(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121088
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】生物付着防止装置
(51)【国際特許分類】
G21D 1/00 20060101AFI20240830BHJP
G21C 15/18 20060101ALI20240830BHJP
E02B 1/00 20060101ALI20240830BHJP
B63B 59/04 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
G21D1/00 R
G21C15/18 S
E02B1/00 301Z
B63B59/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023027986
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】河野 雄輔
(57)【要約】
【課題】海洋生物の付着を防止することでプラントの安定的な運用を実現する生物付着防止装置を提供する。
【解決手段】生物付着防止装置は、海洋沿岸に設けられた原子力発電プラントの取水口に海洋生物が付着することを防止する生物付着防止装置であって、取水口に設けられ、海水の温度を計測する第一温度計測部と、取水口よりも水深が深い位置に設けられ、マイクロバブルを発生させる気泡発生装置と、第一温度計測部で計測された温度が予め定められた第一閾値よりも高い場合に気泡発生装置を駆動する制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋沿岸に設けられた原子力発電プラントの取水口に海洋生物が付着することを防止する生物付着防止装置であって、
前記取水口に設けられ、海水の温度を計測する第一温度計測部と、
前記取水口よりも水深が深い位置に設けられ、マイクロバブルを発生させる気泡発生装置と、
前記第一温度計測部で計測された温度が予め定められた第一閾値よりも高い場合に前記気泡発生装置を駆動する制御部と、
を備える生物付着防止装置。
【請求項2】
前記取水口から沖側に離間した位置に設けられ、海水の温度を計測する第二温度計測部をさらに備え、
前記制御部は、前記第二温度計測部で計測された温度が、前記第一閾値よりも低い温度である第二閾値よりも高く、かつ前記第一温度計測部で計測された温度が前記第一閾値よりも高い場合に前記気泡発生装置を駆動する請求項1に記載の生物付着防止装置。
【請求項3】
前記気泡発生装置に併設された第三温度計測部をさらに備え、
前記制御部は、前記第三温度計測部で計測された温度が前記第一閾値よりも低い温度である第三閾値よりも高く、かつ前記第一閾値よりも低い場合に前記気泡発生装置を駆動する請求項1又は2に記載の生物付着防止装置。
【請求項4】
前記取水口と、該取水口よりも内陸側に設けられたポンプ室とを連通する管路上に設けられ、該管路を流通する海水の温度を計測する第四温度計測部をさらに備え、
前記制御部は、前記第四温度計測部で計測された温度が、前記第一閾値よりも高い温度である第四閾値よりも高く、かつ前記第一温度計測部で計測された温度が前記第一閾値よりも高い場合に前記気泡発生装置を駆動する請求項1又は2に記載の生物付着防止装置。
【請求項5】
前記気泡発生装置は、
圧縮空気を生成する圧縮部と、
前記圧縮空気が流通する流路を有するとともに、外部に向かって前記圧縮空気が噴出する複数の微細孔を有する装置本体と、
を有する請求項1に記載の生物付着防止装置。
【請求項6】
深さ方向に間隔をあけて設けられた複数の前記気泡発生装置を備え、
前記制御部は、前記第一温度計測部で計測された温度と前記第一閾値との差分が、予め定められた差分閾値よりも大きくなるに従って、前記複数の気泡発生装置のうちの深い側に設けられた前記気泡発生装置を駆動する請求項1に記載の生物付着防止装置。
【請求項7】
前記複数の気泡発生装置では、水深が深い位置の前記気泡発生装置になるほど、前記気泡の発生量が多くなる請求項6に記載の生物付着防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生物付着防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントでは、原子炉を冷却する冷却水として、海洋等の水源から取り入れた水を用いている。プラントには、水を取り入れるための取水口が設けられている(例えば下記特許文献1参照)。プラントが海洋沿岸に位置する場合、経年運用に伴って、取水口にはフジツボやミドリガイなどの海洋生物が付着することがある。
