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特開2024-120696色情報推定プログラムおよび色情報推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120696
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】色情報推定プログラムおよび色情報推定装置
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/00 20060101AFI20240829BHJP
   D06P 5/28 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
D06P5/00 D
D06P5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027684
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100184550
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 珠美
(72)【発明者】
【氏名】小山 光葵
(72)【発明者】
【氏名】田中 基司
(72)【発明者】
【氏名】今村 基
(72)【発明者】
【氏名】阿部 功児
【テーマコード(参考)】
4H157
【Fターム(参考)】
4H157AA02
4H157AA03
4H157BA12
4H157EA02
4H157FA01
4H157FA23
4H157FA24
4H157GA05
4H157GA10
4H157GA34
(57)【要約】
【課題】染色された樹脂体の色情報を安定して計測することが可能な染色システムを提供する。
【解決手段】制御装置は、樹脂体の目的の色を設定する。次いで、制御装置は、少なくとも、設定された目的の色を基準とした規定を色データが満たすことを条件として、データベースに記憶された複数のジョブデータの中から、条件が合致するジョブデータである近似データを複数検索する。制御装置は、検索された複数の近似データに基づいて、基体に印刷されるインクの量と、対応する量のインクが印刷された基体が用いられることで染色される樹脂体の色データの相関関係を示す推定式を生成する。制御装置は、生成された推定式を用いて、樹脂体を目的の色に染色するために基体に印刷することが必要なインクの量、および、基体にインクを予定量印刷した場合に染色される樹脂体の色の少なくともいずれかを、色情報として推定する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料が含有されたインクを印刷装置によって基体に印刷する印刷工程と、
インクが印刷された基体に樹脂体を対向させた状態で、インクに含有された染料を前記樹脂体に転写する転写工程と、
染料が転写された樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させる染料定着工程と、
を含む樹脂体の染色工程における色に関する情報である色情報を推定する色情報推定装置によって実行される色情報推定プログラムであって、
過去に実施された染色工程において基体に印刷されたインクの量のデータであるインク量データと、前記基体によって染色された樹脂体について計測された色データのセットを含むジョブデータが、データベースに複数記憶されており、
前記色情報推定プログラムが前記色推定装置の制御部によって実行されることで、
樹脂体の目的の色を設定する目的色設定ステップと、
少なくとも、設定された前記目的の色を基準とした規定を色データが満たすことを条件として、前記データベースに記憶された複数のジョブデータの中から、条件が合致するジョブデータである近似データを複数検索する近似データ検索ステップと、
前記近似データ検索ステップにおいて検索された前記複数の近似データに基づいて、基体に印刷されるインクの量と、前記基体によって染色される樹脂体の色データの相関関係を示す推定式を生成する推定式生成ステップと、
前記推定式生成ステップにおいて生成された前記推定式を用いて、樹脂体を目的の色に染色するために基体に印刷することが必要なインクの量、および、基体にインクを予定量印刷した場合に染色される樹脂体の色の少なくともいずれかを、前記色情報として推定する色情報推定ステップと、
を前記色情報推定装置に実行させることを特徴とする色情報推定プログラム。
【請求項2】
請求項1に記載の色情報推定プログラムであって、
樹脂体への染料の定着不良が生じていないと判断された染色工程のジョブデータであり、且つ、使用したインクの種類および量の少なくともいずれかが互いに異なる複数のジョブデータを含む仮推定用ジョブデータに基づいて、基体に印刷されるインクの量と、前記基体によって染色される樹脂体の色データの相関関係を示す仮推定式を生成する仮推定式生成ステップがさらに実行され、
前記推定式生成ステップでは、前記仮推定式と前記複数の近似データに基づいて、前記推定式が生成されることを特徴とする色情報推定プログラム。
【請求項3】
請求項2に記載の色情報推定プログラムであって、
前記複数の仮推定用ジョブデータには、染料が転写されていない樹脂体に対して前記染料定着工程と同様の加熱が行われた結果のジョブデータが含まれることを特徴とする色情報推定プログラム。
【請求項4】
請求項2に記載の色情報推定プログラムであって、
前記仮推定式生成ステップでは、複数種類の樹脂体の素材毎に、同一の素材についての前記仮推定用ジョブデータに基づいて前記仮推定式が生成され、
前記推定式生成ステップでは、前記色情報を推定する対象の素材についての前記仮推定式と前記複数の近似データに基づいて、前記推定式が生成されることを特徴とする色情報推定プログラム。
【請求項5】
請求項2に記載の色情報推定プログラムであって、
複数の前記仮推定用ジョブデータの各々を取得するために必要な染色工程のパラメータを自動設定する仮推定用工程設定ステップがさらに実行されることを特徴とする色情報推定プログラム。
【請求項6】
請求項2に記載の色情報推定プログラムであって、
複数の前記仮推定用ジョブデータには、複数色のインク毎に、単色のインクが用いられて染色工程が行われることで取得されるジョブデータが含まれていることを特徴とする色情報推定プログラム。
【請求項7】
請求項1に記載の色情報推定プログラムであって、
前記データベースには、各々の前記ジョブデータが作成される際に染色された樹脂体の素材が識別可能な状態で、複数の前記ジョブデータが記憶されており、
前記近似データ検索ステップでは、指定された樹脂体の素材と同一の素材についてのジョブデータであることを条件として、前記近似データが複数検索されることを特徴とする色情報推定プログラム。
【請求項8】
染料が含有されたインクを印刷装置によって基体に印刷する印刷工程と、
インクが印刷された基体に樹脂体を対向させた状態で、インクに含有された染料を前記樹脂体に転写する転写工程と、
染料が転写された樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させる染料定着工程と、
を含む樹脂体の染色工程における色に関する情報である色情報を推定する色情報推定装置であって、
過去に実施された染色工程において基体に印刷されたインクの量のデータであるインク量データと、前記基体によって染色された樹脂体について計測された色データのセットを含むジョブデータが、データベースに複数記憶されており、
前記色推定装置の制御部は、
樹脂体の目的の色を設定する目的色設定ステップと、
少なくとも、設定された前記目的の色を基準とした規定を色データが満たすことを条件として、前記データベースに記憶された複数のジョブデータの中から、条件が合致するジョブデータである近似データを複数検索する近似データ検索ステップと、
前記近似データ検索ステップにおいて検索された前記複数の近似データに基づいて、基体に印刷されるインクの量と、前記基体によって染色される樹脂体の色データの相関関係を示す推定式を生成する推定式生成ステップと、
前記推定式生成ステップにおいて生成された前記推定式を用いて、樹脂体を目的の色に染色するために基体に印刷することが必要なインクの量、および、基体にインクを予定量印刷した場合に染色される樹脂体の色の少なくともいずれかを、前記色情報として推定する色情報推定ステップと、
を実行することを特徴とする色情報推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂体を染色する染色工程において、色に関する情報を推定するための色情報推定プログラムおよび色情報推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズ等の樹脂体を染色するための種々の技術が提案されている。例えば、浸染法と言われる染色方法では、樹脂体を染色液の中に浸漬することで樹脂体が染色される。しかし、浸染法では、作業環境を良好にすることが難しく、また、一部の樹脂体(例えば高屈折率のレンズ等)を染色するのが困難である。
【0003】
そこで、染料を樹脂体の表面に転写し、染料が付着した樹脂体を加熱することで樹脂体を染色する技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載の染色方法では、昇華性の染料が、インクジェットプリンタによって基体に塗布(印刷)される。次いで、真空中で樹脂体と基体が配置された状態で、基体に塗布された昇華性の染料が昇華されることで、染料が樹脂体に転写される。次いで、樹脂体が加熱されることで、染料が樹脂体に定着する。なお、気相転写法によって昇華性の染料を樹脂体に転写し、樹脂体を染色する方法を、気相転写染色法という。
