(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120732
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】樹脂凸版用粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20240829BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20240829BHJP
B41F 27/06 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J201/00
B41F27/06
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027746
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】596057631
【氏名又は名称】篠田商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠田 洋平
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AB01
4J004FA08
4J040MA02
4J040MB03
4J040NA21
4J040PA20
4J040PA42
(57)【要約】
【課題】貼着面への気泡の残留を防ぎつつ貼着面への洗浄液の浸入を阻止できる樹脂凸版用粘着シートを提供すること。
【解決手段】樹脂凸版とキャリアシートまたは胴シリンダとの間に介設される樹脂凸版用粘着シートであって、基材シートと、基材シートの両面にそれぞれ積層された粘着剤層とを備えており、粘着剤層の表面には、粘着剤層の外周縁に至る凹部が形成されており、粘着剤層に付与される押圧力により粘着剤層が塑性変形し、仮貼着時よりも大きな押圧力が粘着剤層に付与されたときに、少なくとも粘着剤層の外周縁部において凹部内の空間が消失した状態が維持される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂凸版とキャリアシートまたは胴シリンダとの間に介設される樹脂凸版用粘着シートであって、
基材シートと、
基材シートの両面にそれぞれ積層された粘着剤層とを備えており、
前記粘着剤層の表面には、前記粘着剤層の外周縁に至る凹部が形成されており、
前記粘着剤層に付与される押圧力により前記粘着剤層が塑性変形し、仮貼着時よりも大きな押圧力が前記粘着剤層に付与されたときに、少なくとも前記粘着剤層の外周縁部において前記凹部内の空間が消失した状態が維持される、ことを特徴とする樹脂凸版用粘着シート。
【請求項2】
前記凹部が複数の溝からなる請求項1に記載の樹脂凸版用粘着シート。
【請求項3】
一方の前記粘着剤層は、他方の前記粘着剤層よりも粘着力が大きく、
一方の前記粘着剤層の厚さを1としたとき、前記溝の最大溝幅寸法が0.4~1.3であり、深さが0.1~0.5であり、
他方の前記粘着剤層の厚さを1としたとき、前記溝の最大溝幅寸法が0.8~3.0であり、深さが0.2~1.0である請求項2に記載の樹脂凸版用粘着シート。
【請求項4】
複数の前記溝によって区画される領域が多角形状を呈しており、
前記溝の最大溝幅寸法を1としたとき、前記溝の中心線を辺とする多角形に内接する円の直径が5~11である請求項2に記載の樹脂凸版用粘着シート。
【請求項5】
前記溝が、延在方向に連なる小型溝と大型溝とを有し、
前記大型溝の断面積は、前記小型溝の断面積よりも大きい請求項1に記載の樹脂凸版用粘着シート。
【請求項6】
前記大型溝の最大幅寸法が前記小型溝の最大幅寸法以下であり、前記大型溝の深さが前記小型溝の深さより大きい請求項5に記載の樹脂凸版用粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキソ版等の樹脂凸版に貼着される樹脂凸版用粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばフレキソ印刷では、樹脂凸版であるフレキソ版(刷版)を版シリンダに装着して印刷を行っている。フレキソ版は、両面粘着シートを介してキャリアシートに貼着され、キャリアシートを版シリンダに巻き付けることで、版シリンダに装着される。版シリンダの周面にフレキソ版を直接貼着する場合もある。
【0003】
