(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120650
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】監視診断システムおよび監視診断方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240829BHJP
G01D 21/00 20060101ALI20240829BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01D21/00 Q
G05B23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027594
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】金田 昌基
(72)【発明者】
【氏名】笠原 孝保
(72)【発明者】
【氏名】真柄 洋平
【テーマコード(参考)】
2F076
2G024
3C223
【Fターム(参考)】
2F076BA12
2F076BA14
2F076BA16
2F076BD07
2F076BD11
2F076BE07
2F076BE08
2F076BE09
2F076BE13
2G024AD01
2G024BA11
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA06
2G024FA15
3C223AA01
3C223AA02
3C223AA05
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223EB02
3C223EB07
3C223FF02
3C223FF12
3C223FF13
3C223FF35
3C223FF42
3C223FF52
3C223GG01
(57)【要約】
【課題】特定のパラメータが対象区間で完全に一定値となった場合でも、当該パラメータに対して相関異常検知方法を用いることが可能な監視診断システムを提供する。
【解決手段】監視診断システムは、機器の動作に関する時系列データを入力する入力部と、時系列データのばらつきが一定期間の間、所定量より小さい場合に時系列データが異常であると判定する判定部と、判定部により異常であると判定された場合に時系列データを補正する補正部と、を備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の動作に関する時系列データを入力する入力部と、
前記時系列データのばらつきが一定期間の間、所定量より小さい場合に前記時系列データが異常であると判定する判定部と、
前記判定部により異常であると判定された場合に前記時系列データを補正する補正部と、
を備える監視診断システム。
【請求項2】
請求項1に記載の監視診断システムにおいて、
前記入力部は、複数の前記時系列データを入力し、
前記補正部は、前記複数の時系列データのうち、ばらつきが一定期間の間、所定量より小さい時系列データを補正する、監視診断システム。
【請求項3】
請求項1に記載の監視診断システムにおいて、
前記補正部は、前記時系列データに含まれるデータのうち、前記一定期間に対応するデータを補正する、監視診断システム。
【請求項4】
請求項1に記載の監視診断システムにおいて、
前記補正部は、前記時系列データを計測した計測器の計測精度以下のランダムノイズを前記時系列データに付与することにより、前記時系列データを補正する、監視診断システム。
【請求項5】
請求項1に記載の監視診断システムにおいて、
前記補正部は、前記時系列データを計測した計測器の計測上限値と計測下限値との差に基づき前記時系列データを補正する、監視診断システム。
【請求項6】
請求項1に記載の監視診断システムにおいて、
前記補正部は、前記時系列データに含まれるデータの最大値と最小値との差に基づき記時系列データを補正する、監視診断システム。
【請求項7】
請求項1に記載の監視診断システムにおいて、
前記判定部による判定の結果を外部機器に出力する出力部を更に備える監視診断システム。
【請求項8】
機器の動作に関する時系列データを入力し、
前記時系列データのばらつきが一定期間の間、所定量より小さい場合に前記時系列データが異常であると判定し、
前記異常であると判定された場合に前記時系列データを補正する、
監視診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視診断システムおよび監視診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化学プラントや発電プラントなどの設備が正常に稼働しているか異常が生じているかを、その設備において計測された温度、圧力、振動、回転数などの計測値を用いて判定する方法が知られている。特許文献1には、高精度計測が難しい計測データを、計測精度の範囲内で最適状態評価を行なって収束させることによりプラント熱効率の診断を行う診断方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パラメータ間の相関係数を計算し、その変化をもとに設備が正常に稼働しているか異常が生じているかを検知する方法(以下、相関異常検知方法と称する)が存在する。相関異常検知方法には、あるパラメータが対象区間で完全に一定値となった場合には、分散が0となり、相関係数を計算する際に0で割る処理が発生して正しく計算できないという問題があった。
