IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEスチール株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-吹錬方法および鋼の製造方法 図1
  • 特開-吹錬方法および鋼の製造方法 図2
  • 特開-吹錬方法および鋼の製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120841
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】吹錬方法および鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/28 20060101AFI20240829BHJP
   C21C 1/02 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C21C5/28 H
C21C1/02 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023202210
(22)【出願日】2023-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2023027832
(32)【優先日】2023-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】杉野 智裕
(72)【発明者】
【氏名】川畑 涼
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 新吾
【テーマコード(参考)】
4K014
4K070
【Fターム(参考)】
4K014AA03
4K014AB03
4K014AC14
4K014AC17
4K070AC14
4K070BA12
4K070BB08
4K070CF02
(57)【要約】
【課題】中心ノズルからCaO系フラックス粉体を不活性ガスとともに吹き付け、かつ中心ノズルの周囲の複数の周辺ノズルから酸素含有ガスを吹き付ける吹錬処理において、フラックス粉体と酸素含有ガスとの重なり度合を正確に把握できる指標を与えることによって、滓化率および脱りん率を共に向上し得る吹錬方法について提供する。
【解決手段】CaO含有粉体および不活性ガスを溶湯の浴面に向けて吹き付ける中心ノズルと、前記中心ノズルの周囲から前記浴面に向けて酸素含有ガスを吹き付ける、複数の周辺ノズルとを用いた吹錬において、前記中心ノズルから噴射されるCaO含有粉体が前記浴面に衝突する領域と、前記周辺ノズルから噴射される酸素含有ガスが前記浴面に衝突する領域との重なり割合を正確な指標のもとに制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO含有粉体および不活性ガスを溶湯の浴面に向けて吹き付ける中心ノズルと、前記中心ノズルの周囲から前記浴面に向けて酸素含有ガスを吹き付ける、複数の周辺ノズルとを用いた吹錬において、
前記中心ノズルから噴射されるCaO含有粉体が前記浴面に衝突する領域を石灰投射域および、前記周辺ノズルから噴射される酸素含有ガスが前記浴面に衝突する領域を火点域とし、前記浴面の前記中心ノズルの中心軸に対して垂直な平面内における、前記石灰投射域の直径をD、前記火点域の長軸をDおよび、前記平面内での石灰投射域と火点域との中心間距離をRとしたときに、前記中心ノズルと少なくとも1の周辺ノズルとの間において、下記式(1)にて定義される重なり割合αが0.35以上である、吹錬方法。

【請求項2】
前記周辺ノズルとしてさらに、前記重なり割合αが-0.15以上0.20以下であるノズルを用いる請求項1に記載の吹錬方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の吹錬方法を用いて、溶鉄に精錬処理を施す鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鉄に酸素含有ガスおよび精錬用フラックス粉体を吹き付ける、上吹きランスを用いて溶鉄の精錬を行う吹錬方法と、該吹錬方法を用いて鋼を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉操業では、精錬コスト低減のために、石灰使用量を大幅に低減できる溶銑予備処理による脱りんを行うのが主流となっている。この技術は、脱りんに有利な低温で処理を行うことが通例である。一方で、低温での処理であることから、スラグの溶融が進行し難く、投入したフラックスの一部が脱りん反応に寄与しないという、デメリットも存在する。
