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特開2024-12077圧延設備の形状制御アクチュエータ設定モデルの生成方法、圧延設備の形状制御アクチュエータの設定方法、鋼板の形状制御方法、鋼板の形状制御装置、及び鋼板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012077
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】圧延設備の形状制御アクチュエータ設定モデルの生成方法、圧延設備の形状制御アクチュエータの設定方法、鋼板の形状制御方法、鋼板の形状制御装置、及び鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/00 20060101AFI20240118BHJP
   B21B 37/42 20060101ALI20240118BHJP
   B21B 38/02 20060101ALI20240118BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20240118BHJP
   B21B 37/38 20060101ALN20240118BHJP
【FI】
B21B37/00 300
B21B37/42
B21B38/02
B21C51/00 L
B21B37/38 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072982
(22)【出願日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2022112919
(32)【優先日】2022-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 拓也
(72)【発明者】
【氏名】植野 雅康
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 晋
(72)【発明者】
【氏名】大場 洋尚
【テーマコード(参考)】
4E124
【Fターム(参考)】
4E124AA02
4E124CC03
4E124DD19
4E124EE02
4E124EE16
4E124FF01
(57)【要約】
【課題】鋼板の形状を長手方向にわたって精度よく制御でき、鋼板の形状の安定性を向上させることができる形状制御アクチュエータ設定モデルを生成可能な、圧延設備の形状制御アクチュエータ設定モデルの生成方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る圧延設備の形状制御アクチュエータ設定モデルの生成方法は、圧延設備の圧延操業パラメータから選択した1つ以上の操業実績データと、形状検出器から取得される形状実績データと、を入力実績データ、形状制御アクチュエータの設定変更を行うか否かを表す設定変更情報と、形状制御アクチュエータの設定値と、を出力実績データとした、複数の学習用データを用いたニューラルネットワークの手法によって、形状制御アクチュエータ設定モデルを生成する設定モデル生成ステップを含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の形状を制御する形状制御アクチュエータと、前記鋼板の形状を検出する形状検出器と、を備える圧延設備における、形状制御アクチュエータを設定するための圧延設備の形状制御アクチュエータ設定モデルの生成方法であって、
前記圧延設備の圧延操業パラメータから選択した1つ以上の操業実績データと、前記形状検出器から取得される形状実績データと、を入力実績データ、前記形状制御アクチュエータの設定変更を行うか否かを表す設定変更情報と、前記形状制御アクチュエータの設定値と、を出力実績データとした、複数の学習用データを用いたニューラルネットワークの手法によって、形状制御アクチュエータ設定モデルを生成する設定モデル生成ステップを含む、圧延設備の形状制御アクチュエータ設定モデルの生成方法。
【請求項2】
前記圧延操業パラメータには、鋼板の目標形状データが含まれる、請求項1に記載の圧延設備の形状制御アクチュエータ設定モデルの生成方法。
【請求項3】
前記ニューラルネットワークは、出力層として、前記設定変更情報を出力する第1出力層と、前記形状制御アクチュエータの設定値を出力する第2出力層と、を含み、前記第1出力層と前記第2出力層は共通の中間層から分岐したネットワーク構造である、請求項1又は2に記載の圧延設備の形状制御アクチュエータ設定モデルの生成方法。
【請求項4】
鋼板の形状を制御する形状制御アクチュエータと、前記鋼板の形状を検出する形状検出器と、を備える圧延設備における、形状制御アクチュエータを設定するための圧延設備の形状制御アクチュエータの設定方法であって、
前記圧延設備の圧延操業パラメータから選択した1つ以上の操業データと、前記形状検出器から取得される形状データと、を入力データ、前記形状制御アクチュエータの設定変更を行うか否かを表す設定変更情報と、前記形状制御アクチュエータの設定値と、を出力データとした、ニューラルネットワークの手法によって生成された形状制御アクチュエータ設定モデルを用いて、前記設定変更情報が前記形状制御アクチュエータの設定変更を行うものである場合に、前記形状制御アクチュエータを前記設定値に再設定する再設定ステップを含む、圧延設備の形状制御アクチュエータの設定方法。
【請求項5】
前記ニューラルネットワークは、出力層として、前記設定変更情報を出力する第1出力層と、前記形状制御アクチュエータの設定値を出力する第2出力層と、を含み、前記第1出力層と前記第2出力層は共通の中間層から分岐したネットワーク構造であって、
前記再設定ステップは、前記第1出力層の出力が前記形状制御アクチュエータの設定変更を行うものである場合に、前記形状制御アクチュエータを前記設定値に再設定する、
請求項4に記載の圧延設備の形状制御アクチュエータの設定方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の圧延設備の形状制御アクチュエータの設定方法を用いて、鋼板の圧延中に前記形状制御アクチュエータを再設定するステップを含む、鋼板の形状制御方法。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の圧延設備の形状制御アクチュエータの設定方法を用いて、鋼板の圧延中に前記形状制御アクチュエータを再設定する手段を備える、鋼板の形状制御装置。
【請求項8】
請求項6に記載の鋼板の形状制御方法を用いて鋼板を製造するステップを含む、鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延設備の形状制御アクチュエータ設定モデルの生成方法、圧延設備の形状制御アクチュエータの設定方法、鋼板の形状制御方法、鋼板の形状制御装置、及び鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄鋼板を減厚する圧延設備では、鋼板をコイル状に巻き取った鋼帯として圧延設備に装入し、鋼板を連続的に払出し、搬送しながら圧延を行う。圧延工程では、鋼板を所定の寸法に制御すると共に鋼板の形状を適切に制御することが求められる。鋼板の形状とは、平坦度の意味であり、耳波や中伸びが代表的である。鋼板の形状は、圧延時に鋼板の幅方向に分布する伸び歪(長手方向歪)を面内の応力分布として維持できないために、座屈が生じて波形状(形状不良)が顕在化するものである。鋼板の形状不良が発生すると、製品としての品質が劣るだけでなく、圧延設備の圧延速度(ライン速度)を低下せざるを得ず生産能率が低下する。さらに、鋼板の形状不良は、鋼板の破断や絞り込みといった操業トラブルの原因にもなり得る。このため、圧延工程においては、鋼板の形状を長手方向にわたって所望の形状に制御することが求められる。
