(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120862
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】製鉄ダストの処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/00 20060101AFI20240829BHJP
【FI】
C22B1/00 601
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016625
(22)【出願日】2024-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2023027830
(32)【優先日】2023-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】篠田 万里子
(72)【発明者】
【氏名】山田 令
(72)【発明者】
【氏名】山口 東洋司
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001AA30
4K001BA14
4K001CA03
(57)【要約】
【課題】簡便かつ低コストで製鉄ダストに含まれる亜鉛を分離することができる製鉄ダストの処理方法を提案する。
【解決手段】転炉ダストを含む転炉ダストスラリーと高炉ダストを含む高炉ダストスラリーとを混合して混合ダストスラリーとするダスト混合工程と、混合ダストスラリーを亜鉛の少ない粗粒ダストを含む粗粒ダストスラリーと、亜鉛の多い細粒ダストを含む細粒ダストスラリーとに分離する湿式分級工程と、分離した細粒ダストスラリーを濃縮して濃縮細粒ダストスラリーとする細粒ダスト濃縮工程と、分離した粗粒ダストスラリーに水を混合して希釈して希釈粗粒ダストスラリーとする粗粒ダスト希釈工程と、濃縮細粒ダストスラリーを脱水して細粒ダスト脱水ケーキを得る細粒ダスト脱水工程と、希釈粗粒ダストスラリーを脱水して粗粒ダスト脱水ケーキを得る粗粒ダスト脱水工程とを含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉ダストを含む転炉ダストスラリーと高炉ダストを含む高炉ダストスラリーとを混合して混合ダストスラリーとするダスト混合工程と、
前記混合ダストスラリーを亜鉛の少ない粗粒ダストを含む粗粒ダストスラリーと、亜鉛の多い細粒ダストを含む細粒ダストスラリーとに分離する湿式分級工程と、
分離した前記細粒ダストスラリーを濃縮して濃縮細粒ダストスラリーとする細粒ダスト濃縮工程と、
分離した前記粗粒ダストスラリーに水を混合して希釈して希釈粗粒ダストスラリーとする粗粒ダスト希釈工程と、
前記濃縮細粒ダストスラリーを脱水して細粒ダスト脱水ケーキを得る細粒ダスト脱水工程と、
前記希釈粗粒ダストスラリーを脱水して粗粒ダスト脱水ケーキを得る粗粒ダスト脱水工程と、
を含むことを特徴とする製鉄ダストの処理方法。
【請求項2】
前記ダスト混合工程は、得られる前記混合ダストスラリーのトータルFe(T.Fe)の濃度が25質量%以上60質量%以下になるように行う、請求項1に記載の製鉄ダストの処理方法。
【請求項3】
前記ダスト混合工程は、得られる前記混合ダストスラリーの濃度が5質量%以上40質量%以下になるように行う、請求項1または2に記載の製鉄ダストの処理方法。
【請求項4】
前記湿式分級工程は、湿式サイクロンを用いて行う、請求項1または2に記載の製鉄ダストの処理方法。
【請求項5】
前記細粒ダスト濃縮工程は、得られる前記濃縮細粒ダストスラリーの濃度が10質量%以上50質量%以下になるように行う、請求項1または2に記載の製鉄ダストの処理方法。
【請求項6】
前記粗粒ダスト希釈工程は、得られる前記希釈粗粒ダストスラリーの濃度が10質量%以上50質量%以下になるように行う、請求項1または2に記載の製鉄ダストの処理方法。
【請求項7】
前記粗粒ダスト希釈工程において用いる前記水は、前記細粒ダスト濃縮工程において生じた水である、請求項1または2に記載の製鉄ダストの処理方法。
【請求項8】
前記細粒ダスト脱水工程は、得られる前記細粒ダスト脱水ケーキの含水率が35質量%以下となるように行う、請求項1または2に記載の製鉄ダストの処理方法。
