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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120870
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】植物細菌病の防除剤およびその利用
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/06 20060101AFI20240829BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240829BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
A01N59/06 Z
A01P3/00
A01N25/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024022739
(22)【出願日】2024-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2023027568
(32)【優先日】2023-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100195062
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 涼子
(72)【発明者】
【氏名】篠原 弘亮
(72)【発明者】
【氏名】岩波 徹
(72)【発明者】
【氏名】キム オッキョン
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011BB16
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】植物細菌病に対する防除において、新たな技術を提供する。
【解決手段】植物細菌病の防除剤は、水酸化マグネシウムを含み、植物細菌病の防除方法は、水酸化マグネシウムを含む組成物を、土壌に植えられた植物体に散布する工程を含み、植物の生産方法は、植物細菌病を防除するために、水酸化マグネシウムを含む組成物を、土壌に植えられた植物体に散布する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物細菌病の防除剤であって、
水酸化マグネシウムを含む、
防除剤。
【請求項2】
請求項1に記載の防除剤において、
前記植物細菌病は、グラム陰性菌による病害である、
防除剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の防除剤において、
前記植物細菌病は、Xanthomonas属菌による病害である、
防除剤。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の防除剤において、
前記植物細菌病は、モモせん孔細菌病である、
防除剤。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の防除剤において、
前記植物細菌病は、アブラナ科黒腐病である、
防除剤。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の防除剤において、
前記水酸化マグネシウム濃度が0.03g/L以上3g/L以下の溶液として用いられる、
防除剤。
【請求項7】
植物細菌病の防除方法であって、
水酸化マグネシウムを含む組成物を、土壌に植えられた植物体に散布する工程を含む、
植物細菌病の防除方法。
【請求項8】
植物の生産方法であって、
植物細菌病を防除するために、水酸化マグネシウムを含む組成物を、土壌に植えられた植物体に散布する工程を含む、
植物の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植物細菌病の防除剤およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