【0003】
一方、圧延設備を構成する圧延機は、ワークロールの弾性変形を制御して鋼板の幅方向に分布する伸び歪が所望の分布になるように調整する形状制御アクチュエータを備えている。形状制御アクチュエータは、圧延機のミル形式によって異なるものが用いられるが、ワークロールに曲げ力を付与してワークロールの撓みを調整するワークロールベンダが代表的である。その他にも、ワークロールや中間ロールを軸方向に可動させるロールシフトや、分割バックアップロールを用いてワークロールの撓みを調整する方式のものがある。また、圧延設備は鋼板の形状検出器を備え、形状検出器によって検出される鋼板の形状が目標とする形状(目標形状)に一致するように形状制御アクチュエータが設定される。
【0004】
形状制御アクチュエータの設定を行う形状制御装置は、圧延パスを開始する前に初期設定を実行する機能と、圧延パスの開始後に形状検出器からの出力を参照して形状制御アクチュエータの設定を修正(再設定)するフィードバック制御機能を備えることが多い。圧延パスの開始前に適切な初期設定を行うことにより鋼板の先端部から形状を良好にすることができ、フィードバック制御機能により外乱が生じても鋼板の全長にわたって形状を良好にし得る。但し、圧延機のワークロールの弾性変形に対する形状制御アクチュエータの設定値の影響を定量的に予測することが難しい場合もある。例えばワークロールの撓みを定量的に予測するためには、圧延機を構成する各種ロールの熱膨張の挙動を予測する必要があり、これらの予測には種々の誤差が生じることが多いためである。これに対して、圧延設備の形状制御アクチュエータの設定値を適切に調整するための技術が提案されている。
【0005】
具体的には、特許文献1には、形状制御アクチュエータの初期設定を適切に行う方法が記載されている。これは、圧延材の平坦度に関する影響因子を入力データとしてニューラルネットワークを構成する方法である。特許文献1には、ある設定値で圧延したときの実績形状値に対して最適設定値演算装置によって各操作端の最適設定値を算出し、このときの影響因子と各操作端設定値の対データを蓄積してニューラルネットワークの学習用データとすることが記載されている。この場合、ニューラルネットワークは、階層型の構造をとり、影響因子が入力、各操作端設定値を出力として誤差逆伝播学習によって学習が行われる。
【0006】
また、特許文献2にも形状制御アクチュエータの初期設定を適切に行う方法が記載されている。これは、予め鋼板の圧延条件、形状制御アクチュエータの設定値、及び形状データを形状制御実績データとして蓄積し、ニューラルネットワークを用いた学習により典型データ(プロトタイプ)を抽出する方法である。そして、圧延パスを実行する前に、鋼板の圧延条件及び目標形状について典型データとの類似度を算出し、算出した類似度に基づいて典型データによる形状制御アクチュエータの設定値を組み合わせて形状制御アクチュエータの初期設定を行う。
【0007】
一方、特許文献3には、圧延設備による鋼板の形状制御を例示して、形状検出器による実績形状と目標形状との差である形状偏差データを入力、形状制御アクチュエータの操作量を出力とするニューラルネットワークを構成する方法が記載されている。また、特許文献3には、検出される形状偏差に応じて形状制御アクチュエータの再設定を行う形状フィードバック制御についても記載されている。さらに、特許文献3には、形状制御アクチュエータの制御出力の良否を判定する制御結果良否判定部を設けることにより、フィードバック制御の制御出力を適正化する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4-167908号公報
【特許文献2】特許第2677964号公報
【特許文献3】特開2018-180799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の方法は、形状制御アクチュエータの初期設定方法に関するものであり、鋼板の長手方向の形状を制御する形状フィードバック制御に関するものではない。このため、鋼板の形状を必ずしも長手方向にわたって目標形状に制御できない場合がある。これに対して、特許文献3に記載の方法は、圧延設備における鋼板の形状を制御する動的な形状制御(形状フィードバック制御)に適用でき、鋼板の長手方向における形状を目標形状に制御し得る。しかしながら、形状検出器による実績形状と目標形状との差である形状偏差データを入力、形状制御アクチュエータの操作量を出力とするニューラルネットワークを構成する方法では、形状制御の制御周期毎に形状偏差データが変化する。このため、形状制御アクチュエータの操作量が随時変化する。つまり、実績形状と目標形状とが所定の偏差内に収まらない限り、鋼板の圧延中に常に形状制御アクチュエータの設定値が変動することになり、このような変動が鋼板を圧延する場合に外乱となって、長手方向における鋼板の形状が安定しない。さらに、形状制御アクチュエータの設定値が変動することにより、鋼板と圧延ロールとの接触部における潤滑や摩擦状態の変動が生じ、圧延後の鋼板表面に色調ムラ等の外観不良が発生し、鋼板の歩留まりが低下する。また、特許文献3には、形状制御アクチュエータの制御出力の良否を判定する制御結果良否判定部が記載されている。しかしながら、これは、形状制御アクチュエータの設定値を変更した結果として得られる実績データ(この場合は形状偏差データ)が変更前に比べて良くなったか否かを判定するものである。このため、鋼板の圧延中に形状制御アクチュエータの設定値が変動するという問題を解決することはできない。
【0010】
本発明は、以上の問題を解決すべくなされたものであり、その目的は、鋼板の形状を長手方向にわたって精度よく制御でき、鋼板の形状の安定性を向上させることができる形状制御アクチュエータ設定モデルを生成可能な、圧延設備の形状制御アクチュエータ設定モデルの生成方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、鋼板の形状を長手方向にわたって精度よく制御でき、鋼板の形状の安定性を向上させることができる、圧延設備の形状制御アクチュエータの設定方法、鋼板の形状制御方法、鋼板の形状制御装置、を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、長手方向にわたって所望の形状を有する鋼板を歩留まりよく製造可能な鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る圧延設備の形状制御アクチュエータ設定モデルの生成方法は、鋼板の形状を制御する形状制御アクチュエータと、前記鋼板の形状を検出する形状検出器と、を備える圧延設備における、形状制御アクチュエータを設定するための圧延設備の形状制御アクチュエータ設定モデルの生成方法であって、前記圧延設備の圧延操業パラメータから選択した1つ以上の操業実績データと、前記形状検出器から取得される形状実績データと、を入力実績データ、前記形状制御アクチュエータの設定変更を行うか否かを表す設定変更情報と、前記形状制御アクチュエータの設定値と、を出力実績データとした、複数の学習用データを用いたニューラルネットワークの手法によって、形状制御アクチュエータ設定モデルを生成する設定モデル生成ステップを含む。
【0012】
前記圧延操業パラメータには、鋼板の目標形状データが含まれるとよい。
【0013】
前記ニューラルネットワークは、出力層として、前記設定変更情報を出力する第1出力層と、前記形状制御アクチュエータの設定値を出力する第2出力層と、を含み、前記第1出力層と前記第2出力層は共通の中間層から分岐したネットワーク構造であるとよい。
【0014】