【請求項9】
前記粗粒ダスト脱水工程は、得られる前記粗粒ダスト脱水ケーキの含水率が35質量%以下となるように行う、請求項1または2に記載の製鉄ダストの処理方法。
【請求項10】
前記粗粒ダスト脱水工程において得られた前記粗粒ダスト脱水ケーキを、焼結機もしくは回転炉床炉もしくはロータリーキルンに投入し、鉄源として再利用する、請求項1または2に記載の製鉄ダストの処理方法。
【請求項11】
前記粗粒ダスト脱水工程において得られた前記粗粒ダスト脱水ケーキに、前記細粒ダスト脱水工程において得られた前記細粒ダスト脱水ケーキの少なくとも一部を混練して混合脱水ケーキとし、該混合脱水ケーキを焼結機もしくは回転炉床炉もしくはロータリーキルンに投入して、鉄源として再利用する、請求項1または2に記載の製鉄ダストの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄ダストの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉工程、転炉工程といった製鉄工程で発生するダスト(製鉄ダスト)は、主として鉄を含むため、再び製鉄プロセスに戻してリサイクルする取り組みが古くから行われている。
【0003】
しかしながら、製鉄ダストに鉄とともに含まれる亜鉛により、ダストのリサイクル量には亜鉛による制限が課せられている。なぜなら、亜鉛は高炉内で付着物を形成し、高炉操業に悪影響を及ぼすためである。したがって、製鉄ダストのリサイクル推進のためには、製鉄ダストから亜鉛を除去することが必要となる。
【0004】
また、製鉄プロセスにおけるCO2削減要求の高まりにより、近年鉄スクラップの利用が増加している。鉄スクラップの表面には亜鉛を含むめっきが施されているため、今後は特に、転炉ダストに含まれる亜鉛が増加することが予想される。
【0005】
製鉄ダストから亜鉛を分離する方法は多種多様であるが、例えば簡便な設備で亜鉛を分離できる湿式サイクロン法が広く用いられている。この方法は、製鉄ダスト中の亜鉛は主として微細粒子であるため、製鉄ダストの粗大粒子と微細粒子とを遠心力で篩い分ける(分級する)ことにより、亜鉛を分離回収する方法である。
【0006】
より亜鉛の分離効率を高めることを目的に、例えば特許文献1には、スラリー状の高炉湿ダストに超音波処理を施した後に湿式サイクロンに通し、上側回収物を亜鉛主体回収物、下側回収物を再度湿式サイクロン処理ならびに磁選処理を行うことにより、亜鉛主体回収物と、鉄主体回収物と、カーボン主体回収物とに分別する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の亜鉛回収方法は、亜鉛の分離のために多段の湿式分級処理が必要であり、処理が煩雑である。また、2段目の湿式分級処理前に希釈が必要であるが、1段目の分級処理の結果に応じて適切な希釈濃度を設定しないと期待した亜鉛分離能が得られない懸念がある。さらに、磁着物である金属鉄(M.Fe)や酸化第一鉄(FeO)粒子の表面に物理的もしくは化学的に結合した亜鉛は、磁力選別の際にM.FeやFeOに随伴して鉄主体回収物側に移行して、亜鉛の分離効率が低下することが懸念される。
【0009】
そこで、本発明の目的は、簡便かつ低コストで製鉄ダストに含まれる亜鉛を分離することができる製鉄ダストの処理方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決する方途について鋭意検討した。その結果、まず高炉ダストと転炉ダストとを混合し、次いで前記混合ダストを湿式分級することにより細粒ダストと粗粒ダストとに分級することが極めて有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の要旨構成は以下の通りである。
[1]転炉ダストを含む転炉ダストスラリーと高炉ダストを含む高炉ダストスラリーとを混合して混合ダストスラリーとするダスト混合工程と、
前記混合ダストスラリーを亜鉛の少ない粗粒ダストを含む粗粒ダストスラリーと、亜鉛の多い細粒ダストを含む細粒ダストスラリーとに分離する湿式分級工程と、
