(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120849
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】二軸延伸シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 55/12 20060101AFI20240829BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240829BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20240829BHJP
【FI】
B29C55/12
C08J5/18 CET
C08J5/18 CEY
B29L7:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024004676
(22)【出願日】2024-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2023027486
(32)【優先日】2023-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】和泉 英二
【テーマコード(参考)】
4F071
4F210
【Fターム(参考)】
4F071AA12X
4F071AA22X
4F071AA32X
4F071AA76
4F071AA77
4F071AA81
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4F210AA13
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4F210QG01
4F210QG18
4F210QL16
4F210QM15
4F210QW05
(57)【要約】
【課題】強度に優れた成形品を得ることができる二軸延伸シートの製造方法を提供すること。
【解決手段】スチレン及びメタクリル酸をモノマー単位として含む共重合体と、ジエン系ゴム成分を含むジエン系ゴム変性ポリスチレンと、を含有する第一のシートを、第一の温度に加熱しながら第一の方向に延伸し、第二のシートを得る第一延伸工程と、第二のシートを、第二の温度に加熱しながら第一の方向と略垂直な第二の方向に延伸し、第三のシートを得る第二延伸工程と、第三のシートを、第二の温度より23℃~33℃低い温度下に置いた後、第二の温度より40℃以上低い温度下に置く工程と、を備える、二軸延伸シートの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン及びメタクリル酸をモノマー単位として含む共重合体と、ジエン系ゴム成分を含むジエン系ゴム変性ポリスチレンと、を含有する第一のシートを、第一の温度に加熱しながら第一の方向に延伸し、第二のシートを得る第一延伸工程と、
前記第二のシートを、第二の温度に加熱しながら前記第一の方向と略垂直な第二の方向に延伸し、第三のシートを得る第二延伸工程と、
前記第三のシートを、前記第二の温度より23℃~33℃低い温度下に置いた後、前記第二の温度より40℃以上低い温度下に置く工程と、
を備える、二軸延伸シートの製造方法。
【請求項2】
前記ジエン系ゴム成分の含有量が、前記第一のシート全量基準で、0.01質量%~0.30質量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記共重合体の含有量が、前記第一のシート全量基準で、95.0質量%以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第一の温度は、前記第一のシートのガラス転移温度±10℃の範囲内であり、
前記第一延伸工程における延伸速度は、130%/秒~200%/秒であり、
前記第二の温度は、前記第一のシートのガラス転移温度より20℃~33℃高い温度であり、
前記第二延伸工程における延伸速度は、6%/秒~10%/秒である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸シートは、食品包装容器分野で幅広く使用されている。二軸延伸シートの製造方法として、例えば、特許文献1には、芳香族ビニル系化合物と、カルボキシル基もしくは酸無水基含有不飽和単量体との共重合体(A)と、水酸基を1個有する有機化合物(B)の混合物(I)を押出機で溶融混練した後、Tダイより押出し、二軸延伸することを特徴とする、二軸延伸芳香族ビニル系樹脂シートの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二軸延伸シートにより製造された成形品には、高い強度が求められる場合がある。そこで、本発明は、強度に優れた成形品を得ることができる二軸延伸シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、スチレン-メタクリル酸共重合体と、ジエン系ゴム変性ポリスチレンと、を含有する二軸延伸シートを製造する際に、二軸延伸後に所定の温度下に置くことにより、成形品の強度を向上させることができることを見出した。本発明は、いくつかの側面において、下記の[1]~[4]を提供する。
[1]スチレン及びメタクリル酸をモノマー単位として含む共重合体と、ジエン系ゴム成分を含むジエン系ゴム変性ポリスチレンと、を含有する第一のシートを、第一の温度に加熱しながら第一の方向に延伸し、第二のシートを得る第一延伸工程と、第二のシートを、第二の温度に加熱しながら第一の方向と略垂直な第二の方向に延伸し、第三のシートを得る第二延伸工程と、第三のシートを、第二の温度より23℃~33℃低い温度下に置いた後、第二の温度より40℃以上低い温度下に置く工程と、を備える、二軸延伸シートの製造方法。
[2]ジエン系ゴム成分の含有量が、第一のシート全量基準で、0.01質量%~0.30質量%である、[1]に記載の製造方法。
