(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012090
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 167/00 20060101AFI20240118BHJP
C09D 175/06 20060101ALI20240118BHJP
C09D 179/02 20060101ALI20240118BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240118BHJP
【FI】
C09D167/00
C09D175/06
C09D179/02
C09D7/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089132
(22)【出願日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2022113681
(32)【優先日】2022-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 寛
(72)【発明者】
【氏名】山脇 沙耶香
(72)【発明者】
【氏名】橋本(松阪) 裕子
(72)【発明者】
【氏名】林 眞弘
(72)【発明者】
【氏名】川村 力
(72)【発明者】
【氏名】松田 英樹
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CB022
4J038DD061
4J038DG111
4J038DG261
4J038DG301
4J038DJ012
4J038KA10
4J038KA20
4J038MA13
4J038NA11
4J038PA19
4J038PB05
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】耐傷付き性及び加工性に優れる塗料組成物を提供すること。
【解決手段】重量平均分子量2000~40000、かつ、ガラス転移温度-70~40℃のポリエステル樹脂(A)、アミノ樹脂(B)、ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)及びポリオレフィン樹脂粒子(D)を含有する塗料組成物であって、該塗料組成物を220℃で60秒間硬化して得られる塗膜の、連続荷重増加法のスクラッチ試験による、該塗膜の削れ過程の摩擦係数の上昇率が50%以下である、塗料組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量2000~40000、かつ、ガラス転移温度-70~40℃のポリエステル樹脂(A)、アミノ樹脂(B)、ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)及びポリオレフィン樹脂粒子(D)を含有する塗料組成物であって、
該塗料組成物を220℃で60秒間硬化して得られる塗膜の、連続荷重増加法のスクラッチ試験による、該塗膜の削れ過程の摩擦係数の上昇率が50%以下である、塗料組成物。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(A)の酸成分として、無水フタル酸及びイソフタル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
ポリエステル樹脂(A)のアルコール成分として、ネオペンチルグリコール及び1,6-ヘキサンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項4】
ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)のブロック化剤がオキシム系の化合物を含む請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項5】
ポリオレフィン樹脂粒子(D)がエチレン由来の構成単位を含む請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項6】
ポリオレフィン樹脂粒子(D)がポリエチレン樹脂粒子である請求項5に記載の塗料組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の塗料組成物を220℃で60秒間硬化して得られる塗膜の、連続荷重増加法のスクラッチ試験による、該塗膜の削れ過程のスクラッチ距離が10mm以上である、塗料組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の塗料組成物が塗装された塗装金属板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐傷付き性及び加工性に優れる塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コイルコーティング等によって塗装されたプレコート鋼板等のプレコート金属板は、建築物の屋根、壁、シャッター、ガレージ等の建築資材、各種家電製品、配電盤、冷凍ショーケース、鋼製家具及び厨房器具等の住宅関連商品として幅広く使用されている。
【0003】
プレコート鋼板においては、その耐久性の点から、プレス加工等によって加工された際の塗膜の加工性が良好であることや塗膜表面に衝撃が加えられたときに塗膜が素地から剥がれ難いこと、すなわち耐傷付き性が良好であることが非常に重要である。
【0004】
しかしながら、一般に、加工性の良いものは耐傷付き性が悪く、耐傷付き性の良いものは加工性が悪いという傾向にあった。
【0005】
塗装金属板に使用される塗料において、耐傷付き性を向上させるため硬い樹脂組成とすると耐傷付き性は良いが加工性が低下し、逆に軟質な樹脂組成とすると加工性は向上するが、傷が付き易くなる。
【0006】
また、硬質な粒子を適用することで耐傷付き性を向上させることが可能であるが、金型等の設備や、裏面側塗膜を傷つけたり、脱落した粒子や削れた塗膜が金型に残り成型加工性が低下することもあった。
【0007】
また、ワックスを適用する場合、使用量が多いと滑りすぎによる鋼材の保管性や生産現場での作業性が低下したり、使用量が少ないと耐傷付き性が低下する場合があった。
