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特開2024-120684電気部品検査方法および電気部品検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120684
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】電気部品検査方法および電気部品検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/52 20200101AFI20240829BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
G01R31/52
G01R31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027665
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦川 真也
(72)【発明者】
【氏名】田澤 和俊
(72)【発明者】
【氏名】戸嶋 悟志
(72)【発明者】
【氏名】岡本 大
【テーマコード(参考)】
2G014
2G036
【Fターム(参考)】
2G014AA15
2G014AB60
2G036AA20
2G036BB22
(57)【要約】
【課題】電気部品における絶縁体の劣化などを診断する場合に、診断精度を高めて誤診断の発生を防止する電気部品検査方法を提供する。
【解決手段】測定対象の電気部品に対して、第1周波数(f1)の交流電圧と、第1周波数の整数倍から偏位した第2周波数(f2)の交流電圧とを重畳した状態で印加する。電気部品(10)を流れる1周波数(f1)および前第2周波数(f2)の交流電流と、当該電気部品(10)が劣化した場合に第1周波数および第2周波数の交流電圧に起因して電気部品から流れる第3周波数(Δf)の交流電流とを含む交流電流を変流器52を用いて測定部56で計測する。第3周波数と同一周波数の疑似信号成分を抑制するために、補償用交流電流i53を交流電流源54で生成し、変流器内で発生する第1周波数および第2周波数の少なくとも一方の磁界を打ち消す。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の電気部品に対して、第1周波数の交流電圧と、前記第1周波数の2倍から偏位した第2周波数の交流電圧とを重畳した状態で印加する手順と、
前記電気部品を流れる前記第1周波数および前記第2周波数の交流電流と、当該電気部品が劣化した場合に前記第1周波数および前記第2周波数の交流電圧に起因して前記電気部品から流れる第3周波数の交流電流とを含む交流電流を、1つ以上の変流器を用いて計測する手順と、
前記変流器から前記第3周波数と同一周波数の疑似信号成分が出力されることを抑制するために、補償用交流電流を用いて、前記変流器内で発生する前記第1周波数および前記第2周波数の少なくともいずれか一方の磁界を打ち消す手順と、
を有する電気部品検査方法。
【請求項2】
前記補償用交流電流の周波数を、前記第1周波数および前記第2周波数の少なくともいずれか一方と同一に定める、
請求項1に記載の電気部品検査方法。
【請求項3】
前記電気部品に流れる第1の交流電流の大きさを検出し、
検出した前記第1の交流電流から前記第1周波数、又は前記第2周波数の成分を抽出し、
抽出した前記第1周波数、又は前記第2周波数の成分を利用して前記補償用交流電流を生成し、
前記補償用交流電流を、前記疑似信号成分とは逆方向の電流として前記変流器の内側空間を通過する部位に流す、
請求項1に記載の電気部品検査方法。
【請求項4】
測定対象の電気部品に対して、第1周波数の交流電圧と、前記第1周波数の2倍から偏位した第2周波数の交流電圧とを重畳した状態で印加する交流電圧重畳部と、
前記電気部品を流れる前記第1周波数および前記第2周波数の交流電流と、当該電気部品が劣化した場合に前記第1周波数および前記第2周波数の交流電圧に起因して前記電気部品から流れる第3周波数の交流電流とを含む交流電流を、1つ以上の変流器を用いて計測する電流計測部と、
前記交流電流によって前記変流器内に発生する前記第1周波数および前記第2周波数の少なくとも一方の磁束を、補償用交流電流を用いて打ち消し、前記変流器内で前記第1周波数および前記第2周波数の磁束に起因して発生する第3周波数の疑似信号成分の出力を抑制する疑似信号抑制部と、
を備える電気部品検査装置。
【請求項5】
前記電気部品に流れる第1の交流電流の大きさを検出する電流検出部と、
前記電流検出部が検出した前記第1の交流電流から前記第1周波数、又は前記第2周波数の成分を抽出する周波数フィルタ部と、
前記周波数フィルタ部が抽出した前記第1周波数、又は前記第2周波数の成分を利用して前記補償用交流電流を生成する補償電流生成部と、
前記補償電流生成部が生成した前記補償用交流電流を、前記疑似信号成分とは逆方向の電流として前記変流器の内側空間を通過する部位に流す補償電流線路と、
を更に備える請求項4に記載の電気部品検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気部品検査方法および電気部品検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な電気部品は、経年劣化などの影響を受けて電気特性が劣化したり故障する場合がある。例えば高電圧を扱う電力系の分野で用いられる各種電気部品においては、絶縁体の劣化に伴う放電や漏電などの不具合発生が大きな問題になる。したがって、それぞれの電気部品を配電経路などに装着する前、及び装着した後で、例えば定期的に診断を行い、電気部品における絶縁劣化の有無などについて健全性を確認する必要がある。
【0003】
また、配電経路などに装着した後でそれぞれの電気部品を診断する場合には、高電圧を印加した活線状態のままで、電気部品を診断する必要がある。また、活線状態で診断を行うので作業者や周囲の機器などが影響を受けないように、安全を確保した状態で診断を実施する必要がある。
【0004】
