(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120734
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】巻線不良検出装置、巻線不良検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/72 20200101AFI20240829BHJP
H02K 11/20 20160101ALI20240829BHJP
H02P 31/00 20060101ALI20240829BHJP
G01R 31/34 20200101ALI20240829BHJP
【FI】
G01R31/72
H02K11/20
H02P31/00
G01R31/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027748
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯島 匡史
【テーマコード(参考)】
2G014
2G116
5H501
5H611
【Fターム(参考)】
2G014AA25
2G014AB06
2G014AB49
2G116BA01
2G116BA03
2G116BB01
2G116BD07
2G116BD08
5H501BB09
5H501JJ03
5H501JJ17
5H501KK06
5H501LL23
5H501LL53
5H611AA05
5H611PP02
5H611QQ07
(57)【要約】
【課題】巻線の不良を検出する装置に記憶されるデータの容量を削減する。
【解決手段】巻線不良検出装置1は、対象装置に備えられた巻線にインパルス電圧を順次印加し、巻線に生じる応答信号を順次取得する。巻線不良検出装置は、取得される最新の応答信号を特定する第一データを記憶するための第一記憶部51と、波形の特徴を示す特徴量が最大又は最小となる応答信号を特定する第二データを記憶するための第二記憶部52とを含む。そして巻線不良検出装置1は、第二記憶部52に記憶された第二データの特徴量よりも第一記憶部51に記憶された第一データの特徴量が超えるたびに、第二記憶部52における第二データを当該第一データに更新する。巻線不良検出装置1は、所定の終了条件が成立すると、第二記憶部52に記憶された第二データに基づいて巻線が不良であるか否かを判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から対象装置に動力が与えられる状態で前記対象装置に備えられた巻線にインパルス電圧を順次印加する印加手段と、
前記印加手段により前記巻線に生じる応答信号を順次取得する取得手段と、
前記取得手段により取得される最新の応答信号を特定する第一データを記憶するための第一記憶手段と、
前記取得手段により順次取得される複数の応答信号のうち波形の特徴を示す特徴量が最大又は最小となる応答信号を特定する第二データを記憶するための第二記憶手段と、
前記第一記憶手段に記憶された前記第一データの前記特徴量が前記第二記憶手段に記憶された前記第二データの前記特徴量を超えるたびに、前記第二記憶手段における前記第二データを当該第一データに更新する更新手段と、
所定の終了条件が成立すると、前記第二記憶手段に記憶された前記第二データに基づいて前記巻線が不良であるか否かを判定する判定手段と、
を含む巻線不良検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の巻線不良検出装置であって、
前記第二記憶手段は、
前記第二データとして前記特徴量が最大となる応答信号を特定する最大データを記憶するための最大記憶手段と、
前記第二データとして前記特徴量が最小となる応答信号を特定する最小データを記憶するための最小記憶手段と、を含み、
前記更新手段は、
前記第一データの前記特徴量が前記最大データの前記特徴量よりも大きい場合には、前記最大記憶手段における前記最大データを前記第一データに更新し、
前記第一データの前記特徴量が前記最小データの前記特徴量よりも小さい場合には、前記最小記憶手段における前記最小データを前記第一データに更新し、
前記判定手段は、前記最大データ及び前記最小データに基づいて前記巻線が不良であるか否かを判定する、
巻線不良検出装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の巻線不良検出装置であって、
前記更新手段により前記第二データが更新されるたび、前記第二データを更新した旨を報知する報知手段を含む
巻線不良検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の巻線不良検出装置であって、
前記報知手段は、前記特徴量が増加から減少又は減少から増加に転じた場合には、その旨を報知する。
巻線不良検出装置。
【請求項5】
請求項1に記載の巻線不良検出装置であって、
前記更新手段は、前記特徴量が変化する場合において前記特徴量の変化量が所定値を超えるときには、前記第二データの更新を抑制する、
巻線不良検出装置。
【請求項6】
請求項2に記載の巻線不良検出装置であって、
前記最大データ及び前記最小データのうち一方が記憶された時点から他方が記憶された時点までの前記インパルス電圧の印加回数が所定の範囲を超える場合には、前記対象装置の回転速度を調整するための調整情報を生成する生成手段を
さらに含む巻線不良検出装置。
【請求項7】
請求項6に記載の巻線不良検出装置であって、
前記生成手段は、
前記印加回数が前記所定の範囲の上限を上回る場合には、前記調整情報として前記対象装置を増速させるための増速調整情報を生成し、
前記印加回数が前記所定の範囲の下限を下回る場合には、前記調整情報として前記対象装置を減速させるための減速調整情報を生成する、
巻線不良検出装置。
【請求項8】
請求項6に記載の巻線不良検出装置であって、
前記調整情報を報知する報知手段を含む
巻線不良検出装置。
【請求項9】
請求項1に記載の巻線不良検出装置であって、
前記所定の終了条件は、前記特徴量が増加から減少又は減少から増加に転じる回数が所定値を超える場合に成立する、
巻線不良検出装置。
【請求項10】
請求項1に記載の巻線不良検出装置であって、
前記判定手段は、前記第二データの前記特徴量が閾値を超えた場合には前記巻線が不良であると判定し、前記第二データの前記特徴量が前記閾値を超えない場合には前記巻線が良好であると判定する、
巻線不良検出装置。
【請求項11】
請求項1に記載の巻線不良検出装置であって、
前記対象装置は、複数の巻線を有し、
前記複数の巻線を一つずつ、前記取得手段が前記所定の終了条件が成立するまで前記応答信号を順次取得した後に前記判定手段が前記第二データに基づき前記巻線の良否を判定する処理を繰り返す制御手段を含む
巻線不良検出装置。
【請求項12】
請求項1に記載の巻線不良検出装置であって、
前記対象装置は、複数の巻線を有し、
前記複数の巻線を一つずつ、前記取得手段が前記所定の終了条件が成立するまで前記応答信号を順次取得する処理を繰り返す制御手段を含み、
前記判定手段は、前記巻線ごとに前記第二データに基づいて前記巻線の良否を判定する、
巻線不良検出装置。
【請求項13】
請求項1に記載の巻線不良検出装置であって、
前記印加手段の接続先を切り替える切替手段を含み、
前記対象装置は、前記複数の巻線を有し、
前記切替手段は、所定数の前記インパルス電圧が印加されるたびに、前記印加手段の接続先を異なる前記巻線に順次切り替え、
前記第二記憶手段は、前記巻線ごとに前記第二データを記憶する、
巻線不良検出装置。
【請求項14】
請求項11から請求項13のいずれか一項に記載の巻線不良検出装置であって、
前記判定手段は、前記第二データの特徴量に関する閾値を用いて前記巻線の良否を判定する、
巻線不良検出装置。
【請求項15】
請求項12又は請求項13に記載の巻線不良検出装置であって、
前記判定手段は、前記巻線ごとに得られる前記第二データ間の類似度を算出する、
巻線不良検出装置。
【請求項16】
請求項12又は請求項13に記載の巻線不良検出装置であって、
前記判定手段は、前記巻線ごとに得られる前記第二データ間の類似度に基づいて前記巻線の良否を判定する、
巻線不良検出装置。
【請求項17】
請求項15に記載の巻線不良検出装置であって、
前記判定手段により算出される前記類似度を報知する報知手段を含む
巻線不良検出装置。
【請求項18】
請求項13に記載の巻線不良検出装置であって、
前記対象装置は、前記複数の巻線を有する多相回転電機である、
巻線不良検出装置。
【請求項19】
第一記憶手段及び第二記憶手段を備え、外部から対象装置に動力が与えられる状態で前記対象装置に備えられた巻線にインパルス電圧を順次印加する印加手段により前記巻線に生じる応答信号を順次取得する巻線不良検出装置に、
取得される最新の応答信号を特定する第一データを前記第一記憶手段に記憶する第一記憶ステップと、
順次取得される複数の応答信号のうち波形の特徴を示す特徴量が最大又は最小となる応答信号を特定する第二データを前記第二記憶手段に記憶する第二記憶ステップと、
前記第一記憶手段に記憶された前記第一データの前記特徴量が前記第二記憶手段に記憶された前記第二データの前記特徴量を超えるたびに、前記第二記憶手段における前記第二データを当該第一データに更新する更新ステップと、
所定の終了条件が成立すると、前記第二記憶手段に記憶された前記第二データに基づいて前記巻線が不良であるか否かを判定する判定ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【請求項20】
外部から対象装置に動力が与えられる状態で前記対象装置に備えられた巻線にインパルス電圧を順次印加する印加ステップと、
前記印加ステップにより前記巻線に生じる応答信号を順次取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得される最新の応答信号を特定する第一データを第一記憶手段に記憶する第一記憶ステップと、
