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特開2024-12106消火材用組成物及びその製造方法、消火材、バインダの選定方法、並びに、自動消火機能を有する装置
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  • 特開-消火材用組成物及びその製造方法、消火材、バインダの選定方法、並びに、自動消火機能を有する装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012106
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】消火材用組成物及びその製造方法、消火材、バインダの選定方法、並びに、自動消火機能を有する装置
(51)【国際特許分類】
   A62D 1/00 20060101AFI20240118BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240118BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240118BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240118BHJP
   A62C 35/10 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
A62D1/00
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/63
A62C35/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098726
(22)【出願日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2022113814
(32)【優先日】2022-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】本庄 悠朔
(72)【発明者】
【氏名】掛川 駿太
(72)【発明者】
【氏名】椎根 康晴
(72)【発明者】
【氏名】黒川 真登
【テーマコード(参考)】
2E189
2E191
4J038
【Fターム(参考)】
2E189BA07
2E191AA06
2E191AB11
2E191AB22
2E191AB32
2E191AB51
4J038EA001
4J038HA246
4J038JC30
4J038JC35
4J038KA04
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA09
4J038NA14
4J038NA15
4J038PB09
(57)【要約】
【課題】発火初期の段階で優れた消火能力を発揮し得る消火材用組成物を提供する。
【解決手段】有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、バインダとを含有する消火材用組成物であって、大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃までバインダを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでのバインダの重量減少率が30%以上である、消火材用組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、バインダとを含有する消火材用組成物であって、
大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで前記バインダを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの前記バインダの重量減少率が30%以上である、消火材用組成物。
【請求項2】
有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、第一のバインダと、第二のバインダとを含有する消火材用組成物であって、
大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで前記第一のバインダを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの前記第一のバインダの重量減少率が50%以上であり、
大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで前記第二のバインダを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの前記第二のバインダの重量減少率が15%以下であり、
前記第一のバインダの質量を100部としたとき、前記第二のバインダの質量が250部以下である、消火材用組成物。
【請求項3】
前記第二のバインダが酸無水物基を有する化合物である、請求項2に記載の消火材用組成物。
【請求項4】
前記第二のバインダがカルボン酸無水物基と、アルコキシシリル基とを有するシランカップリング剤である、請求項2に記載の消火材用組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の消火材用組成物を含む、消火材。
【請求項6】
請求項5に記載の消火材を備える、自動消火機能を有する装置。
【請求項7】