特許文献1は、配電経路に接続された接続体の劣化を診断する場合に、放電現象を伴わない劣化パターンについても絶縁劣化の診断を可能にすると共に、接地線への高電圧印加を不要にして診断作業を容易にするための技術を開示している。具体的には、配電経路の導体20aに、商用電源41の出力電圧と重畳装置42の出力電圧とを重畳した状態で印加する。重畳装置42が出力する交流電圧の周波数を商用電源41の2倍に所定値Δfを加算した値に定める。診断対象の接続体10の内部絶縁体を流れる電流を、接地経路に配置した変流器CT1~CT3で方向を揃えて検出する。集合部45aで各経路の電流を加算した結果から、フィルタ部45cで所定値Δfの成分を抽出し、検出した電流レベルを1つ又は複数の閾値と比較して劣化の有無や劣化の程度を測定・診断部45dで判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-14370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示されている方法を利用することで、接続体10のような電気部品における絶縁体の劣化などを診断可能である。すなわち、周波数がf1(例えば50Hz)の交流電圧と、周波数がf2(=f1×2+Δf)の交流電圧とを重畳して電気部品に印加すると、所定値Δfの周波数の交流電流が接地線などの配線の部位に流れる場合がある。接地線などの配線に流れる周波数Δfの交流電流の大きさは、電気部品における絶縁体の劣化などと大きな相関を有している。したがって、周波数Δfの交流電流を計測し判定することで電気部品の絶縁特性などの健全性を診断できる。
【0007】
しかしながら、例えば高圧架空ケーブル用分岐接続体のような電気部品について上記の方法で実際に診断を実施すると、診断対象が新品のように健全な電気部品であっても、周波数Δfの交流電流が検出される場合があった。そのため、健全な電気部品であるにもかかわらず劣化していると誤診断される懸念がある。
【0008】
ここで、健全な電気部品を診断した場合に検出される周波数Δfの交流電流については、以下の要因により発生するものと考えられる。測定対象電線に流れる電流により、変流器の強磁性体コアには、周波数f1およびf2の交流磁束が発生する。この際、強磁性体コアの透磁率の非線形特性と、周波数f1と周波数f2の交流磁束により、周波数Δfの交流磁束(疑似信号)が発生する。したがって、変流器のコアに巻かれた、変流器の出力となる2次巻線には、コアの磁束を打ち消す方向に周波数f1および周波数f2の交流電流とともに、周波数Δfの交流電流(疑似信号)が流れる。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電気部品における絶縁体の劣化などを診断する場合に、診断精度を高めて誤診断の発生を防止することが可能な電気部品検査方法および電気部品検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 測定対象の電気部品に対して、第1周波数の交流電圧と、前記第1周波数の2倍から偏位した第2周波数の交流電圧とを重畳した状態で印加する手順と、
前記電気部品を流れる前記第1周波数および前記第2周波数の交流電流と、当該電気部品が劣化した場合に前記第1周波数および前記第2周波数の交流電圧に起因して前記電気部品から流れる第3周波数の交流電流とを含む交流電流を、1つ以上の変流器を用いて計測する手順と、
前記変流器から前記第3周波数と同一周波数の疑似信号成分が出力されることを抑制するために、補償用交流電流を用いて、前記変流器内で発生する前記第1周波数および前記第2周波数の少なくともいずれか一方の磁界を打ち消す手順と、
を有する電気部品検査方法。
【0011】
(2) 測定対象の電気部品に対して、第1周波数の交流電圧と、前記第1周波数の2倍から偏位した第2周波数の交流電圧とを重畳した状態で印加する交流電圧重畳部と、
前記電気部品を流れる前記第1周波数および前記第2周波数の交流電流と、当該電気部品が劣化した場合に前記第1周波数および前記第2周波数の交流電圧に起因して前記電気部品から流れる第3周波数の交流電流とを含む交流電流を、1つ以上の変流器を用いて計測する電流計測部と、
前記交流電流によって前記変流器内に発生する前記第1周波数および前記第2周波数の少なくとも一方の磁束を、補償用交流電流を用いて打ち消し、前記変流器内で前記第1周波数および前記第2周波数の磁束に起因して発生する第3周波数の疑似信号成分の出力を抑制する疑似信号抑制部と、
を備える電気部品検査装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電気部品検査方法および電気部品検査装置によれば、電気部品における絶縁体の劣化などを診断する場合に、診断精度を高めて誤診断の発生を防止可能である。すなわち、診断対象の電気部品の絶縁特性などとは無関係に発生する疑似信号成分を、前記補償用交流電流による逆方向の磁界により打ち消すことができ診断精度が改善される。
【0013】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の電気部品検査方法を適用可能な接続体劣化診断装置の構成例を示すブロック図である。
図2図2は、接続体劣化診断装置における補償前の2種類の実測電流特性を示すグラフである。
図3図3は、本発明の電気部品検査方法を適用する場合の診断装置の構成例を示すブロック図である。
図4図4は、接続体劣化診断装置における補償後の実測電流特性を示すグラフである。
図5図5は、変形例の診断装置の構成を示すブロック図である。
図6図6は、本発明の電気部品検査方法を実施する場合の処理手順の例を示すフローチャートである。
図7図7は、変形例2の診断装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0016】
図1は、本発明の電気部品検査方法を適用可能な接続体劣化診断装置30の構成例を示すブロック図である。
【0017】