[3]共重合体の含有量が、第一のシート全量基準で、95.0質量%以上である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]第一の温度は、第一のシートのガラス転移温度±10℃の範囲内であり、第一延伸工程における延伸速度は、130%/秒~200%/秒であり、第二の温度は、第一のシートのガラス転移温度より20℃~33℃高い温度であり、第二延伸工程における延伸速度は、6%/秒~10%/秒である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、強度に優れた成形品を得ることができる二軸延伸シートの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0008】
本発明の一実施形態は、スチレン及びメタクリル酸をモノマー単位として含む共重合体と、ジエン系ゴム成分を含むジエン系ゴム変性ポリスチレンと、を含有する第一のシートを、第一の温度に加熱しながら第一の方向に延伸し、第二のシートを得る第一延伸工程と、第二のシートを、第二の温度に加熱しながら第一の方向と略垂直な第二の方向に延伸し、第三のシートを得る第二延伸工程と、第三のシートを、第二の温度より23℃~33℃低い温度下に置いた後、第二の温度より40℃以上低い温度下に置く工程と、を備える、二軸延伸シートの製造方法である。
【0009】
第一のシートは、スチレン及びメタクリル酸をモノマー単位として含む共重合体(以下、「(A)成分」ともいう)と、ジエン系ゴム成分を含むジエン系ゴム変性ポリスチレン(以下、「(B)成分」ともいう)と、を含有する。
【0010】
(A)成分において、スチレン(スチレン単位)の含有量は、二軸延伸シートが成形性に優れる観点から、(A)成分に含まれるモノマー単位全量(以下、単に「モノマー単位全量」ともいう)基準で、80.0質量%以上、85.0質量%以上、88.0質量%以上、90.0質量%以上、92.0質量%以上、94.0質量%以上、又は95.0質量%以上であってよく、二軸延伸シートが耐熱性に優れる観点から、モノマー単位全量基準で、97.5質量%以下、97.0質量%以下、又は96.5質量%以下であってよい。
【0011】
(A)成分のモノマー単位として含まれるスチレン(スチレン単位)の含有量は、二軸延伸シートが成形性に優れる観点から、第一のシート全量基準で、85.0質量%以上、88.0質量%以上、90.0質量%以上、又は93.0質量%以上であってよく、二軸延伸シートが耐熱性に優れる観点から、第一のシート全量基準で、98.0質量%以下、97.5質量%以下、97.0質量%以下、又は96.5質量%以下であってよい。
【0012】
(A)成分において、メタクリル酸(メタクリル酸単位)の含有量は、二軸延伸シートが耐熱性に優れる観点から、モノマー単位全量基準で、2.5質量%以上、3.0質量%以上、又は3.5質量%以上であってよい。メタクリル酸(メタクリル酸単位)の含有量は、二軸延伸シートが成形性に優れる観点から、モノマー単位全量基準で、20.0質量%以下、15.0質量%以下、12.0質量%以下、10.0質量%以下、8.0質量%以下、6.0質量%以下、又は5.0質量%以下であってよい。
【0013】
(A)成分のモノマー単位として含まれるメタクリル酸(メタクリル酸単位)の含有量は、二軸延伸シートが耐熱性に優れる観点から、第一のシート全量基準で、2.0質量%以上、2.5質量%以上、3.0質量%以上、又は3.5質量%以上であってよい。メタクリル酸(メタクリル酸単位)の含有量は、二軸延伸シートが成形性に優れる観点から、第一のシート全量基準で、15.0質量%以下、12.0質量%以下、10.0質量%以下、9.0質量%以下、8.0質量%以下、7.0質量%以下、6.0質量%以下、又は5.0質量%以下であってよい。
【0014】
メタクリル酸の含有量(第一のシート全量基準)は、室温(25℃)での中和滴定により求められる。具体的には、まず、第一のシート0.5gを秤量し、トルエン/エタノール=8/2(体積比)の混合溶液に溶解する。得られた溶液について、電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、AT-510)を用いて水酸化カリウムの0.1mol/Lエタノール溶液により中和滴定を行う。終点に至るまでに要した水酸化カリウムエタノール溶液の体積V(L)より、下記式に従ってメタクリル酸の質量基準の含有量が算出される。
メタクリル酸の含有量(質量%)=V×0.1×86/0.5×100
後述の第二のシート、第三のシート、又は二軸延伸シート全量基準のメタクリル酸の含有量も、上記と同様の方法により、測定することができる。
【0015】
(A)成分は、モノマー単位としてメタクリル酸及びスチレンのみを含んでいてよく、メタクリル酸及びスチレンと共重合可能なその他のモノマー単位を更に含んでいてもよい。その他のモノマー単位としては、例えば、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、アクリル酸メチル等が挙げられる。その他のモノマー単位の含有量は、例えば、モノマー単位全量基準で、10質量%以下、5質量%以下、又は3質量%以下であってよい。(A)成分は、カルボキシル基等の酸性基を有するモノマー単位としてメタクリル酸のみを含んでいてよい。
【0016】
(A)成分の重量平均分子量(Mw)は、二軸延伸シートにより製造した成形品の強度に更に優れる観点から、15万以上、17万以上、20万以上、23万以上、25万以上、26万以上、又は27万以上であってよい。(A)成分の重量平均分子量(Mw)は、二軸延伸シートが成形性に優れる観点から、45万以下、40万以下、38万以下、又は35万以下であってよい。
【0017】
(A)成分のZ平均分子量(Mz)は、二軸延伸シートにより製造した成形品の強度に更に優れる観点から、30万以上、35万以上、40万以上、42万以上、又は45万以上であってよい。(A)成分のZ平均分子量(Mz)は、二軸延伸シートが成形性に優れる観点から、60万以下、55万以下、又は50万以下であってよい。
【0018】
本明細書において、重量平均分子量(Mw)及びZ平均分子量(Mz)は、以下の条件でGPC測定を行うことにより求められる。
装置:東ソー(株)製GPC「HLC-8320GPC」
カラム:shodex KF404×3
