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  • 特開-光ファイバの製造方法 図1
  • 特開-光ファイバの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120607
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 25/6226 20180101AFI20240829BHJP
   C03C 25/143 20180101ALI20240829BHJP
   C03C 25/26 20180101ALI20240829BHJP
   G02B 6/44 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C03C25/6226
C03C25/143
C03C25/26
G02B6/44 301B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027508
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100190470
【弁理士】
【氏名又は名称】谷澤 恵美
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 祐大
(72)【発明者】
【氏名】相馬 一之
(72)【発明者】
【氏名】小西 達也
【テーマコード(参考)】
2H250
4G060
【Fターム(参考)】
2H250AB04
2H250AB10
2H250AD32
2H250AD34
2H250BA03
2H250BA18
2H250BA25
2H250BA32
2H250BB07
2H250BB14
2H250BB33
2H250BC03
2H250BD10
2H250BD17
2H250BD18
4G060AA01
4G060AC12
4G060AC15
4G060AD43
4G060AD56
4G060CB09
4G060CB22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】マイクロベンドロスを抑制するとともに、被覆の除去性を確保することができる光ファイバの製造方法を提供する。
【解決手段】プライマリ樹脂層となる紫外線硬化型の樹脂組成物を塗布する工程と、プライマリ樹脂層を形成する工程とを含み、前記工程における紫外線照射炉の数N、紫外線照射炉の一炉あたりの照度φ[%]、紫外線照射炉の一炉あたりの照射時間t(秒)は、6.00×10-5≦N*φ*t≦2.88×10-1を満たし、プライマリ樹脂層を形成する工程における光開始剤の濃度C[mass%]は、式(1)に従っており、

開始反応速度定数kは、20以上100以下であり、暗反応速度定数kDは、0≦kD≦30であり、逆反応速度定数kRは、0≦kR≦10である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスファイバと、前記ガラスファイバの外周を被覆するプライマリ樹脂層と、を備える光ファイバの製造方法であって、
光開始剤を含み、前記プライマリ樹脂層となる紫外線硬化型の樹脂組成物を塗布する工程と、
前記樹脂組成物を紫外線照射炉により硬化させて前記プライマリ樹脂層を形成する工程と、を含み、
前記プライマリ樹脂層を形成する工程における前記紫外線照射炉の数N、前記紫外線照射炉の一炉あたりの照度φ、および、前記紫外線照射炉の一炉あたりの照射時間t(秒)は、
6.00×10-5≦N*φ*t≦2.88×10-1
を満たし、
前記プライマリ樹脂層を形成する工程における前記光開始剤の濃度C[mass%]は、前記光開始剤の初期濃度C0[mass%]、前記ガラスファイバの線速v[m/s]、前記紫外線照射炉の一炉あたりの照射長l[m]、前記紫外線照射炉間の非照射長L[m]、開始反応速度定数k、暗反応速度定数kD、逆反応速度定数kRにより表される式(1)に従っており、
【数1】

前記開始反応速度定数kは、20以上100以下であり、
前記暗反応速度定数kDは、0≦kD≦30であり、
前記逆反応速度定数kRは、0≦kR≦10である、
光ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記開始反応速度定数kは、30以上90以下である、
請求項1に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項3】
