷却孔の内部の温度が80℃以上となる部位においても、金型を構成する熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生を効果的に防止しつつ、ダイカストによる鋳物の製造を効率よく行い、金型の長寿命化を図ることができる処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、筒状試験片を80℃以上の状態で液中にさらす試験装置の模式図である。
【
図2】
図2は、実施例での試験片の温度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]処理方法
本発明の処理方法は、冷却液を流通する冷却孔を有する熱間工具鋼製の金型に対し、前記冷却液を供給する処理方法である。また、本発明の処理方法中においては、前記冷却孔の内部の少なくとも一部が80℃以上の温度となる。
【0023】
そして、前記冷却液は、モリブデン酸およびモリブデン酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種であるモリブデン酸類と、水溶性重合体と、水とを含むものである。
【0024】
これにより、モリブデン酸類と水溶性重合体とが相乗的に作用し合い、熱間工具鋼製の金型に対し、冷却孔の内部が80℃以上の温度となる部位においても、金型を構成する熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生を効果的に防止しつつ、ダイカストによる鋳物の製造を効率よく行い、金型の長寿命化を図ることができる処理方法を提供することができる。特に、冷却液のpHの維持(例えば、pH9以上への維持)をしなくても、安定的に鋳物の製造を行うことができる。
これに対し、上記のような条件を満たさない場合には、満足のいく結果が得られない。
【0025】
例えば、モリブデン酸類を含むものの水溶性重合体を含まない冷却液を用いると、金型の冷却孔の温度が比較的低い温度に保たれる冷却方法においては、腐食疲労を好適に防止することができるものの、本発明のように、金型の冷却孔の温度が80℃以上の高温になる場合においては、冷却孔の表面で冷却液の沸騰や蒸気膜の形成により、スケールの発生が顕著なものとなり、また、スケールの発生が引き金となり、金型の腐食も発生しやすくなる。
【0026】
また、例えば、モリブデン酸類の代わりに他の防食剤を用いた場合にも満足のいく結果が得られない。より具体的には、例えば、モリブデン酸類の代わりに防食剤として知られている亜硝酸ナトリウムを用いた場合、熱間工具鋼製の金型の応力腐食割れを加速することになる。
【0027】
また、水溶性重合体を含むもののモリブデン酸類を含まない冷却液を用いると、防食効果が不十分であることから、腐食の発生を十分に防止することができない。
【0028】
[1-1]金型について
本発明の処理方法で用いる金型は、鋳造、特に、ダイカストに用いられるものであり、熱間工具鋼で構成されたものである。
【0029】
熱間工具鋼は、焼入れ性、耐摩耗性、耐衝撃性、耐熱性等の各種特性に優れている一方で、軟鋼よりも腐食性が高い材料であるが、本発明では、熱間工具鋼製の金型において、熱間工具鋼が有する優れた特性を発揮しつつ、腐食の発生を効果的に防止することができる。
【0030】
熱間工具鋼としては、炭素工具鋼(SK材)に各種元素Ni(ニッケル)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、V(バナジウム)等を添加したものを用いることができ、例えば、JIS G 4404(2022)で規定される合金工具鋼鋼材のうちの熱間金型用の合金工具鋼鋼材や、特開2009-221594号公報、特開2008-095190号公報、特開2008-095181号公報、特開2006-213990号公報、国際公開第2010/074017号パンフレット等に記載されている公知の熱間工具鋼等を用いることができる。
【0031】
中でも、JIS G 4404(2022)で規定される合金工具鋼鋼材のうちの熱間金型用の合金工具鋼鋼材が好ましく、JIS G 4404(2022)で規定される、SKD4、SKD61、SKD62、SKD7、SKD8、SKT4がより好ましく、SKD61がさらに好ましい。
【0032】
このような熱間工具鋼は、焼入れ性、耐摩耗性、耐衝撃性、耐熱性等の観点で特に優れているとともに、入手の容易性にも優れている一方で、腐食性が高く、スケールが発生しやすい材料であるが、本発明によれば、上記のような優れた特性を発揮しつつ、腐食やスケールの問題を効果的に防止することができる。すなわち、金型が上記のような材料で構成されたものであると、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0033】
また、熱間工具鋼としては、公知の熱間工具鋼の組成を改良した新規な組成の熱間工具鋼を用いてもよい。
【0034】
また、熱間工具鋼としては、焼入れ焼戻し(quenching and tempering)が施された熱間工具鋼を用いてもよい。
【0035】
本発明で用いる金型には、冷却液を流通させるための冷却孔が設けられている。
冷却孔の大きさは、圧力損失により冷却液の流量が極端に低下しなければ、特に限定されないが、冷却液の流通方向に垂直な面での冷却孔の断面積が、12mm2以上706mm2以下であるのが好ましく、50mm2以上254mm2以下であるのがより好ましい。
【0036】
