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特開2024-121042熱可塑性ポリエステル樹脂組成物、成形品および熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121042
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリエステル樹脂組成物、成形品および熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20240830BHJP
   C08K 3/016 20180101ALI20240830BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240830BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20240830BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K3/016
C08K3/22
C08K5/13
C08K5/521
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027891
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮本 皓平
(72)【発明者】
【氏名】東城 裕介
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC122
4J002CC042
4J002CF031
4J002CF051
4J002CF061
4J002CF071
4J002CF081
4J002CF141
4J002DE076
4J002DL008
4J002EW047
4J002FA048
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD018
4J002FD037
4J002FD090
4J002FD130
4J002FD160
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】水酸化マグネシウムを含有していながらも優れた低ガス性を示し、低そり性に優れる成形品を得ること。
【解決手段】(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)水酸化マグネシウムを10~200重量部、(C)フェノール性水酸基を有する化合物を8~50重量部、ならびに(D)モノアルキルアシッドホスフェートおよびジアルキルアシッドホスフェートから選択される少なくともいずれかを含む酸性リン酸エステル化合物を0.5~8重量部配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)水酸化マグネシウムを10~200重量部、(C)フェノール性水酸基を有する化合物を8~50重量部、ならびに(D)モノアルキルアシッドホスフェートおよびジアルキルアシッドホスフェートから選択される少なくともいずれかを含む酸性リン酸エステル化合物を0.5~8重量部配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対する、(B)水酸化マグネシウムの重量部と(C)フェノール性水酸基を有する化合物の重量部の比が(B)/(C)=1.0~10.0である請求項1に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)水酸化マグネシウムのレーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D50)が10~100μmである請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
【請求項5】
前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と(B)水酸化マグネシウムとを異なる供給口から投入して溶融混練する請求項1または2に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物、それを成形してなる成形品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、その優れた射出成形性や機械物性などの諸特性を生かし、機械機構部品、電気・電子部品、自動車部品などの幅広い分野に利用されている。さらに、機械強度や寸法安定性等の特性の向上、付与のため種々の充填剤を配合することがあり、その中でも水酸化マグネシウムは、形状や分散性に起因する補強効果に優れ、また安価であり、かつ人体、環境への安全性が高いといった諸特性からポリアリーレンスルフィド樹脂やポリアミド樹脂などに用いられている(例えば特許文献1)。しかし、熱可塑性ポリエステル樹脂に対しては、水酸化マグネシウムのアルカリ性に起因する熱可塑性ポリエステル樹脂の分解作用があるため、その使用が限定されていた。そのなかでも水酸化マグネシウムを適用した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物としては、酸トラップ剤として少量配合する熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(例えば特許文献2)や、水酸化マグネシウムの表面処理により加工時の分解を抑制した熱可塑性ポリエステル樹脂組成物(例えば特許文献3、4)や、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物と難燃助剤により高い難燃性を備えたポリ乳酸樹脂組成物(例えば特許文献5)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-145006号公報
