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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121108
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】区画貫通部防火処理構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/94 20060101AFI20240830BHJP
   A62C 3/16 20060101ALI20240830BHJP
   F16L 5/00 20060101ALI20240830BHJP
   F16L 5/04 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
E04B1/94 M
A62C3/16 B
F16L5/00 Q
F16L5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028015
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】000119830
【氏名又は名称】因幡電機産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】龍田 佳招
(72)【発明者】
【氏名】古賀 誠一
(72)【発明者】
【氏名】正木 良和
(72)【発明者】
【氏名】菅原 正道
(72)【発明者】
【氏名】森 清輝
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DE01
2E001EA08
2E001FA03
2E001FA11
2E001GA65
2E001HA32
2E001HA33
2E001HA34
(57)【要約】
【課題】木造建築物の区画体を長尺体が貫通する区画貫通部の防火処理を、容易にかつ均質に行えるようにする。
【解決手段】木造建築物の区画体(10)を長尺体(9)が貫通する区画貫通部(P)を防火構造とするための区画貫通部防火処理構造(S)は、筒状の不燃スリーブ(30)を用いて、区画体(10)の両側面が不燃ボード(20)で被覆され、区画体(10)に不燃スリーブ(30)の外形に応じた形状の貫通孔が形成され、貫通孔に不燃スリーブ(30)が配置され、不燃スリーブ(30)に長尺体(9)が挿通されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建築物の区画体を長尺体が貫通する区画貫通部を防火構造とするための区画貫通部防火処理構造であって、
筒状の不燃スリーブを用い、
前記区画体の両側面が不燃ボードで被覆され、前記区画体に前記不燃スリーブの外形に応じた形状の貫通孔が形成され、前記貫通孔に前記不燃スリーブが配置され、前記不燃スリーブに前記長尺体が挿通されている区画貫通部防火処理構造。
【請求項2】
前記不燃ボードは、前記区画体の側面に固定される内層ボードと、前記内層ボードに固定される外層ボードと、を含み、
前記区画体の少なくとも一方側では、前記不燃スリーブの外形に応じた形状の貫通孔が前記内層ボードに形成されているとともに、前記長尺体の外形に応じた形状であって前記貫通孔よりも小径の小径貫通孔が前記外層ボードに形成され、
前記外層ボードにおける、前記小径貫通孔と前記貫通孔との内径差によって生じる環状領域で、前記外層ボードと前記不燃スリーブとが前記区画体の厚み方向に固定されている請求項1に記載の区画貫通部防火処理構造。
【請求項3】
前記不燃スリーブが、グラスウール、ロックウール、セラミックウール、又はアルカリアースシリケート繊維の成形体で構成されている請求項1又は2に記載の区画貫通部防火処理構造。
【請求項4】
前記長尺体が、2mm以上10mm以下の厚みを有する難燃性の樹脂管である請求項3に記載の区画貫通部防火処理構造。
【請求項5】
前記不燃スリーブの耐熱温度が300℃以上1800℃以下である請求項1又は2に記載の区画貫通部防火処理構造。
【請求項6】
前記不燃スリーブの密度が10kg/m以上400kg/m以下である請求項1又は2に記載の区画貫通部防火処理構造。
【請求項7】
前記区画体が、中空壁で構成され、
前記中空壁の内部における前記不燃スリーブの周囲に、無機繊維系の耐火材が充填されている請求項1又は2に記載の区画貫通部防火処理構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、区画貫通部防火処理構造に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築物の区画体を長尺体が貫通する区画貫通部は、火災が発生した場合に当該区画貫通部を経由して延焼するのを防止ないし遅延するために、防火構造とすることが要請される(例えば非特許文献1を参照)。
