(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121027
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】細胞足場材形成用塗工液及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240830BHJP
C08G 69/10 20060101ALI20240830BHJP
C07K 5/08 20060101ALN20240830BHJP
C07K 5/10 20060101ALN20240830BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
C12M3/00 A ZNA
C08G69/10
C07K5/08
C07K5/10
C07K7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020106
(22)【出願日】2023-02-13
(62)【分割の表示】P 2023500395の分割
【原出願日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2021212493
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022001013
(32)【優先日】2022-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022001014
(32)【優先日】2022-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022077686
(32)【優先日】2022-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 大悟
(72)【発明者】
【氏名】新井 悠平
【テーマコード(参考)】
4B029
4H045
4J001
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC08
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA12
4H045BA13
4H045EA60
4J001DA01
4J001DB07
4J001DC03
4J001DD07
4J001EA33
4J001EA41
4J001FB03
4J001GA11
4J001GD07
4J001GD08
4J001GD10
4J001JA20
4J001JC01
(57)【要約】
【課題】厚みの大きい細胞足場材を簡便に形成させることができ、細胞の増殖性を高めることができる細胞足場材形成用塗工液を提供する。
【解決手段】本発明に係る細胞足場材形成用塗工液は、合成樹脂部及びペプチド部を有するペプチド含有樹脂と、アルコール溶媒とを含み、前記ペプチド含有樹脂の含有量が、0.1重量%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂部及びペプチド部を有するペプチド含有樹脂の製造方法であって、
第1の溶媒と、アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基を有する合成樹脂Xと、ペプチドとを含む第1の溶液を準備する工程と、
第2の溶媒と、縮合剤とを含む第2の溶液を準備する工程と、
前記第1の溶液と前記第2の溶液とを混合する工程とを備える、ペプチド含有樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記合成樹脂Xが、(メタ)アクリル共重合体、又はポリビニルアセタール誘導体である、請求項1に記載のペプチド含有樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記合成樹脂Xが、(メタ)アクリル共重合体であり、
前記(メタ)アクリル共重合体が、下記式(A1)又は下記式(A2)で表される(メタ)アクリレート化合物(A)に由来する構造単位を有する、請求項1又は2に記載のペプチド含有樹脂の製造方法。
【化1】
前記式(A1)中、Rは、炭素数が2以上18以下の炭化水素基を表す。
【化2】
前記式(A2)中、Rは、炭素数が2以上18以下の炭化水素基を表す。
【請求項4】
前記合成樹脂Xが、(メタ)アクリル共重合体であり、
前記(メタ)アクリル共重合体が、カルボキシル基又はアミノ基を有する(メタ)アクリレート化合物(B)に由来する構造単位を有する、請求項1又は2に記載のペプチド含有樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記合成樹脂Xが、ポリビニルアセタール誘導体であり、
前記ポリビニルアセタール誘導体が、カルボキシル基又はアミノ基を有する(メタ)アクリレート化合物(D)に由来する構造単位を有する、請求項1又は2に記載のペプチド含有樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記ペプチドが、細胞接着性のアミノ酸配列を有する、請求項1又は2に記載のペプチド含有樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記第1の溶媒又は前記第2の溶媒が、アルコール溶媒である、請求項1又は2に記載のペプチド含有樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記合成樹脂Xと前記ペプチドとを反応させる反応工程をさらに備える、請求項1又は2に記載のペプチド含有樹脂の製造方法。
【請求項9】
精製工程をさらに備える、請求項1又は2に記載のペプチド含有樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞足場材形成用塗工液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
学術分野、創薬分野及び再生医療分野等の研究開発において、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシ及びサル等の動物細胞が用いられている。動物細胞を培養するために用いられる足場材料として、ラミニン及びビトロネクチン等の接着タンパク質、並びにマウス肉腫由来のマトリゲル等の天然高分子材料が用いられている。
【0003】
また、合成樹脂を用いた足場材料、及びペプチドが結合した合成樹脂を用いた足場材料も知られている。例えば、下記の特許文献1,2には、ポリビニルアルコール誘導体部と、ペプチド部とを有するペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体を含む細胞培養用足場材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2020/230884A1
【特許文献2】WO2020/230885A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
所定の形状に加工又は成形等された足場材料(細胞足場材)を用いて、液体培地中で細胞を培養することができる。従来、ペプチドが結合した合成樹脂を含む細胞足場材は、固相法により作製されている。しかしながら、この方法では、細胞足場材の作製工程が煩雑となりやすい。
【0006】
また、本発明者らは、厚みの大きい細胞足場材を用いた場合には、厚みの小さい細胞足場材を用いた場合よりも、細胞の増殖性を高めることができることを見出した。しかしながら、固相法では、厚みの大きい細胞足場材の作製工程がより一層煩雑となりやすい。
【0007】
本発明の目的は、厚みの大きい細胞足場材を簡便に形成させることができ、細胞の増殖性を高めることができる細胞足場材形成用塗工液を提供することである。また、本発明は、上記細胞足場材形成用塗工液の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の広い局面によれば、合成樹脂部及びペプチド部を有するペプチド含有樹脂と、アルコール溶媒とを含み、前記ペプチド含有樹脂の含有量が、0.1重量%以上である、細胞足場材形成用塗工液(本明細書において「細胞足場材形成用塗工液」を「塗工液」と略記することがある)が提供される。
【0009】
本発明に係る塗工液のある特定の局面では、加水分解アミノ酸組成分析法により検出されるアミノ酸量が、75μmol/L以上である。
【0010】
本発明に係る塗工液のある特定の局面では、前記合成樹脂部が、(メタ)アクリル共重合体部、又はポリビニルアルコール誘導体部を有する。
【0011】
本発明に係る塗工液のある特定の局面では、前記ペプチド含有樹脂が、(メタ)アクリル共重合体部及びペプチド部を有するペプチド含有(メタ)アクリル共重合体であり、前記(メタ)アクリル共重合体部が、下記式(A1)又は下記式(A2)で表される(メタ)アクリレート化合物(A)に由来する構造単位を有する。
【0012】
【0013】
前記式(A1)中、Rは、炭素数が2以上18以下の炭化水素基を表す。
【0014】
【0015】
前記式(A2)中、Rは、炭素数が2以上18以下の炭化水素基を表す。
【0016】
本発明に係る塗工液のある特定の局面では、前記(メタ)アクリル共重合体部が、アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基を有する(メタ)アクリレート化合物(B)に由来する構造単位を有し、前記ペプチド含有(メタ)アクリル共重合体において、前記ペプチド部が、前記アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基と結合している。
【0017】
本発明に係る塗工液のある特定の局面では、前記ペプチド含有樹脂が、ポリビニルアルコール誘導体部及びペプチド部を有するペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体である。
【0018】
本発明に係る塗工液のある特定の局面では、前記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体が、下記式(C1)又は下記式(C2)で表される(メタ)アクリレート化合物(C)に由来する構造単位をさらに有する。
【0019】
【0020】
前記式(C1)中、Rは、炭素数が2以上18以下の炭化水素基を表す。
【0021】
【0022】
前記式(C2)中、Rは、炭素数が2以上18以下の炭化水素基を表す。
【0023】
本発明に係る塗工液のある特定の局面では、前記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体が、アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基を有する(メタ)アクリレート化合物(D)に由来する構造単位をさらに有し、前記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体において、前記ペプチド部が、前記アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基と結合している。
【0024】
本発明に係る塗工液のある特定の局面では、前記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体が、ポリビニルアセタール部及びペプチド部を有するペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂である。
