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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120614
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】エッチング装置及びエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20240829BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
H01L21/302 101E
B81C1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027515
(22)【出願日】2023-02-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「大気圧プラズマジェット加工法が拓く自由曲面デバイス」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】中澤 謙太
(72)【発明者】
【氏名】岩田 太
【テーマコード(参考)】
3C081
5F004
【Fターム(参考)】
3C081AA18
3C081BA02
3C081CA02
3C081CA14
3C081EA02
3C081EA07
5F004BB03
5F004DA26
5F004EA28
5F004EA37
5F004EA38
5F004EB08
(57)【要約】
【課題】簡易なステップによって微細構造を得る。
【解決手段】エッチング装置1は、大気圧プラズマPをピペット照射端21aから被加工物9に照射するプラズマ照射機構2と、プラズマ照射機構2のピペット照射端21aと被加工物9との相対的な位置を変更する位置決め機構3と、位置決め機構3及びプラズマ照射機構2の動作を制御するコントローラ35と、を備える。コントローラ35は、大気圧プラズマPの照射が停止しているプラズマ照射機構2のピペット照射端21aから被加工物9までの距離が、大気圧プラズマPの照射を開始可能な照射開始距離D1となるようにプラズマ照射機構2及び被加工物9の少なくとも一方を移動させる位置合わせ動作S1Aと、大気圧プラズマPをピペット照射端21aから被加工物9に照射させるプラズマ照射動作S1Bと、を交互に実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧プラズマを照射端から被加工物に照射するプラズマ照射機構と、
前記プラズマ照射機構の前記照射端と前記被加工物との相対的な位置を変更する位置決め機構と、
前記位置決め機構及び前記プラズマ照射機構の動作を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記大気圧プラズマの照射が停止している前記プラズマ照射機構の前記照射端から前記被加工物までの距離が、前記大気圧プラズマの照射を開始可能な照射開始距離となるように前記プラズマ照射機構及び前記被加工物の少なくとも一方を移動させる位置合わせ動作と、
前記大気圧プラズマを前記照射端から前記被加工物に照射させる照射動作と、を交互に実行させる、エッチング装置。
【請求項2】
前記位置合わせ動作は、前記プラズマ照射機構の前記照射端から前記被加工物に設定される被加工面までの距離が、前記照射開始距離よりも小さい原点距離となるように前記プラズマ照射機構及び前記被加工物の少なくとも一方を移動させる動作と、前記大気圧プラズマの照射が停止している前記プラズマ照射機構の前記照射端から前記被加工物までの距離が、前記照射開始距離となるように前記プラズマ照射機構及び前記被加工物の少なくとも一方を移動させる動作と、を含む請求項1に記載のエッチング装置。
【請求項3】
前記照射動作は、前記被加工物に対して前記照射端を静止させた状態で、前記大気圧プラズマを前記照射端から前記被加工物に照射させる、請求項1又は2に記載のエッチング装置。
【請求項4】
前記照射動作は、前記被加工物に対して前記照射端を前記大気圧プラズマの照射方向と交差する方向に相対的に移動させながら前記大気圧プラズマを前記照射端から前記被加工物に照射させる、請求項1又は2に記載のエッチング装置。
【請求項5】
前記照射動作は、前記被加工物に対して前記照射端を前記大気圧プラズマの照射方向に相対的に移動させながら前記大気圧プラズマを前記照射端から前記被加工物に照射させる、請求項1又は2に記載のエッチング装置。
【請求項6】
前記大気圧プラズマの極性とは逆の極性を有するイオンを発生するイオン発生部を備え、
前記コントローラは、前記照射動作の後に前記イオン発生部から前記イオンを照射させる、請求項1に記載のエッチング装置。
【請求項7】
エッチング装置を用いて行うエッチング方法であって、
前記エッチング装置は、大気圧プラズマを照射端から被加工物に照射するプラズマ照射機構と、前記プラズマ照射機構の前記照射端と前記被加工物との相対的な位置を変更する位置決め機構と、を備え、
前記大気圧プラズマの照射が停止している前記プラズマ照射機構の前記照射端から前記被加工物までの距離が、前記大気圧プラズマの照射を開始可能な照射開始距離となるように前記プラズマ照射機構及び前記被加工物の少なくとも一方を移動させる位置合わせステップと、
前記大気圧プラズマを前記照射端から前記被加工物に照射させる照射ステップと、を有し、