温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
流量:0.2ml/分
圧力:10MPa
検出:RI
サンプル調製方法:試料120mgをテトラヒドロフラン15mLに溶解させた後、シリンジフィルター(メルクミリポア社製マイレクス(登録商標) 0.45μm)を通しろ過を行う。
注入量:10μl
検量線:標準ポリスチレン(Polymer Laboratories製)を用い、溶離時間と溶出量との関係を分子量と変換して各種平均分子量を求める。
【0019】
(A)成分は、メタクリル酸と、スチレンと、必要に応じてその他のモノマーとを重合させることにより得られる。本実施形態に係る製造方法は、メタクリル酸と、スチレンと、必要に応じてその他のモノマーと、を重合させ、(A)成分を得る工程を更に備えていてもよい。重合方法としては、ポリスチレン等で工業化されている塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法等の公知の重合方法が挙げられる。品質面や生産性の面では、塊状重合法、溶液重合法が好ましく、連続重合であることが好ましい。溶媒としては例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン及びキシレン等のアルキルベンゼン類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、ヘキサンやシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、オクタノール等のアルコール類が使用できる。
【0020】
(A)成分を得る工程において、スチレンの仕込み量は、モノマー全量を基準として、80質量%以上、又は89質量%以上であってよく、99質量%以下、又は97.5質量%以下であってよい。メタクリル酸の仕込み量は、モノマー全量を基準として、1質量%以上、又は2.5質量%以上であってよく、20質量%以下、又は11質量%以下であってよい。他のモノマーの仕込み量は、モノマー全量を基準として、例えば、5質量%以下、又は1質量%以下であってよい。
【0021】
メタクリル酸と、スチレンと、必要に応じてその他のモノマーとの重合時には、必要に応じて重合開始剤、連鎖移動剤、及び界面活性剤を使用することができる。重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物を使用することができる。有機過酸化物の具体例としては、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーオキシベンゾエート、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ポリエーテルテトラキス(t-ブチルパーオキシカーボネート)、エチル-3,3-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブチレート、t-ブチルパーオキシイソブチレート等が挙げられる。連鎖移動剤の具体例としては、脂肪族メルカプタン、芳香族メルカプタン、ペンタフェニルエタン、α-メチルスチレンダイマー及びテルピノーレン等が挙げられる。界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン系(ノニオン系)界面活性剤が挙げられる。
【0022】
第一のシートにおける(A)成分の含有量は、第一のシート全量基準で、95.0質量%以上、97.0質量%以上、98.0質量%以上、又は98.5質量%以上であってよく、99.9質量%以下、99.7質量%以下、99.5質量%以下、又は99.2質量%以下であってよい。含有量が上記の下限値以上であると、二軸延伸シートが耐熱性及び透明性に優れる。含有量が上記の上限値以下であると、二軸延伸シートが滑性に優れる。
【0023】
(B)成分は、ゴム変性耐衝撃性スチレン系樹脂とも呼ばれ、例えば、スチレン系モノマーにゴム状のジエン系重合体を溶解し、重合(好ましくはグラフト重合)して得られる。
【0024】
スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン、アルキルスチレン(例えば、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン及び第三級ブチルスチレンなどのo-、m-、p-の各異性体)、α-アルキルスチレン(例えばα-メチルスチレン、α-エチルスチレンなど)、モノハロゲン化スチレン(例えば、クロロスチレン、ブロモスチレン及びフルオロスチレンなどのo-、m-、及びp-の各異性体)、ジハロゲン化スチレン(例えば、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ジフルオロスチレン及びクロロブロモスチレンなどの各核置換異性体)、トリハロゲン化スチレン(例えば、トリクロロスチレン、トリブロモスチレン、トリフルオロスチレン、ジクロロブロモスチレン、ジブロモクロロスチレン及びジフルオロクロロスチレンなどの各核置換異性体)、テトラハロゲン化スチレン(例えば、テトラクロロスチレン、テトラブロモスチレン、テトラフルオロスチレン及びジクロロジブロモスチレンなどの各核置換異性体)、ペンタハロゲン化スチレン(例えば、ペンタクロロスチレン、ペンタブロモスチレン、トリクロロジブロモスチレン及びトリフルオロジクロロスチレンなどの各核置換異性体)、α-及びβ-ハロゲン置換スチレン(例えば、α-クロロスチレン、α-ブロモスチレン、β-クロロスチレン及びβ-ブロモスチレンなど)などが挙げられる。これらのモノマーは、1種単独で用いられてよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0025】
ゴム状のジエン系重合体としては、例えば1種又は2種以上の共役1,3-ジエン(例えばブタジエン、イソプレン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、ピペリレンなど)、ブタジエン-スチレン共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、ブタジエン-スチレン-アクリロニトリル共重合体などが使用できる。
