(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121101
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】アルカリ電池用の正極合剤、アルカリ電池用の正極合剤の製造方法、およびアルカリ電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/06 20060101AFI20240830BHJP
H01M 4/50 20100101ALI20240830BHJP
H01M 4/54 20060101ALI20240830BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240830BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
H01M4/06 H
H01M4/06 E
H01M4/50
H01M4/54
H01M4/36 E
H01M4/62 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028004
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】玉地 恒昭
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA04
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA29
5H050CB15
5H050DA02
5H050DA10
5H050EA08
5H050EA09
5H050FA17
5H050GA08
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA05
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】十分な放電容量を維持することができるアルカリ電池用の正極合剤を提供する。
【解決手段】正極合剤2は、ペレット状に形成されたアルカリ電池用の正極合剤であって、酸化銀および二酸化マンガンを含む正極活物質を備える、酸化銀は、一次粒子を顆粒状に形成した二次粒子である。二酸化マンガンは、電解二酸化マンガンおよび化成二酸化マンガンを複合化した二次粒子である。二酸化マンガンの二次粒子の粒径は、酸化銀の二次粒子の粒径に揃えられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペレット状に形成されたアルカリ電池用の正極合剤であって、
酸化銀および二酸化マンガンを含む正極活物質を備え、
前記酸化銀は、一次粒子を顆粒状に形成した二次粒子であり、
前記二酸化マンガンは、電解二酸化マンガンおよび化成二酸化マンガンを複合化した二次粒子であり、
前記二酸化マンガンの前記二次粒子の粒径は、前記酸化銀の前記二次粒子の粒径に揃えられている、
アルカリ電池用の正極合剤。
【請求項2】
前記化成二酸化マンガンの前駆体は、硝酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガンおよびシュウ酸マンガンのうち少なくとも1つである、
請求項1に記載のアルカリ電池用の正極合剤。
【請求項3】
前記二酸化マンガンの前記二次粒子の粒径は、500μm以下である、
請求項1または請求項2に記載のアルカリ電池用の正極合剤。
【請求項4】
前記二酸化マンガンの前記二次粒子の粒径は、75μm以上250μm以下である、
請求項3に記載のアルカリ電池用の正極合剤。
【請求項5】
黒鉛を含む導電助剤をさらに備える、
請求項1または請求項2に記載のアルカリ電池用の正極合剤。
【請求項6】
グラフェンを含む導電助剤をさらに備える、
請求項1または請求項2に記載のアルカリ電池用の正極合剤。
【請求項7】
電解二酸化マンガンおよび化成二酸化マンガンの前駆体を、前記前駆体の溶融温度以上で混合して二酸化マンガンの二次粒子を作成し、
酸化銀の二次粒子および前記二酸化マンガンの前記二次粒子を、粒径を揃えて混合して混合物を作成し、
前記混合物を摺り切りにより計量し、ペレット状に打錠する、