商用電力を供給する電力会社が工場や一般家庭などの需要家に対して商用電力を供給する場合には、例えば数kVの正弦波交流電圧が高圧架空ケーブル20を含む配電経路を介して商用電力として供給される。長い距離に亘って電力を配電する必要があるため、この配電経路には通常は高圧架空ケーブル20を支持する多数の電柱が含まれる。それぞれの電柱の箇所において、送電元に近い側の高圧架空ケーブル20と、送電先に近い側の高圧架空ケーブル20とを電気的に接続するために、高圧架空ケーブル用の接続体10を使用する。また、各電柱の箇所では配電経路の幹線に1つ又は複数の分岐線を接続し、この分岐線から各需要家等の経路に対して電力を供給する必要がある。この分岐線を接続するために接続体10を使用する。そのため、接続体10はπ形に構成される場合が多い。なお、接続体10に関する具体例は例えば特許文献1に示されている。
【0018】
この接続体10に要求される重要な機能の1つは電気絶縁である。すなわち、高圧架空ケーブル20を流れる高圧電流が、各電柱の箇所で必要な部位以外に流れるのを阻止しないと作業者などが感電する事故に繋がるため、電気絶縁が必要になる。したがって、絶縁体が接続体10に備わっている。
【0019】
図1に示した接続体劣化診断装置30は、配電線44に接続された状態の接続体10を診断対象の電気部品とし、その絶縁体の劣化を診断するための機能を備えている。なお、本発明の電気部品検査方法は、接続体10だけでなく高圧CVケーブルなど様々な電気部品の診断に適用可能である。
【0020】
図1に示した接続体劣化診断装置30は、重畳装置42及び診断装置45を備えている。本実施形態では、接続体10が接続体劣化診断装置30の診断対象となる。重畳装置42は、診断のための特別な交流電圧を、配電線44上の交流電圧に重畳するための機能を有している。診断装置45は、接続体10の絶縁体を流れる複数経路の電流を、電流i1、i2、i3として検知し、絶縁劣化の診断を行うための機能を有している。
【0021】
図1に示した例では、電力会社が供給する商用電源41の電圧が3.8kV、周波数f1が50Hzの場合を想定している。この商用電源41の周波数f1に基づいて、重畳装置42が生成する診断用の交流電圧の周波数f2が例えば次式のように決定される。
f2=2・f1+Δf
Δf:f1よりも十分小さい定数(例えば5Hz)
【0022】
したがって、図1の例では重畳装置42に備わっている診断用交流電源42aが生成する診断用交流電圧の周波数を105Hzに定めてある。この電圧は100V、正弦波である。
【0023】
このような診断用交流電圧を重畳するために、重畳装置42は商用電源41と並列に接続してある。また、重畳装置42の内部には、診断用交流電源42aの他に絶縁トランス42b及び結合コンデンサ42cが備わっている。診断用交流電源42aの2つの出力端子は診断用交流電源42aの一次側巻線に接続され、その一方は大地(アース)43と接続されている。絶縁トランス42bの二次側巻線は、その一端が結合コンデンサ42cを介して商用電源41及び配電線44と接続され、他端が商用電源41及び大地43と接続されている。
【0024】
絶縁トランス42bを利用しているので、診断用交流電源42a等の一次側回路は高電圧の影響を受けないようにその系統から分離することができる。絶縁トランス42bの巻き数比は例えば4に定めることが想定される。その場合、重畳装置42から出力される400V程度の交流電圧が、商用電源41の出力に重畳される。
【0025】
結合コンデンサ42cの静電容量は、105Hzの周波数(f2)に対するインピーダンスが比較的小さくなり、50Hzの周波数(f1)に対するインピーダンスが比較的大きくなるように定められる。そのため、重畳装置42はそれが生成する105Hzの診断用交流電圧を効率よく配電線44の電圧に重畳することができる。
【0026】
診断装置45は、集合部45a、電流検出部45b、フィルタ部45c、及び測定・診断部45dを備えている。
集合部45aは、電流検出部45bの入力側で複数のリード線46、47、及び48が共通に接続される部位であり、各経路の電流i1、i2、及びi3を加算するための機能を有している。
【0027】
電流i1、i2、及びi3は、それぞれ変流器CT1、CT2、及びCT3における計測値を示す電流信号である。変流器CT1、CT2、及びCT3は、計測対象の絶縁体に劣化が生じた場合に発生する各々の経路における電流の向きの順方向に対して正極性の電流をそれぞれが出力するように、向きを揃えた状態で各電流経路にクランプしてある。つまり、計測対象の接続体10の絶縁体に劣化が生じた場合に、各リード線46、47、48から集合部45aに向かって流れ込む方向に各電流i1、i2、i3が流れる。したがって、各電流i1、i2、i3を集合部45aで極性を揃えた状態で加算することができる。
【0028】
電流検出部45bは、例えば演算増幅器により構成され、入力される電流に比例する電圧を生成することができる。
フィルタ部45cは、電流検出部45bの出力に現れる交流信号の中から、特定の周波数成分だけを抽出する機能を有している。本実施形態では、フィルタ部45cは5Hzの周波数(Δf)の成分だけを抽出するバンドパスフィルタとして機能する。
【0029】
なお、診断用交流電圧(f2)の重畳により得られる特定の周波数成分(Δf)の電流については、接続体10における絶縁体の絶縁抵抗、すなわち劣化との相関性が高いことが、本発明者の実験により明らかになっている。したがって、接続体10における絶縁体の劣化との相関性が高い信号だけをフィルタ部45cで抽出することができる。
【0030】
測定・診断部45dは、フィルタ部45cが抽出した信号成分のレベル、すなわち電流値の大きさを予め用意した複数の閾値と比較し、接続体10における絶縁体の劣化の有無や劣化の程度を診断するための処理を行う。
【0031】
図1に示した架台31は、1つの電柱上に設置されている。そして、接続体10は架台31上に支持され固定されている。図1の例では、接続体10の左端側に高圧架空ケーブル20-1の一端が接続され、接続体10の右端側に高圧架空ケーブル20-2の一端が接続されている。
【0032】
また、高圧架空ケーブル20-1に余計な張力が加わるのを防止するために設けられたメッセンジャワイヤ32が、高圧架空ケーブル20-1と並べて配置されており、メッセンジャワイヤ32の一端は架台31と接続されている。同様に、高圧架空ケーブル20-2に余計な張力が加わるのを防止するために設けられたメッセンジャワイヤ33が、高圧架空ケーブル20-2と並べて配置されており、メッセンジャワイヤ33の一端は架台31と接続されている。メッセンジャワイヤ32及び33は、それぞれ鋼製であり導電体である。