粘着シートをフレキソ版やキャリアシート等に貼着する際に貼着面に気泡が残留すると、印刷精度等に影響が及ぶおそれがあることから、気泡が発生し難くなるよう、粘着シートの粘着層にエア抜き用の溝を設ける場合がある(例えば特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-9669号公報
【特許文献2】特開平4-331152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
印刷終了後に版シリンダからフレキソ版を取り外した後、フレキソ版を洗浄する場合がある。しかしながら、粘着シートにエア抜き溝が形成されていると、エア抜き溝を通じて貼着面に洗浄液が入り込み、粘着力が弱まるおそれがある。また、印刷時にインクがエア抜き溝に入り込み、粘着力が弱まる可能性もある。粘着力が弱まると、フレキソ版に剥がれや脱落等が発生するおそれがある。さらに、洗浄液やインクがエア抜き溝に入り込むと、粘着力が弱まるだけでなく、滞留した洗浄液やインクが次回の印刷時まで残り、その残った液が印刷時に回転により流出して被印刷体に付着するといった印刷不良がおこる場合もある。このような問題を解決するために、フレキソ版とキャリアシートの貼り付けに際し、止水を目的として周縁部にシーリング剤や止水テープを貼り付けたり、はがれや脱落防止を目的としてフレキソ版とキャリアシートを熱溶着するなどの予防措置が取られているが、手間を要するため、作業効率が落ちるという問題がある。
【0006】
このような観点から、本発明は、貼着面への気泡の残留を防ぎつつ貼着面へのインクや洗浄液の浸入を阻止できる樹脂凸版用粘着シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明は、樹脂凸版とキャリアシートまたは胴シリンダとの間に介設される樹脂凸版用粘着シートであって、基材シートと、基材シートの両面にそれぞれ積層された粘着剤層とを備えており、前記粘着剤層の表面には、前記粘着剤層の外周縁に至る凹部が形成されており、前記粘着剤層に付与される押圧力により前記粘着剤層が塑性変形し、仮貼着時よりも大きな押圧力が前記粘着剤層に付与されたときに、少なくとも前記粘着剤層の外周縁部において前記凹部内の空間が消失した状態が維持される、ことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、樹脂凸版用粘着シートを樹脂凸版やキャリアシート等に仮貼着したときに、貼着面に気泡が巻き込まれたとしても、凹部を通じて外部に排出されるため、気泡の残留を防ぐことができる。また、仮貼着時よりも大きな押圧力を粘着剤層に付与したときには、凹部内の空間が消失し、その状態が維持されるため、インクが貼着面に混入し難くなり、樹脂凸版が貼着されたキャリアシート等を洗浄したときには、貼着面への洗浄水の浸入を阻止することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る樹脂凸版用粘着シートよれば、貼着面への気泡の残留を防ぎつつ貼着面へのインクや洗浄液の浸入を阻止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る樹脂凸版用粘着シートの模式的な断面図である。
【
図2】実施形態に係る樹脂凸版用粘着シートの拡大平面図である。
【
図4】(a)は溝の変形例を示す縦断面図、(b)は(a)のA-A断面図である。
【
図5】(a)は樹脂凸版用粘着シートの片面に剥離紙が積層された状態を示す模式図、(b)は樹脂凸版用粘着シートの両面に剥離紙が積層された状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る樹脂凸版用粘着シート10は、
図1に示すように、樹脂凸版20とキャリアシート30との間に介設されるものである。フレキソ版は、樹脂凸版20の一種である。
【0012】
樹脂凸版用粘着シート10は、基材シート1と、基材シート1の両面にそれぞれ積層された粘着剤層2,3とを備えている。使用前の樹脂凸版用粘着シート10には、剥離紙(図示略)が貼着されている。
【0013】
基材シート1は、樹脂製シートである。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリプロピレン、軟化塩化ビニルなどが好適である。基材シートの色や透光性の有無に制限はない。基材シートの厚さに制限はないが、基材シートを、ポリエチレンテレフタレート製とした場合の厚さは、例えば10~40μm、好ましくは20~30μmである。