前記位置合わせステップと前記照射ステップとを交互に行う、エッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング装置及びエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスは、社会的基盤となる集積回路の技術分野だけでなく機械構造物を有するMicroelectromechanical Systems(MEMS)の技術分野においても重要な役割を果たしている。従って、半導体プロセスは、更なる発展が期待されている。センサーネットワーク及びInternet of Things(IoT)の発展に伴い、MEMSは、応用規模の拡大が予想されている。その結果、MEMSは、ますます重要な技術として認識されている。MEMSの基盤技術は加工法である。加工法の発展によってMEMSは発展してきたと言っても過言ではない。例えば、いわゆるボッシュプロセスに代表される垂直深堀エッチング法の発明によりバルクMEMSが発展してきた。これらの技術は、スキャニングミラーなどの素子の実現化に寄与している。
【0003】
いわゆるボッシュプロセスは、プラズマを用いて高アスペクト比の微細構造を製作する方法である。特許文献1、2は、真空プラズマを用いて高アスペクト比の微細構造を製作する方法を開示する。特許文献1、2が開示する技術では、エッチングと側面保護膜の形成とを交互に行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5501893号明細書
【特許文献2】特許第4512533号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Daisuke Morimatsu et al, “Development of a scanning nanopipetteprobe microscope for fine processing using atmospheric pressure plasma jet”, JapaneseJournal of Applied Physics, (JP), The Japan Society of Applied Physics, 2016, 55,08NB15。
【非特許文献2】Shun Toda, Kenta Nakazawa, Akihisa Ogino, Masaru Shimomura andFutoshi Iwata, ”Micromachining of polymers using atmospheric pressureinductively coupled helium plasma localized by a scanning nanopipette probemicroscope”, Journal of Micromechanics and Microengineering, (GBR), IOPPublishing, 10 May 2021, 31, 6, p.1-10。
【非特許文献3】Kenta Nakazawa, Sho Yamamoto, Ei Nakagawa, Akihisa Ogino, MasaruShimomura, “Atmospheric He/O2 plasma jet fine etching with ascanning probe microscope”, AIP Advances, (United States), American Instituteof Physics, September 1 2020, 10, 9, p.1-7。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高アスペクト比の微細構造を形成するエッチングステップでは、微細パターンを形成するために露光装置及び真空プラズマエッチング装置を用いる。一般に、これらの装置は、高価である。さらに、高アスペクト比の微細構造の製作には、多くのステップを要する。その結果、製作に要する期間が長くなる。そのうえ、それらのステップには、多くのノウハウが必要である。
【0007】
本発明は、簡易なステップによって微細構造を得ることができるエッチング装置及びエッチング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態であるエッチング装置は、大気圧プラズマを照射端から被加工物に照射するプラズマ照射機構と、プラズマ照射機構の照射端と被加工物との相対的な位置を変更する位置決め機構と、位置決め機構及びプラズマ照射機構の動作を制御するコントローラと、を備える。コントローラは、大気圧プラズマの照射が停止しているプラズマ照射機構の照射端から被加工物までの距離が、大気圧プラズマの照射を開始可能な照射開始距離となるようにプラズマ照射機構及び被加工物の少なくとも一方を移動させる位置合わせ動作と、大気圧プラズマを照射端から被加工物に照射させる照射動作と、を交互に実行する。
【0009】
このエッチング装置は、プラズマ照射機構の照射端から被加工物までの距離を照射可能距離に設定する位置合わせ動作と、大気圧プラズマを照射するプラズマ照射動作と、を交互に繰り返す。つまり、エッチング加工を行う際に、エッチングマスクの形成を要しない。従って、このエッチング装置は、エッチングマスクの形成を要しない簡易なステップによって微細構造を得ることができる。
【0010】
一形態であるエッチング装置において、位置合わせ動作は、プラズマ照射機構の照射端から被加工物に設定される被加工面までの距離が、照射開始距離よりも小さい原点距離となるようにプラズマ照射機構及び被加工物の少なくとも一方を移動させる動作と、大気圧プラズマの照射が停止しているプラズマ照射機構の照射端から被加工物までの距離が、照射開始距離となるようにプラズマ照射機構及び被加工物の少なくとも一方を移動させる動作と、を含んでよい。この動作によれば、大気圧プラズマの照射と停止とを繰り返した場合であっても、プラズマ照射機構の照射端から被加工物までの距離を、照射ごとに適切に管理することができる。
【0011】
一形態であるエッチング装置において、照射動作は、被加工物に対して照射端を静止させた状態で、大気圧プラズマを照射端から被加工物に照射させてもよい。この動作によれば、被加工物に対して照射端を静止させた状態でエッチングを行うことができる。