【0003】
このような海洋生物の付着量が増えると、取水口の流路が阻害されて当該取水口からの水の取りこみ可能量が減少し、プラントの安定的な運用に支障を来たす虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来は、上記のような海洋生物の付着を防止するための有効な措置が取られておらず、冷却水の取水が円滑に行われずにプラントの運用に影響が及ぶことがあった。
【0006】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、海洋生物の付着を防止することでプラントの安定的な運用を実現する生物付着防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係る生物付着防止装置は、海洋沿岸に設けられた原子力発電プラントの取水口に海洋生物が付着することを防止する生物付着防止装置であって、前記取水口に設けられ、海水の温度を計測する第一温度計測部と、前記取水口よりも水深が深い位置に設けられ、マイクロバブルを発生させる気泡発生装置と、前記第一温度計測部で計測された温度が予め定められた第一閾値よりも高い場合に前記気泡発生装置を駆動する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、海洋生物の付着を防止することでプラントの安定的な運用を実現する生物付着防止装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の第一実施形態に係る生物付着防止装置の構成を示す模式図である。
【
図2】本開示の第一実施形態に係る気泡発生装置の構成を示す模式図である。
【
図3】本開示の第一実施形態に係る制御部の機能ブロック図である。
【
図4】本開示の第一実施形態に係る制御部の制御フローを示すフローチャートである。
【
図5】本開示の第二実施形態に係る生物付着防止装置の構成を示す模式図である。
【
図6】本開示の第二実施形態に係る制御部の制御フローを示すフローチャートである。
【
図7】本開示の第三実施形態に係る生物付着防止装置の構成を示す模式図である。
【
図8】本開示の第三実施形態に係る制御部の制御フローを示すフローチャートである。
【
図9】本開示の第四実施形態に係る生物付着防止装置の構成を示す模式図である。
【
図10】本開示の第四実施形態に係る制御部の制御フローを示すフローチャートである。
【
図11】本開示の各実施形態に係る制御部のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第一実施形態>
以下、本開示の第一実施形態に係る生物付着防止装置1について、
図1から
図4を参照して説明する。この生物付着防止装置1は、原子力発電プラントの取水口90にフジツボやミドリガイ等の海洋生物が付着することを防止するための装置である。
【0011】
図1に示すように、取水口90は、原子炉の冷却水として用いられる水を海洋から取り入れるための管路であり、その端部は海洋に向かって開放されている。冷却水を必要とする各種設備と取水口90との間は数百メートルから1キロメートル程度離れている。詳しくは図示しないが、これら設備と取水口90との間の管路には水を圧送するためのポンプやフィルター、止水ゲート等の付随設備が設けられている。取水口90の設けられる位置では、水深が数メートル程度である。
【0012】
(生物付着防止装置1の構成)
生物付着防止装置1は、第一温度計測部10と、気泡発生装置20と、制御部30と、を備えている。第一温度計測部10は、取水口90に取り付けられている。第一温度計測部10は、取水口90を通過する海水の温度を計測し、その値を電気信号として制御部30に送信する。つまり、第一温度計測部10と制御部30とは電気的に接続されている。第一温度計測部10として具体的には温度センサーが挙げられる。また、海水による腐食に対する耐性を有する温度センサーを用いることが望ましい。
【0013】
気泡発生装置20は、圧縮空気によって海水中にマイクロバブルを生成することで、深層の海水を表層まで上昇させるための装置である。気泡発生装置20は、取水口90よりも水深が深い沖合の位置に設けられている。
図2に示すように、気泡発生装置20は、圧縮部21と、複数の装置本体22と、を有する。圧縮部21は、例えば陸上に設けられている。圧縮部21は、大気を圧縮して圧縮空気を生成する。圧縮部21としては軸流圧縮機や遠心圧縮機等、公知の回転機械が用いられる。なお、圧縮部21は、沖合に停泊している船舶や台船上に配置されていてもよい。