前記取得ステップにより順次取得される複数の応答信号のうち波形の特徴を示す特徴量が最大又は最小となる応答信号を特定する第二データを第二記憶手段に記憶する第二記憶ステップと、
前記第一記憶手段に記憶された前記第一データの前記特徴量が前記第二記憶手段に記憶された前記第二データの前記特徴量を超えるたびに、前記第二記憶手段における前記第二データを当該第一データに更新する更新ステップと、
所定の終了条件が成立すると、前記第二記憶手段に記憶された前記第二データに基づいて前記巻線が不良であるか否かを判定する判定ステップと、
を含む巻線不良検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線の不良を検出する巻線不良検出装置、巻線不良検出方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータを組み込んだ後においてステータコイルの不良を検出可能な装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した装置では、モータの回転位置ごとにインパルス電圧が印加され、ステータコイルから出力される多数の応答波形が取得されて記憶手段に記憶される。このため、モータなどの検査対象となる装置に備えられた巻線の不良を検出するには、記憶手段の容量を大きくしなければならないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、巻線の不良を検出する装置に記憶されるデータの容量を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、巻線不良検出装置は、外部から対象装置に動力が与えられる状態で前記対象装置に備えられた巻線にインパルス電圧を順次印加する印加手段と、前記印加手段により前記巻線に生じる応答信号を順次取得する取得手段と、を含む。さらに巻線不良検出装置は、前記取得手段により取得される最新の応答信号を特定する第一データを記憶するための第一記憶手段と、前記取得手段により順次取得される複数の応答信号のうち波形の特徴を示す特徴量が最大又は最小となる応答信号を特定する第二データを記憶するための第二記憶手段と、を含む。そして巻線不良検出装置は、前記第一記憶手段に記憶された前記第一データの前記特徴量が、前記第二記憶手段に記憶された前記第二データの前記特徴量を超えるたびに、前記第二記憶手段における前記第二データを当該第一データに更新する処理手段と、所定の終了条件が成立すると、前記第二記憶手段に記憶された前記第二データに基づいて前記巻線が不良であるか否かを判定する判定手段と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
この態様によれば、取得手段により順次取得される第一データのうち特徴量が最大又は最小となる第二データが第二記憶手段に記憶される。それゆえ、取得手段により取得される全てのデータを第二記憶手段に記憶する処理に比べて第二記憶手段の容量を小さくすることができる。
【0008】
このように、本態様によれば、巻線の不良を検出する装置に記憶されるデータの容量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第一実施形態に係る巻線不良検出装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、巻線に生じる応答信号の波形が回転電機の回転に応じて徐々に変化する例を説明するための図である。
【
図3】
図3は、巻線不良検出装置における処理部及び記憶部の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、巻線不良検出装置による巻線不良検出方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、応答信号を特定する特徴量の他の例を説明するための図である。
【
図6】
図6は、第二実施形態に係る巻線不良検出方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の各実施形態について説明する。本明細書においては、全体を通じて、同一又は同等の要素には同一の符号を付する。
【0011】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態に係る巻線不良検出装置の構成を示す図である。
【0012】
巻線不良検出装置1は、検査対象となる対象装置に備えられた巻線の不良を検出するための装置である。ここにいう対象装置は、巻線及び可動部分から構成される装置である。巻線及び可動部分は磁気的に結合しており、可動部分の不良も間接的に検出されることから、ここにいう巻線の不良とは、可動部分の不良をも含む。
【0013】
対象装置としては、例えば、固定子(ステータ)又は回転子(ロータ)の少なくとも一方に巻線を持つ回転電機や、固定子及び可動子の少なくとも一方に巻線を持つリニアモータなどが挙げられる。その他、電磁石及び可動部分から構成されるアクチュエータ及びソレノイドや、巻線及び可動部分から構成されるセンサなどが対象装置として挙げられる。巻線及び可動部分から構成されるセンサとしては、例えばレゾルバなどが挙げられる。
【0014】
第一実施形態では、対象装置として回転電機9が採用され、回転電機9は、例えば、単相モータ、同期モータ、誘導モータ、及びPMモータなどによって構成される。回転電機9には、複数の巻線を有する多相回転電機が含まれる。以下では、回転電機9のステータに巻かれた巻線のことをステータコイルと称する。
【0015】
図1に示す例では、回転電機9は、U相のステータコイル91、V相のステータコイル92、及びW相のステータコイル93を有する三相誘導モータである。三相モータの巻線の構成は、デルタ結線及びスター結線を筆頭にさまざまな形式があるが、ここでは最も代表的な例としてスター結線が示されている。
【0016】
巻線不良検出装置1は、回転電機9を構成する三相のステータコイル91乃至93の不良を検出する。三相のステータコイル91乃至93の不良を検出する際には、回転電機9のロータの回転位置が徐々に移動するように、手動又は不図示の駆動装置によって回転電機9の回転軸に動力が与えられる。第一実施形態では、一例として回転電機9の回転軸に設けられたハンドルを用いて手動で回転電機9を回転駆動している。
【0017】
巻線不良検出装置1は、接続回路10と、電圧印加回路20と、電圧測定回路30と、処理部40と、記憶部50とを備える。記憶部50は、第一記憶部51及び第二記憶部52を含む。
【0018】
接続回路10は、電圧印加回路20の接続先を切り替える切替手段として機能する。第一実施形態の接続回路10は、回転電機9を構成する三相のステータコイル91乃至93のうち互いに直列接続された二相のステータコイルの両端を電圧印加回路20及び電圧測定回路30に接続する。
【0019】
上述した二相のステータコイルとは、接続先の検出対象であるUV相のステータコイル91及び92、VW相のステータコイル92及び93、及び、WU相のステータコイル93及び91のことである。
【0020】
UV相のステータコイル91及び92は、U相及びV相のステータコイル91及び92が互いに直列接続された第一巻線である。同様に、VW相のステータコイル92及び92は、V相及びW相のステータコイル92及び93が互いに直列接続された第二巻線であり、WU相のステータコイル93及び91は、W相及びU相のステータコイル93及び91が互いに直列接続された第三巻線である。
【0021】
接続回路10において、一対の測定側端子Pm1及びPm2は、電圧印加回路20及び電圧測定回路30の双方に接続されている。
【0022】
一対のコイル側端子P1及びP4はU相のステータコイル91の一端に接続され、一対のコイル側端子P2及びP5はV相のステータコイル92の一端に接続され、一対のコイル側端子P3及びP6はW相のステータコイル93の一端に接続されている。なお、回転電機9の中性点には、三相のステータコイル91乃至93の各々の他端が接続されている。
【0023】
一対の切替子SWa及びSWbは、コイル側端子P1乃至P6のうちの一対のコイル側端子と一対の測定側端子Pm1及びPm2との間を接続する接続子である。一対の切替子SWa及びSWbを移動させることにより、三つの検出対象のうち一つの検出対象に接続される。
【0024】
接続回路10は、処理部40の指令に従って、電圧印加回路20及び電圧測定回路30の両者の接続先をUV相のステータコイル91及び92の両端、VW相のステータコイル92及び93の両端、又は、WU相のステータコイル93及び91の両端に切り替える。
【0025】
第一実施形態の接続回路10においては、UV相のステータコイル91及び92の両端が電圧印加回路20及び電圧測定回路30の双方に接続されている。
【0026】
電圧印加回路20は、外部から動力が与えられる状態で回転電機9に備えられた巻線にインパルス電圧を順次印加する印加手段として機能する。
【0027】
第一実施形態の電圧印加回路20は、一定の時間間隔により、UV相のステータコイル91及び92に対してインパルス電圧を印加する。一定の時間間隔は、例えば数十[m秒]から数百[m秒]程度であり、第一実施形態では100[m秒]に設定される。なお、インパルス電圧はサージ電圧とも称する。
【0028】
電圧測定回路30は、電圧印加回路20によるインパルス電圧の印加によって巻線に生じる応答信号を順次取得する取得手段として機能する。
【0029】
第一実施形態の電圧測定回路30は、電圧印加回路20によって順次インパルス電圧が印加されたときのUV相のステータコイル91及び92に生じる電圧信号を応答信号として順次測定する。電圧測定回路30は、インパルス電圧ごとに、測定した応答信号の電圧値を処理部40に出力する。
【0030】
