(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120618
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散溶媒の選定方法、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法及び鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/2028 20190101AFI20240829BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20240829BHJP
G01N 1/04 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
G01N33/2028
G01N1/28 X
G01N1/04 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027525
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】板橋 大輔
(72)【発明者】
【氏名】森本 翔太
(72)【発明者】
【氏名】吉村 信幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 修一
【テーマコード(参考)】
2G052
2G055
【Fターム(参考)】
2G052AA12
2G052AB01
2G052AD12
2G052AD26
2G052AD32
2G052BA22
2G052EA04
2G052EB01
2G052FB10
2G052FD09
2G052GA09
2G052GA24
2G052GA34
2G055AA03
2G055BA01
2G055BA05
2G055CA09
2G055CA22
2G055CA24
2G055CA27
2G055EA02
2G055FA03
(57)【要約】
【課題】鉄鋼材料中に含まれる金属化合物微粒子を凝集させずに安定して分散させることが可能な、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散溶媒の選定方法を提供する。
【解決手段】金属化合物微粒子毎に、金属化合物微粒子と選定候補の分散溶媒との間のハンセン溶解度パラメータ距離Raを求め、金属化合物微粒子毎のハンセン溶解度パラメータ距離Raの全てが8.0(J/cm3)1/2以下となる場合に、選定候補の分散溶媒を、利用可能な分散溶媒として選定する選定工程を備える、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散溶媒の選定方法を採用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼材料から電解抽出された1種または2種以上の金属化合物微粒子を分散させるための分散溶媒の選定方法であって、
前記金属化合物微粒子毎に、前記金属化合物微粒子と選定候補の分散溶媒との間のハンセン溶解度パラメータ距離Raを下記(1)式により求め、前記金属化合物微粒子毎のハンセン溶解度パラメータ距離Raの全てが8.0(J/cm3)1/2以下となる場合に、前記選定候補の分散溶媒を、利用可能な分散溶媒として選定する選定工程を備える、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散溶媒の選定方法。
Ra=[4(δd1-δd2)2+(δp1-δp2)2+(δh1-δh2)2]1/2 …(1)
ただし、式(1)におけるδd1は前記金属化合物微粒子のロンドン分散力、δp1は前記金属化合物微粒子の双極子間力、δh1は前記金属化合物微粒子の水素結合力、δd2は前記分散溶媒のロンドン分散力、δp2は前記分散溶媒の双極子間力、δh2は前記分散溶媒の水素結合力である。
【請求項2】
鉄鋼材料から電解抽出された1種または2種以上の分析対象の金属化合物微粒子を分散回収する方法であって、
下記(1)式で求められる前記分析対象の金属化合物微粒子の全てとの間のハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0(J/cm3)1/2以下となる分散溶媒を含む分散液中に、あらかじめ電解抽出された状態の前記鉄鋼材料を浸漬させて、前記鉄鋼材料の前記金属化合物微粒子を前記分散液中に分散させる分散回収工程を有する、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法。
Ra=[4(δd1-δd2)2+(δp1-δp2)2+(δh1-δh2)2]1/2 …(1)
ただし、式(1)におけるδd1は前記金属化合物微粒子のロンドン分散力、δp1は前記金属化合物微粒子の双極子間力、δh1は前記金属化合物微粒子の水素結合力、δd2は前記分散溶媒のロンドン分散力、δp2は前記分散溶媒の双極子間力、δh2は前記分散溶媒の水素結合力である。
【請求項3】
鉄鋼材料から1種または2種以上の分析対象の金属化合物微粒子を電解抽出するとともに前記金属化合物微粒子を分散回収する方法であって、
前記鉄鋼材料を電解して前記鉄鋼材料中の前記分析対象の金属化合物微粒子を抽出する電解工程と、
下記(1)式で求められる前記分析対象の金属化合物微粒子の全てとの間のハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0(J/cm3)1/2以下となる分散溶媒を含む分散液中に、前記電解工程後の前記鉄鋼材料を浸漬させて、前記鉄鋼材料の前記金属化合物微粒子を前記分散液中に分散させる分散回収工程と、を有する、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法。
Ra=[4(δd1-δd2)2+(δp1-δp2)2+(δh1-δh2)2]1/2 …(1)
ただし、式(1)におけるδd1は前記金属化合物微粒子のロンドン分散力、δp1は前記金属化合物微粒子の双極子間力、δh1は前記金属化合物微粒子の水素結合力、δd2は前記分散溶媒のロンドン分散力、δp2は前記分散溶媒の双極子間力、δh2は前記分散溶媒の水素結合力である。
【請求項4】
前記電解工程は、非水溶媒系電解液に、前記鉄鋼材料を含む陽極と陰極とを浸漬させて、前記鉄鋼材料を電解する工程である、請求項3に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法。
【請求項5】
前記金属化合物微粒子が、炭化物または/および窒化物である、請求項2または請求項3に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法。
【請求項6】
前記分析対象の金属化合物微粒子が、硫化マンガン(MnS)、セメンタイト(Fe3C)の少なくとも一方または両方を含む、請求項2または請求項3に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法。
【請求項7】
前記分散液に、分散剤が含有されている、請求項2または請求項3に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法。
【請求項8】
請求項2または請求項3に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法によって得られた前記金属化合物微粒子を含む分散液に対して、フィールドフローフラクショネーション法を行うことにより、前記金属化合物微粒子を粒子サイズ毎に分別する工程と、
粒子サイズ毎に分別された前記金属化合物微粒子の成分を分析する工程と、を有する鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項9】
