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特開2024-120751発電装置及び発電方法、並びに嫌気処理システム及び嫌気処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120751
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】発電装置及び発電方法、並びに嫌気処理システム及び嫌気処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0612 20160101AFI20240829BHJP
   H01M 8/16 20060101ALI20240829BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20240829BHJP
   C02F 3/28 20230101ALI20240829BHJP
【FI】
H01M8/0612
H01M8/16
H01M8/04 N
H01M8/04 Z
C02F3/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027778
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】清川 達則
(72)【発明者】
【氏名】田村 青葉
【テーマコード(参考)】
4D040
5H127
【Fターム(参考)】
4D040AA01
4D040AA23
4D040AA26
4D040AA31
4D040AA42
4D040AA62
5H127AC07
5H127BA02
5H127BA05
5H127BA06
5H127BB02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の課題は、嫌気処理後の生成物を用いた電極反応によるエネルギーの回収・利用を行うに当たり、電極反応を経ることで生じる処理物の有効利用及び運用コストの低減を可能とする方法を提供することである。
【解決手段】電極反応を行う反応部3と、反応部のアノード側に還元性物質を供給する還元性物質供給手段4と、反応部のカソード側での処理を経たカソード処理物をアノード側に導入するカソード処理物導入手段5とを備え、還元性物質供給手段4は嫌気処理で生成した生成物を供給する発電装置1及びこの装置を用いた発電方法を提供する。本発明によれば、嫌気処理後の生成物を活用したエネルギーの回収・利用と併せ、カソード処理物をpH調整剤として有効活用できる。これにより、処理物の有効利用及び発電に係る運用コスト低減が可能になる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極反応を行う反応部と、
前記反応部のアノード側に、還元性物質を供給する還元性物質供給手段と、
前記反応部のカソード側での処理を経たカソード処理物を、前記アノード側に導入するカソード処理物導入手段と、を備え、
前記還元性物質供給手段は、嫌気処理で生成した生成物を供給することを特徴とする、発電装置。
【請求項2】
前記反応部のカソード側には、水及び空気を供給することを特徴とする、請求項1に記載の発電装置。
【請求項3】
電極反応を行う反応工程と、
前記反応工程におけるアノード側に、還元性物質を供給する還元性物質供給工程と、
前記反応工程におけるカソード側での処理を経たカソード処理物を、前記アノード側に導入するカソード処理物導入工程と、を備え、
前記還元性物質供給工程は、嫌気処理で生成した生成物を供給することを特徴とする、発電方法。
【請求項4】
被処理物の嫌気処理を行う嫌気処理部と、
電極反応を行う反応部と、
前記反応部のアノード側に、前記嫌気処理部で生成した還元性物質を供給する還元性物質供給手段と、
前記反応部のカソード側での処理を経たカソード処理物を、前記嫌気処理部に供給するカソード処理物供給手段と、を備えることを特徴とする、嫌気処理システム。
【請求項5】
前記被処理物を前記反応部のカソード側に供給することを特徴とする、請求項4に記載の嫌気処理システム。
【請求項6】
被処理物の嫌気処理を行う嫌気処理工程と、
電極反応を行う反応工程と、
前記反応工程におけるアノード側に、前記嫌気処理工程で生成した還元性物質を供給する還元性物質供給工程と、
前記反応工程におけるカソード側での処理を経たカソード処理物を、前記嫌気処理工程に供給するカソード処理物供給工程と、を備えることを特徴とする、嫌気処理方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電装置及び発電方法に関するものである。また、本発明は、発電を伴う嫌気処理システム及び嫌気処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、有機物を含む被処理物を処理する方法として、種々の微生物を利用した生物処理が知られている。特に、嫌気的な環境下での生物処理(以下、「嫌気処理」と呼ぶ)は、曝気動力が不要で、余剰汚泥がほとんど発生しないことなど、導入のメリットが高いことから広く用いられている。また、嫌気処理過程で発生した生成物を利用する技術も様々検討されている。例えば、嫌気処理により発生した生成物を利用する技術の一つとしては、嫌気処理により発生したメタンなどのバイオガスを燃料として用い、発電を行うことが知られている。
【0003】
一方、微生物による酸化還元反応を利用して発電を行う技術として、微生物燃料電池が知られている。微生物燃料電池とは、微生物の代謝能力を利用して電気エネルギーを得るものである。より具体的には、微生物燃料電池とは、微生物によって有機物などの基質が酸化分解する過程で生じた電子をアノード側で回収し、カソード側に電子を移動させることで電流を得る構成を有するものである。
【0004】
例えば、特許文献1には、一対の電極の一方をアノードとして嫌気性下で生育可能な微生物及び有機性物質を含む溶液(懸濁液)と接触させ、他方の電極をカソードとして構造上空隙を有する材料によって形成して空気と接触させ、アノードとカソードを電気的に接続して閉回路を形成させた発電装置が記載されている。また、特許文献1には、アノード表面に微生物を付着させることも記載されている。さらに、特許文献1には、この発電装置により、アノードにおける有機性物質を電子供与体とする微生物による酸化反応、及び、カソードにおける酸素を電子受容体とする還元反応を進行させる発電方法についても記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-342412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるような微生物燃料電池による発電は、エネルギー変換効率が低く、実用化に際しては発電出力の向上が大きな課題となっている。これは、微生物を直接電極に接触あるいは担持させるため、電極への物質移動が微生物により阻害されることや、微生物の代謝速度が律速となることに起因しているものと推察される。
【0007】