【0026】
(B)成分に含まれるジエン系ゴム成分(以下、単に「ゴム成分」ともいう)の含有量は、(B)成分全量基準で、0.5質量%以上、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、又は8質量%以上であってよく、15質量%以下、又は12質量%以下であってよい。含有量が上記の下限値以上であると、二軸延伸シートが滑性に優れる。含有量が上記の上限値以下であると、二軸延伸シートが透明性に優れる。
【0027】
ゴム成分の含有量は、二軸延伸シートが滑性に優れる観点から、第一のシート全量基準で、0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.02質量%以上、0.05質量%以上、又は0.08質量%以上であってよい。ゴム成分の含有量は、二軸延伸シートが耐熱性及び透明性に優れる観点から、第一のシート全量基準で、0.50質量%以下、0.30質量%以下、0.25質量%以下、0.20質量%以下、又は0.15質量%以下であってよい。ゴム成分の含有量は、例えば、0.005質量%~0.50質量%、又は0.01質量%~0.30質量%以下であってよい。
【0028】
第一のシート全量基準のゴム成分の含有量は、第一のシート0.25gをクロロホルム50mlに溶解し、一塩化ヨウ素を加えてゴム成分中の二重結合を反応させた後、ヨウ化カリウムを加え、残存する一塩化ヨウ素をヨウ素に変え、チオ硫酸ナトリウムで逆滴定することで測定できる(一塩化ヨウ素法)。分析方法は、例えば、日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、「新版 高分子分析ハンドブック」、紀伊國屋書店(1995年度版)、P.659の「(3)ゴム含量」に記載されており、この方法で測定することができる。後述の第二のシート、第三のシート、又は二軸延伸シート全量基準のゴム成分の含有量も、上記と同様の方法により、測定することができる。
【0029】
本実施形態に係る製造方法は、スチレン系モノマー及びゴム状のジエン系重合体を含む混合物を作製し、当該混合物に含まれるスチレン系モノマーを重合させ、(B)成分を得る工程を更に備えていてもよい。
【0030】
(B)成分を得る工程において、混合物におけるゴム状のジエン系重合体の含有量は、スチレン系モノマーの含有量及びゴム状のジエン系重合体の含有量の和を基準として、1質量%以上、又は5質量%以上であってよく、20質量%以下、又は15質量%以下であってよい。
【0031】
第一のシートにおける(B)成分の含有量は、第一のシート全量基準で、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、又は0.8質量%以上であってよく、5.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下、又は1.5質量%以下であってよい。含有量が上記の下限値以上であると、二軸延伸シートが滑性に優れる。含有量が上記の上限値以下であると、二軸延伸シートが耐熱性及び透明性に優れる。
【0032】
第一のシートにおいて、(B)成分の含有量に対する(A)成分の含有量の質量比((A)成分の含有量/(B)成分の含有量)は、二軸延伸シートが耐熱性及び透明性に優れる観点から、95.0/5.0以上、96.0/4.0以上、97.0/3.0以上、98.0/2.0以上、又は98.5/1.5以上であってよく、二軸延伸シートが滑性に優れる観点から、99.9/0.1以下、99.7/0.3以下、又は99.5/0.5以下であってよい。
【0033】
第一のシートに含まれる未反応スチレンモノマーの含有量は、第一のシート全量基準で、1000ppm以下であってよく、未反応メタクリル酸モノマーの含有量は、第一のシート全量基準で、150ppm以下であってよい。これらの未反応のモノマーの含有量を上記の上限値以下とすることにより、シート表面のブリードアウトを防止でき、また、押出機、延伸機のロールと接触した際に表面荒れや汚れが発生することを防止できる。また、シートを成形加工する際に成形加工機の金型等に付着して、成形品の外観を損ねることを防止でき、また、金型汚れを引き起こしてその後の成形品の外観を損なうことも防止できる。なお、未反応スチレンモノマー及び未反応メタクリル酸モノマーの定量は、下記記載のガスクロマトグラフィーを用いて、内部標準法にて測定される。
装置名:GC-12A(島津製作所社製)
カラム:ガラスカラムφ3[mm]×3[m]
定量法:内部標準法(シクロペンタノール)
【0034】
第一のシートは、用途に応じて各種添加剤を更に含有していてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、ゲル化防止剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(POE))、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、可塑剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、鉱油、ガラス繊維、カーボン繊維及びアラミド繊維等の補強繊維、タルク、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム等の充填剤が挙げられる。これらの添加剤は、(A)成分及び(B)成分の重合工程、脱揮工程、又は造粒工程にて添加してもよく、二軸延伸シートの製造の際に、(A)成分と(B)成分とを混合する際に添加してもよい。添加剤の合計含有量は、第一のシート全量基準で、例えば、0.1質量%以上であってよく、1.0質量%以下であってよい。
【0035】
第一のシートのガラス転移温度(Tg)は、二軸延伸シートが耐熱性に優れる観点から、100℃以上、103℃以上、又は105℃以上であってよい。また、第一のシートのTgは、140℃以下、130℃以下、125℃以下、120℃以下、又は115℃以下であってよい。
【0036】