前記暗反応速度定数kDは、0以上20以下である、
請求項1または請求項2に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項4】
前記逆反応速度定数kRは、0以上8以下である、
請求項1または請求項2に記載の光ファイバの製造方法。
【請求項5】
前記紫外線照射炉により照射される紫外線のピーク波長は、350nm以上410nm以下である、
請求項1または請求項2に記載の光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光ファイバの製造方法が記載されている。この光ファイバの製造方法は、光ファイバ裸線に紫外線硬化型樹脂を塗布した後の光ファイバに半導体発光素子を用いて紫外線を照射する工程を含む。半導体発光素子には、紫外線LEDが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-65949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光ファイバを製造するときにプライマリ樹脂層の形成工程において紫外線照射が不十分であると、後の工程によりプライマリ樹脂層が再度硬化するおそれがある。これにより、プライマリ樹脂層のヤング率が増加し、光ファイバのマイクロベンドロスが増加するおそれがある。一方、プライマリ樹脂層の形成工程において紫外線照射が過多であると、過硬化によりプライマリ樹脂層がガラスファイバに密着し、被覆の除去性が低下するおそれがある。工事現場等では、テストのために光ファイバの被覆を除去する場合があるので、除去性を確保する必要がある。
【0005】
本開示は、マイクロベンドロスを抑制するとともに、被覆の除去性を確保することができる光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る光ファイバの製造方法は、ガラスファイバと、ガラスファイバの外周を被覆するプライマリ樹脂層と、を備える光ファイバの製造方法であって、光開始剤を含み、プライマリ樹脂層となる紫外線硬化型の樹脂組成物を塗布する工程と、樹脂組成物を紫外線照射炉により硬化させてプライマリ樹脂層を形成する工程と、を含み、プライマリ樹脂層を形成する工程における紫外線照射炉の数N、紫外線照射炉の一炉あたりの照度φ、および、紫外線照射炉の一炉あたりの照射時間t(秒)は、
6.00×10-5≦N*φ*t≦2.88×10-1
を満たし、プライマリ樹脂層を形成する工程における光開始剤の濃度C[mass%]は、光開始剤の初期濃度C0[mass%]、ガラスファイバの線速v[m/s]、紫外線照射炉の一炉あたりの照射長l[m]、紫外線照射炉間の非照射長L[m]、開始反応速度定数k、暗反応速度定数kD、逆反応速度定数kRにより表される式(1)に従っており、
【数1】

開始反応速度定数kは、20以上100以下であり、暗反応速度定数kDは、0≦kD≦30であり、逆反応速度定数kRは、0≦kR≦10である。なお、照度φは0から1までの値をとる設定値である(0≦φ≦1)。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、マイクロベンドロスを抑制するとともに、被覆の除去性を確保することができる光ファイバの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る光ファイバの軸方向に垂直な断面を示す図である。
図2図2は、光開始剤の反応率の実測値と予測値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係る光ファイバの製造方法は、ガラスファイバと、ガラスファイバの外周を被覆するプライマリ樹脂層と、を備える光ファイバの製造方法であって、光開始剤を含み、プライマリ樹脂層となる紫外線硬化型の樹脂組成物を塗布する工程と、樹脂組成物を紫外線照射炉により硬化させてプライマリ樹脂層を形成する工程と、を含み、プライマリ樹脂層を形成する工程における紫外線照射炉の数N、紫外線照射炉の一炉あたりの照度φ、および、紫外線照射炉の一炉あたりの照射時間t(秒)は、
6.00×10-5≦N*φ*t≦2.88×10-1
を満たし、プライマリ樹脂層を形成する工程における光開始剤の濃度C[mass%]は、光開始剤の初期濃度C0[mass%]、ガラスファイバの線速v[m/s]、紫外線照射炉の一炉あたりの照射長l[m]、紫外線照射炉間の非照射長L[m]、開始反応速度定数k、暗反応速度定数kD、逆反応速度定数kRにより表される式(1)に従っており、
