(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121022
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】ビール風味発酵アルコール飲料およびその製法
(51)【国際特許分類】
C12C 5/02 20060101AFI20240829BHJP
C12G 3/06 20060101ALI20240829BHJP
【FI】
C12C5/02
C12G3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024108452
(22)【出願日】2024-07-04
(62)【分割の表示】P 2022095269の分割
【原出願日】2022-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】三吉 惟道
(72)【発明者】
【氏名】森下 あい子
(72)【発明者】
【氏名】米田 俊浩
(57)【要約】
【課題】舌の上で感じるもったり感が低減されたビール風味発酵アルコール飲料の提供。
【解決手段】飲料中のγ-ブチロラクトンの濃度が250ppb以下であり、マルトール
の濃度が350ppb以下である、ビール風味発酵アルコール飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料中のγ-ブチロラクトンの濃度が250ppb以下であり、マルトールの濃度が3
50ppb以下である、ビール風味発酵アルコール飲料。
【請求項2】
飲料中の糖質の濃度が1.0g/100mL以下である、請求項1に記載のビール風味
発酵アルコール飲料。
【請求項3】
麦芽使用比率が50~100質量%である、請求項1または2に記載のビール風味発酵
アルコール飲料。
【請求項4】
アルコール濃度が2体積%超である、請求項1または2に記載のビール風味発酵アルコ
ール飲料。
【請求項5】
ビール風味発酵アルコール飲料を製造する方法であって、飲料中のγ-ブチロラクトン
の濃度が250ppb以下に調整され、マルトールの濃度が350ppb以下に調整され
る、方法。
【請求項6】
飲料中の糖質の濃度が1.0g/100mL以下に調整される、請求項5に記載の方法
。
【請求項7】
麦芽使用比率が50~100質量%である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
飲料中のアルコール濃度が2体積%超に調整される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項9】
ビール風味発酵アルコール飲料において、舌の上で感じるもったり感を低減する方法で
あって、飲料中のγ-ブチロラクトンの濃度が250ppb以下に調整され、マルトール
の濃度が350ppb以下に調整される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール風味発酵アルコール飲料およびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりにより、糖質が低減されたビール風味飲料のニーズが拡大して
いる。糖質が低減されたビールやビール系飲料は、糖質を極限まで低減させるため、発酵
を促進して製造されることが多く、その結果、味が平板になり、後残り感による飲み難く
さを感じやすいという問題がある。
【発明の概要】
【0003】
本発明者らは、ビール風味発酵アルコール飲料において、マルトールとγ-ブチロラク
トンの濃度を所定の範囲に調整することにより、舌の上で感じるもったり感が低減される
ことを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0004】
従って、本発明は、舌の上で感じるもったり感が低減されたビール風味発酵アルコール
飲料およびその製法を提供する。
【0005】
そして、本発明には、以下の発明が包含される。
(1)飲料中のγ-ブチロラクトンの濃度が250ppb以下であり、マルトールの濃度
が350ppb以下である、ビール風味発酵アルコール飲料。
(2)飲料中の糖質の濃度が1.0g/100mL以下である、前記(1)に記載のビー
ル風味発酵アルコール飲料。
(3)麦芽使用比率が50~100質量%である、前記(1)または(2)に記載のビー
ル風味発酵アルコール飲料。
(4)アルコール濃度が2体積%超である、前記(1)~(3)のいずれかに記載のビー
ル風味発酵アルコール飲料。
(5)ビール風味発酵アルコール飲料を製造する方法であって、飲料中のγ-ブチロラク
トンの濃度が250ppb以下に調整され、マルトールの濃度が350ppb以下に調整
される、方法。
(6)飲料中の糖質の濃度が1.0g/100mL以下に調整される、前記(5)に記載
の方法。
(7)麦芽使用比率が50~100質量%である、前記(5)または(6)に記載の方法
。