請求項2または請求項3に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法によって得られた前記金属化合物微粒子を含む分散溶液に対して、前記分散液中の前記金属化合物微粒子を残しつつ液体成分を除去することにより、前記金属化合物微粒子を含む電子顕微鏡観察用の試料を作製する工程と、
前記試料を電子顕微鏡で観察する工程と、を有する鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項10】
鉄鋼材料から電解抽出された金属化合物微粒子を分析する方法であって、
前記鉄鋼材料を電解して前記鉄鋼材料中の前記金属化合物微粒子を抽出する電解工程と、
下記(1)式で求められる前記金属化合物微粒子との間のハンセン溶解度パラメータ距離Raのうち分析対象の金属化合物微粒子との間のRaが8.0(J/cm3)1/2以下となり、前記分析対象の金属化合物微粒子以外の金属化合物微粒子との間のRaが8.0(J/cm3)1/2超となる分散溶媒を含む分散液中に、前記電解工程で電解された状態の前記鉄鋼材料を浸漬させて、前記鉄鋼材料の前記金属化合物微粒子を前記分散液中に含有させる分散回収工程と、
前記分散回収工程後の前記分散液をフィルターでろ過する、ろ過工程と、
前記ろ過工程で得られたろ液を分析する分析工程と、を有する、
鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
Ra=[4(δd1-δd2)2+(δp1-δp2)2+(δh1-δh2)2]1/2 …(1)
ただし、式(1)におけるδd1は前記金属化合物微粒子のロンドン分散力、δp1は前記金属化合物微粒子の双極子間力、δh1は前記金属化合物微粒子の水素結合力、δd2は前記分散溶媒のロンドン分散力、δp2は前記分散溶媒の双極子間力、δh2は前記分散溶媒の水素結合力である。
【請求項11】
前記金属化合物微粒子が炭化物または/および窒化物である、請求項8に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項12】
前記金属化合物微粒子が炭化物または/および窒化物である、請求項9に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項13】
前記金属化合物微粒子が炭化物または/および窒化物である、請求項10に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項14】
前記分析対象の金属化合物微粒子が、硫化マンガン(MnS)、セメンタイト(Fe3C)の少なくとも一方または両方を含む、請求項8に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項15】
前記分析対象の金属化合物微粒子が、硫化マンガン(MnS)、セメンタイト(Fe3C)の少なくとも一方または両方を含む、請求項9に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
【請求項16】
前記分析対象の金属化合物微粒子が、硫化マンガン(MnS)、セメンタイト(Fe3C)の少なくとも一方または両方を含む、請求項10に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散溶媒の選定方法、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法及び鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材料中に含まれる介在物や析出物(以下、金属化合物微粒子という)は、その大きさや数量、化学組成などが鉄鋼材料の特性に大きな影響を及ぼす。例えば、粒径が数十マイクロメートルオーダーの比較的大きな金属化合物微粒子は、鉄鋼材料の特性を劣化させる有害なものとして扱われている。その一方で、近年、マイクロメートルオーダーあるいはそれ以下の大きさの金属化合物微粒子を積極的に利用して鋼の組織を制御することにより、鉄鋼材料の各種の特性を向上させる技術が発展している。これに伴い、鉄鋼材料中の微小な金属化合物微粒子の定量分析や粒度分布測定等を適切に行うニーズが高まっている。
【0003】
こうしたニーズを実現するには、金属化合物微粒子が溶媒中に安定して分散する溶液を調製する必要がある。そこで、従来から、鉄鋼材料から金属化合物微粒子を抽出分離する段階と、抽出分離された金属化合物微粒子を液中に分散させる段階とを経ることにより、金属化合物微粒子を分散させた分散液の調製が試みられている。
【0004】
鋼中の金属化合物微粒子の抽出分離法としては、非水電解液を用いた電解抽出法が知られている。電解抽出法は、鉄鋼材料を陽極とし、白金電極を陰極とし、これら陽極及び陰極を非水電解液に浸漬させた上で、電解を行うことによって、鉄鋼材料のマトリックスである鉄を溶解させて、金属化合物微粒子を抽出させる方法である。
【0005】
非水電解液を用いた電解抽出法では、抽出対象の物質に応じた溶媒と電位を選ぶことにより、金属化合物微粒子を選択的に抽出できるという特長がある。例えば、非特許文献1には、鉄鋼材料の電解抽出方法に使用する電解液として、アセチルアセトン、塩化テトラメチルアンモニウム及びメチルアルコールを含む非水電解液や、サリチル酸メチル、サリチル酸、塩化テトラメチルアンモニウム及びメチルアルコールを含む非水電解液が記載されている。
【0006】
しかし、非特許文献1に記載された非水電解液は、金属化合物微粒子を選択的に抽出できる反面、抽出された金属化合物微粒子を凝集させてしまう場合がある。そこで、金属化合物微粒子を液中に安定して分散させる目的で、電解抽出後の鉄鋼材料を、非水電解液とは異なる別の分散液に浸漬させて超音波振動を印加することにより、鉄鋼試料の表面に現れた金属化合物微粒子を鉄鋼試料から分離させつつ分散溶液中に分散させることが行われている。こうした分散液としては、従来、水やメチルアルコールを主成分とする分散溶媒に、分散剤が添加された溶液が用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“試料分析講座 鉄鋼分析”,社団法人日本分析化学会編,丸善出版株式会社,平成23年9月15日発行,p.91,p.101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来から利用されている分散溶媒は、鉄鋼材料から抽出した金属化合物微粒子を安定して分散できずに、むしろ凝集させてしまう場合があった。金属化合物微粒子が分散液中で凝集してしまうと、金属化合物微粒子の粒度分布の測定や、粒子径の測定に支障が生じるおそれがあった。
【0009】
本発明は上記事象に鑑みてなされたものであり、鉄鋼材料中に含まれる金属化合物微粒子を凝集させずに安定して分散させることが可能な、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散溶媒の選定方法、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法及び鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 鉄鋼材料から電解抽出された1種または2種以上の金属化合物微粒子を分散させるための分散溶媒の選定方法であって、
前記金属化合物微粒子毎に、前記金属化合物微粒子と選定候補の分散溶媒との間のハンセン溶解度パラメータ距離Raを下記(1)式により求め、前記金属化合物微粒子毎のハンセン溶解度パラメータ距離Raの全てが8.0(J/cm3)1/2以下となる場合に、前記選定候補の分散溶媒を、利用可能な分散溶媒として選定する選定工程を備える、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散溶媒の選定方法。