【0004】
また、予定されている色を適切に樹脂体に染色することを目的とした技術も提案されている。例えば、特許文献2に記載の染色システムは、決定された吐出量の染料(インク)が使用されることで実際に染色された樹脂体の色を計測する。次いで、染色システムは、計測された色と、予定されていた色に基づいて、以後に決定される染料の吐出量を補正することで、以後に染色される樹脂体の色を予定されている色に近づけることを目指している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-127722号公報
【特許文献2】特開2021-021183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、印刷装置の個体差、染色システムの設置環境、樹脂体を加熱する加熱手段の個体差等に応じて、染色された樹脂体の色が予定されていた色とならない場合がある。さらに、染色する樹脂体の色を変えるためには、使用するインクの量(例えば、単位面積当たりに吐出するインクの総量、および、複数種類のインクの混合量等)を変化させる必要がある。使用するインクの量が変化すると、染色工程における各種条件(例えば、染料を樹脂体に加熱定着させる際の温度の上昇具合等)が変化する結果、樹脂体の染色の程度が変化してしまう場合もある。特に気相転写染色法では、昇華性の染料が含有されたインクが用いられる。従って、染料を加熱定着させる際の温度の上昇具合が変化すると、染料が再昇華する程度も変化してしまう。よって、気相転写染色法を採用する際に、樹脂体を目的の色に染色するために必要なインクの量、および、インクを予定量印刷した場合に染色される樹脂体の色の少なくともいずれか(以下、「色情報」という)を正確に推定することは、従来の技術では困難であった。
【0007】
本開示の典型的な目的は、気相転写染色法によって樹脂体を染色する際の色に関する情報を、より正確に推定することが可能な色情報推定プログラムおよび色情報推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示における典型的な実施形態が提供する色情報推定プログラムは、染料が含有されたインクを印刷装置によって基体に印刷する印刷工程と、インクが印刷された基体に樹脂体を対向させた状態で、インクに含有された染料を前記樹脂体に転写する転写工程と、
染料が転写された樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させる染料定着工程と、を含む樹脂体の染色工程における色に関する情報である色情報を推定する色情報推定装置によって実行される色情報推定プログラムであって、過去に実施された染色工程において基体に印刷されたインクの量のデータであるインク量データと、前記基体によって染色された樹脂体について計測された色データのセットを含むジョブデータが、データベースに複数記憶されており、前記色情報推定プログラムが前記色推定装置の制御部によって実行されることで、樹脂体の目的の色を設定する目的色設定ステップと、少なくとも、設定された前記目的の色を基準とした規定を色データが満たすことを条件として、前記データベースに記憶された複数のジョブデータの中から、条件が合致するジョブデータである近似データを複数検索する近似データ検索ステップと、前記近似データ検索ステップにおいて検索された前記複数の近似データに基づいて、基体に印刷されるインクの量と、前記基体によって染色される樹脂体の色データの相関関係を示す推定式を生成する推定式生成ステップと、前記推定式生成ステップにおいて生成された前記推定式を用いて、樹脂体を目的の色に染色するために基体に印刷することが必要なインクの量、および、基体にインクを予定量印刷した場合に染色される樹脂体の色の少なくともいずれかを、前記色情報として推定する色情報推定ステップと、を前記色情報推定装置に実行させる。
【0009】
本開示における典型的な実施形態が提供する色情報推定装置は、染料が含有されたインクを印刷装置によって基体に印刷する印刷工程と、インクが印刷された基体に樹脂体を対向させた状態で、インクに含有された染料を前記樹脂体に転写する転写工程と、染料が転写された樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させる染料定着工程と、を含む樹脂体の染色工程における色に関する情報である色情報を推定する色情報推定装置であって、過去に実施された染色工程において基体に印刷されたインクの量のデータであるインク量データと、前記基体によって染色された樹脂体について計測された色データのセットを含むジョブデータが、データベースに複数記憶されており、前記色推定装置の制御部は、樹脂体の目的の色を設定する目的色設定ステップと、少なくとも、設定された前記目的の色を基準とした規定を色データが満たすことを条件として、前記データベースに記憶された複数のジョブデータの中から、条件が合致するジョブデータである近似データを複数検索する近似データ検索ステップと、前記近似データ検索ステップにおいて検索された前記複数の近似データに基づいて、基体に印刷されるインクの量と、前記基体によって染色される樹脂体の色データの相関関係を示す推定式を生成する推定式生成ステップと、前記推定式生成ステップにおいて生成された前記推定式を用いて、樹脂体を目的の色に染色するために基体に印刷することが必要なインクの量、および、基体にインクを予定量印刷した場合に染色される樹脂体の色の少なくともいずれかを、前記色情報として推定する色情報推定ステップと、を実行する。
【0010】
本開示に係る色情報推定プログラムおよび色情報推定装置によると、気相転写染色法によって樹脂体を染色する際の色に関する情報が、より正確に推定され易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】染色システム1のシステム構成を示すブロック図である。
図2】2つのレンズLが設置された状態の染色用トレイ80を右斜め上方から見た斜視図である。
図3】制御装置(色情報推定装置)70が実行する色情報推定処理のフローチャートである。
図4】ジョブデータ一覧表示画面100の一例を示す図である。
図5】測定色データ表示画面120の一例を示す図である。
図6】色情報推定処理において実行される仮推定用ジョブデータ取得処理のフローチャートである。
図7】仮推定用ジョブ表示画面130の一例を示す図である。
図8】色情報推定処理において実行される推定処理のフローチャートである。
図9】表示直後の色推定用画面200の一例を示す図である。
図10】検索条件設定画面300の一例を示す図である。
図11図9に示す状態から、色情報およびインク量が推定された後の色推定用画面200の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<概要>
本開示で例示する色情報推定装置は、樹脂体の染色工程における色に関する情報(色情報)を推定する。染色工程は、印刷工程、転写工程、および染料定着工程を含む。印刷工程では、染料が含有されたインクが印刷装置によって基体に印刷される。転写工程では、インクが印刷された基体に樹脂体を対向させた状態で、インクに含有された染料が樹脂体に転写される。染料定着工程では、染料が転写された樹脂体が加熱されることで、樹脂体に染料が定着される。データベースには、過去に実施された染色工程において基体に印刷されたインクの量のデータ(インク量データ)と、基体によって染色された樹脂体について計測された色データのセットを含むジョブデータが複数記憶されている。色情報推定装置は、目的色設定ステップ、近似データ検索ステップ、推定式生成ステップ、および色情報推定ステップを実行する。目的色設定ステップでは、色情報推定装置の制御部は、樹脂体の目的の色を設定する。近似データ検索ステップでは、制御部は、少なくとも、設定された目的の色を基準とした規定を色データが満たすことを条件として、データベースに記憶された複数のジョブデータの中から、条件が合致するジョブデータである近似データを複数検索する。推定式生成ステップでは、制御部は、近似データ検索ステップにおいて検索された複数の近似データに基づいて、基体に印刷されるインクの量と、対応する量のインクが印刷された基体が用いられることで染色される樹脂体の色データの相関関係を示す推定式を生成する。色情報推定ステップでは、推定式生成ステップにおいて生成された推定式を用いて、樹脂体を目的の色に染色するために基体に印刷することが必要なインクの量、および、基体にインクを予定量印刷した場合に染色される樹脂体の色の少なくともいずれかを、色情報として推定する。
【0013】
本開示の色情報推定プログラムおよび色情報推定システムによると、過去に実施された染色工程におけるインク量データと色データのセットを含むジョブデータに基づいて、色情報を推定するための推定式が生成される。従って、印刷装置の個体差、染色システムの設置環境、樹脂体を加熱する加熱手段の個体差等に起因する染色の程度の変化の影響が抑制された状態で、色情報がより正確に推定され易くなる。
【0014】
さらに、本開示の技術によると、設定された目的の色を基準とした規定を色データが満たす複数のジョブデータ(近似データ)に基づいて、色情報を推定するための推定式が生成される。染色工程を複数回実施する際に、染色する樹脂体の色が近似していれば、当然ながら、使用するインクの量(例えば、単位面積当たりに吐出するインクの総量、および、複数種類のインクの混合量等)も近似する。使用するインクの量が近似していれば、樹脂体が染色される程度も近似し易くなる。従って、色が近似している複数のジョブデータに基づいて推定式が生成されることで、使用するインクの量の変化に起因する染色の程度の変化の影響が抑制された状態で、より正確に色情報が推定され易くなる。
