(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120617
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】金属化合物微粒子の分析方法および分散回収液
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20240829BHJP
G01N 1/04 20060101ALI20240829BHJP
G01N 33/2028 20190101ALI20240829BHJP
【FI】
G01N1/28 X
G01N1/04 M
G01N33/2028
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027524
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】板橋 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中村 修一
(72)【発明者】
【氏名】森本 翔太
【テーマコード(参考)】
2G052
2G055
【Fターム(参考)】
2G052AA11
2G052AB01
2G052AD12
2G052AD32
2G052BA22
2G052EA04
2G052EB01
2G052FB10
2G052FD09
2G052GA24
2G052GA33
2G055AA03
2G055AA09
2G055BA01
2G055BA05
2G055CA02
2G055CA09
2G055EA02
2G055FA03
(57)【要約】
【課題】金属材料中に含まれる金属化合物微粒子を凝集させずに安定して分散可能な、金属化合物微粒子の分析方法を提供する。
【解決手段】金属材料に対して電解抽出を行う電解工程と、電解抽出後の金属材料を分散回収液中に浸漬させて金属化合物微粒子を分散回収液中に分散させる分散工程と、金属化合物微粒子が分散された分散回収液を用いて、金属化合物微粒子を分析する分析工程と、を備え、分散回収液には、溶媒として、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γ-ブチロラクトン、水からなる群より選ばれる1種もしくは2種以上が含有される、金属化合物微粒子の分析方法を採用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料に含有される金属化合物微粒子を分析する方法であって、
電解抽出用電解液中において前記金属材料に対して電解抽出を行う電解工程と、
電解抽出後の前記金属材料を分散回収液中に浸漬させ、前記金属材料に含有される前記金属化合物微粒子を前記分散回収液中に分散させる分散工程と、
前記金属化合物微粒子が分散された前記分散回収液を用いて、前記金属化合物微粒子を分析する分析工程と、を備え、
前記分散回収液には、溶媒として、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γ-ブチロラクトン、水からなる群より選ばれる2種以上が含有される、金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項2】
前記分散回収液の前記溶媒における、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、水のうちの何れか1種または2種以上の合計濃度が2~60vol.%である、請求項1に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項3】
前記分散回収液の前記溶媒における、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γ-ブチロラクトンのうちの1種または2種以上の合計濃度が20~85vol.%である、請求項1に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項4】
前記分散回収液の前記溶媒における、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、水のうちの何れか1種または2種以上の合計濃度が2~60vol.%であり、
ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γ-ブチロラクトンのうちの1種または2種以上の合計濃度が20~85vol.%である、請求項1に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項5】
前記分散回収液の前記溶媒として、さらに、メチルアルコールを含有し、前記溶媒におけるメチルアルコールの濃度が55vol.%以下である、請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項6】
前記分散回収液は、更に分散剤を含有する、請求項1に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項7】