【0014】
装置本体22は、圧縮部21に連通する管状の部材である。装置本体22は、水深が浅い位置から深い位置にかけて間隔をあけて複数配列されている。装置本体22の内部には圧縮空気が流通するための流路が形成されている。装置本体22の外面には、圧縮空気を噴出させてマイクロバブルを発生させるための微細孔(図示省略)が多数形成されている。また、深い位置にある装置本体22ほど、この孔の数が多くなる。又は、深い位置にある装置本体22ほど寸法体格が大きく設定されている。つまり、深い位置の装置本体22になるほど、より多くのマイクロバブルを生成するように構成されている。装置本体22は、
図2のように上下方向に延びていてもよいし、図示しない水平方向に延びていてもよい。
【0015】
制御部30は、第一温度計測部10が計測した温度に基づいて気泡発生装置20の動作を制御する。
図3に示すように、制御部30は、温度取得部31と、判定部32と、記憶部33と、駆動部34と、を有する。温度取得部31は、第一温度計測部10から電気信号として入力された取水口90の海水温度を取得する。判定部32は、当該海水温度を、予め定められた第一閾値と比較する。ここで言う第一閾値とは、上述した海洋生物の活性が低下するに十分な低温であることを意味する。活性が低下する、とは、海洋生物が死滅したり、増殖を止めたりする状態を指す。記憶部33は、この第一閾値を予め記憶している。駆動部34は、判定部32の判定結果に基づいて、上記の気泡発生部を駆動・停止するための信号を発出する。
【0016】
判定部32によって、取水口90の海水温(第一温度)が第一閾値よりも高いと判定された場合、海洋生物の活性が高まる傾向にあると判断できる。そこで、判定部32は駆動部34に対して、気泡発生装置20を駆動させるための信号を送信するように指示する。駆動部34が当該信号を送信することで、気泡発生装置20が駆動し、海中にマイクロバブルが発生する。
【0017】
また、制御部30は、第一温度計測部10で計測された温度と第一閾値との差分が、予め定められた差分閾値よりも大きくなるに従って、複数の気泡発生装置20のうちの深い側に設けられた気泡発生装置20を優先的に駆動する。
【0018】
図4に示すように、制御部30は、まずステップS1で第一温度計測部10から第一温度を取得する。次いで、ステップS2で判定部32が第一温度と第一閾値との大小比較を行う。ステップS2でNoと判定された場合、再びステップS1に戻る。他方で、ステップS2でYesと判定された場合、駆動部34が気泡発生装置20を駆動させる(ステップS3)。気泡発生装置20を駆動することで、海水中に多数のマイクロバブルが生じる。このマイクロバブルが浮力によって上昇することで、深層の低温の海水が表層に向かって上昇する。その結果、表層の海水温度が徐々に低下していく。すると、海洋生物の活性が低下した状態となり、取水口90に付着するこれら海洋生物の数が低減する。
【0019】
(作用効果)
ここで、上記のフジツボやミドリガイのような海洋生物の付着量が増えると、取水口90からの水の取りこみ可能量が減少し、プラントの安定的な運用に支障を来たす虞がある。しかしながら、従来は、上記のような海洋生物の付着を防止するための有効な措置が取られておらず、プラントの運用に影響が及ぶことがあった。そこで、本実施形態では上述の各構成を採用している。
【0020】
上記構成によれば、取水口90の水温(第一温度)が第一温度計測部10で計測される。当該水温が第一閾値よりも高い場合には、海洋生物の活性が高まる傾向にあると判断できる。そこで、気泡発生装置20を駆動することで、取水口90よりも水深が深い層の低温の海水を気泡によって表層まで上昇させる。これにより、取水口90付近の海水温が低下し、海洋生物の活性を低下させることが可能となる。その結果、取水口90に付着する海洋生物の数を減らすことができる。特に、冬季のうちに海洋生物の幼生の数を減らしておくことで、春季以降の成体の増殖を効果的に抑えることができる。その結果、通年を通じて取水口90に取り付く海洋生物の数を減少させることが可能となる。また、海洋生物の数を減らすに当たって、薬剤等を用いる必要がないため、生態系に与える影響も最小限度に抑えることが可能となる。したがって、プラントの環境性能を下げることなく、当該プラントを安定的に運用することができる。
【0021】
さらに、上記構成によれば、圧縮空気を装置本体22の微細孔から噴射させることのみによって、低廉かつ安定的に多数のマイクロバブルを形成することができる。また、気泡を発生させるに当たって化学製品や薬剤を用いる必要がないため、環境負荷を最小限に抑えることも可能となる。
【0022】