これにより、冷却液の不本意な流量変化をより好適に防止することができ、より安定的な冷却を行うことができる。また、冷却孔の断面積が前記範囲内の値であると、従来においては、金型の冷却孔の温度が80℃以上のような高温になる場合において、冷却孔の表面で冷却液の沸騰や蒸気膜の形成によってスケールや腐食の問題(より具体的には、腐食やスケールの成長速度の上昇や、スケールによる冷却孔の閉塞等)がより顕著に発生していたが、本発明によれば、上記のような優れた効果を得つつ、腐食やスケールの問題を効果的に防止することができる。すなわち、冷却孔の断面積が前記範囲内の値であると、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0037】
本発明において、冷却孔への冷却液の供給は、連続的に行うものであってもよいし、間欠的に行うものであってもよいが、従来においては、冷却孔への冷却液の供給を間欠的に行う場合に、上述したような問題がより顕著に発生していた。これに対し、本発明では、冷却孔への冷却液の供給を間欠的に行う場合であっても、上記のような問題の発生を十分に防止することができる。すなわち、冷却孔への冷却液の供給を間欠的に行う場合に、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0038】
また、本発明においては、冷却液の注入および排出を繰り返し行ってもよい。従来においては、このように、冷却液の注入および排出を繰り返し行う方法では、上述したような問題がより顕著に発生していたが、本発明では、冷却液の注入および排出を繰り返し行う方法であっても、上記のような問題の発生を十分に防止することができる。すなわち、冷却液の注入および排出を繰り返し行う方法に適用する場合に、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0039】
冷却孔からの冷却液の排出は、通常、エアパージにより行われる。
エアパージの条件は、特に限定されないが、金型の温度が過剰に低下しないように、冷却孔内の冷却液が十分に除去することができるエアー圧およびパージ時間に設定するのがよい。
【0040】
[1-2]冷却液について
本発明の処理方法で用いる冷却液は、モリブデン酸およびモリブデン酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種であるモリブデン酸類と、水溶性重合体と、水とを含むものである。
【0041】
冷却液中に含まれるモリブデン酸類は、モリブデン酸およびモリブデン酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種である。
【0042】
モリブデン酸の塩としては、例えば、各種金属塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0043】
金属塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられるが、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。
【0044】
これにより、モリブデン酸類の水への溶解性をより優れたものとすることができる。また、スケールの発生をより効果的に防止することができる。
【0045】
冷却液中におけるモリブデン酸類の含有量は、MoO4
2-量で、10.0mg/L以上600.0mg/L以下であるのが好ましく、30.0mg/L以上500.0mg/L以下であるのがより好ましく、35.0mg/L以上400.0mg/L以下であるのがさらに好ましい。
【0046】
これにより、冷却液中における不本意なモリブデン酸類の析出等を防止しつつ、熱間工具鋼の腐食疲労による冷却孔割れをより効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。また、冷却液の調製に要するコストの上昇をより好適に抑制することができる。
【0047】
冷却液中に含まれる水溶性重合体は、水に対して溶解性を示す重合体であればいかなるものであってもよいが、水溶性重合体の25℃における水に対する溶解度は、0.5g/100g水以上であるのが好ましく、1.0g/100g水以上であるのがより好ましく、2.0g/100g水以上であるのがさらに好ましい。
【0048】
冷却液は、少なくとも1種の水溶性重合体を含んでいればよく、複数種の水溶性重合体を含んでいてもよい。
【0049】
冷却液中に含まれる水溶性重合体は、親水性の官能基を有するものである。
このような親水性の官能基としては、例えば、カルボキシル基、スルホ基、水酸基、アミノ基やこれらの塩等が挙げられる。
【0050】
水溶性重合体を構成する全モノマーに対する親水性の官能基を有するモノマーの割合は、30.0mol%以上であるのが好ましく、50.0mol%以上であるのがより好ましく、70.0mol%以上であるのがさらに好ましい。
【0051】
これにより、冷却液中における不本意な水溶性重合体の析出等を防止しつつ、熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生をより効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0052】
