(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120856
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】電力削減量推定システム、電力削減量検証方法及び空調設備の洗浄施工方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20240829BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024012591
(22)【出願日】2024-01-31
(62)【分割の表示】P 2023027653の分割
【原出願日】2023-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】523067713
【氏名又は名称】佐々木環境化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 伸介
(57)【要約】
【課題】空調設備の室外機に対する洗浄施工によって削減される空調設備の洗浄施工方法を提供する。
【解決手段】空調設備の洗浄施工方法は、建物に設置されている空調設備であって、室内機と室外機が冷媒配管で接続されて構成される電力稼働の前記空調設備を洗浄施工する空調設備の洗浄施工方法において、前記空調設備を洗浄施工することにより削減される前記空調設備の消費電力量の電力削減量推定値を演算する工程と、前記空調設備を洗浄施工する前の所定期間、電力量計により前記空調設備の洗浄施工前の消費電力量を計測する工程と、前記空調設備を洗浄施工する工程と、前記空調設備を洗浄施工した後の所定期間、電力量計により前記空調設備の洗浄施工後の消費電力量を計測する工程と、前記空調設備の洗浄施工前の消費電力量と前記空調設備の洗浄施工後の消費電力量に基づいて、前記空調設備の洗浄施工による実測に基づく電力削減量を演算する工程とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に設置されている空調設備であって、室内機と室外機が冷媒配管で接続されて構成される電力稼働の前記空調設備を洗浄施工する空調設備の洗浄施工方法において、
前記空調設備を洗浄施工することにより削減される前記空調設備の消費電力量の電力削減量推定値を演算する工程と、
前記空調設備を洗浄施工する前の所定期間、電力量計により前記空調設備の洗浄施工前の消費電力量を計測する工程と、
前記空調設備を洗浄施工する工程と、
前記空調設備を洗浄施工した後の所定期間、電力量計により前記空調設備の洗浄施工後の消費電力量を計測する工程と、
前記空調設備の洗浄施工前の消費電力量と前記空調設備の洗浄施工後の消費電力量に基づいて、前記空調設備の洗浄施工による実測に基づく電力削減量を演算する工程とを備えることを特徴とする空調設備の洗浄施工方法。
【請求項2】
前記洗浄施工する工程は、
前記空調設備の前記室外機を洗浄剤により洗浄する処理と、
前記空調設備の前記室外機をすすいだ後、中和剤により中和する処理と、
前記空調設備の前記室外機を腐食防止コート剤によりコーティングする処理と、
前記空調設備の前記室外機を遮熱塗料により塗装する処理とを含むことを特徴とする請求項1に記載の空調設備の洗浄施工方法。
【請求項3】
前記電力削減量推定値を演算する工程は、コンピュータに、
前記空調設備の能力、使用状態に関するデータを含む空調設備データと、前記空調設備の洗浄施工前における前記空調設備の室外機の汚れ度合いに関するデータを含む施工前データと、及び前記空調設備の洗浄施工後における前記空調設備の室外機の推定される汚れ度合いに関するデータを含む施工後推定データとを取得させる処理と、
前記空調設備データと、前記施工前データと、前記施工後推定データとに基づいて、洗浄施工前の前記空調設備の消費電力量に対して削減される洗浄施工後の前記空調設備の消費電力量の前記電力削減量推定値を演算させる処理とを含むことを特徴とする請求項2に記載の空調設備の洗浄施工方法。
【請求項4】
前記空調設備の室外機の汚れ度合いは、当該室外機の熱交換用フィンの汚れ度合いであることを特徴とする請求項3に記載の空調設備の洗浄施工方法。
【請求項5】
前記空調設備データと、前記施工前データと、前記施工後推定データとに基づいて、洗浄施工前の前記空調設備の消費電力量と、洗浄施工後の前記空調設備の消費電力量推定値とを演算し、これらの差分から前記電力削減量推定値を演算することを特徴とする請求項3に記載の空調設備の洗浄施工方法。