【特許文献2】特開2002―294050号公報
【特許文献3】特開2007-45952号公報
【特許文献4】特開2007-261923号公報
【特許文献5】特開2011-32432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、熱可塑性ポリエステル樹脂に水酸化マグネシウムを適用するに際し、特許文献2~5に開示されている発明では、水酸化マグネシウムによる熱可塑性ポリエステル樹脂の分解は、ある程度改善されるものの十分ではなく、生じる分解ガスによって射出成形時の金型の汚れや、成形品の外観不良が生じる場合があった。また、熱可塑性ポリエステル樹脂の分解に伴う強度の低下の結果、得られる成形品の剛性が低下し、成形品のそりが生じてしまうといった課題があった。
【0005】
本発明は、充填剤として水酸化マグネシウムを使用しながらも熱可塑性ポリエステル樹脂の分解を抑制し、成形時におけるガスの発生を抑制し(低ガス性)、反りの小さい(低そり性)成形品を得ることのできる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物、成形品および熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した課題を解決するために検討を重ねた結果、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)水酸化マグネシウムを10~200重量部、(C)フェノール性水酸基を有する化合物を8~50重量部、ならびに(D)特定構造の酸性リン酸エステルを0.5~8重量部を配合することにより、上記した課題を解決できることを見出し、本発明に達した。すなわち本発明は、以下の構成を有する。
[1](A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)水酸化マグネシウムを10~200重量部、(C)フェノール性水酸基を有する化合物を8~50重量部、ならびに(D)モノアルキルアシッドホスフェートおよびジアルキルアシッドホスフェートから選択される少なくともいずれかを含む酸性リン酸エステル化合物を0.5~8重量部配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[2]前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対する、(B)水酸化マグネシウムの重量部と(C)フェノール性水酸基を有する化合物の重量部の比が(B)/(C)=1.0~10.0である[1]に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[3]前記(B)水酸化マグネシウムのレーザー回折散乱法により測定した平均粒子径(D50)が10~100μmである[1]または[2]に記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
[5]前記(A)熱可塑性ポリエステル樹脂と(B)水酸化マグネシウムとを異なる供給口から投入して溶融混練する[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は熱可塑性ポリエステル樹脂の分解が抑制されることから、低ガス性、低そり性に優れた成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物について、詳細に説明する。
【0009】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂(以下、(A)成分と略記することがある。)100重量部に対して、(B)水酸化マグネシウム(以下、(B)成分と略記することがある。)を10~200重量部、(C)フェノール性水酸基を有する化合物(以下、(C)成分と略記することがある。)を8~50重量部、ならびに(D)モノアルキルアシッドホスフェートおよびジアルキルアシッドホスフェートから選択される少なくともいずれかを含む酸性リン酸エステル化合物(以下、(D)成分や、(D)特定構造の酸性リン酸エステルと略記することがある。)を0.5~8重量部を配合してなる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物である。
【0010】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、(B)水酸化マグネシウムを配合することで、そのアルカリ性によりエステル結合が分解し、分解ガス発生量の増加や、剛性の低下に伴う成形品そり性の悪化が生じてしまう。本発明では、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、(B)水酸化マグネシウムを10~200重量部、(C)フェノール性水酸基を有する化合物8~50重量部、ならびに(D)モノアルキルアシッドホスフェートおよびジアルキルアシッドホスフェートから選択される少なくともいずれかを含む酸性リン酸エステル化合物を0.5~8重量部を配合する。それにより、溶融混練時にアルカリ性の水酸化マグネシウムの表面がフェノール性水酸基を有する化合物および特定構造の酸性リン酸エステルで保護されることで、熱可塑性ポリエステル樹脂との接触が抑制されるため、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の分解を抑制することができ、得られる成形品の優れた低ガス性、低そり性が達成できる。