(8)飲料中のアルコール濃度が2体積%超に調整される、前記(5)~(7)のいずれ
かに記載の方法。
(9)ビール風味発酵アルコール飲料において、舌の上で感じるもったり感を低減する方
法であって、飲料中のγ-ブチロラクトンの濃度が250ppb以下に調整され、マルト
ールの濃度が350ppb以下に調整される、方法。
【0006】
本発明によれば、ビール風味発酵アルコール飲料において、舌の上で感じるもったり感
を低減することが可能となる。これにより、飲み始めから飲み込んだ後にかけて味の落差
を感じることができ、よって、その飲料の味が平板に感じることがなく、後残り感による
飲み難くさを低減することが可能となる。
【発明の具体的説明】
【0007】
本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、飲料中のマルトールとγ-ブチロラクトン
の濃度が所定の範囲にあるものである。このようなビール風味発酵アルコール飲料は、そ
の製造の際に、マルトールとγ-ブチロラクトンの濃度を調整することにより得ることが
できる。マルトールとγ-ブチロラクトンの濃度調整の具体的手段は特に限定されるもの
ではなく、例えば、マルトールまたはγ-ブチロラクトンの添加、マルトールまたはγ-
ブチロラクトンを含有する原料の使用量の増減、マルトールまたはγ-ブチロラクトンを
最終製品内に生成する原料の使用量の増減、酵母による発酵によってマルトールまたはγ
-ブチロラクトンに変換される物質の濃度調整等が挙げられる。
【0008】
本発明において「ビール風味発酵アルコール飲料」とは、ビール(麦芽およびホップを
原料として用い、ビール酵母による発酵によって得られるアルコール飲料)、またはビー
ルと同様の風味を有する発酵アルコール飲料を意味する。本発明において「発酵アルコー
ル飲料」とは、炭素源、窒素源および水などを原料として酵母により発酵させたアルコー
ル(エタノール)含有飲料を意味する。本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、発酵
後にアルコール(エタノール)濃度を調整したアルコール飲料であってもよい。本発明の
ビール風味発酵アルコール飲料は、好ましくはホップを原料として用いることによりホッ
プの香気が付与された発酵飲料である。本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、好ま
しくは発酵麦芽飲料、すなわち、原料として少なくとも麦芽を使用した飲料を意味する。
このような発酵麦芽飲料としては、ビール、発泡酒、リキュール(例えば、酒税法上、「
リキュール(発泡性)(1)」に分類される飲料)などが挙げられ、好ましくはビールで
ある。本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、好ましくは麦芽使用比率0質量%以上
100%質量%以下、より好ましくは25質量%以上100%質量以下、さらに好ましく
50質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは50質量%以上95質量%以下の発
酵麦芽飲料である。「麦芽使用比率」とは、平成30年4月1日が施行日の酒税法および
酒類行政関係法令等解釈通達に従って計算された値を意味する。
【0009】
本発明において「舌の上で感じるもったり感」とは、その飲料を飲用したときに、舌の
上でのべたつき、重たさ、および/または甘重たさを感じ、それが口に残る印象を意味す
る。
【0010】
本発明において、「ppm」という単位は「mg/L」と同義であり、「ppb」とい
う単位は「μg/L」と同義である。
【0011】
本発明のビール風味発酵アルコール飲料中のγ-ブチロラクトンの濃度は、例えば、2
80ppb以下とされ、好ましくは250ppb以下、より好ましくは230ppb以下
、さらに好ましくは200ppb以下、さらに好ましくは180ppb以下、さらに好ま
しくは150ppb以下とされる。ビール風味発酵アルコール飲料中のγ-ブチロラクト
ン濃度の下限は、本発明の効果が奏される限り特に限定されるものではなく、例えば0p
pbであってよいが、例えば12ppbであり、好ましくは35ppb、より好ましくは
40ppb、さらに好ましくは50ppbである。γ-ブチロラクトンは、原料由来のも
のであってもよく、また植物原料とは別に添加されたものであってもよく、さらに発酵に
より生成されたものであってもよい。γ-ブチロラクトンの濃度は、例えば、原料の組成
および発酵条件などをコントロールすることにより、制御することができる。
【0012】
本発明のビール風味発酵アルコール飲料中のマルトールの濃度は、例えば、380pp
b以下とされ、好ましくは350ppb以下、より好ましくは330ppb以下、さらに
好ましくは300ppb以下、さらに好ましくは270ppb以下、さらに好ましくは2
50ppb以下、さらに好ましくは200ppb以下、さらに好ましくは180ppb以
