(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120784
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータ
(51)【国際特許分類】
H05B 6/12 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
H05B6/12 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027842
(22)【出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】大森 英樹
(72)【発明者】
【氏名】三島 智和
(72)【発明者】
【氏名】友安 悠嘉
【テーマコード(参考)】
3K151
【Fターム(参考)】
3K151AA21
3K151AA23
3K151BA44
(57)【要約】
【課題】1石式高周波インバータに小容量のパワー半導体を補助スイッチとして付加し固定周波数動作で高周波電力制御を行い、スイッチの耐圧要求が低く、制御が簡単で、低コストの誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータを提供する。
【解決手段】電源に接続された加熱コイルL
Hと主スイッチQの直列回路、加熱コイルと主スイッチの少なくとも何れかに並列接続された共振コンデンサC
1、加熱コイル又は主スイッチに並列接続された補助スイッチQ
Sと定電圧コンデンサC
Sの直列回路、および、主スイッチと補助スイッチを駆動制御する制御回路を備える。定電圧コンデンサC
Sの容量は、共振コンデンサC
1の容量の10倍以上である。そして、制御回路は、主スイッチと補助スイッチの各導通時間の和を略一定に保ちながら交互に導通させ各導通時間を制御して電力制御を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源に接続された加熱コイルと主スイッチの直列回路、前記加熱コイルと前記主スイッチの少なくとも何れかに並列接続された共振コンデンサ、前記加熱コイル又は前記主スイッチに並列接続された補助スイッチと定電圧コンデンサの直列回路、および、前記主スイッチと前記補助スイッチを駆動制御する制御回路を備え、
前記定電圧コンデンサの容量は、前記共振コンデンサの容量の10倍以上であり、
前記制御回路は、前記主スイッチと前記補助スイッチの各導通時間の和を略一定に保ちながら交互に導通させ前記各導通時間を制御して電力制御を行うことを特徴とする誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータ。
【請求項2】
電源に接続された入力コイルと主スイッチの直列回路、前記入力コイルと前記主スイッチの少なくとも何れかに並列接続された第一の共振コンデンサ、前記入力コイル又は前記主スイッチに並列接続された補助スイッチと定電圧コンデンサの直列回路、前記入力コイル又は前記主スイッチに並列接続された加熱コイルと第二の共振コンデンサの直列回路、および、前記主スイッチと前記補助スイッチを駆動制御する制御回路を備えたことを特徴とする誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータ。
【請求項3】
前記制御回路は、前記主スイッチと前記補助スイッチの各導通時間の和を略一定に保ちながら交互に導通させ前記各導通時間を制御して電力制御を行うことを特徴とする請求項2に記載の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータ。
【請求項4】
前記定電圧コンデンサの容量は、前記第一の共振コンデンサの容量の10倍以上であることを特徴とする請求項2又は3に記載の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータ。
【請求項5】
前記加熱コイルと前記共振コンデンサの回路定数は、前記補助スイッチの導通時間が略ゼロのときに定格電力となるように設定されたことを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータ。
【請求項6】
前記加熱コイル、前記入力コイル、前記第一および第二の共振コンデンサの回路定数は、前記補助スイッチの導通時間が略ゼロのときに定格電力となるように設定されたことを特徴とする請求項2又3に記載の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータ。
【請求項7】
