(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024120947
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】排水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20240829BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20240829BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240829BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C02F3/12 B
C02F3/12 V
C02F3/34 Z
C12N1/20 F
C12N15/53
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024103212
(22)【出願日】2024-06-26
(62)【分割の表示】P 2019185013の分割
【原出願日】2019-10-08
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】今安 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 修平
(57)【要約】
【課題】酸化エチレンの製造過程で発生する難分解性有機物質である1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水を、安定して、かつエネルギー負荷を小さくして処理することができる排水処理方法を提供する。
【解決手段】1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水を、可溶性鉄(II)モノオキシゲナーゼ遺伝子と、1,4-ジオキサン分解菌と、を含む活性汚泥を用いて生物処理し、前記生物処理は、水理学的滞留時間を4日以上とし、前記生物処理は、前記活性汚泥が前記可溶性鉄(II)モノオキシゲナーゼ遺伝子を4.2×106(copies/mL)以上含有するように行われることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水を、可溶性鉄(II)モノオキシゲナーゼ遺伝子と、1,4-ジオキサン分解菌と、を含む活性汚泥を用いて生物処理し、
前記生物処理は、水理学的滞留時間を4日以上とし、
前記生物処理は、前記活性汚泥が前記可溶性鉄(II)モノオキシゲナーゼ遺伝子を4.2×106(copies/mL)以上含有するように行われることを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
前記生物処理において、汚泥滞留時間を60日以上とすることを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水を、可溶性鉄(II)モノオキシゲナーゼ遺伝子と、1,4-ジオキサン分解菌と、を含む活性汚泥を用いて生物処理し、
前記生物処理は、汚泥滞留時間を60日以上とし、
前記生物処理は、前記活性汚泥が前記可溶性鉄(II)モノオキシゲナーゼ遺伝子を4.2×106(copies/mL)以上含有するように行われることを特徴とする排水処理方法。
【請求項4】
前記生物処理では、前記活性汚泥に含まれる1,4-ジオキサン分解菌として、全菌数に占める1,4-ジオキサン分解菌の構成としてポリメラーゼ連鎖反応増幅産物の塩基配列のGreengenesデータベースによるシークエンス解析とSilva Living Treeデータベースによるシークエンス解析から、MycrobacteriumとPseudonocardiaを少なくとも含む1,4-ジオキサン分解菌を用いることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の排水処理方法。
【請求項5】
前記生物処理は、前記活性汚泥が前記可溶性鉄(II)モノオキシゲナーゼ遺伝子を6.0×107(copies/mL)以上含有するように行われることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の排水処理方法。
【請求項6】
前記活性汚泥の種汚泥と前記難分解性有機物排水の混合液における前記種汚泥の濃度を8000mg/L以上とすることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の排水処理方法。
【請求項7】
前記1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水の生物処理によって生成した処理水は、前記1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水から分離されて回収されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の排水処理方法。
【請求項8】
前記生物処理を行う生物処理槽は、前記分離のための分離手段を有し、