【0003】
このデメリットを解消する技術として、非特許文献1には、上吹きランスからフラックス粉体をガスと共に吹き付けて(粉体投射)、溶銑の脱りんを行う方法が提案されている。すなわち、上吹きランスから噴射される酸素ガス含有ジェットと溶銑との衝突部分(火点)にフラックス粉体が吹き付けられることにより、火点で生成したFeOとフラックス中CaOが反応し、脱りん能の高いCaO・FeO融体が生成される結果、脱りん反応の効率が向上する。
【0004】
さらに、非特許文献1には、中心ノズルからCaO系フラックス粉体を不活性ガスとともに吹き付けて、かつ中心ノズルの周囲の複数孔から酸素含有ガスを吹き付ける場合、CaO系フラックス粉体の噴流と酸素含有気体の噴流との重なりが小さく、滓化率および脱りん率が低位であることが指摘されている。
【0005】
そこで、特許文献1では、酸素ガスを噴射する周縁孔をねじったランス(ねじれランス)を用いることで、粉体の浴面衝突位置と酸素含有気体の浴面衝突位置(火点)との重なりを増加させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許5353463号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T.Tamura, M.Miyata, Y.Higuchi and T.Matsuo: CAMP-ISIJ, 25(2012), 204.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、周縁孔のノズルに与えるねじりをランス中心軸と火点との距離を基準に規定していることから、実際のフラックス粉体の噴流と酸素含有気体の噴流との干渉度合が必ずしも反映されていない点に改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明は、中心ノズルからCaO系フラックス粉体を不活性ガスとともに吹き付け、かつ中心ノズルの周囲の複数の周辺ノズルから酸素含有ガスを吹き付ける吹錬処理において、フラックス粉体と酸素含有ガスとの重なり度合を正確に把握できる指標を与えることによって、滓化率および脱りん率を共に向上し得る吹錬方法について提供することを目的とする。また、本発明は、該吹錬方法を用いて鋼を製造する方法について提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、上記の課題を解決するための方途について鋭意究明したところ、中心ノズルから噴射されるCaO含有粉体が、例えば転炉、電気炉および取鍋などの容器内の溶湯浴面に衝突する領域を石灰投射域および、前記周辺ノズルから噴射される酸素含有ガスが前記浴面に衝突する領域を火点域としたときに、両領域の一次元での重なり割合を指標とすることによって、両領域の重なりが適切に反映されることを見出し、本発明を完成するに到った。
すなわち、本発明の要旨構成は次の通りである。
【0011】
1.CaO含有粉体および不活性ガスを溶湯の浴面に向けて吹き付ける中心ノズルと、前記中心ノズルの周囲から前記浴面に向けて酸素含有ガスを吹き付ける、複数の周辺ノズルとを用いた吹錬において、
前記中心ノズルから噴射されるCaO含有粉体が前記浴面に衝突する領域を石灰投射域および、前記周辺ノズルから噴射される酸素含有ガスが前記浴面に衝突する領域を火点域とし、前記浴面の前記中心ノズルの中心軸に対して垂直な平面内における、前記石灰投射域の直径をD、前記火点域の長軸をDおよび、前記平面内での石灰投射域と火点域との中心間距離をRとしたときに、前記中心ノズルと少なくとも1の周辺ノズルとの間において、下記式(1)にて定義される重なり割合αが0.35以上である、吹錬方法。

【0012】
2.前記周辺ノズルとしてさらに、前記重なり割合αが-0.15以上0.20以下であるノズルを用いる前記1に記載の吹錬方法。
【0013】