前記金属化合物微粒子が、Alの化合物および/またはMnの化合物である、請求項1に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項8】
前記分析工程は、前記分散工程において得た前記金属化合物微粒子を含む分散回収液に対して、フィールドフローフラクショネーション法を行うことにより、前記金属化合物微粒子を粒子サイズ毎に分別する工程と、
粒子サイズ毎に分別された前記金属化合物微粒子の成分を分析する工程と、を有する、請求項1に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項9】
前記分析工程は、前記分散工程において得た前記金属化合物微粒子を含む分散回収液に対して、前記分散回収液中の前記金属化合物微粒子を残しつつ液体成分を除去することにより、前記金属化合物微粒子を含む電子顕微鏡観察用の試料を作製する工程と、
前記試料を電子顕微鏡で観察する工程と、を有する、請求項1に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項10】
金属材料に含有される金属化合物微粒子を電解抽出後に分散回収するための分散回収液であって、
溶媒として、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3ーブタンジオール、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γーブチロラクトン、水からなる群より選ばれる2種以上を含有する、分散回収液。
【請求項11】
前記溶媒における、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、水のうちの何れか1種または2種以上の合計濃度が2~60vol.%である、請求項10に記載の分散回収液。
【請求項12】
前記溶媒における、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γ-ブチロラクトンのうちの1種または2種以上の合計濃度が20~85vol.%である、請求項10に記載の分散回収液。
【請求項13】
前記溶媒における、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、水のうちの何れか1種または2種以上の合計濃度が2~60vol.%であり、
ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γ-ブチロラクトンのうちの1種または2種以上の合計濃度が20~85vol.%である、請求項10に記載の分散回収液。
【請求項14】
前記溶媒として、さらに、メチルアルコールを含有し、前記溶媒におけるメチルアルコールの濃度が55vol.%以下である、請求項10乃至請求項13の何れか一項に記載の分散回収液。
【請求項15】
前記分散回収液は、更に分散剤を含有する、請求項10に記載の分散回収液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化合物微粒子の分析方法および分散回収液に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料中に含まれる介在物や析出物(以下、金属化合物微粒子という)は、その大きさや数量、化学組成などが金属材料の特性に大きな影響を及ぼす。金属材料の一例である鉄鋼材料について、例えば、粒径が数十マイクロメートルオーダーの比較的大きな金属化合物微粒子は、鉄鋼材料の特性を劣化させる有害なものとして扱われている。その一方で、近年、マイクロメートルオーダーあるいはそれ以下の大きさの金属化合物微粒子を積極的に利用して鋼の組織を制御することにより、鉄鋼材料の各種の特性を向上させる技術が発展している。これに伴い、鉄鋼材料中の微小な金属化合物微粒子の定量分析や粒度分布測定等を適切に行うニーズが高まっている。
【0003】
こうしたニーズを実現するには、金属化合物微粒子が溶媒中に安定して分散する溶液を調製する必要がある。そこで、従来から、金属材料から金属化合物微粒子を抽出分離する段階と、抽出分離された金属化合物微粒子を液中に分散させる段階とを経ることにより、金属化合物微粒子を液中に分散させた分散液の調製が試みられている。
【0004】
例えば、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の抽出分離法としては、非水電解液を用いた電解抽出法が知られている。電解抽出法は、鉄鋼材料を陽極とし、白金電極を陰極とし、これら陽極及び陰極を非水電解液に浸漬させた上で、電解を行うことによって、鉄鋼材料のマトリックスである鉄を溶解させて、金属化合物微粒子を抽出させる方法である。
【0005】
非水電解液を用いた電解抽出法では、抽出対象の物質に応じた溶媒と電位を選ぶことにより、金属化合物微粒子を選択的に抽出できるという特長がある。例えば、非特許文献1には、鉄鋼材料の電解抽出方法に使用する電解液として、アセチルアセトン、塩化テトラメチルアンモニウム及びメチルアルコールを含む非水電解液や、サリチル酸メチル、サリチル酸、塩化テトラメチルアンモニウム及びメチルアルコールを含む非水電解液が記載されている。
【0006】