分離した前記細粒ダストスラリーを濃縮して濃縮細粒ダストスラリーとする細粒ダスト濃縮工程と、
分離した前記粗粒ダストスラリーに水を混合して希釈して希釈粗粒ダストスラリーとする粗粒ダスト希釈工程と、
前記濃縮細粒ダストスラリーを脱水して細粒ダスト脱水ケーキを得る細粒ダスト脱水工程と、
前記希釈粗粒ダストスラリーを脱水して粗粒ダスト脱水ケーキを得る粗粒ダスト脱水工程と、
を含むことを特徴とする製鉄ダストの処理方法。
【0012】
[2]前記ダスト混合工程は、得られる前記混合ダストスラリーのトータルFe(T.Fe)の濃度が25質量%以上60質量%以下になるように行う、前記[1]に記載の製鉄ダストの処理方法。
【0013】
[3]前記ダスト混合工程は、得られる前記混合ダストスラリーの濃度が5質量%以上40質量%以下になるように行う、前記[1]または[2]に記載の製鉄ダストの処理方法。
【0014】
[4]前記湿式分級工程は、湿式サイクロンを用いて行う、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の製鉄ダストの処理方法。
【0015】
[5]前記細粒ダスト濃縮工程は、得られる前記濃縮細粒ダストスラリーの濃度が10質量%以上50質量%以下になるように行う、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の製鉄ダストの処理方法。
【0016】
[6]前記粗粒ダスト希釈工程は、得られる前記希釈粗粒ダストスラリーの濃度が10質量%以上50質量%以下になるように行う、前記[1]~[5]のいずれか一項に記載の製鉄ダストの処理方法。
【0017】
[7]前記粗粒ダスト希釈工程において用いる前記水は、前記細粒ダスト濃縮工程において生じた水である、前記[1]~[6]のいずれか一項に記載の製鉄ダストの処理方法。
【0018】
[8]前記細粒ダスト脱水工程は、得られる前記細粒ダスト脱水ケーキの含水率が35質量%以下となるように行う、請求項前記[1]~[7]のいずれか一項に記載の製鉄ダストの処理方法。
【0019】
[9]前記粗粒ダスト脱水工程は、得られる前記粗粒ダスト脱水ケーキの含水率が35質量%以下となるように行う、請求項前記[1]~[8]のいずれか一項に記載の製鉄ダストの処理方法。
【0020】
[10]前記粗粒ダスト脱水工程において得られた前記粗粒ダスト脱水ケーキを、焼結機もしくは回転炉床炉もしくはロータリーキルンに投入し、鉄源として再利用する、前記[1]~[9]のいずれか一項に記載の製鉄ダストの処理方法。
【0021】
[11]前記粗粒ダスト脱水工程において得られた前記粗粒ダスト脱水ケーキに、前記細粒ダスト脱水工程において得られた前記細粒ダスト脱水ケーキの少なくとも一部を混練して混合脱水ケーキとし、該混合脱水ケーキを焼結機もしくは回転炉床炉もしくはロータリーキルンに投入して、鉄源として再利用する、前記[1]~[9]のいずれか一項に記載の製鉄ダストの処理方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡便かつ低コストで製鉄ダストに含まれる亜鉛を分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明による製鉄ダストの処理方法の好適な一例のフローチャートを示す図である。
【
図2】混合ダストスラリーのT.Fe濃度と転炉ダストに対する高炉ダストの質量比との相関を示す図である。
【
図3】混合ダストスラリーのT.Fe濃度と粗粒ダストスラリーのT.Fe濃度との相関を示す図である。
【
図4】本発明による製鉄ダストの処理方法の好適な別の例のフローチャートを示す図である。
【
図5】本発明による製鉄ダストの処理方法の好適なさらに別の例のフローチャートを示す図である。
【
図6】比較例に用いた製鉄ダストの処理方法のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(製鉄ダストの処理方法)