農業生産においては、植物細菌病の防除剤が農薬として用いられることがある。例えば、特許文献1には、防除剤として、ストレプトマイシンやカスガマイシン等の抗生物質や、水酸化第二銅や塩基性塩化銅等の銅剤について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-188368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、抗生物質や銅剤は、植物細菌病に対する防除効果が十分であるとは言えなかった。したがって、植物細菌病に対する防除において、新たな技術が求められていた。なお、一般に、培地上で培養した病原細菌に対して生育抑制効果が認められる組成物があったとしても、実際の植物栽培において防除効果が認められることは稀であり、有用な防除剤の開発が困難であるのが実情である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、植物細菌病の防除剤が提供される。この防除剤は、水酸化マグネシウムを含む。この形態の防除剤によれば、水酸化マグネシウムを含むことにより、植物細菌病に対して防除効果を有するので、植物細菌病に対する防除において新たな技術を提供できる。
【0007】
(2)上記(1)に記載の防除剤において、前記植物細菌病は、グラム陰性菌による病害であってもよい。この形態の防除剤によれば、グラム陰性菌による植物細菌病の防除に利用できる。
【0008】
(3)上記(1)または上記(2)に記載の防除剤において、前記植物細菌病は、Xanthomonas属菌による病害であってもよい。この形態の防除剤によれば、Xanthomonas属菌による植物細菌病の防除に利用できる。
【0009】
(4)上記(1)から上記(3)までのいずれか一項に記載の防除剤において、前記植物細菌病は、モモせん孔細菌病であってもよい。この形態の防除剤によれば、モモせん孔細菌病の防除に利用できる。
【0010】
(5)上記(1)から上記(3)までのいずれか一項に記載の防除剤において、前記植物細菌病は、アブラナ科黒腐病であってもよい。この形態の防除剤によれば、アブラナ科黒腐病の防除に利用できる。
【0011】
(6)上記(1)から上記(5)までのいずれか一項に記載の防除剤において、前記水酸化マグネシウム濃度が0.03g/L以上3g/L以下の溶液として用いられてもよい。この形態の防除剤によれば、防除効果の低下を抑制しつつ、植物体への薬害の発生を抑制できる。
【0012】
(7)本開示の他の形態によれば、植物細菌病の防除方法が提供される。この防除方法は、水酸化マグネシウムを含む組成物を、土壌に植えられた植物体に散布する工程を含む。この形態の防除方法によれば、水酸化マグネシウムを含む組成物を散布することにより、植物細菌病に対して防除効果を有するので、植物細菌病に対する防除において新たな技術を提供できる。
【0013】
(8)本開示の他の形態によれば、植物の生産方法が提供される。この生産方法は、植物細菌病を防除するために、水酸化マグネシウムを含む組成物を、土壌に植えられた植物体に散布する工程を含む。この形態の生産方法によれば、水酸化マグネシウムを含む組成物を散布することにより、植物細菌病に対して防除効果を有するので、植物の生産性の低下を抑制できる。
【0014】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能である。例えば、植物細菌病の防除組成物、植物細菌病を防除するための水酸化マグネシウムの利用、野菜の生産方法、果実の生産方法、穀物の生産方法、農産物の生産方法等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の一実施形態によれば、植物細菌病の防除剤が提供される。この防除剤は、水酸化マグネシウム(Mg(OH))を含む。この防除剤によれば、植物細菌病に対する防除効果を有するので、植物細菌病に対する防除において新たな技術を提供できる。ここで、一般に、農薬の使用によって植物細菌病の病原細菌が耐性化する現象が顕著となってきており、防除効果の低下が問題となっている。また、植物細菌病に対しては、糸状菌病とは異なり、防除効果の認められる農薬が極めて少ないという問題もある。これに対し、本開示の防除剤によれば、植物に使用する農薬の選択肢を増やすことができ、また、薬剤耐性菌に対する防除効果の低下を抑制できる。また、植物細菌病の防除により、植物の生産性の低下を抑制できるので、植物の安定生産に寄与できる。
【0016】