【0015】
なお、気相転写染色法では、使用するインクの量が変化すると、染料定着工程において染料が再昇華する程度等も変化する。これに対し、本開示の技術によると、染料の再昇華の程度等も近似した複数のジョブデータに基づいて推定式が生成される。よって、本開示の技術は、特に気相転写染色法を用いる場合により有用である。さらに、転写工程において、インクが印刷された基体に樹脂体を非接触で対向させた状態で、染料を樹脂体に転写させる場合には、基体に樹脂体を接触させる場合に比べて、使用するインクの量の変化に起因する染色の程度の変化も大きくなり易い。よって、本開示の技術は、樹脂体を非接触で対向させる場合にさらに有効である。ただし、本開示の技術は、基体に樹脂体を接触させて転写工程を行う場合にも有効である。また、本開示の技術は、気相転写染色法とは異なる染色方法で樹脂体を染色する場合にも有効に利用することが可能である。
【0016】
推定式を生成するために参照されるジョブデータは、推定式によって推定される色情報を利用する染色システムと同一の染色システムによって過去に実施された染色工程のデータであってもよい。この場合、染色システムの違いに起因する染色の程度の変化の影響が抑制された状態で、より正確に色情報が推定され易くなる。
【0017】
制御部は、基体に印刷されるインクの量と、対応する量のインクが印刷された基体が用いられることで染色される樹脂体の色データの相関関係を示す仮推定式を、複数の仮推定用ジョブデータに基づいて生成する仮推定式生成ステップをさらに実行してもよい。仮推定用ジョブデータは、樹脂体への染料の定着不良が生じていないと判断された染色工程のジョブデータである。複数の仮推定用ジョブデータには、使用したインクの種類および量の少なくともいずれかが互いに異なる複数のジョブデータが含まれる。推定式生成ステップでは、仮推定式と複数の近似データに基づいて、推定式が生成されてもよい。
【0018】
仮推定式では、樹脂体への染料の定着不良が生じないと仮定した場合の、インク量と色データの相関関係が示される。染料の定着不良が生じていない場合には、仮推定式によって色情報を推定することが可能である。しかし、実際の染色工程では、染色する樹脂体の色に応じて、樹脂体への染料の定着不良の程度が変化する場合が多い。従って、目的の色に応じて検索される近似データは、染色する色に応じた染料の定着不良が生じたジョブデータである場合がある。よって、推定式を生成する際に、仮推定式と、検索された複数の近似データが共に参照されることで、仮推定式をベースとしつつ、染色する色に応じた染料の定着不良の影響が適切に考慮された推定式が生成される。その結果、色推定の精度がさらに向上し易くなる。
【0019】
なお、仮推定式と、検索された複数の近似データに基づいて推定式を生成するための具体的な方法は、適宜選択できる。例えば、仮推定式によって求められる色データと、検索された近似データの色データの誤差の相関を示す式が、推定式として生成されてもよい。この場合、染色する色に応じた染料の定着不良の影響が適切に考慮された推定式が生成される。
【0020】
複数の仮推定用ジョブデータには、染料が転写されていない樹脂体に対して染料定着工程と同様の加熱が行われた結果のジョブデータ(以下、「クリアデータ」という)が含まれていてもよい。染料定着工程によって樹脂体が加熱される際に、樹脂体が僅かに変色する現象(「黄変」等と言われる)が生じる場合がある。仮推定用ジョブデータにクリアデータを含めることで、染料定着工程による樹脂体の変色の影響も反映された仮推定式が生成される。その結果、色推定の精度がさらに向上し易くなる。
【0021】
仮推定式生成ステップでは、複数種類の樹脂体の素材毎に、同一の素材についての仮推定用ジョブデータに基づいて仮推定式が生成されてもよい。推定式生成ステップでは、色情報を推定する対象の素材についての仮推定式と複数の近似データに基づいて、推定式が生成されてもよい。同じ色を樹脂体に染色する場合でも、樹脂体の素材が異なると、異なるインクが用いられる場合もある。また、同じインクを用いて、素材が異なる樹脂体を染色する場合でも、素材に応じて染色の具合が変化する場合もある。これに対し、複数種類の樹脂体の素材毎に、同一の素材についての仮推定用ジョブデータに基づいて仮推定式が生成されることで、素材に応じて適切に色情報が推定され易くなる。
【0022】
制御部は、複数の仮推定用ジョブデータの各々を取得するために必要な染色工程のパラメータを自動設定する仮推定用工程設定ステップをさらに実行してもよい。この場合、自動的に設定されたパラメータに従って染色工程が行われることで、適切な仮推定用ジョブデータが容易に取得されて、データベースに保存される。よって、簡易な手順で、より高い精度で色情報が推定され易くなる。
【0023】
複数の仮推定用ジョブデータには、複数色のインク毎に、単色のインクが用いられて染色工程が行われることで取得されるジョブデータが含まれていてもよい。この場合、仮推定式を生成する際に、各々のインクの色毎にデータを処理することができるので、仮推定式がより適切に生成され易くなる。
【0024】
さらに、複数の仮推定用ジョブデータには、単色のインクの濃度を変化させて複数回の染色工程が行われることで取得される複数のジョブデータが含まれていてもよい。この場合、単色のインクの濃度の変化が考慮された適切な仮推定式が生成され易くなる。
【0025】
ただし、仮推定用ジョブデータの取得方法を変更することも可能である。例えば、複数色のインクが用いられることで取得されるジョブデータが、複数の仮推定用ジョブデータの少なくとも一部に含まれていてもよい。
【0026】
データベースには、各々のジョブデータが作成される際に染色された樹脂体の素材が識別可能な状態で、複数のジョブデータが記憶されていてもよい。近似データ検索ステップでは、指定された樹脂体の素材と同一の素材についてのジョブデータであることを条件として、複数のジョブデータの中から近似データが複数検索されてもよい。前述したように、同じ色を樹脂体に染色する場合でも、樹脂体の素材が異なると、異なるインクが用いられる場合もある。また、同じインクを用いて、素材が異なる樹脂体を染色する場合でも、素材に応じて染色の具合が変化する場合もある。これに対し、指定された樹脂体の素材と同一の素材についての近似データに基づいて推定式が生成され、生成された推定式に基づいて色情報が推定されることで、素材に応じて適切に色情報が推定され易くなる。
【0027】
なお、複数のジョブデータの中から近似データを検索するための条件を変更することも可能である。例えば、樹脂体がレンズである場合のディオプターが規定範囲内に収まっている条件、染色における各種工程の少なくともいずれかが行われた時期が規定範囲内に収まっている条件、使用されたインクの総量が規定範囲内に収まっている条件、各種工程に用いられた装置が同一である条件等の少なくともいずれかが、ユーザによって入力される指示に応じて、近似データの検索条件に追加されてもよい。この場合、所望の染色条件にさらに近い近似データが検索されるので、色推定の精度がさらに向上し易くなる。なお、前述した複数の「規定範囲」の少なくともいずれかは、予め定められていてもよいし、ユーザによって任意に指定されてもよい。
【0028】
制御部は、データベースに記憶されている複数のジョブデータのうち、作業者によって指定されたジョブデータを、近似データ検索ステップにおいて近似データとして検索される候補から除外する候補除外ステップを実行してもよい。作業者は、信頼性が低いジョブデータ(例えば、染色結果が予想よりも大幅に異なったジョブデータ等)を近似データの検索対象から除外することで、信頼性が低いジョブデータによって色推定の精度が低下してしまう可能性を低下させることができる。
【0029】
制御部は、データベースに記憶されている複数のジョブデータの数が上限を超えた場合に、作成された時期が古いジョブデータから順にデータベースから削除するデータ自動削除ステップを実行してもよい。さらに、制御部は、データベースに記憶されている複数のジョブデータのうち、作業者によって指定されたジョブデータを、自動削除ステップにおいて削除される対象から除外する削除対象除外ステップを実行してもよい。この場合、データベースに記憶されているデータの量が過度に増加することが抑制されると共に、色推定に必要と判断されたジョブデータは適切にデータベース内に記憶され続ける。
【0030】
<実施形態>
以下、本開示に係る典型的な実施形態の1つについて、図面を参照して説明する。染色システム1は、樹脂体を自動的に連続して染色する。本実施形態では、染色する対象とする樹脂体は、眼鏡に使用されるプラスチック製のレンズL(図2等参照)である。しかし、本開示で例示する技術の少なくとも一部は、レンズL以外の樹脂体を染色する場合にも適用できる。例えば、ゴーグル、携帯電話のカバー、ライト用のカバー、アクセサリー、玩具、フィルム(例えば、厚みが400μm以下)、板材(例えば、厚みが400μm以上)等、種々の樹脂体を染色する場合に、本開示で例示する技術の少なくとも一部を適用することも可能である。染色される樹脂体には、樹脂体とは異なる部材(例えば、木材またはガラス等)に付加された樹脂体も含まれる。また、本実施形態の染色システム1は、複数の樹脂体を連続して搬送しながら染色する。しかし、樹脂体を1セットずつ搬送して染色する染色システムにも、本開示で例示する技術の少なくとも一部を採用できる。また、本開示で例示する技術は、複数の染色工程の少なくとも一部を作業者が自ら実行する場合にも適用できる。
