(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012078
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】HER2陽性乳癌治療予後予測用新規バイオマーカーおよびその用途
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20240118BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20240118BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240118BHJP
C12Q 1/6841 20180101ALI20240118BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20240118BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240118BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240118BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240118BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240118BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6841 Z
C12Q1/6837 Z
G01N33/53 M
G01N33/53 D
G01N33/50 P
G01N33/68
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023075073
(22)【出願日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】10-2022-0086734
(32)【優先日】2022-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2023-0046214
(32)【優先日】2023-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ANNALS of ONCOLOGY,Vol.33,Supplement 33,S125-S126に公開された「Exploratory biomarker analysis from neoadjuvant atezolizumab,pertuzumab,trastuzumab plus docetaxel(NEO-PATH)in HER2+ early breast cancer」及びポスタープレゼンテーション「Exploratory biomarker analysis from neoadjuvant atezolizumab,pertuzumab,trastuzumab plus docetaxel(NEO-PATH,KCSG-BR-18-23,NCT03881878)in HER2+ early breast cancer」
(71)【出願人】
【識別番号】512250119
【氏名又は名称】サムスン ライフ パブリック ウェルフェア ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】キョン・ヒ・パク
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ヒ・パク
(72)【発明者】
【氏名】ウン・ヤン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ヨン・キム
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB01
2G045CB03
2G045CB07
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(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、HER2陽性乳癌治療の予後を予測する手段を提供することである。
【解決手段】本発明は、RAD21遺伝子を検出する製剤を含むHER2陽性乳癌治療予後予測用組成物に関する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RAD21遺伝子を検出する製剤を含むHER2陽性乳癌治療予後予測用組成物。
【請求項2】
前記HER2陽性乳癌治療は、先行抗癌化学療法を適用可能なHER2陽性早期乳癌患者を対象にするものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記先行抗癌化学療法は、ドセタキセル(Docetaxel)、パクリタキセル(Paclitaxel)またはアルブミン結合パクリタキセル(Nab-paclitaxel);トラスツズマブ(Trastuzumab);ペルツズマブ(Pertuzumab);およびアテゾリズマブ(Atezolizumab)、ニボルマブ(Nivolumab)またはペムブロリズマブ(Pembrolizumab)を投与するものである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記製剤は、RAD21遺伝子のDNA突然変異、RAD21遺伝子のRNA発現レベル、またはこれらの組み合わせを検出するものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記RAD21遺伝子のDNA突然変異は、単一ヌクレオチド変異;1~50個のヌクレオチドの欠失、置換、挿入、またはこれらの組み合わせ;およびコピー数変異からなる群より選択された1種以上である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記製剤は、RAD21遺伝子のDNAまたはRNAに結合するプライマー、プローブおよびアンチセンスヌクレオチドからなる群より選択された1種以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物は、HER2遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤をさらに含むものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、PDL1遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤をさらに含むものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記製剤は、HER2またはPDL1遺伝子、またはそのタンパク質に結合するプライマー、プローブ、アンチセンスヌクレオチド、抗体、オリゴペプチド、リガンド、PNAおよびアプタマーからなる群より選択された1種以上である、請求項7または8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物は、ANKRD50、COX6C、DERL1、FLNB、GPRC5A、RNF139、SAMD8、SERPINE1、SQLEおよびTTC39A遺伝子からなる群より選択された1種以上のRNA発現レベルを測定する製剤をさらに含むものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記製剤は、RNA配列に結合するプライマーまたはプローブである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1、7、8および10のいずれか1項に記載の組成物を含むHER2陽性乳癌治療予後予測用キット。
【請求項13】
a)被験者から分離された生物学的試料からRAD21遺伝子を検出するステップと、
b)前記検出されたRAD21遺伝子のDNA突然変異レベル、RNA発現レベル、またはこれらの組み合わせを対照群と比較するステップとを含むHER2陽性乳癌治療予後を予測するための情報の提供方法。
【請求項14】