【0033】
高圧架空ケーブル20-1、及び20-2は、それぞれ導体20a、絶縁体20b、遮蔽銅テープ20c、及びシース20dにより構成されている。つまり、芯線である導体20aの外周が絶縁体20bで覆われ、絶縁体20bの外側が遮蔽銅テープ20cで覆われ、遮蔽銅テープ20cの外側がシース20d、すなわち外皮で覆われたケーブルとして構成されている。
【0034】
電力供給側に近い高圧架空ケーブル20-1の導体20aは、それと同等の配電線44を経由して商用電源41と接続されている。また、配電線44に重畳装置42が接続されているので、接続体劣化診断装置30が稼働している時には、商用電源41の出力する交流電圧(50Hz)と、重畳装置42の出力する診断用の交流電圧(105Hz)とが重畳された状態で高圧架空ケーブル20-1の導体20aに印加される。また、高圧架空ケーブル20-1の導体20aは、接続体10の内部導体を経由して高圧架空ケーブル20-2の導体20aと電気的に接続されている。したがって、高圧架空ケーブル20-2の導体20aにも、商用電源41の交流電圧(50Hz)と、重畳装置42の交流電圧(105Hz)とが重畳された状態で印加される。
【0035】
高圧架空ケーブル20-1上のある端末部において、遮蔽銅テープ20cが接地線GL1を介して接地点GP1で接地されている。また、架台31の中央部位が、接地線GL2を介して接地点GP2で接地されている。更に、高圧架空ケーブル20-2上のある端末部において、遮蔽銅テープ20cが接地線GL3を介して接地点GP3で接地されている。
【0036】
また、メッセンジャワイヤ32はその一端が架台31と接続され、他端が接地線GL1と接続され、中間部位が接地線G21を介して接地線GL2と接続されている。また、メッセンジャワイヤ33はその一端が架台31と接続され、他端が接地線GL3と接続され、中間部位が接地線G22を介して接地線GL2と接続されている。また、接地線GL1、GL2、及びGL3は、それぞれ低圧中性線34と接続されている。
【0037】
また、接続体10の左端側では、筐体14が接地線G31を介して架台31と近い位置で接続されている。また、接続体10の右端側では、筐体14が接地線G32を介して架台31と近い位置で接続されている。
【0038】
接続体劣化診断装置30の変流器CT1は、メッセンジャワイヤ32の外周を囲む状態でクランプしてあり、接続体10及び架台31からメッセンジャワイヤ32に向かって流出する方向の電流を検出した場合にその信号が正極性になる向きで変流器CT1をクランプしてある。
【0039】
また、変流器CT2は接地線GL2の外周を囲む状態でクランプしてあり、この接地線GL2を通る電流が接続体10及び架台31から接地点GP2に向かって流出する方向の電流を検出した場合にその信号が正極性になる向きで変流器CT2をクランプしてある。変流器CT3は、メッセンジャワイヤ33の外周を囲む状態でクランプしてあり、接続体10及び架台31からメッセンジャワイヤ33に向かって流出する方向の電流を検出した場合にその信号が正極性になる向きで変流器CT3をクランプしてある。
【0040】
接続体10内の絶縁体に劣化が生じた場合には、高圧架空ケーブル20-1の導体20a、及び接続体10内の導体が正極性の電位になっている時に、劣化した絶縁体を通り、大地43に向かって流れ出す方向に電流が流れる。
【0041】
この電流の代表例としては、接続体10内の絶縁体から架台31及びメッセンジャワイヤ32を通って大地43に流れる電流I1と、接続体10内の絶縁体から架台31及び接地線GL2を通って大地43に流れる電流I2と、接続体10内の絶縁体から架台31及びメッセンジャワイヤ33を通って大地43に流れる電流I3とが想定される。
【0042】
変流器CT1は上記電流I1を電流i1として検出する。変流器CT2は上記電流I2を電流i2として検出する。変流器CT3は上記電流I3を電流i3として検出する。診断装置45内の集合部45aは、上記電流i1~i3(I1~I3)を全て加算した結果を出力するので、診断装置45は接続体10内の絶縁体の劣化により生じた電流について、3種類の経路を通った電流の総和としてその大小を評価することができる。
【0043】
<診断に影響を及ぼす疑似信号の説明>
一方、図1に示すような接続体劣化診断装置30を用いて接続体10を診断する場合に、診断対象の接続体10が新品のように健全な電気部品の場合であっても、周波数Δfの交流電流が診断装置45で検出され、接続体10が劣化していると誤って診断される可能性がある。
【0044】
上述したように、診断対象が高圧架空ケーブル用分岐接続体の場合には、絶縁体が劣化していなくても、変流器の強磁性体コアには、周波数f1およびf2の交流磁束が発生し、この際、強磁性体コアの透磁率の非線形特性と、周波数f1と周波数f2の交流磁束により、周波数Δfの交流磁束(疑似信号)が発生し、変流器の出力となる2次巻線には、コアの磁束を打ち消す方向に周波数f1および周波数f2の交流電流とともに、周波数Δfの交流電流(疑似信号)が流れる。ここで、周波数Δfの交流電流のうち、電気部品の劣化と無関係な電流成分は疑似信号とみなして分離する必要がある。しかし、電気部品の劣化と関係のある電流成分と、上記疑似信号とが同じ周波数Δfであるため、フィルタなどを用いる一般的な方法では疑似信号を分離することができない。
【0045】
<実験結果の説明>
実験の結果として、接続体劣化診断装置30における補償前の2種類の実測電流特性G1、G2を図2に示す。すなわち、図1中に示した接続体10の診断環境における変流器CT1~CT3の各部位で検出される電流i1~i3と同等の環境を実験的に再現して測定する実験を行った。具体的には、用意した変流器CTの入力側の配線(接地線GL1~GL3に相当)に、周波数が互いに異なる2種類の交流電圧を重畳した状態で電流を流し、変流器CTの出力側で検出される周波数Δfの電流を測定した。その結果が図2に示されている。
【0046】
(G1) 図2中の実測電流特性G1は、以下の条件で測定した結果である。