【0025】
本発明に係る塗工液のある特定の局面では、前記ペプチド部が、RGD配列を有する。
【0026】
本発明の広い局面によれば、上述した細胞足場材形成用塗工液の製造方法であって、アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基を有する合成樹脂と、ペプチドと、縮合剤とを含む溶液を準備する準備工程と、前記合成樹脂と前記ペプチドとを反応させる反応工程とを備える、細胞足場材形成用塗工液の製造方法が提供される。
【0027】
本発明に係る塗工液の製造方法のある特定の局面では、前記製造方法は、精製工程をさらに備える。
【0028】
本明細書では、以下のペプチド含有樹脂の製造方法も提供する。
【0029】
本発明の広い局面によれば、第1の溶媒と、アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基を有する合成樹脂と、ペプチドとを含む第1の溶液を準備する工程と、第2の溶媒と、縮合剤とを含む第2の溶液を準備する工程と、前記第1の溶液と前記第2の溶液とを混合する工程とを備える、ペプチド含有樹脂の製造方法が提供される。
【0030】
本発明に係るペプチド含有樹脂の製造方法のある特定の局面では、前記製造方法は、前記アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基を有する合成樹脂と前記ペプチドとを反応させる反応工程をさらに備える。
【0031】
本発明に係るペプチド含有樹脂の製造方法のある特定の局面では、前記製造方法は、精製工程をさらに備える。
【0032】
本発明に係るペプチド含有樹脂の製造方法のある特定の局面では、前記アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基を有する合成樹脂が、(メタ)アクリル共重合体、又はポリビニルアルコール誘導体である。
【0033】
本発明に係るペプチド含有樹脂の製造方法のある特定の局面では、前記ペプチドが、RGD配列を有する。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る細胞足場材形成用塗工液は、合成樹脂部及びペプチド部を有するペプチド含有樹脂と、アルコール溶媒とを含み、上記ペプチド含有樹脂の含有量が、0.1重量%以上である。本発明に係る細胞足場材形成用塗工液では、上記の構成が備えられているので、厚みの大きい細胞足場材を簡便に形成させることができ、細胞の増殖性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0036】
[細胞足場材形成用塗工液]
本発明に係る細胞足場材形成用塗工液(以下、「塗工液」と略記することがある)は、合成樹脂部及びペプチド部を有するペプチド含有樹脂と、アルコール溶媒とを含み、上記ペプチド含有樹脂の含有量が、0.1重量%以上である。
【0037】
本発明に係る塗工液では、上記の構成が備えられているので、厚みの大きい細胞足場材を簡便に形成させることができ、細胞の増殖性を高めることができる。本発明に係る塗工液では、該塗工液を容器等の表面に簡便に塗工することができる。また、本発明に係る塗工液には、ペプチド含有樹脂が比較的多く含まれているので、塗工された塗工液を乾燥することにより、厚みの大きい細胞足場材を簡便に形成させることができる。さらに、本発明に係る塗工液では、厚みの大きい細胞足場材を簡便に形成させることできるので、細胞の増殖性を高めることができる。
【0038】
また、本発明に係る塗工液では、細胞外マトリックス(ECM)等の天然高分子材料を材料として用いる必要がないため、安価であり、ロット間のばらつきが小さく、安全性に優れる。
【0039】
(ペプチド含有樹脂)
上記塗工液は、ペプチド含有樹脂(peptide-conjugated resin)を含む。上記ペプチド含有樹脂は、ペプチドが結合した合成樹脂である。上記ペプチド含有樹脂は、合成樹脂部とペプチド部とを有する。上記ペプチド含有樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0040】
本発明の効果を発揮させる観点から、上記塗工液100重量%中、上記ペプチド含有樹脂の含有量は0.1重量%以上である。
【0041】
上記塗工液100重量%中、上記ペプチド含有樹脂の含有量は、好ましくは0.3重量%以上、より好ましくは1重量%以上、更に好ましくは3重量%以上、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下、更に好ましくは8重量%以下である。上記ペプチド含有樹脂の含有量が上記下限以上であると、厚みの大きい細胞足場材をより一層簡便に形成させることができ、細胞の増殖性をより一層高めることができる。上記ペプチド含有樹脂の含有量が上記上限以下であると、アルコール溶媒へのペプチド含有樹脂の溶解性をより一層高めることができ、また、塗工性を高めることができる。
【0042】
上記塗工液において、加水分解アミノ酸組成分析法により検出されるアミノ酸量は、好ましくは75μmol/L以上、より好ましくは250μmol/L以上、更に好ましくは750μmol/L以上、好ましくは10mmol/L以下、より好ましくは5mmol/L以下、更に好ましくは3mmol/L以下である。上記アミノ酸量は、塗工液1L中において検出されるアミノ酸量(μmol)に対応する。上記アミノ酸量が上記下限以上であると、細胞の増殖性をより一層高めることができる。上記アミノ酸量が上記上限以下であると、アルコール溶媒へのペプチド含有樹脂の溶解性をより一層高めることができ、また、塗工性を高めることができる。
【0043】
上記アミノ酸量は、例えば、以下のようにして測定される。
【0044】
まず、塗工液を真空乾燥し、溶媒を完全に除去して乾固物を得る。得られた乾固物5mgと6mol/Lの塩酸500μLとをバイアル瓶に入れ、脱気密閉後、110℃で22時間加熱することでペプチドの加水分解を行う。加水分解反応後、N2パージにより塩酸を除去する。次いで、pH2.2のクエン酸ナトリウム緩衝液500μLを添加して再溶解する。得られた溶液を遠心式フィルターユニット(Ultrafree-MC UFC30シリーズ、孔径0.1μm、Merck社製)に添加し、13400rpm及び3minの条件で遠心ろ過する。ろ液をo-フタルアルデヒド(以下、OPAと記載することがある)を用いたポストカラム誘導体化法により、以下の分析条件及び検出条件で分析する。なお、ろ液はスペクトル強度に応じてpH2.2のクエン酸ナトリウム緩衝液で1倍~125倍に希釈して測定に用いる。
【0045】
<分析条件>
・カラム:Shim-pack Amino-Na(100 mmL×6.0 mmI.D.)
アンモニアトラップカラム:ISC-30/S0504 Na(50 mmL×4.0 mmI.D.)
・移動相:アミノ酸移動相キットNa型(島津製作所社製)
A液:クエン酸ナトリウム緩衝液
B液:クエン酸ナトリウム緩衝液
C液:水酸化ナトリウム溶液
グラジェント溶出(高分離モード)
・流量:0.4mL/min
・温度:60℃
・注入量:10μL
【0046】
<検出条件>
・反応試薬:アミノ酸分析キットOPA試薬(島津製作所社製)
A液:次亜塩素酸ナトリウムを含むアルカリ溶液
B液:OPA及びN-アセチル-L-システインを含むアルカリ溶液
・流量:0.2mL/min
・温度:60℃
・検出:分光蛍光検出器RF-20Axs
レスポンス:1.5sec
励起波長:350nm
蛍光波長:450nm
ゲイン:×1
感度:低
【0047】
次いで、定量用標準用試薬としてアミノ酸自動分析用アミノ酸混合標準液H型(和光純薬工業社製、各アミノ酸濃度2.5μmol/mL)を用いて検量線を作成し、得られた各アミノ酸のピーク面積値に対して定量化を行う。測定に用いた塗工液量、得られた乾固物量及びアミノ酸濃度から、塗工液におけるアミノ酸量(μmol/L)を算出する。
【0048】
上記合成樹脂部は、(メタ)アクリル共重合体部、又はポリビニルアルコール誘導体部を有することが好ましく、(メタ)アクリル共重合体部、又はポリビニルアルコール誘導体部であることがより好ましい。上記ペプチド含有樹脂は、(メタ)アクリル共重合体部及びペプチド部を有するペプチド含有(メタ)アクリル共重合体、又はポリビニルアルコール誘導体部及びペプチド部を有するペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体であることが好ましい。この場合には、細胞の増殖性をより一層高めることができる。上記合成樹脂部は、(メタ)アクリル共重合体部とポリビニルアルコール誘導体部との双方を有していてもよい。
【0049】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」と「メタクリル」との一方又は双方を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」と「メタクリレート」との一方又は双方を意味する。
【0050】
<ペプチド含有(メタ)アクリル共重合体>
細胞の増殖性をより一層高める観点から、上記ペプチド含有樹脂は、(メタ)アクリル共重合体部及びペプチド部を有するペプチド含有(メタ)アクリル共重合体であることが好ましい。上記ペプチド含有(メタ)アクリル共重合体は、ペプチドが結合した(メタ)アクリル共重合体である。上記ペプチド含有(メタ)アクリル共重合体は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0051】
上記(メタ)アクリル共重合体部は、下記式(A1)又は下記式(A2)で表される(メタ)アクリレート化合物(A)に由来する構造単位を有することが好ましい。この場合には、ペプチド含有樹脂(ペプチド含有(メタ)アクリル共重合体)の疎水性を大きくすることができ、従って、細胞培養中に細胞足場材が液体培地中へ溶出しにくくなり、また、細胞培養中に細胞足場材が容器等から剥離しにくくなる。その結果、細胞を長期間培養したとしても、細胞の増殖スピードが低下しにくくなる。なお、上記(メタ)アクリレート化合物(A)は、下記式(A1)で表される(メタ)アクリレート化合物を含んでいてもよく、下記式(A2)で表される(メタ)アクリレート化合物を含んでいてもよく、下記式(A1)で表される(メタ)アクリレート化合物と、下記式(A2)で表される(メタ)アクリレート化合物との双方を含んでいてもよい。上記(メタ)アクリレート化合物(A)が、下記式(A1)で表される(メタ)アクリレート化合物と下記式(A2)で表される(メタ)アクリレート化合物との双方を含む場合に、下記式(A1)中のRと下記式(A2)中のRとは、同一であってもよく、異なっていてもよい。上記(メタ)アクリレート化合物(A)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、下記式(A1)で表される(メタ)アクリレート化合物及び下記式(A2)で表される(メタ)アクリレート化合物はそれぞれ、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0052】
【0053】
上記式(A1)中、Rは、炭素数が2以上18以下の炭化水素基を表す。
【0054】
【0055】
上記式(A2)中、Rは、炭素数が2以上18以下の炭化水素基を表す。