【請求項6】
洗浄施工前の前記空調設備の消費電力量は、前記空調設備の室外機に汚れがないと仮定した場合の前記空調設備の消費電力量である設計電力量に、前記空調設備の洗浄施工前における前記室外機の汚れ度合いに応じた所定係数を当該設計消費電力量に乗算した電力上昇分の値を加算した値であることを特徴とする請求項3に記載の空調設備の洗浄施工方法。
【請求項7】
洗浄施工後の前記空調設備の消費電力量は、前記電力上昇分の値に前記空調設備の洗浄施工後における前記室外機の汚れ度合いに応じた所定係数を乗算した値を、前記設計消費電力量に加算した値であることを特徴とする請求項6に記載の空調設備の洗浄施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内機と室外機が冷媒配管で接続されて構成される電力稼働の空調設備の電力削減量推定システム、電力削減量検証方法及び空調設備の洗浄施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、熱交換換気装置と空気調和装置とを併用した空気調和システムでの消費電力削減量を評価する方法について開示する。熱交換を行うことなく通常の換気風量と同量の換気風量を熱交換換気装置により確保した状態での空気調和システムの消費電力量と、熱交換換気装置を通常通り稼働させたときの空気調和システムの消費電力量とを比較することにより、電力削減量を評価する。
【0003】
特許文献2は、空調設備等の作動および停止の繰り返しによる冷却対象の温度調節において、停止時間を延長して節電する場合の電力削減量の評価支援方法について開示する。下限設定温度と上限設定温度との間でオンオフが繰り返される空調設備において、空調設備をオンしたと仮定して上限設定温度から下限設定温度になるまでの仮想時間を用いることで、電力削減量を評価可能なデータを求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-300058号公報
【特許文献2】特開2005-344970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高騰する電力料金の抑制、地球温暖化対策のためのCO2排出量の削減への取り組みのため、空調設備の消費電力量を削減することが強く要請されている。本願出願人は、電気で稼働する空調設備(エアコンディショナ)の室外機を洗浄、コーティング塗装する洗浄施工を実施する事業を営み、これにより、空調設備の性能を回復させ、施工前と比較して、施工後の空調設備の消費電力量を大幅に削減させることに貢献している。そして、今般、本願発明者は、空調設備の室外機に対する洗浄処理(コーティング、塗装を含む)の施工による空調設備の電力削減量を、その施工前に推定・予測する手法を開発するに至った。
【0006】
そこで、本発明の目的は、空調設備の室外機に対する洗浄施工(コーティング、塗装を含む)によって削減される空調設備の電力量を推定する電力削減量推定システムを提供することにある。
【0007】
また、本発明のさらなる目的は、その電力削減量推定システムにより推定された電力削減量を検証するための電力削減量検証方法、及び空調設備の洗浄施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の電力削減量推定システムは、建物に設置されている空調設備であって、室内機と室外機が冷媒配管で接続されて構成される電力稼働の前記空調設備を洗浄施工することにより削減される前記空調設備の消費電力量の推定値を演算する電力削減量推定システムにおいて、前記空調設備の能力、使用状態に関するデータを含む空調設備データと、前記空調設備の洗浄施工前における前記空調設備の室外機の汚れ度合いに関するデータを含む施工前データと、及び前記空調設備の洗浄施工後における前記空調設備の室外機の推定される汚れ度合いに関するデータを含む施工後推定データとを取得するデータ取得部と、前記空調設備データと、前記施工前データと、前記施工後推定データとに基づいて、洗浄施工前の前記空調設備の消費電力量に対して、洗浄施工後の前記空調設備の消費電力量の電力削減量推定値を求める演算部と、前記電力削減量推定値を出力する出力部とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の電力削減量検証方法は、上記の電力削減量推定システムにより、前記電力削減量推定値を求める工程と、前記空調設備に電力量計を取り付ける工程と、前記空調設備を洗浄施工する前の所定期間、前記電力量計により前記空調設備の洗浄施工前の消費電力量を計測する工程と、前記空調設備を洗浄施工する工程と、前記空調設備を洗浄施工した後の所定期間、前記電力量計により前記空調設備の洗浄施工後の消費電力量を計測する工程と、前記空調設備の洗浄施工前の消費電力量と前記空調設備の洗浄施工後の消費電力量との差分値と、前記電力削減量推定値とを比較することを特徴とする。