(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012110
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】原乳の自発性酸化臭リスクの評価方法
(51)【国際特許分類】
A23C 7/00 20060101AFI20240118BHJP
G01N 33/04 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
A23C7/00
G01N33/04
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102283
(22)【出願日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2022113746
(32)【優先日】2022-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591152584
【氏名又は名称】高梨乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】水畑 由香里
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和幸
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC36
4B001AC46
4B001BC01
4B001BC07
4B001BC08
4B001BC99
4B001EC01
4B001EC99
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、異臭が低減された品質の良好な牛乳などの乳製品を得るために、原乳における自発性酸化臭の発生のリスクを迅速に評価する方法を提供することにある。
【解決手段】
上記目的は、原乳を、酸化触媒の存在下で、10℃未満の温度にて、少なくとも30分間の時間の酸化処理に供することにより、原乳中にヘキサナールを発生させる工程と、ヘキサナールが発生した原乳を、抗酸化剤の存在下で、酸化停止処理に供することにより、原乳中のヘキサナールの発生を停止する工程と、原乳中のヘキサナールの濃度を測定する工程と、測定された原乳中のヘキサナールの濃度を基準として、原乳における自発性酸化臭が発生するリスクを判定する工程とを含む、原乳における自発性酸化臭が発生するリスクを評価する方法などにより解決される。
【選択図】
図9A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原乳を、酸化触媒の存在下で、10℃未満の温度にて、少なくとも30分間の時間の酸化処理に供することにより、原乳中にヘキサナールを発生させる工程と、
ヘキサナールが発生した原乳を、抗酸化剤の存在下で、酸化停止処理に供することにより、原乳中のヘキサナールの発生を停止する工程と、
原乳中のヘキサナールの濃度を測定する工程と、
測定された原乳中のヘキサナールの濃度を基準として、原乳における自発性酸化臭が発生するリスクを判定する工程と
を含む、原乳における自発性酸化臭が発生するリスクを評価する方法。
【請求項2】
前記抗酸化剤は、アスコルビン酸又はその塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化触媒は、銅線及び硫酸銅からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化触媒である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記硫酸銅は、最終濃度が50ppm~300ppmの硫酸銅である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記温度は0℃以上5℃未満の温度であり、及び/又は、前記時間は50分間~100分間の時間である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記基準となるヘキサナールの濃度が24μg/lである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記原乳中のヘキサナールの濃度を測定する工程は、水素炎イオン化検出器を備えたキャピラリーガスクロマトグラフィー装置を用いて原乳中のヘキサナールの濃度を測定する工程である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法により、自発性酸化臭が発生するリスクがあると判定された原乳を、当日に加工処理することにより、自発性酸化臭の発生が抑制された牛乳又は乳製品を得る工程を含む、自発性酸化臭の発生が抑制された牛乳又は乳製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原乳を保管することによって生じる自発性酸化臭の発生の可能性を、早期に評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳牛から搾乳して得られた原乳は、通常、牛乳工場へ運ばれた後、5℃といった低温下で保管(貯乳)される。その後、貯乳された原乳は、均質化処理、殺菌処理などの加工処理を経て、充填包装されて、牛乳として市場へと出荷される。
【0003】
貯乳された原乳は、自発性酸化臭が伴うことがある。これは、原乳中に含まれるリノール酸などの不飽和脂肪酸が酸化されてヘキサナールなどの香気成分が生じることに起因するとされている。自発性酸化臭は紙臭、段ボール臭といった異臭であり、このような自発性酸化臭のする原乳を用いると、得られる牛乳もまた不快な臭いを有するものになり、製品価値が著しく損なわれる。
【0004】
自発性酸化臭の発生は、原乳に含まれる不飽和脂肪酸と、βカロチン、ビタミンEなどの抗酸化物質とのバランスによって決まるとされている。例えば、濃厚飼料を大量に給餌されて育った乳牛から得た原乳は、不飽和脂肪酸の量が増加し、自発性酸化臭が発生しやすくなるといわれている。
【0005】
自発性酸化臭は経時的に増加する。これにより原乳は、牛乳工場での受入れ時に異臭がしなくとも、受入れ後2日間~3日間保管すると自発性酸化臭を発生して異臭がするようになる場合がある。一方、自発性酸化臭の発生は、原乳を均質化処理及び殺菌処理などの加工処理に供することにより抑制できることが知られている(例えば、非特許文献1)。
【0006】
原乳における自発性酸化臭発生を抑制する方法が幾つか知られている。そのうちの多くは、乳牛に給餌する飼料及び給餌方法を変更して、原乳に含まれる不飽和脂肪酸の量を低減する方法である。原乳に処理を加える方法としては、搾乳後の原乳に対して窒素ガスを用いて溶存酸素濃度を低下させる処理を行うことにより、原乳における異常風味を抑制する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Milk Science Vol. 57, No.3 125-129, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
