(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120608
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】事故発生予測システム、事故発生予測装置、事故発生予測方法、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
G06N 20/00 20190101AFI20240829BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20240829BHJP
G06Q 50/08 20120101ALI20240829BHJP
【FI】
G06N20/00 130
G06Q10/04
G06Q50/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027509
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】服部 克哉
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L010AA04
5L049AA04
5L049CC07
5L050CC07
(57)【要約】
【課題】物体の配置に応じて事故が発生する可能性を定量的に評価する。
【解決手段】モデル学習部は第1の物体が所定の位置にある第1の空間において前記第1の物体の配置を示す第1入力データと前記第1の物体の配置に係る第1の空間において発生した第1の事故の分布を示す第1出力データと、を含む訓練データを用いて、前記第1入力データと前記第1出力データとの関連を示す事故発生予測モデルを学習し、事故発生予測部は前記事故発生予測モデルを用いて、第2の物体が所定の位置にある第2の空間において前記第2の物体の配置を示す第2入力データから前記第2の物体の配置に係る第2の空間において発生する可能性を有する第2の事故の分布を示す第2出力データを生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の物体が所定の位置にある第1の空間において前記第1の物体の配置を示す第1入力データと、前記第1の空間において発生した第1の事故の分布を示す第1出力データと、を含む訓練データを用いて、前記第1入力データと前記第1出力データとの関連を示す事故発生予測モデルを学習するモデル学習部と、
前記事故発生予測モデルを用いて、第2の物体が所定の位置にある第2の空間において前記第2の物体の配置を示す第2入力データから前記第2の空間において発生する可能性を有する第2の事故の分布を示す第2出力データを生成する事故発生予測部と、
を備える事故発生予測システム。
【請求項2】
前記第1入力データと前記第2入力データは、それぞれ物体の種類ごとに当該種類の物体が設置される領域を示し、前記第1出力データは、発生した事故の分布を示し、前記第2出力データは、事故が発生する確率の分布を示す
請求項1に記載の事故発生予測システム。
【請求項3】
前記第1入力データは、前記第1の空間における環境の分布を示す第1の環境情報を含み、
前記第2入力データは、前記第2の空間における環境の分布を示す第2の環境情報を含む
請求項2に記載の事故発生予測システム。
【請求項4】
前記第1出力データは、発生した事故ごとの重大度を示す情報を含み、
前記第2出力データは、発生する事故の重大度の分布を示す
請求項3に記載の事故発生予測システム。
【請求項5】
前記物体の種類は、機材、建材、建物、足場および車両を含み、
前記環境情報は、気象情報を含む
請求項3に記載の事故発生予測システム。
【請求項6】
第1の物体が所定の位置にある第1の空間において前記第1の物体の配置を示す第1入力データと、前記第1の空間において発生した第1の事故の分布を示す第1出力データと、を含む訓練データを用いて、前記第1入力データと前記第1出力データとの関連を示す事故発生予測モデルを学習するモデル学習部と、
前記事故発生予測モデルを用いて、第2の物体が所定の位置にある第2の空間において前記第2の物体の配置を示す第2入力データから前記第2の空間において発生する可能性を有する第2の事故の分布を示す第2出力データを生成する事故発生予測部と、
を備える事故発生予測装置。
【請求項7】
コンピュータに請求項6に記載の事故発生予測装置として機能させるためのプログラム。
【請求項8】
事故発生予測システムにおける事故発生予測方法であって、
モデル学習部が、
第1の物体が所定の位置にある第1の空間において前記第1の物体の配置を示す第1入力データと、前記第1の空間において発生した第1の事故の分布を示す第1出力データを含む訓練データを用いて、前記第1入力データと前記第1出力データとの関連を示す事故発生予測モデルを学習するモデル学習ステップと、
事故発生予測部が、
前記事故発生予測モデルを用いて、第2の物体が所定の位置にある第2の空間において前記第2の物体の配置を示す第2入力データから前記第2の空間において発生する可能性を有する第2の事故の分布を示す第2出力データを生成する事故発生予測ステップと、