【0056】
上記式(A1)中のR及び上記式(A2)中のRはそれぞれ、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。ペプチド含有(メタ)アクリル共重合体の溶解度を良好にする観点からは、上記式(A1)中のR及び上記式(A2)中のRはそれぞれ、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐構造を有していてもよく、二重結合を有していてもよく、二重結合を有していなくてもよい。上記式(A1)中のR及び上記式(A2)中のRはそれぞれ、アルキル基であってもよく、アルキレン基であってもよい。
【0057】
上記式(A1)中のRの炭素数及び上記式(A2)中のRの炭素数はそれぞれ、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは8以上、特に好ましくは10以上、好ましくは16以下、より好ましくは14以下であり、最も好ましくは12である。上記炭素数が上記下限以上であると、ペプチド含有(メタ)アクリル共重合体の疎水性を大きくすることができ、従って、細胞培養中に細胞足場材が液体培地中へ溶出しにくくなり、また、細胞培養中に細胞足場材が容器等から剥離しにくくなる。上記炭素数が上記上限以下であると、アルコール溶媒への溶解性をより一層良好にすることができるので、塗工性及び加工性をより一層高めることができる。特に、上記炭素数が12であると、本発明の効果を更により一層効果的に発揮させることができ、また、塗工性及び加工性を更により一層高めることができる。
【0058】
上記(メタ)アクリル共重合体部の全構造単位100モル%中、上記(メタ)アクリレート化合物(A)に由来する構造単位の含有率は、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは40モル%以上、特に好ましくは50モル%以上、好ましくは98モル%以下、より好ましくは95モル%以下、より一層好ましくは90モル%以下、更に好ましくは80モル%以下、特に好ましくは75モル%以下である。上記(メタ)アクリル共重合体部の全構造単位100モル%中、上記(メタ)アクリレート化合物(A)に由来する構造単位の含有率は、好ましくは25モル%以上、98モル%以下、より好ましくは30モル%以上、95モル%以下、より一層好ましくは40モル%以上、90モル%以下、更に好ましくは50モル%以上、80モル%以下、特に好ましくは50モル%以上、75モル%以下である。上記含有率が上記下限以上であると、ペプチド含有(メタ)アクリル共重合体の疎水性を大きくすることができ、従って、細胞培養中に細胞足場材が液体培地中へ溶出しにくくなり、また、細胞培養中に細胞足場材が容器等から剥離しにくくなる。上記含有率が上記上限以下であると、アルコール溶媒への溶解性をより一層良好にすることができるので、塗工性及び加工性をより一層高めることができる。
【0059】
上記(メタ)アクリル共重合体部は、アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基を有する(メタ)アクリレート化合物(B)に由来する構造単位を有することが好ましい。上記(メタ)アクリレート化合物(B)は、アミノ基と反応可能な官能基を有していてもよく、カルボキシル基と反応可能な官能基を有していてもよく、アミノ基と反応可能な官能基と、カルボキシル基と反応可能な官能基とを有していてもよい。上記(メタ)アクリレート化合物(B)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0060】
上記アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基としては、カルボキシル基、チオール基、アミノ基、及びシアノ基等が挙げられる。
【0061】
本発明の効果を効果的に発揮する観点から、上記ペプチド含有(メタ)アクリル共重合体において、上記ペプチド部が、上記アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基と結合していることが好ましい。より具体的には、上記ペプチド部を構成するアミノ酸のカルボキシル基又はアミノ基が、上記アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基と結合していることが好ましい。
【0062】
上記アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基は、カルボキシル基又はアミノ基であることが好ましい。上記(メタ)アクリレート化合物(B)は、カルボキシル基又はアミノ基を有することが好ましい。
【0063】
上記(メタ)アクリレート化合物(B)としては、(メタ)アクリル酸、3-ブテン酸、4-ペンテン酸、5-ヘキセン酸、6-ヘプテン酸、7-オクテン酸、ベンゼンアクリル酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、(メタ)アクリロイルオキシプロピルコハク酸、(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタル酸、(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロコハク酸、(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロコハク酸、及び(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。
【0064】
上記(メタ)アクリレート化合物(B)は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、(メタ)アクリロイルオキシプロピルコハク酸、(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロコハク酸、(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロコハク酸、又はブテン酸であることが好ましく、(メタ)アクリル酸であることがより好ましい。この場合には、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0065】
上記(メタ)アクリル共重合体部の全構造単位100モル%中、上記(メタ)アクリレート化合物(B)に由来する構造単位の含有率は、好ましくは2モル%以上、より好ましくは5モル%以上、より一層好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上、特に好ましくは25モル%以上、好ましくは75モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下、特に好ましくは50モル%以下である。上記含有率が上記下限以上であると、アルコール溶媒への溶解性を高めることができる。上記含有率が上記上限以下であると、細胞の培養安定性を長期間に亘って維持しやすくなる。
【0066】
上記(メタ)アクリル共重合体部の全構造単位100モル%中、上記(メタ)アクリレート化合物(A)に由来する構造単位と上記(メタ)アクリレート化合物(B)に由来する構造単位との合計含有率は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは65モル%以上、より一層好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、最も好ましくは100モル%である。上記合計含有率が上記下限以上であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。なお、上記合計含有率は、100モル%以下であってもよく、90モル%以下であってもよい。
【0067】
上記(メタ)アクリル共重合体部は、本発明の目的に反しない限り、上記(メタ)アクリレート化合物(A)及び上記(メタ)アクリレート化合物(B)の双方とは異なる(メタ)アクリレート化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。また、上記(メタ)アクリル共重合体部は、本発明の目的に反しない限り、(メタ)アクリレート化合物と共重合可能なビニル化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0068】
上記(メタ)アクリル共重合体部における上記(メタ)アクリレート化合物(A)に由来する構造単位の含有率、上記(メタ)アクリレート化合物(B)に由来する構造単位の含有率、及び後述するペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体における(メタ)アクリレート化合物(C)に由来する構造単位の含有率は、例えばNMR(核磁気共鳴)により測定することができる。
【0069】
<ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体>
細胞の増殖性をより一層高める観点から、上記ペプチド含有樹脂は、ポリビニルアルコール誘導体部及びペプチド部を有するペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体であることが好ましい。上記ポリビニルアルコール誘導体部は、ポリビニルアルコール誘導体に由来する部分である。上記ポリビニルアルコール誘導体は、ポリビニルアルコールによって誘導される化合物である。細胞足場材と細胞との接着性をより一層高める観点からは、上記ポリビニルアルコール誘導体は、ポリビニルアセタール樹脂であることが好ましく、上記ポリビニルアルコール誘導体部は、ポリビニルアセタール部であることが好ましい。すなわち、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体は、ポリビニルアセタール部及びペプチド部を有するペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂であることがより好ましい。なお、上記ポリビニルアルコール誘導体及び上記ポリビニルアセタール樹脂は、それぞれ1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0070】
上記ポリビニルアルコール誘導体部及び上記ポリビニルアセタール部は、側鎖にアセタール基と、水酸基と、アセチル基とを有することが好ましい。ただし、上記ポリビニルアルコール誘導体部及び上記ポリビニルアセタール部は、例えば、アセチル基を有していなくてもよい。例えば、ポリビニルアルコール誘導体部及びポリビニルアセタール部のアセチル基の全てが、リンカーと結合することによって、上記ポリビニルアルコール誘導体部及び上記ポリビニルアセタール部がアセチル基を有していなくてもよい。
【0071】
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することによって合成することができる。
【0072】
ポリビニルアルコールのアセタール化に用いられる上記アルデヒドは、特に限定されない。上記アルデヒドとしては、例えば、炭素数が1~10のアルデヒドが挙げられる。上記アルデヒドは、鎖状脂肪族基、環状脂肪族基又は芳香族基を有していてもよく、有していなくてもよい。上記アルデヒドは、鎖状アルデヒドであってもよく、環状アルデヒドであってもよい。上記アルデヒドは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0073】