【0003】
このような区画貫通部防火処理構造の一例を、図11図13に示す。この例の区画貫通部防火処理構造では、区画体10を長尺体9が貫通する区画貫通部Pの防火処理を、不燃ボード20と、開口用不燃ボード70とを用いて実現している。より具体的には、区画体10の両側面(一対の板体13の外面)が不燃ボード20で被覆され、区画体10に形成される矩形状の貫通孔13aの各辺部を覆うように開口用不燃ボード70が配置され、開口用不燃ボード70で囲まれた区画貫通部Pに長尺体9が配置され、開口用不燃ボード70と長尺体9との間の隙間にロックウール等の耐火材50が充填されて実現されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“省令準耐火構造の仕様の概要(戸建て木造軸組工法)”,[online],2019年4月,住宅金融支援機構,[令和4年12月23日検索],インターネット<URL:https://www.flat35.com/files/300187905.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、区画体10に形成される貫通孔13aに開口用不燃ボード70を配置する際には、その前段階で開口用不燃ボード70の大きさを少しずつ小さくして貫通孔13aの寸法に合わせており、手間がかかっていた。しかも、矩形状の貫通孔13aの各辺部を覆うように開口用不燃ボード70を配置する場合には、4つの開口用不燃ボード70を準備するために大きさ調整を4回行う必要があり、さらに図示の例のように開口用不燃ボード70を2層設ける場合には、大きさ調整を8回(4回×2層分)行う必要があり、多大な手間がかかっていた。
【0006】
また、区画体10を構成する横架材12に開口用不燃ボード70を固定するのに、比較的狭い貫通孔13aの中で固定具40を打ち込む必要があり、この点も施工に手間取る原因となっていた。さらに、1層当たり4つの開口用不燃ボード70を組み合わせて枠状に配置するため、作業者の腕前次第では隅部に隙間が生じる場合がある等、仕上がり状態にばらつきがあった。
【0007】
以上に鑑み、木造建築物の区画体を長尺体が貫通する区画貫通部の防火処理を、容易にかつ均質に行えるようにすることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る区画貫通部防火処理構造は、
木造建築物の区画体を長尺体が貫通する区画貫通部を防火構造とするための区画貫通部防火処理構造であって、
筒状の不燃スリーブを用い、
前記区画体の両側面が不燃ボードで被覆され、前記区画体に前記不燃スリーブの外形に応じた形状の貫通孔が形成され、前記貫通孔に前記不燃スリーブが配置され、前記不燃スリーブに前記長尺体が挿通されている。
【0009】
この構成によれば、区画体の両側面に対しては不燃ボードによって防火処理を施すことができるともに、貫通孔に対しては不燃スリーブによって防火処理を施すことができ、全体として区画貫通部の防火処理を適切に行うことができる。筒状の不燃スリーブを用いることで、例えば開口用不燃ボードを用いる場合に比べて大きさ調整や組立作業が不要となり、施工性を大きく向上させることができる。また、作業者の技量によらずに良好に仕上がるようにできる。これらのことから、木造建築物の区画体を長尺体が貫通する区画貫通部の防火処理を、容易にかつ均質に行うことができる。
【0010】
以下、本発明の好適な態様について説明する。但し、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定される訳ではない。
【0011】
一態様として、
前記不燃ボードは、前記区画体の側面に固定される内層ボードと、前記内層ボードに固定される外層ボードと、を含み、
前記区画体の少なくとも一方側では、前記不燃スリーブの外形に応じた形状の貫通孔が前記内層ボードに形成されているとともに、前記長尺体の外形に応じた形状であって前記貫通孔よりも小径の小径貫通孔が前記外層ボードに形成され、
前記外層ボードにおける、前記小径貫通孔と前記貫通孔との内径差によって生じる環状領域で、前記外層ボードと前記不燃スリーブとが前記区画体の厚み方向に固定されていることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、外層ボードにおける小径貫通孔の周囲の環状領域を利用して、外層ボードと不燃スリーブとを区画体の外側から固定することができる。よって、スペースの制約が少ない位置から不燃スリーブの固定を容易に行うことができる。
【0013】
一態様として、
