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特開2024-120771溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法および成分分析システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120771
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法および成分分析システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/63 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
G01N21/63 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027805
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 秀生
(72)【発明者】
【氏名】小谷 直弘
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043CA02
2G043EA08
2G043EA10
2G043FA01
2G043JA01
2G043LA03
2G043NA01
2G043NA02
(57)【要約】
【課題】溶融亜鉛めっき浴中のドロスを連続的に精度よく定量する。
【解決手段】本発明に係る溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法は、Znに対するFeおよびAlの各信号強度比を含む強度データを取得するデータ取得工程と、強度データを積算して積算後の積算強度データに基づきめっき浴中の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度を算出する濃度算出工程と、を有し、さらに、異なる積算回数の積算強度データに基づき、積算回数毎に対応する溶融亜鉛めっき浴中の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度を算出する第1のステップと、異なる積算回数の積算強度データに基づいた固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度について比較する第2のステップと、第2のステップにおける比較の結果に基づいて濃度算出工程における強度データの積算回数を決定する第3のステップと、を有する積算回数決定工程を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザ光の溶融亜鉛めっき浴への照射により生じる溶融亜鉛のプラズマ発光をレーザ誘起ブレークダウン分光法に基づいて分光分析し、Znに対するFeおよびAlの各信号強度比を含む強度データを取得するデータ取得工程と、
前記データ取得工程において得られる前記強度データを積算して、積算後の積算強度データに基づき、溶融亜鉛めっき浴中の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度を算出する濃度算出工程と、
を有する、溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法において、
さらに、前記濃度算出工程における前記強度データの積算回数を決定する積算回数決定工程を有し、
前記積算回数決定工程は、
異なる積算回数の前記積算強度データに基づき、前記積算回数毎に対応する溶融亜鉛めっき浴中の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度を算出する第1のステップと、
異なる積算回数の前記積算強度データに基づいた前記固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度について比較する第2のステップと、
前記第2のステップにおける比較の結果に基づいて、前記濃度算出工程における前記強度データの積算回数を決定する第3のステップと、を有する、溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法。
【請求項2】
前記第2のステップにおいて、前記固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度に関する最大偏差を算出し、
前記第3のステップにおいて、所定の閾値より小さい前記最大偏差の算出に用いられた最小の前記積算回数に基づき、前記濃度算出工程における前記強度データの積算回数が決定される、請求項1に記載の溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法。
【請求項3】
前記第2のステップにおいて、前記固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度に関する相関係数を算出し、
前記第3のステップにおいて、所定の閾値より大きい前記相関係数の算出に用いられた最小の前記積算回数に基づき、前記濃度算出工程における前記強度データの積算回数が決定される、請求項1に記載の溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法。
【請求項4】
パルスレーザ光を溶融亜鉛めっき浴に照射するレーザ装置と、
前記パルスレーザ光の照射により生じる溶融亜鉛のプラズマ発光を検出する検出部と、
レーザ誘起ブレークダウン分光法に基づいて前記プラズマ発光を分光分析し、Zn、FeおよびAlの各信号強度を含む強度データを取得し、前記各信号強度を含む強度データを処理する信号処理部と、
前記強度データを積算して、積算後の積算強度データに基づき、溶融亜鉛めっき浴中の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度を算出する濃度算出部と、
前記濃度算出部における前記強度データの積算回数を決定する積算回数決定部と、を有し、
前記積算回数決定部は、
異なる積算回数の前記積算強度データに基づき、前記積算回数毎に対応する溶融亜鉛めっき浴中の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度を算出し、
異なる積算回数の前記積算強度データに基づいた前記固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度について比較し、
比較して得られた結果に基づいて、前記濃度算出部における前記強度データの積算回数を決定するように構成されている、溶融亜鉛めっき浴の成分分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法および成分分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