を実行する事故発生予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の実施形態は、事故発生予測システム、事故発生予測装置、事故発生予測方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
建設現場などの作業空間においては、種々の機器、材料、運搬具などの資材が配置される。これらの資材や建物の配置が予期せぬ事故の原因になることがある。そのため、事故の発生を予防し、より安全な作業空間を設営することが重要である。従来から事故防止に資する情報システムが提案されている。例えば、特許文献1には、建物の安全に係る安全情報を提供する安全情報提供システムが記載されている。当該安全情報提供システムは、提供対象となる安全情報を記憶し、関連語の学習とともに建設に係る学習用情報を記憶し、学習用データベースに記憶された学習用情報から機械学習によって互いに関連する関連語のセットを特定し、キーワードを入力し、入力されたキーワードの関連語とされた関連キーワードを特定し、特定された関連キーワードを用いて記憶された安全情報の検索を行い、提供する安全情報を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建設現場では、資材や仮設事務所等の建物の配置による事故の発生への影響に対する予測がなされることがある。かかる予測は、人手で資材や建物の配置図を作成し、作成した配置図を参照してなされることが通例である。そのため資材や建物の配置図の完成度は、作業者の経験や技量により異なる傾向がある。また、配置図の目視に頼ると事故が頻発する箇所が見逃され、何ら対策をとらずに放置されるおそれがある。ひいては、新たな事故が再発しかねない。そのため、建設現場では物体の配置に応じて事故が発生する可能性をより確実に評価する手段が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様に係る事故発生予測システムは、第1の物体が所定の位置にある第1の空間において前記第1の物体の配置を示す第1入力データと前記第1の物体の配置に係る第1の空間において発生した第1の事故の分布を示す第1出力データと、を含む訓練データを用いて、前記第1入力データと前記第1出力データとの関連を示す事故発生予測モデルを学習するモデル学習部と、前記事故発生予測モデルを用いて、第2の物体が所定の位置にある第2の空間において前記第2の物体の配置を示す第2入力データから前記第2の物体の配置に係る第2の空間において発生する可能性を有する第2の事故の分布を示す第2出力データを生成する事故発生予測部と、を備える。
【0006】
第2の態様に係る事故発生予測装置は、第1の物体が所定の位置にある第1の空間において前記第1の物体の配置を示す第1入力データと前記第1の物体の配置に係る第1の空間において発生した第1の事故の分布を示す第1出力データと、を含む訓練データを用いて、前記第1入力データと前記第1出力データとの関連を示す事故発生予測モデルを学習するモデル学習部と、前記事故発生予測モデルを用いて、第2の物体が所定の位置にある第2の空間において前記第2の物体の配置を示す第2入力データから前記第2の物体の配置に係る第2の空間において発生する可能性を有する第2の事故の分布を示す第2出力データを生成する事故発生予測部と、を備える。
【0007】
第3の態様に係る事故発生予測方法は、モデル学習部が、第1の物体が所定の位置にある第1の空間において前記第1の物体の配置を示す第1入力データと前記第1の物体の配置に係る第1の空間において発生した第1の事故の分布を示す第1出力データと、を含む訓練データを用いて、前記第1入力データと前記第1出力データとの関連を示す事故発生予測モデルを学習するモデル学習ステップと、事故発生予測部が、前記事故発生予測モデルを用いて、第2の物体が所定の位置にある第2の空間において前記第2の物体の配置を示す第2入力データから前記第2の物体の配置に係る第2の空間において発生する可能性を有する第2の事故の分布を示す第2出力データを生成する事故発生予測ステップと、を実行する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る事故発生予測システム、事故発生予測装置、事故発生予測方法、および、プログラムによれば、物体の配置に応じて事故が発生する可能性が定量的に評価される。そのため、より安全な作業環境の設営、事故により発生する損害の防止または抑制に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る事故発生予測システムの機能構成例を示す概略ブロック図である。
【
図2】本実施形態に係る事故発生予測モデルの学習と推論の例を示す説明図である。
【
図3】本実施形態に係る入力データの構成例を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る出力データの構成例について説明する。