【0005】
本発明は、特定のパラメータが対象区間で完全に一定値となった場合でも、当該パラメータに対して相関異常検知方法を用いることが可能な監視診断システムおよび監視診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による監視診断システムは、機器の動作に関する時系列データを入力する入力部と、前記時系列データのばらつきが一定期間の間、所定量より小さい場合に前記時系列データが異常であると判定する判定部と、前記判定部により異常であると判定された場合に前記時系列データを補正する補正部と、を備える。
本発明の一態様による監視診断方法は、機器の動作に関する時系列データを入力し、前記時系列データのばらつきが一定期間の間、所定量より小さい場合に前記時系列データが異常であると判定し、前記異常であると判定された場合に前記時系列データを補正する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特定のパラメータが対象区間で完全に一定値となった場合でも、当該パラメータに対して相関異常検知方法を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る監視診断システムの全体構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る監視診断装置のハードウェア構成を模式的に示すブロック図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る監視診断装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図4】
図4は、入力部により入力される時系列データの一例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、不揮発性メモリに格納されている計測器データベースの一例を示す模式図である。
【
図6】
図6は、時系列データの異常判定結果および補正前後の値を例示する図である。
【
図7】
図7は、表示装置の画面表示の例を示す図である。
【
図8】
図8は、監視診断装置が実行する監視診断処理のフローチャートである。
【
図9】
図9は、時系列データの異常判定結果および補正前後の値を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
図1~
図8を参照して、本発明の実施形態に係る監視診断システムについて説明する。
【0010】
図1は、第1実施形態に係る監視診断システムの全体構成を示す模式図である。監視診断システム1は、機器2が正常に稼働しているかを監視診断装置3により監視し診断するシステムである。機器2は、例えば化学プラントや発電プラントに設置される遠心圧縮機などの機器である。機器2の近傍には、機器2自身もしくは機器2が設置された周辺環境の様々なパラメータを計測する計測器4が複数設置される。計測器4が計測するパラメータとは、例えば機器2が備える原動機の回転数や原動機のシリンダー内の圧力、原動機の内部温度、機器2の周辺温度などである。
【0011】
計測器4および監視診断装置3はネットワーク6に有線または無線により接続され、計測器4から監視診断装置3へのデータ通信が可能である。計測器4は、前述したような種々のパラメータを計測し、計測値を時系列データとして出力する。複数の計測器4からそれぞれ出力された時系列データは、ネットワーク6を介して監視診断装置3に入力される。監視診断装置3はそれら複数の時系列データを用いて機器2の稼働状態を診断し、機器2が正常に稼働しているか監視する。監視診断装置3は、機器2の異常判定の結果を表示装置5に出力する。表示装置5は、例えば液晶表示部などを備えたディスプレイ装置である。表示装置5は、監視診断装置3に取り付けられ、または監視診断装置3の外部に設置される。監視診断装置3の利用者は、表示装置5の表示を視認することにより機器2の稼働状態を知ることができる。換言すると、監視診断装置3は表示装置5に異常判定の結果を出力することにより、監視診断装置3の利用者に機器2の診断結果を報知する。
【0012】
図2は、第1実施形態に係る監視診断装置3のハードウェア構成を模式的に示すブロック図である。監視診断装置3は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等の処理装置10、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ等の不揮発性メモリ11、所謂RAM(Random Access Memory)と呼ばれる揮発性メモリ12、入出力インタフェース13、及び、その他の周辺回路を備えたコンピュータで構成される。これらのハードウェアは、協働してソフトウェアを動作させ、複数の機能を実現する。なお、監視診断装置3は、1つのコンピュータで構成してもよいし、複数のコンピュータで構成してもよい。また、処理装置10としては、ASIC(application specific integrated circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などを用いることができる。