合金化溶融亜鉛めっき(GA:Galva-Annealed)鋼板の溶融亜鉛めっき工程における課題として、溶融亜鉛めっき浴(以下、「めっき浴」と称する)中に存在するボトムドロスに起因するドロス疵の発生による歩留低下や生産能力低下がある。ボトムドロスは、鋼板からめっき浴中に溶出した鉄と溶融亜鉛とのFe-Zn化合物粒子である。当該ボトムドロスは鉄成分を含むため密度が高く、めっき浴において沈降し、めっき槽の底部に沈殿、堆積する。堆積したボトムドロスは、めっき浴中における鋼板の搬送に伴って生じる随伴流により巻き上げられ、鋼板の表面に付着し得る。表面に付着したボトムドロスが搬送ロール等により押し込まれることにより、ドロス疵が生じ得る。このようなドロス疵はめっき鋼板の外観不良を生じさせるため、溶融亜鉛めっき鋼板の歩留を低下させる要因となっている。一方で、ボトムドロスの随伴流による巻き上げを防止するためには、鋼板の搬送速度を低減させる必要があり、この場合生産能力が低下する。
【0003】
その中で、特に、粗大に成長したボトムドロスが、めっき鋼板の品質に影響を与え得る。例えば、下記特許文献1には、ボトムドロスの粒径が100μm程度の大きさになると、製品品質が問題となることが開示されている。また、特に厳しい品質が要求されるめっき鋼板においては、粒径がさらに小さいボトムドロスでも問題となることが開示されている。
【0004】
このようなドロス疵の発生を抑制するためには、ドロスが操業中のめっき浴中にどの程度存在するかを監視することが重要である。例えば、下記特許文献2には、溶融亜鉛めっき浴中からサンプルを採取し、当該サンプルを冷却凝固させて酸で溶解し、当該サンプルからドロスを分離させ、当該ドロスを直接分析する技術が開示されている。
【0005】
ところで、特許文献3においては、試料中の各成分を連続的に分析する方法として、被測定物にレーザを照射して、得られたプラズマ発光スペクトルから特定の基準元素を選定し、各組成のスペクトルから各成分との相対比を計測する、レーザ誘起ブレークダウン分光法(LIBS:Laser-Induced Breakdown Spectroscopy)を用いた方法が提案されている。さらに、特許文献4においては、このようなレーザ誘起ブレークダウン分光法を溶融材料の分析に適用した方法および装置が開示されている。特許文献4においては、亜鉛メッキプロセスにおけるAl濃度の測定についても、具体的に開示されている。
【0006】
めっき浴中のドロスについての測定結果を連続的に取得する方法として、非特許文献1および非特許文献2に開示された技術が開発されている。非特許文献1および非特許文献2に開示されているドロスの測定方法は以下のとおりである。すなわち、まず、めっき浴中に挿入したノズルを介してめっき浴中にパルスレーザを照射してプラズマ発光させ、当該プラズマ発光を検出し、分光してプラズマ発光スペクトルを取得する。次に、プラズマ発光スペクトルから、Znのスペクトル強度[Zn]、Alのスペクトル強度[Al]およびFeのスペクトル強度[Fe]を含む強度データを取得し、各強度データについて、[Zn]に対する[Al]のAl強度比[Al]/[Zn]、および[Zn]に対する[Fe]のFe強度比[Fe]/[Zn]を算出する。
【0007】
次に、複数の強度データに係るAl強度比およびFe強度比についてそれぞれヒストグラム化し、ヒストグラム波形を解析し、めっき浴中において溶融状態のAlおよびFe(それぞれ、Free-AlおよびFree-Feと称する)の濃度、およびドロス状のAlおよびFeの濃度を導出する。具体的には、上記のヒストグラムのうち度数が高い集団における強度を示す信号がFree-AlおよびFree-Feに由来する信号であると判断し、当該度数が高い集団から外れている集団をドロスに由来する信号であると判断する。そして、各集団における強度比の代表値(例えば中心値、平均値等)から、Free-AlおよびFree-Feの濃度、並びにAlドロスおよびFeドロスの濃度を算出する。このように、LIBS法を用いた解析により、めっき浴内のドロスの状態を連続的に監視することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003-171750号公報
【特許文献2】特開2000-131314号公報
【特許文献3】特開2004-132919号公報
【特許文献4】特表2005-530989号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】E.Baril,et.al.,“Novel Method for On-Line Chemical Analysis of Continuous Galvanizing Baths.”,Galvatech2004 Conference Proceedings,2004.
【非特許文献2】A.Nadeau,et.al.,“Lab Free Pot Chemistry Monitoring:LIBS Brought to the Next Level.”,Galvatech2015 Conference Proceedings,2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載のドロスの分析方法では、サンプルを採取し、冷却凝固させ、酸で溶解してドロスを分解するという工程を含んでいるため、ドロスについての測定結果を迅速に取得することは困難である。また、上記分析方法はバッチ処理であるため、めっき浴中に存在するドロスを連続的に、リアルタイムで観察することは困難である。
【0011】
また、上述した非特許文献1、2に開示された技術では、一応、ドロスの有無および濃度を検出することは可能である。しかしながら、LIBS法においては、パルスレーザが照射された極めて狭い範囲のみが測定対象となる。そして、このような狭い測定範囲において、確率論的にドロスが存在し得る。したがって、ドロスのような溶融亜鉛めっき浴中に微量存在する粒子についてLIBS法で測定を行う場合、必然的に多少の測定誤差を伴う。具体的には、溶融亜鉛めっき浴中に存在するドロスの濃度は、0.01質量%以下のオーダーである場合が多く、精度よく定量することは容易でない。しかしながら、LIBS法を用いたドロスの定量において、従来、測定精度の検討は十分にはなされていない。
【0012】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、溶融亜鉛めっき浴中のドロスを連続的に精度よく定量することが可能な、新規かつ改良された溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法および成分分析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、パルスレーザ光の溶融亜鉛めっき浴への照射により生じる溶融亜鉛のプラズマ発光をレーザ誘起ブレークダウン分光法に基づいて分光分析し、Znに対するFeおよびAlの各信号強度比を含む強度データを取得するデータ取得工程と、
