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特開2024-120707薄膜、半導体電極、光電気化学用電極、薄膜の製造方法、薄膜の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120707
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】薄膜、半導体電極、光電気化学用電極、薄膜の製造方法、薄膜の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/368 20060101AFI20240829BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20240829BHJP
   H01L 21/288 20060101ALI20240829BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20240829BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
H01L21/368 Z
H01L21/365
H01L21/288 M
H01L21/28 301R
H01L21/285 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027698
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】押切 友也
(72)【発明者】
【氏名】中川 勝
(72)【発明者】
【氏名】手塚 隆博
(72)【発明者】
【氏名】松尾 保孝
(72)【発明者】
【氏名】石 旭
【テーマコード(参考)】
4M104
5F045
5F053
【Fターム(参考)】
4M104BB36
4M104BB37
4M104BB39
4M104DD43
4M104DD45
4M104DD51
4M104DD78
4M104DD86
4M104GG04
4M104HH16
5F045AA08
5F045AA15
5F045AB40
5F045AC07
5F045AC11
5F045AD07
5F045AE23
5F045BB08
5F045CA13
5F045DA52
5F045EE19
5F053DD20
5F053FF02
5F053GG02
5F053JJ01
5F053LL05
5F053PP03
(57)【要約】
【課題】導電率が高く、かつ低コストで効率的に成膜が可能な、金属酸化物からなる薄膜、半導体電極、光電気化学用電極、薄膜の製造方法、および薄膜の製造装置を提供する。
【解決手段】金属酸化物からなる薄膜であって、支持体上に層状に分散された金属酸化物の結晶性粒子からなる第1層と、前記結晶性粒子どうしの空隙を埋めるように配され、前記結晶性粒子よりも結晶化度が低く、かつ粒子径が小さい前記金属酸化物の組成物からなる第2層と、からなることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物からなる薄膜であって、
支持体上に層状に分散された金属酸化物の結晶性粒子からなる第1層と、
前記結晶性粒子どうしの空隙を埋めるように配され、前記結晶性粒子よりも結晶化度が低く、かつ粒子径が小さい前記金属酸化物の組成物からなる第2層と、からなることを特徴とする薄膜。
【請求項2】
前記薄膜は、前記金属酸化物を構成する金属元素を含む原料化合物由来のフラグメントイオンと、前記金属酸化物を構成する金属元素と同種の金属元素を含有する有機金属錯体由来のフラグメントイオンとが、共に不純物として含まれることを特徴とする請求項1に記載の薄膜。
【請求項3】
前記薄膜は、p型半導体膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜。
【請求項4】
前記金属酸化物は、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化銅、酸化コバルト、酸化ニオブのいずれかを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜。
【請求項5】
前記金属酸化物は酸化ニッケルであり、前記第2層の厚みは1nm以上、30nm未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜。
【請求項6】
前記薄膜は、ビス-(シクロペンタジエニル)ニッケル由来のC /NiHの値が0.4以上1.0未満、かつX線光電子分光法を用いたNi3+のピーク面積/Ni2+のピーク面積の値が2.30以上2.60未満であることを特徴とする請求項5に記載の薄膜。
【請求項7】
請求項1または2に記載の薄膜を含むことを特徴とする半導体電極。
【請求項8】
請求項1または2に記載の薄膜を含むことを特徴とする光電気化学用電極。
【請求項9】
請求項1または2に記載の薄膜の製造方法であって、
前記金属酸化物を構成する金属元素を含む原料化合物をゲル化した成膜液の膜を形成する湿式塗布工程と、