しかし、非特許文献1に記載された非水電解液は、金属化合物微粒子を選択的に抽出できる反面、抽出された金属化合物微粒子を凝集させてしまう場合がある。そこで、金属化合物微粒子を液中に安定して分散させる目的で、電解抽出後の鉄鋼材料を、非水電解液とは異なる別の分散液に浸漬させて超音波振動を印加することにより、鉄鋼試料の表面に現れた金属化合物微粒子を鉄鋼試料から分離させつつ分散溶液中に分散させることが行われている。こうした分散液としては、従来、水やメチルアルコールを主成分とする分散溶媒に、分散剤が添加された溶液が用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“試料分析講座 鉄鋼分析”,社団法人日本分析化学会編,丸善出版株式会社,平成23年9月15日発行,p.91,p.101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来から利用されている分散溶媒は、鉄鋼材料から抽出した金属化合物微粒子を安定して分散できずに、むしろ凝集させてしまう場合があった。金属化合物微粒子が分散液中で凝集してしまうと、金属化合物微粒子の粒度分布の測定や、粒子径の測定に支障が生じるおそれがあった。
【0009】
本発明は上記事象に鑑みてなされたものであり、金属材料中に含まれる金属化合物微粒子を凝集させずに安定して分散させることが可能な、金属化合物微粒子の分析方法および分散回収液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する手段は以下の通りである。
[1] 金属材料に含有される金属化合物微粒子を分析する方法であって、
電解抽出用電解液中において前記金属材料に対して電解抽出を行う電解工程と、
電解抽出後の前記金属材料を分散回収液中に浸漬させ、前記金属材料に含有される前記金属化合物微粒子を前記分散回収液中に分散させる分散工程と、
前記金属化合物微粒子が分散された前記分散回収液を用いて、前記金属化合物微粒子を分析する分析工程と、を備え、
前記分散回収液には、溶媒として、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γ-ブチロラクトン、水からなる群より選ばれる2種以上が含有される、金属化合物微粒子の分析方法。
[2] 前記分散回収液の前記溶媒における、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、水のうちの何れか1種または2種以上の合計濃度が2~60vol.%である、[1]に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
[3] 前記分散回収液の前記溶媒における、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γ-ブチロラクトンのうちの1種または2種以上の合計濃度が20~85vol.%である、[1]に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
[4] 前記分散回収液の前記溶媒における、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、水のうちの何れか1種または2種以上の合計濃度が2~60vol.%であり、
ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γ-ブチロラクトンのうちの1種または2種以上の合計濃度が20~85vol.%である、[1]に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
[5] 前記分散回収液の前記溶媒として、さらに、メチルアルコールを含有し、前記溶媒におけるメチルアルコールの濃度が55vol.%以下である、[1]乃至[4]の何れか一項に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
[6] 前記分散回収液は、更に分散剤を含有する、[1]に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
[7] 前記金属化合物微粒子が、Alの化合物および/またはMnの化合物である、[1]に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
[8] 前記分析工程は、前記分散工程において得た前記金属化合物微粒子を含む分散回収液に対して、フィールドフローフラクショネーション法を行うことにより、前記金属化合物微粒子を粒子サイズ毎に分別する工程と、
粒子サイズ毎に分別された前記金属化合物微粒子の成分を分析する工程と、を有する、[1]に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
[9] 前記分析工程は、前記分散工程において得た前記金属化合物微粒子を含む分散回収液に対して、前記分散回収液中の前記金属化合物微粒子を残しつつ液体成分を除去することにより、前記金属化合物微粒子を含む電子顕微鏡観察用の試料を作製する工程と、
前記試料を電子顕微鏡で観察する工程と、を有する、[1]に記載の金属化合物微粒子の分析方法。
