(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121024
(43)【公開日】2024-09-05
(54)【発明の名称】食品用日持ち向上剤
(51)【国際特許分類】
A23L 3/3526 20060101AFI20240829BHJP
A23L 3/3499 20060101ALI20240829BHJP
A23L 3/3508 20060101ALI20240829BHJP
A23L 3/358 20060101ALI20240829BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20240829BHJP
【FI】
A23L3/3526 501
A23L3/3499
A23L3/3508
A23L3/358
A23L29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024108495
(22)【出願日】2024-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】591040557
【氏名又は名称】太平化学産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉本 恭行
(72)【発明者】
【氏名】島田 太一
(57)【要約】
【課題】pHが中性において、グラム陽性菌およびグラム陰性菌に静菌効果を示す食品用日持ち向上剤を提供することを目的とする。
【解決手段】グリシンおよび酢酸ナトリウムに低重合メタリン酸ナトリウムを含有、またはグリシンに低重合メタリン酸ナトリウムを含有、もしくは酢酸ナトリウムに低重合メタリン酸ナトリウムを含有してなることを特徴とするpHを中性に調整した食品用日持ち向上剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシンおよび酢酸ナトリウムに、NanH2PnO3n+1で表されるメタリン酸ナトリウムのうち平均重合度が14≦n<20を含有してなる食品用日持ち向上剤であって、グリシンを1.5質量%以上2.0質量%未満、酢酸ナトリウムを1.5質量%以上2.0質量%未満、前記メタリン酸ナトリウムを0.1質量%以上の割合で食品に含有してなることを特徴とする、グラム陽性菌およびグラム陰性菌のどちらにも静菌効果を示すpH6~8に調整した食品用日持ち向上剤。
【請求項2】
グリシンおよびNanH2PnO3n+1で表されるメタリン酸ナトリウムのうち平均重合度が14≦n<20を含有してなる食品用日持ち向上剤であって、グリシンを2.0質量%以上、前記メタリン酸ナトリウムを0.1質量%以上の割合で食品に含有してなることを特徴とする、グラム陽性菌およびグラム陰性菌のどちらにも静菌効果を示すpH6~8に調整した食品用日持ち向上剤。
【請求項3】
酢酸ナトリウムおよびNanH2PnO3n+1で表されるメタリン酸ナトリウムのうち平均重合度が14≦n<20を含有してなる食品用日持ち向上剤であって、酢酸ナトリウムを2.0質量%以上、前記メタリン酸ナトリウムを0.5質量%以上の割合で食品に含有してなることを特徴とする、グラム陽性菌およびグラム陰性菌のどちらにも静菌効果を示すpH6~8に調整した食品用日持ち向上剤。
【請求項4】
グラム陽性菌が黄色ブドウ球菌、グラム陰性菌が大腸菌である、請求項1~3記載の食品用日持ち向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品用日持ち向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンビニエンスストアやスーパーマーケット等で販売される弁当や惣菜類の需要は年々高まっており、その微生物的品質低下を防ぐ目的で、グリシン、酢酸ナトリウム等の日持ち向上剤が用いられている。これらは単独での使用では十分な静菌効果が得られにくいことから、組み合わせて使用されることが多い。しかしながら、グリシン、酢酸ナトリウムの抗微生物力は食品のpHに左右されることが知られており、グリシンはアルカリ側において(非特許文献1)、酢酸ナトリウムは酸性側において(非特許文献2)グラム陽性菌、グラム陰性菌に対して効力を発揮することが知られているが、中性条件でグラム陽性菌、グラム陰性菌両方に十分な静菌効果を得るためにはこれらの日持ち向上剤を多く添加する必要があり、それにともない味質に影響を及ぼす等の問題がある。
【0003】