前記制御回路は、前記加熱コイルの立ち上がりの電圧ゼロクロス点から第一の遅延時間で前記主スイッチをターンオンさせ、前記主スイッチのターンオフから第二の遅延時間で前記補助スイッチをターンオンさせるように動作することを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータ。
【請求項8】
前記制御回路は、前記加熱コイルの立ち上がりの電圧ゼロクロス点から第一の遅延時間で前記主スイッチをターンオンさせ、前記加熱コイルの立ち下がりの電圧ゼロクロス点から第二の遅延時間で前記補助スイッチをターンオンさせるように動作することを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータ。
【請求項9】
前記制御回路は、前記入力コイルの立ち上がりの電圧ゼロクロス点から第一の遅延時間で前記主スイッチをターンオンさせ、前記主スイッチのターンオフから第二の遅延時間で前記補助スイッチをターンオンさせるように動作することを特徴とする請求項2に記載の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータ。
【請求項10】
前記制御回路は、前記入力コイルの立ち上がりの電圧ゼロクロス点から第一の遅延時間で前記主スイッチをターンオンさせ、前記入力コイルの立ち下がりの電圧ゼロクロス点から第二の遅延時間で前記補助スイッチをターンオンさせるように動作することを特徴とする請求項2に記載の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータ。
【請求項11】
前記第一の遅延時間および前記第二の遅延時間は、前記加熱コイルと前記共振コンデンサの共振周期の略4分の1であることを特徴とする請求項7又は8に記載の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータ。
【請求項12】
前記第一の遅延時間および前記第二の遅延時間は、前記入力コイルと、前記第一および第二の共振コンデンサとの直列回路との共振周期の略4分の1であることを特徴とする請求項9又は10に記載の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱(IH;Induction Heating)クッキングヒータ用高周波インバータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータは、従来、複数のパワー半導体を用いたブリッジインバータで実用化されている(例えば、非特許文献1を参照)。従来のクッキングヒータの場合、異なる周波数で動作する複数のIHデバイス(鍋など)の間には、動作周波数の偏差により可聴音(干渉音)が発生しやすい。そのため、従来のクッキングヒータでは、鍋からの騒音をなくすため可聴域以上の加熱周波数を用いている。
しかしながら、加熱周波数が変動すると、隣り合うバーナ間の加熱周波数の差が可聴域に入って騒音となる。そのため、従来からブリッジインバータの位相差制御などによって周波数が略一定(固定周波数)で電力可変制御などができる制御方式を用いてきた。
一方、固有抵抗が小さいアルミ鍋を加熱する誘導加熱クッキングヒータの場合には、加熱コイルのアンペアターン(コイル電流×コイル巻数)を大きくするために加熱コイル電圧が極めて高くなる。そのため、ブリッジインバータの電源クランプ機能でパワー半導体には高電圧が印加されないようにしていた。
【0003】
図12(1)に示すような従来のブリッジインバータは、使用するパワー半導体の素子数が多い(Q
1~Q
4)ため、大型で高価になっていた。一方、
図12(2)に示すような単一のパワー半導体で高周波電力を発生する1石式高周波インバータは、小型で安価であるが、周波数可変による電力制御しかできないために、鍋からの騒音の問題が解決できないという問題があった。また、アルミ鍋加熱対応の従来のクッキングヒータでは、パワー半導体素子に過大な電圧が印加されるために、耐圧破壊を生じるという課題があった。
【0004】
特許文献1には、照明分野の電源装置において、1石式高周波インバータを用いて、主スイッチが実質的にゼロ電圧スイッチングを行う所定の周波数で主スイッチを制御すると共に、そのオンデューティを変化させてインバータの出力を調整して調光する回路が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、固定周波数動作の1石式高周波インバータの制御回路が開示されている。特許文献2の1石式高周波インバータでは、インバータ回路の動作周期に対するパワー半導体の主スイッチのオン時間の比である導通比を変化させ、主スイッチのオフ期間に補助スイッチを投入して、加熱コイルと並列接続されている第一共振コンデンサと併用して共振特性インピーダンスを下げ、加熱コイルへの共振電流実効値を増幅させることにより電力制御を行っている。