細胞足場材と細胞との接着性をより一層高める観点からは、上記アルデヒドは、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、又はペンタナールであることが好ましく、ブチルアルデヒドであることがより好ましい。したがって、上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルブチラール樹脂であることがより好ましく、上記ポリビニルアセタール部は、ポリビニルブチラール部であることがより好ましい。細胞足場材と細胞との接着性をより一層高める観点からは、上記ペプチド含有樹脂は、ポリビニルブチラール部とペプチド部とを有するペプチド含有ポリビニルブチラール樹脂であることが好ましい。
【0074】
上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体において、上記ポリビニルアルコール誘導体部及び上記ポリビニルアセタール部のアセタール化度(ポリビニルブチラール部の場合にはブチラール化度)は、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、好ましくは90モル%以下、より好ましくは85モル%以下である。上記アセタール化度が上記下限以上であると、細胞の定着性をより高めることができ、細胞が効率よく増殖する。上記アセタール化度が上記上限以下であると、溶剤への溶解性を良好にすることができる。
【0075】
上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体において、上記ポリビニルアルコール誘導体部及び上記ポリビニルアセタール部の水酸基の含有率(水酸基量)は、好ましくは15モル%以上、より好ましくは20モル%以上、好ましくは45モル%以下、より好ましくは30モル%以下、更に好ましくは25モル%以下である。
【0076】
上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体において、上記ポリビニルアルコール誘導体部及び上記ポリビニルアセタール部のアセチル化度(アセチル基量)は、好ましくは1モル%以上、より好ましくは2モル%以上、好ましくは5モル%以下、より好ましくは4モル%以下である。上記アセチル化度が上記下限以上及び上記上限以下であると、ポリビニルアセタール樹脂とリンカーとの反応効率を高めることができる。
【0077】
上記ポリビニルアルコール誘導体部及び上記ポリビニルアセタール部のアセタール化度、アセチル化度及び水酸基量は、1H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)により測定することができる。
【0078】
上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体は、下記式(C1)又は下記式(C2)で表される(メタ)アクリレート化合物(C)に由来する構造単位をさらに有することが好ましい。この場合には、ペプチド間の水素結合(特に分子間の水素結合)の形成を抑制することができ、従って、アルコール溶媒への溶解性をより一層良好にすることができる。なお、上記(メタ)アクリレート化合物(C)は、下記式(C1)で表される(メタ)アクリレート化合物を含んでいてもよく、下記式(C2)で表される(メタ)アクリレート化合物を含んでいてもよく、下記式(C1)で表される(メタ)アクリレート化合物と、下記式(C2)で表される(メタ)アクリレート化合物との双方を含んでいてもよい。上記(メタ)アクリレート化合物(C)が、下記式(C1)で表される(メタ)アクリレート化合物と下記式(C2)で表される(メタ)アクリレート化合物との双方を含む場合に、下記式(C1)中のRと下記式(C2)中のRとは、同一であってもよく、異なっていてもよい。上記(メタ)アクリレート化合物(C)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、下記式(C1)で表される(メタ)アクリレート化合物及び下記式(C2)で表される(メタ)アクリレート化合物はそれぞれ、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0079】
【0080】
上記式(C1)中、Rは、炭素数が2以上18以下の炭化水素基を表す。
【0081】
【0082】
上記式(C2)中、Rは、炭素数が2以上18以下の炭化水素基を表す。
【0083】
上記式(C1)中のR及び上記式(C2)中のRはそれぞれ、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体のアルコール溶媒への溶解性を良好にする観点からは、上記式(C1)中のR及び上記式(C2)中のRはそれぞれ、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。この場合に、上記脂肪族炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐構造を有していてもよく、二重結合を有していてもよく、二重結合を有していなくてもよい。上記式(C1)中のR及び上記式(C2)中のRはそれぞれ、アルキル基であってもよく、アルキレン基であってもよい。
【0084】
上記式(C1)中のRの炭素数及び上記式(C2)中のRの炭素数はそれぞれ、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは8以上、特に好ましくは10以上、好ましくは16以下、より好ましくは14以下であり、最も好ましくは12である。上記炭素数が上記下限以上及び上記上限以下であると、ペプチド間の水素結合の形成を抑制することができ、従って、アルコール溶媒への溶解性をより一層良好にすることができる。
【0085】
上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体において、上記(メタ)アクリレート化合物(C)に由来する構造単位の含有率は、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、好ましくは50モル%以下、より好ましくは30モル%以下である。上記含有率が上記下限以上及び上記上限以下であると、ペプチド間の水素結合の形成を抑制することができ、従って、アルコール溶媒への溶解性をより一層良好にすることができる。
【0086】
上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体は、アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基を有する(メタ)アクリレート化合物(D)に由来する構造単位をさらに有することが好ましい。上記(メタ)アクリレート化合物(D)は、アミノ基と反応可能な官能基を有していてもよく、カルボキシル基と反応可能な官能基を有していてもよく、アミノ基と反応可能な官能基と、カルボキシル基と反応可能な官能基とを有していてもよい。上記(メタ)アクリレート化合物(D)は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0087】
上記アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基としては、カルボキシル基、チオール基、アミノ基、水酸基及びシアノ基等が挙げられる。
【0088】
本発明の効果を効果的に発揮する観点から、上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体において、上記ペプチド部が、上記アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基と結合していることが好ましい。より具体的には、上記ペプチド部を構成するアミノ酸のカルボキシル基又はアミノ基が、上記アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基と結合していることが好ましい。
【0089】
上記アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基は、カルボキシル基又はアミノ基であることが好ましい。上記(メタ)アクリレート化合物(D)は、カルボキシル基又はアミノ基を有することが好ましい。
【0090】
上記(メタ)アクリレート化合物(D)としては、上記(メタ)アクリレート化合物(B)として列挙した化合物等が挙げられる。
【0091】
上記(メタ)アクリレート化合物(D)は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、(メタ)アクリロイルオキシプロピルコハク酸、(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロコハク酸、(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロコハク酸、又はブテン酸であることが好ましく、(メタ)アクリル酸であることがより好ましい。この場合には、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0092】
<ペプチド部>
上記ペプチド部は、ペプチドに由来する構造部分である。上記ペプチド部は、アミノ酸配列を有する。上記ペプチド部を構成するペプチドは、オリゴペプチドであってもよく、ポリペプチドであってもよい。上記ペプチドは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0093】
上記ペプチド部のアミノ酸残基の数は、好ましくは3個以上、より好ましくは4個以上、更に好ましくは5個以上、好ましくは10個以下、より好ましくは8個以下、更に好ましくは6個以下である。上記アミノ酸残基の数が上記下限以上及び上記上限以下であると、播種後の細胞との接着性をより一層高めることができ、細胞の増殖率をより一層高めることができる。ただし、上記ペプチド部のアミノ酸残基の数は10個を超えていてもよく、15個を超えていてもよい。
【0094】
上記ペプチド部は、細胞接着性のアミノ酸配列を有することが好ましい。なお、細胞接着性のアミノ酸配列とは、ファージディスプレイ法、セファローズビーズ法、又はプレートコート法によって細胞接着活性が確認されているアミノ酸配列をいう。上記ファージディスプレイ法としては、例えば、「The Journal of Cell Biology, Volume 130, Number 5, September 1995 1189-1196」に記載の方法を用いることができる。上記セファローズビーズ法としては、例えば「蛋白質 核酸 酵素 Vol.45 No.15 (2000) 2477」に記載の方法を用いることができる。上記プレートコート法としては、例えば「蛋白質 核酸 酵素 Vol.45 No.15 (2000) 2477」に記載の方法を用いることができる。
【0095】