【0031】
(システム構成)
図1を参照して、本実施形態の染色システム1のシステム構成について概略的に説明する。本実施形態の染色システム1は、搬送装置10、印刷装置30、転写装置40、染料定着装置50、色データ計測器60、および制御装置(色情報推定装置)70を備える。
【0032】
搬送装置10は、樹脂体であるレンズLが載置された染色用トレイ80(図2参照)を、染色システム1内の各装置に搬送する。詳細には、本実施形態の搬送装置10は、複数の染色用トレイ80を、染色システム1内で連続して搬送する。本実施形態の搬送装置10は、印刷装置30、転写装置40、染料定着装置50、および色データ計測器60の順に(つまり、図1における左から右に)染色用トレイ80を搬送する。
【0033】
印刷装置30は、印刷工程を実行する。印刷工程では、印刷装置30は、染料が含有されたインクを、シート状の基体に印刷する。本実施形態では、基体には、適度な硬さの紙または金属性(本実施形態ではアルミニウム製)のフィルムが使用される。しかし、基体の材質には、ガラス板、耐熱性樹脂、セラミック等の他の材質を用いることも可能である。なお、本実施形態の染色システム1では、染料の凝集等を防ぎつつ染料を適切にレンズLに転写するために、真空(略真空を含む)の環境下で基体とレンズLを離間させて(非接触で)対向させた状態で、基体の染料が加熱されることで、染料がレンズLの表面に転写(蒸着)される(本実施形態における染色方法を、気相転写染色方法という)。従って、印刷装置30には、昇華性染料を含有したインクを基体に印刷するインクジェットプリンタが使用される。印刷装置30は、情報処理装置(本実施形態ではパーソナルコンピュータ(以下「PC」という)である制御装置70によって作成された印刷データに基づいて印刷を実行する。その結果、基体の適切な位置に適切な量のインク(染料)が付着する。グラデーションの染色を行うための染料付基体の作成も容易である。なお、印刷装置30の構成を変更することも可能である。例えば、印刷装置はレーザープリンタであってもよい。この場合、トナーインクに昇華性染料が含まれていてもよい。
【0034】
転写装置40は、転写工程を実行する。転写工程では、転写装置40は、インクが印刷された基体をレンズLに対向させた状態で、基体に付着した染料(つまり、基体に印刷されたインクに含有された染料)を、基体からレンズLに転写する。前述したように、本実施形態では、基体をレンズLに非接触で対向させた状態で、気相転写法によって基体からレンズLに染料が転写される。ただし、染料をレンズLに転写する方法を変更することも可能である。例えば、基体の染料とレンズLを接触させた状態で、染料が基体からレンズLに転写されてもよい。
【0035】
染料定着装置50は、染料定着工程を実行する。染料定着工程では、染料定着装置50は、転写装置40によって染料が転写されたレンズLを加熱することで、レンズLの表面に付着した染料を樹脂体に定着させる。本実施形態の染料定着装置50は、電磁波であるレーザ光をレンズLに照射することで、レンズLを加熱する。ただし、染料定着装置50の構成を変更することも可能である。例えば、レーザ光以外の電磁波をレンズLに照射する装置(例えばオーブン等)が、染料定着装置として用いられてもよい。
【0036】
色データ計測器60は、印刷装置30による印刷工程、転写装置40による転写工程、および染料定着装置50による染料定着工程によって染色されたレンズLの色データを計測する。本実施形態の色データ計測器60は、レンズLの分光スペクトル(詳細には、本実施形態では透過スペクトル)を色データとして計測する分光計測器である。従って、RGBカメラ等を用いる場合に比べて、照明環境等の外乱光の影響が抑制された状態で色データが取得される。また、複数の染料が用いられてレンズLが染色された場合でも、波長毎の強度の分布である分光スペクトルが取得されるので、染色されたレンズLの色データが適切に取得される。取得した分光スペクトルのデータを利用して、CIEL*a*b*表色系、XYZ表色系、L*C*h表色系、マンセル表色系等の値を使用しても良い。ただし、分光計測器以外のデバイス(例えばRGBカメラ等)が、色データ計測器として使用されてもよい。
【0037】
制御装置70は、染色システム1における各種制御を司る。本実施形態では、制御装置70は、染色システム1によって実行される染色工程における色に関する情報(以下、「色情報」という)を推定する色情報推定装置として機能する。詳細は後述するが、本実施形態では、レンズL(樹脂体)を目的の色に染色するために基体に印刷することが必要なインクの量、および、基体にインクを予定量印刷した場合に染色されるレンズLの色(計測される色データ)の少なくともいずれかが、色情報として推定される。
【0038】
制御装置70には、種々の情報処理装置(例えば、PC、サーバ、および携帯端末等の少なくともいずれか)を使用できる。制御装置70は、制御を司るコントローラ(例えばCPU等)71と、各種データ(例えば、後述するジョブデータ等)を記憶するデータベース72を備える。なお、制御装置70の構成を変更することも可能である。まず、複数のデバイスが協働して制御装置70として機能してもよい。例えば、染色システム1における各種制御を司る制御装置と、データベース72を備えた制御装置が別のデバイスであってもよい。また、複数のデバイスのコントローラが協働して、染色システム1における各種制御を実行してもよい。例えば、搬送装置10、印刷装置30、転写装置40、染料定着装置50、および色データ計測器60の少なくともいずれかがコントローラを備える場合も多い。この場合、制御装置70のコントローラと他の装置のコントローラが協働して、染色システム1の制御を司ってもよい。
【0039】
染色システム1は、搬送されるユニット(染色用トレイ80と、染色用トレイ80に載置されたレンズLを含む)毎に、染色されるレンズLに関する情報を読み取る読取部2を備える。一例として、本実施形態の読取部2は、搬送されるユニット毎(例えば、染色用トレイ80毎)に設けられた識別子を読み取る識別子読取部である。読取部2によって読み取られる識別子によって、ユニットが特定される。ユニットが特定されることで、ユニットに含まれるレンズLに対応する予定色(染色する予定の色)のデータ、レンズLを予定色に染色するために基体に印刷されるインク量のデータ、染色されたレンズLについて色データ計測器60によって計測された色データ等が管理される。
【0040】
本実施形態の読取部2は、使用されている識別子に対応する識別子リーダー(例えば、QRコード(登録商標)リーダー、バーコードリーダー、識別穴リーダー等)である。また、読取部2は、情報を書き込み可能なタグ(例えばICタグ等)から情報を読み取るタグ読取部であってもよい。この場合、タグには、各々のユニットに対応するデータが記憶されていてもよい。図1では、染色システム1を構成する複数の装置のうち、色データ計測器60に設けられた読取部2のみが図示されている。しかし、読取部は、染色システム1のうち、色データ計測器60以外の部分にも設けられている。
【0041】
図2を参照して、本実施形態の染色システム1で使用される染色用トレイ80について説明する。図2は、2つのレンズLが設置(載置)され、且つ基体が設置されていない状態の染色用トレイ80の斜視図である。本実施形態の染色用トレイ80は、トレイ本体81、載置枠89、およびスペーサ87を備える。載置枠89には、染色対象となる樹脂体(本実施形態ではレンズL)が載置される。本実施形態の載置枠89は、レンズLよりもやや大きい外径を有するリング状に形成されている。スペーサ87は、載置枠89のうち、レンズLが載置される部位の外周部から上方に筒状(円筒状)に延びる。トレイ本体81には装着部82が形成されている。装着部82には、載置枠89およびスペーサ87が着脱可能に装着される。本実施形態では、1つのトレイ本体81に2つの装着部82が形成されている。従って、1つの眼鏡に使用される一対(左右)のレンズLが、1つの染色用トレイ80に載置された状態で染色される。
【0042】
(色情報推定処理)
図3図11を参照して、本実施形態の制御装置(色情報推定装置)70が実行する色情報推定処理について説明する。色情報推定処理では、レンズを目的の色に染色するために基体に印刷することが必要なインクの量、および、基体にインクを予定量印刷した場合に染色されるレンズの色(色データ計測器60によって計測されると推定される色データ)の少なくともいずれかが、色情報として推定される。制御装置70のコントローラ71は、色情報推定処理を実行させる指示が入力されると、データベース72に記憶されている色情報推定プログラムに従って、図3に示す色情報推定処理を実行する。
【0043】
図3に示すように、制御装置70は、色情報推定処理を開始すると、ジョブデータを管理するための指示がユーザ(例えば作業者等)によって入力されたか否かを判断する(S1)。ジョブデータは、過去に実施された染色工程において基体に印刷されたインクの量のデータ(インク量データ)と、その基体によって染色されたレンズについて色データ計測器60によって計測された色データのセットを含む。本実施形態では、複数のジョブデータがデータベース72に記憶されている。
【0044】