前記不燃スリーブが、グラスウール、ロックウール、セラミックウール、又はアルカリアースシリケート繊維の成形体で構成されていることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、不燃性でかつ耐熱性にも優れた不燃スリーブを用いて、区画貫通部の防火処理を良好に行うことができる。また、このような不燃スリーブは比較的軽量なものが多いので取り扱いやすく、この点からも施工性を向上させることができる。
【0015】
一態様として、
前記長尺体が、2mm以上10mm以下の厚みを有する難燃性の樹脂管であることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、仮に火災発生時に樹脂管が溶融したとしても、溶融した樹脂が不燃スリーブの構成繊維と絡まってその形状を維持するため、防火性能の向上を図ることができる。
【0017】
一態様として、
前記不燃スリーブの耐熱温度が300℃以上1800℃以下であることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、過度のコストアップを回避しつつ、不燃スリーブに十分な耐火性を付与することができる。
【0019】
一態様として、
前記不燃スリーブの密度が10kg/m以上400kg/m以下であることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、良好な取扱性を確保しつつ、不燃スリーブに十分な強度を付与することができる。
【0021】
一態様として、
前記区画体が、中空壁で構成され、
前記中空壁の内部における前記不燃スリーブの周囲に、無機繊維系の耐火材が充填されていることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、防火性能をさらに高めることができる。
【0023】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態の区画貫通部防火処理構造の一部破断斜視図
図2】不燃スリーブの斜視図
図3】区画貫通部の防火処理を行う際の一局面を示す断面図
図4】区画貫通部の防火処理を行う際の一局面を示す断面図
図5】区画貫通部の防火処理を行う際の一局面を示す断面図
図6】区画貫通部の防火処理を行う際の一局面を示す断面図
図7】区画貫通部の防火処理を行う際の一局面を示す断面図
図8】区画貫通部の防火処理を行う際の一局面を示す断面図
図9】区画貫通部の防火処理を行う際の一局面を示す断面図
図10】区画貫通部の防火処理を行う際の一局面を示す断面図
図11】従来仕様の区画貫通部防火処理構造の一部破断斜視図
図12】従来仕様の区画貫通部防火処理構造の施工中の一局面を示す斜視図
図13】従来仕様の区画貫通部防火処理構造の部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
区画貫通部防火処理構造の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態の区画貫通部防火処理構造Sは、木造建築物の区画体10を長尺体9が貫通する区画貫通部Pに対して、その区画貫通部Pを防火構造とするための処理構造である。区画貫通部防火処理構造Sを組み込むことで、木造建築物において火災が発生した場合であっても、区画貫通部Pを経由して延焼するのを防止し或いは遅延させることができる。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の区画体10は中空壁で構成されている。区画体10は、柱体11と、横架材12と、板体13とを備えている。これらは、木材で形成されている。柱体11は、通し柱や管柱、間柱等であり、上下方向に沿って配置されている。横架材12は、胴つなぎや胴縁等であり、隣り合う柱体11どうしに亘って水平方向に沿って配置されている。板体13は、合板等であり、柱体11と横架材12とで形成される骨格に対して固定されている。板体13は、一対設けられており、これら一対の板体13が、柱体11と横架材12とで形成される骨格に対して互いに反対側から固定されている。板体13には、円形状の貫通孔13a(図4等を参照)が形成されている。この貫通孔13aの形状は、後述する不燃スリーブ30の外形に応じた形状となっている。
【0027】
区画体10の両側面(一対の板体13のそれぞれの外面)は、不燃ボード20で被覆されている。不燃ボード20は、不燃性のボードであり、例えば石膏ボードや、それに無機繊維材料を混入した強化石膏ボード等を用いることができる。但しそのような構成に限定されることなく、不燃性であり、かつ、区画体10の両側面に固定されてそれを覆うものであれば、他の材料で形成されたものを不燃ボード20として用いても良い。
【0028】