原乳における自発性酸化臭発生を抑制する方法のうち、乳牛に給餌する飼料及び給餌方法を変更する方法は、集乳する全ての酪農家に対して一律に飼料条件を要求することが難しく、現実的ではない。また、濃厚飼料多給型の飼養形態においては、原乳中の不飽和脂肪酸が増加し、抗酸化物質の量が少なくなる傾向にあり、原乳の自発性酸化臭発生のリスクを排除することは困難である。
【0010】
特許文献1に記載の方法は、原乳中の溶存酸素濃度を低下するために原乳に窒素ガスを曝気する方法である。該方法を適用するためには、冷却タンク及び貯乳タンクに窒素ガスの流入孔を設けて、圧力調整をしつつ窒素ガスを原乳に流入しなければならず、設備設計及び工程が複雑になるという問題がある。
【0011】
一方、非特許文献1に記載があるとおり、自発性酸化臭は、原乳を均質化処理、殺菌処理などの加工処理に供することにより抑制することができる。そこで、原乳を貯乳することなく、速やかに加工処理に供すれば、原乳における自発性酸化臭の発生を待たずして、品質の良い牛乳を製造することができる。しかし、実際の牛乳製造では、すべての原乳について、受け入れ後即時的に処理することは難しく、一定量の原乳は低温下で貯乳することになる。
【0012】
また、受け入れ時に、原乳が貯乳を通じて自発性酸化臭を発生するものであるか否かを判定できれば、即時的に加工処理する原乳と、貯乳可能である原乳とを分けることができる。ただし、原乳は貯乳を通じて自発性酸化臭を発生し得ることから、該判定はより短時間で行われることが望まれる。しかし、原乳の自発性酸化臭の発生リスクを迅速に評価する方法はこれまでにほとんど知られていない。
【0013】
そこで、本発明は、異臭が低減された品質の良好な牛乳などの乳製品を得るために、原乳における自発性酸化臭の発生のリスクを迅速に評価する方法を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討して、数多くの中から種々選択した条件を組み合わせることにより、原乳においてヘキサナールを発生する処理を設計し、受け入れ直後の原乳において、貯乳後3日目のヘキサナール濃度と同程度以上のヘキサナールをより短時間で発生させることに成功した。
【0015】
しかし、本発明者らは、このようなヘキサナール発生処理によっては、ヘキサナール濃度を測定する待機時間の間にもヘキサナールの発生は進み、同じ処理後の原乳でも、測定サンプルごとにヘキサナール濃度がばらつくので、安定してヘキサナール濃度を測定できないことを見出した。
【0016】
そこで、本発明者らは、さらに試行錯誤を繰り返してヘキサナール発生を停止する処理を設計し、ヘキサナール発生処理後の原乳をヘキサナール発生停止処理に供したところ、原乳におけるヘキサナールの発生を停止することができ、安定してヘキサナール濃度を測定することに成功した。
【0017】
さらに、本発明者らは、種々の原乳の貯乳後3日目のヘキサナール濃度を測定し、測定されたヘキサナール濃度の傾向から、自発性酸化臭リスクの高い原乳及び自発性酸化臭リスクの低い原乳の判定基準を見出すに至った。そして、このような知見を基に、本発明者らは遂に、本発明の課題を解決し得るものとして、原乳における自発性酸化臭が発生するリスクを評価する方法などを創作することに成功した。本発明は、本発明者らによって初めて見出された知見及び成功例に基づいて完成されたものである。
【0018】
従って、本発明によれば、以下の各態様の方法が提供される。
[1]原乳を、酸化触媒の存在下で、10℃未満の温度にて、少なくとも30分間の時間の酸化処理に供することにより、原乳中にヘキサナールを発生させる工程と、
ヘキサナールが発生した原乳を、抗酸化剤の存在下で、酸化停止処理に供することにより、原乳中のヘキサナールの発生を停止する工程と、
原乳中のヘキサナールの濃度を測定する工程と、
測定された原乳中のヘキサナールの濃度を基準として、原乳における自発性酸化臭が発生するリスクを判定する工程と
を含む、原乳における自発性酸化臭が発生するリスクを評価する方法。
[2]前記抗酸化剤は、アスコルビン酸又はその塩である、[1]に記載の方法。
[3]前記酸化触媒は、銅線及び硫酸銅からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化触媒である、[1]に記載の方法。
[4]前記硫酸銅は、最終濃度が50ppm~300ppmの硫酸銅である、[3]に記載の方法。
[5]前記温度は0℃以上5℃未満の温度であり、及び/又は、前記時間は50分間~100分間の時間である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6]前記基準となるヘキサナールの濃度が24μg/lである、[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
[7]前記原乳中のヘキサナールの濃度を測定する工程は、水素炎イオン化検出器を備えたキャピラリーガスクロマトグラフィー装置を用いて原乳中のヘキサナールの濃度を測定する工程である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の方法。
[8][1]~[4]のいずれか1項に記載の方法により、自発性酸化臭が発生するリスクがあると判定された原乳を、当日に加工処理することにより、自発性酸化臭の発生が抑制された牛乳又は乳製品を得る工程を含む、自発性酸化臭の発生が抑制された牛乳又は乳製品の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低温下で保管する前の原乳について、保管後に自発性酸化臭が発生する可能性を迅速に評価することができる。これにより、本発明によれば、自発性酸化臭が発生する可能性が高い原乳は早期に加工処理し、自発性酸化臭が発生する可能性が低い原乳は低温下で保管した後に加工処理することといったように、原乳の使用時期を受け入れ後短時間で決定し、さらに自発性酸化臭の発生が抑制された品質の良好な牛乳などの乳製品を安定的に製造することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、後述する実施例の例1に記載があるとおりの、原乳1AのD0及びD3、並びに原乳1BのD0及びD3のヘキサナール濃度(ピーク面積)を示す。
【
図2】
図2は、後述する実施例の例3に記載があるとおりの、コントロール(D0原乳)、被験試料3-1~3-5のヘキサナール濃度(ピーク面積)を示す。
【
図3】
図3は、後述する実施例の例4に記載があるとおりの、コントロール(D0原乳)被験試料4-1~4-3のヘキサナール濃度(ピーク面積)を示す。
【
図4】
図4は、後述する実施例の例5に記載があるとおりの、原乳5Aに係る被験試料5-1-1~5-1-6及び原乳5Bに係る被験試料5-2-1~5-2-6のヘキサナール濃度(ピーク面積)を示す。
