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特開2024-120692重合体ナノファイバー集積体の製造方法、重合体ナノファイバー集積体、一軸配向重合体ナノファイバー集積基板、及び、レーザー脱離/イオン化質量分析基板
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120692
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】重合体ナノファイバー集積体の製造方法、重合体ナノファイバー集積体、一軸配向重合体ナノファイバー集積基板、及び、レーザー脱離/イオン化質量分析基板
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/74 20060101AFI20240829BHJP
   C08G 77/54 20060101ALI20240829BHJP
   D01F 6/74 20060101ALI20240829BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20240829BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240829BHJP
【FI】
D04H1/74
C08G77/54
D01F6/74 Z
H01J49/04 180
G01N27/62 G
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027675
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝下 倫大
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 有理
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 優美
【テーマコード(参考)】
2G041
4J246
4L035
4L047
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041FA12
4J246AA11
4J246BA12X
4J246BB022
4J246BB02X
4J246BB331
4J246BB33X
4J246BB341
4J246BB34X
4J246FA071
4J246FA131
4J246FA471
4J246FB051
4J246GB40
4J246HA34
4L035AA04
4L035BB03
4L035BB05
4L035BB12
4L035BB15
4L035DD13
4L035FF05
4L035GG07
4L047AA26
4L047AB02
4L047AB08
4L047BD02
4L047CC16
(57)【要約】
【課題】長手方向に一軸配向した重合体ナノファイバー集積体を効率よく製造することが可能な重合体ナノファイバー集積体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 特定の非水溶性の自己組織化化合物を、特定の有機溶媒及び前記有機溶媒と水との混合溶媒のうちのいずれか一方の溶媒中に分散させて、ゲル状組成物を得る工程と;前記ゲル状組成物中の前記有機溶媒を水に置換させて、水置換ゲル状組成物を得る工程と;長手方向を開放しつつ長手方向に略直交する複数方向から圧縮することにより前記水置換ゲル状組成物を圧搾し、自己組織化ファイバーバンドルを得る工程と;前記自己組織化ファイバーバンドル中の前記自己組織化化合物を重合せしめることにより、長手方向に配向した重合体ナノファイバーからなる集積体を得る工程と;を含むことを特徴とする重合体ナノファイバー集積体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性官能基を有しておりかつ自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能である非水溶性の自己組織化化合物を、水と混和することが可能な有機溶媒及び前記有機溶媒と水との混合溶媒のうちのいずれか一方の溶媒中に分散させて、ゲル状組成物を得る工程と、
前記ゲル状組成物中の前記有機溶媒を水に置換させて、水置換ゲル状組成物を得る工程と、
長手方向を開放しつつ長手方向に略直交する複数方向から圧縮することにより前記水置換ゲル状組成物を圧搾し、自己組織化ファイバーバンドルを得る工程と、
前記自己組織化ファイバーバンドル中の前記自己組織化化合物を重合せしめることにより、長手方向に配向した重合体ナノファイバーからなる集積体を得る工程と、
を含むことを特徴とする重合体ナノファイバー集積体の製造方法。
【請求項2】
前記重合性官能基がトリアルコキシシリル基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ジエニル基、及び、ジアセチレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基であることを特徴とする請求項1に記載の重合体ナノファイバー集積体の製造方法。
【請求項3】
前記非水溶性の自己組織化化合物が、
分子骨格中に2個以上のアミド結合と2個以上の芳香族基とを有し、
前記2個以上の芳香族基はそれぞれ、ナフタルイミド環、トリフェニルアミン環、ピレン環、ペリレン環、及び、アクリドン環からなる群から選択される1種の芳香環を有する基であり、かつ、
前記2個以上の芳香族基のそれぞれに前記重合性官能基としてのトリアルコキシシリル基が2個以上結合している有機シラン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の重合体ナノファイバー集積体の製造方法。
【請求項4】
重合性官能基を有しておりかつ自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能である非水溶性の自己組織化化合物の重合体からなるナノファイバーが長手方向に配向して集積されていることを特徴とする重合体ナノファイバー集積体。
【請求項5】
重合性官能基を有しておりかつ自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能である非水溶性の自己組織化化合物の重合体からなるナノファイバーが長手方向に配向して集積されている重合体ナノファイバー集積体の切断物からなる薄膜を備えかつ前記切断物の切断方向が前記重合体ナノファイバー集積体の長手方向に対して略垂直な方向であることを特徴とする一軸配向重合体ナノファイバー集積基板。
【請求項6】
請求項5に記載の一軸配向重合体ナノファイバー集積基板又はその疎水化処理物を備えることを特徴とするレーザー脱離/イオン化質量分析基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体ナノファイバー集積体の製造方法、重合体ナノファイバー集積体、一軸配向重合体ナノファイバー集積基板、並びに、レーザー脱離/イオン化質量分析基板に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直に配向した構造を有する多孔質基板は、光・電子デバイスやその機能向上(光吸収性能向上、表面積の拡張、導電バスの確保、スムーズな物質拡散の確保等)の観点から、様々な分野への応用が期待されている。そして、そのような多孔質基板の用途としては、例えば、レーザー脱離/イオン化質量分析基板が挙げられる。このような垂直配向構造を有する多孔質基板を用いたレーザー脱離/イオン化質量分析基板に利用する技術としては、例えば、非特許文献1(Nicholas J. Morris et al.,“Laser desorption ionization (LDI) silicon nanopost array chips fabricated using deep UV projection lithography and deep reactive ion etching”,Rsc Advances,vol.5, 2015,P.72051-P.72057)に、フォトリソグラフィーの手法を用いて形成されたナノポスト(ナノピラー)アレイ構造を有するシリコン基板を、レーザー脱離/イオン化質量分析用の基板として利用することが開示されている。
【0003】
なお、垂直配向構造を有する多孔質基板ではないが、ランダムに配向した構造を有する基板をレーザー脱離/イオン化質量分析基板に利用する技術として、例えば、非特許文献2(Tian Lu et al.,“Electrospun nanofibers as substrates for surface-assisted laser desorption/ionization and matrix-enhanced surface-assisted laser desorption/ionization mass spectrometry”,Analytical chemistry,vol.85,issue 9,2013,P.4384-p.4391)には、エレクトロスピニングで製造した樹脂ナノファイバーの集積物あるいはそれを焼成して得られるファイバー状カーボン基板を、レーザー脱離/イオン化質量分析用の基板として利用することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nicholas J. Morris et al.,“Laser desorption ionization (LDI) silicon nanopost array chips fabricated using deep UV projection lithography and deep reactive ion etching”,Rsc Advances,vol.5, 2015,P.72051-P.72057
【非特許文献2】Tian Lu et al.,“Electrospun nanofibers as substrates for surface-assisted laser desorption/ionization and matrix-enhanced surface-assisted laser desorption/ionization mass spectrometry”,Analytical chemistry,vol.85,issue 9,2013,P.4384-p.4391
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記非特許文献1に記載されているような技術では、一枚の基板の製造に、表面処理やフォトレジストの設置・パターン形成等、少なくとも8つの工程(ステップ)を採用する必要があり、工程が煩雑で生産効率性(基板作成の高速度化や低コスト化等)の点で十分なものではなかった。
【0006】
他方、前記非特許文献2に記載されているような技術は、樹脂ナノファイバーの集積物をレーザー脱離/イオン化質量分析用の基板に応用する技術であるが、基板の製造方法にエレクトロスピニングを用いているため、形成されるファイバー状の構造物としては配向がランダムなものしか得られなかった。一方で、前記非特許文献2においては一軸配向のファイバー状の構造物を形成することなど何ら開示されていない。
【0007】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、長手方向に一軸配向した重合体ナノファイバー集積体を効率よく製造することが可能な重合体ナノファイバー集積体の製造方法;その製造方法を利用して得られる重合体ナノファイバー集積体;その重合体ナノファイバー集積体の切断物として効率よく製造することが可能な一軸配向重合体ナノファイバー集積基板;その一軸配向重合体ナノファイバー集積基板を応用したレーザー脱離/イオン化質量分析基板;を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、先ず、重合性官能基を有しておりかつ自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能である非水溶性の自己組織化化合物を、水と混和することが可能な有機溶媒及び前記有機溶媒と水との混合溶媒のうちのいずれか一方の溶媒中に分散させてゲル状組成物を形成し、次いで、前記ゲル状組成物中の前記有機溶媒を水に置換させて、水置換ゲル状組成物を形成した後、長手方向を開放しつつ長手方向に略直交する複数方向から圧縮することにより前記水置換ゲル状組成物を圧搾して自己組織化ファイバーバンドルを形成し、その後、前記自己組織化ファイバーバンドル中の前記自己組織化化合物を重合せしめることにより、長手方向に一軸配向した重合体ナノファイバー集積体を効率よく製造することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0010】
[1] 重合性官能基を有しておりかつ自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能である非水溶性の自己組織化化合物を、水と混和することが可能な有機溶媒及び前記有機溶媒と水との混合溶媒のうちのいずれか一方の溶媒中に分散させて、ゲル状組成物を得る工程と、
前記ゲル状組成物中の前記有機溶媒を水に置換させて、水置換ゲル状組成物を得る工程と、
長手方向を開放しつつ長手方向に略直交する複数方向から圧縮することにより前記水置換ゲル状組成物を圧搾し、自己組織化ファイバーバンドルを得る工程と、
前記自己組織化ファイバーバンドル中の前記自己組織化化合物を重合せしめることにより、長手方向に配向した重合体ナノファイバーからなる集積体を得る工程と、
を含む、重合体ナノファイバー集積体の製造方法。
【0011】
[2] 前記重合性官能基がトリアルコキシシリル基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ジエニル基、及び、ジアセチレン基からなる群から選択される少なくとも1種の基である、[1]に記載の重合体ナノファイバー集積体の製造方法。
【0012】
[3] 前記非水溶性の自己組織化化合物が、
分子骨格中に2個以上のアミド結合と2個以上の芳香族基とを有し、
前記2個以上の芳香族基はそれぞれ、ナフタルイミド環、トリフェニルアミン環、ピレン環、ペリレン環、及び、アクリドン環からなる群から選択される1種の芳香環を有する基であり、かつ、
前記2個以上の芳香族基のそれぞれに前記重合性官能基としてのトリアルコキシシリル基が2個以上結合している有機シラン化合物である、[1]又は[2]に記載の重合体ナノファイバー集積体の製造方法。
【0013】