【数2】

開始反応速度定数kは、20以上100以下であり、暗反応速度定数kDは、0≦kD≦30であり、逆反応速度定数kRは、0≦kR≦10である。なお、照度φは0から1までの値をとる設定値である(0≦φ≦1)。
【0010】
この光ファイバでは、マイクロベンドロスを抑制するとともに、被覆の除去性を確保することができる。
【0011】
(2)上記(1)では、開始反応速度定数kは、30以上90以下であってもよい。この場合、被覆の除去性が確実に確保される。
【0012】
(3)上記(1)または(2)では、暗反応速度定数kDは、0以上20以下であってもよい。この場合、被覆の除去性が確実に確保される。
【0013】
(4)上記(1)から(3)のいずれか一つにおいて、逆反応速度定数kRは、0以上8以下であってもよい。この場合、開始反応速度定数kは、30以上90以下とするのと合わせて除去性の確保とマイクロベンドロスの抑制ができる。
【0014】
(5)上記(1)から(4)のいずれか一つにおいて、紫外線照射炉により照射される紫外線のピーク波長は、350nm以上410nm以下であってもよい。この場合、紫外線を照射するLED(紫外線LED)を利用可能である。
【0015】
[本開示の実施形態の詳細]
本実施形態に係る光ファイバの製造方法の具体例を、必要により図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されず、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
(光ファイバ)
図1は、実施形態に係る光ファイバの軸方向に垂直な断面を示す図である。光ファイバ1は、ITU-T G.652規格、ITU-T G.654規格、及びITU-T G.657規格のうち少なくとも一つに準拠する。なお、ITU-T G.652規格に準拠するとは、G.652.A、G.652.B、G.652.C、及びG.652.Dのうち少なくとも一つに準拠することを意味する。ITU-T G.654規格に準拠するとは、G.654.A、G.654.B、G.654.C、G.654.D、及びG.654.Eのうち少なくとも一つに準拠することを意味する。ITU-T G.657規格に準拠するとは、G.657.A及びG.657.Bのうち少なくとも一つに準拠することを意味する。光ファイバ1は、ガラスファイバ10と、ガラスファイバ10の外周に設けられた被覆樹脂層20と、を備える。
【0017】
ガラスファイバ10は、コア12及びクラッド14を含む。クラッド14は、コア12を取り囲んでいる。コア12及びクラッド14は、石英ガラス等のガラスを主に含んでいる。例えば、コア11にはゲルマニウムを添加した石英ガラス、又は、純石英ガラスを用いることができる。クラッド14には純石英ガラス、又は、フッ素が添加された石英ガラスを用いることができる。ここで、純石英ガラスとは、不純物を実質的に含まない石英ガラスを示す。
【0018】
コア12の直径は、6.0μm以上12.0μm以下である。クラッド14の外径は、125μm±0.5μm、すなわち、124.5μm以上125.5μm以下である。クラッド14の外径は、ガラスファイバ10の直径と一致している。
【0019】
被覆樹脂層20は、プライマリ樹脂層22、セカンダリ樹脂層24及び着色樹脂層26を含む。プライマリ樹脂層22は、クラッド14の外周面に接しており、クラッド14の全体を被覆している。セカンダリ樹脂層24は、プライマリ樹脂層22の外周面に接しており、プライマリ樹脂層22の全体を被覆している。着色樹脂層26は、セカンダリ樹脂層24の外周面に接しており、セカンダリ樹脂層24の全体を被覆している。着色樹脂層26は、被覆樹脂層20の最外層を構成している。
【0020】
プライマリ樹脂層22及びセカンダリ樹脂層24は、紫外線硬化型の樹脂組成物の硬化物からなる。この樹脂組成物は、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、モノマー及び光重合開始剤(光開始剤)を含む。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はそれに対応するメタクリレートを意味する。モノマーとしては、重合性基を1つ有する単官能モノマー、重合性基を2つ以上有する多官能モノマーを用いることができる。モノマーは、2種以上を混合して用いてもよい。光重合開始剤としては、公知のラジカル光重合開始剤の中から適宜選択して使用することができる。樹脂組成物は、シランカップリング剤、光酸発生剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤等を更に含んでもよい。プライマリ樹脂層22及びセカンダリ樹脂層24は、顔料や染料を含まず、ほぼ透明である。
