(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120633
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤およびその利用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/05 20060101AFI20240829BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240829BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240829BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240829BHJP
A61K 31/69 20060101ALI20240829BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
A61K31/05
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K31/69
A61P35/02 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027556
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】591060289
【氏名又は名称】岐阜市
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100195062
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 涼子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 智史
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZC201
4C084ZC202
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA43
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC20
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA17
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZB26
4C206ZB27
4C206ZC20
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】プロテアソーム阻害剤におけるBounce backを抑制できる技術を提供する。
【解決手段】アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤は、Hexestrolを含み、アジュバント組成物は、プロテアソーム阻害剤と組み合わせて対象に投与されて用いられ、Hexestrolを含み、アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害活性を有し、がんの治療または予防に用いられる医薬組成物は、プロテアソーム阻害剤とアスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤とを含み、アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤は、Hexestrolを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤であって、
Hexestrolを含む、
アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤。
【請求項2】
アジュバント組成物であって、
プロテアソーム阻害剤と組み合わせて対象に投与されて用いられ、
Hexestrolを含み、
アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害活性を有する、
アジュバント組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のアジュバント組成物において、
固形がんの治療または予防に用いられる、
アジュバント組成物。
【請求項4】
がんの治療または予防に用いられる医薬組成物であって、
プロテアソーム阻害剤と、アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤とを含み、
前記アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤は、
Hexestrolを含む、
医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、抗がん剤としてプロテアソーム阻害剤が用いられることがある。しかしながら、認可されているプロテアソーム阻害剤の種類が少ないことや、多発性骨髄腫等の血液がんにしか適用されていないこと、プロテアソーム阻害剤の耐性化等、現状において複数の問題がある。プロテアソーム阻害剤の耐性獲得や、固形がんに対する有効性が高くないことの原因として、プロテアソーム構成因子の代償的合成促進(Bounce back)が関与している可能性が指摘されている。
【0003】