【0014】
粘着剤層2,3は、被着体(基材シート1、樹脂凸版20、キャリアシート30、胴シリンダ等)に貼着しうる粘着性を備えている。
一方の粘着剤層2は、樹脂凸版20に貼着することを想定して粘着力等が設定されている。他方の粘着剤層3は、キャリアシート30に剥離可能に貼着することを想定して粘着力等が設定されている。一方の粘着剤層2は、他方の粘着剤層3よりも粘着力が大きい。
以下の説明において粘着剤層2,3を区別する場合には、一方の粘着剤層2を「強粘着剤層2」と称し、他方の粘着剤層3を「弱粘着剤層3」と称する。
【0015】
強粘着剤層2は、例えばアクリル樹脂系の粘着剤組成物からなる。アクリル樹脂系の粘着剤組成物は、エラストマーであるアクリル酸エステル共重合体そのものに粘着性があり、様々な材質の被着体に対応できるため、好適である。
強粘着剤層2のベースポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が約-50℃ であり、分子量が50万~70万である。
【0016】
強粘着剤層2のベースポリマーであるアクリル系ポリマーを構成するための全モノマー成分中に、アクリル系ポリマー以外のモノマーを含有させてもよい。例えば、主モノマーとしてのアクリル酸エステルモノマーと、他モノマーとしての酢酸ビニル(VAc)とを含有するものが挙げられる。
また、アクリル樹脂系の粘着剤組成物に含まれるポリマー成分は、ベースポリマーであるアクリル系ポリマー以外に、これと同等の効果があれば、他ポリマーを含んでいてもよい。
粘着剤組成物は、粘着付与剤を含有していてもよい。粘着付与剤は粘着力を向上させるものであれば特に限定されず、例えば、脂肪族系石油樹脂(C5樹脂)、芳香族系石油樹脂(C9樹脂)、脂肪族/芳香族共重合石油樹脂(C5/C9樹脂)、脂肪族系炭化水素樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、クマロン-インデン系樹脂などの粘着付与樹脂が挙げられる。
【0017】
アクリル樹脂系の粘着剤組成物は、ベースポリマーに加えて、硬化剤(架橋剤)が用いられてもよい。例えば、イソシアネート系、エポキシ系、金属キレート等の化合物で架橋させたものが好ましい。硬化剤を使用することで、接着強度や凝集力を調整することができる。硬化剤(架橋剤)としては、イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤、金属キレート系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤等が挙げられる。硬化剤(架橋剤)は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いてもよい。
強粘着剤層2の厚さは、例えば60~90μmであり、より好ましくは70~80μmである。
なお、強粘着剤層2を構成する粘着剤組成物の種類に制限はなく、被着体の材質に合わせてゴム系粘着剤組成物、シリコーン系粘着剤組成物等の中から選択してもよい。
【0018】
弱粘着剤層3は、例えばアクリル樹脂系粘着剤組成物からなる。弱粘着剤層3のベースポリマーは、例えば、アクリル酸エステル共重合体を含有し、本発明の効果を損なわない範囲で、粘着付与剤を含有していても構わない。アクリル酸エステル共重合体は、例えば、アクリル酸エステルと酢酸ビニルとを共重合させたものが好ましい。弱粘着剤層3のベースポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が約-50℃ であり、分子量が50万~80万である。強粘着剤層2と同様、弱粘着剤層3の全モノマー成分中に、アクリル系ポリマー以外のモノマーを含有させてもよい。また、ポリマー成分は、ベースポリマーであるアクリル系ポリマー以外に他ポリマーを含んでいてもよい。
硬化剤(架橋剤)を用いる場合は、イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤、金属キレート系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤等を用いることができる。硬化剤(架橋剤)は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いてもよい。