また、近年、被処理物の各種処理を行う処理システムの設備駆動電力を抑え、省エネルギー化に優れるものとするために、処理システムに付随させる技術として、効率的なエネルギーの回収・利用が可能な技術が求められている。このような技術の一つとして、被処理物の処理システムに微生物燃料電池を適用し、被処理物の処理と発電を同時に行うことに係る技術が検討されているが、上記したように、十分な発電出力を得ることが困難であるという課題がある。
【0008】
一方、本発明者らは、嫌気処理に伴い発生する還元性物質(主に硫化水素)を電子供与体として用いることにより、電極反応によるエネルギー回収(発電)が可能となることを既に見出している。
また、本発明者らは、検討を重ねる中で、嫌気処理に伴い発生する還元性物質を用いて電極反応を行うに当たり、電極反応を経ることで生じる生成物(処理物)に着目した。特に、カソード側で生成する処理物(カソード処理物)について、単に系外に排出するのではなく、系内での有効利用を可能とすることで、発電や嫌気処理に係る運用コストの低減につながることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の課題は、嫌気処理後の生成物を用いた電極反応によるエネルギーの回収・利用を行うに当たり、電極反応を経ることで生じる処理物の有効利用及び運用コストの低減を可能とする発電装置及び発電方法、並びに嫌気処理システム及び嫌気処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、アノード側では嫌気処理で生成した生成物に含まれる還元性物質を電子供与体とした電極反応を進行させる一方、カソード側で生成するカソード処理物をアノード側に導入することで、アノード側でのpH調整を可能とし、従来使用していたpH調整剤に係る薬剤コストを低減させるとともに、カソード処理物の処理コストの低減を図り、電極反応を経ることで生じる処理物の有効利用及び運用コストの低減が可能になることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の発電装置及び発電方法、並びに嫌気処理システム及び嫌気処理方法である。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の発電装置は、電極反応を行う反応部と、反応部のアノード側に、還元性物質を供給する還元性物質供給手段と、反応部のカソード側での処理を経たカソード処理物を、アノード側に導入するカソード処理物導入手段と、を備え、還元性物質供給手段は、嫌気処理で生成した生成物を供給するという特徴を有する。
本発明の発電装置は、電極反応を行う反応部において、アノード側には嫌気処理で生成した生成物を供給することで、生成物に含まれる還元性物質を電子供与体とした電極反応が進行する。このとき、カソード側ではカソード処理物の一つとして水酸化物イオンが発生する。そして、カソード処理物をアノード側に導入することで、カソード処理物がpH調整剤として機能することになる。すなわち、アノード側で従来使用していたpH調整剤の使用量を低減させることが可能となる。また併せて、カソード処理物の処理コストの低減も可能となる。これにより、電極反応を経ることで生じる処理物の有効利用及び発電に係る運用コストの低減が可能になる。
【0012】
また、本発明の発電装置の一実施態様としては、反応部のカソード側には、水及び空気を供給するという特徴を有する。
この特徴によれば、カソード側での処理を経たカソード処理物として水酸化物イオンを発生させるに当たり、使用する薬剤コストを低減し、かつ効率的に水酸化物イオンを発生させることが可能となる。
【0013】
また、上記課題を解決するための本発明の発電方法としては、電極反応を行う反応工程と、反応工程におけるアノード側に、還元性物質を供給する還元性物質供給工程と、反応工程におけるカソード側での処理を経たカソード処理物を、アノード側に導入するカソード処理物導入工程と、を備え、還元性物質供給工程は、嫌気処理で生成した生成物を供給するという特徴を有する。
本発明の発電方法は、電極反応を行う反応工程において、アノード側には嫌気処理で生成した生成物を供給することで、生成物に含まれる還元性物質を電子供与体とした電極反応が進行する。このとき、カソード側ではカソード処理物の一つとして水酸化物イオンが発生する。そして、カソード処理物をアノード側に導入することで、カソード処理物がpH調整剤として機能することになる。すなわち、アノード側で従来使用していたpH調整剤の使用量を低減させることが可能となる。また併せて、カソード処理物の処理コストの低減も可能となる。これにより、電極反応を経ることで生じる処理物の有効利用及び発電に係る運用コストの低減が可能になる。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の嫌気処理システムは、被処理物の嫌気処理を行う嫌気処理部と、電極反応を行う反応部と、反応部のアノード側に、嫌気処理部で生成した還元性物質を供給する還元性物質供給手段と、反応部のカソード側での処理を経たカソード処理物を、嫌気処理部に供給するカソード処理物供給手段と、を備えるという特徴を有する。
本発明の嫌気処理システムは、嫌気処理部で生成した還元性物質を、電極反応を行う反応部のアノード側に供給することで、還元性物質を電子供与体とした電極反応が進行する。このとき、カソード側ではカソード処理物の一つとして水酸化物イオンが発生する。そして、カソード処理物を嫌気処理部に導入することで、カソード処理物がpH調整剤として機能することになる。すなわち、嫌気処理部で従来使用していたpH調整剤の使用量を低減させることが可能となる。また併せて、カソード処理物の処理コストの低減も可能となる。これにより、電極反応を経ることで生じる処理物の有効利用及び嫌気処理に係る運用コストの低減が可能になる。
【0015】
また、本発明の嫌気処理システムの一実施態様としては、被処理物を反応部のカソード側に供給するという特徴を有する。
この特徴によれば、嫌気処理部で処理される対象となる被処理物を給水源として取り扱い、カソード側に導入して使用することで、嫌気処理部と反応部の間で液体分が相互移動することになる。これにより、カソード側に外部から供給する物質の供給量を低減させることが可能となるとともに、嫌気処理部で処理する被処理物の総量が増加することを抑制することができ、嫌気処理に係る運用コストをより低減させることが可能となる。
【0016】
また、上記課題を解決するための本発明の嫌気処理方法としては、被処理物の嫌気処理を行う嫌気処理工程と、電極反応を行う反応工程と、反応工程におけるアノード側に、嫌気処理工程で生成した還元性物質を供給する還元性物質供給工程と、反応工程におけるカソード側での処理を経たカソード処理物を、嫌気処理工程に供給するカソード処理物供給工程と、を備えるという特徴を有する。
本発明の嫌気処理方法は、嫌気処理工程で生成した還元性物質を、電極反応を行う反応工程のアノード側に供給することで、還元性物質を電子供与体とした電極反応が進行する。このとき、カソード側ではカソード処理物の一つとして水酸化物イオンが発生する。そして、カソード処理物を嫌気処理工程に導入することで、カソード処理物がpH調整剤として機能することになる。すなわち、嫌気処理工程で従来使用していたpH調整剤の使用量を低減させることが可能となる。また併せて、カソード処理物の処理コストの低減も可能となる。これにより、電極反応を経ることで生じる処理物の有効利用及び嫌気処理に係る運用コストの低減が可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、嫌気処理後の生成物を用いた電極反応によるエネルギーの回収・利用を行うに当たり、電極反応を経ることで生じる処理物の有効利用及び運用コストの低減を可能とする発電装置及び発電方法、並びに嫌気処理システム及び嫌気処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施態様における発電装置の概略説明図である。