しかしながら、主スイッチ(第一スイッチング素子)の電圧波形(特許文献2の
図2のV
ce1)には、T
on2の期間に共振の影響を受けて上に膨らんだ弧が描かれているとおり、補助スイッチ(第二スイッチング素子)と直列接続されるコンデンサ(第二共振コンデンサ)は、インバータの動作周波数に対し加熱コイルとの共振動作が認められる大きさである。つまり、補助スイッチ(第二スイッチング素子)と直列接続されるコンデンサ(第二共振コンデンサ)は、加熱コイルと並列接続されている第一共振コンデンサと同じオーダの容量であり、少なくとも主スイッチのクランプ効果は弱いといった問題がある。加熱コイルとの共振動作があると、主スイッチの耐圧を高くする必要があり、高価なパワー半導体素子を用いる必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-147776号公報
【特許文献2】特開平9-245953号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H. Shoji et al., " Buck-Boost-Full-Bridge Inverter forAll-Metals Induction Heating Cookers″,IEEJ Journal of IA, Vol.5 No.4.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の如く、特許文献4の1石式高周波インバータでは、インバータ回路の動作周期に対するパワー半導体の主スイッチのオン時間の比である導通比を変化させることで電力制御を行っているが、かかる電力制御を簡易化し、また、加熱コイルとの共振動作を無くして上記のような共振電流実効値を増幅の効果をなくし、主スイッチのオフ電圧(耐圧)を下げて、主スイッチの耐圧要求を低くして、更なる低コスト化を図る必要がある。
また、アルミ鍋加熱対応の従来のクッキングヒータでは、パワー半導体素子に過大な電圧が印加されるために耐圧破壊を生じることから、加熱コイルの高電圧がパワー半導体に印加されないようにする必要がある。
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明は、1石式高周波インバータに小容量のパワー半導体を補助スイッチとして付加し固定周波数動作で高周波電力制御を行い、スイッチの耐圧要求が低く、制御が簡単で、低コストの誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータを提供することを目的とする。
また、本発明は、加熱コイルの高電圧がパワー半導体に印加されない誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明の第1観点の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータは、電源に接続された加熱コイルと主スイッチの直列回路、加熱コイルと主スイッチの少なくとも何れかに並列接続された共振コンデンサ、加熱コイル又は主スイッチに並列接続された補助スイッチと定電圧コンデンサの直列回路、および、主スイッチと補助スイッチを駆動制御する制御回路を備える。定電圧コンデンサの容量は、共振コンデンサの容量の10倍以上である。そして、制御回路は、主スイッチと補助スイッチの各導通時間の和を略一定に保ちながら交互に導通させ各導通時間を制御して電力制御を行う。
【0011】
上記構成によれば、直列接続された加熱コイルと主スイッチ(1石式高周波インバータ)に対して、補助スイッチ(小容量のパワー半導体)と定電圧コンデンサの直列回路を、加熱コイル又は主スイッチに並列接続し、さらに共振コンデンサを加熱コイルと主スイッチの少なくとも何れかに並列接続して、主スイッチと補助スイッチを駆動し固定周波数動作で高周波電力制御を行う。定電圧コンデンサの容量は、補助スイッチのオン動作期間における主スイッチに印加される電圧が略一定になる容量、すなわち、共振コンデンサの容量の10倍以上とすることで、主スイッチに要求される耐圧を低くでき、低コストのパワー半導体素子を用いることができる。