図4は、表示装置に表示されるジョブデータ一覧表示画面100の一例を示す図である。図4に示す例では、各々のジョブデータには、ジョブデータを特定するための番号である「ジョブNo.」101、レンズの素材を示す「Lens ID」102、ジョブデータにおける色の名前を示す「Color」13、色の濃度を示す「Density」104、使用された各々のインクのインク量データを示す「Ink」105、使用されたインクの総量を示す「Ink sum」106、染色の種類が全体染色(F:Full)、グラデーション(G)、およびWカラー(W)のいずれであるかを示す「F/G/W」107、左右のレンズの径を示す「R/L Diameter」108、左右のレンズの度数(図4では円柱度数のみを例示)を示す「R/L SPH」109、および、色データ計測器60によって計測された色データを示す「Measured log」110等が含まれている。なお、各々のジョブデータには、他の情報(例えば、作成された時期または記憶された時期等を示す情報等)も含まれているが、これらの詳細な説明は省略する。また、レンズの素材は任意に設定できる。例えば、レンズの素材として、CR-39、POLY、MR-7、MR-8、Midindex等の少なくともいずれかが含まれていてもよい。ユーザがレンズの素材を追加することも可能である。
【0045】
図5は、特定のジョブデータについての、色データ計測器60によって計測された色データの詳細を示す測定色データ表示画面120の一例を示す。色データを表現するための具体的な方法は、適宜選択することができる。一例として、本実施形態では、左右のレンズ「R/L」の各々の色データが、明度(L*)、色相(a*、b*)、視感透過率(Tv)、色相角度(h)、および彩度(C*)によって表現されている。さらに、本実施形態では、色空間色度図121および視感透過率表示部122の各々において、指定されている色データに対応する色が示される。
【0046】
ただし、図5に示す値と共に、他の値(例えば、指定した波長の透過率、左右のレンズの色差、特定の色データに対する色差等の少なくともいずれか)が用いられてもよい。また、異なる表色系(例えば、RGB表色系、またはXYZ表色系等の少なくともいずれか)によって色データが表現されてもよい。
【0047】
なお、以後の処理において参照されるジョブデータは、色情報推定処理によって推定された色情報を利用する染色システム1と同一の染色システム1によって過去に実施された染色工程のデータである。従って、染色システムの違いに起因する染色の程度の変化の影響が抑制された状態で、より正確に色情報が推定され易くなる。
【0048】
図3の説明に戻る。本実施形態では、ユーザは、操作部(図示せず)を操作し、ジョブデータ一覧表示画面100等に表示されている複数のジョブデータのいずれかを指定して、ジョブデータの管理内容を指定する指示を入力することで、ジョブデータの種々の管理を制御装置70に実行させることができる。管理内容を指定する指示が入力されていなければ(S1:NO)、処理はそのままS3へ移行する。
【0049】
管理内容を指定する指示が入力されると(S1:YES)、制御装置70は、入力された指示に応じてジョブデータを処理する(S2)。例えば、指定されたジョブデータを、信頼性が低いデータとする指示が入力されると、制御装置70は、指定されたジョブデータを、色情報を推定するために用いられる近似データの検索処理(図8のS30参照、詳細は後述する)の対象から除外する。従って、ユーザは、信頼性が低いジョブデータ(例えば、染色結果が予想よりも大幅に異なったジョブデータ等)を近似データの検索処理の対象から除外することで、信頼性が低いジョブデータによって色推定の精度が低下してしまう可能性を低下させることができる。
【0050】
また、制御装置70は、データベース72に記憶されている複数のジョブデータの数が上限を超えた場合に、作成された時期が古いジョブデータから順にデータベース72から削除するデータ自動削除処理を実行することが可能である。S1において、ユーザが指定したジョブデータを、データ自動削除処理の対象から除外する指示が入力されると、制御装置70は、指定されたジョブデータを、データ自動削除処理の対象外となるキープリストに含めることで、自動削除の対象から除外する。従って、データベース72に記憶されているデータの量が過度に増加することが抑制されると共に、色推定に必要と判断されたジョブデータは適切にデータベース72内に記憶され続ける。
【0051】
なお、S2では、他の処理を行うことも可能である。例えば、S1においてジョブデータの検索条件が指定された場合には、制御装置70は、複数のジョブデータの中から、指定された検索条件に合致するジョブデータを検索して表示装置に表示させてもよい。また、S2では、ユーザによって入力された指示に応じて、指定されたジョブデータに関する詳細な情報(例えば、図5に示す測定色データ表示画面120等)を出力してもよい。
【0052】
次いで、制御装置70は、仮推定用ジョブデータ取得処理を開始させる指示がユーザによって入力されたか否かを判断する(S3)。仮推定用ジョブデータとは、レンズへの染料の定着不良が生じていないと判断された染色工程についてのジョブデータである。詳細は後述するが、複数の仮推定用ジョブデータに基づいて、仮推定式が生成される(S6)。仮推定式は、レンズへの染料の定着不良が生じていない場合の、基体に印刷されるインクの量と、その基体によって染色されるレンズの、色データ計測器60によって計測される色データの相関関係を示す。後述する推定処理(S8)では、仮推定式と、目的の色に近いジョブデータ(近似データ)の両方に基づいて、色情報が推定される。仮推定用ジョブデータ取得処理を開始させる指示が入力されていなければ(S3:NO)、処理はそのままS5へ移行する。仮推定用ジョブデータ取得処理を開始させる指示が入力されると(S3:YES)、制御装置70は、仮推定用ジョブデータ取得処理を実行する(S4)。
【0053】
図6を参照して、仮推定用ジョブデータ取得処理について詳細に説明する。まず、制御装置70は、複数種類のレンズの素材毎に(つまり、複数種類の素材の少なくともいずれかについて)、仮推定用ジョブデータを取得するための染色工程のパラメータを規定した仮推定用ジョブを自動設定する(S11)。一例として、本実施形態では、レンズの素材毎に、素材に応じた仮推定式を適切に生成するために必要な複数の仮推定用ジョブが予め定められている。ユーザは、操作部を操作し、レンズの素材を指定したうえで仮推定用ジョブの設定指示を入力する。S11では、制御装置70は、指定された素材についての複数の仮推定用ジョブを自動設定する。自動的に設定されたパラメータ(仮推定用ジョブ)に従って染色工程が行われることで、適切な仮推定用ジョブデータが容易に取得されて、データベース72に保存される。よって、簡易な手順で、且つ、より高い精度で色情報が推定され易くなる。
【0054】
図7は、表示装置に表示された仮推定用ジョブ表示画面130の一例を示す。図7に例示する仮推定用ジョブ表示画面130には、レンズ素材表示部131、登録時期表示部132、仮推定式生成ボタン133、および仮推定用ジョブ表示部135が含まれている。レンズ素材表示部131には、設定された仮推定用ジョブが対応するレンズの素材(図7に示す例では「MR-8」)が表示される。登録時期表示部132には、設定された仮推定用ジョブに基づいて複数の仮推定用ジョブデータが取得(記憶)された時期が表示される。仮推定式生成ボタン133は、取得された複数の仮推定用ジョブデータに基づいて仮推定式を制御装置70に生成させる際に、ユーザによって操作される。仮推定式生成ボタン133は、指定された素材についての全ての仮推定用ジョブデータが取得された以後に操作される(詳細は後述する)。仮推定用ジョブ表示部135には、指定された素材について設定された複数の仮推定用ジョブと、各々の仮推定用ジョブに基づく仮推定用ジョブデータが取得済みであるか否かを示す情報が表示される。図7に示す例では、仮推定用ジョブに基づく仮推定用ジョブデータが取得済みである場合には、「Registered」に「OK」が表示される。
【0055】
素材毎に設定される複数の仮推定用ジョブのパラメータは、染色工程に含まれる印刷工程において、基体に印刷するインクの種類およびインクの量の少なくともいずれかが工程毎に異なるように設定されている。従って、複数の仮推定用ジョブに基づいて複数の仮推定用ジョブデータが取得されると、複数の仮推定用ジョブデータから生成される仮推定式では、使用するインクの種類および量に関わらず、インク量と、染色されるレンズの色の相関関係が適切に示される。
【0056】
本実施形態では、複数の仮推定用ジョブには、染料が転写されていない樹脂体に対して染料定着工程と同様のレンズの加熱処理を実行させる仮推定用ジョブ(つまり、インクを全く使用せずに染料定着工程を実行させる仮推定用ジョブ)が含まれる。図7に示す例では、仮推定用ジョブ表示部135に表示されている「CLR」の仮推定用ジョブが、インクを使用しない仮推定用ジョブ(インク不使用ジョブ)として設定されている。インク不使用ジョブに基づいて、他の染色工程と同様の工程がレンズに対して実行されることで、インクが使用されないジョブデータ(以下、「クリアデータ」という)が取得される。ここで、染料定着工程によってレンズが加熱される際に、レンズが僅かに変色する現象(「黄変」等と言われる)が生じる場合がある。仮推定用ジョブデータにクリアデータを含めることで、染料定着工程による樹脂体の変色の影響も反映された仮推定式が生成される。その結果、色推定の精度がさらに向上し易くなる。
【0057】
また、本実施形態では、複数の仮推定用ジョブには、複数色のインク毎に、単色のインク(つまり、「RED(赤)」「YEL(黄)」「BLU(青)」の各々)のインクを使用して染色工程を実行させるための仮推定用ジョブが含まれる。つまり、本実施形態では、設定された複数の仮推定用ジョブの各々に基づいて染色工程が実行されることで、単色のインクによる仮推定用ジョブデータが、複数色のインクの各々について取得される。従って、仮推定用ジョブデータに基づいて仮推定式を設定する際に、各々のインクの色毎にデータを処理することができるので、仮推定式がより適切に生成され易くなる。