【
図5】本実施形態に係る入力データと出力データの他の例を示す図である。
【
図6】本実施形態に係る事故発生予測例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る事故発生予測システム1の機能構成例を示す概略ブロック図である。
まず、事故発生予測システム1の概要について説明する。事故発生予測システム1は、事故発生予測モデルを用いて、ある空間における物体の配置を示す入力データから、当該空間において発生する可能性を有する事故の分布を示す出力データを生成する。事故発生予測モデルとして、公知の機械学習モデルを用いることができる。事故発生予測システム1は、訓練データを用いて入力データと出力データとの関連を示す事故発生予測モデルを学習しておく。訓練データは、既知の複数の訓練セットを含んで構成される。個々の訓練セットは、既存の空間における物体の配置を示す入力データと、当該空間において発生した事故の分布を示す出力データを含み、これらを個々の訓練セットごとに関連付けて構成される。
【0011】
事故発生予測モデルの学習に用いられる既知の訓練セットに含まれる入力データと出力データは、事故の分布の予測に用いられる入力データとその予測結果を示す出力データと異なる。本願では、訓練セットに含まれる入力データと出力データを、それぞれ「第1入力データ」と「第1出力データ」と呼ぶことがある。また、事故の分布の予測に用いられる入力データと予測結果を示す出力データを、それぞれ「第2入力データ」と「第2出力データ」と呼ぶことがある。そして、第1入力データと第2入力データを、「入力データ」と総称することがある。第1出力データと第2出力データを、「出力データ」と総称することがある。なお、第1入力データに示される物体、第2入力データに示される物体を、それぞれ「第1の物体」、「第2の物体」と呼ぶことがある。第1の物体の個数、第2の物体の個数は、それぞれ1個に限らず複数となりうる。また、第1の物体が配置される空間と、第2入力データに示される物体が配置される空間を、それぞれ「第1の空間」、「第2の空間」と呼ぶことがある。第1の空間における空間の分布を示す環境情報と、第2の空間における空間の分布を示す環境情報を、それぞれ「第1の環境情報」、「第2の環境情報」と呼ぶことがある。
【0012】
事故発生予測システム1は、事故発生予測装置10を備える。事故発生予測装置10の機能構成例について説明する。事故発生予測装置10は、制御部110、記憶部120、表示部132、操作部134および入出力部136を含んで構成される。
【0013】
制御部110は、事故発生予測装置10の機能を発揮させるための処理、ならびに、それらの処理を制御する。制御部110は、入力処理部112と、モデル学習部114と、事故発生予測部116と、出力処理部118とを備える。制御部110は、汎用のプロセッサにより、所定のプログラムに記述された指令で示される処理を実行してコンピュータシステムとして実現してもよいし、専用の演算回路により実現してもよい。制御部110の各部の構成例については、後述する。なお、本願では、プログラムに記述された指令で示される処理を実行することを、単に「プログラムの実行」、または、「プログラムを実行する」などと呼ぶことがある。
【0014】
記憶部120は、各種のデータを記憶する。記憶されるデータには、制御部110の処理に用いられるパラメータ、データ、処理により得られるデータなどが含まれうる。記憶部120は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などの記憶媒体を含んで構成される。
表示部132は、制御部110が入力される表示データに従って各種の情報を表示する。表示部132は、例えば、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、などのいずれを備えてもよい。
【0015】
操作部134は、ユーザの操作を受け付け、受け付けた操作に応じて操作信号を生成する。操作部134は、生成した操作信号を制御部110に出力する。操作部134は、例えば、マウス、タッチセンサ、ジョイスティック、などの汎用の部材を有してもよいし、ボタン、つまみ、などの専用の部材を有してもよい。
入出力部136は、事故発生予測装置10とは別個の機器と無線または有線で各種のデータを入出力可能に接続する。入出力部136は、通信ネットワークを経由して別個の機器と接続してもよい。入出力部136は、例えば、所定の入出力規格に準拠した入出力インタフェースと所定の通信方式に準拠した通信インタフェースの一方または両方を備える。
【0016】
次に、制御部110の構成例について説明する。