【0008】
特許文献1には、鋼板と、前記鋼板を覆い、かつ、アルミニウム及び亜鉛を含有するめっき層と、前記めっき層を覆う下塗層と、前記下塗層を覆う上塗層と、を含み、前記下塗層は、架橋を有する第一ポリエステル樹脂と、ポリエステルポリオールである第一軟質樹脂とを含み、かつ、ガラス転移温度が50℃以上であり、前記上塗層は、架橋を有する第二ポリエステル樹脂と、ポリエステルポリオールである第二軟質樹脂と、粒子状ワックスとを含む、塗装めっき鋼板、が開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された塗装めっき鋼板は、鋼材の保管性、また、耐傷付き性と加工性の両立が不十分となる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、耐傷付き性及び加工性に優れる塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、鋭意検討した結果、特定の重量平均分子量及びガラス転移温度範囲を有するポリエステル樹脂、アミノ樹脂、ブロック化ポリイソシアネート化合物及びポリオレフィン樹脂粒子を含有し、
連続荷重増加法のスクラッチ試験による、塗膜の削れ過程の摩擦係数の上昇率が50%以下である塗料組成物によれば、上記課題の解決が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、
1.重量平均分子量2000~40000、かつ、ガラス転移温度-70~40℃のポリエステル樹脂(A)、アミノ樹脂(B)、ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)及びポリオレフィン樹脂粒子(D)を含有する塗料組成物であって、
該塗料組成物を220℃で60秒間硬化して得られる塗膜の、連続荷重増加法のスクラッチ試験による、該塗膜の削れ過程の摩擦係数の上昇率が50%以下である、塗料組成物、
2.ポリエステル樹脂(A)の酸成分として、無水フタル酸及びイソフタル酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する上記項1に記載の塗料組成物、
3.ポリエステル樹脂(A)のアルコール成分として、ネオペンチルグリコール及び1,6-ヘキサンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する上記項1又は2に記載の塗料組成物、
4.ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)のブロック化剤がオキシム系の化合物を含む上記項1~3のいずれか1項に記載の塗料組成物、
5.ポリオレフィン樹脂粒子(D)がエチレン由来の構成単位を含む上記項1~4のいずれか1項に記載の塗料組成物、
6.ポリオレフィン樹脂粒子(D)がポリエチレン樹脂粒子である上記項5に記載の塗料組成物、
7.上記項1~6のいずれか1項に記載の塗料組成物を220℃で60秒間硬化して得られる塗膜の、連続荷重増加法のスクラッチ試験による、該塗膜の削れ過程のスクラッチ距離が10mm以上である、塗料組成物、
8.上記項1~6のいずれか1項に記載の塗料組成物が塗装された塗装金属板、に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の塗料組成物は、特定の重量平均分子量及びガラス転移温度範囲を有するポリエステル樹脂、アミノ樹脂及びブロック化ポリイソシアネート化合物を含有するものであり、ポリエステル樹脂が低いガラス転移温度を有し、さらに物性に優れたウレタン結合を架橋構造として生成するものであるので加工性に優れている。さらに、ポリオレフィン樹脂粒子も含有するものであるので、傷形成時の塗膜にかかる負荷による応力を塗膜全体へと分散し、緩和効果を有するため塗膜に傷が生じにくくなることが推察される。
【0015】
さらにまた、塗膜の、連続荷重増加法のスクラッチ試験による、削れ過程の摩擦係数の上昇率が50%以下となるよう制御されていることから耐傷付き性にも優れている。
【0016】
したがって、本発明の塗料組成物によれば、耐傷付き性及び加工性に優れる塗膜を形成可能な塗料組成物を得ることができる、という効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の塗料組成物の塗膜の耐傷付き性試験、実施例1のScoot試験のグラフである。(耐傷付き性が良好な場合)
【
図2】
図2は、塗膜の耐傷付き性試験、比較例1のScoot試験のグラフである。(耐傷付き性が良好でない場合)
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の塗料組成物(以下、単に、本塗料と略すこともある。)は、ポリエステル樹脂(A)、アミノ樹脂(B)、ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)及びポリオレフィン樹脂粒子(D)を含有する組成物である。以下、詳細に述べる。
【0019】
<ポリエステル樹脂(A)>
ポリエステル樹脂(A)は、水酸基を含有するポリエステル樹脂であり、オイルフリーポリエステル樹脂、油変性アルキド樹脂、また、これらの樹脂の変性物、例えばウレタン変性ポリエステル樹脂、ウレタン変性アルキド樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂等を挙げることができる。
【0020】
上記オイルフリーポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコール成分とのエステル化物からなるものである。多塩基酸成分としては、例えば無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸等からなる群より選ばれる1種以上の二塩基酸及びこれらの酸の低級アルキルエステル化物が主として用いられ、必要に応じて安息香酸、クロトン酸、p-t-ブチル安息香酸等の一塩基酸、無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、無水ピロメリット酸等の3価以上の多塩基酸等が併用される。