本発明における空調設備の洗浄施工方法は、建物に設置されている空調設備であって、室内機と室外機が冷媒配管で接続されて構成される電力稼働の前記空調設備を洗浄施工する空調設備の洗浄施工方法において、前記空調設備を洗浄施工することにより削減される前記空調設備の消費電力量の電力削減量推定値を演算する工程と、前記空調設備を洗浄施工する前の所定期間、電力量計により前記空調設備の洗浄施工前の消費電力量を計測する工程と、前記空調設備を洗浄施工する工程と、前記空調設備を洗浄施工した後の所定期間、電力量計により前記空調設備の洗浄施工後の消費電力量を計測する工程と、前記空調設備の洗浄施工前の消費電力量と前記空調設備の洗浄施工後の消費電力量に基づいて、前記空調設備の洗浄施工による実測に基づく電力削減量を演算する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、空調設備の室外機に対する洗浄施工による洗浄施工前後における空調設備の電力削減量を、演算処理により、その施工前に高精度に推定・予測することができる。また、洗浄施工前後の実際の消費電力量と演算により求められた電力削減量の推定値と比較することで、電力削減量の推定値の確かさを検証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態における電力削減量推定システムの構成例を示す図である。
【
図2】サーバ装置10のデータ格納部11に格納されるデータベース11aのデータ例を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における電力削減量推定システムにおける登録・出力処理のフローチャートを示す図である。
【
図4】端末装置20に表示出力される電力削減量を含む画面表示例を示す図である。
【
図5】端末装置20に表示出力される電力削減量を含む画面表示例を示す図である。
【
図6】演算により求めた電力削減量を検証するための検証処理のフローチャートを示す図である。
【
図7】空調設備の室外機に接続する配電盤に電力量計が取り付けられた状態を示す写真である。
【
図8】洗浄施工前のフィンと洗浄施工後のフィンの状態例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の実施の形態について、具体的な図に基づいて説明する。
【0013】
本実施の形態における空調設備は、室内機と室外機が冷媒配管で接続されて構成される電力稼働のヒートポンプ式エアコンディショナ(エアコン)である。
【0014】
住宅、事業所、店舗、工場などさまざまな建物に設置されている電気稼働の空調設備は、経年劣化や汚れの付着などにより、その性能が徐々に低下していき、それに応じて消費する電力も次第に増大し、電気代も高額となっていく。特に、工場、店舗、事業所、学校など比較的大規模な建物には、その大きさに応じた多くの空調設備が設置され、空調設備全体の消費電力量も大きいため、少しの性能劣化においても、消費電力量が大きく増大する傾向にある。
【0015】
空調設備の消費電力量を削減、抑制するためには、一般に、空調設備の清掃、洗浄処理を行って、空調設備の性能をある程度復元させることが有効であることが知られているが、本発明の実施の形態では、空調設備の洗浄処理を行って、どの程度消費電力量を抑制、削減することができるかについて、空調設備の洗浄により削減できる消費電力量の推定値を演算する電力削減量推定システムが提供される。本発明における電力削減量推定システムは、例えば空調設備の洗浄施工を行う施工業者によって構築され、使用される。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態における電力削減量推定システムの構成例を示す図である。電力削減量推定システム1は、通信ネットワーク上のサーバ装置10と、通信ネットワークを介して当該サーバ装置10と通信可能に接続する端末装置20とを備えて構成されるコンピュータシステムである。通信ネットワークは、インターネットや携帯電話通信網などの商用通信回線である。