弱粘着剤層3の厚さは、強粘着剤層2よりも小さく、例えば20~50μmであり、より好ましくは30~40μmである。弱粘着剤層3の厚さは、強粘着剤層2の半分以下とすることが好ましい。
なお、弱粘着剤層3を構成する粘着剤組成物の種類に制限はなく、被着体の材質に合わせてゴム系粘着剤組成物、シリコーン系粘着剤組成物等の中から選択してもよい。
【0019】
実施形態における樹脂凸版用粘着シート10は、総厚みが、好ましくは90~180μmであり、より好ましくは120~150μmである。樹脂凸版粘着シート10の総厚みが上記範囲内にあれば、弱粘着剤層3の厚さは、強粘着剤層2の半分以下であってもよいし、半分以上であってもよい。
【0020】
図2に示すように、強粘着剤層2の表面には、強粘着剤層2の外周縁に至る凹部4が形成されている。本実施形態の凹部4は、互いに交差する複数の溝4a,4b,4cからなる。なお、図示は省略するが、弱粘着剤層3の表面にも、強粘着剤層2側と同じ凹部4(溝4a,4b,4c)が形成されている。
【0021】
図3に示すように、溝4aは、断面三角形状を呈している。図示および詳細な説明は省略するが、溝4b,4cも、断面三角形状を呈している。
溝4aの最大溝幅寸法Dは、例えば、20~100μmである。
溝4aの深さHは、例えば、5~40μmである。強粘着剤層2側の溝4aの深さHは、強粘着剤層2の厚さと同じでもよいが、強粘着剤層2の厚さ未満であることが好ましい。弱粘着剤層3側の溝4aの深さHは、弱粘着剤層3の厚さと同じでもよいが、弱粘着剤層3の厚さ未満であることが好ましい。
【0022】
強粘着剤層2の厚さを1としたとき、強粘着剤層2側の溝4a,4b,4cの最大溝幅寸法Dは例えば0.2~1.7、好ましくは0.4~1.3であり、深さHは例えば0.05~0.7、好ましくは0.1~0.5である。
また、弱粘着剤層3の厚さを1としたとき、弱粘着剤層3側の溝4a,4b,4cの最大溝幅寸法は例えば0.4~5.0、好ましくは0.8~3.0であり、深さは例えば0.1~2.0、好ましくは0.2~1.0である。
【0023】
なお、溝4a,4b,4cの断面積を小さくすると、粘着剤層2,3に付与する押圧力によって溝4a,4b,4cの内部空間は消失し易くなる(埋まり易くなる)が、貼着面に残る気泡が多くなる可能性がある。一方、溝4a,4b,4cの断面積を大きくすると、貼着面に残る気泡は少なくなるが、溝4a,4b,4cの内部空間を消失させるために、大きな押圧力が必要になる。
したがって、溝4a,4b,4cのうちの少なくとも一部(または全部)の溝については、
図4(a)(b)に示すように、断面積の小さな溝(以下、「小型溝41」という。)と、小型溝41よりも断面積の大きい溝(以下、「大型溝42」という。)とを溝の延在方向に連ねて形成することが好ましい。大型溝42の断面積は、例えば小型溝41の断面積の1.5~2.5倍であり、好ましくは1.8~2.2倍である。一本の溝4a(または溝4b,4c)の全長のうち、30~70%を小型溝41とし、残りを大型溝42とすることが好ましい。溝4b,4cについても同様である。また、小型溝41と大型溝42とを溝の延在方向に交互に連ねて溝4a,4b,4cを形成してもよいし、小型溝41および大型溝42を溝の延在方向に一本ずつ連ねて溝4a,4b,4cを形成してもよい。
【0024】
小型溝41の断面積は、例えば、50~600μm2であり、好ましくは150~380μm2、より好ましくは190~290μm2である。小型溝41の断面が三角形である場合、小型溝41の最大溝幅寸法Dは、例えば、20~60μm、好ましくは30~50μm、より好ましくは35~45μmであり、小型溝41の深さHは、小型溝41の最大溝幅寸法D以下であることが好ましく、例えば、5~20μm、好ましくは10~15μm、より好ましくは11~13μmである。
強粘着剤層2の厚さを1としたとき、強粘着剤層2に形成される小型溝41の最大溝幅寸法Dは0.4~0.7、深さHは0.1~0.2であることが好ましい。
また、弱粘着剤層3の厚さを1としたとき、弱粘着剤層3に形成される小型溝41の最大溝幅寸法は0.8~1.4、深さは0.2~0.4であることが好ましい。
【0025】