本発明に係る圧延設備の形状制御アクチュエータの設定方法は、鋼板の形状を制御する形状制御アクチュエータと、前記鋼板の形状を検出する形状検出器と、を備える圧延設備における、形状制御アクチュエータを設定するための圧延設備の形状制御アクチュエータの設定方法であって、前記圧延設備の圧延操業パラメータから選択した1つ以上の操業データと、前記形状検出器から取得される形状データと、を入力データ、前記形状制御アクチュエータの設定変更を行うか否かを表す設定変更情報と、前記形状制御アクチュエータの設定値と、を出力データとした、ニューラルネットワークの手法によって生成された形状制御アクチュエータ設定モデルを用いて、前記設定変更情報が前記形状制御アクチュエータの設定変更を行うものである場合に、前記形状制御アクチュエータを前記設定値に再設定する再設定ステップを含む。
【0015】
前記ニューラルネットワークは、出力層として、前記設定変更情報を出力する第1出力層と、前記形状制御アクチュエータの設定値を出力する第2出力層と、を含み、前記第1出力層と前記第2出力層は共通の中間層から分岐したネットワーク構造であって、前記再設定ステップは、前記第1出力層の出力が前記形状制御アクチュエータの設定変更を行うものである場合に、前記形状制御アクチュエータを前記設定値に再設定するとよい。
【0016】
本発明に係る鋼板の形状制御方法は、本発明に係る圧延設備の形状制御アクチュエータの設定方法を用いて、鋼板の圧延中に前記形状制御アクチュエータを再設定するステップを含む。
【0017】
本発明に係る鋼板の形状制御装置は、本発明に係る圧延設備の形状制御アクチュエータの設定方法を用いて、鋼板の圧延中に前記形状制御アクチュエータを再設定する手段を備える。
【0018】
本発明に係る鋼板の製造方法は、本発明に係る鋼板の形状制御方法を用いて鋼板を製造するステップを含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る圧延設備の形状制御アクチュエータ設定モデルの生成方法によれば、鋼板の形状を長手方向にわたって精度よく制御し、形状の安定性を向上させる形状制御アクチュエータ設定モデルを生成することができる。また、本発明に係る圧延設備の形状制御アクチュエータの設定方法、鋼板の形状制御方法、及び鋼板の形状制御装置によれば、鋼板の形状を長手方向にわたって精度よく制御し、形状の安定性を向上させることができる。また、本発明に係る鋼板の製造方法によれば、長手方向にわたって所望の形状を有する鋼板を歩留まりよく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の一実施形態である圧延設備の構成を示す側面図である。
図2図2は、形状制御アクチュエータ及び圧延機構の概略構成を示す正面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態である形状制御アクチュエータ設定モデル生成部の構成を示すブロック図である。
図4図4は、形状実績データの一例を示す図である。
図5図5は、アクチュエータ設定値の時系列データから設定変更情報を特定する方法を説明するための図である。
図6図6は、本発明の一実施形態であるニューラルネットワークの構成を示す図である。
図7図7は、圧延設備に形状制御アクチュエータ設定部を含む鋼板の形状制御システムの構成例を示す図である。
図8図8は、本実施例及び比較例における形状制御アクチュエータ設定値の出力値と実績値の比較結果を示す図である。
図9図9は、本実施例、比較例2、及び比較例3について、圧延後鋼板の長手方向における形状偏差を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0022】
〔圧延設備〕
まず、図1及び図2を参照して、本発明の一実施形態である圧延設備の構成について説明する。本実施形態では少なくとも圧延機及び形状検出器を含む設備を圧延設備と呼ぶこととする。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態である圧延設備の構成を示す側面図である。図1に示すように、本発明の一実施形態である圧延設備1は、12段クラスター型圧延機により構成されている。12段のロールは、上下1組からなるワークロール2、上下2組からなる中間ロール3、上下1組からなる小型バックアップロール4、上側2対の上バックアップロール5、及び下側2対の下バックアップロール6を備えている。圧延材である鋼板Sは、ペイオフリール7、右テンションリール8、及び左テンションリール9のうちのいずれかから供給されて圧延され、反対側のテンションリールに巻き取られる。形状検出器10は鋼板Sの幅方向の伸び差を検出する。
【0024】
図2は、形状制御アクチュエータ(操作端)及び圧延機構の概略構成を示す正面図である。鋼板Sは、ワークロール2によって上下方向から圧延され延伸される。上バックアップロール5は、軸方向に7分割されており、軸方向中心位置から順にセンター51a、クォータイン51b、クォータアウト51c、及びエッジ51dがそれぞれ押し出しを行うことによりロールクラウンを調整することができる。下バックアップロール6は、軸方向に6分割されており、軸方向中心位置から順にセンター61a、クォータ61b、及びエッジ61cがそれぞれ押し出しを行うことによりロールクラウンを調整することができる。
【0025】
圧延設備は、形状制御アクチュエータとして、上バックアップロール5及び下バックアップロール6のロールクラウン調整機能、中間ロールベンダ11、及び上下のワークロール2に曲げ力を与えるワークロールベンダ12を備えている。形状制御アクチュエータとして、上バックアップロール5又は下バックアップロール6の軸心部を幅方向に傾動させるレベリング機構を備えてもよい。また、これらの形状制御アクチュエータに加えて、上下の中間ロール3がロールの軸方向に対して互いに反対方向にシフトする中間ロールシフトや上下のワークロール2が上下で互いに反対方向にシフトするワークロールシフトを備えてもよい。
【0026】
図1に戻り、形状検出器10は、圧延機により圧延された鋼板Sの形状を測定する計測器である。形状検出器10としては、鋼板Sの形状を測定するために通常用いられる手段を選択してよい。鋼板Sの形状は、鋼板Sの長手方向の線分長さが幅方向に分布していることにより生じるものであり、幅方向の長さの差を伸び差率(%)や伸び差(I-unit(1×10-5))という単位で評価するのが通常である。具体的には、鋼板Sの長さが幅方向に分布していると、鋼板Sに対して一定の巻き付き角で接触するロールに対して接触圧力(接触するロールへの垂直荷重)が幅方向に分布することになる。形状検出器10は、その接触圧力の分布を測定することによって伸び差を算出する。このとき、接触圧力の幅方向分布は、接触ロール内部に軸方向に分割して配置される荷重検出器により検出される(分割ロードセル方式)。
【0027】
但し、形状検出器10として、鋼板Sの面外変位を非接触の距離計(レーザー距離計等)によって検出して伸び差に換算する方法や、鋼板Sに照射したモアレ縞から伸び差を算出する方法を用いてもよい。いずれかの形状測定器を用いて、鋼板Sの幅方向における線分長さから伸び差率又は伸び差(I-unit)を測定するものとする。幅方向の伸び差を検出するチャンネル数(幅方向の分割数)は、形状制御に使用する形状制御アクチュエータの数よりも多いことが好ましい。具体的には、形状検出器10は、幅方向に24~64分割されて各位置における伸び差率又は伸び差を測定できるものとする。
【0028】
〔形状制御システム〕
次に、図1を参照して、圧延設備1の形状制御システムについて説明する。
【0029】
図1に示すように、圧延設備1の形状制御システムは、制御用計算機100と圧延制御コントローラ110を備えている。制御用計算機100は、上位計算機から鋼板Sの母材寸法(板厚、板幅、長さ等)に関する情報や、鋼板Sの変形抵抗、製品板厚等の情報を取得し、鋼板Sの製造諸元に応じて設定される圧延パス数の圧延を実行する際、各圧延パスでの圧延荷重の予測値を算出する。そして、制御用計算機100は、圧延荷重の予測値に基づいて圧延パス毎に形状制御アクチュエータの初期設定値を圧延制御コントローラ110に送る。圧延制御コントローラ110は、取得した初期設定値に基づいて、形状制御アクチュエータの各機器を動作させる。圧延制御コントローラ110は、制御用計算機100から各圧延パスにおける鋼板Sの目標形状の情報も取得する。