また、主スイッチと補助スイッチの各導通時間の和を略一定に保ちながら交互に導通させ各導通時間を制御して電力制御を行うことから、制御回路が簡単になり、低コストで回路構成を構築できる。従来のブリッジインバータより大幅に少ないパワー半導体で、誘導加熱クッキングヒータに必要な略一定加熱周波数の電力制御を可能にできるので極めて小型で安価な誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータを得ることができる。なお、具体的な高周波インバータの回路構成については後述する。
【0012】
ここで、加熱コイルと共振コンデンサの回路定数は、補助スイッチの導通時間が略ゼロのときに定格電力となるように設定されたことが好ましい。これにより、定格電力動作のときに補助スイッチに流れる無効電流を略ゼロにし、定格運転時の回路損失を低減する。
【0013】
制御回路は、加熱コイルの立ち上がりの電圧ゼロクロス点から第一の遅延時間で主スイッチをターンオンさせ、主スイッチのターンオフから第二の遅延時間で補助スイッチをターンオンさせるように動作することが好ましい。主スイッチを加熱コイルの電圧ゼロクロス点から一定遅延でターンオンさせ、補助スイッチを主スイッチのターンオフから一定遅延でターンオンさせることで、ZVS(ゼロ電圧スイッチング)により低損失で動作させることができる。
或いは、制御回路は、加熱コイルの立ち上がりの電圧ゼロクロス点から第一の遅延時間で主スイッチをターンオンさせ、加熱コイルの立ち下がりの電圧ゼロクロス点から第二の遅延時間で補助スイッチをターンオンさせるように動作することが好ましい。主スイッチを加熱コイルの電圧ゼロクロス点から一定遅延でターンオンさせ、補助スイッチを主スイッチのターンオフから一定遅延でターンオンさせることで、さらに安定なZVSにより低損失で動作させることができる。
【0014】
ここで、第一の遅延時間および第二の遅延時間は、加熱コイルと共振コンデンサの共振周期の略4分の1であることで、負荷変動などがあってもZVSを確実に行うことができ低損失で動作させることができる。
【0015】
次に、本発明の第2観点の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータは、電源に接続された入力コイルと主スイッチの直列回路、入力コイルと主スイッチの少なくとも何れかに並列接続された第一の共振コンデンサ、入力コイル又は主スイッチに並列接続された補助スイッチと定電圧コンデンサの直列回路、入力コイル又は主スイッチに並列接続された加熱コイルと第二の共振コンデンサの直列回路、および、主スイッチと補助スイッチを駆動制御する制御回路を備える。
【0016】
上記構成によれば、直列接続された入力コイルと主スイッチ(1石式高周波インバータ)に対して、補助スイッチ(小容量のパワー半導体)と定電圧コンデンサの直列回路を、入力コイル又は主スイッチに並列接続し、さらに第一の共振コンデンサを入力コイルと主スイッチの少なくとも何れかに並列接続し、加熱コイルと第二の共振コンデンサの直列回路を入力コイル又は主スイッチに並列接続して、主スイッチと補助スイッチを駆動し固定周波数動作で高周波電力制御を行う。
1石式高周波インバータに補助スイッチとして小容量のパワー半導体を付加して制御性を向上させたインバータに、共振回路を1つ追加することによって、加熱コイルの高電圧がパワー半導体に印加されないようにする。
【0017】
また、主スイッチ(パワー半導体素子)の電圧を励振源とした第二の共振コンデンサC2と加熱コイルLHの直列共振によって、主スイッチの電圧より数倍~数10倍高い電圧を加熱コイルに印加でき、主スイッチに高耐圧のパワー半導体素子を用いなくても、アルミ鍋のような軽負荷(固定抵抗が小さい)鍋をハイパワーで加熱することができる。すなわち、低いパワー半導体素子電圧で、高い加熱コイル電圧を発生させている。アルミ鍋対応クッキングヒータにおいて問題となるパワー半導体耐圧の問題を解決し、極めて小型で安価なアルミ鍋誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータを得ることができる。なお、具体的な高周波インバータの回路構成については後述する。
【0018】
本発明の第2観点の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータにおいて、制御回路は、主スイッチと補助スイッチの各導通時間の和を略一定に保ちながら交互に導通させ各導通時間を制御して電力制御を行うことが好ましい。
主スイッチと補助スイッチの各導通時間の和を略一定に保ちながら各導通時間を制御する方が、固定周波数になるように主スイッチと補助スイッチの導通比を制御するよりも、制御が簡単であり、制御回路を簡単化でき、低コスト化が図れる。
【0019】