[10] 金属材料に含有される金属化合物微粒子を電解抽出後に分散回収するための分散回収液であって、
溶媒として、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3ーブタンジオール、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γーブチロラクトン、水からなる群より選ばれる2種以上を含有する、分散回収液。
[11] 前記溶媒における、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、水のうちの何れか1種または2種以上の合計濃度が2~60vol.%である、[10]に記載の分散回収液。
[12] 前記溶媒のおける、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γ-ブチロラクトンのうちの1種または2種以上の合計濃度が20~85vol.%である、[10]に記載の分散回収液。
[13] 前記溶媒における、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、水のうちの何れか1種または2種以上の合計濃度が2~60vol.%であり、
ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γ-ブチロラクトンのうちの1種または2種以上の合計濃度が20~85vol.%である、[10]に記載の分散回収液。
[14] 前記溶媒として、さらに、メチルアルコールを含有し、前記溶媒におけるメチルアルコールの濃度が55vol.%以下である、[10]乃至[13]の何れか一項に記載の分散回収液。
[15] 前記分散回収液は、更に分散剤を含有する、[10]に記載の分散回収液。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属材料中に含まれる金属化合物微粒子を凝集させずに安定して分散させることが可能な、金属化合物微粒子の分析方法および分散回収液を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、フィールドフローフラクショネーション装置の要部を示す断面模式図。
【
図2】
図2は、FFF-ICP質量分析法の測定結果を示す図であって、(a)はNo.1(発明例)であり、(b)はNo.26(比較例)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明者らが検討したところ、金属材料中に含まれる介在物や析出物といった金属化合物微粒子を凝集させることがない分散回収液を発見し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
以下、本発明の実施形態である金属化合物微粒子の分析方法および分散回収液について説明する。
【0015】
(分散回収液)
本実施形態の分散回収液は、金属材料に含有される金属化合物微粒子を電解抽出後に分散回収するための分散回収液であって、溶媒として、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3ーブタンジオール、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γーブチロラクトン、水からなる群より選ばれる2種以上を含有する、分散回収液である。
【0016】
本実施形態の分散回収液は、溶媒として上記に列挙したいずれかの物質の1種または2種以上を含有すればよい。これにより、金属化合物微粒子の凝集を防止できるようになる。
【0017】
更に、溶媒として、メチルアルコールを含有してもよい。メチルアルコールを含有する場合の濃度は、溶媒に対してメチルアルコールの濃度が55vol.%以下とすることが好ましい。メチルアルコールの濃度が55vol.%を超えると、相対的に、上記に列挙した物質の濃度が減少してしまい、金属化合物微粒子が凝集してしまう場合がある。メチルアルコールの濃度の下限は0vol.%以上である。
【0018】
また、分散回収液の溶媒として、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、水のうちの何れか1種または2種以上を含有させる場合は、これらの合計濃度を2~60vol.%の範囲にするとよい。より好ましくは10~55vol.%の範囲であり、更に好ましくは20~50vol.%の範囲である。
【0019】
更に、分散回収液の溶媒として、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γ-ブチロラクトンのうちの1種または2種以上を含有させる場合は、これらの合計濃度を20~85vol.%の範囲にするとよい。より好ましくは30~70vol.%の範囲であり、更に好ましくは40~60vol.%の範囲である。
【0020】