前記データ取得工程において得られる前記強度データを積算して、積算後の積算強度データに基づき、溶融亜鉛めっき浴中の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度を算出する濃度算出工程と、
を有する、溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法において、
さらに、前記濃度算出工程における前記強度データの積算回数を決定する積算回数決定工程を有し、
前記積算回数決定工程は、
異なる積算回数の前記積算強度データに基づき、前記積算回数毎に対応する溶融亜鉛めっき浴中の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度を算出する第1のステップと、
異なる積算回数の前記積算強度データに基づいた前記固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度について比較する第2のステップと、
前記第2のステップにおける比較の結果に基づいて、前記濃度算出工程における前記強度データの積算回数を決定する第3のステップと、を有する、溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法が提供される。
【0014】
前記第2のステップにおいて、前記固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度に関する最大偏差が算出され、
前記第3のステップにおいて、所定の閾値より小さい前記最大偏差の算出に用いられた最小の前記積算回数に基づき、前記濃度算出工程における前記強度データの積算回数が決定されてもよい。
【0015】
前記第2のステップにおいて、前記固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度に関する相関係数が算出され、
前記第3のステップにおいて、所定の閾値より大きい前記相関係数の算出に用いられた最小の前記積算回数に基づき、前記濃度算出工程における前記強度データの積算回数が決定されてもよい。
【0016】
前記溶融亜鉛めっき浴の操業条件に変化が生じた際に、前記積算回数決定工程が行われてもよい。
所定の時間間隔で前記積算回数決定工程が行われてもよい。
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、パルスレーザ光を溶融亜鉛めっき浴に照射するレーザ装置と、
前記パルスレーザ光の照射により生じる溶融亜鉛のプラズマ発光を検出する検出部と、
レーザ誘起ブレークダウン分光法に基づいて前記プラズマ発光を分光分析し、Zn、FeおよびAlの各信号強度を含む強度データを取得し、前記各信号強度を含む強度データを処理する信号処理部と、
前記強度データを積算して、積算後の積算強度データに基づき、溶融亜鉛めっき浴中の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度を算出する濃度算出部と、
前記濃度算出部における前記強度データの積算回数を決定する積算回数決定部と、を有し、
前記積算回数決定部は、
異なる積算回数の前記積算強度データに基づき、前記積算回数毎に対応する溶融亜鉛めっき浴中の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度を算出し、
異なる積算回数の前記積算強度データに基づいた前記固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度について比較し、
比較して得られた結果に基づいて、前記濃度算出部における前記強度データの積算回数を決定するように構成されている、溶融亜鉛めっき浴の成分分析システムが提供される。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、溶融亜鉛めっき浴中のドロスを連続的に精度よく定量することが可能となる。したがって、本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板の歩留向上や生産能力の向上に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る溶融亜鉛めっき装置の概略構成を示す図である。
図2】同実施形態に係る成分分析システムの構成の一例を示す図である。
図3】Znの信号強度に対するFeまたはAlの信号強度の強度比により構成される度数分布の一例を示すグラフである。
図4】異なる積算回数における固体粒子状Fe濃度の比較を示すグラフチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
<1.本発明の着想>
本発明者らは、溶融亜鉛めっき浴においてドロスを構成する固体粒子状Feおよび固体粒子状Alの濃度を精度よく定量することが可能であり、かつ応答性に優れたLIBS法を検討する中で、強度データの積算回数に着目した。強度データの積算回数が大きいと、強度データ間の値のばらつきが平準化されて低減される結果、算出される固体粒子状Feおよび固体粒子状Alの濃度は、それぞれ一つの値に収束しやすくなり、この結果定量の精度が向上しやすくなる。一方で、レーザーパルスの照射は一定の間隔(例えば1Hz)で行われており、積算回数を大きくすると測定のために必要な強度データの取得に長時間を要し、測定結果が浴組成の経時変動に追従することが困難となる。
【0022】
特にドロスを構成する固体粒子状Feおよび固体粒子状Alは、溶融亜鉛めっき浴中において微量しか存在せず、さらに溶融亜鉛めっき浴中に粒子として不均一に存在する。このため、測定誤差が生じやすい。したがって、本発明者らは、従来の一般的なLIBS法の場合と比較して、積算回数を大きくして測定誤差を低減させることが必要であると考えた。
【0023】
一方で、ドロスの発生傾向は、溶融亜鉛めっき浴の浴組成、浴温、撹拌条件、Alケーキの投入条件、鋼板の幅、温度等の様々な操業条件、環境要因の変動に応じて、大きく変動する。この場合、ドロスの発生量に応じて、測定誤差を低減させるために必要な積算回数も変動し得る。また、様々な操業条件、環境要因の変動に応じてドロスの発生量も変動することから、ドロスの定量には、従来の一般的なLIBS法の場合と比較して、ドロス発生量の変動に対応した十分な追従性も求められる。
【0024】
このような微量成分であるドロス特有の問題に直面した本発明者らは、複数の積算回数の場合について比較を行い、測定誤差が少なくなるように積算回数を決定するための処理を、溶融亜鉛めっき浴の成分分析システムおよび成分分析方法に導入することにより、様々な操業条件、環境要因の変動に対しても対応してドロスの発生量を精度よく測定できることを見出し、本発明に至った。以下、本発明について、一実地形態を例に詳細に説明する。
