(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120946
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】袋
(51)【国際特許分類】
B65D 81/34 20060101AFI20240829BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240829BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
B65D81/34 U
B65D65/40 D
B32B27/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024102411
(22)【出願日】2024-06-25
(62)【分割の表示】P 2022171715の分割
【原出願日】2017-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2016180800
(32)【優先日】2016-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100158964
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 和郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 大介
(72)【発明者】
【氏名】武士田 満
(72)【発明者】
【氏名】仙頭 和佳子
(72)【発明者】
【氏名】多久島 和弘
(57)【要約】
【課題】耐突き刺し性及び蒸通性を有する袋を提供する。
【解決手段】蒸気抜き機構を有する袋を構成する積層体は、外面側から内面側へ順に、基材/印刷層/接着剤層/シーラント層、又は、基材/透明蒸着層/透明ガスバリア性塗布膜/印刷層/接着剤層/シーラント層、を含む。基材は、51質量%以上のポリブチレンテレフタレートを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気抜き機構を有する袋であって、
前記袋を構成する積層体は、積層体外面側から内面側へ順に
基材/印刷層/接着剤層/シーラント層を含み、
前記基材は、51質量%以上のポリブチレンテレフタレートを含み、
前記基材は、二軸延伸フィルムであり、
前記シーラント層は、プロピレン・エチレンブロック共重合体と、ポリエチレンと、を含む未延伸ポリプロピレンフィルムであり、
前記基材は、積層体の前記外面を構成し、
前記接着剤層を介して前記印刷層と前記シーラント層が積層されており、
前記積層体の熱間引張弾性率は、150MPa以上である、袋。
【請求項2】
前記基材は、60質量%以上のポリブチレンテレフタレートを含む、請求項1に記載の袋。
【請求項3】
前記積層体の突き刺し強度が13N以上である、請求項1又は2に記載の袋。
【請求項4】
前記基材は、10層以上を含む多層構造部を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の袋。
【請求項5】
前記基材は、1.10dl/g以上且つ1.35dl/g以下のIV値を有する単層構造からなる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の袋。
【請求項6】
前記シーラント層は、90質量%以上のポリプロピレンを含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の袋。
【請求項7】
前記シーラント層は、熱可塑性エラストマーを含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の袋。
【請求項8】
前記積層体は、前記基材と前記印刷層との間に位置する透明蒸着層を含み、
前記透明蒸着層は、酸化アルミニウムを含む、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の袋。
【請求項9】
前記前記積層体は、前記透明蒸着層と前記印刷層との間に位置する透明ガスバリア性塗布膜を含む、請求項8に記載の袋。
【請求項10】
前記蒸気抜き機構は、前記袋の内部の圧力の増加に伴って剥離される蒸気抜きシール部を含む、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気抜き機構を備える袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、調理済あるいは半調理済の液体、粘体あるいは液体と固体とが混在する内容物を、プラスチック製の積層体から構成された袋に充填密封したものが多く市場に出回っている。袋においては、積層体同士が接合されていない非シール部が、内容物が収容される収容部を構成している。また、積層体同士が接合されているシール部が、収容部を密封している。内容物は、例えば、カレー、シチュー、スープ等の調理済食品である。内容物は、袋に収容された状態で、電子レンジなどによって加熱される。
【0003】
ところで、密封された状態の袋に収容された内容物を、電子レンジを利用して加熱すると、加熱に伴って内容物に含まれる水分が蒸発して収容部の圧力が高まっていく。袋の収容部の圧力が高まると、袋が破裂して内容物が飛散し電子レンジ内を汚してしまうおそれがある。このような課題を考慮し、例えば特許文献1,2は、収容部の圧力が高まると収容部と外部とを自動的に連通させて収容部内の蒸気を外部に逃がす蒸気抜き機構を設けることを提案している。蒸気抜き機構は、例えば、その他のシール部に比べて弱いシール強度を有する蒸気抜きシール部を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-182780号公報
【特許文献2】特開2006-143223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
袋を構成するための積層体には、先端が尖った鋭利な部材が袋に接触した場合にも袋が破けてしまうことを抑制する特性、いわゆる耐突き刺し性が求められる。このため、従来の積層体は、高い耐突き刺し性を有するナイロンを含むフィルムを備える。一方、ナイロンは、水分を吸収し易く、且つ耐熱性に乏しい。この点を考慮し、袋を構成するフィルムとしては主に、PETを含むフィルムと、ナイロンを含むフィルムと、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂を含むフィルムと、を積層させた積層体が用いられている。この場合、ナイロンを2つのフィルムの間に設けることにより、ナイロンが水分を吸収することを抑制することができる。
【0006】
しかしながら、ナイロンは、熱によって軟化し易いという特性を有している。このため、積層体がナイロンを含む場合、内容物に含まれる水分が蒸発することによって収容部に生じる圧力が、ナイロンを含むフィルムを伸ばすことに利用される。この結果、蒸気抜きシール部などの蒸気抜き機構に加わる力が小さくなってしまい、蒸気抜きシール部を剥離させることができず、収容部内の蒸気を外部に逃がすことができなくなってしまう可能性がある。
【0007】
本発明は、このような課題を効果的に解決し得る袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、蒸気抜き機構を有する袋であって、前記袋を構成する積層体は、外面側から内面側へ順に
基材/印刷層/接着剤層/シーラント層を含み、
前記基材は、51質量%以上のポリブチレンテレフタレートを含み、
前記基材は、二軸延伸フィルムであり、
前記シーラント層は、プロピレン・エチレンブロック共重合体と、ポリエチレンと、を含む未延伸ポリプロピレンフィルムであり、
前記基材は、積層体の前記外面を構成し、
前記接着剤層を介して前記印刷層と前記シーラント層が積層されており、
前記積層体の熱間引張弾性率は、150MPa以上である、袋である。
【0009】
本発明による袋において、前記基材は、60質量%以上のポリブチレンテレフタレートを含んでいてもよい。
【0010】
本発明による袋において、前記積層体の突き刺し強度が好ましくは13N以上である。
【0011】
本発明による袋において、前記基材は、10層以上を含む多層構造部を有していてもよい。若しくは、前記基材は、1.10dl/g以上且つ1.35dl/g以下のIV値を有する単層構造からなっていてもよい。
【0012】
本発明による袋において、前記シーラント層は、90質量%以上のポリプロピレンを含んでいてもよい。
【0013】
本発明による袋において、前記シーラント層は、熱可塑性エラストマーを更に含んでいてもよい。
【0014】
本発明による袋において、前記積層体は、前記基材と前記印刷層との間に位置する透明蒸着層を含み、
前記透明蒸着層は、酸化アルミニウムを含んでいてもよい。
【0015】
本発明による袋において、前記前記積層体は、前記透明蒸着層と前記印刷層との間に位置する透明ガスバリア性塗布膜を含んでいてもよい。
【0016】
本発明による袋において、前記蒸気抜き機構は、前記袋の内部の圧力の増加に伴って剥離される蒸気抜きシール部を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、2つのフィルムが積層された積層体から構成された袋に、耐突き刺し性を持たせることができ、且つ、加熱時に収容部内の蒸気を外部に逃がすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態における袋を示す正面図である。
【
図2】
図1に示す袋を構成するフィルムを示す分解図である。
【
図3】
