(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120799
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】メタバースを通じたカーペット体験システム
(51)【国際特許分類】
G06T 19/00 20110101AFI20240829BHJP
【FI】
G06T19/00 300A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027859
(22)【出願日】2023-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】301029252
【氏名又は名称】日本絨氈株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173277
【弁理士】
【氏名又は名称】紀田 馨
(72)【発明者】
【氏名】池崎 博之
【テーマコード(参考)】
5B050
【Fターム(参考)】
5B050AA10
5B050BA09
5B050CA07
5B050CA08
5B050EA09
5B050EA27
5B050FA05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】カーペットの感触の違いを操作者に与えることで、これまで再現できなかったカーペットのもつ特性に関する情報をも再現し、ユーザが望むカーペットを選択する際に参照できる情報を増大させるカーペット販売支援システムを提供する。
【解決手段】操作者を表現したアバターと、カーペットのパイルの材質、パイルの長さ及びパイルの太さの3種類の情報を保持したカーペットデータベースと、をそなえたカーペット販売支援システムであって、メタバースにおいて、あるカーペットが敷かれた領域上にアバターが存在する際、パイルの材質、パイルの長さ及びパイルの太さからなる群から任意の1または3つをパラメータとして、当該アバターの移動速度を変化させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作者を表現したアバターと、
カーペットのパイルの材質、パイルの長さ、パイルの太さの3種類の情報を保持したカーペットデータベース、
をそなえたカーペット販売支援システムであって、
メタバースにおいて、あるカーペットが敷かれた領域上にアバターが存在する際、パイルの材質、上記パイルの長さ、上記パイルの太さからなる群から任意の1または3つをパラメータとして、当該アバターの移動速度を変化させることを特徴とするカーペット販売支援システム。
【請求項2】
また、操作者を表現したアバターと、
カーペットのパイルの材質、パイルの長さ、パイルの太さの3種類の情報を保持したカーペットデータベース、
をそなえたカーペット販売支援システムであって、
メタバースにおいて、あるカーペットが敷かれた領域上からアバターを移動させる際に、上記パイルの材質、上記パイルの長さ、上記パイルの太さからなる群から任意の1または3つをパラメータとして、操作者に与える振動の強さ、または持続時間を変化させることを特徴とするカーペット販売支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インテリア提案システムに関し、特に、当該インテリアの利用者に適したインテリア素材をメタバース上において提案可能なシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
タイルカーペットとは、通常のカーペットよりも小さい、正方形や矩形のカーペットである。必要面積分だけ敷き詰めて用いられる点に最大の特徴がある。通常のカーペットは、設置される施設の大きさにあわせたサイズが必要となり、受注後生産となるビジネスモデルも多用される。
【0003】
だが、タイルカーペットは、大量生産した同一サイズのタイルカーペットを敷き詰める枚数を変化させることで施工現場のあらゆるサイズに対応可能であり、コスト面で有利である。
【0004】
タイルカーペットは主にオフィスで利用されてきたが、近年ではフローリングの床材を用いた際にハウスダストが減少すること、利用者の膝や腰への衝撃が緩和されるといったメリットが知られつつあり、家庭用にも用いられつつある。
【0005】
ところで、あたかも実際に眼前に光景が広がるかのように体感できる仮想現実、Virtual Reality(以下、VRという。)を実現したシステムの普及が始まりつつある。VRは、ディスプレイや紙に表示された写真、映像とは大きく異なる経験を与えることができるため、様々な用途で開発が行われている。
【0006】