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明による製鉄ダストの処理方法の好適な一例のフローチャートを示している。本発明による製鉄ダストの処理方法は、転炉ダストを含む転炉ダストスラリーと高炉ダストを含む高炉ダストスラリーとを混合して混合ダストスラリーとするダスト混合工程(ステップS1)と、混合ダストスラリーを亜鉛の少ない粗粒ダストを含む粗粒ダストスラリーと、亜鉛の多い細粒ダストを含む細粒ダストスラリーとに分離する湿式分級工程(ステップS2)と、分離した細粒ダストスラリーを濃縮して濃縮細粒ダストスラリーとする細粒ダスト濃縮工程(ステップS3)と、分離した粗粒ダストスラリーに水を混合して希釈して希釈粗粒ダストスラリーとする粗粒ダスト希釈工程(ステップS4)と、濃縮細粒ダストスラリーを脱水して細粒ダスト脱水ケーキを得る細粒ダスト脱水工程(ステップS5)と、希釈粗粒ダストスラリーを脱水して粗粒ダスト脱水ケーキを得る粗粒ダスト脱水工程(ステップS6)とを含むことを特徴とする。
【0025】
本発明者らは、簡便かつ低コストで製鉄ダストに含まれる亜鉛を分離する方法について鋭意検討した。高炉ダストならびに転炉ダストは通常、スクラバー等でスラリーとして回収される。本発明者らは、高炉ダストのみを含む高炉ダストスラリー、高炉ダストと転炉ダストとの混合ダストを含む混合ダストスラリー、転炉ダストのみを含む転炉ダストスラリーをそれぞれ湿式サイクロンに流通して、亜鉛の多い細粒ダストを含む細粒ダストスラリーと、亜鉛の少ない粗粒ダストを含む細粒ダストスラリーとに分級し、その挙動を調査した。
【0026】
その結果、高炉ダストスラリーのみを流通した場合、および高炉ダストと転炉ダストとの混合ダストスラリーを流通した場合には、亜鉛が細粒ダストスラリー側に濃化したのに対し、転炉ダストスラリーのみを流通した場合には、亜鉛が細粒ダストスラリー側にほとんど濃化しなかった。これは、転炉ダストスラリーに含まれる鉄系粒子の粒径と亜鉛の粒径とが近いためと考えられた。また、粗粒ダストスラリー中の鉄の濃度は、高い順に転炉ダストスラリー、高炉ダストと転炉ダストとを含む混合ダストスラリー、高炉ダストスラリーであった。
【0027】
さらに、サイクロン分級前後の金属鉄(以下、「M.Fe」と記す。)濃度を分析したところ、表1に示すように、いずれの水準においてもサイクロン流通前に比べ、粗粒ダストスラリーのM.Fe濃度が上昇しており、特にM.Feが粗粒側に濃化していることが分かった。また、トータルFe(以下、「T.Fe」と記す。)に対するM.Feの割合を計算すると、粗粒ダストは、サイクロン流通前に比べてT.Feに対するM.Feの割合が上昇していることが明らかとなった。この事実は、鉄源として高炉に戻した際に還元剤比(コークスや補助燃料の使用量)の低減が見込め、鉄源としての価値が向上していることを示唆している。すなわち、亜鉛の分離と鉄源としてのリサイクルメリットとを両立するには、高炉ダストスラリーと転炉ダストスラリーとを混合して混合ダストスラリーとし、得られた混合ダストスラリーを湿式サイクロンに流通すればよいということが分かった。
【0028】
【0029】
ただし、高炉ダストスラリーおよび転炉ダストスラリーの濃度は操業状況によって変動することから、単純な流量制御等では一定の混合比に保つことは困難である。しかしながら、本発明者らの調査により、
図2に示すように、混合ダストスラリーのT.Feの濃度と、転炉ダストに対する高炉ダストの質量比(高炉ダスト/転炉ダスト)には一定の相関があることが明らかとなった。この相関を参考に高炉ダストスラリーと転炉ダストスラリーとの混合比を調整して湿式サイクロンに導入したところ、得られる混合ダストスラリーのT.Fe濃度が25質量%以上60質量%以下、より好ましくは30質量%以上55質量%以下とすることによって、亜鉛を効率よく分離できることが明らかとなった。
【0030】
このように、本発明者らは、高炉ダストスラリーと転炉ダストスラリーとを混合して混合ダストスラリーとし、得られた混合ダストスラリーを湿式分級処理することにより、簡便かつ低コストに亜鉛を分離できることを見出し、本発明を完成させたのである。以下、各工程について説明する。
【0031】
<ダスト混合工程>
まず、ステップS1にて、転炉ダストを含む転炉ダストスラリーと高炉ダストを含む高炉ダストスラリーとを混合して混合ダストスラリーとする(ダスト混合工程)。
【0032】