[4] 重合性官能基を有しておりかつ自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能である非水溶性の自己組織化化合物の重合体からなるナノファイバーが長手方向に配向して集積されている、重合体ナノファイバー集積体。
【0014】
[5] 重合性官能基を有しておりかつ自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能である非水溶性の自己組織化化合物の重合体からなるナノファイバーが長手方向に配向して集積されている重合体ナノファイバー集積体の切断物からなる薄膜を備えかつ前記切断物の切断方向が前記重合体ナノファイバー集積体の長手方向に対して略垂直な方向である、一軸配向重合体ナノファイバー集積基板。
【0015】
[6] [5]に記載の一軸配向重合体ナノファイバー集積基板又はその疎水化処理物を備えることを特徴とするレーザー脱離/イオン化質量分析基板。
【0016】
なお、本発明によって、上記目的を達成できる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、自己組織化可能な化合物の分子によって形成されるファイバー状の分子集合体は、通常、ランダムに配向したものとなる。このようなランダム配向したファイバー状分子集合体は低分子化合物の集合体であるため、力学的には非常に脆弱であり、その分子集合体を機械的に加工することは不可能と考えられていた。
【0017】
このような状況の下、本発明者らは、自己組織化可能な化合物として、重合性官能基を有しかつファイバー状の分子集合体を形成することが可能な非水溶性の化合物(原料分子)を利用し、かかる化合物を、水と混和することが可能な有機溶媒(例えばアルコール)及び前記有機溶媒と水との混合溶媒のうちのいずれか一方の溶媒中に分散させ、その化合物の分子を前記溶媒中において自己組織化させてゲル状組成物(分子がファイバー状に自己組織的に集合した分子集合体を含むゲル状の組成物)を得た後、得られたゲル状組成物中に含まれている有機溶媒を水に置換した場合に、その組成物中のファイバー状の分子集合体が機械的な加工が可能なものとなることを見出した。なお、このようにして得られた水置換ゲル状組成物中においては、非水溶性のファイバー状分子集合体が強制的に水媒体中に分散された状態が形成されることとなるため、その分子間の疎水性相互作用が強く発現させられることとなり、これによりファイバー状の分子集合体の力学的性質が補強されて、機械的な加工が可能になるものと本発明者らは推察している。そして、本発明においては、このように力学的性質が補強された前述の水置換ゲル状組成物を用いて、これを長手方向を開放しながら、長手方向に略直交する複数方向から圧縮して圧搾する工程を施す。かかる工程により組成物中のファイバー状の分子集合体は長手方向に配向させられることとなる。そして、このようにしてファイバー状分子集合体を長手方向に配向させてバンドル状の集合体(自己組織化ファイバーバンドル)を形成した後、得られた自己組織化ファイバーバンドル中のファイバー状分子集合体を重合することで、長手方向に一軸配向した重合体ナノファイバー集積体を効率よく製造することができる。このように、本発明においては、非水溶性の前記自己組織化化合物を前記溶媒中に分散させた後、その溶媒中に含まれる有機溶媒を強制的に水に変更することで、ファイバー状の分子集合体の力学的性質を向上させて、従来不可能であった機械的な加工を可能として、一軸配向した重合体ナノファイバー集積体を製造することを可能とする。このように、特定の化合物を利用し、媒体の置換といった簡便な工程を採用することで、本発明においては、分子自己組織化によって形成されるファイバー状分子集合体を一方向に配向させてバンドル化した状態に加工することを可能とし、それを重合して固定化することで、一軸配向した重合体ナノファイバー集積体を製造することを可能とする。そのため、本発明は、煩雑な工程を採用することなく、重合体ナノファイバー集積体を効率よく製造可能な方法となる。
【0018】
また、本発明の重合体ナノファイバー集積体の製造方法により得られた重合体ナノファイバー集積体を用いて、これを長手方向に略垂直な方向(好ましくは短手方向)に切断するという簡便な工程を施して薄膜を形成することで、ファイバー状の化合物の重合体が垂直方向に一軸配向した薄膜を備える基板(一軸配向重合体ナノファイバー集積基板:なお、その構造上、多孔質構造(ピラーアレイ構造)を有する基板となる)を連続的かつ高速で安定的に製造することも可能となるため、本発明によれば、一軸配向重合体ナノファイバー集積基板も効率よく製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、長手方向に一軸配向した重合体ナノファイバー集積体を効率よく製造することが可能な重合体ナノファイバー集積体の製造方法;その製造方法を利用して得られる重合体ナノファイバー集積体;その重合体ナノファイバー集積体の切断物として効率よく製造することが可能な一軸配向重合体ナノファイバー集積基板;その一軸配向重合体ナノファイバー集積基板を応用したレーザー脱離/イオン化質量分析基板;を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】圧縮前の直方体状の水置換ゲル状組成物及びそれを圧縮して得られる自己組織化ファイバーバンドルの好適な実施形態を模式的に示す概略図である。
図2】重合体ナノファイバー集積体及びそれを切断して得られる薄膜の好適な実施形態を模式的に示す概略図である。
図3】実施例1で得られたゲル状組成物中のナノファイバー集合体の状態(ランダム配向の状態)を示す電子顕微鏡写真(SEM像)である。
図4】実施例1で得られたナノファイバー集合体からなる略角柱状の固体の状態(ファイバーの集積状態)を示す写真である。
図5】実施例1で得られた略角柱状の固体中のナノファイバー集合体の状態を示す電子顕微鏡写真(SEM像)である。
図6】実施例1で得られた重合体ナノファイバー集積体の29Si MAS NMRスペクトルのグラフである。
図7】実施例1で得られた重合体ナノファイバー集積体(有機シリカナノファイバーバンドル)の状態(重合体ナノファイバーの集積状態)を示す写真である。
図8】実施例1で得られた重合体ナノファイバーの集積体中の重合体ナノファイバーの配向状態を示す電子顕微鏡写真(SEM像)である。
図9】実施例1で得られた有機シリカ薄膜を示す写真である。
図10】実施例1で得られた有機シリカ薄膜表面を示す電子顕微鏡写真(SEM像)である。
図11】実施例1で得られた有機シリカ薄膜の断面を示す電子顕微鏡写真(SEM像)である。
図12】実施例1で得られた複数の有機シリカ薄膜を示す写真である。
図13】実施例2で得られた有機シリカ薄膜表面を示す電子顕微鏡写真(SEM像)である。
図14】実施例2で得られた有機シリカ薄膜の断面を示す電子顕微鏡写真(SEM像)である。
図15】実施例3で得られた有機シリカ薄膜表面を示す電子顕微鏡写真(SEM像)である。
図16】実施例3で得られた有機シリカ薄膜の断面を示す電子顕微鏡写真(SEM像)である。
図17】比較例1で得られた薄膜の表面を示す電子顕微鏡写真(SEM像)である。
図18】比較例1で得られた薄膜の断面を示す電子顕微鏡写真(SEM像)である。
図19】比較例2で製造した圧縮前後のゲル状組成物の状態を示す写真である。
図20】比較例2で計測したゲル状組成物(溶媒の種類:混合溶媒)と、水置換ゲル状組成物(溶媒の種類:水)の圧縮時の荷重-変位特性を示すグラフである。
図21】実施例4において測定したベラパミルのマススペクトルを示すグラフである。
図22】実施例4において測定したアンジオテンシンIのマススペクトルを示すグラフである。
図23】実施例4において測定したアミロイドβのマススペクトルを示すグラフである。
図24】比較例3において測定したベラパミルのマススペクトルを示すグラフである。
図25】比較例3において測定したアンジオテンシンIのマススペクトルを示すグラフである。
図26】比較例3において測定したアミロイドβのマススペクトルを示すグラフである。
図27】実施例4および比較例3において測定した各分析対象分子(ベラパミル、アンジオテンシンI、アミロイドβ)のマススペクトルのシグナル強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。なお、以下の説明において、便宜上、場合により図面を参照しながら本発明の好適な実施形態等について説明する。また、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
[重合体ナノファイバー集積体の製造方法]
本発明の重合体ナノファイバー集積体の製造方法は、
重合性官能基を有しておりかつ自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能である非水溶性の自己組織化化合物を、水と混和することが可能な有機溶媒及び前記有機溶媒と水との混合溶媒のうちのいずれか一方の溶媒中に分散させて、ゲル状組成物を得る工程(以下、場合により単に「第一工程」と称する)と、
前記ゲル状組成物中の前記有機溶媒を水に置換させて、水置換ゲル状組成物を得る工程(以下、場合により単に「第二工程」と称する)と、
長手方向を開放しつつ長手方向に略直交する複数方向から圧縮することにより前記水置換ゲル状組成物を圧搾し、自己組織化ファイバーバンドルを得る工程(以下、場合により単に「第三工程」と称する)と、
前記自己組織化ファイバーバンドル中の前記自己組織化化合物を重合せしめることにより、長手方向に配向した重合体ナノファイバーからなる集積体を得る工程(以下、場合により単に「第四工程」と称する)と、
を含むことを特徴とする方法である。以下、各工程を分けて説明する。
【0023】
〈第一工程〉
前記第一工程は、重合性官能基を有しておりかつ自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能である非水溶性の自己組織化化合物(以下、便宜上、場合により単に「自己組織化化合物」と称する)を、水と混和することが可能な有機溶媒及び前記有機溶媒と水との混合溶媒のうちのいずれか一方の溶媒中に分散させて、ゲル状組成物を得る工程である。
【0024】
このような工程に利用する前記自己組織化化合物は、重合性官能基を有したものである必要がある。このような重合性官能基により、前記第四工程においては配向状態を重合して固定化することが可能となる。また、前記自己組織化化合物の一分子中に含まれる重合性官能基の数は特に制限されるものではないが、2~8個であることが好ましく、2~4個であることがより好ましい。このような重合性官能基の数が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して効率的な架橋構造の形成による構造安定化の点でより高い効果を得ることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して重合による変形や体積収縮の低減の点でより高い効果を得ることが可能となる。
【0025】
また、前記重合性官能基としては、特に制限されるものではないが、固体状態における高い反応性の確保の観点から、トリアルコキシシリル基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ジエニル基、ジアセチレン基であることが好ましく、トリアルコキシシリル基、ジエニル基がより好ましく、トリアルコキシシリル基が特に好ましい。また、このようなトリアルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基等が挙げられる。なお、前記自己組織化化合物の一分子中に複数個の重合性官能基が含まれる場合、複数の重合性官能基はそれぞれ同一のものであってもよく、あるいは、それぞれ異なる種類のものであってもよい。このように、前記自己組織化化合物中の重合性官能基としては1種の基を単独で利用してもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0026】
また、前記自己組織化化合物は、自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能な化合物であって、かつ、非水溶性のものである。ここにおいて「ファイバー状」とは、直径に対して長さが十分に長い形状(好ましくは直径に対する長さの比が10倍以上)であればよく、いわゆる繊維状、線状、糸状、針状、円柱状等の細く延びた形状を包含する概念である(なお、ここにいうファイバーは、直線状のものであっても、あるいは、分岐を有するものであってもよい)。
【0027】
このような自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能な化合物(分子)としては、公知の化合物(例えば、非特許文献3(Sukumaran Santhosh Babu et al.,“Functional π-Gelators and Their Applications”,Chem. Rev.,2014,vol.114,No.4,P.1973-P.2129)に記載されている化合物や、非特許文献4(Neralagatta M. Sangeetha et al.,“Supramolecular gels:Functions and uses”,Chem. Soc. Rev.,2005,vol.34,P.821- P.836)に記載されている化合物等)を適宜利用できる。なお、前記自己組織化化合物は、重合性官能基を有するものであることから、例えば、非特許文献3~4に記載されている化合物(分子)に重合性官能基を導入した化合物を調製して適宜利用してもよい。このように、前記自己組織化化合物としては、例えば、自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能な化合物として公知の化合物(前記非特許文献3~4に記載されている化合物等)を分子骨格として、その分子骨格に直接又は連結基(例えば、アルキレン基等)を介して重合性官能基が結合した化合物を適宜利用すればよい。なお、自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能な化合物に重合性官能基を導入するための方法は特に制限されず、重合性官能基を導入させることが可能となるような公知の方法を適宜採用できる。
【0028】