水溶性重合体は、オレフィン系の重合体であるのが好ましく、当該水溶性重合体の構成モノマーとしては、例えば、マレイン酸、マレイン酸の塩、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸の塩、(メタ)アクリル酸エステル、アクリルアミドメチル、ビニルスルホン酸、ビニルホスホン酸、アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等が挙げられるが、水溶性重合体は、マレイン酸、マレイン酸の塩、アクリル酸およびアクリル酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであるのが好ましく、これらのモノマーを全構成モノマーに対して、20.0mol%以上であるのが好ましく、40.0mol%以上であるのがより好ましく、60.0mol%以上であるのがさらに好ましい。
【0053】
これにより、冷却液中における不本意な水溶性重合体の析出等を防止しつつ、熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生をさらに効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0054】
冷却液中に含まれる水溶性重合体は、単一のモノマー成分のみを構成モノマーとして含むホモポリマーであってもよいし、複数種のモノマー成分を構成モノマーとして含む共重合体(コポリマー)であってもよいが、ホモポリマーであるのが好ましく、ポリマレイン酸、ポリマレイン酸の塩、ポリアクリル酸およびポリアクリル酸の塩よりなる群から選択される少なくとも1種であるのがより好ましい。
【0055】
これにより、冷却液中における不本意な水溶性重合体の析出等を防止しつつ、熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生をさらに効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。また、冷却液の調製に要するコストの上昇をより好適に抑制することができる。
前記の塩としては、例えば、金属塩、アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0056】
金属塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられるが、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましく、ナトリウム塩がより好ましい。
【0057】
これにより、水溶性重合体の水への溶解性をより優れたものとすることができる。また、スケールの発生をより効果的に防止することができる。
【0058】
冷却液中に含まれる水溶性重合体の重量平均分子量は、特に限定されないが、500以上10,000以下であるのが好ましい。
【0059】
特に、冷却液がポリマレイン酸またはポリマレイン酸の塩を含むものである場合、当該ポリマレイン酸またはポリマレイン酸の塩の重量平均分子量は、500以上2,000以下であるのが好ましい。
【0060】
また、冷却液がポリアクリル酸またはポリマレイン酸の塩を含むものである場合、当該ポリアクリル酸またはポリマレイン酸の塩の重量平均分子量は、1,000以上5,000以下であるのが好ましい。
【0061】
冷却液中における水溶性重合体の含有量は、9.0mg/L以上500.0mg/L以下であるのが好ましく、20.0mg/L以上400.0mg/L以下であるのがより好ましく、25.0mg/L以上250.0mg/L以下であるのがさらに好ましい。
【0062】
これにより、冷却液中における不本意な水溶性重合体の析出等を防止しつつ、熱間工具鋼の腐食疲労による冷却孔割れをより効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。また、冷却液の調製に要するコストの上昇をより好適に抑制することができる。
【0063】
冷却液中におけるモリブデン酸類の含有量(MoO4
2-量)をXM1[mg/L]、冷却液中における水溶性重合体の含有量をXP1[mg/L]としたとき、0.10≦XM1/XP1≦20.0の関係を満たすのが好ましく、0.20≦XM1/XP1≦10.0の関係を満たすのがより好ましく、0.30≦XM1/XP1≦5.0の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0064】
これにより、冷却液中における不本意なモリブデン酸類や水溶性重合体の析出等を防止しつつ、熱間工具鋼の腐食疲労による冷却孔割れをより効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。また、冷却液の調製に要するコストの上昇をさらに好適に抑制することができる。
冷却液は、前述した成分に加えて、さらに、アゾール系化合物を含んでいてもよい。
【0065】
これにより、冷却液が流れる環境に銅部材が存在するとき、銅防食剤として働く。銅部材が腐食すると腐食生成物が金型に付着し腐食を誘発する。また、モリブデン酸とアゾール系の相乗効果により防食性能が高まり、金型を構成する熱間工具鋼の腐食疲労による冷却孔割れをより効果的に防止することができ、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0066】
アゾール系化合物は、1つ以上の窒素原子を複素5員環構造中に有する複素環式化合物である。言い換えると、アゾール系化合物は、複素5員環を有する化合物であって、当該複素5員環を構成する5つの元素のうち少なくとも1つが窒素原子である化合物である。