【0011】
ここで、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分がそれぞれ他の成分と反応した反応物を含むが、当該反応物は複雑な反応により生成されたものであり、その構造を特定することは実際的でない事情が存在する。したがって、本発明は配合する成分により発明を特定するものである。
【0012】
本発明で用いられる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、(1)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体、(2)ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、および(3)ラクトンからなる群より選択される少なくとも一種の残基を主構造単位とする重合体または共重合体である。ここで、「主構造単位とする」とは、全構造単位中(1)~(3)からなる群より選択される少なくとも一種の残基を50モル%以上有することを指し、それらの残基を80モル%以上有することが好ましい態様である。これらの中でも、(1)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体が、機械物性や耐熱性により優れる点で好ましい。
【0013】
上記のジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0014】
また、上記のジオールまたはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなどの炭素数2~20の脂肪族または脂環式グリコール、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの分子量200~100,000の長鎖グリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどの芳香族ジオキシ化合物およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0015】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を構造単位とする重合体または共重合体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリプロピレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/サクシネート、ポリプロピレンテレフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/アジペート、ポリプロピレンテレフタレート/セバケート、ポリブチレンテレフタレート/セバケート、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/サクシネート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/セバケートなどの芳香族ポリエステル樹脂などが挙げられる。ここで、「/」は共重合体を表す。
【0016】
これらの中でも、機械物性および耐熱性をより向上させる観点から、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体がより好ましく、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基とエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールから選ばれる脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体がさらに好ましい。
【0017】
中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレートおよびポリブチレンテレフタレート/ナフタレートなどの芳香族ポリエステル樹脂が特に好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、およびポリブチレンナフタレートがより好ましく、成形性や結晶性に優れる点でポリブチレンテレフタレートがさらに好ましい。また、これら2種以上を任意の含有量で用いることもできる。
【0018】
本発明において、上記のジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基とジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体を構成する全ジカルボン酸に対するテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体の割合は、30モル%以上であることが好ましく、より好ましくは40モル%以上である。
【0019】
本発明において、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂として、溶融時に異方性を形成し得る液晶性ポリエステル樹脂を用いることができる。液晶性ポリエステル樹脂の構造単位としては、例えば、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位および芳香族イミノオキシ単位などが挙げられる。
【0020】