図1に示す袋をIII-III線に沿って見た場合を示す断面図である。
【
図4】袋を構成する積層体の層構成の一例を示す断面図である。
【
図5】積層体の第1フィルムの層構成の一例を示す断面図である。
【
図6】袋を構成する積層体の層構成のその他の例を示す断面図である。
【
図7】上部が封止された状態の袋を示す正面図である。
【
図8】収容部の圧力が高まった状態の袋を
図7のVIII-VIII線に沿って見た場合を示す断面図である。
【
図9】収容部の圧力が高まった状態の、比較の形態による袋を示す断面図である。
【
図10】本発明の実施の形態の一変形例における袋を示す正面図である。
【
図11】突き刺し強度の測定方法の一例を示す図である。
【
図12】試験片の引張長さに対する引張応力の変化を示す図である。
【
図13A】シール強度の測定方法の一例を示す図である。
【
図13B】シール強度の測定方法の一例を示す図である。
【
図14】シール強度を測定するために積層体を引っ張る一対のつかみ具の間の間隔に対する引張応力の変化を示す図である。
【
図15】実施例1~5及び比較例1,2の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1乃至
図9を参照して、本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから適宜変更し誇張してある。
【0020】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0021】
図1は、本実施の形態による袋10を示す正面図である。また、
図2は、
図1に示す袋を構成するフィルムを示す分解図である。袋10は、内容物を収容する収容部17を備える。なお、
図1においては、内容物が充填される前の状態の袋10が示されている。本実施の形態による袋10は、電子レンジによって内容物が加熱される電子レンジ用パウチとして好適に使用することができるよう構成されている。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態による袋10は、袋10に収容された内容物を加熱する際に発生する蒸気を外部に逃がすための蒸気抜き機構20を備える。蒸気抜き機構20は、蒸気の圧力が所定値以上になったときに袋10の内部と外部とを連通させて蒸気を逃がすとともに、蒸気抜き機構20以外の箇所から蒸気抜けが生じることを抑制するよう、構成されている。以下、袋10の構成について説明する。
【0023】
袋
本実施の形態において、袋10は、自立可能に構成されたガセット式の袋である。袋10は、上部11、下部12及び側部13を含み、正面図において略矩形状の輪郭を有する。なお、「上部」、「下部」及び「側部」などの名称、並びに、「上方」、「下方」などの用語は、ガセット部を下にして袋10が自立している状態を基準として袋10やその構成要素の位置や方向を相対的に表したものに過ぎない。袋10の輸送時や使用時の姿勢などは、本明細書における名称や用語によっては限定されない。
【0024】
図1及び
図2に示すように、袋10は、表面を構成する表面フィルム14、裏面を構成する裏面フィルム15、及び、下部12を構成する下部フィルム16を備える。下部フィルム16は、折り返し部16fで折り返された状態で、表面フィルム14と裏面フィルム15との間に配置されている。
【0025】
なお、上述の「表面フィルム」、「裏面フィルム」及び「下部フィルム」という用語は、位置関係に応じて各フィルムを区画したものに過ぎず、袋10を製造する際のフィルムの提供方法が、上述の用語によって限定されることはない。例えば、袋10は、表面フィルム14と裏面フィルム15と下部フィルム16が連設された1枚のフィルムを用いて製造されてもよく、表面フィルム14と下部フィルム16が連設された1枚のフィルムと1枚の裏面フィルム15の計2枚のフィルムを用いて製造されてもよく、1枚の表面フィルム14と1枚の裏面フィルム15と1枚の下部フィルム16の計3枚のフィルムを用いて製造されてもよい。
【0026】
表面フィルム14、裏面フィルム15及び下部フィルム16は、内面同士がシール部によって接合されている。
図1などの袋10の平面図においは、シール部にハッチングが施されている。
【0027】
図1に示すように、シール部は、袋10の外縁に沿って延びる外縁シール部と、蒸気抜き機構20を構成する蒸気抜きシール部20aと、を有する。外縁シール部は、下部12に広がる下部シール部12a、及び、一対の側部13に沿って延びる一対の側部シール部13aを含む。なお、内容物が充填される前の状態の袋10においては、
図1に示すように、袋10の上部11は開口部11bになっている。袋10に内容物を収容した後、表面フィルム14の内面と裏面フィルム15の内面とを上部11において接合することにより、上部シール部が形成されて袋10が封止される。
【0028】
側部シール部13a、蒸気抜きシール部20a及び後述する上部シール部は、表面フィルム14の内面と裏面フィルム15の内面とを接合することによって構成されるシール部である。一方、下部シール部12aは、表面フィルム14の内面と下部フィルム16の内面とを接合することによって構成されるシール部、及び、裏面フィルム15の内面と下部フィルム16の内面とを接合することによって構成されるシール部を含む。
【0029】
対向するフィルム同士を接合して袋10を封止することができる限りにおいて、シール部を形成するための方法が特に限られることはない。例えば、加熱などによってフィルムの内面を溶融させ、内面同士を溶着させることによって、すなわちヒートシールによって、シール部を形成してもよい。若しくは、接着剤などを用いて対向するフィルムの内面同士を接着することによって、シール部を形成してもよい。
【0030】
蒸気抜き機構
以下、蒸気抜き機構20の構成について説明する。
図3は、
図1に示す袋10の蒸気抜き機構20をIII-III線に沿って見た場合を示す断面図である。
【0031】
蒸気抜き機構20の蒸気抜きシール部20aは、収容部17の圧力の増加に伴って剥離され易い形状を有している。例えば、蒸気抜きシール部20aは、側部シール部13aから袋10の内側に向かって突出した形状を有している。これにより、収容部17の圧力が増加した際に蒸気抜きシール部20aに加わる力を、側部シール部13aに加わる力よりも大きくすることができる。また、蒸気抜きシール部20aの幅は、側部シール部13aの幅よりも小さくなっている。また、
図1及び
図3に示すように、蒸気抜きシール部20aと側部13の外縁との間には非シール部20bが形成されている。これにより、側部シール部13aに比べて蒸気抜きシール部20aにおいて、シール部の剥離に起因する収容部17と外部との連通を生じ易くすることができる。
【0032】
表面フィルム及び裏面フィルムの層構成
次に、表面フィルム14及び裏面フィルム15の層構成について説明する。
図4は、表面フィルム14及び裏面フィルム15を構成する積層体30を示す断面図である。
【0033】
図4に示すように、積層体30は、第1フィルム40と、接着剤層60を介して第1フィルム40に積層された第2フィルム50と、を備える。第1フィルム40は、外面30y側に位置しており、第2フィルム50は、外面30yの反対側の内面30x側に位置している。第1フィルム40は、基材41及び印刷層42を含む。また、第2フィルム50はシーラント層51を含む。従って、本実施の形態による積層体30は、外面側から内面側へ順に
基材/印刷層/接着剤層/シーラント層
を備えている、と言える。なお、「/」は層と層の境界を表している。
【0034】
以下、第1フィルム40、第2フィルム50及び接着剤層60についてそれぞれ詳細に説明する。
【0035】
(第1フィルム)
図4に示すように、第1フィルム40は、積層体30の外面30yを構成する基材41と、基材41の内面30x側に設けられた印刷層42と、を少なくとも備える。印刷層42は、袋10に製品情報を示したり美感を付与したりするために基材41に印刷された層である。印刷層42は、文字、数字、記号、図形、絵柄などを表現する。印刷層42を構成する材料としては、グラビア印刷用のインキやフレキソ印刷用のインキを用いることができる。グラビア印刷用のインキの具体例としては、DICグラフィックス株式会社製のフィナートを挙げることができる。
【0036】
基材41は、主成分としてポリブチレンテレフタレート(以下、PBTとも記す)を含む。例えば、基材41は、51質量%以上のPBTを含む。以下、基材41がPBTを含むことの利点について説明する。
【0037】
PBTは、寸法安定性に優れており、従って印刷適性に優れる。このため、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETとも記す)の場合と同様に、PBTを含む基材41上に印刷層42を設けることができる。
【0038】
また、PBTは、耐熱性に優れる。このため、袋10にボイル処理やレトルト処理を施す際に基材41が変形したり基材41の強度が低下したりすることを抑制することができる。レトルト処理とは、内容物を袋10に充填して袋10を密封した後、蒸気又は加熱温水を利用して袋10を加圧状態で加熱する処理である。レトルト処理の温度は、例えば120℃以上である。ボイル処理とは、内容物を袋10に充填して袋10を密封した後、袋10を大気圧下で湯煎する処理である。ボイル処理の温度は、例えば90℃以上且つ100℃以下である。
また、PBTが耐熱性を有することにより、消費者が袋10を加熱する際に収容部17に生じる圧力によって基材41が伸びてしまうことを抑制することができる。このことにより、収容部17に生じる圧力を、蒸気抜き機構20の蒸気抜きシール部20aを剥離させる力として効果的に利用することができる。このため、加熱時に蒸気抜き機構20を介して収容部17内の蒸気を外部に逃がすことができる。