【0021】
着色樹脂層26は、着色インク(顔料、染料)を含む紫外線硬化型の樹脂組成物の硬化物からなる。この樹脂組成物は、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、モノマー及び光重合開始剤を含む。モノマーとしては、重合性基を1つ有する単官能モノマー、重合性基を2つ以上有する多官能モノマーを用いることができる。モノマーは、2種以上を混合して用いてもよい。光重合開始剤としては、公知のラジカル光重合開始剤の中から適宜選択して使用することができる。樹脂組成物は、シランカップリング剤、光酸発生剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤等を更に含んでもよい。光ファイバ1は、着色樹脂層26を備えるので、いわゆる光ファイバ着色心線である。
【0022】
プライマリ樹脂層22の厚さは、例えば、7.5μm以上36.5μm以下である。セカンダリ樹脂層24の厚さは、例えば、10μm以上40μm以下である。着色樹脂層16の厚さは、例えば、3μm以上10μm以下である。
【0023】
プライマリ樹脂層22のヤング率は、23℃において、0.05MPa以上0.60MPa以下である。セカンダリ樹脂層24のヤング率は、23℃において、800MPa以上2800MPa以下である。着色樹脂層26のヤング率は、23℃において、1000MPa以上1500MPa以下である。
【0024】
(光ファイバの製造方法)
本実施形態に係る光ファイバ1の製造方法は、線引工程、第1塗布工程、第1形成工程、第2塗布工程、第2形成工程、第3塗布工程、及び、第3形成工程を含む。光ファイバ1は、これらの各工程を経て製造される。以下、各工程について説明する。
【0025】
線引工程は、光ファイバ母材からガラスファイバ10を線引きする工程である。例えば、合成石英を主成分とする光ファイバ母材を用いることができる。光ファイバ母材は、光ファイバ線引機にて加熱溶融され、延伸される。
【0026】
第1塗布工程は、プライマリ樹脂層となる紫外線硬化型の樹脂組成物(第1樹脂組成物)を塗布する工程である。第1樹脂組成物は、ガラスファイバ10の外周面に塗布される。第1樹脂組成物を塗布する塗布装置として、例えば、ダイスが用いられる。
【0027】
第1形成工程は、第1樹脂組成物を紫外線の照射により硬化させてプライマリ樹脂層22を形成する工程である。第1形成工程では、紫外線照射炉を用い、第1樹脂組成物に紫外線を照射する。紫外線照射炉により第1樹脂組成物に照射される紫外線のピーク波長(最も照度の大きい波長)は、350nm以上410nm以下である。紫外線照射炉は、光源として複数の紫外線LEDを含む。複数の紫外線LEDは、たとえば、ガラスファイバ10の周りに放射状に複数配置される。第1形成工程は、少なくとも第1塗布工程の後に行われる。第1形成工程の紫外線照射条件は、紫外線照射炉の数N、紫外線照射炉の一炉あたりの照度φ、および、紫外線照射炉の一炉あたりの照射時間t(秒)が、
6.00×10-5≦N*φ*t≦2.88×10-1
を満たすように設定される。なお、照度φは0から1までの値をとる設定値である(0≦φ≦1)。
【0028】
第2塗布工程は、セカンダリ樹脂層となる紫外線硬化型の樹脂組成物(第2樹脂組成物)を塗布する工程である。第2塗布工程は、少なくとも第1塗布工程の後に行われる。第1塗布工程は、第1形成工程の前に行われてもよいし、第1形成工程の後に行われてもよい。第1塗布工程が第1形成工程の前に行われる場合、第2樹脂組成物は、第1樹脂組成物の外周面に塗布される(wet-on-wet方式)。第2塗布工程が第1形成工程の後に行われる場合、第2樹脂組成物は、プライマリ樹脂層22の外周面に塗布される(wet-on-dry方式)。第2樹脂組成物を塗布する塗布装置として、例えば、ダイスが用いられる。
【0029】