【0025】
<2.溶融亜鉛めっき装置>
まず、本実施形態に係る成分分析システムを備えた溶融亜鉛めっき装置の一例を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る溶融亜鉛めっき装置1の概略構成を示す図である。溶融亜鉛めっき装置1は、鋼帯2を、溶融亜鉛を満たしためっき浴3に浸漬させることにより、鋼帯2の表面に溶融亜鉛を連続的に付着させるための装置である。溶融亜鉛めっき装置1は、めっき槽4、スナウト5、上下一対のサポートロール7、7、インダクタ8、ガスワイピング装置9、合金化炉10、および成分分析システム11を備える。
【0026】
めっき槽4は、溶融亜鉛からなるめっき浴3を貯留する。なお、本実施形態に係るめっき浴3には、Znの他に、0.12~0.15質量%程度のAl、および0.02~0.1質量%程度のFeが含まれ得る。また、めっき浴3の温度は、440~480℃程度である。スナウト5は、その一端をめっき浴3内に浸漬されるように傾斜配設される。浴中ロール6は、めっき槽4の内側の最下方に配設される。浴中ロール6は、鋼帯2との接触およびせん断によって図示の矢印に沿って回転する。
【0027】
サポートロール7は、めっき槽4の内側で、鋼帯2の搬送方向における浴中ロール6の下流側に配置され、浴中ロール6から送り出された鋼帯2を左右両側から挟み込むようにして配設される。サポートロール7は、不図示の軸受け(例えば、滑り軸受け、転がり軸受け等)により回転自在に支持される。なお、サポートロールは1つだけ、又は3つ以上設置されてもよいし、サポートロールは配置されなくてもよい。
【0028】
インダクタ8は、めっき槽4に満たされためっき浴3を加熱する加熱装置の一例である。図1に示すように、本実施形態に係るインダクタ8はめっき槽4の側壁部に複数設けられ、めっき浴3を所定の浴温に調節する。なお、めっき浴3を加熱する手段として、インダクタ8に限られず、公知の技術が用いられる。
【0029】
ガスワイピング装置9は、めっき槽4の上方に配置され、鋼帯2の両側の表面にガス(例えば窒素、空気)を吹き付けて、鋼帯2の表面に付着している溶融金属を掻き落とし、溶融金属の付着量を制御する機能を有する。
【0030】
合金化炉10は、ガスワイピング後の鋼帯2を所定の温度まで加熱する加熱装置の一例である。合金化炉10においては、加熱により鋼帯2の温度を上昇させ、鋼帯2の表面に付着した溶融金属のめっき層の合金化処理を行う。なお、合金化炉10として、例えば、誘導加熱式のヒータ等、公知の技術が用いられる。
【0031】
上流工程である焼鈍炉で焼鈍された鋼帯2は、スナウト5を介してめっき浴3で満たされためっき槽4に浸漬され、浴中ロール6、サポートロール7、7を通過して鉛直方向に引き上げられ、めっき浴3外に搬送される。めっき浴3外に搬送される鋼帯2は、ガスワイピング装置9により表面に付着した溶融金属の目付が調整された後、合金化炉10を通過する。
【0032】
成分分析システム11は、めっき浴3中に存在する各成分を検出および分析する機能を有する装置である。本実施形態に係る成分分析システム11は、めっき浴3中にガスを供給しながらパルスレーザを照射して得られた対象元素の信号強度の統計データから、ドロス由来のFeおよびAlを定量する。すなわち、本実施形態に係る成分分析システム11は、溶融亜鉛のめっき浴を測定対象としたLIBS法を行うための構成を有する。以下、成分分析システム11の機能構成例について説明する。
【0033】
図2は、本実施形態に係る成分分析システム11の構成の一例を示す図である。図2に示すように、本実施形態に係る成分分析システム11は、レーザ装置12、プローブ13、伝送ケーブル14および処理装置20を備える。また、処理装置20は、検出部21、信号処理部22、濃度算出部23および積算回数決定部24を備える。
【0034】
レーザ装置12は、パルスレーザ光を照射するレーザ(図示せず)と、当該パルスレーザ光をプローブ13に導光し、かつ、プローブ13を介して受光するプラズマ起因の光を伝送ケーブル14に導光する光学系(図示せず)とを有する装置である。レーザは、後述するプローブ13により供給されるガスとめっき浴3との気液界面においてプラズマを生じさせる機能を有する。当該プラズマは、めっき浴3の組成に応じたFe、ZnおよびAlのプラズマであり、当該レーザはこれらの元素のプラズマを生じさせるパルスレーザ光を照射する機能を有することが好ましい。例えば、当該レーザは、高出力パルスレーザとして広く使用されているNd:YAGレーザ等であってもよい。また、当該レーザのヘッドには、レーザのスポット径等を調整するための調整機構が設けられ得る。
【0035】
光学系は、レーザから照射されたレーザ光をプローブ13に導光する光学系、およびプローブ13を介して受光するプラズマ起因の光を伝送ケーブル14に導光する光学系を有する。これらの光学系は、レンズ、ミラーまたはダイクロイックミラー等の光学部材により構成される。
【0036】
プローブ13は、めっき浴3とレーザ装置12との間の光路を構成する部材であり、一端がレーザ装置12と接続され、他端がめっき浴3に挿入されるように配置される。レーザ装置12から照射されるレーザ光は、プローブ13の当該他端側のめっき浴3中において集束され得る。また、プローブ13には、ガスが任意の位置から導入される。図2に示すように、当該ガスはめっき浴3中において発泡するものであり、プローブ13を介して導光されたレーザ光により、生じた泡15と溶融金属との気液界面においてプラズマ16が生成される。当該ガスは、ArまたはHe等、プラズマ発光分析で一般的に使用されている不活性ガスであることが好ましい。
【0037】
伝送ケーブル14は、めっき浴3においてプラズマ発光し、プローブ13を介してレーザ装置12に導かれた光を処理装置20に伝送するためのケーブルである。伝送ケーブル14は、光ファイバケーブルなど、一般的な導光用のケーブルにより実現される。
【0038】
処理装置20は、伝送ケーブル14を介して伝送された光を分光および検出し、得られた信号についての処理を行う機能を有する。本実施形態に係る処理装置20は、図1に示すように、検出部21、信号処理部22、濃度算出部23および積算回数決定部24を有する。
【0039】
検出部21は、伝送ケーブル14を介して伝送された光を分光分析する機能を有する。例えば、検出部21は、分光器および光電変更器により実現され得る。分光器は、少なくともFe、ZnおよびAlに対応する各波長の光を分離できる程度の分解能を有する分光器であれば特に限定されず、公知の分光手段を有する分光器が適用可能である。また、光電変更器は、分光された光の強度を検出可能である光電変更器であれば特に限定されず、例えば、CCD(Charge Coupled Device)もしくはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の光センサ、またはPMT(Photomultiplier Tube:光電子倍増管)であってもよい。本実施形態にかかる検出部21は、Fe、ZnおよびAlに対応する各波長を含む波長帯の信号を測定し、当該信号を測定データとして出力する。検出部21により検出された各元素に対応する信号に関する測定データは、信号処理部22に出力される。