ここで、沖合の深層では、水圧で気泡が押しつぶされて体積が小さい状態となる。上記構成によれば、水圧が高い深層では相対的に大量の気泡を発生させることで、水圧による気泡の体積の減少分を気泡の数で補完することが可能となる。これにより、深層から表層に向かう海水の流れを安定的に作り出すことが可能となる。したがって、深層の低温の海水をより効率的に表層まで上昇させることができる。結果として、表層の海洋生物の活性を効果的に低下させることが可能となる。
【0023】
また、取水口90の海水温と第一閾値との差分が差分閾値よりも大きい場合には、海洋生物の不活性化のために海水の大幅な冷却が必要となると判断できる。そこで、このような条件下では、水深が比較的に深い位置に設けられた気泡発生装置20を駆動する。これにより、深層の低温の海水が表層まで上昇し、海洋生物の活性を低下させることが可能となる。他方で、第一閾値との差分が差分閾値よりも小さい場合には、海洋生物の不活性化のために必要となる海水の温度低下量が小さくて済むと判断できる。そこで、より表層に近い(浅い)位置の気泡発生装置20を駆動する。これにより、海水温の状態に応じて、気泡発生装置20を経済的に運用することが可能となる。特に、本実施形態のように深い位置ほど多くのマイクロバブルを発生させるように構成されている場合には、上記の構成は経済性の観点で有利である。
【0024】
以上、本開示の第一実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0025】
<第二実施形態>
次に、本開示の第二実施形態について、
図5と
図6を参照して説明する。なお、上記第一実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0026】
図5に示すように、本実施形態に係る生物付着防止装置1は、上記第一実施形態で説明した構成に加えて、第二温度計測部110をさらに備えている。第二温度計測部110は、取水口90から沖合に離間した位置の海水中に設けられている。第二温度計測部110が設けられる水深は取水口90よりも深いことが望ましい。第二温度計測部110は、当該海域の海水温を計測して、その値を電気信号として制御部30に送信する。つまり、この第二温度計測部110も制御部30に対して電気的に接続されている。
【0027】
制御部30では、第一温度計測部10で計測された取水口90の海水温(第一温度)に加えて、第二温度計測部110で計測された海水温(第二温度)に基づいて、気泡発生装置20の動作をコントロールする。具体的には、制御部30では、判定部32によって、第二温度計測部110で計測された温度が、第一閾値よりも低い温度である第二閾値よりも高く、かつ第一温度計測部10で計測された温度が第一閾値よりも高い場合に気泡発生装置20を駆動する。つまり、取水口90の海水温に加えて、沖合の海水温を指標として用いることによって、沿岸から沖合にかけての広い範囲で、海水温の傾向を知ることが可能となる。したがって、海洋生物の発生数の長期的な傾向を早期に察知することが可能とされている。
【0028】
図6に示すように、制御部30は、ステップS1からステップS2まで、上記第一実施形態と同様に第一温度と第一閾値との大小比較を行う。さらに、ステップS3で、第二温度計測部110から第二温度を取得する。さらに、ステップS4で、第二温度が第二閾値よりも高いか否かの判定を行う。ステップS4でNoと判定された場合、再びステップS1に戻る。他方で、ステップS4でYesと判定された場合には、後続のステップS5で、気泡発生装置20によってマイクロバブルを発生させる。
【0029】
(作用効果)
上記構成によれば、取水口90から沖側に離間した位置の海水温が第二温度計測部110で計測される。当該海水温が第二閾値よりも高く、かつ取水口90の海水温が第一閾値よりも高い場合には、取水口90周囲の海洋全体の温度が上昇傾向にあると判断できる。つまり、海洋生物の活性がさらに高まる傾向にあると判断できる。そこで、当該条件を満たす場合に、気泡発生装置20を駆動することで、表層の海水温を低下させる。これにより、海洋生物の活性を低下させることが可能となる。その結果、取水口90に付着する海洋生物の数をさらに減らすことができる。このように、取水口90を基準として、沖合方向への広がりを持った領域で、海水温の傾向を検知することで、海洋生物が幼生の段階で、取水口90に到達する前の早期の時点で活性を下げるための措置を取ることが可能となる。
【0030】
以上、本開示の第二実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0031】
<第三実施形態>