第2形成工程は、第2樹脂組成物を紫外線の照射により硬化させてセカンダリ樹脂層24を形成する工程である。第2形成工程では、紫外線照射炉を用い、第2樹脂組成物に紫外線を照射する。紫外線照射炉は、光源として複数の紫外線LEDを含む。複数の紫外線LEDは、たとえば、ガラスファイバ10の周りに放射状に複数配置される。上記wet-on-wet方式では、第1形成工程は、第2塗布工程の後に第2形成工程と共に行われる。この場合、第1形成工程及び第2形成工程は、実質的に一つの工程として実施される。同じ光源から第1樹脂組成物及び第2樹脂組成物の両方にまとめて紫外線を照射することによりこれらを硬化させ、プライマリ樹脂層22及びセカンダリ樹脂層24を形成する。上記wet-on-dry方式では、第1形成工程及び第2形成工程は、別々に行われる。第1形成工程は、第2塗布工程の前に行われる。第2形成工程は、第2塗布工程の後に行われる。
【0030】
第3塗布工程は、着色樹脂層26となる紫外線硬化型の樹脂組成物(第3樹脂組成物)を塗布する工程である。第3樹脂組成物は、セカンダリ樹脂層24の外周面にダイスを用いて塗布される。第3塗布工程は、第2形成工程の後に行われる。
【0031】
第3形成工程は、第3樹脂組成物を紫外線の照射により硬化させて着色樹脂層26を形成する工程である。第3形成工程では、紫外線ランプを光源として用い、第3樹脂組成物に紫外線を照射する。光源は、例えば、ガラスファイバ10の周りに放射状に複数配置される。第3形成工程は、第3塗布工程の後に行われる。
【0032】
以上により、ガラスファイバ10及び被覆樹脂層20を備える光ファイバ1が製造され、ボビンに巻き取られる。着色樹脂層26を被覆する前のファイバを「素線」、着色樹脂層26を被覆した後のファイバを「心線」ともいう。素線は、ガラスファイバ10、プライマリ樹脂層22、及びセカンダリ樹脂層24を備える。心線は、光ファイバ1である。光ファイバ1の製造方法では、第2形成工程の実施後に素線を一旦ボビンに巻き取ってもよい。この場合、ボビンから素線を繰り出して、第3塗布工程及び第3形成工程を実施し、心線を別のボビンに巻き取る。
【0033】
(硬化反応の解析)
第1形成工程において紫外線照射が不十分であると、第2形成工程や第3形成工程によりプライマリ樹脂層22が再度硬化するおそれがある。これにより、プライマリ樹脂層22のヤング率が増加し、光ファイバ1のマイクロベンドロスが増加するおそれがある。一方、第1形成工程において紫外線照射が過多であると、過硬化によりプライマリ樹脂層22がガラスファイバ10に密着し、被覆樹脂層20の除去性が低下するおそれがある。そこで、マイクロベンドロスを抑制するとともに、被覆樹脂層20の除去性を確保することができる第1形成工程の条件を系統的に決定すべく、化学反応速度論に基づいた光開始剤の残存量予測モデルを立案し、検討を行った。
【0034】
モデル化において仮定した紫外線硬化型樹脂の硬化反応機構は、以下の通りであり、反応を三種類に分解して考察した。ここで、PIは光重合開始剤、R・はラジカル分子、hνは紫外線、kは開始反応速度定数、kDは暗反応速度定数を表す。
【数3】
【0035】
通常の紫外線硬化型樹脂の硬化時、紫外線の光子数は光重合開始剤の分子数に対して大過剰である。よって、開始反応は、擬一次反応と仮定した。紫外線硬化型樹脂の硬化度は、開始反応における紫外線総照射量(UV-Dose)だけでなく、紫外線照射炉の一炉あたりの照度や紫外線照射炉間の非照射時間(間欠照射)に影響を受ける。今回、紫外線照射炉の一炉あたりの照度や間欠照射の影響を暗反応及び逆反応として組み込んだ。
【0036】
第1形成工程における光開始剤の濃度C[mass%]は、開始反応を表す項をCin、暗反応を表す項をCD、逆反応を表す項をCRとすると、以下の式(2)で表される。
C=Cin×CD+CR...(2)
【0037】
Cin、CD、CRの各項は、以下の式(3)から(5)で表される。ここで、C0は光開始剤の初期濃度[mass%]、vはガラスファイバ10の線速[m/s]、lは紫外線照射炉の一炉あたりの照射長[m]、Lは紫外線照射炉間の非照射長[m]、Nは紫外線照射炉の数、φは紫外線照射炉の一炉あたりの照度、tは紫外線照射炉の一炉あたりの照射時間[秒]である。
【数4】
【0038】
式(2)において、Cin、CD、CRの各項を式(3)から式(5)で置き換えると、以下の式(1)が得られる。第1形成工程における光開始剤の濃度Cは、式(1)に従う。
【数5】
【0039】