図2】本発明の実施態様における発電装置の別態様を示す概略説明図である。
図3】本発明の実施態様における嫌気処理システムの概略説明図である。
図4】本発明の実施態様における嫌気処理システムの別態様を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る発電装置及び発電方法、並びに嫌気処理システム及び嫌気処理方法の実施態様を詳細に説明する。本発明における発電方法及び嫌気処理方法は、本発明における発電装置及び嫌気処理システムの作動の説明に置き換えるものとする。
なお、実施態様に記載する発電装置及び発電方法、並びに嫌気処理システム及び嫌気処理方法については、本発明に係る発電装置及び発電方法、並びに嫌気処理システム及び嫌気処理方法を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0020】
本発明において、発電装置及び嫌気処理システムの反応部のアノード側に供給される還元性物質とは、嫌気処理で生成した生成物であって、電子供与体として機能するものであればよく、特に限定されない。また、本発明において、嫌気処理で生成した生成物(還元性物質)は、気体状態であってもよく、液体状態であってもよい。なお、液体状態の還元性物質とは、溶液に溶解または分散した状態のものも含まれる。
本発明における嫌気処理で生成した生成物の一例としては、嫌気処理を行った後の処理水(以下、「嫌気処理水」と呼ぶ)のほか、嫌気処理によって発生したバイオガスなどが挙げられる。
【0021】
ここで、ある物質が電子供与体として機能するか否かは、一般には電子受容体として機能する物質(以下、単に「電子受容体」と呼ぶ)との組み合わせによって相対的に決まるものである。つまり、本発明における還元性物質は、電子受容体よりも電子を放出しやすい(酸化還元電位が低い)、あるいはカソード側における電極反応によって電子の放出(酸化反応)が容易に進行するものとすることが挙げられる。例えば、電子受容体として酸素を用いた場合、本発明における還元性物質は、酸素よりも酸化還元電位が低いものであればよく、このような還元性物質としては、硫化水素、水素、アンモニアなどが挙げられる。
【0022】
また、本発明において、嫌気処理を行う処理対象となる被処理物については、嫌気処理が可能であり、嫌気処理で生成した生成物に還元性物質が含まれるものであればよく、特に限定されないが、少なくとも液体分を含むものである。具体的な被処理物の例としては、例えば、食品工場、化学工場、紙パルプ工場等の各種工場から排出される工業排水や、下水などの生活排水などのような排水(廃水)が挙げられる。また、被処理物の他の例としては、例えば、家庭や各種工場から排出する生ごみや食品廃棄物、木などバイオマスのほか、各種工場から排出される工業排水や下水などの生活排水を処理した後の余剰汚泥などのような固体分と液体分の混合物(以下、「スラリー」と呼ぶ)が挙げられる。なお、被処理物がスラリーである場合、嫌気処理水とは、スラリーから固体分を除去した濾液を指すものである。
なお、以下の実施態様においては、嫌気処理を行う被処理物として、処理を経ることでバイオガスが発生し、かつ嫌気処理水中に還元性物質が生成する排水について主に説明するが、これに限定されるものではない。
【0023】
[発電装置]
図1は、本発明の実施態様における発電装置の構造を示す概略説明図である。
本実施態様における発電装置1は、図1に示すように、電極反応を行う反応部3と、反応部3のアノード側に接続して設けられる還元性物質供給手段4と、反応部3のカソード側からアノード側に向かって接続して設けられるカソード処理物導入手段5とを備えるものである。また、本実施態様における発電装置1では、還元性物質供給手段4で供給する嫌気処理で生成した生成物の供給源となるものは特に限定されないが、図1に示すように、嫌気処理水及び/又はバイオガスを生成する嫌気処理部2を接続することが好ましい。なお、嫌気処理部2は、既設の嫌気処理設備からなるものであってもよく、後述する嫌気処理システム10の一部として設けられるものであってもよい。
【0024】
本実施態様における発電装置1では、電極反応を行う反応部3において、還元性物質供給手段4を介し、嫌気処理部2における嫌気処理で生成した生成物(嫌気処理水及び/又はバイオガス)をアノード側に供給することで、生成物に含まれる還元性物質を電子供与体とした電極反応が進行する。このとき、反応部3のカソード側ではカソード処理物の一つとして水酸化物イオンが発生する。そして、カソード処理物導入手段5を介し、カソード処理物をアノード側に導入することで、カソード処理物がpH調整剤として機能することになる。すなわち、アノード側で必要となるpH調整剤の使用量を低減させることが可能となる。また併せて、カソード処理物の処理コストの低減も可能となる。これにより、電極反応を経ることで生じる処理物の有効利用及び発電に係る運用コストの低減が可能になる。
以下、各構成について説明する。
【0025】
(嫌気処理部)
嫌気処理部2は、導入配管L4を介して導入される被処理物Sに対して嫌気処理を行うためのものである。また、嫌気処理部2は、本実施態様における発電装置1と接続され、後述する還元性物質供給手段4により反応部3に供給される還元性物質となる嫌気処理で生成する生成物を得るためのものである。
【0026】
嫌気処理部2で行う処理は、被処理物S中に含まれる処理対象に合った処理であり、処理後の嫌気処理水W1及び/又はバイオガスG1中に還元性物質を含むものであれば、特に制限されない。例えば、酸生成菌及びメタン生成菌によるメタン発酵や、脱窒菌により硝酸・亜硝酸の還元を行う脱窒処理や、硫酸還元菌により硫酸の還元を行う硫酸還元処理等が挙げられるが、処理コストや生成ガスの有用性の観点から、メタンを生成するメタン発酵が特に好ましい。
【0027】
嫌気処理部2は、メタン発酵処理において公知の構造を用いることができ、例えば、酸生成槽とメタン発酵槽の組み合わせとして公知の構造を有するものや、消化槽として公知の構造を有するものが好ましく、具体的な構造については特に限定されない。
【0028】
嫌気処理部2においてメタン発酵を行う場合、主にメタンガスからなり、硫化水素を含有するバイオガスG1が発生するほか、被処理物Sを処理した後の排出物(嫌気処理水W1)中には、メタンのほか、硫化水素、水素、アンモニア等の生成物が存在する。なお、これら生成物は、本発明における還元性物質に相当するものである。
【0029】
嫌気処理部2で生成した嫌気処理水W1及び/又はバイオガスG1は、発電装置1の反応部3(アノード側)に導入される。
【0030】
(反応部)