Ra=[4(δd1-δd2)2+(δp1-δp2)2+(δh1-δh2)2]1/2 …(1)
ただし、式(1)におけるδd1は前記金属化合物微粒子のロンドン分散力、δp1は前記金属化合物微粒子の双極子間力、δh1は前記金属化合物微粒子の水素結合力、δd2は前記分散溶媒のロンドン分散力、δp2は前記分散溶媒の双極子間力、δh2は前記分散溶媒の水素結合力である。
[2] 鉄鋼材料から電解抽出された1種または2種以上の分析対象の金属化合物微粒子を分散回収する方法であって、
下記(1)式で求められる前記分析対象の金属化合物微粒子の全てとの間のハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0(J/cm3)1/2以下となる分散溶媒を含む分散液中に、あらかじめ電解抽出された状態の前記鉄鋼材料を浸漬させて、前記鉄鋼材料の前記金属化合物微粒子を前記分散液中に分散させる分散回収工程を有する、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法。
Ra=[4(δd1-δd2)2+(δp1-δp2)2+(δh1-δh2)2]1/2 …(1)
ただし、式(1)におけるδd1は前記金属化合物微粒子のロンドン分散力、δp1は前記金属化合物微粒子の双極子間力、δh1は前記金属化合物微粒子の水素結合力、δd2は前記分散溶媒のロンドン分散力、δp2は前記分散溶媒の双極子間力、δh2は前記分散溶媒の水素結合力である。
[3] 鉄鋼材料から1種または2種以上の分析対象の金属化合物微粒子を電解抽出するとともに前記金属化合物微粒子を分散回収する方法であって、
前記鉄鋼材料を電解して前記鉄鋼材料中の前記分析対象の金属化合物微粒子を抽出する電解工程と、
下記(1)式で求められる前記分析対象の金属化合物微粒子の全てとの間のハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0(J/cm3)1/2以下となる分散溶媒を含む分散液中に、前記電解工程後の前記鉄鋼材料を浸漬させて、前記鉄鋼材料の前記金属化合物微粒子を前記分散液中に分散させる分散回収工程と、を有する、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法。
Ra=[4(δd1-δd2)2+(δp1-δp2)2+(δh1-δh2)2]1/2 …(1)
ただし、式(1)におけるδd1は前記金属化合物微粒子のロンドン分散力、δp1は前記金属化合物微粒子の双極子間力、δh1は前記金属化合物微粒子の水素結合力、δd2は前記分散溶媒のロンドン分散力、δp2は前記分散溶媒の双極子間力、δh2は前記分散溶媒の水素結合力である。
[4] 前記電解工程は、非水溶媒系電解液に、前記鉄鋼材料を含む陽極と陰極とを浸漬させて、前記鉄鋼材料を電解する工程である、[3]に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法。
[5] 前記金属化合物微粒子が、炭化物または/および窒化物である、[2]または[3]に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法。
[6] 前記分析対象の金属化合物微粒子が、硫化マンガン(MnS)、セメンタイト(Fe3C)の少なくとも一方または両方を含む、[2]または[3]に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法。
[7] 前記分散液に、分散剤が含有されている、[2]または[3]に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法。
[8] [2]または[3]に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法によって得られた前記金属化合物微粒子を含む分散液に対して、フィールドフローフラクショネーション法を行うことにより、前記金属化合物微粒子を粒子サイズ毎に分別する工程と、
粒子サイズ毎に分別された前記金属化合物微粒子の成分を分析する工程と、を有する鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
[9] [2]または[3]に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法によって得られた前記金属化合物微粒子を含む分散溶液に対して、前記分散液中の前記金属化合物微粒子を残しつつ液体成分を除去することにより、前記金属化合物微粒子を含む電子顕微鏡観察用の試料を作製する工程と、
前記試料を電子顕微鏡で観察する工程と、を有する鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
[10] 鉄鋼材料から電解抽出された金属化合物微粒子を分析する方法であって、
前記鉄鋼材料を電解して前記鉄鋼材料中の前記金属化合物微粒子を抽出する電解工程と、
下記(1)式で求められる前記金属化合物微粒子との間のハンセン溶解度パラメータ距離Raのうち分析対象の金属化合物微粒子との間のRaが8.0(J/cm3)1/2以下となり、前記分析対象の金属化合物微粒子以外の金属化合物微粒子との間のRaが8.0(J/cm3)1/2超となる分散溶媒を含む分散液中に、前記電解工程で電解された状態の前記鉄鋼材料を浸漬させて、前記鉄鋼材料の前記金属化合物微粒子を前記分散液中に含有させる分散回収工程と、
前記分散回収工程後の前記分散液をフィルターでろ過する、ろ過工程と、
前記ろ過工程で得られたろ液を分析する分析工程と、を有する、
鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
Ra=[4(δd1-δd2)2+(δp1-δp2)2+(δh1-δh2)2]1/2 …(1)
ただし、式(1)におけるδd1は前記金属化合物微粒子のロンドン分散力、δp1は前記金属化合物微粒子の双極子間力、δh1は前記金属化合物微粒子の水素結合力、δd2は前記分散溶媒のロンドン分散力、δp2は前記分散溶媒の双極子間力、δh2は前記分散溶媒の水素結合力である。
[11] 前記金属化合物微粒子が炭化物または/および窒化物である、[8]に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
[12] 前記金属化合物微粒子が炭化物または/および窒化物である、[9]に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
[13] 前記金属化合物微粒子が炭化物または/および窒化物である、[10]に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
[14] 前記分析対象の金属化合物微粒子が、硫化マンガン(MnS)、セメンタイト(Fe3C)の少なくとも一方または両方を含む、[8]に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
[15] 前記分析対象の金属化合物微粒子が、硫化マンガン(MnS)、セメンタイト(Fe3C)の少なくとも一方または両方を含む、[9]に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