このような状況を踏まえ、日持ち向上剤の組合せについては様々提案されている。非特許文献3にはグリシンおよびメタリン酸ナトリウムを併用し、大腸菌および黄色ブドウ球菌などに対する静菌効果を30℃、24時間後の吸光度(OD660値)値から評価する方法が開示されている。しかしこの方法では、黄色ブドウ球菌および大腸菌の指摘発育温度である35℃かつ48時間での静菌効果は不明である。
【0004】
特許文献1にはグリシン、酢酸および酢酸ナトリウム、デキストリンを配合することを特徴とする日持ち向上剤が開示されている。しかしこの方法では、中性付近における静菌効果が不明確であること、また製剤化の工程で特別な温度管理が必要であり、製剤化までに長時間を有すること、さらに黄色ブドウ球菌のみの評価で大腸菌への静菌効果が不明等の問題がある。
【0005】
特許文献2にはグリシン、重合リン酸塩および食品用酵素を主成分とした食品用保存剤が開示されている。しかしこの方法では、メタリン酸ナトリウムの重合度について言及されていないため、重合度の異なるメタリン酸ナトリウムを使用した場合、想定した静菌効果が発揮されない可能性があること、また食品を製造する際に加熱温度によっては酵素が失活してしまい静菌効果を示さなくなること、さらに黄色ブドウ球菌および大腸菌への静菌効果が不明等の問題がある。
【0006】
特許文献3には酢酸ナトリウム、グリシン、キサンタンガムを配合することを特徴とする日持ち向上剤が開示されている。しかしこの方法ではキサンタンガム由来の増粘性により用途が限定されること、また黄色ブドウ球菌および大腸菌への静菌効果が不明等の問題がある。
【0007】
特許文献4には中性で抗菌性を発現するプロタミンに、ベタインまたはグルタチオンを配合することを特徴とする食品用日持ち向上剤が開示されている。しかしこの方法では、プロタミン独特の風味による味質への影響やコスト面への影響があること、また黄色ブドウ球菌および大腸菌への静菌効果が不明等の問題がある。
【先行技術文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6576803号
【特許文献2】特開平7-155153
【特許文献3】特開平11-196764
【特許文献4】特開平7-46972
【非特許文献1】新食品添加物表示の実務2022 食品添加物表示問題連絡会 一般社団法人日本食品添加物協会 共著 pp315-316
【非特許文献2】酢酸ナトリウムの抗菌性 宮尾茂雄 東京都農業試験場研究報告 第14号 pp57-66 (1981)
【非特許文献3】グリシンと二、三の薬剤の抗菌力併用効果 李 在根ら 食品衛生学雑誌 Vol.26, No.3 pp279-284
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような従来の技術では中性条件で、黄色ブドウ球菌や大腸菌の至適発育温度である35℃かつ48時間での静菌効果が不明であること、製剤化に特別な工程を有すること、酵素が失活しない温度でしか使用できないこと、味質やコストに影響すること等に問題があった。このような背景から黄色ブドウ球菌や大腸菌の至適発育温度の35℃かつ48時間静菌効果を示し、簡易に製剤化することができ、味質への影響の少ない日持ち向上剤が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の日持ち向上剤は、グリシンおよび酢酸ナトリウムにNanH2PnO3n+1で表されるメタリン酸ナトリウムのうち平均重合度が14≦n<20(以下、低重合メタリン酸ナトリウム)を含有する、またはグリシンに低重合メタリン酸ナトリウムを含有する、もしくは酢酸ナトリウムに低重合メタリン酸ナトリウムを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、中性でグラム陽性菌は黄色ブドウ球菌、グラム陰性菌は大腸菌に対して十分な静菌効果を発揮することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いる日持ち向上剤は3種の組合せの場合、グリシンを1.5質量%以上2.0質量%未満、酢酸ナトリウムを1.5質量%以上2.0質量%未満、低重合メタリン酸ナトリウムを0.1質量%以上の割合で食品に含有してなることを特徴とするpH6~8に調整した食品用日持ち向上剤であり、2種の組合せの場合、グリシンが2.0質量%以上、低重合メタリン酸ナトリウムが0.1質量%以上、または酢酸ナトリウムが2.0質量%以上、低重合メタリン酸ナトリウムが0.5質量%以上の割合で食品に含有してなることを特徴とするpH6~8に調整した食品用日持ち向上剤である。