アルカリ電池用の正極合剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載のアルカリ電池用の正極合剤を備えたアルカリ電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池用の正極合剤、アルカリ電池用の正極合剤の製造方法、およびアルカリ電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカリ電池の正極活物質として、酸化銀に二酸化マンガンを加えたものがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、正極活物質に添加する二酸化マンガンの粒径を大きくし、電解液の含浸性を維持することで、電池の充分な放電容量を確保できることが開示されている。また、特許文献1には、ペレット状の正極合剤を形成するために、ポリフッ化ビニリデンやスチレンブタジエンゴム等の樹脂製の結着材を用いることが開示されている。
【0003】
また、アルカリ電池の正極活物質として、化成二酸化マンガンおよび電解二酸化マンガンを併用したものがある(例えば、特許文献2参照)。特許文献2によれば、化学合成二酸化マンガン粉末と電解二酸化マンガン粉末との混合物を正極活物質として用いることによって、電解二酸化マンガン粉末のみを正極活物質として用いた場合に比べて、重負荷放電特性の優れたアルカリ乾電池を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-162646号公報
【特許文献2】特開平3-252055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酸化銀および二酸化マンガンを含む正極活物質を有する正極合剤においては、有機系の結着材を用いると、結着材が酸化銀によって酸化されるとともに酸化銀が還元され、酸化銀の浪費が生じる。このため、電池の放電容量低下が生じ得る。また、ペレット状の正極合剤を形成するにあたり酸化銀および二酸化マンガンの粒径を最適化することで、電池の放電容量の向上を図るという点で従来技術には改善の余地がある。
【0006】
そこで本発明は、十分な放電容量を維持することができるアルカリ電池用の正極合剤、アルカリ電池用の正極合剤の製造方法、およびアルカリ電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係るアルカリ電池用の正極合剤は、ペレット状に形成されたアルカリ電池用の正極合剤であって、酸化銀および二酸化マンガンを含む正極活物質を備え、前記酸化銀は、一次粒子を顆粒状に形成した二次粒子であり、前記二酸化マンガンは、電解二酸化マンガンおよび化成二酸化マンガンを複合化した二次粒子であり、前記二酸化マンガンの前記二次粒子の粒径は、前記酸化銀の前記二次粒子の粒径に揃えられている。
【0008】
第1の態様によれば、二酸化マンガンの二次粒子を形成するにあたり、化成二酸化マンガンの前駆体を電解二酸化マンガンの結着材として用いることができる。これにより、有機系の結着材を用いることなく二酸化マンガンの二次粒子を形成できるので、有機系の結着材により酸化銀が還元されて正極活物質が劣化することが抑制された正極合剤が得られる。また、正極合剤には有機系の結着材の代わりに化成二酸化マンガンが含まれるため、正極合剤に有機系の結着材を用いた構成と比較して、電池のエネルギー密度を向上させることができる。さらに、酸化銀および二酸化マンガンそれぞれの二次粒子の粒径が揃っているので、正極合剤をペレット状に形成する際に、混合された酸化銀および二酸化マンガンの二次粒子の混合物を精度よく摺り切り計量することができる。したがって、電池の放電容量のばらつきを抑制して、電池の平均容量の向上を図ることできる。以上により、十分な放電容量を維持することができるアルカリ電池用の正極合剤を提供できる。
【0009】
本発明の第2の態様に係るアルカリ電池用の正極合剤は、上記第1の態様に係るアルカリ電池用の正極合剤において、前記化成二酸化マンガンの前駆体は、硝酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガンおよびシュウ酸マンガンのうち少なくとも1つであってもよい。
【0010】
第2の態様によれば、化成二酸化マンガンの前駆体の材種によって溶融温度が相違するので、二酸化マンガンの二次粒子を形成する際の加熱温度を調整することができる。
【0011】
本発明の第3の態様に係るアルカリ電池用の正極合剤は、上記第1の態様または第2の態様に係るアルカリ電池用の正極合剤において、前記二酸化マンガンの前記二次粒子の粒径は、500μm以下であってもよい。
【0012】
第3の態様によれば、多孔状の正極合剤に隙間が形成されやすくなり、電解液の保液性の向上を図ることができる。
【0013】
本発明の第4の態様に係るアルカリ電池用の正極合剤は、上記第3の態様に係るアルカリ電池用の正極合剤において、前記二酸化マンガンの前記二次粒子の粒径は、75μm以上250μm以下であってもよい。