【
図5A】
図5Aは、後述する実施例の例6に記載があるとおりの、原乳6Aに係る被験試料6-1-1~6-1-4及び原乳6Bに係る被験試料6-2-1~6-2-4のヘキサナール濃度(ピーク面積)を示す。
【
図5B】
図5Bは、後述する実施例の例6に記載があるとおりの、原乳6Cに係る被験試料6-3-1~6-3-5のヘキサナール濃度(ピーク面積)を示す。
【
図6A】
図6Aは、後述する実施例の例7に記載があるとおりの、原乳7Aに係る被験試料7-1-1~7-1-8及び原乳7Bに係る被験試料7-2-1~7-2-8のヘキサナール濃度(ピーク面積)を示す。
【
図6B】
図6Bは、後述する実施例の例7に記載があるとおりの、原乳7Cに係る被験試料7-3-1~7-3-8のヘキサナール濃度(ピーク面積)を示す。
【
図7】
図7は、後述する実施例の例8に記載があるとおりの、原乳8に係る被験試料8-1~8-7のヘキサナール濃度(ピーク面積)を示す。
【
図8】
図8は、後述する実施例の例9に記載があるとおりの、被験試料9-1~9-3のヘキサナール濃度(ピーク面積)を示す。
【
図9A】
図9Aは、後述する実施例の例10に記載があるとおりの、官能評価結果と迅速法のヘキサナール濃度の測定結果との関係性を表したグラフである。
【
図9B】
図9Bは、後述する実施例の例10に記載があるとおりの、官能評価結果とD3原乳のヘキサナール濃度の測定結果との関係性を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の各態様について詳細に説明するが、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0022】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、食品分野における当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者らのこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
【0023】
「及び/又は」は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
「約」は、その用語に続く数量の±10%以内の量を意味する。例えば、「約100」は、100±10%、すなわち、90~110を意味する。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0%~100%」は、0%以上であり、かつ、100%以下である範囲を意味する。「超過」及び「未満」は、その前の数値を含まずに、それぞれ下限及び上限を意味し、例えば、「1超過」は1より大きい数値であり、「100未満」は100より小さい数値を意味する。
「含む」は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」及び「から本質的になる」を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメーターなどの制限事項などが挙げられる。
整数値の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、1の有効数字は1桁であり、10の有効数字は2桁である。また、小数値は小数点以降の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、0.1の有効数字は1桁であり、0.10の有効数字は2桁である。
【0024】
本明細書における用語の意味のうち、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」(平成30年厚生労働省令第106号;以下、乳等省令ともよぶ)に記載があるものは、乳等省令に記載されているとおりの意味として解釈される。
【0025】
本発明の一態様の方法は、原乳を所定の期間で冷蔵保管した場合に、自発性酸化臭を発する可能性があるか否かを評価する、原乳における自発性酸化臭発生のリスクの評価方法に関する。
【0026】
本発明の一態様の方法は、原乳を冷蔵保管した際に発生する可能性のある自発性酸化臭を、早期に知ることを目的とする方法である。本発明者らは、これまでに、牛乳工場において受け入れた原乳を、5℃にて3日間保管した際に、原乳によっては自発性酸化臭が発生することを確認している。本発明の一態様の方法では、自発性酸化臭の一成分であるヘキサナールを指標として、冷蔵保管後に発生するヘキサナールの濃度と同程度又はそれ以上の濃度で、早期に強制的に原乳においてヘキサナールを発生させ、発生させたヘキサナールの濃度から冷蔵保管後のヘキサナールの濃度を推定して、冷蔵保管後に原乳において自発性酸化臭が発生する可能性があるか否かを評価する。
【0027】
本発明の一態様の方法は、以下の工程を含む:
原乳を、酸化触媒の存在下で、10℃未満の温度にて、少なくとも30分間の時間の酸化処理に供することにより、原乳中にヘキサナールを発生させる工程、
ヘキサナールが発生した原乳を、抗酸化剤の存在下で、酸化停止処理に供することにより、原乳中のヘキサナールの発生を停止する工程、
原乳中のヘキサナールの濃度を測定する工程、及び
測定された原乳中のヘキサナールの濃度を基準として、原乳における自発性酸化臭が発生するリスクを判定する工程。
【0028】
(1)ヘキサナール発生工程
本発明の一態様の方法は、原乳中にヘキサナールを発生させるために、原乳を酸化処理に供する工程を含む。本明細書では、本工程を「ヘキサナール発生工程」ともよぶ。
【0029】
原乳は、牛乳及び乳製品の原料になる乳であればよく、搾乳したままの牛の乳(生乳)であっても、生乳になんらかの処理を加えたものであっても、いずれでもよい。原乳を本発明の一態様の方法に供する場合は、反転混合するなどして原乳に含まれる成分に偏りが生じないように均質化することが好ましい。
【0030】
ヘキサナール発生工程において、原乳を、酸化触媒の存在下で酸化処理に供する。酸化触媒は、溶液中の成分を酸化するために用いられる触媒であれば特に限定されず、例えば、液相酸化でよく用いられる銅、鉄、銀、白金、ロジウム、パラジウムなどの金属酸化触媒などが挙げられるが、酸化活性及び経済性を加味すれば、銅が好ましい。銅は、酸化活性が認められる態様であれば特に限定されず、例えば、銅線、硫酸銅などとして用いることができるが、取り扱いの観点から、硫酸銅であることが好ましい。
【0031】
酸化触媒の使用量は、原乳中においてヘキサナールが発生するのに十分な量であればよく、酸化触媒の種類に応じて適宜設定できる。酸化触媒の使用量は、5℃にて3日間保管した後の原乳において発生するヘキサナールの濃度と同程度又はそれ以上の濃度にて、保管前の原乳においてヘキサナールを発生させる量であることが好ましい。
【0032】