下、さらに好ましくは150ppb以下とされる。ビール風味発酵アルコール飲料中のマ
ルトール濃度の下限は、本発明の効果が奏される限り特に限定されるものではなく、例え
ば0ppbであってよいが、例えば2ppbであり、好ましくは5ppb、より好ましく
は25ppb、さらに好ましくは50ppbである。マルトールは、原料由来のものであ
ってもよく、また植物原料とは別に添加されたものであってもよく、さらに発酵により生
成されたものであってもよい。マルトールの濃度は、例えば、原料の組成および発酵条件
などをコントロールすることにより、制御することができる。
【0013】
ビール風味発酵アルコール飲料中のγ-ブチロラクトンおよびマルトールの定量は、G
C/MS分析により行うことができる。このGC/MS分析は、具体的には、次のように
実施することができる。まず、ビール風味発酵飲料中の香気成分をC18固相抽出カラム
で分離する。定量は内部標準法によって行い、内部標準物質にはボルネオール(Borneol
)を用い、分析用試料中50ppbになるよう添加する。さらに、より正確な濃度測定の
ためには、既知の濃度を有する幾つかの対照サンプルの測定値に基づいて作成した検量線
を用いることが望ましい。GC/MS分析の条件は、以下の表1に従うことができる。
【0014】
【0015】
本発明のビール風味発酵アルコール飲料中のアルコール濃度は、特に限定されるもので
はないが、好ましくは1体積%(v/v%)以上とされ、より好ましくは1体積%(v/
v%)超とされ、さらに好ましくは2体積%(v/v%)以上とされ、さらに好ましくは
2体積%(v/v%)超とされ、さらに好ましくは3体積%(v/v%)以上とされ、さ
らに好ましくは3体積%(v/v%)超とされ、さらに好ましくは3.5体積%以上、さ
らに好ましくは4体積%以上とされる。ビール風味発酵アルコール飲料のアルコール濃度
の上限は、本発明の効果が奏される限り特に限定されるものではないが、例えば20体積
%、好ましくは10体積%、より好ましくは7体積%である。本発明の一つの実施態様に
よれば、本発明のビール風味発酵アルコール飲料中のアルコール濃度は、好ましくは2体
積%超10体積%以下とされ、より好ましくは3~10体積%以下、さらに好ましくは3
~7体積%、さらに好ましくは3~5体積%とされる。本発明の他の実施態様によれば、
本発明のビール風味発酵アルコール飲料中のアルコール濃度は、好ましくは4~10体積
%以下、より好ましくは4~7体積%とされる。ビール風味発酵アルコール飲料中のアル
コールの濃度の測定は公知の方法によって行うことができ、具体的には、日本国国税庁が
定める「BCOJビール分析法 8.3.6 アルコライザー法」に基づいて行うことが
できる。
【0016】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明のビール風味発酵アルコール飲料は糖質の
含有量が通常よりも低減された飲料とされる。この「通常よりも低減された」とは、その
ビール風味発酵アルコール飲料を製造する際に糖質の含有量を低下させるための工夫がな
されていることを意味する。このような低糖質のビール風味発酵アルコール飲料における
具体的な糖質濃度の数値は特に限定されるものではないが、例えば、1.5g/100m
L以下、好ましくは1.5g/100mL未満、より好ましくは1.1g/100mL以
下、さらに好ましくは1.0g/100mL以下、さらに好ましくは1.0g/100m
L未満、さらに好ましくは0.5g/100mL以下、さらに好ましくは0.5g/10
0mL未満とすることができる。一つの実施態様において、低糖質ビール風味発酵アルコ
ール飲料中の糖質の濃度は0.4g/mL以下である。
【0017】
糖質濃度の測定は公知の方法によって行うことができ、当該試料の質量から、水分、た
んぱく質、脂質、灰分および食物繊維量を除いて算出する方法(食品表示基準について(
平成27年3月30日 消食表第139号)別添 栄養成分等の分析方法等 参照)に従
って行うことができる。
【0018】
本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、炭酸飲料とすることができる。炭酸ガス圧
は好みに応じて適宜調整することができ、例えば、0.05~0.4MPa(20℃にお
けるガス圧)の範囲で調整することができる。
【0019】
本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、pHを、例えば、2.0~5.0、好まし
くは2.3~4.8、より好ましくは2.9~4.8に調整することができる。飲料のp
Hは市販のpHメーター(例えば、HORIBA Scientific 卓上pH計、
株式会社堀場アドバンスドテクノ製)を使用して容易に測定することができる。
【0020】