【0021】
多価アルコール成分としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチルペンタンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の二価アルコールが主に用いられ、さらに必要に応じてグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコールを併用することができる。これらの多価アルコールは単独で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0022】
また上記酸成分、アルコール成分の一部をジメチロールプロピオン酸、オキシピバリン酸、パラオキシ安息香酸等;これらの酸の低級アルキルエステル;ε-カプロラクトン等のラクトン類等のオキシ酸成分に置き換えることもできる。
【0023】
これらの成分のエステル化又はエステル交換反応は、それ自体既知の方法によって行うことができる。
【0024】
酸成分としては、耐候性の観点から、無水フタル酸、イソフタル酸が特に好ましい。
【0025】
無水フタル酸及び/又はイソフタル酸を用いる場合、これらの総量は、酸成分総量中40モル%以上、特に50モル%以上であることが好ましい。
【0026】
アルコール成分としては、結晶化抑制及び加工性の観点から、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオールが特に好ましい。
【0027】
ネオペンチルグリコール及び/又は1,6-ヘキサンジオールを用いる場合、これらの総量は、アルコール成分総量中、10モル%以上、より好ましくは50モル%以上、特に60モル%以上であることが好ましい。
【0028】
アルキド樹脂は、上記オイルフリーポリエステル樹脂の酸成分及びアルコール成分に加えて、油脂肪酸をそれ自体既知の方法で反応せしめたものであって、油脂肪酸としては、例えばヤシ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、トール油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、キリ油脂肪酸等を挙げることができる。アルキド樹脂の油長は30%以下、特に5~20%程度のものが好ましい。
【0029】
ウレタン変性ポリエステル樹脂としては、上記オイルフリーポリエステル樹脂、又は上記オイルフリーポリエステル樹脂の製造の際に用いられる酸成分及びアルコール成分を反応させて得られる低分子量のオイルフリーポリエステル樹脂を、ポリイソシアネート化合物とそれ自体既知の方法で反応せしめたものを挙げることができる。
【0030】
また、ウレタン変性アルキド樹脂としては、上記アルキド樹脂、又は上記アルキド樹脂製造の際に用いられる各成分を反応させて得られる低分子量のアルキド樹脂を、ポリイソシアネート化合物とそれ自体既知の方法で反応せしめたものが包含される。
【0031】
ウレタン変性ポリエステル樹脂及びウレタン変性アルキド樹脂を製造する際に使用しうるポリイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4´-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4´-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、2,4,6-トリイソシアナトトルエン等を挙げることができる。
【0032】
上記のウレタン変性樹脂は、一般に、ウレタン変性樹脂を形成するポリイソシアネート化合物の量がウレタン変性樹脂に対して30質量%以下の量となる変性度のものを好適に使用することができる。
【0033】
エポキシ変性ポリエステル樹脂としては、上記ポリエステル樹脂の製造に使用する各成分から製造したポリエステル樹脂を用い、該樹脂のカルボキシル基とエポキシ基含有樹脂との反応生成物や、ポリエステル樹脂中の水酸基とエポキシ樹脂中の水酸基とをポリイソシアネート化合物を介して結合した生成物等の、ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂との付加、縮合、グラフト等の反応による反応生成物を挙げることができる。
【0034】
かかるエポキシ変性ポリエステル樹脂における変性の度合は、一般に、エポキシ樹脂の量がエポキシ変性ポリエステル樹脂に対して、0.1~30質量%となる変性度のものを好適に使用することができる。
【0035】
ポリエステル樹脂(A)は、耐傷付き性及び加工性の観点から、重量平均分子量が2000~40000であり、特に2000~30000、さらに特に3000~20000の範囲内であることが好ましい。
【0036】
本明細書中の「重量平均分子量」は、JIS K 0124-2011に記載の方法に準じ、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。
【0037】
ゲルパーミエーションクロマトグラフは、「HLC-8120 GPC」(東ソー社製)を使用した。カラムとしては、「TSKgel G-4000HXL」「TSKgel G-3000HXL」「TSKgel G-2500HXL」「TSKgel G-2000HXL」(いずれも東ソー株式会社社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1ml/分、検出器;RIの条件で測定することができる。
【0038】
ポリエステル樹脂(A)は、耐傷付き性及び加工性の観点からガラス転移温度(以下、「Tg点」と略称することがある)が-70~40℃であり、特に-60~30℃、さらに特に-60℃~10℃の範囲内であることが好ましい。
【0039】
本明細書において、ポリエステル樹脂のTg点の測定は、示差走査熱量計を用いた示差走査熱量分析(DSC)によるものである。
【0040】
ポリエステル樹脂(A)は、硬化性及び加工性の観点から、水酸基価が10~300mgKOH/g、特に10~250mgKOH/g、さらに特に10~200mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。