【0058】
さらに、本実施形態では、複数の仮推定用ジョブには、単色のインクの濃度を変化させて複数回の染色工程を実行させる複数の仮推定用ジョブが含まれている。つまり、本実施形態で設定される複数の仮推定用ジョブによると、単色のインクの濃度を変化させて複数回の染色工程が行われることで取得される複数のジョブデータが含まれる。従って、単色のインクの濃度の変化が考慮された適切な仮推定式が生成され易くなる。
【0059】
図6の説明に戻る。制御装置70は、設定された複数の仮推定用ジョブの少なくともいずれかを実行させる指示が入力されたか否かを判断する(S12)。本実施形態では、ユーザは、操作部を操作することで、複数の仮推定用ジョブの少なくともいずれかを指定し、指定した仮推定用ジョブを実行させる指示を入力することができる。実行指示が入力されていなければ(S12:NO)、処理はそのままS19へ移行する。
【0060】
仮推定用ジョブを実行させる指示が入力されると(S12:YES)、制御装置70は、指定された仮推定用ジョブのパラメータに基づいて、レンズに対する染色工程(つまり、印刷工程、転写工程、および染料定着工程)を実行する(S14)。制御装置70は、染色工程を経て染色されたレンズ(インク不使用ジョブが指定された場合には、インクが用いられずに染料定着工程が行われたレンズ)について色データ計測器60(図1参照)によって計測された色データを取得する(S15)。その結果、指定された仮推定用ジョブに基づく仮推定用ジョブデータが生成される。
【0061】
次いで、制御装置70は、S14およびS15で生成された仮推定用ジョブデータが、信頼性が高いジョブデータであるか否かを判断する(S16)。本実施形態では、ユーザは、染色工程を経たレンズの状態の良否を判断することで、生成された仮推定用ジョブデータの信頼性が高いか否かを判断し、判断した結果を制御装置70に入力する。仮推定用ジョブデータの信頼性が高いことを示す結果が入力された場合(S16:YES)、制御装置70は、S14,S15で生成された仮推定用ジョブデータを、素材に対応させてデータベース72に記憶させる(S17)。一方で、仮推定用ジョブデータの信頼性が低いことを示す結果が入力された場合(S16:NO)、制御装置70は、S14,S15で生成された仮推定用ジョブデータを、仮推定式の生成処理(詳細は後述する)において参照されるデータから除外する(S18)。その結果、仮推定式によって示されるインク量と色データの相関関係の精度が向上し易くなる。
【0062】
処理を終了させる指示が入力されていなければ(S19:NO)、S12~S19の処理が繰り返されることで、複数の仮推定用ジョブデータが取得される。終了指示が入力されると(S19:YES)、処理は色情報推定処理(図3参照)に戻る。
【0063】
図3の説明に戻る。制御装置70は、仮推定式を生成させる指示がユーザによって入力されたか否かを判断する(S5)。前述したように、本実施形態では、仮推定式生成ボタン133(図7参照)がユーザによって操作されることで、仮推定式を生成させる指示が入力される。なお、仮推定式生成ボタン133は、指定された素材についての全ての仮推定用ジョブデータが取得された以後に操作される。仮推定式の生成指示が入力されていなければ(S5:NO)、処理はそのままS7の判断へ移行する。仮推定式の生成指示が入力されると(S5:YES)、制御装置70は、複数の仮推定用ジョブデータに基づいて、基体に印刷されるインクの量と、その基体によって染色される樹脂体の色データの相関関係を示す仮推定式を生成する(S6)。仮推定式では、レンズへの染料の定着不良が生じないと仮定した場合の、インク量と色データの相関関係が示される。
【0064】
前述したように、本実施形態における仮推定式生成処理(S6)では、複数種類のレンズの素材毎に、同一の素材について取得された複数の仮推定用ジョブデータに基づいて仮推定式が生成される。従って、素材に応じた適切な仮推定式が生成される。
【0065】
次いで、制御装置70は、色情報の推定処理を実行させる指示がユーザによって入力されたか否かを判断する(S7)。指示が入力されていなければ(S7:NO)、処理はそのままS1へ戻り、S1~S8の処理が繰り返される。色情報の推定処理を実行させる指示が入力されると(S7:YES)、制御装置70は推定処理を実行する(S8、図8参照)。
【0066】
推定処理の概要について説明する。推定処理では、まず、目的の色を基準として複数の近似データが検索される。一例として、本実施形態では、複数のジョブデータのうち、ユーザによって指定されたジョブデータが、参照データとして設定される。設定された参照データにおける色(色データ)が、目的の色として設定され、設定された目的の色を基準として近似データが検索される。次いで、検索された複数の近似データに基づいて、インクの量とレンズの色データの相関関係を示す推定式が生成される。生成された推定式に基づいて、レンズを目的の色に染色するために基体に印刷することが必要なインクの量(つまり、必要インク量)、および、基体にインクを予定量印刷した場合に染色されるレンズの色(つまり、染色結果)の少なくともいずれか(本実施形態では両方)が推定される。
【0067】
図9および図11を参照して、推定処理の実行中に表示装置に表示される色推定用画面200の一例について説明する。なお、図9および図11では、ユーザが情報を入力可能な枠を太い枠で示し、情報が自動で表示される枠を細い枠で示す。色推定用画面200には、レンズ素材指定部201および色登録部202が含まれる。レンズ素材指定部201では、色情報を推定する対象のレンズの素材が指定される。図9および図11に示す例では、レンズの素材として「MR-8」が指定されている。色登録部202には、色の名称(図9および図11に示す例では、「COPR」の名称)が登録される。
【0068】
色推定用画面200には、参照インク量データ表示部210、および参照色データ表示部220が含まれる。参照インク量データ表示部210には、ユーザによって指定された参照データ(つまり、目的の色に近い色データを有するジョブデータ)に含まれるインク量データが、印刷装置30における複数のインクスロットの各々のインクの種類毎に表示される。参照色データ表示部220には、ユーザによって指定された参照データに含まれる色データ(本実施形態では、色データ計測器60による計測結果に基づく色データ)が表示される。一例として、本実施形態では、明度(L*)、色相(a*、b*)、視感透過率(Tv)、色相角度(h)、および彩度(C*)によって色データが表現される。
【0069】
色推定用画面200には、サーチボタン251および検索データ数表示部260が含まれる。サーチボタン251は、複数のジョブデータの中から、目的の色を基準として近似データを検索させるために、ユーザによって操作される。検索データ数表示部260には、検索された近似データの数が表示される。なお、図9に示す例では、近似データが検索される前の色推定用画面200が示されているので、検索データ数表示部260は空欄となっている。
【0070】
色推定用画面200には、インク量入力部211、染色結果推定実行ボタン252、および第1推定色表示部221が含まれる。インク量入力部211には、基体にインクを予定量印刷した場合に染色されるレンズの色(つまり、染色結果)を推定させるために、各々のインクスロットから吐出させるインク量がユーザによって入力される。染色結果推定実行ボタン252は、インク量入力部211に入力された量のインクが基体に印刷されて染色工程が行われる場合の、レンズの色(染色結果)の推定処理を実行させるために、ユーザによって操作される。第1推定色表示部221には、インク量入力部211に入力された量のインクが使用される場合の、染色されるレンズの色データの推定結果が表示される。
【0071】
色推定用画面200には、色データ入力部223、インク量推定実行ボタン253、推定インク量表示部213、および第2推定色表示部224が含まれる。色データ入力部223には、レンズを目的の色に染色するために基体に印刷することが必要なインクの量(つまり、必要インク量)を推定させるために、目的の色の色データがユーザによって入力される。インク量推定実行ボタン253は、色データ入力部223に入力された色にレンズを染色するために必要なインク量の推定処理を実行させるために、ユーザによって操作される。推定インク量表示部213には、色データ入力部223に入力された色にレンズを染色するための必要インク量の推定結果が、インクスロット毎に表示される。第2推定色表示部224には、推定インク量表示部213に表示されたインク量のインクが使用される場合の、染色されるレンズの色データの推定結果が表示される。従って、第2推定色表示部224に表示される色データは、色データ入力部223に入力された色データに近似する。ユーザは、第2推定色表示部224に表示された色データを把握することで、レンズが目的の色に染色される可能性が高いか否かを確認することができる。
【0072】
色推定用画面200には、色空間色度図121、視感透過率表示部122、および表示選択部240が含まれる。前述したように、色空間色度図121および視感透過率表示部122の各々には、特定の色データに対応する色が示される。表示選択部240は、参照色データ表示部220、第1推定色表示部221、および第2推定色表示部224の各々に示される色データのうち、色空間色度図121および視感透過率表示部122に色を示すデータを選択するために、ユーザによって操作される。
【0073】