処理部40は、電圧測定回路30から出力される応答信号を順次取得し、取得した応答信号を特定する応答データを順次生成する。処理部40は、生成した応答データを順次記憶部50に記録する。
【0031】
記憶部50に記録される応答データとしては、例えば、応答信号がアナログ信号からデジタル信号に変換されたデータ、及び、当該データに示される波形のうち波形の特徴を示す特徴量などが挙げられる。
【0032】
応答データに示される波形である応答波形は、ロータの回転位置の移動に応じて形状が変化することから、波形の特徴を示す特徴量としては、応答波形の形状の変化に応じて数値が変化し、ロータの回転位置の移動に伴い上限と下限が存在するパラメータが用いられる。応答データの特徴量は、一又は複数のパラメータを採用可能である。
【0033】
例えば、応答波形の周期などの所定の応答時間、所定の応答時間と相関する応答波形の振幅、応答波形の面積、応答波形の面積と基準波形の面積との差分を使用する公知の技術、又は、応答波形から推定した等価回路の回路定数などが波形の特徴を示す特徴量として挙げられる。第一実施形態の特徴量としては、所定の応答時間を示す一つのパラメータが採用され、詳細については
図2で後述する。
【0034】
記憶部50は、ROM及びRAMによって構成される。記憶部50には、処理部40が第一実施形態に係る巻線不良検出処理方法を実行するためのプログラムが記憶されている。すなわち、記憶部50は、巻線不良検出装置1の各部を制御するためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0035】
記憶部50のうち、第一記憶部51は、最新の応答データを示す最新データを記憶するための第一記憶手段として機能する。最新データは、電圧測定回路30により取得される最新の応答信号を特定する第一データである。
【0036】
また、第二記憶部52は、応答信号の変動範囲の境界点での応答データを示す境界データを記憶するための第二記憶手段として機能する。境界データは、電圧測定回路30により順次取得される複数の応答信号のうち、波形の特徴として所定の応答時間を示す特徴量が最大又は最小となる応答信号を特定する第二データである。
【0037】
境界データには、特徴量が最大となる応答信号を特定する応答データと、特徴量が最小となる応答信号を特定する応答データとの少なくとも一方が含まれる。以下では、これらの応答データのことをそれぞれ最大データ及び最小データと称する。
【0038】
このような構成において、処理部40は、最初に生成した応答データを最新データとして記憶部50の第一記憶部51に記録するとともに、その応答データを第二記憶部52にも境界データとして記録する。なお、測定前にあらかじめ定められた初期値を第二記憶部52に記録しておいてもよい。
【0039】
その後、処理部40は、新たに応答データを取得すると、取得した応答データを最新データとして第一記憶部51に記録するとともに、最新データの特徴量が第二記憶部52に記憶された応答データの特徴量を超えるか否かを判断する。
【0040】
このとき、処理部40は、最新データの特徴量が第二記憶部52に記憶された境界データの特徴量を超えない場合には、第二記憶部52に記憶された境界データを更新しない。一方、最新データの特徴量が第二記憶部52に記憶された境界データの特徴量を超えた場合には、処理部40は、第二記憶部52に記憶された境界データを最新データに更新する。
【0041】
このように、処理部40は、第一記憶部51に最新データを記録するたびに、上述した第二記憶部52に対する更新処理を繰り返す。
【0042】
すなわち、処理部40は、第一記憶部51に記憶された最新データの特徴量が、第二記憶部52に記憶された境界データの特徴量を超えるたびに、その最新データに第二記憶部52の境界データを更新する更新手段として機能する。
【0043】
また、処理部40は、所定の終了条件が成立すると、第二記憶部52に記憶された境界データに基づいてUV相のステータコイル91及び92が不良であるか否かを判定する判定手段として機能する。
【0044】
上述した終了条件は、順次生成される応答データの特徴量が増加から減少又は減少から増加に転じる回数が所定値を超える場合に成立する。境界データとして最大データが採用される場合には、応答データの特徴量が増加から減少に転じる回数が所定値、例えば2回を上回る場合に成立する。
【0045】
あるいは、終了条件は、あらかじめ定められた時間が経過した場合に成立するものであってもよく、インパルス電圧の印加回数があらかじめ定められた回数、例えば100回に達した場合に成立するものでもよい。あるいは、不図示の操作受付部において、操作者によりインパルス電圧の印加を終了する指示を受け付けた場合に終了条件が成立するものであってもよい。
【0046】
第一実施形態では、終了条件が成立すると、処理部40は、電圧印加回路20によるインパルス電圧の印加及び電圧測定回路30からの応答信号の取得を停止するとともに更新処理を停止して、UV相のステータコイル91及び92が不良であるか否かを判定する。
【0047】
例えば、処理部40は、第二記憶部52の境界データの特徴量が閾値を超えるか否かを判断する。この閾値は、良品での境界データを特定する特徴量であり、例えば良品を用いた実験又はシミュレーション等により定められる。この閾値は、記憶部50にあらかじめ記憶される。
【0048】
このとき、処理部40は、境界データの特徴量が上記閾値を超える場合には、UV相のステータコイル91及び92が不良であると判定し、境界データの特徴量が上記閾値を超えない場合には、UV相のステータコイル91及び92が良品であると判定する。
【0049】
例えば、境界データとして最大データが採用される場合、処理部40は、最大データの特徴量、すなわち特徴量の最大値が、この特徴量の良品範囲を外れるか否かを判断する。そして処理部40は、最大データの特徴量が良品範囲外となる場合にUV相のステータコイル91及び92が不良であると判定する。ここにいう最大データの特徴量の良品範囲とは、あらかじめ定められた最大閾値のことである。
【0050】
境界データとして最小データが採用される場合、処理部40は、最小データの特徴量、すなわち特徴量の最小値が、この特徴量の良品範囲を外れるか否かを判断する。そして処理部40は、最小データの特徴量が良品範囲外となる場合にUV相のステータコイル91及び92が不良であると判定する。ここにいう最小データの特徴量の良品範囲とは、あらかじめ定められた最小閾値のことである。
【0051】
あるいは、処理部40は、最大データ及び最小データの各々の特徴量のいずれかが良品範囲外となる場合に、UV相のステータコイル91及び92が不良であると判定するようにしてもよい。
【0052】
また、複数の特徴量を使用する場合も同じように、処理部40は、境界データの各特徴量のうち少なくとも一つの特徴量がそれに対応する閾値を超えるときに、UV相のステータコイル91及び92が不良であると判定するようにしてもよい。
【0053】
処理部40は、UV相のステータコイル91及び92の良否を判定すると、その判定結果を出力する。具体的には、処理部40は、判定結果を報知したり、外部装置に送信したり、記憶部50又はUSB等の外部メモリに記録したりする。
【0054】
続いて、処理部40で生成される応答データの特徴量について
図2を参照して説明する。
【0055】
図2は、UV相のステータコイル91及び92に生じる応答信号の波形が回転電機9の回転に応じて変化する様子を例示する図である。
図2では、縦軸が電圧であり、横軸が時間である。
【0056】
UV相のステータコイル91及び92にインパルス電圧が印加されると、
図2に示すように、UV相のステータコイル91及び92に生じる応答信号の波形は、時間が経過するにつれて振幅が減衰する。
【0057】
回転電機9のロータが回転している状態でインパルス電圧がUV相のステータコイル91及び92に順次印加されると、
図2に示すように、ロータの回転位置に応じて応答信号の波形が徐々に変化する。以下では、ロータの回転位置の移動に応じて、応答信号の波形の周期及び振幅がともに変化する例について説明する。
【0058】
具体的には、ロータの回転位置が回転方向に移動することにより、応答信号によって形成される波形の最初の半周期の長さ、すなわち波形の変動が始まる始点からゼロクロスポイントまでの時間の長さが変化する。ロータの回転に伴ってロータの波形の周期が徐々に長くなり、波形の周期が最大値となる上限に達すると、今度は波形の周期が徐々に短くなる。そして波形の周期が最小値となる下限に達し、再び波形の周期が徐々に長くなる。
【0059】
このように、波形の周期の長さは、特定の回転位置におけるUV相のステータコイル91及び92の応答性を示す指標となる。このため、波形の半周期、一周期、又は複数の周期の長さは、所定の応答時間に該当し、第一実施形態では、波形の最初の半周期の長さを所定の応答時間を示す特徴量として採用する。この場合、特徴量が最大となる応答データは、最初の半周期が最も長い応答データであり、特徴量が最小となる応答データは、最初の半周期が最も短い応答データである。
【0060】
これに代えて、又は、これに加えて、応答波形の振幅、応答波形の面積、応答波形の面積と基準波形の面積との差分を使用する公知の技術、又は、応答波形から推定した等価回路の回路定数などが所定の応答時間と相関する特徴量として使用されてもよい。
【0061】
また、処理部40は、終了条件成立後における最大データ及び最小データに加えて、最大データ及び最小データに対して50%の比率となる波形を示す中間データを第二記憶部52に記録してもよい。あるいは、最大データ及び最小データに対する比率は、任意の値に変更してもよいし、25%、50%、75%などの複数の比率を記録してもよい。
【0062】
なお、ロータが適切な速度で回転する場合は応答信号の波形は徐々に変化する。しかしながら、手動でロータを回すような場合は、回転速度が突発的に速くなり過ぎることがあり、このようなときには、