前記成膜液の膜を熱酸化させて、前記金属酸化物の前記結晶性粒子からなる第1層を形成する熱酸化工程と、
前記金属酸化物を構成する金属元素と同種の金属元素を含有する有機金属錯体を用いて、プラズマエンハンスド原子層堆積法によって前記結晶性粒子どうしの空隙を埋めるように、前記結晶性粒子よりも結晶化度が低く、かつ粒子径が小さい前記金属酸化物の組成物からなる第2層を形成する原子層堆積工程と、を少なくとも備えたことを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項10】
前記金属酸化物として、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化銅、酸化コバルト、酸化ニオブのいずれかを用いることを特徴とする請求項9に記載の薄膜の製造方法。
【請求項11】
前記有機金属錯体として、金属シクロペンタジエニル化合物、金属プロピレン化合物、金属カルボニル化合物、金属アルカンジオン酸化合物、金属アミノアルコキシド化合物、金属アミジナート化合物のいずれかを用いることを特徴とする請求項9に記載の薄膜の製造方法。
【請求項12】
前記金属酸化物として、酸化ニッケルを用い、前記有機金属錯体としてビス-(シクロペンタジエニル)ニッケルを用い、前記原子層堆積工程において、前記第2層の厚みが1nm以上、30nm未満となるように前記第2層を形成することを特徴とする請求項9に記載の薄膜の製造方法。
【請求項13】
請求項1または2に記載の薄膜の製造装置であって、
前記金属酸化物を構成する金属元素を含む原料化合物をゲル化した成膜液の膜を形成可能な湿式塗布手段と、
前記成膜液の膜を熱酸化させて、前記金属酸化物の前記結晶性粒子からなる第1層を形成する熱酸化手段と、
前記金属酸化物を構成する金属元素と同種の金属元素を含有する有機金属錯体を用いて、プラズマエンハンスド原子層堆積法によって前記結晶性粒子どうしの空隙を埋めるように、前記結晶性粒子よりも結晶化度が低く、かつ粒子径が小さい前記金属酸化物の組成物からなる第2層を形成する原子層堆積手段と、を少なくとも備えたことを特徴とする薄膜の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物からなる薄膜、半導体電極、光電気化学用電極、薄膜の製造方法、および薄膜の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、可視光を透過し、紫外光を吸収して発電する透過型太陽電池は、酸化物透明導電膜(TCO)を用いてpn接合することによって形成することができる。このうち、n型TCOは、現在広い分野で利用されている一方で、p型TCOは高品質な薄膜の作製が困難であるため、こうしたpn接合デバイスの開発の妨げとなっている。
【0003】
p型TCOの一例として、酸化ニッケル薄膜、酸化クロム薄膜、酸化銅薄膜、酸化コバルト薄膜、酸化ニオブ薄膜などが挙げられる。このうち、例えば、酸化ニッケル薄膜は、バンドギャップが3.7eVである岩塩型構造の遷移金属酸化物であり、p型半導体特性を示す数少ないワイドギャップ材料として、p型半導体材料への利用が考えられている。
【0004】
こうした酸化ニッケル薄膜に代表されるp型半導体薄膜を製造する際には、例えば、ゾル-ゲル法による湿式成膜や、スパッタリング法や原子層堆積法(ALD:Atomic layer deposition)などの乾式成膜が知られている。
【0005】
例えば、非特許文献1には、ゾル・ゲルディップ法によって、NiO薄膜をエピタキシャル成長させる方法が開示されている。
また、非特許文献2には、スパッタリングによって、NiO薄膜を成膜する方法が開示されている。
更に、非特許文献3には、ALDによって、NiO薄膜を成膜する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takashi YASUDA and Shinji NAKAGOMI,石巻専修大学研究紀要 第32号55-59 2021年3月
【非特許文献2】Osamu Kohmoto, Hiromichi Nakagawa and Fumihisa Ono, Journal of the Japan Society of Powder and Powder Metallurgy Vol.46, No.8
【非特許文献3】Dibyashree Koushik, Marko Jost, Algirdas Ducinskas, Claire Burgess, Valerio Zardetto, Christ Weijtens, Marcel A. Verheijen, Wilhelmus M. M. Kessels, Steve Albrecht and Mariadriana Creatore, This journal is The Royal Society of Chemistry 2019,7,12532-12543