【0013】
本発明で用いられる食品用日持ち向上剤はpH調整剤を使用することができ、pH調整剤としては、例えば、リン酸、リン酸一ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等の無機酸またはそれらの塩、もしくはクエン酸、クエン酸ナトリウム等の有機酸またはそれらの塩等を使用することができる。
【0014】
以下、実験例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実験例に何ら限定されるものではない。
【実験例】
【0015】
[実施例1~5、比較例1~21]
グリシン、酢酸ナトリウム、低重合メタリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム(NanH2PnO3n+1(n≧20))(以下、高重合メタリン酸ナトリウムとする)をそれぞれ表1に示す割合で液体ブイヨン培地(オートクレーブ(121℃、20分間)にて滅菌処理済)に添加した。この液体培地に初期菌数が1.0×105CFU/mLになるよう大腸菌または黄色ブドウ球菌を懸濁させ、初期菌数の吸光度を測定(OD660値)したのち、35℃で振とう培養を行い、1時間、2時間、4時間、8時間、24時間、48時間経過後の吸光度を測定し、48時間後の吸光度の測定値が初期値と比較して変わらなかった場合を静菌効果ありと判断した。48時間で評価した理由として、非特許文献3では30℃、24時間で大腸菌、黄色ブドウ球菌等への静菌評価を行っていたが、本発明者らが大腸菌および黄色ブドウ球菌の至適発育温度35℃で各菌に対して評価した場合、24時間後の菌数は初期値と比べて増加していないが、48時間後には菌数が増加した例があったためである。実施例1~5、比較例1~21の結果を表1に示す。
【0016】
【0017】
3種類の組み合わせとして、実施例1~3に示した通り、グリシンおよび酢酸ナトリウムに低重合メタリン酸ナトリウムを各濃度で組み合わせた場合、黄色ブドウ球菌および大腸菌に対して静菌効果を示した。比較例2~4に示した通り、グリシンおよび酢酸ナトリウムに高重合メタリン酸ナトリウムを各濃度で組み合わせた場合、黄色ブドウ球菌に対して静菌効果を示したが、大腸菌に対しては静菌効果を示さなかった。比較例5~6に示した通り、グリシンおよび酢酸ナトリウムを各濃度で組み合わせた場合、大腸菌に対して静菌効果を示したが、黄色ブドウ球菌に対しては静菌効果を示さなかった。比較例7~9に示した通り、グリシンおよび酢酸ナトリウムを各濃度で組み合わせた場合、黄色ブドウ球菌および大腸菌に対して静菌効果を示さなかった。実施例4に示した通り、グリシンおよび低重合メタリン酸ナトリウムを各濃度で組み合わせた場合、黄色ブドウ球菌および大腸菌に対して静菌効果を示した。実施例5に示した通り、酢酸ナトリウムおよび低重合メタリン酸ナトリウムを各濃度で組み合わせた場合、黄色ブドウ球菌および大腸菌に対して静菌効果を示した。比較例10に示した通り、グリシンおよび高重合メタリン酸ナトリウムを各濃度で組み合わせた場合、黄色ブドウ球菌に対して静菌効果を示したが、大腸菌に対しては静菌効果を示さなかった。比較例11に示した通り、酢酸ナトリウムと高重合メタリン酸ナトリウムを各濃度で組み合わせた場合、黄色ブドウ球菌に対して静菌効果を示したが、大腸菌に対しては静菌効果を示さなかった。比較例12~13に示した通り、グリシンを各濃度で単独使用した場合、大腸菌に対して静菌効果を示したが、黄色ブドウ球菌に対しては静菌効果を示さなかった。比較例14~15に示した通り、酢酸ナトリウムを各濃度で単独使用した場合、黄色ブドウ球菌および大腸菌に対して静菌効果を示さなかった。比較例16~18に示した通り、低重合メタリン酸ナトリウム各濃度で単独使用した場合、黄色ブドウ球菌に対して静菌効果を示したが、大腸菌に対しては静菌効果を示さなかった。比較例19~21に示した通り、高重合メタリン酸ナトリウム各濃度で単独使用した場合、黄色ブドウ球菌に対して静菌効果を示したが、大腸菌に対しては静菌効果を示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、中性でグラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して静菌効果を発揮することができ、食品の微生物的品質低下を防ぐ目的において大変有用である。