【0030】
形状制御アクチュエータの初期設定値が設定され圧延パスが開始した後は、圧延制御コントローラ110は、随時形状制御アクチュエータの設定値を再設定する(形状フィードバック制御)。形状フィードバック制御は、形状検出器10から取得する鋼板Sの実績形状と制御用計算機100から取得する鋼板Sの目標形状を用いて行われる。形状フィードバック制御を実行することにより、鋼板Sの長手方向で母材の板厚変動等の外乱があっても、鋼板Sの形状を目標形状に近づけ、長手方向に均一な形状を有する鋼板Sを製造することができる。
【0031】
〔形状制御アクチュエータ設定モデル〕
次に、図3図6を参照して、本発明の一実施形態である形状制御アクチュエータ設定モデルについて説明する。
【0032】
本発明の一実施形態である形状制御アクチュエータ設定モデルは、圧延制御コントローラ110に備えられ、形状検出器10から取得される鋼板Sの実績形状を参照して形状制御アクチュエータに適切な設定値を送るために用いられる。図3に示すように、形状制御アクチュエータ設定モデルMは、形状制御アクチュエータ設定モデル生成部140によって生成される。本実施形態では、データ取得部120が、鋼板Sの圧延パスにおいて、圧延中に取得される鋼板Sの形状実績データ、その圧延パスにおける圧延設備1の圧延操業パラメータから選択した1つ以上の操業実績データ、形状制御アクチュエータの設定値(以下では、アクチュエータ設定値と呼ぶことがある)の実績データ、及び形状制御アクチュエータの設定変更情報の実績データを取得する。
【0033】
形状制御アクチュエータの設定変更情報(以下では「設定変更情報」と呼ぶことがある)とは、圧延設備を操業中の現時点における形状制御アクチュエータの設定値から、次の制御周期以降(次ステップ)において形状制御アクチュエータの設定値の変更を行うか否かを表す情報をいう。設定変更情報は、例えばアクチュエータ設定値の変更を行った場合を「1」、アクチュエータ設定値の変更を行わない場合を「0」とする2値化した情報により表すことができる。また、形状制御アクチュエータの設定値の実績データは、上記の形状制御アクチュエータから選択した少なくとも1つ以上の形状制御アクチュエータの設定値をいう。データ取得部120が取得した各種データは、一組のデータセットを構成して形状制御アクチュエータ設定モデル生成部140のデータベース部141に蓄積され、機械学習部143により形状制御アクチュエータ設定モデルMが生成される。
【0034】
データ取得部120が取得する形状実績データは、形状検出器10(図1参照)によって測定される形状データであり、例えば図4に例示するものである。形状データは、鋼板Sの幅方向位置と、その位置における伸び差率又は伸び差(I-unit)により特定される情報である。伸び差率は、鋼板Sの幅方向での線分長さが最も短い位置を基準として、他の幅方向位置における鋼板Sの線分長さを歪形式で表した値である。また、伸び差(I-unit)は、伸び差率を百分率で表示しても形状データは非常に小さな値となるため、慣用的に伸び差率を100、000倍の値に換算して表記するものであり、I-unitと呼ばれる単位により表される。この場合、鋼板Sの幅方向端部の伸び差率又は伸び差が他の部分に比べて大きい場合を耳波、幅方向中央部の伸び差率又は伸び差が他の部分に比べて大きい場合を中伸びと呼ぶことが多い。また、幅方向端部と幅方向中央部との間で伸び差率又は伸び差が大きい場合をクォータ伸びといい、上記の形状が複合した形態を複合伸びと呼ぶ。
【0035】
データ取得部120により鋼板Sの形状実績データと共に取得する操業実績データは、圧延操業パラメータから選択した1つ以上の操業実績データである。圧延操業パラメータとは、圧延パスを実行する際の圧延状態を表すパラメータであり、鋼板Sの形状実績データと形状制御アクチュエータの設定実績データを除き、鋼板Sの形状に影響し得る因子を表すパラメータである。圧延操業パラメータは、例えば鋼板Sの寸法情報として、制御用計算機100に指示を与える上位計算機が保有する母材の板厚や板幅の情報を用いてもよい。また、形状実績データを取得する圧延パスにおける入側板厚、出側板厚や板幅を用いてもよい。圧延操業パラメータの他の例は母材の属性情報である。母材の属性情報は、例えば鋼板Sの変形抵抗、鋼種、成分系、母材の表面粗さ、表面酸化物の分布状態等、母材の特性を表す指標を用いてよい。また、母材の属性情報として、上記圧延設備1による圧延工程を実行する前の工程(前工程)での製造条件を用いてもよい。例えば前工程が焼鈍工程である場合は焼鈍温度、均熱時間、冷却速度等の情報、前工程が熱延工程である場合には熱延ラインでの巻取り温度等も母材の属性情報に含めてよい。これらは圧延設備1で形状制御を実行する場合の圧延荷重に間接的な影響を与えるパラメータだからである。
【0036】
圧延操業パラメータの他の例は、形状実績データを取得する圧延パスにおける圧延条件情報である。圧延条件情報としては、圧延荷重、圧延トルク、圧延速度、入側張力、出側張力、ワークロール径を例示できる。また、圧延条件情報として、クーラント流量、クーラント温度、クーラント濃度等の圧延おける潤滑条件に関するパラメータを用いてもよい。鋼板Sの寸法情報、母材の属性情報、圧延条件情報の各パラメータは、上位計算機又は制御用計算機100により予め設定される設定値及び圧延設備1で実測される実績値のいずれを用いてもよい。圧延設備1が、鋼板Sの板厚を測定する板厚計、圧延荷重を測定するロードセル、鋼板Sに付与される張力を測定する張力計等の測定機器を備える場合には、それらの実測値を用いるのが好ましい。
【0037】
圧延操業パラメータは、圧延制御コントローラ110に設定される鋼板Sの目標形状のデータを含むのが好ましい。鋼板Sの目標形状は、図4で形状実績データとして例示するような、鋼板Sの幅方向各位置での伸び差率の目標値であってよい。但し、本実施形態の圧延操業パラメータに用いる鋼板の目標形状として、伸び差の目標を幅方向位置の関数として多項式近似を行い、その多項式の係数の値を用いてもよい。例えば鋼板Sの目標形状として、目標とする伸び差(I-unit)の幅方向分布を4次関数で近似して以下に示す数式(1)のように表す。但し、数式(1)中のzは板幅を-1~+1の範囲で規格化した幅方向位置である。この場合の係数λ1~λ4を鋼板の目標形状のデータとして圧延操業パラメータに含めてよい。
【0038】
【数1】
【0039】
本実施形態の操業実績データは、上記の圧延操業パラメータから少なくとも1つのパラメータを選択し、このパラメータに関する操業実績データを用いることとする。一方、圧延操業パラメータとして、圧延設備1の形状制御アクチュエータを手動で操作した操作者(オペレータ)の識別データを含んでよい。操作者が手動で操作することにより鋼板Sの形状を制御する場合、操作を行った操作者を特定できる識別データとして、数字、符号、氏名等を圧延操業パラメータに含めてよい。鋼板Sの形状制御は、圧延設備1の形状制御アクチュエータの特性に応じた特有の制御性能が発揮されるため、習熟度の高い操作者と習熟度の浅い操作者とでは、鋼板Sの形状制御の優劣に差が生じるからである。そのため、鋼板Sの形状制御性能を目標形状と実績形状との差異等により別途評価して、評価結果の良好であった操作者の操業データを選択的に出力する形状制御アクチュエータ設定モデルMを生成できるからである。
【0040】