本実施形態では、不燃ボード20は2層に亘って設けられている。すなわち、不燃ボード20は、区画体10の側面(板体13の外面)に固定される内層ボード21と、内層ボード21に固定される外層ボード22とを含んでいる。本実施形態では、内層ボード21と外層ボード22とは同一規格のものを用いている。但し、そのような構成に限定されることなく、内層ボード21と外層ボード22とで例えば厚みや単位面積当たりの質量、含水率等が異なっていても良い。
【0029】
内層ボード21には、円形状の貫通孔21a(図4等を参照)が形成されている。この貫通孔21aは、板体13の貫通孔13aと連続するように形成されており、その形状は、後述する不燃スリーブ30の外形に応じた形状となっている。
【0030】
外層ボード22には、円形状の貫通孔22a(図9を参照)又は小径貫通孔22b(図6等を参照)が形成されている。本実施形態では、区画体10を挟んで両側に分かれて設けられる一対の外層ボード22のうちの一方に円形状の貫通孔22aが形成され、他方に円形状であって貫通孔22aよりも小径の小径貫通孔22bが形成されている。なお、貫通孔22aと小径貫通孔22bとは同心状に形成されている。
【0031】
一方の外層ボード22の貫通孔22aは、内層ボード21の貫通孔21aと連続するように形成されており、その形状は、後述する不燃スリーブ30の外形に応じた形状となっている。他方の外層ボード22の小径貫通孔22bは、内層ボード21の貫通孔21aと同心状に形成されており、その形状は、長尺体9の外形に応じた形状となっている。
【0032】
このように、本実施形態では、区画体10の一方側では、不燃スリーブ30の外形に応じた形状及びサイズの貫通孔21aが内層ボード21に形成されているとともに、長尺体9の外形に応じた形状であって貫通孔21aよりも小径の小径貫通孔22bが外層ボード22に形成されている。反対側では、不燃スリーブ30の外形及びサイズに応じた形状の貫通孔21a,22aが内層ボード21及び外層ボード22にそれぞれ形成されている。
【0033】
一方の外層ボード22の貫通孔22a、一方の内層ボード21の貫通孔21a、一方の板体13の貫通孔13a、他方の板体13の貫通孔13a、及び他方の内層ボード21の貫通孔21aに亘って、それらの内側に筒状の不燃スリーブ30が配置されている。不燃スリーブ30は、不燃性のスリーブであり、本実施形態では耐火性を有している。また、不燃スリーブ30は、断熱性を有していることが好ましく、言い換えれば不燃断熱スリーブであることが好ましい。
【0034】
不燃スリーブ30の耐熱温度は、特に限定されないが、300℃以上1800℃以下であることが好ましい。不燃スリーブ30の耐熱温度が300℃以上であることで、不燃スリーブ30に十分な耐火性を付与することができる。また、耐火性の過度の向上までは必ずしも必要がない場合も多いため、コスト面も考慮して、不燃スリーブ30の耐熱温度は1800℃以下であって良い。不燃スリーブ30の耐熱温度は、320℃以上1500℃以下であることがより好ましく、350℃以上1200℃以下であることがさらに好ましい。
【0035】
不燃スリーブ30の密度は、特に限定されないが、10kg/m以上400kg/m以下であることが好ましい。不燃スリーブ30の密度が10kg/m以上であることで、不燃スリーブ30に十分な強度を付与することができる。また、不燃スリーブ30の密度が400kg/m以下であることで、過度な重量増加とそれに伴う取扱性の低下を回避することができる。不燃スリーブ30の密度は、12kg/m以上350kg/m以下であることがより好ましく、15kg/m以上300kg/m以下であることがさらに好ましい。
【0036】
このような不燃スリーブ30は、例えばグラスウール、ロックウール、及びセラミックウール等の無機繊維の成形体で構成することができる。不燃スリーブ30は、無機繊維の圧縮成形体であっても良い。これらの成形体は、その内部又は表面に、金属製の補強材を具備していても良い。補強材としては、例えば金網を円筒状に形成したもの等が例示される。
【0037】
図2に示すように、本実施形態では、不燃スリーブ30は、円筒状に形成されている。円筒状の不燃スリーブ30の内径は、長尺体9の外径に応じて設定されている。本実施形態では、不燃スリーブ30の内径は、長尺体9の外径よりも僅かに大きく設定され、より具体的には長尺体9の外径よりも1mm~20mm程度大きく設定されている。円筒状の不燃スリーブ30の外径は、当該不燃スリーブ30が一定の物理的強度及び耐火性を発揮し得るだけの厚み(例えば20mm~30mm程度)を有するように、内径に応じて設定されている。
【0038】