更にまた、分散回収液の溶媒として、プロピレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、2-アミノエタノール、ベンジルアルコール、サリチルアルデヒド、1,3-ブタンジオール、水のうちの何れか1種または2種以上の合計濃度を2~60vol.%とし、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、炭酸プロピレン、アセトン、γ-ブチロラクトンのうちの1種または2種以上の合計濃度を20~85vol.%としてもよい。
【0021】
分散回収液の溶媒のより好ましい組合せとしては、例えば、ジメチルスルホキシドとエチレングリコールとメチルアルコールの組合せ、ジメチルスルホキシドとエチレングリコールの組合せ、プロピレングリコールとアセトンの組合せ、2-アミノエタノールとγ-ブチロラクトンの組合せ、メタノールとN-メチルホルムアミドとアセトンの組合せ、メタノールとジメチルスルホキシドと炭酸プロピレンと1,3-ブタンジオールの組合せ、アセトンと水の組合せを例示できる。
【0022】
分散回収液には、上記の溶媒とともに、分散剤を含有させてもよい。分散剤は、例えば、後述するフィールドフローフラクショネーション法を実施する際に好適な分散剤であってもよい。そのような分散剤として、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(以下、SDSという。)やコール酸ナトリウム(SC)、デオキシコール酸ナトリウム(SDC)、クエン酸ナトリウム等を例示できる。分散剤の濃度は、50~3000ppm程度でよい。なお、分散剤はSDSやSC、SDC、クエン酸ナトリウムに限定されるものではない。
【0023】
(金属化合物微粒子の分析方法)
次に、本実施形態の金属化合物微粒子の分析方法は、金属材料に含有される金属化合物微粒子を分析する方法であって、電解抽出用電解液中において金属材料に対して電解抽出を行う電解工程と、電解抽出後の金属材料を分散回収液中に浸漬させ、金属材料に含有される金属化合物微粒子を分散回収液中に分散させる分散工程と、金属化合物微粒子が分散された分散回収液を用いて、金属化合物微粒子を分析する分析工程と、を備える。以下、各工程について説明する。
【0024】
尚、本実施形態の分析方法において、対象とする金属化合物微粒子は特に制限はないが、例えば、窒化物、硫化物、炭化物、酸化物が挙げられる。
【0025】
(電解工程)
電解工程は、金属材料を電解して金属材料中の金属化合物微粒子を抽出する工程である。以下、金属材料として鉄鋼材料を分析対象とする場合について説明する。本実施形態に係る電解工程は、電解液を用いた一般的な鉄鋼材料の電解抽出法を適用できる。より具体的に電解工程は、電解液に、鉄鋼材料を含む陽極と、陰極とを浸漬させ、電解液中で鉄鋼材料を電解する工程である。陰極としては例えば白金電極を用いるとよい。なお、鉄鋼材料は、特に制限はない。
【0026】
電解液としては、非特許文献1(“試料分析講座 鉄鋼分析”,社団法人日本分析化学会編,丸善出版株式会社,平成23年9月15日発行,p.91,p.101)に記載されているような、例えば、アセチルアセトン、塩化テトラメチルアンモニウム及びメチルアルコールを含む非水電解液や、サリチル酸メチル、サリチル酸、塩化テトラメチルアンモニウム及びメチルアルコールを含む非水電解液など、一般に利用されている電解液を用いることができる。
【0027】
電解条件は、定電位条件、定電流条件のいずれでもよく、両方でもよい。電解の際に、所定の電位、電流を採用することで、対象とする金属化合物微粒子は溶解させずに鉄マトリックスのみを選択的に溶解させることが可能である。
【0028】
電解工程後の鉄鋼材料の表面には、マトリックスである鉄が除かれた結果、金属化合物微粒子が抽出された状態にある。
【0029】
(分散工程)
次に、分散工程では、先に説明した分散回収液を用意し、この分散回収液中に、電解工程後の鉄鋼材料を浸漬させて、鉄鋼材料の金属化合物微粒子を分散回収液中に分散させる。
【0030】
分散回収液は、上述した溶媒を含む。分散回収液には、上述した溶媒のみを含んでいてもよく、上述した溶媒及び分散剤を含んでいてもよい。
【0031】
鉄鋼材料から金属化合物微粒子を分散回収液中に分散させる場合は、鉄鋼材料を分散回収液に浸漬したまま、超音波印加装置によって超音波振動を与えて、鉄鋼材料から金属化合物微粒子の解離を促進させるとよい。超音波振動の印加時間は、例えば10秒以上、10分以下がよい。10分を超えて照射すると熱を帯びてしまい、分散回収液の内容物が変質してしまう畏れがある。10秒未満では、分散が不十分になる畏れがある。
【0032】
電解工程によって鉄鋼材料の表面に現れた金属化合物微粒子は、分散工程を経ることによって、分散回収液中に分散される。分散回収液中には、上述の溶媒が含まれているので、金属化合物微粒子を長時間に渡り安定して分散させた状態に保つことができる。
【0033】
(分析工程)
次に、分析工程について説明する。本実施形態の分析工程には、フィールドフローフラクショネーション法(以下、FFF法という)の適用例と、電子顕微鏡観察の適用例とがある。以下、これらについて説明する。
【0034】
(第1の例)
分析工程の第1の例として、フィールドフローフラクショネーション法(以下、FFF法という)の適用を挙げることができる。第1の例では、分散工程によって得られた分散回収液に対して、フィールドフローフラクショネーション法を行うことにより、金属化合物微粒子を粒子サイズ毎に分別する分別工程と、粒子サイズ毎に分別された金属化合物微粒子の成分を分析する分析工程とを行う。