【0013】
不揮発性メモリ11には、各種演算が実行可能なプログラムが格納されている。すなわち、不揮発性メモリ11は、本実施形態の機能を実現するプログラムを読み取り可能な記憶媒体(記憶装置)である。揮発性メモリ12は、処理装置10による演算結果及び入出力インタフェース13から入力された信号を一時的に記憶する記憶媒体(記憶装置)である。処理装置10は、不揮発性メモリ11に記憶されたプログラムを揮発性メモリ12に展開して演算実行する装置であって、プログラムに従って入出力インタフェース13、不揮発性メモリ11及び揮発性メモリ12から取り入れたデータに対して所定の演算処理を行う。
【0014】
不揮発性メモリ11には、前述のプログラムに加えて、計測器データベース30および比較データ39が格納されている。計測器データベース30および比較データ39の詳細については後述する。
【0015】
入出力インタフェース13は、ネットワーク6、表示装置5のそれぞれに接続される。入出力インタフェース13の入力部は、ネットワーク6を介して複数の計測器4から入力された信号を処理装置10で演算可能なデータに変換する。また、入出力インタフェース13の出力部は、処理装置10での演算結果に応じた出力用の信号を生成し、その信号を表示装置5に出力する。
【0016】
図3は、第1実施形態に係る監視診断装置3の構成を模式的に示すブロック図である。監視診断装置3は、入力部20、判定部21、補正部22、診断部23、および出力部24を備える。これらの各機能部は、不揮発性メモリ11に記憶されたプログラムによって機能的に実現される。
【0017】
入力部20は、機器2の動作に関する時系列データを入力する。すなわち、複数の計測器4によりそれぞれ計測された複数の時系列データを入力する。判定部21は、入力された時系列データが正常か異常かを判定する。補正部22は、特定の時系列データが異常であると判定部21により判定された場合に、その時系列データを補正する。診断部23は、補正部22により補正された時系列データおよび補正部22により補正されていない(すなわち入力部20により入力されたままの)時系列データを用いて機器2の動作が正常か異常かを判定する。出力部24は、判定部21による判定の結果を表示装置5に出力する。
【0018】
図4は、入力部20により入力される時系列データの一例を示す模式図である。
図4では、回転数、圧力A、温度A、温度Bという4つのパラメータにそれぞれ対応する4つの時系列データを1つにまとめて例示している。それぞれの時系列データは、計測日時41に関連付けられている。
【0019】
図5は、不揮発性メモリ11に格納されている計測器データベース30の一例を示す模式図である。計測器データベース30には、計測器4のそれぞれについて、センサID31、パラメータ32、単位33、レンジ下限34、レンジ上限35、および計測精度36の各項目が格納されている。センサID31は、個々の計測器4を区別するための一意な識別子である。パラメータ32は、その計測器4により計測されるパラメータである。単位33は、その計測器4により計測される計測値の単位である。
【0020】
レンジ下限34は、その計測器4が計測可能な値の下限値である。例えば温度を計測する計測器4のレンジ下限34が「0.0」であるとは、その計測器4は温度を0℃までしか計測できないこと、かつ、温度が0℃未満(例えば-2℃などの氷点下の値)であるときその計測器4は「0.0」という計測値を出力することを示している。レンジ上限35は、その計測器4が計測可能な値の上限値である。例えば温度を計測する計測器4のレンジ上限35が「100.0」であるとは、その計測器4は温度を100℃までしか計測できないこと、かつ、温度が100℃以上(例えば120℃などの値)であるときその計測器4は「100.0」という計測値を出力することを示している。計測精度36は、その計測器4の分解能を示す。例えば計測精度36が「0.1」であるとは、その計測器4の計測値は0.1刻みの単位について信頼することができ、0.1未満の単位については信頼することができないことを示す。つまりこの場合、その計測器4が出力する「10.4999」という数値は「10.4」までの部分について信頼することができるが、それより小さい「0.0999」分の数値は信頼することはできない。
【0021】
図6は、時系列データの異常判定結果および補正前後の値を例示する図である。
図6では、機器2の特定部位の温度である「温度A」というパラメータについて、計測日時51、計測値52、異常判定結果53、および補正値54をそれぞれ示している。例えば
図6の1行目には、「1/1 23:58」という計測日時51と、それに対応する「22.56℃」という計測値52、「正常」という異常判定結果53、および「22.56℃」という補正値54がそれぞれ示されている。計測日時51は、計測器4が計測を行った日時である。計測値52は、計測器4による計測の結果得られた計測値である。