有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、バインダとを含有する消火材用組成物に使用されるバインダの選定方法であって、
大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで、評価対象のバインダを加熱し、温度が400℃に到達するまでの当該バインダの重量減少率を測定する工程と、
前記重量減少率が30%以上であるバインダについて、良好な初期消火性を発現する消火材用組成物を調製し得ると判断する工程と、
を含む、バインダの選定方法。
【請求項8】
請求項7に記載のバインダの選定方法において、良好な初期消火性を発現する消火材用組成物を調製し得ると判断されるバインダを準備する工程と、
前記バインダと、有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤とを含む消火材用組成物を調製する工程と、
を含む、消火材用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、消火材用組成物及びその製造方法、消火材、消火材用のバインダの選定方法、並びに、自動消火機能を有する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テクノロジーの進歩に伴い、我々の暮らしはますます快適になっている。一方、その快適性を生むための大量のエネルギーが必要となり、それを高密度に充填し蓄える、移動する、使用する等、各々のシーンで高い安全性が必要となる。
【0003】
自動車を例にとると、ガソリンに代表される化石燃料を採掘するシーン、化石燃料からガソリンを精製するシーン、運搬するシーン等で、発火や火災の危険が潜んでいる。また、エレクトロニクスを例にとると、電線を通じて電気エネルギーを移動させる際、変電所や変圧器にて電気エネルギーの調整を行う際、電気エネルギーを家庭や工場の電気機器にて使用する際、又は一時的に蓄電池に備える際等において、同様に発火や火災の危険が潜んでいる。
【0004】
上記の発火や火災の問題に対し、特許文献1では消火液及び消火器、特許文献2ではヘリコプターから投下する自動消火装置、特許文献3ではエアロゾル消火装置、特許文献4では消火剤を含む消火シートを用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-276440号公報
【特許文献2】特開2015-6302号公報
【特許文献3】特開2017-080023号公報
【特許文献4】特開2020-81809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~4に記載の技術はいずれも、ある程度の時間が経過した後の火災への対処方法を提案するものである。一方、火災による被害を最小限に抑えるという観点からは、発火から間もない段階で何らかの消火作業(初期消火)が行われることが望ましい。そこで、例えば消火剤の成分自体を、発火するおそれのある対象物付近に予め存在させておくという方法が考えられる。そうすることで、対象物から発火したことを人間が感知する以前に、当該消火剤の成分により消火が完了することが期待される。しかしながら、消火剤を対象物付近に散布しておくことは現実的ではなく、適度に取り扱い性のある形状で対象物付近に設けておく必要がある。
【0007】
特許文献4では、消火剤が封入されたマイクロカプセルを、水溶性樹脂と硬化剤からなるインキに混ぜ合わせて繊維に練り込んで板状に固化して形成される消火性シートが提案されている。しかしながら、本発明者らの検討によると、発火初期における小さな火種を想定した場合、上記消火性シートでは反応性が十分でなく、消火性シートが反応しない場合が生じ得る。また、火種からの熱により、一部マイクロカプセルに破裂が生じ消火剤が放出されたとしても、火がシートに燃え広がらず十分な消火剤が放出されないことが想定される。
【0008】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、発火初期の段階で優れた消火能力を発揮し得る消火材用組成物及びその製造方法、消火材用組成物を用いた消火材及び当該消火材を備える自動消火機能を有する装置を提供する。本開示はまた、消火材に優れた初期消火能力を付与し得るバインダの選定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一側面は、有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、バインダとを含有する消火材用組成物に関する。この消火材用組成物は以下の要件を満たすものである。すなわち、大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃までバインダを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでのバインダの重量減少率が30%以上である。このような消火材用組成物は、発火初期の消火能力に優れる。
【0010】