本発明で用いられる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、低ガス性をより向上させる点で、重量平均分子量(Mw)が8,000以上であることが好ましい。また、重量平均分子量(Mw)が500,000以下の場合、流動性が向上し、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の成形品の低そり性が向上できるため、好ましい。より好ましくは300,000以下であり、さらに好ましくは250,000以下である。
【0021】
本発明で用いられる(A)熱可塑性ポリエステル樹脂は、公知の重縮合法や開環重合法などにより製造することができる。製造方法は、バッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応のいずれでも適用することができるが、生産性の観点から、連続重合が好ましく、また、直接重合がより好ましく用いられる。また、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に重合反応触媒を添加することが好ましい。
【0022】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、低ガス性を保持しながら得られる成形品の低そり性を向上させるために、(B)水酸化マグネシウムを配合する。
【0023】
本発明における水酸化マグネシウムの純度は、Mg(OH)の化学式で示される化合物を、その配合量のうち80重量%以上配合していることが好ましく、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上である。水酸化マグネシウムは、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化マグネシウムや酸化カルシウム、鉄、ナトリウム等の化合物といった原料や製造工程に起因する不純物を含有していてもよい。
【0024】
本発明における水酸化マグネシウムの製造方法は、海水、苦汁等と塩基性水溶液との反応や、酸化マグネシウムの水和反応による合成であっても、天然鉱石であるブルーサイトの乾燥粉砕、湿式粉砕であってもよい。
【0025】
本発明における水酸化マグネシウムは市販品として、協和化学工業(株)製の“キスマ”5シリーズや、タテホ化学工業(株)製の“MAGSTAR”、(株)ファイマテック製の“ジュンマグシリーズ”などが挙げられる。
【0026】
本発明における(B)水酸化マグネシウムの、レーザー回折散乱法を用いたD50として求められる平均粒子径は、10~100μmであることが好ましい。一般的に水酸化マグネシウムを樹脂組成物に配合する場合は、水酸化マグネシウムを微分散させることによる強度向上等のために、その平均粒子径を1μm程度と小さくすることが多いが、本発明においては熱可塑性ポリエステル樹脂の分解抑制と機械強度の観点から、上記範囲の平均粒子径の水酸化マグネシウムを適用することが好ましい。平均粒子径が10μm以上であることで、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の分解が抑制されるため好ましい。11μm以上がより好ましい。一方、平均粒子径が100μm以下である場合、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の成形品の低そりに優れるため好ましい。75μm以下がより好ましく、50μm以下がより好ましい。
【0027】
本発明における(B)水酸化マグネシウムは、表面処理が施されていてもよい。表面処理を施すことで水酸化マグネシウムと(C)フェノール性水酸基を有する化合物、(D)特定構造の酸性リン酸エステルとの反応性を向上させることができる。表面処理としては、高級脂肪酸およびその金属塩やシランカップリング剤、(D)成分を除くリン酸エステル、シリコンオイルなどが挙げられる。
【0028】
本発明における(B)水酸化マグネシウムは1種のみを使用してもよく、純度、平均粒子径、表面処理等の異なる2種以上の水酸化マグネシウムを併用してもよい。
【0029】
本発明における(B)水酸化マグネシウムの配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、10~200重量部である。水酸化マグネシウムの配合量が10重量部未満の場合、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の成形品の低そり性が低下する。好ましくは12重量部以上であり、より好ましくは15重量部以上である。一方、水酸化マグネシウムの配合量が200重量部を超えると、発生ガス量の増加が生じる。好ましくは170重量部以下であり、より好ましくは150重量部以下である。
【0030】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(B)水酸化マグネシウムを配合しながら低ガス性、低そり性を向上させるために、(C)フェノール性水酸基を有する化合物を配合する。(C)フェノール性水酸基を有する化合物を配合することで、(B)水酸化マグネシウム表面の官能基と相互作用し、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の(B)成分の分散性が向上して低そり性が向上する。また、(C)フェノール性水酸基を有する化合物と(B)水酸化マグネシウムとの反応により、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の分解が抑制されることで低ガス性が向上する。(C)フェノール性水酸基を有する化合物を配合しない場合では、後述する(D)成分のみでの(A)熱可塑性ポリエステル樹脂の分解の抑制が不十分であり、本発明の効果を奏しない。
【0031】