色推定用画面200には、登録インク量選択部254、登録ボタン255、およびキャンセルボタン256が含まれる。登録インク量選択部254は、インク量入力部211に入力されたインク量と、推定インク量表示部213に表示されたインク量のうち、以後の染色工程に使用するパラメータとして登録するインク量を選択するために、ユーザによって操作される。登録ボタン255は、登録インク量選択部254において選択されたインク量を登録するために、ユーザによって操作される。キャンセルボタン256は、推定処理をキャンセルさせる際にユーザによって操作される。
【0074】
図8図11を参照して、推定処理について詳細に説明する。まず、制御装置70は、ユーザによって入力される指示に応じて、新規に色名(Color)を登録する(S21)。前述したように、本実施形態では、ユーザは、色登録部202に色の名称を入力することで、色名を登録することができる。
【0075】
制御装置70は、データベース72に記憶された複数のジョブデータのうち、ユーザによって指定されたジョブデータを、参照データとして設定する(S22)。制御装置70は、設定された参照データにおける色(色データ)を、目的の色として設定する(S23)。従って、ユーザは、目的の色に近い色データを有するジョブデータを参照データとして指定することで、目的の色を容易に設定することができる。なお、S22で設定できる参照データの数は、1つでもよいし複数でもよい。複数の参照データが設定された場合、制御装置70は、複数の参照データの平均値等を用いて以後の処理を行ってもよい。
【0076】
制御装置70は、設定した参照データに含まれるインク量データおよび色データを、色推定用画面200に表示させる(S24)。詳細には、制御装置70は、参照データに含まれるインク量データを参照インク量データ表示部210に表示させると共に、参照データに含まれる色データを参照色データ表示部220に表示させる。従って、ユーザは、参照データのデータ内容と、以後に実行される色情報の推定結果を容易に比較することができる。
【0077】
また、図9に示すように、本実施形態の制御装置70は、参照データに含まれるインク量データを、インク量入力部211にもプリセット表示させる。従って、ユーザは、染色結果の推定処理を実行させる際に、インク量入力部211にプリセット表示されたインク量を適宜変更するだけで、参照データのインク量を考慮したインク量を容易にインク量入力部211に入力することができる。さらに、本実施形態の制御装置70は、参照データに含まれる色データを、色データ入力部223にもプリセット表示させる。従って、ユーザは、インク量の推定処理を実行させる際に、色データ入力部223にプリセット表示された色データを適宜変更することで、参照データの色データを考慮した色データを容易に色データ入力部223に入力することができる。
【0078】
次いで、近似データの検索処理(S26~S30)について詳細に説明する。検索処理(S26~S30)では、少なくとも、S23で設定された目的の色を基準とした規定をジョブデータ内の色データが満たすことを条件として、データベース72に記憶された複数のジョブデータの中から、条件が合致するジョブデータが近似データとして検索される。
【0079】
本実施形態では、サーチボタン251(図9および図11参照)がユーザによって操作されると、制御装置70は、図10に例示する検索条件設定画面300を表示装置に表示させる。ユーザは、操作部を操作し、検索条件設定画面300上で各種指示を入力することで、近似データの検索条件を指定することができる。検索条件が指定されると(S26:YES)、制御装置70は、指定された条件を近似データの検索条件として設定する(S27)。検索条件が指定されていなければ(S26:NO)、検索の実行指示が入力されたか否かが判断される(S28)。検索の実行指示が入力されていなければ(S28:NO)、S26~S28の処理が繰り返される。
【0080】
図10を参照して、本実施形態における近似データの検索条件の設定方法について説明する。図10に示すように、検索条件設定画面300には、レンズ素材設定部301、色相条件設定部302、色相角度条件設定部303、視感透過率条件設定部304、ディオプター条件設定部305、インク総量条件設定部306、濃度条件設定部307、染色種類条件設定部308、時期条件設定部309、サーチボタン321、およびキャンセルボタン322が表示される。ユーザは、各々の設定部に付されたチェックボックスのうち、検索条件を指定する設定部のチェックボックスにチェックを入力することで、複数の設定部のうち、所望の設定部で検索条件を指定することができる。
【0081】
レンズ素材設定部301では、検索条件としてレンズの素材が指定される。本実施形態では、データベース72には、各々のジョブデータが作成される際に染色されたレンズの素材が識別可能な状態で、複数のジョブデータが記憶されている。レンズ素材設定部301でレンズの素材が指定されると、制御装置70は、指定されたレンズの素材と同一の素材についてのジョブデータであることを条件として、近似データを複数検索する。同じ色をレンズに染色する場合でも、レンズの素材が異なると、異なるインクが用いられる場合もある。また、同じインクを用いて、素材が異なるレンズを染色する場合でも、素材に応じて染色の具合が変化する場合もある。これに対し、指定されたレンズの素材と同一の素材についての近似データに基づいて、推定式の生成処理(詳細は後述する)が実行されることで、素材に応じて適切に色情報が推定され易くなる。なお、レンズ素材設定部301には、参照データが作成される際に染色されたレンズの素材がプリセットで入力されてもよい。この場合、参照データのレンズの素材と同一の素材の近似データが、より容易に検索され易くなる。
【0082】
色相条件設定部302では、検索条件として色相の範囲が指定される。色相角度条件設定部303では、検索条件として色相角度の範囲が指定される。視感透過率条件設定部304では、検索条件として視感透過率の範囲が指定される。色相、色相角度、および視感透過率は、色を表現する方法の一例である。制御装置70は、設定部302~304で設定された範囲内の色のジョブデータであることを条件として、近似データを複数検索する。なお、本実施形態では、設定部302~304には、S23で設定された目的の色の色相、色相角度、および視感透過率が、検索条件の範囲の中央値としてプリセットで入力される。従って、色データが目的の色に近い複数の近似データが、容易且つ適切に検索される。
【0083】
なお、目的の色を基準として近似データを検索するための具体的な方法は、適宜選択できる。本実施形態では、前述したように、検索条件として色の範囲が指定されることで、指定された範囲内の色のジョブデータが近似データとして検索される。しかし、例えば、目的の色に対する色データの近さが近い順に、所定数のジョブデータが近似データとして検索されるように、検索条件が設定されてもよい。この場合でも、目的の色を基準として、目的の色に近い近似データが適切に検索される。
【0084】
ディオプター条件設定部305では、検索条件として、染色されたレンズのディオプターの範囲が指定される。制御装置70は、ディオプター条件設定部305で設定された範囲内のディオプターのレンズのデータであることを条件として、近似データを複数検索する。使用するインクの種類およびインク量が同一であっても、レンズのディオプターが異なると、レンズが染色される程度が変化してしまう場合がある。従って、ディオプターの範囲が検索条件に加えられることで、目的の染色工程に条件が近い近似データがさらに検索され易くなる。その結果、後述する色情報の推定処理の精度がさらに向上し易くなる。
【0085】
インク総量条件設定部306では、検索条件として、ジョブデータを作成する際に使用されたインクの総量の範囲が指定される。制御装置70は、インク総量条件設定部306で設定された範囲内のインク総量が使用されたデータであることを条件として、近似データを複数検索する。使用されるインクの総量が変化すると、染料定着工程において染料が再昇華する程度等も変化するので、レンズが染色される程度も変化し易い。従って、インクの総量の範囲が検索条件に加えられることで、目的の染色工程に条件が近い近似データがさらに検索され易くなる。その結果、後述する色情報の推定処理の精度がさらに向上し易くなる。
【0086】
濃度条件設定部307では、検索条件として、ジョブデータが作成された際のインクの濃度の範囲が指定される。制御装置70は、濃度条件設定部307で設定された範囲内のインクの濃度のデータであることを条件として、近似データを複数検索する。インクの濃度が変化すると、レンズが染色される程度も変化する場合がある。従って、インクの濃度の範囲が検索条件に加えられることで、目的の染色工程に条件が近い近似データがさらに検索され易くなる。その結果、後述する色情報の推定処理の精度がさらに向上し易くなる。
【0087】
染色種類条件設定部308では、検索条件として、染色の種類(本実施形態では、全体染色(F)、グラデーション(G)、およびWカラー(W)のいずれか)が指定される。制御装置70は、染色種類条件設定部308で設定された種類に合致することを条件として、近似データを複数検索する。また、時期条件設定部309では、検索条件として、ジョブデータを作成するための工程(例えば、染色工程およびデータ記憶工程等の少なくともいずれか)が実行された時期の範囲が指定される。制御装置70は、時期条件設定部309で設定された時期の範囲内に作成されたジョブデータであることを条件として、近似データを複数検索する。また、サーチボタン321は、設定した検索条件に基づく近似データの検索処理を実行させるために、ユーザによって操作される。キャンセルボタン322は、は、近似データの検索処理をキャンセルさせる際にユーザによって操作される。