大型溝42の断面積は、例えば、150~1050μm2であり、好ましくは300~700μm2、より好ましくは430~530μm2である。大型溝42の最大溝幅寸法Dを小型溝41よりも大きくすると、大型溝42の内部空間を消失するために大きな押圧力が必要になるおそれがあるため、小型溝41の最大幅寸法と同等以下(好ましくは同じ)とすることが好ましい。大型溝42の断面が三角形である場合、大型溝42の最大溝幅寸法Dは、例えば、20~60μm、好ましくは30~50μm、より好ましくは35~45μmであり、大型溝42の深さHは、大型溝42の最大溝幅寸法D以下であることが好ましく、例えば、15~35μm、好ましくは20~28μm、より好ましくは22~26μmである。
強粘着剤層2の厚さを1としたとき、強粘着剤層2に形成される大型溝42の最大溝幅寸法Dは0.4~0.7、深さHは0.2~0.4であることが好ましい。
また、弱粘着剤層3の厚さを1としたとき、弱粘着剤層3に形成される大型溝42の最大溝幅寸法は0.8~1.4、深さは0.5~0.9であることが好ましい。
【0026】
図2に示すように、第一の溝4aおよび第二の溝4bは、強粘着剤層2の縁辺のうち、対向する二つの縁辺を結ぶように形成された平面視直線状の溝である。隣り合う第一の溝4a,4aは、平行となるように形成されており、同様に、隣り合う第二の溝4b,4bは、平行となるように形成されている。一つの第一の溝4aには、複数の第二の溝4bが交差しており、同様に、一つの第二の溝4bには、複数の第一の溝4aが交差している。
第三の溝4cは、第一の溝4aと第二の溝4bとの交点を通るように形成された平面視直線状の溝である。隣り合う第三の溝4c,4cは、平行となるように形成されている。
【0027】
本実施形態では、溝4a,4b,4cによって区画される領域が三角形状を呈している。三角形状の領域は、被着体に接触する領域である。三角形状の領域を二等辺三角形(正三角形を含む)とした場合、頂角は90度未満、好ましくは50~70度である。溝4a,4b,4cの最大溝幅寸法を1としたとき、溝4a,4b,4cの中心線(本実施形態では最深部を通る直線)を辺とする三角形に内接する円(内接円)の直径は、例えば2.5~32.5であり、好ましくは5~11、より好ましくは6~10である。
なお、内接円の直径を大きくする(溝4a,4b,4cの間隔を広げる)と、粘着力は高まるが、貼着面に残る気泡が多くなる可能性がある。一方、内接円の直径を小さくする(溝4a,4b,4cの間隔を狭める)と、貼着面に残る気泡は少なくなるが、粘着力が小さくなる可能性がある。したがって、内接円の直径は、250~650μmが好ましい。
【0028】
溝4a,4b,4cが小型溝41を備えている場合、内接円の直径は、450μm以下が好ましい。例えば、小型溝41の最大溝幅寸法が40μmのときは、280~440μm(小型溝41の最大溝幅寸法を1とすると7~11)が好ましく、320~400μm(小型溝41の最大溝幅寸法を1とすると8~10)がより好ましい。
【0029】
なお、内接円の直径を大きくする場合には、一つの溝で多くの気泡を排出できるよう、溝4a,4b,4cの断面積を大きくすることが好ましい。例えば、内接円の直径が450μmを超える場合、溝4a,4b,4cの断面積は、例えば、300~2000μm2であり、好ましくは700~1350μm2、より好ましくは825~1105μm2である。したがって、溝4a,4b,4cの断面が三角形である場合、溝4a,4b,4cの最大溝幅寸法Dは、例えば、60~100μm、好ましくは70~90μm、より好ましくは75~85μmであり、溝4a,4b,4cの深さHは、最大溝幅寸法D以下であることが好ましく、例えば、10~40μm、好ましくは20~30μmであり、より好ましくは22~26μmである。
なお、内接円の直径が450μmを超え、且つ、溝4a,4b,4cの断面が三角形である場合には、溝4a,4b,4cの最大溝幅寸法を1としたとき、内接円の直径を5~9、好ましくは6~8とすることが好ましい。
強粘着剤層2において、内接円の直径が450μmを超え、且つ、溝4a,4b,4cの断面が三角形である場合には、強粘着剤層2の厚さを1としたとき、溝4a,4b,4cの最大溝幅寸法Dは0.8~1.3、深さHは0.2~0.5であることが好ましい。
弱粘着剤層3において、内接円の直径が450μmを超え、且つ、溝4a,4b,4cの断面が三角形である場合には、弱粘着剤層3の厚さを1としたとき、溝4a,4b,4cの最大溝幅寸法は1.7~3.0、深さは0.5~1.0であることが好ましい。
【0030】
溝4a,4b,4cは、エンボス加工が施された剥離紙5,6(