[16] 前記分析対象の金属化合物微粒子が、硫化マンガン(MnS)、セメンタイト(Fe3C)の少なくとも一方または両方を含む、[10]に記載の鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉄鋼材料中に含まれる金属化合物微粒子を凝集させずに安定して分散させることが可能な、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散溶媒の選定方法、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法及び鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、選定候補の分散溶媒としてメチルアルコールを用いた場合の選定工程の結果を示す図。
【
図2】
図2は、選定候補の分散溶媒として、45体積%のエチレングリコール、45体積%のジメチルスルホキシドおよび10体積%のメチルアルコールからなる混合溶媒を用いた場合の選定工程の結果を示す図。
【
図3】
図3は、フィールドフローフラクショネーション装置の要部を示す断面模式図。
【
図4】
図4は、FFF-ICP質量分析法の測定結果を示す図であって、(a)は実施例1であり、(b)は比較例1である。
【
図5】
図5は、実施例2および比較例2の透過型電子顕微鏡による形態観察結果を示す顕微鏡写真。
【
図6】
図6は、実施例3において、分散液(A)、(B)に対してレーザ散乱粒度分析法により粒度分布を測定した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、鉄鋼材料中に含まれる金属化合物微粒子を、凝集させることなく安定して分散させることが可能な分散溶媒の選定方法を検討する中で、ハンセン溶解度パラメータに着目した。ハンセン溶解度パラメータδtは、物質の溶解性の予測に用いられる指標であり、Hildebrandが定義した溶解度パラメータ(凝集エネルギー密度)をさらに三成分に分解したものであり、以下の式(A)で示すことができる。
【0014】
δt=(δd
2+δp
2+δh
2)1/2 …(A)
【0015】
式(A)において、δdは分子間のロンドン分散力、δpは分子間の双極子間力、δhは分子間の水素結合力である。
【0016】
一般に、溶解度パラメータは、溶液中での分子間力を溶解力のパラメータとみなして定義され、2種類の成分混合に要するエネルギーΔEMは、『成分1および成分2がそれぞれ純物質として存在する場合の凝集エネルギーと、成分1と成分2との混合物である場合の凝集エネルギーの差』として表現できる。つまり、二種類の物質に対して溶解度パラメータがそれぞれ分かっている場合、この値が近ければ近いほど混じり合うのに要するエネルギーが小さくなり、溶解しやすくなる。
【0017】
式(A)における3種のパラメータは、三次元空間(ハンセン空間)における座標とみなせる。そして2種の物質のハンセン溶解度パラメータをそれぞれハンセン空間内に置いたとき、2点間の距離が近ければ近いほど互いに溶解しやすいことが示唆される。2点間の距離は、下記式(B)に示すハンセン溶解度パラメータ距離Raで表すことができる。
【0018】
Ra=[4(δd1-δd2)2+(δp1-δp2)2+(δh1-δh2)2]1/2 …(B)
【0019】
式(B)におけるδd1は成分1のロンドン分散力、δp1は成分1の双極子間力、δh1は成分1の水素結合力、δd2は成分2のロンドン分散力、δp2は成分2の双極子間力、δh2は成分2の水素結合力である。
【0020】
ハンセン溶解度パラメータ距離Raは、上述のように、物質の溶解性の予測に用いられ、特に有機材料同士の相溶性の評価に用いられるが、本発明者らは、鉄鋼材料に含まれる金属化合物微粒子の凝集性を評価するパラメータとして利用することを検討した。その結果、対象とする金属化合物微粒子と、選定候補の分散溶媒との溶解度パラメータ距離Raが所定の範囲内にある場合に、金属化合物微粒子が当該分散溶媒中で凝集せずに分散することが予測可能であることを見出した。
【0021】
また、選定された分散溶媒に金属化合物微粒子が分散された分散液は、様々な分析方法の試料として使用可能になる。分散液中では、金属化合物微粒子が凝集せずに分散しているので、フィールドフローフラクショネーション法の試験液として、また、透過型電子顕微鏡の支持膜法による試料作成時の試料として、更には金属化合物微粒子の成分分析の試料として使用することができる。これにより、金属化合物微粒子のサイズ測定や個数密度分布評価の定量性、検出下限が改善されることが期待される。
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0023】
以下、本発明の実施形態である、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散溶媒の選定方法(以下、選定方法という場合がある)、鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分散回収方法(以下、分散回収方法という場合がある)及び鉄鋼材料中の金属化合物微粒子の分析方法(以下、分析方法という場合がある)について説明する。
【0024】
(選定方法)
本実施形態の選定方法は、鉄鋼材料から電解抽出された1種または2種以上の金属化合物微粒子を分散させるための分散溶媒の選定方法であり、選定工程を備える。選定工程は、金属化合物微粒子毎に、金属化合物微粒子と選定候補の分散溶媒との間のハンセン溶解度パラメータ距離Raを求め、金属化合物微粒子毎のハンセン溶解度パラメータ距離Raの全てが8.0(J/cm3)1/2以下となる場合に、選定候補の分散溶媒を、利用可能な分散溶媒として選定する工程である。
【0025】
選定工程を行う前提として、金属化合物微粒子および分散溶媒のハンセン溶解度パラメータを把握する。
【0026】
分散溶媒のハンセン溶解度パラメータは、公知のものを使うことができる。表1に、その一例を示す。
【0027】
【0028】
また、2種以上の分散溶媒を混合した混合溶媒のハンセン溶解度パラメータは、以下の計算式によって求めることができる。
【0029】
例えば、a体積%の分散溶媒Aとb体積%(a+b=100%)の分散溶媒Bからなる2成分系の混合溶媒について、混合溶媒のロンドン分散力δdM、双極子間力δpM、水素結合力δhMはそれぞれ、次の式(C)~式(E)によって求める。3成分系の混合溶媒の場合も同様に、体積分率を乗じたものとする。
【0030】
δdM=(a×δdA+b×δdB)/(a+b) …(C)
δpM=(a×δpA+b×δpB)/(a+b) …(D)
δhM=(a×δhA+b×δhB)/(a+b) …(E)
【0031】
式(C)~式(E)において、δdAは分散溶媒Aのロンドン分散力、δpAは双極子間力、δhAは水素結合力であり、δdBは分散溶媒Bのロンドン分散力、δpBは双極子間力、δhBは水素結合力である。
【0032】
金属化合物微粒子のハンセン溶解度パラメータは、公知のものを利用してもよく、実験で求めてもよい。表2に、その一例を示す。
【0033】
【0034】
金属化合物微粒子のハンセン溶解度パラメータを実験によって測定する場合は、公知の方法によって行えばよい。具体的には、例えば、ハンセン溶解度パラメータが既知である表1に示される27種類の有機溶媒にそれぞれ、あらかじめ一次粒子径が既知である金属化合物微粒子を添加し、超音波処理を施す。一定時間(例えば1時間)の静置後に、各粒子の分散性、すなわち、分散しているか凝集しているかを評価する。分散性の評価には、沈降法または動的光散乱法(例えば、Malvern製、Zetasizer NanoS装置)を用いる。
【0035】
沈降法による場合の分散性の判断は、各種溶媒中での重力または遠心力による粒子の沈降速度からストークス径を測定し、既知の一次粒子径と近似する場合に、分散していると評価する。また、動的光散乱法による場合の判断は、動的光散乱装置によって測定された流体力学的径と、既知の一次粒子径とが近似する場合に、分散していると評価する。