前記a)ステップの被験者は、先行抗癌化学療法を適用可能なHER2陽性早期乳癌患者である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記先行抗癌化学療法は、ドセタキセル(Docetaxel)、パクリタキセル(Paclitaxel)またはアルブミン結合パクリタキセル(Nab-paclitaxel);トラスツズマブ(Trastuzumab);ペルツズマブ(Pertuzumab);およびアテゾリズマブ(Atezolizumab)、ニボルマブ(Nivolumab)またはペムブロリズマブ(Pembrolizumab)を投与するものである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記a)ステップの生物学的試料は、血液、血漿、血清、リンパ液、唾液、尿および組織からなる群より選択された1種以上である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記a)またはb)ステップの後、
a-1)前記生物学的試料においてHER2遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルを測定するステップと、
b-1)前記測定されたHER2遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルを対照群と比較するステップとをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記a)またはb)ステップの後、
a-2)前記生物学的試料においてPDL1遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルを測定するステップと、
b-2)前記測定されたPDL1遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルを対照群と比較するステップとをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記a)またはb)ステップの後、
a-3)前記生物学的試料においてANKRD50、COX6C、DERL1、FLNB、GPRC5A、RNF139、SAMD8、SERPINE1、SQLEおよびTTC39A遺伝子からなる群より選択された1種以上のRNA発現レベルを測定するステップと、
b-3)前記測定された遺伝子のRNA発現レベルを対照群と比較するステップとをさらに含むものである、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記遺伝子のDNA突然変異レベル、遺伝子またはRNAの発現レベル、またはタンパク質の発現レベルは、蛍光核酸混成化(fluorescence in situ hybridization)、クロマチン免疫沈降(chromatin immunoprecipitation)、次世代塩基配列分析(next generation sequencing)、重合酵素連鎖反応(PCR)、逆転写重合酵素連鎖反応(RT-PCR)、競争的RT-PCR、リアルタイムPCR、リアルタイムRT-PCR、核酸分解酵素保護分析(nuclease protection assay)、in situハイブリダイゼーション、DNAまたはRNAマイクロアレイ、ノーザンブロット、酵素免疫分析(enzyme-linked immunosorbent assay)、ウェスタンブロット(western blot)、放射線免疫分析(radioimmunoassay)、免疫拡散(radioimmunodiffusion)、免疫沈降(immunoprecipitation)、フローサイトメトリー(flow cytometry)免疫組織化学(immunohistochemistry)、免疫蛍光(immunofluorescnce)およびタンパク質マイクロアレイからなる群より選択された1種以上の方法で測定されるものである、請求項13、17、18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記対照群と比較するステップにおいて、対照群対比の被験者において下記のi)およびii)の1つ以上と下記のiii)~v)の1つ以上とを満足する場合、HER2陽性乳癌患者の治療予後が良いと判別するものである、請求項13、17、18または19に記載の方法:
i)RAD21遺伝子のDNA突然変異レベルが底い;
ii)RAD21遺伝子のRNA発現レベルが底い;
iii)HER2遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルが高い;
iv)PDL1遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルが高い;および
v)ANKRD50、COX6C、DERL1、FLNB、GPRC5A、RNF139、SAMD8、SERPINE1、SQLEおよびTTC39A遺伝子からなる群より選択された1種以上のRNA発現レベルが低い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HER2陽性乳癌治療予後予測用新規バイオマーカーおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌は、ホルモン受容体(hormone receptor、HR)とヒト上皮細胞成長因子受容体2(human epidermal growth factor receptor 2、HER2)のタンパク質の発現に基づいてHR+HER2-、HR+HER2+、HR-HER2+およびTNBC(triple-negative breast cancer)の4つのIHC(Immunohistochemistry)タイプに分類され、RNA発現量に基づいて分子タイプを分けるPAM50 subtypingを適用してLuminal A、Luminal B、Her2-enriched、Basal-likeおよびNormal-likeの5つの分子タイプに分けられ、このようなタイプによって臨床的特性と抗癌治療に対する反応が異なって現れる。HER2の増幅または過発現を有するHER2陽性乳癌(HER2 positive breast cancer)は、全体乳癌の15~25%を占め、再発率が高くて予後が悪い方である。HER2陽性乳癌において、HER2は、乳癌の予後を予測するためのバイオマーカーや治療の標的として活用される。FDAで承認されたHER2標的治療剤であるトラスツズマブ(Trastuzumab)はHER2に対するヒト化単クローン抗体で、HER2陽性乳癌患者の無病生存率および全体生存率を改善させることが知られている。しかし、一部の患者だけがトラスツズマブの単独治療に反応し、多くの患者が持続的な治療に対して耐性を有するので、このようなトラスツズマブの限界を克服するために、ラパチニブ(Lapatinib)、ペルツズマブ(Pertuzumab)など他のHER2標的治療剤や細胞毒性抗癌剤、免疫抗癌剤などを併用する多様な治療戦略が試みられている。
【0003】
乳癌の抗癌治療法としては、大きく、根治的抗癌化学療法(先行抗癌化学療法または補助抗癌化学療法)と、緩和的(palliative)抗癌化学療法とに分けられる。このうち、先行抗癌化学療法(neoadjuvant chemotherapy)は、腫瘍を除去できなかったり、手術範囲が過度に大きい時、手術できる水準まで腫瘍を低減したり、病期(stage)を低下させるための手術前の療法で、良い予後を期待することができる。HER2陽性早期乳癌(HER2 positive early breast cancer)の場合、ドセタキセル(Docetaxel)、カルボプラチン(Carboplatin)、トラスツズマブおよびペルツズマブ(Pertuzumab)を併用するTCHP療法により病理学的完全寛解(pathologic complete response)の比率を60%以上に高めた。TCHP療法は、毒性調節が可能であるが、好中球減少熱(neutropenic fever)、神経毒性(neurotoxicity)、腎毒性(nephrotoxicity)、嘔吐(emesis)、下痢(diarrhea)など等級(Grade)3または4の危険度の高い異常反応(adverse effect)を示すというデメリットがある。したがって、患者ごとに治療に対する反応が異なるため、正確な予後予測のためには、乳癌の分子タイプと臨床結果の関連性に対する評価が必要であり、特に各タイプ別乳癌の予後に影響を及ぼす分子的因子に関する研究の実行が必ず要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】韓国登録特許第10-1960431号