本発明の第2観点の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータにおいて、定電圧コンデンサの容量は、第一の共振コンデンサの容量の10倍以上であることが好ましい。
この場合、主スイッチに要求される耐圧を低くでき、低コストのパワー半導体素子を用いることができる。
【0020】
ここで、加熱コイル、入力コイル、第一および第二の共振コンデンサの回路定数は、補助スイッチの導通時間が略ゼロのときに定格電力となるように設定されたことが好ましい。これにより、定格電力動作のときに補助スイッチに流れる無効電流を略ゼロにし、定格運転時の回路損失を低減する。また、上記設計基準による回路定数により、定格動作時の加熱効率を最大にすることができる。
【0021】
制御回路は、入力コイルの立ち上がりの電圧ゼロクロス点から第一の遅延時間で主スイッチをターンオンさせ、主スイッチのターンオフから第二の遅延時間で補助スイッチをターンオンさせるように動作することが好ましい。
或いは、制御回路は、入力コイルの立ち上がりの電圧ゼロクロス点から第一の遅延時間で主スイッチをターンオンさせ、入力コイルの立ち下がりの電圧ゼロクロス点から第二の遅延時間で補助スイッチをターンオンさせるように動作することが好ましい。
ZVSにより低損失で動作させることができる。
【0022】
ここで、第一の遅延時間および第二の遅延時間は、入力コイルと、第一および第二の共振コンデンサの直列回路との共振周期の略4分の1であることで、負荷変動などがあってもZVSを確実に行うことができ低損失で動作させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の第1観点の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータによれば、固定周波数動作で高周波電力制御を行うことができ、スイッチの耐圧要求が低く、制御が簡単で低コスト化が図れるといった効果がある。
【0024】
また、本発明の第2観点の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータによれば、固定周波数動作で高周波電力制御を行うことができ、主スイッチに高耐圧のパワー半導体素子を用いなくても、アルミ鍋のような軽負荷の鍋をハイパワーで加熱でき、加熱コイルの高電圧がパワー半導体素子に印加されないといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】半共振タイプの高周波インバータ(第1観点)の回路構成図
【
図2】半共振タイプの高周波インバータ(第1観点)のモードの説明図
【
図3】半共振タイプの高周波インバータ(第1観点)の6つの動作モードの説明図
【
図4】半共振タイプの高周波インバータ(第1観点)の動作波形と動作特性の説明図
【
図5】半共振タイプの高周波インバータ(第1観点)の動作の遅延時間の説明図
【
図6】半共振タイプの高周波インバータ(第1観点)の制御回路の一例
【
図7】半共振タイプの高周波インバータ(第1観点)の回路構成例(6回路)
【
図8】全共振タイプの高周波インバータ(第2観点)の回路構成の説明図
【
図9】全共振タイプの高周波インバータ(第2観点)の動作特性の説明図
【
図10】全共振タイプの高周波インバータ(第2観点)の回路構成例1(6回路)
【
図11】全共振タイプの高周波インバータ(第2観点)の回路構成例2(6回路)
【
図12】従来のブリッジインバータと1石式高周波インバータの回路構成図
【
図13】従来の1石式高周波インバータの回路説明図
【
図14】従来の1石式高周波インバータの動作モードの説明図
【
図15】従来の1石式高周波インバータの動作波形と動作特性の説明図
【
図16】従来の1石式高周波インバータにおける固定周波数制御の説明図
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、
図13~
図16を参照して、従来の1石式高周波インバータの動作モード、動作波形、動作特性、固定周波数制御について説明する。
図13に示す従来の1石式高周波インバータの回路において、Eは直流電圧、L
Hは加熱コイル、C
1は共振コンデンサ、Qはスイッチング素子である。ここで、直流電圧Eは、図示しない交流電源(商用電源)、整流器、平滑回路により得られる直流電圧である。スイッチング素子Qは、例えば、還流用ダイオード付のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFETが用いられる。誘導加熱クッキングヒータでは、加熱コイルL
Hから発生する高周波磁界が、負荷である金属を通過すると、鍋底に渦電流が誘導され、金属に流れる電流によるジュール熱で鍋が自己発熱する。