植物細菌病としては、特に限定されないが、グラム陰性菌による病害やグラム陽性菌による病害等が挙げられる。本開示の防除剤における植物細菌病の防除効果には、植物病原菌の感染を抑制または阻害する効果、増殖を抑制または阻害する効果、および死滅させる効果が含まれ得る。本開示の防除剤が、植物細菌病に対して防除効果を有するメカニズムは、定かではない。しかしながら、推定メカニズムとしては、pHの上昇や活性酸素種の生成、細菌の外膜電位の変化や外膜構造の破損が関与している可能性が挙げられる。また、病原細菌が細胞外に毒物を排出する機構において、水酸化マグネシウムが関わっている可能性があり、防除剤が水酸化マグネシウムを有効成分として含むことにより、この機構に何らかの影響を与えていることも挙げられる。
【0017】
グラム陰性菌による病害としては、特に限定されないが、例えば、Xanthomonas属菌による病害、Pseudomonas属菌による病害、Erwinia属菌による病害等が挙げられる。なお、以下の説明において、植物細菌病の病名に続いて括弧書きで記載した細菌名は、その植物細菌病の主な病原細菌を示している。
【0018】
Xanthomonas属菌による病害としては、特に限定されないが、例えば、アブラナ科黒腐病(Xanthomonas campestris pv. campestris)、キャベツ斑点細菌病(Xanthomonas campestris pv. raphani)、ハクサイ斑点細菌病(Xanthomonas campestris pv. raphani)レタス斑点細菌病(Xanthomonas campestris pv. vitians)、トマト斑点細菌病(Xanthomonas campestris pv.vesicatoria)、キュウリ褐斑細菌病(Xanthomonas campestris pv. cucurbitae)、スイカ褐斑細菌病(Xanthomonas campestris pv. cucurbitae)、メロン褐斑細菌病(Xanthomonas campestris pv. cucurbitae)、イチゴ角斑細菌病(Xanthomonas fragariae)、モモせん孔細菌病(Xanthomonas arboricola pv. pruni)、アンズせん孔細菌病(Xanthomonas arboricola pv. pruni)、スモモ黒斑病(Xanthomonas arboricola pv. pruni)、カンキツかいよう病(Xanthomonas citri subsp. citri)、マンゴーかいよう病(Xanthomonas campestris pv. mangiferaeindicae)、イネ白葉枯病(Xanthomonas oryzae pv. oryzae)、ダイズ葉焼病(Xanthomonas campestris pv. glycines)、サトウキビ白すじ病(Xanthomonas albilineans)等が挙げられる。なお、アブラナ科黒腐病としては、例えば、キャベツ黒腐病、ハクサイ黒腐病、ブロッコリー黒腐病、ダイコン黒腐病、チンゲンサイ黒腐病、コマツナ黒腐病、カリフラワー黒腐病、シロイヌナズナ黒腐病等が該当する。
【0019】
Pseudomonas属菌による病害としては、特に限定されないが、例えば、アブラナ科黒斑細菌病(Pseudomonas syringae pv. maculicola、Pseudomonas cannabina pv. alisalensis)、アブラナ科の腐敗病(Pseudomonas marginalis pv. marginalis、Pseudomonas viridiflava)、果樹の褐斑細菌病(Pseudomonas syringae pv. syringae)、ウリ類の斑点細菌病(Pseudomonas syringae pv. lachrymans)、ウリ類の縁枯細菌病(Pseudomonas viridiflava)、シバかさ枯病(Pseudomonas syringae pv. atropurpurea)、シバ葉鞘腐敗病(Pseudomonas fuscovaginae)、レタス腐敗病(Pseudomonas cichorii、Pseudomonas marginalis pv. marginalis、Pseudomonas viridiflava)やショウガ等の腐敗病(Pseudomonas marginalis pv. marginalis)、ウメかいよう病(Pseudomonas syringae pv. morsprunorum)、キウイフルーツかいよう病(Pseudomonas syringae pv. actinidiae)、ダイズ斑点細菌病(Pseudomonas savastanoi pv. glycinea)、ニンニク春腐病(Pseudomonas cichorii, Pseudomonas marginalis pv. marginalis、Pseudomonas salomonii)等が挙げられる。