【特許文献2】韓国登録特許第10-2338510号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、HER2陽性乳癌治療予後予測用組成物およびキットを提供することを目的とする。
【0006】
また、本発明は、HER2陽性乳癌治療予後を予測するための情報の提供方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
HER2陽性乳癌治療予後予測用組成物
本発明の一態様は、RAD21遺伝子を検出する製剤を含むHER2陽性乳癌治療予後予測用組成物を提供する。
【0008】
本発明で使用された「HER2陽性乳癌」は、一般的な癌細胞よりHER2が多く発見されるタイプで、進行が他の乳癌より早く攻撃的であることが特徴である。HER2陽性早期乳癌の場合、腫瘍の大きさが2cm以下であり、脇リンパ節に転移がないもので、HER2標的治療剤を使用すれば治療予後が良い方であり、完治率も高いことが知られている。腫瘍の大きさが2cmを超えたりリンパ節の転移があれば、手術前に標的治療剤治療を施すが、この時、癌が完全に消える場合を病理学的完全寛解(pathologic complete response、pCR)という。
【0009】
本発明で使用された「治療」は、乳癌の成長、増殖または転移抑制のために通常使用される療法を意味し、標的治療剤や細胞毒性抗癌剤、免疫抗癌剤を単独または併用した場合をすべて含む。一般的な抗癌治療としては、手術前に抗癌剤を投与して腫瘍の大きさを低減する先行抗癌化学療法、根治的切除術(完全切除)後、微細残存癌が残っている可能性が高くて、癌の再発防止を目的として手術後に投与する補助抗癌化学療法、疾病の進行を遅らせたり緩和させて患者の生活の質を良くし、窮極的に生存期間を伸ばすための緩和的抗癌化学療法などがある。
【0010】
本発明の一具体例によれば、前記HER2陽性乳癌治療は、先行抗癌化学療法を適用可能なHER2陽性早期乳癌患者を対象にするものであってもよい。
【0011】
本発明の一具体例によれば、前記先行抗癌化学療法は、HER2標的治療剤を単独で使用するか、細胞毒性抗癌剤、免疫抗癌剤などの抗癌剤と併用するものであってもよい。
【0012】
前記HER2標的抗癌剤としては、ダコミチニブ(Dacomitinib)、マルゲツキシマブ(Margetuximab)、ネラチニブ(Neratinib)、ペルツズマブ(Pertuzumab)、トラスツズマブ(Trastuzumab)、トラスツズマブエムタンシン(Trastuzumab emtansine)、ツカチニブ(Tucatinib)、ラパチニブ(Lapatinib)などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
前記細胞毒性抗癌剤としては、シクロホスファミド(Cyclophosphamide)、ドセタキセル(Docetaxel)、パクリタキセル(Paclitaxel)、アルブミン結合パクリタキセル(Nab-paclitaxel)、ドキソルビシン(Doxorubicin)などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
前記免疫抗癌剤としては、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、イピリムマブ(Ipilimumab)、ニボルマブ(Nivolumab)、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
より具体的には、前記先行抗癌化学療法はTAHP療法で、ドセタキセル、パクリタキセルまたはアルブミン結合パクリタキセル;トラスツズマブ;ペルツズマブ;およびアテゾリズマブ、ニボルマブまたはペムブロリズマブを投与するものであってもよい。
本発明で使用された「予後」は、まだ診断されなかったり、診断された個体を対象に、治療前/後の個体の再発、転移、薬物反応性、耐性などの有無を判断することを意味する。本発明では、HER2陽性乳癌患者、より具体的には、先行抗癌化学療法を適用可能なHER2陽性早期乳癌患者において薬物治療前にバイオマーカーとしてRAD21遺伝子、より具体的には、RAD21遺伝子の突然変異の有無および/またはRNA発現レベルを確認して治療に対する反応が良いかを予測することを意味し、病理学的完全寛解(pCR)を用いて予後を予測することができる。ここで、「バイオマーカー(biomarker)」とは、一般的に生物学的試料から検出可能な物質であって、生体の変化を知ることができるポリペプチド、タンパク質、核酸、遺伝子、脂質、糖脂質、糖タンパク質、糖などのような有機生体分子をすべて含む。
【0016】
本発明によるHER2陽性乳癌治療予後予測用組成物は、バイオマーカーであるRAD21遺伝子を検出するための製剤が要求される。
【0017】
本発明の一具体例によれば、前記製剤は、RAD21遺伝子のDNA突然変異、RAD21遺伝子のRNA発現レベル、またはこれらの組み合わせを検出するものであってもよい。
【0018】
本発明の一具体例によれば、前記RAD21遺伝子のDNA突然変異は、RAD21遺伝子の核酸塩基配列(nucleic acid sequence)またはヌクレオチド配列(nucleotide sequence)において、i)単一ヌクレオチド変異;ii)1~50個のヌクレオチドの欠失、置換、挿入、またはこれらの組み合わせ;およびiii)コピー数変異からなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0019】
本発明で使用された「突然変異または変異」は、遺伝体において塩基、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは核酸の変更(alteration)を意味する。前記変異は、塩基、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは核酸の置換(substitution)、挿入(insertion)、欠失(deletion)などを含むことができる。ここで、置換は、塩基、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは核酸が他の塩基、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは核酸に変化する変更を意味する。挿入は、他の塩基、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは核酸が追加される変更を意味する。欠失は、塩基、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは核酸が除去される変更を意味する。
【0020】
本発明で使用された「単一ヌクレオチド変異(single nucleotide variant、SNV)」は、遺伝体上で1つの塩基またはヌクレオチドの差を示す配列の変更または変異を意味し、様々な人の遺伝体の同じ位置で特定の塩基1つが他の塩基に変化して他の形質で表現されることを意味する一塩基多型(single nucleotide polymorphism)と混用できる。前記1~50個のヌクレオチド欠失または挿入は、遺伝体上で1~50個以上の連続的または非連続的塩基、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたは核酸の差を示す配列の変更または変異を意味する。このようなヌクレオチド変異は、3個の塩基配列で構成される1つのアミノ酸にも影響を及ぼすことができ、塩基の差が特定の疾患に対する感受性、疾患の発現様相、治療剤反応性など個人間の差を示すのに寄与することができる。
【0021】
本発明で使用された「コピー数変異(copy number variant、CNV)」は、参照配列(reference sequence)と比較した時、反復する配列数の差を示す1kb以上の長さの変異区間をいい、コピー数の差によって特定の疾患に対する感受性、疾患の発現様相、治療剤反応性など個人間の差を示すのに寄与することができる。
【0022】
このようなDNA突然変異の有無は、塩基配列分析(sequencing)または増幅反応により検出可能である。
【0023】