本発明における(C)フェノール性水酸基を有する化合物は、分子内に少なくとも一つの芳香環とその芳香環に結合する少なくとも一つの水酸基であるフェノール性水酸基を有する化合物であり、モノマーであっても、ポリマーであってもよい。なかでも熱可塑性ポリエステル樹脂の分解抑制の観点から、分子内にフェノール性水酸基を2個以上有することが好ましい。また、ポリマーであることが好ましい。ここでポリマーとは1種以上の構造のモノマーを繰り返し単位とした構造を有する化合物であり、その重量平均分子量が500以上の化合物である。
【0032】
なかでも、フェノール樹脂やポリビニルフェノールが好ましく、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂、ポリパラヒドロキシスチレン等が挙げられる。
【0033】
本発明における(C)フェノール性水酸基を有する化合物は、1種のみを使用してもよく、2種以上の異なる種類を併用してもよい。
【0034】
本発明における(C)フェノール性水酸基を有する化合物の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、8~50重量部である。フェノール性水酸基を有する化合物の配合量が8重量部未満の場合、熱可塑性ポリエステル樹脂の分解が抑制されず、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の低そり性、低ガス性が悪化する。好ましくは9重量部以上である。一方、フェノール性水酸基を有する化合物の配合量が50重量部を超えると、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物のガス発生量が増加する。好ましくは40重量部以下であり、より好ましくは30重量部以下である。
【0035】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物における、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対する、(B)水酸化マグネシウムの重量部、および(C)フェノール性水酸基を有する化合物の重量部の比は、(B)成分を(C)成分が保護する構造をとり、その結果熱可塑性ポリエステル樹脂の分解が抑制されるのであれば特に制限はないが、(B)/(C)=1.0~10.0の範囲であることが好ましい。低そり性の向上の観点から(B)/(C)=1.5以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。一方、低そり性、低ガス性の観点から(B)/(C)=6.0以下がより好ましく、4.0以下がさらに好ましい。
【0036】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(B)水酸化マグネシウムの(C)フェノール性水酸基を有する化合物による保護をより効率的に行うため、(D)モノアルキルアシッドホスフェートおよびジアルキルアシッドホスフェートから選択される少なくともいずれかを含む酸性リン酸エステルを配合する。
【0037】
本発明における(D)モノアルキルアシッドホスフェートおよびジアルキルアシッドホスフェートから選択される少なくともいずれかを含む酸性リン酸エステルとは、脂肪族アルコール類とリン酸との部分エステル化合物の総称であり、リン酸の水素をアルキル基で一部を置換した、水酸基を持つ化合物を含む。(D)モノアルキルアシッドホスフェートおよびジアルキルアシッドホスフェートから選択される少なくともいずれかを含む酸性リン酸エステルの具体例としては、モノメチルアシッドホスフェート、モノエチルアシッドホスフェート、モノイソプロピルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスフェート、モノラウリルアシッドホスフェート、モノステアリルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノベヘニルアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジベヘニルアシッドホスフェート、トリメチルアシッドホスフェート、トリエチルアシッドホスフェート、および前記のモノアルキルアシッドホスフェートとジアルキルアシッドホスフェートの混合物、モノアルキルアシッドホスフェート、ジアルキルアシッドホスフェートおよびトリアルキルアシッドホスフェートの混合物や前記化合物の一種以上の混合物が挙げられる。好ましくは、モノステアリルアシッドホスフェートおよびジステアリルアシッドホスフェートの混合物などの長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物が挙げられる。その市販品としては、(株)ADEKA製“アデカスタブ”AX-71などが挙げられる。
【0038】
本発明における(D)モノアルキルアシッドホスフェートおよびジアルキルアシッドホスフェートから選択される少なくともいずれかを含む酸性リン酸エステルは、1種のみを使用してもよく、2種以上の異なる種類を併用してもよい。
【0039】
本発明における(D)モノアルキルアシッドホスフェートおよびジアルキルアシッドホスフェートから選択される少なくともいずれかを含む酸性リン酸エステルの配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して、0.5~8重量部である。モノアルキルアシッドホスフェートおよびジアルキルアシッドホスフェートから選択される少なくともいずれかを含む酸性リン酸エステルの配合量が0.5重量部未満であると、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の低ガス性、低そり性が悪化する。好ましくは0.8重量部以上であり、より好ましくは1重量部以上である。一方、モノアルキルアシッドホスフェートおよびジアルキルアシッドホスフェートから選択される少なくともいずれかを含む酸性リン酸エステルの配合量が8重量部以上であると低ガス性が悪化する。好ましくは7重量部以下であり、より好ましくは6重量部以下である。