前記処理水は、前記分離手段に接続された導管によって前記生物処理槽の外に取り出されて回収されることを特徴とする請求項7に記載の排水処理方法。
【請求項9】
前記生物処理は、30℃以上35℃以下で行われることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4-ジオキサンは、難分解性有機物質として知られており、急性毒性、慢性毒性および発がん性を有する物質である。そのため、1,4-ジオキサンの排水基準には、厳しい規制がなされている。具体的には、公共用水域および地下水環境に関する1,4-ジオキサンの排水基準値は、2009年に、0.05mg/L以下に制定されている。さらに、一般排水に関する1,4-ジオキサンの排水基準値は、2010年に、0.5mg/L以下に制定されている。
【0003】
1,4-ジオキサンは、工業的に有機合成反応用溶媒として種々の溶剤と共に用いられる。また、1,4-ジオキサンは、ナフサを原料とする酸化エチレンの製造過程で副生する物質である。1,4-ジオキサンは、自然状態において安定な物質であり、生物学的分解が困難とされていた。しかしながら、近年、1,4-ジオキサンを含む排水処理方法として、例えば、特許文献1や特許文献2に記載されている方法が開示されている。
【0004】
特許文献1では、生物処理槽、分離膜モジュールおよび培養槽を備える排水処理装置を用い、排水に分解菌(微生物)を添加して、排水処理を行う方法が開示されている。
特許文献2では、1,4-ジオキサン分解菌を含む活性汚泥により生物処理を行う生物処理槽を備え、廃水に対して硝化抑制剤が添加されるように構成されている廃水処理システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-65081号公報
【特許文献2】特開2017-154107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載されている方法は、外部で培養した微生物等を汚染環境中に導入し、環境浄化を行うバイオオーグメンテーションである。そのため、外部から投入する微生物の維持管理が必要であり、その維持管理が難しいという課題があった。また、バイオオーグメンテーションでは、活性汚泥中で微生物が駆逐された場合、微生物のバックアップや復旧は事実上不可能であるという課題があった。さらに、特許文献1や特許文献2に記載されている方法は、生物処理とAOP(Advanced Oxidation Process、促進酸化処理)を組合せた処理システムであるため、エネルギー負荷が大きいという課題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、酸化エチレンの製造過程で発生する難分解性有機物質である1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水を、安定して、かつエネルギー負荷を小さくして処理することができる排水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明に係る排水処理方法の一形態は、1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水を、可溶性鉄(II)モノオキシゲナーゼ遺伝子と、1,4-ジオキサン分解菌と、を含む活性汚泥を用いて生物処理し、前記生物処理は、水理学的滞留時間を4日以上とし、前記生物処理は、前記活性汚泥が前記可溶性鉄(II)モノオキシゲナーゼ遺伝子を4.2×106(copies/mL)以上含有するように行われることを特徴とする。
【0009】
この形態によれば、活性汚泥中に含まれる微生物の維持管理をすることなく、また、エネルギー負荷を小さくして、1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水の生物処理を行うことができる。
【0010】
(2)本発明に係る排水処理方法の一形態は、前記生物処理において、汚泥滞留時間を60日以上とすることが好ましい。
【0011】
この形態によれば、活性汚泥中に含まれる微生物の維持管理をすることなく、また、エネルギー負荷を小さくして、1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水の生物処理をより効率的に行うことができる。
【0012】
(3)本発明に係る排水処理方法の一形態は、1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水を、可溶性鉄(II)モノオキシゲナーゼ遺伝子と、1,4-ジオキサン分解菌と、を含む活性汚泥を用いて生物処理し、前記生物処理は、汚泥滞留時間を60日以上とし、前記生物処理は、前記活性汚泥が前記可溶性鉄(II)モノオキシゲナーゼ遺伝子を4.2×106(copies/mL)以上含有するように行われることを特徴とする。
【0013】
この形態によれば、1,4-ジオキサンを分解する可溶性鉄(II)モノオキシゲナーゼ遺伝子または1,4-ジオキサン分解菌を増やすことにより、1,4-ジオキサンの分解効率が向上するため、エネルギー負荷をより小さくすることができる。