【0012】
一形態であるエッチング装置において、照射動作は、被加工物に対して照射端を大気圧プラズマの照射方向と交差する方向に相対的に移動させながら大気圧プラズマを照射端から被加工物に照射させてもよい。この動作によれば、溝形状の微細構造を得ることができる。
【0013】
一形態であるエッチング装置において、照射動作は、被加工物に対して照射端を大気圧プラズマの照射方向に相対的に移動させながら大気圧プラズマを照射端から被加工物に照射させてもよい。この動作によっても、穴形状の微細構造を得ることができる。
【0014】
一形態であるエッチング装置は、大気圧プラズマの極性とは逆の極性を有するイオンを発生するイオン発生部を備え、コントローラは、照射動作の後にイオン発生部からイオンを照射させてもよい。この構成によれば、大気圧プラズマに起因する帯電を解消することができる。
【0015】
本発明の別の形態は、エッチング装置を用いて行うエッチング方法であって、エッチング装置は、大気圧プラズマを照射端から被加工物に照射するプラズマ照射機構と、プラズマ照射機構の照射端と被加工物との相対的な位置を変更する位置決め機構と、を備え、大気圧プラズマの照射が停止しているプラズマ照射機構の照射端から被加工物までの距離が、大気圧プラズマの照射を開始可能な照射開始距離となるようにプラズマ照射機構及び被加工物の少なくとも一方を移動させる位置合わせステップと、大気圧プラズマを照射端から被加工物に照射させる照射ステップと、を有し、位置合わせステップと照射ステップとを交互に行う。
【0016】
このエッチング方法によっても、エッチングマスクの形成を要しない簡易なステップによって微細構造を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易なステップによって微細構造を得ることができるエッチング装置及びエッチング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(a)は、実施形態のエッチング装置を示す概略図である。図1(b)は、ピペットの位置決めを説明するための図である。
図2図2(a)、図2(b)、図2(c)及び図2(d)は、第1実施形態のエッチング装置における主要な動作を示すステップ図である。
図3図3(a)、図3(b)、図3(c)、図3(d)及び図3(e)は、第1実施形態のエッチング装置における主要な動作を示す図2に続くステップ図である。
図4図4(a)、図4(b)、図4(c)及び図4(d)は、第2実施形態のエッチング装置における主要な動作を示すステップ図である。
図5図5(a)、図5(b)、図5(c)、図5(d)及び図5(e)は、第3実施形態のエッチング装置における主要な動作を示すステップ図である。
図6図6(a)、図6(b)、図6(c)及び図6(d)は、第4実施形態のエッチング装置における主要な動作を示すステップ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
<第1実施形態>
図1(a)は、第1実施形態のエッチング装置1を示す図である。エッチング装置1は、大気圧プラズマPを用いて被加工物9の深堀加工を行う。エッチングを用いた深堀加工では、一般には、いわゆるエッチングマスクを被加工物に設けるステップを要する。その一方で、第1実施形態のエッチング装置1は、エッチングマスクを要することなく被加工物9の深堀加工を行う。エッチング装置1は、構造幅が1mm以下であると共にアスペクト比が1を超える微細構造を形成することができる。
【0021】
また、エッチング装置1は、自由曲面を含む微細構造を形成することもできる。例えば、エッチング装置1がエッチングによって縦穴を設ける場合に、縦穴は壁面に囲まれる。この壁面は、略平面状とすることもできるし、一定の曲率を有する曲面状とすることもできる。さらに、この壁面は、いわゆる自由曲面とすることもできる。また、エッチング装置1が溝を設ける場合に、溝は底面を有する。この溝の底面についても、略平面状とすることもできるし、一定の曲率を有する曲面状とすることもできる。さらに、溝の底面を、いわゆる自由曲面とすることもできる。
【0022】
エッチング装置1は、いわゆるバルクマイクロマシニング技術への利用が可能である。エッチング装置1によればMEMSと称される微小構造を有する半導体部品を製造することができる。例えば、エッチング装置1は、一例としてマイクロミラーなどの光学部品、加速度センサや角速度センサといった計測部品などの製造に適用できる。
【0023】
エッチング装置1は、プラズマ照射機構2と、位置決め機構3と、を有する。プラズマ照射機構2は、被加工物9に照射する大気圧プラズマPを発生する。なお、大気圧プラズマPは、特に制限はない。例えば、プラズマ照射機構2は、大気圧プラズマPとして誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)を発生してもよいし、容量結合プラズマ(Capacitively Coupled Plasma:CCP)を発生してもよい。
【0024】
位置決め機構3は、被加工物9をプラズマ照射機構2に対して移動させる。換言すると、位置決め機構3が被加工物9を移動させることによって、大気圧プラズマPの照射を受ける被加工物9の場所が変更される。
【0025】
なお、エッチング装置1は、固定された被加工物9に対してプラズマ照射機構2を移動させることにより、大気圧プラズマPの照射を受ける被加工物9の位置を変更することも可能である。さらには、エッチング装置1は、被加工物9及びプラズマ照射機構2の双方を移動させることにより、大気圧プラズマPの照射を受ける被加工物9の位置を変更することも可能である。本実施形態では、位置決め機構3は、被加工物9をプラズマ照射機構2に対して移動させるものとして説明する。
【0026】