第一のシートのガラス転移温度(Tg)は、DHR-2(TAインスツルメント社レオメーター)を使用し、JIS K-7121に準拠して測定することにより求められる。
【0037】
以上説明した第一のシートは、未延伸のシートである。第一のシートは、未延伸の状態で得られれば、その製造方法は特に限定されない。第一のシートは、例えば、(A)成分と、(B)成分と、必要により各種添加剤と、を含む組成物を溶融混錬した後、押出機によりダイ(例えばTダイ)から押し出すことにより得られる。本実施形態に係る製造方法は、第一延伸工程の前に、(A)成分と、(B)成分と、必要により各種添加剤と、を含む組成物を溶融混錬した後、押出し、第一のシートを得る工程を更に備えていてもよい。
【0038】
第一延伸工程では、第一のシートを、第一の温度に加熱しながら第一の方向に延伸し、第二のシートを得る。第一の温度は、第一のシートを第一の方向に延伸する際の第一のシートの表面温度として定義される。第一のシートを第一の温度に加熱する方法の例としては、第一のシート周辺の温度(例えば、雰囲気温度)を、第一の温度付近に設定する方法が挙げられる。
【0039】
第一の温度は、第一のシートのTgより高い温度であってよく、第一のシートのTgと等しくてもよく、第一のシートのTgより低い温度であってもよい。第一の温度は、第一のシートのTg±20℃の範囲内であってよく、第一のシートのTg±15℃の範囲内であってよく、第一のシートのTg±13℃の範囲内であってよく、第一のシートのTg±10℃の範囲内であってよく、第一のシートのTg±8℃の範囲内であってよく、第一のシートのTg±5℃の範囲内であってよい。
【0040】
第一の温度は、90℃以上、100℃以上、103℃以上、105℃以上、又は108℃以上であってよく、150℃以下、140℃以下、135℃以下、130℃以下、125℃以下、120℃以下、又は115℃以下であってよい。
【0041】
第一延伸工程における延伸速度(第一のシートを第一の方向に延伸する際の延伸速度)は、110%/秒以上、130%/秒以上、140%/秒以上、150%/秒以上、160%/秒以上、170%/秒以上、又は175%/秒以上であってよく、230%/秒以下、220%/秒以下、210%/秒以下、200%/秒以下、195%/秒以下、又は190%/秒以下であってよい。第一延伸工程における延伸速度は、例えば、110%/秒~230%/秒であってよく、130%/秒~200%/秒であってもよい。
【0042】
第一の方向は、例えばMD(Machine Direction;シート流れ方向)であってよい。第一のシートをMDに延伸する方法としては、例えば、下流側のロールと上流側のロールとの回転速度に差をつける方法が挙げられる。具体的には、上流側2本、下流側2本のロールを用いて第一のシートをニップし、下流側のロールの回転速度を上流側のロールの回転速度より大きくすることにより、MDに延伸することができる。
【0043】
第一延伸工程における延伸速度(MDの延伸速度)は、下記式(1)により求められる。
{(So-Si)/L}×100 ・・・(1)
式(1)中、Siは上流側のロールの回転速度(m/秒)であり、Soは下流側のロール回転速度(m/秒)であり、Lは上流側のロールと下流側のロールとの間の距離である。
【0044】
第一の方向の延伸倍率は、2.0倍以上、2.3倍以上、又は2.5倍以上であってよく、4.0倍以下、3.5倍以下、又は3.0倍以下であってよい。第一の方向の延伸倍率(MDの延伸倍率)はSo/Siから求められる。
【0045】
以上説明した第一延伸工程により、第二のシート(一軸に延伸されたシート)が得られる。第二のシートの組成は、第一のシートと同様であってよい。具体的には、第二のシートは、上記の(A)成分と、(B)成分と、必要より各種添加剤と、を含んでいてよい。第二のシートにおける各成分の含有量は、第一のシートにおける各成分の含有量と同様であってよい。この場合、「第一のシート全量基準で」とあるのは、「第二のシート全量基準で」と読み替えるものとする。また、第二のシートにおける(B)成分の含有量に対する(A)成分の含有量の質量比は、第一のシートにおける(B)成分の含有量に対する(A)成分の含有量の質量比と同様であってよい。
【0046】
第二延伸工程では、第二のシートを、第二の温度に加熱しながら第一の方向と略垂直な第二の方向に延伸し、第三のシートを得る。第二の温度は、第二のシートを第二の方向に延伸する際の第二のシートの表面温度として定義される。第二のシートを第二の温度に加熱する方法としては、第二のシート周辺の温度(例えば、雰囲気温度)を、第二の温度に設定する方法が挙げられる。
【0047】
第二の温度は、第一のシートのTgより高い温度であってよい。第二の温度は、第一のシートのTgより10℃以上、15℃以上、20℃以上、23℃以上、又は25℃以上高い温度であってよく、第一のシートのTgより50℃以下、40℃以下、35℃以下、33℃以下、又は30℃以下高い温度であってよい。第二の温度は、例えば、第一のシートのTgより10℃~50℃高い温度であってよく、15℃~40℃高い温度であってよく、20℃~33℃高い温度であってよい。
【0048】
第二の温度は、100℃以上、110℃以上、120℃以上、130℃以上、又は135℃以上であってよく、200℃以下、180℃以下、160℃以下、155℃以下、150℃以下、又は140℃以下であってよい。
【0049】
第二延伸工程における延伸速度(第二のシートを第二の方向に延伸する際の延伸速度)は、1%/秒以上、3%/秒以上、5%/秒以上、6%/秒以上、7%/秒以上、又は8%/秒以上であってよく、20%/秒以下、15%/秒以下、13%/秒以下、10%/秒以下、又は9%/秒以下であってよい。第二延伸工程における延伸速度は、例えば、1%/秒~20%/秒であってよく、6%/秒~10%/秒であってもよい。
【0050】
第二の方向は、例えばTD(Transverse Direction;シート流れ方向に垂直な方向)であってよい。第二のシートをTDに延伸する方法としては、例えば、第二のシートを流しながら、第二のシートの端部をつかみ、TDに引き延ばす方法が挙げられる。具体的には、テンターを用いて、第二のシートの端部をチャックで掴み、第二のシートを流しながら、チャック幅を拡大することにより、第二のシートをTDに延伸することができる。