【0020】
Erwinia属菌による病害としては、特に限定されないが、例えば、野菜類の軟腐病(Erwinia carotovora subsp. carotovora)、コンニャク腐敗病(Erwinia carotovora subsp. carotovora)、イネ内頴褐変病(Erwinia herbicola)、イネ内頴褐変病(Erwinia herbicola)、バラ科火傷病(Erwinia amylovora)等が挙げられる。
【0021】
その他のグラム陰性菌による病害としては、特に限定されないが、例えば、Burkholderia属菌によるイネもみ枯細菌病(Burkholderia gladioli、Burkholderia glumae)、イネ苗立枯細菌病(Burkholderia plantarii)等の病害、Acidovorax属菌によるイネ褐条病(Acidovorax avenae subsp. avenae)等の病害、Ralstonia属菌、Agrobacterium属菌による病害等が挙げられる。
【0022】
グラム陽性菌による病害としては、特に限定されないが、例えば、Clavibacter属菌による病害等が挙げられる。
【0023】
Clavibacter属菌による病害としては、特に限定されないが、例えば、トマトかいよう病(Clavibacter michiganensis subsp. Michiganensis)、トウモロコシ葉枯細菌病(Clavibacter michiganensis subsp. nebraskensis)等が挙げられる。
【0024】
本開示の防除剤は、グラム陰性菌による病害に用いられることが好ましく、Xanthomonas属菌、Pseudomonas属菌、Erwinia属菌からなる群より選ばれる少なくとも一種による病害に用いられることがより好ましく、Xanthomonas属菌による病害に用いられることがさらに好ましい。本開示の防除剤は、上記病原細菌による病害の中でも、モモせん孔細菌病やアブラナ科黒腐病に特に好適する。
【0025】
本開示の防除剤は、種々の植物における植物細菌病の防除に用いることができる。植物としては、特に限定されず、野菜や果実、穀物等の農産物を生産可能な植物であってもよく、草花や花木、その他の樹木等、鑑賞や緑化等のための植物であってもよい。より具体的には、例えば、イチゴ、リンゴ、ナシ、ウメ、モモ等のバラ科植物、キャベツ、ハクサイ、ブロッコリー、ダイコン、チンゲンサイ、コマツナ、カリフラワー、シロイヌナズナ等のアブラナ科植物、キュウリ、カボチャ、メロン等のウリ科植物、トマト、ナス、ピーマン、トウガラシ、タバコ、ジャガイモ等のナス科植物、イネ、コムギ等のイネ科植物、ダイズ等のマメ科植物、サトイモ等のサトイモ科植物、キウイフルーツ等のマタタビ科植物、タマネギ、ニンニク等のヒガンバナ科植物等が挙げられる。
【0026】
本開示の防除剤における植物への施用形態は、特に限定されないが、例えば、散布、塗布等が挙げられるが、防除効果を高める観点から、植物体全体や、幹や枝、葉等へ散布または塗布されて用いられることが好ましく、散布されて用いられることがより好ましい。本開示の防除剤の剤型は、施用形態等に応じて種々選択可能であり、特に限定されないが、例えば、各種の形態を採ることができ、例えば、フロアブル剤、乳剤等の液体や、水和剤、水溶剤、粉剤、粒剤、粉粒剤等の粉末または顆粒が挙げられるが、溶液として植物体へ散布または塗布して用いる観点から、フロアブル剤、乳剤または水和剤であることが好ましい。また、施用の際には、溶液(懸濁液)中において水酸化マグネシウムが沈殿することを抑制する観点から、懸濁液を攪拌すること等によって混合しながら散布または塗布することが好ましい。
【0027】
本開示の防除剤の施用時における水酸化マグネシウムの濃度は、植物病原細菌に対して防除効果を有し、かつ、植物体への薬害が生じない濃度である限り、特に限定されない。施用時における水酸化マグネシウムの濃度は、防除効果の低下を抑制しつつ植物体への薬害の発生を抑制する観点から、0.01g/L以上5g/L以下であることが好ましく、0.03g/L以上3g/L以下であることがより好ましく、0.1g/L以上1g/L以下であることがさらに好ましい。したがって、本開示の防除剤は、水酸化マグネシウム濃度が0.01g/L以上5g/L以下の濃度の溶液として用いられることが好ましく、0.03g/L以上3g/L以下の溶液として用いられることがより好ましく、0.1g/L以上1g/L以下の溶液として用いられることがさらに好ましい。