上記細胞接着性のアミノ酸配列としては、例えば、RGD配列(Arg-Gly-Asp)、YIGSR配列(Tyr-Ile-Gly-Ser-Arg)、PDSGR配列(Pro-Asp-Ser-Gly-Arg)、HAV配列(His-Ala-Val)、ADT配列(Ala-Asp-Thr)、QAV配列(Gln-Ala-Val)、LDV配列(Leu-Asp-Val)、IDS配列(Ile-Asp-Ser)、REDV配列(Arg-Glu-Asp-Val)、IDAPS配列(Ile-Asp-Ala-Pro-Ser)、KQAGDV配列(Lys-Gln-Ala-Gly-Asp-Val)、及びTDE配列(Thr-Asp-Glu)等が挙げられる。また、上記細胞接着性のアミノ酸配列としては、「病態生理、第9巻 第7号、527~535頁、1990年」、及び「大阪府立母子医療センター雑誌、第8巻 第1号、58~66頁、1992年」に記載されている配列等も挙げられる。上記ペプチド部は、上記細胞接着性のアミノ酸配列を1種のみ有していてもよく、2種以上を有してもよい。
【0096】
上記細胞接着性のアミノ酸配列は、上述した細胞接着性のアミノ酸配列の内の少なくともいずれかを有することが好ましく、RGD配列、YIGSR配列、又はPDSGR配列を少なくとも有することがより好ましく、RGD配列を有することが更に好ましく、下記式(1)で表されるRGD配列を少なくとも有することが特に好ましい。この場合には、播種後の細胞との接着性をより一層高めることができ、細胞の増殖率をより一層高めることができる。
【0097】
Arg-Gly-Asp-X ・・・式(1)
【0098】
上記式(1)中、Xは、Gly、Ala、Val、Ser、Thr、Phe、Met、Pro、又はAsnを表す。
【0099】
上記ペプチド部は、直鎖状であってもよく、環状ペプチド骨格を有していてもよい。上記環状ペプチド骨格とは、複数個のアミノ酸により構成された環状骨格である。本発明の効果を一層効果的に発揮させる観点からは、上記環状ペプチド骨格は、4個以上のアミノ酸により構成されることが好ましく、5個以上のアミノ酸により構成されることがより好ましく、10個以下のアミノ酸により構成されることが好ましい。
【0100】
上記ペプチド含有樹脂において、上記ペプチド部の含有率は、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは1モル%以上、更に好ましくは2モル%以上、特に好ましくは5モル%以上、好ましくは25モル%以下、より好ましくは20モル%以下、更に好ましくは15モル%以下、特に好ましくは10モル%以下である。上記ペプチド部の含有率が上記下限以上であると、播種後の細胞との接着性をより一層高めることができ、細胞の増殖率をより一層高めることができる。また、上記ペプチド部の含有率が上記上限以下であると、製造コストを抑えることができる。なお、上記ペプチド部の含有率(モル%)は、ペプチド含有樹脂を構成する各構造単位の物質量の総和に対する上記ペプチド部の物質量である。
【0101】
上記ペプチド部の含有率は、例えばNMR(核磁気共鳴)により測定することができる。
【0102】
<ペプチド含有樹脂の他の詳細>
上記ペプチド含有(メタ)アクリル共重合体の数平均分子量は、好ましくは5000以上、より好ましくは10000以上、更に好ましくは50000以上、好ましくは5000000以下、より好ましくは2500000以下、更に好ましくは1000000以下である。上記数平均分子量が上記下限以上であると、ペプチド含有(メタ)アクリル共重合体の疎水性を大きくすることができ、従って、細胞培養中に細胞足場材が液体培地中へ溶出しにくくなり、また、細胞培養中に細胞足場材が容器等から剥離しにくくなる。上記数平均分子量が上記上限以下であると、アルコール溶媒への溶解性を高めることができる。
【0103】
上記ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体の数平均分子量は、好ましくは10000以上、より好ましくは50000以上、更に好ましくは100000以上、好ましくは5000000以下、より好ましくは2500000以下、更に好ましくは1000000以下である。上記数平均分子量が上記下限以上であると、細胞培養中に細胞足場材が液体培地中へ溶出しにくくなり、また、細胞培養中に細胞足場材が容器等から剥離しにくくなる。上記数平均分子量が上記上限以下であると、アルコール溶媒への溶解性を高めることができる。
【0104】
なお、上記ペプチド含有樹脂(ペプチド含有(メタ)アクリル共重合体、ペプチド含有ポリビニルアルコール誘導体)の数平均分子量は、例えば以下の方法により測定することができる。上記ペプチド含有樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、ペプチド含有樹脂の0.2重量%溶液を調製する。次に、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定装置(APCシステム、Waters社製)を用いて、以下の測定条件により評価する。
【0105】
カラム:HSPgel HR MB-M 6.0×150mm
流量:0.5mL/min
カラム温度:40℃
注入量:10μL
検出器:RI、PDA
標準試料:ポリスチレン
【0106】
(アルコール溶媒)
上記塗工液は、アルコール溶媒を含む。上記アルコール溶媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0107】
上記アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、イソプロパノール、プロパノール、ベンジルアルコール、オクチルアルコール、ラウリルアルコール及びエチレングリコール等が挙げられる。
【0108】
均一な厚みを有する樹脂膜(細胞足場材)を良好に形成させる観点からは、上記アルコール溶媒は、炭素数2以上4以下の低級アルコールであることが好ましく、エタノール、プロパノール又はブタノールであることがより好ましく、ブタノールであることが更に好ましい。
【0109】
上記塗工液100重量%中、上記アルコール溶媒の含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは85重量%以上、更に好ましくは90重量%以上、好ましくは99.9重量%以下、より好ましくは99重量%以下、更に好ましくは98重量%以下である。上記アルコール溶媒の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、アルコール溶媒へのペプチド含有樹脂の溶解性をより一層高めることができ、また、塗工性を高めることができる。
【0110】
上記塗工液100重量%中、上記ペプチド含有樹脂と上記アルコール溶媒との合計含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは85重量%以上、更に好ましくは90重量%以上である。上記合計含有量は、100重量%以下であってもよく、100重量%未満であってもよい。
【0111】
(pH調整剤)
上記塗工液は、pH調整剤を含むことが好ましい。pH調整剤を用いることにより、上記ペプチド含有樹脂のアルコール溶媒への溶解性を調整することができる。上記pH調整剤としては、有機酸、無機酸、有機塩基及び無機塩基が挙げられる。上記pH調整剤としては、例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、トリエチルアミン、及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン等が挙げられる。上記pH調整剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0112】
上記pH調整剤の含有量は、上記アルコール溶媒100重量部に対して、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、好ましくは20重量部以下、より好ましくは15重量部以下である。
【0113】
(他の成分)
上記塗工液は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、上述した成分(上記ペプチド含有樹脂、上記アルコール溶媒及び上記pH調整剤)とは異なる他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、アルコール溶媒以外の溶媒、及び多糖類等が挙げられる。上記他の成分は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0114】
上記アルコール溶媒以外の溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジクロロメタン、アセトニトリル等が挙げられる。
【0115】
上記塗工液は、動物由来の原料を実質的に含まないことが好ましい。動物由来の原料を含まないことにより、安全性が高く、かつ、製造時に品質のばらつきが少ない細胞足場材を提供することができる。なお、「動物由来の原料を実質的に含まない」とは、上記塗工液中における動物由来の原料が、3重量%以下であることを意味する。上記塗工液では、塗工液中における動物由来の原料が、1重量%以下であることが好ましく、0重量%であることが最も好ましい。すなわち、上記塗工液は、動物由来の原料を全く含まないことが最も好ましい。
【0116】
(塗工液の製造方法)
本発明に係る塗工液の製造方法は、上述した塗工液の製造方法である。本発明に係る塗工液の製造方法は、アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基を有する合成樹脂と、ペプチドと、縮合剤とを含む溶液を準備する準備工程と、上記合成樹脂と上記ペプチドとを反応させる反応工程とを備える。
【0117】
なお、本明細書において、「アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基を有する合成樹脂」を「合成樹脂X」と記載することがある。
【0118】
したがって、本発明に係る塗工液の製造方法は、合成樹脂Xと、ペプチドと、縮合剤とを含む溶液を準備する準備工程と、上記合成樹脂Xと上記ペプチドとを反応させる反応工程とを備える。
【0119】
上記合成樹脂Xは、アミノ基と反応可能な官能基を有していてもよく、カルボキシル基と反応可能な官能基を有していてもよく、アミノ基と反応可能な官能基と、カルボキシル基と反応可能な官能基とを有していてもよい。
【0120】
上記合成樹脂Xとしては、(メタ)アクリレート共重合体及びポリビニルアセタール誘導体等が挙げられる。より具体的には、上記合成樹脂Xとしては、上記(メタ)アクリレート化合物(A)と上記(メタ)アクリレート化合物(B)とを含むモノマー混合物を重合させた(メタ)アクリレート共重合体、及び、上記(メタ)アクリレート化合物(D)に由来する構造単位を有するポリビニルアセタール誘導体等が挙げられる。上記合成樹脂Xは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0121】
上記ペプチドとしては、上述したペプチド部の欄に記載したアミノ酸残基の数及びアミノ酸配列等を有するペプチド等が挙げられる。上記ペプチドは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0122】