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に挙げたような、湿式成膜によって薄膜を形成する場合、膜成分を分散させた溶媒の蒸発によって、形成される薄膜には空隙が多数形成される。こうした空隙の多い薄膜を、例えばp型半導体薄膜として用いた場合、空隙によって導電率が低くなるため、光化学反応効率が低くなってしまうという課題があった。
【0008】
一方、非特許文献2、3に挙げたような、乾式成膜によって薄膜を形成する場合、形成された薄膜の結晶性が低いため、やはり導電率の低下によって、光化学反応効率が低くなってしまうという課題があった。また、ALDによる成膜は、原子層を1層ずつ積み上げて成膜するため、実用的な厚みの薄膜を成膜するために、成膜時間が非常に長くなり、生産性が低いという課題もある。
【0009】
本発明は、このような技術的背景に鑑みてなされたものであって、導電率が高く、かつ低コストで効率的に成膜が可能な、金属酸化物からなる薄膜、半導体電極、光電気化学用電極、薄膜の製造方法、および薄膜の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)本発明の態様1の薄膜は、金属酸化物からなる薄膜であって、支持体上に層状に分散された金属酸化物の結晶性粒子からなる第1層と、前記結晶性粒子どうしの空隙を埋めるように配され、前記結晶性粒子よりも結晶化度が低く、かつ粒子径が小さい前記金属酸化物の組成物からなる第2層と、からなることを特徴とする。
【0012】
(2)本発明の態様2は、態様1の薄膜において、前記薄膜は、前記金属酸化物を構成する金属元素を含む原料化合物由来のフラグメントイオンと、前記金属酸化物を構成する金属元素と同種の金属元素を含有する有機金属錯体由来のフラグメントイオンとが、共に不純物として含まれることを特徴とする。
【0013】
(3)本発明の態様3は、態様1または2の薄膜において、前記薄膜は、p型半導体膜であることを特徴とする。
【0014】
(4)本発明の態様4は、態様1から3のいずれか1つの薄膜において、前記金属酸化物は、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化銅、酸化コバルト、酸化ニオブのいずれかを含むことを特徴とする。
【0015】
(5)本発明の態様5は、態様1または2の薄膜において、前記金属酸化物は酸化ニッケルであり、前記第2層の厚みは1nm以上、30nm未満であることを特徴とする。
【0016】
(6)本発明の態様6は、態様5の薄膜において、前記薄膜は、ビス-(シクロペンタジエニル)ニッケル由来のC /NiHの値が0.4以上1.0未満、かつX線光電子分光法を用いたNi3+のピーク面積/Ni2+のピーク面積の値が2.30以上2.60未満であることを特徴とする。
【0017】
(7)本発明の態様7の半導体電極は、態様1から6のいずれか1つの薄膜を含むことを特徴とする。
【0018】
(8)本発明の態様8の光電気化学用電極は、態様1から6のいずれか1つの薄膜を含むことを特徴とする。
【0019】
(9)本発明の態様9の薄膜の製造方法は、態様1から6のいずれか1つの薄膜の製造方法であって、前記金属酸化物を構成する金属元素を含む原料化合物をゲル化した成膜液の膜を形成する湿式塗布工程と、前記成膜液の膜を熱酸化させて、前記金属酸化物の結晶性粒子からなる第1層を形成する熱酸化工程と、前記金属酸化物を構成する金属元素と同種の金属元素を含有する有機金属錯体を用いて、プラズマエンハンスド原子層堆積法によって前記結晶性粒子どうしの空隙を埋めるように、前記結晶性粒子よりも結晶化度が低く、かつ粒子径が小さい前記金属酸化物の組成物からなる第2層を形成する原子層堆積工程と、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0020】
(10)本発明の態様10は、態様9の薄膜の製造方法において、前記金属酸化物として、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化銅、酸化コバルト、酸化ニオブのいずれかを用いることを特徴とする。
【0021】
(11)本発明の態様11は、態様9または10の薄膜の製造方法において、前記有機金属錯体として、金属シクロペンタジエニル化合物、金属プロピレン化合物、金属カルボニル化合物、金属アルカンジオン酸化合物、金属アミノアルコキシド化合物、金属アミジナート化合物のいずれかを用いることを特徴とする。
【0022】
(12)本発明の態様12は、態様10の薄膜の製造方法において、前記金属酸化物として、酸化ニッケルを用い、前記有機金属錯体としてビス-(シクロペンタジエニル)ニッケルを用い、前記原子層堆積工程において、前記第2層の厚みが1nm以上、30nm未満となるように前記第2層を形成することを特徴とする。
【0023】