本開示の一側面は、有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、第一のバインダと、第二のバインダとを含有する消火材用組成物に関する。この消火材用組成物は以下の要件を満たすものである。すなわち、大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで第一のバインダを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの第一のバインダの重量減少率が50%以上である。大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで第二のバインダを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの第二のバインダの重量減少率が15%以下である。第一のバインダの質量を100部としたとき、第二のバインダの質量が250部以下である。このような消火材用組成物によれば、発火初期の消火能力に優れると共に、第二のバインダの種類に応じて、基材密着性の向上、加工性の向上、潮解性の抑制、タック性の低減、ロールtоロール塗工適性の向上など所望の物性を得ることができる。
【0011】
上記第二のバインダは、酸無水物基を有する化合物であってもよい。上記第二のバインダは、カルボン酸無水物基と、アルコキシシリル基とを有するシランカップリング剤であってもよい。このような第二のバインダを含む消火材用組成物は、発火初期の消火能力に優れると共に、塩の潮解を抑制することができる。
【0012】
本開示の一側面は上記消火材用組成物を含む消火材に関する。本開示の一側面は自動消火機能を有する装置であって上記消火材を備えるものに関する。
【0013】
本開示の一側面は、有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、バインダとを含有する消火材用組成物に使用されるバインダの選定方法に関する。この方法は、大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで、評価対象のバインダを加熱し、温度が400℃に到達するまでの当該バインダの重量減少率を測定する工程と、上記重量減少率が30%以上であるバインダについて、良好な初期消火性を発現する消火材用組成物を調製し得ると判断する工程と、を含む。
【0014】
本開示の一側面は消火材用組成物の製造方法に関する。この製造方法は、上記バインダの選定方法において、良好な初期消火性を発現する消火材用組成物を調製し得ると判断されるバインダを準備する工程と、当該バインダと、有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤とを含む消火材用組成物を調製する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、発火初期の段階で優れた消火能力を発揮し得る消火材用組成物及びその製造方法、消火材用組成物を用いた消火材及び当該消火材を備える自動消火機能を有する装置が提供される。また、本開示によれば、消火材に優れた初期消火能力を付与し得るバインダの選定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本開示に係る消火材の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
<第一実施形態>
[消火材用組成物]
本実施形態に係る消火材用組成物は、有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、バインダとを含有し、大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃までバインダを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでのバインダの重量減少率が30%以上である。
【0019】
(消火剤)
消火剤は、有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩と、酸化剤とを含む。有機塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらのうち、有機塩としてはカリウム塩を用いることが好ましい。有機カリウム塩としては、酢酸カリウム、クエン酸カリウム(クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム)、酒石酸カリウム、乳酸カリウム、シュウ酸カリウム、マレイン酸カリウム等のカルボン酸カリウム塩が挙げられる。なかでも、燃焼の負触媒効果に対する有用性の観点から、酢酸カリウム又はクエン酸カリウムを用いることが好ましい。
【0020】
無機塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩等が挙げられる。これらのうち、無機塩としてはカリウム塩を用いることが好ましい。無機カリウム塩としては、四硼酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、燐酸二水素カリウム、燐酸水素二カリウム等が挙げられる。
【0021】
有機塩及び無機塩は、それぞれ単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0022】
有機塩及び無機塩は粒状であってよい。有機塩及び無機塩の平均粒子径D50は1μm以上100μm以下であってもよく、また3μm以上40μm以下であってもよい。平均粒子径D50が上記下限以上であることで系中で分散し易く、また平均粒子径D50が上記上限以下であることで、塗液としたときの安定性が向上して塗工面の平滑性が向上する傾向がある。平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により算出することができる。
【0023】