具体的には、酸化触媒として硫酸銅を用いる場合、硫酸銅の使用量は、原乳と混合した際の最終濃度が50ppm~300ppmになるような量であることが好ましく、80ppm~150ppmであることがより好ましく、約100ppmであることがさらに好ましい。硫酸銅の最終濃度が50ppm未満である場合には、酸化処理に供して発生する原乳のヘキサナールの濃度が、5℃にて3日間保管した後の原乳において発生するヘキサナールの濃度を下回る傾向にある。また、硫酸銅の最終濃度が300ppmを超過する場合には、酸化処理に供して発生する原乳のヘキサナールの濃度が、5℃にて3日間保管した後の原乳において発生するヘキサナールの濃度を大きく上回る傾向にある。なお、後述する実施例に記載があるとおり、50ppm~300ppmの範囲内では硫酸銅の最終濃度に依存してヘキサナールの濃度が大きくなる傾向にあるが、300ppm~1,000ppmの範囲内ではこのような傾向にない。さらに、本明細書では、硫酸銅は、硫酸銅五水和物を指す。したがって、硫酸銅の使用量(最終濃度)が「50ppm~300ppm」であるとは、硫酸銅五水和物の使用量が「50ppm~300ppm」であることを表す。硫酸銅として硫酸銅五水和物以外の水和物又は無水和物を用いる場合は、硫酸銅五水和物の使用量を基準にそれぞれの分子量で換算して使用量を決定すればよい。例えば、硫酸銅五水和物の使用量としての50ppm~300ppm、80ppm~150ppm及び100ppmは、無水和物の硫酸銅の使用量としてそれぞれ32ppm~192ppm、51ppm~96ppm及び64ppmに相当する。硫酸銅は、硫酸銅五水和物であっても、それ以外の水和物又は無水和物であっても、いずれでもよい。
【0033】
原乳の酸化処理は、10℃未満の温度にて実施する。酸化処理の温度が10℃以上である場合は、酸化処理に供して発生する原乳のヘキサナールの濃度が、5℃にて3日間保管した後の原乳において発生するヘキサナールの濃度を大きく下回る傾向にある。一方、酸化処理の温度が低いほど、ヘキサナールの発生量が大きくなる傾向にあることから、酸化処理の温度は5℃以下であることが好ましく、-5℃以上5℃未満であることがより好ましく、約0℃であることがさらに好ましい。なお、酸化処理の温度は、原乳自体の温度であっても、原乳の周囲環境の温度(例えば、原乳を容れた容器を冷却する冷蔵庫、氷水などの温度)であっても、いずれでもよい。
【0034】
原乳の酸化処理は、少なくとも30分間の時間で実施する。酸化処理の時間が30分間未満である場合は、ヘキサナール発生量が不十分であり、原乳の自発性酸化臭のリスクを評価できない可能性がある。一方、酸化処理の時間が長いほど、ヘキサナールの発生量が大きくなる傾向にあるが、その分、評価時間が不要に長くなる。そこで、酸化処理の時間は、30分間~150分間であることが好ましく、40分間~120分間であることがより好ましく、50分間~100分間であることがさらに好ましい。なお、酸化処理の時間について、酸化触媒を加えた原乳を容れた容器を所定の温度に設定した周囲環境においた時間を開始時間(0時間)とする。
【0035】
酸化処理は、原乳と酸化触媒とをよく接触させて、上記した温度及び時間にて実施する。原乳と酸化触媒とをよく接触させるためには、原乳と酸化触媒とを容れた容器を撹拌混合に供することが好ましい。また、反応中に原乳が揮散しないように、原乳と酸化触媒とを容れた容器は密閉することが好ましい。使用する容器は、原乳中の成分及び酸化触媒が変性又は吸着しにくい素材の容器であればよい。
【0036】
ヘキサナール発生工程の非限定的な具体的態様としては、乳牛から採取した生乳を反転混合し、次いで反転混合後の原乳及び酸化触媒をポリプロピレン遠沈管内に加え、次いで該遠沈管を蓋をした密閉した状態でボルテックスミキサーを用いて数秒間撹拌混合し、次いで撹拌混合後の遠沈管を、冷蔵庫又は氷水中に置いて、少なくとも30分間の時間の酸化処理に供する工程などが挙げられる。
【0037】
(2)ヘキサナール発生停止工程
本発明の一態様の方法は、原乳中のヘキサナールの発生を停止させるために、原乳を酸化停止処理に供する工程を含む。本明細書では、本工程を「ヘキサナール発生停止工程」ともよぶ。
【0038】
ヘキサナールの発生を停止するために、原乳を抗酸化剤の存在下で酸化停止処理に供する。抗酸化剤は、溶液中の成分の酸化を防止するために用いられる物質であれば特に限定されないが、例えば、アスコルビン酸及びその塩、システイン塩酸塩、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、グルタチオンなどの水溶性抗酸化物質;クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などの金属キレート化剤などが挙げられるが、抗酸化性及び取り扱い性の観点からアスコルビン酸及びその塩が好ましい。
【0039】
抗酸化剤の使用量は、酸化触媒による原乳中におけるヘキサナールの発生を停止するのに十分な量であればよく、抗酸化剤の種類に応じて適宜設定できる。抗酸化剤の使用量は、抗酸化剤の添加前後において原乳におけるヘキサナールの濃度がほとんど変化しない量であることが好ましく、酸化触媒の量よりも多い量であることがより好ましく、酸化触媒の量よりも十分に多い量であることがさらに好ましい。
【0040】
具体的には、抗酸化剤としてアスコルビン酸を用いる場合、アスコルビン酸の使用量は、原乳と混合した際の最終濃度が酸化触媒の最終濃度の数倍~数十倍であることが好ましく、2倍~20倍であることがより好ましく、5倍~15倍であることがさらに好ましい。例えば、酸化触媒として用いた硫酸銅の最終濃度が100ppmである場合は、抗酸化剤であるアスコルビン酸の最終濃度は500ppm~1,500ppmであることが好ましく、約1,000ppmであることがより好ましい。
【0041】
酸化停止処理は、原乳と抗酸化剤とをよく接触させることにより実施すればよい。例えば、ヘキサナール発生工程後の原乳に、抗酸化剤を加えて、室温にて数秒間~数十秒間撹拌混合することにより実施することができる。
【0042】
ヘキサナール発生停止工程の非限定的な具体的態様としては、ヘキサナール発生工程後の原乳及び酸化触媒を含むポリプロピレン遠沈管に抗酸化剤を加えて、次いで該遠沈管を蓋をした密閉した状態で室温にてボルテックスミキサーを用いて数秒間撹拌混合する酸化停止処理に供する工程などが挙げられる。
【0043】
(3)ヘキサナール濃度測定工程
本発明の一態様の方法は、原乳中のヘキサナールの濃度を測定する工程を含む。本明細書では、本工程を「ヘキサナール濃度測定工程」ともよぶ。
【0044】