(13)本発明の態様13の薄膜の製造装置は、態様1から6のいずれか1つの薄膜の製造装置であって、請求項1または2に記載の薄膜の製造装置であって、前記金属酸化物を構成する金属元素を含む原料化合物をゲル化した成膜液の膜を形成可能な湿式塗布手段と、前記成膜液の膜を熱酸化させて、前記金属酸化物の結晶性粒子からなる第1層を形成する熱酸化手段と、前記金属酸化物を構成する金属元素と同種の金属元素を含有する有機金属錯体を用いて、プラズマエンハンスド原子層堆積法によって前記結晶性粒子どうしの空隙を埋めるように、前記結晶性粒子よりも結晶化度が低く、かつ粒子径が小さい前記金属酸化物の組成物からなる第2層を形成する原子層堆積手段とと、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、導電率が高く、かつ低コストで効率的に成膜が可能な、金属酸化物からなる薄膜、半導体電極、光電気化学用電極、薄膜の製造方法、および薄膜の製造装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る薄膜の模式断面図である。
図2】本発明の一実施形態の薄膜の製造方法を段階的に示したフローチャートである。
図3】支持体の一面上に第1層を形成した状態の模式断面図である。
図4】実施例におけるFE-SEM拡大写真である。
図5】実施例におけるFE-SEM拡大写真である。
図6】実施例におけるX線光電子分光法によるピーク図である。
図7】光電気化学計測を行った計測装置の一例を示す模式構成図である。
図8】照射光波長350nmにおけるIPCEの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その効果を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0027】
[薄膜]
先ず、本発明の一実施形態に係る薄膜について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る薄膜の模式断面図である。
本発明の一実施形態の薄膜10は、不可避不純物を除いて全体が金属酸化物からなる。
薄膜10を構成する金属酸化物は、p型半導体材料となる金属酸化物、例えば、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化銅、酸化コバルト、酸化ニオブのいずれかを含むものであればよい。この場合、本実施形態の薄膜10は、p型半導体膜となる。
【0028】
以下、本実施形態においては、薄膜10を構成する金属酸化物として、酸化ニッケル(NiO)を用いたNiO薄膜(薄膜10)を例示する。こうしたNiOは、バンドギャップが広い岩塩型構造の遷移金属酸化物であり、NiOを用いた薄膜10は、ワイドギャップのp型金属酸化物半導体膜として、高性能な半導体電極や光電気化学用電極を実現することができる。
【0029】
薄膜10は、例えば、支持体(基材)Mの一面上に、層状に分散された金属酸化物の結晶性粒子Rからなる第1層11と、この結晶性粒子Rどうしの空隙を埋めるように配された、金属酸化物の組成物からなる第2層12と、から構成されている。即ち、第1層11と第2層12とは、厚み方向において互いに重なり合う層である。
【0030】
第1層11は、後述する薄膜の製造方法において、ニッケルを含む原料化合物をゲル化した成膜液を支持体Mに塗布した後、熱酸化させる湿式成膜によって形成される層である。
第1層11は、例えば、NiOの結晶性粒子Rが多数散在した層であり、互いの結晶性粒子Rの間には空隙が形成される。1つの結晶性粒子Rは、平均粒径が例えば10nm~100nm程度である。
【0031】
こうした第1層11を構成する個々の結晶性粒子Rは導電性に優れているが、第1層11全体としてみた時には、個々の結晶性粒子Rの間に空隙があり、結晶性粒子Rどうしの連結性が低いため、第1層11だけでの導電率が低くなり、その結果、入射光の電流変換効率も低くなる。
【0032】
このような第1層11は、NiO以外にも、第1層11の成膜時に用いた原料化合物(成膜前駆体)由来のフラグメントイオンが、不可避不純物として存在する。例えば、第1層11の成膜液として、酢酸ニッケル、2-アミノエタノール、ジメチルアミノエタノールなどの混合液を用いた場合、CHO 、C などが残留する。こうしたフラグメントイオンの存在は、第1層11が湿式成膜によって形成されたことを示す。
【0033】
NiO由来のフラグメントイオンには、NiHなどが存在する。なお、NiO由来のフラグメントイオンの具体例としては、NiO、NiOH、NiHなどが挙げられる。そのため、第1層11が湿式成膜によって形成されたことを示すためには、例えば、CHO 、C などの原料化合物(成膜前駆体)由来のフラグメントイオンと、NiHなどのNiO由来のフラグメントイオンの検出量の比を測定すればよい。
【0034】
第2層12は、後述する薄膜の製造方法において、ニッケルを含有する有機金属錯体を用いて、プラズマエンハンスド原子層堆積法(以下、単にALD法と称することがある)によって形成される層である。
第2層12は、第1層11の結晶性粒子Rどうしの空隙を埋めるように成膜されたNiO組成物からなり、その平均粒径は第1層11を構成する結晶性粒子Rよりも小さい。例えば、第2層12を構成するNiO組成物は、平均粒径が例えば10nm未満である。
【0035】