周波数f1、f2の2つの交流電圧を重畳して変流器CTの入力側の配線に印加し変流器CTの入力側に交流電流を流した。
周波数f1:50[Hz]
周波数f2:105[Hz]
変流器CTの入力側に流れる周波数f1の電流:32[mA](実効値、固定)
変流器CTの入力側に流れる周波数f2の電流:0~32[mA](実効値、可変)
変流器CTの出力側で周波数Δf(5[Hz])の電流iy1を測定
【0047】
図2中の実測電流特性G1のグラフにおいて、横軸は変流器CTの入力側に流れる周波数f2の電流ix1を表し、縦軸は変流器CTの出力で測定される周波数Δfの電流iy1を表す。
【0048】
(G2) 図2中の実測電流特性G2は、以下の条件で測定した結果である。
周波数f1、f2の2つの交流電圧を重畳して変流器CTの入力側の配線に印加し変流器CTの入力側に交流電流を流した。
周波数f1:50[Hz]
周波数f2:105[Hz]
変流器CTの入力側に流れる周波数f1の電流:0~32[mA](実効値、可変)
変流器CTの入力側に流れる周波数f2の電流:32[mA](実効値、固定)
変流器CTの出力側で周波数Δf(5[Hz])の電流iy2を測定
【0049】
図2中の実測電流特性G2のグラフにおいて、横軸は変流器CTの入力側に流れる周波数f1の電流ix2を表し、縦軸は変流器CTの出力で測定される周波数Δfの電流iy2を表す。
【0050】
つまり、2つの交流信号が重畳した状態で変流器CTの入力側の配線にその電流が流れている状態であれば、周波数Δfの電流が変流器CTの入力側の配線に流れていない場合であっても、周波数Δfの電流が変流器CTの出力側で検出される。また、図1に示すように実際に接続体10を診断する環境においては、例えば浮遊容量などの影響を受けるため、接続体10の絶縁体が劣化していない場合でも周波数f1、f2の2つの交流電圧を重畳した交流電流が変流器CTの入力側に流れることが想定される。そして、その影響で図2中の実測電流特性G1、G2における周波数Δfの電流iy1,iy2のような疑似信号が変流器CTの出力側にも発生すると考えられる。
【0051】
また、図2中の実測電流特性G1から分かるように、変流器CTの入力側の配線に周波数50[Hz]の一定の電流が流れている状態では、重畳する周波数105[Hz]の電流が増加するのに従い、周波数Δf(5[Hz])の電流も増加する。
【0052】
同様に、図2中の実測電流特性G2から分かるように、変流器CTの入力側の配線に周波数105[Hz]の一定の電流が流れている状態では、重畳する周波数50[Hz]の電流が増加するのに従い、周波数Δf(5[Hz])の電流も増加する。
【0053】
したがって、図2中の各実測電流特性G1、G2における疑似信号(iy1、iy2)を抑制するように補償できれば、図1中の接続体劣化診断装置30における診断精度を改善できる。本発明の電気部品検査方法は、上記のような疑似信号を減らすことができる。
【0054】
<発明を実施する場合の構成>
図3は、本発明の電気部品検査方法を適用する場合の診断装置100の構成例を示すブロック図である。
【0055】
図3に示した診断装置100に備わった機能は、例えば図1に示した接続体劣化診断装置30に付加し、接続体10等の電気部品を診断する場合に利用する。診断装置100の変流器52は、図1中に示した変流器CT1~CT3のそれぞれに相当する構成要素として使用できる。また、診断装置100の測定対象配線51は、図1中に示した接地線GL1~GL3のそれぞれに相当する構成要素として使用できる。
【0056】
図1の接続体劣化診断装置30においては、商用電源41の交流電圧と、重畳装置42の出力する交流電圧とを重畳した状態で配電線44に印加することができる。2つの交流電圧を重畳して配電線44に印加すると、高圧架空ケーブル20及び接続体10を経由する経路で、各接地線GL1~GL3に2種類の交流信号が重畳した状態の電流I1~I3が流れる可能性がある。したがって、図3に示した測定対象配線51にも、周波数f1(例えば50[Hz])の交流電流と、周波数f2(例えば105[Hz])の交流電流とが重畳した状態で現れる。
【0057】
図3の診断装置100は、測定対象配線51、変流器52、補償用配線53、交流電流源54、電流検出部55、および測定部56を備えている。
診断装置100の変流器52は、一般的な構成の変流器であり、図1中の変流器CT1~CT3と同様の構成である。
【0058】
図3に示すように、変流器52は環状に形成された磁性体コアを有し、このコアで囲まれた内側の空間を貫通する状態で測定対象配線51が直線状に配置されている。つまり、変流器52が測定対象配線51をクランプした状態になっている。また、測定対象配線51と共に変流器52の磁性体コアの内側の空間を貫通する状態で補償用配線53が配置されている。また、測定対象配線51と補償用配線53が互いに隣接する箇所では互いの配線が平行になるよう配置されている。
【0059】
診断装置100の補償用配線53は、交流電流源54と接続され閉回路を構成している。交流電流源54は、測定対象配線51に流れる電流i51に重畳されている2つの周波数f1(例えば50[Hz])、f2(例えば105[Hz])のいずれか一方、又は両方の交流信号と同じ周波数の正弦波の交流電流を電流i53として補償用配線53に流す機能を有している。
【0060】
また、補償用配線53の電流i53は、測定対象配線51に流れる周波数f1又はf2の交流信号と、周波数が同じで逆位相の波形を有し同じ方向に流れる交流信号である。あるいは、電流i53は、電流i51の波形の位相と同相で電流i51と反対の方向に流れる交流信号であってもよい。更に、測定対象配線51に流れる周波数f1又はf2の交流信号の電流波形の振幅と、補償用配線53に流れる電流i53の振幅とは、ほぼ一致するように調整されている。
【0061】
つまり、測定対象配線51に流れる周波数f1又はf2の交流信号の電流成分が変流器52の磁性体コアに影響を及ぼす一方の磁界と、補償用配線53を流れる周波数f1又はf2の交流信号の電流i53が変流器52の磁性体コアに影響を及ぼす他方の磁界とが互いに磁気的に反対方向の影響を与えて打ち消し合うように調整してある。
【0062】