反応部3は、電気化学的な酸化還元反応を行うためのものであり、アノード側に供給された還元性物質を電子供与体とした電極反応を進行させ、発電によるエネルギー回収と、カソード側での処理を経たカソード処理物を生成する反応を進行させるためのものである。また、反応部3に導入される還元性物質が硫化水素を含む場合、この電極反応によって発電と併せて脱硫処理を行うことができる。
以下、本実施態様の反応部3の構造について、主に発電に係る観点から説明する。なお、本実施態様の反応部3による発電及び脱硫処理に係る反応及び工程の詳細については後述する。
【0031】
本実施態様の反応部3は、アノード側とカソード側で独立した電極反応を行うことができる構造を有するものであればよく、例えば、図1に示すように、イオン交換体35で仕切られた第1のセル31a及び第2のセル31bと、それぞれのセル(セル31a及び31b)に配置された一対の電極(電極33a及び33b)を備えているものが挙げられる。
【0032】
ここで、第1のセル31aは、後述する還元性物質供給手段4を介し、嫌気処理部2による嫌気処理で生成した生成物(嫌気処理水W1及び/又はバイオガスG1)が導入され、導入された生成物中の還元性物質が電極33aに接触するように形成されており、第1のセル31aに配置された電極33aはアノードとして機能する。一方、第2のセル31bは、電子受容体を貯留ないしは供給するように形成されており、第2のセル31bに配置された電極33bはカソードとして機能する。また、電極33a、33bは導線により外部回路と接続されている。
【0033】
第1のセル31aは、電極33aを備え、還元性物質供給手段4から供給された還元性物質(嫌気処理水W1及び/又はバイオガスG1)が電極33aに接触するように形成されているものであればよく、特に素材や形状は問わない。例えば、図1に示すように、還元性物質供給手段4の配管41(配管41a及び41b)を介して還元性物質導入口32a及び32bから導入された嫌気処理水W1及び/又はバイオガスG1を一時的に貯留可能なスペースを有し、電極33aに接触した後の処理物である処理水W2及び処理ガスG2を、系外に排出するための処理物排出口32c及び32dと、排出配管L1及びL2を備えること等が挙げられる。これにより、嫌気処理水W1及び/又はバイオガスG1中の還元性物質は電子供与体として電極33aに電子を供与した後、排出配管L1及びL2を介して速やかに排出される。
なお、還元性物質供給手段4における配管41と併せて、排出配管L1にもバルブ等の流量調整機構を設けるものとしてもよい。これにより、電極33aに接触させる嫌気処理水W1の量及び流速を調整し、電極33aに対する物質移動速度を制御して、電極反応効率(発電量)を制御することが可能となる。
【0034】
排出配管L1を介して排出された処理水W2は、河川などへの放流が可能な水質を満たすものであれば、そのまま放流することが可能である。また、排出配管L1の後段に、処理水W2を更に処理するための処理設備を設け、処理水W2を処理した後、系外へ排出するものとしてもよい。このような処理設備としては、処理水W2が系外あるいは河川への放流が可能な水質となるように処理できるものであれば特に限定されない。例えば、曝気槽やpH調整槽などが挙げられる。
【0035】
排出配管L2を介して排出された処理ガスG2は、空気中への放出が可能な性質を満たすものであれば、そのまま放出することが可能である。ただし、嫌気処理部2から供給されるバイオガスG1は、水に溶解あるいは電極反応における還元性物質として機能する成分以外にも、水に不溶(溶けにくい)、かつ電極反応しない性質を有する有用な成分(例えば、メタンガス、二酸化炭素など)を含んでいる。このため、排出配管L2と接続したガス回収設備を設け、処理ガスG2の回収・利用を可能とすることが好ましい。
【0036】
第2のセル31bは、電極33bを備え、第1のセル31aに導入された還元性物質に対する電子受容体を貯留ないしは供給するように形成されているものであればよく、特に素材や形状は問わない。
【0037】
ここで、電子受容体の形態は、気体、液体のいずれであってもよい。なお、液体としては、固体薬剤を溶解させた溶液であってもよく、気体を混合(溶解)させた溶液であってもよい。
【0038】
本実施態様において電子受容体の具体的な例については、例えば、気体としては、酸素及び酸素を含む気体が挙げられる。なお、酸素を含む気体とは、空気のように混合物として酸素を含むものや、二酸化炭素のように化合物を構成する元素として酸素を含むものが挙げられる。電子受容体として気体を用いた場合、反応後に排出したものの処理が不要(あるいは容易)であることや、入手に係るコストを低減できるという利点がある。なお、これらの利点を最大限活用するためには、電子受容体として、空気を用いることが特に好ましい。
【0039】
また、本実施態様における電子受容体の他の例としては、例えば、液体として、溶存酸素を含む溶液や、フェリシアン化カリウム水溶液のような酸化剤の水溶液等が挙げられる。電子受容体として液体を用いた場合、電子受容体として効果の高い化合物(酸化剤)の取り扱いが容易となるため、発電効率をより向上させることができるという利点がある。なお、発電効率を向上させるという観点からすると、電子受容体としては、フェリシアン化カリウム水溶液を用いることが好ましいが、上述したとおり、入手に係るコストを低減し、発電に係る運用コストを低減させるという観点からすると、電子受容体としては溶存酸素を含む溶液、特に水と空気の混合物を用いることが特に好ましい。
【0040】
さらに、本実施態様の発電装置1(及び後述する嫌気処理システム10)では、カソード側(第2のセル31b)で生成したカソード処理物Mの有効利用を図るものである。特に、カソード処理物Mとして水酸化物イオンが含まれることで、カソード処理物MをpH調整剤として活用することが可能となる。
したがって、本実施態様における電子受容体は、水酸化物イオンの生成効率向上及び取り扱いを容易にするという観点から、液体とすることが好ましい。また、上述したとおり、発電に係る運用コスト低減の観点から、特に水と空気の混合物とすることが好ましい。このとき、空気と混合される水としては、カソード側における電極反応を阻害しないものであればよく、水質(純度、含有成分等)については特に限定されない。空気と混合される水の具体例としては、例えば、系内で排出される水(洗浄水、処理水等)や、被処理物S(液体分)を用いることが挙げられる。これにより、系外からの水供給量を低減させ、運用コスト低減を図ることが可能となる。
【0041】
第2のセル31bとしては、例えば、図1に示すように、第2のセル31bに、液体又は気体を貯留可能なスペースを設け、電子受容体供給口34a及び処理物排出口34bとして、それぞれ電子受容体の供給及びカソード処理物Mの排出が可能なものを設け、配管36を介して電子受容体供給口34aから電子受容体(例えば、水と空気の混合物)が第2のセル31b内部のスペースに供給されるもの等が挙げられる。これにより、電極33aからの電子を、電極33bを介して電子受容体が受け取ることができ、電極33aと電極33b間に電流が流れて発電が行われる。また、反応後の電子受容体は、カソード処理物Mとして処理物排出口34b及び排出配管L3を介して速やかに反応部3から排出され、後述するカソード処理物導入手段5を介してアノード側に導入される。