上記縮合剤として、従来公知の縮合剤を使用可能である。上記縮合剤としては、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール、ジフェニルリン酸アジド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート、2-クロロ-4,6-ジメトキシ-1,3,5,-トリアジン、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5,-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルフォリニウムクロリド、トリフルオロメタンスルホン酸4,6-ジメトキシ-1,3,5,-トリアジン-2-イル)-(2-オクトキシ-2-オキソエチル)ジメチルアンモニウム、2,2,6,6,-テトラメチルピぺリジン及び(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノモルホリノカルベニウムヘキサフルオロリン酸塩等が挙げられる。上記縮合剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0123】
上記準備工程では、合成樹脂Xとペプチドと縮合剤と溶媒とを含む溶液を準備する。合成樹脂Xとペプチドと縮合剤と溶媒とを含む上記溶液は、分散液であってもよい。上記準備工程では、同一の溶媒に合成樹脂Xとペプチドと縮合剤とを混合して上記溶液を得てもよく、例えば、合成樹脂X、ペプチド及び縮合剤の内の少なくとも1種の成分を含む溶液Aと、合成樹脂X、ペプチド及び縮合剤の内の少なくとも1種の成分を含む溶液Bとを混合することにより上記溶液を得てもよい。
【0124】
上記準備工程は、第1の溶媒と合成樹脂Xとペプチドとを含む第1の溶液を準備する工程と、第2の溶媒と縮合剤とを含む第2の溶液を準備する工程と、上記第1の溶液と上記第2の溶液とを混合する工程とを備えることが好ましい。この場合には、縮合反応の制御を容易にすることができる。なお、上記第1の溶媒と上記第2の溶媒とは、同一の種類の溶媒であってもよく、異なる種類の溶媒であってもよい。上記第1の溶液を準備してから上記第2の溶液を準備してもよく、上記第2の溶液を準備してから上記第1の溶液を準備してもよい。上記第1の溶液と上記第2の溶液とを、同時に準備してもよい。
【0125】
上記溶媒、上記第1の溶媒及び上記第2の溶媒はそれぞれ、アルコール溶媒であってもよく、アルコール溶媒以外の溶媒であってもよい。上記塗工液の製造方法が後述の精製工程を備えない場合には、上記溶媒、上記第1の溶媒及び上記第2の溶媒はそれぞれ、アルコール溶媒であることが好ましい。
【0126】
上記溶媒、上記第1の溶媒及び上記第2の溶媒としては、メタノール、エタノール、ブタノール、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及び水等が挙げられる。
【0127】
上記反応工程では、上記合成樹脂Xと上記ペプチドとを反応させる。上記合成樹脂Xの上記アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基と、上記ペプチドを構成するアミノ酸のカルボキシル基又はアミノ基とを結合させることが好ましい。これにより、上記ペプチド含有樹脂を得ることができる。上記溶媒としてアルコール溶媒を用いる場合、上記反応工程において、ペプチド含有樹脂とアルコール溶媒とを含む液を得ることができる。上記反応工程における反応条件は特に限定されない。
【0128】
上記塗工液の製造方法は、精製工程をさらに備えることが好ましい。上記精製工程における精製方法としては特に限定されないが、例えば、(1)液-液相分離させた後、ペプチド含有樹脂を含有する液相を回収する方法、(2)ペプチド含有樹脂を再沈殿した後に回収する方法、(3)イオン交換樹脂を用いてイオン交換を行う方法等が挙げられる。上記塗工液の製造方法が上記精製工程を備える場合、未反応の縮合剤やペプチドが除去されることで不純物が少ない塗工液を得ることができる。上記精製工程では、複数の精製方法が組み合わせられてもよい。また、精製後に得られた溶液をそのまま塗工液として用いてもよく、溶媒を揮発させた後にアルコール溶媒に再溶解させたものを塗工液として用いてもよい。
【0129】
(塗工液の他の詳細)
上記塗工液を容器等の表面に塗工し、塗工された塗工液を乾燥することにより、細胞足場材を形成させることができる。上記塗工の方法としては、スピンコート法、グラビアコート法、フレキソコート法、スプレーコート法、キャストコート法、ディップコート法、ジェットディスペンス法及びインクジェット法等が挙げられる。
【0130】
上記細胞足場材の厚みは特に限定されない。上記細胞足場材の平均厚みは、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは200nm以下である。上記平均厚みが上記下限以上であると、細胞の増殖性を高めることができる。本発明に係る塗工液では、平均厚みが上記下限以上の細胞足場材を簡便に形成させることができる。上記平均厚みが上記上限以下であると、表面の凹凸が少なく、外観が良好な細胞足場材が得られやすくなる。なお、上記細胞足場材の平均厚みは、50nm以上であってもよく、100nm以上であってもよく、1000μm以下であってもよく、500μm以下であってもよい。
【0131】
上記細胞足場材の表面粗さRaは、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下である。上記細胞足場材の表面粗さRaが上記上限以下であると、細胞の増殖性のばらつきが少ない細胞足場材を得ることができる。上記細胞足場材の表面粗さRaは、上記塗工液の塗工方法や乾燥条件などを適宜選択することによって、上記上限以下に調整することができる。
【0132】
上記細胞足場材は、細胞を培養する際の該細胞の足場として用いられる。
【0133】
上記細胞としては、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシ及びサル等の動物細胞が挙げられる。また、上記細胞としては、体細胞等が挙げられ、例えば、幹細胞、前駆細胞及び成熟細胞等が挙げられる。上記体細胞は、癌細胞であってもよい。
【0134】
上記幹細胞としては、体性幹細胞、胚性幹細胞等が挙げられ、例えば、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞(MSC)、iPS細胞、ES細胞、Muse細胞、胚性がん細胞、胚性生殖幹細胞、及びmGS細胞等が挙げられる。
【0135】
上記成熟細胞としては、神経細胞、心筋細胞、網膜細胞及び肝細胞等が挙げられる。
【0136】
上記細胞足場材は、細胞の二次元培養(平面培養)、三次元培養又は浮遊培養に用いられることが好ましく、二次元培養(平面培養)又は三次元培養に用いられることがより好ましく、二次元培養に用いられることが更に好ましい。
【0137】
上記細胞足場材は、無血清培地培養に用いられることが好ましい。上記細胞足場材は上記ペプチド含有樹脂を含むので、フィーダー細胞や接着タンパク質を含まない無血清培地培養であっても、細胞の接着性を高めることができ、特に、細胞播種後の初期定着率を高めることができる。
【0138】
(細胞培養用基材)
上記塗工液を基材の表面に塗工し、塗工された塗工液を乾燥することにより、細胞培養用基材を作製することができる。上記細胞培養用基材は、基材と、該基材の表面上に形成された上記細胞足場材とを有する。上記細胞培養用基材では、上記細胞足場材が、上述した塗工液の乾燥物層である。上記細胞培養用基材では、上記細胞足場材が樹脂膜であることが好ましい。
【0139】
上記基材の形状及び大きさは特に限定されない。上記基材としては、例えば、繊維、不織布、中空糸、粒子、フィルム、多孔質膜等を用いることができる。
【0140】
上記繊維としては、例えば、平均長が1μm~10mm、平均直径が100nm~300μmの繊維を用いることができる。上記繊維の材質としては、例えば、合成樹脂、セルロース、ガラス等が挙げられる。上記合成樹脂としては、例えば、スチレン共重合体、ポリエステル、ポリアミド、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0141】
上記不織布としては、例えば、平均繊維径が0.01μm~10μm、見かけ密度が1kg/m3~100kg/m3、平均厚みが10μm~1000μmの不織布を用いることができる。上記不織布の材質としては、例えば、合成樹脂、セルロース等が挙げられる。上記合成樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド等が挙げられる。
【0142】
上記中空糸としては、例えば、内径が50μm~1000μm、膜厚が10μm~400μm、孔径が0.001μm~0.5μmの中空糸を用いることができる。上記中空糸の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、セルロース、ポリアクリルニトリル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンビニルアルコール、セラミック等が挙げられる。
【0143】
上記粒子としては、例えば、平均粒子径が10μm~1000μm、比重が0.5~5.0の粒子を用いることができる。上記粒子の材質としては、例えば、合成樹脂、多糖類、シリカ等が挙げられる。上記合成樹脂としては、例えば、ポリスチレン、(メタ)アクリル樹脂、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0144】
上記フィルムとしては、例えば、厚さが1μm~1000μmのフィルムを用いることができる。上記フィルムは、単層であってもよく、多層であってもよい。上記フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリアミド、シリコーン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、アイオノマー樹脂等が挙げられる。
【0145】
上記多孔質膜としては、例えば、平均孔径が0.01μm~10μm、気孔率が1体積%~95体積%、平均膜厚が1μm~100μmの多孔質膜を用いることができる。上記多孔質膜の材質としては、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリイミド、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0146】
上記基材の表面への上記塗工液の塗工方法及び塗工条件は、上記基材のサイズ及び形状等に応じて最適な方法及び条件を適宜選択可能である。
【0147】
例えば、フィルム状の基材の場合には、ロールコート法を用いて上記塗工液を該基材に塗工することができる。ロールコート法としては、グラビアコート法、フレキソコート法、リバースコート法、スロットダイコート法、リップコート法及びナイフコート法等が挙げられる。フィルム状の基材に対して、上記塗工液を全面塗工してもよく、上記塗工液をドット状、ストライプ状等のパターンが形成されるように塗工してもよい。
【0148】
また、例えば、多孔質の基材又は繊維状の基材の場合には、ディップコート法を用いて上記塗工液を該基材に塗工することができる。
【0149】
(細胞培養用容器)
上記塗工液を容器本体の表面に塗工し、塗工された塗工液を乾燥することにより、細胞培養用容器を作製することができる。上記細胞培養用容器は、容器本体と、上記容器本体の表面上に形成された上記細胞足場材とを有する。上記細胞培養用容器では、上記細胞足場材が、上述した塗工液の乾燥物層である。上記細胞培養用容器では、上記細胞足場材が樹脂膜であることが好ましい。