続いて、本開示の第三実施形態について、
図7と
図8を参照して説明する。なお、上記の各実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0032】
図7に示すように、本実施形態に係る生物付着防止装置1は、第二実施形態で説明した構成に加えて、第三温度計測部210をさらに備えている。第三温度計測部210は、気泡発生装置20に併設されている。つまり、第三温度計測部210は、取水口90の近傍であって、かつ取水口90よりも水深の深い位置の海水温(第三温度)を計測する。第三温度は電気信号として制御部30に送信させる。つまり、第三温度計測部210は制御部30に対して電気的に接続されている。
【0033】
制御部30は、第三温度計測部210で計測された第三温度が、第一閾値よりも低い温度である第三閾値よりも高く、かつ第一閾値よりも低い場合に気泡発生装置20を駆動する。具体的には
図8に示すように、制御部30では、第二実施形態と同様にステップS1からステップS4までを実行した後、ステップS5で第三温度を取得する。さらに、ステップS6で第三温度が第三閾値よりも高いか否かを判定する。ステップS6でNoと判定された場合、ステップS1に戻る。他方で、ステップS6でYesと判定された場合、後続のステップS7で第三温度が第一閾値よりも低いか否かが判定される。ステップS7でNoと判定された場合、ステップS1に戻る。ステップS7でYesと判定された場合には、ステップS8で気泡発生装置20を駆動してマイクロバブルを発生させる。つまり、取水口90の海水温に加えて、当該取水口90よりも深い位置の海水温を指標として用いることによって、表層から深層にかけての広い範囲で、海水温の傾向を知ることが可能となる。したがって、海洋生物の発生数の長期的な傾向を早期に察知することが可能とされている。
【0034】
(作用効果)
上記構成によれば、気泡発生装置20に第三温度計測部210が併設されている。第三温度計測部210が計測した海水温が第三閾値よりも高く、かつ第一閾値よりも低い場合には、気泡発生装置20が駆動する。これにより、海洋生物の活性を早期に低下させることが可能となる。その結果、取水口90に付着する海洋生物の数をさらに減らすことができる。このように、深度方向における海水温の上昇傾向、又は低下傾向を検知することで、海洋生物が幼生の段階で、取水口90に到達する前の早期の時点で活性を下げるための措置を取ることが可能となる。
【0035】
以上、本開示の第三実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0036】
<第四実施形態>
続いて、本開示の第四実施形態について、
図9と
図10を参照して説明する。なお、上記の各実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0037】
図9に示すように、本実施形態に係る生物付着防止装置1は、上記第一実施形態で説明した第一温度計測部10に加えて、第四温度計測部410をさらに備えている。第四温度計測部410は、取水口90から原子力発電設備に向かって延びる管路上に設けられたポンプ室91と取水口90との間に配置されている。ポンプ室91は、管路内の水を圧送するためのポンプを収容する空間である。ポンプ室91の下流側にも管路が連続している。第四温度計測部410は、当該管路におけるポンプ室91の上流側の領域を流れる海水の温度(第四温度)を計測して、その値を電気信号として制御部に送信する。
【0038】
制御部30は、第一温度計測部10で計測された第一温度と第一閾値との比較結果に加えて、第四温度計測部410で計測された温度(第四温度)と予め定められた第四閾値との比較結果に基づいて気泡発生装置の動作状態をコントロールする。第四閾値は、第一閾値よりも高い温度である。これは、ポンプ室91に向かう管路内では、地熱やポンプ室91からの排熱の影響によって海水がわずかに昇温されるためである。
【0039】
具体的には、制御部30では、判定部32によって、第一温度計測部10で計測された温度が、第一閾値よりも高く、かつ第四温度計測部410で計測された温度が第四閾値よりも高い場合に気泡発生装置20を駆動する。つまり、取水口90の海水温に加えて、ポンプ室91近傍の上流側領域の海水温を指標として用いることによって、取水口からポンプ室にかけての広い範囲で、海水温の傾向を知ることが可能となる。したがって、海洋生物の発生数の長期的な傾向を早期に察知することが可能とされている。
【0040】