図2に示す速度超過波形201のように、適切な速度での波形に比べて応答信号の波形が大きく変化してしまう。
【0063】
続いて、処理部40の構成について
図3を参照して説明する。
【0064】
図3は、第一実施形態における処理部40の主な機能構成を示すブロック図である。
【0065】
まず、処理部40によってデータの記録及び読出しが行われる記憶部50の詳細構成について説明する。
【0066】
記憶部50は、
図1に示した第一記憶部51及び第二記憶部52に加えて、良品記憶部53及び基準回数記憶部54を備える。第二記憶部52は、最大記憶部521及び最小記憶部522を備える。
【0067】
最大記憶部521は、境界データとして特徴量が最大となる応答信号を特定する最大データを記憶するための最大記憶手段として機能する。また、最大記憶部521は、その他の特徴量、及び、測定の開始時点から最大データが更新された時点までのインパルス電圧の印加回数の積算値を示す印加積算回数などの測定中に得られる情報も共に記憶する。
【0068】
最小記憶部522は、境界データとして特徴量が最小となる応答信号を特定する最小データを記憶するための最小記憶手段として機能する。また、最小記憶部522は、その他の特徴量、及び、測定の開始時点から最小データが更新された時点までのパルス電圧の印加回数の積算値を示す印加積算回数などの測定中に得られる情報も共に記憶する。
【0069】
良品記憶部53は、良品である正常なステータコイルにより得られた境界データの代表値などの基準となる応答データを記憶する。第一実施形態では、良品記憶部53は、最大データ及び最小データの基準となる最大基準データ及び最小基準データを記憶する。最大基準データ及び最小基準データは、良品を用いた実験又はシミュレーション等によりあらかじめ定められる。
【0070】
基準回数記憶部54は、判定精度を確保するために、回転電機9のロータが一回転するまでのインパルス電圧の印加回数の所要値が定められた基準範囲を記憶する。この基準範囲は、良品を用いた実験又はシミュレーション等によりあらかじめ定められる所定の範囲である。
【0071】
続いて、処理部40の機能的な構成について説明する。
【0072】
処理部40は、上記の更新手段として機能するデータ更新部41と、上記の判定手段として機能する巻線判定部42と、速度情報生成部43と、表示部44と、制御部45とを備える。
【0073】
データ更新部41は、第一記憶部51に記憶された最新データの特徴量が、最大記憶部521に記憶された最大データの特徴量よりも大きい場合には、最大記憶部521内の最大データを最新データに更新する。
【0074】
また、データ更新部41は、第一記憶部51に記憶された最新データの特徴量が、最小記憶部522に記憶された最小データの特徴量よりも小さい場合には、最小記憶部522内の最小データを最新データに更新する。
【0075】
具体的には、データ更新部41は、電圧測定回路30から応答信号を順次取得すると、応答信号をアナログ信号からデジタル信号に変換した応答データを順次生成する。これに代えて、データ更新部41は、一つの応答信号に示される応答波形に基づいて一又は複数の特徴量を応答データとして算出してもよい。もしくは、データ更新部41は、アナログ信号からデジタル信号に変換した応答データに加えてこの応答信号の一又は複数の特徴量を、応答データとして算出してもよい。
【0076】
まず、データ更新部41は、最初に生成した応答データを最新データとして第一記憶部51に記録する。これと共にデータ更新部41は、最初の応答データを最大データ及び最小データとして最大記憶部521及び最小記憶部522にも記録する。
【0077】
その後、データ更新部41は、新たに応答データを取得するたびに、取得した応答データを最新データとして第一記憶部51に記録する。これと共にデータ更新部41は、最新データの特徴量が最大記憶部521に記憶された最大データの特徴量を上回るか、それとも最新データの特徴量が最小記憶部522に記憶された最小データの特徴量を下回るかを判断する。
【0078】
そしてデータ更新部41は、最新データの特徴量が最大データの特徴量よりも大きい場合には、最大記憶部521内の最大データを更新する。一方、最新データの特徴量が、最小データの特徴量よりも小さい場合には、データ更新部41は、最小記憶部522内の最小データを更新する。
【0079】
なお、ロータを手動で回転させる場合には、回転速度を一定に保つことは難しい。ロータの回転速度が速すぎると、適切な回転速度で得られる応答信号に比べて応答信号の変化が大きくなり、ロータの回転速度が適切である場合の波形に比べて所定の応答時間を示す特徴量が過大あるいは過少となる波形を形成する。このため、データ更新部41は、最新データが変化する場合において最新データの特徴量の変化量、例えば前回値と今回値の差分が、あらかじめ定められた規定値の範囲内に収まらない場合には、最大データ及び最小データの更新を禁止してもよい。
【0080】
また、データ更新部41は、第二記憶部52内の境界データを更新した場合には、境界データを更新した旨を通知するための更新通知情報を生成し、生成した更新通知データを表示部44に出力する。
【0081】
具体的には、データ更新部41は、最大データを更新した場合には最大データを更新した旨の更新通知情報を生成し、最小データを更新した場合には最小データを更新した旨の更新通知情報を生成する。
【0082】
これに加えて、データ更新部41は、境界データの特徴量が増加から減少又は減少から増加に転じた場合には、その旨を通知するための上下限通知情報を生成して表示部44に出力する。
【0083】
巻線判定部42は、上述した所定の終了条件が成立すると、最大記憶部521及び最小記憶部522にそれぞれ記憶された最大データ及び最小データに基づいて、UV相のステータコイル91及び92が不良であるか否かを判定する。
【0084】
巻線判定部42は、最大記憶部521に記憶された最大データと良品記憶部53に記憶された最大基準データとの双方に示される波形同士の類似度を算出する。算出される類似度は、波形同士の類似性が高いほど高くなる。具体的には、巻線判定部42は、公知の類似度算出手法を用いて、最大記憶部521に記憶された最大データの特徴量と、良品記憶部53に記憶された最大基準データの特徴量との差が小さいほど類似度が高くなるように算出する。
【0085】
そして巻線判定部42は、算出した類似度が類似閾値を下回る場合には、UV相のステータコイル91及び92が不良であると判定し、上記類似度が類似閾値以上である場合には、UV相のステータコイル91及び92が良好であると判定する。
【0086】
また、巻線判定部42は、最小記憶部522に記憶された最小データと良品記憶部53に記憶された最小基準データとの双方に示される波形同士の類似度を算出する。そして巻線判定部42は、算出した類似度が類似閾値を下回る場合には、UV相のステータコイル91及び92が不良であると判定し、上記類似度が類似閾値以上である場合には、UV相のステータコイル91及び92が良好であると判定する。
【0087】
上記の判定手法に代えて、UV相、VW相及びWU相の全ての相についてそれぞれの最大データ又は最小データを取得した後、巻線判定部42は、各相の最大データ同士の類似度、又は最小データの類似度を算出し、これらの類似度を用いてステータコイル91乃至93の良否を判定してもよい。具体的には、巻線判定部42は、UV相とVW相の最大データ同士又は最小データ同士の類似度、VW相とWU相の最大データ同士又は最小データ同士の類似度、及び、WU相とUV相の最大データ同士又は最小データ同士の類似度を算出してステータコイル91乃至93の良否を判定する。
【0088】
巻線判定部42は、UV相のステータコイル91及び92の良否を示す判定結果を表示部44に出力する。また、巻線判定部42は、UV相のステータコイル91及び92の類似度を表示部44に出力してもよい。
【0089】
また、巻線判定部42は、各相の良否判定が完了するたびにその旨を制御部45に通知する。
【0090】
速度情報生成部43は、回転電機9の回転速度を調整するための調整情報を生成する生成手段として機能する。
【0091】
例えば、回転電機9におけるロータの回転速度が速すぎると、これに起因して応答信号の波形の変化は、UV相のステータコイル91及び92の良否判定に適した回転速度で測定される波形の変化に比べて大きく乱れてしまう。
【0092】
これに加え、ロータの回転速度が速すぎると、適切な回転速度で得られる応答信号に比べて応答信号の変化が大きくなり、ロータの回転速度が適切である場合の波形に比べて特徴量が過大あるいは過少となる波形を形成するだけではなく、インパルス電圧を順次印加した時の回転位置の間隔が広くなりすぎる。その結果、本来、特徴量が最大値又は最小値となる回転位置よりも大きくずれた回転位置で得られた応答データが最大データ又は最小データとなることがある。
【0093】
このため、ロータの回転速度が速すぎると、最大データ及び最小データを特定する特徴量の、ロータの回転速度が適切であった場合の最大値及び最小値からのズレ量が大きくなる。その結果、最大データ及び最小データを用いた良否判定の精度が低下するおそれがある。
【0094】
反対に、ロータの回転速度が遅すぎると、インパルス電圧を順次印加した時の回転位置の間隔が狭くなり、ロータが一回転するまでのインパルス電圧の印加回数が多くなりすぎ、測定が完了するまでに要する時間が不必要に大きくなってしまう。
【0095】
この対策として、速度情報生成部43は、回転電機9の回転速度がUV相のステータコイル91及び92の良否判定に適した回転速度であるか否かを示すように調整情報を生成する。
【0096】
速度情報生成部43は、特徴量が最大データから最小データとなるまでのインパルス電圧の印加回数と、特徴量が最小データから最大データとなるまでのインパルス電圧の印加回数と、が所定の基準範囲を超えるか否かを判断する。
【0097】