3.前記1または2に記載の吹錬方法を用いて、溶鉄に精錬処理を施す鋼の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上吹きランスから溶湯に酸素含有ガスおよび精錬用フラックス粉体を吹き付けるに当たり、石灰投射域および火点域の重なり度合を適切な指標として与えることができる。従って、この指標の下に上吹きランスによる吹錬を制御することによって、CaO系フラックス粉体による脱りん効率を高めて溶銑中りん濃度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態である上吹きランスの構造を示す図である。
図2】重なり割合αの定義を説明する模式図である。
図3】本発明の第2実施形態である上吹きランスの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の吹錬方法は、CaO含有粉体および不活性ガスを、転炉や電炉などの容器内の溶湯浴面に向けて吹き付ける中心ノズルと、前記中心ノズルの周囲から前記浴面に向けて酸素含有ガスを吹き付ける、複数の周辺ノズルとを用いることが基本になる。以下では、中心ノズルと周辺ノズルとを一本のランスに集約し、ランスの中央の開口部および、該開口部の周辺(たとえば一つの円周上)に複数の開口部をそれぞれ設ける、実施形態を典型例として示している。しかしながら、本発明は、以下の形態に限らず、中心ノズルと周辺ノズルとを別々のランスとして構成しても良い、のは勿論である。
【0017】
[第1実施形態]
まず、本発明の吹錬方法に用いる上吹きランスについて説明する。図1に、上吹きランスの一実施形態を示す。同図(a)は縦断面図、(b)は下方から見た平面図である。
図示例の上吹きランス1は、その中心軸上にCaO含有粉体を例えば転炉内の溶湯に吹き付けるための中心ノズル2を有し、この中心ノズル2の周囲に開口する、複数本、図示例で4本の周辺ノズル3を有する。図示の周辺ノズル3は、ランスの中心軸を中心とする円の周上4等分の位置に開口するように設けてある。さらに、周辺ノズル3は、酸素含有ガスをランス中心軸から半径方向外側に向けて噴射して火点域を拡げるために、ランス中心軸に対して傾斜(傾斜角θ)する向きに設けてある。
【0018】
上記した中心ノズル2の周囲に複数本の周辺ノズル3を有する、上吹きランス1を用いる吹錬において、中心ノズル2からCaO含有粉体を不活性ガスとともに噴射し、周辺ノズル3から酸素含有ガスを噴射するに当たり、前述の通り、CaO含有粉体の浴面衝突位置と火点との重なりを制御することが肝要である。すなわち、中心ノズル2から噴射されるCaO含有粉体が転炉の浴面に衝突する石灰投射域および、周辺ノズルから噴射される酸素含有ガスが前記浴面に衝突する火点域の重なりを正確に示す指標としての、重なり割合αをもって両者の重なりを制御する必要がある。この重なり割合αは、下記(1)式で表される。

ここで、
:転炉浴面のランスの中心軸に対して垂直な平面内における、石灰投射域の直径(mm)
:前記平面内での火点域の長軸(mm)
:前記平面内での石灰投射域と火点域との中心間距離(mm)
【0019】
次に、上記重なり割合αを定義する(1)式について詳しく説明する。
図2に、転炉浴面のランスの中心軸に対して垂直な平面内における、石灰投射域Sおよび前記平面内での火点域Sを円および楕円として模式的に示す。ここで、石灰投射域Sは、円筒状の中心ノズル2の直下に形成される円形域である。一方、火点域Sは、ランス中心軸に対して傾斜する周辺ノズル3からの酸素含有ガス吹き付けによる楕円域となる。なお、図2には、上記した石灰投射域Sの直径D、Sの長軸Dおよび、石灰投射域Sと火点域Sとの中心間距離Rを示してある。上記(1)式が意味するところを、この図2を参照して説明する。
【0020】
すなわち、石灰投射域Sと火点域Sとの中心を結ぶ線分X上において、石灰投射域Sと火点域Sとの重なりは、
(D+D-2R)/2 ・・・(2)
と表すことができる。また、線分X上における石灰投射域Sの半径と火点域Sの長軸/2との合計は以下の(3)式で示される。
(D+D)/2 ・・・(3)
そして、上記(2)式を上記(3)式で除することによって、上記した(1)式を導くことができる。
【0021】