図10に示すように、制御部30は、ステップS1からステップS2まで、上記第一実施形態と同様に第一温度と第一閾値との大小比較を行う。さらに、ステップS3で、第四温度計測部410から第四温度を取得する。さらに、ステップS4で、第四温度が第四閾値よりも高いか否かの判定を行う。ステップS4でNoと判定された場合、再びステップS1に戻る。他方で、ステップS4でYesと判定された場合には、後続のステップS5で、気泡発生装置20によってマイクロバブルを発生させる。
【0041】
(作用効果)
上記構成によれば、取水口90から内陸側に離間したポンプ室91の上流側の海水温が第四温度計測部410で計測される。当該海水温が第四閾値よりも高く、かつ取水口90の海水温が第一閾値よりも高い場合には、取水口90の下流側の海水温度が上昇傾向にあると判断できる。つまり、海洋生物の活性がさらに高まる傾向にあると判断できる。そこで、当該条件を満たす場合に、気泡発生装置20を駆動することで、表層の海水温を低下させる。これにより、取水口90付近のみならず、ポンプ室91の近傍でも海洋生物の活性を低下させることが可能となる。その結果、取水口90に付着する海洋生物の数をさらに減らすことができるとともに、ポンプ室91に海洋生物が到達してしまう可能性をも低減することができる。
【0042】
以上、本開示の第四実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0043】
<その他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0044】
例えば、上記第二実施形態で説明した制御フローについて、ステップS1,S2と、ステップS3,S4を並行して実行することも可能である。さらに、この場合、ステップS2、及びステップS4のいずれか一方でYesと判定された場合にステップS5を実行して気泡発生装置20を駆動することも可能である。
【0045】
また、上記の各実施形態では、気泡発生装置20を1つのみ設ける例について説明したが、気泡発生装置20の数はこれに限定されず、海域ごとに複数設けられていてもよい。また、海底の地形や深度に応じて気泡発生装置20の寸法体格、数を自在に変更することが可能である。
【0046】
さらに、気泡発生装置20としてマイクロバブルを発生させるのみならず、ジェット噴射によって気泡を発生させる構成を採ることも可能である。この場合でも上述したものと同様の作用効果を得ることができる。
【0047】
加えて、気泡発生装置20の駆動中に直上の海面を船舶等が航行する際には、一時的に気泡発生装置20の駆動を停止することが望ましい。この場合、レーダーやソナー、センサー等の装置を海上に設置し、当該装置の発報をトリガーとして気泡発生装置20を停止する構成を採ることが考えられる。
【0048】
また、上述した取水口90の構成は一例であって、プラントの立地や設計・仕様に応じて種々の態様を取ることが可能である。
【0049】
また、上述した第二温度計測部110、及び第三温度計測部210は、海面に浮遊するブイから海中に吊架される構成を採ってもよい。
【0050】
上記の生物付着防止装置1は、通年にわたって運用されてもよいし、特定の期間のみ運用してもよい。なお、海水温が年間で最も低くなることから冬季には海洋生物の活性が著しく低下する。このため、冬季に生物付着防止装置1を重点的に運用することで、海洋生物の絶対数を早期に低減させることが望ましい。その後、春季・夏季にも運用を続けることで、海洋生物のさらなる活性の低下や、さらなる絶対数の低減を実現することが可能となる。
【0051】
対象となる海洋生物の種類は上記に限定されず、壁面等に付着する性質のある生物であればいかなるものにも効果を発揮する。
【0052】
また、上記第四実施形態で説明した制御部30の動作について、第四温度計測部410が計測する第四温度は、気泡発生装置20を動作させる際に必ずしも判定の指標とする必要はない。つまり、取水口90からポンプ室91までの距離が十分に長い場合には、第四温度を単なるリファレンスとして用いるに留め、第一温度計測部10と制御部30による気泡発生装置20の制御を行ってもよい。また、第二実施形態で説明した第二温度計測部110を、第一温度計測部10、及び第四温度計測部410と併用してもよい。
【0053】
なお、本開示の実施形態における制御部30の処理は、適切な処理が行われる範囲において、処理の順番が入れ替わってもよい。
【0054】
本開示の実施形態における記憶部33、その他の記憶装置のそれぞれは、適切な情報の送受信が行われる範囲においてどこに備えられていてもよい。また、記憶部33、その他の記憶装置のそれぞれは、適切な情報の送受信が行われる範囲において複数存在しデータを分散して記憶していてもよい。