入力処理部112は、主に入力データの取得に係る処理を行う。入力処理部112は、例えば、操作部134から入力される操作信号に従って、処理対象とする対象空間において、物体の配置を指定する。即ち、入力処理部112は、操作信号に基づいて対象空間に設置される物体ごとに、その物体に占有される領域を特定する。入力処理部112は、予め定めた設定可能範囲のうち、操作信号で指示される一部の領域を対象空間として定めてもよい。また、入力処理部112は、操作信号に基づいて指示される物体の種類を特定し、特定した物体の種類の情報を、その物体の情報と関連付けて付加してもよい。入力処理部112は、作業予定または作業中の対象空間(即ち、第2の空間)内に特定した物体ごとの領域の分布を示すデータを第2入力データとして生成することができる。物体ごとの領域の分布は、配置図として表現されうる。入力処理部112は、生成した第2入力データを記憶部120に記憶する。
【0017】
物体には、プレハブ等の仮設事務所、各種の資材、機器、車両、廃材、などが含まれうる。対象空間には、建設工事の工事現場が含まれる。対象空間には、工事現場の他、その周囲領域、その他、事故などの危害防止に要する部分も含まれてもよい。周囲領域には、例えば、資材置き場、運搬車両もしくは作業員の通行領域などのいずれか、または、いずれかの組合せが含まれてもよい。危害防止に要する部分には、工事対象外の建築物、構造物、道路などのいずれか、または、いずれかの組み合わせが含まれてもよい。
【0018】
第1入力データは、第2入力データと同様な手法を用いて生成することができる。但し、第1入力データは、既存の対象空間(即ち、第1の空間)における既存の物体の配置を示す。入力処理部112は、第1の空間において事故が発生した場所である事故発生場所の分布を示すデータを第1出力データとして生成することができる。入力処理部112は、生成した第1入力データと第1出力データを含むセットを訓練セットとして記憶部120に記憶する。記憶部120に集積された複数の訓練セットを有するデータが訓練データをなす。
【0019】
モデル学習部114は、記憶部120に記憶された訓練データを用いて、第1入力データと第1出力データの関連を示す事故発生予測モデルを算出する(モデル学習)。訓練データは、複数の訓練セットを含む。個々の訓練セットは、第1入力データと当該第1入力データに関連する第1出力データを含む。第1入力データは、第1の空間における物体の配置を示し、第1出力データは、当該第1の空間における事故の分布を示す。物体の配置は、例えば、二次元平面に分布したサンプル点ごとに物体の有無を示すサンプル値で表される。二次元平面に分布した複数のサンプル点の集合により一定の大きさを有する領域が表される。
【0020】
入力データは、二次元平面に分布した多数のサンプル点のそれぞれに設定された入力サンプル値を示すビットマップ形式のデータとして構成されうる。入力サンプル値により、対応するサンプル点における物体の有無が表される。例えば、入力サンプル値が1以上の整数であるか否かにより物体の有無が表される。入力サンプル値として1以上の整数をとる隣接するサンプル点の集合により個々の物体が占有する領域が表される。また、入力サンプル値をなす1以上の整数を用いて物体の種類が表されてもよい。出力データは、それぞれのサンプル点に設定された出力サンプル値を示す。個々の出力サンプル値は、例えば、その位置における事故の発生確率を示す実数をとる。出力サンプル値の集合により第1の空間における事故の確率分布が表される。この確率分布は、第1空間における事故が発生する可能性の分布に相当する。個々の出力サンプル値は、最小値が0、最大値が1となるように正規化されてもよい。
【0021】
モデル学習部114は、訓練データ全体として第1入力データから事故発生予測モデルを用いて推定される事故の確率分布と、第1出力データで示される事故の確率分布との差分がより低減(最小化)されるように、事故発生予測モデルのパラメータセットを再帰的に更新する。モデル学習部114は、モデル学習により得られるパラメータセットを記憶部120に記憶する。パラメータセットは、事故発生予測部116において発生する事故の確率分布の推定(推論)に用いられる。モデル学習および推論については、後述する。
【0022】
事故発生予測部116は、第2入力データを取得し、所定の事故発生予測モデルを用いて第2の空間において発生する事故の確率分布を算出し、算出した確率分布を示す第2出力データを生成する(推論)。確率分布は、発生する可能性の程度の分布に相当する。事故発生予測部116は、新たに記憶部120に記憶された第2入力データを推論対象として採用してもよいし、操作部134からの操作信号で指示される第2入力データを記憶部120から読み出してもよい。事故発生予測部116は、生成した第2出力データを、その基礎となる第2入力データと関連付けて記憶部120に記憶する。
【0023】