【0088】
図8の説明に戻る。近似データの検索処理の実行指示がユーザによって入力されると(S28:YES)、制御装置70は、設定された検索条件(複数の検索条件が設定されている場合には、全ての検索条件)に基づいて、データベース72に記憶された複数のジョブデータの中から、条件が合致するジョブデータを近似データとして検索する(S30)。なお、本実施形態では、複数の近似データが検索されると、検索された近似データの数が、検索データ数表示部260に表示される(図11参照)。従って、ユーザは、検索された近似データの数を把握することで、色情報の推定の精度等を予測することも可能である。
【0089】
次いで、制御装置70は、S30で検索された複数の近似データに基づいて、基体に印刷されるインクの量と、その基体によって染色されるレンズの色データの相関関係を示す推定式を生成する(S31)。つまり、本実施形態の制御装置70によると、過去に実施された染色工程におけるインク量データと色データのセットを含むジョブデータに基づいて、色情報を推定するための推定式が生成される。従って、印刷装置30の個体差、染色システム1の設置環境、染料定着工程においてレンズを加熱する加熱手段の個体差等に起因する染色の程度の変化の影響が抑制された状態で、色情報がより正確に推定され易くなる。
【0090】
さらに、本実施形態の制御装置70によると、S23で設定された目的の色を基準とした規定を色データが満たす複数のジョブデータ(近似データ)に基づいて、色情報を推定するための推定式が生成される。染色工程を複数回実施する際に、染色するレンズの色が近似していれば、当然ながら、使用するインクの量(例えば、単位面積当たりに吐出するインクの総量、および、複数種類のインクの混合量等)も近似する。使用するインクの量が近似していれば、レンズが染色される程度も近似し易くなる。従って、色が近似している複数のジョブデータに基づいて推定式が生成されることで、使用するインクの量の変化に起因する染色の程度の変化の影響が抑制された状態で、より正確に色情報が推定され易くなる。なお、気相転写染色法では、使用するインクの量が変化すると、染料定着工程において染料が再昇華する程度等も変化する。これに対し、本実施形態の制御装置70によると、染料の再昇華の程度等も近似した複数のジョブデータに基づいて推定式が生成される。よって、本開示の技術は、特に気相転写染色法を用いる場合により有用である。
【0091】
また、本実施形態のS31では、S6(図3参照)で生成された仮推定式と、S30で検索された複数の近似データに基づいて推定式が生成される。前述したように、仮推定式では、レンズへの染料の定着不良が生じないと仮定した場合の、インク量と色データの相関関係が示される。染料の定着不良が生じていない場合には、仮推定式によって色情報を推定することが可能である。しかし、実際の染色工程では、染色する樹脂体の色に応じて、レンズへの染料の定着不良の程度が変化する場合が多い。従って、目的の色に応じて検索される近似データは、染色する色に応じた染料の定着不良が生じたジョブデータである場合がある。よって、推定式を生成する際に、仮推定式と、検索された複数の近似データが共に参照されることで、仮推定式をベースとしつつ、染色する色に応じた染料の定着不良の影響が適切に考慮された推定式が生成される。その結果、色推定の精度がさらに向上し易くなる。一例として、本実施形態では、仮推定式によって求められる色データと、検索された近似データの色データの誤差の相関を示す式が、推定式として生成される。その結果、染色する色に応じた染料の定着不良の影響が適切に考慮された推定式が生成される。
【0092】
前述したように、データベース72には、各々のジョブデータが作成される際に染色されたレンズの素材が識別可能な状態で、複数のジョブデータが記憶されている。S30では、指定されたレンズの素材と同一の素材についてのジョブデータであることを条件として、複数のジョブデータの中から近似データが複数検索される。前述したように、同じ色をレンズに染色する場合でも、レンズの素材が異なると、異なるインクが用いられる場合もある。また、同じインクを用いて、素材が異なるレンズを染色する場合でも、素材に応じて染色の具合が変化する場合もある。これに対し、指定されたレンズの素材と同一の素材についての近似データに基づいて推定式が生成され、生成された推定式に基づいて色情報が推定されることで、素材に応じて適切に色情報が推定され易くなる。
【0093】
詳細には、本実施形態のS31では、仮推定式を生成するために参照された仮推定用ジョブデータのレンズの素材と、複数の近似データのレンズの素材は、全て共通する。つまり、特定のレンズの素材(例えば、色情報を推定する対象の素材)についての仮推定式と複数の近似データに基づいて、推定式が生成される。従って、素材に応じて適切に色情報が推定され易くなる。
【0094】
図8の説明に戻る。S31で推定式が生成されると、制御装置70は、基体にインクを予定量印刷した場合に染色されるレンズの色(つまり、染色結果)を推定させる指示が入力されたか否かを判断する(S33)。図11に示すように、ユーザは、制御装置70に染色結果を推定させる場合には、インク量入力部211にインク量を入力し、染色結果推定実行ボタン252を操作する。染色結果を推定させる指示が入力されると(S33:YES)、制御装置70は、インク量入力部211に入力されたインク量で染色されるレンズの色(色データ)を、S31で生成された推定式(本実施形態では、色情報を推定する対象の素材と共通する素材についての推定式)に基づいて、色情報として推定する(S34)。なお、S34による色データの推定結果は、第1推定色表示部221に表示される。
【0095】
また、制御装置70は、レンズを目的の色に染色するために基体に印刷することが必要なインクの量(つまり、必要インク量)を推定させる指示が入力されたか否かを判断する(S36)。図11に示すように、ユーザは、制御装置70に必要インク量を推定させる場合には、色データ入力部223に目的の色の色データを入力し、インク量推定実行ボタン253を操作する。必要インク量を推定させる指示が入力されると(S36:YES)、制御装置70は、色データ入力部223に入力された色にレンズを染色するために必要なインク量を、S31で生成された推定式(本実施形態では、色情報を推定する対象の素材と共通する素材についての推定式)に基づいて、色情報として推定する(S37)。なお、S37による色データの推定結果は、推定インク量表示部213に表示される。また、制御装置70は、推定インク量表示部213に表示されたインク量のインクが使用される場合の、染色されるレンズの色データを、S31で生成された推定式に基づいて推定し、第2推定色表示部224に表示させる。
【0096】
前述したように、登録インク量選択部254は、インク量入力部211に入力されたインク量と、推定インク量表示部213に表示されたインク量のうち、以後の染色工程に使用するパラメータとして登録するインク量を選択するために、ユーザによって操作される。S34またはS37において色情報が推定されたうえで、実際に染色工程を実行させる指示が入力されると、制御装置70は、登録インク量選択部254によって選択されているインク量に基づいて、実際にレンズLの染色工程を実行し、染色されたレンズの色データを色データ計測器60によって計測する。その後、登録ボタン254が操作されると、制御装置70は、染色工程において使用されたインク量の情報、および、色データ計測器60によって計測された色データ等を含むジョブデータを新たに生成し、データベース72に記憶させる(登録する)。その結果、ジョブデータのサンプルが増えるので、以後に実行される色情報の推定精度が向上する。なお、処理を終了させる指示が入力されると(S39:YES)、推定処理は終了し、処理は色情報推定処理(図3参照)へ戻る。
【0097】
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。例えば、上記実施形態で例示した複数の技術の一部のみを採用してもよい。一例として、上記実施形態のS31(図8参照)では、仮推定式と複数の近似データに基づいて、インク量と色データの相関関係を示す推定式が生成される。しかし、仮推定式を用いずに、複数の近似データに基づいて推定式を生成することも可能である。この場合でも、使用するインクの量の変化等に起因する染色の程度の変化の影響が抑制された状態で、より正確に色情報が推定され易くなる。また、染料定着工程におけるレンズの黄変の影響が少ない場合等には、仮推定用ジョブデータにクリアデータが含まれていなくてもよい。仮推定用ジョブは、ユーザによって入力される指示に応じて(つまり、手動で)設定されてもよい。
【0098】
なお、図8のS23で目的の色を設定する処理は、「目的色設定ステップ」の一例である。図8のS26~S30で複数の近似データを検索する処理は、「近似データ検索ステップ」の一例である。図8のS31で推定式を生成する処理は、「推定式生成ステップ」の一例である。図8のS33~S37で色情報を推定する処理は、「色情報推定ステップ」の一例である。図3のS6で仮推定式を生成する処理は、「仮推定式生成ステップ」の一例である。図6のS11で仮推定用ジョブを自動設定する処理は、「仮推定用工程設定ステップ」の一例である。
【符号の説明】
【0099】
1 染色システム
30 印刷装置
40 転写装置
50 染料定着装置
60 色データ計測器
70 制御装置(色情報推定装置)
71 コントローラ
72 データベース
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