(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024121122
(43)【公開日】2024-09-06
(54)【発明の名称】舌苔清掃具
(51)【国際特許分類】
A61C 17/00 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
A61C17/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023028036
(22)【出願日】2023-02-27
(71)【出願人】
【識別番号】513251887
【氏名又は名称】SHIKIEN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 道男
(72)【発明者】
【氏名】宮永 憲二
(57)【要約】
【課題】より細い材料でより高い密度の線状材を実現し、より優しく、かつ、よりきれいに舌苔を掻き取ることができる舌苔清掃具を提供する。
【解決手段】舌苔清掃具が、ヘッド部と、ヘッド部に設けられた舌苔を掻き取るためのシートとを備え、シートが、経編で編まれた編物であり、起毛して立ち上がったループの上部を切断した第1線状材4と、ループの上部を切断しないループ状の第2線状材5とが混在したものである。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド部と、
前記ヘッド部に設けられた舌苔を掻き取るためのシートとを備え、
前記シートが、経編で編まれた編物であり、起毛して立ち上がったループの上部を切断した第1線状材と、前記ループの上部を切断しないループ状の第2線状材とが混在したものである、舌苔清掃具。
【請求項2】
前記第1線状材が、スパイラルカッターにより、前記ループの頂点からループ高さ全体の約1/6の位置で切断されたものである、請求項1に記載の舌苔清掃具。
【請求項3】
前記シートが、直径40μm以下の太さのナイロン(登録商標)で形成される、請求項1に記載の舌苔清掃具。
【請求項4】
前記ループの数が、1cm四方当たり4,000~5,000本である、請求項1に記載の舌苔清掃具。
【請求項5】
前記ヘッド部の表面または裏面の一方が凹曲面、他方が凸曲面を有し、前記凹曲面および前記凸曲面の両面に前記シートが設けられている、請求項1に記載の舌苔清掃具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舌苔を掻き取るための舌苔清掃具に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、織物であるパイル生地のループを所定の位置で切断して線状材を形成した舌苔清掃具を提案している(例えば、特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-95995号公報
【特許文献2】国際公開WO2019/026926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1および2では、シートがパイル生地であるため、ナイロン(登録商標)の太さは直径52μm程度、ループの数は1cm四方当たり1,500~2,500本が限界であった。これに対し、特に子供のように舌乳頭が小さく間隔も狭い場合などにも、十分に舌苔を掻き取ることができる舌苔清掃具が求められていた。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、より細い材料でより高い密度の線状材を実現し、より優しく、かつ、よりきれいに舌苔を掻き取ることができる舌苔清掃具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる課題を解決するため、ヘッド部と、前記ヘッド部に設けられた舌苔を掻き取るためのシートとを備え、前記シートが、経編で編まれた編物であり、起毛して立ち上がったループの上部を切断した第1線状材と、前記ループの上部を切断しないループ状の第2線状材とが混在したものである、舌苔清掃具を提供する。
【0007】
前記舌苔清掃具では、前記第1線状材が、スパイラルカッターにより、前記ループの頂点からループ高さ全体の約1/6の位置で切断されたものである、としてもよい。
【0008】
前記舌苔清掃具では、前記シートが、直径40μm以下の太さのナイロン(登録商標)で形成される、としてもよい。
【0009】
前記舌苔清掃具では、前記ループの数が、1cm四方当たり4,000~5,000本である、としてもよい。
【0010】
前記舌苔清掃具では、前記ヘッド部の表面または裏面の一方が凹曲面、他方が凸曲面を有し、前記凹曲面および前記凸曲面の両面に前記シートが設けられている、としてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の舌苔清掃具によれば、細く密度の高い線状材を実現することができ、舌苔の清掃効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の好適な実施形態に係る舌苔清掃具の一例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の好適な実施形態に係る舌苔清掃具の
図1とは別の例を示す斜視図である。
【