前記自己組織化化合物の分子骨格としては、例えば、アミノ酸誘導型アルキルアミド化合物、オリゴアミノ酸誘導型アルキルアミド化合物、環状オリゴアミノ酸誘導体、N,N’,N’’-トリアルキル置換型ベンゼントリカルボアミド、N,N’,N’’-トリアルキル置換型シクロヘキサントリカルボアミド、N,N’-ジアルキル置換型シクロヘキサンジカルボアミド、N,N’,N’’-トリアルキル置換型トリウレイドシクロヘキサン、N,N’-ジアルキル置換型ジウレイドシクロヘキサン、アルキレンジアミド誘導体、アルキレンジウレイド誘導体、ジアルコシキアントラセン誘導体、ジアルコキシアントラキノン誘導体、ステロイド誘導体、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ナフタルイミド誘導体、ナフタレンビスイミド誘導体、ペリレンビスミイド誘導体、アルコキシ置換型オリゴフェニレンビニレン化合物、ジベンジリデンソルビトール誘導体、グルコンアミド誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、及び、アクリドン誘導体、ジフェニルピレン誘導体、テトラフェニルピレン誘導体、アクリドン誘導体、メチルアクリドン誘導体、スチリルベンゼン誘導体、ジビニルベンゼン誘導体、フルオレン誘導体、クアテルフェニル誘導体、アントラセン誘導体、アクリジン誘導体、フェニルピリジン誘導体、ジビニルピリジン誘導体、ポルフィン誘導体、フタロシアニン誘導体、ジケトピロロピロール誘導体、ジチエニルベンゾチアゾール誘導体、あるいは、これらを2つ以上連結させたもの等を挙げることができる。なお、前記自己組織化化合物の分子骨格は、上記例示物に限定されるものではなく、例えば、後述の有機シリル化合物の中の分子骨格を利用することもできる。
【0029】
前記自己組織化化合物の分子骨格としては、特に制限されるものではないが、例えば、N-ベンジルオキシカルボニル-L-イソロイシンオクタデシルアミド、N-ベンジルオキシカルボニル-L-バリンオクタデシルアミド、N-ベンジルオキシカルボニル-L-バリル-L-バリンオクタデシルアミド、N-ベンジルオキシカルボニル-L-イソロイシル-L-イソロイシル-L-イソロイシンドデシルアミド、シクロ(L-β-3,7-ジメチルオクチルアスパラギニル-L-フェニルアラニル)、シクロ(L-β-2-エチルへキシルアスパラギニル-L-フェニルアラニル)、N,N’,N’’-トリステアリルトリメサミド、cis,cis-1,3,5-トリス(ステアリルアミノカルボニル)シクロヘキサン、trans-1,2-ビス(ウンデシルカルボニルアミノ)シクロヘキサン、trans-1,2-ビス(N-オクタデシルウレイド)シクロヘキサン、1,12-ビス(N-ベンジルオキシカルボニル-L-バリル)アミノドデカン、1,12-ビス(N-ドデシルウレイド)ドデカン、2,3-ビス(デシルオキシ)アントラセン、2,3-ビス(デシルオキシ)-9,10-アントラキノン、コレステリル-4-(2-アントリルオキシ)ブタノエート、コレステリルアントラキノン-2-カルボキシレート、meso-テトラキス(p-カルボキシフェニル)ポルフィリントリヘキサデシルエステル、(2-コレステリルオキシカルボニルアミノエチル)アミノカルボニルトリス(tert-ブチル)-Zn(II)-フタロシアニン、N-(N’-ベンジルオキシカルボニル-L-フェニルアラニルアミノ)-1,8-ナフタルイミド、N,N’-ビス[2-(3,4,5-トリオクチルオキシフェニルカルボニルアミノ)エチル]-1,4,5,8-ナフタレンビスイミド、N,N’-ビス[2-(3,4,5-トリオクチルオキシフェニルカルボニルアミノ)エチル]-3,4,9,10-ペリレンビスイミド、1,4-ビス(4-ヒドロキシメチル-2,5-ジオクチルオキシスチリル)-2,5-ジオキチルオキシベンゼン、ジベンジリデンソルビトール及びN-オクチル-D-グルコンアミド-6-ベンゾエート等の他、下記式(I):
-R‐NH-CO-R‐CO‐NH-R‐R (I
(式中、2つのRはそれぞれ独立に、ナフタルイミド環、トリフェニルアミン環、ピレン環、ペリレン環、及び、アクリドン環からなる群から選択される1種の環状構造を有する芳香族基を示し、複数のRはそれぞれ独立に、炭素数2~16のアルキレン基を示す。)
で表される分子骨格を利用してもよい。
【0030】
このような分子骨格の中でも、「波長200~600nmの範囲内に極大吸収波長を有する有機基(例えば、ナフタルイミド、トリフェニルアミン、ピレン、ペリレン、及び、アクリドン等)」を骨格内に含有しており、レーザー脱離/イオン化質量分析基板に利用した際に、より高感度の分析を行うことが可能となるといった観点から、前記式(I)で表される分子骨格がより好ましい。
【0031】
また、このような自己組織化化合物は、非水溶性である必要がある。ここにおいて「非水溶性」とは、20℃の温度条件下において化合物を水(いわゆる純水であることが望ましい)に混合した後に回収して乾燥させた場合に、水に混合する前の化合物の質量と水と混合した後の化合物の質量の差が、水に混合する前の化合物の質量の0.1質量%以下であること(水に対する溶解度が20℃の温度条件下においてほぼ0であるとみなすことができる特性)をいう。そのため、自己組織化化合物としては、前述の化合物の中から、前記非水溶性の条件を満たすものを適宜選択して利用すればよい。
【0032】
また、前記自己組織化化合物としては、水素結合が可能な部位と、波長200~600nmの範囲内に極大吸収波長を有する有機基である芳香族基(波長200~600nmの範囲内に極大吸収波長を有する芳香環を有する基)と、重合性官能基としてのトリアルコキシシリル基とを有する有機シラン化合物(以下、便宜上、「有機シラン化合物(A-1)」と称する)がより好ましく、中でも、
分子骨格中に2個以上(より好ましくは2~8個)のアミド結合と2個以上(より好ましくは2~4個)の芳香族基とを有し、
前記2個以上の芳香族基はそれぞれ、ナフタルイミド環、トリフェニルアミン環、ピレン環、ペリレン環、及び、アクリドン環からなる群から選択される1種の芳香環を有する基であり、かつ、
前記2個以上の芳香族基のそれぞれに前記重合性官能基としてのトリアルコキシシリル基が2個以上結合(直接結合していてもよくあるいは連結基を介して結合していてもよい)している有機シラン化合物(以下、便宜上、「有機シラン化合物(A-2)」と称する)がより好ましく、前記記式(I)で表される分子骨格を有し、かつ、その分子骨格を構成するRで表される芳香族基のそれぞれに前記重合性官能基としてのトリアルコキシシリル基が2個以上結合(直接結合していてもよくあるいは連結基を介して結合していてもよい)している有機シラン化合物(以下、便宜上、「有機シラン化合物(A-3)」と称する)が特に好ましい。なお、このような有機シラン化合物(A-1)(より好ましくは化合物(A-2)、更に好ましくは化合物(A-3))を前記自己組織化化合物として利用した場合には、その化合物を重合した後に得られる重合体ナノファイバー(ファイバー状有機シリカ)を、有機シリカ化合物からなるものとすることができ、ファイバー状有機シリカを構成単位とする重合体ナノファイバー集積体を得ることが可能となる。
【0033】
このような有機シラン化合物(A-1)が有する水素結合が可能な部位(水素結合部位)としては、特に制限されないが、例えば、アミド結合(-NH-CO-で表される結合)、ウレタン結合(-NH-COO-で表される結合)、ウレア結合(-NH-CO-NH-で表される結合)、水酸基(-OH)、イミダゾール基、アミノピリジル基等が挙げられる。このような水素結合部位により、連鎖的な水素結合結合形成によるファイバー状分子集合体形成を促進させることが可能となり、更には、その化合物を用いて形成された基板をレーザー脱離/イオン化質量分析用の基板に用いた場合に、測定対象分子、特に、生体関連分子等の高親水性化合物を吸着して、測定対象分子を基板上により均一に担持することが可能となる。このような水素結合部位としては、中でも、測定対象分子の吸着性をより向上させることが可能であることから、アミド結合(アミド基)が特に好ましい。また、前記水素結合部位(好ましくはアミド結合)は、前記芳香族基に直接的又は間接的に(他の元素を介して)結合していることが好ましい。これにより、水素結合部位が基板の骨格内に規則的に配置されるため、レーザー脱離/イオン化質量分析において、測定対象分子の吸着サイトが均質となり、測定対象分子に相当するシグナルの検出強度の均一性が向上する。なお、水素結合部位としてアミド結合を有する有機シラン化合物(A-1)としては、具体的には、前記有機シラン化合物(A-2)及び(A-3)を好適なものとして挙げることができる。
【0034】
前記有機シラン化合物(A-1)中の芳香族基は、波長200~600nmの範囲内に極大吸収波長を有する有機基(波長200~600nmの範囲内に極大吸収波長を有する芳香環を有する基)である。このような波長200~600nmの範囲内に極大吸収波長を有する芳香環としては、特に制限されず、公知の芳香環(ナフタルイミド環、トリフェニルアミン環、ピレン環、ジフェニルピレン環、テトラフェニルピレン環、ペリレン環、ペリレンビスイミド環、アクリドン環、メチルアクリドン環、スチリルベンゼン環、ジビニルベンゼン環、フルオレン環、クアテルフェニル環、アントラセン環、アクリジン環、フェニルピリジン環、ジビニルピリジン環、ポルフィン環、フタロシアニン環、ジケトピロロピロール環、ジチエニルベンゾチアゾール環等)を適宜利用できるが、中でも、レーザー光照射に対する化学的安定性の観点から、ナフタルイミド環、トリフェニルアミン環、ピレン環、ペリレン環、アクリドン環がより好ましい。また、前記有機シラン化合物(A-1)は、芳香族基を1種単独で含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。また、このような芳香族基として好適な、ナフタルイミド環、トリフェニルアミン環、ピレン環、ペリレン環、及び、アクリドン環からなる群から選択される1種の芳香環を有する基を含む有機シラン化合物(A-1)としては、具体的には、前記有機シラン化合物(A-2)及び(A-3)を好適なものとして挙げることができる。さらに、前記有機シラン化合物(A-1)~(A-3)において、近紫外光の吸収性能および光照射に対する高い化学的安定性の確保の観点から、前記芳香族基としては、ナフタルイミド環を有する基であることが特に好ましい。なお、前記芳香族基は、前述の各種環を有するものであればよく、その環そのものであっても、あるいは、その環に置換基が結合したものであってもよい。このような置換基としては特に制限されないが、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、水酸基、チオール基、チオアルキル基、ハロゲン基等が挙げられる。
【0035】
また、前記有機シラン化合物(A-1)~(A-3)において、トリアルコキシシリル基は、前記芳香族基に直接又は連結基を介して結合していることが好ましい。また、前記有機シラン化合物(A-1)~(A-3)において、前記芳香族基に結合しているトリアルコキシシリル基の個数の上限としては特に制限はないが、6個以下が好ましく、4個以下がより好ましく、3個以下が特に好ましい。1つの芳香族基に結合しているシリル基の個数が前記上限を超えると、レーザー光吸収性有機基の割合が減少し、レーザー光の吸収効率が低下する傾向にある。また、その分子骨格に直接又は連結基を介してトリアルコキシシリル基が結合している場合、かかる連結基としては特に制限されないが、アルキレン基であることが好ましく、中でも、化合物の調製がより容易であるといった観点からは、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基であることが好ましく、エチレン基が特に好ましい。
【0036】
また、前記有機シラン化合物(A-2)及び(A-3)は、アミド結合を2個以上(化合物(A-3)では2個)有する化合物である。このようなアミド結合の個数の上限としては特に制限はないが、6個以下が好ましく、4個以下がより好ましく、3個以下が更に好ましい。このようなアミド結合の個数が前記上限を超えると、レーザー脱離/イオン化質量分析において、基板に担持された測定対象分子が脱離し難くなる傾向にある。なお、適度な吸着性を発現でき、効率よくレーザー脱離/イオン化質量分析を行うことが可能となるといった観点からは、前記アミド結合の個数は2個であることがより好ましい。
【0037】
また、前記有機シラン化合物(A-3)としては、中でも、下記一般式(i):
【0038】
【化1】
【0039】
[式中、2つの環状の有機基Rは、それぞれ独立に、ナフタルイミド環、トリフェニルアミン環、ピレン環、ペリレン環、及び、アクリドン環からなる群から選択される1種の環状構造を有する芳香族基(特に好ましくはナフタルイミドに由来する基)を示し、複数のRはそれぞれ独立に、炭素数1~5(更に好ましくは2~3)のアルキレン基(特に好ましくはエチレン基)を示し、Zはトリアルコキシシリル基を含む有機基(環状の有機基Rに結合する基であって、トリアルコキシシリル基そのものであっても、あるいは、トリアルコキシシリル基と連結基(環状の有機基Rとトリアルコキシシリル基との間を連結する基)とを含む有機基であってもよい)を示し、nは環状の有機基Rに結合する有機基Zの数であって2~3(より好ましくは2)の整数を示す。]
で表される有機シラン化合物が特に好ましい(なお、かかる化合物中のトリアルコキシシリル基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基が好ましく、前記トリアルコキシシリル基を環状の有機基Rに連結する前記連結基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が好ましい)。なお、このような有機シラン化合物の製造方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。
【0040】
また、前記第一工程においては、前記自己組織化化合物を、水と混和することが可能な有機溶媒;及び前記有機溶媒と水との混合溶媒;のうちのいずれか一方の溶媒中に分散させる。このような溶媒として利用する、前記水と混和することが可能な有機溶媒としては、一般的に水と混和するものとして知られている水溶性溶媒であればよく、特に制限されず、例えば、アルコール類(エタノール、メタノール、プロパノール等)、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ピリジン、トリエチルアミン等を用いることができる。なお、このような自己組織化化合物を分散させる溶媒に前記有機溶媒を利用する場合、その有機溶媒としては1種を単独であるいは2種以上を混合して利用してもよい。
【0041】