【0014】
第4の態様によれば、正極活物質の密度の向上を図ることができる。
【0015】
本発明の第5の態様に係るアルカリ電池用の正極合剤は、上記第1の態様から第4の態様のいずれかの態様に係るアルカリ電池用の正極合剤において、黒鉛を含む導電助剤をさらに備えていてもよい。
【0016】
第5の態様によれば、正極合剤中における電流の流れが良好になる。これにより、十分な放電容量が得られ、かつ大電流を供給することが可能なアルカリ電池を形成できる。
【0017】
本発明の第6の態様に係るアルカリ電池用の正極合剤は、上記第1の態様から第5の態様のいずれかの態様に係るアルカリ電池用の正極合剤において、グラフェンを含む導電助剤をさらに備えていてもよい。
【0018】
第6の態様によれば、正極合剤中における電流の流れが良好になる。これにより、十分な放電容量が得られ、かつ大電流を供給することが可能なアルカリ電池を形成できる。
【0019】
本発明の第7の態様に係るアルカリ電池用の正極合剤の製造方法は、電解二酸化マンガンおよび化成二酸化マンガンの前駆体を、前記前駆体の溶融温度以上で混合して二酸化マンガンの二次粒子を作成し、酸化銀の二次粒子および前記二酸化マンガンの前記二次粒子を、粒径を揃えて混合して混合物を作成し、前記混合物を摺り切りにより計量し、ペレット状に打錠する。
【0020】
第7の態様によれば、溶融した化成二酸化マンガンの前駆体を電解二酸化マンガンの結着材として用いることができる。これにより、有機系の結着材を用いることなく二酸化マンガンの二次粒子を形成できるので、酸化銀が還元されて正極活物質が劣化することが抑制された正極合剤を形成できる。また、有機系の結着材の代わりに化成二酸化マンガンを含む正極合剤が形成されるため、正極合剤に有機系の結着材を用いた場合と比較して、電池のエネルギー密度の向上させることが可能な正極合剤を形成することができる。さらに、混合された酸化銀および二酸化マンガンの二次粒子の混合物を摺り切りにより精度よく計量することができる。したがって、電池の放電容量のばらつきが抑制され、電池の平均容量の向上が図られたアルカリ電池を形成することできる。以上により、十分な放電容量を維持することができるアルカリ電池用の正極合剤を提供できる。
【0021】
本発明の第8の態様に係るアルカリ電池は、上記第1の態様から第6の態様のいずれかの態様に係るアルカリ電池用の正極合剤を備える。
【0022】
第8の態様によれば、十分な放電容量を維持することができるアルカリ電池が得られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、十分な放電容量を維持することができるアルカリ電池用の正極合剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】第1実施形態の正極合剤の製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】第2実施形態の正極合剤の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。また以下の説明では、アルカリ電池の一例として、酸化銀電池(単に「電池1」という。)を例に挙げて説明する。
【0026】
図1は、実施形態に係る電池の断面図である。
実施形態の電池1は、平面視円形状に形成された、いわゆるコイン(ボタン)形の酸化銀電池(アルカリ電池)である。
図1に示すように、電池1は、正極合剤2と、負極合剤3と、正極合剤2および負極合剤3を分離するセパレータ4と、正極合剤2および負極合剤3を収容した外装体5と、を備えている。
【0027】
外装体5は、有底筒状の正極缶10と、正極缶10の内側に嵌め込まれた環状のガスケット30と、正極缶10の開口部に挿入されてガスケット30を介して正極缶10に組み付けられた有頂筒状の負極缶20と、を備える。外装体5は、正極缶10と負極缶20との間に正極合剤2および負極合剤3を収容する収容空間を形成する。正極缶10および負極缶20は、絶縁性のガスケット30を挟んで互いに間隔をあけて配置されている。外装体5は、正極缶10の開口縁をかしめ加工により絞ることで、ガスケット30を負極缶20の外周面に押し付けて封口されている。正極缶10、負極缶20およびガスケット30は、それぞれの中心軸線が共通軸上に位置するように配置されている。
【0028】