酸化剤としては、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸ストロンチウム、塩素酸アンモニウム、塩素酸マグネシウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、塩基性硝酸銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、三酸化モリブデン等が挙げられる。なかでも、塩素酸カリウムを用いることが好ましい。
【0024】
消火材用組成物に含まれる消火剤の含有量は、消火材用組成物の全量を基準として、70~97質量%であってよく、85~92質量%であってもよい。消火剤の含有量が上記上限以下であることで、塩の潮解を抑制し易くかつ消火材用組成物の塗工適性が高まり製膜がし易く、また消火剤の含有量が上記下限以上であることで、十分な消火能力を発揮し易い。
【0025】
(バインダ)
バインダは、熱によって重量減少しやすいものであることが好ましい。すなわち、大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃までバインダを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでのバインダの重量減少率は30%以上である。上記重量減少率は、32%以上であってもよい。重量減少率が上記範囲内であることで、得られる消火材用組成物における発火初期の消火能力が優れる。なお、バインダの重量減少率は、バインダが複数ある場合、その混合物の重量減少率を意味する。この値の上限は、例えば、88%であり、46%又は32%であってもよい。
【0026】
消火材用組成物に適したバインダを選定するため、以下の選定方法を実施してもよい。すなわち、バインダの選定方法は、大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで、評価対象のバインダを加熱し、温度が400℃に到達するまでの当該バインダの重量減少率を測定する工程と、上記重量減少率が30%以上であるバインダについて、良好な初期消火性を発現する消火材用組成物を調製し得ると判断する工程とを含む。上記重量減少率の基準を32%以上としてもよい。
【0027】
バインダとしては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を使用できる。熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1-)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンコム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム(1,2-BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPR、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多加硫ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等のゴム類、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。上記樹脂のうち、一種を単独で使用してもよいし、複数種を併用してもよい。これらのうち、塗工適性の観点から、ポリウレタン樹脂又はポリビニルアルコール樹脂を使用することが好ましい。なお、バインダには、硬化剤成分が含まれていてよい。
【0028】
バインダの重量平均分子量は、5000以上であってもよく、20000以上であってもよく、また150000以下であってもよく、100000以下であってもよい。重量平均分子量が上記下限以上であることで、樹脂の疎水性を確保し易く、また重量平均分子量が上記上限以下であることで、適度な樹脂柔軟性を確保し易く、耐屈曲性や塗工適性が向上し易い。重量平均分子量は、GPC法により算出することができる。
【0029】
バインダのガラス転移温度は、特に制限はないが、-40℃以上であってもよく、55℃以上であってもよく、80℃以上であってもよく、また110℃以下であってもよく、100℃以下であってもよい。ガラス転移温度が上記下限以上であることで、結晶性が大きくなるために樹脂の疎水性を確保し易く、またガラス転移温度が上記上限以下であることで、塗工適性が向上し易い。ガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いた熱分析により測定することができる。
【0030】
バインダの20℃における粘度は、500mPa・s以上であってもよく、1000mPa・s以上であってもよく、また10000mPa・s以下であってもよく、6000mPa・s以下であってもよい。粘度は、B型回転粘度計により測定することができる。
【0031】
消火材用組成物に含まれるバインダの含有量は、消火材用組成物の全量を基準として、2~30質量%であってよく、4~15質量%であってもよい。バインダの含有量が上記上限以下であることで、乾燥後塗膜の表面平滑性が向上し易く(塗膜のひび割れや気泡発生を抑制し易く)、またバインダの含有量が上記下限以上であることで、消火材用組成物を塗布する際のロールtоロール塗工適性が向上し易く、基材密着性及び塗膜の断裁加工適性が向上し易い。
【0032】
(液状媒体)