ヘキサナール濃度の測定方法は、原乳中のヘキサナール濃度が測定できれば特に限定されず、例えば、ヘキサナールが比較的低沸点の有機化合物であることから、ガスクロマトグラフ法、液体クロマトグラフ法などのクロマトグラフ法を利用した方法などが挙げられる。ヘキサナール濃度をより迅速に測定するためには、ガスクロマトグラフ法を利用した方法であることが好ましく、水素炎イオン化検出器を備えたキャピラリーガスクロマトグラフィー装置を用いた方法であることがより好ましい。また、水素炎イオン化検出器を備えたキャピラリーガスクロマトグラフィー装置としては、高速昇温及び濃縮機能を本体に組み込んでいること、分析時間が短いこと(例えば、1サイクル10分程度)、高感度で分析できること、多くの試料を短時間で処理できることといった機能を実現する装置であることが好ましい。このような装置としては、「フラッシュGCノーズ Heracles Neo」(アルファ・モス・ジャパン社製)などが挙げられるが、これに限定されない。
【0045】
ヘキサナール濃度測定工程では、使用する方法及び装置などに応じて、ヘキサナール発生停止工程後の原乳について、希釈、濃縮などの前処理を行ってもよい。
【0046】
ヘキサナールの濃度をクロマトグラフ法により測定する場合、ヘキサナールの濃度はピーク面積で求めてもよく、ヘキサナール標準物質の濃度及びピーク面積から作成した検量線により求めてもよい。
【0047】
ヘキサナール濃度測定工程の非限定的な具体的態様としては、ヘキサナール発生停止工程後の原乳について、後述する例1に記載のキャピラリーGC測定及び条件により、原乳中のヘキサナール濃度を測定する工程などが挙げられる。
【0048】
(4)自発性酸化臭リスク判定工程
本発明の一態様の方法は、原乳中のヘキサナールの濃度を基準として、原乳における自発性酸化臭が発生するリスクを判定する工程を含む。本明細書では、本工程を「自発性酸化臭リスク判定工程」ともよぶ。
【0049】
自発性酸化臭リスク判定工程では、ヘキサナール濃度測定工程で得られた原乳中のヘキサナールの濃度が指標(閾値)よりも大きいか小さいかを確認することにより、原乳を冷蔵保管した場合において自発性酸化臭が発生するリスク(可能性)を評価する。すなわち、上記ヘキサナールの濃度が指標よりも大きい場合は、本発明の一態様の方法に供した原乳を冷蔵保管した場合に自発性酸化臭が発生する可能性が高い、及び/又はこのような原乳は自発性酸化臭発生リスクの高い原乳であると判定し;上記ヘキサナールの濃度が指標よりも小さい場合は、本発明の一態様の方法に供した原乳を冷蔵保管した場合に自発性酸化臭が発生する可能性が低い、及び/又はこのような原乳は自発性酸化臭発生リスクの低い原乳であると判定する。
【0050】
判定の指標となるヘキサナール濃度は、冷蔵保管することにより自発性酸化臭が発生した原乳及び自発性酸化臭が感じられなかった原乳におけるヘキサナール濃度から設定することができる。例えば、指標は、5℃にて3日間保管した原乳のうち、異臭が感じられなかった原乳におけるヘキサナールの濃度とすることができる。
【0051】
判定の指標となるヘキサナール濃度は、冷蔵保管後の原乳を官能評価して、官能評価が悪いと判断された原乳におけるヘキサナール濃度から設定してもよい。例えば、本発明者らの調べたところによれば、原乳を5℃にて3日間保管した場合、官能評価が合格であった原乳中のヘキサナール濃度は24μg/l未満であった。そこで、ヘキサナール濃度測定工程において得られたヘキサナール濃度が24μg/l未満である場合は測定対象の原乳を冷蔵保管することにより自発性酸化臭が発生する可能性が低い(自発性酸化臭発生リスクが低い原乳)と判定し、又はヘキサナール濃度測定工程において得られたヘキサナール濃度が24μg/l以上である場合は測定対象の原乳を冷蔵保管することにより自発性酸化臭が発生する可能性が高い(自発性酸化臭発生リスクが高い原乳)と判定することが好ましい。
【0052】
自発性酸化臭リスク判定工程により、自発性酸化臭が発生するリスクが高いと判定された原乳は、早期に牛乳及び乳製品の加工処理に供することが、異臭が低減された品質の高い牛乳及び乳製品を得るために好ましい。自発性酸化臭リスク判定工程により、自発性酸化臭が発生するリスクが低いと判定された原乳は、冷蔵保管した後、又は必要に応じて冷蔵保管することなく牛乳及び乳製品の加工処理に供することが好ましい。
【0053】
本発明の一態様の方法は、ヘキサナール発生工程、ヘキサナール発生停止工程、ヘキサナール濃度測定工程及び自発性酸化臭リスク判定工程を、全体で2時間~3時間程度で実施することができる。そして、本発明の一態様の方法を適用すれば、このような短時間での実施にもかかわらず、例えば、5℃にて3日間保管した際に異臭が感じられる可能性のある原乳について選別できる。したがって、本発明の一態様の方法により、原乳の使用時期を受け入れ後短時間で決定し、異臭が低減された品質の良好な牛乳及び乳製品を安定的に製造できるようになる。
【0054】
(5)本発明の別の態様
本発明の一態様の方法を応用すれば、自発性酸化臭が発生するリスクがあると判定された原乳を利用することにより、自発性酸化臭の発生が抑制された牛乳及び乳製品を得ることができる。そこで、本発明の別の態様として、本発明の一態様の方法により、自発性酸化臭が発生するリスクがあると判定された原乳を、当日に加工処理することにより、自発性酸化臭の発生が抑制された牛乳又は乳製品を得る工程を含む、自発性酸化臭の発生が抑制された牛乳又は乳製品の製造方法が提供される。
【0055】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。なお、実施例において、硫酸銅としては、硫酸銅五水和物を用いた。
【実施例0056】
[例1.原乳におけるヘキサナール濃度の経時的変化]
異なる酪農家から採取した原乳1A及び原乳1Bについて、それぞれ均一になるように反転混合した。反転混合後の原乳について、保管0日後、すなわち受け入れ直後(D0)の原乳1A(被験試料1-1-1)及び原乳1B(被験試料1-2-1)とした。また、反転混合後の原乳を、5℃にて3日間保管した原乳について、保管3日後(D3)の原乳1A(被験試料1-1-2)及び原乳1B(被験試料1-2-2)とした。
【0057】
各被験試料について、ヘキサナール濃度(ピーク面積)を、キャピラリーガスクロマトグラフィー(GC)装置「フラッシュGCノーズ Heracles Neo」(アルファ・モス・ジャパン社製)を用いて測定した。キャピラリーGC測定の条件は以下のとおりである。
【0058】
サンプル量:5g
ヘッドスペースバイアル:20ml
インキュベーション:80℃(15分)
ヘッドスペース注入量:5,000μl
FID温度:260℃
インジェクタ温度:220℃
トラップ温度70℃
カラム:MXT-5、10m、180μmID
オーブン温度:40℃(10秒)、1.5℃/秒~250 ℃(90秒)
ヘキサナールのリテンションタイム:50秒
サンプル冷却トレイ温度:15℃
【0059】
各被験試料のヘキサナール濃度(ピーク面積)の測定結果を
図1に示す。
図1が示すとおり、D0の原乳1A及び原乳1Bの間では、ヘキサナール濃度にほとんど差異は認められなかった。しかし、D3の原乳1A及び原乳1Bにおいて、ヘキサナール濃度に大きな差異が認められた。
【0060】