また、第2層12は、ALD法によって成膜されるため、NiO組成物の結晶度は、第1層11のNiOの結晶性粒子Rよりも低い。このため、第2層12自体は導電率が低くなり、入射光の電流変換効率も低くなる。
【0036】
第2層12の厚みは、第1層11と同程度であればよく、例えば、1nm以上、30nm未満、好ましくは5nm以上、30nm未満、より好ましくは10nm以上、30nm未満であればよい。第2層12が1nm以下では、第1層11の導電性を充分に高めることが困難である。また、第2層12が30nm以上では、生産性が低下する懸念がある。
なお、第2層12の厚みが第1層11と同程度である場合、薄膜10全体の厚み範囲も、上述した範囲となる。
【0037】
こうした第2層12は、NiO組成物が第1層11の結晶性粒子Rどうしの空隙を埋めるように形成されるため、第1層11の結晶性粒子Rどうしを電気的に連結する。これにより、薄膜10全体の導電率は、第1層11だけの導電率や、第2層12だけの導電率よりも高くなる。
【0038】
このような第2層12は、NiO以外にも、第2層12の成膜時に用いた有機金属錯体(成膜前駆体)由来のフラグメントイオンが、不可避不純物として存在する。例えば、ALD法による第2層12の成膜時に、成膜前駆体としてビス(シクロペンタジエニル)ニッケルを用いた場合、C 、C などが残留する。こうしたフラグメントイオンの存在は、第2層12がALD法などの乾式成膜によって形成されたことを示す。
なお、有機金属錯体(成膜前駆体)由来のフラグメントイオンの具体例としては、C 、C 、C 、C 、C 、C などが挙げられる。
NiO由来のフラグメントイオンには、NiHなどが存在する。なお、NiO由来のフラグメントイオンの具体例としては、NiO、NiOH、NiHなどが挙げられる。そのため、第2層12がALD法などの乾式成膜によって形成されたことを示すためには、例えば、C 、C などの成膜前駆体由来のフラグメントイオンと、NiHなどのNiO由来のフラグメントイオンの検出量の比を測定すればよい。
【0039】
以上のような構成の本実施形態のNiOからなる薄膜10は、第2層12の成膜時に成膜前駆体として用いるビス-(シクロペンタジエニル)ニッケル由来のC /NiHの値が0.4以上1.0未満、かつX線光電子分光法(XPS)を用いたNi3+のピーク面積/Ni2+のピーク面積の値が2.30以上2.60未満といった特性を有している。なお、XPSの測定条件は、XPS装置(PHI5000VersaProbeII:アルバック株式会社製)、X線源:AlKα線(1486.6eV)、パスエネルギー58.7eVである。
【0040】
以上のような構成の本実施形態の薄膜によれば、導電性の高い粒子である結晶性粒子Rからなる第1層11の空隙を埋めるように、結晶性粒子Rよりも結晶化度が低く、かつ粒子径が小さい金属酸化物の組成物からなる第2層12を形成することによって、結晶性粒子Rどうしが金属酸化物の組成物によって電気的に接続される。これにより、薄膜10全体の導電性が高められ、これにより、光化学反応効率を高めた薄膜10を実現できる。
【0041】
[半導体電極、光電気化学用電極]
上述した実施形態のNiOからなる薄膜10を、例えば、金属などの導電体上に成膜することによって、光電変換作用を有する半導体電極、光電気化学用電極として用いることができる。この時、本実施形態の薄膜10は、光化学反応効率が高いため、優れた光電変換特性を有する光素子を形成することができる。
【0042】
例えば、基板上にp型半導体膜として、上述したようなNiOからなる薄膜10を形成し、この薄膜10上に、更に、薄膜10よりもバンドギャップの小さい半導体からなる活性層と、n型半導体層とを形成すれば、優れた発光特性を有する半導体発光素子なども形成することができる。
【0043】
[薄膜の製造方法、薄膜の製造装置]
次に、上述した実施形態の薄膜の製造方法、薄膜の製造装置を説明する。
図2は、本発明の一実施形態の薄膜の製造方法を段階的に示したフローチャートである。
上述した実施形態の薄膜10を形成する際には、本実施形態の薄膜の製造装置を用いればよい。薄膜の製造装置は、湿式塗布手段と、熱酸化手段と、原子層堆積手段とを備えている。
こうした薄膜の製造装置を用いて、上述した実施形態の薄膜10を形成する際には、支持体(基材)Mを用意する。支持体Mとしては、薄膜10を例えば多投場光電気化学用電極に用いる場合、金属薄板や高耐久性導電材料基板を用いればよい。
【0044】
まず、こうした支持体Mの一面上に、成膜液の膜を形成する(湿式塗布工程S1)。
湿式塗布工程S1では、成膜液を用いる。成膜液としては、第1層11の金属酸化物を構成する金属元素を含む原料化合物をゲル化したものを用いる。本実施形態では、NiOを含む原料化合物として、酢酸ニッケル四水和物((CHCOO)Ni・4HO)を2-アミノエタノールと2-ジエチルアミノエタノールの混合液に溶解させた後、100℃で5時間程度加熱還流させて、ニッケルを含むゲル化させた成膜液(成膜前駆体)を形成した。
【0045】
こうした湿式塗布工程S1を行う湿式塗布手段としては、例えば、スピンコーター、グラビアコーター、バーコーター、ダイコーター、スプレーコーター、孔版印刷機などが挙げられる。