【0028】
本開示の防除剤は、水酸化マグネシウムに加えて、他の任意成分を含んでいてもよい。他の任意成分としては、例えば、殺菌剤、抵抗性誘導剤、殺虫剤、植物成長調整剤、バイオスティミラント資材、界面活性剤、安定剤、pH調整剤、増粘剤、消泡剤、凍結防止剤、湿潤剤、防菌防黴剤、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、稀釈剤、賦形剤、展着剤、着色剤等が挙げられる。また、本開示の防除剤は、例えば、植物病原菌に対する防除効果をさらに高めるために、または、適用対象とする植物病原菌の範囲を広げるために、水酸化マグネシウムに加えて、植物病原菌の防除に寄与する他の成分を含んでいてもよい。また、本開示の防除剤は、例えば、植物病原菌に対する防除効果をさらに高めるために、または、適用対象とする植物病原菌の範囲を広げるために、植物病原菌の防除に寄与する他の薬剤と組み合わせて用いられてもよい。
【0029】
本開示の防除剤における植物体への施用時期は、特に限定されず、対象となる植物細菌病や、地域や気候等の環境等に応じて、適宜選択されてもよい。施用時期としては、例えば、植物および栽培地域に応じた防除指針に沿った時期に施用すること、その植物の花の満開から、その植物に応じて予め定められた日数以上経過後に施用すること、植物に応じて予め定められた外気温度以上となる時期に施用すること等が挙げられる。施用は、植物細菌病の病害が発生する前に行われることが好ましい。
【0030】
本開示の防除剤における植物体への施用回数や頻度は、特に限定されず、対象となる植物細菌病や、地域や気候等の環境等に応じて、適宜選択されてもよい。植物体への施用回数としては、例えば、年1回以上、年2回以上、年3回以上、年4回以上、年5回以上等であってもよく、年6回以下、年5回以下、年4回以下、年3回以下、年2回以下等であってもよいが、防除効果の低下を抑制する観点から、複数回施用することが好ましい。複数回施用する場合には、例えば、1週間以上12週間以下の間隔や、2週間以上8週間以下の間隔、3週間以上6週間以下の間隔等であってもよい。
【0031】
本開示の他の実施形態によれば、植物細菌病の防除方法が提供される。この防除方法は、水酸化マグネシウム(Mg(OH))を含む組成物を、土壌に植えられた植物体に散布する工程を含む。この工程における散布は、上述した施用形態、施用時期、施用回数、頻度等で行われてもよい。この防除方法によれば、植物細菌病に対する防除効果を有するので、植物細菌病に対する防除において新たな技術を提供できる。この結果として、植物に使用する農薬の選択肢を増やすことができ、また、薬剤耐性菌に対する防除効果の低下を抑制できる。また、植物細菌病の防除により、植物の生産性の低下を抑制できるので、植物の安定生産に寄与できる。なお、この防除方法は、上記工程に加えて、例えば防除効果を確認する工程や、防除剤を追加して散布する工程等、他の任意の工程を含んでいてもよい。
【0032】
本開示の他の実施形態によれば、植物の生産方法が提供される。この生産方法は、植物細菌病を防除するために、水酸化マグネシウム(Mg(OH))を含む組成物を、土壌に植えられた植物体に散布する工程を含む。この工程における散布は、上述した施用形態、施用時期、施用回数、頻度等で行われてもよい。植物としては、上述したような、野菜や果実、穀物等の農産物を生産可能な植物であってもよく、また、草花や花木、その他の樹木等、鑑賞や緑化等のための植物であってもよい。この生産方法によれば、植物細菌病に対する防除効果を有するので、植物細菌病に対する防除において新たな技術を提供できる。この結果として、植物に使用する農薬の選択肢を増やすことができ、また、薬剤耐性菌に対する防除効果の低下を抑制できる。また、植物細菌病の防除により、植物の生産性の低下を抑制できるので、植物の安定生産に寄与できる。なお、この生産方法は、上記工程に加えて、例えば、種子や苗木等を土壌に植える工程や、防除効果を確認する工程、防除剤を追加して散布する工程、植物体それ自体または植物体から生産された野菜や果実等を収穫する工程等、他の任意の工程を含んでいてもよい。
【実施例0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