なお、電子受容体供給口34a及び/又は処理物排出口34bにバルブ等の流量調整機構を設け、第2のセル31bにおける電子受容体の濃度を調整できるものとしてもよい。これにより、電極反応効率の制御が可能となり、発電量の制御と併せ、第2のセル31bで生成するカソード処理物の生成量を制御することが可能となる。
【0042】
イオン交換体35は、イオンを透過することのできる公知の構成であればよく、特に限定するものではない。特に、電極33a(アノード側)で発生する水素イオンを透過することのできる陽イオン交換膜とすることが挙げられる。これにより、電極33a(アノード側)から電極33b(カソード側)へ水素イオンが移動することで、電極33bでの電子受容体の反応効率を高めることができ、電極反応効率を向上させることができる。また、イオン交換体35は、酸素透過性が低いものとすることがより好ましい。これにより、電極33a側(アノード側)から酸素(空気)が電極33b側(カソード側)に移動することを抑制し、電極33aにおける電子供与体の反応効率が酸素により低下することを抑制することが可能となる。
なお、図1において、イオン交換体35は、電極33a及び電極33bと別体として設けるものを示しているが、これに限定されるものではない。例えば、イオン交換能を有する材料と電極33a及び/又は電極33bを一体とすること等が挙げられる。これにより、反応部3全体を小型化することが可能となるとともに、メンテナンス作業に係る時間短縮が可能となる。
【0043】
電極33aは、還元性物質から電子を回収する電極であり、いわゆるアノードとして機能するものである。また、本実施態様における電極33aは、嫌気処理部2で生成した嫌気処理水W1及び/又はバイオガスG1と接触するように第1のセル31a内に配置されている。
【0044】
電極33aとしては、アノードとして機能するものであればよく、材質及び形状については特に限定されない。電極33aの材質及び形状については、材料調達や加工に係るコスト、電極33aにおける還元性物質の反応効率などを鑑みて、適宜選択することができる。電極33aの材質の例としては、例えば、電気化学分野で電極材料として広く用いられている炭素や金属(ステンレス、白金、銅等)が挙げられる。また、電極33aの形状の例としては、例えば、平板状、棒状、メッシュ状などが挙げられる。
特に、本実施態様の電極33aとしては、電極反応効率を鑑み、多孔質体からなるものを用いることが好ましい。例えば、電極33aとしては、多孔質体であるカーボンペーパーやカーボンクロスのような炭素繊維を用いることのほか、発泡金属、多孔質金属、金属メッシュを用いることが挙げられる。
【0045】
電極33bは、電極33aの対極であって、電子受容体や微生物へ電子を受け渡す電極であり、いわゆるカソードとして機能するものである。また、本実施態様における電極33bは、第2のセル31b内に配置されている。
【0046】
電極33bとしては、カソードとして機能するものであればよく、材質及び形状については特に限定されない。電極33bの材質及び形状については、材料調達や加工に係るコスト、電極33bにおける電子受容体の反応効率などを鑑みて、適宜選択することができる。電極33bの材質の例としては、例えば、電気化学分野で電極材料として広く用いられている炭素や金属(ステンレス、白金、銅等)が挙げられる。また、電極33bの形状の例としては、例えば、平板状、棒状、メッシュ状などが挙げられる。
特に、本実施態様の電極33bとしては、電極反応効率を鑑み、多孔質体からなるものを用いることが好ましい。例えば、電極33bとしては、多孔質体であるカーボンペーパーやカーボンクロスのような炭素繊維を用いることのほか、発泡金属、多孔質金属、金属メッシュを用いることが挙げられる。
【0047】
(還元性物質供給手段)
還元性物質供給手段4は、反応部3のアノード側に対して、還元性物質を供給するためのものである。
還元性物質供給手段4としては、嫌気処理部2における嫌気処理で生成した生成物を反応部3のアノード側に供給することができるものであればよく、詳細な構造については特に限定されない。
本実施態様における還元性物質供給手段4の具体例としては、例えば、図1に示すように、嫌気処理部2と反応部3のアノード側とを接続する配管41(配管41a及び41b)からなるものが挙げられる。これにより、配管41を介して、嫌気処理部2で生成した嫌気処理水W1及び/又はバイオガスG1が反応部3のアノード側に供給することが可能となる。
なお、図1においては、配管41aを介して嫌気処理水W1が反応部3のアノード側に供給され、配管41bを介してバイオガスG1が反応部3のアノード側に供給されるものを示している。
【0048】
また、嫌気処理水W1を供給する配管41aと反応部3の接続箇所は特に限定されないが、バイオガスG1を供給する配管41bは、反応部3の下方と接続し、バイオガスG1を反応部3の下方から上方に向かって供給させることが好ましい。これにより、バイオガスG1の成分を反応部3内で拡散させることが容易となり、アノード側における電極反応効率を向上させることが容易となる。
【0049】
このとき、還元性物質供給手段4としては、嫌気処理部2で生成した嫌気処理水W1及び/又はバイオガスG1が流通可能なものであればよい。例えば、還元性物質供給手段4としては、図1に示すように、嫌気処理水W1とバイオガスG1とをそれぞれ独立して流通させるために複数の配管41a及び41bを備えるものに限定されるものではない。例えば、還元性物質供給手段4として、1つの配管を備え、嫌気処理水W1あるいはバイオガスG1を選択して流通させるものであってもよく、嫌気処理水W1とバイオガスG1の混合物を流通させるものであってもよい。
さらに、還元性物質供給手段4としては、アノード側に供給する還元性物質の供給量を制御するための制御機構として、バルブなどの流量調整機構を配管41上に設けるものとしてもよい。これにより、反応部3内で進行する電極反応効率を制御することが可能となる。
【0050】
(カソード処理物導入手段)
カソード処理物導入手段5は、反応部3のカソード側での処理を経たカソード処理物Mをアノード側に導入するためのものである。
カソード処理物導入手段5としては、カソード処理物Mを反応部3のアノード側に導入することができるものであればよく、詳細な構造については特に限定されない。
ここで、「カソード処理物をアノード側に導入する」とは、カソード処理物Mが最終的に反応部3のアノード側、すなわち第1のセル31a内に導入されることを指すものであり、カソード処理物導入手段5と還元性物質供給手段4とを接続することや、カソード処理物導入手段5と反応部3の第1のセル31aとを接続することを含むものである。
【0051】
カソード処理物Mとは、反応部3のカソード側での電極反応により生成される生成物であり、後述するように、主に水酸化物イオンを含むものが挙げられる。すなわち、カソード処理物Mは、アルカリ性のpH調整剤として機能するものとなる。特に、カソード側に導入する電子受容体として水及び酸素(空気)を含むものを用いることで、カソード処理物Mとして水酸化物イオンを含むものを廉価かつ効率的に得ることが可能となる。
なお、カソード処理物Mが主に水酸化物イオンを含むものである場合、通常、系外に排出した後、中和等の処理が別途必要となる。しかし、本実施態様の発電装置1では、カソード処理物Mを系内で有効利用することができるため、カソード処理物Mに対する処理を別途行う必要がなく、運用コスト低減を図ることができる。