以上の結果が示すとおり、ヘキサナールを指標とすることにより、原乳1Aは自発性酸化臭リスクの比較的高い原乳であり、原乳1Bは自発性酸化臭リスクの比較的低い原乳であることがわかった。また、D0の原乳では、ヘキサナールの濃度を指標として、自発性酸化臭リスクの高低は判定できないことがわかった。そこで、D0の原乳でも自発性酸化臭リスクを評価できるように、原乳においてヘキサナールを強制的に発生する方法について検討した。
【0061】
[例2.原乳におけるヘキサナールの発生方法]
原乳2を、均一になるように反転混合した。反転混合後の原乳 20gを、50ml容ポリプロピレン遠沈管内に量り取った。
【0062】
次いで、原乳を含む遠沈管に、コイル状に巻いた銅線(直径0.35mm) 10gを加えた。原乳及び銅線を含む遠沈管を、10℃に設定した恒温器内で1時間静置する反応処理に供した。
【0063】
反応処理後の遠沈管から銅線を取り出して残った原乳(被験試料2)について、ヘキサナール濃度を、例1と同様に測定した。コントロールには、銅線を加える前の反転混合後の原乳を用いた。なお、ヘキサナール濃度測定まで、被験試料を120分間、冷却トレイ(15℃)上で静置した。
【0064】
結果として、測定して得られたクロマトグラムにおいて、ヘキサナールのピーク面積の比較から、被験試料2のヘキサナール濃度は、コントロールに対して、3倍以上になることがわかった。
【0065】
以上の結果より、銅線を加えた原乳を、10℃にて1時間の反応処理に供することにより、原乳においてヘキサナールを強制的に発生できることがわかった。
【0066】
[例3.ヘキサナール発生反応の停止方法]
キャピラリーGC測定は10分間以上の時間を要し、これにより同じサンプルを用いても、測定ごとに、得られたクロマトグラムにおけるヘキサナールのピーク面積にばらつきが生じた。そこで、ヘキサナール発生反応の停止方法について検討した。
【0067】
原乳3、コイル状に巻いた銅線(直径1.2mm)2.5g及び30ml容ガラス容器を用いたこと以外は例2と同様にして反応処理に供した30ml容ガラス容器に、5%(w/v)アスコルビン酸水溶液 400μlを添加した(アスコルビン酸の最終濃度 0.1%(w/v)(1,000ppm))。
【0068】
アスコルビン酸を加えた遠沈管の蓋をしっかり締め、ボルテックスミキサーを用いて5秒間撹拌混合する反応停止処理に供した。反応処理後に冷却トレイ(15℃)上で45分間静置した原乳(被験試料3-1)、反応処理後に冷却トレイ(15℃)上で145分間静置した原乳(被験試料3-2)、反応停止処理後に冷却トレイ(15℃)で85分間静置した原乳(被験試料3-3)、反応停止処理後に冷却トレイ(15℃)で185分間静置した原乳(被験試料3-4)及び反応停止処理後に冷却トレイ(15℃)で225分間静置した原乳(被験試料3-5)について、例1と同様にしてヘキサナール濃度(ピーク面積)を測定した。コントロールとして、D0の原乳3を用いた。結果を
図2に示す。
【0069】
図2に示すとおり、被験試料3-2のヘキサナール濃度はコントロールと比べて約2.7倍あり、反応停止処理に供しなかった場合は反応処理後も酸化反応が進むことがわかった。それに対して、反応停止処理に供した被験試料3-3~3-5のヘキサナール濃度は、コントロールと比べて1.3倍以下であり、これらの間に大きな差異は認められなかった。
【0070】
以上の結果より、反応処理に供した原乳を、さらに反応停止処理に供することにより、安定的にヘキサナール濃度を測定できることがわかった。
【0071】
[例4.ヘキサナール発生反応の触媒]
酸化反応の触媒として利用した銅線は、堅い金属体であり、取り扱いが限られる場合がある。そこで、使用する触媒として硫酸銅の使用を以下のとおりに検討した。
【0072】
原乳4を、均一になるように反転混合した。反転混合後の原乳 20gを、50ml容ポリプロピレン遠沈管内に量り取った。
【0073】
次いで、原乳を含む遠沈管に、硫酸銅の最終濃度が100ppm(0.01%(w/v))になるように2%(w/v)硫酸銅水溶液 100μlを加えた。原乳及び硫酸銅を含む遠沈管を、蓋をしっかり締めた後、ボルテックスミキサーを用いて5秒間撹拌混合した。撹拌混合後の遠沈管を、0℃になっていることを確認した氷水中に浸漬して1時間静置する反応処理に供した。
【0074】
反応処理に供した遠沈管に、5%(w/v)アスコルビン酸水溶液 400μlを添加した(アスコルビン酸の最終濃度 0.1%(w/v))。アスコルビン酸を加えた遠沈管の蓋をしっかり締め、ボルテックスミキサーを用いて5秒間撹拌混合する反応停止処理に供した。反応停止処理後に冷却トレイ(15℃)で150分間静置した原乳(被験試料4-1)、反応停止処理後に冷却トレイ(15℃)で250分間静置した原乳(被験試料4-2)及び反応停止処理後に冷却トレイ(15℃)上で300分間静置した原乳(被験試料4-3)について、例1と同様にしてヘキサナール濃度(ピーク面積)を測定した。コントロールとして、D0の原乳4を用いた。結果を
図3に示す。
【0075】
図3に示すとおり、触媒として硫酸銅を用いた被験試料4-1~4-3について、ヘキサナールが発生していること、及びこれらの間ではヘキサナールの濃度がほとんど変わらなかったことがわかった。なお、被験試料4-1のヘキサナール濃度は、コントロール(D0)に比べて約5.5倍であった。
【0076】
以上の結果より、触媒として硫酸銅を用いた場合でも、原乳においてヘキサナールを強制的に発生することができ、さらに反応停止処理に供することにより、安定的にヘキサナール濃度を測定できることがわかった。
【0077】
[例5.ヘキサナール発生反応の時間]
ヘキサナール発生反応の時間について、以下のとおりに検討した。
【0078】
異なる酪農家から採取した原乳5A及び原乳5Bについて、それぞれ均一になるように反転混合した。反転混合後の原乳 20gを、50ml容ポリプロピレン遠沈管内に量り取った。
【0079】
次いで、原乳を含む遠沈管に、硫酸銅の最終濃度が300ppmになるように10%(w/v)硫酸銅水溶液 60μlを加えた。原乳及び硫酸銅を含む遠沈管を、蓋をしっかり締めた後、ボルテックスミキサーを用いて5秒間撹拌混合した。撹拌混合後の遠沈管を、0℃になっていることを確認した氷水中に浸漬して30分間、60分間、90分間、120分間、150分間又は180分間静置する反応処理に供した。
【0080】
反応処理に供した遠沈管に、5%(w/v)アスコルビン酸水溶液 400μlを添加した。アスコルビン酸を加えた遠沈管の蓋をしっかり締め、ボルテックスミキサーを用いて5秒間撹拌混合する反応停止処理に供した。反応停止処理後の原乳5A(反応時間ごとに被験試料5-1-1~5-1-6)及び原乳5B(反応時間ごとに被験試料5-2-1~5-2-6)について、例1と同様にしてヘキサナール濃度(ピーク面積)を測定した。結果を
図4に示す。
【0081】
図4に示すとおり、原乳5A及び原乳5Bのいずれにおいても、ヘキサナール発生反応の時間を30分間以上とすることにより、経時的にヘキサナール量が増えていくことがわかった。また、原乳5A及び原乳5Bにおいて、反応後30分間でも差異が生じること、反応後60分間以上では明確な差異が生じることがわかった。