プラズマ照射機構2は、ナノピペット21と、電極22と、高電圧電源23と、ガス供給源24と、を有する。プラズマ照射機構2は、大気圧環境下で生成されたプラズマを用いる。大気圧環境下で生成されたプラズマを以下の説明において「大気圧プラズマP」と称する。プラズマ照射機構2は、プラズマの生成に真空環境を準備する必要がないので、真空装置といった高価な設備を必要としない点で有利である。
【0027】
ナノピペット21は、被加工物9の限定された位置に大気圧プラズマPを照射する。ナノピペット21は、ガラス製の管状の部材である。ピペット照射端21aには、開口が設けられており、この開口から大気圧プラズマPが被加工物9に向けて照射させる。ピペット照射端21aの直径は、一例として20μmである。開口の内径は、一例として10μmであってもよいし、200nm以上30nm以下であってもよい。
【0028】
ナノピペット21の基端部21bには、電極22が差し込まれている。電極22には、高電圧電源23が接続されている。高電圧電源23は、例えば10kVppの交流電圧を電極22に与える。なお、高電圧電源23が電極22に与える電圧の値や周波数は、加工の条件に応じて適宜変更してよい。ナノピペット21の基端部21bには、さらに、ガス供給管241も差し込まれている。ガス供給管241には、ガス供給源24が接続されている。ガス供給源24は、プラズマ原料ガスとしてヘリウムガスを供給する。さらに、ガス供給源24は、反応性ガスとして酸素ガスを供給する。なお、ガス供給源24が供給するガスの種類は、加工の条件に応じて適宜変更してよい。
【0029】
プラズマ照射機構2は、イオナイザー25(イオン発生部)を有する。イオナイザー25は、一例としてX線方式である。イオナイザー25は、大気圧プラズマの極性とは逆の極性を有するイオンを発生する。大気圧プラズマPを被加工物9に照射すると、アスペクト比の高い微細構造が形成された被加工物9に帯電が生じる。被加工物9の帯電は、ピペット照射端21aの位置決め精度を低下させる可能性がある。イオナイザー25によれば、被加工物9の帯電を除去できるので、ピペット照射端21aの位置決め精度の低下を抑制できる。また、ナノピペット21は、絶縁体であるガラスにより形成されている。ナノピペット21は、大気圧プラズマPの発生によって帯電する。イオナイザー25は、イオンをナノピペット21に照射する。イオンの照射を受けたナノピペット21は、電気的に中性になる。その結果、ナノピペット21の帯電が、被加工物9への大気圧プラズマPの照射に与える影響を抑制することができる。
【0030】
位置決め機構3は、ステージユニット31と、励振アクチュエータ32と、光学ユニット33と、信号処理ユニット34と、コントローラ35と、を有する。
【0031】
ステージユニット31は、ピペット照射端21aに対する被加工物9の位置を変更する。具体的には、ステージユニット31は、X軸及びY軸によって定義される平面に沿って被加工物9を移動させる。さらに、ステージユニット31は、Z軸の方向に沿って被加工物9を移動させる。
【0032】
ステージユニット31は、XYリニアステージ311と、Zステージ312と、ステージベース313と、を有する。ステージベース313には、被加工物9が載置される。なお、ステージベース313は、接地電位GNDに対して接続されている。ステージベース313は、Zステージ312に載置される。Zステージ312は、XYリニアステージ311に載置される。XYリニアステージ311及びZステージ312は、コントローラ35からの指令C311、C312を受けて動作する。XYリニアステージ311は、被加工物9をX軸及びY軸によって定義される平面に沿って被加工物9を移動させる。Zステージ312は、Z軸の方向に沿って被加工物9を移動させる。
【0033】
ところで、ステージユニット31は、Z軸の方向に沿って被加工物9を移動させることをすでに述べた。Z軸の方向に沿う被加工物9の移動とは、被加工物9の表面からピペット照射端21aまでの距離を所定の値に設定することである。被加工物9の表面からピペット照射端21aまでの距離は、大気圧プラズマPを用いたエッチング加工において重要な制御対象である。次に説明する励振アクチュエータ32、光学ユニット33及び信号処理ユニット34は、被加工物9の表面からピペット照射端21aまでの距離に関する情報を得るものである。
【0034】
励振アクチュエータ32は、ナノピペット21を所定の軸線の方向に振動させる。本実施形態では、振動方向は、Y軸の方向であるとする。励振アクチュエータ32は、一例として、圧電アクチュエータである。励振アクチュエータ32がナノピペット21に与える振動の周波数は、ナノピペット21の材料及び構造によって決まる共振周波数に応じて決められている。
【0035】
光学ユニット33は、レーザーダイオード331と、フォトダイオード332と、を有する。レーザーダイオード331は、ナノピペット21に向けてレーザーLを照射する。レーザーダイオード331は、X軸の方向にレーザーLを照射する。つまり、レーザーLの出射方向(X軸方向)は、ナノピペット21の振動方向(Y軸方向)と直交する。フォトダイオード332は、レーザーLを受ける。図1(b)に示すように、フォトダイオード332は、互いに独立する2個の左受光部332a及び右受光部332bを有する。レーザーLは、左受光部332a及び右受光部332bのそれぞれによって受光される。受光されるレーザーLは、ナノピペット21を通過しなかった非通過部分L1と、ナノピペット21を通過した影部分L2と、を含む。
【0036】
すでに述べたように、位置合わせをおこなうとき、ナノピペット21はY軸の方向に振動している。図1(b)に示す例示では、ナノピペット21の振動に応じて、影部分L2が紙面左右方向に往復移動する。例えば、あるタイミングでは、左受光部332aは、非通過部分L1のみを受光し、右受光部332bは、非通過部分L1と影部分L2とを受光する。非通過部分L1の光強度と影部分L2の光強度とは互いに異なる。従って、左受光部332aが受けるレーザーLの強度と、右受光部332bが受けるレーザーLの強度と、に差異が生じる。つまり、時間の経過に伴って、左受光部332aが受けるレーザーLの強度と右受光部332bが受けるレーザーLの強度との差異も変化する。この強度の差異を用いることによって、ナノピペット21の振幅を得ることができる。