出力処理部118は、主に出力データに関する処理を行う。出力処理部118は、新たに記憶された第2出力データと、その第2出力データに対応する第2入力データを読み出す。出力処理部118は、読み出した第2出力データに示される第2の空間における事故の確率分布に基づく予測事故情報を第1入力データに示される物体の配置(平面配置図)に重畳し表示画面を構成する。出力処理部118は、予測事故情報として、例えば、確率分布を表す図を配置図に重畳する。出力処理部118は、確率分布において発生確率が所定の閾値よりも高い領域である高確率領域を1個または複数個定め、個々の高確率領域の代表点を特定してもよい。代表点は、例えば、重心、発生確率の極大点などのいずれであってもよい。出力処理部118は、予測事故情報の他の例として、代表点を示す図形を配置図に重畳してもよい。出力処理部118は、構成した表示画面を示す表示データを表示部132に出力する。表示部132には、出力処理部118から入力される表示データに基づく表示画面が表示される。
【0024】
次に、事故発生予測モデルの学習と推論について説明する。
図2は、本実施形態に係る事故発生予測モデルの学習と推論の例を示す説明図である。事故発生予測装置10は、(I)学習ステップと(II)推論ステップとを実行可能とする。(I)学習ステップは、第2の空間における物体の配置から事故発生予測モデルを用い、その空間において発生する可能性を有する事故の分布を推定するためのパラメータセットを定める処理である。(I)学習ステップにおいて、モデル学習部114は、教師あり学習(Supervised Learning)を実行する。教師あり学習において、モデル学習部114は、既知の入力値を示す第1入力データと目標値を示す第1出力データを含むデータセットを訓練セットとして用い、入力値に対して事故発生予測モデルに従って算出される推定値が目標値に近似するようにパラメータセットを再帰的に算出する。
【0025】
例えば、入力値として第2の空間における物体の配置を示すサンプル点ごとのサンプル値が用いられる。目標値として第2の空間における事故の確率分布を示すサンプル点ごとの確率値が用いられる。(I)学習ステップでは、モデル学習部114は、推定値と目標値との差分の大きさを示す損失関数が複数セットの訓練セットを跨ぎ、訓練データ全体として最小化されるように事故発生予測モデルのパラメータセットを再帰的に算出する。ここで、最小化とは絶対的に最小にすることの他、極力最小にすることを目的としてモデルパラメータを推定または探索するための演算を行うことを意味する。従って、最小化の過程で損失関数は単調に減少するとは限られず、一時的に増加することもありうる。
【0026】
損失関数として、例えば、平均二乗誤差(SSD:Sum of Squared Differences)、交差エントロピー誤差(cross entropy error)などを用いることができる。パラメータセットを定める手法は、最急降下法(steepest descent)、確率的最適化(stochastic optimization)、逆誤差伝播法(back-propagation)、などのいずれの手法でもよい。モデル学習部114は、損失関数が所定の損失関数の閾値以下となったとき、モデルが収束したと判定し、(I)学習ステップを停止する。モデル学習部114は、その時点で算出されたパラメータセットを示す事故発生予測モデルデータを記憶部120に記憶する。
【0027】
(II)推論ステップは、取得される第2入力データに示される第2の空間における物体の配置から事故発生予測モデルを用いて、その空間において発生する可能性を有する事故の分布を推定する処理である。事故発生予測部116は、予め記憶された事故発生予測モデルデータを記憶部120から読み出し、読み出した事故発生予測モデルデータに示されるパラメータセットを事故発生予測モデルに展開する。(II)推論ステップにおいて、事故発生予測部116は、第2の空間における物体の配置を示す入力値に対し、事故発生予測モデルを用いてサンプル点ごとの推定値を算出する。事故発生予測部116は、サンプル点ごとに算出した推定値を示す第2出力データを生成する。生成された第2出力データにより第2の空間における事故の確率分布が表現される。事故発生予測部116は、生成した第2出力データを記憶部120に記憶する。
【0028】
事故発生予測モデルとして、例えば、パーセプトロン(Perceptron)、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)、回帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)、などのニューラルネットワークが適用可能である。ニューラルネットワークは、一般に入力層、1層以上の中間層および出力層を備える。各階層は、複数の節点(ノード)を有する。本実施形態では、入力層、出力層は、それぞれ入力データ、出力データのサンプル点数に相当する数の節点を有する。出力層をなす各節点には、その入力値として1個以上の実数が入力され、出力値として0以上1以下の値域内の実数を出力する活性化関数が設定される。活性化関数として、例えば、正接双曲線関数(tanh)、ロジスティック関数、などが利用可能である。
【0029】
次に、本実施形態に係る入力データの構成例について説明する。
図3は、本実施形態に係る入力データの構成例を示す図である。