【0040】
信号処理部22は、取得した測定データ(信号)について処理を行う機能を有する。具体的には、信号処理部22は、パルスレーザ光の照射ごとの信号から各対象元素の信号強度に係るデータ(強度データ)を算出する。算出された強度データは、濃度算出部23および積算回数決定部24に出力される。
【0041】
濃度算出部23は、信号処理部22から出力された強度データを積算して、積算後の積算強度データに基づき、めっき浴3中の固体粒子状Feおよび固体粒子状Alの各濃度を算出する。算出された各濃度に関するデータは、必要に応じ、例えばディスプレイ等の出力手段(図示せず)に出力される。また、濃度算出部23は、強度データの積算において、積算回数決定部24において決定された積算回数を用いる。
【0042】
積算回数決定部24は、濃度算出部23における強度データの積算回数を決定する。より具体的には、積算回数決定部24は、異なる積算回数の積算強度データに基づき、積算回数毎に対応する溶融亜鉛めっき浴中の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度を算出し、異なる積算回数の前記積算強度データに基づいた前記固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度について比較し、比較して得られた結果に基づいて、前記濃度算出部における前記強度データの積算回数を決定するように構成されている。決定した積算回数は、濃度算出部23に出力される。
【0043】
信号処理部22、濃度算出部23および積算回数決定部24における具体的な処理および動作については、後に詳述する。
また、信号処理部22、濃度算出部23および積算回数決定部24は、例えば、それぞれCPU等の演算装置、ROM(Read only memory)やRAM(Random access memory)等の主記憶装置およびハードディスク、フラッシュメモリ等の補助記憶装置を含むハードウェアによって実現される。信号処理部22、濃度算出部23および積算回数決定部24は、1つのハードウェアによって構成されてもよいし、複数のハードウェアにより構成されてもよい。なお、信号処理部22、濃度算出部23および積算回数決定部24は、組み込みシステムにより実現されてもよい。
【0044】
以上、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき装置1および成分分析システム11の構成例について説明した。
【0045】
<3.成分分析方法>
次に、上述した成分分析システム11を用いた、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法について説明する。なお、以下では、図2に示した成分分析システム11を用いて溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法を実現する例について説明するが、本発明はかかる例に限定されない。すなわち、以下に説明する溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法を実現可能である装置構成であれば、本発明の具体的な態様は特に限定されない。
【0046】
本実施形態に係る溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法は、パルスレーザ光の溶融亜鉛めっき浴への照射により生じる溶融亜鉛のプラズマ発光をレーザ誘起ブレークダウン分光法に基づいて分光分析し、Znに対するFeおよびAlの各信号強度比を含む強度データを取得するデータ取得工程と、
前記データ取得工程において得られる前記強度データを積算して、積算後の積算強度データに基づき、溶融亜鉛めっき浴中の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度を算出する濃度算出工程と、
を有する、溶融亜鉛めっき浴の成分分析方法において、
さらに、前記濃度算出工程における前記強度データの積算回数を決定する積算回数決定工程を有する。
以下、詳細に説明する。
【0047】
データ取得工程においては、パルスレーザ光の溶融亜鉛めっき浴への照射により生じる溶融亜鉛のプラズマ発光をレーザ誘起ブレークダウン分光法に基づいて分光分析し、Zn、FeおよびAlの各信号強度を含む強度データを取得する。
【0048】
本工程においては、まず、レーザ装置12により、プローブ13を介してめっき浴3にパルスレーザ光を照射し、プラズマ16を生成させる。そして、パルスレーザ光照射後の当該プラズマの冷却プロセスにおいてプラズマ発光が生じる。このようなプラズマ16からの光は、めっき浴3を主に構成するZn、鋼帯2から溶出するFeおよびめっき浴3に含有されるAlに起因する。
【0049】
そして、処理装置20の検出部21は、プラズマ16による光を受光し、分光分析する。具体的には検出部21が備える分光器によりFe、ZnおよびAlに対応する各波長の光を分離するとともに、検出部21が備える光電変換器により、分光された光の強度を検出する。これにより、パルスレーザ光の一照射あたり一つの測定データが生成される。成分分析システム11は、所定時間、繰り返しパルスレーザ光を照射して測定データを連続的に取得する。検出部21は、検出された各元素に対応する各信号強度を含む強度データを、信号処理部22に出力する。
【0050】
次いで、信号処理部22は、測定データを解析してZn、FeおよびAlの各信号強度[Zn]、[Fe]および[Al]を取得する。これにより、パルスレーザ光の一照射に対応する一の強度データが取得される。得られた強度データは、都度信号処理部22から濃度算出部23に出力される。また、積算回数決定部24が作動している場合、強度データは、信号処理部22から積算回数決定部24にも出力される。
【0051】
次に、濃度算出工程において、濃度算出部23は、データ取得工程において得られる強度データを積算して、積算後の積算強度データに基づき、溶融亜鉛めっき浴中の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度を算出する。具体的には、まず、濃度算出部23は、取得した測定データ(強度データ)ごとに強度比[Fe]/[Zn]および[Al]/[Zn]を算出し、さらに、同強度比を積算した積算強度データを得る。次いで、濃度算出部23は、積算強度データに基づき、めっき浴3中のZnに対するFe、Alの各濃度を得る。
【0052】