【0014】
(4)本発明に係る排水処理方法の一形態は、上記(3)に記載の形態において、前記生物処理では、前記活性汚泥に含まれる1,4-ジオキサン分解菌として、全菌数に占める1,4-ジオキサン分解菌の構成としてポリメラーゼ連鎖反応増幅産物の塩基配列のGreengenesデータベースによるシークエンス解析とSilva Living Treeデータベースによるシークエンス解析から、MycrobacteriumとPseudonocardiaを少なくとも含む1,4-ジオキサン分解菌を用いることが好ましい。
【0015】
(5)本発明に係る排水処理方法の一形態は、上記(1)から(4)の何れかに記載の形態において、前記生物処理は、前記活性汚泥が前記可溶性鉄(II)モノオキシゲナーゼ遺伝子を6.0×107(copies/mL)以上含有するように行われることが好ましい。
【0016】
この形態によれば、1,4-ジオキサンを分解する可溶性鉄(II)モノオキシゲナーゼ遺伝子または1,4-ジオキサン分解菌を増やすことにより、1,4-ジオキサンの分解効率が向上するため、エネルギー負荷を更に小さくすることができる。
【0017】
(6)本発明に係る排水処理方法の一形態は、上記(1)から(5)の何れかに記載の形態において、前記活性汚泥の種汚泥と前記難分解性有機物排水の混合液における前記種汚泥の濃度を8000mg/L以上とすることが好ましい。
【0018】
この形態によれば、1,4-ジオキサン分解微生物を適切に確保できる。
【0019】
(7)本発明に係る排水処理方法の一形態は、上記(1)から(6)の何れかに記載の排水処理方法において、前記1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水の生物処理によって生成した処理水は、前記1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水から分離されて回収されることが好ましい。
【0020】
この形態によれば、処理水のみを分離して回収し、活性汚泥およびそれに含まれる微生物は生物処理槽に留まるため、微生物を追加する等の維持管理をすることなく、1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水の生物処理を行うことができる。
【0021】
(8)本発明に係る排水処理方法の一形態は、上記(7)に記載の排水処理方法において、前記生物処理を行う生物処理槽は、前記分離のための分離手段を有し、前記処理水は、前記分離手段に接続された導管によって前記生物処理槽の外に取り出されて回収されることが好ましい。
【0022】
この形態によれば、導管を介し処理水のみを生物処理槽の外に取り出して回収することができる。
【0023】
(9)上記(1)から(8)の何れかに記載の排水処理方法において、前記1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水を生物処理する温度は、30℃以上35℃以下であってもよい。
【0024】
この形態によれば、上記の温度範囲にて、微生物による1,4-ジオキサンの分解が促進するため、1,4-ジオキサンの分解効率を向上することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、酸化エチレンの製造過程で発生する難分解性有機物質である1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水を、安定して、かつエネルギー負荷を小さくして処理することができる排水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態における排水処理方法に用いられる排水処理装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[排水処理方法]
以下、本発明に係る排水処理方法の実施形態を、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態における排水処理方法に用いられる排水処理装置の概略構成を示す模式図である。
【0028】
本実施形態に係る排水処理方法は、1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水を、活性汚泥を用いて生物処理する排水処理方法であって、生物処理において、水理学的滞留時間を4日以上とする。
図1に示すように、本実施形態に係る排水処理方法に用いられる排水処理装置10は、生物処理槽11と、分離手段12と、ろ過ポンプ13と、を備える。
【0029】
生物処理槽11は、処理対象の1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水を収容する。生物処理槽11では、活性汚泥を用いて、1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水を生物処理する。
生物処理とは、排水に含まれる有機物を処理する場合、微生物に有機物を分解させる方法のことである。本実施形態に係る排水処理方法で用いる微生物は、空気中や水中に酸素が存在する条件下でのみ生存できる好気性微生物である。