ここで、「(2)式/(3)式(=(1)式)」は、供給される酸素および投射石灰のうち、上記重なり位置に供給される酸素および投射石灰の割合を簡易的に示している。この割合が増加すると、投射されたCaO含有粉体が火点に供給されることにより火点で生成したFeOとフラックス中CaOとが反応し、脱りん能の高いCaO・FeO融体が生成される。従って、(1)式の値が大きいほど、脱りんに使用される石灰および酸素の割合が大きくなる。この(1)式で定義される重なり割合αが0.35以上であれば、脱りん効率向上が十分に認められる。
【0022】
次に、本実施形態でのD、D、Rの算出方法を示す。まず、ランスノズルからの粉体およびガスの広がり角として、例えば 瀬川清著、「鉄冶金反応工学」日刊工業新聞社出版、1969年2月27日発行、p.112に記載の、転炉にて一般的に使用する円筒形のランスノズルからの噴流の広がり角:12°を採用する。この場合、D、D、Rは、それぞれ幾何学的に下記の式で表される。なお、ノズル径がD,D,Rに与える影響は小さいため、ここではノズル径について考慮していない。
ここで、
は、浴面と上吹きランス1の先端との距離(以下、ランス高さ)[m]。
θは、酸素含有ガスを噴射する周辺ノズル3のランス中心軸に対する傾斜角[°](図1参照)
は、酸素含有ガスを噴射する周辺ノズル3と中心ノズル2のランス先端における中心間距離[m](図1参照)
【0023】
なお、CaO含有粉体の浴面衝突位置と火点との重なりを重なり割合αにて制御するに当たり、少なくともいずれか1の周辺ノズルの火点域においてα≧0.35が成立していれば有効である。好ましくは、全周辺ノズルの50%以上の周辺ノズルの火点域においてα≧0.35が成立していることが好ましく、全ての周辺ノズルの火点域においてα≧0.35が成立していることがより好ましい。
【0024】
また、上記の重なり割合αは、0.50以上の火点が複数(全周辺ノズルの50%以上)存在することがより好ましい。なぜなら、ランスは通常複数個の周辺ノズルであるため、α≧0.50の重なりも複数できる。同一円周上にα≧0.50を満たす火点域が3つ以上存在する場合、石灰投射域の全領域が火点域と重なることになるため、投射石灰の効果をより大きく発揮することができる。
【0025】
ここで、上述の重なり割合αを0.35以上とする規定は、例えば図1に示したランス1において、中心ノズル2とその周囲の4本の周辺ノズル3のいずれか1本との間で実現されていれば有効である。好ましくは、全周辺ノズルの50%以上の周辺ノズルの火点域についてα≧0.35が成立していることが好ましく、全ての周辺ノズルの火点域についてα≧0.35が成立していることがより好ましいのは勿論である。
【0026】
なお、重なり割合αを0.35以上とするには、上記したノズルの傾斜角度θ、ランス高さL、中心間距離xおよび広がり角のいずれか1または2以上を適宜調節すればよい。例えば、周辺ノズル3の傾斜角θを変更するか、または傾斜角θを変更しない場合は、ランス高さL、中心間距離xおよび広がり角のいずれか1または2以上を変更し、石灰投射域Sに対する火点域Sの位置を調整することによって、重なり割合α:0.35以上を達成できる。
【0027】
一方、重なり割合αの上限は、特に限定する必要はない。すなわち、脱りん効率の観点からαは大きいほど望ましく、従ってαは1未満であればよい。
【0028】
[第2実施形態]
次に、図3に、上吹きランスの他の実施形態を示す。図1と同様に、図3(a)は縦断面図、同(b)は下方から見た平面図である。
図示例の上吹きランス1は、中心軸上にCaO含有粉体を例えば転炉内の溶湯に吹き付けるための中心ノズル2を有し、この中心ノズル2の周囲に開口する、4本の周辺ノズル3を有するのは、図1のランスと同様である。図3の上吹きランス1では、周辺ノズル3の外側に、ランスの中心軸を中心とする周辺ノズル3の配列円より大径の円の周上4等分の位置に開口するように設けた、周辺ノズル4を有する。周辺ノズル4は、周辺ノズル3と径方向で重ならない位置に、周辺ノズル3の配列周期とずらして配列されている。さらに、周辺ノズル4は、酸素含有ガスを周辺ノズル3の火点域より半径方向外側に向けて噴射して火点域の面積を確保するのに寄与させるために、ランス中心軸に対する傾斜角度θが周辺ノズル3の傾斜角度θより大きい角度に設定される。
【0029】
この図3に示す上吹きランスを用いる吹錬においても、中心ノズル2と周辺ノズル3のいずれか1本との間で上記の重なり割合αを0.35以上とすることが肝要である。ここで、周辺ノズル3に係る重なり割合αを0.35以上とする理由は、上述した通りである。勿論、4本の周辺ノズル3の全てがα:0.35以上を満足することがより好ましい。