金属化合物微粒子の分散性を評価する溶媒としては、上記の手順で分散していると評価される溶媒が少なくとも4種以上であり、分散していると評価される溶媒と分散していると評価されない溶媒とを合わせて20種以上であれば、金属化合物微粒子のハンセン溶解度パラメータを再現性良く決定することができる。
【0036】
次いで、27種類の有機溶媒のハンセン溶解度パラメータを、ハンセン空間にプロットする。このとき、ハンセン空間上で、金属化合物微粒子が分散した有機溶媒と、金属化合物微粒子が凝集した有機溶媒とを区別できるようにしておく。そして、金属化合物微粒子が分散した有機溶媒のプロットを全て内部に包含するような、ハンセン溶解球を、最小二乗法により計算して求める。そして、ハンセン空間におけるハンセン溶解球の重心の位置を、金属化合物微粒子のハンセン溶解度パラメータとする。ハンセン空間を利用した上記の計算は、市販のソフトウエア(ソフトウエア名:HSPiP、提供元:Pirika.com)を利用して計算することができる。表2に記載の金属化合物微粒子のハンセン溶解度パラメータは、上記の方法によって求められたものである。
【0037】
以下、選定工程を説明する。
【0038】
選定工程では、鉄鋼材料から電解抽出された金属化合物微粒子毎に、金属化合物微粒子と選定候補の分散溶媒との間のハンセン溶解度パラメータ距離Raを下記(1)式により求める。
【0039】
Ra=[4(δd1-δd2)2+(δp1-δp2)2+(δh1-δh2)2]1/2 …(1)
【0040】
ただし、式(1)におけるδd1は金属化合物微粒子のロンドン分散力、δp1は金属化合物微粒子の双極子間力、δh1は金属化合物微粒子の水素結合力、δd2は分散溶媒のロンドン分散力、δp2は分散溶媒の双極子間力、δh2は分散溶媒の水素結合力である。
【0041】
次に、算出した金属化合物微粒子毎のハンセン溶解度パラメータ距離Raが全て8.0(J/cm3)1/2以下となるかどうかを判断する。そして、全部のハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0(J/cm3)1/2以下の場合に、選定候補の分散溶媒を、利用可能な分散溶媒として選定する。
【0042】
以下、選定工程の一例を説明する。例えば、分析対象とする金属化合物微粒子を表3に示す6種類の金属化合物微粒子とし、選定候補の分散溶媒をメチルアルコールとする。この場合に、まず選定工程として、6種類の金属化合物微粒子毎に、各金属化合物微粒子とメチルアルコールとの間のハンセン溶解度パラメータ距離R
aを求める。
図1及び表3にその計算結果を示す。
【0043】
次に、表3に示した各金属化合物微粒子とメチルアルコールとの間のハンセン溶解度パラメータ距離Raが、全て8.0(J/cm3)1/2以下になるかどうかを判断する。表3に示すように、分散溶媒がメチルアルコールの場合は、全ての微粒子のハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0(J/cm3)1/2超であった。従って、選定候補とされたメチルアルコールは、分散溶媒として利用できない。
【0044】
【0045】
そこで選定候補の分散溶媒を変更して、選定工程を再度行う。分析対象とする金属化合物微粒子は上記と同様に、表4に示す6種類の金属化合物微粒子とする。選定候補の分散溶媒は、45体積%のエチレングリコール、45体積%のジメチルスルホキシドおよび10体積%のメチルアルコールからなる混合溶媒とする。この場合の各金属化合物微粒子と当該混合溶媒との間のハンセン溶解度パラメータ距離R
aは、
図2及び表4の通りとなる。表4に示すように、全ての金属化合物微粒子についてのハンセン溶解度パラメータ距離R
aが8.0(J/cm
3)
1/2以下になる。そこで、上記の混合溶媒を、利用可能な分散溶媒として選定する。
【0046】
【0047】
上記の例では、対象とする金属化合物微粒子として、表3または表4に示す6種類の金属化合物微粒子を用いたが、本実施形態の選定方法はこれに限定されず、実際の分析対象である鉄鋼材料に含まれうる金属化合物微粒子を対象にすればよい。
【0048】
また、鉄鋼材料に含まれうる金属化合物微粒子の全てを、一度の電解工程によって抽出させることが困難な場合がある。そのため、通常、電解抽出条件は、金属化合物微粒子毎に最適な条件に設定する。従って、本実施形態の選定方法では、実際の分析対象である鉄鋼材料に含まれうる金属化合物微粒子のうち、一度の電解抽出によって同時に抽出可能な1種または2種以上の金属化合物微粒子を対象として、分散溶媒の選定を行ってもよい。
【0049】
分散溶媒の選定基準となるハンセン溶解度パラメータ距離Raの上限(8.0(J/cm3)1/2以下)は、実験によって決定した値である。具体的には、種々の分散溶媒に各種の金属化合物微粒子を添加し、超音波振動を付与して分散させ、その後12時間程度静置して、分散するか沈降するかを観察し、分散評価結果を得る。このようにして得られた分散評価結果と、分散溶媒と金属化合物微粒子とのそれぞれの組合せについて、ハンセン溶解度パラメータ距離Raとを比較照合すると、ハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0(J/cm3)1/2以下の組合せでは、金属化合物微粒子は溶媒中で分散し、8.0(J/cm3)1/2超の組合せでは、金属化合物微粒子は溶媒中で沈降する(すなわち分散しない)ということがわかった。従って、ハンセン溶解度パラメータ距離Raの上限値(8.0(J/cm3)1/2以下)は、鉄鋼材料に含まれうる金属化合物微粒子が分散溶媒中で分散するか否かを判別するための閾値として利用可能である。
【0050】
ハンセン溶解度パラメータ距離Raが小さいほど、分散溶媒に対する金属化合物微粒子の分散性が良好になる。ハンセン溶解度パラメータ距離Raの上限値は、より好ましくは5.0(J/cm3)1/2以下であり、さらにより好ましくは、3.0(J/cm3)1/2以下である。しかし、ハンセン溶解度パラメータ距離Raが過剰に小さいと、金属化合物微粒子が分散溶媒に溶解する可能性がある。このため、ハンセン溶解度パラメータ距離Raは1.0(J/cm3)1/2以上としてもよい。
【0051】
本実施形態の選定方法では、選定工程を経ることにより、利用可能な分散溶媒として、複数の分散溶媒が選定される可能性がある。その場合、更なる絞り込みの選定基準としては、ハンセン溶解度パラメータ距離Raがより小さくなるものを選定することが好ましい。また、その他の絞り込みの選定基準として、分散液の調製後の分析の段階において、例えば、フィールドフローフラクショネーション法や電子顕微鏡観察において、取り扱いに支障のないものを選定してもよい。また、人体や環境に悪影響を及ぼさない分散溶媒を選定してもよい。
【0052】
本実施形態の選定方法に適用可能な鉄鋼材料は、特に制限はない。また、対象とする金属化合物微粒子についても特に制限はないが、炭化物または/および窒化物であることが好ましい。
【0053】
(分散回収方法)
次に、本実施形態の分散回収方法を説明する。本実施形態の分散回収方法は、選定工程、電解工程および分散回収工程を有する。選定工程は、上述した選定方法における選定工程と同様である。従って、以下の説明では、電解工程および分散回収工程について説明する。
【0054】
電解工程は、鉄鋼材料を電解して鉄鋼材料中の金属化合物微粒子を抽出する工程である。本実施形態に係る電解工程は、電解液を用いた一般的な鉄鋼材料の電解抽出法を適用できる。より具体的に電解工程は、電解液に、鉄鋼材料を含む陽極と、陰極とを浸漬させ、電解液中で鉄鋼材料を電解する工程である。陰極としては例えば白金電極を用いるとよい。なお、鉄鋼材料は、特に制限はない。