【0041】
また、ポリエステル樹脂(A)は、アミノ樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート化合物(C)との反応性の観点から、20mgKOH/g以下、特に1~15mgKOH/gの範囲内の酸価を有することが好ましい。
【0042】
ポリエステル樹脂(A)は単独で、又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0043】
<アミノ樹脂(B)>
アミノ樹脂(B)としては、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等のアミノ成分とアルデヒドとの反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂を挙げることができる。
【0044】
上記反応に用いられるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒド(benzaldehyde)等を挙げることができる。
【0045】
また、上記メチロール化アミノ樹脂をアルコールによってエーテル化したものもアミノ樹脂として使用することができる。
【0046】
エーテル化に用いられるアルコールとしてはメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2-エチルブタノール、2-エチルヘキサノール等を挙げることができる。
【0047】
上記アミノ樹脂のうち、硬化性の観点からメラミン樹脂を好適に使用することができ、なかでもメチルエーテル化メラミン樹脂、メチルエーテルとブチルエーテルとの混合エーテル化メラミン樹脂を特に好適に使用することができる。
【0048】
上記メラミン樹脂の具体例としては、例えばサイメル300、同303、同325、同327、同350、同730、同736、同738[以上、いずれも三井サイテック(株)製]、メラン522、同523[以上、いずれも日立化成(株)製]、ニカラックMS001、同MX430、同MX650[以上、いずれも三和ケミカル(株)製]、スミマールM-55、同M-100、同M-40S[以上、いずれも住友化学(株)製]、レジミン740、同747[以上、いずれもモンサント社製]等のメチルエーテル化メラミン樹脂;ユーバン20SE、同225[以上、いずれも三井東圧(株)製]、スーパーベッカミンJ820-60、同L-117-60、同L-109-65、同47-508-60、同L-118-60、同G821-60[以上、いずれも大日本インキ化学工業(株)製]等のブチルエーテル化メラミン樹脂;サイメル232、同266、同XV-514、同1130[以上、いずれも三井サイテック(株)製]、ニカラックMX500、同MX600、同MS35、同MS95[以上、いずれも三和ケミカル(株)製]、レジミン753、同755[以上、いずれもモンサント社製]、スミマールM-66B[住友化学(株)製]等のメチルエーテルとブチルエーテルとの混合エーテル化メラミン樹脂等を挙げることができる。
【0049】
アミノ樹脂は単独で又は2種以上を組合わせて使用することができる。
【0050】
<ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)>
ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)は、ポリイソシアネート化合物のフリーのイソシアネート基をブロック化剤によってブロック化してなる化合物である。
【0051】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環式ポリイソシアネート化合物、芳香脂肪族ポリイソシアネート化合物、芳香族ポリイソシアネート化合物及びその粗製物、これらのポリイソシアネート化合物の変性物等を挙げることができる。
【0052】
脂肪族ポリイソシアネート化合物の具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエート等を挙げることができる。
【0053】
脂環式ポリイソシアネート化合物の具体例としては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水添TDI)、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-及び/又は2,6-ノルボルナンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0054】
芳香脂肪族ポリイソシアネート化合物の具体例としては、m-及び/又はp-キシリレンジイソシアネート(XDI)、α,α,α’, α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等を挙げることができる。
【0055】
芳香族ポリイソシアネート化合物の具体例としては、1,3-及び/又は1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-及び/又は2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、粗製TDI、2,4’-及び/又は4,4’-ビフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、粗製MDI、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4”-トリフェニルメタントリイソシアネート、m-及びp-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート等を挙げることができる。
【0056】
変性物としては、ビウレット変性体、イソシアヌレート変性体;及びこれらの2種以上の混合物等を挙げることができる。
【0057】
ポリイソシアネート化合物としては、加工性及び耐傷付き性の観点から、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を好適に使用することができる。
【0058】