消火材用組成物は、液状媒体を更に含んでいてもよい。液状媒体としては、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、水溶性の溶媒が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類;N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類等が挙げられる。塩と共に用いられる観点から、液状媒体はアルコール系溶媒であってもよく、具体的にはエタノール及びイソプロピルアルコールの混合溶媒であってもよい。
【0033】
液状媒体の量は、消火材用組成物の使用方法に応じて適宜調整すればよいが、消火材用組成物の全量を基準として30~70質量%とすることができる。液状媒体を含む消火材用組成物を、消火材用塗液ということができる。
【0034】
(その他の成分)
消火材用組成物には、上述した以外にその他の成分が混合されてもよい。その他の成分としては、界面活性剤、シランカップリング剤、アンチブロッキング剤、着色剤、酸化防止剤、難燃剤、無機充填材、流動性付与剤、防湿剤、分散剤、UV吸収剤、柔軟性付与剤、触媒等が挙げられる。これらの他の成分は、消火剤、バインダ、又は、液状媒体の種類等により適宜選択することができる。消火材用組成物に含まれるその他の成分の含有量は、消火材用組成物の全量を基準として、例えば10質量%以下である。
【0035】
[消火材用組成物の製造方法]
消火材用組成物は、有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、バインダと、必要に応じて使用される他の成分とを混合することによって製造することができる。使用するバインダは、上記バインダの選定方法において、良好な初期消火性を発現する消火材用組成物を調製し得ると判断されるものであればよい。
【0036】
<第二実施形態>
本実施形態に係る消火材用組成物は、有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含む消火剤と、第一のバインダと、第二のバインダとを含有し、大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで第一のバインダを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの第一のバインダの重量減少率が50%以上であり、大気雰囲気下における熱重量測定にて、昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで第二のバインダを加熱したとき、温度が400℃に到達するまでの第二のバインダの重量減少率が15%以下であり、第一のバインダの質量を100部としたとき、第二のバインダの質量が250部以下である。
【0037】
本実施形態に係る消火剤及び第一のバインダとしては、上述の第一実施形態において説明した消火剤及びバインダと同様のものをそれぞれ用いることができる。
【0038】
第二のバインダは、熱によって重量減少しやすい第一のバインダと併用されるものであるから、熱によって重量減少しにくいものであってもよい。すなわち、上記の条件で実施される熱重量測定にて、第二のバインダの重量減少率は、上記のとおり、15%以下であってよく、13%以下又は12%以下であってもよい。この値の下限値は、例えば、0%であり、3%又は7%であってもよい。
【0039】
消火材用組成物に含まれる第二のバインダの含有量は、第一のバインダの質量を100部として、上記のとおり、250部以下であり、200部以下、150部以下又は100部以下であってもよい。第二のバインダの含有量が上記範囲内であることで、得られる消火材用組成物における実用上十分な発火初期の消火能力を保持したまま、第二のバインダの種類に応じた所望の物性を得ることができる。この値の下限値は、例えば、10部であり、50部であってもよい。
【0040】
なお、第二のバインダと併用される第一のバインダは、熱によって更に重量減少しやすいものを使用してもよい。すなわち、上記の条件で実施される熱重量測定にて、第一のバインダの重量減少率は50%以上であることが好ましく、52%以上であってよく、54%以上又は60%以上であってもよい。
【0041】
第二のバインダとしては、例えば、酸無水物基を有する化合物を使用できる。消火材用組成物が酸無水物基を有する化合物を含むことで成形品の性状を長期に亘り安定的に維持することができる。この理由は定かではないが、酸無水物基が水と反応することができるため、侵入してきた水をトラップすることで成形品に含まれる塩の潮解を防いでいるものと推測される。また酸無水物基を有する化合物が塩の表面を修飾することで疎水性が向上し、水との接触を抑えているものと推測される。
【0042】
酸無水物基を有する化合物としては、オキソ酸2分子が脱水縮合することにより構成される酸無水物基を分子中に1以上有する化合物であれば特に制限されない。酸無水物基を構成するオキソ酸としては、例えば、カルボン酸、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。これらのうち、酸無水物基を構成するオキソ酸は、カルボン酸であることが好ましい。カルボン酸無水物基を有する化合物としては、例えば、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等のカルボン酸無水物の単体、又は、無水マレイン酸等の不飽和結合を有するカルボン酸無水物をモノマーとした共重合体等が挙げられる。なお、酸無水物基を有する化合物を第一のバインダとして使用してもよい。