【0046】
こうして形成したゲル化させた成膜液を、支持体Mの一面上に厚みが均一になるように塗布する。本実施形態では、支持体Mを回転させて成膜液を滴下することによって成膜液の膜を形成する、スピンコート法によって湿式成膜を行った。スピンコートの条件は、例えば、回転数1000~6000rpmで30秒~1分程度行えばよい。
【0047】
なお、湿式塗布工程S1で成膜液の膜を形成する方法としては、スピンコート以外にも、例えば、ロールコーターやブレードコーターなどを用いて成膜液の膜を形成することもでき、湿式成膜であれば、成膜方法が限定されるものではない。例えば、ダイコート法、スリットダイコート法、マイクログラビアコート法、バーコート法、孔版印刷などの方法で成膜してもよい。
【0048】
次に、一面上に成膜液の膜を形成した支持体Mを酸素存在下で加熱して、成膜液の成分を酸化させることにより、支持体Mの一面上に金属酸化膜、本実施形態では湿式成膜によるNiO膜からなる第1層11を形成する(熱酸化工程S2)。図3に、支持体Mの一面上に第1層11を形成した模式断面図を示す。
【0049】
本実施形態では、熱酸化工程S2として、2段階で熱酸化を行う。
まず1段階目の熱酸化処理S2-1として、一面に成膜液の膜が形成された支持体Mを、赤外線電気炉を用いて、大気圧、空気存在下で270℃まで加熱を行い、室温まで放冷する。
【0050】
次に、2段階目の熱酸化処理S2-2として、1段階目の熱酸化処理を行った成膜液の膜が形成された支持体Mを、赤外線電気炉を用いて、大気圧、空気存在下で室温(25℃)から600℃まで1時間で昇温させた後、6時間程度保持してから室温まで放冷する。
【0051】
こうした熱酸化工程S2を行う熱酸化手段としては、例えば、ホットプレート、オーブン、ホットプレス装置、キルンなどが挙げられる。
【0052】
このような熱酸化工程S2によって、成膜液の成分が酸化され、支持体Mの一面上には、NiOの結晶性粒子Rが多数散在した第1層11が形成される。こうして形成された第1層11は、熱処理によって、成膜前駆体の酸化で生成されたNiO以外の成分の殆どが蒸発するため、結晶性粒子Rどうしの間には空隙が生じる。
【0053】
また、第1層11には、NiO以外に不可避不純物として、成膜前駆体由来のフラグメントイオン、本実施形態では、CHO 、C などが残留する。こうしたフラグメントイオンの存在は、第1層11が湿式成膜によって形成されたことを示す指標となる。
【0054】
なお、本実施形態では、熱酸化工程S2として、成膜液の膜が形成された支持体Mを2段階で熱酸化しているが、これ以外にも、1回の熱処理で熱酸化を行ったり、3段階以上、多段階で熱処理を行うなどであっても良く、熱処理の回数が限定されるものではない。
【0055】
次に、支持体Mに形成された第1層11に、熱酸化工程S2で形成した金属酸化物を構成する金属元素と同種の金属元素を含有する有機金属錯体を用いて、ALD法によって第2層を形成する(原子層堆積工程S3)。これにより、本実施形態の薄膜10が形成される(図1に示す薄膜の模式断面図)。
【0056】
こうした原子層堆積工程S3を行う原子層堆積手段としては、プラズマALD装置、例えば、AD-230LP-H(SUMCO株式会社製)が挙げられる。
【0057】
原子層堆積工程S3に用いる有機金属錯体としては、例えば、金属シクロペンタジエニル化合物、金属プロピレン化合物、金属カルボニル化合物、金属アルカンジオン酸化合物、金属アミノアルコキシド化合物、金属アミジナート化合物等が挙げられる。本実施形態では、有機金属錯体としてビス-(シクロペンタジエニル)ニッケルを用いた。
【0058】
なお、本実施形態に適用可能な有機金属錯体としては、下記の構造式(1)で示すものを用いることができる。
-M-L ・・・(1)
但し、M:Ni,Co,Cu,Nb
【0059】
上記構造式(1)において、L,Lとしては、以下の化学式(2)~(5)で示すものが例示できる。なお、LとLとは、互いに同じものであっても、互いに異なるものであってもよい。
【0060】
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【0061】
原子層堆積工程S3では、プラズマ原子層堆積装置(ALD装置)を用いて、第1層11を形成した支持体Mを載置した試料ステージを加熱し、かつ、試料ステージが収容されたチャンバー内を減圧してから、上述した有機金属錯体をチャンバー内に導入する。これにより、有機金属錯体が第1層11を形成した支持体Mに物理吸着される。次に、この物理吸着された有機金属錯体に対して、酸素プラズマ処理を行う。
【0062】
これにより、導入した有機金属錯体が酸素プラズマによって分解、酸化され、金属酸化物、本実施形態ではNiO膜として成膜される。この時、生成されるNiO組成物は、結晶性粒子Rよりも結晶化度が低く、かつ粒子径が小さいため、第1層11を構成するNiOの結晶性粒子Rどうしの間に形成されている空隙を埋めるように堆積される。
【0063】