【0055】
電解液としては、非特許文献1(“試料分析講座 鉄鋼分析”,社団法人日本分析化学会編,丸善出版株式会社,平成23年9月15日発行,p.91,p.101)に記載されているような、例えば、アセチルアセトン、塩化テトラメチルアンモニウム及びメチルアルコールを含む非水電解液や、サリチル酸メチル、サリチル酸、塩化テトラメチルアンモニウム及びメチルアルコールを含む非水電解液など、一般に利用されている電解液を用いることができる。
【0056】
電解条件は、定電位条件、定電流条件のいずれでもよい。電解の際に、所定の電位、電流を採用することで、対象とする金属化合物微粒子は溶解させずに鉄マトリックスのみを選択的に溶解させることが可能である。
【0057】
電解工程後の鉄鋼材料の表面には、マトリックスである鉄が除かれた結果、金属化合物微粒子が抽出された状態にある。
【0058】
次に、分散回収工程では、選定工程において選定された分散溶媒を含む分散液を用意し、この分散液中に、電解工程後の鉄鋼材料を浸漬させて、鉄鋼材料の金属化合物微粒子を分散液中に分散させる。
分散液は、硫化マンガン(MnS)、セメンタイト(Fe3C)の少なくともいずれかとのハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0(J/cm3)1/2以下となる分散溶媒を含んでいてもよい。硫化マンガンとセメンタイトは、多くの鋼種に含有されている基本的な金属化合物微粒子であり、硫化マンガンは、微細なものは結晶粒界に析出し、ピニング粒子として結晶粒径の粗大化を抑制したり、粗大なものは割れの起点となり鋼材の歩留まりに大きく影響することが多く、また、セメンタイトは、焼き戻し処理によりナノサイズで鋼中に析出して鋼を強化したり、また一方では、粗大化もしくは合金濃化して未溶解化し、冷延時に脆性破断したり、機械的特性の低下を引き起こすこともあり、鋼材特性との関係があることから、これらの個数密度を知ることが重要である。
【0059】
分散液は、選定工程において選定された分散溶媒を含む。分散液は、選定工程にて選定された分散溶媒のみを含んでいてもよい。また、分散液は、選定された分散溶媒と分散剤とを含んでいてもよい。分散剤は、例えば、後述するフィールドフローフラクショネーション法を実施する際に好適な分散剤であってもよい。そのような分散剤として、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(以下、SDSという。)、コール酸ナトリウム(以下、SCという。)を例示できる。分散剤の濃度は、50~3000ppm程度でよい。なお、分散剤はSDS、SCに限定されるものではない。本実施形態の分散液の溶媒は、鉄鋼材料に含まれうる金属化合物微粒子の全て、または実際の分析対象である鉄鋼材料に含まれうる金属化合物微粒子とのハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0(J/cm3)1/2以下である溶媒である。この条件を満たす溶媒は、金属化合物微粒子の凝集を防止し、分散性に優れる。しかし、長時間、例えば1日以上経過すると一部の金属化合物微粒子の凝集が起こることがある。これに対して、本実施形態の分散液の溶媒に上記したような分散剤を添加することにより、長時間にわたる分散安定性が向上し、1日以上にわたって、安定した分散状態を維持して分散液を保管することが可能となる。
【0060】
鉄鋼材料から金属化合物微粒子を分散液中に分散させる場合は、鉄鋼材料を分散液に浸漬したまま、超音波印加装置によって超音波振動を与えて、鉄鋼材料から金属化合物微粒子の解離を促進させるとよい。超音波振動の印加時間は、例えば2分以内がよく、1分以内がより好ましい。
【0061】
電解工程によって鉄鋼材料の表面に現れた金属化合物微粒子は、分散回収工程を経ることによって、分散液中に分散される。分散液中に含まれる分散溶媒は、選定工程において選定されたものであるので、金属化合物微粒子を長時間に渡り安定して分散させた状態に保つことができる。
【0062】
なお、本実施形態の分散回収方法では、選定工程、電解工程および分散回収工程を必ずしもこの順序で行う必要はなく、例えば、電解工程及び選定工程を同時並行に行ってもよい。また、ある種の鉄鋼材料について選定工程によって利用可能な分散溶媒が選定されており、その選定結果が、別の種類の鉄鋼材料にも適用可能な場合は、新規の選定工程を行なわずに、当該選定結果を流用してよいのはもちろんである。
【0063】
(分析方法)
次に、本実施形態の分析方法を説明する。
【0064】
(第1の例)
分析方法の第1の例として、フィールドフローフラクショネーション法(以下、FFF法という)の適用を挙げることができる。第1の例では、上述の分散回収方法によって得られた分散液に対して、フィールドフローフラクショネーション法を行うことにより、金属化合物微粒子を粒子サイズ毎に分別する分別工程と、粒子サイズ毎に分別された金属化合物微粒子の成分を分析する分析工程とを行う。
【0065】
図3に、本例に適用可能なFFF装置の一例を示す。このFFF装置は、展開溶液が流通する分離セル16、分離セル16内に配置された透過性膜21、クロスフロー14を分離セル16に導入する図示略のクロスフロー導入部、試験液15を分離セル16に導入する図示略のサンプル導入部、分離セル16内での展開溶液やクロスフロー14の流れを制御する図示略の制御手段と、が備えられる。クロスフロー14とは展開溶液による
図3の上から下に向かう流れである。
【0066】
分離セル16は、所定の間隔を空けて配置された上部筐体16a及び下部筐体16bから構成される。分離セル16の内部空間は、展開溶液が流通するチャネル部16cである。下部筐体16bはメッシュ状の部材から構成される。下部筐体16bのチャネル部16c側には透過性膜21が積層されている。透過性膜21は、溶媒、抽出液、展開溶液などの液体は透過させるが、金属化合物微粒子は透過させないものである。
更に、分離セル16の図中右側には、図示略のICP質量分析装置が接続されている。
【0067】
次に、分別工程及び分析工程を行う。
分別工程では、FFF法の試験液として、上述の分散回収方法によって得られた分散液を用いる。分散液には、金属化合物微粒子及び分散溶媒の他に、分散剤を含んでいてもよい。分散剤は、例えば、SDS、SCを例示できる。分散剤の濃度は、50~3000ppm程度でよい。
【0068】
分別工程では、まず、FFF装置において、クロスフロー14と呼ばれる展開溶液の流れを生じさせる。更に、分離セル16の左側と右側からも展開溶液を流す。これにより、左右両側から相対するように流れる展開液の流れが、クロスフロー14の流れに導かれて、透過性膜21に向かう流れを形成させる。この流れが安定した後、金属化合物微粒子を含む試験液15を展開液に添加する。
【0069】
すると、展開溶液の流れに乗って、金属化合物微粒子は透過性膜21の近傍に局所的に濃縮される。展開溶液の流れを所定の時間に渡って保持すると、微粒子が次第にブラウン運動を伴い拡散する。透過性膜21には大きなサイズの大粒子20がクロスフロー14の流れによって押し付けられるが、その一方で、比較的サイズが小さな中粒子19及び小粒子18は、ブラウン運動により分離セル16中に浮遊した状態になる。小粒子18ほど上方に浮遊しやすくなる。この操作をフォーカシングと呼ぶ。この状態にすることで、分離セル16の中で微粒子がサイズ毎に並び替えられることとなる。
【0070】
その後、クロスフロー14を維持したまま、分離セル16の左右から押し付けていた展開溶液の流れを変えて、展開溶液からなるチャネルフロー17を形成させる。チャネルフロー17は層流であり、