【0051】
第二延伸工程における延伸速度(TDの延伸速度)は、下記式(2)により求められる。
{(Wi-Wo)/Wi}×100/(L/S) ・・・(2)
式(2)中、WoはTD延伸前のシートの幅(m)であり、WiはTD延伸後のシートの幅(m)であり、LはTD延伸の間にシートが流れたMDの距離(m)であり、SはシートのMDの流れ速度(m/秒)である。
【0052】
第二の方向の延伸倍率は、2.0倍以上、2.5倍以上、又は2.8倍以上であってよく、4.0倍以下、又は3.7倍以下であってよい。第二の方向の延伸倍率(TDの延伸倍率)は、Wi/Woから求められる。第一の方向の延伸倍率及び第二の方向の延伸倍率は、互いに同じであってよく、異なっていてもよい。
【0053】
第一の方向及び第二の方向の組み合わせの例としては、MD及びTDの組み合わせが挙げられる。上述したように、第一の方向がMDであり、第二の方向がTDであってよく、第一の方向がTDであり、第二の方向がMDであってもよい。
【0054】
以上説明した第二延伸工程により、第三のシート(二軸に延伸されたシート。目的物である後述の「二軸延伸シート」の前駆体。)が得られる。第三のシートの組成は、第一のシートと同様であってよい。具体的には、第三のシートは、上記の(A)成分と、(B)成分と、必要より各種添加剤と、を含んでいてよい。第三のシートにおける各成分の含有量は、第一のシートにおける各成分の含有量と同様であってよい。この場合、「第一のシート全量基準で」とあるのは、「第三のシート全量基準で」と読み替えるものとする。また、第三のシートにおける(B)成分の含有量に対する(A)成分の含有量の質量比は、第一のシートにおける(B)成分の含有量に対する(A)成分の含有量の質量比と同様であってよい。
【0055】
本実施形態に係る製造方法は、第三のシートを、第二の温度より23℃~33℃低い温度下に置いた後、第二の温度より40℃以上低い温度下に置く工程を備える。当該工程は、第三のシートを、第二の温度より23℃~33℃低い温度(以下、「アニール温度」ともいう)下に置く工程(以下、「アニール工程」ともいう)と、第二の温度より40℃以上低い温度(以下、「冷却温度」ともいう)下に置く工程(以下、「冷却工程」ともいう)と、を備えている。アニール工程及び/又は冷却工程がない場合、第一延伸工程及び第二延伸工程により生じたシート内の分子配向が緩和してしまい、シートの熱収縮応力が低下する可能性がある。本実施形態に係る製造方法では、アニール工程及び冷却工程の両方を備えるため、分子配向の緩和による熱収縮応力の低下が起こりにくい。そのため、本実施形態に係る製造方法により製造された二軸延伸シートを用いて製造された成形品は、強度に優れたものとなる。
【0056】
アニール温度は、第二の温度より24℃以上、25℃以上、26℃以上、又は27℃以上低い温度であってもよく、第二の温度より32℃以下、31℃以下、又は30℃以下低い温度であってもよい。
【0057】
第三のシートを上記アニール温度下に置く時間は、シートの組成、厚み等に応じて適宜設定でき、例えば、1秒以上6秒以下であってよい。
【0058】
第三のシートを上記アニール温度下に置く方法としては、例えば、第三のシートに、雰囲気温度を上記アニール温度に設定した槽内を通過させる方法が挙げられる。
【0059】
冷却温度は、第二の温度より41℃以上、42℃以上、43℃以上、又は45℃以上低い温度であってもよく、第二の温度より100℃以下、80℃以下、70℃以下、60℃以下、55℃以下、又は50℃以下低い温度であってもよい。
【0060】
第三のシートを上記冷却温度下に置く時間は、シートの厚みに応じて適宜設定でき、例えば、1秒以上6秒以下であってよい。
【0061】
第三のシートを上記冷却温度下に置く方法としては、例えば、第三のシートに、雰囲気温度を上記冷却温度に設定した槽内を通過させる方法が挙げられる。
【0062】
本実施形態に係る製造方法により、二軸延伸シートが製造される。二軸延伸シートの組成は、第一のシートと同様であってよい。具体的には、二軸延伸シートは、上記の(A)成分と、(B)成分と、必要より各種添加剤と、を含んでいてよい。二軸延伸シートにおける各成分の含有量は、第一のシートにおける各成分の含有量と同様であってよい。この場合、「第一のシート全量基準で」とあるのは、「二軸延伸シート全量基準で」と読み替えるものとする。また、二軸延伸シートにおける(B)成分の含有量に対する(A)成分の含有量の質量比は、第一のシートにおける(B)成分の含有量に対する(A)成分の含有量の質量比と同様であってよい。
【0063】
二軸延伸シートにおいて、(B)成分に含まれるゴム粒子(ジエン系ゴム成分の粒子)の平均粒子径(Ro)は、1.5μm以上、2.0μm以上、又は4.0μm以上であってよく、9.0μm以下、8.0μm以下、又は6.0μm以下であってよい。Roが上記の下限値以上であると、滑性の点で優れる。Roが上記の上限値以下であると、透過光が減少及び散乱光の増加を抑制し、透明性の点で優れる。
【0064】
本明細書において、ゴム粒子の平均粒子径(Ro)は、超薄切片法にて観察面が二軸延伸シートの主面と並行方向となるよう切削し、四酸化オスミウム(OsO4)にてゴム成分を染色した後、透過型顕微鏡にて、100個の粒子について測定した粒子径の算術平均値を意味する。(B)成分に含まれるゴム粒子のRoは、二軸延伸シートに代えて、前述の第一のシート、第二のシート、又は第三のシートを切削して観察することによっても求めることができる。
【0065】
二軸延伸シートの厚みは、成形品の強度を更に向上させる観点から、0.1mm以上、0.15mm以上、又は0.2mm以上であってよい。二軸延伸シートの厚みは、透明性に優れる観点から、0.7mm以下、0.5mm以下、0.4mm以下、又は0.3mm以下であってよい。
【0066】
一実施形態に係る製造方法は、二軸延伸シートの少なくとも一方の表面に、公知の離型剤(剥離剤)、防曇剤、帯電防止剤から選ばれる1種又は2種以上を含む塗工剤を塗布する工程を更に備えていてもよい。塗工剤を二軸延伸シートに塗布する方法は、特に限定されることはなく、ロールコーター、ナイフコーター、グラビアロールコーター等を用いて塗工する方法であってよく、噴霧、浸漬等であってもよい。