【0082】
以上の結果より、ヘキサナール発生反応は、30分間以上とすることができることがわかった。
【0083】
[例6.ヘキサナール発生反応における硫酸銅の使用量]
ヘキサナール発生反応における硫酸銅の使用量について、以下のとおりに検討した。
【0084】
異なる酪農家から採取した原乳6A及び原乳6Bについて、それぞれ均一になるように反転混合した。反転混合後の原乳 20gを、50ml容ポリプロピレン遠沈管内に量り取った。
【0085】
次いで、原乳を含む遠沈管に、硫酸銅の最終濃度が50ppm、100ppm又は200ppmになるように1%(w/v)、2%(w/v)又は4%(w/v)硫酸銅水溶液 100μlを加えた。原乳及び硫酸銅を含む遠沈管を、蓋をしっかり締めた後、ボルテックスミキサーを用いて5秒間撹拌混合した。撹拌混合後の遠沈管を、0℃になっていることを確認した氷水中に浸漬して60分間静置する反応処理に供した。
【0086】
反応処理に供した遠沈管に、5%(w/v)アスコルビン酸水溶液 400μlを添加した。アスコルビン酸を加えた遠沈管の蓋をしっかり締め、ボルテックスミキサーを用いて5秒間撹拌混合する反応停止処理に供した。反応停止処理後の原乳6A(硫酸銅の量ごとに被験試料6-1-1~6-1-3)及び原乳6B(硫酸銅の量ごとに被験試料6-2-1~6-2-3)について、上記1と同様にしてヘキサナール濃度(ピーク面積)を測定した。また、反転混合後の原乳を、5℃にて3日間保管(D3)した原乳6A(被験試料6-1-4)及び原乳6B(被験試料6-2-4)についても、同様にヘキサナール濃度(ピーク面積)を測定した。結果を
図5Aに示す。
【0087】
図5Aに示すとおり、硫酸銅の最終濃度を50ppmとすることにより、ヘキサナールの濃度をD3の原乳のものと同程度にすることができることがわかった。また、硫酸銅の最終濃度を200ppmとした場合、D3の原乳に対して、ヘキサナール濃度が大きくなることがわかった。
【0088】
同様にして、原乳6Cについて、10%(w/v)硫酸銅を200μl(1,000ppm)若しくは100μl(500ppm)、又は4%(w/v)硫酸銅を150μl(300ppm)若しくは100μl(200ppm)を添加して、硫酸銅の最終濃度が200ppm、300ppm、500ppm又は1,000ppmになるようにヘキサナール発生反応を実施した被験試料6-3-1~6-3-4及びD3の原乳6Cである被験試料6-3-5のヘキサナール濃度(ピーク面積)の測定結果を
図5Bに示す。
【0089】
図5Bに示すとおり、硫酸銅の最終濃度が大きくなるにつれて、D3の原乳におけるヘキサナール濃度と大きく乖離するようになることがわかった。また、1,000ppmのようなあまりにも多い量である場合は、ヘキサナールの発生量が少なくなり、安定したヘキサナール発生反応が起こらない可能性のあることがわかった。
【0090】
以上の結果より、ヘキサナール発生反応における硫酸銅の使用量は、最終濃度が50ppm以上になるような量とすることができることがわかった。また、ヘキサナール発生反応における硫酸銅の使用量を、最終濃度が300ppm以下になるような量とすることにより、D3の原乳と同程度のヘキサナールを発生することができることがわかった。
【0091】
[例7.ヘキサナール発生反応の温度]
ヘキサナール発生反応の温度について、以下のとおりに検討した。
【0092】
異なる酪農家から採取した原乳7A及び原乳7Bについて、それぞれ均一になるように反転混合した。反転混合後の原乳 20gを、50ml容ポリプロピレン遠沈管内に量り取った。
【0093】
次いで、原乳を含む遠沈管に、硫酸銅の最終濃度が50ppm、100ppm又は200ppmになるように1%(w/v)、2%(w/v)又は4%(w/v)硫酸銅水溶液 100μlを加えた。原乳及び硫酸銅を含む遠沈管を、蓋をしっかり締めた後、ボルテックスミキサーを用いて5秒間撹拌混合した。撹拌混合後の遠沈管を、0℃になっていることを確認した氷水中に浸漬し、又は5℃に設定した恒温器内に60分間静置する反応処理に供した。
【0094】
反応処理に供した遠沈管に、5%(w/v)アスコルビン酸水溶液 400μlを添加した。アスコルビン酸を加えた遠沈管の蓋をしっかり締め、ボルテックスミキサーを用いて5秒間撹拌混合する反応停止処理に供した。反応停止処理後の原乳7A(温度及び硫酸銅の量ごとに被験試料7-1-1~7-1-6)及び原乳7B(温度及び硫酸銅の量ごとに被験試料7-2-1~7-2-6)について、例1と同様にしてヘキサナール濃度(ピーク面積)を測定した。また、反転混合後の原乳を、5℃にて2日間保管(D2)又は3日間保管(D3)した原乳7A(被験試料7-1-7~7-1-8)及び原乳7B(被験試料7-2-7~7-2-8)についても、同様にヘキサナール濃度(ピーク面積)を測定した。結果を
図6Aに示す。
【0095】
図6Aに示すとおり、原乳7Aについて、ヘキサナールの反応温度を5℃以下にすることにより、ヘキサナールの濃度はD3の原乳と比べて同程度又はそれ以上になることがわかった。しかし、原乳7Bについて、ヘキサナールの反応温度が5℃である場合には、ヘキサナールの濃度はD3の原乳と比べて小さくなる傾向にあることがわかった。それに対して、いずれの原乳についても、ヘキサナールの反応温度を0℃とした場合、D3の原乳に対して、ヘキサナール濃度は同程度又はそれ以上になることがわかった。なお、氷水に食塩を加えることにより、ヘキサナールの反応温度を-1.4℃にした場合は、ヘキサナールの反応温度を0℃にしたときと同程度に反応が進行した。
【0096】
同様にして、原乳7Cについて、硫酸銅の最終濃度が50ppm又は100ppmであり、かつ温度が10℃、25℃又は50℃になるようにヘキサナール発生反応を実施した被験試料7-3-1~7-3-6並びにD2又はD3の原乳Mである被験試料7-3-7~7-3-8のヘキサナール濃度の測定結果を
図6Bに示す。
【0097】
図6Bに示すとおり、ヘキサナール反応の温度が10℃~50℃である場合は、ヘキサナール発生反応により生じるヘキサナールの濃度は、D3の原乳におけるヘキサナール濃度より小さくなり、ヘキサナールの発生量が不十分であることがわかった。
【0098】
以上の結果より、ヘキサナール発生反応における温度は、10℃未満とすることができることがわかった。
【0099】
[例8.ヘキサナール発生処理及び発生停止処理の並行処理]
所定の量のアスコルビン酸の存在下でヘキサナール発生反応を実施することにより、クロマトグラム上で原乳の自発性酸化臭のリスクを評価できるか否かについて、以下のとおりに検討した。
【0100】
原乳8について、それぞれ均一になるように反転混合した。反転混合後の原乳 20gを、50ml容ポリプロピレン遠沈管内に量り取った。
【0101】