【0067】
アゾール系化合物としては、例えば、ピロール等のような複素5員環中に1つの窒素原子を有する化合物(狭義のアゾール)、ピラゾール(1,2-ジアゾール)、イミダゾール(1,3-ジアゾール)等のような複素5員環中に2つの窒素原子を有する化合物(ジアゾール)、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、アミノトリアゾール等のような複素5員環中に3つの窒素原子を有する化合物(トリアゾール)、複素5員環中に4つの窒素原子を有する化合物(テトラゾール)、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザン等のような、複素5員環中に、窒素原子に加えて他のヘテロ原子を含む化合物や、これらの化合物が有する水素原子のうちの少なくとも1つが他の原子または原子団で置換された構造の化合物等が挙げられるが、アゾール系化合物としては、複素5員環構造中に含まれるヘテロ原子が窒素原子のみである化合物が好ましく、複素5員環中に3つの窒素原子を有する化合物(トリアゾール)であるのがより好ましく、ベンゾトリアゾールおよびトリルトリアゾールよりなる群から選択される少なくとも1種であるのがさらに好ましい。
【0068】
アゾール系化合物はそれ自体が防食性を有する成分であるが、前述したモリブデン酸類および水溶性重合体と併用することにより、これら三者が相乗的に作用し合い、金型を構成する熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生をさらに効果的に防止することができ、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0069】
冷却液中におけるアゾール系化合物の含有量は、0.5mg/L以上50.0mg/L以下であるのが好ましく、2.2mg/L以上46.0mg/L以下であるのがより好ましく、2.5mg/L以上30.0mg/L以下であるのがさらに好ましい。
【0070】
これにより、冷却液中における不本意なアゾール系化合物の析出等を防止しつつ、熱間工具鋼の腐食疲労による冷却孔割れをより効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。また、冷却液の調製に要するコストの上昇をより好適に抑制することができる。
【0071】
冷却液中におけるモリブデン酸類(MoO4
2-量)の含有量をXM1[mg/L]、冷却液中におけるアゾール系化合物の含有量をXA1[mg/L]としたとき、0.50≦XM1/XA1≦550の関係を満たすのが好ましく、1.0≦XM1/XA1≦100の関係を満たすのがより好ましく、3.0≦XM1/XA1≦70の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0072】
これにより、冷却液中における不本意なモリブデン酸類やアゾール系化合物の析出等を防止しつつ、熱間工具鋼の腐食疲労による冷却孔割れをより効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。また、冷却液の調製に要するコストの上昇をさらに好適に抑制することができる。
【0073】
冷却液は、必要に応じて、スライムや微生物等の付着の発生を防止するスライムコントロール剤を含んでいてもよい。スライムコントロール剤としては、例えば、2-メチル-3-イソチアゾリン、5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾリン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-3-イソチアゾリン、2-メチル3-イソチアゾロン、5-クロロ-2-メチル-3-イソチアゾロン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-3-イソチアゾロン、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン等の有機窒素硫黄系化合物等が挙げられ、これらから選択される1種以上を用いることができる。
【0074】
冷却液がスライムコントロール剤の含有量を含むものである場合、冷却液中におけるスライムコントロール剤の含有量は、0.1mg/L以上50mg/L以下であるのが好ましく、0.5mg/L以上30mg/L以下であるのがより好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0075】
また、冷却液は、水および上記のような成分に加えて、さらに、これら以外の成分を含んでいてもよい。以下、この項目内において、このような成分を「その他の成分」とも言う。
【0076】
その他の成分としては、例えば、上記以外の防食剤、上記以外のスケール防止剤、pH調整剤、トレーサー物質、酸化防止剤、賦形剤、増粘剤、ゲル化剤、着色剤、充填剤、結合剤、凝固剤、滑たく剤、潤滑剤、溶解補助剤、防腐剤、界面活性剤、乳化剤、分散剤、乳濁剤、懸濁剤、芳香剤、香料、コーティング剤等が挙げられ、これらから選択される1種以上を用いることができる。
【0077】
冷却液中におけるその他の成分の含有量は、500.0mg/L以下であるのが好ましく、300.0mg/L以下であるのがより好ましく、200.0mg/L以下であるのがさらに好ましい。
【0078】