イソシアネート基をブロックするブロック化剤としては、例えばフェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール系;ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、β-プロピオラクタム等のラクタム系;メタノール、エタノール、n-又はi-プロピルアルコール、n-,i-又はt-ブチルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール等のアルコール系;ホルムアミドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシム等のオキシム系;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系等のブロック化剤を挙げることができる。
【0059】
上記ブロック化剤のうち、硬化性の観点から、オキシム系のブロック剤、特にメチルエチルケトキシムを好適に使用することができる。
【0060】
上記ポリイソシアネート化合物と上記ブロック化剤とを混合することによって容易に上記ポリイソシアネート化合物のフリーのイソシアネート基をブロックすることができる。
【0061】
ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)の数平均分子量は硬化性の観点から100~10000、特に100~5000の範囲内であることが好ましい。
【0062】
ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)は単独で、又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0063】
硬化性及び加工性の観点から、ポリエステル樹脂(A)、アミノ樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート化合物(C)の固形分総量を基準にして、ポリエステル樹脂(A)の固形分総量が50~95質量%、特に60~90質量%、さらに特に65~85質量%、アミノ樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート化合物(C) の固形分総量が5~50質量%、特に10~40質量%、さらに特に15~35質量%の範囲内であることが好ましい。
【0064】
また、硬化性及び加工性の観点から、アミノ樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート化合物(C)の固形分総量を基準にして、アミノ樹脂(B)の固形分総量が1~83質量%、特に5~75質量%、さらに特に5~70質量%、ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)の固形分総量が1~50質量%、特に1~40質量%、さらに特に1~35質量%の範囲内であることが好ましい。
【0065】
<ポリオレフィン樹脂粒子(D)>
ポリオレフィン樹脂粒子(D)は、エチレン、プロピレン、ブテン、又は、さらに長鎖のアルケン由来の構成単位のうち、1種又は2種以上の組合せを含有する重合体であることが好ましく、エチレン、プロピレン、又はブテン由来の構成単位を含むことがより好ましい。
【0066】
ポリオレフィン樹脂粒子(D)は、耐傷付き性の観点から、特に、エチレン由来の構成単位を含むことがより好ましく、さらに特にポリエチレン樹脂粒子が好ましい。
【0067】
前記重合体の構成単位が2種以上の場合は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい、また、そのタクティシティー、分岐量に制限はない。
【0068】
このようなポリオレフィン樹脂粒子(D)の例として、ビスコール330-P(ポリプロピレンワックス、三洋化成製)、フローセンUF4(低密度ポリエチレン微粉末、住友精化製)、フロービーズHE-3040N(高密度ポリエチレン粒子、住友精化製)、フロービーズCL-2080(低密度ポリエチレン粒子、住友精化製)、フロービーズLE-1080(低密度ポリエチレン粒子、住友精化製)及びミペロンXM-220(高密度ポリエチレンパウダー、三井化学製)等を挙げることができる。
【0069】
ポリオレフィン樹脂粒子(D)の平均粒子径は耐傷付き性の観点から、5~30μm、特に5~25μm、さらに特に5~20μmであることが好ましい。
【0070】
ポリオレフィン樹脂粒子(D)は、耐傷付き性の観点から、粉体であるものを使用することが好ましい。
【0071】
ポリオレフィン樹脂粉末は、ポリオレフィン樹脂を機械粉砕や化学粉砕(溶媒法)等により粉末化して得ることができる。また、オレフィン系樹脂以外の樹脂を粉末の核とし、その核の表面にオレフィン系樹脂を含有する保護コロイド層を存在させるようにしてポリオレフィン樹脂粉末を得ることもできる。
【0072】
上記平均粒子径は、マイクロトラック粒度分布測定装置(商品名「MT3300」、日機装社製)を使用し、レーザー回折散乱法により測定された体積基準粒度分布のメジアン径(d50)の値である。
【0073】
また、ポリオレフィン樹脂粒子(D)のポリオレフィン樹脂は耐傷付き性及び加工性の観点から、低密度であることが好ましく、特に低密度ポリエチレンが好ましい。
【0074】
上記密度の範囲としては、0.905~0.960g/cm3、特に0.910~0.945g/cm3、さらに特に0.915~0.945g/cm3の範囲であることが耐傷付き性及び加工性の観点から好ましい。
【0075】
ポリオレフィン樹脂粒子(D)の固形分含有量は、耐傷付き性及び加工性の観点から、ポリエステル樹脂(A)、アミノ樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート化合物(C)の固形分総量を基準にして、0.1~40質量%、特に1~30質量%、さらに特に1~20質量%の範囲内であることが好ましい。
【0076】