正極缶10は、上方に開口した円筒状に形成されている。正極缶10は、円板状の底部11と、底部11の外周縁から全周にわたって正極缶10の開口縁に向けて上方に延びる周壁部12と、を備える。例えば、正極缶10は、ステンレス鋼板や冷間圧延鋼板にニッケルメッキを施したものを絞り加工等して形成されている。正極缶10を形成するステンレス鋼板として、例えばSUS316LやSUS329J4L等を用いることができる。ただし、正極缶10の材種は特に限定されない。
【0029】
負極缶20は、下方に開口した円筒状に形成されている。負極缶20は、円板状の頂部21と、頂部21の外周縁から全周にわたって負極缶20の開口縁に向けて下方に延びる周壁部22と、を備える。例えば、負極缶20は、ステンレス鋼板に銅やニッケル等を圧着してなるクラッド材を絞り加工等して形成されている。負極缶20を形成するステンレス鋼板として、例えばSUS316LやSUS329J4L、あるいはSUS304等を用いることができる。ただし、負極缶20の材種は特に限定されない。負極缶20の周壁部22は、その下端部で外側に折り返された二重筒構造を有している。
【0030】
ガスケット30は、樹脂材料により形成されている。ガスケット30を形成する樹脂材料としては、例えばナイロン等のポリアミド樹脂や、四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)等のフッ素樹脂などを用いることができる。ガスケット30は、円環状に形成されている。ガスケット30は、正極缶10の周壁部12が負極缶20の周壁部22に対してかしめられることで、正極缶10と負極缶20との間に密着して外装体5の内部を密封するとともに正極缶10と負極缶20とを絶縁する。ガスケット30には、負極缶20の開口部が嵌め込まれる溝31が負極缶20の周方向の全体に亘って環状に形成されている。
【0031】
セパレータ4は、正極缶10と負極缶20との間の収容空間を、正極合剤2が配置される正極収容空間と、負極合剤3が配置される負極収容空間と、に上下に区画している。すなわち、セパレータ4は、正極合剤2と負極合剤3との間に介在している。正極収容空間は、セパレータ4の下方に形成され、正極缶10の内面に臨んでいるとともに、負極缶20から隔絶されている。負極収容空間は、セパレータ4の上方に形成され、負極缶20の内面に臨んでいるとともに、正極缶10から隔絶されている。セパレータ4は、電池1の外形に倣って平面視円形状に形成されている。セパレータ4の外径は、例えば正極缶10の内径に略一致している。セパレータ4は、例えばガスケット30における正極缶10の底部11と対向する箇所に全周に亘って接触するように配置されている。セパレータ4は、負極缶20への正極合剤2の接触、および正極缶10への負極合剤3の接触を抑制している。セパレータ4には、電解液が含浸されている。
【0032】
セパレータ4は、大きなイオン透過度を有し、かつ、高い機械的強度を有する絶縁膜が用いられる。セパレータ4は、一般的な電池のセパレータに用いられるものを適用できるが、中でも250mΩ・cm2以下程度の電気抵抗率を有するものが好ましい。例えば、セパレータ4は、セロハンやグラフト膜等からなる。これらの材料を組み合わせて用いても良いし、同種の材料からなる膜やシートを必要枚数重ねて用いても良い。またセラミックスとバインダーとからなる多孔質膜を用いてもよい。さらに、上述した材料を基材として、セルロース繊維やガラス繊維からなる不織布などの含浸材と併用してもよい。
【0033】
正極合剤2は、ペレット状に形成されている。正極合剤2は、正極活物質を含んでいる。正極合剤2は、正極活物質以外に、導電助剤や電解液、添加剤等を含んでいてもよい。正極活物質は、酸化銀(Ag2O)と二酸化マンガン(MnO2)との混合物である。例えば、導電助剤は、黒鉛(グラファイト)や膨張化黒鉛等を用いることができる。添加剤は、水素吸蔵合金(LaNi5)などを用いることができる。
【0034】
正極合剤2に含まれる酸化銀は、粉末状の一次粒子を顆粒状に形成した二次粒子である。例えば、酸化銀の二次粒子の粒径は、75μm以上300μm以下である。正極合剤2に含まれる二酸化マンガンは、電解二酸化マンガン(EMD:Electrolic Manganese Dioxide)および化成二酸化マンガン(CMD:Chemical Manganese Dioxide)を複合化した二次粒子である。二酸化マンガンの二次粒子の形成方法は後述する。正極合剤2に含まれる電解二酸化マンガンと化成二酸化マンガンの比率は、8:2~9:1の割合であることが望ましい。ただし、電解二酸化マンガンと化成二酸化マンガンの比率は、特に限定されない。二酸化マンガンの二次粒子の粒径は、酸化銀の二次粒子の粒径に揃えられている。具体的には、二酸化マンガンの二次粒子と酸化銀の二次粒子のそれぞれについて、篩を用いて整粒を行うことで粒径を揃えることができる。二酸化マンガンの二次粒子の粒径は、500μm以下であることが望ましく、5μm以上250μm以下であることがより望ましい。なお、本実施形態における粒径は、レーザー回折法を用いて測定することができ、上述の粒子径の範囲は、概ね全粒子の粒径が収まることを意味する。ただし、上述の粒子径の範囲に全粒子の粒径が収まることが望ましい。なお粒径は、電子顕微鏡やレーザー顕微鏡等によるイメージング手法による方法や、デジタルカメラ等による直接的計測法、篩分けによって測定されてもよい。