【0030】
生物処理槽11には、処理対象の1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水を生物処理槽11内に導入するための第1導管14が接続されている。
【0031】
分離手段12は、生物処理槽11内に存在する、難分解性有機物排水と難分解性有機物排水の生物処理によって生成した処理水を分離する。
分離手段12としては、難分解性有機物排水と処理水を分離できるものであれば、特に限定されないが、例えば、分離膜、遠心分離機等が挙げられる。分離膜としては、例えば、中空糸が挙げられる。
【0032】
分離手段12には、処理水を回収し、生物処理槽11外へ取り出すための第2導管15が接続されている。
【0033】
ろ過ポンプ13は、分離手段12で分離された処理水を吸引して、回収する。
ろ過ポンプ13は、第2導管15の途中に設けられている。
【0034】
本実施形態に係る排水処理方法を説明する。
まず、1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水(以下、「難分解性有機物排水」と略すこともある。)を貯留している貯留槽(図示略)から、第1導管14を介して、生物処理槽11へ、難分解性有機物排水を導入する。
貯留槽に収容されている難分解性有機物排水は、一旦、流量調整槽(図示略)に導入され、所定の流量に調整されて、生物処理槽11に導入される。
【0035】
生物処理槽11へ難分解性有機物排水を導入する前に、予め生物処理槽11に活性汚泥の種汚泥を投入しておく。種汚泥としては、当該難分解性有機物排水の化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand、COD)成分を生物処理するための活性汚泥を用いた。なお、この汚泥には、可溶性鉄(II)モノオキシゲナーゼ遺伝子(以下、「SDIMO遺伝子」と記す。)および1,4-ジオキサン分解菌の少なくとも一方を含まれる。
【0036】
生物処理槽11に投入する種汚泥の量、すなわち、種汚泥と難分解性有機物排水の混合液における種汚泥の濃度は、8000mg/L以上であることが好ましく、10000mg/L以上であることがより好ましい。また、種汚泥の濃度の上限は20000mg/L以下であってもよく、18000mg/L以下であってもよい。
種汚泥の濃度が上記の下限値以上であれば、1,4-ジオキサン分解微生物が適切に確保されるものと考えられる。一方、種汚泥の濃度が上記の上限値以下であれば、1,4-ジオキサンの生物処理が適切になされ、膜の詰り等のトラブル発生は無いものと考えられる。
【0037】
次に、生物処理槽11へ、所定量の難分解性有機物排水を導入した後、曝気装置により、難分解性有機物排水に空気を送り、難分解性有機物排水を曝気して、生物処理槽11内の活性汚泥を活性化する。これにより、難分解性有機物排水を分解する。すなわち、曝気により活性化された活性汚泥に含まれる微生物が1,4-ジオキサンや難分解性有機物排水に含まれるその他の有機物を分解して、処理水が生成する。
【0038】
ここで、処理水とは、生物処理槽11中の排水を固液分離して得た液体のことである。
【0039】
曝気装置としては、生物処理槽11内に散気板や散気管を設けて、その散気板や散気管に圧縮空気を送る散気式(気泡式)の装置や、生物処理槽11内に水車や翼車を設けて、その水車や翼車により、機械的攪拌を行う表面曝気式の装置が挙げられる。
【0040】
本実施形態に係る排水処理方法では、水理学的滞留時間(Hydraulic Retention Time、HRT)を4日以上とする。また、水理学的滞留時間(HRT)は、1,4-ジオキサンの処理能力向上においては長ければ長いほどよいが、水理学的滞留時間(HRT)の長期化は生物処理槽の容量拡大となるため、4日程度が現実的である。
【0041】
水理学的滞留時間(HRT)は、生物処理槽11内に導入された難分解性有機物排水が、生物処理槽11内に滞留する時間のことである。本実施形態に係る排水処理方法において、水理学的滞留時間(HRT)は、下記の式(1)で表される。
HRT(日)=(生物処理槽の容量)/(難分解性有機物排水の処理量) (1)
【0042】
水理学的滞留時間(HRT)が4日未満では、1,4-ジオキサンの生物分解の効果が発現しない。この現象は、難分解性有機物排水中において比較的易分解な有機物質を先行して微生物が分解するためである。1,4-ジオキサンは難分解性有機物排水中では難分解な部類に相当し、易分解である有機物質の分解が進んだ後に分解対象となる。
【0043】
本実施形態に係る排水処理方法では、汚泥滞留時間(Sludge Retention Time、SRT)を80日以上とし、90日以上とすることが好ましく、100日以上とすることがより好ましい。また、汚泥滞留時間(SRT)の上限は120日以下であってもよく、110日以下であってもよい。
【0044】
汚泥滞留時間(SRT)は、生物処理槽11内の活性汚泥が、余剰汚泥として引き抜かれるまでの平均滞留時間のことである。本実施形態に係る排水処理方法において、汚泥滞留時間(SRT)は、下記の式(2)で表される。
【0045】