【0037】
信号処理ユニット34は、フォトダイオード332が出力する光強度の情報を用いて、ナノピペット21の振幅に関する情報を得る。信号処理ユニット34は、電流電圧変換回路341と、差分回路342と、ロックインアンプ343と、を有する。
【0038】
電流電圧変換回路341は、フォトダイオード332の左受光部332aが出力する左電流値を左電圧値に変換する。同様に、電流電圧変換回路341は、フォトダイオード332の右受光部332bが出力する右電流値を右電圧値に変換する。
【0039】
差分回路342は、右電圧値と左電圧値を受ける。差分回路342は、右電圧値と左電圧値との差分情報を得る。なお、この差分は、右電圧値から左電圧値を減算したものであってもよいし、左電圧値から右電圧値を減算したものであってもよい。ロックインアンプ343は、差分情報に励振アクチュエータ32の加振周波数成分を乗算する。なお、乗算に際しては、位相の調整を適宜実施してよい。その結果、差分回路342が出力する差分情報に含まれる励振アクチュエータ32の加振周波数成分が直流成分として抽出される。直流成分の大きさは、差分情報が示す波形の振幅に相当する。
【0040】
コントローラ35は、プラズマ照射機構2に対して指令C23、C24、C25を出力する。具体的には、コントローラ35は、高電圧電源23に指令C23を出力し、ガス供給源24に指令C24を出力し、イオナイザー25に指令C25を出力する。
【0041】
コントローラ35は、位置決め機構3に対して指令C331、C311、C312を出力する。具体的には、コントローラ35は、レーザーダイオード331に指令C331を出力し、XYリニアステージ311に指令C311を出力し、Zステージ312に指令C312を出力する。
【0042】
コントローラ35は、大気圧プラズマPの照射を開始させる距離を決める機能を有する。距離は、ピペット照射端21aから被加工物9の被加工面9aまでの距離をいう。大気圧プラズマPの照射を開始させることが可能な距離を「照射開始距離D1」と称する。さらに、照射開始距離D1を決めるための基準となる距離を「原点距離D2」と称する。
【0043】
ピペット照射端21aから被加工物9の被加工面9aまでの距離が小さくなると、ナノピペット21の振動に変化が生じる。具体的には、ナノピペット21の共振周波数が変化する。ナノピペット21は、励振アクチュエータ32からそもそもの共振周波数と同じ周波数の振動を受けている。そして、ナノピペット21の共振周波数がそもそもの共振周波数からずれると、ナノピペット21の振動の振幅が減少する。コントローラ35は、この振幅の減少の度合いを用いて、ピペット照射端21aが被加工物9の被加工面9aに近づいたことを知ることができる。例えば、コントローラ35は、ピペット照射端21aから被加工物9まで距離を徐々に狭めていき、信号処理ユニット34が出力する振幅の値が、当初の値より所定の割合だけ減少した距離を原点距離D2としてよい。例えば、所定の割合は、10%としてもよいし、20%以上40%以下としてもよい。つまり、当初の振幅を100とした場合に、振幅が90以下となった距離を原点距離D2としてもよいし、60以上80以下となった距離を原点距離D2として設定してよい。
【0044】
<エッチング方法>
次に、図2及び図3を参照しながら、第1実施形態のエッチング装置1の動作を説明する。第1実施形態のエッチング装置1の動作は、実施形態におけるエッチング方法である。以下の例示では、被加工物9をナノピペット21に対して移動させる動作を説明する。被加工物9をナノピペット21に対して移動させる動作は、コントローラ35がZステージ312に指令C312を与えることにより実行される。
【0045】
まず、エッチング装置1は、ピペット照射端21aから被加工物9の表面までの距離が原点距離D2となるように、被加工物9を移動させる(図2(a)のS11参照)。具体的には、ステップS11であるとき、コントローラ35は、Zステージ312の位置を変更する指令C312を与える。コントローラ35は、高電圧電源23に電圧の供給を停止させる指令C23を与える。コントローラ35は、励振アクチュエータ32に振動を発生させる指令C32を与える。そして、コントローラ35は、レーザーダイオード331にレーザーLを出射させる指令C331を与える。
【0046】
原点距離D2を検出する方法は、すでに述べたとおりである。ピペット照射端21aから被加工物9の被加工面9aまでの距離が原点距離D2となったのちに、コントローラ35は、励振アクチュエータ32に振動を停止させる指令C32を与える。そして、コントローラ35は、レーザーダイオード331にレーザーLの出射を停止させる指令C331を与える。
【0047】
次に、エッチング装置1は、ピペット照射端21aから被加工物9の被加工面9aまでの距離が照射開始距離D1となるように、被加工物9を移動させる(図2(b)のS12参照)。具体的には、エッチング装置1は、被加工物9をZ軸に沿って下方向に移動させる。つまり、照射開始距離D1は、原点距離D2よりも大きい。ステップS12であるとき、コントローラ35は、Zステージ312に被加工物9をZ軸に沿って下方向に移動させるための指令C312を与える。
【0048】
上述したステップS11、S12は、エッチング装置1が実行する位置合わせ動作S1A(位置合わせステップ)である。
【0049】