【0017】
サーバ装置10は、本実施の形態における演算処理を実行するためのコンピュータプログラムや各種データを格納する記憶装置、コンピュータプログラムを実行する演算装置(CPU)などを備える汎用コンピュータ装置であり、端末装置20は、ディスプレイと接続するパーソナルコンピュータや携帯電話機、スマートフォン、タブレット端末など表示画面(ディスプレイ)を備えたコンピュータ装置である。
【0018】
サーバ装置10は、洗浄施工の対象となる空調設備の能力、使用状態に関するデータである空調設備データと、空調設備の洗浄施工前における空調設備の室外機の汚れ度合いに関するデータである施工前データと、空調設備の洗浄施工後における前記空調設備の室外機の汚れ度合いの推定値である施工後推定データとを取得し記憶するデータ格納部11、このデータ格納部11に記憶される空調設備データと施工前データと施工後推定データとに基づいて、洗浄施工前の空調設備の消費電力量に対する、洗浄施工後の前記空調設備の消費電力量の削減量の推定値(電力削減量推定値)を演算処理により求める演算部12、及び当該演算部12で求められた電力削減量推定値を通信ネットワークを介して接続する端末装置20に送信して表示出力させる処理を含む各種制御を実行する制御部14を備える。演算部12及び制御部14は、コンピュータプログラムを実行する演算処理ユニット(CPU)などにより実現される。データ格納部11は、上記各データを記憶する記憶媒体(メモリ)であり、データベース11aを格納する。
【0019】
上記空調設備データ、施工前データ及び施工後推定データの各データは、洗浄施工が実施される前に施工業者による実地調査等によりあらかじめ取得されるが、上記各データは、例えば、サーバ装置10に対して直接入力されることで取得されてよいし、外付けの記憶媒体に入力された上記各データが読み出されることで取得されてよいし、端末装置20に入力された上記各データがサーバ装置に送信されることで取得されてもよい。
【0020】
端末装置20は、サーバ装置10より受信した上記空調設備データ、施工前データ及び施工後推定データの各データなど各種情報を表示出力する出力部(ディスプレイ)21と、サーバ装置10と送受信処理を行うための制御部22とを備える。制御部22は、コンピュータプログラムを実行する演算装置(CPU)などにより実現される。
【0021】
電力削減量推定システムは、上述した通信ネットワークで接続するサーバ装置と端末装置による構成に限らず、例えば、パーソナルコンピュータなどの単体のコンピュータ装置であってもよい。電力削減量推定システムが単体のコンピュータ装置である場合は、そのコンピュータ装置は、上記サーバ装置10のデータ格納部11及び演算部12と、端末装置20の出力部21とを1台で兼ね備えた装置となり、通信ネットワークを介したデータの送受信は不要となり、単体ですべての処理を実行する。
【0022】
図2は、サーバ装置10のデータ格納部11に格納されるデータベース11aのデータ例を示す図である。施工業者が実施予定の洗浄施工業務案件を識別する施工IDが付与され、各施工IDについて、洗浄施工する空調設備の機種・型式及びその台数が登録される。
図2の例では、本発明の技術的思想を端的に説明するために、最もシンプルな例として、1台の空調設備を洗浄施工する場合の電力削減量の取得について説明する。一般的には、施工対象となる空調設備の台数は複数台となり、さらに、異なる機種・型式の空調設備がそれぞれ複数台となるが、その場合は、機種・型式ごとにその台数を登録し、求める値を合算する。
【0023】
図2の例においては、空調設備の能力、使用状態に関するデータである空調設備データとして、空調設備の能力、消費電力、年間運転時間、設備負荷、設計消費電力の項目が登録される。能力(kW)及び消費電力(kW)は、対象の空調設備の冷房能力、暖房能力及びその消費電力の設計値、いわゆるカタログ値であり、冷房と暖房により能力値が異なる場合は、それぞれ分けて登録される。
【0024】
年間運転時間は、1年間における空調設備が稼働している運転時間(運転スイッチONとなっている時間)であり、施工前の段階で施工業者による洗浄施工業務の依頼主へのヒアリングにより取得する。または、依頼主から過去の消費電力量のデータを取得する。冷房と暖房を区別している場合は、それぞれについての運転時間を取得し、合算する。