【0039】
また、PBTは、高い強度を有する。このため、袋10を構成する積層体がナイロンを含む場合と同様に、袋10に耐突き刺し性を持たせることができる。
【0040】
また、PBTは、ナイロンに比べて水分を吸収しにくいという特性を有する。このため、PBTを含む基材41を積層体30の外面30yに配置した場合であっても、基材41が水分を吸収して積層体30のラミネート強度が低下してしまうことを抑制することができる。
【0041】
以下、PBTを含む基材41の構成について詳細に説明する。本実施の形態における、PBTを含む基材41の構成としては、下記の第1の構成又は第2の構成のいずれを採用してもよい。
【0042】
〔基材の第1の構成〕
第1の構成に係る基材41におけるPBTの含有率は、51質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、さらには70質量%以上、特には75質量%以上が好ましく、最も好ましくは80質量%以上である。PBTの含有率を51質量%以上にすることにより、第1フィルム40に優れたインパクト強度および耐ピンホール性を持たせることができる。
【0043】
主たる構成成分として用いるPBTは、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸が90モル%以上であることが好ましく、より好ましくは95モル%以上であり、さらに好ましくは98モル%以上であり、最も好ましくは100モル%である。グリコール成分として1,4-ブタンジオールが90モル%以上であることが好ましく、より好ましくは95モル%以上であり、さらに好ましくは97モル%以上であり、最も好ましくは、重合時に1,4-ブタンジオールのエーテル結合により生成する副生物以外は含まれないことである。
【0044】
基材41は、PBT以外のポリエステル樹脂を含んでいてもよい。これにより、例えばフィルム状の基材41を二軸延伸させる場合の成膜性や基材41の力学特性を調整することができる。
PBT以外のポリエステル樹脂としては、PET、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)などのポリエステル樹脂のほか、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などのジカルボン酸が共重合されたPBT樹脂や、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリカーボネートジオール等のジオール成分が共重合されたPBT樹脂を挙げることができる。
【0045】
これらPBT以外のポリエステル樹脂の添加量は、49質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。PBT以外のポリエステル樹脂の添加量が49質量%を超えると、PBTとしての力学特性が損なわれ、インパクト強度や耐ピンホール性、絞り成形性が不十分となることが考えられる。
【0046】
基材41は、添加剤として、柔軟なポリエーテル成分、ポリカーボネート成分、ポリエステル成分の少なくともいずれかを共重合したポリエステル系およびポリアミド系エラストマーを含んでいてもよい。これにより、屈曲時の耐ピンホール性を改善することができる。添加剤の添加量は、例えば20質量%である。添加剤の添加量が20質量%を超えると、添加剤としての効果が飽和することや、基材41の透明性が低下することなどが起こり得る。
【0047】
第1の構成に係るフィルム状の基材41を作製する方法の一例について説明する。ここでは、キャスト法によってフィルム状の基材41を作製する方法について説明する。より具体的には、キャスト時に同一の組成の樹脂を多層化してキャストする方法について説明する。
【0048】
PBTは結晶化速度が速いため、キャスト時にも結晶化が進行する。このとき、多層化せずに単層でキャストした場合には、結晶の成長を抑制しうるような障壁が存在しないために、結晶が大きなサイズに成長してしまい、得られた未延伸原反の降伏応力が高くなる。このため、未延伸原反を二軸延伸する際に破断しやすくなる。また、得られた二軸延伸フィルムの降伏応力が高くなり、二軸延伸フィルムの成形性が不十分になってしまうことが考えられる。
これに対して、キャスト時に同一の樹脂を多層化すれば、未延伸シートの延伸応力を低減することができる。このため、安定した二軸延伸が可能となり、また、得られた二軸延伸フィルムの降伏応力が低くなる。このことにより、柔軟かつ破断強度の高いフィルムを得ることができる。
【0049】
図5は、第1フィルムの層構成の一例を示す断面図である。樹脂を多層化してキャストすることによって基材41が作製される場合、
図5に示すように、第1フィルム40の基材41は、複数の層41aを含む多層構造部からなる。複数の層41aはそれぞれ、主成分としてPBTを含む。例えば、複数の層41aはそれぞれ、好ましくは51質量%以上のPBTを含み、より好ましくは60質量%以上のPBTを含む。なお、複数の層41aにおいては、n番目の層41aの上にn+1番目の層41aが直接積層されている。すなわち、複数の層41aの間には、接着剤層や接着層が介在されていない。
【0050】
多層化によりPBTフィルムの特性が改善される原因については、下記のように推測する。樹脂を積層する場合、樹脂の組成が同一の場合であっても層の界面が存在し、その界面により結晶化が加速される。一方、層の厚みを越えた大きな結晶の成長は抑制される。
このため、結晶(球晶)のサイズが小さくなるものと考えられる。
【0051】
多層化により球晶のサイズを小さくするための具体的な方法としては、一般的な多層化装置(多層フィードブロック、スタティックミキサー、多層マルチマニホールドなど)を用いることができる。例えば、例えば、二台以上の押出機を用いて異なる流路から送り出された熱可塑性樹脂を、フィードブロックやスタティックミキサー、マルチマニホールドダイ等を用いて多層に積層する方法等を使用することができる。なお、同一の組成の樹脂を多層化する場合、一台の押出機のみを用いて、押出機からダイまでのメルトラインに上述の多層化装置を導入することも可能である。
【0052】
基材41は、少なくとも10層以上、好ましくは60層以上、より好ましくは250層以上、更に好ましくは1000層以上の層41aを含む多層構造部からなる。層数を多くすることにより、未延伸原反の状態のPBTにおける球晶のサイズを小さくすることができ、その後の二軸延伸を安定に実施することができる。また、二軸延伸フィルムの状態のPBTの降伏応力を小さくすることができる。好ましくは、未延伸原反のPBTにおける球晶の直径は、500nm以下である。
【0053】
PBTの未延伸原反を二軸延伸して二軸延伸フィルムを作製する際の、縦延伸方向(以下、MD)における延伸温度(以下、MD延伸温度とも記す)は、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは45℃以上である。MD延伸温度を40℃以上にすることにより、フィルムの破断が生じることを抑制することができる。また、MD延伸温度は、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは95℃以下である。MD延伸温度を100℃以下にすることにより、二軸延伸フィルムの配向が生じないという現象を抑制することができる。
【0054】
MDにおける延伸倍率(以下、MD延伸倍率とも記す)は、好ましくは2.5倍以上である。これにより、二軸延伸フィルムを配向させ、良好な力学特性や均一な厚みを実現することができる。MD延伸倍率は、例えば5倍以下である。
【0055】
横延伸方向(以下、TDとも記す)における延伸温度(以下、TD延伸温度とも記す)は、好ましくは40℃以上である。TD延伸温度を40℃以上にすることにより、フィルムの破断が生じることを抑制することができる。また、TD延伸温度は、好ましくは100℃以下である。TD延伸温度を100℃以下にすることにより、二軸延伸フィルムの配向が生じないという現象を抑制することができる。
【0056】
TDにおける延伸倍率(以下、TD延伸倍率とも記す)は、好ましくは2.5倍以上である。これにより、二軸延伸フィルムを配向させ、良好な力学特性や均一な厚みを実現することができる。MD延伸倍率は、例えば5倍以下である。
【0057】
TDリラックス率は、好ましくは0.5%以上である。これにより、PBTの二軸延伸フィルムの熱固定時に破断が生じることを抑制することができる。また、TDリラックス率は、好ましくは10%以下である。これにより、PBTの二軸延伸フィルムにたるみなどが生じて厚みムラが発生することを抑制することができる。
【0058】
図5に示す基材41の層41aの厚みは、好ましくは3nm以上であり、より好ましくは10nm以上である。また、層41aの厚みは、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは100nm以下である。
また、基材41の厚みは、好ましくは9μm以上であり、より好ましくは12μm以上である。また、基材41の厚みは、好ましくは25μm以下であり、より好ましくは20μm以下である。基材41の厚みを9μm以上にすることにより、基材41が十分な強度を有するようになる。また、基材41の厚みを25μm以下にすることにより、基材41が優れた成形性を示すようになる。このため、基材41を含む積層体30を加工して袋10を製造する工程を効率的に実施することができる。
【0059】
〔基材の第2の構成〕