【0067】
二軸延伸シートは、例えば、成形品を製造するために用いることができる。成形品は、例えば容器であってよく、食品包装容器(フードパック)であってもよい。特に、成形品が電子レンジ加熱用食品包装容器である場合、本実施形態に係る二軸延伸シートの特徴が十分に発揮される。成形品は、例えば、本体部分と、当該本体部分と嵌合可能な蓋材とからなるフードパックであって、嵌合部分の形状が内嵌合であるフードパックであってよい。
【0068】
二軸延伸シートから成形品を得る方法は、特に制限はなく、従来の二軸延伸シートの二次成形方法において慣用されている方法を用いることができる。例えば、真空成形法や圧空成形法等の熱成形方法によって二次成形を行うことができる。これらの方法は例えば高分子学会編「プラスチック加工技術ハンドブック」日刊工業新聞社(1995)に記載されている。
【実施例0069】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0070】
実施例1~7及び比較例1~4では、以下の実験例1~4のとおりに製造したスチレン-メタクリル酸共重合体及びジエン系ゴム変性ポリスチレンを用いた。
【0071】
{実験例1:スチレン-メタクリル酸共重合体(A-1)の製造}
完全混合型撹拌槽である第1反応器と第2反応器を直列に接続した装置を用いて、スチレン-メタクリル酸共重合体の製造を行った。第1反応器及び第2反応器の容量は、共に39リットルであった。スチレン80.7質量%、メタクリル酸2.8質量%、エチルベンゼン14.1質量%、及びオクタノール2.4質量%を混合して原料溶液を作製し、原料溶液を流量12kg/hにて第1反応器に連続的に供給した。重合開始剤(1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(日本油脂株式会社製))を、添加濃度(原料溶液に対する質量基準の濃度)が200μg/gとなるように第1反応器の入口から原料溶液に添加混合した。ポリオキシエチレンアルキルエーテル(POE)(花王株式会社製)を、第1反応器の入口から原料溶液に添加混合した。第1反応器に供給された材料の混合物は、第1反応器内で攪拌され、第2反応器に連続的に供給され、第2反応器内で攪拌された。この際、第1反応器、第2反応器における反応温度はそれぞれ125℃、135℃とした。以上の方法により、スチレン及びメタクリル酸の共重合体を生成した。
【0072】
続いて、第2反応器より共重合体を含む溶液を連続的に取り出し、第1脱気槽及び第2脱気槽の2段で構成される予熱器付き真空脱揮槽に直列に導入した。第1脱気槽では樹脂温度が172℃、圧力65kPa、第2脱気槽では樹脂温度218℃、圧力1kPaとなるよう調整し、未反応スチレン、メタクリル酸及びエチルベンゼンを分離した。その後、多孔ダイよりストランド状に押し出しして、コールドカット方式にて、ストランドを冷却及び切断し、ペレット状のスチレン-メタクリル酸共重合体(A-1)を得た。熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、共重合体(A-1)に含まれるモノマー単位全量基準で、スチレンの含有量が96質量%、メタクリル酸の含有量は4質量%であった。また、GPC測定により求めた重量平均分子量(Mw)及びZ平均分子量(Mz)は、それぞれ26万及び47万であった。
【0073】
なお、得られたペレット状のスチレン-メタクリル酸共重合体(A-1)中のPOEの濃度は、共重合体全量を基準として、0.20質量%であった。POEの濃度は、以下の手順により求めた。ペレット状のスチレン-メタクリル酸共重合体(A-1)5gを精秤し、THFに溶解した。溶液にメタノール及び少量の塩酸を加え、ポリマー分を再沈処理し、ろ過により再沈物を除去した。ろ液を濃縮し、10mlの濃縮液とした。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、当該濃縮液中のPOEの定量を行った。定量には濃度既知のPOEのメタノール溶液3点を用いて作成した検量線を用いた。HPLCの条件は以下のとおりである。
HPLC機種:日本ウォーターズ株式会社製allianceシステム2695 セパレーションモジュール
検出器:示差屈折計(RI)
カラム:東ソー株式会社製TSKgel ODS-120T 4.6mm(ID)×15cm(L)
移動相:メタノール/水=80/20(体積比)にリン酸0.2質量%添加
流量:1.0ml/分
カラムオーブン温度:40℃
検出器温度:30℃
求めたPOEの定量値(g)を用いて、下記式に従ってPOEの濃度を求めた。
POEの濃度(質量%)=(POEの定量値)/5×100
【0074】
{実験例2:スチレン-メタクリル酸共重合体(A-2)の製造}
実験例1の原料溶液の組成(特にスチレンとメタクリル酸の比率)を変更することにより、モノマー含有量(共重合体に含まれるモノマー単位全量基準でのスチレンの含有量及びメタクリル酸の含有量)を調整し、重合時の反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び量等を変更することにより、重量平均分子量及びZ平均分子量を調整して、スチレン-メタクリル酸共重合体(A-2)を得た。共重合体(A-2)中のモノマー含有量は、共重合体(A-2)に含まれるモノマー単位全量基準で、スチレンの含有量が90質量%、メタクリル酸の含有量が10質量%であった。また、GPC測定により求めた重量平均分子量(Mw)及びZ平均分子量(Mz)は、それぞれ17万及び31万であった。
【0075】
{実験例3:ジエン系ゴム変性ポリスチレン(B-1)の製造}