【0150】
上記容器本体として、従来公知の容器本体(容器)を用いることができる。上記容器本体の形状及び大きさは特に限定されない。上記容器本体としては、例えば、2~384ウェルプレート、単層フラスコ、多層フラスコ、多面フラスコ、ディッシュ、ローラーボトル、バッグ、インサートカップ、マイクロ流路チップ等を用いることができる。
【0151】
上記容器本体の材質としては、例えば、合成樹脂、金属、ガラス等が挙げられる。上記合成樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイソプレン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン等が挙げられる。
【0152】
上記容器本体の表面への上記塗工液の塗工方法及び塗工条件は、上記容器本体のサイズ及び形状等に応じて最適な方法及び条件を適宜選択可能である。
【0153】
例えば、キャストコート法、スプレーコート法、スピンコート法等を用いて上記塗工液を上記容器本体の表面に塗工することができる。また、上記容器本体の表面に対して、上記塗工液をドット状、ストライプ状等のパターンが形成されるように塗工してもよい。パターンが形成されるように上記塗工液を塗工する方法として、例えば、インクジェット法、スクリーン印刷法、マイクロコンタクトプリント法などを用いることができる。
【0154】
(ペプチド含有樹脂の製造方法)
本明細書では、下記の構成を備えるペプチド含有樹脂の製造方法も開示する。
【0155】
(1)第1の溶媒と、アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基を有する合成樹脂(合成樹脂X)と、ペプチドとを含む第1の溶液を準備する工程と、(2)第2の溶媒と、縮合剤とを含む第2の溶液を準備する工程と、(3)上記第1の溶液と上記第2の溶液とを混合する工程とを備える、ペプチド含有樹脂の製造方法。
【0156】
上記ペプチド含有樹脂の製造方法は、合成樹脂部及びペプチド部を有するペプチド含有樹脂の製造方法である。上記ペプチド含有樹脂の製造方法により、上述のように、塗工液を好適に製造することができる。なお、ペプチド含有樹脂の製造方法により得られるペプチド含有樹脂は、該ペプチド含有樹脂とアルコール溶媒とを含む塗工液として用いられることが好ましいが、塗工液として用いられなくてもよい。
【0157】
上記ペプチド含有樹脂の製造方法では、上記第1の溶液を準備してから上記第2の溶液を準備してもよく、上記第2の溶液を準備してから上記第1の溶液を準備してもよい。上記第1の溶液と上記第2の溶液を、同時に準備してもよい。
【0158】
上記ペプチド含有樹脂の製造方法における上記合成樹脂X(アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基を有する合成樹脂)の詳細は、上述した塗工液の製造方法の欄に記載した合成樹脂Xの詳細と同様である。
【0159】
上記ペプチド含有樹脂の製造方法における上記合成樹脂Xは、(メタ)アクリレート共重合体、又はポリビニルアセタール誘導体であることが好ましい。上記ペプチド含有樹脂の製造方法における上記合成樹脂Xは、上記(メタ)アクリレート化合物(A)と上記(メタ)アクリレート化合物(B)とを含むモノマー混合物を重合させた(メタ)アクリレート共重合体、又は上記(メタ)アクリレート化合物(D)に由来する構造単位を有するポリビニルアセタール誘導体であることがより好ましい。上記合成樹脂Xは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0160】
上記ペプチド含有樹脂の製造方法における上記ペプチドの詳細は、上述した塗工液の製造方法の欄に記載したペプチドの詳細と同様である。すなわち、上記ペプチドとしては、上述したペプチド部の欄に記載したアミノ酸残基の数及びアミノ酸配列等を有するペプチドが挙げられる。上記ペプチドは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0161】
上記ペプチドのアミノ酸残基の数は、好ましくは3個以上、より好ましくは4個以上、更に好ましくは5個以上、好ましくは10個以下、より好ましくは8個以下、更に好ましくは6個以下である。上記アミノ酸残基の数が上記下限以上及び上記上限以下であると、播種後の細胞との接着性をより一層高めることができ、細胞の増殖率をより一層高めることができる。ただし、上記ペプチドのアミノ酸残基の数は10個を超えていてもよく、15個を超えていてもよい。
【0162】
上記ペプチドは、細胞接着性のアミノ酸配列を有することが好ましく、RGD配列、YIGSR配列、又はPDSGR配列を少なくとも有することがより好ましく、RGD配列を有することが更に好ましく、上記式(1)で表されるRGD配列を少なくとも有することが特に好ましい。
【0163】
上記ペプチドは、直鎖状であってもよく、環状ペプチド骨格を有していてもよい。上記環状ペプチド骨格とは、複数個のアミノ酸により構成された環状骨格である。上記環状ペプチド骨格は、4個以上のアミノ酸により構成されることが好ましく、5個以上のアミノ酸により構成されることがより好ましく、10個以下のアミノ酸により構成されることが好ましい。
【0164】
上記ペプチド含有樹脂の製造方法における上記縮合剤の詳細は、上述した塗工液の製造方法の欄に記載した縮合剤の詳細と同様である。上記縮合剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0165】
上記ペプチド含有樹脂の製造方法における上記第1の溶媒及び上記第2の溶媒の詳細は、上述した塗工液の製造方法の欄に記載した上記第1の溶媒及び上記第2の溶媒の詳細と同様である。上記第1の溶媒及び上記第2の溶媒はそれぞれ、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0166】
上記ペプチド含有樹脂の製造方法における上記第1の溶媒は、アルコール溶媒であることが好ましく、上記第2の溶媒は、アルコール溶媒であることが好ましい。
【0167】
上記ペプチド含有樹脂の製造方法は、上記合成樹脂Xと上記ペプチドとを反応させる反応工程をさらに備えることが好ましい。
【0168】
上記反応工程では、上記合成樹脂Xと上記ペプチドとを反応させる。上記合成樹脂Xの上記アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基と、上記ペプチドを構成するアミノ酸のカルボキシル基又はアミノ基とを結合させることが好ましい。これにより、上記ペプチド含有樹脂を得ることができる。上記溶媒としてアルコール溶媒を用いる場合、上記反応工程において、ペプチド含有樹脂とアルコール溶媒とを含む液を得ることができる。上記反応工程における反応条件は特に限定されない。
【0169】
上記ペプチド含有樹脂の製造方法は、精製工程をさらに備えることが好ましい。上記精製工程における精製方法としては特に限定されないが、例えば、(1)液-液相分離させた後、ペプチド含有樹脂を含有する液相を回収する方法、(2)ペプチド含有樹脂を再沈殿した後に回収する方法、(3)イオン交換樹脂を用いてイオン交換を行う方法等が挙げられる。上記ペプチド含有樹脂の製造方法が上記精製工程を備える場合、未反応の縮合剤やペプチドが除去されることで不純物が少ないペプチド含有樹脂を得ることができる。上記精製工程では、複数の精製方法が組み合わせられてもよい。
【0170】
以下に実施例及び比較例を掲げて本発明を更に詳しく説明する。本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0171】
なお、得られたペプチド含有樹脂における構造単位の含有率、及びペプチド部の含有率は、該ペプチド含有樹脂をDMSO-d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解した後、1H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)により測定した。
【0172】
以下のペプチド(A),(B)を用意した。
【0173】
ペプチド(A):
Gly-Arg-Gly-Asp-Serのアミノ酸配列を有する直鎖状のペプチド(アミノ酸残基数5個、表ではGRGDSと記載)
ペプチド(B):
Arg-Gly-Asp-Phe-Lysのアミノ酸配列を有する環状のペプチド(アミノ酸残基数5個、ArgとLysとが結合することにより環状骨格を形成、PheはD体、表ではc-RGDfKと記載)
【0174】
(実施例1)
<塗工液の作製>
アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基を有する合成樹脂(合成樹脂X)の作製:
ポリビニルアセタール樹脂として、アセタール化度(ブチラール化度)65モル%、水酸基量32モル%、アセチル基量3モル%のポリビニルブチラール樹脂を用意した。アクリル酸30重量部とポリビニルアセタール樹脂70重量部とをテトラヒドロフラン255重量部に溶解させてポリマー混合溶液を得た。得られたポリマー混合溶液にパーブチルO(日油社製)0.015重量部を溶解させ、90℃で6時間反応させた。次いで、反応後の溶液を30000重量部の水に混合した。得られた沈殿物を80℃で3時間真空乾燥し、上記合成樹脂Xとして、アクリル酸に由来する構造単位を有するポリビニルアセタール樹脂X(アクリル酸に由来する構造単位を有するポリビニルブチラール樹脂)を作製した。
【0175】
準備工程:
第1の溶媒としてDMFを用意した。第2の溶媒としてDMFを用意した。ペプチドとしてペプチド(A)を用意した。縮合剤として1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を用意した。第1の溶媒1000重量部にポリビニルアセタール樹脂X50重量部とペプチド2重量部とを混合して、第1の溶液を調製した。また、第2の溶媒1000重量部に縮合剤1重量部を混合して、第2の溶液を調製した。第1の溶液と第2の溶液とを混合して、ポリビニルアセタール樹脂Xとペプチドと縮合剤とを含む溶液を調製した。
【0176】
反応工程:
得られた溶液を40℃で2時間反応させ、ポリビニルアセタール樹脂Xのアクリル酸に由来する構造単位におけるカルボキシル基と、ペプチドのGlyのアミノ基とを脱水縮合させ、ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂(表では樹脂X1と記載)を含む溶液を得た。
【0177】
精製工程:
得られたペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂を含む溶液をDMFで100倍希釈し、イオン交換樹脂(オルガノ社製)が充填されたカラムに0.3mL/minの速度で滴下して洗浄した。洗浄後の溶液を60℃、3時間の真空乾燥をして得られた乾固物をブタノール(アルコール溶媒)に溶解後、ブタノール(アルコール溶媒)100重量部に対して酢酸(pH調整剤)5重量部を添加して、ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂(樹脂X1)とブタノール(アルコール溶媒)とを含む塗工液を得た。なお、塗工液中のペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂の含有量は0.1重量%とした。
【0178】
<細胞培養用容器の作製>