強度データに含まれる各元素の信号強度の絶対値はパルスレーザ光の照射条件により変動する。そのため、めっき浴3の成分分析のために[Fe]および[Al]をそのまま評価に用いることは困難である。そこで、これらの信号強度を、Znの信号強度で規格化する。具体的には、[Zn]に対する[Fe]および[Al]の比率(強度比)を算出する。これにより、同一の評価基準において、[Fe]および[Al]を用いた評価が可能となる。
【0053】
また、めっき浴3中のZnに対するFe、Alの各濃度は、複数の強度比を積算した積算強度データに基づいて算出される。上述したように、LIBS法においては、パルスレーザが照射された極めて狭い範囲のみが測定対象となる。そして、このような狭い測定範囲において、確率論的にドロスが存在し得る。したがって、ドロスのようなめっき浴3中に微量存在する粒子についてLIBS法で測定を行う場合、必然的に多少の測定誤差を伴う。
【0054】
しかしながら、本実施形態においては、後述する積算回数決定工程において、積算強度データを得るための強度データの適切な積算回数が決定されている。これにより、得られるFe、Alの各濃度の算出値のばらつきが十分に小さくなっている。
なお、積算回数決定工程が実施されていない場合、積算回数決定工程が終了するまで便宜的に適宜積算回数を設定してもよい。
【0055】
めっき浴3中のZnに対するFe、Alの各濃度は、得られた強度比[Fe]/[Zn]および[Al]/[Zn]を予め作成しておいた検量線を用いて換算することにより得られる。なお、検量線としては、めっき浴3について高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法等によりFe、Alの濃度を測定するとともに、成分分析システム11による強度比[Fe]/[Zn]および[Al]/[Zn]を対応させて回帰分析することにより得ることができる。
【0056】
上記のように、得られためっき浴3中のZnに対するFe濃度は、めっき浴3中において溶融亜鉛とともに液状で存在する液相Feおよびドロスとして存在する固体粒子状Feの濃度の合計値である。また、得られためっき浴3中のZnに対するAl濃度は、めっき浴3中において溶融亜鉛とともに液状で存在する液相Alおよびドロスとして存在する固体粒子状Alの濃度の合計値である。したがって、ドロス量を分析するには、めっき浴3中のドロスとして存在する固体粒子状Fe、固体粒子状Alの各濃度を得る必要がある。
【0057】
このために、濃度算出部23は、得られた強度比について、積算回数決定工程において決定された回数の積算を行い、積算強度データとしての度数分布を取得する(ヒストグラム化)。具体的には、[Fe]/[Zn]の度数分布および[Al]/[Zn]の度数分布を取得する。
【0058】
この度数分布は、Znの信号強度に対するFeまたはAlの信号強度の強度比を階級とする度数分布である。図3は、Znの信号強度に対するFeまたはAlの信号強度の強度比により構成される度数分布の一例を示すグラフである。図3に示すように、当該度数分布は、高強度比側にロングテールを有する分布である。また、度数分布のヒストグラムの階級値および階級の幅は、適宜設定され得る。
【0059】
めっき浴3中のドロスは固体の化合物粒子であり、原子が凝集しているため、溶融状態の金属よりも各元素成分の濃度が高い。したがって、レーザが照射されたレーザスポットの領域内にドロスが存在している場合、レーザスポットの領域内にドロスが存在していない場合よりも、強度の高い信号が得られる。このような信号強度の変化により、ドロスの有無を検出することができる。また、ドロスが存在する場合、主たる元素として存在するZnと比して、Fe、Alの強度は高くなる。
【0060】
このため、図3に示すように、高い度数を示している階級に対応する強度比は、その出現頻度が高いことから、めっき浴3中に溶存する元素X(液相X)の強度[X]Frに係る強度比[X]Fr/[Zn]に対応すると考えられる(元素X:Fe、Al)。一方で、分布の中心から高値側に外れた階級に対応する強度比は、めっき浴3中に存在するドロスに起因する強度比に対応すると考えられる。
【0061】
図3において、めっき浴3中の液相および固体粒子状の元素Xの各強度は、例えば以下のようにして画分できる。まず、高い度数を示している階級に基づき、正規分布Aを仮定する。そして、度数分布の全面積に対する仮定された正規分布Aの面積の比を、検出された元素Xの濃度のうち、液相由来の濃度と推定する。あるいは、正規分布Aの中心値を液相由来の濃度と推定する。一方で、正規分布A以外の部分、具体的には正規分布Aよりも高い強度比を有する領域Bの面積の度数分布の全面積に対する比を、検出された元素Xの濃度のうち、固体粒子由来の濃度と推定する。以上のようにして、固体粒子状Feおよび固体粒子状Alの各濃度が算出される。なお、固体粒子状Feおよび固体粒子状Alの各濃度の算出方法は、積算強度データに基づいて行われるものであれば、上記に限定されるものではない。
【0062】
次に、上述した濃度算出工程において用いられる強度データの積算回数を決定するための積算回数決定工程について説明する。
【0063】
本実施形態において、積算回数決定工程は、異なる積算回数の積算強度データに基づき、当該積算回数毎に対応するめっき浴3中の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度を算出する第1のステップと、異なる積算回数の積算強度データに基づいた固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度について比較する第2のステップと、第2のステップにおける比較の結果に基づいて、濃度算出工程における強度データの積算回数を決定する第3のステップと、を有する。そして、これらの積算回数決定工程における各ステップは、本実施形態においては、積算回数決定部24によって行われる。
【0064】
以下、理解を容易とするために、具体例を提示しつつ、積算回数決定工程を説明する。表1には、積算回数決定工程を説明するための、同工程の条件および結果の具体的な一例を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
第1のステップにおいては、異なる積算回数の積算強度データに基づき、当該積算回数毎に対応するめっき浴3中の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度を算出する。本ステップにおける固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度の算出方法としては、算出を異なる積算回数ごとに行うことを除き、上述した濃度算出工程と同様である。また、算出される固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度は、同一時点におけるめっき浴3中の濃度である。