<試験1:モモせん孔細菌病の発病抑制効果の確認試験>
(1)材料
植物材料として、ポット栽培4年目のモモを用いた。モモの品種として、「白鳳」を用いた。植物病原細菌の検定株として、Xanthomonas arboricola pv. pruni 13-1-1株(ストレプトマイシン耐性、MIC(Minimum Inhibitory Concentration:最小発育阻止濃度):>16,000ppm)を用いた。1反復目の細胞懸濁液は、約10cfu/mLとし、2反復目の細胞懸濁液は、約10cfu/mLとした。細胞懸濁液には、300mLあたり1白金線量のTween20を添加した。各処理区に用いた水酸化マグネシウム、マンガン粉末、ストレプトマイシン水和剤、オキシテトラサイクリン水和剤、マンゼブ水和剤、銅水和剤は、いずれも市販の試薬を用い、後述する濃度となるように井戸水で希釈した。
【0035】
(2)試験方法
以下の表1に示すスケジュールで、薬剤による処理、植物病原細菌の接種、調査を2反復行った。薬剤による処理および植物病原細菌の接種は、それぞれ、背負式噴霧器を用いて1樹あたり300mLずつ散布することにより実施した。なお、対照として、薬剤による処理を行わない無処理区を設けた。調査は、初回の接種から約30日後を目安に実施した。各処理区において主に3樹設け、樹の中央付近に位置しており、かつ、葉が5枚以上の枝3本を対象として発病葉を調査した。
【0036】
【表1】
【0037】
調査結果を、以下の表2および表3に示す。表2および表3では、1反復目および2反復目の結果に加えて、1反復目と2反復目とにおける平均が示されている。なお、発病葉率については、平均±標準誤差および95%信頼区間が示されている。発病葉率および防除価は、それぞれ以下の式で表される。
発病葉率=(発病葉数/調査葉数)×100
防除価=100-(処理区の発病葉率÷無処理区の発病葉率)×100
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
表2および表3の結果から、以下のことがわかった。すなわち、無処理区では発病葉率が71.2±0.1であり、ストレプトマイシン水和剤処理区では、発病葉率が44.1±0.6であり、防除価が38であった。これに対し、水酸化マグネシウム処理区では、発病葉率が17.5±0.4であり、防除価が75であった。このように、薬剤として水酸化マグネシウムを用いた場合には、発病抑制効果が認められた。また、水酸化マグネシウムに代えて、マンガン粉末やマンゼブ水和剤を用いた場合には、いずれも防除価が低かった。また、水酸化マグネシウムとストレプトマイシン水和剤との混用処理区によれば、水酸化マグネシウム処理区と同等の防除価が得られた。
【0041】
<試験2:キャベツ黒腐病の発病抑制効果の確認試験>
(1)材料
植物材料として、ポット栽培のキャベツを用いた。キャベツの品種として、「おきな」を用いた。植物病原細菌の検定株として、Xanthomonas campestris subsp. campestris MAFF301971(ストレプトマイシン耐性、MIC:>16,000ppm)を用いた。細胞懸濁液は、約10cfu/mLとした。細胞懸濁液には、300mLあたり1白金線量のTween20を添加した。各処理区に用いた水酸化マグネシウム、ストレプトマイシン水和剤、オキソリニック酸水和剤、銅水和剤は、いずれも市販の試薬を用い、後述する濃度となるように井戸水で希釈した。
【0042】
(2)試験方法
試験は、2反復実施した。2葉をそれぞれ1~1.5cmで切断したキャベツ苗に対し、植物体全体がしっかりと濡れる程度に各薬剤を噴霧処理した。その1日後、植物体全体がしっかりと濡れる程度に細菌懸濁液を噴霧接種した。なお、対照として、薬剤による処理を行わない無処理区を設けた。接種したキャベツ苗をビニール袋に入れ、24時間後に取り出した。調査は、細胞懸濁液の噴霧から7日後に実施し、各処理区における発病を調査した。発病が認められた株については、以下の基準に沿った発病指数により、発病の度合いを評価した。
発病指数1:切断部位または葉縁から1cm以内に病斑が認められる
発病指数2:切断部位または葉縁から1~2cm以内に病斑が認められる
発病指数3:切断部位または葉縁から2cm以上に病斑が認められる
【0043】