本発明においては、冷却液について幅広いpHの領域で、前述したような効果が十分に発揮されるため、通常、冷却液のpHのモニタリングや管理が不要であるが、冷却液の25℃におけるpHは、特に限定されないが、7.0以上8.8以下であるのが好ましく、8.0以上8.7以下であるのがより好ましく、8.3以上8.6以下であるのがさらに好ましい。
【0079】
これにより、冷却液の構成成分の不本意な変性等をより効果的に防止することができ、熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生をより効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0080】
金型の冷却孔中における冷却液の最高温度は、特に限定されないが、40℃以上100℃以下であるのが好ましく、60℃以上80℃以下であるのがより好ましい。
【0081】
これにより、冷却液の構成成分の不本意な変性等をより効果的に防止することができ、熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生をより効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0082】
金型の冷却孔中における冷却液の最低温度は、特に限定されないが、10℃以上60℃以下であるのが好ましく、30℃以上50℃以下であるのがより好ましい。
【0083】
これにより、冷却液の粘性が上昇し配管抵抗が大きくなることによる冷却液の流量低下を十分に防止しつつ、冷却液の構成成分の不本意な変性等をより効果的に防止することができ、熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生をより効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0084】
冷却液は、通常、上述した成分を水と混合することにより調製される。
上述した複数種の成分は、同一のタイミングで水と混合されるものであってもよいし、異なるタイミングで水と混合されるものであってもよい。
【0085】
上述した複数種の成分は、同一のタイミングで水と混合する場合、当該複数種の成分を含む処理剤を予め用意しておき、必要時に、当該処理剤を水と混合してもよい。言い換えると、本発明において、冷却液は、水に、上述したモリブデン酸類および水溶性重合体を含む処理剤を添加したものであってもよい。
【0086】
これにより、例えば、予め処理剤を用意しておくことにより、冷却液の構成成分の劣化等を防止しつつ、保管することができ、必要時に冷却液の調製をより好適に行うことができる。また、調製される冷却液中における各成分の濃度調整等がより容易なものとなる。
【0087】
また、上述した成分を比較的高濃度で含む濃厚液を予め用意しておき、当該濃厚液を必要時に、水で希釈して冷却液としてもよい。
【0088】
以下の説明では、前述した複数種の成分を含む処理剤を用いて冷却液を調製する場合について中心的に説明する。
【0089】
[1-2-1]処理剤
本発明の一形態に係る処理剤は、少なくとも、モリブデン酸類および水溶性重合体を含むものである。
【0090】
処理剤中に含まれるモリブデン酸類および水溶性重合体としては、それぞれ、前述した条件のものを用いることができる。
これにより、前述したような効果が得られる。
【0091】
処理剤中におけるモリブデン酸類の含有量は、MoO4
2-量で、1.0質量%以上30.0質量%以下であるのが好ましく、3.0質量%以上25.0質量%以下であるのがより好ましく、3.5質量%以上20.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0092】
これにより、処理剤の保存安定性をより優れたものとしつつ、当該処理剤を用いて好適な冷却液を容易に調製することができる。また、当該冷却液を用いることにより、熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生をより効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。また、処理剤、冷却液の調製に要するコストの上昇をより好適に抑制することができる。
【0093】
処理剤中における水溶性重合体の含有量は、0.9質量%以上25.0質量%以下であるのが好ましく、2.0質量%以上20.0質量%以下であるのがより好ましく、2.5質量%以上12.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0094】
これにより、処理剤の保存安定性をより優れたものとしつつ、当該処理剤を用いて好適な冷却液を容易に調製することができる。また、当該冷却液を用いることにより、熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生をより効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。また、処理剤、冷却液の調製に要するコストの上昇をより好適に抑制することができる。
【0095】
処理剤中におけるモリブデン酸類の含有量(MoO4
2-量)をXM2[質量]、処理剤中における水溶性重合体の含有量をXP2[質量]としたとき、0.10≦XM2/XP2≦20.0の関係を満たすのが好ましく、0.20≦XM2/XP2≦10.0の関係を満たすのがより好ましく、0.30≦XM2/XP2≦5.0の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0096】