図3の左右において、対象空間における物体の配置図とデータ構成がそれぞれ示される。配置図は、作業予定の対象空間の例として工事現場における物体が占める領域を示す。
図3左の例では、物体の種類として、建物、足場、建材および運搬車に分類されている。入力処理部112は、図形描画機能を有し、例示される配置図を作成してもよい。
【0030】
入力処理部112は、例えば、対象空間に対応する所定の作業空間を表す作業用ウィンドウを表示部132に表示させ、作業空間において操作部134から入力される操作信号で指示される位置、形状、および、大きさをもって、個々の物体の領域を特定する。入力処理部112は、特定した物体の領域を表す図形を作業空間に追加する。入力処理部112は、操作信号で指示される作業用ウィンドウ上の図形に対応する物体を特定し、その物体の種類として操作信号で指示される種類を設定する。これにより、対象空間における物体の配置を示す配置図が生成される。
【0031】
配置図は、ビットマップ形式の入力データで表される。即ち、対象空間における物体の配置が複数のサンプル点それぞれのサンプル値で表現される。
図3右の例では、個々の物体が占める領域が、1以上の整数をサンプル値として有するサンプル点で表される。サンプル値により物体の種類が示される。例えば、建物、足場、建材、運搬車に対するサンプル値は、それぞれ1、2、3、4である。サンプル値が0とは、そのサンプル点に対応する位置に物体が配置されていないことを示す。
【0032】
次に、本実施形態に係る出力データの構成例について説明する。
図4は、本実施形態に係る出力データの構成例について説明する。
図4左の例では、対象空間において発生した事故の分布が、
図3に例示される物体の配置に重ね合わせて表示されている。事故の分布は、足場と建材に挟まれる領域の大部分を占める。
図4右の例では、発生した事故に係る領域が、負の整数-1をサンプル値として有するサンプル点で表される。負の整数を用いることで、物体が配置される位置と物体が配置されず、かつ、事故が発生しない位置と区別される。
図4に例示される出力データは、出力処理部118により表示画面を構成する際に生成されてもよい。訓練セットをなす出力データは、事故が発生する位置に対するサンプル値を1とし、事故が発生しない位置に対するサンプル点のサンプル値を0とするように構成されてもよい。これにより、推論により値域が0以上1以下となる出力サンプル値の集合からなる事故の確率分布が得られる。
【0033】
上記の説明では、対象空間における物体の配置を説明変数とし、事故が発生する可能性を示す確率分布を目的変数として推定する場合を主としたが、事故の発生は物体の配置以外の要因にも依存することがある。入力データには、さらに対象空間における環境を示す環境情報が説明変数として含まれてもよい。環境情報は、例えば、その要素として気象情報を含む。気象情報は、天気、気温、湿度などのいずれか1つもしくは複数の所定の項目を含む。
また環境情報として、地域に関する情報が含まれてもよい。例えば、同じ平面配置でも、北海道と九州では事故が発生する可能性に違いがあるということも考えられる。それは降雪量や台風の頻度の違いといった気象面の問題もあれば、地域によって使用される重機の大きさ・台数に違いがあるなどの地域特性の問題なども考えられるので、そのような情報をデータに反映することを目的とする。
そのような環境情報を含む場合、モデル学習部114は、環境情報を含む第1入力データと事故の分布を示す第1出力データを訓練セットとして有する訓練データを用いて事故発生予測モデルを学習する。モデル学習部114は、訓練セットをなす環境情報として、事故発生期間における環境情報を取得しておく。
【0034】
事故発生予測部116は、環境情報を含む第2入力データから学習された事故発生予測モデルを用いて事故の確率分布を推定することができる。事故発生予測部116は、第2入力データをなす環境情報として、現時点または作業予定期間における環境情報を取得する。環境情報は、例えば、操作部134からの操作信号で指示されてもよい。環境情報は、入出力部136を用いて計測器から入力されてもよいし、環境情報サーバからネットワークを経由して取得されてもよい。計測器は、例えば、温度計、湿度計などのいずれであってもよい。環境情報サーバは、例えば、気象情報提供者が運用するサーバであってもよい。環境情報には、気象情報以外の情報、例えば、地理情報など他種の情報が含まれてもよい。
【0035】
推定対象とする情報は、事故の発生確率には限られない。第1出力データをなす目的変数には、例えば、個々の事故の重大度が含まれてもよい。重大度は、実数値で表されてもよいし、その段階(レベル)を示す整数値で表されてもよい。重大度は、例えば、危険性、被害の規模、損害額、被害者数、などのいずれの数値であってもよい。
図5の例では、モデル学習部114は、モデル学習において第1の空間における物体の配置を示すビットマップとn+1(nは、0以上の予め定めた整数)個の要素値α
0,…,α