高炉ダストスラリーと転炉ダストスラリーとの混合比は、これらのダストスラリーの質量比や体積比ではなく、混合ダストスラリーのT.Fe濃度で規定することが好ましい。これは、高炉ならびに転炉の操業状況によって、これらのダストのT.Fe濃度が変動するためである。本工程は、得られる混合ダストスラリーのT.Fe濃度が60質量%以下になるように行うことが好ましい。これは、混合ダストスラリーのT.Fe濃度が60質量%を超えると、転炉ダストの比率が高いことが想定されるため、亜鉛と鉄系粒子との粒度差が小さくなり、分級効率が低下するためである。分級効率の観点からは、本工程は、混合ダストスラリーのT.Fe濃度が55質量%以下になるように行うことがより好ましい。しかしながら、混合ダストスラリーのT.Fe濃度をあまり下げすぎると、亜鉛とそれ以外の元素との比重差が小さくなるため、後段の湿式サイクロンの分級効率が低下する。また、
図3に示すように、混合ダストスラリーのT.Fe濃度を下げすぎると、得られる粗粒ダストスラリーのT.Fe濃度が低下し、鉄源としての価値が低下することも懸念される。よって、本工程は、混合ダストスラリーのT.Fe濃度が25質量%以上になるように行うことが好ましく、30質量%以上になるように行うことがより好ましい。
【0033】
また、本工程は、後段の湿式分級工程を考慮し、得られる混合ダストスラリーの濃度が5質量%以上40質量%以下になるように行うことが好ましい。また、本工程は、T.Fe濃度を60質量%以下にしつつ、混合ダストスラリーの濃度が5質量%以上40質量%以下になるように行うことがより好ましい。なお、本明細書において、「混合ダストスラリーの濃度」は、混合ダストスラリーの総質量に対する混合ダスト(固形分)の質量の割合を意味している。
【0034】
転炉ダストスラリーと高炉ダストスラリーとを混合する方法は特に限定されないが、一般的な攪拌槽ならびに撹拌機を用いて、高炉ダストスラリーと転炉ダストスラリーとがなるべく均一に混合されるように混合することが好ましい。
【0035】
<湿式分級工程>
次いで、ステップS2にて、混合ダストスラリーを亜鉛の少ない粗粒ダストを含む粗粒ダストスラリーと、亜鉛の多い細粒ダストを含む細粒ダストスラリーとに分離する(湿式分級工程)。
【0036】
本工程では、混合ダストスラリーを粗粒ダスト(低亜鉛ダスト)スラリーと細粒ダスト(高亜鉛ダスト)スラリーとに分別(粒度分級)する。なお、本発明において、「粗粒ダスト」は、粒径が20μm以上のダスト、「細粒ダスト」は、粒径が20μm未満のダストをそれぞれ意味している。
【0037】
粒度分級は、篩を用いたり流体中の粒子の沈降速度や移動速度の差を利用したりして(流体分級)行うことができる。流体分級は、重力を用いる方式と遠心力を用いる方式とに大別される。分級の手法は特に限定されないが、流体分級、中でも遠心力を利用する湿式サイクロンを用いることが好ましい。
【0038】
後述の通り、亜鉛は数μm程度の微細粒子として存在する。篩を用いて分級する場合、篩目を数μmとすれば、亜鉛を選択的に回収できるが、篩目が非常に細かいため目詰まりを起こしやすく、安定的な処理が難しいことが課題である。
【0039】
また、重力を用いる方式は、沈降速度の差を利用して分級を行う。しかし、混合ダストの全量を重力沈降で分級しようとすると、巨大な沈降槽が必要となること、分級精度が不十分であることが課題である。
【0040】
それに対し、湿式サイクロンは、小規模な設備で多量のスラリーを分級可能な点で優れている。また、例えばPlitt, L. R.: A mathematical model of the hydrocyclone classifier, CIM Bulletin (1976), pp.114-123.に記載された式を用いることにより、分級粒径を推算可能である。すなわち、上記文献に記載された式を参考に、サイクロンの下部出口径や入口流量、スラリー濃度等を適切に設定すれば、分級性能を容易に制御可能である利点をも有している。以上の理由から、本工程は、湿式サイクロンを用いて行うことが好ましい。
【0041】