【0040】
本発明における(C)フェノール性水酸基を有する化合物の重量部、および(D)モノアルキルアシッドホスフェートおよびジアルキルアシッドホスフェートから選択される少なくともいずれかを含む酸性リン酸エステルの重量部は、(B)水酸化マグネシウムを効率的に保護するため、(C)成分の方が多いことを特徴とする。(C)成分の方が少ない場合は、未反応の(C)成分の存在、および過剰となった(D)成分の存在による低ガス性の悪化、低そり性の悪化が生じる。
【0041】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、さらに(E)ガラス繊維を配合することが好ましい。(E)ガラス繊維を配合するにより、機械強度と耐熱性をより向上させることができる。
【0042】
(E)ガラス繊維の具体例としては、チョップドストランドタイプやロービングタイプのガラス繊維が挙げられ、アミノシラン化合物やエポキシシラン化合物などのシランカップリング剤および/またはウレタン、アクリル酸/スチレン共重合体などのアクリル酸からなる共重合体、アクリル酸メチル/メタクリル酸メチル/無水マレイン酸共重合体などの無水マレイン酸からなる共重合体、酢酸ビニル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルやノボラック系エポキシ化合物などの一種以上のエポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が好ましく用いられる。エポキシ化合物などを含有した集束剤で処理されたガラス繊維が、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂との反応性に優れ、得られる熱可塑性ポリエステル樹脂組成物の機械特性、耐熱性に優れる点から、さらに好ましい。シランカップリング剤および/または集束剤はエマルジョン液に混合されて使用されていてもよい。また、ガラス繊維の繊維径は通常1~30μmの範囲が好ましい。ガラス繊維の樹脂中の分散性の観点から、その下限値は好ましくは5μmである。機械強度の観点からその上限値は好ましくは15μmである。また、前記の繊維断面は通常円形状であるが、任意の縦横比の楕円形ガラス繊維、扁平ガラス繊維およびまゆ型形状ガラス繊維など任意の断面を持つガラス繊維を用いることもでき、射出成形時の流動性向上と、ソリの少ない成形品が得られる特徴がある。
【0043】
本発明における(E)ガラス繊維の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対して5~150重量部が好ましい。(E)ガラス繊維を5重量部以上配合することにより、機械強度と耐熱性をより向上させることができるため好ましい。10重量部以上がより好ましく、15重量部以上がさらに好ましい。一方、(E)ガラス繊維を150重量部以下配合することにより、流動性をより向上させることができるため好ましい。130重量部以下がより好ましく、110重量部以下がさらに好ましい。
【0044】
また、本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(B)成分および上記のガラス繊維以外の無機充填材として、ガラスフレーク、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムの混合物、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウムおよび酸化ケイ素を配合してもよい。それにより機械強度等の更なる特性を付与することができる。また、本発明に使用する無機充填材は、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、(A)成分および(C)成分以外の熱可塑性樹脂を配合してもよく、成形性、寸法精度、成形収縮および靭性などを向上させることができる。(A)成分および(C)成分以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂、芳香族または脂肪族ポリケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、熱可塑性澱粉樹脂、ポリウレタン樹脂、芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などを挙げることができる。なお、(A)成分または(C)成分以外の熱可塑性樹脂を配合する場合、熱可塑性ポリエステル樹脂組成物中の熱可塑性樹脂種の中で、(A)成分の割合が最も多いことが好ましい。
【0046】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、難燃剤を配合することができる。難燃剤としては、例えば、臭素系難燃剤などのハロゲン系難燃剤、(D)成分を除くリン系難燃剤、トリアジン系化合物とシアヌール酸またはイソシアヌール酸との塩、シリコーン系難燃剤および(B)成分を除く無機系難燃剤などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0047】
難燃剤の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、1~50重量部が好ましい。難燃性の観点から、5重量部以上がより好ましく、耐熱性の観点から40重量部以下がより好ましい。