このようにして成膜される第2層12の厚みは第1層11と同程度であればよく、例えば、1nm以上、30nm未満、好ましくは5nm以上、30nm未満、より好ましくは10nm以上、30nm未満にすればよい。
【0064】
こうして形成されたNiOからなる第2層12は、不可避不純物として、第2層12のALD装置による成膜時に用いた有機金属錯体(成膜前駆体)由来のフラグメントイオンが存在する。例えば、ALD法による第2層12の成膜時に、成膜前駆体としてビス(シクロペンタジエニル)ニッケルを用いた場合、C 、C などが残留する。こうしたフラグメントイオンの存在は、第2層12がALD法によって形成されたことを示す指標となる。
【0065】
以上のような工程を備えた本実施形態の薄膜の製造方法によれば、金属酸化物を構成する金属元素を含む成膜液を支持体Mの一面上に塗布した後に熱処理による縮合を伴う湿式成膜によって、結晶性が高い結晶性粒子Rを有し、結晶性粒子R同士の間に空隙をもつ第1層11が形成される。そして、次に金属酸化物を構成する金属元素と同種の金属元素を含有する有機金属錯体を用いて、ALD法によって、第1層11を構成する結晶性粒子Rどうしの空隙を埋めるように、金属酸化物組成物からなる第2層12を形成する。
【0066】
これにより、構成する個々の結晶性粒子R自体は結晶性が高く導電性に優れるが、空隙によって粒子同士が離間して全体として導電性が低下している結晶性粒子Rどうしが第2層の金属酸化物組成物によって接続されるので、湿式成膜だけで形成した金属酸化膜や、乾式成膜だけで形成した金属酸化膜よりも、光化学反応効率が高い金属酸化膜(薄膜)、例えばNiO膜を形成することが可能になる。
【0067】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0068】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0069】
[試料作製:湿式成膜]
(成膜液A)酢酸ニッケル四水和物1.24gを、2-アミノエタノールと2-ジエチルアミノエタノールとの混合液に溶解させた後、100℃で5時間程度加熱還流させて、ニッケルを含むゲル化させた成膜液Aを形成した。
(成膜液B)上述した成膜液Aの酢酸ニッケル四水和物を2.47gに変えたものである。
【0070】
次に、支持体として、石英基板の表面に高耐久性導電膜(HDC)を成膜した高耐久性導電性基板(支持体)を用意し、スピンコーター装置の回転ステージに取り付けて2000rpmで回転させた。そして、上述した成膜液Aを支持体に15μL滴下し、40秒間回転させて成膜液Aを支持体の一面に広げて成膜液Aの膜を形成した。また、上述した条件と同様で成膜液Bを支持体に15μL滴下し、成膜液Bの膜を形成した。
【0071】
続いて、成膜液Aの膜、成膜液Bの膜がそれぞれ形成された支持体を、ホットプレートに載置し、大気中で270℃まで加熱してアニールを行い、室温まで冷却した。次いで、高温ホットプレートを用いて、それぞれの支持体を室温から600℃まで1時間かけて昇温させて、600℃で6時間の保持した後、室温まで放冷した。これにより、成膜液Aによって第1層を湿式成膜した試料(Wet-A)と、成膜液Bによって第1層を湿式成膜した試料(Wet-B)とをそれぞれ得た。
【0072】
[試料作製:乾式成膜]
高耐久性導電性基板(支持体)を用意し、プラズマALD装置(AD-230LP-H:SAMCO株式会社製)を用いて第2層の成膜を行った。まず、支持体をプラズマALD装置のチャンバー内のステージに設置し、ステージ温度300℃、チャンバー内圧力13Paにした後、成膜前駆体である有機金属錯体としてビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(導入圧力50Pa、パルス時間50msec)をチャンバーに導入し、窒素パージを行った。
【0073】
そして、支持体に物理吸着されている有機金属錯体に対して酸素プラズマ処理(RFPower:150W,RFTime:3sec,Oflow:100sccm)をそれぞれ870、1740、2610サイクル繰り返すことにより、ALD法によって支持体に第2層だけを形成した試料(ALD-15:膜厚15nm)、試料(ALD-30:膜厚30nm)、試料(ALD-45:膜厚45nm)をそれぞれ得た。
【0074】
また、本発明例の試料として、湿式成膜した試料(Wet-A)を用いて、上述したALD法と同様の条件で870サイクル、1740サイクルそれぞれ成膜することにより、第1層と第2層とを有する本発明例の試料である(Wet-A-ALD-15:膜厚15nm)と試料(Wet-A-ALD-45:膜厚45nm)とをそれぞれ得た。
同様に、湿式成膜した試料(Wet-B)を用いて、第1層と第2層とを有する本発明例の試料である(Wet-B-ALD-15:膜厚15nm)と試料(Wet-B-ALD-45:膜厚45nm)とをそれぞれ得た。
【0075】
以上によって形成した本発明例の試料である(Wet-A-ALD-15)、(Wet-A-ALD-45)、(Wet-B-ALD-15)、(Wet-B-ALD-45)と、比較例の試料である(Wet-A)、(Wet-B)、(ALD-15)、(ALD-30)、(ALD-45)を用いて、以下の評価を行った。