nを示す環境情報とを含む第1入力データと、第1の空間における事故の分布を示すビットマップと、事故ごとの重大度χを示す第1出力データを訓練セットとして有する訓練データを用いる。モデル学習において得られた事故発生予測モデルのパラメータセットが推論に用いられる。
【0036】
事故発生予測部116は、推論において第2の空間における物体の配置を示すビットマップと環境情報とを含む第2入力データから、事故発生予測モデルを用いて発生する可能性がある事故の重大度の分布を推定する。なお、事故発生予測モデルを用いて出力される推定値は、一般に実数値で表される。重大度が予め定めた値域における整数値で表される場合には、事故発生予測部116は、算出された推定値を値域内の最も近似する整数に離散化して重大度を定めてもよい。
【0037】
次に、本実施形態に係る事故発生予測例について説明する。
図6は、本実施形態に係る事故発生予測例を示す説明図である。
図6の例では、入力処理部112は、第2の空間として工事現場における現場想定図を含む第2入力データを取得する。現場想定図は、矩形の領域をなす工事現場において各1個の建物、足場、運搬車、および、2個の建材が配置される状況を示す。入力処理部112は、ビットマップ化において工事現場における個々の離散位置に対応するサンプル点ごとに存在する物体の種類を示す入力サンプル値を設定する。入力処理部112は、いずれの物体の存在しない離散位置に対応するサンプル点に対する入力サンプル値として予め定めた値(
図6の例では、0)を設定する。この値により、サンプル点に対応する位置に物体が存在しないことが表される。入力処理部112は、生成したビットマップに対し、工事現場における天気と気温を示す環境情報(図示せず)を含めて第2入力データを生成する。天気の種類は、予め定めた整数値で表されてもよい。気温は、その温度を示す実数値で表される。
【0038】
事故発生予測部116は、生成した第2入力データから事故発生予測モデルを用いて事故の重大度の例として危険度の分布を推定し、推定した危険度の分布を示す第2出力データを生成する。
出力処理部118は、危険度の分布をなすサンプル点ごとの推定値を予め定めた複数段階のうち、いずれか1段階の整数に離散化する。
図6の例では、サンプル点ごとの危険度は、3段階のうち1段階の整数値(例えば、0、-1、-2のいずれか1通り、数値が小さいほど危険度が高いことを示す)をとるように離散化される。出力処理部118は、離散化において、例えば、予め設定した段階ごとの推定値の値域を示す離散化情報を参照し、推定値が含まれる段階を特定し、特定した段階を示す整数を定めることができる。出力処理部118は、入力処理部112から物体の配置を示すビットマップに、サンプルごとに離散化して危険度を示すビットマップを統合し、第2の空間における物体の配置と危険度の分布を示す表示画面を事故発生予測図として構成する。出力処理部118は、事故発生予測図を示す表示データを表示部132に出力する。
【0039】
図6に例示される事故発生予測図では、2個の建材のうち、一方の建材と足場に挟まれる領域が危険度大と推定され、運搬車と足場に挟まれる領域が危険度中と推定される。その他の領域には、危険度小と推定され、危険度に関して特段の表示がなされていない。事故発生予測図を視認したユーザは、工事現場における物体の配置と発生する可能性がある事故の危険度の分布を直感的に把握することができる。そのため、危険度が相対的に高い領域においては、事故予防対策、注意喚起などが促される。または、建材、運搬車など比較的容易に移動できる物体に対しては、工事現場における事故の可能性または重大性が低減するように移動が促される。
【0040】
なお、出力処理部118は、推定される重大度が所定の基準値よりも高い領域となる注意領域を特定し、その注意領域における事故に関する情報を事故注意情報として記憶部120に記憶してもよい。出力処理部118は、操作部134から入力される操作信号での指示に応じて事故注意情報を含む表示画面を表示部132に出力してもよい。これにより、注意領域と関連付けて事故注意情報が案内されるので、重大な事故が発生する可能性が高い注意領域において事故に対する注意が喚起される。
【0041】
また、出力処理部118は、注意領域における物体の形状、物体が配置されていない空間の形状を示す情報を注意情報に含めてもよい。また、出力処理部118は、それらの物体および空間それぞれの向きを示す情報を注意情報に含めてもよい。これにより、物体や空間の形状もしくは向きと重大な事故との関係を示す情報が取得される。
【0042】
また、入力処理部112は、事故の確率分布の推定に用いた第2入力データに対して、その第2の空間において現実に発生した事故の分布を示す第1出力データを取得してもよい。その場合、モデル学習部114は、その第2入力データを新たな第1入力データとし、取得した第1出力データを含む訓練セットを構成してもよい。モデル学習部114は、新たに構成した訓練セットを用いて事故発生予測モデルを再学習してもよい。モデル学習部114は、再学習において新たに構成した訓練セットを用い、既存の訓練セットを用いずに事故発生予測モデルのパラメータセットを更新してもよい。