本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、好ましくは容器詰飲料として提供される。
本発明のビール風味発酵アルコール飲料に使用される容器は、飲料の充填に通常使用され
る容器であればよく、例えば、金属缶、樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PET
ボトル、カップ)、紙容器、瓶、パウチ容器等が挙げられるが、好ましくは金属缶、樽容
器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル)、または瓶とされる。
【0021】
本発明の一つの実施態様によれば、本発明のビール風味発酵アルコール飲料は、飲料中
のγ-ブチロラクトン、マルトールの濃度調整以外は、通常のビール風味発酵アルコール
飲料の製造方法に従って製造することができる。通常の製法としては、例えば、少なくと
も水および麦芽を含んでなる発酵前液を発酵させる方法、すなわち、麦芽等の醸造原料か
ら調製された麦汁(発酵前液)に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、所望により発
酵液を低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去する方法が挙げられる。
【0022】
本発明のビール風味発酵アルコール飲料の製造過程では、いずれかの工程でホップ(ホ
ップの加工品を含む)を添加することができる。ホップの添加量は、典型的には、発酵工
程における発酵前液の容量に対して0.1~5g/Lとなるように調整することができ、
好ましくは0.1~2g/L、より好ましくは0.2~1.5g/Lとすることができる
。
【0023】
本発明では、麦芽、ホップおよび水以外に、米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、
でんぷん、糖類(例えば、液糖)、果実、コリアンダー等の酒税法で定める副原料や、タ
ンパク質分解物、酵母エキス等の窒素源、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵
助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。また、未発芽の麦類
(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む)
)を醸造原料として使用してもよい。
【0024】
本発明の別の態様によれば、ビール風味発酵アルコール飲料において、舌の上で感じる
もったり感を低減する方法が提供され、該方法は、飲料中のγ-ブチロラクトンの濃度お
よびマルトールの濃度を上述の数値範囲に調整することを含む。
【実施例0025】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるも
のではない。
【0026】
実施例1:ビール風味発酵アルコール飲料におけるγ-ブチロラクトン濃度およびマルト
ール濃度と香味との関係
本実施例では、市販のビール風味発酵アルコール飲料および試験醸造したビールをベー
スとして、γ-ブチロラクトン濃度およびマルトール濃度を調整した試飲サンプルを調製
し、官能評価を行って、ビール風味発酵アルコール飲料におけるγ-ブチロラクトン濃度
およびマルトール濃度と香味との関係を調べた。
【0027】
(1)試飲サンプルの調製
以下の手順に従って、ビール風味発酵アルコール飲料の試飲サンプルを調製した。
【0028】
(a)市販品ベースの試飲サンプルの調製
市販のビール風味発酵アルコール飲料(麦芽使用比率25%未満)を希釈し、そこに不
足した糖質と酒類原料用アルコール(第一アルコール社、アルコール濃度95%)を添加
することにより、糖質0.4g/100mLまたは1.0g/100mL、アルコール(
エタノール)濃度5%(v/v)のベース飲料を調製した。このベース飲料に、γ-ブチ
ロラクトンおよびマルトールを下記表の濃度となるように添加して、試飲サンプルを調製
した。
【0029】
(b)試醸品ベースの試飲サンプルの調製
ビールの試験醸造では、主原料として大麦麦芽を使用した(麦芽使用比率60%)。糖
化に際してはグルコアミラーゼを主体とした酵素製剤を用い、糖化の温度および時間を調
整し、濾過することで麦汁を得た。得られた麦汁にホップと資化性糖を主体として含む液
糖とを添加し、100℃で煮沸した。次いで、麦汁を静置して凝固したタンパク質(トリ
ューブ)を分離した後、冷却して発酵前液を得た。得られた発酵前液に下面発酵酵母を添
加し、主発酵および後発酵を行い、発酵液を得た。得られた発酵液を低温で貯蔵して発酵
を停止させ、濾過することにより、清澄なビール風味発酵アルコール飲料を得た。
【0030】
得られたビール風味発酵アルコール飲料を希釈し、そこに不足した糖質と酒類原料用ア
ルコール(第一アルコール社、アルコール濃度95%)を添加することにより、糖質0.