第2の構成に係る基材41は、ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルを含む単層フィルムからなる。例えば、基材41は、グリコール成分としての1,4-ブタンジオール、又はそのエステル形成性誘導体と、二塩基酸成分としてのテレフタル酸、又はそのエステル形成性誘導体を主成分とし、それらを縮合して得られるホモ、またはコポリマータイプのポリエステルを含む。第2の構成に係る基材41におけるPBTの含有率は、51質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、さらには80質量%以上が好ましく、最も好ましくは90質量%以上である。また、第2の構成に係る基材41は、ポリブチレンテレフタレートと添加剤のみで構成されていることが好ましい。
【0060】
基材41に機械的強度を付与するためには、PBTのうち、融点が200℃以上且つ250℃以下、IV値(固有粘度)が1.10dl/g以上且つ1.35dl/g以下のものが好ましい。さらには、融点が215℃以上且つ225℃以下、IV値が1.15dl/g以上且つ1.30dl/g以下のものが特に好ましい。これらのIV値は、基材41を構成する材料全体によって満たされていてもよい。IV値は、JIS K 7367-5:2000に基づいて算出され得る。
【0061】
第2の構成に係る基材41は、PETなどPBT以外のポリエステル樹脂を30質量%以下の範囲で含んでいてもよい。基材41がPBTに加えてPETを含むことにより、PBT結晶化を抑制することができ、PBTフィルムの延伸加工性を向上させることができる。基材41のPBTに配合するPETとしては、エチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルを用いることができる。例えば、グリコール成分としてのエチレングリコール、二塩基酸成分としてのテレフタル酸を主成分としたホモタイプを好ましく用いることができる。良好な機械的強度特性を付与するためには、PETのうち、融点が240℃以上且つ265℃以下、IV値が0.55dl/g以上且つ0.90dl/g以下のものが好ましい。さらには、融点が245℃以上且つ260℃以下、IV値が0.60dl/g以上且つ0.80dl/g以下のものが特に好ましい。
PETの配合量を30質量%以下にすることにより、未延伸原反及び延伸フィルムの剛性が高くなり過ぎることを抑制することができる。これにより、延伸フィルムがもろくなり、延伸フィルムの耐圧強度、衝撃強度、突刺し強度などが低下してしまうことを抑制することができる。また、未延伸原反を延伸する際の延伸不調が発生することを抑制することができる。
【0062】
基材41は、必要に応じて、滑剤、アンチブロッキング剤、無機増量剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、着色剤、結晶化抑制剤、結晶化促進剤等の添加剤を含んでいてもよい。また、基材41の原料として用いるポリエステル系樹脂ペレットは、加熱溶融時の加水分解による粘度低下を避けるため、加熱溶融前に水分率が0.05重量%以下、好ましくは0.01重量%以下になるように十分予備乾燥を行った上で使用するのが好ましい。
【0063】
第2の構成に係るフィルム状の基材41を作製する方法の一例について説明する。
【0064】
上述の構成の基材41のフィルムを安定的に作製するためには、未延伸原反の状態における結晶の成長を抑制することが重要になる。具体的には、押出されたPBT系溶融体を冷却して成膜する際、該ポリマーの結晶化温度領域をある速度以上で冷却する、すなわち原反冷却速度が重要な因子となる。原反冷却速度は、例えば200℃/秒以上、好ましくは250℃/秒以上、特に好ましくは350℃/秒以上である。高い冷却速度で成膜された未延伸原反は、低い結晶状態を保っているため、延伸時のバブルの安定性が向上する。
さらには高速での成膜も可能になるので、フィルムの生産性も向上する。冷却速度が200℃/秒未満である場合、得られた未延伸原反の結晶性が高くなり延伸性が低下することが考えられる。また、極端な場合には、延伸バブルが破裂し、延伸が継続しないことも考えられる。
【0065】
PBTを主成分として含む未延伸原反は、雰囲気温度を25℃以下、好ましくは20℃以下に保ちながら、二軸延伸を行う空間まで搬送されることが好ましい。これにより、滞留時間が長くなった場合であっても、成膜直後の未延伸原反の結晶性を維持することができる。
【0066】
未延伸原反を延伸させて延伸フィルムを得るための二軸延伸法は、特には限定されない。例えば、チューブラー法又はテンター法により、縦方向及び横方向を同時に延伸してもよく、若しくは、縦方向及び横方向を逐次延伸してもよい。このうち、チューブラー法は、周方向の物性バランスが良好な延伸フィルムを得ることができ、特に好ましく採用される。
【0067】
チューブラー法において、延伸空間に導かれた未延伸原反は、一対の低速ニップロール間に挿通された後、中に空気を圧入しながら延伸用ヒーターで加熱される。延伸終了後、延伸フィルムには、冷却ショルダーエアーリングによりエアーが吹き付けられる。延伸倍率は、延伸安定性や延伸フィルムの強度物性、透明性、および厚み均一性を考慮すると、MD、およびTDそれぞれ2.7倍以上且つ4.5倍以下であることが好ましい。延伸倍率を2.7倍以上にすることにより、延伸フィルムの引張弾性率や衝撃強度を十分に確保することができる。また、延伸倍率を4.5倍以下にすることにより、延伸により過度な分子鎖のひずみが発生することを抑制し、延伸加工時に破断やパンクが発生することを抑制できるので、延伸フィルムを安定に作製することができる。
【0068】
延伸温度は、40℃以上且つ80℃以下が好ましく、特に好ましくは45℃以上且つ65℃以下である。上述の高い冷却速度で製造した未延伸原反は、結晶性が低いため、延伸温度が比較的に低温の場合であっても、安定して未延伸原反を延伸することができる。また、延伸温度を80℃以下にすることにより、延伸バブルの揺れを抑制し、厚み精度の良好な延伸フィルムを得ることができる。また、延伸温度を40℃以上にすることにより、低温延伸による過度な延伸配向結晶化が発生することを抑制して、フィルムの白化等を防ぐことができる。
【0069】
上述のようにして作製される基材41は、例えば、ブチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルを含む単一の層によって構成されている。上述の作製方法によれば、高い冷却速度で未延伸原反を成膜するので、未延伸原反が単一の層によって構成される場合であっても、低い結晶状態を保つことができ、このため、安定して未延伸原反を延伸することができる。
【0070】
上述の第1の構成及び第2の構成のいずれにおいても、基材41は、PBTを主成分として含む。このため、積層体30の引張弾性率を高くすることができる。特に、高温の雰囲気下、例えば100℃の雰囲気下における積層体30の引張弾性率(以下、熱間引張弾性率とも記す)を高くすることができる。積層体30の熱間引張弾性率は、150MPa以上であることが好ましく、160MPa以上であることがより好ましく、180MPa以上であることが更に好ましい。積層体30が高い熱間引張弾性率を有することにより、後述する実施例で示すように、積層体30を用いて作製した袋10の蒸通性を確保することができる。熱間引張弾性率の測定方法については、後述する実施例1において説明する。
【0071】
〔ガスバリア層〕
図6は、積層体30の層構成のその他の例を示す断面図である。
図6に示すように、積層体30の第1フィルム40は、基材41の内面30x側に位置し、透明性を有する透明ガスバリア層43を更に含んでいてもよい。この場合、印刷層42は、透明ガスバリア層43の内面30x側に位置する。
図6に示す例における積層体30は、外面側から内面側へ順に
基材/透明ガスバリア層/印刷層/接着剤層/シーラント層
を備えている、と言える。
【0072】
以下、透明ガスバリア層43について説明する。透明ガスバリア層43は、基材41の内面30x側の面上に形成され、透明性を有する無機材料からなる透明蒸着層43aを少なくとも含む。また、透明ガスバリア層43は、透明蒸着層43aの内面30x側の面上に形成され、透明性を有する透明ガスバリア性塗布膜43bを更に含んでいてもよい。この場合、積層体30は、外面側から内面側へ順に
基材/透明蒸着層/透明ガスバリア性塗布膜/印刷層/接着剤層/シーラント層
を備えている、と言える。
【0073】
透明蒸着層43aは、酸素ガスおよび水蒸気などの透過を阻止するガスバリア性の機能を有する層として機能する。なお、透明蒸着層43aは二層以上設けられてもよい。透明蒸着層43aを二層以上有する場合、それぞれが、同一の組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。透明蒸着層43aの形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、およびイオンプレ-ティング法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法)、あるいは、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、および光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)等を挙げることができる。具体的には、ローラー式蒸着膜成膜装置を用いて、成膜ローラー上において蒸着層を形成することができる。
【0074】