【0027】
従来の1石式高周波インバータの動作モードは、
図14(1)(2)に示すとおり、2つの動作モードがある。
図14(1)に示すモード1では、スイッチング素子Qがオン動作中であり、加熱コイルL
Hに直流電圧Eが印加され、i
LHとi
Qが増大する。一方、
図14(2)に示すモード2では、スイッチング素子Qがオフ期間中で、このオフ期間中に加熱コイルL
Hに蓄積されたエネルギーにより、共振コンデンサC
1とのLC共振回路で共振状態になる。加熱コイルL
Hの電圧が再び直流電圧Eに達したときに、V
Q<0になろうとするため、スイッチング素子Qの還流用ダイオードが導通し、スイッチング素子Qはオン状態に戻ることになる。
【0028】
図15(1)(2)は、それぞれ従来の1石式高周波インバータの動作波形と動作特性を示している。
図15(1)に示す動作波形では、スイッチング素子Qのオン動作期間(T
ON)とオフ動作期間(T
OFF)が交互に繰り返す際におけるスイッチング素子Qを流れる電流i
Q、電圧v
Q、加熱コイルL
Hを流れるi
LH、共振コンデンサC
1の電圧v
C1の動作波形を示している。スイッチング素子Qのオン動作期間(T
ON)を可変にし、加熱コイルL
Hの出力電力を広範囲に可変にすることができるが、
図15(2)の動作特性に示すように、スイッチング素子Qのオン動作期間(T
ON)とオフ動作期間(T
OFF)の繰り返し周期f(=1/T,T=T
ON+T
OFF)は、T
ONの変動に伴い、周期fも変動する。すなわち出力電力を変化させるためには、周波数の変動は避けられない。
【0029】
図16を参照して、従来の1石式高周波インバータにおける固定周波数制御の問題について説明する。
図16(1)は、スイッチング素子Qの正常なスイッチングにおける電圧v
Qと電流i
Qの動作波形を示している。スイッチング素子Qのターンオンが、v
Qがゼロ電圧のときに行われており(ゼロ電圧スイッチング)、ターンオン損失は発生していない。スイッチング素子Qの損失は、ターンオフ損失と、オン電圧によるオン損失のみである。なお、ターンオフ損失は、v
QがLCの共振電圧で非常に緩やかに立ち上がるため小さい。ここで、固定周波数で制御を行う場合には、
図16(1)に示すT
0(=T
OFF+T
ON)が一定になるようにしなければならない。さらに、加熱コイルの出力電力を変化させるためには、T
ONを変動する必要がある。
【0030】
例えば、固定周波数T
0で、加熱コイルの出力電力を増やすべく、T
ONを長くした場合には、
図16(2)に示すように、v
Qがゼロ電圧ではないときにスイッチングが行われ、ターンオン損失が発生する。また、固定周波数T
0で、加熱コイルの出力電力を下げるべく、T
ONを短くした場合には、
図16(3)のとおり、v
Qがゼロ電圧ではないところにあるため、ターンオン時に共振コンデンサC
1の短絡電流が流れてターンオン損失が発生する。このように、従来の1石式高周波インバータで固定周波数制御を行う場合には、過大なスイッチング損失の発生、安全動作領域(Safe Operation Area)外での使用によるスイッチング素子の破壊、ノイズの増大を招くことになる。
【0031】
以下に説明する本発明の誘導加熱クッキングヒータ用高周波インバータでは、スイッチング損失が少なく、固定周波数動作かつ主スイッチのオン時比率制御(パルス幅変調:PWM)で、高周波電力制御を行うことができるものである。以下では、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例0032】
本発明の第1観点の高周波インバータの一実施形態について、
図1~
図6を参照して説明する。以下では、本発明の第1観点の高周波インバータを、半共振タイプと呼ぶ。
図1は、半共振タイプの高周波インバータ(第1観点)の回路構成図を示している。半共振タイプの高周波インバータは、電源E(6)に接続された加熱コイルL
H(5)主スイッチQ(1)の直列回路、加熱コイルL
H(5)に並列接続された共振コンデンサC
1(4)、加熱コイルL
H(5)に並列接続された補助スイッチQ
s(2)と定電圧コンデンサC
s(3)の直列回路、および、主スイッチQ(1)と補助スイッチQ
s(2)を駆動制御する制御回路(図示しない)から構成されている。ここで、定電圧コンデンサC
sの容量は、共振コンデンサC
1の容量の10倍以上であり、制御回路は、主スイッチQと補助スイッチQ
sの各導通時間の和を略一定に保ちながら交互に導通させ各導通時間を制御して電力制御を行う。
【0033】
半共振タイプの高周波インバータでは、主スイッチQと補助スイッチQ