これにより、処理剤の保存安定性をより優れたものとしつつ、当該処理剤を用いて好適な冷却液を容易に調製することができる。また、当該冷却液を用いることにより、熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生をより効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。また、処理剤、冷却液の調製に要するコストの上昇をより好適に抑制することができる。
【0097】
処理剤は、モリブデン酸類および水溶性重合体に加えて、さらに、アゾール系化合物を含んでいてもよい。
【0098】
これにより、金型を構成する熱間工具鋼の腐食をより効果的に防止することができ、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。
【0099】
処理剤中に含まれるアゾール系化合物としては、前述した条件のものを用いることができる。
これにより、前述したような効果が得られる。
【0100】
処理剤中におけるアゾール系化合物の含有量は、0.05質量%以上2.5質量%以下であるのが好ましく、0.22質量%以上2.3質量%以下であるのがより好ましく、0.25質量%以上1.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0101】
これにより、処理剤の保存安定性をより優れたものとしつつ、当該処理剤を用いて好適な冷却液を容易に調製することができる。また、当該冷却液を用いることにより、熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生をより効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。また、処理剤、冷却液の調製に要するコストの上昇をより好適に抑制することができる。
【0102】
処理剤中におけるモリブデン酸類(MoO4
2-量)の含有量をXM2[質量%]、処理剤中におけるアゾール系化合物の含有量をXA2[質量%]としたとき、0.50≦XM2/XA2≦550の関係を満たすのが好ましく、1.0≦XM2/XA2≦100の関係を満たすのがより好ましく、3.0≦XM2/XA2≦70の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0103】
これにより、処理剤の保存安定性をより優れたものとしつつ、当該処理剤を用いて好適な冷却液を容易に調製することができる。また、当該冷却液を用いることにより、熱間工具鋼の腐食およびスケールの発生をより効果的に防止することができ、ダイカストによる鋳物の生産性のさらなる向上や、金型のさらなる長寿命化を図ることができる。また、処理剤、冷却液の調製に要するコストの上昇をより好適に抑制することができる。
【0104】
処理剤は、スライムコントロール剤を含んでいてもよい。
処理剤中に含まれるスライムコントロール剤としては、前述した条件のものを用いることができる。
【0105】
処理剤がスライムコントロール剤の含有量を含むものである場合、処理剤中におけるスライムコントロール剤の含有量は、0.05質量%以上2.5質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下であるのがより好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0106】
処理剤は、上記のような成分を溶解または分散させる液性媒体、言い換えると、溶媒または分散媒として機能する液体成分を、さらに含んでいてもよい。
【0107】
これにより、処理剤の取り扱いの容易性、処理剤と当該処理剤が適用される水との混合のし易さ等を向上させることができる。
【0108】
液性媒体としては、例えば、水;メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、シクロヘキサノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン等のケトン系化合物;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-メトキシエタノール、アリルアルコール、フルフリルアルコール、フェノール等の1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等のアルコール系化合物;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、2-メトキシエタノールや、前記多価アルコールの縮合物(多価アルコールエーテル)、前記多価アルコールまたは前記多価アルコールエーテルのアルキルエーテル(例えば、メチルエーテル、エチルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル等)等のエーテル系化合物;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系化合物;ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、オクタン、ジデカン、メチルシクロヘキセン、イソプレン等の脂肪族炭化水素系化合物;トルエン、キシレン、ベンゼン、エチルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