湿式サイクロンに供給する混合ダストスラリーの濃度は特に限定されないが、濃度が低すぎると、必要なサイクロンの台数が増加して設備効率が低下する。反対に、混合ダストスラリーの濃度が高すぎると閉塞等の設備トラブルの要因になる。そのため、上述のように、混合ダストスラリーの濃度を5質量%以上40質量%以下に調整してから湿式サイクロンに供給することが好ましい。混合ダストスラリーの濃度を5質量%以上40質量%以下の範囲におけるどの濃度に調整するかについては、非特許文献1の式等を参考に決定することが好ましい。
【0042】
混合ダストスラリーを湿式サイクロンに流通すると、比重および粒子径が大きいものほど湿式サイクロンの壁面側に、比重および粒子径の小さいものほど湿式サイクロンの中心部に存在する。そして、中心部に存在する微細で比重の小さな粒子は、湿式サイクロン内の上昇流に乗り、湿式サイクロン上部より細粒ダストを含む細粒ダストスラリーとして回収される。それに対して、湿式サイクロン壁面側に存在する粗大で比重の大きな粒子は、湿式サイクロン内の下降流に乗り、粗粒ダストを含む粗粒ダストスラリーとして回収される。
【0043】
高炉ならびに転炉で揮発した亜鉛は、一般に数μm程度の微細粒子として存在し、かつ比重も鉄に比べ小さい傾向がある。そのため、粗粒ダストに比べ細粒ダストに亜鉛がより多く含まれることとなる。それに対して、鉄、特に金属鉄は亜鉛に比べ比重が大きいことから粗粒ダスト側に多く移行する傾向がある。すなわち、粗粒ダストは、湿式サイクロン流通前の高炉ダストに比べて亜鉛濃度が低減していることから、製鉄原料として再利用が可能となる。
【0044】
<細粒ダスト濃縮工程>
続いて、ステップS3にて、分離した細粒ダストスラリーを濃縮して濃縮細粒ダストスラリーとする(細粒ダスト濃縮工程)。
【0045】
細粒ダストスラリーは、湿式分級前の混合ダストスラリーに比べ濃度が低く、濃縮を行わずに後段の細粒ダスト脱水工程において脱水機に移送すると、脱水効率が悪い。そこで、細粒ダスト脱水工程に搬送する前に、細粒ダストスラリーを濃縮して濃度を高める。本工程は、細粒ダストスラリー中の水を一定量排出することにより行う。
【0046】
濃縮の方法については特に限定されないが、例えば沈降槽による濃縮が挙げられる。具体的には、細粒ダストスラリーを沈降槽に導入して細粒ダストを沈降させ、得られた上澄水をオーバーフローにより排出し、固形分である細粒ダストを槽の下側から引き抜くことにより、濃度を高めることができる。
【0047】
濃縮後の細粒ダストスラリーである濃縮細粒ダストスラリーの濃度については、濃縮が高すぎる場合にはハンドリング性が悪化することから、本工程は、得られる濃縮細粒ダストスラリーの濃度が10質量%以上50質量%以下となるように行うことが好ましく、20質量%以上40質量%以下となるように行うことがより好ましい。なお、本明細書において、「濃縮細粒ダストスラリーの濃度」は、濃縮細粒ダストスラリーの総質量に対する細粒ダスト(固形分)の質量の割合を意味している。
【0048】
<粗粒ダスト希釈工程>
ステップS3と並行して、ステップS4にて、分離した粗粒ダストスラリーに水を混合して希釈して希釈粗粒ダストスラリーとする(粗粒ダスト希釈工程)。
【0049】
粗粒ダストスラリーは、細粒ダストスラリーとは対照的にスラリー濃度が非常に高く、搬送過程で設備閉塞等のトラブルを起こすおそれがある。そのため、本工程では、ハンドリングしやすい濃度まで粗粒ダストスラリーの希釈を行う。
【0050】
希釈後の粗粒ダストスラリーである希釈粗粒ダストスラリーの濃度については、濃度が低すぎても後段の脱水効率が悪い。そのため、本工程は、得られる希釈粗粒ダストスラリーの濃度が10質量%以上50質量%以下になるように行うことが好ましく、20%以上40%以下になるように行うことがより好ましい。なお、本明細書において、「希釈粗粒ダストスラリーの濃度」は、希釈粗粒ダストスラリーの総質量に対する粗粒ダスト(固形分)の質量の割合を意味している。
【0051】
希釈に用いる水として、新たに工業用水等を用いてもよいが、水資源の節約の観点から、細粒ダストスラリーを濃縮した際に発生する水を活用することが好ましく、例えば
図4に示すように、細粒ダストスラリーを沈降槽において濃縮した際に発生する上澄水を活用することがより好ましい。希釈する際には、粗粒ダストスラリーと水とを攪拌槽で均一になるまで攪拌することが好ましい。
【0052】