【0025】
設備負荷は、運転時間中に、空調設備がカタログ値の消費電力で稼働しているとした場合の消費電力量に対して、実際に稼働していると想定される消費電力量の割合である。空調設備は、運転時間のすべての時間帯でカタログ値の消費電力で運転しているわけではなく、設定温度に到達すれば、それを維持するためにフルパワーより低い能力で運転するため、設備負荷の値(割合)を設定することで、実際の消費電力量を見積もることができる。設備負荷は、施工対象の空調設備が設置されている地域の気象条件(寒い地域であるのか、暖かい地域であるのかなど地域の気温)や、配置位置の環境(例えば、日射が強いか弱いか、粉塵が多いかどうか)などから、現地調査等に基づいて施工業者によって概ね判断することができ、例えば30%~60%(0.3~0.6)程度の範囲の数値が設定される。
【0026】
設計電力量は、空調設備の実際の汚れなどを考慮しないカタログ値ベースでの消費電力量であって、以下の(1)式
設計電力量=消費電力×年間運転時間×設備負荷 (1)
により求められる。
【0027】
洗浄施工前における空調設備の消費電力量に関するデータである施工前データとして、汚れ係数、電力量上昇分、施工前電力量の項目が登録される。汚れ係数は、空調設備の室外機の熱交換用フィンに付着している汚れの度合いに応じた係数であり、施工業者の目視や、室外機のフィンに付着している汚れの厚みの計測などにより、例えば、0.1~0.5程度の範囲の数値が設定される。当該汚れ係数の数値は、施工業者の過去の施工実績及び評価・検証に基づいて定められ、設定される。
【0028】
電力量上昇分は、空調設備の汚れに起因して空調設備の効率が低下したことによる消費電力量の上昇分であり、以下の(2)式
電力量上昇分=設計消費電力量×汚れ係数 (2)
により求められる。
【0029】
また、施工前電力量は、洗浄施工前の空調設備の消費電力量であり、以下の(3)式
施工前電力量=設計電力量+電力量上昇分 (3)
により求められる。
【0030】
洗浄施工後における空調設備の推定消費電力量に関するデータである施工後データとして、汚れ除去率、施工後電力量、電力削減量の項目が登録される。これら項目の値はすべて推定値となる。
【0031】
汚れ除去率は、空調設備に付着している汚れを洗浄施工により除去される程度の推定値であり、付着している汚れの程度や種類と洗浄施工により除去可能と予測される汚れ除去の程度から、施工業者が判断し、例えば、100%(残存汚れ0%)~30%(残存汚れ70%)程度の範囲の数値が設定される。
【0032】
施工後消費電力量は、洗浄施工後の空調設備の消費電力量の推定値であり、設定された汚れ除去率を考慮して、以下の(4)式
施工後電力量=設計電力量+電力量上昇分(1-汚れ除去率) (4)
により求められる。上記(4)式における(1-汚れ除去率)は、空調設備の洗浄施工後における室外機の汚れ度合いに応じた所定係数となる。
【0033】
電力削減量は、施工前電力量と施工後電力量の差分で求められる推定値であり、上記(3)式と(4)式の差分式として、以下の(5)式
電力削減量=電力量上昇分×汚れ除去率 (5)
により求められる。
【0034】
なお、演算される電力量に電力料金単価を乗算することにより、電力量に対応する電力料金を求めることができる。
【0035】
さらに、演算される電力量に、二酸化炭素排出係数を乗算することにより、電力量に対応する二酸化炭素排出量を求めることができる。
【0036】
図3は、本発明の実施の形態における電力削減量推定システムにおける登録・出力処理のフローチャートを示す図である。本処理は、サーバ装置10の制御部14及び端末装置20の制御部22により実行される。
【0037】
施工業者の作業員は、端末装置20を操作して、
図2に示した空調設備データである空調設備の能力、消費電力、年間運転時間及び設備負荷のデータ、施工前データである汚れ係数のデータ、施工後データである汚れ除去率のデータを入力し(S100)、それをサーバ装置10に送信する(S102)。
【0038】
サーバ装置10は、端末装置20からのデータを受信すると(S200)、上記(1)~(5)式の演算を実行して電力削減量を求め(S202)、求めた電力削減量を含む演算結果のデータを端末装置20に送信する(S204)。
【0039】