図6に例示するパラメータは温度に関するものであるため、計測値52の単位は「℃」となっている。異常判定結果53は、判定部21による異常判定処理の結果である。異常判定結果53は「正常」、「異常」のいずれかの値をとる。補正値54は、異常判定結果53が「正常」の場合には計測値52そのものであり、異常判定結果53が「異常」の場合には補正部22により補正された値である。以下の説明では、異常判定結果53に応じて補正が施されたこの補正値54を、補正後の時系列データと称する。
【0022】
図6を参照して、判定部21による時系列データの異常判定処理について説明する。判定部21は、計測器データベース30(
図5参照)から計測器4の計測レンジの上限値および下限値を読み出す。いま、「温度A」を計測する計測器4の計測レンジの上限値が100.0℃、下限値が20.0℃であるとする。
図6では、「1/2 0:00」から「1/2 23:59」までの期間、「温度A」の実際の値は計測レンジの下限値すなわち20.0℃を下回っている。しかし、計測レンジの下限値は20.0℃なので、計測器4は「温度A」の計測値として下限値である20.0℃を出力する。判定部21は、このように、計測値が5点以上連続して計測レンジの下限値または上限値と完全に同一の値であった場合(すなわち時系列データのばらつきが一定期間の間、所定量より小さい場合)、その期間の計測値は計測レンジを逸脱していると判断し、その期間の時系列データは異常なデータであると判定する。
図6の例では、判定部21は「1/2 0:00」から「1/2 23:59」までの期間の時系列データは異常なデータであると判定する。
【0023】
なお、判定部21が計測レンジを逸脱していると判断する計測値は、計測レンジの下限値または上限値と完全に同一の値でなくてもよい。例えば、計測器4が正しく動作していない場合には所定の予約済みの値(正常動作時には出力されないことが保証されている値)を出力するように構成されている場合がある。このような場合、判定部21は、その予約済みの値が連続して出力されていればその期間の時系列データは異常なデータであると判定する。計測器4が正しく動作しない場合とは、例えば計測器4に供給される電圧が不足している場合や、計測器4と周辺回路とを接続する配線が断線もしくは短絡している場合などである。
【0024】
補正部22による補正処理について説明する。補正部22は、入力部20により入力された複数の時系列データのうち、計測値が5点以上連続して計測レンジの下限値または上限値と完全に同一の値である期間のデータを補正する。換言すると、補正部22は、入力部20により入力された複数の時系列データのうち、ばらつきが一定期間の間、所定量より小さい時系列データを補正する。例えば補正部22は、計測器データベース30から計測器4の計測精度を読み出し、計測精度を標準偏差とする正規分布のランダムノイズを上記の期間の計測値に加算する。
【0025】
計測値が一定期間完全に同一の値となっている場合、その期間の分散がゼロになるため、相関係数を計算する際にゼロ除算エラーが生じる可能性がある。このようにランダムノイズを付与することにより、完全に同一の値が繰り返されることがなくなるので、その期間の分散はゼロではなくなり、ゼロ除算エラーの危険性なしに相関係数が計算できるようになる。計測精度程度のノイズであれば、補正による相関係数への影響は十分に小さく、問題になることはない。なお、計測器4の計測精度そのものを標準偏差としてランダムノイズを生成するのではなく、計測精度以下のランダムノイズを生成するようにしてもよい。
【0026】
なお、異常な一定値に対して補正を行っても、正しい計測値が得られるわけではない。しかし、まずは相関異常検知方法で計算できるようにすることにより、機器2の監視診断が有効かどうかの大まかな判断に資することができる。その際、従来であれば異常な一定値を完全に除去することが必要であったが、本実施形態の手法によりその手間を削減することができる。
【0027】
診断部23は、不揮発性メモリ11に格納されている比較データ39と補正後の時系列データとを比較して、機器2の動作が正常か異常かを判定する。比較データ39は、過去のある時点で機器2が正常に動作しているときに計測器4により計測された時系列データである。診断部23は、比較データ39および補正後の時系列データの相関係数を計算し、前者の相関係数に対して後者の相関係数が一定以上変化していた場合に、機器2の動作が異常であると判定する(いわゆる相関異常検知方法)。
【0028】
計測データの相関関係を用いた相関異常検知方法により検知される機器2の異常の例を挙げる。例えば、ポンプの回転数と流量には相関関係がある。通常時、ポンプの回転数の相関係数が0.9であるが、ある期間で回転数に対して流量が少ない状態になると、相関係数が0.8などより小さい値に下がる。診断部23は、このような相関係数の変化から、ポンプ流量というパラメータの異常を検知し、ポンプの異常を検知することができる。同様に、例えばタービンの回転数と振動、タービンの複数の軸受温度にも相関関係があり、相関異常検知方法により異常を検知することが可能である。
【0029】
図7は、表示装置5の画面表示の例を示す図である。出力部24は、判定部21による判定の結果を含むデータを表示装置5に出力する。表示装置5は、出力部24から入力されたデータに基づき、表示画面60に画像を表示させる。