次に、エッチング装置1は、大気圧プラズマPの照射を開始する(図2(c)のS13参照)。具体的には、ステップS13であるとき、コントローラ35は、Zステージ312の位置を維持する指令C312を与える。コントローラ35は、高電圧電源23に電圧の供給を開始させる指令C23を与える。大気圧プラズマPの照射を開始してから停止するまでの間、エッチング装置1は、ピペット照射端21aと被加工物9との相対的な位置関係を維持する。つまり、大気圧プラズマPの照射を開始してから停止するまでの間、エッチング装置1は、被加工物9を移動させない。そうすると、被加工物9のエッチングが進行するに従って、ピペット照射端21aから被加工物9の被加工面9aまでの距離は次第に大きくなる。
【0050】
エッチング装置1は、大気圧プラズマPの照射を開始したのちに、あらかじめ定めた時間が経過したことを条件として、大気圧プラズマPの照射を停止する(図2(d)のS14a参照)。具体的には、コントローラ35は、高電圧電源23に電圧の供給を停止させる指令C23を与える。その後、エッチング装置1は、イオナイザー25からイオン25aを照射する(図2(d)のS14b参照)。具体的には、コントローラ35は、イオナイザー25に所定時間だけイオンの照射を実行する指令C25を与える。
【0051】
上述したステップS13、S14a、S14bは、エッチング装置1が実行するプラズマ照射動作S1B(照射ステップ)である。なお、プラズマ照射動作S1Bは、ステップS13、S14aによって定義されるとしてもよい。
【0052】
ステップS11、S12による位置合わせ動作S1A及びステップS13、S14a、S14bによるプラズマ照射動作S1Bは、ひとつのエッチング動作を構成する。エッチング装置1は、位置合わせ動作S1A及びプラズマ照射動作S1Bを繰り返す。
【0053】
次に、エッチング装置1は、再び位置合わせ動作S1Aを実行する。具体的には、エッチング装置1は、ピペット照射端21aから被加工物9の被加工面9aまでの距離が原点距離D2となるように、被加工物9を移動させる(図3(a)のS16参照)。次に、エッチング装置1は、ピペット照射端21aから被加工物9の表面までの距離が照射開始距離D1となるように、被加工物9を移動させる(図3(b)のS17参照)。次に、エッチング装置1は、大気圧プラズマPの照射を開始する(図3(c)のS18参照)。そして、エッチング装置1は、大気圧プラズマPの照射を開始したのちに、あらかじめ定めた時間が経過したことを条件として、大気圧プラズマPの照射を停止する(図3(d)のS19a参照)。その後、エッチング装置1は、イオナイザー25からイオン25aを照射する(図3(d)のS19b参照)。
【0054】
エッチング装置1は、穴Hの深さが所定の深さとなるまで、位置合わせ動作S1A及びプラズマ照射動作S1Bを繰り返す。例えば、位置合わせ動作S1A及びプラズマ照射動作S1Bを4回繰り返した結果、図3(e)に示すような穴Hを得ることができる。
【0055】
<作用効果>
エッチング装置1は、大気圧プラズマPをピペット照射端21aから被加工物9に照射するプラズマ照射機構2と、プラズマ照射機構2のピペット照射端21aと被加工物9との相対的な位置を変更する位置決め機構3と、位置決め機構3及びプラズマ照射機構2の動作を制御するコントローラ35と、を備える。コントローラ35は、大気圧プラズマPの照射が停止しているプラズマ照射機構2のピペット照射端21aから被加工物9までの距離が、大気圧プラズマPの照射を開始可能な照射開始距離D1となるように被加工物9を移動させる位置合わせ動作S1Aと、大気圧プラズマPをピペット照射端21aから被加工物9に照射させるプラズマ照射動作S1Bと、を交互に実行する。
【0056】
このエッチング装置1は、プラズマ照射機構2のピペット照射端21aから被加工物9までの距離を照射開始距離D1に設定する位置合わせ動作S1Aと、大気圧プラズマPを照射するプラズマ照射動作S1Bと、を交互に繰り返す。つまり、エッチング加工を行う際に、エッチングマスクの形成を要しない。その結果、従来技術では、パターンを製作するために前処理としてフォトリソグラフィ等の手段を用いて保護膜を形成する工程を要していた。その一方で、本実施形態のエッチング装置1は、被加工物9のエッチングに際して、フォトリソグラフィのためのステッパーといった高価な装置が不要である。さらに、本実施形態のエッチング装置1は、フォトマスクやフォトレジストといった高価な部品や薬品を準備する必要もない。従って、このエッチング装置1は、簡易なステップによって被加工物9に微細構造を形成することができる。
【0057】
位置合わせ動作S1Aは、被加工物9に設定される被加工面9aからの距離が、照射開始距離D1よりも小さい原点距離D2となるように被加工物9を移動させた後に、大気圧プラズマPの照射が停止しているプラズマ照射機構2のピペット照射端21aから被加工物9までの距離が、照射開始距離D1となるように被加工物9を移動させる。この動作によれば、大気圧プラズマPの照射と停止とを繰り返した場合であっても、プラズマ照射機構2のピペット照射端21aから被加工物9までの距離を、照射ごとに管理することができる。
【0058】
プラズマ照射動作S1Bは、被加工物9に対してピペット照射端21aを静止させた状態で、大気圧プラズマPをピペット照射端21aから被加工物9に照射させる。このプラズマ照射動作S1Bによれば、被加工物9に対してピペット照射端21aを静止させた状態でエッチングを行うことができる。
【0059】
コントローラ35は、プラズマ照射動作S1Bの後にイオン25aを照射させる。この動作によれば、被加工物9の帯電を解消することができる。
【0060】
<第2実施形態>