例えば、図2の実測電流特性G1が得られる環境において、実測電流特性G1の電流ix1と周波数、振幅、および位相が一致する(又は逆相)電流i53を補償用配線53に流すことで、周波数Δf(例えば5[Hz])の疑似信号(iy1)を補償しその影響を打ち消すことができる。
【0063】
また、図2の実測電流特性G2が得られる環境において、実測電流特性G2の電流ix2と周波数、振幅、および位相が一致する(又は逆相)電流i53を補償用配線53に流すことで、周波数Δf(例えば5[Hz])の疑似信号(iy2)を補償しその影響を打ち消すことができる。
【0064】
診断装置100の電流検出部55は、変流器52の出力52aに現れる電流i52を検出する。測定部56は、電流i52の中から診断対象の電気部品の診断に利用する周波数Δf(例えば5[Hz])の信号成分を抽出し、抽出した信号の振幅、平均値、実効値などと予め定めた閾値とを比較して劣化有無などの判定を実施する。
【0065】
<補償後の実測電流特性>
図4は、接続体劣化診断装置における補償後の実測電流特性を示すグラフである。すなわち、図3に示した診断装置100と同様の構成で、周波数f1、f2の2つの交流電圧を重畳して入力側に印加し、測定対象配線51に交流の電流i51を流した。同時に、交流電流源54を用いて周波数f2の交流の電流i53を電流i51と逆の向きで補償用配線53に流した。その結果が図4に示されている。
周波数f1:50[Hz]
周波数f2:105[Hz]
測定対象配線51に流れる周波数f1の電流:0~32[mA](実効値、可変)
測定対象配線51に流れる周波数f2の電流:32[mA](実効値、固定)
補償用配線53に流れる周波数f2の電流i53:32[mA](実効値、固定)
変流器52の出力52a側で周波数Δf(5[Hz])の電流i52(疑似信号)を測定
【0066】
図4の実測電流特性G3のグラフにおいて、横軸は変流器52の入力側の測定対象配線51に流れる周波数f1の電流ix3を表し、縦軸は変流器52の出力52a側で測定される周波数Δfの電流iy3、すなわち疑似信号を表す。
【0067】
図4の実測電流特性G3と図2の実測電流特性G2とを対比すると、実測電流特性G3では疑似信号のレベルが大幅に減少していることが確認できる。つまり、図3に示すような診断装置100を用いて電流i51と逆向きの電流i53を補償用配線53に流し、変流器52の磁界を補償することで、接続体10等の診断に影響を及ぼす疑似信号を大幅に減らすことができる。
【0068】
したがって、接続体劣化診断装置30等を用いて接続体10等の電気部品を診断する際に、図3中の診断装置100のような構成を利用すれば、周波数Δfの信号成分のうち、絶縁体の劣化に起因して発生する信号成分だけを変流器52が出力する電流i52から抽出することが容易になる。
【0069】
<変形例>
図5は、変形例の診断装置100Aの構成を示すブロック図である。図5に示した構成について以下に説明する。
【0070】
測定対象配線51は、例えば図1の接地線GL1~GL3に相当する。したがって、接続体10等の電気部品を診断する際には、周波数が異なる2つの交流信号(f1、f2)を重畳した電流i51が測定対象配線51に流れる可能性がある。また、接続体10の絶縁体が劣化している場合に、周波数Δf(例えば5[Hz])の信号電流が電流i51上に現れる。また、接続体10の絶縁体の劣化の有無とは無関係に、周波数Δfの疑似信号が変流器CTAの出力に現れる可能性がある。
【0071】
測定対象配線51および補償用配線53を囲むように配置された変流器CTAは、測定対象配線51に流れる電流i51を検出すると共に、補償用配線53を流れる電流i53により疑似信号を低減するように磁界を補償する機能を有している。
【0072】
変流器CTAの上流側に配置されているもう1つの変流器CTBは、測定対象配線51を囲むように配置された環状の磁性体コアを有し、補償前の電流i51を検出する機能を有している。なお、補償前の電流i51によって発生する磁界を検出するために、変流器CTBの代わりにホールセンサを利用しても良い。
【0073】
図5の診断装置100Aは自動キャンセル回路60を備えている。また、自動キャンセル回路60は電流アンプ61、バンドパスフィルタ62、ゲイン調整アンプ63、抵抗器64、および出力スイッチ65を有している。なお、出力スイッチ65は必須ではない。
【0074】
電流アンプ61の入力は変流器CTBの出力と接続されているので、測定対象配線51に流れる電流i51を変流器CTBを介して検出し増幅できる。バンドパスフィルタ62は、電流i51に重畳されている2つの周波数(f1、f2)の交流信号のいずれか一方の周波数成分を抽出する機能を有している。
【0075】
ゲイン調整アンプ63および抵抗器64は、疑似信号を打ち消すために必要な適切な振幅の交流信号が電流i53として補償用配線53に流れるように、ゲインを調整して出力する信号のレベルを調整する。出力スイッチ65は電流i53の通電のオンオフを切り替える。
【0076】
図5に示した例では、測定対象配線51および補償用配線53のうち変流器CTAの内側空間を通過している部位が平行に配置されている。また、測定対象配線51を流れる電流i51の向きと、補償用配線53を流れる電流i53の向きとが変流器CTA内で逆方向になるように配置されている。
【0077】
つまり、自動キャンセル回路60は測定対象配線51に流れる電流i51のうち2つの周波数(f1、f2)の交流信号のいずれか一方の周波数成分と周波数、波形、振幅、およびタイミングが揃うように調整された交流信号を電流i53として補償用配線53に供給することができる。なお、変流器CTA内で2つの電流i51、i53の方向が同じになる場合は、電流i53の交流信号の位相が電流i51に対して逆相になるように自動キャンセル回路60が調整する。
【0078】
実際には、診断装置の工場出荷時や構成時に、変流器CTBにキャンセルしたい周波数の電流(例えば105[Hz]、10mA)を流し、補償用配線53に同じ大きさの電流(10mA)が流れるように自動キャンセル回路60のゲインを調整する。なお、絶縁体が劣化していない新品の接続体10を診断対象として接続した状態で、変流器CTAの出力に現れる周波数Δf(例えば5[Hz])の信号電流が0に近づくように自動キャンセル回路60のゲインを調整してもよい。この調整が完了した後で、診断が必要な接続体10等の電気部品を含む回路を診断装置100Aを用いて診断する。