すなわち、速度情報生成部43は、最大データ及び最小データの一方が記憶された時点から他方が記憶された時点までのインパルス電圧の印加回数が所定の範囲を超える否かを判断する。
【0098】
例えば、速度情報生成部43は、特徴量が最大記憶部521に記憶されている数値の近傍であり、かつ、その特徴量が増加から減少に転じた時点において、その特徴量が連続して増加した期間のインパルス電圧の印加回数を算出する。
【0099】
あるいは、速度情報生成部43は、特徴量が最小記憶部522に記憶されている数値の近傍であり、かつ、その特徴量が減少から増加に転じた時点において、その特徴量が連続して減少した期間のインパルス電圧の印加回数を算出する。
【0100】
第一実施形態では、速度情報生成部43は、最大記憶部521又は最小記憶部522に記憶された更新時点の印加積算回数と算出時点(現時点)の印加積算回数との差分から、特徴量が連続して増加した期間又は特徴量が連続して減少した期間のインパルス電圧の印加回数を算出する。
【0101】
速度情報生成部43は、算出した印加回数が良品記憶部53の基準範囲を超えるか否かを判断する。そして速度情報生成部43は、算出した印加回数が良品記憶部53の基準範囲の上限を上回る場合には、調整情報として回転電機9を増速させるための増速調整情報を生成する。
【0102】
一方、速度情報生成部43は、算出した印加回数が良品記憶部53の基準範囲の下限を下回る場合には、調整情報として回転電機9を減速させるための減速調整情報を生成する。
【0103】
あるいは、速度情報生成部43は、インパルス電圧の印加ごとに生じる最新データの特徴量の変化が規定値よりも大きい場合には、上述の通り、ロータの回転速度が速すぎると判断し、減速調整情報を生成してもよい。
【0104】
速度情報生成部43は、生成した調整情報を表示部44に出力する。
【0105】
表示部44は、速度情報生成部43により生成される調整情報を報知する報知手段として機能する。また、表示部44は、データ更新部41によって境界データが更新されるたびに、境界データを更新した旨を報知する報知手段として機能する。
【0106】
上記の報知手段としては、LED等の発光素子、スピーカ等の音声出力手段、及び液晶パネル等の表示手段などが挙げられる。第一実施形態における表示部44は、LEDディスプレイ又は液晶ディスプレイにより実現される。
【0107】
例えば、表示部44は、データ更新部41から更新通知情報を取得するたびに、第二記憶部52内の最大データ又は最小データが更新された旨を示す情報を表示する。さらに表示部44は、データ更新部41から上下限通知情報を取得した場合には、特徴量が増加から減少又は減少から増加に転じた旨、つまりロータの回転位置が特徴量が最大又は最小となる回転位置を通過した直後であることを示す情報を表示する。
【0108】
また、表示部44は、所定の終了条件が成立した後に巻線判定部42から出力される判定結果を表示する。
【0109】
さらに、表示部44は、所定の終了条件が成立する前の測定中において、速度情報生成部43から出力される調整情報を表示する。具体例として、インパルス電圧の印加期間において回転電機9の回転速度が遅すぎる状況では、表示部44は、操作者に対して回転電機9の増速を促す画像情報を増速調整情報として表示する。
【0110】
一方、インパルス電圧の印加期間において回転電機9の回転速度が速すぎる状況では、表示部44は、操作者に対して回転電機9の減速を促す画像情報を減速調整情報として表示する。
【0111】
制御部45は、接続回路10、電圧印加回路20、電圧測定回路30、及び処理部40の各部の動作を制御する。制御部45は、複数の巻線を一つずつ、電圧測定回路30が所定の終了条件が成立するまで応答信号を順次取得した後に巻線判定部42が境界データに基づき巻線の良否を判定する処理を繰り返す制御手段として機能する。
【0112】
第一実施形態において、制御部45は、電圧測定回路30がUV相のステータコイル91及び92の応答信号を順次測定した後、巻線判定部42が、データ更新部41により境界データとして得られた最大データ及び最小データに基づき巻線の良否を判定するよう制御する。
【0113】
続いて、制御部45は、接続回路10の接続先をUV相のステータコイル91及び92からVW相のステータコイル92及び93へ切り替える。そして制御部45は、電圧測定回路30がVW相のステータコイル92及び93の応答信号を順次測定した後、巻線判定部42が、データ更新部41により得られた最大データ及び最小データに基づき巻線の良否を判定するよう制御する。
【0114】
最後に、制御部45は、制御部45は、接続回路10の接続先をVW相のステータコイル92及び93からWU相のステータコイル93及び91へ切り替える。そして制御部45は、電圧測定回路30がWU相のステータコイル93及び91の応答信号を順次測定した後、巻線判定部42が、データ更新部41により得られた最大データ及び最小データに基づき巻線の良否を判定するよう制御する。
【0115】
あるいは、制御部45は、複数の巻線を一つずつ、電圧測定回路30が所定の終了条件が成立するまで応答信号を順次取得する処理を繰り返してもよい。この場合、全ての巻線の境界データが得られた後に巻線判定部42は、巻線ごとに境界データに基づいて巻線の良否を判定する。
【0116】
次に、巻線不良検出装置1の動作について
図4を参照して説明する。
【0117】
図4は、第一実施形態における巻線不良検出方法の処理手順例を示すフローチャートである。
【0118】
ステップS1において電圧印加回路20は、回転電機9に備えられた巻線であるUV相のステータコイル91及び92にインパルス電圧を印加する。
【0119】
ステップS2において電圧測定回路30は、電圧印加回路20によりUV相のステータコイル91及び92に生じる応答信号を取得する。
【0120】
ステップS3において処理部40は、電圧測定回路30により取得される最新の応答信号を特定する最新データD1を第一記憶部51に記録する。
【0121】
ステップS4において処理部40は、応答信号の測定を開始してからインパルス電圧を印加した回数が1回目であるか否かを判断する。
【0122】
ステップS5において処理部40は、インパルス電圧を印加回数が1回目であると判断された場合には、処理部40は、最初に生成される最新データD1を第二記憶部52の最大記憶部521及び最小記憶部522のそれぞれに最大データDmax及び最小データDminとして記録する。
【0123】
一方、ステップS4でインパルス電圧の印加回数が2回目以上であると判断された場合、又は、ステップS5の処理が完了した場合には、処理部40は、ステップS6の処理に進む。
【0124】
ステップS6乃至S9において処理部40は、第一記憶部51に記憶された最新データD1の特徴量が第二記憶部52に記憶された境界データの特徴量を超えるたびに、第二記憶部52における境界データを当該最新データD1に更新する。
【0125】
具体的には、ステップS6において、処理部40は、最新データD1の特徴量が最大データDmaxの特徴量よりも大きいか否かを判断する。
【0126】
ステップS7において処理部40は、ステップS4で最新データD1の特徴量が最大データDmaxの特徴量よりも大きいと判断された場合には、最大記憶部521内の最大データDmaxを最新データD1に上書きする。
【0127】
このように、ステップS6及びS7における処理部40は、新たに記録された最新データD1の特徴量が最大データDmaxの特徴量よりも大きい場合には、最大記憶部521における最大データDmaxを最新データに更新する。
【0128】
ステップS6で最新データD1の特徴量が最大データDmaxの特徴量以下であると判断された場合には、処理部40は、ステップS8の処理に進む。
【0129】
ステップS8において処理部40は、最新データD1の特徴量が最小データDminの特徴量よりも小さいか否かを判断する。
【0130】
ステップS9において処理部40は、ステップS6で最新データD1の特徴量が最小データDminの特徴量よりも小さいと判断された場合には、最小記憶部522内の最小データDminを最新データD1に上書きする。
【0131】
このように、ステップS8及びS9における処理部40は、新たに記録された最新データD1の特徴量が最小データDminの特徴量よりも小さい場合には、最小記憶部522における最小データDminを最新データD1に更新する。
【0132】
ステップS8で最新データD1の特徴量が最小データDminの特徴量以上であると判断された場合、又は、ステップS9の処理が完了した場合には、処理部40は、ステップS10の処理に進む。
【0133】
ステップS10において処理部40は、上述した所定の終了条件が成立したか否かを判断する。
【0134】
ステップS11において処理部40は、ステップS10で上記の終了条件が成立したと判断された場合には、第二記憶部52内の最大データDmax及び最小データDminに基づいて、UV相のステータコイル91及び92の良否を判定する。
【0135】
このように、ステップS10及びS11における処理部40は、所定の終了条件が成立すると、第二記憶部52に記憶された境界データに基づいて検出対象の巻線が不良であるか否かを判定する。
【0136】
なお、ステップS10で終了条件が成立していないと判断された場合には、処理部40は、所定の終了条件が成立するまでステップS1乃至S10の処理を繰り返す。このように、処理部40は、電圧測定回路30により順次取得される複数の応答信号のうち波形の特徴として所定の応答時間を示す特徴量が最大又は最小となる応答信号を特定する境界データを第二記憶部52に記録する。
【0137】
そしてステップS11の処理が完了すると、第一実施形態における巻線不良検出方法についての一連の処理手順が終了する。
【0138】
以上のように、巻線不良検出装置1は、UV相のステータコイル91及び92の良否判定を行い、判定結果の出力後に第二記憶部52内の境界データをリセットする。続いて巻線不良検出装置1は、接続回路10を制御して検出対象の接続先を切り替えることにより、VW相のステータコイル92及び93とWU相のステータコイル93及び91との良否判定を順番に行う。