【0067】
用いる積算回数としては、適宜状況に合わせて適宜設定できる。積算回数は、例えば500以上の範囲から選択される。積算回数同士の差(間隔)も特に限定されないが、積算回数は、他の積算回数に対し、例えば100~5,000の範囲の差(間隔)を有することができる。さらに積算強度データの数も特に限定されず、必要に応じて適宜設定することができる。
【0068】
例えば、表1に記載の例においては、積算回数としては、1,000~1,6000の範囲のものが用いられている。また、積算回数同士の差は、1,000、2,000または3,000としている。
【0069】
次に、第2のステップにおいては、異なる積算回数の積算強度データに基づいた固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度について比較する。
【0070】
比較する固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度は、異なる積算回数の積算強度データに基づいていれば特に限定されないが、例えば、対象となるある積算回数の積算強度データに対し、積算回数が大きく、かつ積算回数が近い(例えば最も近い)積算強度データを用いることができる。このように積算回数が比較的近い濃度同士で比較を行うことにより、どの範囲の積算回数が適切か特定しやすくなる。
【0071】
具体例として、図4に積算回数の差と濃度の差とに関するグラフを示す。図4において、縦軸は、基準濃度X、及びYに対する差分Δtを示している。図4に示すように、積算回数8,000回と10,000回において濃度を比較した場合、8,000回と10,000回との間で測定される濃度の差が小さくなっており、測定誤差が小さくなっていることが理解できる。一方で、積算回数5,000回と8,000回において濃度を比較した場合、積算回数5,000回と8,000回において測定される濃度の差が大きい状態である。さらに、例えば、10,000回に近い範囲の積算回数において、測定誤差が小さいか否か判別できない。
【0072】
そこで、表1における具体例においては、対象となるある積算回数の積算強度データに対し、積算回数が大きく、かつ積算回数が近い濃度、すなわち積算回数1,000回の濃度に対し2,000回の濃度、積算回数3,000回の濃度に対し5,000回の濃度、積算回数5,000回の濃度に対し8,000回の濃度、積算回数8,000回の濃度に対し10,000回の濃度、積算回数12,000回の濃度に対し16,000回の濃度を、それぞれ比較している。
【0073】
また、比較方法も、各積算回数についての濃度の測定誤差が現れるものであればよい。例えば、比較方法としては、濃度の差の積算値、濃度の差の最大偏差等、固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度の差を利用した比較方法、濃度の比の積算値、濃度の比の最大偏差等の固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度の比を利用した比較方法が挙げられる。このうち、濃度の差を利用する場合、比較的各積算回数についての濃度の測定誤差が明確に表れやすい。
【0074】
また、比較においては、所定期間内における濃度に関する最大偏差を利用することが好ましい。このように最大偏差を用いることにより、各積算回数についての濃度の測定誤差がより明確に表れる。なお、偏差は、濃度の差や濃度の比を平均した基準値から求められる。
【0075】
また、比較は、固体粒子状Feの濃度および固体粒子状Alの濃度のいずれについて行ってもよいし、両方について行ってもよい。ただし、固体粒子状Alはトップドロスに由来することから、ボトムドロスを監視することを鑑みると、少なくとも固体粒子状Feの濃度について比較結果を得ることが好ましい。
以上のようにして、比較を行う。
【0076】
表1における具体例においては、固体粒子状Feの濃度および固体粒子状Alの濃度の両方について、差の最大偏差を求めることにより比較を行っている。
【0077】
第3のステップにおいては、第2のステップにおいて得られた比較の結果(以下単に「比較結果」ともいう)に基づき、濃度算出工程における強度データの積算回数を決定する。
本ステップにおいては、例えば、所定の閾値を設定し、当該閾値より小さい比較結果(例えば最大偏差)に用いられた積算回数の最大値と最小値との間の範囲から、濃度算出工程における強度データの積算回数を決定することができる。閾値は、比較方法や、めっき浴3におけるドロスの発生状況、目標とする溶融亜鉛めっき鋼板の品質に応じて適宜設定することができる。
【0078】
また、積算回数が小さいほどめっき浴3の組成変化に対する応答性が向上することから、例えば、所定の閾値より小さい比較結果(例えば最大偏差)の算出に用いられた最小の積算回数に基づき、濃度算出工程における強度データの積算回数を決定することもできる。この場合、濃度算出工程における強度データの積算回数は、例えば、上記最小の積算回数の±20%以内、好ましくは±10%以内とすることができる。
【0079】
表1における具体例においては、例えば、閾値を10%とすると、まず、8,000~16,000の範囲から、濃度算出工程における強度データの積算回数を決定することができる。この場合、濃度算出工程における積算回数は小さい方がめっき浴3の組成変化に対する応答性が向上することから、例えば上記の範囲のうち50%以下、好ましくは25%以下の範囲、すなわち、例えば8,000~12,000、好ましくは8,000~10,000の範囲から、濃度算出工程における積算回数を決定することができる。
【0080】
あるいは、閾値より小さい最大偏差の算出に用いられた最小の積算回数8,000に基づき、濃度算出工程における強度データの積算回数を決定することができる。この場合、例えば、積算回数8,000±20%以内(6,400~9,600)、好ましくは積算回数8,000±10%以内(7,200~8,800)の範囲から、濃度算出工程における積算回数を決定することができる。
【0081】
上記のようにして決定された積算回数を濃度算出工程において用いることにより、固体粒子状Feの濃度および固体粒子状Alの濃度を精度よく、連続的に定量することができる。また、上記の第3のステップにおいて積算回数として比較的小さい値を選択することにより、ドロス発生量の変動に対応した十分な追従性も確保することができる。
【0082】
このような積算回数決定工程は、いかなる場合に行われるものであってもよい。例えば、めっき浴3の操業条件に変化が生じた際に、積算回数決定工程が行われてもよい。このように操業条件が変化した場合、めっき浴3中のドロスの発生量が変動しやすい。したがって、めっき浴3中のドロス量を操業条件の変化に応じて精度よく測定することが可能となる。
【0083】