図7に例示した表示画面60には、時系列データの異常度61と、判定部21により異常と判定された時系列データの期間62とが表示されている。
【0030】
図8は、監視診断装置3が実行する監視診断処理のフローチャートである。ステップS100において入力部20は、複数の計測器4により計測された複数の時系列データを入力する。ステップS110において判定部21は、ステップS100で入力された複数の時系列データに対して、その時系列データに5点以上連続して計測器4の計測レンジの下限値または上限値と完全に同一の値である計測値が含まれているか否か、すなわちその時系列データが異常であるか否かを判定する。いずれか少なくとも1つの時系列データが異常であると判定された場合、処理はステップS120に進む。ステップS120において補正部22は、異常であると判定された時系列データのうち、異常であると判定された期間に対応する計測値を補正する。その後、処理はステップS130に進む。他方、ステップS110においてすべての時系列データが正常であると判定された場合、処理はステップS130に進む。
【0031】
ステップS130において診断部23は、相関異常検知方法を実施し、機器2の動作が異常であるか否かを判定する。すなわち診断部23は、比較データ39および補正後の時系列データの相関係数を計算し、前者の相関係数(正常時の相関係数)に対して後者の相関係数が一定以上変化しているか否かを判定する。ステップS140において出力部24は、ステップS110で判定部21が実施した判定の結果を表示装置5に出力する。
【0032】
以上のとおり、本実施形態に係る監視診断方法では、監視診断装置3が、機器2の動作に関する時系列データを入力し(S100)、時系列データのばらつきが一定期間の間、所定量より小さい場合に時系列データが異常であると判定し(S110でYes)、異常であると判定された場合に時系列データを補正する(S120)。
【0033】
上述した第1実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0034】
(1)判定部21は、入力部20により入力された機器2の動作に関する時系列データのばらつきが5点分の期間(一定期間)の間、ゼロである(すなわち所定量より小さい)場合に時系列データが異常であると判定する。そして補正部22が、判定部21により異常であると判定された場合に時系列データを補正する。このようにしたので、特定のパラメータが対象区間で完全に一定値となった場合でも、当該パラメータに対して相関異常検知方法を用いることが可能になる。
【0035】
(2)入力部20は複数の時系列データを入力し、補正部22は複数の時系列データのうち、ばらつきが5点分の期間(一定期間)の間、ゼロである(所定量より小さい)時系列データを補正する。このようにすることで、異常が見られない時系列データについてはその時系列データはそのまま生かされ、余分なノイズ等が付加されないので精度が低下しない。
【0036】
(3)補正部22は、時系列データに含まれるデータのうち、計測値が5点分の期間(一定期間)一定値である部分に対応するデータを補正する。このようにすることで、異常な一定値のみが補正され、時系列データの他の部分は補正処理を施す必要がなく、余分なノイズ等が付加されないので精度が低下しない。
【0037】
(4)補正部22は、時系列データを計測した計測器4の計測精度36以下のランダムノイズを時系列データに付与することにより、時系列データを補正する。このようにすることで、時系列データの分散がゼロになることがなくなり、相関異常検知方法を適用してもゼロ除算エラーが発生しない。
【0038】
(5)出力部24が、判定部21による判定の結果を表示装置5(外部機器)に出力する。このように、利用者に対して判定結果を報知するようにしたので、利用者は判定結果を参照して機器2や計測器4の異常の兆候を知ることができる。
【0039】
(第2の実施形態)
図9を参照して、本発明の第2実施形態に係る監視診断システムについて説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照記号を付し、相違点を主に説明する。
【0040】
図9は、
図6と同様の図であり、時系列データの異常判定結果および補正前後の値を例示する図である。
図9に示す計測値52は「温度B」に関するものである。第2実施形態では、判定部21が計測器4の計測レンジの上限値および下限値ではなく計測精度を用いて時系列データの異常を判定する。
【0041】
図9に示した例では、温度である計測値52が「1/2 0:00」より後の計測日時51において、ほぼ20℃の一定値となっている。ここでは計測レンジは逸脱していない。また、「1/2 0:03」の計測日時51においては「19.9999」という計測値52が得られているので、「1/2 0:00」以降において計測値52が完全に同一の一定値になっているとは言えない。
【0042】