【0139】
また、検出対象が不良と判定された場合には、ロータの回転位置の移動量が不足していた場合などにより、最大データDmax又は最小データDminがロータの回転位置が適切である場合の回転位置で取得されていない場合がある。このような場合には、巻線不良検出装置1は、第二記憶部52内の最大データDmax及び最小データDminをリセットすることなく、巻線不良検出方法を再度実施する。
【0140】
例えば、処理部40は、操作者により不良判定に伴う測定の追加の指示を受け付けると、第二記憶部52の最大データDmax及び最小データDminを測定開始時に初期化せずに測定処理を行う。これにより、回転位置の移動量が不足していた分のみを再測定にて取得することで、再測定における最大データDmax及び最小データDminの取得に要する時間を短縮することが可能となる。
【0141】
また、三つの検出対象ごとに第二記憶部52を有する構成において、三つの検出対象のうち一つの検出対象の応答信号を測定する場合にのみ、ロータの回転速度が速すぎることに起因して、検出対象が不良と判定されることも想定される。このような場合には、巻線不良検出装置1は、不良と判定された検出対象用の第二記憶部52のデータのみ消去し、他の検出対象用の第二記憶部52のデータを残し、不良と判定された検出対象のみ再測定を実施してもよい。
【0142】
具体的には、処理部40は、不良判定に伴う再測定の指示に加えて、再測定が必要となる検出対象の指定を操作者の入力により受け付けると、指定された検出対象用の第二記憶部52のみデータを消去して再測定を実施する。これにより、不要な再測定の繰り返しを回避し、再測定に要する時間を短縮することが可能となる。
【0143】
また、回転電機9の回転中においては、
図2に示した通り、ロータの回転速度が速すぎることに起因して応答データの特徴量が突発的に大きく変動することがある。このため、測定を開始して直ぐに終了条件が成立してしまうことも想定される。この対策として、処理部40は、速度情報生成部43が減速調整情報を生成している場合には、終了条件を成立させなくてもよい。
【0144】
なお、第一実施形態では、応答データを特定する特徴量として応答信号に示される波形の周期の長さを採用したが、これに限られるものではない。以下では、特徴量の他の例について
図5を参照して説明する。
【0145】
図5は、応答データを特定する特徴量の他の例を説明するための図である。
図5では、
図3と同様、縦軸が電圧であり、横軸が時間である。
【0146】
図5に示すように、応答信号の波形形状は、波形の周期の長さの変化だけではなく、応答信号の振幅も変化することが多い。具体的には、
図5に示した応答波形は、波形の応答時間が長くなるほど波形の振幅は高くなり、応答時間が短くなるほど波形の振幅は低くなる。このような特性を利用し、応答データにおける波形の一番目の振幅を特徴量として採用してもよい。
【0147】
なお、
図5に示した特徴量に代えて、応答データに示される応答波形から推定される等価回路の回路定数が特徴量として用いられてもよい。この場合は、回路定数が最大となる応答データが最大データに該当し、回路定数が最小となる応答データが最小データに該当する。
【0148】
また、第一実施形態では
図2に示した波形の周期が特徴量として採用されたが、波形の周期の変動量が小さい巻線については良否判定の精度が低下してしまう。この対策として、処理部40は、波形の周期、波形の振幅、等価回路の回路定数などの複数の特徴量を組み合わせて最大データ及び最小データを特定してもよい。
【0149】
次に、第一実施形態による作用効果について説明する。
【0150】
第一実施形態に係る巻線不良検出装置1は、外部から回転電機9に動力が与えられる状態で回転電機9に備えられた巻線にインパルス電圧を順次印加する印加手段としての電圧印加回路20と、電圧印加回路20により上記の巻線に生じる応答信号を順次取得する取得手段としての電圧測定回路30とを備える。
【0151】
そして巻線不良検出装置1は、応答信号に関する最新データを記憶するための第一記憶手段としての第一記憶部51と、応答信号に関する境界データを記憶するための第二記憶手段とを備える。上記の最新データは、電圧印加回路20により取得される最新の応答信号を特定する第一データである。上記の境界データは、電圧測定回路30により順次取得される複数の応答信号のうち応答信号に示される波形の特徴を示す特徴量が最大又は最小となる応答信号を特定する第二データである。
【0152】
さらに巻線不良検出装置1は、第一記憶部51に記憶された最新データの上記の特徴量が第二記憶部52に記憶された境界データの上記の特徴量を超えるたびに、第二記憶部52における境界データを当該最新データに更新する更新手段として処理部40を備える。処理部40は、所定の終了条件が成立すると、第二記憶部52に記憶された境界データに基づいて上記の巻線が不良であるか否かを判定する判定手段として機能する。
【0153】
また、第一実施形態における巻線不良検出装置1による巻線不良検出方法は、外部から回転電機9に動力が与えられる状態で回転電機9に備えられた巻線にインパルス電圧を順次印加する印加ステップ(S1及びS10)と、印加ステップ(S1)により巻線に生じる応答信号を順次取得する取得ステップ(S2及びS10)とを含む。さらに巻線不良検出方法は、取得ステップにより取得される最新の応答信号を特定する最新データを第一記憶部51に記憶する第一記憶ステップ(S3)と、取得ステップ(S2及びS10)により順次取得される複数の応答信号のうち所定の応答時間を示す特徴量が最大又は最小となる応答信号を特定する境界データを第二記憶部52に記憶する第二記憶ステップ(S5)とを含む。
【0154】
上記の巻線不良検出方法は、第一記憶部51に記憶された最新データの特徴量が第二記憶部52に記憶された境界データの特徴量を超えるたびに、第二記憶部52における境界データを当該最新データに更新する更新ステップ(S6乃至S9)と、所定の終了条件が成立すると、第二記憶部52に記憶された境界データに基づいて巻線が不良であるか否かを判定する判定ステップ(S10及びS11)とを含む。
【0155】
また、第一実施形態において、巻線不良検出装置1は、上述のとおり、第一記憶部51及び第二記憶部52を備え、電圧印加回路20により巻線に生じる応答信号を順次取得する。この巻線不良検出装置1に実行させるためのプログラムは、最新データD1を第一記憶部51に記憶する第一記憶ステップ(S3)と、境界データを第二記憶部52に記憶する第二記憶ステップ(S4)とを含む。
【0156】
このプログラムは、第一記憶部51に記憶された最新データD1の特徴量が第二記憶部52に記憶された境界データ(Dmax,Dmin)の特徴量を超えるたびに、第二記憶部52における境界データを当該最新データに更新する処理ステップ(S5乃至S8)と、を含む。さらにプログラムは、所定の終了条件が成立すると、第二記憶部52に記憶された境界データに基づいて上記の巻線が不良であるか否かを判定する判定ステップ(S9及びS10)を含む。
【0157】
これらの構成によれば、電圧測定回路30により順次取得される最新データのうち特徴量が最大又は最小となる境界データが第二記憶部52に記憶される。それゆえ、電圧測定回路30により取得される全てのデータを第二記憶部52に記憶するような記録処理に比べて第二記憶部52の容量を小さくすることができる。
【0158】
このように、上記構成によれば、巻線の不良を検出する巻線不良検出装置1に記憶されるデータの容量を削減することができる。これにより、巻線不良検出装置1のコストを低減することができる。
【0159】
また、操作者により手動で回転電機9を回転させる場合は、回転が止まっている期間が発生し得る。この期間においては変化しない応答信号の波形が測定されるものの、第二記憶部52の境界データは更新されないので、記憶領域を無駄に使用することがない。それゆえ、操作者が回転電機9を十分に回転させることができるようになったときには、既に記憶領域が足りなくなっているという事態を回避できるので、確実に境界データを取得することができる。
【0160】
また、第一実施形態において、第二記憶部52は、境界データとして特徴量が最大となる応答信号を特定する最大データを記憶するための最大記憶部521と、境界データとして特徴量が最小となる応答信号を特定する最小データを記憶するための最小記憶部522とを含む。
【0161】
そして、処理部40において、データ更新部41は、最新データの特徴量が上記の最大データの特徴量よりも大きい場合には、最大記憶部521における最大データを当該最新データに更新する。また、データ更新部41は、最新データの特徴量が上記の最小データの特徴量よりも小さい場合には、最小記憶部522における最小データを当該最新データに更新する。さらに、巻線判定部42は、所定の終了条件が成立すると、最大データ及び最小データに基づいて巻線が不良であるか否かを判定する。
【0162】
この構成によれば、最大データ及び最小データの二つの境界データを用いて巻線が不良であるか否かを判定するので、一つの境界データに用いて判定するような構成に比べて、精度よく巻線の良否を判定することが可能となる。
【0163】
また、第一実施形態における処理部40は、データ更新部41により境界データが更新されるたびに、境界データを更新した旨を報知する報知手段として表示部44を含む。
【0164】
この構成によれば、回転電機9を手動で回転させている操作者は、応答データの特徴量が順調に更新されているか否かを把握することが可能になる。
【0165】
また、第一実施形態における表示部44は、境界データの特徴量が増加から減少又は減少から増加に転じた場合には、その旨を報知する。
【0166】
この構成によれば、回転電機9を手動で回転させている操作者は、応答データの特徴量が上限又は下限に達したか否か、つまりロータの回転位置の移動量が適切であるかを把握することが可能になる。