特許文献1には、インテリア部材を提案する際に、実際にインテリア部材を配置する自宅やオフィス等の写真をショールームに持ち込む事で、自宅等の環境をVRシステムにおいて再現し、当該再現された自身の環境において様々な床材素材をあてはめ、当該環境が床材素材によってどのような外観、雰囲気となるかを実際に目の当たりにした状態で試す事が可能なシステムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の発明では、自宅等の環境に適したカーペットを選択するにあたって、自宅の情報をVRシステムにおいて再現し、当該再現した環境にて所望のカーペットを選択するものであった。
【0009】
様々な種類のカーペットが開発されており、色、パイルの長さ、パイルの打ち込み方、パイルの糸質、パイルの太さ、などを組み合わせることで、カーペット表面のデザインをおこなっている。これら、パイルの材質、長さ、太さによって見た目に変化をつけているのだが、足で踏むことによっても、その違いを感じることができる。
【0010】
従来のシステムでは、カーペット表面をデジタル的に表した映像、画像として表示することはできていたが、カーペットのもつ触感に根ざす特徴、違いを十分伝えることができていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明では、
操作者を表現したアバターと、
カーペットのパイルの材質、パイルの長さ、パイルの太さの3種類の情報を保持したカーペットデータベース、
をそなえたカーペット再現システムであって、
メタバースにおいて、あるカーペットが敷かれた領域上にアバターが存在する際、当該アバターの移動速度を上記パイルの材質、上記パイルの長さ、上記パイルの太さからなる群から任意の1または3つをパラメータとして変化させることを特徴とするカーペット再現システムを提供する。
【0012】
また、操作者を表現したアバターと、
カーペットのパイルの材質、パイルの長さ、パイルの太さの3種類の情報を保持したカーペットデータベース、
をそなえたカーペット再現システムであって、
メタバースにおいて、あるカーペットが敷かれた領域上からアバターを移動させる際に、上記パイルの材質、上記パイルの長さ、上記パイルの太さからなる群から任意の1または3つをパラメータとして、操作者に与える振動の強さ、または持続時間を変化させることを特徴とするカーペット再現システムを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のカーペット再現システムでは、カーペットの感触の違いを操作者に与えることで、これまで再現できなかったカーペットのもつ特性に関する情報をも再現し、ユーザが望むカーペットを選択する際に参照できる情報を増大させる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。本発明のカーペット販売支援システム1は、好ましくは、VR装置を通じて提供される高さ、たて、よこの3軸と時間を再現したメタバースにおける仮想空間において、カーペットを表示させることで、ユーザのカーペット選択を支援するものである。
【0016】
図1に示すとおり、カーペット販売支援システム1は、インターネット1000 により互いに接続されたサーバ2とクライアント端末3で構成されている。サーバ2とクライアント端末3はそれぞれ複数の機器により提供されている。インターネット1000ではなく、イントラネット等の閉じたネットワークによって接続されていてもよい。ネットワーク接続をもたないシステムであってもよく、その場合は、サーバ2とクライアント端末3の機能を単独の機器により実現していてもよい。
【0017】
カーペット販売支援システム1の動作の概要を説明すると、サーバ2が管理しているカーペット3に関するデータを含む仮想空間4を構築するのに要するデータをクライアント端末3へ送信・表示する。ユーザ5は、クライアント端末3を通じて仮想空間4に構築された自身のアバター51を操作することや、カーペット3の購入を行うというものである。
【0018】
サーバ2は、CPU、RAM、HDDやSDDなどのストレージ、ネットワークカード、電源などから構成されたハードウェアである。当該ハードウェア上にて実行されるソフトウェアと協働することによって仮想空間を構築し、当該仮想空間とクライアント端末3の通信等を実現している。
【0019】
サーバ2自身の制御を可能とするためのキーボードやマウス、トラックパッドなどのポインティングデバイス、サーバ2自身の情報を表示するためのディスプレイ等を備えても良い。
【0020】