調査結果を、以下の表4に示す。表4では、1反復目および2反復目の結果に加えて、1反復目と2反復目とにおける平均が示されている。なお、発病割合および発病度については、平均±標準誤差および95%信頼区間がそれぞれ示されている。発病割合、葉率および防除価は、それぞれ以下の式で表される。
発病割合=(発病株数/供試株数)×100
発病度=Σ(指数×指数別株数)÷(3×供試株数)×100
防除価=100-(処理区の発病度÷無処理区の発病度)×100
【0044】
【表4】
【0045】
表4の結果から、以下のことがわかった。すなわち、無処理区では、発病割合が100%、発病度が43であり、ストレプトマイシン水和剤処理区では、発病割合が100%、発病度が37±1であり、防除価が15であった。これに対し、水酸化マグネシウム処理区では、発病割合が30%±2であり、発病度が10±1であり、防除価が77であった。このように、薬剤として水酸化マグネシウムを用いた場合には、発病抑制効果が認められた。また、水酸化マグネシウムを用いた場合には、銅水和剤を用いた場合と比較して、発病抑制効果が高い傾向が認められた。
【0046】
<試験3:Pseudomonas syringae pv. maculicolaによる病害の発病抑制効果の確認試験>
(1)材料
供試植物として、キャベツ(Brassica oleracea var. capitata L.)を用いた。キャベツの品種として、「爽月」を用いた。植物病原細菌の供試菌株として、キャベツ黒腐病の病原菌の一種であるPseudomonas syringae pv. maculicola MAFF 301175株を用いた。細胞懸濁液は、約10cfu/mLとした。細胞懸濁液には、Tween20を0.02%となるように添加した。処理区における水酸化マグネシウムは、市販の試薬を用い、濃度が2.0g/Lまたは4.0g/Lとなるように井戸水で希釈した。処理区における銅水和剤は、日本農薬株式会社製のZボルドーを井戸水で500倍に希釈して用いた。
【0047】
(2)試験方法
以下の表5に示すスケジュールで、薬剤による処理、植物病原細菌の接種、調査を4反復行った。薬剤による処理は、1株あたり約10mLずつ噴霧することにより実施した。なお、対照として、薬剤による処理を行わない無処理区を設けた。植物病原細菌の接種は、薬剤による処理の翌日に、1株あたり約10mLずつ噴霧することにより実施した。その後、28℃の高湿度条件下に静置し、さらに翌日以降は、28℃に設定した室内に静置した。調査は、植物病原細菌の接種から約1週間後に実施した。
【0048】
【表5】
【0049】
調査結果に基づき、発病葉率、発病度および防除価を求めた。発病葉率、発病度および防除価は、それぞれ以下の式で表される。
発病葉率=(発病葉数/調査葉数)×100
発病度=Σ(指数×指数別株数)÷(4×供試株数)×100
防除価=100-(処理区の発病度÷無処理区の発病度)×100
【0050】
試験3における発病度は、初病程度別の以下の指数に基づく評価結果から算出した。
発病指数0:発病を認めない
発病指数1:病斑面積が葉面積の1%以上5%未満を占める
発病指数2:病斑面積が葉面積の5%以上20%未満を占める
発病指数3:病斑面積が葉面積の20%以上50%未満を占める
発病指数4:病斑面積が葉面積の50%以上を占める、または枯死状態である
【0051】
調査結果を、以下の表6に示す。なお、発病葉率は、平均値が示されるとともに、±標準誤差および95%信頼区間が示されている。発病葉率に付されたアスタリスクは、ホルムの方法で無処理区との間に統計的な有意差があることを意味している(*:5%有意差あり、***:0.1%有意差あり)。発病度は、平均値が示されるとともに、±標準誤差が示されている。発病度に付されたアスタリスクは、スチールの検定で無処理区との間に統計的な有意差があることを意味している(*:5%有意差あり、***:0.1%有意差あり)。
【0052】
【表6】
【0053】
表6の結果から、以下のことがわかった。すなわち、水酸化マグネシウム処理区では、無処理区と比較して、発病葉率および発病度の値が有意に小さかった。また、2.0g/L水酸化マグネシウム処理区における防除価は54であり、4.0g/L水酸化マグネシウム処理区における防除価は68であった。このように、水酸化マグネシウムを用いた場合には、Pseudomonas syringae pv. maculicolaによる病害に対しても、発病抑制効果が認められた。
【0054】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。