また、前記自己組織化化合物を分散させる溶媒として、前記有機溶媒(水と混和することが可能な有機溶媒)と水との混合溶媒を利用する場合、かかる溶媒中の前記有機溶媒の含有量は、50質量%以上(より好ましくは60~95質量%、更に好ましくは65~90質量%)であることが好ましい。このような有機溶媒の含有量が前記下限以上である場合には、前記下限未満である場合と比較して加熱時の自己組織化化合物の溶解性の点でより高い効果を得ることが可能となり、他方、前記上限以下である場合には、前記上限を超えた場合と比較して室温付近での効率的なファイバー形成および自己組織化化合物の溶存割合の低減の点でより高い効果を得ることが可能となる。なお、このような混合溶媒中の前記有機溶媒としては1種を単独であるいは2種以上を混合して利用してもよい。
【0042】
なお、本発明においては、前記溶媒として前記有機溶媒そのもの又は前記有機溶媒を含む前記混合溶媒を利用するため、いずれの溶媒を利用する場合においても、少なくとも「水と混和することが可能な有機溶媒」が利用されることとなる。このような「水と混和することが可能な有機溶媒」を利用することで、本発明においては、第一工程において後述のような加熱・冷却工程を採用した場合により効率的にファイバー状分子集合体を生成することが可能となるとともに、第一工程で得られるゲル状組成物に有機溶媒が必ず含まれることとなり、続く第二工程において、その有機溶媒を含む前記ゲル状組成物を、例えば、多量の水中に浸漬する等といった簡便な工程を施した場合に、有機溶媒が水と混和することから(前記有機溶媒と水とが均一な混合液となることから)、水中の有機溶媒の濃度が均一となるように、ゲル状組成物中に含まれていた有機溶媒と水との置換が容易に進行し、所望の水置換ゲル状組成物を効率よく製造することが可能となる。
【0043】
また、前記第一工程においては、前記有機溶媒又は前記混合溶媒中に前記自己組織化化合物を分散させるが、後述の加熱・冷却工程を採用した場合に、より効率的なファイバー状分子集合体の生成が可能となるといった観点からは、前記混合溶媒中に前記自己組織化化合物を分散させることが好ましい。
【0044】
また、前記自己組織化化合物を前記溶媒(前記有機溶媒又は前記混合溶媒)中に分散させる際に、前記溶媒中に添加する自己組織化化合物の量は、前記溶媒と前記自己組織化化合物の総量に対して0.5~10質量%であることが好ましく、1~3質量%であることが好ましい。前記溶媒中に添加する前記自己組織化化合物の量(割合)が0.5質量%未満である場合には、前記有機溶媒と、前記自己組織化化合物により形成されるファイバー状の分子集合体との混合物がゲルとしての巨視的な形状を保てなくなる傾向にあり、ゲル状組成物を得ることが困難となる。また、前記溶媒中に添加する前記自己組織化化合物の量(割合)が10質量%を超えると、有機溶媒の比率が少なくなって、有機溶媒を水に置換した後に圧縮する際の圧縮率が低くなってしまうため、ファイバー状の分子集合体を配向させる際に配向性が低下する傾向にある。
【0045】
また、前記自己組織化化合物を前記溶媒(前記有機溶媒又は前記混合溶媒)中に分散させる際には、加熱により均一に溶解させた後に冷却することで、より均質なナノファイバーの形成をより効率よく行うことが可能となることから、前記溶媒中に前記自己組織化化合物を添加した後、70~100℃(より好ましくは75~85℃)に加熱して前記自己組織化化合物を前記溶媒中に溶解せしめた後に、室温(25℃)まで冷却する工程(加熱・冷却工程)を採用することが好ましい。
【0046】
このようにして、前記自己組織化化合物を、前記溶媒(前記有機溶媒又は前記混合溶媒)中に分散させることで、ゲル状組成物を得ることが可能となる。なお、このようなゲル状組成物は、前記自己組織化化合物により形成されるファイバー状の分子集合体(分子自己組織化によって生成するナノファイバー)と前記溶媒との混合物により形成されたものとなる。なお、ゲル状組成物を構成する溶媒中には必ず前記有機溶媒が含まれることから、ゲル状組成物は、ファイバー状の分子集合体とともに、少なくとも前記有機溶媒を含むものとなる。なお、ファイバー状の分子集合体は、組成物中において基本的にランダムに配向され、網目状のナノ構造物(ナノファイバー)となることから、得られる組成物においては、その網目状の空洞部分に前記溶媒が取り込まれたような状態となって、組成物がゲル状のものとなると考えられる。
【0047】
〈第二工程〉
前記第二工程は、前記ゲル状組成物中の前記有機溶媒を水に置換させて、水置換ゲル状組成物を得る工程である。
【0048】
前記ゲル状組成物中の前記有機溶媒を水に置換させる方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用でき、例えば、前記ゲル状組成物を水中に浸漬することで、前記有機溶媒を水に置換する方法を好適に採用することができる。前記ゲル状組成物中の前記有機溶媒を水に置換させる方法として、前記ゲル状組成物を水中に浸漬する方法を採用する場合、十分に置換を進行せしめるといった観点から、前記ゲル状組成物を水中に浸漬して1~3日間静置することが好ましい。このようにして、有機溶媒を水に置換させることにより、水置換ゲル状組成物を得ることができる。
【0049】
なお、このようにして得られた水置換ゲル状組成物中においては、非水溶性の前記自己組織化化合物の分子間の疎水性相互作用をより強く発現させることが可能となるため、組成物中のファイバー状の分子集合体の力学的性質が補強され、後述の第三工程で採用するような機械的な加工を行うことが可能となるものと本発明者らは推察する。
【0050】
〈第三工程〉
前記第三工程は、長手方向を開放しつつ長手方向に略直交する複数方向から圧縮することにより前記水置換ゲル状組成物を圧搾し、自己組織化ファイバーバンドルを得る工程である。
【0051】
ここで、前記水置換ゲル状組成物を圧縮する際の「長手方向」としては、例えば、ゲル状組成物の形状自体が縦、横、高さの長さが違う形状である場合(例えば、略直方体である場合等)には、そのうちの長い方の方向を採用すればよく、他方、ゲル状組成物が略立方体であって縦、横、高さの長さが同等程度である場合には一つの面に垂直な一方向を長手方向として採用してもよい。
【0052】
また、第三工程においては、前記水置換ゲル状組成物を、その長手方向を開放しつつ長手方向に略直交する複数方向から圧縮する。このような圧縮工程を、図1を参照しながら説明する。図1は、z軸方向が長手方向となっている圧縮前の略直方体状の水置換ゲル状組成物10と、圧縮後に得られる自己組織化ファイバーバンドル11の好適な実施形態を模式的に示す概略図である。なお、図1に示す組成物10及び自己組織化ファイバーバンドル11中のFは、前記自己組織化化合物のファイバー状の分子集合体(以下、場合により単に「ファイバーF」と称する)を模式的に表現したものである。
【0053】
水置換ゲル状組成物10中においては、図1に示す実施形態のように、ファイバーFは配向性を持たず、それぞれのファイバーFがランダムな方向を向いて、網目状の形状を形成している。このような水置換ゲル状組成物10は、自己組織化化合物のナノファイバー(ファイバーF)のランダム分散体のような構造物(溶媒としての水を含んだゲル)となっている。なお、このような水置換ゲル状組成物10は、溶媒が水であることに起因して、ゲル構造を崩壊することなく機械的な加工が可能な状態のものとなっている。そして、図1に示す実施形態においては、水置換ゲル状組成物11を長手方向(z軸方向)に直交する2つの方向(x方向及びy方向)から圧縮することにより圧搾して、組成物中のファイバーFを長手方向に配向させている。
【0054】
このように、図1に示す実施形態では、長手方向(z軸方向)を開放しつつ長手方向に略直交する複数方向(x方向及びy方向の2方向)から圧縮して、水置換ゲル状組成物10を圧搾している。ここで、長手方向に略直交する方向としては、例えば、z軸を中心にxy平面上に円を描いた場合の半径方向と同じ方向か又はほぼ同じ方向を採用でき、この場合、半径方向と同じ方向及び半径方向とほぼ同じ方向の中から選択される2方向以上の方向から圧縮することで、長手方向に略直交する複数方向から圧縮することが可能となる(なお、図1に示す実施形態ではx方向及びy方向はいずれも、z軸を中心にxy平面上に円を描いた場合の半径方向となる)。なお、ここにいう「長手方向に略直交する方向」は、長手方向に対して、概ね垂直に交わる方向(好ましくは90°±20°の範囲の角度で交わる方向、より好ましくは90°±15°の範囲の角度で交わる方向)であればよい。また、図1に示す実施形態においては、長手方向を開放しながら(長手方向からは圧力をかけず)、その長手方向に直交するx方向及びy方向の2方向から圧縮しているため、圧縮中の組成物10中のファイバーFには、長手方向に配向するように力が加わることとなり、これによりファイバーFを十分に均一に配向させることが可能となる。このように、本発明においては、長手方向を開放しながら、長手方向に略直交する複数方向から組成物10を圧縮して、組成物10を圧搾しているため、ファイバーFが長手方向に十分に均一に配向した状態となり、ファイバーFを束ねたような形態の自己組織化ファイバーバンドル11を得ることが可能となる。
【0055】
以上、説明したような図1に示す好適な実施形態のように、前記水置換ゲル状組成物を、その長手方向を開放しつつ長手方向に略直交する複数方向から圧縮することで、その組成物中のファイバー状の分子集合体を十分に均一に配向させながら、その組成物を圧搾することが可能となり、これにより、前記自己組織化化合物のファイバー状の分子集合体を長手方向に配向した状態で束ねて集積させた形態の自己組織化ファイバーバンドルを得ることが可能となる。なお、このような圧縮の際の圧縮率等の条件は特に制限されず、前記自己組織化化合物の種類や水置換ゲル状組成物中の前記自己組織化化合物の含有割合(濃度)、目的の設計などに応じて適宜設定することができる。例えば、前記自己組織化化合物が前記有機シラン化合物(A-1)~(A-3)である場合において、水置換前のゲル状組成物が前記自己組織化化合物の含有割合が2質量%程度のゲル状組成物である場合(前記ファイバーFの濃度が2質量%程度である場合)において、そのゲル状組成物を水置換して得られる水置換ゲル状組成物の形態が略直方体である場合には、長手方向に略直交する方向であってかつ互いに直行する2方向(図1に示す実施形態ではx方向及びy方向)に、その方向の長さがそれぞれ1/5~1/7(特に望ましくは1/7)倍の長さになるまで圧縮することが好ましい。
【0056】
また、このような圧縮工程により得られる自己組織化ファイバーバンドルには、後述の第四工程を施す前に、乾燥工程を施して自己組織化ファイバーバンドルの内部の溶媒(水)を除去することが好ましい。このような乾燥工程としては、特に制限されないが、例えば、90~120℃(より好ましくは95~120℃)の温度条件で1~12時間(より好ましく3~6時間)加熱することにより自己組織化ファイバーバンドル中の水を除去する工程を採用することができる。
【0057】
〈第四工程〉
前記第四工程は、前記自己組織化ファイバーバンドル中の前記自己組織化化合物を重合せしめることにより、長手方向に配向した重合体ナノファイバーからなる集積体を得る工程である。
【0058】
このような自己組織化化合物を重合させる際の重合方法としては、特に制限されず、かかる化合物中の重合性官能基の種類等に応じて、加水分解重縮合、光重合、熱重合、重付加等の公知の重合方法を適宜採用することができる。
【0059】
また、このような重合方法としては、前記自己組織化ファイバーバンドルに対して前述のように乾燥工程を施している場合には、乾燥後の自己組織化ファイバーバンドルを、加熱条件下、酸性蒸気(酸性触媒を含む蒸気)あるいは塩基性蒸気(塩基性触媒を含む蒸気)に暴露して、前記自己組織化化合物を重合させる方法(以下、かかる方法を、便宜上、場合により単に「重合方法(i)」と称する)を採用することが好ましい。このような酸性蒸気としては、例えば、塩酸蒸気、硝酸蒸気、硫酸蒸気等が挙げられる。また、塩基性触媒としては、例えば、アンモニア水の蒸気、アルキルアミン類の水溶液の蒸気等が挙げられる。また、前記重合方法(i)を採用する場合の加熱条件としては、自己組織化化合物中の重合性官能基の種類等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されるものではないが、80~120℃程度の加熱温度で1~48時間程度の時間加熱せしめることが好ましい。このような加熱条件下における蒸気の暴露により、自己組織化ファイバーバンドルの表面及び内部における反応促進が可能となり、重合をより効率よく進行せしめることが可能となる。また、前記重合方法(i)を採用する場合において、前記自己組織化化合物中の重合性官能基の種類がトリアルコキシシリル基である場合、重合させた後に得られた集積体を乾燥することで残留物が残らないことから、暴露する蒸気としては、塩酸の蒸気又はアンモニア水の蒸気を用いることが好ましい。
【0060】
前記自己組織化ファイバーバンドル中の前記自己組織化化合物を重合せしめることにより、前記自己組織化ファイバーバンドル中の配向物であるファイバー状の集合体(ナノファイバー)を、配向状態を維持しながら重合して固定化することが可能となり、長手方向に配向した重合体のナノファイバーからなる集積体を得ることが可能となる。すなわち、このような方法によれば、非水溶性の自己組織化化合物の重合体からなるナノファイバー(重合体ナノファイバー)が長手方向に配向して集積されてなる重合体ナノファイバー集積体を得ることが可能となる。
【0061】
このような集積体を構成する重合体ナノファイバーとしては、平均直径が10~1000nm(より好ましくは20~800nm)の範囲にあるものが好ましい。このようなナノファイバーの直径が前記下限値未満の場合には、ナノファイバーの構造が不安定化してしまい、ナノファイバー1本を独立したファイバー状構造体として取り扱うことが困難に
なる。他方、前記ナノファイバーの直径が前記上限を超えると、集積体がナノサイズよりも大きなものとなり、集積体として多孔構造化しても、光学的・電子的あるいは物理的な効果を得ることが困難となる。なお、このような平均直径は、走査型電子顕微鏡による観察(SEM観察)により無作為に選択した50個以上の重合体ナノファイバーについて直径を求めて平均化することにより測定できる。
【0062】
また、このような集積体を構成する重合体ナノファイバーとしては、平均長さが1~500μm(より好ましくは10~100μm)の範囲にあるものが好ましい。このようなナノファイバーの長さが前記下限値未満の場合には、圧縮処理に対して配向性が低下したファイバーバンドルとなる傾向にあり、他方、前記上限値を超えると、圧縮処理過程でファイバーの折れや切断が発生し、微細化した分子集合体を含むファイバーバンドルとなる傾向にある。なお、このような平均長さは、SEM観察により無作為に選択した50個以上の重合体ナノファイバーについて長さを求めて平均化することにより測定できる。