プロテアソーム構成因子の代償的合成促進とは、正常時にはプロテアソームによる分解を受ける小胞体膜貫通型転写因子Nrf1が、プロテアソーム機能低下時には分解を免れ、プロセシングによって活性化され、核内に移動してプロテアソーム構成因子の発現を誘導することをいう(例えば、非特許文献1)。非特許文献2では、Nrf1の切断酵素がアスパラギン酸プロテアーゼDDI2(DNA Damage Inducible 1 Homolog 2)であることが報告されている。また、非特許文献3には、NelfinavirがDDI2阻害活性を有することと、プロテアソーム阻害剤の作用増強効果を示すこととが開示されている。他方、非特許文献4では、Nelfinavirがプロテアソーム阻害活性を有することにより、Bounce backを強めてしまうことが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S Radhakrishnan et al., Mol Cell, 2010 Apr 9;38(1):17-28
【非特許文献2】S Koizumi et al., eLife, 2016
【非特許文献3】D Fassmannova et al., Cancers, 2020 May; 12(5): 1065
【非特許文献4】Y Gu et al., Cell Signal, 2020 Nov;7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Nelfinavirは、DDI2の活性を阻害する一方でプロテアソーム阻害活性を有するため、Bounce backの根本的解決には至らない。このため、DDI2の活性を阻害することができ、かつ、プロテアソーム阻害剤におけるBounce backを抑制できる技術の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤が提供される。このアスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤は、Hexestrolを含む。この形態のアスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤によれば、DDI2の活性を阻害することができ、かつ、プロテアソーム阻害剤におけるBounce backを抑制できる技術を提供できる。
【0008】
(2)本発明の他の形態によれば、アジュバント組成物が提供される。このアジュバント組成物は、プロテアソーム阻害剤と組み合わせて対象に投与されて用いられ、Hexestrolを含み、アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害活性を有する。この形態のアジュバント組成物によれば、DDI2の活性を阻害することができ、かつ、プロテアソーム阻害剤におけるBounce backを抑制できるので、プロテアソーム阻害剤の作用を増強できる。
【0009】
(3)上記(2)に記載のアジュバント組成物は、固形がんの治療または予防に用いられてもよい。この形態のアジュバント組成物によれば、プロテアソーム阻害剤と組み合わせて固形がんの治療または予防に用いられるので、固形がんに対する治療または予防効果を高めることができる。
【0010】
(4)本発明の他の形態によれば、がんの治療または予防に用いられる医薬組成物が提供される。この医薬組成物は、プロテアソーム阻害剤と、アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤とを含み、前記アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤は、Hexestrolを含む。この形態の医薬組成物によれば、DDI2の活性を阻害することができ、かつ、プロテアソーム阻害剤におけるBounce backを抑制できるので、プロテアソーム阻害剤の作用を増強できる。この結果として、がんに対する治療または予防効果を高めることができる。
【0011】
なお、本開示は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤の生産方法、アジュバント組成物の生産方法、プロテアソーム阻害剤の作用増強化合物、プロテアソーム阻害剤の作用増強化合物の生産方法、プロテアソーム機能代償機構抑制化合物、プロテアソーム機能代償機構抑制化合物の生産方法、Hexestrolのアスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤としての利用、Hexestrolのアジュバント組成物としての利用等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
一般に、プロテアソーム阻害剤は、細胞におけるプロテアソーム機能を阻害して細胞死を誘導できるため、抗がん剤として利用されている。アスパラギン酸プロテアーゼDDI2(DNA Damage Inducible 1 Homolog 2)は、プロテアソーム阻害剤処理時において、小胞体膜貫通型転写因子Nrf1(Nuclear Factor Erythroid-2 Related Factor 1)を切断して活性型Nrf1を生じさせる。活性型Nrf1は、核内に移動してプロテアソーム構成因子の発現を誘導する。以下の説明では、プロテアソーム機能低下時に引き起こされる代償的プロテアソーム活性化を、「Bounce back」とも呼ぶ。本願発明者は、鋭意研究を進めることにより、HexestrolがDDI2阻害活性を有し、かつ、プロテアソーム阻害活性を有さないことを見出した。すなわち、本願発明者は、上記3種類の化合物が、DDI2阻害活性を有し、かつ、Bounce backを抑制できることを見出し、本願発明を完成させるに至った。