【0035】
二酸化マンガンは、正極合剤2中に50質量%以下含まれていることが好ましい。正極合剤2中の二酸化マンガンの含有量は、25質量%以上50質量%以下が好ましく、25質量%以上44質量%以下がより好ましい。二酸化マンガンの含有量を上記範囲とすることで、酸化銀の使用量を少なくして低コスト化するとともに、放電特性の向上効果を得ることができ、特に大電流放電時、放電末期の容量低下を防ぐことができる。
【0036】
例えば、負極合剤3は、負極活物質や増粘剤、電解液(アルカリ水溶液)、その他酸化亜鉛等の添加剤を含んでいることが好ましい。酸化亜鉛(ZnO)は伝導度安定剤として機能する。添加剤には粘弾性調整剤、樹脂粉末などが含まれていても良い。負極活物質として、例えば、亜鉛粉末または亜鉛合金粉末を用いることができる。増粘剤としては、ポリアクリル酸またはカルボキシメチルセルロース、もしくはポリアクリル酸とカルボキシメチルセルロースとの混合物が好ましい。ポリアクリル酸またはカルボキシメチルセルロースを用いることによって、負極合剤3の電解液に対する親液性及び保液性を向上することができる。
【0037】
電解液は、水酸化カリウム(KOH)水溶液、又は水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液、又はそれらの混合液を用いることができる。
粘弾性調整材は、負極合剤3の粘弾性を、良好なハンドリング性が得られる粘弾性とし、且つ生産性を向上するために配合される。この粘弾性調整材としては、強アルカリ性である電解液と反応しない樹脂粉末が用いられる。ここでは、電解液と化学的反応をせず、且つ電解液を吸収しない状態を、電解液と反応しない状態とする。
【0038】
[第1実施形態]
第1実施形態の正極合剤の製造方法について説明する。
最初に、二酸化マンガンの二次粒子の形成方法について説明する。第1実施形態の二酸化マンガンの二次粒子の形成方法は、第1加熱工程S10と、前駆体混合工程S20と、第2加熱工程S30と、脱気工程S40と、置換工程S50と、を有する。
【0039】
第1加熱工程S10では、電解二酸化マンガンの粉末を撹拌機に投入する。第1加熱工程S10では、電解二酸化マンガンの粉末を撹拌機の羽で撹拌するとともに、前駆体混合工程S20で混合される化成二酸化マンガンの前駆体の溶融温度以上まで電解二酸化マンガンを加熱する。次いで、前駆体混合工程S20を行う。
【0040】
前駆体混合工程S20では、電解二酸化マンガンが投入された撹拌機に、化成二酸化マンガンの前駆体を投入し、撹拌中の電解二酸化マンガンに化成二酸化マンガンの前駆体を混合する。化成二酸化マンガンの前駆体は、硝酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガン、およびシュウ酸マンガンのうち少なくとも1つである。化成二酸化マンガンの前駆体として、硝酸マンガン、酢酸マンガンおよびシュウ酸マンガンの1つを用いることが望ましい。特に後述する溶融温度および分解温度の観点で酢酸マンガンが最も扱いやすいので、化成二酸化マンガンの前駆体として、酢酸マンガンが好適である。化成二酸化マンガンの前駆体として、硝酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガンおよびシュウ酸マンガンの複数を混合してもよい。
【0041】
前駆体混合工程S20では、電解二酸化マンガンおよび化成二酸化マンガンの前駆体の混合物を撹拌機の羽で撹拌するととともに、前記混合物の温度を化成二酸化マンガンの前駆体の溶融温度以上に保つ。硝酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガンおよびシュウ酸マンガンそれぞれの溶融温度は、37℃、700℃、80℃、100℃である。これにより、化成二酸化マンガンの前駆体が溶融し、電解二酸化マンガンを主材として化成二酸化マンガンの前駆体を結着材とすることができる。そして、前記混合物が撹拌されることで、前記混合物からなる顆粒状の二次粒子が形成される。次いで、第2加熱工程S30を行う。