透明蒸着層43aは、アルミニウム酸化物(酸化アルミニウム)、珪素酸化物などの、透明性を有する無機物で形成されている。透明蒸着層43aとしては、酸化アルミニウムの非結晶性の薄膜を使用することが好ましい。具体的には、透明蒸着層43aは、式AlOX(式中、Xは、0.5~1.5の範囲の数を表す。)で表される酸化アルミニウムの非結晶性の薄膜である。透明蒸着層43aは、膜表面から内面に向かう深さ方向に向かってXの値が減少している酸化アルミニウムの非結晶性の薄膜を使用することができる。酸化アルミニウムの非結晶性の薄膜は、式AlOX(式中、Xは、0.5~1.5の範囲の数を表す。)で表され、その薄膜表面から内面に向かう深さ方向に向かってXの値が増加していることが好ましい。なお、上記の式中のXの値としては、基本的には、X=0.5以上のものを使用することができるが、X=1.0未満になると、着色が激しく、かつ、透明性に劣ることから、X=1.0以上のものを使用することが好ましい。また、X=1.5のものは、Alと酸素とが完全に酸化した状態のものであることから、上限としては、X=1.5までのものを使用することができる。なお、上記の式中のXの値が0の場合、完全な無機単体(純物質)であり、透明ではない。
【0075】
なお、Xの値の減少割合は、例えば、X線光電子分光装置(Xray Photoelectron Spectroscopy:XPS)、二次イオン質量分析装置(Secondary Ion Mass Spectroscopy:SIMS)などの表面分析装置を用い、深さ方向にイオンエッチングするなどして分析する方法を利用して、透明蒸着層43aの元素分析を行うことより確認することができる。
【0076】
透明蒸着層43aは、アルミニウム原子と炭素原子の共有結合を含む無機化合物の混合物からなる層であってもよい。この場合において、透明蒸着層43aは、X線光電子分光装置(測定条件:X線源AlKα、X線出力120W)を用い、深さ方向にイオンエッチングにより測定したピークにアルミニウム原子と炭素原子の共有結合の存在を示し、また、透明性を有しかつ酸素、水蒸気等の透過を妨げるガスバリア性を有してもよい。
【0077】
透明蒸着層43aと基材41との界面には、金属原子と炭素原子の共有結合が形成されていてもよい。例えば、透明蒸着層43aが酸化アルミニウムを含む場合、基材41と透明蒸着層43aとの界面には、アルミニウム原子と炭素原子の共有結合が形成されているものとすることができる。共有結合は、X線光電子分光法による測定(以下、略して「XPS測定」という)によって検出され得る。
【0078】
また、透明蒸着層43aにおいては、アルミニウム原子と炭素原子の共有結合の存在比率が、XPS測定により透明蒸着層43aと基材41との界面を測定した場合に観察される炭素原子を含む全結合のうちの0.3%以上且つ30%以下の範囲内であることが好ましい。これにより、透明蒸着層43aと基材41との密着性が強化され、透明性も優れ、ガスバリア性の蒸着フィルムとしてバランスのよい性能のものが得られる。
【0079】
アルミニウム原子と炭素原子の共有結合の存在比率が0.3%未満であると、透明蒸着層43aの密着性の改善が不十分であり、バリア性を安定して維持することが困難になる。
【0080】
さらに、酸化アルミニウムを主成分とする透明蒸着層43aの、AL(アルミニウム)/O(酸素)比が、基材41と透明蒸着層43aとの界面から、基材41とは反対側の透明蒸着層43aの表面に向かって3nmまでの範囲内において、1.0以下であることが好ましい。
透明蒸着層43aと基材41との界面から、基材41とは反対側の透明蒸着層43aの表面に向かう範囲内において、AL/Oの比が1.0を超えると、基材41と透明蒸着層43aとの間の密着性が不十分となり、かつアルミニウムの割合が高まり、透明蒸着層43aの透明性が低下する。
【0081】
透明蒸着層43aの厚みは、例えば30Å以上且つ150Åである。30Å未満であると、透明ガスバリア性塗布膜43bを併用した場合であってもガスバリア性が不十分となる場合がある。一方、150Åを超えると、積層体30のガスバリア性能を維持できない場合がある。この理由は定かではないが、透明蒸着層43aの厚みが150Åを超えると積層体30の屈曲性が低下し、積層体30を袋10に使用した場合に透明蒸着層43aの一部に亀裂ないしピンホールが発生してガスバリア性が低下するものと考えられる。透明蒸着層43aの厚みは、好ましくは、40Å以上且つ130Å以下、より好ましくは、50Å以上且つ120Å以下である。なお、透明蒸着層43aの厚みは、例えば、蛍光X線分析装置(商品名:RIX2000型、株式会社理学製)を用いて、ファンダメンタルパラメーター法で測定することができる。また、透明蒸着層43aの厚みを変更する手段としては、透明蒸着層43aの堆積速度を変更する方法、蒸着する速度を変更する方法などによって行うことができる。
【0082】
基材41の内面30x側の面上に透明蒸着層43aを形成する場合、基材41の内面30x側の面に予めコロナ放電処理、フレーム処理、プラズマ処理などの前処理を施しておいてもよい。特に、透明蒸着層43aと基材41との界面に、金属原子と炭素原子の共有結合を形成する場合には、透明蒸着層43aを形成しようとする基材41の面に対し前処理を施すことが好ましい。前処理がプラズマ処理である場合、前処理装置により、0.1Pa以上100Pa以下の減圧環境下において、基材41の面に対してプラズマを供給する。プラズマは、アルゴン等の不活性ガス単独又は酸素、窒素、炭酸ガス及びそれらの1種以上のガスとの混合ガスをプラズマ原料ガスとして用い、高周波電圧等による電位差によって、プラズマ原料ガスを励起状態にすることにより、発生させることができる。
【0083】
前処理により、基材41の表面近傍にプラズマを閉じ込めることができる。これにより、基材41の表面の形状や、化学的な結合状態や官能基を変化させ、基材41の表面の化学的性状を変化させることができる。このことにより、基材41と透明蒸着層43aとの密着性を向上させることが可能となる。
【0084】
透明ガスバリア性塗布膜43bは、酸素ガスおよび水蒸気などの透過を抑制する層として機能する層である。透明ガスバリア性塗布膜43bは、一般式R1
nM(OR2)m(ただし、式中、R1、R2は、炭素数1~8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも一種以上のアルコキシドと、上記のようなポリビニルアルコ-ル系樹脂および/またはエチレン・ビニルアルコ-ル共重合体とを含有し、さらに、ゾルゲル法触媒、酸、水、および、有機溶剤の存在下に、ゾルゲル法によって重縮合する透明ガスバリア性組成物により得られる。
【0085】
上記の一般式R1
nM(OR2)mで表されるアルコキシドとしては、アルコキシドの部分加水分解物、アルコキシドの加水分解の縮合物の少なくとも一種以上を使用することができる。また、上記のアルコキシドの部分加水分解物としては、アルコキシ基のすべてが加水分解されている必要はなく、1個以上が加水分解されているもの、および、その混合物であってもよい。アルコキシドの加水分解の縮合物としては、部分加水分解アルコキシドの2量体以上のもの、具体的には、2~6量体のものを使用される。
【0086】
上記の一般式R1
nM(OR2)mで表されるアルコキシドにおいて、Mで表される金属原子としては、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、その他などを使用することができる。好ましい金属としては、例えば、ケイ素、チタンなどを挙げることができる。また、本発明において、アルコキシドの用い方としては、単独または二種以上の異なる金属原子のアルコキシドを同一溶液中に混合して使うこともできる。
【0087】
また、上記の一般式R1
nM(OR2)mで表されるアルコキシドにおいて、R1で表される有機基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、その他などのアルキル基を挙げることができる。また、上記の一般式R1
nM(OR2)mで表されるアルコキシドにおいて、R2で表される有機基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、その他などを挙げることができる。なお、同一分子中にこれらのアルキル基は同一であっても、異なってもよい。
【0088】
上記の透明ガスバリア性組成物を調製する際、例えば、シランカップリング剤などを添加してもよい。上記のシランカップリング剤としては、既知の有機反応性基含有オルガノアルコキシシランを用いることができる。特に、エポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適に用いられ、具体的には、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、または、β-(3、4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどを使用することができる。上記のようなシランカップリング剤は、一種または二種以上を混合して用いてもよい。
【0089】
(第2フィルム)
第2フィルム50は、積層体30の内面30xを構成するシーラント層51を少なくとも含む。シーラント層51を構成する材料としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどのポリエチレン、ポリプロピレンから選択される1種または2種以上の樹脂を用いることができる。シーラント層51は、単層であってもよく、多層であってもよい。また、シーラント層51は、好ましくは未延伸のフィルムからなる。なお「未延伸」とは、全く延伸されていないフィルムだけでなく、製膜の際に加えられる張力に起因してわずかに延伸されているフィルムも含む概念である。
【0090】
上述のように、積層体30から構成された袋10には、ボイル処理やレトルト処理などの殺菌処理が高温で施される。従って、シーラント層51は、これらの高温での処理に耐える耐熱性を有するものが用いられる。