【0014】
本開示の一実施形態によれば、アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤が提供される。このアスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤は、Hexestrolを含む。Hexestrolは、下記式(1)で示される構造を有する。
【0015】
【0016】
本開示の他の形態によれば、アジュバント組成物が提供される。このアジュバント組成物は、プロテアソーム阻害剤と組み合わせて対象に投与されて用いられ、Hexestrolを含み、アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害活性を有する。
【0017】
本開示において、「アジュバント組成物」とは、他の物質と組み合わせて投与されることにより、かかる他の物質の作用を増強することのできる組成物を意味する。本開示のアジュバント組成物は、プロテアソーム阻害剤と組み合わせて対象に投与されることにより、プロテアソーム阻害剤の作用を増強する。より具体的には、Hexestrolが、プロテアソーム阻害活性を有さず、DDI2のみを特異的に阻害することができるため、プロテアソーム阻害剤の投与に起因するBounce backを抑制できる。本開示のアジュバント組成物は、がんの治療または予防に用いられることが想定され、特に、難治性固形がんを含めた固形がんの治療または予防に好適する。
【0018】
本開示において、「プロテアソーム阻害剤」とは、プロテアソームの活性を阻害することのできる組成物を意味する。プロテアソーム阻害剤としては、特に限定されないが、例えば、ボルテゾミブ(Bortezomib)、カルフィルゾミブ(Carfilzomib)、イキサゾミブ(Ixazomib)、ポマリドミド、パビノスタット、エロツズマブ、ダラツムマブ、マリゾミブ、ラクタシスチン等が挙げられる。プロテアソーム阻害剤としては、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブまたはイキサゾミブであることが好ましく、ボルテゾミブであることがより好ましい。
【0019】
がんの種類としては、特に限定されず、種々の腹膜播種がん、胃がん、肺がん、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、ホジキンリンパ腫、ノンホジキンリンパ腫、B細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、T細胞リンパ腫等の血液がん、骨髄異形成症候群、腺がん、扁平上皮がん、腺扁平上皮がん、未分化がん、大細胞がん、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、中皮腫、皮膚がん、皮膚T細胞リンパ腫、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、膣がん、頸部がん、頭頸部がん、子宮がん、子宮頸がん、肝臓がん、胆のうがん、胆管がん、腎臓がん、膵臓がん、結腸がん、大腸がん、直腸がん、小腸がん、胃がん、食道がん、精巣がん、卵巣がん、脳腫瘍等の固形がん、並びに骨組織、軟骨組織、脂肪組織、筋組織、血管組織及び造血組織のがんの他、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、骨肉腫、軟部組織肉腫などの肉腫や、膠芽腫、多形性膠芽腫、肝芽腫、髄芽腫、腎芽腫、神経芽腫、膵芽腫、胸膜肺芽腫、網膜芽腫などの芽腫等が挙げられる。がんの種類としては、難治性のがん、特に、抗がん剤に対して耐性を有する難治性がんであってもよく、難治性固形がんであってもよい。
【0020】
本開示おける「治療」には、無増悪生存期間(PFS)延長、全生存期間(OS)の延長、無病生存(DFS)の延長、無進行期間(TTP)の延長、無イベント生存(EFS)の延長、無再発生存(RFS)の延長、がん細胞数の減少、腫瘍サイズの低下、腫瘍の成長の抑制(遅延または停止)、腫瘍の転移の抑制(遅延または停止)、再発の抑制(防止または遅延)、がんと関連する一つまたは複数の症状の緩和のうち少なくとも1つの効果を生じさせることが含まれる。また、本開示における「予防」には、がんの発症の防止、およびがんの発症の遅延が含まれる。
【0021】
本開示における対象には、例えば、がんの患者や、がんが疑われる者等が含まれる。がんの患者としては、複数種のがんを発症している患者であってもよく、プロテアソーム阻害剤または他の抗がん剤による化学療法前および化学療法後のいずれの患者であってもよく、外科手術前および外科手術後のいずれの患者であってもよく、免疫療法前および免疫療法後のいずれの患者であってもよく、放射線療法前および放射線療法後のいずれの患者であってもよい。また、対象の性別や年齢も特に限定されない。対象の動物種は、主に哺乳動物である。かかる哺乳動物としては、特に限定されないが、例えば、ヒトやチンパンジーなどの霊長類、イヌ、ネコ、ウサギ等が挙げられる。
【0022】