【0043】
酸無水物基を有する化合物は、分子中にアルコキシシリル基を更に有していてもよい。消火材用組成物中に含まれる酸無水物基を有する化合物が、分子中にアルコキシシリル基を更に有することで成形品の性状を長期に亘りより安定的に維持することができる。この理由は定かではないが、アルコキシシランが加水分解された後、自己反応が生じてシロキサンが形成されることにより、耐水性が向上すると共に膜密度が向上し、潮解性を有する塩と水との接触を抑えられているものと推測される。分子中に酸無水物基及びアルコキシシリル基を有する化合物としては、例えば、シランカップリング剤を用いてもよい。なお、酸無水物基を有する化合物として用いられるシランカップリング剤は、消火材用組成物中においてバインダ樹脂と同様の機能を有していてもよい。
【0044】
第二のバインダとして、例えば、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を使用できる。また塗膜形成を容易にし、製膜後の性状を安定化する観点から界面活性剤、シランカップリング剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、難燃剤、流動性付与剤、防湿剤、分散剤、UV吸収剤、柔軟性付与剤等を使用してもよい。第二のバインダを適宜使い分ける又は組み合わせることで、基材に対する密着性の向上、加工性の向上、タック性の低減、ロールtоロール塗工適性の向上など所望の物性を消火材用組成物に付与することができる。なかでも、第二のバインダとしては、酸無水物基を有する化合物であることが好ましく、特に、カルボン酸無水物基と、アルコキシシリル基とを有するシランカップリング剤であることが好ましい。
【0045】
第二実施形態に係る消火材用組成物は、第一実施形態に係る消火材用組成物と同様の液状媒体又はその他の成分を更に含んでいてもよい。液状媒体の量は、消火材用組成物の使用方法に応じて適宜に調整すればよいが、消火材用組成物の全量を基準として30~70質量%とすることができる。消火材用組成物に含まれるその他の成分の含有量は、消火材用組成物の全量を基準として、例えば10質量%以下である。
【0046】
<消火材>
消火材は、消火材用組成物から形成することができる。図1は消火材の一実施形態を模式的に示す断面図である。消火材1は、基材2と、基材2の一方の面上に設けられた消火材層3とを備える。消火材1は、基材2の一方の面上に消火材用塗液を塗布する工程と、塗布された層を乾燥させて消火材層3を形成する工程を経て製造することができる。基材2の素材は、例えば、金属、樹脂、木材、セラミックス、ガラスであり、非多孔性であっても多孔性であってもよい。
【0047】
塗布はウェットコーティング法にて行うことができる。ウェットコーティング法としては、グラビアコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコート法、スピンコート法、スポンジロール法、ダイコート法、刷毛による塗装等が挙げられる。
【0048】
消火材用塗液の粘度は、例えばグラビアコーティング法であれば、1~2000mPa・sとすることが好ましく、コンマコーティング法であれば500~100000mPa・sとすることが好ましく、スプレーコーティング法であれば0.1~4000mPa・sとすることが好ましい。塗液粘度が所望の範囲になるよう、上記液状媒体の量を適宜調整すればよい。粘度は共軸二重円筒回転粘度計により測定することができる。
【0049】
基材2が多孔性である場合、消火材用塗液は基材2内に浸入することができる。その場合、消火材層3の一部は、基材2の内部に染み込み、残りが基材2の表面上に積層されていてもよい。
【0050】
消火材は、消火材用組成物を所定の形状に成形することで得ることもできる。消火材の形状はその用途に応じて選択すればよく、消火材は粒状消火材、板状消火材、柱状消火材等であってもよい。
【0051】
<自動消火機能を有する装置>
自動消火機能を有する装置は、消火材を備える。自動消火機能を有する装置としては、電気配線やケーブル、変圧器や電気回路等が搭載されている電気系統設備等が挙げられる。具体的には配電盤、分電盤、蓄電池(リチウムイオン電池等)、バッテリー(モバイルバッテリー、工具用バッテリー、自動車用EVバッテリー等)、上記を搭載した蓄電システム等が挙げられる。さらに意図せぬ発火の危険性のある箇所、例えば蓄電池用の回収ボックス、ごみ箱、コンセントカバー等が挙げられる。
【実施例0052】
以下、実施例に基づいて本開示を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
<消火材の形成>
(実施例1)
以下の成分を混合し、消火材用組成物を調製した。
消火剤:クエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物(87.4質量部)
第一のバインダ:エーテル系ウレタン樹脂(12.6質量部)
液状媒体:エタノール(87質量部)
液状媒体:イソプロピルアルコール(27質量部)
クエン酸カリウム及び塩素酸カリウムの混合物は、メノウ乳鉢ですり潰したのち、800番手のメッシュでフィルタリングすることで粒子径D50=8~12μmに調整した。
【0054】
ポリエチレンテレフタレート(PET)製の基材(商品名:E7002、東洋紡(株)製)の離型処理が施されていない一方の面上に、アプリケーターを用いて、乾燥後の塗布厚みが150μmとなるように上記消火材用組成物を塗布した後、75℃のオーブンにて7分間乾燥させた。これにより、基材の面上にシート状の消火材を作製した。