【0091】
シーラント層51を構成する材料の融点は、150℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましい。シーラント層51の融点を高くすることにより、袋10のレトルト処理を高温で実施することが可能になり、このため、レトルト処理に要する時間を短くすることができる。なお、シーラント層51を構成する材料の融点は、基材41を構成する樹脂の融点より低い。
【0092】
レトルト処理の観点で考える場合、シーラント層51を構成する材料として、プロピレンを主成分とする材料を用いることができる。ここで、プロピレンを「主成分とする」材料とは、プロピレンの含有率が90質量%以上である材料を意味する。プロピレンを主成分とする材料としては、具体的には、プロピレン・エチレンブロック共重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体、ホモポリプロピレンなどのポリプロピレン、又はポリプロピレンとポリエチレンとを混合したものなどを挙げることができる。ここで、「プロピレン・エチレンブロック共重合体」とは、下記の式(I)に示される構造式を有する材料を意味する。また、「プロピレン・エチレンランダム共重合体」とは、下記の式(II)に示される構造式を有する材料を意味する。また、「ホモポリプロピレン」とは、下記の式(III)に示される構造式を有する材料を意味する。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
プロピレンを主成分とする材料として、ポリプロピレンとポリエチレンとを混合したものを用いる場合には、材料は、海島構造を有していてもよい。ここで、「海島構造」とは、ポリプロピレンが連続する領域の内に、ポリエチレンが不連続に分散している構造をいう。
【0097】
ボイル処理の観点で考える場合、シーラント層51を構成する材料の例として、ポリエチレン、ポリプロピレン又はこれらの組み合わせなどを挙げることができる。ポリエチレンとしては、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン又はこれらの組み合わせなどを挙げることができる。例えば、上述のレトルト処理の観点からシーラント層を構成する材料として挙げた材料を用いることも可能である。シーラント層を構成する材料は、例えば100℃以上、より好ましくは105℃以上、更に好ましくは110℃以上の融点を有する。シーラント層を構成する材料としてポリエチレンを用いる場合、100℃以上の融点は、例えば、ポリエチレンの密度が0.920g/cm3以上である場合に実現され得る。また、100℃以上の融点を有するシーラント層を構成するためのシーラントフィルムの具体例としては、三井化学東セロ製TUX-HC、東洋紡製L6101、出光ユニテック製LS700C等を挙げることができる。105℃以上の融点を有するシーラント層を構成するためのシーラントフィルムの具体例としては、タマポリ製NB-1等を挙げることができる。110℃以上の融点を有するシーラント層を構成するためのシーラントフィルムの具体例としては、出光ユニテック製LS760C、三井化学東セロ製TUX-HZ等を挙げることができる。
【0098】
好ましくは、シーラント層51は、プロピレン・エチレンブロック共重合体を含む。例えば、シーラント層51を含む第2フィルム50は、プロピレン・エチレンブロック共重合体を主成分とする未延伸フィルムである。プロピレン・エチレンブロック共重合体を用いることにより、第2フィルム50の耐衝撃性を高めることができ、これにより、落下時の衝撃により袋10が破袋してしまうことを抑制することができる。また、積層体30の耐突き刺し性を高めることができる。
【0099】
また、プロピレン・エチレンブロック共重合体を用いることにより、高温時、例えば100℃以上のときの、シーラント層51によって構成されるシール部の強度(以下、熱間シール強度とも言う)が、低温時、例えば室温のときのシール強度に比べて極めて小さくなる。例えば、100℃のときの熱間シール強度が、25℃のときのシール強度(以下、常温シール強度とも言う)の4分の1以下になる。また、例えば、100℃のときの15mm幅における熱間シール強度は、20N以下、好ましくは15N以下である。シール部が低い熱間シール強度を有することにより、後述する実施例で示すように、積層体30をシールすることによって作製した袋10の蒸通性を確保することができる。熱間シール強度及び常温シール強度の測定方法については、後述する実施例1において説明する。
【0100】
また、シーラント層51は、熱可塑性エラストマーを更に含んでいてもよい。熱可塑性エラストマーを用いることにより、第2フィルム50の耐衝撃性や耐突き刺し性を更に高めることができる。
【0101】
熱可塑性エラストマーは、例えば水添スチレン系熱可塑性エラストマーである。水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、少なくとも1個のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと少なくとも1個の水素添加された共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBからなる構造を有する。また、熱可塑性エラストマーは、エチレン・α-オレフィンエラストマーであってもよい。エチレン・α-オレフィンエラストマーは、低結晶性もしくは非晶性の共重合体エラストマーであり、主成分としての50~90質量%のエチレンと共重合モノマーとしてのα-オレフィンとのランダム共重合体である。
【0102】
シーラント層51におけるプロピレン・エチレンブロック共重合体の含有率は、例えば80質量%以上であり、好ましくは90質量%以上である。
【0103】
プロピレン・エチレンブロック共重合体の製造方法としては、触媒を用いて原料であるプロピレンやエチレンなどを重合させる方法が挙げられる。触媒としては、チーグラー・ナッタ型やメタロセン触媒などを用いることができる。
【0104】
シーラント層51の厚みは、好ましくは30μm以上であり、より好ましくは40μm以上である。また、シーラント層51の厚みは、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは80μm以下である。
【0105】
(接着剤層)
接着剤層60は、第1フィルム40と第2フィルム50とを接着するための接着剤を含む。接着剤の例としては、エーテル系の接着剤、エステル系の接着剤などを挙げることができる。
【0106】
エーテル系の二液反応型接着剤としては、例えば、ポリエーテルポリウレタンなどを挙げることができる。ポリエーテルポリウレタンは、主剤としてのポリエーテルポリオールと、硬化剤としてのイソシアネート化合物が反応することにより生成される硬化物である。イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)などの芳香族系イソシアネート化合物、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)などの脂肪族系イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)などの脂環式系イソシアネート化合物、あるいは、上記各種イソシアネート化合物の付加体または多量体を用いることができる。
【0107】
エステル系の二液反応型接着剤としては、例えば、ポリエステルポリウレタンやポリエステルなどが挙げられる。ポリエステルポリウレタンは、主剤としてのポリエステルポリオールと、硬化剤としてのイソシアネート化合物とが反応することにより生成される硬化物である。イソシアネート化合物の例は、上述のエーテル系の二液反応型接着剤の場合と同様である。
【0108】
下部フィルムの層構成
次に、下部フィルム16の層構成について説明する。
【0109】
表面フィルム14の内面及び裏面フィルム15の内面と接合可能な内面を有する限りにおいて、下部フィルム16の層構成は任意である。例えば、表面フィルム14及び裏面フィルム15と同様に、下部フィルム16として上述の積層体30を用いてもよい。若しくは、内面がシーラント層によって構成され、且つ積層体30とは異なる構成のフィルムを、下部フィルム16として用いてもよい。
【0110】
第1フィルムの製造方法
次に、第1フィルム40の製造方法の一例について説明する。
【0111】
まず、主成分としてPBTを含む樹脂材料を準備する。続いて、キャスト法やチューブラー法などの溶融押出法で樹脂材料を押し出すことにより、フィルム状の基材41を作製する。続いて、アルミニウム酸化物などの無機材料をフィルム状の基材41に蒸着させて、透明蒸着層43aを形成してもよい。続いて、透明蒸着層43a上に透明ガスバリア性組成物を塗布して、透明ガスバリア性塗布膜43bを形成してもよい。その後、基材41上又は透明ガスバリア性塗布膜43b上に印刷層42を形成する。このようにして、基材41と、印刷層42とを備える第1フィルム40、あるいは、基材41と、透明蒸着層43a及び透明ガスバリア性塗布膜43bを含む透明ガスバリア層43と、印刷層42とを備える第1フィルム40を得ることができる。
【0112】
積層体の製造方法
次に、積層体30の製造方法の一例について説明する。
【0113】
まず、上述の第1フィルム40、及び、シーラント層51を含む第2フィルム50を準備する。続いて、ドライラミネート法により、接着剤層60を介して第1フィルム40と第2フィルム50とを積層する。これによって、第1フィルム40及び第2フィルム50を備える積層体30を得ることができる。