素系化合物;ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、フルフリルアルコール等の芳香族複素環化合物系化合物;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系化合物;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化合物系化合物;アセチルアセトン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソペンチル、クロロ酢酸エチル、クロロ酢酸ブチル、クロロ酢酸イソブチル、ギ酸エチル、ギ酸イソブチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル等のエステル系化合物;トリメチルアミン、ヘキシルアミン、トリエチルアミン、アニリン等のアミン系化合物;アクリロニトリル、アセトニトリル等のニトリル系化合物;ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ系化合物;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタナール、アクリルアルデヒド等のアルデヒド系化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも水が好ましい。
【0109】
処理剤が液性媒体を含むものである場合、処理剤中における液性媒体の含有量は、40.0質量%以上97.5質量%以下であるのが好ましく、52.0質量%以上94.7質量%以下であるのがより好ましく、66.0質量%以上93.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0110】
また、処理剤は、上記以外の成分を含んでいてもよい。以下、この項目内において、このような成分を「その他の成分」とも言う。
【0111】
その他の成分としては、例えば、上記以外の防食剤、上記以外のスケール防止剤、pH調整剤、トレーサー物質、酸化防止剤、賦形剤、増粘剤、ゲル化剤、着色剤、充填剤、結合剤、凝固剤、滑たく剤、潤滑剤、溶解補助剤、防腐剤、界面活性剤、乳化剤、分散剤、乳濁剤、懸濁剤、芳香剤、香料、コーティング剤等が挙げられ、これらから選択される1種以上を用いることができる。
【0112】
処理剤中におけるその他の成分の含有量は、10.0質量%以下であるのが好ましく、7.0質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0113】
処理剤は、いかなる形態をなすものであってもよいが、処理剤の形態としては、例えば、タブレット状、粉末状(顆粒を含む)、ゲル状、液状、ペースト状等が挙げられる。
【0114】
[1-2-2]水
水は、上述した各成分が添加される水、例えば、処理剤が添加される水は、主成分としてH2Oを含むものであればよく、例えば、一般の上水道水、工業用水、井戸水、精製水等を用いることができる。精製水には、カルシウムやマグネシウムを取り除いた軟化水等が含まれる。
【0115】
従来においては、冷却液として軟化水を用いた場合、工業用水等に比べて溶解成分がスケール化しにくくなるものの、金型に対する腐食性が高くなるという問題があった。これに対し、本発明では、軟化水を用いた場合であっても、上記のような問題の発生を効果的に防止することができる。すなわち、軟化水を用いた場合、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0116】
また、従来においては、冷却液としてシリカ濃度の高い水を用いた場合、シリカ単体スケールが生じやすいという問題点があった。特に、シリカ濃度の高い水を軟水器により軟水化しない場合、水中のカルシウム、マグネシウムによる炭酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等のスケールが生成しやすくなり、このようなスケールが冷却孔に付着し、腐食を促進するという問題があった。シリカ濃度の高い水を軟水器により軟水化した場合、炭酸カルシウム、ケイ酸マグネシウムのスケールが生成しなくなるが、シリカ単体のスケールが生成して冷却孔表面に付着する。これに対し、本発明では、シリカ濃度の高い水を用いた場合であっても、上記のような問題の発生を効果的に防止することができる。すなわち、シリカ濃度の高い水を用いた場合、本発明による効果がより顕著に発揮される。より具体的には、シリカ濃度が10mg/L以上の水を用いた場合に本発明による効果はより顕著に発揮され、シリカ濃度が15mg/L以上の水を用いた場合に本発明による効果はさらに顕著に発揮される。
【0117】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されない。
【実施例0118】
以下に具体的な実施例をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に温度条件、湿度条件を示していない処理は、室温(25℃)、相対湿度50%において行ったものである。また、各種測定条件についても、特に温度条件、湿度条件を示していないものは、室温(25℃)、相対湿度50%における数値である。
【0119】
[3]処理剤の調製
(調製例A1)