「組み合わせて投与される」とは、同じまたは異なる剤形における化合物の同時投与、あるいは化合物の別々の投与(例えば、逐次的投与)を含む。より具体的には、1つの製剤中に複数の成分を配合した配合剤の形態で投与されてもよく、別々の製剤として投与されてもよい。別々の製剤として投与される場合には、同時投与および時間差による投与が含まれる。また、時間差による投与は、アジュバント組成物を先に投与し、プロテアソーム阻害剤を後に投与してもよいし、プロテアソーム阻害剤を先に投与し、アジュバント組成物を後に投与してもよい。それぞれの投与方法は同じであってもよく、異なっていてもよい。また、本開示のアジュバント組成物は、プロテアソーム阻害剤が対象において耐性化される前に適用されてもよく、耐性化された後に適用されてもよい。
【0023】
本開示のアジュバント組成物は、Hexestrolおよび薬学的に許容される担体または添加剤を適宜配合して製剤化されていてもよい。具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤、注射剤、輸液、坐剤、軟膏、パッチ剤等の非経口剤であってもよい。担体または添加剤の配合割合については、医薬品分野において通常採用されている範囲に基づいて適宜設定されてもよい。担体または添加剤としては、特に制限されないが、例えば、水、生理食塩水、その他の水性溶媒、水性または油性基剤等の各種担体や、賦形剤、結合剤、pH調整剤、崩壊剤、吸収促進剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、香料等の各種添加剤が挙げられる。
【0024】
本開示の他の形態によれば、がんの治療または予防に用いられる医薬組成物が提供される。この医薬組成物は、プロテアソーム阻害剤と、アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤とを含み、アスパラギン酸プロテアーゼDDI2阻害剤は、Hexestrolを含む。この医薬組成物は、プロテアソーム阻害剤と上述のDDI2阻害剤との組み合わせに相当する。この医薬組成物において、プロテアソーム阻害剤と上述のDDI2阻害剤とは、互いに別々に製剤化された二剤の形態であってもよく、混合されて製剤化された一剤の形態であってもよい。製剤化の態様としては、上述のアジュバント組成物の製剤化で述べたような態様であってもよい。
【0025】
本開示におけるDDI2阻害剤、アジュバント組成物および医薬組成物によれば、プロテアソーム阻害剤の投与に起因するBounce backを抑制できるので、プロテアソーム阻害剤の耐性克服を図ることができる。また、本開示のDDI2阻害剤、アジュバント組成物および医薬組成物は、低分子医薬であるため、抗体医薬と比較して生産が容易であり、生産コストの上昇を抑制できる。この結果として、抗体医薬と比較して薬価を抑えることができるので、患者の治療機会の向上に寄与できる。
【実施例0026】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
1.実験材料および方法
(1)実験材料
多発性骨髄腫U937細胞は、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 JCRB細胞バンクより入手した。膀胱がんT24細胞は、理化学研究所バイオリソース研究センターより入手した。GC(ゲムシタビン/シスプラチン)耐性T24細胞(以下、「T24GC細胞」とも呼ぶ)は、T24細胞に対し、GC濃度を0μMから10μMまで徐々に上げてGCに対する感受性を低下させることにより樹立した。なお、以下の説明において詳細記載のない試薬については、特級または生化学用として市販されているものを用いた。
【0028】
(2)細胞培養
U937、T24細胞およびT24GC細胞を、37℃、5% CO2条件下の炭酸ガスインキュベーター内で培養した。増殖培地としては、5%(v/v)ウシ胎児血清(fetal bovine serum:FBS、Sigma-Aldrich社製)、100U/ml penicillin-G potassium(Merck Millipore社製)、100μg/ml streptomycin sulfate(ナカライテスク社製)および10mM 4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethane sulfonic acid緩衝液(pH7.0)を含むRPMI(Roswell park memorial institute)1640(富士フイルム和光純薬工業社製)を用いた。T24細胞およびT24GC細胞の剥離には、0.25% trypsinおよび0.02% EDTAを含むDPBS(Dulbecco's phosphate-buffered saline、日水製薬社製)(pH7.4)を用いた。
【0029】
(3)ウエスタンブロット解析
処理した細胞をDPBS(Dulbecco's phosphate-buffered saline、日水製薬社製)(pH7.4)で2回洗浄後、セルスクレイパーを用いて細胞を剥離した。なお、DPBSは、0.25% trypsinおよび0.02% EDTAを含む。回収した細胞をDPBSで洗浄後、8M urea、10mM tris (hydroxymethyl) aminomethaneを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)に懸濁し、その後、ソニケーションにより細胞膜を破壊した。細胞破砕液を遠心分離(12,000×g、10分間、4℃)し、その上清を細胞抽出液とした。10%、12.5%、15%のいずれかのポリアクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEにより分離後、ゲル上のタンパク質を電気的にPVDF(polyvinylidene difluoride)膜(Merck Millipore社製)に転写した。