4g/100mLまたは1.0g/100mL、アルコール(エタノール)濃度5%(v
/v)のベース飲料を調製した。このベース飲料に、γ-ブチロラクトンおよびマルトー
ルを下記表の濃度となるように添加して、試飲サンプルを調製した。
【0031】
(c)試飲サンプル中のアルコール(エタノール)濃度、糖質ならびにγ-ブチロラクトン
およびマルトールの濃度の測定
実施例における各飲料中のアルコール(エタノール)濃度、糖質ならびにγ-ブチロラ
クトンおよびマルトールの濃度は、それぞれ以下の方法に従って測定した。
【0032】
実施例における各飲料中のアルコールの濃度は、日本国国税庁が定める「BCOJビー
ル分析法 8.3.6 アルコライザー法」に従って測定した。
【0033】
実施例における各飲料中の糖質の濃度は、日本国消費者庁が定める「食品表示基準につ
いて(平成27年3月30日 消食表第139号)別添 栄養成分等の分析方法等」に基
づいて、測定対象となる飲料の質量から、水分、たんぱく質、脂質、灰分、および食物繊
維のそれぞれの質量を除くことにより測定した。
【0034】
実施例における各飲料中のγ-ブチロラクトンおよびマルトールの定量は、GC/MS
分析により行った。具体的には、まず、飲料中の香気成分をC18固相抽出カラムで分離
し、得られた分析用試料をGC/MSに供した。また、内部標準物質としてボルネオール
(Borneol)を用い、分析用試料中50ppbになるよう添加した。GC/MS分析の条
件は、以下の表2に示す通りとした。
【0035】
【0036】
(2)試飲サンプルの官能評価
上記(1)で得られた試飲サンプルについて、訓練された5名のパネルによる官能評価
を行った。官能評価の評価項目は、「飲み始めの味の強さ」および「飲み終わりの舌の上
のもったり感」の2項目とした。以下にそれぞれの具体的な評価基準を示す。
a.飲み始めの味の強さ:1(弱い)~3(中程度)~5(強い)の5段階のスコアで評
価。
b.飲み終わりの舌の上のもったり感:1(弱い)~3(中程度)~5(強い)の5段階
のスコアで評価。
【0037】
下記表3に、試飲サンプル中のγ-ブチロラクトンおよびマルトールの濃度、アルコー
ル(エタノール)濃度、糖質濃度ならびに官能評価結果をまとめて示す。官能評価結果の
スコアは、平均値および標準偏差として示す。
【0038】
【0039】
官能評価においては、試験区10(糖質濃度0.4g/100mL、γ-ブチロラクト
ン濃度300ppb、マルトール濃度400ppb)のスコアを5.0に固定した。
【0040】
表3に示される市販品ベースサンプルの評価結果から、糖質濃度が0.4g/100m
Lであるか1.0g/100mLであるかにかかわらず、γ-ブチロラクトン濃度250
ppb以下かつマルトール濃度350ppb以下である場合に、飲み始めの味の強さが十
分に感じられるとともに、飲み終わりの舌の上のもったり感が低減されることが明らかで
あり、さらに、γ-ブチロラクトン濃度が50ppb以上であることが望ましく、マルト
ール濃度が50ppb以上であることが望ましいものと考えられた。また、このような効
果は、試醸品ベースサンプルにおいても同様に見られることが分かった。