図5参照)を粘着剤層2,3に貼着することにより形成される。剥離紙5,6は、基材となる芯材シートと、芯材シートの両面に積層された樹脂シートと、樹脂シートの表面にコーティングされた剥離剤層とを備えている。樹脂シートは、例えばポリエチレン製やポリエチレンテレフタレート製である。樹脂シートには、溝4a,4b,4cに対応する凸条が形成されている。剥離剤層は、例えばシリコーン系剥離処理剤からなる。
【0031】
樹脂凸版用粘着シート10の製造方法は、弱粘着剤層3を形成する第一工程と、強粘着剤層2を形成する第二工程を備える。
【0032】
第一工程では、まず、両面に凸条が形成された剥離紙5の一方の面(
図5(a)においては上面)に弱粘着剤層3となる粘着剤組成物を塗工し、当該粘着剤組成物を乾燥させる。この時点で、剥離紙5の一方の面の凸条が弱粘着剤層3に転写され、溝4a,4b,4cを備えた弱粘着剤層3が形成される。続いて、弱粘着剤層3に基材シート1の一方の面(
図5(a)においては下面)を貼り合わせて、剥離紙5、弱粘着剤層3、基材シート1を積層してなる中間積層体を形成し、当該中間積層体をローラに巻き取る。
第二工程では、中間積層体(剥離紙5、弱粘着剤層3、基材シート1)をローラから繰り出し、中間積層体の基材シート1の他方の面(
図5(a)においては上面)に強粘着剤層2となる粘着剤組成物を塗工し、当該粘着剤組成物を乾燥させる。これにより、剥離紙5、弱粘着剤層3、基材シート1および強粘着剤層2を備える最終積層体(
図5(a)参照)が形成される。そして、最終積層体をローラに巻き取ると、剥離紙5の他方の面(
図5(a)においては下面)の凸条が強粘着剤層2に転写され、強粘着剤層2に溝4a,4b,4cが形成される。
【0033】
なお、第二工程において、第一工程で使用した剥離紙5とは別の剥離紙(少なくとも一方の面に凸条が形成された剥離紙)の一方の面に強粘着剤層2となる粘着剤組成物を塗工し、当該粘着剤組成物を乾燥させることで、溝4a,4b,4cを備える強粘着剤層2を形成してもよい。この場合には、中間積層体(剥離紙5、弱粘着剤層3、基材シート1)の基材シート1の他方の面に強粘着剤層2と剥離紙の積層体を重ねた後、強粘着剤層2を覆う剥離紙を剥がすことで、
図5(a)に示す最終積層体を形成する。
【0034】
また、
図5(b)に示すように、樹脂凸版用粘着シート10の両面に剥離紙5,6を積層してもよい。この場合には、少なくとも一方の面に凸条が形成された剥離紙を用いる。
そして、第一工程では、まず、剥離紙5の一方の面に弱粘着剤層3となる粘着剤組成物を塗工し、当該粘着剤組成物を乾燥させる。この時点で、剥離紙5の一方の面の凸条が弱粘着剤層3に転写され、溝4a,4b,4cを備えた弱粘着剤層3が形成される。続いて、弱粘着剤層3に基材シート1の一方の面を貼り合わせて、剥離紙5、弱粘着剤層3、基材シート1を積層してなる第一の中間積層体を形成し、当該中間積層体をローラに巻き取る。
第二工程では、第一工程で使用した剥離紙5とは別の剥離紙6の一方の面に強粘着剤層2となる粘着剤組成物を塗工し、当該粘着剤組成物を乾燥させて、強粘着剤層2に剥離紙6が積層された第二の中間積層体を形成する。この時点で、剥離紙6の一方の面の凸条が強粘着剤層2に転写され、溝4a,4b,4cを備えた強粘着剤層2が形成される。その後、第一の中間積層体(剥離紙5、弱粘着剤層3、基材シート1)の基材シート1の他方の面に第二の中間積層体(強粘着剤層2、剥離紙6)を貼り合わせると、剥離紙5、弱粘着剤層3、基材シート1、強粘着剤層2および剥離紙6が積層された最終積層体(
図5(b)参照)が形成される。
【0035】
樹脂凸版用粘着シート10を使用する場合には、まず、強粘着剤層2を樹脂凸版20の底面に貼着する。強粘着剤層2には、溝4a,4b,4cが形成されているので、貼着面に気泡が巻き込まれたとしても、溝4a,4b,4cを通じて外部に排出される。次に、樹脂凸版20を、樹脂凸版用粘着シート10の弱粘着剤層3を介してキャリアシート30に仮貼着する。弱粘着剤層3には、溝4a,4b,4cが形成されているので、貼着面に気泡が巻き込まれたとしても、溝4a,4b,4cを通じて外部に排出される。キャリアシート30に対する樹脂凸版20の貼着位置がずれていた場合には、弱粘着剤層3を再剥離して貼着位置を修正する。
【0036】
樹脂凸版20をキャリアシート30の所定位置に仮貼着したら、樹脂凸版20をキャリアシート30に強く押し付け、仮貼着時よりも大きな押圧力を粘着剤層2,3に付与する。粘着剤層2,3は、貼着時に付与される押圧力により塑性変形し、少なくとも粘着剤層2,3の外周縁部において溝4a,4b,4c内の空間が消失した状態が維持される。