圧延設備1の形状制御アクチュエータの設定実績データは、使用する圧延機に応じて特定される形状制御アクチュエータの設定情報をいう。形状制御アクチュエータの設定情報は、圧延機が複数の形状制御アクチュエータを備える場合、それらの中から任意の形状制御アクチュエータを選択し、本実施形態の形状制御アクチュエータの設定実績データに用いてよい。形状制御アクチュエータの設定情報としては、上バックアップロール5又は下バックアップロール6の軸心部の傾動状態を操作するレベリング設定値を用いることができる。また、中間ロールベンダ11やワークロールベンダ12のベンダ力についての設定値を用いてよい。さらに、中間ロール3やワークロール2の軸方向のシフト量を表すロールシフト設定値を用いてよい。また、図1に示す12段式クラスター型圧延機は、分割バックアップロールの位置を調整する形状制御アクチュエータを備えている。このため、上バックアップロール5のセンター位置、クォータイン位置、クォータアウト位置、及びエッジ位置、下バックアップロール6のセンター位置、クォータ位置、エッジ位置等、各バックアップロールの設定位置情報を形状制御アクチュエータの設定情報に含めてよい。形状制御アクチュエータの設定実績データとして、上記に例示する各操作端の設定値(指令値)であっても実測される場合には実績値であってもよい。また、ベンダ力等を油圧圧力等の計測値から算出できる場合には、設定指令値でなく実測値を用いるのが好ましい。
【0041】
形状制御アクチュエータの選択は、全ての形状制御アクチュエータの中から、鋼板の圧延中のダイナミック制御に用いる形状制御アクチュエータを選択するのが好ましい。これにより長手方向にわたって所望の形状を有する鋼板を歩留まりよく製造できる。形状制御アクチュエータの設定変更情報の実績データは、圧延設備を操業中の現時点におけるアクチュエータ設定値から、次の制御周期以降(次ステップ)でアクチュエータ設定値の変更を行ったか否かの実績を表す情報である。形状制御アクチュエータの設定値変更を行った場合を「1」、設定値変更を行わない場合を「0」とする2値化した情報により表すことができる。形状制御アクチュエータの設定変更情報の実績データは、圧延設備のオペレータが形状制御アクチュエータを、圧延制御コントローラ110に接続される操作スイッチ等により変更したか否かの実績データを取得してよい。
【0042】
一方、アクチュエータ設定値の実績データを一定の周期毎(例えば制御周期ごと)に時系列のデータとして取得した後に、設定変更情報の実績データを特定することもできる。図5は、アクチュエータ設定値の時系列データから設定変更情報を特定する方法を説明するための図である。図5には、時刻t1、t1+Δt、t1+2Δt、t1+3Δtにおけるアクチュエータ設定値の実績データを示している。但し、時刻t1は鋼板を圧延中の任意の時刻であり、Δtは形状制御を行うための制御周期(例えば0.2~10秒)である。本例では、時刻t1と時刻t1+Δtにおけるアクチュエータ設定値の実績データを比較する。比較の結果、いずれかのアクチュエータ設定値が変化している場合には設定値変更ありと判定し、いずれのアクチュエータ設定値も変化してない場合には設定値変更なしと判定する。そして、判定結果を時刻t1における設定変更情報の実績データとして割り当てる。例えば図5に示す例では、時刻t1と時刻t1+Δtでは、いずれのアクチュエータ設定値も変化していないため、時刻t1における設定変更情報の実績データを「0」とする。一方、時刻t1+Δtと時刻t1+2Δtでは、いずれかのアクチュエータ設定値が変化しているため、時刻t1+Δtにおける設定変更情報の実績データを「1」とする。このように、連続して取得されるアクチュエータ設定値の実績データに基づいて、設定変更情報の実績データを特定することができる。従って、図3に示すデータ取得部120では、設定変更情報の実績データを一定の周期毎の連続したデータとして取得しておき、上記のようにして設定変更情報の実績データを特定するデータ処理部を設けるようにしてもよい。
【0043】
データ取得部120で取得された形状実績データ、圧延操業パラメータの操業実績データ、アクチュエータ設定値の実績データ、及び設定変更情報の実績データは、鋼板Sの製造管理番号や圧延パス情報に基づいて対応付けがなされ、それらを一組のデータセットとしてデータベース部141に蓄積される。データベース部141に蓄積されるデータセットは、同一の鋼板Sの同一の圧延パスにおいても、鋼板Sの長手方向に沿って複数生成され得る。例えば圧延中に所定周期(例えば100ms)毎に実績データを取得する場合には、1圧延パスあたりに取得されるデータセットの数が膨大となる。そこで、データベース部141にデータセットを蓄積する際には、形状制御アクチュエータ設定モデルMの生成に必要なデータセットのみを抽出するスクリーニング処理を行うことにより、データベース部141に蓄積するデータセットの数を減らしてよい。
【0044】
例えば圧延設備1の形状制御アクチュエータの再設定を行ってから鋼板Sが形状検出器10に到達するまで0.2~10秒程度要する。このため、データセットを取得するサンプリング周期を0.2~10秒の範囲で設定して、そのようにして抽出されたデータセットのみをデータベース部141に蓄積してよい。この場合、圧延速度に応じてサンプリング周期を変更するようにしてもよい。また、鋼板Sの先端部や尾端部の近傍のように母材の板厚や変形抵抗の変動が大きい領域では、圧延設備1の形状制御アクチュエータの再設定を行ってから鋼板Sが形状検出器10に到達するまでの間にも、圧延状態が経時的に大きな変動が生じる場合がある。そして、この場合、形状制御アクチュエータの設定値と形状実績との対応関係が明確でなくなることもある。このような場合に、鋼板Sの先端部又は尾端部で取得したデータセットをデータベース部141から除外する処理を行ってもよい。さらに、形状検出器10の形状実績についての出力が短時間で大きく変動するような場合には、形状検出器10の検出誤差が生じている可能性もある。このため、短周期で形状実績が変動する場合には、データベース部141から除外するようにスクリーニング処理を行ってもよい。一方、設定変更情報の実績データが「1」(形状制御アクチュエータの設定変更あり)であるデータセットを残して、設定変更情報の実績データが「0」(形状制御アクチュエータの設定変更なし)であるデータセットの一部を優先的に削除するようにスクリーニングを行ってもよい。
【0045】
形状制御アクチュエータ設定モデル生成部140は、データベース部141に蓄積された学習用データを用いて機械学習部143において形状制御アクチュエータ設定モデルMを生成する。形状制御アクチュエータ設定モデル生成部140は、圧延設備1による鋼板Sの圧延工程を統括する制御用計算機100の内部にあってもよく、制御用計算機100とは別個のハードウエアにより構成してもよい。また、後述する形状制御アクチュエータ設定部150に配置してもよい。
【0046】
データベース部141に蓄積するデータセットの数は10、000個以上、好ましくは100、000個以上、より好ましくは1、000、000個以上である。また、鋼板Sの属性情報や圧延パス番号に基づきデータセットを区分して、それらの区分に応じて形状制御アクチュエータ設定モデルMを生成してもよい。データベース部141に蓄積されるデータセットは、一定のデータセット数を上限として、その上限内でデータベース部141に蓄積されるデータセットを適宜更新してもよい。
【0047】
予備処理部142は、データベース部141に学習用データが蓄積された後、形状制御アクチュエータ設定モデルMを生成する機械学習を実行する前に、必要に応じてデータベース部141に蓄積されたデータセットに対して予備処理を実行する。予備処理部142が実行する予備処理としては、形状データや形状制御アクチュエータの設定値の実績データの規格化、データシャッフル等を例示できる。
【0048】