クライアント端末3は、パーソナルコンピュータ、タブレット型パーソナルコンピュータ、スマートフォン、VRゴーグルなどであり、より具体的にはCPU、RAM、HDDやSDDなどのストレージ、ネットワークカード、電源、ディスプレイ、スピーカー、センシング手段、各種ボタンなどから構成されたハードウェアである。当該ハードウェア上で実行されるソフトウェアと協働することで、仮想空間4へのアクセス、仮想空間上に構築されたアバター51の操作などを実現している。
【0021】
仮想空間4は、現実世界をコンピュータグラフィックで再現したものであり、部屋、家具、照明、壁紙など再現されている。それとともに、床には、床材が再現されている。床材としては、タイルカーペット411や塩化ビニル製の床タイル等である。また、仮想空間4には、アバター51が構成されており、当該アバター51がユーザ5の仮想空間内における自身を表すものとなる。現実世界を仮想空間4として再現することは公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0022】
タイルカーペット411は、パイルの長さ、パイルの材質、パイルの太さや表面の模様等のデザインの違いによって複数種類用意されている。前記複数のタイルカーペット411のそれぞれについてパイルの長さ、パイルの太さ、パイルの材質のデータが与えられている。
【0023】
パイルとは、タイルカーペットの表面に植え付けられた毛である。その長さが長ければ長いほど、踏み込んだ際に足が沈む度合いが大きくなる。パイルが短くなれば、足が沈む度合いは減少する。
【0024】
パイルの太さが太くなれば、足が沈む速度が低下したように感じられる。物理的には、パイルが太い方が、加えられた力に対して抵抗する力が大きくなるためと説明できるが、実際のところはほとんど変化がない。しかし、感覚としては、足の沈み方に変化があるように感じられることが、発明者らの実験により判明している。逆にパイルが細くなれば、足が沈む速度が増加する。
【0025】
パイルは、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、アクリル、レーヨン、ビスコース、塩化ビニル等で作成されている。ナイロンは手触りが硬い、アクリルは軽く柔らかい、レーヨンやビスコースは、シルクに似たかのような肌触りといった特徴がある。踏み込んだ際の感触としても、ふんわり柔らかいタッチとなるアクリルと比べて、ナイロンでは少し硬さを感じることがあるとされる。
【0026】
足の沈む度合いは、現実には沈み方に違いはない。しかし、人間の足は敏感であり、わずかな違いであっても感じるとることができる。この違いを、仮想空間4において直接感じさせることは、足用の仮想空間4への没入のための機器が広く普及しておらず、現在の技術では困難である。そのため、従来はこの違いを全く表現してこなかったが、タイルカーペット411の性能、特徴を実感する上では重要な情報である。そこで、本発明では、この違いを別の感覚、別の要素における違いに置き換えて表現する。
【0027】
仮想空間4において、様々な種類の仮想的なタイルカーペット411が敷き詰められている。その様子を見て、購入するタイルカーペット411を選択する際の参考とするためである。タイルカーペット411は見るだけではなく、その上をアバター51が移動することができる。なお、アバターとは、仮想空間においてユーザを代表するものであり、周知であるため説明は省略する。アバター51の操作はクライアント端末3のボタンやセンシング手段を通じて得たユーザ5の体の動き等で行う。こういった手法も公知であるため、説明は省略する。
【0028】
本発明の特徴の1つはアバター51の高さ方向の変化や、アバター51が移動する速度や、タイルカーペット411のもつパイルの長さ、パイルの太さ、パイル材質に応じて変化させる点にある。
【0029】
仮想空間においてアバター51が移動する際に、歩行している動きを再現する手法のひとつとして、アバター51を高さ方向について移動させることで、あたかも歩行しているかのような体験を再現することが公知となっている。前後方向の移動に加えて、高さ方向にも一定周期で変化させることで、現実に歩く際に、足の動きによって頭部が高さ方向にぶれることを再現するものである。
【0030】
カーペット再現システム1では、これはフローリングのように全く沈み込まない床材を再現した状態である標準状態の場合の高さ方向の変化を基準として、タイルカーペット411の上をアバター51が移動する場合は、変化の速度を小さくすることで、タイルカーペット411のもつ特性を再現している。
【0031】
その変化の速度を小さくする度合いを、タイルカーペット411のパイルの長さに応じて変化させている。パイルの長さが、長い、中程度、短い、の3種類あるものとし、短い場合は標準状態よりも少しだけ高さ方向の変化をゆるやか、すなわち高さ方向の変化の速度を減速させる。