なお、ステップS3の細粒ダスト濃縮工程と、ステップS4の粗粒ダスト希釈工程は、上述のように並行して同時に行ってもよいし、いずれか一方の工程を先に行い、他方の工程を後に行ってもよい。
【0053】
<細粒ダスト脱水工程>
ステップS3の後、ステップS5にて、濃縮細粒ダストスラリーを脱水して、細粒ダスト脱水ケーキを得る(細粒ダスト脱水工程)。
【0054】
本工程では、濃縮細粒ダストスラリー中の水を機械的に取り除くことによりスラリーの含水率を低減し、残渣である細粒ダスト脱水ケーキを得る。濃縮細粒ダストスラリーの脱水の方法は特に限定されないが、圧搾によりスラリー中の水分を絞るフィルタプレス、遠心力により水と固形分とに分離して水を排出することにより脱水を行う遠心脱水等を用いることができる。
【0055】
本工程において得られる細粒ダスト脱水ケーキの含水率が高いと、搬送用の車両のバケット等にダストが付着し歩留が悪化する。そのため、本工程は、細粒ダスト脱水ケーキの含水率が35質量%以下となるように行うことが好ましい。逆に、含水率を下げすぎると搬送中に微粉が舞うおそれがある。そのため、本工程は、細粒ダスト脱水ケーキの含水率が10質量%以上となるように行うことが好ましい。
【0056】
<粗粒ダスト脱水工程>
ステップS4の後、ステップS6にて、希釈粗粒ダストスラリーを脱水して、粗粒ダスト脱水ケーキを得る(粗粒ダスト脱水工程)。
【0057】
本工程では、希釈粗粒ダストスラリー中の水を機械的に取り除くことによりスラリーの含水率を低減し、残渣である粗粒ダスト脱水ケーキを得る。希釈粗粒ダストスラリーの脱水の方法は、濃縮細粒ダストスラリーの場合と同様に限定されず、フィルタプレス、遠心脱水等を用いることができる。粗粒ダスト脱水ケーキの含水率についても、細粒ダスト脱水ケーキ同様である。そのため、本工程は、粗粒ダスト脱水ケーキの含水率が35質量%以下となるように行うことが好ましい。また、本工程は、粗粒ダスト脱水ケーキの含水率が10質量%以上となるように行うことが好ましい。
【0058】
なお、粗粒ダストについては、分級前に比べ亜鉛の濃度が低減している。そのため、粗粒ダスト脱水工程において得られた粗粒ダスト脱水ケーキを、ステップS7において、焼結機もしくは回転炉床炉もしくはロータリーキルンに投入し、鉄源として再利用することが可能である。
【0059】
あるいは、高炉の亜鉛装入上限に余力がある場合には、
図5に示すように、亜鉛装入上限に達するまで、粗粒ダスト脱水工程において得られた粗粒ダスト脱水ケーキに、細粒ダスト脱水工程で得られた細粒ダスト脱水ケーキの少なくとも一部を混練して混合ダスト脱水ケーキとし、該混合ダスト脱水ケーキを、焼結機もしくは回転炉床炉もしくはロータリーキルンに投入し、鉄源として再利用することも可能である。このような操作を行うことにより、粗粒ダストのみを再利用する場合と比べ、ダストのリサイクル量を増加させることが可能である。
【実施例0060】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0061】
(実施例1)
図1に示したフローに従い、高炉ダストスラリーと転炉ダストスラリーとをT.Fe濃度が55質量%以下になるように混合した(ダスト混合工程)。次いで、得られた混合ダストスラリーを湿式サイクロンに流通し、細粒ダストスラリーと粗粒ダストスラリーとに分離した(湿式分級工程)。得られた細粒ダストスラリーは沈降槽を用いて濃縮を行った後(細粒ダスト濃縮工程)、フィルタプレスで脱水を行って細粒ダスト脱水ケーキを得た(細粒ダスト脱水工程)。一方、粗粒ダストについては、工業用水で希釈を行った後(粗粒ダスト希釈工程)、細粒ダストと同様にフィルタプレスで脱水を行って粗粒ダスト脱水ケーキを得た(粗粒ダスト脱水工程)。得られた細粒ダスト脱水ケーキおよび粗粒ダスト脱水ケーキの一部をサンプリングし、全Zn(T.Zn)およびT.Fe濃度の測定を行った。
【0062】
表2に、混合ダストスラリーおよび湿式分級工程後に得られた粗粒ダストスラリーおよび細粒ダストスラリーのT.ZnおよびT.Fe濃度、M.Fe濃度、ならびにスラリー濃度、脱水ケーキの含水率を示す。また、表2に、T.Zn濃度より以下の式で計算をしたZn除去率も併記する。ここで定義する「Zn除去率」とは、混合ダストに含まれるZnを100とした時に細粒ダストスラリー側に移行するZnの割合を示したものである。