【0055】
(実施例2)
12.6質量部のエーテル系ウレタン樹脂に代えて、12.6質量部のアクリル樹脂を使用したこと、及び液状媒体として27質量部のイソプロピルアルコールに代えて、23質量部の酢酸エチルを使用したこと以外は実施例1と同様にして消火材用組成物を調製し且つこれを用いて消火材を作製した。
【0056】
(実施例3)
12.6質量部のエーテル系ウレタン樹脂に代えて、12.6質量部のポリビニルブチラール(PVB)樹脂を使用したこと、及び液状媒体としてエタノールの量を179質量部、イソプロピルアルコールの量を10質量部としたこと以外は実施例1と同様にして消火材用組成物を調製し且つこれを用いて消火材を作製した。
【0057】
(実施例4)
12.6質量部のエーテル系ウレタン樹脂に代えて、8.4質量部のPVB樹脂を使用するとともに、第二のバインダとして4.2質量部のX-12-1287A(商品名、信越化学工業(株)製)を使用したこと、及び液状媒体としてエタノールの量を148質量部、イソプロピルアルコールの量を7質量部としたこと以外は実施例1と同様にして消火材用組成物を調製し且つこれを用いて消火材を作製した。
【0058】
(実施例5)
12.6質量部のエーテル系ウレタン樹脂に代えて、12.6質量部のポリメチルビニルエーテル(PMVE)/無水マレイン酸コポリマー(Gantrez AN-139(アシュランド・ジャパン(株)製))を使用するとともに、エタノールの量を150質量部、イソプロピルアルコールの量を0質量部としたこと以外は実施例1と同様にして消火材用組成物を調製し且つこれを用いて消火材を作製した。
【0059】
(実施例6)
12.6質量部のエーテル系ウレタン樹脂の量を4.2質量部とするとともに、第二のバインダとして8.4質量部のX-12-1287Aを使用したこと以外は実施例1と同様にして消火材用組成物を調製し且つこれを用いて消火材を作製した。
【0060】
(比較例1)
12.6質量部のエーテル系ウレタン樹脂の量を3.2質量部とするとともに、第二のバインダとして9.4質量部のX-12-1287Aを使用したこと以外は実施例1と同様にして消火材用組成物を調製し且つこれを用いて消火材を作製した。
【0061】
(比較例2)
12.6質量部のエーテル系ウレタン樹脂に代えて、X-12-1287Aを12.6質量部使用したこと以外は実施例1と同様にして消火材用組成物を調製し且つこれを用いて消火材を作製した。
【0062】
<重量変化率の測定>
各実施例及び比較例で用いた第一及び第二のバインダについて、(株)日立ハイテクサイエンス製の示差熱熱重量測定装置「STA7200RV」にて、大気雰囲気下において昇温速度5℃/分で30℃から500℃まで昇温した際に、400℃まで昇温した際の重量変化率を測定した。このときのサンプリング周期は1秒とした。測定結果を表1及び2に示す。表中の「混合物の重量減少率」は第一及び第二のバインダの混合物の重量減少率を意味する(実施例4、6及び比較例1)。
【0063】
<消火材の封入>
シーラント層(L-LDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)樹脂、厚さ30μm)及び基材層(シリカ蒸着膜を有するPET樹脂、厚さ12μm)を備えるバリアフィルムを準備した。バリアフィルムの水蒸気透過率は0.2~0.6g/m/day(40℃/90%RH条件下)であった。このバリアフィルムを2枚用いて、シート状の消火材を覆い、バリアフィルムの4辺をヒートシールすることで消火材を封入した。ヒートシール条件は140℃、2秒間とした。これを評価サンプルとした。
【0064】
<消火性試験>
縦20cm、横30cm、高さ40cmの鉄製の容器を準備した。着火した固形燃料が窒息により消火しないよう、容器の側面には天面から5、12.5、20.0、27.5、35.0cmの高さの位置に直径8.5mmの円形の通気口を各側面5カ所ずつ設けた。容器天面の中央に面積が50mm×50mmの消火材を両面テープで貼り付けた。容器底面の中央に、縦15mm、横15mm、高さ10mmの固形燃料(キャプテンスタッグ株式会社製固形燃料ファイアブロック着火剤)を1.5g分置いた。
固形燃料に着火させた際に、消火材が固形燃料の着火後180秒以内に消火できるかについて、固形燃料と消火材との距離を調整しながら評価をした。評価は、以下の基準に基づいて行った。
A:消火材から火元までの距離が20cmで消火できる。
B:消火材から火元までの距離が10cmで消火できる。
C:消火材から火元からの距離が10cmで消火できない。
【0065】
<潮解性評価>
得られた評価サンプルの全光線透過率を、ヘイズメーター(BYK社製 BYK-Gardner Haze-Guard Plus)を用いて、JIS K 7361-1に準拠した方法で測定した。測定は恒温恒湿槽(85℃/85%RH条件下)に投入する前(初期全光線透過率)と、投入して24時間経過後(保存後の全光線透過率)に行い、下記式に従い保存前後での全光線透過率の変化量Δを算出した。吸湿(潮解)が生じた場合には消火材の透明度が上がるため、この変化量Δを確認することで潮解の程度を評価した。評価は、以下の基準に基づいて行った。
変化量Δ=保存後の全光線透過率の値-初期全光線透過率の値
A:変化量Δが35以下。
B:変化量Δが35超。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【符号の説明】
【0068】
1…消火材、2…基材、3…消火材層。
図1