第1実施形態では、プラズマ照射動作S1Bであるとき、ピペット照射端21aと被加工物9との相対的な位置関係を維持した。プラズマ照射動作S1Bであるときに、ピペット照射端21aと被加工物9との相対的な位置関係を維持することは必ずしも必要ではない。ここでいう相対的な位置関係を維持するとは、ピペット照射端21aに対して被加工物9を移動させないことをいう。従って、相対的な位置関係を維持すると述べるときには、エッチングによってピペット照射端21aから被加工物9までの距離が変化することは、考慮しない。つまり、ピペット照射端21aと被加工物9との相対的な位置関係を変更しながらプラズマ照射動作S1Bを実行することもできる。第2実施形態は、このようなエッチング動作について説明する。なお、エッチング装置1自体は、第1実施形態のエッチング装置1と同じである。従って、エッチング装置1によって実行される第2実施形態の動作について詳細に説明する。
【0061】
まず、エッチング装置1は、位置合わせ動作S2Aを行う(図4(a)のS2A参照)。第2実施形態の位置合わせ動作S2Aも、第1実施形態の位置合わせ動作S1Aと同じである。
【0062】
次に、エッチング装置1は、プラズマ照射動作S2Bを実行する(図4(b)のS2B参照)。プラズマ照射動作S2Bの結果、溝Rが形成される。具体的には、プラズマ照射動作S2Bであるとき、コントローラ35は、Zステージ312の位置を維持する指令C312を与える。コントローラ35は、高電圧電源23に電圧の供給を開始させる指令C23を与える。大気圧プラズマPの照射を開始してから停止するまでの間、エッチング装置1は、ピペット照射端21aと被加工物9との相対的なZ軸の方向における位置関係を維持する。つまり、エッチング装置1は、被加工物9をZ軸の方向に移動させない。その一方で、エッチング装置1は、ピペット照射端21aと被加工物9との相対的なX軸の方向又はY軸の方向における位置関係を変更する。具体的には、コントローラ35は、被加工物9をX軸の方向又はY軸の方向に移動させるための指令C311をXYリニアステージ311に与える。コントローラ35は、X軸の方向又はY軸の方向にあらかじめ定めた距離だけ被加工物9を移動させたことを条件として、移動を停止させるための指令C311をXYリニアステージ311に与える。
【0063】
ところで、Zステージ312の動作を停止した状態で、X軸の方向又はY軸の方向に被加工物9を移動させると、Z軸の方向におけるピペット照射端21aから被加工物9までの相対位置が変わることがあり得る。例えば、被加工物9の被加工面9aに凹凸がある場合が例示できる。そこで、第2実施形態では、ピペット照射端21aから被加工物9までの距離が一定の値に維持されるように、X軸の方向又はY軸の方向への移動に伴って被加工物9のZ軸の方向における位置を調整してもよい。例えば、大気圧プラズマPを照射する前に、大気圧プラズマPの照射が予定されるラインに沿って、被加工面9aの凹凸の状態を計測する。その後、大気圧プラズマPを照射するときに、計測によって得た凹凸の状態に応じて、被加工物9のZ軸の方向における位置を調整してもよい。
【0064】
次に、エッチング装置1は、位置合わせ動作S2Aを行う(図4(c)のS2A参照)。具体的には、エッチング装置1は、ピペット照射端21aから被加工物9の表面までの距離が照射開始距離D1となるように、被加工物9を移動させる。なお、位置合わせ動作S2Aは、X軸の方向又はY軸の方向におけるプラズマ照射動作S2Bを停止した位置において実行してもよい。このような動作によると、次のプラズマ照射動作S2Bでは、被加工物9をX軸の方向又はY軸の方向に沿って往復させながら被加工物9に大気圧プラズマPを照射することになる(図4(d)のS2B参照)。また、位置合わせ動作S2Aは、ひとつ前の位置合わせ動作S2Aを行ったX軸の方向又はY軸の方向における位置に被加工物9を移動させたのちに、実行してもよい。このような動作によると、被加工物9をある決まったX軸の方向又はY軸の方向に沿って移動させながら被加工物9に大気圧プラズマPを照射することになる。
【0065】
第2実施形態に示すエッチング装置1の動作によれば、エッチングマスクを準備することなく、被加工物9に対して溝形状の深堀加工を行うことができる。
【0066】
つまり、エッチング装置1において、プラズマ照射動作S2Bは、ピペット照射端21aに対して被加工物9を大気圧プラズマPの照射方向(Z軸方向)と交差する方向(X軸方向又はY軸方向)に移動させながら大気圧プラズマPをピペット照射端21aから被加工物9に照射させる。このプラズマ照射動作S2Bによれば、溝形状の微細構造を得ることができる。
【0067】
<第3実施形態>
ピペット照射端21aと被加工物9との相対的な位置関係を変更しながら実行するプラズマ照射動作S1Bの別の例示を第3実施形態として説明する。第2実施形態では、プラズマ照射動作S1Bであるときに、被加工物9をX軸の方向又はY軸の方向に移動させた。第3実施形態では、プラズマ照射動作S3Bであるときに、被加工物9をZ軸の方向に移動させる。
【0068】
まず、エッチング装置1は、位置合わせ動作S3Aを行う(図5(a)参照)。第3実施形態の位置合わせ動作S3Aも、第1実施形態の位置合わせ動作S1Aと同じである。
【0069】
次に、エッチング装置1は、プラズマ照射動作S3Bを実行する(図5(b)のS3B参照)。プラズマ照射動作S3Bの結果、穴Hが形成される。具体的には、プラズマ照射動作S3Bであるとき、コントローラ35は、Zステージ312の位置を時間の経過とともに変更する指令C312を与える。コントローラ35は、高電圧電源23に電圧の供給を開始させる指令C23を与える。大気圧プラズマPの照射を開始してから停止するまでの間、ピペット照射端21aと被加工物9との相対的なZ軸の方向における位置関係が時間の経過とともに変更される。エッチングの進行とともに、ピペット照射端21aから被加工物9までの距離が大きくなる。コントローラ35は、ピペット照射端21aから被加工物9までの距離が時間の経過とともに維持されるように、被加工物9を上方に移動させる指令C312をZステージ312に与える。そして、コントローラ35は、Z軸の方向にあらかじめ定めた距離だけ被加工物9を移動させたことを条件として、移動を停止させるための指令C312をZステージ312に与える。その一方で、エッチング装置1は、ピペット照射端21aと被加工物9との相対的なX軸の方向又はY軸の方向における位置関係を維持する。具体的には、コントローラ35は、被加工物9をX軸の方向又はY軸の方向に維持させるための指令C311をXYリニアステージ311に与える。