このようなめっき浴3の操業条件としては、例えば、めっき浴の浴組成、浴温、撹拌条件、Alケーキの投入条件、鋼板の幅、温度、通板速度等が挙げられる。
【0084】
また、積算回数決定工程は、例えば、所定の時間間隔で定期的に行われてもよい。例えば、めっき浴3の操業条件を変更していない場合であっても、なんらかの理由によりドロスの発生の傾向が変化し得る。定期的に積算回数決定工程を行うことにより、このような認識しにくいドロスの発生の傾向の変化に対しても本実施形態に係る方法が対応可能となる。
【0085】
以上、本発明によれば、積算回数決定工程または積算回数決定部を有することにより、LIBS法を用いた際に適切な強度データの積算回数を決定することができる。これにより、固体粒子状Feの濃度および固体粒子状Alの濃度を精度よく、連続的に定量することができる。また、積算回数として比較的小さい値を選択することにより、ドロス発生量の変動に対応した十分な追従性も確保することができる。これにより、溶融亜鉛めっき浴中のドロスを連続的に精度よく定量することが可能である。
【0086】
(変形例)
上記実施形態では、積算回数決定工の第2のステップにおいて、異なる積算回数の積算強度データに基づいた固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度について最大偏差を比較する例を挙げて説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本変形例では、第2のステップにおいて、固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度について相関係数が比較される。なお、以下の本変形例の説明について、上記実施形態と共通する内容については説明を省略する場合がある。
【0087】
積算回数決定工程の第2のステップでは、固体粒子状Feおよび/または固体粒子状Alの濃度について相関係数が比較される。表2には、積算回数決定工程を説明するための、同工程の条件および結果の具体的な一例を示す。
【0088】
【表2】
【0089】
表2における具体例においては、対象となる、ある積算回数の積算強度データに対し、積算回数が大きく、かつ積算回数が近い相関係数、すなわち積算回数3,000回の相関係数に対し5,000回の相関係数、積算回数5,000回の相関係数に対し8,000回の相関係数、積算回数8,000回の相関係数に対し10,000回の相関係数、積算回数12,000回の相関係数に対し16,000回の相関係数を、それぞれ比較している。
【0090】
ここで、相関係数とは、比較対象となる積算回数のうちの一方の積算回数における濃度と、他方の積算回数における濃度との相関を示す係数であり、相関係数が1に近いほど、積算回数と濃度との間の正の相関が高いことを示している。なお、相関係数は、積算回数及び濃度について公知の統計的処理を行うことによって導出される。具体的には、相関係数は、比較する積算回数間の共分散、及びそれぞれの積算回数における濃度の標準偏差から求められる。
【0091】
このように相関係数を用いて比較を行うことにより、濃度の測定誤差が小さくなる積算回数を決定することが容易になる場合がある。例えば、最大偏差を用いて比較する場合には、最大偏差に近い偏差の値が複数存在していることがある。この場合には、最大偏差以外の値を用いても、測定誤差が小さくなる条件が決定できる場合があり、一意に測定誤差が小さくなる積算回数を求めることが困難である。相関係数は、積算回数と濃度の関係から一意に求まるので、各積算回数で濃度の測定誤差が小さくなる条件が明確に表れる。すなわち、積算回数を決定することが容易になる。特に、積算回数が小さい場合、積算強度データのばらつきが大きいため、最大偏差に近い値が複数存在する場合が多いが、相関係数の場合は一意に求まるので、積算回数を決定することが容易となる。
【0092】
また、比較は、固体粒子状Feの相関係数および固体粒子状Alの相関係数のいずれについて行ってもよいし、両方について行ってもよい。ただし、固体粒子状Alはトップドロスに由来することから、ボトムドロスを監視することを鑑みると、少なくとも固体粒子状Feの相関係数について比較結果を得ることが好ましい。
【0093】
表2における具体例においては、固体粒子状Feの濃度および固体粒子状Alの濃度の両方について、相関係数を求めることにより比較を行っている。
【0094】
第3のステップにおいては、第2のステップにおいて得られた相関係数の比較の結果(以下単に「比較結果」ともいう)に基づき、濃度算出工程における強度データの積算回数を決定する。
本ステップにおいては、例えば、所定の閾値を設定し、当該閾値より大きい相関係数を算出するために用いられた積算回数の最大値と最小値との間の範囲から、濃度算出工程における強度データの積算回数を決定することができる。閾値は、めっき浴3におけるドロスの発生状況、目標とする溶融亜鉛めっき鋼板の品質に応じて適宜設定することができる。
【0095】
また、積算回数が小さいほどめっき浴3の組成変化に対する応答性が向上することから、例えば、所定の閾値より大きな比較結果の算出に用いられた最小の積算回数に基づき、濃度算出工程における強度データの積算回数を決定することもできる。この場合、濃度算出工程における強度データの積算回数は、例えば、上記最小の積算回数の±20%以内、好ましくは±10%以内とすることができる。
【0096】
表2における具体例においては、例えば、閾値を0.9とすると、まず、8,000~16,000の範囲から、濃度算出工程における強度データの積算回数を決定することができる。この場合、濃度算出工程における積算回数は小さい方がめっき浴3の組成変化に対する応答性が向上することから、例えば上記の範囲のうち50%以下、好ましくは25%以下の範囲、すなわち、例えば8,000~12,000、好ましくは8,000~10,000の範囲から、濃度算出工程における積算回数を決定することができる。
【0097】
あるいは、閾値より大きい相関係数の算出に用いられた最小の積算回数8,000に基づき、濃度算出工程における強度データの積算回数を決定することができる。この場合、例えば、積算回数8,000±20%以内(6,400~9,600)、好ましくは積算回数8,000±10%以内(7,200~8,800)の範囲から、濃度算出工程における積算回数を決定することができる。以上説明したように、本変形例においても上記実施形態と同様な効果が得られる。
【0098】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0099】
1 溶融亜鉛めっき装置
2 鋼帯
3 めっき浴
4 めっき槽
5 スナウト
6 浴中ロール
7 サポートロール
8 インダクタ
9 ガスワイピング装置
10 合金化炉
11 成分分析システム
12 レーザ装置
13 プローブ
14 伝送ケーブル
20 処理装置
21 検出部
22 信号処理部
23 濃度算出部
24 積算回数決定部
図1
図2
図3
図4