図1に示すように、不燃スリーブ30は、不燃ボード20を介して区画体10に固定されている。本実施形態では、上述したように、区画体10の一方側において、内層ボード21には不燃スリーブ30の外形に応じた形状の貫通孔21aが形成されているとともに、外層ボード22には貫通孔21aよりも小径の小径貫通孔22bが形成されている。このため、区画体10の一方側の外層ボード22には、小径貫通孔22bと貫通孔21aとの内径差によって、内層ボード21には不存在の環状領域22C(図6等を参照)が存在する。不燃スリーブ30は、この外層ボード22の環状領域22Cで、固定具40を用いて当該外層ボード22に固定されている。固定具40は、外層ボード22の外側から、区画体10の厚み方向に外層ボード22を貫通して不燃スリーブ30にねじ込まれている。なお、固定具40は、例えばビスや釘等である。
【0039】
不燃スリーブ30には、長尺体9が挿通されている。長尺体9は、例えば塩化ビニル等の合成樹脂製の配管(樹脂管)である。配管からなる長尺体9は、例えば電線ケーブルや光ファイバーケーブル等の配線類を通すためのものであっても良いし、流体(液体や気体)を流すためのものであっても良い。長尺体9が樹脂管で構成される場合、その厚みは、特に限定されないが、2mm以上10mm以下であることが好ましく、3mm以上6mm以下であることがより好ましい。また、長尺体9は、難燃性であることが好ましい。
【0040】
本実施形態の区画貫通部防火処理構造Sでは、区画体10を長尺体9が貫通する区画貫通部Pが、単一の不燃スリーブ30で覆われている。また、区画体10の両側面は、それぞれ2層の不燃ボード20(内層ボード21,外層ボード22)で覆われている。このため、仮に区画体10で仕切られた2つの室空間のいずれかで火災が発生したとしても、木製の区画体10が燃焼し、ひいては他の室空間に延焼してしまうのを防止し、或いは少なくとも遅延させることができる。
【0041】
上述したように、本実施形態の区画体10は、柱体11と横架材12とで構成される骨格に一対の板体13が固定されて形成されており、言い換えれば中空壁として構成されている。本実施形態では、この中空壁の内部(一対の板体13どうしの間の空間)における不燃スリーブ30の周囲に、無機繊維系の耐火材50が充填されている。無機繊維としては、例えばグラスウールやロックウール、セラミックウール等が例示される。これらの無機繊維を所定形状に成形したものや、柔軟性を有する袋体に封入したもの等を、無機繊維系の耐火材50として用いることができる。中空壁の内部に無機繊維系の耐火材50を充填することで、防火性能をさらに高めることができる。
【0042】
以下、区画貫通部Pに対して防火処理を施す際の施工手順について、順を追って説明する。
【0043】
まず、柱体11と横架材12とで構成される骨格に一方の板体13だけが固定されている状態で、図3に示すように、板体13に内層ボード21を固定する。板体13への内層ボード21の固定は、例えばビスや釘等を用いて行うことができる。また、ここでは図示を省略しているが、内層ボード21に外層ボード22を重ね合わせた状態で、長尺体9の配設予定位置に、内層ボード21と外層ボード22とを貫通する下穴を空けておく。下穴を空けた後は、外層ボード22を外して横に置いておく。
【0044】
次に、図4に示すように、内層ボード21に貫通孔21aを形成するとともに、板体13に貫通孔13aを形成する。このとき、本実施形態では、不燃スリーブ30の外径に応じたサイズのホールソーを用いて、内層ボード21に空けた下穴の位置を中心に、内層ボード21の貫通孔21aと板体13の貫通孔13aとを一連の操作で一括的に形成する。
【0045】
次に、図5に示すように、内層ボード21に、先の工程で下穴を空けた外層ボード22を固定する。内層ボード21への外層ボード22の固定も、例えばビスや釘等を用いて行うことができる。
【0046】
次に、図6に示すように、外層ボード22に小径貫通孔22bを形成する。このとき、本実施形態では、長尺体9の外径に応じたサイズのホールソーを用いて、外層ボード22に空けた下穴の位置を中心に、外層ボード22に小径貫通孔22bを形成する。これにより、内層ボード21の貫通孔21a及び板体13の貫通孔13aと同心となるように、小径貫通孔22bを形成することができる。なお、上述したように、外層ボード22における小径貫通孔22bの周囲には、小径貫通孔22bと貫通孔21aとの内径差によって生じる環状領域22Cが存在している。
【0047】
次に、図7に示すように、内層ボード21の貫通孔21aと板体13の貫通孔13aとを挿通して外層ボード22の環状領域22Cに当接するように、不燃スリーブ30を取り付ける。そして、外層ボード22の外側から、固定具40を用いて不燃スリーブ30と外層ボード22とを固定する。外層ボード22の外側ではスペースの制約がほとんどないので、固定具40による固定操作を、例えば固定具40がビス等である場合に、インパクトドライバーを用いて容易に行うことができる。
【0048】
次に、図8に示すように、中空壁の内部(最終的に一対の板体13どうしの間となる空間)に耐火材50を充填する。その際、不燃スリーブ30の周囲(不燃スリーブ30と横架材12との間)にも、隙間なく耐火材50を充填する。