図3に示すような流速分布を有している。すなわち、チャネル部16cの厚さ方向中心での流速が最も速く、中心から離れるに従って流速が遅くなる。すなわち、小粒子18の存在領域では流速が大きく、大粒子20の存在領域では流速が小さくなる。
【0071】
このとき、透過性膜21近傍に微粒子を留める役割のクロスフロー14の圧力を徐々に低下させると、分離膜21近傍に留められていた微粒子が、チャネルフロー17の層流の流れに乗って、徐々に小さな粒子から大きな粒子の順で右側に排出される。
【0072】
なお、FFFの分離原理としては、クロスフロー液による押さえつけ力とブラウン運動との組み合わせの他に、重力、電場、磁場、温度勾配等を利用してもよい。
【0073】
次に、分析工程について説明する。FFF法によってサイズ毎に分離された金属化合物微粒子は、チャネルフロー17によって、FFF装置の外部に設置されているICP質量分析装置に導かれる。ICP質量分析装置には、粒径の小さい順に微粒子が到達する。到達した微粒子は、プラズマの熱エネルギーにより原子レベルまで分解、その後イオン化されて、質量分析計に導入される。質量分析計によって、各微粒子に特有な質量スペクトルを得る。また、各イオンの検出量を縦軸とし、検出時間を横軸とする各イオンの時間変化量のチャートも得られる。
【0074】
また、FFF装置とICP質量分析装置の間に、レーザ光照射検出装置を配置してもよい。レーザ光照射検出装置において複数角度に設置された光検出器より、レーザ光散乱された光強度を得る。小さな粒子の場合は、角度依存性が非常に少なく全方位散乱現象を示す。一方、粗大な粒子になるにつれて、前方散乱現象が強くなるため、この角度依存性の傾きを取ることにより金属化合物微粒子のサイズを一義的に決定できる。
【0075】
金属化合物微粒子は、分散液中において凝集沈降せずに分散されているので、FFF装置に対して適切な量の金属化合物微粒子を導入することができる。これにより、FFF装置の後段に設置したICP質量分析装置やレーザ光検出装置において、金属化合物微粒子を確実に検出することができる。
【0076】
また、分散液がFFF装置に導入された後も、金属化合物微粒子は凝集せずに分散された状態が維持される。これにより、FFF法において、分離セル16内にて金属化合物微粒子のサイズ毎の並び替えが適切に行われて、小さな粒子から大きな粒子の順に導出させることが可能になり、粒子サイズ毎にICP質量分析装置などによる分析を行うことができる。この他、分散液をレーザ回折粒度分布測定装置で粒度分布を測定してもよい。また、ICP質量分析装置に分散液を直接導入して、シングルパーティクル法によって、粒度と元素組成を分析してもよい。
【0077】
尚、分析工程の前に、分散液をフィルターでろ過して、ろ液を分析に用いてもよい。フィルターの孔径は適宜選択することができる。
一例として、フィルターの孔径は、所定の値dm(μm)として、2.0×dm以上2.5dm以下であることが望ましい。所定の値dm(μm)は、例えば、この後の粒径測定や元素分析において、粒径dm(μm)以上の粒子が存在すると支障をきたすものとして決めてもよい。粒径測定や元素分析において支障をきたす例としては、粒子を搬送するための配管の詰まりやICP質量分析装置のネブライザーの詰まりが挙げられる。フィルターの孔径が2.0×dm(μm)未満の場合、粒径がdm(μm)未満の粒子もフィルター上に残留する割合が多くなり、粒径測定を目的とする対象の金属化合物微粒子の粒径を正確に測定できない。フィルターの孔径が2.5×dm(μm)を超えると、粒径がdm(μm)以上の粒子がろ液に混入する割合が多くなり、粒径測定や元素分析に支障をきたす。dmは例えば、1~5μmの範囲で適宜選択されうる。
【0078】
(第2の例)
次に、分析方法の第2の例を説明する。第2の例では、上述の分散回収方法によって得られた分散液に対して、分散液中の金属化合物微粒子を残しつつ液体成分を除去することにより、金属化合物微粒子を含む電子顕微鏡観察用の試料を作製する試料作成工程と、試料を電子顕微鏡で観察する観察工程と、を行う。
【0079】
試料作成工程では、例えば、透過型電子顕微鏡の観察用の支持膜上において、分散液中の金属化合物微粒子を残しつつ液体成分を除去する。分散液には、固体成分である金属化合物微粒子の他に、液体成分である分散溶媒が含まれる。試験観察工程では、分散液を加熱または減圧して液体成分である分散溶媒を蒸発させるか、あるいは分散液を25℃程度の室温のまま保持して分散溶媒を揮発させる。液体成分が除去されたことにより、観察用の支持膜上に、金属化合物微粒子が分散した状態で残存する。
【0080】
次に、観察工程では、金属化合物微粒子を支持膜ごと透過型電子顕微鏡に導入して、金属化合物微粒子の形態観察、粒子サイズ測定等を行う。また、透過型電子顕微鏡に付属するEDS等の元素分析装置によって、金属化合物微粒子の定性分析または組成分析を行ってもよい。
【0081】
金属化合物微粒子は、分散液中において分散されていたので、試料作成工程において液体成分が除去された後も、分散されたままの状態が維持される。これにより、支持膜上の金属化合物微粒子同士は互いに凝集するおそれがない。これにより、透過型電子顕微鏡で金属化合物微粒子を観察した場合に、金属化合物微粒子が相互に離間した状態のまま観察できるので、金属化合物微粒子の形状の把握が容易になり、また、粒径測定を正確に行えるなど、金属化合物微粒子の形態観察を適切に行うことができる。
【0082】
本実施形態の選定方法、分散回収方法および分析方法において、対象とする金属化合物微粒子は特に制限はないが、炭化物または/および窒化物であることが好ましい。
【0083】
(第3の例)
次に、分析方法の第3の例を説明する。第3の例では、分散溶媒を選定する際に、鉄鋼材料中の分析対象の金属化合物微粒子と分散溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離Ra(J/cm3)1/2が8.0以下となり、かつ、鉄鋼材料中の分析対象外の金属化合物微粒子と分散溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0超となる分散溶媒を選定する。ここで、分散溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0以下となる金属化合物微粒子は、例えば、粒径測定を目的とする対象であってもよく、ハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0超となる金属化合物微粒子は、粒径測定の必要がない粒子であってもよい。そして、分散溶媒に電解工程後の鉄鋼材料を浸漬させて、超音波を印加する等して、金属化合物微粒子を分散させた後、フィルターでろ過する。
【0084】
分析対象外の金属化合物微粒子は、分散溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離Ra(J/cm3)1/2が8.0超であるため、分散溶媒中で分散せずに凝集するようになる。これにより、一方、分析対象の金属化合物微粒子は、分散溶媒中で分散状態のままとなるので、分散溶媒に対してろ過を行うことで、分析対象の金属化合物微粒子と、分析対象外の金属化合物微粒子とを分別することが可能になる。
【0085】
分散溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離Ra(J/cm3)1/2が8.0超である分析対象外の金属化合物微粒子は、分散溶媒中で凝集し、ろ過工程でフィルター上に残存するので、ろ液への混入が少なくなり、粒径測定を目的とする金属化合物微粒子の粒径測定や元素分析が正確かつ容易に実施可能となる。
【実施例0086】
(実施例1)
UO鋼管用の鋼材を用意した。この鋼材には、Tiが合計で100~200ppm程度含有されており、鋼中にTiNおよびTiCが含まれていた。