PVDF膜は、1% BSA(bovine serum albumin)を用いてブロッキング後、各一次抗体とhorseradish peroxidase(HRP)標識マウス二次抗体(#1031-05、SouthernBiotech社製)と順次反応させた。一次抗体として、抗Nrf1抗体(#12936-1-AP、Proteintech社製)、抗DDI2抗体(#CSB-PA732937、Cusabio Biotech社製)、抗β-actin抗体(#281-98721、富士フイルム和光純薬工業社製)を用いた。ECL enhanced chemiluminescence detection kit(GEヘルスケア社製)またはImmunoStar Zeta(富士フイルム和光純薬工業社製)を用いた化学発光法により、抗体反応性タンパク質を検出した。得られた各バンドの発光強度を、画像解析処理ソフトウェアImage J(National Institute of Health製)を用いて定量化した。
【0030】
(4)定量PCR
total RNAは、RNAzol RT Reagent試薬(Molecular Research Center Inc.製)を用いて抽出した。抽出されたtotal RNAを、ReverTra Ace qPCR RT kit(東洋紡社製)を用いて、37℃、30分間および98℃、5分間インキュベートし、逆転写反応を行うことで、一本鎖complementary DNA(cDNA)を調製した。調製したcDNA(1μg)を鋳型とし、Thunderbird SYBR qPCR Mix(東洋紡社製)を用いて定量PCRを行った。定量PCRに用いた特異的プライマーの配列を、配列番号とともに以下の表1に示す。定量PCR装置 CFX96 Deep Well Real-Time System(BIO RAD社製)を用い、PCR反応を行った。PCR反応の温度条件は、95℃/30秒の熱処理後、95℃/15秒、55℃/1分を1サイクルとして、40サイクルの熱処理とした。なお、内標準物質として、ヒトβ-actinのcDNAを増幅した。
【0031】
【0032】
(5)細胞生存率の測定
増殖培地に懸濁したT24GC細胞を、96-well multiplate中に2×104cells/200μLずつ播種し、その後、CO2インキュベーター内で一晩培養した。抗生物質と2% FBS(Sigma-Aldrich社製)とを含む培地に交換した後に、培地中に、試料として各濃度のBTZ(Bortezomib)および各濃度のHEX(Hexestrol)を添加し、さらに24時間培養した。対照群として、DMSO(Dimethylsulfoxide)を添加した細胞を調製した。次に、血清不含およびフェノールレッド不含培地に交換し、50μM resazurin(Sigma-Aldrich社製)を添加した後に、37℃で2-4時間培養した後、iMarkマイクロプレートリーダー(BIO RAD社製)を用いて、波長570nmおよびリファレンス波長である595nmの吸光度を測定した。細胞生存率(%)は、以下の式により算出した。
細胞生存率(%)=(S-A)/(B-A)×100
(式中、Sは、試料と細胞とを添加したwellの吸光度であり、Aは、培地のみを添加したwellの吸光度であり、Bは、DMSOと細胞とを添加したwellの吸光度である。)
【0033】
2.実験内容および結果
<実験1:DDI2阻害活性の確認実験>
HEXおよびNFVのDDI2阻害活性について、多発性骨髄腫U937細胞を用いて確認した。5μM nelfinavir(NFV)または25μM HEX存在下において100nM BTZで細胞を処理し、24時間培養した。対照区として、100nM BTZのみで細胞を処理したものと、DMSOを用いて細胞を処理したものについても、同様に培養を行った。また、HEXの濃度依存性を確認するために、0μM、5μM、15μM、25μM HEX存在下において100nM BTZで細胞を処理したものについても、同様に培養を行った。培養後の細胞についてウェスタンブロッティングを行い、Nrf1、DDI2およびβ-Actinの発現量を確認した。さらに、各サンプルにおけるタンパク質のバンド密度の比率を、DMSOで処理した対照細胞におけるバンド密度に対して正規化し、平均±標準偏差で表した。なお、「**」は、BTZ単独処理細胞に対し1%有意水準において有意差があることを示す。
【0034】
図1は、実験1の結果を示す説明図である。
図1では、ウェスタンブロッティングの結果および切断型Nrf1の割合を示すグラフが示されている。ウェスタンブロッティングの結果によれば、BTZ単独処理では、Nrf1の発現が増大し、プロテアーゼによって切断された切断型Nrf1が多く認められた。また、BTZとHEXとの併用処理では、BTZと既存のDDI2阻害剤であるNFVとの併用処理と同様に、切断型Nrf1よりも分子量の大きい全長型Nrf1の発現が認められた。このため、HEXは、NFVと同様にDDI2阻害活性を有するといえる。また、HEXの濃度が高いほど、全長型Nrf1よりも切断型Nrf1の割合が小さくなる傾向にあった。
【0035】
<実験2:U937細胞におけるBounce backに及ぼす影響の確認実験>