図5】第1線状材および第2線状材の概略構成を示す図である。
【
図6】マイクロスコープによるシートの斜視写真図である。
【
図7】マイクロスコープによるシートの側面写真図である。
【
図9】細菌除去数の実験結果を示すグラフ図である。
【
図10】流水下での洗浄時間によるブラシに残留した細菌数の変化を示すグラフ図である。
【
図11】擦り洗いの時間によるブラシに残留した細菌数の変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載され、または、発明を実施するための形態に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能である。そのような変形や変更もまた、本発明の範囲に含まれる。
【0014】
<全体構成>
図1は、本発明の好適な実施形態に係る舌苔清掃具用シート1(以下、単にシートともいう)を用いた舌苔清掃具101の一例を示す。舌苔清掃具101は、扁平薄型のヘッド部102を備える。ヘッド部102の表面または裏面の一方が凹曲面105、他方が凸曲面106を有し、凹曲面105および凸曲面106の両面にシート1が添着されている。シート1は、竿状把持部103と一体のリング部104により、ヘッド部102の側面で固定される。使用者は、竿状把持部103を持ち、シート1を舌に当てて舌の上で前後させ、舌の表面の清掃を行う。
【0015】
図2は、本発明の好適な実施形態に係る舌苔清掃具用シート1を用いた舌苔清掃具201の別の例を示す。
図1の舌苔清掃具101と異なる点は、シート1を線状材が外側表面になるようにして袋状に形成し、竿状把持部203とほぼ一直線上に配されるヘッド部202が当該袋状のシート1に覆われている点である。すなわち、
図2の舌苔清掃具は、
図1に示すリング部104を有しておらず、ヘッド部202の外側表面の全面に線状材を備えている。
図1と同様に、ヘッド部202の表面または裏面の一方が凹曲面205、他方が凸曲面206を有し、凹曲面205および凸曲面206の両面がシート1に覆われている。
【0016】
<シートの構成>
舌の表面や側面等には、多数の細かい舌乳頭という粘膜突起が存在している。この舌乳頭は、個人差があるが、例えば0.5~1mm程度の大きさである。この小さな舌乳頭に付着している垢(舌苔)を掻き取るために、シート1の表面に線状材が設けられる。
【0017】
特許文献1および2の舌苔清掃具では、シート1は、パイル生地であった。本実施形態では、
図3に示すように、シート1を経編(たてあみ)で編まれた編物とする。経編では、ループ2が経方向に連続して互いに連結されて形成される。線状材とするために、
図3に示す状態から起毛処理を行い、ループ2を立ち上げる。
【0018】
シート1を編物とすることで、直径40μm以下の太さのナイロン(登録商標)、好ましくはナイロン6を使用することができる。また、ループ2の数を、1cm四方当たり4,000~5,000本、好ましくは4,500本程度とすることができる。これにより、特に子供のように舌乳頭が小さく間隔も狭い場合などにも、より細くより高い密度の線状材で、より優しく、かつ、よりきれいに舌苔を掻き取ることができる。なお、シート1の材料は、ナイロン(登録商標)等のポリアミド繊維の他、例えば、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、および、ポリエチレンや、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等を使用することができる。
【0019】
起毛処理を行った後、
図4に示すスパイラルカッター3により、起毛して立ち上がったループ2の一部の上部を切断し、
図5に示すように、切断された第1線状材4と切断されないループ状の第2線状材5とを形成する。
【0020】
スパイラルカッター3は、回転可能な回転体31と、回転体31の表面に設けられた螺旋状の刃である螺旋刃32とで構成される。スパイラルカッター3を回転させて、螺旋刃32とシート1との間の距離を所定の距離に保ちながら、シート1を移動させる。螺旋刃32が螺旋状であるので、ループ2の一部のみの上部が切断され、切断された第1線状材4と切断されないループ状の第2線状材5とが形成される。
【0021】
第1線状材4は、特に限定されないが、ループ2の頂点からループ高さH全体の約1/6の位置で切断し、第2線状材5のループ高さH全体の約5/6の長さとすることが好ましい。螺旋刃32とシート1との間の距離を変更することで、切断する位置を調整することができる。ループ高さHは、例えば、1.5~2.0mm、好ましくは1.7~1.8mmとすることができる。
【0022】
図6および
図7に、マイクロスコープによる観察写真図を示す。シート1に第1線状材4と第2線状材5とが混在することにより、舌への感触を和らげながら、舌苔の清掃効果を高めることができる。
【0023】
<シートの製造方法>
シート1は、以下のプロセスにより製造する。
(1)ナイロン(登録商標)等の繊維を経編して、互いに連結されたループ2を形成する。
(2)起毛処理を行い、ループ2を立ち上げる。起毛処理は、起毛、洗浄および脱水を例えば3~4回程度繰り返す。数回に分けることで、ループ2を均一にきれいに立ち上げることができる。