本発明の実施例では、TAHP療法を受けたHER2陽性早期乳癌患者の薬物治療前の腫瘍組織を用いてDNAおよびRNAシーケンシングを実施した結果、野生型RAD21遺伝子を有する場合(78%)が、RAD21遺伝子の突然変異、より具体的には、コピー数(copy number)が6以上増加したコピー数変異(RAD21_amp)を有する場合(24%)に比べてpCR比率が著しく高く、RAD21遺伝子のDNA突然変異の有無および/またはRNA発現レベルだけでもHER2陽性早期乳癌の治療予後に対する予測性能が高く(RAD21_exprs+RAD21_amp、LOOCV.AUC=0.690;RAD21_amp、LOOCV.AUC=0.733;RAD21_exprs、LOOCV.AUC=0.749)、正確度に優れた予測モデルを形成した。
【0024】
本発明の一具体例によれば、前記RAD21遺伝子のDNA突然変異を検出する製剤は、RAD21遺伝子のDNAに相補的に結合するセンスおよびアンチセンスプライマー、プローブおよびアンチセンスヌクレオチドからなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0025】
また、本発明の一具体例によれば、前記RAD21遺伝子のRNA発現レベルを検出または測定する製剤は、RAD21遺伝子のRNAに相補的に結合するプライマーまたはプローブであってもよい。
【0026】
本発明によるRAD21遺伝子を検出する製剤を含むHER2陽性乳癌治療予後予測用組成物は、予測正確度を向上させるように、RAD21のほか、他のバイオマーカーを活用することができる。
【0027】
本発明の一具体例によれば、前記組成物は、HER2遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤をさらに含むものであってもよい。
【0028】
本発明の一実施例では、TAHP療法を受けたHER2陽性早期乳癌患者の薬物治療前に確保した腫瘍組織を用いてタンパク質の発現レベルを測定した結果、HER2 3+の場合(71%)が、HER2 2+の場合(13%)に比べてpCR比率が著しく高く、RAD21遺伝子のDNA突然変異の有無と共に、HER2の発現の有無によりHER2陽性早期乳癌の治療予後に対する予測性能が高く(LOOCV.AUC=0.807)、正確度に優れた予測モデルを形成した。
【0029】
また、本発明の一具体例によれば、前記組成物は、PDL1遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤をさらに含むものであってもよい。
【0030】
前記PDL1(programmed death-ligand 1)は、癌細胞の表面や造血細胞にあるタンパク質で、癌細胞の表面にあるPDL1がT細胞の表面にあるPD-1(programmed cell death protein 1)と結合してT細胞の癌細胞攻撃を回避するようにする。
【0031】
本発明の一実施例では、TAHP療法を受けたHER2陽性早期乳癌患者の薬物治療開始前に確保した腫瘍組織を用いてタンパク質の発現レベルを測定した結果、PDL1陽性の場合(100%)が、PDL1陰性の場合(55%)に比べてpCR比率が著しく高く、RAD21遺伝子のDNA突然変異の有無および/またはRNA発現レベルと共に、HER2および/またはPDL1発現の有無によりHER2陽性早期乳癌の治療予後に対する予測性能がより向上し(RAD21_amp+PDL1、LOOCV.AUC=0.757;RAD21_amp+HER2+PDL1+RAD21_exprs、LOOCV.AUC=0.788;RAD21_amp+HER2、LOOCV.AUC=0.807;RAD21_amp+HER2+PDL1、LOOCV.AUC=0.839)、正確度に優れた予測モデルを形成した。
【0032】
このようなHER2またはPDL1の発現レベルを測定するためには、当該遺伝子またはそのタンパク質の発現量を測定できる製剤が要求される。
本発明の一具体例によれば、前記HER2またはPDL1遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルを測定する製剤は、HER2またはPDL1遺伝子、またはそのタンパク質にそれぞれ相補的または特異的に結合するセンスおよびアンチセンスプライマー、プローブ、アンチセンスヌクレオチド、抗体、オリゴペプチド、リガンド、PNA(peptide nucleic acid)およびアプタマー(aptamer)からなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0033】
また、本発明の一具体例によれば、前記組成物は、ANKRD50、COX6C、DERL1、FLNB、GPRC5A、RNF139、SAMD8、SERPINE1、SQLEおよびTTC39A遺伝子からなる群より選択された1種以上のRNA発現レベルを測定する製剤をさらに含むものであってもよい。
【0034】
前記10種の遺伝子は、本発明の一実施例により、HER2陽性乳癌患者のうち、pCRグループ対比、non-pCRグループで統計的に有意な発現量の差を示すものとして選定された遺伝子である。
【0035】
本発明の一実施例では、TAHP療法を受けたHER2陽性早期乳癌患者の薬物治療開始前に確保した腫瘍組織を用いて10種の遺伝子のRNA発現レベルを測定した結果、RAD21遺伝子のDNA突然変異の有無および/またはRNA発現レベルと共に、HER2および/またはPDL1発現の有無、および/または10種の遺伝子のRNA発現レベルによりHER2陽性早期乳癌の治療予後に対する予測性能がより向上し(RAD21_ampおよび/またはRAD21_exprsを含む、LOOCV.AUC=0.734~0.918)、正確度に優れた予測モデルを形成した。
【0036】
このような10種の遺伝子の発現レベルを測定するためには、当該遺伝子のRNA発現量を測定できる製剤が要求される。
【0037】
本発明の一具体例によれば、前記10種の遺伝子のRNA発現レベルを測定する製剤は、各遺伝子のRNAにそれぞれ相補的に結合するプライマーまたはプローブであってもよい。
【0038】
本発明で使用された「プライマー(primer)」は、短い自由3末端水酸化基を有する核酸配列で、相補的な鋳型(template)と塩基対を形成することができ、鋳型鎖コピーのための開始地点として機能する一本鎖オリゴヌクレオチド(single strand oligonucleotide)を意味する。前記プライマーは、適切な緩衝溶液および温度で重合反応(すなわち、DNA重合酵素または逆転写酵素)のための試薬および異なる4つのヌクレオチドトリホスフェートの存在下でDNA合成を開始することができる。プライマー対は、7個~50個のヌクレオチド配列を有するセンス(sense)およびアンチセンス(antisense)オリゴヌクレオチドで構成され、DNA合成の開始点として作用するプライマーの基本性質を変化させないレベルで15~30個のヌクレオチド配列を有することができる。
【0039】
本発明で使用された「プローブ(probe)」は、自然の、または変形されたモノマー(monomer)または連鎖(linkages)の線状オリゴマーを意味し、デオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドを含み、標的ヌクレオチド配列に特異的に混成化することができ、自然的に存在するか、または人為的に合成されたものである。
【0040】
このようなプライマー、プローブおよびアンチセンスヌクレオチドは、必要な場合、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的または化学的手段によって直接的にまたは間接的に検出可能な標識を含むことができる。前記検出可能な標識は、検出可能な信号を発生させる標識物質であって、蛍光物質、例えば、Cy3、Cy5などのような物質を含む検出可能な信号を発生させることができる標識物質であってもよい。前記検出可能な標識は、核酸の混成化結果を確認することができる。
【0041】
本発明で使用された「抗体」は、抗原性部位に対して指示される特異的なタンパク質分子を意味する。本発明では、HER2またはPDL1タンパク質に特異的に結合する抗体を意味し、単クローン抗体、多クローン抗体および組換え抗体をすべて含む。ここで、「特異的に結合する」とは、結合によって標的物質の存在の有無を検出できる程度に、他の物質に比べて標的物質に対する結合力に優れていることを意味する。また、前記抗体は、2個の全長の軽鎖(light chain)および2個の全長の重鎖(heavy chain)を有する完全な形態だけでなく、抗体分子の機能的な断片を含む。抗体分子の機能的な断片とは、少なくとも抗原結合機能を保有している断片を意味し、Fab、F(ab’)、F(ab’)2、Fvなどであってもよい。