本発明の塗料組成物は、必要に応じて、顔料、硬化触媒、顔料分散剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、消泡剤、表面調整剤、ポリオレフィン樹脂粒子(D)以外の樹脂粒子、シリコーン含有アクリル樹脂等の添加剤、シリカ微粉末等の艶消し剤、有機溶剤等、従来から塗料に使用されている公知の材料を含有することができる。
【0077】
顔料としては、具体的には、チタン白、亜鉛華等の白色顔料;シアニンブルー、インダンスレンブルー等の青色顔料;シアニングリーン、緑青等の緑色顔料;アゾ系やキナクリドン系等の有機赤色顔料、ベンガラ等の無機赤色顔料;ベンツイミダゾロン系、イソインドリノン系、イソインドリン系及びキノフタロン系等の有機黄色顔料、チタンイエロー、黄鉛、黄色酸化鉄などの黄色顔料;カーボンブラック、黒鉛、松煙等の黒色顔料等の着色顔料;クレー、タルク、バリタ、炭酸カルシウム等の体質顔料;トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、五酸化バナジウム等の防錆顔料;等を挙げることができる。
【0078】
硬化触媒は、ポリエステル樹脂(A)と、アミノ樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート化合物(C)との反応を促進するために必要に応じて配合されるものである。
【0079】
アミノ樹脂(B)に対しては、スルホン酸化合物又はスルホン酸化合物のアミン中和物を好適に使用することができる。
【0080】
スルホン酸化合物の代表例としては、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸等を挙げることができる。
【0081】
スルホン酸化合物のアミン中和物におけるアミンとしては、1級アミン、2級アミン、3級アミンのいずれであってもよい。これらのうち、塗料安定性、反応促進効果、得られる塗膜物性等の点から、p-トルエンスルホン酸のアミン中和物及び/又はドデシルベンゼンスルホン酸のアミン中和物を好適に使用することができる。
【0082】
ブロック化ポリイソシアネート化合物(C)に対しては、オクチル酸錫、ジブチル錫ジ(2-エチルヘキサノエート)、ジオクチル錫ジ(2-エチルヘキサノート)、ジオクチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、モノブチル錫トリオクテート、2-エチルヘキサン酸鉛、オクチル酸亜鉛等の有機金属化合物を挙げることができる。
【0083】
上記硬化触媒は、硬化性の観点から、ポリエステル樹脂(A)、アミノ樹脂(B)及びブロック化ポリイソシアネート化合物(C)の固形分総量を基準にして、0.1~5.0質量%、特に0.1~2.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0084】
本発明の塗料組成物は、ポリエステル樹脂(A)、アミノ樹脂(B)、ブロック化ポリイソシアネート化合物(C) 及びポリオレフィン樹脂粒子(D)、さらに必要に応じて、硬化触媒等、前記その他の成分を均一に混合することにより得ることができる。
【0085】
混合は、例えばディスパー、ホモジナイザー等の混合装置を用いて行うことができる。
【0086】
塗料組成物の塗装は、フォードカップNo.4(20℃)で10~100秒間の範囲の粘度が得られるよう、通常、固形分濃度を20~60質量%の範囲内に調整して行うことが好ましい。
【0087】
本明細書において塗装時の塗料固形分(不揮発分)濃度は、温度が20℃、湿度が60%の条件において塗装に適した粘度に調整した塗装直前の試料をブリキ皿に1.0g秤量し、加熱温度105℃、3時間で揮発成分を除き、残量を質量百分率として算出することによって求めることができる。
【0088】
<削れ過程の摩擦係数の上昇率>
本発明の塗料組成物は、220℃で60秒間硬化して得られる塗膜の、連続荷重増加法のスクラッチ試験による、該塗膜の削れ過程の摩擦係数の上昇率が50%以下であることを特徴とする。
【0089】
本発明において、削れ過程の摩擦係数の上昇率とは、以下のようにして測定される値のことをいう。
【0090】
鋼体ピンの荷重増加法によるスクラッチ試験には、ASTM D7027-05、ISO 19252の規格がある。本発明における摩擦係数の上昇率は、これら規格に準拠した2軸ロードセル型スクラッチ試験機、Scoot(株式会社Profid スクラッチテスター Scoot PF-SCT-01)を用いたスクラッチ試験の測定結果から算出される値である。
【0091】
イソプロパノールを用いて脱脂した70mm×150mm×0.35mmのブリキ板の表面に、20℃におけるフォードカップNo.4による測定で130秒の塗装粘度に調整した塗料組成物を硬化膜厚で15μmとなるようにバーコーターを用いて塗装し、220℃で60秒間乾燥したものを試験板とした。
【0092】
鋼体ピンとして、タングステンカーバイドのφ23.5mm、厚さ1.5mmのコイン状圧子を、塗膜に対して45°の角度で押し当て、開始荷重1Nから連続荷重増加法にて最大20Nまで(増加速度約4N/秒)、コイン状圧子を速度20mm/秒にてスクラッチする。なお、試験は20℃の環境下で行った。
【0093】
上記試験条件でスクラッチした時の、塗膜の削れ過程(削れ開始から剥離する直前まで)の摩擦係数(水平応力/垂直荷重)の上昇率を、塗膜の削れ過程の摩擦係数の上昇率と定義する。
【0094】
削れ開始時及び剥離する直前各々の摩擦係数は、Scootによるスクラッチ試験のグラフから目視で読み取って決定し、読み取った値を以下の式1から算出することにより、塗膜の削れ過程の摩擦係数の上昇率を導き出すことができる。
【0095】
削れ過程の摩擦係数の上昇率(%)=〔(b-a)/a〕×100 (式1)
((式1)のa及びbは以下のとおり a:削れ開始時の摩擦係数 b:剥離する直前の摩擦係数)
例えば、削れ開始時の摩擦係数が0.60、剥離する直前の摩擦係数が0.90であれば、上昇分は0.30であるので、(0.30/0.60)×100で上昇率は50%となる。
【0096】
本発明において、耐スクラッチ性(耐傷付き性)における塗膜の削れ過程の摩擦係数の上昇率が有用な指標となる根拠は、耐傷付き性が良好な塗膜はスクラッチ負荷に対し、耐性があるため削れはじわじわと進行し、塗膜が削れる過程の摩擦係数の上昇が緩やかで、良好なものほど摩擦係数の上昇率は小さいが、耐傷付き性が良好でない塗膜はスクラッチ負荷に対し、耐性が弱いため削れが短時間で進行して剥離(圧子が素地に到達)するため、塗膜が削れる過程の摩擦係数の上昇が急で、良好でないものほど摩擦係数の上昇率は大きくなることによる。