【0048】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、離型剤を配合することができ、溶融加工時に金型からの離型性をよくすることができる。離型剤としては、モンタン酸やステアリン酸などの高級脂肪酸エステル系ワックス、ポリオレフィン系ワックス、エチレンビスステアロアマイド系ワックスなどが挙げられる。
【0049】
離型剤の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.01~1重量部が好ましい。離型性の観点から、0.03重量部以上がより好ましく、耐熱性の観点から0.6重量部以下がより好ましい。
【0050】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、さらにカーボンブラック、酸化チタンおよび種々の色の顔料や染料を1種以上配合することができ、種々の色への調色や、耐候(光)性および導電性を改良することも可能である。
【0051】
これらカーボンブラック、酸化チタンおよび種々の色の顔料や染料は、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、ポリオール、およびシランカップリング剤などで処理されていてもよい。また、本発明の樹脂組成物における分散性向上や製造時のハンドリング性の向上のため、種々の熱可塑性樹脂と溶融ブレンドあるいは単にブレンドした混合材料として用いてもよい。
【0052】
顔料や染料の配合量は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂100重量部に対し、0.01~3重量部が好ましい。着色ムラ防止の観点から、0.03重量部以上がより好ましく、機械強度の観点から1重量部以下がより好ましい。
【0053】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、結晶核剤、可塑剤、難燃助剤、および帯電防止剤などの任意の添加剤を1種以上配合してもよい。
【0054】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、前記(A)~(D)成分、および必要に応じて(E)成分やその他の成分を溶融混練することにより得ることができる。
【0055】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、(A)成分の分解を抑制し、本発明の効果を奏するために(A)成分と(B)成分との反応を制御することが重要である。そのための溶融混練方法は、具体的には、(A)~(D)成分、必要に応じて(E)成分やその他添加剤を一括で、(A)成分の融点近傍といった低温で溶融混練する方法や、(B)~(D)成分、必要に応じてその他添加剤を溶融混練し第一の樹脂組成物を得、その第一の樹脂組成物と(A)成分と必要に応じて(E)成分やその他添加剤とを溶融混練する方法、(B)~(D)成分をミキサー等により混合することで(B)~(D)成分の反応が促進しやすくされた処理粉体を、(A)成分と必要に応じて(E)成分やその他添加剤と溶融混練する方法、(A)成分と(B)成分とを異なる供給口から投入して、(C)および(D)成分、必要に応じて(E)成分やその他添加剤と溶融混練する方法等によって熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を得ることが挙げられる。
【0056】
特に、(A)成分と(B)成分の反応による(A)成分の分解を抑制する観点から、(A)成分と(B)成分とを異なる供給口から投入して溶融混練する方法が好ましい。この場合、(B)成分が(C)および(D)成分により保護されやすく(A)成分の分解が抑制されることから、(B)成分、(C)成分および(D)成分を同一の供給口から投入して、(A)成分を異なる供給口から投入して溶融混練することがより好ましい。この方法は、(A)成分を元込フィーダーから投入して溶融混練した後に、(B)~(D)成分をサイドフィーダーから投入して溶融混練する方法、(B)~(D)成分を元込フィーダーから投入して溶融混練した後に、(A)成分をサイドフィーダーから投入して溶融混練する方法のいずれでもよい。
【0057】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物は、ペレット化してから成形加工することが好ましい。ペレット化の方法として、例えば“ユニメルト”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機およびニーダータイプの混練機などを用いて、ストランド状に吐出され、ストランドカッターでカッティングする方法が挙げられる。
【0058】
本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物を溶融成形することにより、フィルム、繊維およびその他各種形状の成形品を得ることができる。溶融成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形およびブロー成形などが挙げられ、射出成形が特に好ましく用いられる。
【0059】
射出成形の方法としては、通常の射出成形方法以外にもガスアシスト成形、2色成形、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形などが知られているが、いずれの成形方法も適用できる。
【0060】
本発明の成形品は、機械機構部品、電気部品、電子部品および自動車部品の成形品として用いることができる。また、本発明の成形品は、低ガス性や低そり性に優れる特徴を活かして、特に電気電子部品に有用である。