予備処理部142は、データベース部141に蓄積した入力実績データである形状実績データと圧延操業パラメータから選択した操業実績データ、及び出力実績データである形状制御アクチュエータの設定値の実績データについて規格化処理を行ってよい。規格化処理は、ネットワーク学習中の重み係数の更新を効率的に行うための処理であり、ニューラルネットワークの学習に際して勾配消失問題を回避する上で有効である。入力変数及び出力変数の規格化に際しては、各変数の最小値と最大値を特定して0~1の範囲で規格化するのが好ましい。また、変数の平均値を算出して-1~+1の範囲で規格化してもよい。
【0049】
データベース部141には、入力実績データである形状実績データと圧延操業パラメータから選択した操業実績データ、及び出力実績データである形状制御アクチュエータの設定実績データと設定変更情報の実績データから構成されるデータセットがデータを取得した順番で蓄積される。これに対して、データベース部141に蓄積されたデータセットの順番をランダムに並べ替えるデータシャッフルを行ってもよい。時系列に取得したデータセットの順番を変更することにより、ニューラルネットワークによる汎化性能を向上させ、過学習を抑制する上で有効である。
【0050】
データベース部141に蓄積したデータセットを学習用データとテスト用データに分割してもよい。学習用データは、全データセットの70~80%として、ニューラルネットワークの学習用とする。一方、残りのデータセットは、機械学習部143による学習が完了して得られるニューラルネットワークがテスト用データに対しても良好に性能を発揮できるか確認するために使用する。
【0051】
機械学習部143は、データベース部141に蓄積されたデータセットを用いて、複数の学習用データを用いたニューラルネットワークの手法によって、形状制御アクチュエータ設定モデルMを生成する(設定モデル生成ステップ)。学習用データは、圧延操業パラメータから選択した1つ以上の操業実績データと形状実績データとを入力実績データ、形状制御アクチュエータの設定変更情報とアクチュエータ設定値とを出力実績データとする。形状制御アクチュエータ設定モデルMを生成するための機械学習モデルは、実用上十分な形状制御アクチュエータの設定値の推定精度が得られれば、いずれの機械学習モデルを用いることもできる。例えば一般的に用いられるニューラルネットワーク、決定木学習、ランダムフォレスト、サポートベクター回帰等である。また、複数のモデルを組み合わせたアンサンブルモデルを用いてもよい。また、本実施形態は、機械学習の手法としてニューラルネットワークを用いて、出力層として設定変更情報を出力する第1出力層と、アクチュエータ設定値を出力する第2出力層とを含み、第1出力層と第2出力層は共通の中間層から分岐したネットワーク構造を有するものであることが好ましい。
【0052】
図6を参照して、本実施形態のニューラルネットワークについて説明する。本実施形態のニューラルネットワークでは、形状検出器10から取得される形状データと、圧延設備1の圧延操業パラメータから選択した操業データが入力層から入力される。本実施形態のニューラルネットワークは、これらの入力データに対して、1以上の中間層、及び共通の中間層から分岐する2つの出力層を備える。第1出力層では形状制御アクチュエータの設定変更情報が出力され、第2出力層では形状制御アクチュエータの設定値が出力される構造となっている。第1出力層は、設定変更情報として形状制御アクチュエータの設定変更を行うか(「1」)、行わないか(「0」)を出力する分類器であり、活性化関数としてシグモイド関数を用いてよい。一方、第2出力層は、形状制御アクチュエータ設定モデルMを生成する際に出力実績データとして用いた形状制御アクチュエータの設定値を出力する回帰器であり、活性化関数として恒等関数を用いてよい。但し、アクチュエータ設定値が、形状制御アクチュエータ設定モデルMを生成する際に規格化されていた場合には、第2出力層からの出力を形状制御アクチュエータの設定値である物理量に変換するのが好ましい。ニューラルネットワークの中間層は1~10層の範囲とするのが好ましく、中間層のノード数は32~2048であるのが好ましい。中間層やノード数が少なすぎると形状制御アクチュエータ設定モデルMの設定精度が低下し、多すぎると過学習が顕著になってかえって予測精度が低下する場合があるからである。中間層には、予測精度の観点から、活性化関数としてReLU関数を用いるのが好ましい。
【0053】
一方、本実施形態のニューラルネットワークでは、中間層における活性化関数の演算の直前にデータのバッチ正規化を行うバッチ正規化層を設けてよい。バッチ正規化とは、バッチ毎に算出された平均と分散によってデータを規格化する演算をいう。これにより重み係数の学習が効率化される。また、中間層における活性化関数の下流側にドロップアウト層を設けてよい。ドロップアウト層は一定の確率(例えば0.1~0.4)で出力を無効化する演算である。過学習の抑制が可能だからである。
【0054】
以上のようにして、形状制御アクチュエータ設定モデルMの出力を設定変更情報と、アクチュエータ設定値との2つに分けるのは、次のような圧延設備の形状制御システムを構成できるからである。すなわち、形状制御アクチュエータ設定モデルの第1の出力である設定変更情報が「0」(形状制御アクチュエータの設定変更なし)の場合には、形状制御アクチュエータの設定値の変更を行わず、現時点の設定値を維持するように制御する。一方、形状制御アクチュエータ設定モデルの第1の出力である設定変更情報が「1」(形状制御アクチュエータの設定変更あり)の場合には、第2の出力である形状制御アクチュエータの設定値(アクチュエータ設定値)に従って、圧延設備の形状制御アクチュエータの設定変更を行う。これにより、従来技術のように圧延中に形状制御アクチュエータの設定値が頻繁に変更され、圧延状態の変動が外乱となり長手方向における鋼板の形状が安定しないという問題を解決できる。また、鋼板と圧延ロールとの接触部における潤滑や摩擦状態の変動を抑制し外観不良等による歩留まり低下を抑制できる。特に圧延設備の操業経験が豊富なオペレータが手動で形状制御アクチュエータの操作を実行する場合、操業中の圧延操業パラメータや形状実績データの小さな変動に対しては、形状制御アクチュエータの操作を積極的には行わない。一方で、操業中の圧延操業パラメータや形状実績データが大きく変化する場合には、形状制御アクチュエータの設定値を積極的に修正して、鋼板の形状が大きく乱れないように操業を行っている。上記実施形態は、圧延設備の操業経験が豊富なオペレータの操作と同様に、圧延操業実績データに基づいて形状制御アクチュエータ操作が行われた実績データを他の操業条件と共に特定することにより、長手方向の形状が安定した圧延設備の形状制御を実現する。従って、形状制御アクチュエータ設定モデルMの入力データに形状制御アクチュエータを手動で操作したオペレータの識別データを含むことにより、優秀なオペレータの操作を再現する形状制御アクチュエータの設定が可能となる。
【0055】
一方、第1出力層と第2出力層が共通の中間層から分岐したネットワーク構造をとるのは、例えオペレータによる形状制御アクチュエータの設定変更を行うか否かの判断は、設定変更を行おうとする設定変更量と関連付けられるからである。つまり、形状制御アクチュエータの設定変更を行おうとする場合には、一定程度の鋼板の形状変動が見込まれる場合であり、そのときには形状制御アクチュエータをある程度大きく変更することが多い。従って、設定変更情報とアクチュエータ設定値とは分離して評価するのが難しいため、共通の中間層を用いることとする。第1出力層は分類器として構成され、第2出力層は回帰器で構成されるのが好ましいため、上記のように異なる2つの出力層を備えたニューラルネットワークの構造をとるとよい。
【0056】
形状制御アクチュエータ設定モデルMの入力実績データに、形状検出器10から取得された形状実績データを用いることにより、鋼板Sの形状が大きく乱れた場合に形状制御アクチュエータの設定が大きく変更されるようなる。また、形状制御アクチュエータ設定モデルMの入力実績データに目標形状データを用いることにより、形状実績データと目標形状データとの偏差に応じて、形状制御アクチュエータの設定変更を行うかどうか及びアクチュエータ設定値の変更量が設定される。これにより、高精度な形状制御を実現できる。