【0097】
上記塗膜の削れ過程の摩擦係数の上昇率が50%を超えると、得られる塗膜の耐傷付き性(耐スクラッチ性)が低下する場合がある。
【0098】
該摩擦係数の上昇率は、50%以下、好ましくは45%以下、さらに好ましくは40%以下である。該摩擦係数の上昇率の下限は限定されないが、例えば、1%以上、5%以上、10%以上、15%以上等が挙げられる。
【0099】
また、上記スクラッチ試験において、塗膜の削れ過程のスクラッチ距離が、10mm以上、特に15mm以上、さらに特に20mm以上であるものが、耐傷付き性(耐スクラッチ性)の観点から好ましい。該塗膜の削れ過程のスクラッチ距離の上限は限定されないが、例えば、60mm以下、好ましくは50mm以下、より好ましくは40mm以下等が挙げられる。
【0100】
本発明において、塗膜の削れ過程の摩擦係数の上昇率は、主にポリエステル樹脂(A)、アミノ樹脂(B)、ブロック化ポリイソシアネート化合物(C) 及びポリオレフィン樹脂粒子(D)の種類並びに量に応じて変動する。
【0101】
上記摩擦係数の上昇率が50%以下となるよう調整することで、耐傷付き性及び加工性のいずれにも優れる塗膜を得ることができる。尚、本発明の塗料組成物は、該塗料組成物を用いて上記条件で形成した塗膜の削れ過程の摩擦係数の上昇率が上記範囲となるようなものであればよい。従って、本発明の塗料組成物が上記条件で塗膜を形成した状態のものに限定されないことは当然である。同様に、塗膜の削れ過程のスクラッチ距離が前述した範囲にある実施形態についても、本発明の塗料組成物が上記条件で塗膜を形成した状態のものに限定されないことは当然である。
【0102】
本発明の塗料組成物の塗装方法としては、例えば、カーテン塗装、ロールコーター塗装、浸漬塗装及びスプレー塗装等を挙げることができ、通常、乾燥膜厚が5~50μm、好ましくは8~30μmの範囲内となるように塗装される。
【0103】
本発明の塗料組成物をコイルコート塗装する場合、その塗装方法に制限はないがコイルコート塗装の経済性からカーテン塗装、ロールコーター塗装が推奨される。ロールコーター塗装を適用する場合には、実用的には通常の2本ロールによるボトムフィード方式(いわゆる、リバース塗装、ナチュラル塗装)が好適に行われるが、塗面の均一性を最良のものにするため3本ロールによるトップフィードもしくはボトムフィード方式を行うこともできる。
【0104】
被塗物としては、例えば、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、亜鉛合金メッキ鋼板(鉄-亜鉛、アルミニウム-亜鉛、ニッケル-亜鉛などの亜鉛合金メッキ鋼板)、アルミニウム板、ステンレス鋼板、銅板、銅メッキ鋼板、錫メッキ鋼板等を挙げることができる。
【0105】
これらは必要に応じて、ショットブラスト、表面調整、表面処理等、さらには下塗塗装を施したものであってもよい。
【0106】
被塗物の表面が油等汚染物質で汚染されていなければそのまま下塗塗装してもかまわないが、塗膜との付着性、耐食性を改善するために公知の金属表面処理を施すのが望ましい。公知の金属表面処理方法としては、リン酸塩系表面処理、クロム酸塩系表面処理、クロムフリーのジルコニウム系表面処理等を挙げることができる。
【0107】
被塗物上に下塗塗膜を形成する下塗塗料としては、着色カラー鋼板塗装分野、産業用機械塗装分野、金属部品塗装分野等で用いられる公知の下塗塗料を適用することができる。環境保護の観点から、クロム系防錆成分を含有しないクロムフリープライマー塗料を使用することが好ましい。
【0108】
本発明の塗料組成物の塗膜の硬化は、素材到達最高温度120~260℃で15秒間~30分間程度で行うことができる。コイルコーティング等によって塗装するプレコート塗装においては、通常、素材到達最高温度160~260℃で焼付時間15~90秒間の範囲で行うことができる。
【0109】
本発明の塗料組成物は、耐傷付き性及び加工性に優れる塗料組成物であるので、上記被塗物用途の塗料として、特にプレコート鋼板用途の塗料として好適に使用することができる。
【実施例0110】
以下、製造例、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。そうでないことが示されていない限り、各例中の「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0111】
製造例
ポリエステル樹脂(A)の製造
製造例1
温度計、撹拌機、精留塔及び水分離器を具備したフラスコに、下記成分を下記の順に仕込む。
【0112】
1,6-ヘキサンジオール:46.02部(0.39モル部)
ネオペンチルグリコール:46.20部(0.44モル部)
グリセリン:15.04部(0.17モル部)
アジピン酸:32.12部(0.22モル部)
無水フタル酸:39.96部(0.27モル部)
イソフタル酸:64.74部(0.39モル部)
消泡剤:微量
系中に窒素を流しながら昇温し、攪拌可能となったら時点より攪拌を開始する。攪拌により系が均一になったら、100℃以下で重合触媒を添加する。
【0113】
引き続き、攪拌しながら昇温し、140℃から230℃まで3~10時間かけて昇温する。途中縮合水の生成が認められたら、窒素の吹込みを中止する。140℃以下で縮合水の生成が認められた場合は、縮合水の生成が認められた時点(温度)より230℃まで3~10時間かけて昇温する。縮合水とグリコールとの共沸により、精留塔トップ温度が上昇する場合は、加熱を弱め、昇温速度を遅くする。
【0114】
230℃に到達したら、60分後に酸価、粘度等を確認した後30分後に、8.87部(生成物に対して4質量%)のキシレン(還流溶剤)を加え、220℃で酸価が5.0mgKOH/g以下になるまで重合を促進する。
【0115】
生成物の酸価が5.0mgKOH/g以下となったら、加熱を停止し、冷却する。生成物の温度が希釈溶剤の沸点以下となったら希釈溶剤を添加し、ポリエステル樹脂(A1)の溶液(固形分;65質量%)を得た。