【0087】
まず、上記鋼材に対して、電解工程を行った。上記鋼材から切出した鉄鋼材料を陽極とし、白金電極を陰極として、非水溶媒系電解液に浸漬した。非水溶媒系電解液は、10体積%のアセチルアセトンと1質量%の塩化テトラメチルアンモニウムを含むメチルアルコール溶液とした。電解条件は定電流条件とし、500mAで通電量を3600クーロンとした。
【0088】
次いで、電解抽出後の鉄鋼材料表面に露出した微粒子を分散液中に浸漬し、超音波処理によって微粒子を分散液に分散させた。分散後の分散液に対して回転数1000rpm、1分間の条件で遠心分離を行い、粗大な析出物を沈降除去した。
【0089】
分散液には、実施例1及び比較例1の分散液を用意した。実施例1の分散液は、50体積%のエチレングリコールおよび50体積%のジメチルスルホキシドからなる混合溶媒に、500ppmのSDSを溶解させたものを用いた。比較例1の分散液は、メチルアルコールからなる溶媒に、500ppmのSDSを溶解させたものを用いた。
【0090】
実施例1の混合溶媒は、金属化合物微粒子としてTiNおよびTiCを対象とする場合に、これらの金属化合物微粒子とのハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0(J/cm3)1/2以下になるものであった。一方、比較例1のメチルアルコールからなる溶媒は、TiNおよびTiCを対象とする場合に、これらの金属化合物微粒子とのハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0(J/cm3)1/2超になるものであった。
【0091】
このようにして、実施例1及び比較例1の分散液を調製した。
【0092】
実施例1及び比較例1の分散液をガラス容器に収納し、密封して24時間静置した後に、目視で観察を行った。その結果、実施例1では、沈殿の発生が認められず、金属化合物微粒子は分散状態を維持していた。一方、比較例1では、ガラス容器の底部に沈殿が堆積していた。
【0093】
次に、1時間静置後の実施例1及び比較例1の分散液を試験液として、FFF-ICP質量分析を行なった。FFF法によって粒子サイズ毎に分別し、質量分析によってm/z=48のイオンを検出した。m/z=48のイオンはチタンに由来する。結果を
図4に示す。
【0094】
図4(a)に示す比較例1の場合は、m/z=48のイオンの検出量が少なかったのに比べて、
図4(b)に示す実施例1の場合はm/z=48のイオンの検出量が比較例1に比べて明らかに多くなり、TiN及びTiCが良好に分散しており、粒子を正確なサイズで検出できていることが明らかになった。
【0095】
また、各分散液から顕微鏡観察試料を調製し、これを透過型電子顕微鏡で観察することによって、粒度分布測定結果を得た。そして、
図4(a)及び
図4(b)に示す結果と、電子顕微鏡による粒度分布測定結果を対比したところ、両者は概ね一致していた。
【0096】
(実施例2)
強度980MPa級の熱間圧延鋼板を用意した。この鋼板は、C:0.050質量%、Si:0.4質量%、Mn:2.0質量%、Ti:0.100質量%、残部:Fe及び不純物からなるものであった。鋼中にはTiNおよびTiCの金属化合物微粒子が含まれていた。
【0097】
上記鋼板に対して、電解工程を行った。上記鋼板から切出した鉄鋼材料を陽極とし、白金電極を陰極として、非水溶媒系電解液に浸漬した。非水溶媒系電解液は、10体積%のアセチルアセトンと1質量%の塩化テトラメチルアンモニウムを含むメチルアルコール溶液とした。電解条件は定電流条件とし、500mAで通電量を3600クーロンとした。
【0098】
次いで、電解抽出後の鉄鋼材料表面に露出した微粒子を分散液中に浸漬し、超音波処理によって微粒子を分散液に分散させた。
【0099】
分散液には、実施例2及び比較例2の分散液を用意した。実施例2の分散液は、50体積%のエチレングリコールおよび50体積%のジメチルスルホキシドからなる混合溶媒に、500ppmのSDSを溶解させたものを用いた。比較例2の分散液は、メチルアルコールからなる溶媒に、500ppmのSDSを溶解させたものを用いた。
【0100】
実施例2の混合溶媒は、金属化合物微粒子としてTiNおよびTiCを対象とする場合に、これらの金属化合物微粒子とのハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0(J/cm3)1/2以下になるものであった。一方、比較例2のメチルアルコールからなる溶媒は、TiNおよびTiCを対象とする場合に、これらの金属化合物微粒子とのハンセン溶解度パラメータ距離Raが8.0(J/cm3)1/2超になるものであった。
【0101】
このようにして、実施例2及び比較例2の分散液を調製した。
【0102】
得られた分散液を、カーボン支持膜付きCuメッシュ材に5μL滴下し、減圧下乾燥して溶媒を除去した後、透過型電子顕微鏡による形態観察を行なった。結果を
図5に示す。
【0103】
図5(a)に示すように、比較例2は、金属化合物微粒子同士の重なりが多く見られ、粒子形状の把握及び粒子サイズの測定に支障が生じた。一方、
図5(b)に示すように、実施例2では、金属化合物微粒子が1つずつ離間して存在しており、粒子形状の把握及び粒子サイズの測定が容易に行えた。
【0104】
(実施例3)
C:0.2質量%、Si:0.2質量%、Mn:1.0質量%、Al:0.01質量%、S:0.007質量%、Nb:0.08質量%、残部:Fe及び不純物からなる熱延鋼板を用意した。
上記鋼板に対して、電解工程を行った。上記鋼板から切出した鉄鋼材料を陽極とし、白金電極を陰極として、非水溶媒系電解液に浸漬した。非水溶媒系電解液は、10体積%のアセチルアセトンと1質量%の塩化テトラメチルアンモニウムを含むメチルアルコール溶液とした。電解条件は定電流条件とし、500mAで通電量を3600クーロンとした。
次いで、電解抽出後の鉄鋼材料表面に露出した微粒子を分散液中に浸漬し、超音波処理によって微粒子を分散液に分散させた。
【0105】
分散液は、分散液(A)、分散液(B)の2種類の分散液を用いた。分散液(A)の組成は、52体積%N-メチルホルムアミド-48体積%メチルアルコールであった。分散液(B)の組成は、60体積%1,3-ブタンジオール-40体積%ジメチルスルホキシドであった。分散液(A)とAlNとのハンセン溶解度パラメータ間の距離Raは、8.0(J/cm3)1/2以下(Ra=3.9)であり、分散液(A)とNbNとのRaは8.0(J/cm3)1/2超(Ra=9.3)であった。分散液(B)とAlNとNbNとのハンセン溶解度パラメータ間の距離Raはいずれの場合も8.0(J/cm3)1/2以下(AlN:Ra=6.8、NbN:Ra=6.2)であった。
【0106】
各分散液(A)、(B)を孔径5μmのフィルターでろ過し、ろ液をレーザ散乱粒度分析法で分析した。その結果を
図6に示す。
図6の横軸は粒径であり、縦軸は散乱強度である。
図6に示すように、分散液(A)および(B)に対して、それぞれ、
図6の曲線(1)および(2)が得られた。また、分散液(A)のろ液をICP質量分析した結果、Alのみが検出された。
【0107】
図6およびICP質量分析の結果から、分散液(A)を用いた場合は、AlNは分散するが、NbNは凝集して粗大化したため、フィルターに捕捉されたと考えられる。この作用により、レーザー散乱粒度分析法のように元素情報が得られない分析法であっても、AlNの粒度分布が正確かつ簡便に得られることが分かった。
14…クロスフロー、15…試験液、16…分離セル、16a…上部筐体、16b…下部筐体、16c…チャネル部、17…チャネルフロー、18…小粒子、19…中粒子、20…大粒子、21…透過性膜。