このような時系列データは、例えば計測器4の配線の断線など、何らかの理由で正しい計測が行われておらず、一定値が出力されており、かつ、浮動小数点の誤差程度のばらつきが含まれることにより見られる。このような時系列データにおいては、計測値52はほぼ一定値であるが、わずかな変化があるため、第1実施形態のように計測値52が完全に一定値になっているかどうかをチェックすることにより異常な一定値かどうかを判定することが困難である。しかし、
図5に示すように「温度B」の計測精度36は「0.1」であることから、実際の値を「19.9999」のような小数点以下4桁の高精度で計測できているとは考えにくい。
【0043】
第2実施形態の判定部21は、時系列データのばらつきを直前の5点の計測値の標準偏差により計算し、これが計測精度36より小さい場合に、時系列データに異常な一定値が含まれている(すなわち時系列データが異常である)と判定する。
図9に示す例では、判定部21は、「1/2 0:04」からの計測値が異常な一定値であると判定されている。
【0044】
なお、第2実施形態において、計測器データベース30に含まれる計測精度36は、最低でもこの程度の計測誤差があるという意味で用いられる。例えば、計測精度36が計測器4の許容精度、すなわち、これ以上の誤差があれば計測器4の校正が必要であるということを意味する値である場合には、例えば許容精度の1/10を計測器4の計測精度とみなすことが望ましい。また、計測器4について計測精度の情報がなく、計測器データベース30に計測精度36を格納することができない場合には、例えば(計測レンジ上限値-計測レンジ下限値)×0.1%、または(計測データ最大値-計測データ最小値)×0.1%を計測精度とみなす、などの対応をすることで、判定部21による異常判定処理を行うことができる。このように、補正部22が時系列データを計測した計測器4の計測上限値と計測下限値との差や時系列データに含まれるデータの最大値と最小値との差に基づき時系列データを補正することで、計測精度がわからない場合でも時系列データを適切に補正できる。
【0045】
上述した第2実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0046】
判定部21は、入力部20により入力された機器2の動作に関する時系列データの5点の計測値の標準偏差(ばらつき)が5点分の期間(一定期間)の間、計測精度36(所定量)より小さい場合に時系列データが異常であると判定する。そして補正部22が、判定部21により異常であると判定された場合に時系列データを補正する。このようにしたので、特定のパラメータが対象区間でほとんど同一の一定値となった場合でも、当該パラメータに対して相関異常検知方法を用いることが可能になる。
【0047】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、上述の異なる実施形態で説明した構成同士を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせることも可能である。
【0048】
(変形例1)
補正部22が、判定部21により異常と判定された期間だけでなく、それ以外の期間についても補正を行うようにしてもよい。このようにすることで、異常と判定された期間とそれ以外の期間とでランダムノイズの有無を共通にすることができる。つまり、時系列データの全期間において補正値の前提条件を揃えることができる。ある種の処理においては、このような前提条件の統一が有利に働き得る。また、判定部21により異常と判定された期間が含まれるパラメータ(時系列データ)だけでなく、他の全パラメータ(他のすべての時系列データ)を補正の対象としてもよい。
【0049】
(変形例2)
第1実施形態では連続する同一の計測値を、第2実施形態では標準偏差によるばらつきの小ささをそれぞれ異常の判定に用いているが、両方を調べて異常の判定を行ってもよい。この場合、いずれか一方において異常が検出された場合に、補正部22による補正処理が行われることになる。
【0050】
(変形例3)
第1実施形態では連続する同一の計測値を、第2実施形態では標準偏差によるばらつきの小ささをそれぞれ異常の判定に用いているが、時系列データのばらつきが一定期間の間、所定量より小さいかどうかを、これら以外の方法により調べてもよい。例えば、直近の計測値と現在の計測値との差が計測精度以下であることが10点続いた場合に異常な一定値であると判定することも可能である。
【0051】
(変形例4)
補正部22による時系列データの補正方法は、第1実施形態で説明したものに限定されない。補正部22は、例えば、比較データ39の標準偏差を用いて正規分布のランダムノイズを付与してもよい。また、補正部22は、直前の10点の計測値の標準偏差を振幅とする正弦波や階段状のノイズを付与してもよい。また、補正部22は、計測レンジ(または時系列データに含まれる計測値の最大値と最小値との差)の0.1%のノイズを付与してもよい。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0053】
1…監視診断システム、2…機器、3…監視診断装置、4…計測器、5…表示装置、6…ネットワーク、10…処理装置、11…不揮発性メモリ、12…揮発性メモリ、13…入出力インタフェース、20…入力部、21…判定部、22…補正部、23…診断部、24…出力部、30…計測器データベース、39…比較データ