【0052】
本実施態様のカソード処理物導入手段5としては、図1に示した発電装置1においては、第2のセル31bから処理物排出口34b及び排出配管L3を介して排出されるカソード処理物Mを、第1のセル31aあるいは還元性物質供給手段4の配管41内に導入するための配管及びバルブなどの流量調整機構を備えることが挙げられる。また、カソード処理物導入手段5を、アノード側においてアルカリ寄りのpH調整が必要となる箇所に接続することで、カソード処理物MがpH調整剤として機能し、系外から供給する薬剤(pH調整剤)の使用量を低減させることが可能となる。
【0053】
また、本実施態様における還元性物質供給手段4及びカソード処理物導入手段5としては、図1に示したものに限定されない。
図2は、本実施態様の発電装置1における還元性物質供給手段4及びカソード処理物導入手段5の別態様を示す概略説明図である。なお、図1に示した発電装置1の構成と同じものについては同一符号を付し、説明を省略する。また、図2においては、嫌気処理部2及び反応部3のアノード側における嫌気処理水W1の供給に係る構造(還元性物質導入口32aや配管41a等)については図示を省略している。
【0054】
反応部3の第1のセル31aに供給する嫌気処理で生成した生成物として、特にバイオガスG1のように気体状態のものを用いる場合、電極反応を効率的かつ安定的に進行させるためには、還元性物質供給手段4を介し、バイオガスG1中の還元性物質(主に硫化水素)が水溶液に溶存した状態にあるものをアノード側(第1のセル31a)に供給することが好ましい。例えば、バイオガスG1を混合(溶解)した水溶液の状態で反応部3のアノード側に導入する場合、還元性物質供給手段4としては、反応部3の前段で、バイオガス発生源(嫌気処理部2)からのバイオガスG1を水溶液に接触させるものとすることが挙げられる。
【0055】
図2に示すように、還元性物質供給手段4の別態様の一例としては、嫌気処理部2からのバイオガスG1を移送する配管41bと、配管41bを介してバイオガスG1が導入される水槽43と、水槽43と還元性物質導入口32bとを接続し、バイオガスG1が混合(溶解)した水溶液を反応部3のアノード側(第1のセル31a)に導入する配管42とを備えるものが挙げられる。
また、図2に示すように、カソード処理物導入手段5の別態様の一例としては、処理物排出口34bと水槽43とを接続する配管51を備えるものが挙げられる。また、配管51上には、カソード処理物Mの導入量を制御するために、バルブ等の流量調整機構を設けるものとしてもよい。
【0056】
図2における水槽43は、バイオガスG1と水溶液を混合することができるものであればよく、形状や材質については特に限定されない。また、水槽43に貯留される水溶液は、特に限定されないが、アルカリ溶液を用いることが好ましい。これにより、バイオガスG1に対し、いわゆる湿式脱硫に係る処理を行うことが可能となる。すなわち、バイオガスG1中の還元性物質(主に硫化水素)を水槽43内の水溶液に溶解させる一方、メタンや二酸化炭素などのガス成分については水溶液から分離することが可能となる。分離したガス成分については、上述した処理ガスG2と同様に、ガス回収設備によって回収・利用を可能とすることが好ましい。
【0057】
ここで、水槽43におけるpH調整を行うに当たり、一般的には系外から薬剤(pH調整剤)を添加するものとなる。一方、本実施態様の発電装置1では、カソード処理物導入手段5によって、アルカリ性のpH調整剤として機能するカソード処理物Mを水槽43に導入することで、系外から添加するpH調整剤の使用量を低減させることが可能となる。
【0058】
なお、水槽43におけるpH調整については、バイオガスG1に対する湿式脱硫処理効率を鑑みると、アルカリ性寄りであることが好ましいが、反応部3における電極反応効率を鑑みると、反応部3に導入される時点では、中性寄りとすることが好ましい。したがって、水槽43に貯留される水溶液は、弱アルカリ性とすることが好ましい。このため、上述したように、反応部3における電極反応効率を制御し、カソード処理物Mの生成量を制御することで、カソード処理物導入手段5によって導入されるカソード処理物Mの量を調整するものとしてもよい。これにより、水槽43に対するpH調整における薬剤使用量をより効果的に低減させることが可能となる。
【0059】
また、カソード処理物Mの生成量を制御する手段としては、アノード側に供給される電子供与体の供給量(還元性物質濃度)の制御や、カソード側に供給される電子受容体の供給量を制御することのほか、電極33a及び33bと導線を介して接続される外部回路上に可変抵抗を設け、抵抗値を制御することで電極反応効率を制御し、それに伴いカソード処理物Mの生成量を制御すること等が挙げられる。
【0060】
以下、図1に基づき、本発明の実施態様の発電装置における電極反応に係る反応及び工程を説明する。
本実施態様の発電装置1における電極反応に係る反応及び工程とは、アノード側における還元性物質を電子供与体として用いる電極反応と、カソード側での処理を経たカソード処理物Mを生成する電極反応に係るものである。
なお、図1に基づく反応及び工程に係る説明は、本実施態様における発電等に関連する各種電極反応の一例について示すものであり、これに限定されるものではない。また、反応R1~R4及び工程S1~S3の表記については、説明のために番号を付したものであり、反応及び工程順序を特定するものではない。
【0061】
図1に示すように、導入配管L4を介して嫌気処理部2に導入された被処理物Sは、嫌気処理部2内の嫌気性微生物(酸生成菌及びメタン生成菌)により嫌気処理される(工程S1)。このとき、メタンのほかに、還元性物質(水素、硫化水素、アンモニア等)を含む嫌気処理水W1及びバイオガスG1が生成する。
【0062】
還元性物質を含む嫌気処理水W1及びバイオガスG1は、還元性物質供給手段4における配管41(配管41a及び41b)を介して反応部3における第1のセル31a内に導入される(工程S2)。ここで、還元性物質(水素、硫化水素、アンモニア等)が電極33aに接触することで、還元性物質が電子供与体として機能し、電極33aへ電子が供与される。このとき、電子供与体として機能する還元性物質として、硫化水素を例にとると、電極33aにおける反応(反応R1)は、以下の反応式(式1)で示される。
【数1】
【0063】
また、硫化水素の一部は硫化水素イオンとして反応する。このときの反応は、以下の反応式(式2)で示される。
【数2】
【0064】
式1及び式2で示されるように、反応R1において、嫌気処理部2で処理された後の処理水W1に含まれる硫化水素は電極33aに電子を供与するとともに、硫化水素自身は酸化処理されることで無害化、無臭化する。このため、本実施態様の発電装置1は、発電と併せて、脱硫処理・脱臭処理が可能となる。なお、硫化水素以外の有害物質・臭気物質である還元性物質(アンモニア等)についても、同様に電子供与体として機能し、反応が進行することで、無害化・無臭化が可能になる。
【0065】
式1及び式2に示された反応式に基づき、電極33aにおける反応が進行した後、電子は電極33aから導線を介して電極33bへ移動する(反応R2)。なお、このとき、電極33aにおける反応で生成した水素イオンは、イオン交換体35を介して第2のセル31b側へ移動する(反応R3)。
【0066】