次いで、原乳を含む遠沈管に、アスコルビン酸の最終濃度が25ppm、50ppm又は1,000ppmになるように、0.5%(w/v)アスコルビン酸水溶液 100μl(25ppm)若しくは200μl(50ppm)又は5%(w/v)アスコルビン酸水溶液 400μl(1,000ppm)を添加した。アスコルビン酸を加えた遠沈管の蓋をしっかり締め、ボルテックスミキサーを用いて5秒間撹拌混合した。さらに、アスコルビン酸を加えた遠沈管に、硫酸銅の最終濃度が100ppmになるように2%(w/v)硫酸銅水溶液 100μlを加えた。原乳、アスコルビン酸及び硫酸銅を含む遠沈管を、蓋をしっかり締めた後、ボルテックスミキサーを用いて5秒間撹拌混合した。撹拌混合後の遠沈管を、0℃になっていることを確認した氷水中に浸漬し、60分間静置する反応処理に供した。
【0102】
反応処理後の原乳8(アスコルビン酸の濃度ごとに被験試料8-1~8-3)について、例1と同様にしてヘキサナール濃度(ピーク面積)を測定した。また、反転混合後の原乳について、保管0日間(D0)、5℃にて2日間保管(D2)又は3日間保管(D3)した原乳8(被験試料8-4~8-6)についても、同様にヘキサナール濃度(ピーク面積)を測定した。さらに、反転混合後の原乳について、硫酸銅の最終濃度を100ppm、反応時間を60分間として、例6と同様にして反応処理の後に反応停止処理を実施した原乳8(被験試料8-7)についても、同様にヘキサナール濃度(ピーク面積)を測定した。被験試料8-1~8-3及び8-7については繰り返し数2で実施した。結果を
図7に示す。
【0103】
図7に示すとおり、被験試料8-7の結果から、ヘキサナール発生反応の処理後に反応停止処理に供した場合は、ヘキサナールの濃度はD3の原乳のヘキサナールの濃度と同程度以上であった。それに対して、アスコルビン酸の存在下でヘキサナール発生反応を実施したところ、ヘキサナールの濃度はD3の原乳のヘキサナールの濃度を下回るか、或いは反応停止の効果が不十分であり、測定までの時間によるばらつきが大きく、安定したデータが取れない傾向にあることがわかった。
【0104】
以上の結果より、アスコルビン酸の存在下でヘキサナール発生反応を実施する場合は、クロマトグラム上で原乳の自発性酸化臭のリスクを評価することが妥当ではないことがわかった。
【0105】
[例9.短時間保管によるヘキサナールの発生確認]
反転混合後の原乳について、硫酸銅の最終濃度を100ppm、反応時間を60分間として、例6と同様にして反応処理の後に反応停止処理を実施した原乳9(被験試料9-1)について、例1と同様にしてヘキサナール濃度(ピーク面積)を測定した。また、反転混合後の原乳について、保管0日間(D0 0h)及び5℃にて3時間保管(D0 3h)した原乳9(被験試料9-2~9-3)についても、同様にヘキサナール濃度(ピーク面積)を測定した。結果を
図8に示す。
【0106】
図8に示すとおり、ヘキサナール発生反応の処理後に反応停止処理に供した原乳は、D0 0hの原乳との比較から、ヘキサナール濃度が大きかった。それに対して、D0 3hの原乳及びD0 0hの原乳の間では、ヘキサナール濃度はほとんど変化がなかった。
【0107】
以上の結果より、ヘキサナール発生反応と同程度の時間で5℃にて保管しても原乳におけるヘキサナール濃度は大きくはならなかったのに対して、ヘキサナール発生反応により明確にヘキサナール濃度を増加できることがわかった。
【0108】
[例10.原乳の自発性酸化臭リスクの評価]
濃度(0μg/l、8.1μg/l、20.25μg/l、40.5μg/l及び81μg/l)を変えてヘキサナールを添加した原乳10について、例1に記載の方法によりヘキサナール濃度(ピーク面積)を測定した。得られた各濃度のピーク面積から、何も添加していない(0μg/l)ときのピーク面積を差し引き、検量線を作成した。得られた検量線はy=316.06x(y:ピーク面積、x:ヘキサナール濃度(μg/l);R2=0.9991)であった。
【0109】
一方、25種類の原乳10-1~10-25をヘキサナール発生反応処理及び反応停止処理に順次供した後にヘキサナール濃度を測定した。また、同じ25種類の原乳を5℃2日間保管したD2原乳及び5℃3日間保管したD3原乳のヘキサナール濃度を測定した。迅速法は、反転混合後の原乳について、硫酸銅の最終濃度を100ppm、反応時間を60分間として、例6と同様にして反応処理の後に反応停止処理を実施し、例1と同様にしてヘキサナール濃度を測定することにより実施した。
【0110】
さらに、上記25種類のD3原乳について、官能評価を実施した。官能評価は、パネリストを複数人(2~8名、原則3~6名)とし、200ml三角フラスコに入れた100gの原乳を、電子レンジで加温後に40℃程度に冷ました後、匂いをかぎ、次いで口に含むが飲み込まないときの風味を、以下の基準により5段階評点法により判定することにより実施した。ISO22935-3、IDF99-3に準拠して、パネルの平均点が3.6点未満である場合を不合格と判断した。
【0111】
<判定基準>
5点:通常の原乳と差異は感じられず、正常な原乳として全く問題ない
4点:通常の原乳レベルからやや外れるが、正常原乳として問題ない
3点:通常の原乳レべルから外れており、正常原乳とするには無理がある
2点:通常の原乳レベルから大きく外れる
1点:通常の原乳レベルから非常に大きく外れる
【0112】
官能評価結果、迅速法のヘキサナール濃度及びD2/D3原乳のヘキサナール濃度をまとめたものを表1に示す。また、官能評価結果と迅速法のヘキサナール濃度の測定結果との関係性を表したグラフを
図9Aとし、官能評価結果とD2/D3原乳のヘキサナール濃度の測定結果との関係性を表したグラフを
図9Bとした。なお、
図9Bについて、D2原乳及びD3原乳のヘキサナール濃度を比較し、高い方の濃度を採用した。
【0113】
【0114】
表1、
図9A及び
図9Bに示すとおり、官能評価が不合格であった原乳は1種類あった(原乳10-1、
図9A及び
図9Bにおける矢印で示したもの)。該原乳の迅速法によるヘキサナール濃度及びD3原乳のヘキサナール濃度は、それぞれ25.3μg/l及び25.1μg/lであった。
【0115】
以上の結果から、迅速法によりD0時のヘキサナール濃度が24.0μg/lより大きい原乳は、D3時にヘキサナール濃度が高くなり、さらにD3時に官能評価が不合格になる可能性のあることがわかった。これらを総合すると、迅速法により、ヘキサナール濃度が24μg/lであることを基準として、原乳の自発性酸化臭の発生のリスクを評価できることがわかった。
【0116】
なお、上記25種類の原乳について、迅速法によるヘキサナール濃度とD3原乳のヘキサナール濃度との間の関係性を調べたところ、相関関係(R2=0.7035)があることがわかった。
本発明の一態様の方法を利用することにより、原乳の使用時期を受け入れ後短時間で決定することができることから、自発性酸化臭の発生が抑制された品質の良好な牛乳などの乳製品を産業的規模で安定的に製造することが可能であり、さらに原乳の不要な廃棄を低減することが可能である。