【0079】
診断が必要な電気回路は、例えば図1に示した接続体劣化診断装置30のように複数の変流器(CT1~CT3)を含んでいる場合が多い。したがって、図5に示した診断装置100Aは複数の変流器CTのそれぞれの出力を集合器70の入力に接続し、変流器CTのそれぞれの出力電流を集合して診断できるように構成されている。
【0080】
電流検出部55Aは集合器70が選択したそれぞれの対象回路の電流を増幅して測定部56Aに入力する。また、図5の例では測定部56AとしてFFT(高速フーリエ変換)アナライザを利用している。すなわち、測定対象配線51に流れる電流i51のうち、補償されて変流器CTAから出力された目的の周波数Δfの信号をFFTアナライザを用いて抽出し、その信号レベルと複数の閾値などとを比較することで電気部品(接続体10)の絶縁体劣化有無などを判定し、電気部品を含む回路の健全性を診断できる。
【0081】
<電気部品検査方法の処理手順>
本発明の電気部品検査方法を実施する場合の処理手順の例を図6に示す。なお、図6中の各処理を実行する順序やタイミングについては必要に応じて変更できる。図6の処理手順について以下に説明する。
【0082】
図1に示した接続体劣化診断装置30のように、診断対象の電気部品である接続体10を含む回路の入力側の配電線44に商用電源41から所定周波数(f1:例えば50[Hz])の商用交流電圧V1(例えば3.8[kV])を印加する(S11)。
【0083】
図1に示した重畳装置42を用いて、所定周波数(f2:例えば105[Hz])の診断用交流電圧V2(例えば100[V]、正弦波)を印加する(S12)。ここで周波数f2は、f2=2・f1+Δf(Δfは例えば5[Hz])となるように決定する。
【0084】
例えば図1の接地線GL1~GL3の各々に流れる電流を、図5の変流器CTBで検出し、更に電流アンプ61で増幅した信号からバンドパスフィルタ62で周波数f2の成分(i01)を抽出する(S13)。
【0085】
測定対象配線51の電流i51を検出する変流器CTAを貫通している補償用配線53に、電流i51と逆位相の補償用交流電流i02を自動キャンセル回路60の出力から流す(S14)。ここで、補償用交流電流i02の周波数をf2とすることで、変流器CTAの強磁性体コアにおける周波数f2の交流磁束を打ち消し、強磁性体コアで周波数Δfの交流磁束(疑似信号)が発生することを抑制し、変流器CTAの出力となる2次巻線に周波数Δfの交流電流(疑似信号)が流れることを抑制できる。
【0086】
周波数Δfの交流電流(疑似信号)が抑制された電流が変流器CTAから出力される(S15)。
測定部56Aで、例えばFFTアナライザを用いて補償後の電流i03の中から目的の周波数Δfの成分を抽出して診断する(S16)。
【0087】
以上のように、実施形態の電気部品検査方法によれば、例えば図3のように変流器52を通る補償用配線53に電流i53を流すことで、測定対象配線51に流れる電流i51に重畳されている一方の周波数(f1又はf2)、又は両方の周波数の交流電流によって変流器52に生じる磁界を打ち消して電流i52に含まれる疑似信号成分を大幅に低減できる。すなわち、例えば図2に示した実測電流特性G1、G2における電流iy1、又はiy2に相当する疑似信号成分を、補償用配線53に流す電流i53により補償することができる。そのため、例えば図4に示す実測電流特性G3のように疑似信号成分(iy3)の影響を受けにくい状態で電気部品を診断できる。
【0088】
したがって、例えば図1に示すような回路構成で、接続体や高圧CVケーブルなどの電気部品を対象として診断する場合のように、浮遊容量が存在する環境で絶縁体の診断を実施する場合でも、浮遊容量等の影響を受けることなく絶縁体の劣化について高精度で診断することが可能になる。
【0089】
また、例えば図5に示すような自動キャンセル回路60を利用することで、測定対象配線51に流れる電流i51のうち重畳されている一方の周波数(f1又はf2)の交流電流によって変流器52に生じる磁界を打ち消すために必要な電流i53を自動的に生成できる。この自動化により、精度の高い診断を行うための作業者の操作が容易になる。
【0090】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0091】
例えば、測定対象配線51に流れる電流i51のうち重畳されている両方の周波数(f1およびf2)の交流電流によって変流器52に生じる磁界を打ち消す場合には、図7に示す診断装置100Bを用いてもよい。なお、図5に示した診断装置100Aと同じ構成の部分については、同じ符号を付与し説明を省略する。診断装置100Bは、周波数f1の交流電流を通過させるバンドパスフィルタ62Aと、周波数f1の交流電流のゲイン調整アンプ63Aと、周波数f2の交流電流を通過させるバンドパスフィルタ62Bと、周波数f2の交流電流のゲイン調整アンプ63Bと、ゲイン調整アンプ63Aおよび63Bの出力を加算する加算回路66と、を備えている。
【0092】
このような構成により、診断装置100Bは、測定対象配線51に流れる電流i51に重畳されている周波数f1およびf2の交流電流によって変流器52に生じる磁界を打ち消すために必要な電流i53を自動的に生成できる。この自動化により、精度の高い診断を行うための作業者の操作が容易になる。
【0093】
ここで、上述した本発明の実施形態に係る電気部品検査方法および電気部品検査装置の特徴をそれぞれ以下[1]~[5]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 測定対象の電気部品(接続体10)に対して、第1周波数(f1)の交流電圧と、前記第1周波数の整数倍から偏位した第2周波数(f2)の交流電圧とを重畳した状態で印加する手順(S11、S12)と、
前記電気部品(接続体10)を流れる前記第1周波数(f1)および前記第2周波数(f2)の交流電流と、当該電気部品(接続体10)が劣化した場合に前記第1周波数および前記第2周波数の交流電圧に起因して前記電気部品から流れる第3周波数(Δf)の交流電流とを含む交流電流を、1つ以上の変流器(52)を用いて計測する手順と(S16)、