【0167】
また、第一実施形態におけるデータ更新部41は、応答データの特徴量が変化する場合においてその特徴量の変化量が所定値を超えるときには、境界データの更新を抑制する。
【0168】
例えば、回転速度が速すぎることに起因して応答データの波形の変化量が異常に大きくなる場合があり、このような場合には、特徴量の前回値と今回値との変化量は、回転速度が適切なときに比べて大きくなる。それゆえ、上記構成によれば、境界データを回転速度が速すぎる場合に取得された数値に更新することを回避できる。したがって、更新データを精度よく取得することができる。
【0169】
また、第一実施形態における処理部40は、回転電機9の回転速度を調整するための調整情報を生成する生成手段として速度情報生成部43をさらに備える。速度情報生成部43は、最大データ及び最小データのうち一方が記憶された時点から、他方が記憶された時点までのインパルス電圧の印加回数が所定の基準範囲を超える場合には調整情報を生成する。
【0170】
この構成によれば、最大データ及び最小データの記憶時点間におけるインパルス電圧の印加回数を用いることにより、回転電機9の回転速度が速すぎるのか、遅すぎるのかを判断することができる。このため、インパルス電圧の印加回数に基づいて回転速度の調整情報を生成することにより、回転電機9の回転速度を最大データ及び最小データを取得するのに適した速度に調整することが可能となる。
【0171】
また、第一実施形態における速度情報生成部43は、最大データ及び最小データの記憶時点間におけるインパルス電圧の印加回数が所定の基準範囲の上限を上回る場合には、調整情報として回転電機9を増速させるための増速調整情報を生成する。また、速度情報生成部43は、最大データ及び最小データの記憶時点間におけるインパルス電圧の印加回数が所定の基準範囲の下限を下回る場合には、調整情報として回転電機9を減速させるための減速調整情報を生成する。
【0172】
この構成によれば、最大データ及び最小データの記憶時点間におけるインパルス電圧の印加回数が基準範囲の上限を上回る場合は、境界データを取得するうえで印加回数が過多であり、ゆえに検査時間も過大となる。
【0173】
このため、印加回数が上限を上回る場合に増速調整情報を生成することで、ロータを手動で回転させている場合は、操作者に回転の増速を促す。ロータを外部動力で回転させている場合は、外部動力の制御部に通知を行うことで外部動力の制御部が増速を行う。この結果として、検査時間が過大となることを抑制することができる。
【0174】
一方、インパルス電圧の印加回数が基準範囲の下限を下回る場合は、回転速度が速すぎるため、速度超過による応答信号の変化が大きくなってしまうことが想定される。また、回転位置の間隔が広くなりすぎ、境界データについて特徴量の真値からのズレ量が大きくなっていることも想定される。
【0175】
このため、印加回数が下限を下回る場合に減速調整情報を生成することで、回転電機9の回転速度を減速させることが可能となるので、境界データの特徴量の誤差を低減することができる。
【0176】
これにより、境界データを用いた良否判定の精度が低下するのを抑制することができる。すなわち、精度よく巻線の良否判定を行うことができる。
【0177】
また、第一実施形態における処理部40は、調整情報を報知する報知手段として表示部44を含む。
【0178】
この構成によれば、回転電機9を手動で回転させている状況では、表示部44において増速又は減速を促す情報が表示されるので、回転電機9の回転速度を適切に調整することができる。
【0179】
また、第一実施形態において、所定の終了条件は、特徴量が増加から減少又は減少から増加に転じる回数が所定値を超える場合に成立する。
【0180】
この構成によれば、特徴量が増加から減少又は減少から増加に転じるまで回転電機9が回転を続けることになるので、境界データを的確に取得することができる。
【0181】
さらに、境界データを複数回取得することにより、特徴量が最大値及び最小値となる折り返し点を特定するうえで、インパルス電圧を印加する瞬間にロータの回転位置が、折り返し点近傍となる回転位置の範囲内から外れることをより抑制することができる。
【0182】
また、第一実施形態における巻線判定部42は、境界データの特徴量が閾値を超えた場合には巻線が不良であると判定し、境界データが閾値を超えない場合には巻線が良好であると判定する。
【0183】
この構成によれば、巻線の良否判定において境界データの特徴量を用いることにより、ロータの回転位置をあらかじめ定めた位置に固定したり、ロータの回転位置を測定又は特定したりすることなく、簡易にかつ精度よく良否判定を行うことができる。
【0184】
また、第一実施形態において、回転電機9は、UV相のステータコイル91及び92、VW相のステータコイル92及び93、及び、WU相のステータコイル93及び91の複数の巻線を有する。そして処理部40は、複数の巻線を一つずつ、電圧測定回路30が所定の終了条件が成立するまで応答信号を順次取得した後に巻線判定部42が境界データの特徴量に基づき巻線の良否を判定する処理を繰り返す制御手段として制御部45を含む。
【0185】
この構成によれば、一つの巻線ごとに巻線の測定及び良否判定を行うため、全ての巻線の測定が終了しなくとも、不良の巻線を検出することができる。したがって、速やかに不良の巻線を特定することができる。
【0186】
また、制御部45は、複数の巻線を一つずつ、電圧測定回路30が所定の終了条件が成立するまで応答信号を順次取得する処理を繰り返してもよい。この場合、全ての巻線の測定が終了した後に巻線判定部42は、巻線ごとに境界データに基づいて巻線の良否を判定する。
【0187】
この構成によれば、全ての巻線の測定が連続して行われるので、一つの巻線ごとに巻線の測定及び良否判定を行う制御処理に比べて全体の検査時間を短縮することができる。
【0188】
また、第一実施形態における巻線判定部42は、巻線ごとに、境界データの特徴量に関する閾値を用いて巻線の良否を判定する。この構成によれば、第二記憶部52に記憶された境界データと閾値とを比較することにより巻線の良否判定が行われるので、判定処理を簡易にかつ精度よく実行することができる。
【0189】
また、第一実施形態における巻線判定部42は、巻線ごとに得られる境界データ間の類似度を算出する。類似度が低い場合には一方が不良であると推察されるため、巻線の良否を判定することが可能となる。
【0190】
また、第一実施形態における表示部44は、巻線判定部42により算出される類似度を報知する報知手段として機能する。これにより、利用者は巻線の良否を把握することができる。
【0191】
また、巻線判定部42は、巻線ごとに得られる境界データ間の類似度に基づいて巻線の良否を判定してもよい。これにより、閾値を予め準備しなくても良否判定を行うことができる。
【0192】
なお、第一実施形態において接続回路10は必須の構成ではなく、手動で切り替えを行ってもよい。
【0193】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態に係る巻線不良検出装置について
図6を参照して説明する。
【0194】
第二実施形態に係る巻線不良検出装置は、所定数のインパルス電圧を印加するたびに、接続回路10を制御して検出対象を切り替える点が第一実施形態とは異なる。ここにいう所定数とは、一回又は複数回のことを意味する。
【0195】
第二実施形態に係る巻線不良検出装置の構成は、
図1乃至
図3に示した巻線不良検出装置1の構成と同一又は同等である。巻線不良検出装置1と同一又は同等の構成については同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0196】
第二実施形態における記憶部50には、UV相のステータコイル91及び92、VW相のステータコイル92及び93、並びに、WU相のステータコイル93及び91の各検出対象に第二記憶部52が備えられている。
【0197】
図6は、第二実施形態における巻線不良検出方法を示すフローチャートである。
【0198】
図6では、ステップS1乃至S3の各処理は、
図4に示した各処理と同一であり、ステップS40の更新処理は、
図4に示したステップS4乃至S9の一連の処理と同一である。そのため、ここではステップS40の処理後の手順について説明する。
【0199】
ステップS41において処理部40は、インパルス電圧の印加回数が所定値、例えば二回に達したか否かを判断する。
【0200】
ステップS42において処理部40は、インパルス電圧の印加回数が所定値に達したと判断された場合には、検出対象の巻線を切り替えるように接続回路10に接続先の変更を指示する。例えば、処理部40は、インパルス電圧の印加回数が二回に達したと判断された場合には、接続回路10を制御して検出対象をUV相のステータコイル91及び92からVW相のステータコイル92及び93へ切り替える。
【0201】
このように、接続回路10は、所定数のインパルス電圧が印加されるたびに、電圧印加回路20の接続先を、異なる検出対象である二相のステータコイルに順次切り替える。
【0202】
ステップS10Aにおいて処理部40は、三つの検出対象の全てが所定の終了条件が成立したか否かを判断する。
【0203】
ステップS11Aにおいて処理部40は、ステップS9Aで上記の終了条件が成立したと判断された場合には、検出対象ごとに、第二記憶部52内の境界データに基づいて巻線の良否を判定する。
【0204】
例えば、処理部40は、検出対象ごとに、第一実施形態と同様、
図3に示した良品記憶部53に記憶された最大基準データ及び最小基準データを参照して検出対象の良否を判定する。この場合、三つの検出対象の応答特性はほぼ同等であることから、良品記憶部53には単一の最大基準データ及び最小基準データのみ記録する。
【0205】