【0030】
図3に示す上吹きランスを用いる吹錬においては、さらに、中心ノズル2と、(周辺ノズル3より傾斜角の大きい)周辺ノズル4のいずれか少なくとも1本との間で、上記の重なり割合αを-0.15以上とすることが好ましい。この理由は、後述の通りである。勿論、4本の周辺ノズル4の全てがα:-0.15以上を満足することがより好ましい。
【0031】
図3に示す上吹きランスを用いる吹錬においては、中心ノズル2と周辺ノズル3との間での重なり割合αを0.35以上1未満とし、併せて、中心ノズル2と周辺ノズル4との間での重なり割合αを-0.15~0.20とすることが、より好ましい。図3に示すような傾斜角の異なる2種の周辺ノズルを用いる場合、バルクのスラグによる脱りんを促進させるには、特に大傾斜角の周辺ノズル4による火点面積の拡大が有効である。すなわち、周辺ノズル4に係る重なり割合αが0.20を超える場合、換言すると周辺ノズル4の開口部が中心ノズル2側に傾く場合、火点面積が小さく滓化・脱りんが進行しない、おそれがある。一方、周辺ノズル4に係る重なり割合αが-0.15よりも小さい場合は、酸素含有ガスの浴面動圧の低下が著しくなり、スラグが噴出するスロッピング頻度が増加し、生産性低下を招く、おそれがある。さらに、容器内に発生するCOガスと酸素との二次燃焼が増加し、上吹き酸素の反応効率が低下し、吹錬時間延長を招く、おそれがある。以上のことから、周辺ノズル4に係る重なり割合αは、-0.15~0.20とすることが好ましい。
【0032】
なお、図3に示す例では、周辺ノズルの数は周辺ノズル3および4ともに4個の計8個であるが、これに限らずそれ以下もしくはそれ以上でもよい。また、ノズルの出口形状としてストレート形状を採用しているが、出口径が大きいラバール形状でもよい。
【0033】
また、周辺ノズル3および4のノズル径は、酸素含有ガスの流量および、ランスと浴面との距離(以下、ランス高さともいう)を考慮して適宜定めればよい。中心ノズル2の径についても同様に、粉体および不活性ガスの流量、背圧を考慮して決定するとよい。さらに、図示例では、周辺ノズル3の径に対する周辺ノズル4の径の比は1としているが、比率を変更してもよい。ただし、ノズル径の比が大きくなると、ガス流量に偏りが出てしまうため、ノズル径比は0.75~1.35程度が望ましい。
【実施例0034】
250t規模の上底吹き転炉に表1に示す溶銑を装入し、生石灰を400kg/minの供給速度で上添加しつつ、図1に示す上吹きランスの中心ノズル2からCaO粉体を1.4kg/min/tの供給速度で窒素ガス0.18 Nm3/min/tと共に浴面に吹き付けた。また、周辺ノズル3から酸素ガスを1.8Nm3/min/tで浴面に吹き付けた。底吹き羽口からは窒素ガス0.18 Nm3/min/tを吹き込み、ランス高さを2100~2500mmとして12分間溶銑脱りん吹錬を行った。
【0035】
【表1】
【0036】
上記の吹錬において、表2に示すように、周辺ノズル3の傾斜角θが異なるランスを使用し、吹錬における重なり割合αを変化させた。
【0037】
上記の重なり割合αは操業条件から計算によって求めた。また、吹錬処理後の溶銑C濃度、同処理後の溶銑温度、同処理前後P濃度を測定した。これらの計算結果および各測定結果について表2に併記する。さらに、フラックスの設定塩基度 (CaO/SiO2の質量%比)およびスラグ実塩基度(スラグ中CaO質量% /スラグ中SiO2質量%)についても測定した結果を表2に併記する。
【0038】
表2に示すように、吹錬処理後の溶銑温度は1360~1371℃、同処理後P濃度は0.025~0.037質量%であった。また、設定塩基度(CaO/SiO2の質量%比)は2.5としたのに対し、実塩基度(スラグ中CaO質量% /スラグ中SiO2質量%)は2.1~2.4であった。
【0039】
表2に示す結果から、比較例1-1および1-2は、重なり割合αが0.14であり0.35に満たないことがわかる。そのため、実塩基度が2.1~2.2と低く、すなわち滓化率が低くなり、処理後[P]が0.029~0.037質量%と高く、すなわち脱りん効率が低くなった。比較例1-3は、重なり割合αが0.31と0.35に満たないことがわかる。そのため、実塩基度は低位で滓化率が低く、処理後[P]が0.034質量%と高く脱りん効率が低かった。