【0042】
前記抗体は、当業界にて公知の技術により容易に製造できる。例えば、単クローン抗体は、当業界にて広く公知のハイブリドーマ方法(hybridoma method)KohlerおよびMilstein(1976)European Jounral of Immunology6:511-519参照)、またはファージ抗体ライブラリー(Clackson et al,Nature,352:624-628,1991;Marks et al,J.Mol.Biol.,222:58,1-597,1991)技術を用いて製造できる。多クローン抗体は、標的タンパク質抗原を動物に注射し、動物から採血して抗体を含む血清を得る方法によって生産することができる。このような多クローン抗体は、ヤギ、ウサギ、ヒツジ、サル、ウマ、ブタ、ウシ、イヌなどの動物から製造可能である。
【0043】
前記方法で製造された抗体は、ゲル電気泳動、透析、塩沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィーなどの方法を用いて分離および精製することができる。
【0044】
HER2陽性乳癌治療予後予測用キット
本発明の一態様は、前記組成物を含むHER2陽性乳癌治療予後予測用キットを提供する。
本発明で使用された「HER2陽性乳癌治療予後予測用キット」は、検査対象者またはHER2陽性乳癌患者、より具体的には、先行抗癌化学療法を適用可能なHER2陽性早期乳癌患者から分離された生物学的試料により予後を予測できる物質を意味し、これにより検査対象者の治療予後を迅速、正確かつ簡便に診断することができる。本発明では、RAD21遺伝子のDNA突然変異の有無および/またはRNA発現レベルを検出または測定する製剤を単独で含むか、またはこれと共に、HER2またはPDL1遺伝子またはそのタンパク質の発現レベル、および/または前記10種の遺伝子のRNA発現レベルを測定する製剤をさらに含むことができる。
【0045】
前記キットは、通常の遺伝子発現、遺伝子突然変異(例えば、コピー数変異)、RNA(例えば、mRNA)発現およびタンパク質の定量分析に基づいた診断キットを制限なく含むことができる。
本発明の一具体例によれば、前記キットは、PCR(polymerase chain reaction)キット、RT-PCR(reverse transcription PCR)キット、DNAまたはDNAチップキット、NGS(next generation sequencing)キット、タンパク質チップキットおよびタンパク質アレイキットからなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0046】
例えば、前記キットがPCR増幅過程に適用される場合、本発明のキットは、選択的にPCR増幅に必要な試薬、例えば、緩衝液、DNA重合酵素、DNA重合酵素補助因子およびdNTPsを含むことができ、前記キットが免疫分析に適用される場合、本発明のキットは、選択的に二次抗体および標識の基質を含むことができる。また、本発明によるキットは、上記の試薬成分を含む多数の別のパッケージングまたはコンパートメントとして作製され、本発明のキットは、DNAチップを行うために必要な必須要素を含む診断用キットであってもよい。DNAチップキットは、遺伝子またはその断片に相当するcDNAがプローブに付着している基板、および蛍光標識プローブを作製するための試薬、製剤、酵素などを含むことができる。また、基板は、定量対照群遺伝子またはその断片に相当するcDNAを含むことができる。
【0047】
HER2陽性乳癌治療予後を予測するための情報の提供方法
本発明の他の態様は、a)被験者から分離された生物学的試料からRAD21遺伝子を検出するステップと、b)前記検出されたRAD21遺伝子のDNA突然変異レベル、RNA発現レベル、またはこれらの組み合わせを対照群と比較するステップとを含むHER2陽性乳癌治療予後を予測するための情報の提供方法を提供する。
【0048】
前記a)およびb)ステップについて詳しく説明し、前述した内容と共通した内容は、過度の複雑性を回避するためにその記載を省略する。
【0049】
前記a)ステップは、HER2陽性乳癌治療予後に対する検査が必要な個体または対象者から生物学的試料を採取して、RAD21遺伝子のDNA突然変異レベルおよび/またはRNA発現レベルを測定する過程である。
【0050】
本発明の一具体例によれば、前記a)ステップの被験者は、先行抗癌化学療法を適用可能なHER2陽性早期乳癌患者であってもよい。
【0051】
より具体的には、前記先行抗癌化学療法は、ドセタキセル(Docetaxel)、パクリタキセル(Paclitaxel)またはアルブミン結合パクリタキセル(Nab-paclitaxel);トラスツズマブ(Trastuzumab);ペルツズマブ(Pertuzumab);およびアテゾリズマブ(Atezolizumab)、ニボルマブ(Nivolumab)またはペムブロリズマブ(Pembrolizumab)を投与するものであってもよい。
【0052】
本発明の一具体例によれば、前記a)ステップの生物学的試料は、血液、血漿、血清、リンパ液、唾液、尿および組織からなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0053】
前記生物学的試料は、HER2陽性乳癌に対する薬物治療前に確保したものが好ましく、生物学的試料から癌細胞の遺伝子変異の有無および分子(例えば、核酸、タンパク質)の発現レベルを正確に測定するためには、癌組織を用いることが好ましい。
【0054】
前記b)ステップは、生物学的試料で測定されたRAD21遺伝子の特定変異の有無および/またはRNA発現レベルに基づいて被験者または個体のHER2陽性乳癌治療に対する予後を予測する過程である。
【0055】
本発明の一具体例によれば、前記RAD21遺伝子のDNA突然変異は、RAD21遺伝子配列において単一ヌクレオチド変異;1~50個のヌクレオチドの欠失、置換、挿入、またはこれらの組み合わせ;およびコピー数変異からなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0056】
また、本発明によるHER2陽性乳癌治療予後を予測するための情報の提供方法は、前記RAD21遺伝子のほか、HER2;PDL1;および/またはANKRD50、COX6C、DERL1、FLNB、GPRC5A、RNF139、SAMD8、SERPINE1、SQLEおよびTTC39Aからなる群より選択された1つ以上の遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルをさらに測定するステップを含むことができる。
【0057】
より具体的には、前記a)またはb)ステップの後、a-1)前記生物学的試料においてHER2遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルを測定するステップと、b-1)前記測定されたHER2遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルを対照群と比較するステップとをさらに含むものであってもよい。
【0058】
また、前記a)またはb)ステップの後、a-2)前記生物学的試料においてPDL1遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルを測定するステップと、b-2)前記測定されたPDL1遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルを対照群と比較するステップとをさらに含むものであってもよい。
【0059】
さらに、前記a)またはb)ステップの後、a-3)前記生物学的試料においてANKRD50、COX6C、DERL1、FLNB、GPRC5A、RNF139、SAMD8、SERPINE1、SQLEおよびTTC39A遺伝子からなる群より選択された1種以上のRNA発現レベルを測定するステップと、b-3)前記測定された遺伝子のRNA発現レベルを対照群と比較するステップとをさらに含むものであってもよい。
【0060】
本発明の一具体例によれば、前記RAD21遺伝子のDNA突然変異レベルは、蛍光核酸混成化(fluorescence in situ hybridization)、クロマチン免疫沈降(chromatin immunoprecipitation)、次世代塩基配列分析(next generation sequencing、NGS)などにより分析できるが、これに限定されるものではない。