【0063】
また、このような集積体を構成する重合体ナノファイバーとしては、平均直径に対する平均長さの比([平均長さ]/[平均直径])が10~1000(より好ましくは20~500)のものが好ましい。このような比が前記下限値未満の場合には、圧縮処理に対して配向性が低下したファイバーバンドルとなる傾向にあり、他方、前記上限値を超えると、圧縮処理過程でファイバーの折れや切断が発生し、微細化した分子集合体を含むファイバーバンドルとなる傾向にある。
【0064】
また、前記重合体ナノファイバーからなる集積体を得た後には、前記集積体の構造(配向状態等)を維持するために、前記集積体の周囲を樹脂で覆って(樹脂で固めて)補強してもよい。このような集積体の補強のために利用可能な樹脂としては、特に制限されず、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等を利用することができる。このようにして樹脂で集積体の周囲を補強することで、前記集積体の加工性が向上し、例えば、前記集積体を切断して薄膜を製造する場合等に、ナノファイバーの配向状態をより十分に維持して、多孔質薄膜をより容易に製造することが可能となる。
【0065】
[重合体ナノファイバー集積体]
本発明の重合体ナノファイバー集積体は、重合性官能基を有しておりかつ自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能である非水溶性の自己組織化化合物の重合体からなるナノファイバーが長手方向に配向して集積されていることを特徴とするものである。このような「重合性官能基を有しておりかつ自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能である非水溶性の自己組織化化合物」は、前記本発明の重合体ナノファイバー集積体の製造方法において説明したものと同様のものである。また、このような自己組織化化合物の重合体からなる「ナノファイバー」は、前記本発明の重合体ナノファイバー集積体の製造方法において説明した「重合体ナノファイバー」と同様のものである(その好適な条件(例えば平均直径等)も同様である)。そのため、本発明の重合体ナノファイバー集積体中の「ナノファイバー」は、自己組織化によりファイバー状に集合した自己組織化化合物の集合体の重合物からなるものである。このような重合体ナノファイバー集積体は、前記本発明の重合体ナノファイバー集積体の製造方法により効率よく製造することが可能なものである。
【0066】
[一軸配向重合体ナノファイバー集積基板]
本発明の一軸配向重合体ナノファイバー集積基板は、重合性官能基を有しておりかつ自己組織化によりファイバー状の分子集合体を形成することが可能である非水溶性の自己組織化化合物の重合体からなるナノファイバーが長手方向に配向して集積されている重合体ナノファイバー集積体の切断物からなる薄膜を備えかつ前記切断物の切断方向が前記重合体ナノファイバー集積体の長手方向に対して略垂直な方向であることを特徴とするものである。このような「自己組織化化合物」、「ナノファイバー」及び「重合体ナノファイバー集積体」は、前記本発明の重合体ナノファイバー集積体において説明したものと同様のものである。
【0067】
このような本発明の一軸配向重合体ナノファイバー集積基板は、言い換えれば、前記重合体ナノファイバー集積体を、その集積体の長手方向に対して略垂直な方向から切断した切断物からなる薄膜を備えるものであるといえる。ここで、図2を参照しながら、切断物からなる薄膜の好適な実施形態について簡単に説明する。
【0068】
図2は、重合体からなるナノファイバーFpが長手方向に配向して集積されている集積体の周囲を樹脂Rで固定化(補強)した形態の重合体ナノファイバー集積体12と、その集積体12を点線L及び点線Lで示す箇所で切断(なお、点線L及び点線Lの方向は、集積体12の長手方向に対して垂直な方向である)して得られる切断物よりなる薄膜13の好適な実施形態を模式的に示す概略図である。
【0069】
図2に示すように、重合体ナノファイバー集積体12を、その長手方向に対して略垂直な方向から切断することにより薄膜を形成することで、その切断物を切断面(薄膜の表面)の上方から見ると、前記重合体ナノファイバー集積体の配向状態に由来して、微細な重合体ナノファイバーFpの切断物(ナノサイズの柱状物)が、切断面に対して略垂直に配向した状態の薄膜を容易に形成できる。このように、複数の重合体ナノファイバーFpの切断物(ナノサイズの柱状物)は、薄膜の表面に対して略垂直に配向した状態となっているため、かかる薄膜は、略垂直に配向したナノファイバーよりなる多孔質な表面(ピラーアレイ構造を有する表面)が形成されたものとして利用可能である。そして、重合体ナノファイバー集積体12を、複数個所で切断して薄膜13を複数製造した場合には、薄膜13を高速で連続的に、しかも、低コストで製造することが可能となる。そのため、本発明によれば、薄膜の表面に対して略垂直な方向に重合体ナノファイバー(切断物)が配向した一軸配向重合体ナノファイバー集積基板を効率よく製造することが可能となる。なお、「長手方向に略垂直」とは、長手方向に対して概ね垂直(好ましくは90°±20°、より好ましくは90°±15°)であることをいう。
【0070】
なお、図2に示す実施形態においては、樹脂Rで周囲を固定化(補強)した形態の重合体ナノファイバー集積体12を切断して薄膜を形成しているが、このような樹脂Rは、前述の「集積体の補強のために利用可能な樹脂」において説明したものと同様のものである。なお、図2に示す実施形態においては、重合体ナノファイバー集積体12として樹脂Rで周囲を固定化(補強)した形態のものを利用しているが、切断時に重合体ナノファイバー集積体の集積した形状を切断後も保持できる場合には、樹脂Rで周囲を補強していない形態の重合体ナノファイバー集積体をそのまま利用して切断してもよく、これにより、重合体ナノファイバー集積体の切断物からなる薄膜(樹脂Rを備えていない形態のもの)を製造してもよい。このように、薄膜の形態は特に制限されず、樹脂Rにより周囲が固定化(補強)された形態のものであっても、樹脂Rにより補強していない形態の重合体ナノファイバー集積体の切断物からなる形態のものであってもよい。
【0071】
また、前記重合体ナノファイバー集積体の切断物からなりかつ表面に対して略垂直な方向に重合体ナノファイバー(切断物)が配向した形態の薄膜において、略垂直な方向に配向した各重合体ナノファイバー間の平均距離(重合体ナノファイバー間の平均間隔)は、重合体ナノファイバーの平均直径の1.0倍から2.0倍(より好ましくは1.1倍から1.8倍)であることが好ましい。前記平均距離が前記下限よりも短くなると、重合体ナノファイバー同士の側方への融合が進行して多孔質構造(ピラーアレイ構造、ナノ凹凸構造)を形成することが困難になる傾向にある。他方、前記平均距離が前記上限よりも長くなると、重合体ナノファイバー同士の接触による物理架橋が形成されないため、切断(スライス)した後の構造物(薄膜)中のファイバーの配向構造が不安定になってしまう傾向にある。なお、このような重合体ナノファイバー間の平均間隔は、薄膜表面をSEM観察して、無作為に選択した50個以上の重合体ナノファイバーについて、最も近接する重合体ナノファイバーとの間の距離を測定し、その距離を平均化することにより測定できる。
【0072】
また、前記重合体ナノファイバー集積体の切断物からなる薄膜の厚みは、0.2~300μm(より好ましくは0.3~50μm)であることが好ましい。前記薄膜の厚みが前記下限未満では、切断時(切削時)に均質な断面が得られ難くなる傾向にある。前記前記薄膜の厚みが前記上限を超えると、薄膜内部への光の侵入や物質の拡散が困難となる傾向になり、光機能材料等としての応用性が低下してしまう傾向にある。
【0073】
さらに、本発明の一軸配向重合体ナノファイバー集積基板は、前記薄膜を備えるものであればよく、その形態は特に制限されず、例えば、前記重合体ナノファイバー集積体の切断物からなる薄膜そのものであってもよく(自立した前記薄膜よりなるものであってもよく)、あるいは、前記薄膜を固体基板(支持体)に固定化してなるものであってもよい。このような本発明の一軸配向重合体ナノファイバー集積基板としては、構造安定性の観点からは、切断面を支持体に固定化した形態のものとすることが好ましい。このような支持体としては特に制限されず、一軸配向重合体ナノファイバー集積基板の用途に応じて、シリコン基材(Si基材)、ITO基材、FTO基材、石英基材、ガラス基材、各種金属基材、各種薄膜基材等の公知の支持体を適宜利用できる。なお、一軸配向重合体ナノファイバー集積基板の用途がレーザー脱離/イオン化質量分析用の基板である場合には、このような支持体としては、シリコン基板、ステンレス鋼、ITO基材、ZnO基材、SnO基材、FTO基等の導電性基材を利用することが好ましい。また、このような支持体の形状としては特に制限はないが、平板状であることが好ましい。なお、支持体に前記薄膜を積層する方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用でき、例えば、前記薄膜の切片をカーボンシール(両面)の一方の面に張り付けて、もう一方の面を支持体側に張り付けることで、支持体上に前記薄膜を張り付けることで積層してもよい。また、前記薄膜の切断面の一方をカーボンシールに張り付けて切片を保護した形態のものを、一軸配向重合体ナノファイバー集積基板としてそのまま利用してもよい。このように、本発明の一軸配向重合体ナノファイバー集積基板は、前記薄膜を備えるものであればよく、その形態は特に制限されない。
【0074】
このような一軸配向重合体ナノファイバー集積基板を製造するための方法は特に制限されず、例えば、前記本発明の重合体ナノファイバー集積体の製造方法を利用して前記重合体ナノファイバー集積体を準備した後、かかる集積体に対して、長手方向に対して略垂直な方向から切断する工程を施すことにより、容易に製造することが可能である(図2参照)。ここにおいて、重合体ナノファイバー集積体を切断する方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用でき、例えば、バルク状の材料を薄膜状に切断することが可能な公知の切断機器(例えば、ロータリーミクロトーム等)を利用して、重合体ナノファイバー集積体を所望の厚みに切断する方法を採用してもよい。また、このようにして切断して薄膜を形成した後に、必要に応じて、支持体に固定化する工程を施してもよい。なお、このような固定化の方法は特に制限されないが、例えば、粘着性基板の表面に貼付する方法を採用してもよい。
【0075】
このように、本発明の一軸配向重合体ナノファイバー集積基板は、前記重合体ナノファイバー集積体を切断することにより容易に製造することが可能である。このように、ナノファイバーが均一に配向した薄膜を備える基板を、前記重合体ナノファイバー集積体の切断といった簡便な方法で製造でき、本発明の一軸配向重合体ナノファイバー集積基板は低コストで、高速かつ連続的に安定して生産することが可能である。そのため、基板の表面構造やファイバーの重合体の種類等に応じて、様々な用途に応用可能な基板を、非常に効率よく製造することも可能である。このような点について更に説明すると、従来は、垂直に配向したナノ凹凸構造を有する一軸配向基板を製造するためには、一般的に、基板一枚一枚に特殊な条件での粒子成長、薄膜形成、あるいは、表面加工処理(例えば特許文献1参照)を施す必要があった。また、ファイバー状分子集合体は機械的に脆く成型加工ができないものであったため、これまで圧縮などの簡便な加工法により、ナノファイバーを一方向に配向させることはできなかった。これに対して、本発明によれば、分子自己組織化によって形成されるファイバー状分子集合体を一方向に配向するように加工することが可能となり、これをバンドル化して重縮合(固定化)することにより、前記重合体ナノファイバー集積体を容易に製造できる。そして、そのような重合体ナノファイバー集積体を単に切断するといった方法により、一軸配向基板(一軸配向重合体ナノファイバー集積基板)を簡便に製造できることから、本発明によれば、効率よく連続的に一軸配向基板を製造することが可能となる。また、ファイバー状分子集合体の原料となる自己組織化化合物に所望の機能性を発現させることが可能となるような有機基(機能性部位)を導入しておけば、形成されるファイバー骨格構造自体に所望の機能(光吸収機能等)を発現させることも可能である。このように、本発明によれば、所望の特性を有する一軸配向重合体ナノファイバー集積基板を低コストで連続的に製造でき、例えば、自己組織化化合物にレーザー光の吸収機能等を有する有機基等を導入してナノファイバーを形成することで、レーザー脱離/イオン化質量分析基板に好適に利用可能な基板を低コストで連続的に安定して製造することも可能である。そのため、本発明の一軸配向重合体ナノファイバー集積基板やその基板を製造するための方法は、例えば、ディスポーザブル基板として利用されることが想定されているレーザー脱離/イオン化質量分析基板及びその製造方法等に、特に好適に応用可能である。
【0076】
[レーザー脱離/イオン化質量分析基板]
本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析基板は、前記本発明の一軸配向重合体ナノファイバー集積基板又はその疎水化処理物を備えることを特徴とするものである。
【0077】
なお、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析基板は、公知のレーザー脱離/イオン化質量分析の方法(例えば、いわゆるマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI法)や、マトリックスを利用しない形式のレーザー脱離/イオン化質量分析法等)に利用可能であり、その基板を構成する重合体ナノファイバーの種類等に応じて好適な分析法を適宜採用し得る。なお、このような本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析基板を用いて、例えば、基板表面に測定対象分子を担持させて(例えば、測定対象分子を含む試料溶液(分析法の種類に応じてマトリックス(通常、レーザー光を吸収する低分子量の有機物が利用される)と測定対象分子の溶液としてもよい)を滴下すること等により担持させてもよい)、基板の表面に測定対象分子が担持された測定用試料(測定対象分子とマトリクスの混合物の形態で担持されていてもよい)を形成せしめた後、その測定用試料にレーザー光を照射することにより質量分析を行うことができる。