SRT(日)=(生物処理槽の容量)×(平均MLSS濃度)/((余剰汚泥量)×(余剰汚泥中のSS濃度)+(難分解性有機物排水量)×(処理水中のSS濃度)) (2)
【0046】
MLSSとは、活性汚泥浮遊物質(Mixed Liquor Suspended Solids)の略称である。すなわち、MLSSとは、生物処理槽11内の混合液に含まれる有機物等の濃度のことである。本実施形態に係る排水処理方法において、MLSS濃度は、下記の式(3)で表される。
【0047】
MLSS濃度={((生物処理槽へ導入した難分解性有機物排水量)/日)×(生物処理槽へ導入した難分解性有機物排水のSS濃度)+((返送汚泥量)/日)×(返送汚泥のSS濃度))}÷{((生物処理槽へ導入した難分解性有機物排水量)/日)+((返送汚泥量)/日)} (3)
【0048】
SSとは、浮遊物質(Suspended Solids)の略称である。SSは、懸濁物質とも言われる。JIS K 0102に規定される工業排水試験方法では、SSは「懸濁物質」として測定方法が定められている。
【0049】
汚泥滞留時間(SRT)が80日未満では、1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水の生物処理において、活性汚泥中に含まれる微生物の維持管理が必要となり、また、エネルギー負荷が大きくなる。
【0050】
本実施形態に係る排水処理方法では、生物処理槽11内に投入した、1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水と前記活性汚泥の混合液中において、活性汚泥に含まれていたSDIMO遺伝子または1,4-ジオキサン分解菌を増やすことが好ましい。
生物処理槽11内において、活性汚泥に含まれるSDIMO遺伝子や1,4-ジオキサン分解菌を増やす手段(方法)としては、水理学的滞留時間(HRT)の長期化、または、汚泥滞留時間(SRT)の長期化である。
【0051】
SDIMO遺伝子や1,4-ジオキサン分解菌は、1,4-ジオキサンを分解する。したがって、SDIMO遺伝子や1,4-ジオキサン分解菌を増やすことにより、1,4-ジオキサンの分解効率が向上するため、本実施形態に係る排水処理方法におけるエネルギー負荷をより小さくすることができる。
【0052】
本実施形態に係る排水処理方法では、生物処理槽11内にて、難分解性有機物排水を生物処理する温度は、30℃以上35℃以下であることが好ましい。
難分解性有機物排水を生物処理する温度が上記の範囲内であれば、微生物による1,4-ジオキサンの分解が促進するため、1,4-ジオキサンの分解効率を向上することができる。
【0053】
本実施形態に係る排水処理方法では、分離手段12により、生物処理槽11内に収容されている、難分解性有機物排水と難分解性有機物排水の生物処理によって生成した処理水を分離することが好ましい。具体的には、生物処理槽11内に配置された分離手段12を、ろ過ポンプ13で吸引することにより、活性汚泥、難分解性有機物排水および処理水を含む混合液をろ過して、ろ液を処理水として、処理水槽(図示略)に移送する。
難分解性有機物排水と処理水を分離することにより、処理水のみを分離して回収し、活性汚泥およびそれに含まれる微生物は生物処理槽11内に留まるため、微生物を追加する等の維持管理をすることなく、1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水の生物処理を行うことができる。
【0054】
本実施形態に係る排水処理方法によれば、1,4-ジオキサンを含む難分解性有機物排水を、安定して、かつエネルギー負荷を小さくして処理することができる。
【実施例0055】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例]
図1に示すような排水処理装置の生物処理槽に、予め活性汚泥の種汚泥を投入した。生物処理槽に投入する種汚泥の量、すなわち、種汚泥と原水(難分解性有機物排水)の混合液における種汚泥の濃度が10000mg/Lとなるように種汚泥を投入した。種汚泥としては、当該排水のCOD成分を生物処理するための活性汚泥を使用し、この汚泥はSDIMO遺伝子および1,4-ジオキサン分解菌を含むものであった。
その後、生物処理槽に、生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand、BOD)が1100mg/L~1700mg/L、化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand、COD)が1700mg/L~1900mg/L、1,4-ジオキサンの含有量が18mg/L~23mg/Lの原水を158L/日~173L/日を導入した。
生物処理槽へ原水を導入した後、曝気装置により、原水と種汚泥の混合液に空気を送り、混合液を曝気し、混合液の分解を促進した。排水の生物処理では生物処理槽から一定量の汚泥を引抜くのが一般的であるが、実施例では汚泥滞留時間(SRT)を積極的に上げるため、汚泥の引抜は行わなかった。
【0057】