モリブデン酸ナトリウム2水和物と、水溶性重合体としてのポリマレイン酸(重量平均分子量:1,000)と、アゾール系化合物としてのベンゾトリアゾールと、イオン交換水とを、所定の割合で混合することにより、処理剤を調製した。
【0120】
(調製例A2~A13)
処理剤の調製に用いる各成分の種類、比率を表1に示すように変更した以外は、前記調製例A1と同様にして処理剤を調製した。
【0121】
前記各調製例の処理剤の構成を表1にまとめて示す。なお、表1中、モリブデン酸類の含有量XM2は、MoO4
2-量の値である。また、表1中、ベンゾトリアゾールを「BTA」、トリルトリアゾールを「TTA」で示した。後に記載する表2中においても同様である。
【0122】
【0123】
[4]冷却液の調製
(調製例B1)
まず、塩化物イオン含有量:45mg/L、硫酸イオン含有量:25mg/L、シリカ含有量:25mg/Lとなるように、イオン交換水に、試薬(塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、35%塩酸、メタケイ酸ナトリウム九水和物を使用。いずれも、富士フイルム和光純薬株式会社製。)を添加し、冷却液調製用水とした。
【0124】
このようにして得られた冷却液調製用水に、調製例A1で得られた処理剤を、各成分の含有量が表2に示すものとなるように、添加、混合することにより、冷却液を調製した。
【0125】
(調製例B2~B10)
調製例A1で調製した処理剤の代わりに、それぞれ、調製例A2~A10で調製した処理剤を用い、各成分の含有量が表2に示すものとなるようにした以外は、前記調製例B1と同様にして冷却液を調製した。
【0126】
(調製例B11)
処理剤を用いずに、上記のようにして調製した冷却液調製用水を、そのまま冷却液として用いた。すなわち、本調製例の冷却液は、塩化物イオン含有量:45mg/L、硫酸イオン含有量:25mg/L、シリカ含有量:25mg/Lとなるように、イオン交換水に、試薬(塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、35%塩酸、メタケイ酸ナトリウム九水和物を使用。いずれも、富士フイルム和光純薬株式会社製。)を添加して調製された液体である。
【0127】
(調製例B12~B14)
調製例A1で調製した処理剤の代わりに、それぞれ、調製例A11~A13で調製した処理剤を用い、各成分の含有量が表2に示すものとなるようにした以外は、前記調製例B1と同様にして冷却液を調製した。
【0128】
調製例B1~B14の冷却液の条件を表2にまとめて示す。なお、表2中、モリブデン酸類の含有量XM1は、MoO4
2-量の値である。また、表2中、pHの値は、25℃におけるpHの値を示す。
【0129】
【0130】
[5]処理方法の実施
(実施例1)
まず、調製例B1で調製した冷却液1500mLを2000mLのビーカー内に入れ、ホットプレートで加熱しつつ、撹拌子で撹拌し、液温を40℃に調整した。
【0131】
一方、熱間工具鋼であるSKD61製の筒状の試験片(内径10mm、肉厚2mm、長さ100mm、#400湿式研磨で表面研磨されたもの)を用意し、この試験片の中空部内に、直径10mm、長さ100mm、出力100Wの内部熱電対付きの棒状のヒーターを挿入した。
【0132】
上記のようなヒーターを挿入した試験片を、
図1に示すように昇降機に設置し、ヒーター内部温度が400℃となるように制御した。
【0133】
ヒーターを挿入した試験片の下降→試験水中への浸漬(5秒間停止)→ヒーターを挿入した試験片の上昇→大気中停止(120秒間)を1サイクルとし、このサイクルを10,000回繰り返し行うことにより、鋳造時の金型の冷却孔の乾湿繰り返し環境を再現した。このときの試験片の表面温度は、
図2に示すように、80℃以上となった。
【0134】
(実施例2~10)
調製例B1で調製した冷却液の代わりに、それぞれ、調製例B2~B10で調製した冷却液を用いた以外は、前記実施例1と同様にして処理方法を実施した。
【0135】
(比較例1~4)
調製例B1で調製した冷却液の代わりに、それぞれ、調製例B11~B14で調製した冷却液を用いた以外は、前記実施例1と同様にして処理方法を実施した。
【0136】
[6]評価
前記各実施例および各比較例の処理方法を実施した後の試験片の外表面について、目視による観察を行い、スケールの発生状況および腐食の発生状況について、以下の基準に従い評価した。
【0137】
[6-1]スケールの発生
1:スケールの発生が全く認められない。
2:スケールの発生がほとんど認められない。
3:スケールの発生がわずかに認められる。
4:スケールの発生がはっきりと認められる。
5:スケールの発生が顕著に認められる。
【0138】
[6-2]腐食の発生
1:腐食の発生が全く認められない。
2:腐食の発生がほとんど認められない。
3:腐食の発生がわずかに認められる。
4:腐食の発生がはっきりと認められる。
5:腐食の発生が顕著に認められる。
【0139】
これらの結果を、表3にまとめて示す。
【0140】
【0141】
表3から明らかなように、本発明では、スケールの発生および腐食の発生が十分に防止され、満足のいく結果が得られたのに対し、比較例では満足のいく結果が得られなかった。より具体的には、処理剤を含まない冷却液を用いた比較例1では、腐食・スケールともに顕著に発生していた。また、一般的な冷却液中においては浸漬した鋼や軟鋼に対して防食性があるとされる処理剤を用いた比較例2~4では、80℃以上の温度での乾湿繰り返し環境においては、腐食・スケールの発生を十分に防止することができなかった。