【0042】
第2加熱工程S30では、有酸素雰囲気下で前記混合物を化成二酸化マンガンの前駆体の分解温度以上まで加熱する。硝酸マンガン、酢酸マンガンおよびシュウ酸マンガンそれぞれの分解温度は、140℃、323℃、150℃である。ただし、前記混合物の温度を電解二酸化マンガンの分解温度未満に保つ。例えば電解二酸化マンガンの分解温度のピークが528℃であり分解開始温度が440℃である場合、前記混合物の温度は440℃以下に保つことが好ましい。第2加熱工程S30では、化成二酸化マンガンの前駆体を分解して化成二酸化マンガンを得る。これにより、前記混合物の全体が二酸化マンガンとなる。次いで、脱気工程S40を行う。
【0043】
脱気工程S40では、前記混合物を真空加熱する。これにより、化成二酸化マンガンの前駆体の未反応成分が除去される。化成二酸化マンガンの前駆体の未反応成分の残存率は、2質量%以下であることが望ましい。化成二酸化マンガンに残存する二酸化炭素は、2質量%以下であることがより望ましい。例えば、二酸化酸素の残存率は、FT-IR(赤外線分光分析法)を用いて算出される。具体的には、試料とKBr(臭化カリウム)をメノウの乳鉢で混合し、錠剤を成形して、フーリエ変換を伴う赤外線分光法にて、表面に吸着して存在する二酸化炭素の検量線を作製して算出する。次いで、置換工程S50を行う。
【0044】
置換工程S50では、前記混合物が配置された雰囲気を窒素ガスで置換する。これにより、電解二酸化マンガンおよび化成二酸化マンガンを複合化した、二酸化マンガンの二次粒子が得られる。得られた二酸化マンガンの二次粒子は、粉砕や分級などにより整粒されてもよい。
【0045】
続いて、正極合剤をペレット状に成形する方法について説明する。
上記工程を経て得られた二酸化マンガンの二次粒子は、酸化銀の二次粒子と混合される。二酸化マンガンおよび酸化銀の混合物は、圧粉成型によりペレット状に打錠される。二酸化マンガンおよび酸化銀の混合物は、所定の比率で混合された後、圧粉成型されるため計量される。二酸化マンガンおよび酸化銀の計量は、混合物の状態で摺り切りによりなされる。摺り切りは、二酸化マンガンおよび酸化銀の混合物が圧粉成型用の打錠機の臼に配置された状態でなされてもよいし、打錠機の臼に移し替えられる前の容器に配置された状態でなされてもよい。
【0046】
以上に説明したように、本実施形態の正極合剤2はペレット状に形成されており、正極活物質の二酸化マンガンが電解二酸化マンガンおよび化成二酸化マンガンを複合化した二次粒子である。この構成によれば、二酸化マンガンの二次粒子を形成するにあたり、化成二酸化マンガンの前駆体を電解二酸化マンガンの結着材として用いることができる。これにより、有機系の結着材を用いることなく二酸化マンガンの二次粒子を形成できるので、有機系の結着材により酸化銀が還元されて正極活物質が劣化することが抑制された正極合剤が得られる。また、正極合剤2には有機系の結着材の代わりに化成二酸化マンガンが含まれるため、正極合剤に有機系の結着材を用いた構成と比較して、正極合剤2を備える電池1のエネルギー密度を向上させることができる。
【0047】
さらに、二酸化マンガンの二次粒子の粒径は、酸化銀の二次粒子の粒径に揃えられている。これにより、正極合剤2をペレット状に形成する際に、混合された酸化銀および二酸化マンガンの二次粒子の混合物を精度よく摺り切り計量することができる。また、酸化銀および二酸化マンガンの二次粒子を混合する際に酸化銀および二酸化マンガンが分離しにくいので、所望の比率で酸化銀および二酸化マンガンを混合できる。したがって、電池の放電容量のばらつきを抑制して、電池の平均容量の向上を図ることできる。
以上により、十分な放電容量を維持することができるアルカリ電池用の正極合剤2を提供できる。
【0048】
化成二酸化マンガンの前駆体は、硝酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガンおよびシュウ酸マンガンのうち少なくとも1つである。この構成によれば、化成二酸化マンガンの前駆体の材種によって溶融温度が相違するので、二酸化マンガンの二次粒子を形成する際の加熱温度を調整することができる。
【0049】
二酸化マンガンの二次粒子の粒径は、500μm以下である。この構成によれば、多孔状の正極合剤に隙間が形成されやすくなり、電解液の保液性の向上を図ることができる。
【0050】
二酸化マンガンの二次粒子の粒径は、75μm以上250μm以下である。この構成によれば、正極活物質の密度の向上を図ることができる。
【0051】