曝気を継続し、汚泥滞留時間(SRT)と水理学的滞留時間(HRT)を変化させて、所定の汚泥滞留時間(SRT)経過後、および、所定の水理学的滞留時間(HRT)経過後に、生物処理槽内の混合液を採取して、その混合液中の生物化学的酸素要求量(BOD、単位:mg/L)、化学的酸素要求量(COD、単位:mg/L)、1,4-ジオキサンの含有量(単位:mg/L)、SDIMO遺伝子の含有量(copies/mL)、および全菌数に占める1,4-ジオキサン分解菌の構成比(単位:%)を測定した。
BODおよびCODは、JIS K0102:2019「工場排水試験方法」に基づいて測定した。1,4-ジオキサンの含有量は、JIS K0125:2016「用水・排水中の揮発性有機化合物試験方法」に基づいて測定した。
【0058】
SDIMO遺伝子の含有量および全菌数に占める1,4-ジオキサン分解菌の構成比は、次世代シーケンシング解析技術を用いて測定した。
次世代シーケンシング解析は、次世代シーケンサーを用いて、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)増幅産物の塩基配列のシークエンス解析を行い、試料中に含有する微生物のDNAの塩基配列を解読するものである。次世代シーケンサーは、超並列シーケンス、新型シーケンス等とも呼ばれる。Illumina、IonTorrent、Roche 454、PacBio RS、SOLiD等のシーケンサーベンダー・ブランドによって提供される。
なお、近縁種の推定には、16S rRNA遺伝子の配列データベース(以下、「データベース」という。)を用いて実施した。データベースとしては、複数あるが、ここでは、“Greengenes”と呼ばれる、未分離培養菌の配列情報を含むデータベースと、“Silva Living Tree”と呼ばれる、分離菌のみの配列情報を含むデータベースを使用した。
【0059】
また、解析を行うためのDNA抽出は、環境試料DNA抽出キット「Extrap Soil DNA Kit Plus ver.2(日鉄住金環境株式会社製)」を用いた。DNA抽出キットを用いてDNAを抽出するには、以下の(1)~(5)の操作を順に行う。(1)細胞破砕(ビーズビーティング)、(2)タンパク質除去、(3)磁性ビーズによる精製、(4)DNA溶出、(5)リアルタイムPCR法による定量。
【0060】
(1)細胞破砕では、ビーズ式組織・細胞破砕装置「FastPrep FP100A(MP Biomedicals社製)」を用いる。ビーズ式組織・細胞破砕装置は、特殊な破砕用ビーズを含むマイクロチューブを高速上下運動させることにより、組織や細胞を効果的に破砕する装置である。ビードチューブに、試料0.5mL、Extraction BufferおよびLysis solutionを添加し、例えば、30秒~45秒間ビーズビーティングを行う。ビーズビーティングの後、ビードチューブ内の試料を遠心分離し、上澄み液を採取する。
【0061】
(2)タンパク質除去では、細胞破砕で採取した上澄み液に、PP solutionを添加し、遠心分離を行った後、上澄み液を採取する。
【0062】
(3)磁性ビーズによる精製では、タンパク質除去で採取した上澄み液に、MBs solution(DNA回収用磁性ビーズ)、Binding solutionを添加し、撹拌する。撹拌した後、集磁を行い、上澄み液を廃棄する。上澄み液を廃棄した後、Washing solutionを添加して再度撹拌、集磁を行い、上澄み液を廃棄する。最後に、エタノール水溶液を添加して再度撹拌、集磁を行い、上澄み液を廃棄する。
【0063】
(4)DNA溶出では、磁性ビーズによる精製後、風乾した後、溶出液(TE Bufferまたは滅菌ミリQ水)を添加し、65℃で5分~10分間加温する。そして、集磁を行った後、上澄み液を回収する。
【0064】
(5)リアルタイムPCR法による定量では、真正細菌の16S rRNA遺伝子とSDIMO遺伝子の数を定量する。リアルタイムPCR法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅産物をリアルタイムでモニターし解析する方法である。リアルタイムPCR法では、段階希釈した既知量のDNAをもとに、PCR増幅が指数関数的に起こる領域で、一定の増幅産物量になるサイクル数(threshold cycle;Ct値)を横軸に、初発のDNA量を縦軸にプロットした検量線を作成する。その後、未知濃度のサンプルを用いて、既知量のDNAと同一条件下でCt値を求め、既知量のDNAに対する検量線と、未知濃度のサンプルにおけるCt値とから、サンプル中のDNA量を測定する。なお、リアルタイムPCR法でモニターする場合には、蛍光試薬を用いて実施する。
【0065】
上記の測定によって得られたそれぞれの値を用いて、生物化学的酸素要求量(BOD)の除去率、化学的酸素要求量(COD)の除去率、および1,4-ジオキサンの除去率を算出した。それぞれの除去率を下記の式(4)~式(6)に従って、算出した。
生物化学的酸素要求量(BOD)の除去率=(生物処理後の混合液における生物化学的酸素要求量(BOD))/(生物処理前の混合液における生物化学的酸素要求量(BOD))×100(%) (4)
化学的酸素要求量(COD)の除去率=(生物処理後の混合液における化学的酸素要求量(COD))/(生物処理前の混合液における化学的酸素要求量(COD))×100(%) (5)