【0078】
ここで、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析基板は、前述の本発明の一軸配向重合体ナノファイバー集積基板と同様のもの、又は、その疎水化処理物が利用される。なお、前記本発明の一軸配向重合体ナノファイバー集積基板は、前述のように、基板の表面に、その面に対して略垂直な方向に重合体ナノファイバー(切断物)が配向した多孔質構造(ピラーアレイ構造(ナノ凹凸構造))が形成された薄膜を備えるものとなる。そのため、かかる一軸配向重合体ナノファイバー集積基板又はその疎水化処理物は、レーザー脱離/イオン化質量分析に利用した場合に、その基板の前記薄膜部分の表面(多孔質構造を有する部位)に測定対象分子の溶液を滴下することで、前記薄膜表面の多孔質構造に由来して、基板に測定対象分子を容易に担持することが可能である。
【0079】
本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析基板に用いる前記本発明の一軸配向重合体ナノファイバー集積基板(又はその疎水化処理物)としては、基板の薄膜中において、長手方向に配向して集積されている「自己組織化化合物の重合体からなるナノファイバー」が前記自己組織化化合物として、前記有機シラン化合物(A-1)(より好ましくは有機シラン化合物(A-2)、更に好ましくは有機シラン化合物(A-3))を利用して形成されたものであること、すなわち、前記有機シラン化合物(A-1)(より好ましくは有機シラン化合物(A-2)、更に好ましくは有機シラン化合物(A-3))の重合体からなるファイバー状の有機シリカからなるものであることが好ましい。「自己組織化化合物の重合体からなるナノファイバー」が前記ファイバー状の有機シリカよりなる場合、ナノファイバーが長手方向に配向して集積されてなる薄膜が、かかるファイバー状の有機シリカを構成単位(重合体ナノファイバー)とする重合体ナノファイバー集積体の切断物である有機シリカ薄膜(以下、場合により単に「有機シリカ薄膜」と称する)よりなるものとなる。このような有機シラン化合物(A-1)の重合体からなるファイバー状の有機シリカは、前記有機シラン化合物(A-1)の構造に由来して、波長200~600nmの範囲内に極大吸収波長を有する有機基(以下、場合により、「レーザー光吸収性有機基」ともいう)と、水素結合が可能な部位(より好ましくはアミド結合)とを骨格内に含有するものとなる。そのため、前記一軸配向重合体ナノファイバー集積基板が備える薄膜が前記有機シリカ薄膜である場合に、その基板をレーザー脱離/イオン化質量分析基板として利用すると、例えば、その基板に測定対象分子(生体関連分子等の高親水性化合物等)を含有する試料溶液を基板の薄膜部分に滴下して測定用試料を作製する際に、生体関連分子のような測定対象分子は、水素結合部位(好ましくはアミド結合の部位)に容易に吸着されて担持されることとなる。ここで、有機シラン化合物(A-1)の構造に由来して、ファイバー状の有機シリカ内においては、水素結合部位(測定対象分子の吸着サイトとして機能する部位)が均一に分散された構造となるため、測定対象分子は薄膜中に均一かつ高分散に分散された状態で担持されることとなる。また、薄膜中において、レーザー光吸収性有機基も有機シラン化合物(A-1)の構造に由来して、水素結合部位と同様に均一に分散された構造となるため、測定用試料にレーザー光を照射した際には、その有機基の部分で効率よくレーザー光を吸収させることが可能となり、マトリックスを利用していなくても、レーザー光のエネルギーを効率よく利用できる。このように、前記薄膜が前記有機シリカ薄膜である場合、測定対象分子を十分に高分散に分散させた状態で均一に担持することが可能であり、かつ、薄膜自体にレーザー光を吸収させてレーザー光のエネルギーを効率よく利用することが可能であるため、測定対象分子の濃度が低濃度の測定試料を利用した場合においても、マトリックスを利用することなく、効率よく測定対象分子のレーザー脱離/イオン化質量分析を行うことが可能である。
【0080】
一方、前述の非特許文献2に記載されているような従来技術に着目すると、かかる技術では、分子量1300程度のアンジオテンシンIを低濃度で検出するにはマトリックスの添加が必要(一般的なMALDI法と同じ)であった。このように、前記非特許文献2に記載されているような従来の基板を用いた場合には、マトリックスを利用することなく、低濃度の測定対象分子を利用して高感度の分析を行うことは困難であった。なお、マトリックスを利用した場合には、低分子量域にマトリックス由来のシグナルが妨害ピークとして観測されることもある。これに対して、前述のように、前記一軸配向重合体ナノファイバー集積基板が備える薄膜が前記有機シリカ薄膜である場合には、測定対象分子の濃度が低濃度の測定試料を利用した場合においても、マトリックスを利用することなく、測定対象分子のレーザー脱離/イオン化質量分析を行うことが可能であるため、低分子量域の質量分析に対しても、より精度の高い分析を行うことが可能である。このような観点から、レーザー脱離/イオン化質量分析基板に利用する前記一軸配向重合体ナノファイバー集積基板が備える薄膜は、前記有機シリカ薄膜(重合体ナノファイバーとして有機シラン化合物(A-1)の重合体からなるファイバー状の有機シリカを備える薄膜)であることが好ましい。
【0081】
なお、一般に、薄膜基板において優れた光機能あるいは電子機能を発現させるには、その素材に加えて、表面のナノ構造の形成が重要となる。特に、レーザー脱離/イオン化質量分析に用いる基板の分野においては、高感度の分析を行うことが可能になるものと考えられることから、(i)光を効率的に吸収させることが可能であること、(ii)吸収したエネルギーを基板表面に吸着した分析対象分子に効率的に伝えることが可能であること、(iii)エネルギーを受け取った分子を、速やかに気化・イオン化して基板外に放出させることが可能であること、といった条件が揃っていることが好ましい。このような観点から、基板の表面に対して重合体ナノファイバーが垂直配向したピラーアレイ構造(ナノ凹凸構造)を有する前記一軸配向重合体ナノファイバー集積基板を前記有機シリカ薄膜を備えるものとした場合には、より高感度の質量分析が可能となるものと考えられる。更に、ナノスケールの表面凹凸構造を有する基板を使用後に洗浄して再利用することはあまり現実的でないことから、そのような構造を有するレーザー脱離/イオン化質量分析用の基板は、通常、ディスポーザブル基板として想定されるが、前述のように、前記一軸配向重合体ナノファイバー集積基板は、重合体ナノファイバーが均質に配向したナノ多孔質構造を有する基板でありながら、高速かつ連続的に低コストで生産することが可能である。そのため、本発明のように、前記一軸配向重合体ナノファイバー集積基板又はその疎水化処理物をレーザー脱離/イオン化質量分析用の基板とすることで、基板の量産化、基板作成の高速化、低コスト化等を図ることが可能となるといった点で利点がある。
【0082】
また、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析基板に利用可能な前記疎水化処理物は、本発明の一軸配向重合体ナノファイバー集積基板に対して疎水化処理を施して得られるものである。このような疎水化処理の方法としては特に制限されず、一軸配向重合体ナノファイバー集積基板が備える薄膜に疎水基を導入することが可能な公知の方法を適宜採用できる。
【0083】
なお、このような疎水基としては特に制限されず、疎水性を付与できる基であれば特に制限はなく、例えば、アルキル基、アルキニル基、アルケニル基、フッ素原子含有基、フッ素原子以外のハロゲン原子含有基、アルコキシ基、芳香環等が挙げられ、中でも、測定対象分子を薄膜の表面に高密度に担持することを可能としながら測定対象分子の脱離を促進することが可能となるといった観点から、アルキル基、フルオロアルキル基、フェニル基が好ましく、アルキル基、フルオロアルキル基が特に好ましい。
【0084】
このような疎水基として特に好適なアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、前記疎水基として特に好適なフルオロアルキル基としては、トリフルオロメチル基(CF-)、ペンタフルオロエチル基(CF-CF-)、ヘプタフルオロプロピル基(CF-CF-CF-)等の水素原子の全部がフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキル基;2,2,2-トリフルオロエチル基(CF-CH-)、3,3,3-トリフルオロプロピル基(CF-CH-CH-)、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル基(CF-CF-CH-)、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル基(CF-CF-CH-CH-)、3,3,4-トリフルオロブチル基(F-CH-CF-CH-CH-)、1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル基(CF-CF-CF-CF-CH-CH-)等の水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換されたフルオロアルキル基;等が挙げられる。
【0085】
また、このような疎水化処理の方法としては、一軸配向重合体ナノファイバー集積基板が備える薄膜が前記有機シリカ薄膜である場合には、前記有機シリカ薄膜に対して、疎水基を含有する有機シラン化合物を接触させることによって、疎水基を導入する方法(以下、かかる方法を場合により単に「方法(a)」と称する)を採用できる。以下、かかる方法(a)を簡単に説明する。
【0086】
このような方法(a)には、疎水基を含有する有機シラン化合物(B-1)を利用する。このような有機シラン化合物が有する疎水基は、前述の疎水基と同様のものを好適に利用できる。前記有機シリカ薄膜に、前記疎水基を含有する有機シラン化合物(B-1)を接触させると、前記有機シリカ薄膜を構成するシロキサン結合のケイ素原子と前記疎水基を含有する有機シラン化合物のシリル基とが反応して、前記疎水基を更に含有する有機シリカ薄膜が得られる。前記有機シリカ薄膜に、前記疎水基を含有する有機シラン化合物(B-1)を接触させる方法としては特に制限はなく、例えば、前記有機シリカ薄膜に前記有機シラン化合物(B-1)を含有する溶液を塗布する方法、前記有機シリカ膜を前記有機シラン化合物(B-1)を含有する溶液に浸漬する方法、前記有機シリカ膜に前記有機シラン化合物(B-1)の蒸気を曝露させる方法等、従来公知の方法が挙げられる。このような疎水基を含有する有機シラン化合物(B-1)としては、例えば、アルキルシラン化合物、アルキニルシラン化合物、アルケニルシラン化合物、フッ素原子含有シラン化合物、フッ素原子以外のハロゲン原子含有シラン化合物、アルコキシシラン化合物、芳香環含有シラン化合物等が挙げられる。
【0087】
なお、このような方法(a)により得られる有機シリカ薄膜は、その有機シリカ薄膜の骨格内にレーザー光吸収性有機基と、水素結合部位(好ましくはアミド結合の部位)とを有し、かつ、骨格中のシロキサン結合のケイ素原子に疎水基が更に結合した形態の有機シリカ薄膜となる。ここで、水素結合部位やレーザー光吸収性有機基は自己組織化化合物中の構造に由来して薄膜の骨格内に導入される部位であり、かつ、薄膜の骨格が自己組織化化合物化合物の重合により形成されるため、有機シリカ薄膜には、レーザー光吸収性有機基と水素結合部位が十分に均一に分散して配置されることとなる。そして、このような有機シリカ薄膜に、方法(a)により疎水基が導入されると、有機シリカ膜の表面には、アミド基と疎水基とが均一かつバランスよく配置された状態となる。また、このような疎水基が導入された有機シリカ薄膜の表面に、生体関連分子等の高親水性化合物からなる測定対象分子を含有する試料溶液を滴下して測定用試料を作製した場合には、疎水基の作用により試料溶液が濃縮されつつ、高親水性化合物を水素結合部位(アミド結合を有する部位等)に吸着させて担持することが可能となるため、高親水性化合物(測定対象分子)は有機シリカ薄膜の表面に均一かつ高分散に担持されることとなる。そして、そのようにして高親水性化合物(測定対象分子)が高分散に担持された有機シリカ薄膜よりなる測定用試料を用いて、レーザー脱離/イオン化質量分析を行うと、有機シリカ薄膜中のレーザー光吸収性有機基(水素結合部位の近傍において水素結合部位とともに分散して配置されていることは明らかである)がレーザー光を吸収して、吸収したエネルギーを薄膜表面の水素結合部位に吸着担持された高親水性化合物(測定対象分子)に効率よく伝達させることが可能であるとともに、疎水基が有機シリカ薄膜の表面と高親水性化合物との相互作用を低減することによって、高親水性化合物の脱離が促進されるため、高親水性化合物の脱離、イオン化をより効率よく進行させることができ、しかも、有機シリカ薄膜の表面全体から、高親水性化合物に相当するシグナルを検出することができるため、高親水性化合物をより高感度でより均一に検出することが可能となるものと考えられる。
【0088】
このように、疎水基による高親水性化合物の脱離促進作用が受けられ、より高感度の質量分析を行うことが可能となるといった観点からは、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析基板としては、一軸配向重合体ナノファイバー集積基板の疎水化処理物を利用することが好ましく、中でも、薄膜として前記有機シリカ薄膜を備える一軸配向重合体ナノファイバー集積基板の疎水化処理物を利用することが特に好ましい。
【0089】
ここで、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析基板を用いた、レーザー脱離/イオン化質量分析方法の好適な方法について説明する。このようなレーザー脱離/イオン化質量分析方法は、前記本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析基板に測定対象分子を担持せしめて測定用試料を作製し、前記測定用試料にレーザー光を照射することにより、前記測定対象分子を前記有機シリカ基板から脱離させ、イオン化して質量分析する方法である。
【0090】
このようなレーザー脱離/イオン化質量分析方法においては、先ず、前記本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析基板に、レーザー脱離/イオン化質量分析において測定対象となる試料(測定対象分子を含む試料)を担持させる。次に、前記測定対象分子を含む試料を担持した基板(測定用試料)に、レーザー光を照射する。これにより、前記測定対象分子を基板から脱離させ、イオン化して質量分析することが可能となる。