【数1】
【0063】
【0064】
表2に示す通り、混合ダストスラリーに含まれるZnの61.8%を除去することができた。
【0065】
また、表2に、T.Fe濃度およびM.Fe濃度より以下の式で計算をしたT.Feに含まれるM.Feの割合も併記する。
【数2】
【0066】
表2に示すとおり、粗粒ダストにおけるT.Feに占めるM.Feの割合は、サイクロン流通前(混合ダストスラリー)と比べて高い値を示すことが分かった。すなわち、鉄源として高炉に戻した際に還元剤比(コークスや補助燃料の使用量)の低減が見込めることが分かった。
【0067】
(実施例2)
実施例1と同様に、製鉄ダストに対して処理を行った。ただし、
図4に示すフローに従って行い、粗粒ダスト希釈工程において粗粒ダストスラリーの希釈に用いる水の一部として、細粒ダスト濃縮工程において発生した上澄水を用いた。その他の条件は、実施例1と全て同じである。
【0068】
表3に、各スラリーの濃度、T.Zn濃度、T.Fe濃度、M.Fe濃度およびZn除去率、各脱水ケーキの含水率、T.Feに占めるM.Feの割合を示す。
【0069】
また、表4に、粗粒ダスト希釈工程において用いた工業用水の量を、実施例1と実施例2とで比較した結果を示す。
【0070】
表3に示す通り、
図4に示したフローに従った方法においても、Zn除去率は71.0%と高いことが分かった。また、実施例1と同様に、粗粒ダストにおけるT.Feに占めるM.Feの割合は、サイクロン流通前(混合ダストスラリー)と比べて高い値を示していた。さらに表4に示すように、粗粒ダストの希釈に用いた工業用水の使用量が約30%減少しており、
図4に示すフローに従ってダストを処理することにより、工業用水の使用量の削減も可能なことが分かった。
【0071】
【0072】
【0073】
(実施例3)
実施例1と同様に、製鉄ダストに対して処理を行った。ただし、
図5に示すフローに従って行い、粗粒ダスト希釈工程において粗粒ダストスラリーの希釈に用いる水の一部として、細粒ダスト濃縮工程において発生した上澄水を用いた。また、得られた粗粒ダスト脱水ケーキは、全量焼結工程を経て高炉へ鉄源としてリサイクルを行った。一方、得られた細粒ダスト脱水ケーキは、高炉の亜鉛装入上限に達するまで粗粒ダストに混合して高炉へと装入を行った。その他の条件は、実施例1と全て同じである。
【0074】
表5にダストのリサイクル量の比較を示す。なお、ダストリサイクル量は実施例1および2を1とした時の相対値で示している。
【0075】
【0076】
表5に示すように、
図5に示すフローに従うことにより、ダストリサイクル量を1.4倍に増加させることができる。
【0077】
(比較例)
実施例1と同様に、製鉄ダストに対して処理を行った。ただし、
図6に示すフローに従って行い、ダスト混合工程は行わず、高炉ダストスラリーと転炉ダストスラリーとを別々に湿式分級工程に搬送して湿式サイクロンに流通した。その他の条件は、実施例1と全て同じである。
【0078】
表6に、高炉ダストスラリーについて、各スラリーの濃度、T.Zn濃度、T.Fe濃度およびZn除去率、各脱水ケーキの含水率を示す。また、表7に、転炉ダストスラリーについて、各スラリーの濃度、T.Zn濃度、T.Fe濃度、M.Fe濃度およびZn除去率、各脱水ケーキの含水率、T.Feに占めるM.Feの割合を示す。
【0079】
【0080】
【0081】
表6に示すように、高炉ダストスラリーのZn除去率は70.5%と高かった。一方、表7に示すように、転炉ダストスラリーのZn除去率は47.5%と低位であることが分かった。これは、転炉ダストスラリー中のZnとFeとで粒度差が小さいため、ZnとFeとが混在して分級されたためと推察した。
【0082】
一方、高炉ダストスラリーは、元のM.Fe濃度が低いため、粗粒ダストにおいてM.Feが多少濃縮するものの、その濃度は0.3%と低く、Fe源としての価値はサイクロン流通前に比べほとんど向上しないことが明らかとなった。
【0083】
このように、本発明により、高炉ダストおよび転炉ダストから簡便かつ低コストで亜鉛を分離することが可能となった。