【0114】
袋の製造方法
上述の積層体30からなる表面フィルム14及び裏面フィルム15を準備する。また、表面フィルム14と裏面フィルム15との間に、折り返した状態の下部フィルム16を挿入する。続いて、各フィルムの内面同士をヒートシールして、下部シール部12a、側部シール部13aなどのシール部を形成する。また、ヒートシールによって互いに接合されたフィルムを適切な形状に切断して、
図1に示す袋10を得る。続いて、上部11の開口部11bを介して内容物18を袋10に充填する。内容物18は、例えば、カレー、シチュー、スープ等の、水分を含む調理済食品である。また食品以外にも、湯煎等によって加熱され得るものを内容物として袋10に収容することができる。その後、上部11をヒートシールして上部シール部11aを形成する。このようにして、
図7に示すように、内容物18が収容され封止された袋10を得ることができる。
【0115】
内容物の加熱方法
次に、袋10に収容された内容物18の加熱方法の一例について説明する。
【0116】
まず、下部12を下にして袋10を自立させた状態で、袋10を電子レンジの内部に載置する。次に、電子レンジを利用して内容物を加熱する。これによって、内容物18の温度が高くなり、これに伴って、内容物18に含まれる水分が蒸発して収容部17の圧力が高まる。
図8は、収容部17の圧力が高まった状態の袋10を
図7のVIII-VIII線に沿って見た場合を示す断面図である。
【0117】
収容部17の圧力が高くなると、
図8に示すように、収容部17から受ける力F2によって表面フィルム14及び裏面フィルム15が外側に膨らむ。ここで本実施の形態においては、表面フィルム14及び裏面フィルム15を構成する積層体30が、PBTを主成分とする基材41を含む。このため、基材41の剛性が高くなっており、この結果、表面フィルム14及び裏面フィルム15が力F2を受けた場合に表面フィルム14及び裏面フィルム15における基材41が伸びることを抑制することができる。これにより、収容部17に生じる圧力に起因して生じる力を、
図8に示すように、表面フィルム14及び裏面フィルム15を伸ばすための力F2ではなく、蒸気抜きシール部20aを剥離させるための力F1として主に利用することができる。このため、蒸気抜きシール部20aに加わる力F1を大きくすることができる。このことにより、加熱時に蒸気抜きシール部20aが剥離し易くなり、蒸気抜き機構20を介して収容部17の蒸気を外部に逃がすことができる。
【0118】
次に、本実施の形態の効果を、比較の形態と比較して説明する。比較の形態においては、表面フィルム14及び裏面フィルム15を構成する積層体130の外面、すなわち基材が、ナイロンによって構成されている。ナイロンの耐熱性は、PBTやPETに比べて低い。このため、収容部17の圧力が高くなると、積層体130中のナイロンがシーラント層とともに伸び、表面フィルム14及び裏面フィルム15が外側に膨らむ。このように、比較の形態においては、収容部17に生じる圧力が、ナイロンを含む積層体130を伸ばすことに主に利用されるので、蒸気抜きシール部20aに加わる力F1を大きくすることができない。このため、蒸気抜きシール部20aが剥離するよりも前に積層体130が破れてしまったり、蒸気抜きシール部20a以外のシール部が剥離されてしまったりすることが考えられる。
【0119】
これに対して、本実施の形態によれば、表面フィルム14及び裏面フィルム15を構成する積層体30が、PBTを主成分とする基材41を含むので、積層体30の熱間引張弾性率を高くすることができる。このため、加熱時に蒸気抜きシール部20aに加わる力F1を大きくすることができる。このことにより、蒸気抜きシール部20aが剥離するよりも前に積層体30が破れてしまったり、蒸気抜きシール部20a以外のシール部が剥離されてしまったりすることを抑制することができる。すなわち、袋10の蒸通性を確保することができる。
【0120】
また、本実施の形態によれば、表面フィルム14及び裏面フィルム15を構成する積層体30のシーラント層51が、プロピレン・エチレンブロック共重合体を含む。このため、高温時のシーラント層51の熱間シール強度を低くすることができ、これにより、加熱時に蒸気抜きシール部20aがより剥離し易くなる。従って、袋10の蒸通性を更に高めることができる。また、シーラント層51がエラストマーを更に含むことにより、第2フィルム50の耐衝撃性や耐突き刺し性を高めることができる。
【0121】
また、本実施の形態によれば、表面フィルム14及び裏面フィルム15を構成する積層体30が、PBTを主成分とする基材41を含むことにより、下記の効果を奏することができる。
まず、PBTは、印刷適性に優れる。このため、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETとも記す)の場合と同様に、PBTを含む基材41上に印刷層42を設けることができる。
また、PBTは、耐熱性に優れる。このため、袋10にボイル処理やレトルト処理を施す際に基材41が変形したり基材41の強度が低下したりすることを抑制することができる。
また、PBTは、高い強度を有する。このため、袋10を構成する積層体がナイロンを含む場合と同様に、積層体30及び袋10に耐突き刺し性を持たせることができる。積層体30の突き刺し強度は、13N以上であることが好ましく、15N以上であることがより好ましく、17N以上であることがさらに好ましい。耐突き刺し性の測定方法については、後述する実施例1において説明する。
また、PBTは、ナイロンに比べて水分を吸収しにくいという特性を有する。このため、PBTを含む基材41を積層体30の外面30yに配置した場合であっても、基材41が水分を吸収して積層体30のラミネート強度が低下してしまうことを抑制することができる。
【0122】
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、必要に応じて図面を参照しながら、変形例について説明する。以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述した実施の形態と同様に構成され得る部分について、上述の実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いることとし、重複する説明を省略する。また、上述した実施の形態において得られる作用効果が変形例においても得られることが明らかである場合、その説明を省略することもある。
【0123】
(袋の変形例)
上述の本実施の形態においては、袋10がガセット式の袋である例を示したが、袋10の具体的な構成が特に限定されることはない。例えば、
図10に示すように、袋10は、積層体30からなる表面フィルム14及び裏面フィルム15の内面同士を上部11、下部12及び側部13で接合することによって形成された、いわゆる四方シール袋であってもよい。
【0124】
(他の態様)
本発明の他の態様は、蒸気抜き機構を有する袋であって、前記袋を構成する積層体は、外面側から内面側へ順に
基材/印刷層/接着剤層/シーラント層、又は
基材/透明蒸着層/透明ガスバリア性塗布膜/印刷層/接着剤層/シーラント層、を含み、
前記基材は、51質量%以上のポリブチレンテレフタレートを含む、袋である。
【0125】
本発明の他の態様による袋において、前記基材は、60質量%以上のポリブチレンテレフタレートを含んでいてもよい。
【0126】
本発明の他の態様による袋において、前記積層体の突き刺し強度が好ましくは13N以上である。
【0127】
本発明の他の態様による袋において、前記基材は、10層以上を含む多層構造部を有していてもよい。若しくは、前記基材は、1.10dl/g以上且つ1.35dl/g以下のIV値を有する単層構造からなっていてもよい。
【0128】
本発明の他の態様による袋において、前記シーラント層は、90質量%以上のポリプロピレンを含んでいてもよい。
【0129】
本発明の他の態様による袋において、前記シーラント層は、熱可塑性エラストマーを更に含んでいてもよい。
【0130】
本発明の他の態様による袋において、前記積層体は、外面側から内面側へ順に
基材/透明蒸着層/透明ガスバリア性塗布膜/印刷層/接着剤層/シーラント層、を含み、
前記透明蒸着層は、酸化アルミニウムを含み、
前記基材と前記透明蒸着層との界面に、アルミニウム原子と炭素原子の共有結合が形成されていてもよい。
【実施例0131】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0132】
(実施例1)
上述の第1の構成で説明した、複数の層41aを含み、キャスト法で作製されたフィルム状の基材41を準備した。各層41aにおけるPBTの含有率は80%であり、層41aの層数は1024であり、基材41の厚みは15μmであった。続いて、フィルム状の基材41上に、DICグラフィックス株式会社製のフィナートを用いて印刷層42を形成した。
【0133】
また、シーラント層51を含むフィルム状の第2フィルム50を準備した。シーラント層51としては、東レフィルム加工株式会社製の未延伸ポリプロピレンフィルム ZK500を用いた。ZK500は、上述のプロピレン・エチレンブロック共重合体及びエラストマーを含む。シーラント層51の厚みは60μmであった。
【0134】
その後、ドライラミネート法により、接着剤層60を介して第1フィルム40と第2フィルム50とを積層し、積層体30を作製した。接着剤層60としては、ロックペイント株式会社製の2液型ポリウレタン系接着剤(主剤:RU-40、硬化剤:H-4)を用いた。なお、主剤のRU-40は、ポリエステルポリオールである。
【0135】
続いて、積層体30の突き刺し強度を、JIS Z1707 7.4に準拠して測定した。測定器としては、A&D製のテンシロン万能材料試験機RTC-1310を用いた。