【0032】
その結果、ユーザはアバター51が高さ方向への移動がゆるやかになることで、柔らかな材質の床を歩いているかのような体験を得ることができる。
【0033】
パイルの長さが中程度の場合は、短い場合よりも、さらに高さ方向の変化をゆるやかにする。パイルの長さが長い場合は、中程度の場合よりも、さらに高さ方向の変化をゆるやかにする。なお、この変化の度合いは現実社会におけるカーペットのパイルの長さを変化させた場合よりも大きく強調し、デフォルメされたものにしてよい。
【0034】
さらに、アバター51が前後左右方向へ移動する速度も、同様に変化させる。すなわち、フローリングのように全く沈み込まない床材を再現した状態である標準状態の場合の前後左右への移動速度と比して、タイルカーペット411の上をアバター51が移動する場合は、移動速度を減少させることで、タイルカーペット411のもつ特性である沈み込むことから生じる、歩行にあたって負荷を感じる体験を再現している。
【0035】
その速度変化の度合いが、タイルカーペット411のパイルの長さに応じて変化させている。パイルの長さが、長い、中程度、短いの3種類あるものとし、短い場合は標準状態よりも少しだけ移動速度を減速させる。
【0036】
その結果、ユーザはアバター51が前後左右方向への移動がゆるやかになることで、柔らかな材質の床を歩いているかのような体験を得ることができる。
【0037】
パイルの長さが中程度の場合は、短い場合よりも、さらに前後左右方向の移動速度をゆるやかにする。パイルの長さが長い場合は、中程度の場合よりも、さらに移動速度をゆるやかにする。
【0038】
パイルの太さについても、長さと同様に、太い、中太、細いの3種類について、パイルの長さと同様に高さ方向の変化と、前後左右への移動速度を変化させる。
【0039】
パイルが細い場合は、標準状態よりも少しだけ高さ方向の変化をゆるやか、すなわち高さ方向の変化の速度を減速させる。パイルが中太の場合は、細い場合よりも、さらに高さ方向の変化をゆるやかにする。パイルが太い場合は、中太の場合よりも、さらに高さ方向の変化をゆるやかにする。なお、この変化の度合いは現実社会におけるカーペットのパイルの太さを変化させた場合よりも強調し、デフォルメされたものにしてよい。
【0040】
さらに、パイルが細い場合は、標準状態よりも少しだけ移動速度を減速させる。パイルの中太の場合は、細い場合よりも、さらに前後左右方向の移動速度をゆるやかにする。パイルが太い場合は、中太の場合よりも、さらに移動速度をゆるやかにする。
【0041】
パイルの材質によっても、変化させる。硬い材質であるナイロンの場合は高さ方向の変化の度合いをより小さくし、前後左右方向への移動速度の減少も小さめにする。柔らかい材質であるレーヨンの場合は高さ方向の変化の度合いを強め、前後左右方向への移動速度の減少を大きめにする。硬い材質のパイルの場合とくらべて、足の沈み込みが大きくなることを再現するためである。
【0042】
移動速度や高さ方向の変化に代えて、あるいはこれらの変化に加えて、ユーザに振動を与えるものとし、カーペットの種類に応じて振動を変化させてもよい。フローリングの場合を基準として、パイルの長さが長くなれば振動を強くすることや、長い時間持続させるようにする。パイルが太くなればなるほど、振動を強くすることや、長く持続させるようにする。パイルの材質が柔らかくなればなるほど振動を強く、長く持続させるようにする。振動の強さと振動の持続期間の双方を変化させてもよいし、片方のみを変化させてもよい。現実社会では振動を感じることはないが、仮想空間4における代償的な感覚であることをユーザ5が認識、訓練することで、タイルカーペット411の違いとして感じることが可能になる。
【0043】
このようにして再現した仮想空間4上において、アバター51が移動することで、現実にタイルカーペットを敷いた場合と同様に、タイルカーペット411の違いによってアバター51は移動や視点、振動の違いを体験することができ、これらの違いをふまえた上で、所望のタイルカーペットを選択できる。
【0044】
カーペット販売支援システム1を通じて、カーペットを購入可能としてもよい。その場合は、ユーザの氏名、住所や決済手段等が必要となるが、これらは公知であるため、説明は省略する。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態の一部または全部は、以下の付記のように記載される。
【符号の説明】
【0046】
1 カーペット販売支援システム
2 サーバ
3 クライアント端末
4 仮想空間
41 床材
411 タイルカーペット
412 樹脂
5 ユーザ
51 アバター