【0055】
上述した制御部30による処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ300が読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータ300が読み出して実行することによって、上記処理が行われる。コンピュータ300の具体例を以下に示す。
【0056】
図11に示すように、コンピュータ300は、CPU301と、メインメモリ302と、ストレージ303と、インターフェース304と、を備える。
例えば、上述の制御部30はコンピュータ300に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ303に記憶されている。CPU301は、プログラムをストレージ303から読み出してメインメモリ302に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU301は、プログラムに従って、上述した記憶部33に対応する記憶領域をメインメモリ302に確保する。
【0057】
ストレージ303の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ303は、コンピュータ300のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インターフェース304または通信回線を介してコンピュータ300に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ300に配信される場合、配信を受けたコンピュータ300が当該プログラムをメインメモリ302に展開し、上記処理を実行してもよい。なお、ストレージ303は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0058】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現してもよい。さらに、上記プログラムは、前述した機能をコンピュータ300にすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるファイル、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0059】
なお、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、GPU(Graphics Processing Unit)、及びこれらに類する処理装置を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0060】
<付記>
各実施形態に記載の生物付着防止装置1は、例えば以下のように把握される。
【0061】
(1)第1の態様に係る生物付着防止装置1は、海洋沿岸に設けられた原子力発電プラントの取水口90に海洋生物が付着することを防止する生物付着防止装置1であって、前記取水口90に設けられ、海水の温度を計測する第一温度計測部10と、前記取水口90よりも水深が深い位置に設けられ、マイクロバブルを発生させる気泡発生装置20と、前記第一温度計測部10で計測された温度が予め定められた第一閾値よりも高い場合に前記気泡発生装置20を駆動する制御部30と、を備える。
【0062】
上記構成によれば、取水口90の水温が第一温度計測部10で計測される。当該水温が第一閾値よりも高い場合には、海洋生物の活性が高まる傾向にあると判断できる。そこで、気泡発生装置20を駆動することで、取水口90よりも水深が深い層の低温の海水を気泡によって表層まで上昇させる。これにより、取水口90付近の海水温が低下し、海洋生物の活性を低下させることが可能となる。その結果、取水口90に付着する海洋生物の数を減らすことができる。
【0063】
(2)第2の態様に係る生物付着防止装置1は、(1)の生物付着防止装置1であって、前記取水口90から沖側に離間した位置に設けられ、海水の温度を計測する第二温度計測部110をさらに備え、前記制御部30は、前記第二温度計測部110で計測された温度が、前記第一閾値よりも低い温度である第二閾値よりも高く、かつ前記第一温度計測部10で計測された温度が前記第一閾値よりも高い場合に前記気泡発生装置20を駆動する。
【0064】