【0057】
形状制御アクチュエータ設定モデルMの入力に、鋼板Sの形状データだけでなく圧延操業パラメータから選択した操業実績データを含むのは次の理由による。すなわち、圧延操業パラメータは鋼板Sの圧延時の圧延荷重に影響を与え、圧延荷重によってワークロールの撓み変形が複雑に変化することから、圧延操業パラメータと形状実績データとの間に一定の相関が存在するからである。また、圧延設備1の形状制御を行う場合に、形状制御アクチュエータの設定値が同一であっても、鋼板Sの板厚、板幅、圧下率、変形抵抗等の圧延条件が異なると、圧延後の鋼板Sの形状は異なることが知られているからである。
【0058】
データベース部141に蓄積されたデータセットを訓練データとテストデータに分けて学習を行うことにより形状制御アクチュエータの設定変更情報及びアクチュエータ設定値の設定精度を向上させることができる。例えば訓練データを用いてニューラルネットワークの重み係数の学習を行い、テストデータでの設定変更情報及びアクチュエータ設定値の正解率が高くなるように、ニューラルネットワークの構造(中間層の数やノード数)を適宜変更しながら形状制御アクチュエータ設定モデルMを得てもよい。重み係数の更新には、誤差伝播法を用いることができる。
【0059】
形状制御アクチュエータ設定モデルMは、例えば1ヶ月毎又は1年毎に再学習により新たなモデルに更新してもよい。データベース部141に保存されるデータが増えるほど、精度の高い形状制御アクチュエータ設定が可能となるからである。また、最新のデータに基づいて形状制御アクチュエータ設定モデルMを更新することにより、経時的な操業条件の変化を反映した形状制御アクチュエータ設定モデルMを生成できる。
【0060】
〔鋼板の形状制御方法〕
次に、図7を参照して、本発明の一実施形態である鋼板の形状制御方法について説明する。
【0061】
本発明の一実施形態である鋼板の形状制御方法では、機械学習部143が生成した形状制御アクチュエータ設定モデルMを用いて、圧延設備1の形状制御アクチュエータを設定する。図7に圧延設備1に形状制御アクチュエータ設定部150を含む鋼板の形状制御システムの構成例を示す。図7に示す形状制御アクチュエータ設定部150は、例えばワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータに設けてよい。また、形状制御アクチュエータ設定部150は、ネットワークを介して形状制御アクチュエータ設定モデル生成部140が生成した形状制御アクチュエータ設定モデルMを取得する入力部や記憶する記憶部を有する。但し、形状制御アクチュエータ設定部150は、圧延設備1を制御するための制御用計算機100や圧延制御コントローラ110の内部に構成してもよい。
【0062】
図7に示す形状制御アクチュエータ設定部150を用いた鋼板Sの形状制御では、制御用計算機100により鋼板Sを圧延するための初期設定値が算出され、圧延制御コントローラ110により形状制御アクチュエータが初期設定された後、圧延パスが開始される。そして、圧延パスの実行中に、データ取得部120が、圧延設備1の圧延操業パラメータから選択した操業実績データと、形状検出器10から取得される形状実績データとを取得する。データ取得部120が取得したデータは、形状制御アクチュエータ設定部150に送られる。形状制御アクチュエータ設定部150は、形状制御アクチュエータ設定モデル生成部140から取得し、記憶部で記憶しておいた形状制御アクチュエータ設定モデルMに対してデータ取得部120で取得した入力データを入力することにより、設定変更情報とアクチュエータ設定値を算出する。そして、算出された設定変更情報とアクチュエータ設定値に基づいて、新たな形状制御アクチュエータ設定指令値が生成され圧延制御コントローラ110に送られる。形状制御アクチュエータ設定指令値は、設定変更情報が形状制御アクチュエータの設定変更を行うことを表すものである場合、算出したアクチュエータ設定値を新たな形状制御アクチュエータ設定指令値とする、一方、設定変更情報が形状制御アクチュエータの設定変更を行わないことを表すものである場合、現時点の形状制御アクチュエータ設定値を維持するよう、新たな形状制御アクチュエータ設定指令値への変更は行わない。これにより、圧延制御コントローラ110は、形状制御アクチュエータ設定部150から取得した形状制御アクチュエータ設定指令値によって現在の形状制御アクチュエータ設定を更新又は維持することにより、圧延設備1の形状制御アクチュエータを動作させることができる。
【0063】
形状制御アクチュエータ設定指令値を予め設定した形状制御の制御周期毎に取得し、圧延制御コントローラ110に送ることにより、鋼板Sの長手方向に対して形状制御アクチュエータ設定値の更新が行われ、安定した鋼板Sの形状制御を行うことができる。形状制御の制御周期は、圧延設備1の形状制御アクチュエータ設定値を更新してから鋼板Sが形状検出器10に到達するまでに一定の時間を要するため、0.2~10秒程度の周期とするのが好ましい。さらに、従来の自動形状フィードバック制御は、形状検出器10によって検出された形状実績データに基づいて、物理モデル等により構成された形状制御アクチュエータ設定モデルMにより、形状制御アクチュエータ設定値を随時更新するものが多い。従って、本実施形態の形状制御アクチュエータ設定部150を用いた鋼板の形状制御は、従来の自動形状フィードバック制御を実行するためのシステムの一部を置換することで実現し得る。また、従来の自動形状フィードバック制御システムと並列して、本実施形態の形状制御アクチュエータ設定部150を設け、必要に応じて切り替えを行って圧延設備の形状制御を実行してもよい。例えば、鋼板を複数の圧延パスにより圧延する際の第1パスでは母材の材質や板厚変動が大きいことがあり、形状制御アクチュエータを頻繁に動作させる必要ある場合があるため、第1パスまたは初期の圧延パスにおいては従来の自動形状フィードバック制御システムを用いた形状制御を行い、その後の圧延パスでは本実施形態の形状制御アクチュエータ設定部150を用いた鋼板の形状制御を行うようにしてもよい。また、鋼板の先端部および尾端部では、圧延機の入側形状が乱れている場合があり、形状制御アクチュエータを頻繁に動作させる必要ある場合があるため、鋼板の先端部や尾端部では従来の自動形状フィードバック制御システムを用いた形状制御を行い、定常部では本実施形態の形状制御アクチュエータ設定部150を用いた鋼板の形状制御を行うようにしてもよい。
【実施例0064】
以下に本発明の実施例を示す。本実施例では、まず12段型クラスター圧延機を対象として、形状制御アクチュエータ設定モデルを生成した。本実施例に用いた圧延機は、ワークロール径70~120mm、最高圧延速度600m/minの圧延機である。被圧延材である鋼板は、高炭素鋼であり、母材板厚1.2~2.3mm、板幅400~1070mmであり、圧延パス数を1~15パスにて、製品板厚0.4~1.8mmの鋼板を圧延した。また、使用した圧延機はレバース式圧延機であり、圧延機を中心に左右2基のテンションリールの間には形状検出器が配置されており、右行きと左行きのいずれの圧延パスにおいても鋼板の形状実績データを取得できる。形状検出器は、分割ロードセル方式であり、ロール軸方向に44チャンネルのロードセルが内蔵されおり、1チャンネルあたりの検出幅は25.4mmである。形状検出器からは鋼板の幅方向の伸び差として板幅方向各位置におけるI-unitの値が出力される。また、本実施例では、上記鋼板について420コイルの圧延を実施し、その間、本圧延機の操業経験が豊富なオペレータに手動で形状制御アクチュエータの操作を実行してもらい、学習用データをデータベース部に蓄積した。