【0035】
図1に、本例に適用可能なFFF装置の一例を示す。このFFF装置は、展開溶液が流通する分離セル16、分離セル16内に配置された透過性膜21、クロスフロー14を分離セル16に導入する図示略のクロスフロー導入部、試験液15を分離セル16に導入する図示略のサンプル導入部、分離セル16内での展開溶液やクロスフロー14の流れを制御する図示略の制御手段と、が備えられる。クロスフロー14とは展開溶液による
図1の上から下に向かう流れである。
【0036】
分離セル16は、所定の間隔を空けて配置された上部筐体16a及び下部筐体16bから構成される。分離セル16の内部空間は、展開溶液が流通するチャネル部16cである。下部筐体16bはメッシュ状の部材から構成される。下部筐体16bのチャネル部16c側には透過性膜21が積層されている。透過性膜21は、溶媒、抽出液、展開溶液などの液体は透過させるが、金属化合物微粒子は透過させないものである。
更に、分離セル16の図中右側には、図示略のICP質量分析装置が接続されている。
【0037】
次に、分別工程及び分析工程を行う。
分別工程では、FFF法の試験液として、上述の分散工程によって得られた分散回収液を用いる。分散回収液には、金属化合物微粒子及び溶媒の他に、分散剤を含んでいてもよい。分散剤は、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)またはコール酸ナトリウム(SC)を例示できる。分散剤の濃度は、50~3000ppm程度でよい。
【0038】
分別工程では、まず、FFF装置において、クロスフロー14と呼ばれる展開溶液の流れを生じさせる。更に、分離セル16の左側と右側からも展開溶液を流す。これにより、左右両側から相対するように流れる展開液の流れが、クロスフロー14の流れに導かれて、透過性膜21に向かう流れを形成させる。この流れが安定した後、金属化合物微粒子を含む分散回収液を試験液15として展開液に添加する。
【0039】
すると、展開溶液の流れに乗って、金属化合物微粒子は透過性膜21の近傍に局所的に濃縮される。展開溶液の流れを所定の時間に渡って保持すると、金属化合物微粒子が次第にブラウン運動を伴い拡散する。透過性膜21には大きなサイズの大粒子20がクロスフロー14の流れによって押し付けられるが、その一方で、比較的サイズが小さな中粒子19及び小粒子18は、ブラウン運動により分離セル16中に浮遊した状態になる。小粒子18ほど上方に浮遊しやすくなる。この操作をフォーカシングと呼ぶ。この状態にすることで、分離セル16の中で金属化合物微粒子がサイズ毎に並び替えられることとなる。
【0040】
その後、クロスフロー14を維持したまま、分離セル16の左右から押し付けていた展開溶液の流れを変えて、展開溶液からなるチャネルフロー17を形成させる。チャネルフロー17は層流であり、
図1に示すような流速分布を有している。すなわち、チャネル部16cの厚さ方向中心での流速が最も早く、中心から離れるに従って流速が遅くなる。すなわち、小粒子18の存在領域では流速が早く、大粒子20の存在領域では流速が小さくなる。
【0041】
このとき、透過性膜21近傍に金属化合物微粒子を留める役割のクロスフロー14の圧力を徐々に低下させると、分離膜21近傍に留められていた金属化合物微粒子が、チャネルフロー17の層流の流れに乗って、徐々に小さな粒子から大きな粒子の順で右側に排出される。
【0042】
なお、FFFの分離原理としては、クロスフロー液による押さえつけ力とブラウン運動とを組み合わせの他に、重力、電場、磁場、温度勾配等を利用してもよい。
【0043】
次に、分析工程について説明する。FFF法によってサイズ毎に分離された金属化合物微粒子は、チャネルフロー17によって、FFF装置の外部に設置されているICP質量分析装置に導かれる。ICP質量分析装置には、粒径の小さい順に微粒子が到達する。到達した微粒子は、プラズマの熱エネルギーにより原子レベルまで分解、その後イオン化されて、質量分析計に導入される。質量分析計によって、各微粒子に特有な質量スペクトルを得る。また、各イオンの検出量を縦軸とし、検出時間を横軸とする各イオンの時間変化量のチャートも得られる。
【0044】
また、FFF装置とICP質量分析装置の間に、レーザ光照射検出装置を配置してもよい。レーザ光照射検出装置において複数角度に設置された光検出器より、レーザ光散乱された光強度を得る。小さな粒子の場合は、角度依存性が非常に少なく全方位散乱現象を示す。一方、粗大な粒子になるにつれて、前方散乱現象が強くなるため、この角度依存性の傾きを取ることにより金属化合物微粒子のサイズを一義的に決定できる。
【0045】
金属化合物微粒子は、分散回収液中において凝集沈降せずに分散されているので、FFF装置に対して適切な量の金属化合物微粒子を導入することができる。これにより、FFF装置の後段に設置したICP質量分析装置やレーザ光検出装置において、金属化合物微粒子を確実に検出することができる。
【0046】