sのオン/オフの動作によって、
図2(1)~(3)に示すような3つのモードが存在し、さらに、電流の導通方向の正・逆を含めると6つのモードが存在する。以下では、
図3を参照して、この半共振タイプの高周波インバータの6つのモードについて1周期の動作遷移を説明する。なお、ここでは加熱コイルを含むIH負荷を、磁気結合を含む誘導性負荷(C
o-L
o)として表し、負荷に与える電力指令値に応じて、主スイッチQの導通時間=T
on1を調整すると同時に、補助スイッチQsの導通時間=T
on2を、T
on1+T
on2が略一定になるように調整して略固定周波数で動作させる。
【0034】
[Mode1:電流供給モード](t0≦t<t1)
主スイッチQがオン、補助スイッチQsがオフになっているため、加熱コイルLHに直流電圧が印加され、LHに流れる電流iLHは直線的に増加する。このモードでは主スイッチQの電流iQは加熱コイルLHの電流iLHと等しいため、主スイッチQの電流も直線的に増加する。また、主スイッチQのオン時間を延ばすとiQは直線的に増加するため、下記(1)式より、iQが増加すると入力電力Pinが増加する。すなわち、主スイッチQのオン時間を変え入力電流を変化させることにより、入力電力Pinを制御することができる。
【0035】
【0036】
[Mode2:部分共振モード](t1≦t<t2)
主スイッチQをターンオフ動作する。このモードでは、主スイッチQ,補助スイッチQs共にオフの状態である。加熱コイルLHの電流は、共振キャパシタC1に流れ込みLH-C1の共振状態となる。このとき、共振キャパシタC1の電圧vC1は共振する。一方、主スイッチQの電圧vQは電源電圧EとC1の電圧vC1の差であることから、緩やかに立ち上がることになる。
【0037】
[Mode3:主スイッチ電圧vQクランプモード](t2≦t<t3)
共振キャパシタC1の電圧vC1が、クランプ用キャパシタである定電圧コンデンサCSの電圧vCSに到達すると、補助スイッチQSの逆並列ダイオードが導通し、vC1はVCSにクランプされる。その結果、加熱コイルLHには定電圧コンデンサCSの一定電圧VCSが印加されるため、補助スイッチQSの電流iQSは直線的に増加することになる。
【0038】
[Mode4:主スイッチ電圧vQクランプモード](t3≦t<t4)
補助スイッチQSの逆並列ダイオードが導通する間に補助スイッチQSのゲートに駆動信号を与えると、補助スイッチQSのZVSターンオンを得る。
【0039】
[Mode5:部分共振モード](t4≦t<t5)
時刻t4にて補助スイッチQSのゲートに付加した駆動信号を取り除くと、上述のMode2と同様にLH-C1の共振が開始する。
【0040】
[Mode6:電流供給モード](t5≦t<t6)
共振により主スイッチQの電圧vQが再びゼロに達すると、主スイッチQの逆並列ダイオードが導通し、Mode1に再び戻り発振が継続する。
【0041】
ここで、Mode1,6の場合における電圧、電流を以下に示す。ただし、iL0(0)=I0とする。なお、以下の式2~16において、LO、ROは、加熱コイルLHのLR等価並列回路定数であり、LOは等価インダクタンス、ROは等価抵抗である。
【0042】
【0043】
Mode2,5の場合における電圧、電流を以下に示す。ただし、iL0(0)=IP、およびvc1(0)=Eとする。また、角周波数ω0=1/√LHC1,時定数τ=2R0C1とそれぞれ定義する。
【0044】
【0045】
Mode3,4の場合における電圧、電流を以下に示す。ただし、高周波領域ではdVCS/dt=0とする。
【0046】
【0047】
次に、半共振タイプの高周波インバータの動作波形と動作特性について、
図4を参照して説明する。
図4(1)は、半共振タイプの高周波インバータの動作波形を示し、
図4(2)は動作特性を示す。
図4(1)の動作波形においてt
0~t
6で分けられている期間が、
図3のモード1~6に相当する。
図4(1)のQ、Q
Sは主スイッチ、補助スイッチのゲート信号である。主スイッチは主スイッチ電圧V
Qが共振で零に達して逆並列ダイオードが自動的に導通した後、主スイッチ電流I
Qが負から正に反転する時刻t
0までの間にターンオンさせる。そのための安定な制御として加熱コイル電圧V
LHの立ち上がりのゼロクロス点に同期し、ゼロクロス点より第1の遅延時間でターンオンさせるべくゲート信号を加える。補助スイッチは、補助スイッチ電圧V
Qsが共振で零に達して逆並列ダイオードが自動的に導通した時刻t
2の後、補助スイッチ電流I
Qsが負から正に反転する時刻t