具体的には、
図11に示すように、固定されている状態の積層体30の試験片に対して、外面30y側から、直径1.0mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針70を、50mm/分(1分あたり50mm)の速度で突き刺し、針70が積層体30を貫通するまでの応力の最大値を測定した。5個以上の試験片について、応力の最大値を測定し、その平均値を積層体30の突き刺し強度とした。測定時の環境は、温度23℃、相対湿度50%とした。結果、突き刺し強度は16Nであった。
【0136】
また、100℃の雰囲気下において、積層体30の引張弾性率(以下、熱間引張弾性率とも記す)を、JIS K7127に準拠して測定した。測定器としては、オリエンテック社製の恒温槽付き引張試験機 RTC-1310Aを用いた。具体的には、まず、積層体30を切り出して、15mmの幅(短辺)を有する矩形状の試験片を作製した。その後、試験片をその長辺方向において50mm/分の速度で引っ張り、試験片に加えられる引張応力を測定した。5個の試験片について、引張応力を測定した。また、各試験片について、引張応力の傾きk(
図12参照)の最大値を算出した。そして、各試験片の傾きkの最大値の平均値を、積層体30の熱間引張弾性率とした。結果、熱間引張弾性率は164MPaであった。
【0137】
続いて、2枚の積層体30の内面30x同士を部分的にヒートシールした。その後、100℃の雰囲気下において、積層体30間のシール強度を、JIS Z1707 7.5に準拠して測定した。測定器としては、オリエンテック社製の恒温槽付き引張試験機 RTC-1310Aを用いた。具体的には、まず、ヒートシールされた2枚の積層体30を切り出して、15mmの幅(短辺)を有する矩形状の試験片80を作製した。試験片80においては、
図13Aに示すように、その長辺方向の一方の先端から15mmにわたって、2枚の積層体30が剥離されている。その後、
図13Bに示すように、2枚の積層体30のうち既に剥離されている部分をそれぞれ、測定器のつかみ具81及びつかみ具82で把持した。また、つかみ具81,82をそれぞれ、2枚の積層体30がまだ接合されている部分の面方向に対して直交する方向において互いに逆向きに、300mm/分の速度で引っ張り、引張応力の最大値(
図14参照)を測定した。
図14は、間隔Sに対する引張応力の変化を示す図である。
5個の試験片80について、引張応力の最大値を測定し、その平均値を積層体30のシール強度とした。引っ張りを開始する際の、つかみ具81,82間の間隔Sは20mmとし、引っ張りを終了する際の、つかみ具81,82間の間隔Sは40mmとした。測定時の環境は、温度100℃、相対湿度50%とした。結果、15mm幅におけるシール強度(以下、熱間シール強度とも言う)は13Nであった。また、測定時の環境を23℃、相対湿度50%とした以外は上記と同様にしてシール強度を測定した。結果、15mm幅におけるシール強度(以下、常温シール強度とも言う)は61Nであった。
【0138】
続いて、積層体30を用いて、袋10を作製し、袋10の蒸通性を評価した。具体的には、まず、積層体30を用いて
図1に示す袋10を作製した。その後、水100gを袋10の内部に充填し、上部11をヒートシールして上部シール部11aを形成した。このとき、袋10の長さS1を145mm、長さS2を140mmとした。続いて、電子レンジを用いて内容物を加熱し、蒸気抜き機構20の蒸気抜きシール部20aが適切に剥離するか否かを確認した。結果、蒸気抜きシール部20aが剥離し、収容部17内の蒸気を外部に逃がすことができた。
【0139】
(実施例2)
第1フィルムの基材として、上述の第2の構成で説明した、100質量%のPBTを含み、PBTの融点が224℃、IV値が1.26dl/gであり、チューブラー法で作製されたフィルム状の基材41を用いたこと以外は、実施例1の場合と同様にして、積層体を作製した。基材41はPBT及び添加剤のみで構成される単層のフィルムであり、基材41の厚みは15μmであった。また、実施例1の場合と同様にして、積層体の突き刺し強度及び熱間引張弾性率を測定した。結果、突き刺し強度は15Nであり、熱間引張弾性率は211MPaであった。
【0140】
また、実施例1の場合と同様にして、積層体30のシール強度を測定した。結果、15mm幅における熱間シール強度は13Nであり、15mm幅における常温シール強度は61Nであった。また、実施例1の場合と同様にして、積層体30を用いて作製した袋10の蒸通性を評価した。結果、蒸気抜きシール部20aが剥離し、収容部17内の蒸気を外部に逃がすことができた。
【0141】
(実施例3)
第2フィルムとして、東レフィルム加工株式会社製の未延伸ポリプロピレンフィルム ZK99Sを用いたこと以外は、実施例1の場合と同様にして、積層体を作製した。また、実施例1の場合と同様にして、積層体の突き刺し強度及び熱間引張弾性率を測定した。
結果、突き刺し強度は16Nであり、熱間引張弾性率は181MPaであった。
【0142】
また、実施例1の場合と同様にして、積層体30のシール強度を測定した。結果、15mm幅における熱間シール強度は28Nであり、15mm幅における常温シール強度は68Nであった。また、実施例1の場合と同様にして、積層体30を用いて作製した袋10の蒸通性を評価した。結果、蒸気抜きシール部20aが剥離し、収容部17内の蒸気を外部に逃がすことができた。
【0143】
(実施例4)
第2フィルムとして、東レフィルム加工株式会社製の未延伸ポリプロピレンフィルム ZK99Sを用いたこと以外は、実施例2の場合と同様にして、積層体を作製した。また、実施例1の場合と同様にして、積層体の突き刺し強度及び熱間引張弾性率を測定した。
結果、突き刺し強度は15Nであり、熱間引張弾性率は198MPaであった。
【0144】
また、実施例1の場合と同様にして、積層体30のシール強度を測定した。結果、15mm幅における熱間シール強度は28Nであり、15mm幅における常温シール強度は68Nであった。また、実施例1の場合と同様にして、積層体30を用いて作製した袋10の蒸通性を評価した。結果、蒸気抜きシール部20aが剥離し、収容部17内の蒸気を外部に逃がすことができた。
【0145】
(比較例1)
第1フィルムの基材として、厚み15μmのナイロンフィルム(興人ホールディングス株式会社製 ボニールW)を用いたこと以外は、実施例1の場合と同様にして、積層体を作製した。また、実施例1の場合と同様にして、積層体の突き刺し強度及び熱間引張弾性率を測定した。結果、突き刺し強度は15Nであり、熱間引張弾性率は145MPaであった。
【0146】
また、実施例1の場合と同様にして、積層体のシール強度を測定した。結果、15mm幅における熱間シール強度は13Nであり、15mm幅における常温シール強度は61Nであった。また、実施例1の場合と同様にして、積層体を用いて作製した袋の蒸通性を評価した。結果、蒸気抜き機構の蒸気抜きシール部を剥離させることができなかった。
【0147】
(比較例2)
第1フィルムの基材として、厚み12μmのPETフィルム(東洋紡株式会社製 T4102)を用いたこと以外は、実施例1の場合と同様にして、積層体を作製した。また、実施例1の場合と同様にして、積層体の突き刺し強度及び熱間引張弾性率を測定した。結果、突き刺し強度は10Nであり、熱間引張弾性率は343MPaであった。
【0148】
また、実施例1の場合と同様にして、積層体のシール強度を測定した。結果、15mm幅における熱間シール強度は13Nであり、15mm幅における常温シール強度は61Nであった。また、実施例1の場合と同様にして、積層体を用いて作製した袋の蒸通性を評価した。結果、蒸気抜きシール部が剥離し、収容部内の蒸気を外部に逃がすことができた。
【0149】
実施例1~4及び比較例1,2の評価結果を、
図15にまとめて示す。実施例1~4と比較例1の比較から分かるように、積層体30の第1フィルム40がPBTを含むことにより、積層体30を用いて作製した袋10における蒸通性を確保することができた。なお、蒸通性に関して、実施例1~4及び比較例2においては、加熱時に、蒸気抜きシール部20a以外のシール部が後退(剥離)することなく、収容部内の蒸気が外部に逃げたので、評価結果を「great」又は「good」とした。また、実施例1、2及び比較例2については、実施例3、4の場合に比べて、蒸気抜きシール部が剥離して収容部内の蒸気が外部に逃げ始める際の収容部内の圧力が小さかったので、評価結果を「great」とした。また、比較例1については、加熱時に、蒸気抜きシール部20a以外のシール部から収容部内の蒸気が外部に逃げたので、評価結果を「bad」とした。
【0150】
蒸気抜きシール部20aの熱間シール強度が低いほど、加熱時に蒸気抜きシール部20aが剥離し易くなる。また、積層体30の熱間引張弾性率が高いほど、加熱時に蒸気抜き機構20に加わる力を、基材41を含む第1フィルム40ではなくシーラント層51を含む第2フィルム50に集中させることができる。従って、熱間シール強度が低いほど、また、熱間引張弾性率が高いほど、加熱時に蒸気抜きシール部20aが剥離し易くなり、このため、収容部内の蒸気が外部に抜けやすくなる。すなわち、蒸通性が向上する。
図15に示すように、実施例1、2及び比較例2においては、熱間シール強度が20N以下であり、且つ、熱間弾性引張率が150MPa以上である。このため、実施例1、2及び比較例2においては、良好な蒸通性が得られたと考えられる。
【0151】
また、実施例1~4と比較例2の比較から分かるように、積層体30の第1フィルム40がPBTを含むことにより、PETを用いる場合に比べて、高い突き刺し強度を実現することができた。