【0065】
形状制御アクチュエータ設定モデルMの生成にあたっては、圧延操業パラメータの中から鋼板の寸法情報として入側板厚、出側板厚、及び板幅を選択した。また、母材の属性情報として鋼板の鋼種符号を選択した。さらに、圧延条件情報からは圧延パス番号、ワークロール径、圧延速度、クーラント流量、及びクーラント温度を選択した。本実施例では、それらの圧延操業パラメータの他に、鋼板の目標形状として、数式(1)に示した鋼板の形状を4次式で関数近似した際の係数λ1~λ4を選択した。一方、以上の圧延操業パラメータで鋼板を圧延した場合の形状実績データは、上記の通り形状検出器から出力されるI-unitを用いた。但し、鋼板の幅方向位置は、本圧延機により圧延可能な最大幅により規格化した値を用いて、各位置でのI-unitの実績データを採取した。
【0066】
一方、形状制御アクチュエータ設定モデルMの出力データとなるアクチュエータ設置値に用いる形状制御アクチュエータは、ワークロールベンダ、中間ロールベンダ、レベリング、下バックアップロールのエッジ位置、クォータ位置、及びセンター位置の6つを選択し、これらの設定値の実績データを取得した。本実施例では、時系列データとして取得したアクチュエータ設定値の実績データから、図5に示す方法により設定変更情報の実績データを特定した。そして、形状実績データ、圧延操業パラメータの操業実績データ、形状制御アクチュエータの設定変更情報の実績データ、及び形状制御アクチュエータの設定値の実績データから構成されるデータセットをデータベース部141に蓄積した。データベース部141に蓄積したデータセット数が100、000個となった時点で、形状制御アクチュエータ設定モデル生成部140では、予備処理によりデータ分割を行い、学習用データとしては、全データセットの70%を用いて、ニューラルネットワークの学習を行い、残りのデータセットをテスト用データとして、予測精度の評価を行った。
【0067】
本実施例に使用した出力層を2つ有するニューラルネットワークは、図6に示す通り、入力層、512ノードを有する7つの中間層、第1出力層、第2出力層から構成されるネットワーク構造を用いた。活性化関数にはReLU関数を用いた。本実施例では活性化関数の出力を確率0.3のドロップアウト層に入力する構成とした。入力層のノード数は64として、第1出力層は1ノード、第2出力層は6ノードとし、形状制御アクチュエータの設定値を規格化したものを用いた。
【0068】
学習計算における損失関数としてはネットワークの予測値と実測値から計算される平均二乗誤差を用いて、最適化計算手法についてはADAM最適化を選択した。また、機械学習にあたってはミニバッチ学習(ミニバッチ勾配降下法)を用いて、バッチサイズ512、エポック回数500とした。但し、テストデータに対する損失関数が30エポック回以上にわたって改善しなかった場合には、学習率を1/10に低下させて学習を進めた。以上のようにして生成した形状制御アクチュエータ設定モデルMを用いて、テストデータに対して、形状制御アクチュエータ設定値の出力値と実績値とを比較した。この場合、形状制御アクチュエータ設定値の出力値は、第1出力層の出力が形状制御アクチュエータの設定変更を行うものである場合には形状制御アクチュエータを第2出力層で出力される値に更新した。一方、第1出力層の出力が形状制御アクチュエータの設定変更を行わないものである場合には、形状制御アクチュエータ設定値の出力値は、前ステップの値のまま維持した。
【0069】
これに対して、比較例として、上記データベース部に蓄積されたデータセットと同一のデータセットを用いて、出力層が1つであって、形状制御アクチュエータの設定値のみを出力する、通常のニューラルネットワークによる学習を行い、生成したモデルの出力値と実績値とを比較した。この場合、形状制御アクチュエータ設定値の出力値は、入力データの更新に応じて更新されたものを用いた。なお、比較例のニューラルネットワークへの入力データは、本実施例と同じものを用いた。
【0070】
本実施例及び比較例における形状制御アクチュエータ設定値の出力値と実績値の比較結果を図8に示す。図8は、本実施例及び比較例について、6つの形状制御アクチュエータに関する出力値と実績値との差を算出し、それらの平均二乗誤差(MSE)を損失関数として表したものである。図8からは、本実施例の出力層を二つ有するニューラルネットワークを用いた予測結果は、比較例に比べて損失関数が大幅に改善していることが分かる。これは、本実施例による形状制御アクチュエータ設定方法により再設定する形状制御アクチュエータの設定値が、オペレータが手動で設定した結果と比較的良く一致していることを示している。つまり、鋼板の圧延中に形状制御アクチュエータの設定値が変動することを抑制できていることが示された。
【0071】
続いて、比較例2では、実施例と同様の被圧延材を対象として、従来の自動形状フィードバック制御によって形状制御を行う圧延を実施した。比較例2の従来の自動形状フィードバック制御では、形状検出器10によって検出された実績形状と目標形状の差である形状偏差データに応じて形状制御アクチュエータ設定値を随時更新した。また、比較例3では、比較例2の従来の自動形フィードバック制御において、形状偏差データが予め設定される閾値を超える場合にのみ形状制御アクチュエータ設定値を更新することにより、形状制御アクチュエータ設定値を更新する頻度を低減した。この場合、形状制御アクチュエータの設定値を更新する閾値は10(I-unit)とした。
【0072】
図9は、本実施例、比較例2、及び比較例3について、圧延後鋼板の長手方向における形状偏差、すなわち目標形状と実績形状との偏差を絶対値誤差MAEで評価した結果を示す。絶対値誤差MAEは、値が大きいほど目標形状と実績形状が乖離していることを示す。比較例2では、圧延中に形状制御アクチュエータの設定値が頻繁に変更され、圧延状態の変動が外乱となることによって、長手方向における鋼板の形状が安定しなかった。このため、図9に示すように、比較例2では、絶対値誤差MAEは8.71(I-unit)であった。一方、比較例3では、形状制御アクチュエータの操作の可否を判断する目標形状と実績形状との偏差に閾値を設けたため、圧延中に形状制御アクチュエータ設定値が頻繁に変更される程度が緩和され、長手方向における鋼板の形状はある程度安定した。しかしながら、閾値を設けたことにより形状偏差データに対する応答性が低下したため、絶対値誤差MAEは9.2(I-unit)にとどまった。また、形状偏差データが設定された閾値に近い場合に、形状制御アクチュエータ設定値の更新が頻繁に行われる場合があり、長手方向の一部において鋼板の形状が安定しない部分が発生した。これに対して、実施例では、目標形状に対して大幅な変動が生じた際には積極的に形状制御アクチュエータを操作することで鋼板形状の大幅な乱れを抑制できた。また、操業中の圧延操業パラメータや形状実績データの小さな変動に対しては、形状制御アクチュエータの操作を積極的には行わない制御が実現された。このため、絶対値誤差MAEは7.51(I-unit)まで改善した。
【0073】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1 圧延設備
2 ワークロール
3 中間ロール
4 小型バックアップロール
5 上バックアップロール
6 下バックアップロール
7 ペイオフリール
8 右テンションリール
9 左テンションリール
10 形状検出器
11 中間ロールベンダ
12 ワークロールベンダ
100 制御用計算機
110 圧延制御コントローラ
120 データ取得部
140 形状制御アクチュエータ設定モデル生成部
141 データベース部
142 予備処理部
143 機械学習部
M 形状制御アクチュエータ設定モデル
S 鋼板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9