一方、第2のセル31bには、電子受容体供給口34aから電子受容体として空気(酸素)と水の混合物を導入する(工程S2)。ここで、反応R2により、電極33aから電極33bに移動した電子を、電極33bを介して電子受容体が受け取る。また、このとき、反応R3により、イオン交換体35を介して第2のセル31b側に移動した水素イオンも電子受容体(酸素)と反応する。このときの電極33bにおける反応(反応R4)は、以下の反応式(式3)で示される。
【数3】
【0067】
また、第2のセル31b内に水と酸素が存在することで、以下の反応式(式4)に基づく反応が進行する。
【数4】
【0068】
式4に示すように、酸素(空気)と水の存在下では、カソード処理物Mとして水酸化物イオンを含む水溶液が生成する。すなわち、カソード処理物Mは、アルカリ性のpH調整剤として機能するものとなる。
【0069】
上述した反応R1~R4及び工程S1~S3に基づき、電極33aと電極33bの間に電流が流れる。これにより、還元性物質(嫌気処理で生成した生成物)を電子供与体とする反応が進行し、本実施態様の発電装置1における発電が行われる。また、還元性物質として、硫化水素やアンモニアを含む場合、さらに脱硫・脱臭処理が行われる。
また、発電により得られた電気エネルギーは、電極33a及び電極33bに接続した外部回路を通じて回収・利用することができる。なお、電気エネルギーの利用については、特に限定されない。例えば、発電装置の設備駆動に用いるものであってもよく、発電装置外で利用するものであってもよい。
【0070】
そして、式4で示すように、カソード処理物Mとして生成した水酸化物イオンを含む水溶液は、カソード処理物導入手段5を介して、アノード側に導入されることで、アノード側におけるpH調整に活用されることになる。例えば、還元性物質供給手段4を介して反応部3に供給される還元性物質のpH調整を行うために、図1に示す配管41あるいは第1のセル31aに対して導入することや、図2に示すバイオガスG1を溶解させるための水槽43に導入することなどが挙げられる。なお、本実施態様の発電装置1では、カソード処理物Mの導入によってpH調整を行うことが可能であるが、所定のpH値へのpH調整をより確実に行うために、別途pH調整剤を添加する手段を設けるものとしてもよい。この場合においても、系外から供給するpH調整剤の使用量を低減させることが可能である。
【0071】
本実施態様における発電装置1は、還元性物質を電子供与体として用い、電気化学反応(電極反応)により発電を行い、エネルギーを回収・利用するものである。一般に、電気化学反応を行う場合、実際に電気化学反応を行う箇所(反応部3)以外へ電子が移動することで、電気化学反応の効率が低下するという問題が生じる。したがって、本実施態様における発電装置1は電気化学反応を行う箇所(反応部3)以外を絶縁処理することが好ましい。絶縁処理の具体例としては、例えば、嫌気処理部2を絶縁体の上部に設置することのほか、嫌気処理部2の外壁あるいは内壁を絶縁体で構成することや、嫌気処理部2の外壁あるいは内壁を絶縁材料でコーティングすることなどが挙げられる。また、還元性物質供給手段4及びカソード処理物導入手段5における各配管や、排出配管L1~L3及び配管36の絶縁処理としては、例えば、それぞれの配管を絶縁体からなるものとすることや、それぞれの配管に絶縁材料をコーティングすること等が挙げられる。
【0072】
以上のように、本実施態様の発電装置1及び発電装置1を用いた発電方法により、被処理物の嫌気処理後の生成物を活用した効率的なエネルギーの回収・利用が可能となる。また、カソード側での処理を経ることで発生したカソード処理物(主に水酸化物イオンを含むもの)をアノード側に導入することで、カソード処理物がpH調整剤として機能することになる。すなわち、アノード側で従来使用していたpH調整剤の使用量を低減させることが可能となる。また併せて、カソード処理物の処理コストの低減も可能となる。これにより、電極反応を経ることで生じる処理物の有効利用及び発電に係る運用コストの低減が可能になる。
【0073】
[嫌気処理システム]
上述した発電装置1に係る構成を嫌気処理部2と接続して一体化した嫌気処理システムとすることで、嫌気処理に係る一連の処理過程の中で反応部3における電極反応を実施することが可能となる。これにより、設備を大型化することなく、効率的な発電を実施し、エネルギーの回収・利用が可能となる。また、脱硫処理のための設備を別途設けることなく、効率的な脱硫処理を実施することが可能となる。
また、この嫌気処理システムに、カソード処理物Mを嫌気処理部2に供給可能とする手段を設けることで、カソード処理物Mを嫌気処理部2におけるpH調整に活用することも可能となる。
【0074】
図3は、本発明の実施態様における嫌気処理システムを示す概略説明図である。
本実施態様に係る嫌気処理システム10としては、図3に示すように、嫌気処理部2と、反応部3と、還元性物質供給手段4と、カソード処理物Mを嫌気処理部2に供給するカソード処理物供給手段6を備えるものが挙げられる。なお、上述した発電装置1に係る実施態様の構成と同じものについては、同一符号を付し、説明を省略する。
【0075】
本実施態様の嫌気処理システム10は、反応部3のカソード側での処理を経たカソード処理物M(主に水酸化物イオンを含むもの)を、嫌気処理部2に供給することで、嫌気処理部2におけるpH調整剤として機能させるものである。
【0076】
嫌気処理部2における嫌気処理においては、至適pHが存在することが知られている。例えば、メタン発酵において、酸生成菌による処理の至適pHは5から6、メタン生成菌による処理の至適pHは中性付近(pH6~8)である。したがって、酸生成槽とメタン発酵槽からなる嫌気処理部2においては、酸生成槽からメタン発酵槽に移送する際、アルカリ寄りにpHを調整する必要が生じる。そのため、従来の嫌気処理システムでは、系外からpH調整剤を添加する必要があり、薬剤コストが大きいものであった。
【0077】
一方、上述したように、反応部3のカソード側での処理を経たカソード処理物M(主に水酸化物イオンを含むもの)は、アルカリ性のpH調整剤として機能する。
したがって、本実施態様の嫌気処理システム10では、カソード処理物供給手段6を介して、嫌気処理部2にカソード処理物Mを供給することで、従来必要とされていたpH調整剤と併用してpH調整を行うことが可能となる。これにより、系内で発生したカソード処理物を有効活用し、系外から供給する薬剤(pH調整剤)の使用量を低減させることが可能となる。
また、カソード処理物Mが主に水酸化物イオンを含むものである場合、通常、系外に排出した後、中和等の処理が別途必要となる。しかし、本実施態様の嫌気処理システム10では、カソード処理物Mを系内で有効利用することができるため、カソード処理物Mに対する処理を別途行う必要がなく、嫌気処理システム10の運用コスト低減を図ることができる。
【0078】
カソード処理物供給手段6は、反応部3のカソード側での処理を経たカソード処理物Mを嫌気処理部2に供給するためのものである。