【0037】
以上のとおり、樹脂凸版用粘着シート10によれば、貼着面に気泡が巻き込まれたとしても、溝4a,4b,4c(凹部4)を通じて外部に排出されるため、気泡の残留を防ぐことができる。
また、樹脂凸版用粘着シート10によれば、大きな押圧力を粘着剤層2,3に付与することにより、少なくとも粘着剤層2,3の外周縁部において溝4a,4b,4c内の空間が消失した状態となる。したがって、樹脂凸版用粘着シート10で一体にされた樹脂凸版20およびキャリアシート30を洗浄したときに、貼着面への洗浄水の浸入を阻止することができる。印刷時にインクが貼着面に混入し難くなる。このように、樹脂凸版用粘着シート10よれば、貼着面への気泡の残留を防ぎつつ貼着面へのインクや洗浄液の浸入を阻止できるので、粘着力が損なわれ難い。つまり、樹脂凸版用粘着シート10よれば、樹脂凸版20に剥がれや脱落等が発生し難くなるので、印刷不良や機械故障の発生を抑制することができる。
【0038】
また、溝4a,4b,4cが、溝の潰し易さを考慮した小型溝41と気泡の排出性を考慮した大型溝42とを備えている場合には、貼着面へのインクや洗浄液の浸入を阻止しつつも、貼着面への気泡の残留を好適に防ぐことができる。
【0039】
なお、溝4a,4b,4cは、小型溝41のみで形成してもよいし、大型溝42のみで形成してもよい。
【0040】
なお、本実施形態では、溝4a,4b,4cの断面形状が三角形状である場合を例示したが、例えば、台形状、矩形状、半円状であっても構わない。
また、本実施形態では、溝4a,4b,4cが3方向に延在する場合を例示したが、溝の延在方向を2方向としてもよい。すなわち、本実施形態では、溝4a,4b,4cによって区画される領域が三角形状を呈する場合を例示したが、複数の溝によって区画される領域は四角形(菱形または平行四辺形)でもよい。
また、本実施形態では、溝が直線である場合を例示したいが、曲線でもよいし、折線でもよい。
【符号の説明】
【0041】
10 樹脂凸版用粘着シート
1 基材シート
2 強粘着剤層(粘着剤層)
3 弱粘着剤層(粘着剤層)
4 凹部
4a,4b,4c 溝
41 小型溝
42 大型溝
20 樹脂凸版
30 キャリアシート
【手続補正書】
【提出日】2024-07-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂凸版とキャリアシートまたは胴シリンダとの間に介設される樹脂凸版用粘着シートであって、
基材シートと、
基材シートの両面にそれぞれ積層された粘着剤層とを備えており、
前記粘着剤層の表面には、前記粘着剤層の外周縁に至る凹部が形成されており、
前記粘着剤層に付与される押圧力により前記粘着剤層が塑性変形し、仮貼着時よりも大きな押圧力が前記粘着剤層に付与されたときに、少なくとも前記粘着剤層の外周縁部において前記凹部内の空間が消失した状態が維持される、ことを特徴とする樹脂凸版用粘着シート。
【請求項2】
前記凹部が複数の溝からなる請求項1に記載の樹脂凸版用粘着シート。
【請求項3】
一方の前記粘着剤層の厚さを1としたとき、前記溝の最大溝幅寸法が0.4~1.3であり、深さが0.1~0.5であり、
他方の前記粘着剤層の厚さを1としたとき、前記溝の最大溝幅寸法が0.8~3.0であり、深さが0.2~1.0である請求項2に記載の樹脂凸版用粘着シート。
【請求項4】
一方の前記粘着剤層は、他方の前記粘着剤層よりも粘着力が大きく、
一方の前記粘着剤層の厚さを1としたとき、前記溝の最大溝幅寸法が0.4~1.3であり、深さが0.1~0.5であり、
他方の前記粘着剤層の厚さを1としたとき、前記溝の最大溝幅寸法が0.8~3.0であり、深さが0.2~1.0である請求項2に記載の樹脂凸版用粘着シート。
【請求項5】
一方の前記粘着剤層は、他方の前記粘着剤層よりも粘着力が大きい、請求項1に記載の樹脂凸版用粘着シート。
【請求項6】
複数の前記溝によって区画される領域が多角形状を呈しており、
前記溝の最大溝幅寸法を1としたとき、前記溝の中心線を辺とする多角形に内接する円の直径が5~11である請求項2に記載の樹脂凸版用粘着シート。
【請求項7】
前記溝が、延在方向に連なる小型溝と大型溝とを有し、
前記大型溝の断面積は、前記小型溝の断面積よりも大きい請求項1に記載の樹脂凸版用粘着シート。
【請求項8】
前記大型溝の最大幅寸法が前記小型溝の最大幅寸法以下であり、前記大型溝の深さが前記小型溝の深さより大きい請求項7に記載の樹脂凸版用粘着シート。