【0061】
より具体的には、前記RAD21遺伝子のDNA突然変異、特にコピー数変異は、NGSにより測定可能であり、例えば、全長遺伝体シーケンシング(whole genome sequencing)、全長エキソームシーケンシング(whole exome sequencing)、標的遺伝子パネルシーケンシング(target gene panel sequencing)などの方法で測定できるが、これに限定されるものではない。
【0062】
前記NGSは、数十万個の反応を同時に行う多重化(multiplexing)能力があり、少量のサンプルでもシーケンシングが可能である。NGSは、商用化された技術により具体的な適用手法がやや異なるが、一般的に、クローン増幅(clonal amplification)、大量並列シーケンシングおよびSanger方法と作用機序が異なる新しい塩基配列決定法を用いる。商用化技術としては、2007年にRocheが発売した454GS改良型FLX model sequencer、2006年にIlluminaが発売したGenome Analyzer HiSeq、2007年にApplied Biosystemsが発売したSOLiDなどがある。このような3つのプラットフォームは、共通して、複雑なライブラリーの構築とクローニング過程を捨ててクローン増幅技術を採用しており、一度に大量処理できる大量並列方式(massively parallel sequencing)技術を採用し、循環シーケンシング(cyclic sequencing)による合成信号読出(sequencing by synthesis)で塩基配列を決定して煩雑な電気泳動過程を排除した。また、shotgun方式を用いて読出された短いリード(read)をコンピュータで配列して重複した部分を見つけて全体を完成するアルゴリズムを用いる。NGSは、臨床的に遺伝子パネル検査、エキソームシーケンシング、全長遺伝体シーケンシング、一塩基多型(single nucleotide polymorphism)検出、血液ベース腫瘍検査(blood-based tumor diagnostic)、非侵襲的出生前検査(noninvasive prenatal testing)、ヒト白血球抗原(Human leukocyte antigen)検査、免疫グロブリン遺伝子組換え(Immunoglobulin rearrangement)検査、RNAシーケンシング、DNAメチル化(methylation)検査、クロマチン免疫沈降(chromatin immunoprecipitation、ChIP)シーケンシング、単一細胞(single cell)シーケンシングなどに用いられる。
【0063】
本発明の一具体例によれば、前記遺伝子(例えば、DNA、RNA)の発現レベルは、重合酵素連鎖反応(PCR)、逆転写重合酵素連鎖反応(RT-PCR)、競争的RT-PCR、リアルタイムPCR、リアルタイムRT-PCR、核酸分解酵素保護分析(nuclease protection assay)、in situハイブリダイゼーション、DNAまたはRNAマイクロアレイ、ノーザンブロット、サザーンブロット、次世代塩基配列分析(NGS)などの方法で測定できるが、これに限定されるものではない。
【0064】
また、本発明の一具体例によれば、前記遺伝子のタンパク質の発現レベルは、酵素免疫分析(enzyme-linked immunosorbent assay)、ウェスタンブロット(western blot)、放射線免疫分析(radioimmunoassay)、免疫拡散(radioimmunodiffusion)、免疫沈降(immunoprecipitation)、フローサイトメトリー(flow cytometry)免疫組織化学(immunohistochemistry)、免疫蛍光(immunofluorescnce)、タンパク質マイクロアレイなどの方法で測定できるが、これに限定されるものではない。
【0065】
このように検出または測定されたRAD21遺伝子のDNA突然変異レベルおよび/またはRNA発現レベル、HER2および/またはPDL1遺伝子またはタンパク質の発現レベル、および/または10種の遺伝子のRNA発現レベルは対照群、より具体的には、健常者の試料と遺伝子の変異レベルおよび/または発現レベルを比較分析して、HER2陽性乳癌患者の治療予後を予測することができる。
【0066】
本発明の一具体例によれば、前記対照群と比較するステップにおいて、対照群対比の被験者において下記のi)およびii)の1つ以上と下記のiii)~v)の1つ以上とを満足する場合、HER2陽性乳癌患者の治療予後が良いと判別するものであってもよい。
i)RAD21遺伝子のDNA突然変異レベルが底い;
ii)RAD21遺伝子のRNA発現レベルが底い;
iii)HER2遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルが高い;
iv)PDL1遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルが高い;および
v)ANKRD50、COX6C、DERL1、FLNB、GPRC5A、RNF139、SAMD8、SERPINE1、SQLEおよびTTC39A遺伝子からなる群より選択された1種以上のRNA発現レベルが低い。
【0067】
ここで、RAD21遺伝子のDNA突然変異レベルが低いというのは、突然変異のうちコピー数変異が6未満であるかないことを意味し、RAD21遺伝子のRNA発現レベルが低いというのは、遺伝子を暗号化するDNAで転写されたmRNA発現量が少ないことを意味し、HER2遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルが高いというのは、タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子の発現量が多いこと(具体的には、3+以上)を意味し、これはHER2遺伝子のDNA突然変異(例えば、コピー数変異)によるものであってもよく、PDL1遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルが高いというのは、タンパク質またはこれを暗号化する遺伝子を発現すること(陽性、positive)を意味し、前記10種の遺伝子のRNA発現レベルが低いというのは、各遺伝子を暗号化するDNAで転写されたmRNA発現量が少ないことを意味する。
【0068】
より具体的には、前記被験者が、対照群に比べて、RAD21遺伝子のDNA突然変異レベルおよび/またはRNA発現レベルが低くかつHER2遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルが高いか、PDL1遺伝子またはそのタンパク質の発現レベルが高いか、および/またはANKRD50、COX6C、DERL1、FLNB、GPRC5A、RNF139、SAMD8、SERPINE1、SQLEおよびTTC39A遺伝子からなる群より選択された1種以上のRNA発現レベルが低い場合には、HER2陽性早期乳癌の治療予後が良いと予測することができ、予測性能および正確度が向上できる。
【発明の効果】
【0069】
本発明では、HER2陽性乳癌治療予後予測用新規バイオマーカーを提示することにより、先行抗癌化学療法を適用可能なHER2早期陽性乳癌患者を対象に前記バイオマーカーを検出または測定できるHER2陽性乳癌治療予後予測用組成物およびキットを提供することができ、ひいては、患者の薬物治療予後を迅速かつ正確に判別して患者に合わせた治療法を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【
図1】本発明の一実施例によるHER2陽性乳癌治療予後予測用候補バイオマーカー8個(DNAマーカー;RAD21、MYC、MYCNおよびERBB2、RNAマーカー;Luminal、およびタンパク質マーカー;HR、HER2およびPDL1)に対するフィッシャーの正確検定分析(Fisher’s exact test)の結果である。
【
図2】本発明の一実施例による候補バイオマーカー8個の組み合わせに対する一般化線形模型(GLM)のLOOCV.AUC(Leave-One-Out Cross Validation Aread Under the Curve)および予測誤差(prediction error)を示すグラフである。
【