【0116】
製造例2~9
酸成分及びアルコール成分の種類及び量を表1のとおりとする以外は、製造例1と同様にして製造することにより、各ポリエステル樹脂(A1)~(A9)の溶液を得た。ポリエステル樹脂(A6)~(A9)は比較例用である。
【0117】
表1に重量平均分子量(Mw)、ガラス転移温度(Tg(℃))及び水酸基価も併せて示す。
【0118】
なお、表1の酸成分及びアルコール成分の組成比はモル比である。
【0119】
【0120】
塗料組成物の製造
実施例1
以下の工程により、塗料組成物を得た。
【0121】
顔料分散剤(注1)3部(固形分)、製造例1で示したポリエステル樹脂(A1)のうち固形分15部を使用し、白色顔料である二酸化チタン(注2)80部及び黒色顔料であるカーボンブラック(注3)10部を分散して作成した顔料分散ペースト、ポリエステル樹脂(A1)55部(固形分)に、アミノ樹脂(B1)20部(固形分)、ブロック化ポリイソシアネート化合物(C1)10部(固形分)、ポリオレフィン樹脂粒子(D1)5部(固形分)、硬化触媒A 0.5部(固形分)、硬化触媒B 0.2部(固形分)、表面調整剤(注4)1部(固形分)を添加して攪拌し、塗料組成物No.1を得た。
【0122】
上記注は以下のとおりである。
【0123】
(注1)顔料分散剤:DISPER BYK―111、BYK(株)製、湿潤顔料分散剤
(注2)二酸化チタン:タイペークCR-95、石原産業株式会社製
(注3)カーボンブラック:カーボンMA-100、三菱ケミカル株式会社製
(注4)表面調整剤:ディスパロンLF-1982、楠本化成(株)製、アクリル系重合物
なお、表2の原材料は以下のとおりであり、配合量は、固形分質量である。
【0124】
アミノ樹脂(B1):サイメル303LF、オルネクスジャパン(株)製、低分子量メチルエーテル化メラミン樹脂。ヘキサキス(メトキシメチル)メラミンの含有量が60質量%以上。
【0125】
ブロック化ポリイソシアネート化合物(C1):スミジュールBL3175、住化コベストロウレタン(株)製、HDIイソシアヌレートのメチルエチルケトンオキシムブロック化合物。
【0126】
ポリオレフィン樹脂粒子(D1):フロービーズCL-2080、住友精化(株)製、低密度ポリエチレン粒子、平均粒子径11μm、0.92g/cm3
ポリオレフィン樹脂粒子(D2):フロービーズLE-1080、住友精化(株)製、低密度ポリエチレン粒子、平均粒子径6.0μm、0.92g/cm3
ポリオレフィン樹脂粒子(D3):ミペロンXM-220、三井化学(株)製、超高分子量ポリエチレン粒子、平均粒子径30μm、0.94g/cm3
ポリオレフィン樹脂粒子(D4):フロービーズHE-3040、住友精化(株)製、高密度ポリエチレン粒子、平均粒子径11μm、0.96g/cm3
ポリオレフィン樹脂粒子(D5):フロービーズRP、住友精化(株)製、ポリプロピレン粒子、平均粒子径5~15μm、0.91g/cm3
硬化触媒A:Nacure5225、米国キング・インダストリーズ製、ドデシルベンゼンスルホン酸の第2級アミン中和物のイソプロパノール溶液。
硬化触媒B:フォーメートTK-1、武田薬品工業(株)製の有機錫溶液である硬化触媒、ブロック化ポリイソシアネート化合物の解離触媒。
【0127】
実施例2~13及び比較例1~5
使用原材料及び量を表2のとおりとする以外は、実施例1と同様にして製造することにより、各塗料組成物No.1~18を得た。各塗料組成物において、顔料分散ペーストは各塗料組成物につき表2に記載のポリエステル樹脂のうちから15部を使用して作成した。
【0128】
なお、塗料組成物No.14~18は比較例用の塗料組成物である。
【0129】
得られた各塗料組成物につき、前記削れ過程の摩擦係数の上昇率に記載のとおり、試験板を作成して、塗膜の削れ過程の摩擦係数の上昇率及び塗膜の削れ過程のスクラッチ距離を評価した。
【0130】
試験板(プライマー塗装めっき鋼板仕様)の作成
化成処理が施された厚さ0.35mmの溶融55%アルミ-亜鉛めっき鋼板(ガルバリウム鋼板(登録商標))の表面及び裏面のそれぞれに、KPカラー8625プライマー(関西ペイント(株)製、プレコート鋼板用ポリエステルプライマー)を乾燥膜厚が5μmとなるように塗装し、素材到達最高温度が220℃となるように加熱して40秒間焼付け、プライマー塗装鋼板を得た。このプライマー塗装鋼板の表面上に上記のようにして得た各塗料組成物をバーコーターにて乾燥膜厚が約15μmとなるように塗装し、素材到達温度が220℃となるように加熱して60秒間焼付けて各塗装鋼板を得た。得られた各塗装鋼板について下記性能試験を行った。
【0131】
性能評価
耐傷付き性:
Scoot(株式会社Profid スクラッチテスター Scoot PF-SCT-01)を用いて、タングステンカーバイドの角が鋭利なコインを試験板に対して45°の角度で押し当てる。速度20mm/sにて、初期1N、最大荷重20Nとなるよう、荷重増加させながら100mmをスクラッチした。以下の基準に従って評価した。(削れ過程の摩擦係数の上昇率は前記削れ過程の摩擦係数の上昇率の記載に従い、算出した。)なお、試験は20℃の環境下で行った。実施例1及び比較例1におけるScoot試験のグラフをそれぞれ、
図1及び2に示す。
【0132】
◎:塗膜の削れ過程の摩擦係数の上昇率が30%以下
○:塗膜の削れ過程の摩擦係数の上昇率が30%より大きくかつ50%以下
×:塗膜の削れ過程の摩擦係数の上昇率が50%より大きい
【0133】
加工性:
20℃の室内において、塗面を外観にして試験板を180度折り曲げて、折り曲げ部分にワレが発生しなくなるT数を表示した。T数とは、折り曲げ部分の内側に何も挟まずに180度折り曲げを行った場合を0T、試験板を同じ厚さの板を1枚挟んで折り曲げた場合1T、2枚の場合2T、3枚の場合3T、4枚の場合4T、5枚の場合5T、6枚の場合6Tとした。結果を以下により判定した。
【0134】
◎:4T曲げ加工において殆どワレが認められない
○:4T曲げ加工では明らかなワレが認められるが、6T曲げ加工において殆どワレが認められない
×:6T曲げ加工において、明らかなワレが認められる
上記各試験の評価結果を併せて表2に示した。
【0135】
【0136】