上記構成によれば、取水口90から沖側に離間した位置の海水温が第二温度計測部110で計測される。当該海水温が第二閾値よりも高く、かつ取水口90の海水温が第一閾値よりも高い場合には、取水口90周囲の海洋全体の温度が上昇傾向にあると判断できる。つまり、海洋生物の活性がさらに高まる傾向にあると判断できる。そこで、当該条件を満たす場合に、気泡発生装置20を駆動することで、表層の海水温を低下させる。これにより、海洋生物の活性を低下させることが可能となる。その結果、取水口90に付着する海洋生物の数をさらに減らすことができる。
【0065】
(3)第3の態様に係る生物付着防止装置1は、(1)又は(2)の生物付着防止装置1であって、前記気泡発生装置20に併設された第三温度計測部210をさらに備え、前記制御部30は、前記第三温度計測部210で計測された温度が前記第一閾値よりも低い温度である第三閾値よりも高く、かつ前記第一閾値よりも低い場合に前記気泡発生装置20を駆動する。
【0066】
上記構成によれば、気泡発生装置20に第三温度計測部210が併設されている。第三温度計測部210が計測した海水温が第三閾値よりも高く、かつ第一閾値よりも低い場合には、気泡発生装置20が駆動する。これにより、海洋生物の活性を早期に低下させることが可能となる。その結果、取水口90に付着する海洋生物の数をさらに減らすことができる。
【0067】
(4)第4の態様に係る生物付着防止装置1は、(1)又は(2)の生物付着防止装置1であって、前記取水口90と、該取水口90よりも内陸側に設けられたポンプ室91とを連通する管路上に設けられ、該管路を流通する海水の温度を計測する第四温度計測部410をさらに備え、前記制御部30は、前記第四温度計測部で計測された温度が、前記第一閾値よりも高い温度である第四閾値よりも高く、かつ前記第一温度計測部で計測された温度が前記第一閾値よりも高い場合に前記気泡発生装置を駆動する。
【0068】
上記構成によれば、取水口90から内陸側に離間したポンプ室91の上流側の海水温が第四温度計測部410で計測される。当該海水温が第四閾値よりも高く、かつ取水口90の海水温が第一閾値よりも高い場合には、取水口90の下流側の海水温度が上昇傾向にあると判断できる。つまり、海洋生物の活性がさらに高まる傾向にあると判断できる。そこで、当該条件を満たす場合に、気泡発生装置20を駆動することで、表層の海水温を低下させる。これにより、取水口90付近のみならず、ポンプ室91の近傍でも海洋生物の活性を低下させることが可能となる。
【0069】
(5)第5の態様に係る生物付着防止装置1は、(1)から(3)のいずれか一態様に係る生物付着防止装置1であって、前記気泡発生装置20は、圧縮空気を生成する圧縮部21と、前記圧縮空気が流通する流路を有するとともに、外部に向かって前記圧縮空気が噴出する複数の微細孔を有する装置本体22と、を有する。
【0070】
上記構成によれば、圧縮空気を装置本体22の微細孔から噴射させることのみによって、低廉かつ安定的に多数のマイクロバブルを形成することができる。
【0071】
(6)第6の態様に係る生物付着防止装置1は、(1)から(5)のいずれか一態様に係る生物付着防止装置1であって、深さ方向に間隔をあけて設けられた複数の前記気泡発生装置20を備え、前記制御部30は、前記第一温度計測部10で計測された温度と前記第一閾値との差分が、予め定められた差分閾値よりも大きくなるに従って、前記複数の気泡発生装置20のうちの深い側に設けられた前記気泡発生装置20を駆動する。
【0072】
上記構成によれば、取水口90の海水温と第一閾値との差分が差分閾値よりも大きい場合には、海洋生物の不活性化のために海水の大幅な冷却が必要となると判断できる。そこで、このような条件下では、水深が比較的に深い位置に設けられた気泡発生装置20を駆動する。これにより、深層の低温の海水が表層まで上昇し、海洋生物の活性を低下させることが可能となる。
【0073】
(7)第7の態様に係る生物付着防止装置1は、(6)の生物付着防止装置1であって、前記複数の気泡発生装置20では、水深が深い位置の前記気泡発生装置20になるほど、前記気泡の発生量が多くなる。
【0074】
ここで、深層では、水圧で気泡が押しつぶされた状態となる。上記構成によれば、水圧が高い深層では相対的に大量の気泡を発生させることで、水圧による気泡の体積の減少分を気泡の数で補完することが可能となる。これにより、深層の低温の海水をより効率的に表層まで上昇させることができる。
【符号の説明】
【0075】
1…生物付着防止装置 10…第一温度計測部 20…気泡発生装置 30…制御部 21…圧縮部 22…装置本体 31…温度取得部 32…判定部 33…記憶部 34…駆動部 90…取水口 91…ポンプ室 110…第二温度計測部 210…第三温度計測部 300…コンピュータ 301…CPU 302…メインメモリ 303…ストレージ 304…インターフェース 410…第四温度計測部