これにより、良品記憶部53へのデータ登録を簡易にすることができる。なお、三つの検出対象の応答特性が互いに異なるようなときは、三つの検出対象に対して別々の最大基準データ及び最小基準データを良品記憶部53に記録してもよい。
【0206】
上記の判定手法に代えて、処理部40は、UV相とVW相の最大データ同士又は最小データ同士の類似度、VW相とWU相の最大データ同士又は最小データ同士の類似度、及び、WU相とUV相の最大データ同士又は最小データ同士の類似度を算出してステータコイル91乃至93の良否を判定してもよい。すなわち、処理部40は、検出対象ごとに設けられた第二記憶部52内の境界データのうち、二つの検出対象の境界データ間の類似度に基づいて三つの検出対象の良否を判定してもよい。
【0207】
このようにステップS10A及びS11Aにおける処理部40は、所定の終了条件が成立すると、第二記憶部52に記憶された境界データに基づいて検出対象の巻線が不良であるか否かを判定する。
【0208】
なお、ステップS10Aで終了条件が成立していないと判断された場合には、処理部40は、所定の終了条件が成立するまでステップS1乃至S3及びステップS40乃至S42の処理手順を繰り返す。
【0209】
そしてステップS11Aの処理が完了すると、第二実施形態における巻線不良検出方法についての一連の処理手順が終了する。
【0210】
次に、第二実施形態による作用効果について説明する。
【0211】
第二実施形態における巻線不良検出装置1は、第一実施形態と同様の構成を有し、これらの構成によって同様の作用効果を奏する。
【0212】
また、第二実施形態において、回転電機9は複数の巻線を有し、巻線不良検出装置1は、電圧印加回路20の接続先を切り替える切替手段として接続回路10を備える。そして、接続回路10は、所定数のインパルス電圧が印加されるたびに、電圧印加回路20の接続先を異なる巻線に順次切り替え、第二記憶部52は、巻線ごとに境界データを記憶する。
【0213】
この構成によれば、所定数のインパルス電圧が印加されるたびに検出対象が切り替えられので、検出対象ごとに別々に回転電機9を回転させるような手法に比べて、三つの検出対象の全ての境界データを取得するのに要する時間を短縮することができる。
【0214】
また、第二実施形態において、巻線判定部42は、巻線ごとに、境界データの特徴量に関する閾値を用いて巻線の良否を判定する。この構成によれば、第二記憶部52に記憶された境界データと閾値とを比較することにより巻線の良否判定が行われるので、判定処理を簡易にかつ精度よく実行することができる。
【0215】
また、第二実施形態における回転電機9は、複数の巻線を有する多相回転電機により実現される。これにより、第二記憶部52のデータ容量を削減しつつ、多相回転電機に設けられる巻線を、ロータの回転位置による応答波形の変化に影響されることなく検出することができる。
【0216】
また、第二実施形態における処理部40の巻線判定部42は、一つの巻線を構成する二相のステータコイルごとに得られる境界データ間の類似度に基づいて二相のステータコイルの良否を判定する。
【0217】
UV相のステータコイル91及び92、VW相のステータコイル92及び93、並びにWU相のステータコイル93及び91の検出対象は、互いに同等の応答特性を有する。それゆえ、二つの検出対象が良好であれば双方の検出対象から得られる境界データ間の類似性は同等であるのに対し、一方の検出対象が不良である場合には類似性が低下する。
【0218】
それゆえ、双方の検出対象から得られる境界データ間の類似性を求めることにより、双方の境界データだけが用いられるのでロータの回転位置による応答波形の変化に影響されることなく、検出対象の良否を判定することが可能となる。上記の構成によれば、あらかじめ定められた閾値等の判定基準を準備しなくても、良否判定を行うことができる。
【0219】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0220】
例えば、上記実施形態では一つの波形を示す境界データが第二記憶部52に記録されたが、所定の終了条件が成立したことで最終的に得られた境界データと、この境界データが記憶された時点の近傍で記憶された所定数の波形を示す境界データと、を第二記憶部52に記録してもよい。所定数とは、例えば、数個、数十個のことである。
【0221】
この場合、処理部40は、所定数の境界データの特徴量を用いて、これらの平均値、中央値、又は所定数の境界データのうち平均値に近い境界データの特徴量の数値などの代表値を求め、その代表値を新たな境界データの特徴量として用いる。
【0222】
より詳細には、処理部40は、最大記憶部521に記憶された所定数の最大データについて所定数の特徴量の代表値を新たな最大データの特徴量とし、最小記憶部522に記憶された所定数の最小データについて所定数の特徴量の代表値を新たな最小データの特徴量として扱う。
【0223】
これにより、測定が適切に行われていないことに起因して突発的に発生する外れ値や、回転速度が速すぎるために異常な波形などが測定されたとしても、これらを良否判定に使用するデータから外すことができるので、境界データを精度よく取得することができる。
【0224】
また、上記実施形態では電圧印加回路20が一定の時間間隔でインパルス電圧が順次印加したが、処理部40は、順次取得される応答信号に示される測定波形の周期の変動量に応じてインパルス電圧を順次印加する際の時間間隔を変更してもよい。例えば、処理部40は、測定波形の周期が大きく変化する場合には、電圧印加回路20によるインパルス電圧の印加間隔を狭くする。これにより、測定波形の周期の変化が大きくなる回転位置付近の変化を詳細に捉えることができる。
【0225】
また、上記実施形態では表示部44が報知手段として採用されたが、表示部44に代えて音声出力装置、発光素子、外部出力端子、又は、LANやUSBなどの外部通信端子を採用してもよい。例えば、表示部44に代えて発光素子が用いられる場合、処理部40は、境界データが更新されるたびに発光素子を点滅させるようにしてもよい。また、二色の発光素子を巻線不良検出装置1に設置し、速度情報生成部43により増速調整情報が生成された場合には、処理部40は一方の発光素子を点灯させ、減速調整情報が生成された場合には他方の発光素子を点灯させるようにしてもよい。また、外部出力端子に処理部40で生成した信号を出力してもよいし、外部通信端子から調整情報を送受信してもよい。
【0226】
また、上記実施形態では回転電機9として三相誘導モータを例に挙げて説明したが、これに限られるものではない。例えば、回転電機9は、単相モータや、巻線の数が三個よりも少ないアクチュエータ等でもよく、三相よりも相数が多い回転電機であってもよいし、回転電機9よりも端子数が多い回転電機であってもよい。
【0227】
また、一例として巻線に生じる応答信号の波形を
図2及び
図5に示したが、これに限られず、ロータの回転位置に応じて応答時間が変化するものであればよい。例えば、応答信号は、電圧が急峻に低下してから上昇するような波形を示すものや、電圧が急峻に上昇してから低下するような波形を示すものであってもよい。また、電圧だけではなく、電圧印加に伴って電圧印加回路20に流出又は流入する電流を電圧と共に測定した波形でもよい。
【0228】
また、上記実施形態では処理部40において電圧測定回路30からの応答信号がアナログ信号からデジタル信号へ変換されて応答データが生成されたが、電圧測定回路30において応答データが生成されてもよい。
【0229】
また、処理部40及び記憶部50は、パーソナルコンピュータ、タブレット端末のような携帯端末又はサーバ等の情報処理装置により構成されてもよい。この場合、電圧測定回路30は、順次測定された応答信号を無線又は有線を介して、処理部40及び記憶部50の機能を有する情報処理装置に送信する。
【0230】
もしくは、処理部40及び記憶部50の構成の一部のみをパーソナルコンピュータ、タブレット端末のような携帯端末又はサーバ等の情報処理装置で構成してもよい。この場合、分離して構成された処理部40及び記憶部50は、無線又は有線を介して、処情報処理装置と本体との間で処理部40及び記憶部50間およびそれらの内部で実行される処理に必要な情報を送受信する。
【0231】
また、電圧測定回路30は、表示部を備え、測定した応答信号に示される波形、もしくは所定の応答時間を示す特徴量及びその他の特徴量の変化の軌跡を示す画像を表示部に表示するようにしてもよい。あるいは、処理部40において、応答波形又は各種特徴量の変化の軌跡を示す上記の画像を表示部44に表示するようにしてもよい。これにより、操作者は回転電機9の回転位置又は回転速度による波形の周期の変化をより詳細に把握することができる。
【0232】
また、上記実施形態では回転電機9を操作者が手動で回転させたが、回転電機9の回転軸に駆動装置を接続して駆動装置により回転電機9に動力を与えてもよい。この場合において、
図3に示した速度情報生成部43は、回転電機9の回転速度を調整するための調整情報を生成した場合には、その調整情報を駆動装置に送信してもよい。これにより、駆動装置は、調整情報に従って回転電機9を測定に適した回転速度に調整することができる。
【符号の説明】
【0233】
1 巻線不良検出装置
10 接続回路(切替手段)
20 電圧印加回路(印加手段)
30 電圧測定回路(取得手段)
40 処理部(更新手段、判定手段、生成手段、制御手段)
41 データ更新部(更新手段)
42 巻線判定部(判定手段)
43 回転情報生成部(生成手段)
44 表示部(報知手段)
45 制御部(制御手段)
50 記憶部(第一記憶手段、第二記憶手段)
51 第一記憶部(第一記憶手段)
52 第二記憶部(第二記憶手段、最大記憶手段、最小記憶手段)
521 最大記憶部(最大記憶手段)
522 最小記憶部(最小記憶手段)
S1、S2(印加ステップ、取得ステップ)
S3、S5(第一記憶ステップ、第二記憶ステップ)
S6~S9、S10~S11(更新ステップ、判定ステップ)