1,4-ジオキサンの除去率=(生物処理後の混合液における1,4-ジオキサンの含有量)/(生物処理前の混合液における1,4-ジオキサンの含有量)×100(%) (6)
【0066】
また、SDIMO遺伝子の含有量の増加率を下記の式(7)に従って、算出した。
SDIMO遺伝子の含有量の増加率=(生物処理後の混合液におけるSDIMO遺伝子の含有量)/(生物処理前の混合液におけるSDIMO遺伝子の含有量)×100(%) (7)
【0067】
以上の結果を、表1に示す。
なお、表1において、(A)はMycrobacterium、(B)はPseudonocardia、(C)はRhodococcuss、(D)はAfipiaである。
【0068】
【0069】
汚泥滞留時間(SRT)40日の条件では、生物化学的酸素要求量(BOD)の除去率が94%、化学的酸素要求量(COD)の除去率が90%、1,4-ジオキサンの除去率が15%であった。この時点におけるSDIMO遺伝子数は測定していない。また、1,4-ジオキサン分解菌属の構成比のうち、未分離培養菌の配列情報を含むデータベースGreengeneを対象にした解析結果では、Mycrobacteriumが4.9%、Pseudonocardiaが0.2%であり、Rhodococcussは検出されなかった。分離実績のある配列情報を含むデータベースSilva Living Treeを対象にした解析結果では、Mycrobacteriumが4.9%、Pseudonocardiaが0.2%であり、Afipiaは検出されなかった。
【0070】
汚泥滞留時間(SRT)60日の条件では、生物化学的酸素要求量(BOD)の除去率が99%、化学的酸素要求量(COD)の除去率が97%、1,4-ジオキサンの除去率が52%であった。SDIMO遺伝子数は、4.2×106copies/mLであった。また、1,4-ジオキサン分解菌属の構成比のうち、Greengeneを対象にした解析結果では、Mycrobacteriumが0.2%、Pseudonocardiaが0.2%、Rhodococcussが0.1%であった。Silva Living Treeを対象にした解析結果では、Mycrobacteriumが0.2%、Pseudonocardiaが0.2%であり、Afipiaは検出されなかった。
【0071】
汚泥滞留時間(SRT)110日の条件では、生物化学的酸素要求量(BOD)の除去率が99%、化学的酸素要求量(COD)の除去率が97%、1,4-ジオキサンの除去率が56%であった。SDIMO遺伝子数は、6.0×107copies/mLであった。また、1,4-ジオキサン分解菌属の構成比のうち、Greengeneを対象にした解析結果では、Mycrobacteriumが1.0%、Pseudonocardiaが5.2%であり、Rhodococcussは検出されなかった。Silva Living Treeを対象にした解析結果では、Mycrobacteriumが1.0%、Pseudonocardiaが5.2%、Afipiaが0.1%であった。
【0072】
水理学的滞留時間(HRT)2日の条件では、生物化学的酸素要求量(BOD)の除去率が94%、化学的酸素要求量(COD)の除去率が90%、1,4-ジオキサンの除去率が15%であった。
【0073】
水理学的滞留時間(HRT)4日の条件では、生物化学的酸素要求量(BOD)の除去率が99%、化学的酸素要求量(COD)の除去率が97%、1,4-ジオキサンの除去率が52%であった。SDIMO遺伝子数は、4.2×106copies/mLであった。
【0074】
水理学的滞留時間(HRT)8日の条件では、生物化学的酸素要求量(BOD)の除去率が99%、化学的酸素要求量(COD)の除去率が98%、1,4-ジオキサンの除去率が89%であった。SDIMO遺伝子数は、6.0×107copies/mLであった。
【0075】
実施例では、汚泥を引き抜かないため日々、汚泥滞留時間(SRT)が増加した。また、実施例では、実験進捗過程で水理学的滞留時間(HRT)を次第に長期化させた。
汚泥滞留時間(SRT)が40日から110日へ長期化し、また、水理学的滞留時間(HRT)が長期化することにより、SDIMO遺伝子が増加する。既知の分解菌の構成比では、Mycrobacteriumの構成割合が減少するが、Pseudonocardia、Rhodococcuss、Afipiaは構成割合が増加傾向を示した。文献(Ji-Hyun Nam,Jey-R S.Ventura,Ick Tae Yeom,Yongwoo Lee,Deokjin Jahng,Structural and Kinetic Characteristic of 1,4-Dioxane-Degrading Bacterial Consoria Containing the Phylum TM7、J.Microbiaol.Biotechnol.(2016),26(11))では、SDIMO遺伝子を有する微生物に1,4-ジオキサン分解能を有すると言われており、汚泥滞留時間(SRT)の長期化によって、1,4-ジオキサン分解菌の絶対数が増加するとともに汚泥滞留時間(SRT)と水理学的滞留時間(HRT)の環境に適した分解菌の構成になったものと考えられる。