式(1)を用い、実測値にフィッテイングすることにより、各反応速度定数k、kD、rの範囲を求めた。すなわち、開始反応速度定数kは、20以上100以下であり、30以上90以下であってもよく、一例として、66であってもよい。暗反応速度定数kDは、0≦kD≦30であり、0以上20以下であってもよく、一例として0であってもよい。逆反応速度定数kRは、0≦kR≦10であり、0以上8以下であってもよく、一例として0であってもよい。このように必要となる光開始剤の残存量に対して、上記パラメータφ、N、v、l、Lを最適化させることにより、プライマリ樹脂層22の除去性の確保及びマイクロベンドロスの抑制が可能となる。
【0040】
式(1)に各種条件を代入することにより、残存濃度(反応率)を事前に予測することができる。図2は、光開始剤の反応率の実測値と予測値(計算値)との関係を示すグラフである。図2に示されるように、上記モデルを用いてシミュレーションを行った結果、実際の現象と非常によい一致を示した。グラフに示す光開始剤反応率は次の式で与えられる。
100(C0-C)/C0
【0041】
(実験例)
実験例として、サンプル1から12に係る光ファイバをプライマリ樹脂層の紫外線硬化型樹脂の種類を変えて製造し、プライマリ樹脂層の除去性及びマイクロベンドについて評価した。評価結果を表1に示す。
【表1】
【0042】
サンプル1から12には、樹脂AからJをそれぞれ用いた。第2塗布工程は、wet-on-wet方式で行った。表1に示される各反応定数k、kD、kRは、実験的に求めた値である。
【0043】
除去性について、以下のように評価した。まず、ファイバストリッパを用いて光ファイバの被覆樹脂層を除去し、残渣の有無を確認した。次に、露出したガラスファイバの表面に対し、アルコール拭きを1回行い、残渣の有無を再度確認した。被覆除去した時点で残渣がない場合を「very good」で示し、アルコール拭き1回で残渣がない場合を「good」で示し、アルコール拭き1回で残渣がある場合を「poor」で示した。
【0044】
マイクロベンドについて、プライマリ樹脂層のヤング率の変化量(ΔPOM)により評価した。プライマリ樹脂層のヤング率の変化量が小さいほどマイクロベンドによる伝送損失が小さいと評価した。具体的には、着色樹脂層形成前の素線、及び着色樹脂層形成後の心線を用い、それぞれ23℃でのPullout Modulus(POM)法によりプライマリ樹脂層のヤング率を測定し、その差をΔPOMとした。表1では、ΔPOMが40%以下の場合を「very good」で示し、40%超かつ50%以下の場合を「good」で示し、ΔPOMが50%超の場合を「poor」で示した。
【0045】
POM法では、素線又は心線の2箇所を2つのチャック装置で固定し、2つのチャック装置の間の被覆樹脂層部分を除去した。ここで、被覆樹脂層部分とは、素線の場合、プライマリ樹脂層及びセカンダリ樹脂層であり、心線の場合、プライマリ樹脂層、セカンダリ樹脂層及び着色樹脂層である。次いで、一方のチャック装置を固定し、他方のチャック装置を固定したチャック装置の反対方向に緩やかに移動させた。素線又は心線における移動させるチャック装置に挟まれている部分の長さをL、チャックの移動量をZ、プライマリ樹脂層の外径をDp、ガラスファイバの外径をDf、プライマリ樹脂層のポアソン比をn、チャック装置の移動時の荷重をWとした場合、下記式からプライマリ樹脂層のヤング率を求めた。
ヤング率[MPa]=((1+n)W/πLZ)×ln(Dp/Df)
【0046】
サンプル2から8および11は、実施例に相当し、除去性及びマイクロベンドがいずれも「very good」か「good」であった。サンプル1,9,10および12は、比較例に相当し、除去性又はΔPOMが「poor」であった。サンプル1では開始反応速度定数kが20未満なので、またサンプル9では逆反応速度定数kRが10超なので、いずれも第1形成工程(線引工程)で開始剤が多く残存してしまい、硬化度が不十分となり、ΔPOMが50%を超えたと考えられる。サンプル10では暗反応速度定数kRが30超なので、またサンプル12では開始反応速度定数kが100超かつ暗反応速度定数kDが30超なので、いずれも過硬化となり、除去性が低下したと考えられる。
【0047】
以上、実施形態について説明してきたが、本開示は必ずしも上述した実施形態及び変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…光ファイバ
10…ガラスファイバ
12…コア
14…クラッド
20…被覆樹脂層
22…プライマリ樹脂層
24…セカンダリ樹脂層
26…着色樹脂層
図1
図2