得られた塗工液20μLをキャストコート法で6ウェルプレートの各ウェルに塗工した後、60℃、3時間の真空乾燥でアルコール溶媒を除去した。このようにして各ウェルの底面に、塗工液の乾燥物層である細胞足場材(樹脂膜)が配置された細胞培養用容器を得た。
【0179】
(実施例2,4及び比較例2)
塗工液中のペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂の含有量を表3,4に記載の含有量としたこと以外は、実施例1と同様にして、塗工液及び細胞培養用容器を得た。
【0180】
(実施例3,5)
第1の溶液中に含まれるペプチド量をそれぞれ0.3重量部(実施例3)及び4重量部(実施例5)に変更することにより、ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂中のペプチド部の含有率を表1に記載の含有率とした。また、塗工液中のペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂の含有量を表3に記載の含有量とした。これら以外は、実施例1と同様にして、塗工液及び細胞培養用容器を得た。なお、表では、実施例3で用いたペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂を樹脂X2と記載し、実施例5で用いたペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂を樹脂X3と記載した。
【0181】
(実施例6)
ペプチドとしてペプチド(B)を用意し、第1の溶液中に含まれるペプチド量を2重量部とした。ポリビニルアセタール樹脂Xのアクリル酸に由来する構造単位におけるカルボキシル基と、ペプチドのLysのアミノ基とを脱水縮合させ、ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂(表では樹脂X4と記載)を合成した。このペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂を用いたこと、及び、塗工液中のペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂の含有量を表4に記載の含有量としたこと以外は、実施例1と同様にして、塗工液及び細胞培養用容器を得た。
【0182】
(実施例7)
アクリル酸15重量部とアクリル酸ドデシル15重量部とポリビニルアセタール樹脂70重量部とをテトラヒドロフラン255重量部に溶解させてポリマー混合溶液を得た。このこと以外は、実施例1と同様にして、上記合成樹脂Xとして、アクリル酸に由来する構造単位とアクリル酸ドデシルに由来する構造単位とを有するポリビニルアセタール樹脂X(アクリル酸に由来する構造単位とアクリル酸ドデシルに由来する構造単位とを有するポリビニルブチラール樹脂)を作製した。
【0183】
また、ペプチドとしてペプチド(B)を用意し、第1の溶液中に含まれるペプチド量を4重量部とした。このこと以外は、実施例6と同様にして、ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂(表では樹脂X5と記載)を合成した。このペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂を用いたこと、及び、塗工液中のペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂の含有量を表4に記載の含有量としたこと以外は、実施例1と同様にして、塗工液及び細胞培養用容器を得た。
【0184】
(実施例8)
塗工液中のアルコール溶媒をエタノールに変更したこと、及び、塗工液中のペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂の含有量を表4に記載の含有量としたこと以外は、実施例1と同様にして、塗工液及び細胞培養用容器を得た。
【0185】
(比較例1)
実施例1で作製したポリビニルアセタール樹脂X(ペプチドと反応させる前の樹脂、表では樹脂Y1と記載)を用いた。また、塗工液中のアルコール溶媒をエタノールに変更し、塗工液中の樹脂Y1の含有量を表4に記載の含有量とした。これら以外は、実施例1と同様にして、塗工液及び細胞培養用容器を得た。
【0186】
(実施例9)
<塗工液の作製>
アミノ基又はカルボキシル基と反応可能な官能基を有する合成樹脂(合成樹脂X)の作製:
アクリル酸ドデシル70重量部と、アクリル酸30重量部とをテトラヒドロフラン27重量部に溶解させてアクリルモノマー溶液を得た。得られたアクリルモノマー溶液にIrgacure184(BASF社製)0.0575重量部を溶解させ、得られた液をPETフィルム上に塗布した。塗布物を25℃にて、UVコンベア装置(アイグラフィックス社製「ECS301G1」)を用い、波長365nmの光を積算光量2000mJ/cm2で照射することで(メタ)アクリル共重合体溶液を得た。得られた(メタ)アクリル共重合体溶液を80℃で3時間真空乾燥し、(メタ)アクリル共重合体を得た。このようにして、上記合成樹脂Xとして、(メタ)アクリル共重合体Xを作製した。
【0187】
準備工程:
第1の溶媒としてDMFを用意した。第2の溶媒としてDMFを用意した。ペプチドとしてペプチド(A)を用意した。縮合剤として1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を用意した。第1の溶媒1000重量部に(メタ)アクリル共重合体X50重量部とペプチド2重量部とを混合して、第1の溶液を調製した。また、第2の溶媒1000重量部に縮合剤1重量部を混合して、第2の溶液を調製した。第1の溶液と第2の溶液とを混合して、(メタ)アクリル共重合体Xとペプチドと縮合剤とを含む溶液を調製した。
【0188】
反応工程:
得られた溶液を40℃で2時間反応させ(メタ)アクリル共重合体Xのアクリル酸に由来する構造単位におけるカルボキシル基と、ペプチドのGlyのアミノ基とを脱水縮合させ、ペプチド含有(メタ)アクリル共重合体(表では樹脂X6と記載)を合成した。
【0189】
精製工程:
得られたペプチド含有(メタ)アクリル共重合体を含む溶液をDMFで100倍希釈し、イオン交換樹脂(オルガノ社製)が充填されたカラムに0.3mL/minの速度で滴下して洗浄した。洗浄後の溶液を60℃、3時間の真空乾燥をして得られた乾固物をブタノール(アルコール溶媒)に溶解後、ブタノール(アルコール溶媒)100重量部に対して酢酸(pH調整剤)5重量部を添加して、ペプチド含有(メタ)アクリル共重合体(樹脂X6)とブタノール(アルコール溶媒)とを含む塗工液を得た。なお、塗工液中のペプチド含有(メタ)アクリル共重合体の含有量は0.1重量%とした。
【0190】
<細胞培養用容器の作製>
得られた塗工液20μLをキャストコート法で6ウェルプレートの各ウェルに塗工した後、60℃、3時間の真空乾燥でアルコール溶媒を除去した。このようにして各ウェルの底面に、塗工液の乾燥物層である細胞足場材(樹脂膜)が配置された細胞培養用容器を得た。
【0191】
(実施例10,11及び比較例3)
塗工液中のペプチド含有(メタ)アクリル共重合体の含有量を表5に記載の含有量としたこと以外は、実施例9と同様にして、塗工液及び細胞培養用容器を得た。
【0192】
(実施例12)
ペプチドとしてペプチド(B)を用意し、第1の溶液中に含まれるペプチド量を2重量部とした。(メタ)アクリル共重合体Xのアクリル酸に由来する構造単位におけるカルボキシル基と、ペプチドのLysのアミノ基とを脱水縮合させ、ペプチド含有(メタ)アクリル共重合体(表では樹脂X7と記載)を合成した。このペプチド含有(メタ)アクリル共重合体を用いたこと、及び、塗工液中のペプチド含有(メタ)アクリル共重合体の含有量を表5に記載の含有量としたこと以外は、実施例9と同様にして、塗工液及び細胞培養用容器を得た。
【0193】
(実施例13)
アクリル酸ドデシルの代わりにアクリル酸ブチル70重量部を用いたこと、塗工液中のペプチド含有(メタ)アクリル共重合体の含有量を表5に記載の含有量としたこと以外は、実施例9と同様にして、塗工液及び細胞培養用容器を得た。なお、実施例13で作製したペプチド含有(メタ)アクリル共重合体を、表では樹脂X8と記載した。
【0194】
(実施例14)
アクリル酸ドデシルの代わりにアクリル酸オクチル70重量部を用いたこと、塗工液中のペプチド含有(メタ)アクリル共重合体の含有量を表5に記載の含有量としたこと以外は、実施例9と同様にして、塗工液及び細胞培養用容器を得た。なお、実施例14で作製したペプチド含有(メタ)アクリル共重合体を、表では樹脂X9と記載した。
【0195】
(評価)
(1)エタノールへの溶解性(60℃での最大溶解量)
得られた樹脂X1~X9及びY1のエタノールへの溶解性(60℃での最大溶解量)を以下の基準で評価した。
【0196】
<エタノールへの溶解性の判定基準>
○○:最大溶解量が1重量%以上
○:最大溶解量が0.5重量%以上1重量%未満
△:最大溶解量が0.1重量%以上0.5重量%未満
×:最大溶解量が0.1重量%未満
【0197】
(2)塗工液において検出されるアミノ酸量
得られた塗工液において、加水分解アミノ酸組成分析法により検出されるアミノ酸量を、上述した方法で測定した。
【0198】
(3)細胞足場材の平均厚み
得られた細胞培養用容器において、細胞足場材(樹脂膜)の平均厚みを反射分光膜厚測定計(Lasertec社製「OPTELICS」)を用いて測定した。
【0199】
(4)細胞培養評価(細胞の増殖性)
以下の液体培地を用意した。
【0200】
R-STEM(ロート製薬社製)
【0201】
得られた細胞培養用容器にリン酸緩衝生理食塩水1mLを加えて37℃のインキュベーター内で1時間静置後、細胞培養用容器からリン酸緩衝生理食塩水を除去した。
【0202】
液体培地1.5mLに5×104個の細胞(ロンザ社製、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞、型番:PT-5006)を含む細胞懸濁液を用意した。この細胞懸濁液を、6ウェルプレートの各ウェルに播種した。次いで、6ウェルプレートを左右に5回振り、37℃及びCO2濃度5%のインキュベーター内に入れて培養を行った。
【0203】
5日間培養後の細胞数をNucleoCounter NC-3000(エムエステクノシステムズ社製)を用いてカウントした。以下の算出方法に従って倍加時間を算出し、細胞の増殖性を以下の基準で判定した。
【0204】
<倍加時間の算出方法>
X=log2÷{log(N(5))-log(N(0))}×T
X:倍加時間(時間)
N(0):播種された細胞数(cells)
N(5):播種5日後の細胞数(cells)
T:培養時間(時間)
なお、5日間培養のため、T=120である。
【0205】
例えば、播種5日後の細胞数が65000cells、播種された細胞数が20000cellsである場合、倍加時間(X)は、log2÷(log65000-log20000)×120≒70時間である。
【0206】
<細胞培養評価(細胞の増殖性)の判定基準>
AA:倍加時間(X)が24時間未満
A:倍加時間(X)が24時間以上28時間未満
B:倍加時間(X)が28時間以上36時間未満
C:倍加時間(X)が36時間以上
【0207】
詳細及び結果を下記の表1~5に示す。
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
【0212】
【配列表】