【0049】
次に、図9に示すように、柱体11と横架材12とで構成される骨格に対して、反対側から、板体13、内層ボード21、及び外層ボード22を固定する。板体13、内層ボード21、及び外層ボード22には、不燃スリーブ30の外径に応じたサイズのホールソーを用いて、それぞれ貫通孔13a,21a,22aを予め形成しておく。不燃スリーブ30が貫通孔13aを通るようにして板体13を設置して柱体11及び横架材12に固定し、不燃スリーブ30が貫通孔21aを通るようにして内層ボード21を設置して板体13に固定し、不燃スリーブ30が貫通孔22aを通るようにして外層ボード22を設置して内層ボード21に固定する。これらの固定は、例えばビスや釘等を用いて行うことができる。
【0050】
このような構造により、区画体10の両側面に対しては、2層の不燃ボード20(内層ボード21,外層ボード22)によって防火処理を施すことができる。また、貫通孔13aに対しては、不燃スリーブ30によって防火処理を施すことができる。よって、全体として、区画貫通部Pの防火処理を適切に行うことができる。
【0051】
最後に、図10に示すように、区画貫通部Pにおける不燃スリーブ30の内側の空間に長尺体9を挿通配置する。
【0052】
本実施形態の区画貫通部防火処理構造Sでは、筒状の不燃スリーブ30を用いることで、図11図13に示すとともに〔背景技術〕において説明したような従来仕様の構造に比べて、施工性を大きく向上させることができる。すなわち、従来仕様の構造のように貫通孔13aの大きさに合わせて開口用不燃ボード70の大きさを調整する必要がなく、また、貫通孔13a内で複数の開口用不燃ボード70を組み立てる必要もなく、区画貫通部Pの防火処理を容易に行うことができる。加えて、作業者の技量によらずに良好に仕上がるようにできる。
【0053】
〔その他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、不燃スリーブ30がグラスウール、ロックウール、又はセラミックウール等の成形体で構成されている例について説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、不燃スリーブ30は不燃性の材料で形成されていれば良く、例えばアルカリアースシリケート繊維の成形体等であっても良い。
【0054】
(2)上記の実施形態では、不燃スリーブ30が円筒状に形成されている構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、不燃スリーブ30が、例えば矩形状の外形と円筒状の内周面とを有するように形成(すなわち、外形形状が箱型を呈する筒状に形成)されても良い。
【0055】
(3)上記の実施形態では、区画体10の一方側の外層ボード22だけが小径貫通孔22bを有し、不燃スリーブ30が、区画体10の一方側だけで外層ボード22における小径貫通孔22bの周囲の環状領域22Cに固定される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、区画体10の両側の外層ボード22がそれぞれ小径貫通孔22bを有し、不燃スリーブ30が、区画体10の両側で外層ボード22における小径貫通孔22bの周囲の環状領域22Cに固定されても良い。
【0056】
(4)上記の実施形態では、外層ボード22が小径貫通孔22bを有し、不燃スリーブ30が、外層ボード22における小径貫通孔22bの周囲の環状領域22Cに固定される構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば不燃スリーブ30が鍔部を有し、この鍔部において外層ボード22に固定されても良い。このような場合には、区画体10の両側の外層ボード22が、いずれも、不燃スリーブ30の外形及びサイズに応じた貫通孔22aを有しても良い。
【0057】
(5)上記の実施形態では、長尺体9が合成樹脂製の配管(樹脂管)である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、長尺体9が例えば鋼鉄や銅等の金属製の配管(金属管)であるような構成にも同様に本発明を適用することができる。
【0058】
(6)上述した各実施形態(上記の実施形態及びその他の実施形態を含む;以下同様)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
S 区画貫通部防火処理構造
9 長尺体
10 区画体
13a 貫通孔
20 不燃ボード
21 内層ボード
21a 貫通孔
22 外層ボード
22a 貫通孔
22b 小径貫通孔
22C 環状領域
30 不燃スリーブ
40 固定具
50 耐火材
P 区画貫通部
図1
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