正極合剤2は、黒鉛を含む導電助剤をさらに備える。この構成によれば、正極合剤2中における電流の流れが良好になる。これにより、十分な放電容量が得られ、かつ大電流を供給することが可能な電池1を形成できる。
【0052】
なお、正極合剤2の導電助剤は、黒鉛に代えてグラフェンを含んでもよい。この構成によれば、グラフェンが粒子間を広く電子伝導性のネットワークを形成し、導電助剤が黒鉛を含む場合と同様の作用効果を奏する。
【0053】
そして、本実施形態の電池1は、上記の正極合剤2を備えるので、十分な放電容量を維持することができる。
【0054】
なお上記実施形態では、第1加熱工程S10において電解二酸化マンガンの単体を加熱しているが、第1加熱工程S10を省略し、前駆体混合工程S20で電解二酸化マンガンおよび化成二酸化マンガンの前駆体の混合物を加熱し始めてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、電解二酸化マンガンおよび化成二酸化マンガンの前駆体を撹拌機による回転撹拌により混合しているが、電解二酸化マンガンおよび化成二酸化マンガンの前駆体の混合方法は特に限定されない。例えば、電解二酸化マンガンおよび化成二酸化マンガンは、揺動混合されてもよい。また、化成二酸化マンガンの前駆体は、流動層中の電解二酸化マンガンに滴下または噴霧されてもよい。
【0056】
[第2実施形態]
第2実施形態の正極合剤の製造方法について説明する。第2実施形態では、電解二酸化マンガンおよび化成二酸化マンガンの前駆体の混合物に導電助剤を混合する点で、第1実施形態と異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0057】
図3は、第2実施形態の正極合剤の製造方法を示すフローチャートである。
図3に示すように、第2実施形態の二酸化マンガンの二次粒子の形成方法は、導電助剤混合工程S60を有する。導電助剤混合工程S60は、第1加熱工程S10と第2加熱工程S30との間で行われる。本実施形態では、導電助剤混合工程S60は、前駆体混合工程S20と第2加熱工程S30との間で行われる。
【0058】
導電助剤混合工程S60は、電解二酸化マンガンが投入された撹拌機に導電助剤を投入し、電解二酸化マンガンに導電助剤を混合する。なお、本実施形態では、電解二酸化マンガンおよび化成二酸化マンガンの前駆体の混合物に導電助剤を混合する。導電助剤混合工程S60では、電解二酸化マンガンおよび導電助剤の混合物を撹拌機の羽で撹拌するととともに、電解二酸化マンガンおよび導電助剤の混合物の温度を化成二酸化マンガンの前駆体の溶融温度以上に保つ。これにより、導電助剤を含む、電解二酸化マンガンおよび化成二酸化マンガンの前駆体の混合物からなる二次粒子が形成される。また、撹拌羽とは異なる回転軸上に、粗粒子を粉砕する粉砕羽を伴った加熱混合装置を使うことで効率的な粒子の形成が可能となる。
【0059】
本実施形態では、第1実施形態と同様の効果を奏する。なお、導電助剤混合工程S60は、第1加熱工程S10と前駆体混合工程S20との間で行われてもよい。この場合、電解二酸化マンガンおよび導電助剤の混合物を圧粉成型した後に粉砕し、粉砕された混合物を化成二酸化マンガンの前駆体と混合してもよい。
【0060】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、アルカリ電池の一種である酸化銀電池に本発明を適用した例を示しているが、過酸化銀電池に本発明を適用してもよい。
【0061】
上記実施形態では、電池1が平面視円形状のコイン形電池であるが、電池の形状は特に限定されない。例えば、電池は平面視矩形状であってもよい。また、上記実施形態では、負極缶20の周壁部22が折り返し構造を有しているが、負極缶の周壁部は折り返しのない構造を有していてもよい。また、外装体は、金属缶に代えて、ラミネートフィルム等により形成された樹脂容器を備えていてもよい。
【0062】
上記実施形態では、二酸化マンガンの二次粒子の結着材として化成二酸化マンガンの前駆体を用いているが、正極合剤2にはポリアクリル酸ナトリウム等の有機系の結着材が含まれていてもよい。ただし、酸化銀が還元されて正極活物質が劣化することを抑制できるという点で、正極合剤2には有機系の結着材が含まれていないことが望ましい。
【0063】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0064】
1…電池(アルカリ電池) 2…正極合剤 3…負極合剤 4…セパレータ 5…外装体 10…正極缶 11…底部 12…周壁部 20…負極缶 21…頂部 22…周壁部 30…ガスケット 31…溝