ゴム状重合体として6.7質量%のローシスポリブタジエンゴム(ジエン55AS(旭化成(株)製))と、88.3質量%のスチレンとを、5.0質量%のエチルベンゼンに溶解させた。また、ゴム状重合体とスチレンとエチルベンゼンの合計100質量部に対し、ゴムの酸化防止剤(イルガノックス1076(BASF(株)製))0.1質量部を添加した。この重合原料を翼径d=0.285[m]の錨型撹拌翼を備えた14リットルのジャケット付き反応器(R-01)に12.5[kg/hr]で供給した。反応温度は140℃、回転数をN[s-1]としたときのN3d2は0.83[m2/s3]で、樹脂率は25%であった。得られた樹脂液を直列に配置した2基の内容積21リットルのジャケット付きプラグフロー型反応器に導入した。1基目のプラグフロー型反応器(R-02)では、反応温度が樹脂液の流れ方向に120℃~140℃、2基目のプラグフロー型反応器(R-03)では、反応温度が樹脂液の流れ方向に130℃~160℃の勾配を持つようにジャケット温度を調整した。R-02出口での樹脂率は50%、R-03出口での樹脂率は70%であった。得られた樹脂液は230℃に加熱後、真空度5[torr]の脱揮槽に送られ、未反応モノマー、溶剤を分離・回収した後、脱揮槽からギヤポンプで抜き出し、ダイプレートを通してストランドとした後、水槽を通してペレット化し製品として回収した。得られたジエン系ゴム変性ポリスチレン全量を基準とするジエン系ゴム成分の含有量は10質量%であった。
【0076】
{実験例4:ジエン系ゴム変性ポリスチレン(B-2)の製造}
実験例3の各種原料仕込み量を調整し、ジエン系ゴム成分の含有量が1質量%であるジエン系ゴム変性ポリスチレン(B-2)を得た。
【0077】
<実施例1>
実験例1のスチレン-メタクリル酸共重合体(A-1)99.0質量%と実験例3のジエン系ゴム変性ポリスチレン(B-1)1.0質量%とをペレット押出機(真空ベント付き二軸同方向押出機 HyperKTX140MX(神戸製鋼所製))にそれぞれ供給し、溶融混錬した後、押出温度230℃、吐出量2600kg/h、回転数110rpm、真空ベントのベント圧力(真空に対する絶対圧力)1.8kPaAにて幅1200mmのTダイより押出して、第一のシートを得た。第一のシートのTgは、110℃であった。
【0078】
上記第一のシートを冷却ロールにて冷却した後、第一の方向(MD)に延伸して第二のシートを得た(第一延伸工程)。第一の方向の延伸は、上流側2本、下流側2本のロールを用いてシートをニップし、下流側のロールの回転速度を上流側の2.50倍(表1に記載の延伸倍率)に設定して行った。第一延伸工程における延伸速度及び第一の温度は、表1に示すとおりであった。次に、第二のシートを第二の方向(TD)に延伸し、第三のシートを得た(第二延伸工程)。第二の方向の延伸は、シートの端部をチャックで掴み、槽内の雰囲気温度を138℃に設定したテンター内で、テンター出口部分でのチャック幅が入口部分でのチャック幅の3.40倍(表1に記載の延伸倍率)となるよう設定して行った。第二延伸工程における延伸速度及び第二の温度は、表1に示すとおりであり、テンター出口におけるMDの速度(表1に記載のライン速度)は69m/分であった。
【0079】
さらに、第三のシートに、上記ライン速度で、槽内の雰囲気温度を110℃(表1に記載のアニール温度)に設定したアニール部(MDの槽の長さ:3.2m)に続いて槽内の雰囲気温度を95℃(表1に記載の冷却温度)に設定した冷却部(MDの槽の長さ:3.5m)を通過させることにより、上記第二の温度より28℃低い温度下に置いた後、上記第二の温度より43℃低い温度下に置いて、二軸延伸シートを得た。得られた二軸延伸シートの厚みは0.238mmであり、二軸延伸シート中のゴム粒子の平均粒子径は5.0μmであった。また、得られた二軸延伸シート中の未反応スチレンモノマーの含有量は200ppmであった。
【0080】
<実施例2~7及び比較例1~4>
スチレン-メタクリル酸共重合体及びジエン系ゴム変性ポリスチレンの種類及び含有量、並びに第一の方向の延伸、第二の方向の延伸、アニール及び冷却の条件を表1に記載のとおりとした以外は実施例1と同様にして、二軸延伸シート(実施例2~7及び比較例1~4)を得た。各例の第一のシートのTg及び二軸延伸シートの厚みは表1に示すとおりであり、二軸延伸シートに含まれるゴム粒子の平均粒子径は、表1に示すとおりであった。
【0081】
以下の方法により、実施例1~7及び比較例1~4の二軸延伸シートの物性測定及び性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
[成形品の強度]
熱板成形機(HPT-400A((株)脇坂エンジニアリング製))にて、熱板温度135℃、加熱時間2.0秒の条件で、フードパック(寸法 蓋:縦150mm×横130mm×高さ30mm、本体:縦150mm×横130mm×高さ20mm)を成形した。得られたフードパックの上にアクリル板(寸法:縦150mm×横130mm×高さ2mm)を乗せ、卓上形精密万能試験機(AGS-100NX((株)島津製作所製))を用いて、アクリル板上部中央を圧縮治具(φ50mm固定式圧盤)により速度5mm/minで押し込み、成形品が座屈した時の圧縮荷重を測定した(雰囲気温度23℃)。なお、成形品が座屈した時の圧縮荷重は27N以上であると強度良好といえ、荷重が高いほど好ましい。
【0083】
[成形性]
上記[成形品の強度]試験と同様のフードパックを100枚成形し、成形不良品(寸法と異なる形状又はコーナー部に形状不良を有するもの)の個数を調べた。なお、個数が4枚(個)以下であれば成形性良好といえ、枚数(個数)は少ないほど好ましい。
【0084】
[耐熱性]
上記[成形品の強度]試験と同様のフードパックを成形した。送風定温恒温器DKN812(ヤマト科学株式会社製)を用い、100℃に設定した槽内で15分間フードパックを静置後に取り出し、フードパックの変形の有無を確認した。設定温度を1℃ずつ上昇させて同様の操作を繰り返し、フードパックの変形が確認される設定温度の最低値(容器変形開始温度)を調べた。なお、温度安定化のため、槽内の温度が各設定温度に達してから1時間経った後にフードパックを静置した。容器変形開始温度は105℃以上であれば耐熱性に優れているといえ、容器変形開始温度は高いほど好ましい。
【0085】
[透明性]
JIS K7136に準じ、ヘーズメーターNDH5000(日本電色工業(株))により、二軸延伸シートのヘーズを測定した。なお、ヘーズが1.5%未満であれば透明性に優れているといえ、ヘーズの値は小さいほど好ましい。
【0086】