なお、入力処理部112は、事故の重大度の分布の推定に用いた第2入力データに対して、その第2の空間において現実に発生した事故の分布と、事故ごとの重大度を示す第1出力データを取得してもよい。取得した第1出力データは、上記のように訓練セットの一部として事故発生予測モデルの再学習に用いられてもよい。
【0043】
上記の説明では、事故発生予測システム1において、事故発生予測装置10がモデル学習部114と事故発生予測部116をいずれも有する場合を例にしたが、これには限られない。事故発生予測装置10は、モデル学習部114と事故発生予測部116のいずれか一方を備え、他の機器が他方を備えてもよい。その場合、事故発生予測装置10と他の機器は、無線または有線で各種のデータを入出力可能としていればよい。
【0044】
事故発生予測装置10は、パーソナルコンピュータ、タブレット端末装置、携帯電話機などの汎用の情報機器を用いてもよく、専用の機器を用いてもよい。表示部132、操作部134および入出力部136の一部または全部は、事故発生予測装置10とは別体とし、それらが事故発生予測装置10において省略されてもよい。但し、その一部または全部は、事故発生予測装置10と無線または有線で各種のデータを入出力可能とする。
【0045】
以上に説明したように、本実施形態に係る事故発生予測システム1は、第1の空間において所定の位置にある第1の物体の配置を示す第1入力データと第1の物体の配置に係る第1の空間において発生した第1の事故の分布を示す第1出力データと、を含む訓練データを用いて、第1入力データと第1出力データとの関連を示す事故発生予測モデルを学習するモデル学習部114と、事故発生予測モデルを用いて、第2の空間において所定の位置にある第2の物体の配置を示す第2入力データから第2の物体の配置に係る第2の空間において発生する可能性を有する第2の事故の分布を示す第2出力データを生成する事故発生予測部116と、を備える。
この構成によれば、第1の空間における第1の物体の配置と第1の事故の分布との関連を示す事故発生予測モデルが学習され、学習された事故発生予測モデルを用いて、第2の空間における第2の物体の配置から第2の事故の分布が予測される。そのため、第1の空間である既存の作業現場における物体の配置と事故の分布との関連に基づいて、第2の空間である新たな作業現場における物体の配置から事故の分布が予測される。予測結果に基づいて作業現場における各種物体の配置の見直し、予測される事故に対する注意喚起、その他の予防対策が促される。そのため、事故によって発生する可能性がある損害の抑制が期待される。
【0046】
第1入力データと第2入力データは、それぞれ物体の種類ごとに当該種類の物体が設置される領域を示し、第1出力データは、発生した事故の分布を示し、第2出力データは、事故が発生する確率の分布を示すものであってもよい。物体の種類には、例えば、機材、建材、建物、足場および車両が含まれてもよい。
この構成により、第1の空間における物体の種類と第1の事故の分布との関連に基づいて、第2の空間における第2の物体の種類をさらに考慮して第2の事故の分布が予測される。対象空間における物体の種類に応じた事故の確率分布が得られるため、物体の種類に応じた物体の配置の見直し、事故に対する注意喚起の対策が促される。
【0047】
第1入力データは、第1の空間における環境の分布を示す第1の環境情報を含み、第2入力データは、第2の空間における環境の分布を示す第2の環境情報を含んでもよい。環境情報には、例えば、気象情報を含まれてもよい。
この構成により、第1の空間における環境情報と第1の事故の分布との関連に基づいて、第2の空間における環境情報をさらに考慮して第2の事故の分布が予測される。対象空間における環境情報に応じた事故の確率分布が得られるため、環境情報に応じた事故に対する注意喚起などの対策が促される。
【0048】
第1出力データは、発生した事故ごとの重大度を示す情報を含み、第2出力データは、発生する事故の重大度の分布を示してもよい。
この構成により、第1の空間における事故の分布と第1の事故ごとの重大度との関連に基づいて、第2の重大度の分布が予測される。対象空間における事故の重大度の分布が得られるため、事故の重大度の分布に応じた物体の配置の見直し、事故に対する注意喚起などの対策が促される。
【0049】
以上、本実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成は、上述の各構成に限られるものではなく、本実施形態の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。上述の各構成は、任意に組み合わせることができ、その一部が省略されてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…事故発生予測システム、10…事故発生予測装置、110…制御部、112…入力処理部、114…モデル学習部、116…事故発生予測部、118…出力処理部、120…記憶部、132…表示部、134…操作部、136…入出力部