【0070】
次に、エッチング装置1は、再び位置合わせ動作S3Aを実行する(図5(c)のS31及び図5(d)のS32、S1A参照)。第3実施形態の位置合わせ動作S3Aは、第1実施形態で述べた狭義の位置合わせ動作S1Aと、狭義の位置合わせ動作S1Aを実行する状態にするための予備動作(S31、S32)と、を含む。狭義の位置合わせ動作S1Aとは、原点距離D2に設定する動作と、原点距離D2から照射開始距離D1とする動作と、を含む。
【0071】
プラズマ照射動作S1Bが終了したとき、ピペット照射端21aは、穴H1の底部の近傍に位置している。そこで、コントローラ35は、ピペット照射端21aが穴H1の外に位置するように、被加工物9をZ軸に沿って下方向に移動させるための指令をZステージ312に与える(図5(c)のS31参照)。次に、コントローラ35は、ピペット照射端21aが次の穴H2の形成位置に来るように被加工物9をX軸の方向及び/又はY軸の方向に沿って移動させるための指令C311をXYリニアステージ311に与える(図5(d)のS32参照)。そして、エッチング装置1は、狭義の位置合わせ動作S1Aを実行する。その後、エッチング装置1は、再びプラズマ照射動作S3Bを実行する(図5(e)のS3B参照)。プラズマ照射動作S1Bの結果、穴H2が形成される。穴H2は、先のプラズマ照射動作S1Bによって形成された穴H1とつながっている。その結果、穴H1及び穴H2による溝Rが形成される。
【0072】
第3実施形態に示すエッチング装置1の動作によっても、エッチングマスクを準備することなく、被加工物9に対して二次元状の深堀加工を行うことができる。
【0073】
つまり、エッチング装置1において、プラズマ照射動作S3Bは、ピペット照射端21aに対して被加工物9を大気圧プラズマPの照射方向(Z軸方向)に移動させながら大気圧プラズマPをピペット照射端21aから被加工物9に照射させる。プラズマ照射動作S3Bによっても、穴形状の微細構造を得ることができる。
【0074】
<第4実施形態>
第2実施形態の動作及び第3実施形態の動作によれば、被加工物9に対して二次元状の深堀加工を行うことができた。第1実施形態の動作では、ひとつの穴Hを形成する動作を例に説明したが、第1実施形態の動作を繰り返すことによっても被加工物9に対して二次元状の深堀加工を行うことができる。
【0075】
ここでいう二次元状とは、被加工物9の厚み方向(Z軸)に直交する被加工物9の主面における加工形状を言う。つまり、エッチング装置1は、X軸及びY軸によって定義される主面において、任意の二次元形状のエッチングを行うことができる。さらに、エッチング装置1は、被加工物9の厚み方向(Z軸)においても、任意の深さの穴を設けることができる。その結果、エッチング装置1は、三次元形状の微細構造を被加工物9に形成することがでいる。
【0076】
まず、エッチング装置1は、XY平面において定義される第1の位置において、位置合わせ動作S1Aと、プラズマ照射動作S1Bと、を繰り返す(図6(a)参照)。位置合わせ動作S1Aとプラズマ照射動作S1Bとを繰り返した結果、穴H1が形成される。
【0077】
次に、エッチング装置1は、ピペット照射端21aが、XY平面において定義される第2の位置に来るように被加工物9を移動させる。具体的には、コントローラ35は、ピペット照射端21aが穴H1の外に位置するように、被加工物9をZ軸に沿って下方向に移動させるための指令をZステージ312に与える(図6(b)のS41)。次に、コントローラ35は、ピペット照射端21aが次の穴H2の形成位置(第2の位置)に来るように被加工物9をX軸の方向及び/又はY軸の方向に沿って移動させるための指令C311をXYリニアステージ311に与える(図6(c)のS42参照)。
【0078】
そして、エッチング装置1は、XY平面において定義される第2の位置において、位置合わせ動作S1Aと、プラズマ照射動作S1Bと、を繰り返す(図6(d)のS1A、S1B参照)。位置合わせ動作S1Aとプラズマ照射動作S1Bとを繰り返した結果、穴H2が形成される。穴H2は、先のプラズマ照射動作S1Bによって形成された穴H1とつながっている。その結果、穴H1及び穴H2による溝Rが形成される。
【0079】
第4実施形態に示すエッチング装置1の動作によっても、エッチングマスクを準備することなく、被加工物9に対して二次元状の深堀加工を行うことができる。
【0080】
本発明のエッチング装置1は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1…エッチング装置、2…プラズマ照射機構、3…位置決め機構、21…ナノピペット、21a…ピペット照射端、21b…基端部、22…電極、23…高電圧電源、24…ガス供給源、241…ガス供給管、25…イオナイザー(イオン発生部)、31…ステージユニット、311…XYリニアステージ、312…Zステージ、313…ステージベース、32…励振アクチュエータ、33…光学ユニット、331…レーザーダイオード、332…フォトダイオード、34…信号処理ユニット、341…電流電圧変換回路、342…差分回路、343…ロックインアンプ、35…コントローラ、9…被加工物、9a…被加工面、D1…照射開始距離、D2…原点距離、L…レーザー、S1A,S2A,S3A…位置合わせ動作、S1B,S2B,S3B…プラズマ照射動作、H…穴、R…溝、P…大気圧プラズマ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6