端末装置20は、演算結果データを受信すると(S104)、演算結果を所定のフォーマットにて出力する(S106)。出力方式は、端末装置20の画面表示や、端末装置20に接続する印刷装置からの紙出力であってもよい。
【0040】
電力削減量推定システムが単体のコンピュータ装置である場合は、サーバ装置10と端末装置20間のデータ送受信を除いたすべての処理を単体のコンピュータ装置が実行する。
【0041】
図4及び
図5は、端末装置20に表示出力される電力削減量を含む画面表示例を示す図である。
図4に示す画面例では、演算のために入力されたデータと、その演算結果としての設計電力量、施工前電力量、施工後電力量、電力削減量(施工前電力量-施工後電力量)、及び各電力量に対応する電力料金と二酸化炭素排出量を試算表として表形式のフォーマットで表示出力される。
図5は、円グラフ形式で電力削減量が示される。なお、
図4及び
図5に示されるように、出力表示される電力削減量やそれに対応する電気料金及び二酸化炭素排出量の削減幅は、1円単位ではなく、わかりやすさを優先して、誤差にならない範囲で四捨五入処理などによりある程度丸めた数字として表示されてもよい。好ましくは、
図4及び
図5に示されるように、消費電力量(電力料金、二酸化炭素排出量)の削減量に関して、その削減率の数値が表示出力されてもよい。
【0042】
図6は、演算により求めた電力削減量を検証するための検証処理のフローチャートを示す図である。上述で求めた電力削減量はその推定値であるので、実際の洗浄施工前後の所定期間、洗浄施工した空調設備の消費電力量を計測し、実測値との比較により検証する。
【0043】
洗浄施工前に、あらかじめ施工対象の空調設備の室外機の電源配線部分や配電盤に電力量を計測する電力量計を取り付け(S300)、洗浄施工前の所定期間(例えば1週間程度)、消費電力量を計測し(S302)、計測データ及びその計測期間中の気象条件(気温、湿度、降水量、風速、風向など)を記録する(S304)。なお、
図7は、空調設備の室外機に接続する配電盤に電力量計が取り付けられた状態を示す写真である。
【0044】
所定期間経過後、空調設備の洗浄施工を実施する(S306)。洗浄施工は、以下の作業手順により実施される。本洗浄施工により、平均して約10%程度、空調設備の消費電力量を削減することができる。
(1)フィンブラッシング(ブラシで室外機のフィンの汚れを除去する作業)
(2)水洗浄(水によりフィンの汚れを除去する作業)
(3)薬品洗浄(フィン専用洗浄剤などの化学薬品によりフィンの汚れを除去する作業)
(4)すすぎ(残留する化学薬品(洗浄剤)を水により除去する作業)
(5)リンス処理(中和剤によりフィンを中和処理する作業)
(6)腐食コート処理(腐食防止コート剤によりフィンをコーティング処理し、さらに、フィンに遮熱塗料を塗装する作業)
図8は、洗浄施工前のフィンと洗浄施工後のフィンの状態例を示す写真である。
図8(a)に示される洗浄施工前にフィンに付着していた黒い汚れは、
図8(b)に示されるように、洗浄施工によりきれいに除去されている。
【0045】
洗浄施工の終了後においても、上記S300で取り付けられたままの電力量計により(若しくは、洗浄施工時に電力量計を取り外した場合は、洗浄施工後に、洗浄施工前と同じ位置に電力量計を再度取り付け)、洗浄施工後の所定期間(例えば1週間程度)、消費電力量を計測し(S308)、さらに、洗浄施工前と同様に、計測データ及びその計測期間中の気象条件(気温、湿度など)を記録する(S310)。
【0046】
洗浄施工前と洗浄施工後の計測データから、施工前後の空調設備の消費電力量の実測変化分を求め、上記演算で求めた電力削減量(所定期間の値に換算)の推定値と比較する(S312)。なお、実測変化分に使用する計測データは、施工前後において、気温などの気象条件がほぼ同一の条件の日の計測データを選択し、当該実測変化分を求める。気象条件により、空調設備の消費電力量は大きく異なるため、比較的短期間の計測データの実測変化分を求める場合は、施工前後の気象条件を実質的に同一(例えば、気温差1℃以内とする)の日のものを用いることにより、電力削減量の推定値と正確に比較し、その確かさを検証することができる。
【0047】
なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
1:電力削減量推定システム、10:サーバ装置、11:データ格納部、11a:データベース、12:演算部、14:(サーバ側)制御部、20:端末装置、21:出力部、22:(端末側)制御部