3までの間にターンオンさせる。そのための安定な制御として主スイッチのターンオフに同期し、前記ターンオフより第2の遅延時間でターンオンさせるべくゲート信号を加える。あるいは、加熱コイル電圧V
LHの立ち下がりのゼロクロス点に同期し、ゼロクロス点より第2の遅延時間でターンオンさせるべくゲート信号を加える。主スイッチと補助スイッチの導通時間の和を略一定に保つように制御すると、それ以外の期間であるモード2およびモード5の時間は、共振電圧の一部であるが、誘導加熱クッキングヒータではそれほど大きな負荷変動がないので、
図4(2)のように動作周期Tを略一定、すなわち動作周波数f(=1/T)を略一定にして電力Pの可変制御を行うことができる。
主スイッチ電圧V
Qをみると時刻t
2~t
4のモード3,4では、
図3よりわかるように加熱コイル電圧V
LH=定電圧コンデンサV
CSとなるので主スイッチ電圧V
Q=E+V
CSとなる。ここでC
sとして共振コンデンサC
1より10倍以上の十分大きな値を選定すると、
図4(1)のV
Qに示すように共振の弧が発生することなく略一定の値に収まるので、主スイッチQに印加される電圧を抑制することができる。
【0048】
半共振タイプの高周波インバータの主スイッチのオン動作の遅延時間、補助スイッチのオン動作の遅延時間について、
図5を参照して説明する。
図5のV
sは、加熱コイルの立ち上がりのゼロクロス点に同期して発振している「のこぎり波信号」である。加熱コイルの立ち上がりのゼロクロス点は、
図5のように主スイッチ電圧V
Qとで電源電圧Eのクロス点を検出してもよい。このゼロクロス点において、のこぎり波信号は、
図5のように反転動作を行う。のこぎり波信号の下限の反転は、所定の固定された設計値とする。ここで、のこぎり波信号はインバータの共振に同期して発振するが、これに対して
図5のように3つのしきい値V
1、V
2、V
3を設ける。しきい値V
1よりも、のこぎり波電圧V
sが低い期間を、VgがHiとなるようにすれば、このゼロクロス点より第1の遅延時間だけ遅れてターンオンし、V
1とのこぎり波電圧V
sとで決まる導通時間T
on1を過ぎるとターンオフする。V
1より所定の電圧だけ高いしきい値V
2を設けて、ここで補助スイッチのゲートをHiにする、すなわち補助スイッチをターンオフすると、主スイッチのターンオフより第2の遅延時間だけ遅れて補助スイッチをターンオンできる。さらに固定されたしきい値V
3を設けて、
図5のようにこれと、のこぎり波のクロス点で補助スイッチをターンオフする。ここでV
1を可変、V
2はV
1より所定の値だけ高い電圧で追従、V
3は固定値とすると、のこぎり波との関係から容易にわかるように、T
on1+T
on2を略一定に保ちながらT
on1を可変とすることができるから、電力を制御することができ、動作周波数も略一定に保つことができる。
【0049】
図6は、半共振タイプの高周波インバータの制御回路の一例を示している。
図6は、
図5の動作を原理的に示したブロック図で、インバータの主スイッチ電圧と電源電圧より加熱コイルのゼロクロス点を検出し、同期した遅延を介してT
on1の主スイッチゲート信号Vgを得る。さらに主スイッチのターンオフに同期した遅延を介してT
on2の補助スイッチゲート信号Vgsを得る。
図4の動作を行う制御構成を用いればT
on1+T
on2を略一定に保つことができる。この制御回路は、シュミットトリガ回路などを用いて容易に構成でき、4つ入りコンパレータIC、1つで構成することができるなど、従来に比して極めてシンプルで安価に構成することできる。
【0050】
(半共振タイプの高周波インバータの派生回路)
半共振タイプの高周波インバータは、
図7に示すとおり回路構成としては6通り存在する。上述した本実施例のインバータは、
図7における(a-1)の回路である。また、この6通り全てについて、主スイッチと補助スイッチにおいて、逆阻止デバイスを用いることでもよい。
6通りの回路構成全てが、電源Eに接続された加熱コイルL
Hと主スイッチQの直列回路であり、その内、(a-1)~(a-3)は、補助スイッチQ
Sと定電圧コンデンサC
Sの直列回路が加熱コイルL
Hに並列接続されており、(b-1)~(b-3)は、補助スイッチQ
Sと定電圧コンデンサC
Sの直列回路が主スイッチQに並列接続されている。共振コンデンサC
1が、加熱コイルL
H、主スイッチQ、又は、加熱コイルL
Hと主スイッチQの何れに並列接続されるかによって回路が異なっている。
何れの回路であっても、定電圧コンデンサC
Sの容量は、共振コンデンサC
1の容量の10倍以上であり、制御回路が主スイッチと補助スイッチの各導通時間の和を略一定に保ちながら交互に導通させ各導通時間を制御して電力制御する。