前記変流器から前記第3周波数と同一周波数の疑似信号成分が出力されることを抑制するために、補償用交流電流(電流i53)を用いて、前記変流器内で発生する前記第1周波数および前記第2周波数の少なくともいずれか一方の磁界を打ち消す手順(S14)と、
を有する電気部品検査方法。
【0094】
上記[1]の構成の電気部品検査方法によれば、補償用交流電流を流すことで疑似信号成分の影響を打ち消す方向の磁界を変流器に発生するので、疑似信号が電気部品の診断に影響を及ぼすのを避けることができる。したがって、浮遊容量などの影響を受けやすい環境で電気部品を診断する場合でも精度の高い診断が可能になる。
【0095】
[2] 前記補償用交流電流の周波数を、前記第1周波数(f1)および前記第2周波数(f2)のいずれか一方と同一に定める、
上記[1]に記載の電気部品検査方法。
【0096】
上記[2]の構成の電気部品検査方法によれば、疑似信号を効果的に低減できる。すなわち、第3周波数の交流電流に含まれる疑似信号成分は、第1周波数の交流信号と第2周波数の交流信号との重畳により発生すると考えられるので、第1周波数および第2周波数のいずれか一方の交流信号の影響を補償用交流電流により打ち消すことで、第3周波数の疑似信号が低減される。
【0097】
[3] 前記電気部品に流れる第1の交流電流の大きさを検出し(S15)、
検出した前記第1の交流電流から前記第1周波数、又は前記第2周波数の成分を抽出し(バンドパスフィルタ62の機能)、
抽出した前記第1周波数、又は前記第2周波数の成分を利用して前記補償用交流電流を生成し(ゲイン調整アンプ63等の機能)、
前記補償用交流電流を、前記疑似信号成分とは逆方向の電流として前記変流器(CTA)の内側空間を通過する部位に流す(補償用配線53の機能)、
上記[1]に記載の電気部品検査方法。
【0098】
上記[3]の構成の電気部品検査方法によれば、疑似信号を効果的に低減する状況の再現が容易になり、調整の自動化も可能になる。すなわち、第1の交流電流を検出した結果に基づいて補償用交流電流を生成するので、補償用交流電流の波形、振幅、タイミング、位相などを疑似信号の低減に適した状態に容易に調整できる。
【0099】
[4] 測定対象の電気部品(接続体10)に対して、第1周波数(f1)の交流電圧と、前記第1周波数の整数倍から偏位した第2周波数(f2)の交流電圧とを重畳した状態で印加する交流電圧重畳部(商用電源41、重畳装置42)と、
前記電気部品を流れる前記第1周波数および前記第2周波数の交流電流と、当該電気部品が劣化した場合に前記第1周波数および前記第2周波数の交流電圧に起因して前記電気部品から流れる第3周波数の交流電流とを含む交流電流を、1つ以上の変流器を用いて計測する電流計測部(変流器CT1~CT3、診断装置45)と、
前記交流電流によって前記変流器内に発生する前記第1周波数および前記第2周波数の少なくとも一方の磁束を、補償用交流電流(電流i53)を用いて打ち消し、前記変流器内で前記第1周波数および前記第2周波数の磁束に起因して発生する第3周波数の疑似信号成分の出力を抑制する疑似信号抑制部(補償用配線53、交流電流源54、又は自動キャンセル回路60)と、
を備える電気部品検査装置。
【0100】
上記[4]の構成の電気部品検査装置によれば、疑似信号抑制部が補償用交流電流を流すので、疑似信号成分の影響を打ち消す方向の磁界を変流器に発生することができる。したがって、疑似信号が電気部品の診断に影響を及ぼすのを避けることができ、浮遊容量などの影響を受けやすい環境で電気部品を診断する場合でも精度の高い診断が可能になる。
【0101】
[5] 前記電気部品に流れる第1の交流電流(電流i51)の大きさを検出する電流検出部(変流器CTB、電流アンプ61)と、
前記電流検出部が検出した前記第1の交流電流から前記第1周波数(f1)、又は前記第2周波数(f2)の成分を抽出する周波数フィルタ部(バンドパスフィルタ62)と、
前記周波数フィルタ部が抽出した前記第1周波数、又は前記第2周波数の成分を利用して前記補償用交流電流を生成する補償電流生成部(ゲイン調整アンプ63)と、
前記補償電流生成部が生成した前記補償用交流電流を、前記疑似信号成分とは逆方向の電流として前記変流器の内側空間を通過する部位に流す補償電流線路(補償用配線53)と、
を更に備える上記[4]に記載の電気部品検査装置(診断装置100A)。
【0102】
上記[5]の構成の電気部品検査装置によれば、疑似信号を効果的に低減する状況の再現が容易になり、調整の自動化も可能になる。すなわち、電流検出部が第1の交流電流を検出した結果に基づいて補償用交流電流を生成するので、補償用交流電流の波形、振幅、タイミング、位相などを疑似信号の低減に適した状態に容易に調整できる。
【符号の説明】
【0103】
10 接続体
14 筐体
15 幹線接続部
16 分岐接続部
20,20-1,20-2 高圧架空ケーブル
20a 導体
20b 絶縁体
20c 遮蔽銅テープ
20d シース
30 接続体劣化診断装置
31 架台
32,33 メッセンジャワイヤ
34 低圧中性線
41 商用電源
42 重畳装置
42a 診断用交流電源
42b 絶縁トランス
42c 結合コンデンサ
43 大地
44 配電線
45 診断装置
45a 集合部
45b 電流検出部
45c フィルタ部
45d 測定・診断部
46,47,48 リード線
51 測定対象配線
52 変流器
52a 出力
53 補償用配線
54 交流電流源
55,55A 電流検出部
56,56A 測定部
60 自動キャンセル回路
61 電流アンプ
62 バンドパスフィルタ
63 ゲイン調整アンプ
64 抵抗器
65 出力スイッチ
70 集合器
100,100A 診断装置
CT1,CT2,CT3,CTA,CTB 変流器
G1,G2,G3 実測電流特性
GL1,GL2,GL3,G21,G22,G31,G32 接地線
GP1,GP2,GP3 接地点
i1,i2,i3,i51,i52,i53 電流
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7