【0061】
機械機構部品、電気部品、電子部品および自動車部品の具体的な例としては、ブレーカー、電磁開閉器、フォーカスケース、フライバックトランス、複写機やプリンターの定着機用成形品、一般家庭電化製品、OA機器などのハウジング、バリコンケース部品、各種端子板、変成器、プリント配線板、ハウジング、端子ブロック、コイルボビン、コネクター、リレー、ディスクドライブシャーシー、スイッチ部品、コンセント部品、モーター部品、ソケット、プラグ、コンデンサー、各種ケース類、抵抗器、金属端子や導線が組み込まれる電気・電子部品、コンピューター関連部品、音響部品などの音声部品、照明部品、電信機器関連部品、電話機器関連部品、エアコン部品、VTRやテレビなどの家電部品、複写機用部品、ファクシミリ用部品、光学機器用部品、自動車点火装置部品、自動車用コネクター、および各種自動車用電装部品などが挙げられる。
【実施例0062】
次に、実施例により本発明の熱可塑性ポリエステル樹脂組成物についての効果を、具体的に説明する。実施例および比較例に用いられる原料を次に示す。ここで%および部とは、すべて重量%および重量部を表す。
【0063】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂
<A-1>ポリブチレンテレフタレート樹脂:東レ(株)製、ポリブチレンテレフタレート樹脂(融点225℃)を用いた。
【0064】
(B)水酸化マグネシウム
<B-1>表面未処理水酸化マグネシウム:(株)ファイマテック製ジュンマグシリーズBF(平均粒子径=12μm)を用いた。
<B-2>表面未処理水酸化マグネシウム:(株)ファイマテック製ジュンマグシリーズ4N(平均粒子径=4μm)を用いた。
<B-3>表面処理水酸化マグネシウム:協和化学工業(株)製“キスマ”(登録商標)5E(平均粒子径=0.8μm)を用いた。
【0065】
(C)フェノール性水酸基を有する化合物
<C-1>フェノールノボラック樹脂:ノボラック型フェノール樹脂、DIC(株)社製“フェノライト”TD-2090を用いた。
<C-2>ポリビニルフェノール樹脂:ポリパラヒドロキシスチレン、丸善石油化学(株)社製、“マルカリンカーM”S-P2を用いた。
【0066】
(D)特定構造の酸性リン酸エステル
<D-1>長鎖アルキルアシッドホスフェート化合物:ADEKA(株)製“アデカスタブ” (登録商標)AX-71を用いた。
【0067】
(E)ガラス繊維
<E-1>ガラス繊維:日本電気硝子(株)製ガラス繊維ECS03T―187を用いた。
【0068】
[各特性の測定方法]
実施例、比較例においては、次に記載する測定方法によって、その特性を評価した。
【0069】
(1)低ガス性(ガス発生量)
試料の樹脂組成物を、アルミカップに10g計量(計量した重量をW(g)とする)し、ESPEC製熱風オーブンPHH202を用いて、270℃の大気圧下の熱風オーブン中に置き、30分加熱処理を行った後の重量(計量した重量をW(g)とする)を求めた。加熱処理前の試料の樹脂組成物の重量に対する加熱処理前後の試料の樹脂組成物の重量の差の割合(ガス発生量(重量%):(W-W)/W×100)を求めた。発生ガス量が少ないほど低ガス性に優れると判断した。
【0070】
(2)低そり性
日精樹脂工業製NEX1000射出成形機を用いて、成形温度260℃、金型温度80℃の温度条件で、射出時間と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間10秒の射出成形条件で、縦80mm×横80mm×厚み1mmの角板を得た。得られた角板のいずれか一点の角を定盤上で押さえた際の、対角の定盤に対する浮き上がり量をそり量として評価した。そり量が小さいほど低そり性に優れると評価した。
【0071】
[実施例1~13]、[比較例1~7]
スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)を用いて、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂を二軸押出機の元込め部から添加し、(B)水酸化マグネシウム、(C)フェノール性水酸基を有する化合物、ならびに(D)特定構造の酸性リン酸エステルを表1、および2に示した組成で混合し、二軸押出機の元込め部とベント部の途中に設置した第一サイドフィーダーから添加した。なお、(E)ガラス繊維は、元込め部とベント部の途中に第一サイドフィーダーよりも下流に第二サイドフィーダーを設置して添加した。混練温度250℃、スクリュー回転200rpmの押出条件で溶融混合を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターによりペレット化した。
【0072】
[実施例14]
表2に示した組成で(A)~(D)成分を混合し、二軸押出機の元込め部から添加した以外は上記と同じ条件で溶融混合を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターによりペレット化した。
【0073】
得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥後、前記方法で評価し、表1、および2にその結果を示した。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
実施例と比較例の比較より、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)水酸化マグネシウム、(C)フェノール性水酸基を有する化合物、および(D)特定構造の酸性リン酸エステルの配合量を特定の範囲とすることで、低ガス性、低そり性に優れる材料が得られた。