また、分散回収液がFFF装置に導入された後も、金属化合物微粒子は凝集せずに分散された状態が維持される。これにより、FFF法において、分離セル16内にて金属化合物微粒子のサイズ毎の並び替えが適切に行われて、小さな粒子から大きな粒子の順に導出させることが可能になり、粒子サイズ毎にICP質量装置などによる分析を行うことができる。
【0047】
(第2の例)
次に、分析工程の第2の例を説明する。第2の例では、分散工程によって得られた分散回収液に対して、分散回収液中の金属化合物微粒子を残しつつ液体成分を除去することにより、金属化合物微粒子を含む電子顕微鏡観察用の試料を作製する試料作成工程と、試料を電子顕微鏡で観察する観察工程と、を行う。
【0048】
試料作成工程では、例えば、透過型電子顕微鏡の観察用の支持膜上において、分散回収液中の金属化合物微粒子を残しつつ液体成分を除去する。分散回収液には、固体成分である金属化合物微粒子の他に、液体成分である溶媒が含まれる。試験観察工程では、分散回収液を加熱または減圧して液体成分である溶媒を蒸発させるか、あるいは分散回収液を25℃程度の室温のまま保持して溶媒を揮発させる。液体成分が除去されたことにより、観察用の支持膜上に、金属化合物微粒子が分散した状態で残存する。
【0049】
次に、観察工程では、金属化合物微粒子を支持膜ごと透過型電子顕微鏡に導入して、金属化合物微粒子の形態観察、粒子サイズ測定等を行う。また、透過型電子顕微鏡に付属するEDS等の元素分析装置によって、金属化合物微粒子の定性分析または組成分析を行ってもよい。
【0050】
金属化合物微粒子は、分散回収液中において分散されていたので、試料作成工程において液体成分が除去された後も、分散されたままの状態が維持される。これにより、支持膜上の金属化合物微粒子同士は互いに凝集するおそれがない。これにより、透過型電子顕微鏡で金属化合物微粒子を観察した場合に、金属化合物微粒子が相互に離間した状態のまま観察できるので、金属化合物微粒子の形状の把握が容易になり、また、粒径測定を正確に行えるなど、金属化合物微粒子の形態観察を適切に行うことができる。
【実施例0051】
高Si系鉄鋼材料を用意した。この鋼材には、Al及びMnが合計で0.15質量%含有されていた。
【0052】
まず、上記鋼材に対して、電解工程を行った。上記鋼材から切出した鉄鋼材料を陽極とし、白金電極を陰極として、非水電解液に浸漬した。非水電解液は、10%のアセチルアセトンと1%の塩化テトラメチルアンモニウムを含むメチルアルコール溶液とした。電解条件は定電流条件とし、500mAで通電量を3600クーロンとした。
【0053】
次いで、電解抽出後の鉄鋼材料表面に露出した微粒子を、表1に示すNo.1~26の分散回収液中にそれぞれ浸漬し、超音波処理によって金属化合物微粒子を分散回収液に分散させた。分散後の分散回収液に対して回転数1000rpm、1分間の条件で遠心分離を行い、粗大な析出物を沈降除去した。
【0054】
次いで、各分散回収液をガラス容器に収納し、密封して24時間静置した後に、目視で観察を行った。沈殿の発生が認められなかったものを金属化合物微粒子の分散性が高いとして「○」と評価した。一方、ガラス容器の底部に沈殿が堆積していたものを金属化合物微粒子の分散性が低いとして「×」と評価した。結果を表1の「沈殿堆積の有無」の欄に示す。
【0055】
次に、24時間静置後の各分散回収液を試験液として、FFF-ICP質量分析を行なった。分析装置は、WyattTechnologies社製フィールドフローフラクショネーション装置(FFF)に、Agilent Technologies社製ICP-MS分析装置を接続したものを用いた。FFF装置から導出されたチャネルフロー中の微粒子を順次、ICP質量分析装置に導入した。
【0056】
図2に、一例として、質量分析によってm/z=27およびm/z=55のイオンを検出して得られた、ICP-MS信号強度-保持時間との関係を示す。m/z=27のイオンはAlに由来する。m/z=55のイオンはMnに由来する。
図2は、上記鋼材中に含まれていたAlの化合物微粒子およびMnの化合物微粒子のサイズ分布を示している。
【0057】
No.26の比較例では、
図2(b)に示すようにノイズが多く、微粒子の信号が得られなかったが、No.1の発明例では、
図2(a)に示すような微粒子の信号が明瞭に得られた。No.1~26の分散回収液において、
図2(a)のように、微粒子の信号が検出されたものを「○」と評価し、
図2(b)のように微粒子の信号が検出されなかったものを「×」と評価した、結果を表1の「FFF-ICP/MS」の欄に示す。
【0058】
また、各分散回収液から顕微鏡観察試料を調製し、これを透過型電子顕微鏡で観察し、微粒子のサイズおよび個数を計測することによって、粒度分布の測定結果を得た。粒度分布の結果が得られたものを「○」と評価し、結果が得られなかったものを「×」と評価した、結果を表1の「粒度分布測定結果」の欄に示す。FFF-ICP質量分析で得られた結果と、電子顕微鏡による粒度分布測定結果を対比したところ、両者は概ね一致していた。
【0059】
14…クロスフロー、15…試験液、16…分離セル、16a…上部筐体、16b…下部筐体、16c…チャネル部、17…チャネルフロー、18…小粒子、19…中粒子、20…大粒子、21…透過性膜。