カソード処理物供給手段6としては、カソード処理物Mを嫌気処理部2に供給することができるものであればよく、詳細な構造については特に限定されない。ここで、「カソード処理物を嫌気処理部に供給する」とは、カソード処理物Mが嫌気処理部2におけるpH調整に寄与するように供給されることを指すものであり、嫌気処理部2においてアルカリ寄りのpH調整を必要とする箇所(従来、アルカリ性のpH調整剤が添加されている箇所)とカソード処理物供給手段6とを接続することが挙げられる。より具体的には、嫌気処理部2が酸生成槽とメタン発酵槽の二槽を備える場合、酸生成槽とメタン発酵槽の間や、メタン発酵槽に対し、カソード処理物供給手段6を接続してカソード処理物Mを供給することが挙げられる。
【0079】
カソード処理物供給手段6の具体例としては、図3に示すように、カソード処理物Mを移送する配管61を備え、この配管61を反応部3の処理物排出口34bから嫌気処理部2に接続するものが挙げられる。また、配管61上には、カソード処理物Mの供給量を制御するために、バルブ等の流量調整機構を設けるものとしてもよい。
【0080】
図4は、本実施態様の嫌気処理システムにおける別態様を示す概略説明図である。
図4に示すように、本実施態様の嫌気処理システム10では、反応部3のカソード側における電極反応で必要となる水(空気と混合させる水)を系内から供給する手段(給水手段7)を設けることが好ましい。これにより、反応部3のカソード側で使用する水を外部から供給する必要がなくなる。
【0081】
給水手段7としては、反応部3のカソード側で必要となる水(空気と混合させる水)として使用可能なものを系内から供給することができればよく、特に限定されない。また、給水手段7で供給する水としては、上述したように、反応部3のカソード側における電極反応を阻害しないものであればよく、特に限定されない。
給水手段7の具体例としては、被処理物Sに含まれる液体分を反応部3のカソード側で使用可能とすることが挙げられる。すなわち、給水手段7において、被処理物Sを給水源として取り扱い、反応部3のカソード側に供給することが挙げられる。また、被処理物Sを取水する箇所としては、嫌気処理部2による嫌気処理が完全に進行する前(還元性物質の含有量が少ない箇所)であることが好ましい。
本実施態様の給水手段7としては、例えば、図4に示すように、嫌気処理部2の上流(導入配管L4)と反応部3のカソード側(第1のセル31b)とを接続する配管71を備えるものが挙げられる。また、配管71を嫌気処理部2と直接接続し、嫌気処理途中の被処理物S(液体)を取水するものとしてもよい。
【0082】
給水手段7として、被処理物Sを給水源として取り扱い、反応部3のカソード側に供給するものを設けることで、カソード処理物供給手段6と併せて、反応部3のカソード側におけるカソード処理物M(水溶液)と嫌気処理部2側における被処理物S(液体分)とが相互移動することになる。これにより、カソード処理物供給手段6によってカソード処理物Mを嫌気処理部2に対して一方向に供給することに比べ、嫌気処理部2における被処理物Sの総量が過剰に増加することを抑制することができ、嫌気処理効率の低下・運用コストの増大を抑制することが可能となる。
【0083】
また、本実施態様の嫌気処理システム10においては、被処理物Sの嫌気処理と併せ、上述した発電装置1と同様の工程により発電及び脱硫・脱臭処理を行うことが可能である。
【0084】
以上のように、本実施態様における嫌気処理システム10及び嫌気処理システム10を用いた嫌気処理方法により、被処理物の嫌気処理と併せて、嫌気処理後の生成物を活用した効率的なエネルギーの回収・利用が可能となる。また、カソード側での処理を経ることで発生したカソード処理物(主に水酸化物イオンを含むもの)を嫌気処理部に供給することで、カソード処理物がpH調整剤として機能することになる。すなわち、嫌気処理部で従来使用していたpH調整剤の使用量を低減させることが可能となる。また併せて、カソード処理物の処理コストの低減も可能となる。これにより、電極反応を経ることで生じる処理物の有効利用及び嫌気処理に係る運用コストの低減が可能になる。
【0085】
なお、上述した実施態様は、発電装置及び発電方法、並びに嫌気処理システム及び嫌気処理方法の一例を示すものである。本発明に係る発電装置及び発電方法、並びに嫌気処理システム及び嫌気処理方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る発電装置及び発電方法、並びに嫌気処理システム及び嫌気処理方法を変形してもよい。
【0086】
例えば、本実施態様における発電装置及び嫌気処理システムは、複数の反応部3を備えるものとしてもよい。例えば、還元性物質供給手段として嫌気処理水W1のみが供給される反応部と、バイオガスG1のみが供給される反応部とを備えること等が挙げられる。これにより、嫌気処理で生成する生成物を有効活用した電極反応を複数箇所で行うことが可能となる。
【0087】
また、例えば、本実施態様の嫌気処理システムは、カソード処理物供給手段6とカソード処理物導入手段5とを併せて設けるものとしてもよい。これにより、嫌気処理システム内でpH調整が必要となる複数箇所に対して、カソード処理物を供給してpH調整を行うことが可能となり、外部から供給するpH調整剤の使用量をより一層低減させることが可能となる。
【0088】
また、例えば、本実施態様における発電装置及び嫌気処理システムは、別途絶縁機構を設けるものとしてもよい。絶縁機構は、反応部3で反応する嫌気処理水W1以外の処理水(処理水W2)を絶縁することができるものであればよく、特に限定されない。
絶縁機構による絶縁手段としては、例えば、反応部3の電極33aと処理水W2との電気的な接触(液絡)の解消あるいは液絡時間の短縮が挙げられる。このような液絡解消手段又は液絡時間の短縮手段の例としては、処理水W2の流れを不連続(断続的)とする手段や、処理水W2に空気などの絶縁体を介在させる手段、あるいはこれらの手段を組み合わせるもの等が挙げられる。これにより、反応部3で生成した電子が電極33a及び電極33bの間以外に流れることを防ぎ、電極反応効率を向上させるものである。
なお、本実施態様における発電装置は、第1の実施態様に示したような発電装置を構成する構造物(配管)や発電装置に接続する設備(嫌気処理部)に係る絶縁を併せて行うものとしてもよい。これにより、より一層の絶縁効果を得ることができ、反応部3における電極反応効率を向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の発電装置及び発電方法、並びに嫌気処理システム及び嫌気処理方法は、被処理物を処理する際に還元性物質が発生する嫌気処理において、発電によるエネルギー回収・利用を可能とするとともに、pH調整剤(アルカリ性のpH調整剤)の使用量を低減させることが可能となるものとして好適に利用される。
【符号の説明】
【0090】
1 発電装置、10 嫌気処理システム、2 嫌気処理部、3 反応部、31a 第1のセル、31b 第2のセル、32a,32b 還元性物質導入口、32c,32d 処理物排出口、33a,33b 電極、34a 電子受容体導入口、34b 処理物排出口、35 イオン交換体、36 配管、4 還元性物質供給手段、41,41a,41b,42 配管、43 水槽、5 カソード処理物導入手段、51 配管、6 カソード処理物供給手段、61 配管、7 給水手段、71 配管、L1~L3 排出配管、L4 導入配管、G1 バイオガス、G2 処理ガス、M カソード処理物、S 被処理物、W1 嫌気処理水、W2 処理水
図1
図2
図3
図4