図3】本発明の一実施例によるHER2陽性乳癌治療予後予測用バイオマーカー単独(RAD21_amp)または組み合わせ(HER2+RAD21_ampおよびHER2+PDL1+RAD21_amp)に対するROC曲線(curve)を示す図である。
【
図4】本発明の一実施例によるRAD21遺伝子のコピー数変異(RAD21_amp)とRNA発現レベル(RAD21_exprs)との間の関連性に対するフィッシャーの正確検定分析(Fisher’s exact test)の結果である。
【
図5】本発明の一実施例によるDNAマーカー(RAD21_amp)、タンパク質マーカー(HER2およびPDL1)およびRNAマーカー(ANKRD50_exprs、COX6C_exprs、DERL1_exprs、FLNB_exprs、GPRC5A_exprs、RAD21_exprs、RNF139_exprs、SAMD8_exprs、SERPINE1_exprs、SQLE_exprsおよびTTC39A_exprs)の組み合わせに対する一般化線形模型(GLM)のLOOCV.AUC(Leave-One-Out Cross Validation Aread Under the Curve)および予測誤差(prediction error)を示すグラフである。
【
図6】本発明の一実施例によるHER2陽性乳癌治療予後予測用RNAマーカー単独(RAD21_exprs)またはDNAマーカー、タンパク質マーカーおよびRNAマーカーの組み合わせ(SERPINE1_exprs+HER2+PDL1+RAD21_ampおよびTTC39A_exprs+SQLE_exprs+SERPINE1_exprs+DERL1_exprs+ANKRD50_exprs+HER2+PDL1+RAD21_amp)に対するROC曲線(curve)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下、本発明をより詳細に説明する。しかし、このような説明は本発明の理解のために例示的に提示されたものに過ぎず、本発明の範囲がこのような例示的な説明によって制限されるものではない。
【実施例0072】
実施例1.HER2陽性乳癌治療予後予測用バイオマーカー候補選定
1-1.患者検体準備
2019年5月から2020年5月まで先行抗癌化学療法を受けたHER2陽性早期乳癌患者67人を募集し、そのうち65人が完治手術(curative surgery)を受けた。最後の患者が完治手術を受けた2020年10月末にデータ収集を終了した。先行抗癌化学療法はTAHP療法で、ドセタキセル(Docetaxel)、トラスツズマブ(Trastuzumab)、ペルツズマブ(Pertuzumab)およびアテゾリズマブ(Atezolizumab)を6回周期で投与した。
【0073】
67人のうちHR陽性の場合が32人であり、中位年齢(Median age)は52歳(範囲33-74歳)であった。TAHP療法前の患者生検では13人の患者(19.7%)がSP142 AbによるPDL1陽性であった。全体的に病理学的完全寛解(pCR)比率は61.2%(41/67)であり、不完全寛解(non-pCR)比率は35.8%(24/67)であった。1人の患者はTAHP療法中に再発して手術を受けられなかった。好中球減少症(Neutropenia)は13人(19.4%)から発見されたが、好中球減少性発熱(neutropenic fever)は5人(7.5%)から発見された。また、最もありふれた免疫関連毒性である発疹(rash)が43人(64.2%、Grade3の患者1人を含む)、脳炎(encephalitis)が1人(Grade3)、免疫関連肝炎が2人(Grade2およびGrade3)、肺炎が6人(Grade3またはGrade4ではない)、そして甲状腺機能障害が6人となったが、全体的に高い完全寛解比率と中間程度のひどくない毒性を示した。
【0074】
腫瘍組織は、すべての患者からTAHP療法を受ける前に(T1;n=63、pCR40人およびnon-pCR23人)、そして手術後の病理学的完全寛解が現れない患者(non-pCR)の残留腫瘍組織(T3;n=15)から収集した。収集された腫瘍組織を用いてDNAおよびRNAシーケンシングと免疫組織化学(IHC)を実施して候補バイオマーカーを選定した。
【0075】
1-2.DNAマーカー選定
腫瘍組織からDNAを抽出して、NGSによりDNAマーカーを選定した。まず、QIAamp DNA Mini Kit(Qiagen)を用いて抽出されたgenomic DNAからwhole-genome shotgun libraryを作製し、プローブハイブリダイゼーション(hybridization)後、FoundationOne○R CDx(F1CDx)パネルを用いて、Illumina○R HiSeq 4000 Systemでディープシーケンシング(deep sequencing)を進行させた。シーケンシング後には、FoundationOne CDxTM自体ソフトウェアを用いて、SNV、Indel(insertion+deletion)、CNV、融合(fusion)などのDNA変異を分析した。品質(Quality)の低い細胞は除外し、MAF(mutant allele frequency)が5%以上の変異のみ(ホットスポット突然変異(hotspot mutation)の場合、MAF1%以上)報告した。遺伝体の特徴とpCR達成との間の関連性は、突然変異(mutation)による濃縮テスト(enrichment test)に対するフィッシャーの正確検定(Fisher’s exact test)で分析した。突然変異のうちコピー数増幅(copy number amplification)は、正常配列(process-matched normal control)と比較してコピー数が6以上の場合をいう(PMA P170019:FDA Summary of Safety and Effectiveness Data参照)。p値<0.05の場合、統計的に有意なものと見なした。
【0076】
その結果、
図1を参照すれば、DNAマーカー32個のうち、RAD21コピー数増幅(n=17、p=0.0002)、MYCコピー数増幅(n=13、p=0.0095)およびMYC経路(MYC.pathway)突然変異(MYCコピー数増幅またはMYCN突然変異)(n=14、p=0.0095)が、pCRグループ(n=40)に比べてnon-pCRグループ(n=23)でより良く検出された。特に突然変異がない野生型(wild type、WT)RAD21は、他のマーカーに比べてpCR比率が78%で高い水準を示した。
【0077】
そして、HER2を暗号化するERBB2遺伝子の場合、ERBB2コピー数増幅(n=59、p=0.1338)は2つのグループ間の有意な差がないが、ERBB2およびMYCに対する同時増幅(co-amplification)は不完全寛解(non-pCR)グループ(p=0.01687)で頻度高く検出された。
【0078】
1-3.RNAマーカー選定
腫瘍組織からRNAを抽出して、NGSによりRNAマーカーを選定した。まず、RNeasy Mini Kit(QIAGEN、USA)(凍結組織用)またはPromega Relia Prep FFPE Total RNA Miniprep System kit(Promega、USA)(FFPE組織用)を用いて腫瘍組織から総RNA(total RNA)を抽出し、RNA無欠性(integrity)は2100Bioanalyzer(Agilent、USA)を用いて測定した。全体遺伝子の発現様相を分析するために全長転写体シーケンシング(whole transcriptome sequencing)を実施した。製造会社の指針に従い、RNAシーケンシングライブラリーはTruSeq RNA Access Library Prep Kit(Illumina、Inc.)を用いて作製された。そして、HiSeq 2500 Sequencing Platform(Illumina、Inc.)を用いてpaired-end sequencingを進行させてRNAライブラリーをシーケンシングリード(sequencing read)に変換し、FASTQファイルを生成した。FASTQファイルから品質の不良なreadを除去した後、STARソフトウェア(v2.5.2b)を用いてシーケンシングリードをヒト標準遺伝体(human reference genome、hg19)に整列(align)し、RSEMソフトウェア(v1.3)を用いて各遺伝子別の発現量(リードcountおよびTPM)を測定した。遺伝子の発現量資料ベースでgenefu R packageを用いて研究用PAM50 subtypeを予測した。