【0076】
[試料を用いた検証例]
(a)電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)によるNiO表面形状の観察
電界放出形走査電子顕微鏡(S-4800型:株式会社日立ハイテク株式会社製)を用いて、各試料のNiOの表面状態を観察した。
【0077】
試料(Wet-A)、(Wet-B)のFE-SEM拡大写真を図4に示す。また、試料(Wet-A-ALD-15)、(Wet-B-ALD-15)のFE-SEM拡大写真を図5に示す。この図4によれば、湿式成膜によって形成したNiO膜(第1層)は、多数の結晶性粒子どうしの間に空隙が形成されていることが確認できる。一方、図5によれば、第2層のNiO組成物が第1層の空隙を埋めて、凹凸の少ない滑らかなNiO膜(第1層+第2層)が形成されていることが確認できる。
【0078】
(b)飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)
TOF-SIMS5(ION-TOFGmbH:Munster,Germany)を用いて、各試料のNiO表面に残存する組成物の二次イオンを検出した。一次イオンはBi3+を用い、加速エネルギー25kV、イオンドーズ濃度2.1×1011(ions/cm)で照射し、検出された二次イオンのピーク面積(シグナルカウントの積分値)を算出した。
【0079】
試料(Wet-A)、(Wet-B-ALD-15)、(ALD-30)について、TOF-SIMSを用いたALD法での有機金属錯体由来の残留有機物の検出結果を表1に示す。
【表1】
【0080】
表1に示す結果によれば、湿式成膜によるNiO膜と、乾式成膜によるNiO膜とを共に成膜した試料(Wet-B-ALD-15)は、有機金属錯体由来の残留有機物のイオン濃度が、乾式成膜だけの試料、湿式成膜だけの試料のそれぞれ中間的な値になることが確認された。
【0081】
(c)X線光電子分光法(XPS)
XPS装置(PHI5000VersaProbeII:アルバック株式会社製)を用いて、各試料のNiO表面の原子状態を観測した。X線源:AlKα線(1486.6eV)、パスエネルギー58.7eVで計測した。そして、XPSピークをGaussian-Lorentzian混合関数でピーク分離し、ピーク面積から原子価の存在比を評価した。
【0082】
試料(Wet-A)、(Wet-A-ALD-15)、(ALD-30)について、XPS装置を用いて、上述した条件でNi価数の評価を行った。それぞれの試料のピーク図と、Ni3+のピーク(peak2)面積/Ni2+のピーク(peak1)面積の値を図6に纏めて示す。
【0083】
図6に示す結果によれば、本発明例の試料である(Wet-A-ALD-15)のNi3+のピーク面積/Ni2+のピーク面積の値は、乾式成膜だけを行った試料(ALD-30)の値と、湿式成膜だけを行った試料(ALD-30)の値の中間的な値を示すことが確認された。
【0084】
(d)光電気化学計測
各試料のNiOが形成された支持体を作用電極、銀/塩化銀電極を参照電極、プラチナコイルを対極としてポテンショスタットに接続し、0.1moldm-3NaSO水溶液中、-1.0V(vs.Ag/AgCl)を印加しながら単色光を照射し、光照射時の電流の変化量を光電流として入射光電流変換効率(IPCE)を算出した。計測装置の模式構成図を図7に示す。また、IPCEの算出式を以下の式(6)に示す。
IPCE=[光電流密度(A/cm)×1240]/[照射光波長(nm)×照射光束密度(w/cm]×100(%) ・・・(6)
【0085】
試料(Wet-A)、(Wet-A-ALD-15)、(Wet-A-ALD-30)、(Wet-B-ALD-15)、(ALD-15)について、照射光波長を350nmにした場合の上述したIPCEを測定した。この結果を図8にグラフで示す。
【0086】
図8に示す結果によれば、本発明例の試料である(Wet-A-ALD-15)、(Wet-A-ALD-30)、(Wet-B-ALD-15)は、湿式成膜だけで形成した試料(Wet-A)、およびALD法だけで形成した試料(ALD-15)よりも、いずれも優れたIPCE値を有する薄膜であることが確認された。よって、本発明例の薄膜は、従来の方法で形成された薄膜よりも、優れた光電気化学効果を発揮できる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の薄膜、半導体電極、光電気化学用電極、薄膜の製造方法、薄膜の製造装置は、金属酸化膜からなる薄膜の導電性を向上して、優れた光電気化学特性を有する薄膜を実現する。こうした薄膜は、優れた光電変換特性を有する光電変換素子や太陽電池の実現を可能にする。従って、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0088】
10…薄膜
11…第1層
12…第2層
M…支持体(基材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8