【0091】
また、このようなレーザー脱離/イオン化質量分析方法を適用することが可能な前記測定対象分子を含む試料としては特に制限はないが、より高感度な分析が可能となるといった観点から、アミノ酸、タンパク質、糖、リン脂質、ホルモン、核酸、及びそれらの代謝産物等の生体関連分子が適している。
【0092】
また、このようなレーザー脱離/イオン化質量分析方法に用いられるレーザー光としては特に制限はなく、例えば、窒素レーザー(波長:337nm)、YAGレーザー3倍波(波長:355nm)、NdYAGレーザー(波長:256nm)、炭酸ガスレーザー(波長:9400nm及び10600nm)等が挙げられる。レーザー光の照射条件(照射強度、照射時間等)としては特に制限はなく、測定対象分子に応じて、公知の質量分析条件の中から最適となる条件を適宜選択して設定すればよい。
【0093】
さらに、前記レーザー脱離/イオン化質量分析方法における質量分析のためのイオンの分離検出方法としては特に制限はなく、二重収束法、四重極収束法(四重極(Q)フィルター法)、タンデム型四重極(QQ)法、イオントラップ法、飛行時間(TOF)法等を採用することができる。
【0094】
このようなレーザー脱離/イオン化質量分析方法を採用することで、本発明のレーザー脱離/イオン化質量分析基板を用いて、レーザー脱離/イオン化質量分析を効率よく行うことが可能となる。
【実施例0095】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
<自己組織化化合物の合成>
(合成例1)
先ず、窒素雰囲気下、1,8-ナフタル酸無水物(5.95g、30.0mmol、下記式(1)で表される化合物)、ピリジン(60ml)及びエチレンジアミン(60ml)を混合し、得られた混合物を110℃で72時間加熱しながら攪拌して、下記反応式(I):
【0097】
【化2】
【0098】
で表される反応を行った。得られた溶液からロータリーエバポレーターを用いて大部分のピリジン及びエチレンジアミンを除去した後、残渣を冷アセトニトリルを用いて再結晶させた。得られた結晶を吸引ろ過により回収し、真空乾燥して固体成分を得た(収量:5.10g、収率:71%)。
【0099】
得られた固体成分を重クロロホルム(CDCl)に溶解し、NMR測定装置(日本電子株式会社製「JNM-ECX400P」)を用いてH-NMRスペクトルを測定して同定し、N-(2-アミノエチル)-1,8-ナフタルイミド(上記式(2)で表される化合物)であることを確認した。その結果を以下に示す。
H-NMR(CDCl,δ in ppm):3.08(t,J=6.6Hz,2H)、4.29(t,J=6.6Hz,2H)、7.76(m,2H)、8.22(m,2H)、8.61(m,2H)。
【0100】
次に、窒素雰囲気下、N-(2-アミノエチル)-1,8-ナフタルイミド(2.40g、10.0mmol)、コハク酸(0.53g、4.50mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、48.9mg、0.40mmol)及びジクロロメタン(40ml)を混合し、さらに1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC、3.50g、18.3mmol)を添加し、得られた混合物を室温で3日間攪拌して、下記反応式(II):
【0101】
【化3】
【0102】
で表される反応を行った。得られた懸濁液にエタノール(150ml)を添加して1時間攪拌した後、不溶性の固体成分を吸引ろ過により回収した。この固体成分をアセトニトリルに再分散させ、70℃で5分間加熱しながら攪拌した。得られた懸濁液を室温まで冷却した後、不溶性の固体成分を吸引ろ過により回収し、真空乾燥した(収量:1.81g、収率:71%)。
【0103】
得られた固体成分を重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d)に溶解し、NMR測定装置(日本電子株式会社製「JNM-ECX400P」)を用いてH-NMRスペクトルを測定して同定し、上記式(3)で表される化合物(アミド基が結合したナフタルイミドの二量体:以下、場合により単に「NI(amide)-d」と称する)であることを確認した。その結果を以下に示す。なお、メチレンのピークのうちの1つがDMSOのピーク(δ~3.3ppm)とオーバーラップしていると考えられる。
H-NMR(DMSO-d,δ in ppm):2.06(s,4H)、4.10(m,4H)、7.85(m,4H)、7.91(m,2H)、8.45(m,8H)。
【0104】
次に、窒素雰囲気下、NI(amide)-d(上記式(3)で表される化合物、0.62g、1.10mmol)、カルボニルジヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム〔RuH(CO)(PPh〕(55.1mg、0.06mmol)及びジメチルアセトアミド(DMAc、20ml)を混合し、さらにトリイソプロポキシビニルシラン(2.35ml、2.05g、8.80mmol)を添加し、得られた混合物を160℃で3時間加熱しながら攪拌して、下記反応式(III):
【0105】
【化4】
【0106】
で表される反応を行った。得られた溶液からロータリーエバポレーターを用いて大部分のDMAcを除去した後、残渣を酢酸エチル(10ml)と混合し、さらにヘキサン(150ml)を添加し、得られた混合物を冷蔵庫で12時間冷却した。得られた結晶を吸引ろ過により回収し、冷ヘキサンで洗浄した後、真空乾燥して固体成分を得た(収量:1.22g、収率:74%)。なお、得られた固体成分の一部を用いて水と混合した状態から再回収し真空乾燥したところ、水に混合する前後の固体成分の質量の変化量が、水に混合する前の質量の0.1質量%以下の大きさ(ほぼ0とみなせる量)であったため、得られた固体成分は非水溶性の成分であることが確認された。
【0107】
また、得られた固体成分を重クロロホルム(CDCl)に溶解し、NMR測定装置(日本電子株式会社製「JNM-ECX400P」)を用いてH-NMRスペクトルを測定して同定し、アミド基が結合したナフタルイミドの二量体とトリイソプロポキシビニルシランとの反応生成物である上記式(4)で表される化合物(以下、場合により「NI(amide)-d-Si」と称する)であることを確認した。その結果を以下に示す。
H-NMR(CDCl,δ in ppm):1.03(m,8H)、1.23(d,J=6.0Hz,72H)、2.40(s,4H)、3.50(m,12H)、4.28(m,12H)、4.34(m,4H)、6.69(bs,2H)、7.53(d,J=8.4Hz,4H)、7.99(d,J=8.4Hz,4H)。
【0108】
<重合体ナノファイバー集積体及び一軸配向重合体ナノファイバー集積基板の製造>
下記実施例等で得られた重合体ナノファイバー集積体及び一軸配向重合体ナノファイバー集積基板の構造等は以下のようにして測定した。
【0109】
〈集積体の状態等の評価(SEM観察)〉
重合体ナノファイバー集積体及び一軸配向重合体ナノファイバー集積基板中のナノファイバーの配向状態等を、走査型電子顕微鏡(SEM:HITACHI製「SU3500」)により観察して評価した。
【0110】
〈自己組織化化合物の重縮合の確認〉
自己組織化化合物の重縮合の進行(架橋状態の解析)は、固体状態29Si MAS NMRスペクトルの測定により行った。測定には、測定装置としてブルカー社製「AVANCE 400」を用いた。
【0111】
(実施例1)
〈重合体ナノファイバー集積体の製造工程〉
合成例1で得られたNI(amide)-d-Si(上記式(4)で表される化合物、0.5g)を、エタノールと水とを質量比([エタノール]:[水])が4:1となるように含有する混合溶媒(24.5g)に添加して、NI(amide)-d-Siの濃度が2wt%の混合液を得た。次に、得られた混合液を80℃に加熱して、混合溶媒中にNI(amide)-d-Siを溶解せしめた後、一端を封止した角型ガラスパイプ(30×30×100mm)に移し、室温(約25℃)に冷却することにより、角型ガラスパイプ中にゲル状組成物を形成せしめた。その後、前記角型ガラスパイプの封止を外してゆっくりと取り出すことにより、ゲル状態を保持しながら組成物をガラスパイプから取り出し、縦30mm、横30mm、高さ35mmの直方体形状のゲル組成物を得た。
【0112】
なお、このようにして得られたゲル状組成物中のNI(amide)-d-Siの状態を確認するためにSEM観察を行った。得られた結果を図3に示す。図3に示す結果からも明らかなように、SEMによる観察の結果、ゲル状組成物中において、幅300~800nm程度のナノファイバー状の分子集合体がランダムに集積して網目状の構造物が形成されていることが確認された。また、図3に示す結果から、自己組織化によりNI(amide)-d-Siがファイバー状の分子集合体を形成していることが確認され、ゲル状組成物が、混合溶媒と、ナノファイバー状分子集合体の複合体であることが確認された。
【0113】
次に、上述のようにして製造した直方体形状のゲル組成物(混合溶媒と、ナノファイバー状分子集合体の複合体)を1Lの水中に、3日間浸漬することで、ゲル中に含まれるエタノールを水に置換し、水置換ゲル状組成物(水およびナノファイバー状分子集合体からなる複合体(ゲル))を形成した。
【0114】
次いで、このようにして得られた水置換ゲル状組成物(縦30mm、横30mm、高さ35mmの直方体形状)を水から取り出した。その後、直方体形状の水置換ゲル状組成物の高さ方向は解放しつつ、縦方向および横方向の2方向からの圧縮することで圧搾して、水置換ゲル状組成物の形状を略角柱状とした。次いで、このような略角柱状の水置換ゲル状組成物(圧搾後)を120℃、3時間の条件で乾燥させることにより、縦:約5mm、横:約5mmの断面を有する略角柱状の固体を得た。得られた略角柱状の固体(ナノファイバーが集積した集積物の状態)の外観写真を圧縮方向を概念的に明示しながら、図4に示す。
【0115】
なお、このようにして得られた略角柱状の固体の状態を確認するためにSEM観察を行った。このような測定により得られた電子顕微鏡写真(SEM像)を図5に示す。図5に示す結果からも明らかなように、得られた略角柱状の固体は、圧縮方向に対して垂直な方向(長手方向)にナノファイバー状分子集合体が配向しており、ファイバーを束ねたような構造を有することが確認され、バンドル状のナノファイバーの集合体(以下、「ナノファイバーバンドル」と称する)となっていることが分かった。
【0116】
次に、前述のようにして得られたナノファイバーバンドル(略角柱状の固体)を、2M塩酸の蒸気に100℃の温度条件下において3時間曝露することにより、バンドル中のNI(amide)-d-Si(自己組織化化合物)を重縮合させて、有機シリカ(NI(amide)-d-Siの重合体)からなるナノファイバーを含む、重合体ナノファイバー集積体を得た。なお、NI(amide)-d-Siの重縮合の進行を29Si MAS NMRスペクトルにおけるT種(T:-Si(OSi)(OH)3-n)のシグナル検出によって確認した。このような測定により得られた重合体ナノファイバー集積体の29Si MAS NMRスペクトルのグラフを図6に示す。図6に示す結果から、前記重合体ナノファイバー集積体においては、NI(amide)-d-Siの重縮合反応が進行しており、ナノファイバーが有機シリカ(NI(amide)-d-Siの重合体)により形成されていることが分かった。
【0117】
また、得られた重合体ナノファイバー集積体(有機シリカナノファイバーバンドル)の状態(繊維の状態)の外観写真を圧縮方向を概念的に明示しながら図7に示す。また、このようにして得られた重合体ナノファイバーの集積体の状態を確認するためにSEM観察を行った。このような測定により得られた電子顕微鏡写真(SEM像)を図8に示す。図8に示す結果から、有機シリカからなるナノファイバーが圧縮方向に対して垂直方向(長手方向)に配向していることが確認され、重縮合によって大きな形態変化が生じておらず、自己組織化ナノファイバーバンドルの配向構造を十分に維持しながら、重合して固定化できることが確認された。なお、このような重合体ナノファイバー集積体を構成するナノファイバーは、SEM観察により無作為に選択した50個のナノファイバーの平均値として求められる平均直径及び平均長さがそれぞれ550nm(平均直径)及び70μm(平均長さ)のものであった。
【0118】
〈一軸配向重合体ナノファイバー集積基板の製造工程〉
前述のようにして得られた重合体ナノファイバー集積体(有機シリカナノファイバーバンドル)の周囲をエポキシ樹脂(日新レジン株式会社製「クリスタルレジンNEO」)で覆って固化することにより補強した後、前記重合体ナノファイバー集積体をロータリーミクロトームHM360(マイクロエッジ)を用いて、ナノファイバーの配向方向(長手方向)に対して略垂直方向に、20μmの厚みで切断して切片を得た後、切片をカーボンシール(支持体)上に固定することにより、有機シリカ(NI(amide)-d-Siの重合体)からなるナノファイバーにより形成された有機シリカ薄膜を備える基板(一軸配向重合体ナノファイバー集積基板:薄膜基板)を得た。得られた有機シリカ薄膜の状態(外観)を示す写真を図9に示す。
【0119】
また、得られた薄膜の構造を確認するため、薄膜の表面及び断面についてSEM観察を行った。薄膜の表面の電子顕微鏡写真(SEM像)を図10に示し、薄膜の断面の電子顕微鏡写真(SEM像)を図11に示す。図10~11に示す結果からも明らかなように、SEM観察により、得られた薄膜(有機シリカ薄膜)は、有機シリカのナノファイバーの切断物(柱状体)が垂直配向(一方向に配向)した構造(ナノファイバーのピラーアレー構造:ナノ凹凸構造)を有する多孔質薄膜(有機シリカナノファイバーの垂直配向多孔質薄膜)となっていることが確認され、上記工程により、基板表面に対して有機シリカのナノファイバーが一方向に配向して集積してなる薄膜を備える一軸配向重合体ナノファイバー集積基板が得られたことが確認された。なお、得られた多孔質薄膜において、重合体ナノファイバー間の平均間隔(SEM観察により無作為に選択した50個のナノファイバーについてそれぞれ最近接のナノファイバーとの間の距離を求めて得られる、平均距離)は、重合体ナノファイバーの平均直径の1.8倍であった。
【0120】
また、前記重合体ナノファイバー集積体(有機シリカナノファイバーバンドル)を厚さ20μmの厚みに切断する工程を繰り返し行って、同様の構造を有する基板を複数個連続的に製造した。得られた複数個の薄膜の写真を図12に示す。