U937細胞におけるBTZ誘導性Bounce backに及ぼすHEXの影響を確認した。BTZ単独処理、BTZとNFVとの併用処理、BTZとHEXとの併用処理、HEX単独処理のそれぞれの試験区について、24時間培養を行った。BTZ濃度は100nMとし、NFV濃度は5μMとし、HEX濃度は25μMとした。対照区として、DMSOを用いて細胞を処理したものについても、同様に培養を行った。定量PCR法を用いて、Nrf1のmRNA発現量(遺伝子発現量)と、プロテアソーム構成因子であるPSMB5およびPSMB7のmRNA発現量とを求めた。
【0036】
図2は、実験2の結果を示す説明図である。
図2では、Nrf1遺伝子発現量とPSMB5遺伝子発現量とPSMB7遺伝子発現量とが、対照区を100%とした場合の相対値としてそれぞれ示されている。なお、「*」および「**」は、対照区に対しそれぞれ1%有意水準および5%有意水準において有意差があることを示し、「##」は、BTZ単独処理区に対し1%有意水準において有意差があることを示している。また、単独処理における「NS」は、対照区に対し5%有意水準において有意差があることを示し、併用処理における「NS」は、BTZ単独処理区に対し5%有意水準において有意差があることを示している。
【0037】
図2に示す結果から、以下のことがわかった。すなわち、BTZ処理によってNrf1遺伝子の発現が増大するところ、NFVを併用することによって、その発現誘導がさらに増強された。これに対し、HEXを併用することによっては、Nrf1遺伝子発現を低下させなかったが、Nrf1遺伝子の発現誘導の増強は認められなかった。また、BTZ処理によってPSMB5遺伝子およびPSMB7遺伝子の発現がそれぞれ増大するところ、NFVを併用することによっても、その発現誘導は抑制されなかった。これに対し、HEXを併用することによっては、PSMB5遺伝子およびPSMB7遺伝子の発現が有意に抑制された。これらの結果から、HEXは、プロテアソーム活性を有さない化合物であることが示唆された。すなわち、HEXは、DDI2の活性を阻害することができ、かつ、プロテアソーム阻害剤におけるBounce backを抑制できることが示唆された。
【0038】
<実験3:T24GC細胞におけるBounce backに及ぼす影響の確認実験>
T24GC細胞におけるBTZ誘導性Bounce backに及ぼすHEXの影響を確認した。T24GC細胞は、難治性固形がんのモデル細胞である。BTZ単独処理、BTZとNFVとの併用処理、BTZとHEXとの併用処理、HEX単独処理のそれぞれの試験区について、24時間培養を行った。BTZ濃度は100nMとし、NFV濃度は5μMとし、HEX濃度は25μMとした。対照区として、DMSOを用いて細胞を処理したものについても、同様に培養を行った。定量PCR法を用いて、Nrf1のmRNA発現量(遺伝子発現量)と、プロテアソーム構成因子であるPSMB1、PSMB2、PSMB3、PSMB4およびPSMB5のmRNA発現量とを求めた。
【0039】
図3は、実験3の結果を示す説明図である。
図3では、Nrf1遺伝子発現量とPSMB1~5遺伝子発現量とが、対照区を100%とした場合の相対値としてそれぞれ示されている。なお、「**」は、対照区に対し1%有意水準において有意差があることを示し、「##」は、BTZ単独処理区に対し1%有意水準において有意差があることを示している。また、単独処理における「NS」は、対照区に対し5%有意水準において有意差があることを示し、併用処理における「NS」は、BTZ単独処理区に対し5%有意水準において有意差があることを示している。
【0040】
図3に示す結果から、以下のことがわかった。すなわち、実験2のU937細胞における結果と同様に、T24GC細胞においても、HEXがBTZ誘導性Bounce backを有意に抑制していた。より詳細には、BTZにNFVを併用することによって、Nrf1遺伝子の発現誘導が増強されるのに対し、HEXの併用によっては、Nrf1遺伝子の発現誘導の増強は認められなかった。また、BTZ処理によってPSMB1~PSMB5遺伝子発現がそれぞれ誘導され、NFVの併用によってもその発現誘導が抑制されなかったのに対し、HEXの併用によって発現が有意に抑制された。これらの結果からも、HEXは、プロテアソーム阻害剤におけるBounce backを抑制できることが示唆される。
【0041】
<実験4:抗がん活性増強効果の確認実験>
T24GC細胞を用いて、HEXによるBTZの抗がん活性増強効果を確認した。まず、上述の方法により、T24GC細胞の細胞生存率を測定した。その後、BTZとHEXとの併用の相乗性を、CompuSynプログラムを用いて評価した。
【0042】
図4は、実験4の結果を示す説明図である。
図4の紙面左側には、細胞生存率を示すグラフが示され、紙面右側には、併用係数(combination index:CI)を示す表と、併用係数および影響率(fraction attected)の関係を示すグラフとが示されている。
図4に示す結果から、以下のことがわかった。すなわち、BTZと併用するHEXの濃度が高いほど、細胞生存率がより低下する傾向が認められた。また、CIが1未満となったことから、BTZにHEXを併用することは、相乗効果があることが明らかとなった。すなわち、HEXが、BTZの抗がん活性を有意に増強できることが示された。
本開示のDDI2阻害剤によれば、既存のDDI2阻害剤であるNFVとは異なり、Bounce back誘導を起こさずに、プロテアソーム阻害剤の作用増強を行うことができるため、アジュバント薬として有用である。例えば、本開示のDDI2阻害剤をアジュバント薬として用いることにより、抗がん剤の耐性克服を図ることができ、また、抗がん剤の臨床利用の適用範囲を拡大できる。
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。