【0040】
発明例1-1~1-5に関しては、重なり割合αが0.37~0.92であった。すなわち、周辺ノズル3から噴射した酸素ガス噴流によって生成される火点域と投射されたCaO粉体の浴面衝突位置の重なりが大きく、CaOの溶融が促進され実塩基度の向上、処理後[P]の低下が確認された。
【0041】
【表2】
【実施例0042】
250t規模の上底吹き転炉に表1に示す溶銑を装入し、生石灰を400kg/minの供給速度で上添加しつつ、図3に示す上吹きランスの中心ノズル2からCaO粉体を1.4kg/min/tの供給速度で窒素ガス0.18 Nm3/min/tと共に浴面に吹き付けた。また、周辺ノズル3および4から酸素ガスを1.8Nm3/min/tで浴面に吹き付けた。底吹き羽口からは窒素ガス0.18 Nm3/min/tを吹き込み、ランス高さを2200mmとして12分間溶銑脱りん吹錬を行った。
【0043】
なお、周辺ノズル3の傾斜角θおよび周辺ノズル4の傾斜角θは表3に示す通りであり、各ノズルの傾斜角θおよびθが異なるランスを使用し、吹錬における重なり割合αおよびαを変化させた。なお、周辺ノズル4に係る重なり割合αは、上記した(1)式におけるDおよびRに替えて周辺ノズル4に関するDおよびRを適用している。また、比較例2-1および2-2は、周辺ノズルがすべて同一傾角であるランスを同一円周上に配置(図1(b)の配置に準拠)した。比較例2-3と発明例2-6および2-7とは、周辺ノズル3および4の2種類を交互に等間隔で配置(図3(b)の配置に準拠)した。
【0044】
上記の重なり割合αは操業条件から計算によって求めた。また、吹錬処理後の溶銑C濃度、同処理後の溶銑温度、同処理前後P濃度を測定した。これらの計算結果および各測定結果について表3に併記する。さらに、フラックスの設定塩基度 (CaO/SiO2の質量%比)およびスラグ実塩基度(スラグ中CaO質量%/スラグ中SiO2質量%)についても測定した結果を表3に併記する。
【0045】
表3に示すように、吹錬処理後の溶銑温度は1354~1374℃、同処理後P濃度は0.025~0.037質量%であった。また、設定塩基度(CaO/SiO2の質量%比)は2.5としたのに対し、実塩基度(スラグ中CaO質量% /スラグ中SiO2質量%)は2.1~2.4であった。
【0046】
表3に示す結果から、比較例2-1および2-2は、周辺ノズルがすべて同一傾角であるため、重なり割合αは0.14と0.35に満たないことがわかる。そのため、実塩基度が2.1~2.2と低く、すなわち滓化率が低くなり、処理後[P]が0.030~0.034質量%と高く、すなわち脱りん効率が低くなった。比較例2-3は、周辺ノズル3の傾斜角θが14°であり重なり割合αが0.31と0.35に満たないことがわかる。そのため、実塩基度は低位で滓化率が低く、処理後[P]が0.037質量%と高く脱りん効率が低かった。
【0047】
発明例2-1~2-7に関しては、周辺ノズル3の傾斜角θが0~13°、周辺ノズル4の傾斜角θが12~26°であり、重なり割合αは0.37~0.92であった。そのため、周辺ノズル3から噴射した酸素ガス噴流によって生成される火点域と投射されたCaO粉体の浴面衝突位置の重なりが大きく、CaOの溶融が促進され実塩基度の向上、処理後[P]の低下が確認された。
【0048】
発明例2-1~2-5に関しては、αが-0.15~0.2を満たしているため、脱りん能低下やスロッピング頻度の増加は見られなかった。発明例2-6はαが0.2よりも大きく火点面積が小さくなってしまったため、発明例2-1~2-5に比べて脱りん能の低下が見られた。また、発明例2-7はα<-0.15であったためにスロッピングが発生し、スラグの一部が炉外に排出されたため、発明例2-1~2-5に比べて滓化および脱りん能の低下が見られた。
【0049】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、上記した脱りん処理のほか、電気炉や取鍋での脱りん処理においても有効であり、上吹き吹錬による精錬処理の全般に効果を発揮する。
【符号の説明】
【0051】
1 上吹きランス
2 中心ノズル
3 周辺ノズル
4 周辺ノズル
図1
図2
図3