【0121】
(実施例2)
一軸配向重合体ナノファイバー集積基板の製造工程において、切断する厚みを20μmから10μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、有機シリカ(NI(amide)-d-Siの重合体)からなるナノファイバーにより形成された有機シリカ薄膜を備える基板(一軸配向重合体ナノファイバー集積基板)を得た。得られた薄膜の構造を確認するため、薄膜の表面及び断面についてSEM観察を行った。薄膜の表面の電子顕微鏡写真(SEM像)を図13に示し、薄膜の断面の電子顕微鏡写真(SEM像)を図14に示す。図13~14に示す結果からも明らかなように、SEM観察により、得られた薄膜(有機シリカ薄膜)は、有機シリカのナノファイバーの切断物(柱状体)が垂直配向(一方向に配向)した構造を有する多孔質薄膜(有機シリカナノファイバーの垂直配向多孔質薄膜)となっていることが確認され、上記工程により、基板表面に対して有機シリカのナノファイバーが一方向に配向して集積してなる薄膜を備える一軸配向重合体ナノファイバー集積基板が得られたことが確認された。
【0122】
(実施例3)
一軸配向重合体ナノファイバー集積基板の製造工程において、切断する厚みを20μmから30μmに変更した以外は、実施例1と同様にして、有機シリカ(NI(amide)-d-Siの重合体)からなるナノファイバーにより形成された有機シリカ薄膜を備える基板(一軸配向重合体ナノファイバー集積基板)を得た。得られた薄膜の構造を確認するため、薄膜の表面及び断面についてSEM観察を行った。薄膜の表面の電子顕微鏡写真(SEM像)を図15に示し、薄膜の断面の電子顕微鏡写真(SEM像)を図16に示す。図15~16に示す結果からも明らかなように、SEM観察により、得られた薄膜(有機シリカ薄膜)は、有機シリカのナノファイバーの切断物(柱状体)が垂直配向(一方向に配向)した構造を有する多孔質薄膜(有機シリカナノファイバーの垂直配向多孔質薄膜)となっていることが確認され、上記工程により、基板表面に対して有機シリカのナノファイバーが一方向に配向して集積してなる薄膜を備える一軸配向重合体ナノファイバー集積基板が得られたことが確認された。
【0123】
このような実施例1~3に示す結果から、有機溶媒を含む混合溶媒中に自己組織化によってナノファイバー構造物を形成してゲル状組成物を得た後、有機溶媒を水に置換することで、ナノファイバーの配向方向が一方向になるよう加工することが可能となり、更に、その一方向に配向させたナノファイバーからなるバンドルを重縮合によって固定化した後、切断(スライス)することにより、ナノファイバーが垂直配向した多孔質基板(一軸配向重合体ナノファイバー集積基板)を連続的に効率よく製造することが可能となることが確認された。
【0124】
(比較例1)
合成例1で得られたNI(amide)-d-Si(上記式(4)で表される化合物、40mg)を、エタノールと水とを質量比([エタノール]:[水])が4:1となるように含有する混合溶媒(1.96g)に添加して、NI(amide)-d-Siの濃度が2wt%の混合液を得た。次に、得られた混合液を80℃に加熱して、混合溶媒中にNI(amide)-d-Siを溶解せしめた後、室温(約25℃)に冷却することにより、ゲル状組成物を得た。このようなゲル状組成物は、その製法から、実施例1を参照すれば、混合溶媒と、NI(amide)-d-Siからなるナノファイバー状分子集合体の複合体であることが明らかである。
【0125】
次いで、前記ゲル状組成物に対して、超音波(42kHz)を10分間照射する超音波処理を行って、自己組織化ナノファイバー(ナノファイバー状分子集合体)を含む分散液を作製した。次に、得られた分散液をシリコン基板上の塗工量が40μL/cmとなるように塗布し、室温で24時間乾燥させることで溶媒を除去した。その後、得られた乾燥塗膜を、2M塩酸の蒸気に100℃の温度条件下において3時間曝露することにより、乾燥塗膜中のNI(amide)-d-Siを重縮合させて、有機シリカ(NI(amide)-d-Siの重合体)からなるナノファイバーを含む、比較のための薄膜(基板)を得た。
【0126】
得られた薄膜の構造を確認するため、薄膜の表面及び断面についてSEM観察を行った。薄膜の表面の電子顕微鏡写真(SEM像)を図17に示し、薄膜の断面の電子顕微鏡写真(SEM像)を図18に示す。図17図18に示す結果から明らかなように、得られた薄膜は、有機シリカ(NI(amide)-d-Siの重合体)からなるナノファイバーがランダムに配向して、15~20μmの厚さに集積したものとなっていることが確認された。このように、比較例1では、一軸方向に配向した薄膜を製造することができず、得られた薄膜(基板)は、ランダムに配向した有機シリカナノファイバーからなるものとなった。
【0127】
(比較例2)
実施例1と同様の手順でゲル状組成物を製造した後、ゲル状組成物をそのまま用いて、そのゲル状組成物の一部を直径約1cmの円柱形状に加工した後、エタノールを水に置換する工程を施さず、円柱形状のゲル状組成物をガラス板により圧縮したところ、組成物のゲル構造が崩壊してしまった。圧縮前後のゲル状組成物の状態を示す写真を図19に示す。図19に示す結果から、ゲル状組成物中の有機溶媒(エタノール)を水に置換しなかった場合には、圧縮によりゲル状組成物を圧搾することができず、ゲル構造を維持したまま圧縮して加工することができないことが確認された。
【0128】
なお、比較例2におけるゲル構造の崩壊を力学データから確認するため、ゲル状組成物(溶媒の種類:混合溶媒)と、水置換ゲル状組成物(溶媒の種類:水)の圧縮時の荷重-変位特性を測定した。このような測定には、実施例1と同様の手順でゲル状組成物を製造した後、ゲル状組成物をそのまま用いて、その一部を直径1cm、高さ1.5cmの円柱形状に加工したゲル状組成物(溶媒の種類:混合溶媒)と、実施例1で採用している方法と同様にして得られる水置換ゲル状組成物を用いて、一部を直径1cm、高さ1.5cmの円柱形状に加工した水置換ゲル状組成物(溶媒の種類:水)をそれぞれ準備して、それぞれ円柱状の測定試料として利用した。そして、各測定試料(円柱)に対して、円柱の高さ方向に対して1mm/分の速さで荷重を加えながら圧縮して、試料の荷重-変位特性を測定した。得られた結果を図20に示す。
【0129】
図20に示す結果からも明らかなように、ゲル状組成物中に含まれる混合溶媒中のエタノールを水に置換しなかった場合には、変位が増加しても荷重がほぼ増加せず、また、変位が9mm付近となる位置で荷重が明らかな減少に転じていることが確認され、力学データからも、比較例2においては、圧縮によりゲル構造が崩壊したことが示された。これに対し、溶媒を水に置換した水置換ゲル状組成物は、変位の増加とともに荷重が単調に増加し、変位14mmで荷重は約1.2Nまで上昇した。このような力学データから、ゲル組成物中の有機溶媒(エタノール)を水に置換することでゲルを構成する自己組織化ナノファイバーの強度が大幅に向上することも示された。このような結果からも、上述のようにしてゲル状組成物を得た後、ゲル中の有機溶媒を水に置換することで、自己組織化ナノファイバーを一方向に配向するように加工することが可能となることが分かった。
【0130】
<レーザー脱離/イオン化質量分析>
(実施例4)
先ず、実施例1で得られた有機シリカ(NI(amide)-d-Siの重合体)からなるナノファイバーにより形成された有機シリカ薄膜(厚み:20μm)を備える基板(一軸配向重合体ナノファイバー集積基板:薄膜基板)を、シリコン基板(支持体)に貼りつけて(前記薄膜基板のカーボンシールの裏面を支持体に貼りつけて)、有機シリカ薄膜を備えるシリコン基板(便宜上、以下、場合により「積層基板」と称する)を得た。
【0131】
次いで、得られた積層基板を、25μLのトリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)シランを入れたガラス瓶と共に、テフロン(登録商標)容器に密閉し、アルゴン雰囲気下、150℃の温度条件で1時間加熱することで、前記積層基板に対して疎水化処理を施した。なお、疎水化処理の進行は、処理後の積層基板の表面が、水滴の接触角が150度以上となる超撥水性を示したことから確認された。
【0132】
次に、このような疎水化処理を施した積層基板(支持体に支持された一軸配向重合体ナノファイバー集積基板の疎水化処理物)を複数個準備し、それらをそれぞれレーザー脱離/イオン化質量分析用の基板として利用して、レーザー脱離/イオン化質量分析を行った。
【0133】
このようなレーザー脱離/イオン化質量分析に際しては、分析対象分子としてベラパミル、アンジオテンシンI、アミロイドβ(ヒト、1-40)をそれぞれ用い、そのサンプル溶液として、アセトニトリルと0.1質量%のトリフルオロ酢酸水溶液とを体積比([アセトニトリル]:[水溶液])が1:4となるようにして含有する混合溶媒に、分析対象分子を所定の濃度(ベラパミル:1.0pmol/μL、アンジオテンシンI:0.5pmol/μL、アミロイドβ:0.5pmol/μL)で溶解させた溶液をそれぞれ準備して用いた。そして、各サンプル溶液を各レーザー脱離/イオン化質量分析用基板が備える有機シリカ薄膜の部位にそれぞれ1.0μL滴下し、真空下で速やかに乾燥することで、分析対象分子を基板表面に担持させ、分析対象分子ごとに測定用試料をそれぞれ形成した。次いで、各測定用試料の分析対象分子の担持部位(有機シリカ薄膜の部位)にレーザー光(レーザー波長:355nm)を照射して、レーザー脱離/イオン化質量分析を行った。なお、このようなレーザー脱離/イオン化質量分析には、測定装置として、ブルカー・ダルトニクス社製「autoflex maX」を用いた。
【0134】
このような測定の結果として、1.0pmol/μLのベラパミル(分子量:454.6)を滴下した測定用試料に対して行った質量分析の結果(ベラパミルのマススペクトル)を図21に示す。図21に示す結果からも明らかなように、得られたマススペクトルにおいて、ベラパミルのプロトン付加体に相当するシグナルが質量電荷比(m/z)=455.1の位置において明瞭に観察され、そのシグナル/ノイズ(S/N)比は28であることが確認された。
【0135】
また、0.5pmol/μLのアンジオテンシンI(分子量:1296.5)を滴下した測定用試料に対して行った質量分析の結果(アンジオテンシンIのマススペクトル)を図22に示す。図22に示す結果からも明らかなように、得られたマススペクトルにおいて、アンジオテンシンIのプロトン付加体に相当するシグナルがm/z=1296.6の位置において明瞭に観察され、そのS/N比は38であることが確認された。
【0136】
さらに、0.5pmol/μLのアミロイドβ(分子量:4329.8)を滴下した測定用試料に対して行った質量分析の結果(アミロイドβのマススペクトル)を図23に示す。図23に示す結果からも明らかなように、アミロイドβのプロトン付加体に相当するシグナルがm/z=4330の位置において明瞭に観察され、そのS/N比は24であることが確認された。
【0137】
(比較例3)
実施例1で得られた一軸配向重合体ナノファイバー集積基板の代わりに、比較例1で得られた比較のための薄膜(基板)を用いた以外は、実施例4と同様にして、疎水化処理を施した基板を複数個準備して、ベラパミル、アンジオテンシンI、アミロイドβ(ヒト、1-40)を分析対象分子として、レーザー脱離/イオン化質量分析を行った。
【0138】
このような測定の結果として、1.0pmol/μLのベラパミル(分子量:454.6)を滴下した測定用試料に対して行った質量分析の結果(ベラパミルのマススペクトル)を図24に示す。図24に示す結果からも明らかなように、ベラパミルのプロトン付加体に相当するシグナルが質量電荷比(m/z)=455.1の位置において観察されたが、シグナル強度が低く、そのS/N比は4であった。
【0139】
また、0.5pmol/μLのアンジオテンシンI(分子量:1296.5)を滴下した測定用試料に対して行った質量分析の結果(アンジオテンシンIのマススペクトル)を図25に示す。図25に示す結果からも明らかなように、アンジオテンシンIのプロトン付加体に相当するシグナルがm/z=1297の位置付近に観察されたが、そのS/N比は3を下回っており(約2)、質量分析シグナルとしては十分な強度が得られなかった。
【0140】
さらに、0.5pmol/μLのアミロイドβ(分子量:4329.8)を滴下した測定用試料に対して行った質量分析の結果(アミロイドβのマススペクトル)を図26に示す。図26に示す結果からも明らかなように、アミロイドβのプロトン付加体に相当するシグナルがm/z=4330の位置において観察されたが、シグナル強度が低く、そのS/N比は6であった。
【0141】
ここで、実施例4および比較例3において行ったレーザー脱離/イオン化質量分析により得られた各分析対象分子のマススペクトルのシグナル強度を比較したグラフを図27に示す。図27に示す結果からも明らかなように、垂直配向した有機シリカのナノファイバーが集積してなる基板を用いた場合(実施例4)には、ランダム配向した有機シリカのナノファイバーが集積してなる基板を用いた場合(比較例3)と比較して、質量分析の性能が大幅に向上して、より高感度の分析を行うことが可能となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
以上説明したように、本発明によれば、長手方向に一軸配向した重合体ナノファイバー集積体を効率よく製造することが可能な重合体ナノファイバー集積体の製造方法;その製造方法を利用して得られる重合体ナノファイバー集積体;その重合体ナノファイバー集積体の切断物として効率よく製造することが可能な一軸配向重合体ナノファイバー集積基板;その一軸配向重合体ナノファイバー集積基板を応用したレーザー脱離/イオン化質量分析基板;を提供することが可能となる。
【0143】
したがって、本発明の重合体ナノファイバー集積体の製造方法は、レーザー脱離/イオン化質量分析基板の原料として好適に利用可能な重合体ナノファイバー集積体を効率よく製造するための方法等として有用である。
【符号の説明】
【0144】
10…水置換ゲル状組成物、11…自己組織化ファイバーバンドル、12…樹脂で固定化(補強)した形態の重合体ナノファイバー集積体、13…重合体ナノファイバー集積体の切断物からなる薄膜、F…自己組織化化合物のファイバー状の分子集合体、Fp…重合体からなるナノファイバー、R…重合体ナノファイバー集積体の周囲を覆う樹脂。
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