【0079】
その結果、
図1を参照すれば、HRであるエストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体を発現する内腔腫瘍のLuminal(PAM50 subtypeのうち、Luminal A、Luminal B subtypeに属する患者)では、pCRグループとnon-pCRグループとの間の有意な差がないが、non-Luminal(PAM50 subtypeのうち、Her2-enriched、Basal-likeおよびNormal-like subtypeに属する患者)では、non-pCRグループに比べてpCRグループで高く検出された。
【0080】
1-4.タンパク質マーカー選定
腫瘍組織でIHCを実施してタンパク質マーカーを選定した。通常の方法によって各組織から細胞表面受容体ER、PRおよびHER2とPDL1タンパク質を染色し、1人の病理科医師が一括分析した。PDL1陽性(positivity)の有無は、免疫細胞(immune cell)の免疫反応性(immunoreactivity)が癌領域で1%以上の場合、陽性(positive)と判定した。
【0081】
その結果、
図1を参照すれば、従来のHER2陽性乳癌のマーカーであるHRおよびHER2が検出され、PDL1も検出された。
【0082】
実施例2.候補バイオマーカーに対する予測モデル分析I
実施例1で選定された候補DNAマーカーRAD21、MYC、MYCNおよびERBB2、RNAマーカーLuminal、そしてタンパク質マーカーHR、HER2およびPDL1を対象に単一マーカーまたはマーカーの組み合わせに対する一般化線形模型(generalized linear model、GLM)のロジスティック回帰分析(logistic regression)を実施して予測モデルを構築した。その結果は下記表1および
図2に示した。マーカーの性能評価では、指標としてAUC(area under the curve)を用い、LOOCV(leave-one-out cross validation)方法を適用してLOOCV.AUC≧0.7でかつ正確度(accuracy)が高く、予測誤差(prediction error)が低い最小個数のマーカーを用いたモデルを選定した。
【0083】
結果として、単一マーカーとしてRAD21_ampを用いたモデルでは、従来の臨床マーカーであるHRまたはHER2モデルに比べて予測性能に優れ、RAD21_ampと共に、HER2、追加的にPDL1を含むモデルでその予測性能がさらに向上した(
図3参照)。
【表1】
【0084】
このような結果は、RAD21が先行抗癌化学療法を適用可能なHER2早期陽性乳癌患者を対象に薬物治療予後を予測するためのバイオマーカーとして活用されて、RAD21遺伝子のDNA突然変異、特にコピー数増幅がなかったり、コピー数が6未満の場合、薬物治療予後が良いと予測することができ、同時にHER2および/またはPDL1のタンパク質の発現レベルが高い場合、その予測正確度に優れていることを示唆する。
【0085】
実施例3.HER2陽性乳癌治療予後予測用RNAマーカー候補選定
実施例1と同一の患者検体および腫瘍組織を用いて、NGSにより新しいRNAマーカーを選定した。RNAシーケンシングは実施例1-3と同様の方法で行われた。
【0086】
pCRの有無による発現量に差が生じる遺伝子を選別するために、DEG分析を実施した。遺伝子発現量(TPM)をlog2に変換した後、pCRグループ対比のnon-pCRグループで統計的に有意に発現が高い遺伝子(DEG、differentially expressed gene)を選別した。t検定を用いてnon-pCRグループで統計的に有意に発現量が高く(p値<0.01)、グループ間の発現量の差が大きく(log2 fold change>0.05)、平均発現量が高い(log2TPM>3)遺伝子を選定した。計16,726個の遺伝子を分析して、前述した基準を満足する22個を候補バイオマーカーとして選定し、その結果は下記表2に示した。
【表2】
【0087】
一方、選定された候補RNAマーカーにもRAD21遺伝子が含まれていて、RAD21遺伝子に対してDNA突然変異とRNA発現との間の相関関係を分析した。
【0088】
DNAシーケンシングとRNAシーケンシングの結果がすべて確保された患者57人を対象に、RAD21遺伝子のコピー数変異の有無とRNA発現量の中位値を基準としてRNA発現レベルの差(高発現/低発現)で区分し、これらの関連性はフィッシャーの正確検定(Fisher’s exact test)で分析した(一致率77%、p値=6.843e-06)。その結果は下記表3および
図4に示した。
【表3】
結果として、RAD21遺伝子のコピー数変異を有する場合、RNAの発現レベルも高いが、RNAの発現レベルが高いからといって必ずしもコピー数変異を有してはいなかった。したがって、RAD21遺伝子のコピー数変異とRNA発現レベルとの間の関連性は統計的に有意でないため、RAD21に対するDNAマーカー(RAD21_amp)とRNAマーカー(RAD21_exprs)は個別的なマーカーとして使用可能であることを確認した。
【0089】
実施例4.候補バイオマーカーに対する予測モデル分析II
HER2陽性乳癌患者の治療予後を予測するためのモデルの性能を向上させるために、実施例2で選定されたDNAマーカーRAD21(RAD21_amp)とタンパク質マーカーHER2およびPDL1に、実施例3で選定されたRNAマーカー22個を追加して、一般化線形模型(GLM)のロジスティック回帰分析(logistic regression)を実施して新しい予測モデルを構築した。HER2+PDL1+RAD21_ampを含む患者63人のうち、DNAシーケンシングとRNAシーケンシング結果がすべて確保された患者57人を対象に分析した。DNAシーケンシング結果は突然変異の有無で、RNAシーケンシング結果は遺伝子の発現量でモデルに投入し、ロジスティック回帰分析でforward/backward stepwise selectionにより最適なマーカーの組み合わせを選定した。マーカーの性能評価では、指標としてAUCを用い、LOOCV方法を適用してLOOCV.AUC≧0.7でかつ正確度が高く、予測誤差が低い最小個数のマーカーを用いたモデルを選定した。そして、候補RNAマーカーのうち、個別マーカーとして性能がLOOCV.AUC>0.7であるか、またはDNAマーカーに個別マーカーを追加した時、AUCが0.05以上向上した遺伝子11個を最終的にRNAマーカーとして選定した。
【0090】
DNAマーカーRAD21(RAD21_amp)、タンパク質マーカーHER2およびPDL1、およびRNAマーカーANKRD50、COX6C、DERL1、FLNB、GPRC5A、RAD21(RAD21_exprs)、RNF139、SAMD8、SERPINE1、SQLEおよびTTC39Aの単独または組み合わせに対する予測モデルを下記表4および
図5に示した。
【表4A】
【表4B】
【表4C】
【0091】
その結果、DNAマーカー、タンパク質マーカーおよびRNAマーカーをすべて含むe43モデル(TTC39A_exprs+SQLE_exprs+SERPINE1_exprs+DERL1_exprs+ANKRD50_exprs+HER2+PDL1+RAD21_amp)が最も高いAUCを示し、RNAマーカーのうち、SERPINE1_exprsのみを含むe33モデル(SERPINE1_exprs+HER2+PDL1+RAD21_amp)がLOOCV.AUCを基準として最も良い性能を示した(
図6参照)。
【0092】
このような結果は、RAD21遺伝子、特にDNA突然変異の有無と共に、DNAマーカーおよびRNAマーカーを用いることにより、先行抗癌化学療法を適用可能なHER2早期陽性乳癌患者の薬物治療予後をより正確に予測できることを示唆する。
【0093】
これまで本発明についてその好ましい実施例を中心に説明した。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性を逸脱しない範囲で変形された形態で実現できることを理解するであろう。そのため、開示された実施例は限定的な観点ではなく説明的な観点で考慮されなければならない。本発明の範囲は上述した説明ではなく特許請求の範囲に示されており、それと同等範囲内にあるすべての差異は本発明に含まれていると解釈されなければならない。