(3)スパイラルカッター3により、起毛して立ち上がったループ2の一部の上部を切断する。切断された第1線状材4と切断されないループ状の第2線状材5とが形成される。
【0024】
<実験1:細菌除去数>
(実験方法)
本発明の舌苔清掃具(実施例)の細菌除去数について、特許文献2に開示する方法で作製した舌苔清掃具(比較例)と比較を行った。各10本ずつの舌苔清掃具を使用した。
【0025】
実験方法の流れを
図8に示す。実験は以下の方法で行った。
(1)口腔細菌(黄色ブドウ球菌)を一定に撒いた寒天培地を作成した。
(2)各舌苔清掃具で、寒天培地の表面を3cm擦過した。その際、擦過圧が一定になるようにするため、細菌カウンター付属品を用いた。なお、擦過する者には、実施例と比較例の製造方法の違いに関する情報は与えなかった。
(3)擦過後、舌苔清掃具の先端を50mLの精製水に入れて超音波洗浄した。
(4)洗浄溶液のうち5mLを細菌カウンター専用容器に入れて、細菌数を測定した。
【0026】
舌苔清掃具で擦過した細菌数が正規分布しているか検討した後、対応のないt検定にて群間比較を行い、P<0.05を有意であるとみなした。検定には、SPSSを用いた。
【0027】
(実験結果)
実施例および比較例の細菌除去数を
図9に示す。擦過して採取した細菌数は、実施例が2.15×10
11±1.52×10
10cfu/mL、比較例が2.04×10
11±0.78×10
10cfu/mLであった。P=0.06であり、有意差は認められなかったものの、実施例の方が、比較例よりも細菌除去数が多いことが確認できた。
【0028】
<実験2:流水下での洗浄>
(実験方法)
本発明の舌苔清掃具(実施例)の流水下での洗浄時間によるブラシに残留した細菌数の変化について、特許文献2に開示する方法で作製した舌苔清掃具(比較例)と比較を行った。各10本ずつの舌苔清掃具を使用した。
【0029】
実験は以下の方法で行った。
(1)口腔細菌(黄色ブドウ球菌)を一定に撒いた寒天培地を作成した。
(2)各舌苔清掃具で、寒天培地の表面を3cm擦過した。その際、擦過圧が一定になるようにするため、細菌カウンター付属品を用いた。なお、擦過する者には、実施例と比較例の製造方法の違いに関する情報は与えなかった。
(3)擦過後、下記の条件(A)~(C)で洗浄し、舌苔清掃具の先端を50mLの精製水に入れて超音波洗浄した。
(A)0秒(洗浄していない群)
(B)流水下で5秒(擦り洗いなし、流水下に舌苔清掃具を置くのみ)
(C)流水下で10秒(擦り洗いなし、流水下に舌苔清掃具を置くのみ)
(4)洗浄溶液のうち5mLを細菌カウンター専用容器に入れて、細菌数を測定した。
【0030】
舌苔清掃具で擦過した細菌数が正規分布しているか検討した後、対応のないt検定にて群間比較を行い、P<0.05を有意であるとみなした。検定には、SPSSを用いた。
【0031】
(実験結果)
実施例および比較例の流水下での洗浄時間によるブラシに残留した細菌数の変化を
図10に示す。擦り洗いをせず、流水下で洗浄した場合、洗浄時間が5秒の場合も10秒の場合も、p<0.01であり、実施例の方が、比較例と比較して、ブラシに残留している細菌数が有意に少なく、洗浄効果が高いことが分かった。
【0032】
<実験3:流水下での擦り洗い>
(実験方法)
本発明の舌苔清掃具(実施例)の擦り洗いの時間によるブラシに残留した細菌数の変化について、特許文献2に開示する方法で作製した舌苔清掃具(比較例)と比較を行った。各10本ずつの舌苔清掃具を使用した。
【0033】
実験は以下の方法で行った。
(1)口腔細菌(黄色ブドウ球菌)を一定に撒いた寒天培地を作成した。
(2)各舌苔清掃具で、寒天培地の表面を3cm擦過した。その際、擦過圧が一定になるようにするため、細菌カウンター付属品を用いた。なお、擦過する者には、実施例と比較例の製造方法の違いに関する情報は与えなかった。
(3)擦過後、下記の条件(A)~(D)で洗浄し、舌苔清掃具の先端を50mLの精製水に入れて超音波洗浄した。
(A)0秒(洗浄していない群)
(B)流水下で擦り洗い5秒
(C)流水下で擦り洗い10秒
(D)流水下で擦り洗い30秒
(4)洗浄溶液のうち5mLを細菌カウンター専用容器に入れて、細菌数を測定した。
【0034】
舌苔清掃具で擦過した細菌数が正規分布しているか検討した後、対応のないt検定にて群間比較を行い、P<0.05を有意であるとみなした。検定には、SPSSを用いた。
【0035】
(実験結果)
実施例および比較例の擦り洗いの時間によるブラシに残留した細菌数の変化を
図11に示す。流水下で擦り洗いをした場合、洗浄時間が5秒の場合に、p=0.01であり、実施例の方が、比較例と比較して、ブラシに残留している細菌数が有意に少なく、短時間で洗浄できることが分かった。流水下での5秒の擦り洗いによって、99.9%の細菌が除去されていた。
【0036】
以上のように、シート1を改良し、編物とすることで線状材4,5の太さを細くして密度を高め、さらに切断された第1線状材4と切断されないループ状の第2線状材5とを混在させることで、舌苔清掃具101,201の使用感を改善し、舌苔の清掃効果および舌苔清掃具101,201の洗浄効果も高めることができた。
【符号の説明】
【0037】
1 舌苔清掃具用シート(シート)
101,201 舌苔清掃具
102,202 ヘッド部
105,205 凹曲面
106,206 凸曲面
2 ループ
3 スパイラルカッター
4 第1線状材
5 第2線状材